(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042207
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】回路基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
H05K3/12 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146765
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】浅川 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】宮島 健太郎
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA16
5E343AA33
5E343BB25
5E343BB72
5E343DD03
5E343ER33
5E343GG06
(57)【要約】
【課題】 薄型化や耐薬品性、追従性を向上させ、導電材料を高温で熱処理して導電パターン層の機能を向上させることができ、位置ずれして取り付けに支障を来すのを払拭できる回路基材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 柔軟性を有する剥離層1と、剥離層1に剥離可能に形成される絶縁層3と、絶縁層3に銀含有ペーストで積層形成される導電パターン層4と、導電パターン層4の一部に接着される接着層8と、導電パターン層4の残部に積層形成される複数の変形抑制層9とを備え、剥離層1を、厚さ10μm以上250μm以下のシリコーンエラストマー2としてJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度を10以上60以下とし、絶縁層3を、樹脂で積層形成してその厚さを10μm以上20μm以下とし、銀含有ペーストを、160℃以上の熱処理で体積抵抗率が低下する銀錯体ペーストインクと銀ナノペーストインクのいずれかとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する剥離層と、この剥離層に剥離可能に形成される絶縁層と、この絶縁層に少なくとも銀含有ペーストにより積層形成される導電パターン層と、この導電パターン層の一部に接着される接着層と、導電パターン層の残部に積層形成される変形抑制層とを含み、
剥離層を、厚さ10μm以上250μm以下のシリコーンエラストマーとし、このシリコーンエラストマーのJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度を10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びを100%以上1000%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さを4MPa以上12MPa以下とし、
絶縁層を、樹脂により積層形成してその厚さを10μm以上とし、
銀含有ペーストを、160℃以上の熱処理により体積抵抗率が低下する銀錯体ペーストインクと銀ナノペーストインクのいずれかとしたことを特徴とする回路基材。
【請求項2】
絶縁層を、熱硬化性ポリオール系の樹脂により積層形成し、この樹脂のJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアD硬度を60以上75以下、JIS K 7171に準拠して測定した場合の曲げ弾性率を500MPa以上2500MPa以下とした請求項1記載の回路基材。
【請求項3】
銀含有ペーストの銀錯体ペーストインクは、チキソトロピー指数が1.7以上1.8以下、固形分が30%wt以上33%wt以下、160℃以上で熱処理された場合の導電パターン層の体積抵抗率を10μΩ・cm以下とするペーストインクである請求項1又は2記載の回路基材。
【請求項4】
銀含有ペーストの銀ナノペーストインクは、熱重量示差熱分析法により測定した場合の銀濃度が50wt%以上、溶剤組成が非水溶性溶剤あるいはアルコール・グリコール混合溶剤のペーストインクである請求項1又は2記載の回路基材。
【請求項5】
柔軟性を有する剥離層に厚さ10μm以上の絶縁層を樹脂により剥離可能に積層形成し、この絶縁層に少なくとも銀含有ペーストを印刷して熱処理することにより導電パターン層を積層形成し、この導電パターン層の一部に接着剤を塗布して硬化させることで接着層を積層するとともに、導電パターン層の残部に変形抑制層を積層形成する請求項1又は2に記載された回路基材の製造方法であって、
剥離層を、厚さ10μm以上250μm以下のシリコーンエラストマーとし、このシリコーンエラストマーのJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度を10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びを100%以上1000%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さを4MPa以上12MPa以下とし、
銀含有ペーストを、160℃以上の熱処理により体積抵抗率が低下する銀錯体ペーストインクと銀ナノペーストインクのいずれかとすることを特徴とする回路基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電子機器、産業用電子機器、情報端末機器、家電機器等に使用される回路基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における回路基材は、図示しないが、例えば屈曲可能な基材と、この基材の表面に複数の電極等が配列される導電パターンと、基材の表面に積層されて導電パターンを被覆する保護シートとを備えた自己容量型の静電容量センサに形成され、操作パネルの裏面側に対向設置された後、導電パターンの複数の電極に導体である指が操作パネルを介し選択的に接近すると、電極と指との間の静電容量が変化してタッチ座標を検出する(特許文献1、2参照)。
【0003】
基材は、例えば化学的・物理的高機能性に加え、品質の安定性・均一性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の肉厚の樹脂フィルム等により形成される。また、導電パターンは、基材の表面に所定の導電材料、例えば銀インクやカーボンナノチューブ等がパターン印刷され、熱処理されて乾燥硬化することで形成される。保護シートは、特に限定されるものではないが、例えば弱粘着性を有するシリコーン製の透明シートにより形成され、基材の表面に粘着されて導電パターンに外部から塵埃等が付着するのを有効に防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017‐201272号公報
【特許文献2】特開2010‐244776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における静電容量センサは、以上のように構成され、基材が肉厚の樹脂フィルムの場合、近年要望の強い薄型化を図ることが困難となる。また、基材がポリエチレンテレフタレート樹脂の樹脂フィルムの場合には、薄型化の他、耐薬品性を向上させることも容易ではなく、しかも、樹脂フィルムが脆くなるので、補強を要することがある。
【0006】
また、基材がポリエチレンテレフタレート樹脂の樹脂フィルムの場合、基材の表面に所定の導電材料をパターン印刷して熱処理するとき、ポリエチレンテレフタレート樹脂の耐熱性に配慮して150℃以下の温度で熱処理される。しかしながら、導電材料が150℃以下の温度で熱処理される場合には、導電材料の機能を充分に発揮させることができないことがある。例えば、導電材料が金属化に160℃以上の高温加熱を要する導電インクの場合、150℃以下の温度で熱処理すると、有機物の残存に伴う高抵抗を抑止できないので、導電パターンの体積抵抗率を20μΩ・cm以下にすることがきわめて困難となる。
【0007】
さらに、静電容量センサの保護シートがシリコーンの単なる透明シートの場合、操作パネルが弓なりに湾曲してその曲率が高いようなときには、操作パネルの曲面に保護シートが適切に追従して密接しなかったり、位置ずれして静電容量センサの貼着に支障を来すおそれがある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、薄型化や耐薬品性、追従性の向上を図ることができ、導電材料を高温で熱処理して導電パターン層の機能を向上させることができ、しかも、位置ずれして取り付けに支障を来すおそれを払拭することのできる回路基材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、柔軟性を有する剥離層と、この剥離層に剥離可能に形成される絶縁層と、この絶縁層に少なくとも銀含有ペーストにより積層形成される導電パターン層と、この導電パターン層の一部に接着される接着層と、導電パターン層の残部に積層形成される変形抑制層とを含み、
剥離層を、厚さ10μm以上250μm以下のシリコーンエラストマーとし、このシリコーンエラストマーのJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度を10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びを100%以上1000%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さを4MPa以上12MPa以下とし、
絶縁層を、樹脂により積層形成してその厚さを10μm以上とし、
銀含有ペーストを、160℃以上の熱処理により体積抵抗率が低下する銀錯体ペーストインクと銀ナノペーストインクのいずれかとしたことを特徴としている。
【0010】
なお、絶縁層を、熱硬化性ポリオール系の樹脂により積層形成し、この樹脂のJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアD硬度を60以上75以下、JIS K 7171に準拠して測定した場合の曲げ弾性率を500MPa以上2500MPa以下とすることができる。
【0011】
また、銀含有ペーストの銀錯体ペーストインクは、チキソトロピー指数が1.7以上1.8以下、固形分が30%wt以上33%wt以下、160℃以上で熱処理された場合の導電パターン層の体積抵抗率を10μΩ・cm以下とするペーストインクとすることができる。
また、銀含有ペーストの銀ナノペーストインクは、熱重量示差熱分析法により測定した場合の銀濃度が50wt%以上、溶剤組成が非水溶性溶剤あるいはアルコール・グリコール混合溶剤のペーストインクとすることもできる。
【0012】
また、接着層は、ホットメルト型接着剤、熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤、紫外線硬化型接着剤、又は常温硬化型接着剤からなり、12μm以上の厚さが良い。
また、変形抑制層は、厚さ12μm以上の樹脂フィルムからなり、JIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度が10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びが100%以上1000%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さが4MPa以上12MPa以下が良い。
【0013】
また、本発明においては上記課題を解決するため、柔軟性を有する剥離層に厚さ10μm以上の絶縁層を樹脂により剥離可能に積層形成し、この絶縁層に少なくとも銀含有ペーストを印刷して熱処理することにより導電パターン層を積層形成し、この導電パターン層の一部に接着剤を塗布して硬化させることで接着層を積層するとともに、導電パターン層の残部に変形抑制層を積層形成する請求項1又は2に記載された回路基材の製造方法であって、
剥離層を、厚さ10μm以上250μm以下のシリコーンエラストマーとし、このシリコーンエラストマーのJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度を10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びを100%以上1000%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さを4MPa以上12MPa以下とし、
銀含有ペーストを、160℃以上の熱処理により体積抵抗率が低下する銀錯体ペーストインクと銀ナノペーストインクのいずれかとすることを特徴としている。
【0014】
ここで、特許請求の範囲における銀含有ペーストは、四端子四探針法で測定した場合の体積抵抗値が10-5Ω以下であれば、銀錯体ペーストインクでも良いし、銀ナノペーストインクでも良い。また、導電パターン層の複数の電極は、絶縁層のXY方向、X方向、Y方向に適宜配列される。導電パターン層を熱処理して積層形成する場合には、銀含有ペーストに少なくとも160℃以上の熱を加えて処理すると良い。さらに、回路基材は、例えば静電容量センサ、プリント配線板、フレキシブル基板、高周波基板、アンテナ、RFID等からなり、各種電気・電子機器の筺体に内蔵されたり、操作パネルの裏面側等に取り付けられる。
【0015】
本発明によれば、絶縁層に肉厚の基材を何ら用いないので、回路基材の薄型化や軽量化を図ることができ、静電容量センサの設計の自由度を向上させることができる。また、剥離層が200℃以上の耐熱性に優れるシリコーンエラストマーなので、高温の乾燥処理が可能となる。また、このシリコーンエラストマーが柔軟性に優れるので、回路基材を適切に曲げて三次元形状の面等に密接させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回路基材の薄型化や耐薬品性、追従性の向上を図ることができるという効果がある。また、導電材料を150℃を越える高温で熱処理して導電パターン層の機能を向上させることができ、しかも、位置ずれして回路基材の取り付けに支障を来すおそれを払拭することができるという効果がある。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、絶縁層が熱硬化性ポリオール系の樹脂により積層形成されるので、優れた耐熱性、耐薬品性、耐候性等が期待できる。また、絶縁層のJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアD硬度が60以上75以下なので、複雑な面や曲面に対する絶縁層の可撓性や柔軟性を確保することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、銀含有ペーストの銀錯体ペーストインクが、チキソトロピー指数が1.7以上1.8以下、固形分が30%wt以上33%wt以下、160℃以上で熱処理された場合の導電パターン層の体積抵抗率を10μΩ・cm以下とするペーストインクなので、導電パターン層の体積抵抗率を従来よりも低くすることができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、銀含有ペーストの銀ナノペーストインクが、熱重量示差熱分析法により測定した場合の銀濃度が50wt%以上、溶剤組成が非水溶性溶剤あるいはアルコール・グリコール混合溶剤のペーストインクなので、導電パターン層の体積抵抗率を従来よりも低くすることができ、しかも、導電パターン層の表面を滑らかにして品質を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る回路基材の実施形態における静電容量センサを模式的に示す全体斜視図である。
【
図2】本発明に係る回路基材の実施形態における静電容量センサを模式的に示す断面説明図である。
【
図3】本発明に係る回路基材の実施形態における静電容量センサを模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における回路基材は、
図1ないし
図3に示すように、柔軟性を有する剥離層1と、この剥離層1に剥離可能に形成される可撓性の絶縁層3と、この絶縁層3に銀含有ペーストにより積層形成される光透過性の導電パターン層4と、この導電パターン層4の一部を被覆する光透過性の接着層8と、導電パターン層4の残部を被覆する複数の変形抑制層9とを備えた自己容量型の静電容量センサであり、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0022】
剥離層1は、柔軟性の他、200℃以上250℃以下の耐熱性、耐候性、難燃性、誘電特性、電気絶縁性に優れるシリコーンエラストマー2により平面矩形等に形成され、絶縁層3に対向する表面に必要に応じ、鏡面処理や離型処理が施されており、静電容量センサの使用時に絶縁層3から剥離される。このシリコーンエラストマー2は、ハンドリング性や作業性等に資する観点から厚さが10μm以上250μm以下、好ましくは50μm以上250μm以下、JIS K 6268に準拠して23℃の条件下で測定した場合の密度が1.21g/cm3以上1.25g/cm3以下、好ましくは1.24g/cm3前後、JIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度が10以上60以下、好ましくは30以上60以下の範囲内に設定されて曲面に対する柔軟性を確保する。
【0023】
シリコーンエラストマー2のJIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びは、機械的特性を向上させる観点から100%以上1000%以下、好ましくは500%以上800%以下が良い。また、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さは、柔軟性と強度を両立させるため、4MPa以上12MPa以下、好ましくは6MPa以上12MPa以下が良い。また、反りや変形を防止するため、JIS K 6252に準拠して測定した場合の引き裂き強さ(クレセント形)は、8kN/m以上28kN/m以下、好ましくは13kN/m以上18kN/m以下が良い。これらの測定には、エムアンドケー株式会社やアイ・テイー・エス・ジャパン株式会社等の測定機器や試験機を使用することができる。
【0024】
このようなシリコーンエラストマー2の具体例としては、例えばKE‐153U〔信越化学工業社製:製品名〕等があげられる。
【0025】
絶縁層3は、所定の樹脂、例えばUV硬化アクリル樹脂等からなる熱硬化性ポリオール系の樹脂により、剥離層1の表面に印刷等により平面矩形の薄膜に積層形成され、複雑な凹凸面や曲面等に対する柔軟性を有する。絶縁層3に熱硬化性ポリオール系の樹脂を用いるのは、優れた耐熱性、耐薬品性、耐候性、断熱性等が期待できるからである。絶縁層3の厚さは、静電容量センサの薄型化を図る観点から10μm以上、好ましくは10μm以上20μm以下、より好ましくは15μm以上20μm以下が良い。
【0026】
絶縁層3のJIS K 6253に準拠して測定した場合のショアD硬度は、曲面に対する柔軟性を確保する観点から60以上75以下、好ましくは65以上75以下が良い。また、JIS K 7171に準拠して測定した場合の曲げ弾性率は、500MPa以上2500MPa以下、好ましくは1500MPa以上2500MPa以下が良い。
【0027】
導電パターン層4は、絶縁層3の表面に銀含有ペーストが直接スクリーン印刷され、150℃を越える160℃以上の高温で熱処理されて乾燥硬化することにより積層形成される。銀含有ペーストとしては、銀インクではなく、高温処理により体積抵抗率が20μΩ・cm以下となり、四端子四探針法で測定した場合の体積抵抗値が10-5Ω以下となる銀錯体ペーストインクあるいは銀ナノペーストインクが使用される。これは、係るペーストインクを熱処理すれば、最終的に得られる体積抵抗率が銀インクの1/8以下程度になるからである。
【0028】
銀錯体ペーストインクは、粘度計〔製品名:CPA‐52Z〕で測定した場合の粘度特性(@2s-1)が約32000cPs以上約33000cPs以下、チキソトロピー指数が約1.7以上約1.8以下、固形分が約30%wt以上約33%wt以下であり、160℃以上の高温で熱処理された場合の導電パターン層4の体積抵抗率を10μΩ・cm以下、好ましくは7.5μΩ・cm以下とする安価なペーストインクが好適に使用される。このような銀錯体ペーストインクの具体例としては、例えばEl‐904〔米エレクトロニンクス社製:製品名〕やEl‐909〔米エレクトロニンクス社製:製品名〕等があげられる。
【0029】
これに対し、銀ナノペーストインクは、熱重量示差熱分析法(TG‐DTA)により測定した場合の銀濃度が50wt%以上、溶剤組成が非水溶性溶剤あるいはアルコール・グリコール混合溶剤のインクが好適に使用される。銀ナノペーストインクの熱重量示差熱分析法により測定した場合の銀濃度は、体積抵抗率を抑制する観点から、50wt%以上70wt%以下、好ましくは60wt%以上70wt%以下が良い。また、銀ナノペーストインクの120℃・30分焼成の条件下で四端子四探針法により測定した場合の体積抵抗率は、6.0μΩ・cm以上6.3μΩ・cm以下、好ましくは6.1μΩ・cm以上6.25μΩ・cm以下が良い。
【0030】
このような銀ナノペーストインクの具体例としては、金属箔に近似の導電パターン層4が得られるDNS409(DNS409S)〔株式会社ダイセル製:製品名 Picosil(登録商標)シリーズ〕等があげられる。
【0031】
導電パターン層4は、例えば絶縁層3の中央部に積層されて接着層8に被覆される複数の電極5と、絶縁層3に積層されるGND電極と、複数の電極5に接続されて複数の変形抑制層9に被覆される複数本の導電ライン6と、この複数本の導電ライン6の少なくとも一部の末端部に形成されてリジッド基板に接続される複数の接続端子7とを備え、これらの厚さが1μm以上20μm以下の範囲に設定される。
【0032】
複数の電極5は、例えば絶縁層3の左右長手方向に所定の間隔をおいて配列形成され、各電極5が例えば透明の平面矩形や菱形、円形等に形成されて操作者の指等からなる導体と接着層8を介し近接対向可能であり、電極5と導体との間に静電容量を形成してその変化を検出するよう機能する。また、各導電ライン6は、絶縁層3の少なくとも左右いずれかの長手方向に伸長形成され、30μm以上1000μm以下、好ましくは30μm以上500μm以下の線幅とされる。
【0033】
このような導電パターン層4の体積抵抗率は、幅100μm、長さ10cm、厚さ5μmのパターンをJIS H 0505に準拠して測定した場合、19Ω以下、好ましくは17Ω以下、より好ましくは15Ω以下が良い。また、導電パターン層4の表面粗さRaは、JIS B 0651に準拠して測定した場合、0.1μm以上0.9μm以下、好ましくは0.1μm程度が良い。
【0034】
接着層8は、所定の接着剤、例えばホットメルト型接着剤、熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤、紫外線硬化型接着剤、常温硬化型接着剤からなり、所定の接着剤が導電パターン層4の少なくとも複数の電極5上にスクリーン印刷されることにより平面矩形に積層接着されており、操作パネルの裏面側等に接着される。この接着層8の厚さは、特に限定されるものではないが、静電容量センサの薄型化を図る観点からすると12μm以上100μm以下の範囲が良い。
【0035】
複数の変形抑制層9は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂等の延伸されていない樹脂フィルムにより平面矩形に形成され、導電パターン層4の少なくとも複数本の導電ライン6上にアクリル系の接着剤等を介し積層接着されるとともに、接着層8を挟持するよう配列されており、静電容量センサの接着時の不具合を防止するよう機能する。各変形抑制層9は、厚さが12μm以上、好ましくは12μm以上250μm以下、JIS K 6253に準拠して測定した場合のショアA硬度が10以上60以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の破断伸びが100%以上1000%以下、好ましくは500%以上800%以下、JIS K 6251に準拠して測定した場合の引張強さが4MPa以上12MPa以下が良い。
【0036】
上記構成において、静電容量センサを製造する場合には、先ず、剥離層1として所定のサイズのシリコーンエラストマー2を用意し、このシリコーンエラストマー2の表面の周縁部を除く大部分に熱硬化性ポリオール系の樹脂を印刷して紫外線照射や乾燥硬化等させることにより絶縁層3を積層形成する。熱硬化性ポリオール系の樹脂は、スクリーン印刷装置により自動的にスクリーン印刷される。これは、絶縁層3の高品質化の実現、作業の迅速化にはスクリーン印刷が最適だからである。シリコーンエラストマー2の表面に熱硬化性ポリオール系で市販の樹脂フィルムを積層するのではなく、樹脂をスクリーン印刷するので、絶縁層3の薄膜化が大いに期待できる。
【0037】
絶縁層3を積層形成したら、この絶縁層3の表面に銀含有ペーストを直接印刷した後、160℃以上の高温で熱処理して乾燥硬化させることにより複数の導電パターン層4を金属化して配列形成する。銀含有ペーストは、スクリーン印刷装置により自動的にスクリーン印刷される。これは、導電パターン層4の高品質化の実現、作業の迅速化にはスクリーン印刷が最適だからである。スクリーン印刷された銀含有ペーストは熱処理されるが、この際の熱処理温度は、導電パターン層4の低抵抗化を図るため、160℃以上の高温、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、さらに好ましくは200℃前後の温度範囲に調整される。
【0038】
次いで、複数の導電パターン層4の複数の電極5上に所定の接着剤を上記と同様にスクリーン印刷して光透過性の接着層8を積層接着するとともに、各導電パターン層4の複数本の導電ライン6上に変形抑制層9の樹脂フィルムを接着剤を介して積層接着し、その後、剥離層1、絶縁層3、複数の導電パターン層4、接着層8、及び一対の変形抑制層9を裁断してその外観を整えれば、静電容量センサを製造することができる。
【0039】
次に、静電容量センサを湾曲した操作パネルに接着して使用する場合には、操作パネルの裏面に静電容量センサを湾曲させてその接着層8と一対の変形抑制層9を位置決めしながら接触させ、導電パターン層4の複数の接続端子7とリジッド基板とを接続し、その後、静電容量センサの絶縁層3から剥離層1を剥離して除去すれば、静電容量センサが使用可能な状態となる。この際、絶縁層3だけでは薄く脆く破けやすいが、絶縁層3と一対の変形抑制層9が一体なので、ハンドリング性が向上する他、絶縁層3の損傷をきわめて有効に防止することができる。
【0040】
上記構成によれば、絶縁層3を樹脂の印刷により薄膜に積層形成するので、絶縁層3に肉厚の基材を何ら用いる必要がなく、静電容量センサの薄型化や軽量化を図ることができ、静電容量センサの設計の自由度を向上させることができる。また、絶縁層3がポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムではなく、熱硬化性ポリオール系の樹脂製の場合には、優れた耐薬品性、耐候性、断熱性等が大いに期待できる。また、剥離層1が200℃以上の耐熱性に優れるシリコーンエラストマー2なので、高温の乾燥処理が可能となり、銀含有ペーストを160℃以上、例えば200℃付近の高温で熱処理して導電パターン層4を積層形成することができる。
【0041】
したがって、有機物の残存に伴う高抵抗を抑止することができ、導電パターン層4の体積抵抗率を20μΩ・cm以下、好ましくは19μΩ・cm以下、より好ましくは18μΩ・cm以下、さらに好ましくは16μΩ・cm以下にすることができる。
【0042】
また、剥離層1が柔軟性に優れるショアA硬度10以上60以下のシリコーンエラストマー2なので、例え操作パネルが三次元に複雑に湾曲してその曲率が高いような場合(例えば、中空の半球形や半楕球形等)にも、操作パネルの曲面に静電容量センサを適切に追従させて密接させることが可能になる。したがって、位置ずれして静電容量センサの貼着に支障を来すおそれを有効に払拭することができ、設計の自由度を向上させることも可能となる。さらに、導電パターン層4が接着層8と一対の変形抑制層9に被覆保護されるので、導電パターン層4に塵埃が付着して性能が低下するのを有効に防止することができる。
【0043】
なお、上記実施形態では絶縁層3を、熱硬化性ポリオール系の樹脂により薄膜に積層形成したが、何らこれに限定されるものではなく、略同様の機能が得られるのであれば、熱硬化性ポリオール系以外の他の樹脂により薄膜に積層形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る回路基材及びその製造方法は、車載用電子機器、産業用電子機器、情報端末機器、家電機器等の製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0045】
1 剥離層
2 シリコーンエラストマー
3 絶縁層
4 導電パターン層
5 電極
6 導電ライン
7 接続端子
8 接着層
9 変形抑制層