(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042208
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】CO2濃度分布推定システム、及びCO2濃度分布推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/00 20060101AFI20240321BHJP
G01V 9/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G01M9/00
G01V9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146766
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】山本 ミゲイル
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
【テーマコード(参考)】
2G023
2G105
【Fターム(参考)】
2G023AB22
2G023AB27
2G105AA01
2G105BB16
2G105DD01
2G105EE02
2G105EE06
2G105HH01
2G105KK06
(57)【要約】
【課題】簡便な構成により、建物内の空間におけるCO
2濃度を推定することができるCO
2濃度分布推定システム、及びCO
2濃度分布推定方法を提供する。
【解決手段】空間内において、複数箇所のCO
2濃度を検出する、複数の第1検出部と、前記空間内の人の位置に関する位置情報を検出する第2検出部と、前記複数の第1検出部が検出したCO
2濃度と、前記第2検出部が検出した前記位置情報と、に基づいて、CO
2濃度分布を特定する演算部と、を備え、前記演算部は、第1算出値として前記複数の第1検出部が検出した前記CO
2濃度に基づいたCO
2濃度分布を算出するとともに、前記位置情報に基づいて、前記人によって生じるCO
2の影響を補正する第2算出値を特定し、前記第1算出値に前記第2算出値を反映させ、第3算出値として前記人による影響を加味したCO
2濃度分布を算出することを特徴とする、CO
2濃度分布推定システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間内において、複数箇所のCO2濃度を検出する、複数の第1検出部と、
前記空間内の人の位置に関する位置情報を検出する第2検出部と、
前記複数の第1検出部が検出したCO2濃度と、前記第2検出部が検出した前記位置情報と、に基づいて、CO2濃度分布を特定する演算部と、を備え、
前記演算部は、第1算出値として前記複数の第1検出部が検出した前記CO2濃度に基づいたCO2濃度分布を算出するとともに、前記位置情報に基づいて、前記人によって生じるCO2の影響を補正する第2算出値を特定し、前記第1算出値に前記第2算出値を反映させ、第3算出値として前記人による影響を加味したCO2濃度分布を算出することを特徴とする、
CO2濃度分布推定システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記人の位置からの所定距離範囲内において、前記第2算出値として一定値の補正値を用いる、
請求項1に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記人の位置からの距離に応じて線形的に減衰する補正値を前記第2算出値とする、
請求項1に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記人の位置からの距離に応じて指数的に減衰する補正値を前記第2算出値とする、
請求項1に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項5】
前記演算部は、演算或いは測定に基づく測定値に基づいて前記空間内における気流を算出し、前記気流に基づいて前記補正値を調整する、
請求項2~4のいずれか1項に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記空間内の換気量及び前記人の位置の変化に基づいて前記補正値を調整する、
請求項5に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項7】
前記演算部は、前記第3算出値に基づいて、前記空間内におけるエアロゾル感染リスクを評価する確率を算出する、
請求項1に記載のCO2濃度分布推定システム。
【請求項8】
複数の第1検出部により空間内の複数個所のCO2濃度を検出し、
第2検出部により前記空間内の人の位置に関する位置情報を検出し、
第1算出値として前記複数の第1検出部が検出した前記CO2濃度に基づいたCO2濃度分布を算出し、
前記第2検出部の前記位置情報に基づいて、前記人によって生じるCO2の影響を補正する第2算出値を算出し、
前記第1算出値に前記第2算出値を反映させ、第3算出値として前記人による影響を加味したCO2濃度分布を算出する、
CO2濃度分布推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2濃度分布推定システム、及びCO2濃度分布推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスなどの感染対策として空気質などの室内環境を管理することが求められている。室内の空気質は、例えば、CO2濃度を指標にして管理される場合がある。また、室内における感染リスク評価には、感染性粒子が室内気流によって拡散されていることが考慮され、CO2濃度が用いられる場合がある(例えば、非特許文献1参照)。CO2濃度は、室内環境の健全性を評価するために、さまざまな用途に用いられている。室内のCO2濃度分布を把握することにより、室内に局所的に生じている空気のよどみや空気質を評価することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S N Rudnick, D K Milton “Risk of indoor airborne infection transmission estimated from carbon dioxide concentration” Indoor Air 2003; https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1034/j.1600-0668.2003.00189.x
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際の建物内の室内におけるCO2濃度を管理する場合、例えば、CO2濃度を測定するセンサの設置位置におけるCO2濃度計測結果が代表値として用いられることが多い。この手法によれば、室内における正確なCO2濃度分布を把握しているとは限らない。室内におけるCO2濃度分布を正確に計測するためには、センサの個数を増やすことが考えられるが、設置位置に制約が生じると共に、設置にかかるコストが増加する虞がある。
【0005】
本発明は、簡便な構成により、建物内の空間におけるCO2濃度を推定することができるCO2濃度分布推定システム、及びCO2濃度分布推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、本発明は、空間内において、複数箇所のCO2濃度を検出する、複数の第1検出部と、前記空間内の人の位置に関する位置情報を検出する第2検出部と、前記複数の第1検出部が検出したCO2濃度と、前記第2検出部が検出した前記位置情報と、に基づいて、CO2濃度分布を特定する演算部と、を備え、前記演算部は、第1算出値として前記複数の第1検出部が検出した前記CO2濃度に基づいたCO2濃度分布を算出するとともに、前記位置情報に基づいて、前記人によって生じるCO2の影響を補正する第2算出値を特定し、前記第1算出値に前記第2算出値を反映させ、第3算出値として前記人による影響を加味したCO2濃度分布を算出することを特徴とする、
CO2濃度分布推定システムである。
【0007】
本発明によれば、CO2センサの設置数が限られた建物内の空間内において人の位置に基づくCO2濃度の補正値を加算することにより、空間内のCO2濃度を正確に推定する装置を構成することができる。
【0008】
また、本発明の前記演算部は、前記人の位置からの所定距離範囲内において、前記第2算出値として一定値の前記補正値を用いてもよい。
【0009】
本発明によれば、人から発生するCO2濃度を人の位置から所定距離範囲内において一定値と取り扱うことで、空間内のCO2濃度の計算処理を簡便にすることができる。
【0010】
また、前記演算部は、前記人の位置からの距離に応じて線形的に減衰する補正値を前記第2算出値としてもよい。
【0011】
本発明によれば、人から発生するCO2濃度を人の位置からの距離に応じて線形的に減衰するように処理することで、空間内のCO2濃度の計算処理を簡便にしつつ精度を向上させることができる。
【0012】
また、前記演算部は、前記人の位置からの距離に応じて指数的に減衰する補正値を前記第2算出値としてもよい。
【0013】
本発明によれば、人から発生するCO2濃度を人の位置からの距離に応じて指数的に減衰するように処理することで、空間内のCO2濃度の推定精度を現実に近づけることができる。
【0014】
また、前記演算部は、演算或いは測定に基づく測定値に基づいて前記空間内における気流を算出し、前記気流に基づいて前記補正値を調整してもよい。
【0015】
本発明によれば、CO2濃度分布の推定に空間内の気流を考慮することで、推定精度を向上させることができる。
【0016】
また、前記演算部は、前記空間内の換気量及び前記人の位置の変化に基づいて前記補正値を調整してもよい。
【0017】
本発明によれば、CO2濃度分布の推定に空間内の換気量及び人の位置の変化を考慮することで、推定精度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の前記演算部は、前記第3算出値に基づいて、前記空間内におけるエアロゾル感染リスクを評価する確率を算出してもよい。
【0019】
本発明によれば、空間内におけるエアロゾル感染リスクを定量的に評価することができる。
【0020】
本発明は、複数の第1検出部により空間内の複数個所のCO2濃度を検出し、第2検出部により前記空間内の人の位置に関する位置情報を検出し、第1算出値として前記複数の第1検出部が検出した前記CO2濃度に基づいたCO2濃度分布を算出し、前記第2検出部の前記位置情報に基づいて、前記人によって生じるCO2の影響を補正する第2算出値を算出し、前記第1算出値に前記第2算出値を反映させ、第3算出値として前記人による影響を加味したCO2濃度分布を算出する、CO2濃度分布推定方法である。
【0021】
本発明によれば、CO2センサの設置数が限られた建物内の空間内において人の位置に基づくCO2濃度の補正値を加算することにより、空間内のCO2濃度を正確に推定する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡便な構成により、建物内の空間におけるCO2濃度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係るCO
2濃度分布推定システムの構成を示す図である。
【
図2】第1検出部のCO2濃度に基づく第1算出値の算出結果を示す図である。
【
図3】第2検出部に基づく補正値の算出結果を示す図である。
【
図4】第1算出値に補正値を加算した第2算出値の算出結果を示す図である。
【
図8】人の顔の向きを考慮した補正値の算出方法を概念的に示す図である。
【
図9】CO
2濃度分布推定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態に係るCO
2濃度分布の推定方法を概念的に示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る換気と人の移動を考慮したCO
2濃度分布の推定方法を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るCO2濃度分布推定システムの実施形態について説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1に示すように、CO
2濃度分布推定システム1は、建物Bの空間内に設けられた複数の検出部20と、複数の検出部20と通信可能に接続された管理装置10と、を備えている。空間内とは、室内や倉庫内などの屋内環境を示している。検出部20は、例えば、室内に設けられ、室内のCO
2濃度を測定する第1検出部22と、室内の人の位置を検出する第2検出部26と、を備えている。
【0026】
第1検出部22は、例えば、空間内に設置された複数のCO2センサ24を備えている。CO2センサ24は、空間内の設置位置においてCO2濃度を検出する。第1検出部22は、ネットワークNWを介して各CO2センサ24で検知されたCO2濃度を管理装置10に送信する。ネットワークNWが無線回線の場合、第1検出値は、いずれのCO2センサ24から発せられたものかを識別可能な識別子として機能するデータとともに、CO2センサ24から管理装置10へ発せられる。管理装置10は、この識別子でCO2センサ24、ひいてはセンサ位置を特定することが可能とされている。
【0027】
第2検出部26は、空間内の人の位置(位置情報)を検出する。第2検出部26は、例えば、空間内に存在する人が所持している移動端末30と、この移動端末30と通信する無線基地局と、から構成されていてもよい。具体的には、第2検出部26の無線基地局は、例えば、無線LAN(Local Area Network)ルータなどの通信装置により構成されている。第2検出部26は、移動端末30と通信し、空間内における移動端末30の位置、ひいては在室する人の位置を検出する。このように第2検出部26は、移動端末30の位置に関する位置情報を取得し、ネットワークNWを介して管理装置10に送信する。第2検出部26は、移動端末30と、無線基地局と、を用いたものの他、例えば室内空間を撮像可能な赤外線カメラと、演算部14と、により構成され、赤外線カメラで撮像された画像を基に在室する人の位置に関する位置情報を取得するものとしてもよい。
【0028】
管理装置10は、建物Bの空間内のCO2濃度分布を管理するための情報処理端末装置である。管理装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等が用いられる。管理装置10は、検出部20と、ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。管理装置10は、例えば、検出部20から検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて建物Bの空間内のCO2濃度分布を算出する演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を表示する表示部18と、を備えている。
【0029】
取得部12は、ネットワークNWを介して第1検出部22から発せられたCO2濃度と、第2検出部から発せられた位置情報と、を取得する。取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワークに接続された通信インタフェースである。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。記憶部16は管理装置10に必ずしも内蔵されていなくてもよく、ネットワークNWを通じてデータを提供するサーバ(不図示)など、外部記録装置であってもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、演算部14の演算結果を表示する。
【0030】
演算部14は、第1算出値として第1検出部22で計測したCO2濃度に基づいたCO2濃度分布を算出する。そして演算部14は、位置情報に基づいて、人によって生じるCO2の影響を補正する第2算出値を特定し、第1算出値に第2算出値を反映させ、第3算出値として人による影響を加味したCO2濃度分布を算出する。このようにして、第3算出値を求めることにより、空間内におけるエアロゾル感染リスクをより精度よく評価することが可能となる。
なお、本実施形態では、第1検出部22はCO2濃度とともに、また第2検出部26は位置情報とともに、それぞれ計測時間に係る情報が併せて送信され、管理装置10は計測時間でCO2濃度と位置情報を対応付け、処理を行う。しかし、管理装置10の処理方法はこれに限るものではない。例えば、第1検出部22と第2検出部26をそれぞれ所定のタイミング、例えば1秒に1回などそれぞれCO2濃度、位置情報を出力するものとし、管理装置10から発せられた同期信号を基に、第1検出部22と第2検出部26を同期させ、同時もしくは所定の時間内に受信したCO2濃度と位置情報を対応付け、処理を行うものとしてもよい。
【0031】
図2から
図4を用いて、演算部14が算出する建物Bの空間内のCO
2濃度分布の算出過程を説明する。
図2(A)に示すように、演算部14は、建物Bの空間内における、それぞれのCO
2センサ24の設置位置におけるCO
2濃度を取得する。そして
図2(B)に示すように、演算部14は、CO
2濃度に基づいて空間内のCO
2濃度分布に係る第1算出値を算出する。この第1算出値の算出にあたっては、隣接するCO
2センサ24間におけるCO
2濃度は一様に変化するものとして、CO
2濃度の分布を算出する。
他方で
図3(A)に示すように、演算部14は、第2検出部26(
図1参照)から建物Bの空間内の人Pの位置に係る位置情報を取得する。
図3(B)に示されるように、演算部14は、人Pの位置に係る位置情報に基づいて、第1算出値の補正を行うのに用いられる第2算出値を算出する。
【0032】
そして
図4に示すように、演算部14は、第1算出値に第2検出部26で検出された人Pに対応する補正値である第2算出値を反映させ、空間内におけるCO
2濃度分布を示す第3算出値を算出する。本実施例では、第3算出値は、CO2濃度に人Pの周囲の領域に生じる局所的なCO
2高濃度領域を反映させ、算出している。つまり第3算出値は、第1検出値においては加味されていない人Pの周囲の領域に生じる局所的なCO
2高濃度領域を加味するものである。この結果、CO
2センサ24の検出値を最小値・最大値としたCO
2濃度分布では顕在化させることができなかった局所的なCO
2濃度の高い場所を第3算出値では顕在化させることができる。ひいては、CO
2濃度分布と相関を有するエアロゾル感染リスクを精度良く算出することを可能とし、室内の任意の場所におけるエアロゾル感染リスクをより精度よく評価することができる。
【0033】
以下では、人Pの周囲の領域に生じる局所的なCO
2高濃度領域に対応する補正値、第2算出値について、説明を行う。
図5(A)に示すように、第2算出値は、人Pの位置から所定距離範囲内においては、一定値となるようにしてもよい。この場合、
図5(B)に示すように、演算部14は、人Pの位置を中心とした所定距離範囲内の領域においては、CO
2濃度を一定値とした第2算出値を出力する。例えば、人Pの位置から所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置する場合にあっては、第2算出値、つまり人Pの位置の所定距離範囲内のCO
2濃度をCO
2センサ24で検知したCO
2濃度であるものとみなし、CO
2濃度分布を算出する。一方で、人Pの位置の所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置しない場合にあっては、第2算出値、つまり人Pの位置の所定距離範囲内のCO
2濃度は所定のCO
2濃度であるものとみなし、CO
2濃度分布を算出する。この所定のCO
2濃度は、予め設定されたCO
2濃度の他、例えば人PとCO
2センサ24との距離と、CO
2センサ24で検知したCO
2濃度と、を基に設定してもよい。このようにすることで、演算部14における算出処理の簡素化を図りつつ、局所的なCO
2高濃度領域を反映させるための第2算出値を算出することができる。
【0034】
この他、人Pの周囲の領域に生じる局所的なCO
2高濃度領域に対応する補正値、第2算出値は、
図6(A)に示すように、人Pの位置に近づくほど値が線形的に増加、つまりCO
2濃度が高くなり、人Pの位置から遠ざかるほど線形的に減衰、つまりCO
2濃度が低くなるようにしてもよい。
図6(B)に示すように、演算部14は、人Pの位置を中心とした所定距離範囲内の領域において、人Pの位置を最もCO
2濃度が高い場所として、人Pの位置から距離が遠ざかるほど線形的に減衰、つまり一様にCO
2濃度が減少するように設定した第2算出値とする。例えば、人Pの位置の所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置する場合にあっては、人Pの位置からCO
2センサ24までCO
2濃度が一様に変化(減少)するものとした第2算出値を算出する。すなわち、人Pの位置におけるCO
2濃度は、CO
2センサ24で検知したCO
2濃度と、CO
2センサ24と人Pの間の距離と、に基づいて算出する。一方で、人Pの位置の所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置しない場合にあっては、人Pの位置の所定距離範囲内における第2算出値は、人Pの位置におけるCO
2濃度を予め設定されたCO
2濃度として、所定の減少率で所定距離に至るまで一様にCO
2濃度が減少するCO
2濃度分布としてもよい。このようにすることで、より精度の高い第2算出値を算出することができる。
【0035】
さらには人Pの周囲の領域に生じる局所的なCO
2高濃度領域に対応する補正値、第2算出値は、
図7(A)に示すように、人Pの位置に近づくほど指数関数的にCO
2濃度が高くなり、人Pの位置から遠ざかるほど指数関数的にCO
2濃度が低くなるようにしてもよい。
図7(B)に示されるように、演算部14は、人Pの位置を中心とした所定距離範囲内の領域において、人Pの位置から距離が遠ざかるほど指数関数的にCO
2濃度が減少する第2算出値とする。例えば、人Pの位置の所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置する場合にあっては、予め実験やシミュレーションの結果から得られた、人Pの位置とCO
2センサ24との間の距離の変化に対するCO
2濃度の変化の相関を踏まえて、人Pの位置からの距離に基づいて第2算出値を特定し、CO
2濃度分布を算出する。すなわち、人Pの位置におけるCO
2濃度は、CO
2センサ24で検知したCO
2濃度と、CO
2センサ24と人Pとの間の距離と、から算出する。一方で、人Pの位置の所定距離範囲内にCO
2センサ24が位置しない場合にあっては、予め実験やシミュレーションの結果から得られた結果に基づき、人Pの位置を所定のCO
2濃度とした上で、人Pの位置から所定距離に至るまで指数関数的にCO
2濃度が減少した所定のCO
2濃度分布とみなし、第2算出値を算出する。このようにすることで、さらに精度の高い第2算出値を算出することができる。
【0036】
加えて第2算出値で補正が加えられる人Pからの距離範囲については、人Pの顔が向く向き(前方)に応じて調整してもよい。人Pの顔が向く向きは、第2検出部26で検出する他、経時的な人Pの移動方向の変化に基づいて演算部14で人Pの顔が向く向きを推定してもよい。
人Pの位置から所定範囲内を所定のCO
2濃度とする
図5に示す例においては、人Pを中心とした円形の所定範囲とした。しかしながら、人Pを含む所定範囲を所定のCO
2濃度とみなした例では、人Pの前方(人Pの顔が向く向き)に向かう方向の長さに比べ、人Pの後方(人Pの後頭部が向く向き)に向かう方向への長さが短くなるように設定してもよい。また
図6及び
図7に示す人Pの位置から所定範囲内のCO
2濃度を線形的又は指数関数的に低くなるようにした例では、CO
2濃度が所定濃度以上となる領域の外縁を線で囲うと、人Pを中心とした同心円形となり、ひいては所定範囲の外形も円形となっていた(
図8(A))。しかしながら、CO
2濃度は、前方に比べて後方の方が線形的又は指数関数的により減少・減衰するものとして、CO
2濃度が所定濃度以上となる領域の外縁は、人Pの前方に向かう方向が長さに比べ、人Pの後方に向かう方向への長さが短くなるように設定してもよい(
図8(B))。このようにすることにより、人Pの前方に向かうほど、人Pからの距離が同距離であれば、補正値が大きくなるようにし、演算部14で算出される第2算出値の精度を向上させることができる。
【0037】
図9には、管理装置10において実行されるCO
2濃度分布推定方法の処理の流れが示されている。空間内の設置位置において第1検出部22によりCO
2濃度を検出する(ステップS100)。第2検出部26により空間内の人Pの位置を検出する(ステップS102)。演算部14は、CO2濃度に基づいて空間内のCO
2濃度分布を推定する第1算出値を算出する(ステップS104)。演算部14は、位置情報に基づいて空間内の人Pの位置からの距離に応じて変化するCO
2濃度分布を補正する補正値、第2算出値を算出する(ステップS106)。演算部14は、第1算出値に算出した第2算出値を反映させ、空間内のCO
2濃度分布に対応する第3算出値を算出する(ステップS108)。
【0038】
上述したようにCO2濃度分布推定システム1によれば、CO2センサ24の設置数がすくなくても実際のCO2濃度分布に近い算出値を算出することができる。ひいては、CO2濃度分布推定システム1で算出したCO2濃度分布を用いてエアロゾル感染確率を精度よく予測することができる。つまり本実施形態では、CO2センサ24を用い、CO2センサ24の設置箇所におけるCO2濃度を検出することで、CO2濃度の経時的な変化を観測可能とし、空間内における気流の有無、方向が加味された実際のCO2濃度分布をベースとする。この実際のCO2濃度分布に、主なCO2の排出源となる人Pの位置に基づき、CO2センサ24で計測できていない領域のCO2濃度を予測し、補完することで、CO2濃度分布をより正確に算出することができる。
【0039】
[第2実施形態]
CO2濃度分布推定方法において、人Pの位置におけるCO2濃度分布に加えて、建物Bの空間内の換気量及び人Pの位置の変化に基づいて補正値が調整されてもよい。
【0040】
図10には、CO
2センサ24の測定値を補完したCO
2濃度分布の推定値と、人Pにより発生するCO
2濃度を補正値として加算したCO
2濃度分布の推定値とが示されている。空間内における必要な換気量を表す式として、ザイデルの式(1)が一般的に知られている。
【0041】
【0042】
但し、(i,j)は人Pの位置を示す座標、C(i,j)は、人Pの位置において人Pにより発生するCO2濃度[ppm]の予測値、C0(i,j)は、人Pの位置においてCO2センサ24の計測値に基づいて算出されたCO2濃度[ppm]の補完値、Cs(i,j)は、座標(i,j)におけるCO2濃度の初期値、或いは座標(i,j)において人Pがいなくなった際の初期CO2濃度[ppm]、Qは単位要素あたりの換気量[m3/h]、Vは単位要素あたりの室容積[m3]、M(i,j)は単位要素あたりのCO2発生量[m3/h]、tは各要素におけるM(i,j)が変動していない継続時間[h]である。単位要素あたりのCO2発生量は以下の式(2)で求められる。
【0043】
【0044】
但し、Crは人の呼気のCO2濃度[ppm](=約30000ppm)、Vrは人の呼気量[m3/h](=約0.42m3/h)、n(i,j)は、座標(i,j)に対応する空間要素内に滞在する人Pの人数[人]である。式(1)においてQ/V、Qは、定風量で外気を導入している部屋では固定値として設定することができる。Q/V、Qは、変風量制御を採用している室内では、事前にCFD解析や実測等で把握していた最頻値の外気導入量・換気回数を設定値として設定されてもよいし、中央監視等で得られる給気量から設定されてもよい。
【0045】
図11には、人Pが移動した際のCO
2濃度分布の予測が示されている。Cs
(i,j)の値は、M
(i,j)の値が変動したタイミングのC
(i,j)が用いられる。特定の室内では、人Pの代謝量は大きく変動することが少ないため、M
(i,j)は原則i,j要素内に滞在している人Pの数のみによって変動する。そのため、各要素において前ステップからM
(i,j)が変動したタイミングに初期値C
s(i,j)=C
(i,j)、t=0を与えることで、人Pの移動に応じたCO
2濃度分布を予測することができる。なお、人Pの位置は、ビーコンによって測定してもよいし、UWB(Ultra Wide Band)システムのような高度な測位システムを用いて測定してもよい。また、C
0は外気CO
2濃度ではなく、CO
2センサ24の計測値から補間された値を用いるため、厳密にはやや安全側(実際よりもやや高いCO
2濃度)で予測される。
【0046】
上述したように第2実施形態に係るCO2濃度分布推定方法によれば、室内において人Pの位置情報が取得される場合、少ない設置数のCO2センサ24の計測値に基づいて、CO2濃度分布をより正確に予測することができる。第2実施形態に係るCO2濃度分布推定方法によれば、CO2濃度変化の時間遅れを見込んだ濃度分布を予測することで、現実と乖離した瞬時的な濃度の変動を避けることができる。第2実施形態に係るCO2濃度分布推定方法によれば、正確なCO2濃度分布の推定結果に基づいてエアロゾル感染リスクを正確に評価することができる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 濃度分布推定システム
10 管理装置
12 取得部
14 演算部
16 記憶部
18 表示部
20 検出部
22 第1検出部
24 CO2センサ
26 第2検出部
30 移動端末
B 建物