(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042214
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】積層不織布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20240321BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240321BHJP
D04H 5/06 20060101ALI20240321BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20240321BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B27/10
D04H5/06
D01F8/06
D01F8/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146774
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】森岡 辰太
【テーマコード(参考)】
4F100
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AK03B
4F100AK05A
4F100AK05B
4F100AK05C
4F100AK41A
4F100AK41B
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4F100BA03
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4F100YY00C
4L041BA02
4L041BA05
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4L041CA05
4L041CA36
4L041CA37
4L047AA14
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4L047AB07
4L047BA08
4L047BA21
4L047BB01
4L047BB06
4L047BB09
4L047CA02
4L047CA05
4L047CB08
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】 通気性及び透湿性を調整しやすい積層不織布を提供する。
【解決手段】 この積層不織布は、第一不織布、合成紙及び第二不織布の順に積層し、加熱した後、冷却することにより得られる。第一不織布及び第二不織布は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合長繊維を構成繊維とするものである。合成紙は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合されてなるものである。芯鞘型複合短繊維の繊維径が3~30μm及び繊維長が2~30mmである。ポリオレフィン系合成パルプの繊維長は0.1~5mmである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層、中間層及び裏面層の3層が積層してなる積層不織布であり、
前記表面層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、
前記中間層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合された集積体からなり、
前記裏面層は、鞘成分がポリエチレンよりなり、芯成分が該ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、
前記中間層を構成する前記芯鞘型複合短繊維の繊維径が3~30μm及び繊維長が2~30mmであり、前記ポリオレフィン系合成パルプの繊維長が0.1~5mmであり、
前記3層は、各々の層を構成している前記第一芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分、前記芯鞘型複合短繊維の前記鞘成分、前記第二芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分及び前記ポリオレフィン系合成パルプの軟化又は溶融及び固化によって各層が固着一体化していることを特徴とする積層不織布。
【請求項2】
第二芯鞘型複合長繊維の鞘成分が高密度ポリエチレンである請求項1記載の積層不織布。
【請求項3】
第二芯鞘型複合長繊維の鞘成分が線状低密度ポリエチレンである請求項1記載の積層不織布。
【請求項4】
平均孔径が1~9μmである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層不織布。
【請求項5】
通気性の上限は通気度が3.0cc/cm2/secであり、通気性の下限は透気度が200秒/100ccである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層不織布。
【請求項6】
透湿度が4800~10000g/m2/24hrである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層不織布。
【請求項7】
請求項3記載の積層不織布の裏面層同士が重ね合った状態で、周縁が溶着されてなる袋状物。
【請求項8】
鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維を構成繊維とする第一不織布、
鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合されてなる合成紙であって、該芯鞘型複合短繊維の繊維径が3~30μm及び繊維長が2~30mmであり、ポリオレフィン系合成パルプの繊維長が0.1~5mmである合成紙並びに
鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維を構成繊維とする第二不織布
の順に積層した積層体を、加熱することにより、前記第一芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分、前記芯鞘型複合短繊維の前記鞘成分、前記第二芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分及び前記ポリオレフィン系合成パルプを軟化又は溶融させた後、冷却することにより、前記第一不織布、前記合成紙及び前記第二不織布を固着一体化する積層不織布の製造方法。
【請求項9】
鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維を構成繊維とする第一不織布、
鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合されてなる合成紙であって、該芯鞘型複合短繊維の繊維径が3~30μm及び繊維長が2~30mmであり、ポリオレフィン系合成パルプの繊維長が0.1~5mmである合成紙並びに
鞘成分が線状低密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該線状低密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維を構成繊維とする第二不織布
の順に積層した積層体を、加熱することにより、前記第一芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分、前記芯鞘型複合短繊維の前記鞘成分、前記第二芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分及び前記ポリオレフィン系合成パルプを軟化又は溶融させた後、冷却することにより、前記第一不織布、前記合成紙及び前記第二不織布を固着一体化することを特徴とする積層不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の通気性及び透湿性を持つ積層不織布及びその製造方法に関し、特に脱臭剤や乾燥剤等の粉末を収納して袋状物を得る際に好適な積層不織布及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の通気性及び透湿性を持つ積層不織布が種々の用途に用いられている。たとえば、防護服の素材、微多孔膜フィルターの補強材又は脱臭剤や乾燥剤等の粉末を収納する際の袋状物の素材として用いられている。本件出願人は、かかる積層不織布として、以下の如き3層構造の不織布を提案している(特許文献1)。すなわち、表面層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が前記高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、中間層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が前記高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と前記高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる単相型短繊維との集積体からなり、裏面層は、鞘成分が高密度ポリエチレンまたは線状低密度ポリエチレンよりなり、芯成分が前記高密度ポリエチレンまたは線状低密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、中間層を構成する芯鞘型複合短繊維および単相型短繊維の繊維長が2~30mmであり、芯鞘型複合短繊維の繊維径よりも単相型短繊維の繊維径が小さく、単相型短繊維の繊維径が3~10μmであり、表面層、中間層及び裏面層は、それぞれの層を構成している芯鞘型複合長繊維及び芯鞘型複合短繊維の鞘成分の少なくとも一部が溶融固化状態となって層同士を固着一体化している積層不織布を提案している。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は特許文献1記載の発明を改良したものであり、通気性及び透湿性をより調整しやすくすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、中間層に多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプを均一に混合することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、表面層、中間層及び裏面層の3層が積層してなる積層不織布であり、前記表面層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、前記中間層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合された集積体からなり、前記裏面層は、鞘成分がポリエチレンよりなり、芯成分が該ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維の集積体からなり、前記中間層を構成する前記芯鞘型複合短繊維の繊維径が3~30μm及び繊維長が2~30mmであり、前記ポリオレフィン系パルプの繊維長が0.1~5mmであり、前記3層は、各々の層を構成している前記第一芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分、前記芯鞘型複合短繊維の前記鞘成分、前記第二芯鞘型複合長繊維の前記鞘成分及び前記ポリオレフィン系合成パルプの軟化又は溶融及び固化によって各層が固着一体化していることを特徴とする積層不織布及びその製造方法に関するものである。ここで、多分岐とは、幹部分から枝分かれした枝部分からも、さらに枝分かれが形成されているという意味であり、したがって、多分岐構造は細密なフィブリル化構造となっている。
【0006】
[表面層について]
表面層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維の集積体からなる。そして、鞘成分である高密度ポリエチレンの軟化又は溶融及び固化によって第一芯鞘型複合長繊維相互間が結合されてなる。高密度ポリエチレンの融点は120~140℃が好ましく、芯成分であるポリエステルの融点は250℃~260℃が好ましい。両者の融点をこの範囲とすることにより、高密度ポリエチレンとポリエステルとの融点差が大きく、高密度ポリエチレンが軟化又は溶融する際に、ポリエステルが軟化又は溶融することや劣化することなく、当初の繊維形態を維持する。これにより、表面層には多数の微細孔が維持される。
【0007】
第一芯鞘型複合長繊維の芯成分と鞘成分の質量比は任意であるが、芯成分:鞘成分=0.25~4:1であるのが好ましく、特に芯成分:鞘成分=0.4~2.5:1であるのがより好ましく、芯成分:鞘成分=1:1であるのが最も好ましい。鞘成分の質量比がこの範囲を超えて少なくなると、第一芯鞘型複合長繊維相互間の結合が不十分となったり、又は表面層と中間層との固着一体化が不十分となる傾向が生じる。また、鞘成分の重量比がこの範囲を超えて多くなると、表面層がフィルム化しやすくなり、微細孔が残存しにくくなる。
【0008】
第一芯鞘型複合長繊維の単繊維繊度は任意であるが、引張強度等の物性面から、1~7dtexであるのが好ましい。単繊維繊度が1dtex未満であると、表面層の引張強度が低下する傾向が生じる。また、繊度が7dtexを超えると、第一芯鞘型複合長繊維相互間の間隙が大きくなり、透湿性の調整がしにくくなる傾向が生じる。
【0009】
表面層の質量は任意であるが、一般的に10~50g/m2であるのが好ましい。表面層の質量が10g/m2未満になると、中間層が露出する傾向が生じ、中間層を保護しにくくなる。また、表面層の質量が50g/m2を超えると、過剰品質となる傾向が生じ、合理的ではない。
【0010】
[中間層について]
中間層は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が該高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合された集積体で構成されている。高密度ポリエチレンやポリエステルとしては、第一芯鞘型複合長繊維で用いたものと同様のものが用いられる。芯鞘型複合短繊維の芯成分と鞘成分の質量比も、表面層で用いた第一芯鞘型複合長繊維の場合と同程度である。また、芯鞘型複合短繊維の繊維径は3~30μmで繊維長は2~30mmである。繊維径3μm未満又は繊維長2mm未満の芯鞘型複合短繊維は製造しにくく、実用的ではない。繊維径が30μmを超えたり、繊維長が30mmを超えると、ポリオレフィン系合成パルプと均一に混合しにくくなるので、好ましくない。
【0011】
多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプの繊維長は0.1~5mmであり、0.5~3mmであるのが好ましい。合成パルプの繊維長が0.1mm未満になると、芯鞘型複合短繊維と絡み合いにくくなり、均一に混合しにくくなるので、好ましくない。合成パルプの繊維長が5mmを超えると、合成パルプ同士の絡み合いが強固になり、芯鞘型複合短繊維と均一に混合しにくくなるので、好ましくない。
【0012】
多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプの素材としては、例えば、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレン共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、ポリブテン-1、ポリヘキセン-1、ポリオクテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリメチルペンテン、1,2-ポリブタジエン及び1,4-ポリブタジエン等が用いられる。このなかでも、特に高密度ポリエチレンを用いるのが好ましい。芯鞘型複合短繊維の鞘成分と同様の素材なので、芯鞘型複合短繊維の鞘成分の軟化又は溶融及び固化による結合力が強くなるからである。
【0013】
中間層中において、芯鞘型複合短繊維とポリオレフィン系合成パルプの混合比は、芯鞘型複合短繊維100質量部に対して、ポリオレフィン系合成パルプが10~150質量部であるのが好ましく、特に25~60質量部であるのがより好ましい。ポリオレフィン系合成パルプが10質量部未満になると、緻密な中間層となりにくい傾向が生じる。一方、ポリオレフィン系合成パルプが150質量部を超えると、通気性又は透湿性が極端に低下する傾向が生じる。この混合比を上記範囲内で適当に変更することにより、通気性及び透湿性を調整でき、所望の通気度又は透気度及び透湿度を持つ積層不織布を得ることができる。
【0014】
中間層の質量は、10~70g/m2であるのが好ましく、特に15~50g/m2であるのが好ましい。中間層の質量が10g/m2未満であると、薄過ぎて緻密な中間層となりにくい傾向が生じる。また、中間層の質量が70g/m2を超えると、過剰品質になると共に高価になり、合理的ではない。
【0015】
[裏面層について]
裏面層は、鞘成分がポリエチレンよりなり、芯成分がポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維の集積体からなる。そして、鞘成分であるポリエチレンの軟化又は溶融及び固化によって第二芯鞘型複合長繊維相互間が結合されてなる。ポリエチレンの融点は75~140℃が好ましく、芯成分であるポリエステルの融点は250℃~260℃が好ましい。両者の融点をこの範囲とすることにより、ポリエチレンとポリエステルとの融点差が大きく、ポリエチレンが軟化又は溶融する際に、ポリエステルが軟化又は溶融することや劣化することなく、当初の繊維形態を維持する。これにより、裏面層にも多数の微細孔が維持される。なお、第二芯鞘型複合長繊維の芯成分と鞘成分の質量比及び第二芯鞘型複合長繊維の単繊維繊度は、第一芯鞘型複合長繊維の場合と同様である。また、裏面層の質量も、表面層の場合と同様である。
【0016】
第二芯鞘型複合長繊維の鞘成分であるポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンが用いられる。高密度ポリエチレンを用いたときは、第二芯鞘型複合長繊維と第一芯鞘型複合長繊維が同種のものとなり、裏面層は表面層と同様のものとなる。したがって、表裏差のない積層不織布となる。
【0017】
一方、第二芯鞘型複合長繊維の鞘成分であるポリエチレンとして、低密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレンを使用すると、表裏差のある積層不織布が得られる。線状低密度ポリエチレン等は、高密度ポリエチレンよりも低融点であるため、裏面層をヒートシール層として用いることができる。たとえば、積層不織布の裏面層同士が重なり合うようにして、積層不織布を二つ折りにし、ヒートシール機で三方周縁をヒートシールすれば袋状物が得られる。また、二枚の積層不織布の裏面層同士が重なり合うようにして、ヒートシール機で四方周縁をヒートシールしても、袋状物が得られる。ヒートシール温度は、表面層の高密度ポリエチレンは軟化又は溶融しないが、裏面層の線状ポリエチレン等は軟化又は溶融する温度で行えばよい。したがって、ヒートシール機にかけても、表面層が損傷したり劣化することを防止しうる。そして、この際、袋状物内に脱臭剤や乾燥剤等の粉末を収納しておけば、袋物の脱臭剤や乾燥剤等を製造することができる。
【0018】
[各層の関係について]
表面層と中間層は、表面層中の第一芯鞘型複合長繊維の鞘成分と、中間層中の芯鞘型複合短繊維の鞘成分及びポリオレフィン系合成パルプとが、相互に軟化又は溶融及び固化によって、一体化している。中間層と裏面層は、中間層中の芯鞘型複合短繊維の鞘成分及びポリオレフィン系合成パルプと、裏面層中の第二芯鞘型複合長繊維の鞘成分とが、相互に軟化又は溶融及び固化によって、一体化している。したがって、表面層、中間層及び裏面層の各層間は、固着一体化しており、剥離し難いものとなっている。
【0019】
[積層不織布の物性について]
本発明に係る積層不織布は、中間層に多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプが存在しているため、より微細な空隙が多数形成されており、所望の通気性及び透湿性を有するものである。本発明に係る積層不織布に形成される微細な空隙は、平均孔径1~9μmであるのが好ましい。平均孔径が1μm未満になると、通気性及び透湿性が低下しすぎる傾向が生じる。また、平均孔径が9μmを超えると、透湿性の調整がしにくくなる傾向が生じる。ここで、平均孔径とは、ASTM F-361-86に基づき測定されるミーン・フロー・ポアサイズ(MFP)のことである。具体的には、パーム・ポロメーター(POROUSMATERIALS,INC製)を用いて測定した。
【0020】
本発明に係る積層不織布の通気性については、通気性の上限が通気度3.0cc/cm2/secであり、通気性の下限が透気度200秒/100ccであるのが好ましい。通気度は、JIS L 1096に記載されている通気性A法(フラジール形法)で測定されるものである。この測定方法の場合、通気度が0.3cc/cm2/sec未満になると、フラジール形法の測定装置の下限を超えるため、通気度が測定できない。したがって、通気度が0.3cc/cm2/sec未満の範囲は、JIS P 8117に記載されているガーレー試験機法による透気度で示した。通気度が3.0cc/cm2/secを超えると、透湿性が調整しにくくなる恐れが生じる。また、透気度が200秒/100ccを超えると、通気性が低下しすぎる傾向が生じる。
【0021】
本発明に係る積層不織布の透湿性については、透湿度が4800~12000g/m2/24hrであるのが好ましい。透湿度が4800g/m2/24hr未満になると、透湿性が低下しすぎる傾向が生じる。また、透湿度が12000g/m2/24hrを超えると、微小水滴が透過する恐れが生じる。なお、透湿度は、JIS L 1099に記載されているA-1法(塩化カルシウム法)にて、環境条件40℃×90%RH下で、測定されるものである。
【0022】
[積層不織布の製造方法について]
本発明に係る積層不織布は、表面層となる第一不織布、中間層となる合成紙及び裏面層となる第二不織布の順に積層し、加熱した後に冷却することになり、第一不織布、合成紙及び第二不織布を固着一体化することにより、製造される。
【0023】
第一不織布は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第一芯鞘型複合長繊維を構成繊維とするものである。第一不織布は従来公知のスパンボンド法等で得ることができる。構成繊維相互間は、単に絡み合ってるだけでも、鞘成分により部分的に又は全体に融着していてもよい。鞘成分により融着している方が取り扱いやすいので好ましい。第一芯鞘型複合長繊維の芯鞘成分比や単繊維繊度等は、上記表面層の箇所で説明したとおりである。また、第一不織布の目付は、表面層の質量と同程度でよく、10~50g/m2程度である。
【0024】
合成紙は、鞘成分が高密度ポリエチレンよりなり、芯成分が高密度ポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる芯鞘型複合短繊維と、多分岐構造を有するポリオレフィン系合成パルプとが均一に混合されてなるものである。かかる合成紙は、芯鞘型複合短繊維とポリオレフィン系合成パルプとが均一に分散されたスラリーを、抄紙機で漉くことによって得ることができる。芯鞘型複合短繊維とポリオレフィン系合成パルプとを水中で均一に分散するには、ポリオレフィン系合成パルプに比べて、その繊維長が長過ぎたり繊維径が大き過ぎないようにする。ポリオレフィン系合成パルプの繊維長は一般的に0.1~5mmであるので、芯鞘型複合短繊維の繊維長は2~30mmとする。また、ポリオレフィン系合成パルプの幹部分及び枝分かれした枝部分の繊維径は、一般的に2~30μm程度であるので、芯鞘型複合短繊維の繊維径を3~30μmとする。
【0025】
第二不織布は、鞘成分がポリエチレンよりなり、芯成分がポリエチレンの融点よりも高い融点を持つポリエステルよりなる第二芯鞘型複合長繊維を構成繊維とするものである。鞘成分であるポリエチレンは、第一芯鞘型複合長繊維と同様に高密度ポリエチレンであってもよいし、高密度ポリエチレンよりも融点の低い低密度ポリエチレン、特に線状低密度ポリエチレンであってもよい。第二不織布も従来公知のスパンボンド法等で得ることができ、構成繊維相互間は単に絡み合ってるだけでも、鞘成分により部分的に又は全体に融着していてもよい。第二芯鞘型複合長繊維の芯鞘成分比や単繊維繊度等は、第一芯鞘型複合長繊維と同程度でよく、また、第二不織布の目付は、裏面層の質量と同程度でよく、10~50g/m2程度である。
【0026】
第一不織布、合成紙及び第二不織布の順に積層して加熱し、所望により加圧した後に、冷却して積層不織布を得る。加熱温度、加熱の態様、加圧の線圧及び加圧の態様は任意であるが、第一芯鞘型複合長繊維中の鞘成分、芯鞘型複合短繊維中の鞘成分、ポリオレフィン系合成パルプ及び第二芯鞘型複合長繊維中の鞘成分のみが軟化又は溶融する程度である。これにより、第一不織布中の第一芯鞘型複合長繊維相互間、第一芯鞘型複合長繊維と芯鞘型複合短繊維及び合成パルプ間、芯鞘型複合短繊維と合成パルプ間、第二不織布中の第二芯鞘型複合長繊維相互間、第二芯鞘型複合長繊維と芯鞘型複合短繊維及び合成パルプ間が融着して、第一不織布、合成紙及び第二不織布が固着一体化する。そして、第一芯鞘型複合長繊維中の芯成分、芯鞘型複合短繊維中の芯成分及び第二芯鞘型複合長繊維中の芯成分は、当初の繊維形態を維持しているため、積層不織布中には多数の微細な空隙が形成されるのである。
【0027】
以上のようにして、第一不織布に由来する表面層、合成紙に由来する中間層及び第二不織布に由来する裏面層を有する積層不織布が得られるのである。本発明に係る積層不織布中には、多数の微細な空隙が形成されており、所望の通気性及び透湿性を有するものである。したがって、本発明に係る積層不織布は、防護服の素材、使い捨ておむつや生理用ナプキンの防漏材、微多孔膜フィルターの補強材又は脱臭剤や乾燥剤等の粉末を収納する際の袋状物の素材等として、種々の用途に用いられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る積層不織布は、表面層、中間層及び裏面層が固着一体化されてなり、中間層はポリオレフィン系合成パルプと芯鞘型複合短繊維とが均一に混合されてなる。ポリオレフィン系合成パルプは多分岐構造となっているので、芯鞘型複合短繊維との混合比によって、微細な空隙の大きさや空隙の数を調整しうる。したがって、所望の通気性及び透湿性を持つ積層不織布を得ることができるという効果を奏する。
【実施例0029】
実施例1
[第一不織布及び第二不織布の準備]
融点256℃のポリエステルと融点134℃の高密度ポリエチレンを、複合溶融紡糸装置に導入し、ポリエステルを芯成分とし高密度ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合長繊維を溶融紡糸すると共に、コンベア上に集積して長繊維ウェブを得た。この長繊維ウェブを、加熱凹凸ロールと平滑ロールとで構成されたエンボス装置に導入し、鞘成分である高密度ポリエチレンのみを溶融固化して、芯鞘型複合長繊維相互間が結合されてなる不織布を得た。なお、芯鞘型複合長繊維の繊維径は3.3dtex(繊維径20μm)であり、芯成分と鞘成分の重量比は1:1であった。また、不織布の目付は15g/m2であった。この不織布を、第一不織布及び第二不織布として準備した。
【0030】
[合成紙の準備]
融点256℃のポリエステルが芯成分、融点134℃の高密度ポリエチレンが鞘成分を構成する芯鞘型複合短繊維(繊維径13μm×繊維長5mm)と、多分岐構造を有するポリエチレン系合成パルプ(三井化学株式会社製「SWP」のグレードE-620)とを質量比で、芯鞘型複合短繊維:合成パルプ=80:20となるように混合して、水中に分散させてスラリーを得た。このスラリーを抄紙機で抄きあげた後、ヤンキードライヤーに通して乾燥し、目付30g/m2の合成紙を得た。
【0031】
[積層不織布の製造]
第一不織布/合成紙/第二不織布の順に積層し、無押圧下で135℃に予備加熱し、次いで、平滑樹脂ロールと表面が120℃に加熱された平滑スチールロール間に、200kgf/cmの線圧をかけて通し、積層不織布を得た。得られた積層不織布は、目付60g/m2、平均孔径6μm、通気度1.6cc/cm2/sec、透湿度9000g/m2/24hrであった。また、積層不織布を折り曲げたり、屈曲させたりしたが、層間は強固に接着されていた。
【0032】
実施例2
芯鞘型複合短繊維と合成パルプの質量比を、芯鞘型複合短繊維:合成パルプ=60:40に変更して合成紙を準備した他は、実施例1と同一の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布は、目付60g/m2、平均孔径4μm、透気度55秒/100cc(通気度は0.3cc/cm2/sec未満である。)、透湿度7200g/m2/24hrであった。また、積層不織布を折り曲げたり、屈曲させたりしたが、層間は強固に接着されていた。
【0033】
実施例3
第一不織布及び合成紙として、実施例1で使用したものと同一のものを準備した。第二不織布については、実施例1で使用した高密度ポリエチレンを融点102℃の線状低密度ポリエチレンに代えた他は、実施例1の場合と同一の方法で第二不織布を準備した。
[積層不織布の製造]
第一不織布/合成紙/第二不織布の順に積層し、無押圧下で、第一不織布側は135℃に予備加熱し、第二不織布側は130℃に予備加熱し、次いで、平滑樹脂ロールと表面が120℃に加熱された平滑スチールロール間に、200kgf/cmの線圧をかけて通し、積層不織布を得た。得られた積層不織布は、目付60g/m2、平均孔径6μm、通気度1.4cc/cm2/sec、透湿度8800g/m2/24hrであった。また、積層不織布を折り曲げたり、屈曲させたりしたが、層間は強固に接着されていた。
この積層不織布は、第二不織布に由来する裏面層をヒートシール層して用いることができた。すなわち、この積層不織布を裏面層同士が当接するようにして、二つ折りした後、ヒートシール機に通すことにより、三方周縁を溶着することができ、第一不織布に由来する表面層に損傷や劣化が生じなかった。
【0034】
比較例
芯鞘型複合短繊維と合成パルプの質量比を、芯鞘型複合短繊維:合成パルプ=100:0に変更して合成紙を準備した他は、実施例1と同一の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布は、目付60g/m2、平均孔径12μm、通気度5cc/cm2/sec、透湿度9000g/m2/24hrであった。