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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042232
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】機能性成分放出体粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20240321BHJP
   D06M 11/48 20060101ALI20240321BHJP
   D06M 23/08 20060101ALI20240321BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61L9/01 H
D06M11/48
D06M23/08
D06M13/184
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146807
(22)【出願日】2022-09-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】596129008
【氏名又は名称】泰陽株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真司
【テーマコード(参考)】
4C180
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180CC15
4C180CC16
4C180EA33Y
4C180EB05X
4C180EB06X
4C180EB07X
4C180EB14X
4C180EB15X
4C180FF07
4C180GG17
4L031AB34
4L031BA09
4L031BA31
4L033AB07
4L033AC10
4L033AC15
4L033BA16
4L033DA06
(57)【要約】
【課題】
抗酸化物質などの機能性成分の放出量をコントロールすることができる機能性成分放出体粒子、それを付着させたフィルター、繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の機能性成分放出体粒子は、機能性成分が含浸された網目状構造体あって、
前記網目状構造体は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、
前記WO針状結晶の密度を制御することにより、前記機能性成分の放出量をコントロールするようにしたことを特徴とする。
また、本発明のフィルターは、前記機能性成分放出体粒子を付着させたことを特徴とする。
また、本発明の繊維は、前記機能性成分放出体粒子を練り込んだことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性成分が含浸された網目状構造体あって、
前記網目状構造体は、
WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、
前記WO針状結晶の密度を制御することにより、
前記機能性成分の放出量をコントロールするようにしたことを特徴とする
機能性成分放出体粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の機能性成分放出体粒子において、
機能性成分としてアスコルビン酸を含浸させたものであることを特徴とする機能性成分放出体粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の機能性成分放出体粒子において、
さらに、無機結合剤を加えて粒子化したものであることを特徴とする機能性成分放出体粒子。
【請求項4】
請求項1の機能性成分放出体粒子を付着させたことを特徴とするフィルター。
【請求項5】
前記機能性成分放出体粒子の機能性成分として、
アスコルビン酸を付着させたことを特徴とする請求項4に記載のフィルター。
【請求項6】
請求項1の機能性成分放出体粒子を練り込んだことを特徴とする繊維。
【請求項7】
前記機能性成分放出体粒子がアスコルビン酸であることを特徴とする請求項6に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WOからなる網目状構造体内に、機能性成分を含浸した機能性成分放出体粒子に関し、WO針状結晶の密度を制御することによって、放出する機能性成分の放出量を制御することができる機能性成分放出体粒子、それを付着させたフィルター、繊維に関する。
なお、本明細書では、三酸化タングステン及び酸化タングステンを「WO」と表現する。
【背景技術】
【0002】
従来、車のエアフィルターなどの機器を利用して、ビタミン類、香料などの機能性成分を車内放出して、脱臭、除菌などの方法が提案されている。
また、エアコンや空気清浄機などにより機能性成分を室内に放出することで、生活環境中から発生するさまざまな酸化性物質を抑制する提案もなされている。
抗酸化機能を有する機能性成分が空気中に放出されると、化学反応により室内から酸化性物質が削減され、加えて機能性成分に保湿機能があれば、その放出された成分は肌から吸収され、保湿効果を発揮し、肌荒れ等の改善が期待できる。
このような抗酸化機能を有する機能性成分としては、例えば、L-アスコルビン酸(ビタミンC)及びその誘導体などがあり、医薬品をはじめとして健康サプリメントや化粧品、衣類などに使用され、それら物質の摂取や衣類の着用などにより利用されている。
機能性成分を利用した技術としては、例えば、特許文献1(特開2004-51521号公報)には、含有する物質がコラーゲン誘導体とビタミン類から選ばれる1種又は2種以上であり、増粘剤を含有したシルクを混合したレーヨン不織布が記載されている。
また、特許文献2(特開2006-45491号公報)には、有効成分を担持したシート部材をエアフィルターとして採用した場合に、エアフィルターに含有される有効成分が放出される旨、記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献2では、長期にわたる性能維持には2種類以上の材料を混合するとの記載があるが、機能性成分の放出量を制御することができず、長寿命化のためには添加量が多くなってしまうという問題がある。
また、抗酸化物質と空気中の酸化性物質とを持続的に接触させるためにはエアフィルターは好適と考えられるが、抗酸化性物質を単独でエアフィルターに付着させた場合では、例えばビタミンCなどは酸化劣化しやすく、空気中に放出されることにより、短期間で酸化してしまう。そのため従来の技術では長期にわたる使用には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-51521号公報
【特許文献2】特開2006-45491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、抗酸化物質などの機能性成分の放出量をコントロールすることができる機能性成分放出体粒子、それを付着させたフィルター、繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の特徴を有する。
(1)本発明の機能性成分放出体粒子は、機能性成分が含浸された網目状構造体あって、
前記網目状構造体は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、
前記WO針状結晶の密度を制御することにより、前記機能性成分の放出量をコントロールするようにしたことを特徴とする。
(2)本発明の機能性成分放出体粒子は、上記(1)に記載の機能性成分放出体粒子において、機能性成分としてアスコルビン酸(ビタミンC)を含浸させたものであることを特徴とする。
(3)本発明の機能性成分放出体粒子は、上記(1)に記載の機能性成分放出体粒子において、さらに、無機結合剤を加えて粒子化(スプレードライヤー)したものであることを特徴とする。
(4)本発明のフィルターは、上記(1)に記載の機能性成分放出体粒子を付着させたことを特徴とする。
(5)本発明のフィルターは、上記(4)において、前記機能性成分放出体粒子の機能性成分として、アスコルビン酸を付着させたことを特徴とする。
(6)本発明の繊維は、上記(1)に記載の機能性成分放出体粒子を練り込んだことを特徴とする。
(7)本発明の繊維は、上記(6)において、前記機能性成分放出体粒子がアスコルビン酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の機能性成分放出体粒子は、機能性成分が含浸された網目状構造体あって、前記網目状構造体は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、前記WO針状結晶の密度を制御することにより、前記機能性成分の放出量をコントロールするようにしたので、
機能性成分の放出量や放出期間を制御することができ、長期間にわたって機能性成分放出の効果が持続される。
また、この放出体粒子を付着させたエアフィルターや繊維は、長期間にわたって抗酸化性能などの機能性が持続される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、横軸を水酸化タングステン濃度(%)、縦軸をWO結晶化率(%)として、出発原料である水酸化タングステンの濃度を変えてときに、オートクレーブ加工において生成された酸化タングステン網目状構造体の割合(%)を示すグラフである。
図2図2は、機能性成分放出体粒子を製造するためのスプレードライヤー加工装置の概略図である。
図3図3は、本発明実施形態の機能性成分放出体粒子の粒子顕微鏡写真を示す。(a)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーを用いて製造した放出体粒子の20000倍写真(b)は、(a)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(c)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(d)は、(c)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(e)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(f)は、(e)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(g)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(h)は、(g)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真である。
図4図4は、スラリー液に混合するWO網目状構造体の配合割合を変えた場合に、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度(気孔率)との関係を示すグラフである。
図5図5は、酸化タングステン(WO)結晶密度とビタミンC(アスコルビン酸)の放出性能との関係を示すグラフである。
図6図6は、機能性成分放出粒子をディッピング加工により不織布へ担持させた後、フィルターを製造する工程を示す模式的な説明図である。
図7図7は、酸化タングステンの濃度を変えて得られた不織布フィルターの、不織布フィルターのビタミン(機能性成分)放出量の持続性能を比較評価したグラフである。
図8図8は、ビタミン(機能性成分)放出性能評価装置の説明図である。
図9図9は、放出性能評価装置を用いておこなった放出性能評価結果である。
図10図10は、本発明の機能性成分放出粒子を練り込んだ繊維を用いて製作したネットフィルターの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<機能性成分放出体粒子>
本発明の機能性成分放出体粒子は、機能性成分が含浸された網目状構造体あって、
前記網目状構造体は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、
前記WO針状結晶の密度を制御することにより、
前記機能性成分の放出量をコントロールするようにしたことを特徴とする。
機能性成分放出体粒子の表面には、含浸された機能性成分に通ずる開口部が形成されており、機能性成分がその開口部より外部に放出されるようになっている。
【0010】
<網目状構造体>
網目状構造体は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなる。
このような、WO針状結晶の網目状構造体は、下記に示すように、水酸化タングステンのオートクレーブ装置による水熱反応で生成することができる。
例えば、高温高圧(一例として、200℃前後、15~18kg/cm程度)の蒸気圧を有するオートクレーブ装置で水熱合成すると、出発原料である水酸化タングステンからWOの針状結晶が生成される。
(HWO+heat→HO+WO
WOは、タングステン酸化物の代表的な三酸化タングステン(又は酸化タングステン)と呼ばれる針状結晶である。
水酸化タングステン原料には、ブレーン値が3000cm/g~15000cm/gの範囲の液粘性になるように水を加えて混合液を調整し、
一例として、質量比で5~20%、好ましくは10~15%濃度になるように水を混合分散した混合液とすることが好ましい。
この混合液をオートクレーブ装置に投入し、例えば、150~210℃の温度で、10~12時間にわたり撹拌しながら水熱合成を行うと、平均粒子径、5nm~30nmのWOが生成される。
なお、上記混合液には、粘度調整のため、ブレーン値が3000cm/g以上の非晶質シリカ(例えば、けい藻土、シリカヒューム、マイクロシリカ等)を添加することもできる。
【0011】
<水酸化タングステン濃度とWO結晶化率>
オートクレーブ装置に投入される混合液において、出発原料である水酸化タングステンの配合割合を変えることにより、WO針状結晶の集合体の密度(生成される割合=WO結晶化率)を調整することができる。
図1は、横軸を水酸化タングステン濃度(%)、縦軸をWO結晶化率(%)として、
出発原料である水酸化タングステンの濃度を変えたときに、オートクレーブ加工において生成された酸化タングステン網目状構造体の割合(%)を示すグラフである。
図1に示すように、オートクレーブ加工において生成されたWO針状結晶の集合体の密度は、オートクレーブ中の水酸化タングステン濃度(%)が高いほどWO結晶化率(%)が高いことが分かる。
【0012】
<機能性成分>
網目状構造体に含浸する機能性成分としては、例えば、ビタミン類、コラーゲン、アスタキサンチン、ヒアルロン酸類、香料、カテキン類、タンニン類、天然保湿成分因子、植物由来の製油、などが挙げられ、単独又はこれらの組み合わせを用いることができる。
使用目的によって、含浸する機能性成分は適宜決定される。
ビタミン類としては、ビタミン、ビタミン誘導体、ビタミンに近い働きをするビタミン様物質などが挙げられる。
ビタミンとしては、アスコルビン酸、レチノール、d-l-トコフェロール、パントテン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン、フィトナジオン、葉酸が挙げられる。
ビタミン誘導体としては、アスコルビルエチル、アスコルビルグルコシド、(アスコルビル/コレステリル)リン酸ナトリウム、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、アスコルビルメチルシラノールペクチン、アスコルビルリン酸(Mg/K)、アスコルビルリン酸(Mg/Na)、アスコルビルリン酸(Mg/亜鉛)、アスコルビルリン酸Ca、アスコルビルリン酸Naなどのアスコルビン酸の誘導体が好適に適用される。
【0013】
<機能性成分放出体粒子>
実施形態の機能性成分放出体粒子は、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなる網目状構造体の中に機能性成分が含浸されており、
WO針状結晶の密度を制御することにより、機能性成分の放出量をコントロールすることができる。
また、機能性成分放出体粒子の表面には、含浸された機能性成分に通ずる開口部が形成されており、機能性成分がその開口部より外部に放出されるようになっている。
【0014】
<スプレードライヤー加工>
このような機能性成分放出体粒子は、例えば下記のように準備したスラリー液を、以下のようなスプレードライヤー加工装置を用いて粒子化して製造する。
【0015】
<スラリー液>
スプレードライヤー装置には、下記の配合と水からなるスラリー液を投入する。
(a)オートクレーブで生成したWO網目状構造体
(b)網目状構造体に含浸するビタミン類などの機能性成分
(c)無機結合剤(例えばコロイダルシリカなど)
無機結合剤は、スプレードライヤーで形成される機能性成分放出体粒子を固定化するため混合する。
無機結合剤としては、例えば、珪酸系であるコロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、エチルシリケート、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、アルミナ系であるアルミン酸カルシウム、β-アルミナ、ベーマイト、アルミナゾル、リン酸系であるリン酸カルシウム、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムからなる無機素材が挙げられる。
中でも、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)は、水懸濁液にて市販されており、入手しやすいため、好適に用いられる。
なお、WO網目状構造体としては直径100μm以下の粒子のもの、
無機結合剤としては直径500nm以下の粒子のもの、
スラリー液の合計固形分は、溶媒(水など)を加えた100質量部に対し、5~20質量部とすることが、製造取り扱い上好ましい。
ただし、上記スラリー液の濃度は、特に規定するものではなく、
スプレードライヤー加工装置での噴霧、乾燥条件などの製造条件を考慮して適宜決定する。
また、スラリー液の溶媒は、水を主溶媒とするが、分散安定性を確保するためにアルコールなどの有機溶媒を含んでいてもよい。
なお、無機結合剤は、オートクレーブ装置に投入することもできる。
【0016】
<スプレードライヤー加工装置>
図2は、機能性成分放出体粒子を製造するためのスプレードライヤー加工装置の概略図である。
図2に示すように、スプレードライヤー加工装置は、スラリー液タンク21、微粒化エア送風装置22、ノズル23、乾燥室24、エアヒーター26、サイクロン27、バグフィルター28、排風機29、を有する。
スプレードライヤー加工装置においては、スラリー液タンク21から供給されるスラリー液を、微粒化エア送風装置22から供給された噴出空気と、ノズル23にて衝突させることで、微細な液滴状に噴霧する。
【0017】
乾燥室24は、内部が空洞の円筒形乾燥機である。
上部にはノズル23が配設されるほか、微粒化エア送風装置22から空気が導入される送風口が開口している。
また、送風ブロア22と送風口との間に、乾燥室24内に導入される空気を所定温度にまで加熱できるエアヒーター26が設けられており、ノズル23において、スラリー液タンク21から供給されたスラリー液が、微粒化エア送風装置22から空気によって噴霧されてれて、乾燥室24内に粒子化されるのである。
【0018】
乾燥室24の排出口はサイクロン27に接続されている。
サイクロン27の排出口はバグフィルター28に接続されている。
バグフィルター28には排風機29が接続される。
サイクロン27及びバグフィルター28の下部には、粒子化された機能性成分放出体粒子を回収するボックス(製品1、製品2)を備えている。
【0019】
微粒化エア送風装置22から送風されるエアはヒータ26により加熱され、乾燥室24内に導入される。
乾燥室24内では、霧化したスラリー液滴とエアヒータ26により加熱された加熱空気(例えば、100℃以上300℃以下)とが接触して、スラリー液滴は乾燥され、機能性成分放出体粒子が製造される。
【0020】
<機能性成分放出体粒子>
図3に、本発明実施形態の機能性成分放出体粒子の顕微鏡写真を示す。
(a)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーを用いて製造した放出体粒子の20000倍写真
(b)は、(a)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(c)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(d)は、(c)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(e)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(f)は、(e)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(g)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(h)は、(g)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真である。
図3の顕微鏡写真から分かるように、スプレードライヤー加工で製造された放出体粒子の表面にはWOの針状結晶体が露出しており、この露出されたWOの針状結晶体から、その内部に含浸された機能性成分を外気に放出することができることが分かる。
なお、スプレードライヤー加工後の放出体粒子は、嵩比重が0.5~1.5であり、かつ放出体粒子の平均直径は0.5~10μmの範囲にあることが、取り扱い上望ましい。
【0021】
<スラリー中のWO濃度と針状結晶の生成密度の関係>
図4は、スラリー液に混合するWO網目状構造体の配合割合を変えた場合に、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度(気孔率)との関係を示すグラフである。
WO網目状構造体の配合割合を大きくするほど、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度(気孔率)も大きくなることが分かる。
【0022】
なお、スラリー液中の無機結合剤の配合割合を変えることによっても、機能性成分放出体粒子の放出量をコントロールできる。
すなわち、機能性成分放出体粒子の放出量のコントロールは、オートクレーブ装置で生成されるWOの密度だけでなく、スプレードライヤー装置に投入するスラリー液中の無機結合剤の配合割合によっても調整することができる。
【0023】
<WO結晶密度とアスコルビン酸の放出性能との関連>
図5は、酸化タングステン(WO)結晶密度とビタミンC(アスコルビン酸)の放出性能との関係を示すグラフである。
図5に示すデータは、ビタミンC(アスコルビン酸)を、WO濃度の異なる(12.5%、17.5%、22.5%、27.5%)スラリー中にそれぞれ同じ割合で配合し、スプレードライヤー加工して得られた同一サイズの機能性成分放出粒子を、各10gずつイオン交換水90gの入ったビーカーに入れ、マグネチックスターラで10分間、500rpmで撹拌し、整置後、ビーカーより10mlを採取し、DPPH試薬調整液に加えてその呈色度を分光光度計で測定比較したものである。
また、同じビーカーを1時間毎に6時間経過後まで、同様にビーカーより10mlを採取し、その検体をDPPH試薬調整液を加えて、分光光度計で計測した。
図5に示すデータによれば、スプレードライヤー加工した機能性成分放出粒子においても、配合したWO濃度が低いほど(12.5%)イオン交換水中への溶出速度が高いことが分かる。
【実施例0024】
<フィルター>
つぎに、本発明の機能性成分放出粒子を用いた実施例1のフィルターについて説明する。
図6は、機能性成分放出粒子をディッピング加工により不織布へ付着(本明細書で担持という場合もある)させた後、フィルターを製造する工程を示す模式的な説明図である。
不織布へ担持する機能性成分放出粒子は、酸化タングステン(固形分10~20質量部)に、アスコルビン酸を20~30質量部加え、
濃度30%のコロイダルシリカ5~10質量部、
更に水60~90質量部、を加えて粘度調整したスラリー液をスプレードライヤー加工して、粒子サイズを平均1μmに設定したノズルを用いて製造した。
得られた機能性成分放出粒子を10~25質量部、
アクリルエマルジョンまたはウレタンエマルジョンを10~30質量部、
水70~90質量部、を混合してディッピング液を作製した。
ディッピング液は図6に示すようなトレイまたはバケットに入れ、不織布や綿布などをディッピング加工して不織布に付着させた。
なお、ディッピング加工とは、不織布などの基材をディッピング液に浸し、不織布に均一かつ規定の量だけ機能性成分放出粒子を付着させる加工をいう。
ディッピング後は100~130℃程度に加熱して乾燥させ一旦ロール状に巻き取る。
この不織布をプリーツ加工して、加湿器、空気清浄機、カーエアコンなどに搭載するフィルターとした(図6参照)。
【0025】
<ビタミン(機能性成分)放出量の持続性能を比較>
図7は、酸化タングステンの濃度を変えて得られた不織布フィルターの、不織布フィルターのビタミン(機能性成分)放出量の持続性能を比較評価したグラフである。
この比較評価はつぎのようにして行った。
すなわち、以下の条件によってカーエアコン用フィルターを試作し、それぞれをカーエアコンに取り付け、同じ条件で運転させた時の、カーエアコンから放出されたビタミンを含むエアーを全て回収できるように評価装置を製作した。
【0026】
図8は、上記の性能比較をするにあたり用いた放出性能評価装置の説明図である。
この評価装置を用いて、カーエアコンからの放出エアーを、純水100gの入ったバブリング容器へつないで真空ポンプで吸引して純水中にバブリングさせて、
純水中に溶解したアスコルビン酸濃度をDPPHラジカルの還元量の数値法からビタミン放出濃度として分光光度計で定量分析した。
バブリング試験は3時間行い、バブリングした純水へのアスコルビン酸溶解濃度はほぼ100%が溶解したとして計算した。
この3時間のバブリングは、24時間毎に実施し、6日間繰り返した。
<不織布への付着条件>
不織布目付 ;40g/m
機能性成分放出粒子付着量;10g/m
WO濃度;12.5%、17.5%、22.5%、27.5%の4種類
WO中の機能性成分濃度;アスコルビン酸換算として30%
<評価条件>
風速;1.6m/s、流量;10L/min
【0027】
図9は、上記の放出性能評価装置を用いておこなった放出性能評価結果である。
図9に示す評価データから、放出されたエアーに含まれるビタミン濃度は、
WO濃度が低いほど多く、
WO濃度が高いほど長期間持続されることが分かる。
なお、バブリングした純水へのアスコルビン酸溶解濃度はほぼ100%が溶解したとして計算した。
この3時間のバブリングは、24時間毎に実施し、6日間繰り返した。
【実施例0028】
<繊維、それを用いたネットフィルター>
つぎに、本発明の機能性成分放出粒子を用いた実施例2の繊維、それを用いたネットフィルターについて説明する。
図10は、本発明の機能性成分放出粒子を練り込んだ繊維を用いて製作したネットフィルターの説明図である。
すなわち、繊維へ練り込んだ機能性成分放出粒子は、
酸化タングステン(オートクレーブで反応させた固形分10~20質量部)、
アスコルビン酸(ビタミンC)を10~30質量部、
更に水60~90質量部を加えて粘度調整したスラリー液を、粒子サイズを平均1μmに設定したノズルを用いて、スプレードライヤーにて粒子に加工したものである。
得られた機能性成分放出粒子の5~10質量部を樹脂(例えばPP)パウダーに均一配合し、
ペレタイザーで150~220℃で溶融させながら1~3mm程度のコンパウンド・ペレットを得た。
これらの一つまたは複数を組み合わせて10~30質量部を混合したPPコンパウンドを、溶融押出し機(エクストルーダー)に投入し、熱溶融させながらギアーポンプ(計量器付き小型押出しポンプを経由して、細い孔が多数開いたノズル(口金)から繊維形状に押出して巻き取り、延伸(長さ方向に引き伸ばす)した後、機能性成分放出粒子を練り込みしたモノフィラメントの繊維を得た。
得られた機能性成分放出粒子を練り込みしたモノフィラメント繊維は、次の工程で経糸/横糸として編んだり、熱融着したりしてネット状のシートに加工する。
そのシートから適当なサイズに打ち抜いたシートに枠を熱融着で取りつけ、エアコンや空気清浄機用のネットフィルターとした。
ネットフィルターへ練り込みした機能性成分としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸リン酸マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチンなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の機能性成分放出体粒子は、機能性成分が含浸された網目状構造体あって、WO針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体からなり、WO針状結晶の密度を制御することにより、機能性成分の放出量をコントロールするようにしたので、機能性成分の放出量や放出期間を制御することができ、長期間にわたって機能性成分放出の効果が持続される。
また、この放出体粒子を付着させたエアフィルターや練込み繊維は、長期間にわたって抗酸化性能などの機能性を持続することができ、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0030】
21 スラリー液タンク
22 微粒化エア送風装置
23 ノズル
24 乾燥室
26 エアヒーター
27 サイクロン
28 バグフィルター
29 排風機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性成分を含浸させた機能性成分放出体粒子の製造方法において、
水酸化タングステンを出発原料として、
オートクレーブ装置を用いて、
圧力、温度及び時間を制御した水熱反応により、
WO 針状結晶の多孔質の球体からなる網目状構造体を生成し、
この網目状構造体に、
アスコルビン酸からなる機能性成分と、
無機結合剤と、
水とを混合してスラリー液とし、
このスラリー液をスプレードライヤー装置を用いて粒子化する機能性成分放出体粒子の製造方法であって、
前記オートクレーブ装置において、
前記水酸化タングステンの濃度を変えて生成されるWO 針状結晶の集合体の密度を調整し、
前記スラリー液に混合するWO 針状結晶の集合体の濃度を、
17.5%~27.5%とすることを特徴とする機能性成分放出体粒子の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、WOからなる網目状構造体内に、機能性成分を含浸した機能性成分放出体粒子に関し、WO針状結晶の密度を制御することによって、放出する機能性成分の放出量を制御することができる機能性成分放出体粒子の製造方法に関する。
なお、本明細書では、三酸化タングステン及び酸化タングステンを「WO」と表現する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
そこで、本発明は、アスコルビン酸からなる機能性成分の放出量をコントロールすることができる機能性成分放出体粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明は、以下の特徴を有する。
(1)本発明は、
機能性成分を含浸させた機能性成分放出体粒子の製造方法において、
水酸化タングステンを出発原料として、
オートクレーブ装置を用いて、
圧力、温度及び時間を制御した水熱反応により、
WO 針状結晶の多孔質の球体からなる網目状構造体を生成し、
この網目状構造体に、
アスコルビン酸からなる機能性成分と、
無機結合剤と、
水とを混合してスラリー液とし、
このスラリー液をスプレードライヤー装置を用いて粒子化する機能性成分放出体粒子の製造方法であって、
前記オートクレーブ装置において、
前記水酸化タングステンの濃度を変えて生成されるWO 針状結晶の集合体の密度を調整し、
前記スラリー液に混合するWO 針状結晶の集合体の濃度を、
17.5%~27.5%とすることを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
図1図1は、横軸を水酸化タングステン濃度(%)、縦軸をWO結晶化率(%)として、出発原料である水酸化タングステンの濃度を変えてときに、オートクレーブ加工において生成された酸化タングステン網目状構造体の割合(%)を示すグラフである。
図2図2は、機能性成分放出体粒子を製造するためのスプレードライヤー加工装置の概略図である。
図3図3は、本発明実施形態の機能性成分放出体粒子の粒子顕微鏡写真を示す。(a)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーを用いて製造した放出体粒子の20000倍写真(b)は、(a)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(c)は、スラリー中に混合するWO濃度を17.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(d)は、(c)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(e)は、スラリー中に混合するWO濃度を22.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(f)は、(e)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真(g)は、スラリー中に混合するWO濃度を27.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真(h)は、(g)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真である。
図4図4は、スラリー液に混合するWO網目状構造体の配合割合を変えた場合に、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度(気孔率)との関係を示すグラフである。
図5図5は、酸化タングステン(WO)結晶密度とビタミンC(アスコルビン酸)の放出性能との関係を示すグラフである。
図6図6は、機能性成分放出粒子をディッピング加工により不織布へ担持させた後、フィルターを製造する工程を示す模式的な説明図である。
図7図7は、酸化タングステンの濃度を変えて得られた不織布フィルターの、不織布フィルターのビタミン(機能性成分)放出量の持続性能を比較評価したグラフである。
図8図8は、ビタミン(機能性成分)放出性能評価装置の説明図である。
図9図9は、放出性能評価装置を用いておこなった放出性能評価結果である。
図10図10は、本発明の機能性成分放出粒子を練り込んだ繊維を用いて製作したネットフィルターの説明図である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
<機能性成分放出体粒子>
図3に、本発明実施形態の機能性成分放出体粒子の顕微鏡写真を示す。
(a)は、スラリー中に混合するWO濃度を12.5%に調整して、スプレードライヤーを用いて製造した放出体粒子の20000倍写真
(b)は、(a)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(c)は、スラリー中に混合するWO濃度を17.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(d)は、(c)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(e)は、スラリー中に混合するWO濃度を22.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(f)は、(e)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真
(g)は、スラリー中に混合するWO濃度を27.5%に調整して、スプレードライヤーで粒子にした20000倍写真
(h)は、(g)の放出体粒子を、倍率を45000倍にした写真である。
図3の顕微鏡写真から分かるように、スプレードライヤー加工で製造された放出体粒子の表面にはWOの針状結晶体が露出しており、この露出されたWOの針状結晶体から、その内部に含浸された機能性成分を外気に放出することができることが分かる。
なお、スプレードライヤー加工後の放出体粒子は、嵩比重が0.5~1.5であり、かつ放出体粒子の平均直径は0.5~10μmの範囲にあることが、取り扱い上望ましい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
<スラリー中のWO濃度と針状結晶の生成密度の関係>
図4は、スラリー液に混合するWO網目状構造体の配合割合を変えた場合に、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度との関係を示すグラフである。
WO網目状構造体の配合割合を大きくするほど、スプレードライヤー加工で形成された機能性成分放出体粒子における針状結晶の生成密度も大きくなることが分かる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正10】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4