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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042240
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】餃子羽根形成用組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A23L 35/00 20160101AFI20240321BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240321BHJP
【FI】
A23L35/00
A23L7/109 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146822
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】チャルーンタイパニチ ラッチャパン
【テーマコード(参考)】
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B036LC04
4B036LE08
4B036LF11
4B036LH11
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH30
4B036LK03
4B036LP02
4B036LP17
4B046LA09
4B046LC09
4B046LE11
4B046LG11
4B046LG16
(57)【要約】
【課題】冷蔵庫内や室温下においたり、あるいは、停電により冷凍庫内温度が上昇したりすることで、解凍された後も保形性があり、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができ、かつ-18℃以下で保存したものと同等の調理後品質を再現し得る、予備解凍後調理に適し、かつフェーズフリーフードとして利用可能な餃子羽根形成用組成物、及び該羽根形成用組成物を含む冷凍羽根つき餃子、並びにそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】テクスチャーアナライザーを用いて、保存後の餃子羽根形成用組成物の硬さ(最大応力(単位:g))と付着力(負の面積値(単位:g・sec))を測定した場合に、該餃子羽根形成用組成物の硬さ(X)と付着力(Y)とが、式(1):
Y > ‐1.4167X + 52.4436 (1)
で示される関係にあることを特徴とする、餃子羽根形成用組成物;該組成物が凍結状態で表面に付着している冷凍餃子;該冷凍餃子、又は該組成物を焼成加熱前の餃子の表面に付着させて得られる餃子を焼成加熱することを含む、羽根つき餃子の製造方法;該組成物を、焼成加熱前の餃子の表面に付着させること、並びに、当該餃子を凍結することを含む、冷凍餃子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テクスチャーアナライザーを用いて、保存後の餃子羽根形成用組成物の硬さ(最大応力(単位:g))と付着力(負の面積値(単位:g・sec))を測定した場合に、該餃子羽根形成用組成物の硬さ(X)と付着力(Y)とが、式(1):
Y > ‐1.4167X + 52.4436 (1)
で示される関係にあることを特徴とする、餃子羽根形成用組成物。
【請求項2】
水、油、澱粉及び乳化剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
澱粉がα化澱粉である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
α化澱粉の含有量が2%以上である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
α化澱粉がα化コーン澱粉及び/又はα化馬鈴薯澱粉である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
α化澱粉が化学的処理を施されていない、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
ゲル化剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ゲル化剤含有量が0.01~10%である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
ゲル化剤がゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナン及びコンニャクイモ抽出物からなる群より選択される、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物が凍結状態で表面に付着している、冷凍餃子。
【請求項11】
予備解凍後調理用である、請求項10記載の冷凍餃子。
【請求項12】
災害時保存用である、請求項10記載の冷凍餃子。
【請求項13】
請求項10記載の冷凍餃子を焼成加熱することを含む、羽根つき餃子の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を、焼成加熱前の餃子の表面に付着させること、並びに、当該餃子を焼成加熱することを含む、羽根つき餃子の製造方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を、焼成加熱前の餃子の表面に付着させること、並びに、当該餃子を凍結することを含む、冷凍餃子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、餃子羽根形成用組成物、該羽根形成用組成物を含む冷凍餃子及びその用途等に関する。より詳細には、本発明は、解凍後も保形性があり、餃子本体と一体としてトレイから取り出すことができ、かつ優れた調理後品質を再現し得る羽根形成用組成物及びそれを含む冷凍餃子、該冷凍餃子の製造方法、並びに、予備解凍した、該冷凍餃子もしくは前記羽根形成用組成物を表面に付着させた餃子を、焼成加熱することによる羽根つき餃子の製造方法、即ち、該羽根形成用組成物もしくは該冷凍餃子の、調理時間の短縮等を目的とした、あるいはフェーズフリーフード(日常時・非常時といった社会のフェーズ(時期、状態)を取り払い、普段便利に利用しつつ災害時にも適切に使える食品)としての使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍羽根つき餃子において、-18℃以下の保存下では、羽根形成用組成物(本明細書において、「バッター」という場合がある。)が凍って餃子本体にくっついており、一体としてトレイから取り出すことが可能である。また、フライパンで調理する時にバッターが徐々に溶け、きれいな羽根つき餃子を作ることができる。羽根の広がりや焼きムラの改善、食感の向上などを目的として、種々の羽根形成用組成物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、加熱調理時間の短縮や調理後品質の改善のために、冷凍餃子を冷蔵庫内や室温下で予備解凍する場合があり得るが、冷凍羽根つき餃子の場合、バッターが溶け、餃子本体にくっつかず、トレイに残るという課題があった。また、調理時にバッターがない、あるいは少ないため、餃子の耳部が乾燥し硬くなったり、羽根の形成ができなかったりするという課題もあった。また、非常時(災害発生時)に停電が起こると、冷凍庫内の温度が上昇しバッターが溶け出すため、同様の課題が存在する。即ち、通常の冷凍羽根つき餃子は日常時と非常時の調理後品質に明確な差が見られ、フェーズフリーフードとして適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/021348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、冷蔵庫内や室温下においたり、あるいは、停電により冷凍庫内温度が上昇したりすることで、解凍された後も保形性があり、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができ、かつ-18℃以下で保存したものと同等の調理後品質を再現し得る、予備解凍後調理に適し、かつフェーズフリーフードとして利用可能な餃子羽根形成用組成物、及び該羽根形成用組成物を含む冷凍羽根つき餃子、並びにそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述の課題を解決するべく、配合する澱粉やゲル化剤等の種類や含有量を変化させて、種々の組成の羽根形成用組成物を調製し、凍結後、種々の条件で解凍した後、テクスチャーアナライザーを用いて、各羽根形成用組成物の硬さ(最大応力(単位:g))及び付着力(負の面積値(単位:g・sec))を測定した。それらの羽根形成用組成物を用いた冷凍餃子を、-18℃を超える条件下で保存(予備解凍)したときに、羽根形成用組成物の保形性が維持されるか否かと、該羽根形成用組成物の硬さ(X)及び付着力(Y)との関係を調べた。その結果、式(1):
Y > ‐1.4167X + 52.4436 (1)
の関係にある場合に、未加熱の羽根形成用組成物であっても、予備解凍後も羽根形成用組成物の保形性が維持されて、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができることを見出した。しかも、予備解凍後の餃子を調理したところ、きれいに羽根が形成され、餃子の皮の耳部も乾燥せず、-18℃以下で保存したものと同等の調理後品質を再現できることが明らかとなった。
また、本発明者は、羽根形成用組成物が式(1)の関係を満たすためには、α化澱粉やゲル化剤を配合させることが望ましいことも見出した。
本発明者は、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[項1]
テクスチャーアナライザーを用いて、保存後の餃子羽根形成用組成物の硬さ(最大応力(単位:g))と付着力(負の面積値(単位:g・sec))を測定した場合に、該餃子羽根形成用組成物の硬さ(X)と付着力(Y)とが、式(1):
Y > ‐1.4167X + 52.4436 (1)
で示される関係にあることを特徴とする、餃子羽根形成用組成物。
[項2]
水、油、澱粉及び乳化剤を含む、項1記載の組成物。
[項3]
澱粉がα化澱粉である、項2記載の組成物。
[項4]
α化澱粉の含有量が2重量%以上である、項3記載の組成物。
[項5]
α化澱粉がα化コーン澱粉及び/又はα化馬鈴薯澱粉である、項3又は4記載の組成物。
[項6]
α化澱粉が化学的処理を施されていない、項3~5のいずれか一項に記載の組成物。
[項7]
ゲル化剤を含む、項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
[項8]
ゲル化剤の含有量が0.01~10%である、項7記載の組成物。
[項9]
ゲル化剤がゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナン及びコンニャクイモ抽出物からなる群より選択される、項7又は8記載の組成物。
[項10]
項1~9のいずれか一項に記載の組成物が凍結状態で表面に付着している、冷凍餃子。
[項11]
予備解凍後調理用である、項10記載の冷凍餃子。
[項12]
災害時保存用である、項10記載の冷凍餃子。
[項13]
項10~12のいずれか一項に記載の冷凍餃子を焼成加熱することを含む、羽根つき餃子の製造方法。
[項14]
項1~9のいずれか一項に記載の組成物を、焼成加熱前の餃子の表面に付着させること、並びに、当該餃子を焼成加熱することを含む、羽根つき餃子の製造方法。
[項15]
項1~9のいずれか一項に記載の組成物を、焼成加熱前の餃子の表面に付着させること、並びに、当該餃子を凍結することを含む、冷凍餃子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の餃子羽根形成用組成物によれば、その加熱有無に関わらず、-18℃以下の冷凍温度帯以外で保存した後も保形性があり、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができる。また、調理後品質も-18℃以下で保存したものとほぼ同等の品質を再現できる。そのため、調理時間の短縮や調理後品質の改善のために、冷凍餃子を冷蔵庫内や室温下で予備解凍しても、高品質な羽根つき餃子を作ることができる。また、該餃子羽根形成用組成物を用いた冷凍羽根つき餃子は、日常時・非常時でもフェーズフリーフードとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】テクスチャーアナラザーによる圧縮試験の測定結果を示す応力-時間曲線のイメージ図である。
図2-1】試験例1の各試験区におけるトレイへの餃子羽根形成用組成物の残存を示す図である。
図2-2】試験例1の各試験区における冷凍餃子の調理後の外観を示す図である。
図3】試験例1~7のデータにより得られる近似曲線と、保存後の保形性を有するバッターが、式(1)の関係を満たすことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、調製時の加熱の有無に関係なく、冷凍餃子を冷蔵庫内や室温下で予備解凍保存したり、冷凍保存時に停電等により冷凍庫内温度が上昇したりしても、保存後の保形性があり、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができ、かつ冷凍保存したものと同等の調理後品質を再現し得る、餃子羽根形成用組成物(以下、「本発明の羽根形成用組成物」ともいう。)を提供する。
【0011】
本発明において「餃子羽根形成用組成物」とは、餃子の表面に付着させて加熱(例、蒸し、焼き等)したり、加熱した状態で餃子の表面に付着させたりすることにより、羽根を形成し得る組成物である。本発明の羽根形成用組成物は、上記の特性を具備し、かつ後述の式(1)で示される条件を満たす限り、その組成に特に制限はないが、通常、餃子羽根形成用組成物は、水及び澱粉を必須成分として含有する。餃子羽根形成用組成物は、さらに、油、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、穀物粉、調味料等を任意で含有してもよい。
また、本発明において餃子の「羽根」とは、餃子の焼き面、その周辺部に形成される、薄膜状のパリパリとした食感を有する部分をいい、一般に「バリ」等とも称される。ここで餃子の「焼き面」とは、加熱によって焼き目(焦げ目)が付与されるように、当該加熱に用いられる焼き器(例、フライパン、餃子焼き機、鉄板、ホットプレート等)に接するか、又は焼き器に近接して配置されて加熱された面をいう。
【0012】
本発明における「餃子」は、その形状、製造方法等に制限されることなく、一般に餃子と称されるものを広く包含し得るが、典型的には、中具(挽肉、野菜、調味料等の混合物)と、当該中具を包む外皮(小麦粉等に水を加えて捏ね、薄く延ばした生地)とを少なくとも有する食品をいう。本明細書において「餃子」なる用語は、中具と当該中具を包む外皮とを少なくとも有する食品を広く包含する概念として使用され、例えば、小籠包、焼売、ニラ饅頭等もこれに包含される。本発明における「餃子」は、中具を外皮で包んだのみで加熱していないものであってよく、又は、加熱処理(例、蒸し加熱、焼き加熱、茹で加熱等)に供したものであってもよく、これらの両方を包含する概念である。
【0013】
本発明の羽根形成用組成物は、-18℃以下の冷凍温度帯以外で保存した後も、高い保形性及び調理後品質を維持するために、以下の条件を満たすことを特徴とする。即ち、
テクスチャーアナライザーを用いて、保存後の餃子羽根形成用組成物の硬さ(最大応力(単位:g))と付着力(負の面積値(単位:g・sec))を測定した場合に、該餃子羽根形成用組成物の硬さ(X)と付着力(Y)とが、式(1):
Y > ‐1.4167X + 52.4436 (1)
で示される関係にある。
ここで「保存後」とは、通常の冷凍保存条件(例えば-18℃以下)よりも高温条件下で保存後(解凍後)を意味する。
【0014】
具体的には、本発明の羽根形成用組成物の保存後の硬さと付着力は、下記の条件:
(1)表1に記載の形状を有する専用カップに約30gの羽根形成用組成物を入れ、急速凍結し、-18℃で冷凍保存した後、4℃以上(例、4℃、25℃、40℃)で24時間インキュベートする;
【0015】
【表1】
【0016】
(2)工程(1)終了後の羽根形成用組成物を入れた専用カップを、テクスチャーアナライザー(TA-XT-Plus;Stable Micro Systems社製)に設置し、以下の条件で治具を降下させ圧縮し、応力の経時変化を測定する;
・治具のスタート位置高さ:35 mm
・治具:直径35 mmのアルミ円柱
・測定条件:
Library Hold until time
Test Mode Compression
Test Speed 5 mm/sec
Post-Test Speed 3 mm/sec
Target Mode Distance
Distance 23.5 mm
Hold Time 2 sec
Trigger Type Button
(3)工程(2)で得られる応力-時間曲線(図1参照)から正の最大応力(単位:g)を羽根形成用組成物の硬さ(X)、負の面積値(単位:g・sec)を付着力(Y)として計測・算出する;
ことにより、求めることができる。
【0017】
本発明の羽根形成用組成物が含有し得る澱粉は特に制限されず、例えば、ウルチ米澱粉、モチ米澱粉、小麦澱粉、コーン澱粉、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉、サゴヤシ澱粉、緑豆澱粉、馬鈴薯澱粉、サツマイモ澱粉等の澱粉が挙げられる。好ましい一実施態様においては、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉を用いることができる。また、これらの澱粉に、物理的処理、化学的処理、酵素的処理等の加工処理を施した加工澱粉であってもよい。化学的処理を施された澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉等が挙げられる。物理的処理(酸処理、アルカリ処理、漂白処理等の加水分解程度の簡単な化学的処理を含む)を施された澱粉としては、例えば、α化澱粉、湿熱処理澱粉、油脂加工澱粉、酸処理澱粉、アルカリ処理澱粉、漂白澱粉等が挙げられる。酵素的処理を施された澱粉としては、例えば、酵素処理澱粉等が挙げられる。好ましい加工澱粉としては、α化澱粉が挙げられる。より好ましくは、リン酸架橋処理されていないα化澱粉であり、アセチル化やヒドロキシプロピル化等のエステル化、エーテル化処理もされていないα化澱粉がさらに好ましい。特に好ましい澱粉種として、α化コーン澱粉、α化馬鈴薯澱粉が挙げられ、とりわけ化学的処理を施されていない、就中α化以外の加工を施されていない、α化コーン澱粉、α化馬鈴薯澱粉を挙げることができる。これらの澱粉は一種単独で用いてよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本明細書において、「穀物粉」とは、穀物を製粉、粉砕等して得られる、粉状乃至粒状の食品原料をいう。本発明の羽根形成用組成物が含有し得る穀物粉は特に制限されず、例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉、そば粉、馬鈴薯粉、大豆粉、小豆粉、ひえ粉、栗粉、キビ粉等が挙げられる。
【0019】
本発明の羽根形成用組成物が含有し得る澱粉(加工澱粉を含む)、穀物粉の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。澱粉、穀物粉は、市販品を用いてもよい。
【0020】
本発明の羽根形成用組成物の澱粉(該羽根形成用組成物が穀物粉をさらに含む場合は、該穀物粉中に含まれる澱粉を含む)含有量は、保存後の保形性が認められる限り特に制限されないが、例えば、α化澱粉量として、2重量%以上、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。澱粉含有量の上限も特に制限されないが、調理時の羽根のひろがり易さの観点から、例えば、25重量%以下、好ましくは20重量%以下で、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下であり得る。
【0021】
本発明の羽根形成用組成物が含有する水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の精製水、水道水、アルカリ電解水等が挙げられるが、これらに制限されず、食品製造用水として適合するものを用い得る。
【0022】
本発明の羽根形成用組成物における水の含有量は、例えば20重量%以上であり、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%以上であり、いっそう好ましくは55重量%以上であり、特に好ましくは60重量%以上である。また当該含有量は、例えば90重量%以下であり、好ましくは85重量%以下であり、より好ましくは80重量%以下である。
【0023】
本発明の羽根形成用組成物が含有し得る油は、食用であれば特に制限されない。常温で流動性を有しない油を、一般に「脂肪」と称する場合があるが、本発明における油は、脂肪も包含する概念である。本発明の羽根形成用組成物が含有し得る油の具体例としては、キャノーラ油、大豆油、サフラワー油(ハイリノールサフラワー油を含む)、コーン油、ナタネ油、ゴマ油、アマニ油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、コメ油、パーム油、糠油、荏油、グレープシード油等の植物油;豚脂(ラード)、牛脂、鶏油、羊脂、馬脂、魚油、鯨油、バター等の動物油等が挙げられる。また、これらの油をエステル交換したエステル交換油や、これらの油に水素添加した硬化油等も用いることができる。本発明の羽根形成用組成物が含有し得る油は、精製されたもの(例、サラダ油等)であってよい。本発明の羽根形成用組成物が含有し得る油は、好ましくは植物油であり、より好ましくはキャノーラ油、大豆油、ナタネ油である。これらの油は一種単独で用いてよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の羽根形成用組成物が含有し得る油の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。油は、市販品を用いてもよい。
【0025】
本発明の根形成用組成物が油を含有する場合、その含有量は、例えば10重量%以上であり、好ましくは13重量%以上であり、より好ましくは15重量%以上である。また当該含有量は、例えば30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下である。
【0026】
本発明の羽根形成用組成物が、水及び澱粉に加えて油を更に含有する場合、「水」、「澱粉」並びに「油」の含有量をそれぞれa、b、c重量部とし、かつ当該a、b及びcの合計(=a+b+c)を100重量部としたとき、当該a、b、cの比(a:b:c)は、例えば、50~85:4~25:10~30であり、好ましくは、50~85:5~25:10~30であり、より好ましくは、55~80:7~20:10~30である。
【0027】
本発明の羽根形成用組成物は乳化剤を含有してよい。当該乳化剤は食用であれば特に制限されないが、例えば、レシチン、酵素分解レシチン、シュガーエステル、モノグリセロール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの乳化剤は一種単独で用いてよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の羽根形成用組成物が含有し得る乳化剤の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。乳化剤は、市販品を用いてもよい。
【0029】
本発明の羽根形成用組成物が乳化剤を含有する場合、その含有量は、乳化作用が得られれば特に制限されないが、例えば0.05重量%以上であり、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.2重量%以上である。また当該含有量は、例えば1.5重量%以下であり、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.8重量%以下である。
【0030】
本発明の羽根形成用組成物は増粘剤を含有してよい。当該増粘剤は食用であれば特に制限されないが、例えば、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ペクチン、カラギーナン、セルロース、デキストリン等が挙げられる。
【0031】
本発明の羽根形成用組成物が増粘剤を含有する場合、その含有量は、増粘作用が得られれば特に制限されないが、例えば0.05重量%以上であり、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.2重量%以上である。また当該含有量は、例えば1.5重量%以下であり、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.8重量%以下である。
【0032】
本発明の羽根形成用組成物はゲル化剤を含有してよい。ゲル化剤を配合することにより、保存後の羽根形成用組成物の保形性をさらに補強することができる。当該ゲル化剤は食用であれば特に制限されないが、例えば、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナン、コンニャクイモ抽出物、ペクチン等が挙げられ、好ましくは、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナン及びコンニャクイモ抽出物が挙げられる。調理時のバッターの広がり(羽根の量)や羽根の食感の良さ等の観点から、より好ましくは、ゼラチン、寒天、カラギーナンを挙げることができ、さらに好ましくはゼラチンである。これらのゲル化剤は一種単独で用いてよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の羽根形成用組成物がゲル化剤を含有する場合、その含有量は、保存後の羽根形成用組成物の保形性が得られれば特に制限されないが、例えば0.01重量%以上であり、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上である。また当該含有量は、例えば15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらにより好ましくは3重量%以下である。
【0034】
本発明の羽根形成用組成物は、上記の成分の他、本発明の目的を損わない限り、餃子羽根形成用組成物が通常含有し得る成分(例、調味料、塩類、糖類、アミノ酸類、タンパク質類、セルロース類、乳化補助剤等)を任意で含有してよい。
【0035】
本発明の羽根形成用組成物の調製方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で調製し得る。例えば、水と澱粉(及び/又は穀物粉)とを市販の混合撹拌装置等を用いて撹拌し、該羽根形成用組成物が油(及び乳化剤、増粘剤、ゲル化剤)を含有する場合は、前記撹拌液に油等を投入してさらに撹拌・混合することにより調製することができる。ゲル化剤が溶解しにくい場合は、ゲル化剤を油と混合しながら熱水を加えることにより溶解させることができる。
【0036】
本発明の羽根形成用組成物は、餃子を喫食に適した状態とするための加熱(調理加熱)とは別に、予め加熱することもできるが、当該羽根形成用組成物は、未加熱のままであっても、従来の羽根形成用組成物とは異なり、保存後の保形性に優れ、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができる。したがって、製造工程の簡略化等の観点から、本発明の羽根形成用組成物は、調理加熱前に未加熱であることが好ましい。
【0037】
本発明の羽根形成用組成物が、調理加熱とは別に、予め加熱されたものである場合、その加熱方法としては、例えば、蒸し加熱等が挙げられる。加熱条件(例、加熱温度、加熱時間等)も特に制限されず、加熱方法等に応じて適宜設定すればよいが、加熱温度は通常70~120℃、好ましくは90~100℃である。加熱時間は2分間以上、好ましくは3分間以上、より好ましくは5分間以上加熱する。当該加熱処理により、羽根形成用組成物中の澱粉の「保存後の糊化度」を所望の数値範囲、即ち25~100%に調整することができる。加熱時間の上限は特に制限はないが、例えば、30分間以下、好ましくは25分間以下、より好ましくは20分間以下であり得る。
【0038】
本発明の羽根形成用組成物は、餃子の表面に付着させて用いられ得る。本発明の羽根形成用組成物を餃子の表面に付着させる方法や付着の態様は、喫食に適した状態になるよう加熱した餃子に羽根が形成されれば特に制限されないが、餃子の焼き面となる面に付着させることが好ましい。本発明の羽根形成用組成物は、餃子の焼き面となる面の全部に付着するものであってよく、又は焼き面となる面の一部に付着するものであってもよい。また本発明の羽根形成用組成物は、餃子の焼き面となる面に加え、当該焼き面となる面に連続する部分(例えば、底面に連絡する側面部等)にも付着してよい。
【0039】
本発明の羽根形成用組成物を付着させ得る餃子は特に制限されず、餃子の形状、サイズ、中具及び外皮(麺帯)の成分、構成、量等は、所望の餃子に応じて適宜決定してよく、また中具及び外皮の製造方法、中具の包み方等は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法により行ってよい。中具、外皮は市販品を用いてもよく、あるいは、市販の餃子を用いてもよい。
【0040】
本発明の羽根形成用組成物を付着させ得る餃子は、一態様として、生餃子であってよく、あるいは、他の一態様として、生餃子を、喫食に適した状態とならない程度に加熱したものであってもよい。
【0041】
本発明の羽根形成用組成物を付着させ得る餃子は、餃子に慣用の処理(例えば、中具の野菜等に含まれる酵素を失活させる処理等)を適宜施されていてよい。
【0042】
本発明の羽根形成用組成物の、餃子への付着量は、所望の羽根の大きさや形状に応じて調整すればよく特に制限されないが、通常、餃子100重量部に対して、2.5~100重量部であり、好ましくは4~60重量部であり、より好ましくは8~35重量部である。
【0043】
本発明の羽根形成用組成物を表面に付着させた餃子は、そのまま焼き器を用いて喫食に適した状態となるよう加熱(例、蒸し、焼き等)してよい。本発明の羽根形成用組成物を表面に付着させた餃子を喫食に適した状態となるよう加熱することにより、餃子の焼き面、その周辺部等に羽根が形成され、羽根を有する加熱済み餃子(即ち、羽根つき餃子)を得ることができる。
【0044】
本発明の羽根形成用組成物を表面に付着させた餃子の加熱条件(例、加熱温度、加熱時間等)は特に制限されず、加熱方法等に応じて適宜設定すればよいが、加熱温度は通常80~300℃であり、好ましくは90~250℃であり、より好ましくは90~120℃であり、加熱時間は通常3~30分間であり、好ましくは5~15分間である。
【0045】
本発明の羽根形成用組成物は、凍結状態で冷凍餃子に付着させ得る。したがって、本発明はまた、本発明の羽根形成用組成物が凍結状態で付着している冷凍餃子を提供する。
本発明において「冷凍餃子」とは、凍結状態の餃子本体(生餃子又は加熱済み餃子を凍結させた凍結物そのもの)、並びに、凍結状態の餃子と凍結状態の食品材料とを含む冷凍食品(例えば、凍結状態の餃子と当該餃子に凍結状態で付着している食品材料とを含む冷凍食品等)を包含する概念である。したがって、本発明の羽根形成用組成物が凍結状態で付着している冷凍餃子は、換言すると、凍結状態の餃子と当該餃子に凍結状態で付着している本発明の羽根形成用組成物とを含む冷凍食品とも言い得る。
【0046】
本発明の羽根形成用組成物を、凍結状態で冷凍餃子に付着させる方法は特に制限されないが、例えば、本発明の羽根形成用組成物を表面に付着させた餃子を、喫食に適した状態となるための加熱処理を施す前に、凍結処理を施すこと等によって、本発明の羽根形成用組成物を凍結状態で冷凍餃子に付着させ得る。あるいは、本発明の羽根形成用組成物を餃子に付着させずに凍結させ、得られた凍結状態の本発明の羽根形成用組成物を、凍結状態の餃子に付着させること等によっても、本発明の羽根形成用組成物を凍結状態で冷凍餃子に付着させ得る。
【0047】
本発明の羽根形成用組成物を凍結状態で付着させた冷凍餃子は、解凍せずにそのまま焼き器を用いて喫食に適した状態となるよう加熱(例、蒸し、焼き等)に供してよい。あるいは、予備解凍後に本発明の羽根形成用組成物を付着させた冷凍餃子を取り出して、加熱調理することもできる。予備解凍することにより、(1)餃子の温度が高くなるため、短時間で羽根形成ができ、喫食可能な状態とすることができるので、調理時間が短縮され簡便性が向上する、また、(2)羽根形成用組成物の温度が高くなるため、調理時に羽根形成用組成物が直ちに液状化し、さらに水分が蒸気へと変化し、同じ蒸し焼き時間でも-18℃以下で保存した餃子に比べ、皮の耳部が軟らかく良好な食感となり、調理後品質が向上する等の利点がある。従って、一実施態様において、本発明は、予備解凍後調理用の、本発明の羽根形成用組成物が凍結状態で付着した冷凍餃子を提供する。ここで「予備解凍後調理」とは、冷蔵(例、約4~約10℃)ないし常温(例、約15~約40℃)で保存することにより、凍結状態からいったん解凍された状態にした後で、加熱調理を行い喫食に適した状態とすることを意味する。当該予備解凍処理としては、例えば、冷蔵庫内(約4℃)で12時間以上保存したり、室温(例えば、約15℃)で3時間以上静置したりするなどの処理が挙げられる。
【0048】
一実施態様において、本発明の羽根形成用組成物を凍結状態で付着させた冷凍餃子は、災害時に停電により冷凍庫内の温度が上昇することにより庫内で解凍された後に、該冷凍餃子を取り出して、加熱調理することができる。即ち、本発明はまた、災害時保存用の、本発明の羽根形成用組成物が凍結状態で付着した冷凍餃子を提供する。ここで「災害時保存用」とは、災害等(例えば、地震、津波、台風、雷、大雪、倒木などの自然災害、火災、爆発等の事故、鳥や蛇などによる被害、戦争など)により電線が破損して停電となった場合、停電による冷凍庫内の温度上昇のため解凍された後でも、羽根形成用組成物を餃子本体と一体として取り出すことができ、きれいな羽根つき餃子として調理可能で、かつ冷凍保存直後と同等の調理後品質を保持し得るので、停電が発生し得る災害時に喫食するための備蓄用としての用途を意味する。停電開始からの庫内での保存期間は特に制限されないが、保存期間が5日を過ぎると雑菌が繁殖するおそれがあるので、それ以下、好ましくは3日間以内であり得る。
【0049】
本発明の羽根形成用組成物を凍結状態で付着させた冷凍餃子の加熱条件(例、加熱温度、加熱時間等)は特に制限されず、加熱方法等に応じて適宜設定すればよいが、加熱温度は通常80~300℃であり、好ましくは90~250℃であり、加熱時間は通常3~30分間であり、好ましくは5~15分間である。
【0050】
本発明の羽根形成用組成物が凍結状態で付着している冷凍餃子は、凍結処理を施して凍結状態で提供され得る。当該凍結処理は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって行えばよく特に制限されないが、凍結温度は通常-10℃以下であり、好ましくは-15℃以下である。
【0051】
本発明において、餃子(冷凍餃子を含む)は、容器(例、トレイ等)に収容されて提供されるものであってよい。餃子を収容する容器は特に制限されず、慣用の容器を用いればよいが、例えば、国際公開第2014/007387号、国際公開第2016/19882号等に記載の容器、トレイを用い得る。餃子は、容器に収容せず、外装袋に収容されて提供されてもよい。
【0052】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
尚、以下の実施例において用いられた原料は、特にことわりのない限り、いずれも食品用として市販されているものである。
【実施例0053】
[テクスチャーアナライザーによるバッターの硬さ及び付着力の測定]
バッターの硬さ及び付着力の測定は以下のとおり実施した。
約30gのバッターを表1に示す形状の専用カップに充填し、急速凍結し、-18℃で冷凍保存した後、4℃以上(試験例2では25℃又は40℃、その他の試験例では4℃)に設定したインキュベーター内で24時間保温した。バッターを入れた専用カップをテクスチャーアナライザー(TA-XT-Plus;Stable Micro Systems社製)に設置し、以下の条件で治具を降下させ圧縮し、応力の経時変化を測定した。
・治具のスタート位置高さ:35 mm
・治具:直径35 mmのアルミ円柱
・測定条件:
Library Hold until time
Test Mode Compression
Test Speed 5 mm/sec
Post-Test Speed 3 mm/sec
Target Mode Distance
Distance 23.5 mm
Hold Time 2 sec
Trigger Type Button
得られた応力-時間曲線(図1参照)から正の最大応力(単位:g)をバッターの硬さ(X)、負の面積値(単位:g・sec)をバッターの付着力(Y2)として計測・算出した。
【0054】
試験例1 災害時想定条件下での冷凍庫内保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼす澱粉の種類の影響
表2に示す各種澱粉及び表3に示すその他の原料を使用して、表4に示す各種組成(重量%)のバッターを調製した。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
A)試験区C
ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)を用い、水と澱粉を3分間混合した。これに、事前に手混合したサラダ油、レシチン、エコーガムを1分間かけて投入し、4分間混合した。バッター作製中に温度が上がらないように氷で冷やしながら実施した。
B)試験区T1~7
サラダ油へレシチン、エコーガム、澱粉を投入し、泡立て器で手混合した。ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)で水を混合しながら、上記混合液を1分間かけて投入し、4分間混合した。バッター作製中に温度が上がらないように氷で冷やしながら実施した。
【0059】
作製したバッターをトレイに約6g/個充填し、事前に半解凍したバッターなしの市販の餃子(味の素冷凍食品株式会社製、製品名:ギョーザ)をバッターの上に載せ、急速凍結し、冷凍餃子サンプルを作製した。
【0060】
パナソニック社製の冷凍冷蔵庫NR-B143W(44L冷凍室)の冷凍庫内に作製した冷凍餃子サンプルを入れ、市販の餃子(味の素冷凍食品株式会社製、製品名:ギョーザ)を用いて冷凍庫内の占有率を100%とした(44L冷凍室に対して22パックを使用)。冷凍庫への給電を停止(給電停止時の庫内温度は-20℃)してから24時間後にギョーザを取り出して占有率を約90%とし、さらに24時間後にギョーザを取り出して占有率を約80%とした(24時間毎にギョーザを2パックずつ取り出した)。ギョーザを取り出す際に、冷凍庫のドアを1分間開放した。給電停止から72時間後に冷凍餃子サンプルを取り出し、手で餃子の耳部を掴み、持ち上げる時にトレイから餃子とバッターがきれいに一体として取れるかを確認した。また、取り出した餃子を、市販の餃子(味の素冷凍食品株式会社製、製品名:ギョーザ)の調理インストラクションの通りに調理し、官能評価で品質を確認した。保存後バッターの保形性試験、保存後餃子の調理後品質の評価基準は、それぞれ表5及び表6に示すとおりである。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
別途、試験区C及びT1~T7の各バッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0064】
試験結果を表7及び図2に示す。未加熱バッターへのα化澱粉配合により、保存後バッターの保形性を付与することができた。α化澱粉の由来原料、加工方法は保存後バッターの保形性に影響し、由来原料としては小麦よりコーン、馬鈴薯が好ましく、加工方法としては、リン酸架橋、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋、アセチル化リン酸架橋より、化学的処理を施さない(便宜上、以下「未加工」と表記する。)方が好ましいことがわかった。保存後にバッターの保形性が見られたサンプルは調理後に羽根ができており、皮の耳部も乾燥せず、-18℃以下で保存するコントロール品とほぼ同等品質を再現できた。
【0065】
【表7】
【0066】
試験例2 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼす保存条件の影響
試験区C及びT1~T7の組成のバッターを用いて作製した冷凍餃子を、それぞれ25℃(試験区T8~T15)又は40℃(試験区T16~T23)で24時間保存した後(表8)、試験例1と同様にして、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0067】
【表8】
【0068】
別途、試験区T8~T23の各バッターを25℃(T8~T15)又は40℃(T16~T23)で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0069】
結果を表9に示す。試験例1と同様、未加工のα化澱粉であるマツノリンCM、マツノリンSMを使用したバッターは、どの保存条件でも保形性は見られており、調理後品質もコントロール品とほぼ同等品質を再現できた。以上より、未加工のα化澱粉をバッターに配合すると、保存条件に依らず、保存後バッターの保形性と調理後品質を維持できることが明らかとなった。
【0070】
【表9】
【0071】
試験例3 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼすα化澱粉の含有量の影響
試験区T1のバッター(α化澱粉含有量7重量%)において、α化澱粉含有量を1~14重量%の間で種々変化させたバッター(試験区T24~T27;総重量は水の含有量で調整)を作製し(表10)、試験例1と同様にして、冷凍餃子サンプルを作製し、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0072】
【表10】
【0073】
別途、各試験区のバッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0074】
結果を表11に示す。試験例1と同様、未加熱バッターへ3%以上のα化澱粉を配合すると保存後バッターの保形性が見られ、また、調理後に羽根ができており、皮の耳部も乾燥せず、コントロール品とほぼ同等品質を再現できた。
【0075】
【表11】
【0076】
試験例4 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼすゲル化剤配合の影響
表12に示す各種ゲル化剤及び表13に示すその他の原料を使用して、表14に示す各種組成(重量%)のバッターを調製した。
【0077】
【表12】
【0078】
【表13】
【0079】
【表14】
【0080】
A)試験区T28~30
ゲル化剤用サラダ油にゲル化剤を入れ、泡立て器で手混合し、これを泡立て器で混合しながら熱水(約95℃)を投入し、ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)で3分間混合した。これに、事前に手混合した油、澱粉、レシチン、エコーガムを1分間かけて投入し4分間混合した。
B)試験区T31~32
ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)で水と澱粉を3分間混合した。これに、事前に手混合した油、ゲル化剤、レシチン、エコーガムを1分間かけて投入し3分間混合した。
【0081】
作製した各バッターを用いて、試験例1と同様にして、冷凍餃子サンプルを作製し、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0082】
別途、各試験区のバッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0083】
結果を表15に示す。どのゲル化剤を未加熱バッターに配合した場合でも、保存後バッターの保形性が見られ、また、調理後に羽根ができており、皮の耳部も乾燥せず、コントロール品とほぼ同等品質を再現できた。但し、ゲル化剤の種類により、調理時のバッターの広がり(羽根の量)、羽根の食感に差が見られた(表16)。
【0084】
【表15】
【0085】
【表16】
【0086】
試験例5 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼすゲル化剤含有量の影響
試験区T28のバッター(ゼラチン含有量3重量%)において、ゼラチン含有量を0.1~1重量%の間で種々変化させたバッター(試験区T33~T36;総重量は水の含有量で調整)を作製し(表17)、試験例1と同様にして、冷凍餃子サンプルを作製し、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0087】
【表17】
【0088】
別途、各試験区のバッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0089】
結果を表18に示す。どの含有量でも、ゲル化剤を配合することによりバッターの保存後の保形性が増強され、また、調理後に羽根ができており、皮の耳部も乾燥せず、コントロール品とほぼ同等品質を再現できた。
【0090】
【表18】
【0091】
試験例6 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼすバッターのpHの影響
pH調整剤を用いて、表19に示す各種pHのバッター(試験区T37~T39)を作製した。具体的には、ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)で水、澱粉、pH調整剤を3分間混合し、これに、事前に手混合した油、レシチン、エコーガムを1分間かけて投入し4分間混合した後、ペン型pH計SPH70(アズワン社製)にてpHを測定した。
【0092】
【表19】
【0093】
各試験区のバッターを用い、試験例1と同様にして、冷凍餃子サンプルを作製し、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0094】
別途、各試験区のバッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0095】
結果を表20に示す。バッターのpHは酸性、中性、アルカリ性に調整しても保存後に保形性が見られなかった。また、バッターがないため、調理後品質は羽根ができず、皮の耳部(一部)はやや硬く、コントロール品と大きな品質差が見られた。以上より、pHはバッターの保形性に影響しないことが明らかとなった。
【0096】
【表20】
【0097】
試験例7 保存後の冷凍餃子におけるバッターの保形性及び調理後品質に及ぼす油脂の種類又は油脂ゲル化剤配合の影響
試験区Cにおいて、サラダ油に代えて、表21に示す常温で固形ないし半固形の各種油脂を用いてバッター(試験区T40~T43)を作製した。また、試験区Cに、表21に示す油脂ゲル化剤を添加したバッター(試験区T44)も作製した(表22)。具体的には、ベーシックウルトラタラックスT50(6000rpm、IKA社製)で水と澱粉を3分間混合し、これに、事前に手混合し加熱した水と澱粉以外の原料を1分間かけて投入し、4分間混合した。加熱は油脂が溶ける程度で行い、加熱後温度は60℃以下にコントロールした。
【0098】
【表21】
【0099】
【表22】
【0100】
各試験区のバッターを用い、試験例1と同様にして、冷凍餃子サンプルを作製し、保存後バッターの保形性と調理後品質を評価した。
【0101】
別途、各試験区のバッターを4℃で24時間保存した後の硬さ及び付着力を、テクスチャーアナライザーを用いて上記の方法により測定した。
【0102】
結果を表23に示す。ユニショートKと精製パーム油‐Kは融点が高いため、加熱溶解後に水と澱粉を混合した混合液へ投入するとすぐに固まり、ダマになった。特に、精製パーム油‐Kは大きいダマが発生した。いずれの試験区も、保存後バッターに保形性はみられず、調理後品質も劣っていた。サラダ油から他の油脂への変更、油脂をゲル化する原料の配合によっては、保存後バッターの保形性が向上しないことを確認した。
【0103】
【表23】
【0104】
試験例1~7の各試験区のうち、保存後の保形性がなかったバッターのデータのみを用い、縦軸に付着力Y2(g・sec)、横軸に硬さX(g)をとってプロットし、近似曲線式Y = -1.4167X + 10.5420(R2=0.9045)を得た(図3上)。標準誤差σは13.97であった。1σ、2σ及び3σを加えた近似曲線も図に示した。3σを加えた近似曲線式は、Y = -1.4167X + 52.4436であった。
次に、硬さが275gを超えており、保存後の保形性があったバッターのデータを除いたすべてのデータを、上記近似曲線を引いたグラフ上にプロットした。その結果、バッターのY2値が、近似曲線式Y = -1.4167X + 52.4436に該バッターのX値を代入して求められるY値よりも大きい場合、すべてのバッターが保存後の保形性を有することが明らかとなった(図3下)。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の羽根形成用組成物を用いた冷凍羽根つき餃子は、予備解凍後も羽根形成用組成物の保形性があり、餃子本体と一体でトレイから取り出すことができ、冷凍保存したものと同等の調理後品質を有するので、予備解凍後調理用としてきわめて有用である。また、日常時・非常時でもフェーズフリーフードとして利用可能である点でも有用である。
図1
図2-1】
図2-2】
図3