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  • 特開-ヨウ素の取得方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042251
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ヨウ素の取得方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/14 20060101AFI20240321BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C01B7/14 Z
B01D11/04 B
C01B7/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146839
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】591236437
【氏名又は名称】株式会社 東邦アーステック
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】今久保 達郎
(72)【発明者】
【氏名】星名 滉
(72)【発明者】
【氏名】星野 由樹
【テーマコード(参考)】
4D056
【Fターム(参考)】
4D056AB01
4D056AC03
4D056AC09
4D056CA01
4D056CA13
4D056CA20
4D056CA22
4D056CA39
4D056DA01
4D056DA10
(57)【要約】
【課題】酸化剤を別途添加することなく、容易な操作で、安価で効率よく、ヨウ素分子を取得することができるヨウ素の取得方法を提供すること。
【解決手段】本発明のヨウ素の取得方法は、ヨウ化物イオン、水、および、前記水と任意の割合では溶解せずかつ前記水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む混合液を用意する混合液用意工程と、酸素分子の存在下で前記混合液を加熱することにより、前記水および前記有機溶媒を蒸留するとともに前記混合液中に含まれる前記ヨウ化物イオンの少なくとも一部をヨウ素分子に酸化して、気化後に液化した相として、主として前記水で構成された水相、および、主として前記有機溶媒で構成されるとともに前記ヨウ素分子を含み前記水相と分離した有機溶媒相を得る蒸留工程と、前記有機溶媒相中に含まれる前記有機溶媒の少なくとも一部と分離して、前記ヨウ素分子を含む組成物を得るヨウ素取得工程とを有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化物イオン、水、および、前記水と任意の割合では溶解せずかつ前記水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む混合液を用意する混合液用意工程と、
酸素分子の存在下で前記混合液を加熱することにより、前記水および前記有機溶媒を蒸留するとともに前記混合液中に含まれる前記ヨウ化物イオンの少なくとも一部をヨウ素分子に酸化して、気化後に液化した相として、主として前記水で構成された水相、および、主として前記有機溶媒で構成されるとともに前記ヨウ素分子を含み前記水相と分離した有機溶媒相を得る蒸留工程と、
前記有機溶媒相中に含まれる前記有機溶媒の少なくとも一部と分離して、前記ヨウ素分子を含む組成物を得るヨウ素取得工程とを有することを特徴とするヨウ素の取得方法。
【請求項2】
ディーン・スターク水分離装置を用いて、前記蒸留工程を行う請求項1に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項3】
前記水相と分離した状態で得られた前記有機溶媒相を、選択的に、前記混合液が収容された部位に戻し、前記有機溶媒を循環利用する請求項2に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項4】
前記有機溶媒として、20℃における水への溶解度が9.0g/100mL水以下の成分を用いる請求項1に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項5】
大気圧下における前記水と前記有機溶媒との共沸点が95.0℃以下である請求項1に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項6】
前記有機溶媒として、酢酸エチル、トルエン、m-キシレンおよびシクロヘキサンよりなる群から選択される少なくとも1種を用いる請求項1に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項7】
前記混合液は、前記ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物と、前記有機溶媒とを混合することによりに調製されたものであり、
前記被処理物として、かん水を用いる請求項1に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項8】
前記蒸留工程を行いつつ、前記混合液が収容された部位に、前記被処理物を補充する請求項7に記載のヨウ素の取得方法。
【請求項9】
前記ヨウ素取得工程で除去された前記有機溶媒を前記混合液の調製に再利用する請求項1ないし8のいずれか1項に記載のヨウ素の取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素の取得方法に関する。特に、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物から、ヨウ素分子を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的にヨウ素を製造する方法としては、主に、かん水を原料とするブローイングアウト法やイオン交換樹脂法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-035482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、かん水に含まれるヨウ化物イオンを酸化してヨウ素分子とするために、塩素、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を多量に用いていた。
【0005】
このため、得られる生成物中には、酸化剤由来の不純物が含まれることとなり、不純物を除去するための処理が必要となり、ヨウ素の生産性が低く、生産コストが高い等の問題があった。
【0006】
本発明の目的は、酸化剤を別途添加することなく、容易な操作で、安価で効率よく、ヨウ素分子を取得することができるヨウ素の取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のヨウ素の取得方法は、ヨウ化物イオン、水、および、前記水と任意の割合では溶解せずかつ前記水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む混合液を用意する混合液用意工程と、
酸素分子の存在下で前記混合液を加熱することにより、前記水および前記有機溶媒を蒸留するとともに前記混合液中に含まれる前記ヨウ化物イオンの少なくとも一部をヨウ素分子に酸化して、気化後に液化した相として、主として前記水で構成された水相、および、主として前記有機溶媒で構成されるとともに前記ヨウ素分子を含み前記水相と分離した有機溶媒相を得る蒸留工程と、
前記有機溶媒相中に含まれる前記有機溶媒の少なくとも一部と分離して、前記ヨウ素分子を含む組成物を得るヨウ素取得工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明のヨウ素の取得方法では、ディーン・スターク水分離装置を用いて、前記蒸留工程を行うことが好ましい。
【0009】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記水相と分離した状態で得られた前記有機溶媒相を、選択的に、前記混合液が収容された部位に戻し、前記有機溶媒を循環利用することが好ましい。
【0010】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記有機溶媒として、20℃における水への溶解度が9.0g/100mL水以下の成分を用いることが好ましい。
【0011】
本発明のヨウ素の取得方法では、大気圧下における前記水と前記有機溶媒との共沸点が95.0℃以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記有機溶媒として、酢酸エチル、トルエン、m-キシレンおよびシクロヘキサンよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0013】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記混合液は、前記ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物と、前記有機溶媒とを混合することによりに調製されたものであり、
前記被処理物として、かん水を用いることが好ましい。
【0014】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記蒸留工程を行いつつ、前記混合液が収容された部位に、前記被処理物を補充することが好ましい。
【0015】
本発明のヨウ素の取得方法では、前記ヨウ素取得工程で除去された前記有機溶媒を前記混合液の調製に再利用することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化剤を別途添加することなく、容易な操作で、安価で効率よく、ヨウ素分子を取得することができるヨウ素の取得方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の方法で用いる装置構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]ヨウ素の取得方法
以下、本発明のヨウ素の取得方法について説明する。
本発明のヨウ素の取得方法は、ヨウ化物イオン、水、および、水と任意の割合では溶解せずかつ水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む混合液を用意する混合液用意工程と、酸素分子の存在下で混合液を加熱することにより、水および有機溶媒を蒸留するとともに混合液中に含まれるヨウ化物イオンの少なくとも一部をヨウ素分子に酸化して、気化後に液化した相として、主として水で構成された水相、および、主として有機溶媒で構成されるとともにヨウ素分子を含み水相と分離した有機溶媒相を得る蒸留工程と、有機溶媒相中に含まれる有機溶媒の少なくとも一部と分離して、ヨウ素分子を含む組成物を得るヨウ素取得工程とを有する。
【0019】
これにより、酸化剤を別途添加することなく、容易な操作で、安価で効率よく、ヨウ素分子を取得することができるヨウ素の取得方法を提供することができる。
上記のような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。
【0020】
すなわち、混合液中に含まれる水および有機溶媒は、共沸混合物を形成するため、蒸留工程において、比較的低い温度で蒸発し、液化(凝縮)後、水相と有機溶媒相とが分離する。
【0021】
また、混合液中に含まれるヨウ化物イオンは、揮発性の低いものであるが、酸素による酸化反応でヨウ素分子となることにより、昇華性を有するとともに有機溶媒に対する溶解度が相対的に高いヨウ素分子になる。
【0022】
一方、未反応のヨウ化物イオンは、混合液が収容された部位に、水に溶解した状態で残ることとなる。
【0023】
また、有機溶媒相中に含まれるヨウ素分子は、混合液中に含まれていた不純物(例えば、他の無機イオン等)が好適に除かれたものであるため、その後の精製処理等も好適に行うことができる。また、求められる純度が比較的低い場合等には、精製処理を省略することができる。
【0024】
[1-1]混合液用意工程
混合液用意工程では、ヨウ化物イオン、水、および、水と任意の割合では溶解せずかつ水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む混合液を用意する。
【0025】
混合液は、例えば、もともと、ヨウ化物イオンを含む物質と、水と、有機溶媒とを含む状態で存在するものであってもよいし、ヨウ化物イオンを含む物質と、水と、有機溶媒とを混合して調製されたものであってもよいし、ヨウ化物イオンを含む物質と、水および有機溶媒を含む混合溶媒とを混合して調製されたものであってもよいし、水と、ヨウ化物イオンおよび有機溶媒とを混合して調製されたものであってもよいが、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物と、有機溶媒とを混合することによりに調製されたものであるのが好ましい。
【0026】
これにより、被処理物中に含まれる好ましくない不純物をより好適に除去しつつ、ヨウ素分子を好適に取得することができる。また、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物では、一般に、ヨウ化物イオンの含有率が低いものが多いが、本発明によれば、このような被処理物からも効率よくヨウ素分子を好適に取得することができる。すなわち、混合液が、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物と、有機溶媒とを混合することによりに調製されたものであることにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0027】
ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物としては、例えば、かん水、排かん水、廃液等のヨウ素含有水溶液等が挙げられるが、かん水を用いるのが好ましい。なお、廃液としては、例えば、ヨウ素置換反応等で脱離したヨウ化物イオンを含む溶液等が挙げられる。
【0028】
かん水は、一般に、ヨウ化物イオンの含有率が低く、他の溶解成分の含有率が高いものであるが、本発明によれば、このようなかん水からも効率よくヨウ素分子を好適に取得することができる。すなわち、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物がかん水であることにより、本発明による効果がさらに顕著に発揮される。また、被処理物としてかん水を用いた場合、当該かん水と同程度の濃度でヨウ化物イオンを含む被処理物を用いた場合に比べて、より効果的にヨウ素分子を取得することができる。この点について、詳細なメカニズムについては不明であるが、かん水中に含まれるヨウ化物イオン以外の他の成分(例えば、鉄やマンガン等の重金属イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン等のイオンを含む水溶性のイオン性物質、フルボ酸等の水溶性有機化合物等)がヨウ素分子の収率向上に寄与しているものと考えられる。
【0029】
なお、かん水とは、淡水に比べて塩分濃度の高い地下水を言う。かん水としては、例えば、地殻変動により地中に封鎖された海水、周辺の地層から溶出した塩分を含有する地下水、淡水に比べて塩分濃度が高い湧水、淡水に比べて塩分濃度が高い温泉水、油層水や、油田、ガス田または炭田の坑廃水等が挙げられる。また、本明細書において、かん水には、前記地下水に所定の処理を施したもの、例えば、所定の成分を取得するための処理を施した後に得られる排かん水等も含む概念である。排かん水としては、例えば、ブローイングアウト法でヨウ素を回収した後に残存するかん水等が挙げられる。特に、排かん水は、地下かん水(前記地下水)に比べてヨウ素の含有率がさらに低くなっているが、本発明によれば、このような排かん水からも効果的にヨウ素分子を取得することができる。
【0030】
被処理物中におけるヨウ化物イオンの含有率は、特に限定されないが、0.0001質量%以上0.10質量%以下であるのが好ましく、0.0003質量%以上0.05質量%以下であるのがより好ましく、0.0005質量%以上0.01質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
従来においては、ヨウ化物イオンの含有率が比較的低い被処理物からヨウ素を効率よく取得することは困難であったが、本発明によれば、上記のようにヨウ化物イオンの含有率が比較的低い被処理物からもヨウ素を効率よく取得することができる。すなわち、被処理物中におけるヨウ化物イオンの含有率が前記範囲内の値であると、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0032】
ヨウ化物イオンは、例えば、ヨウ化水素や金属ヨウ化物等の塩を構成する成分(イオン)として、被処理物中や混合液中に含まれている。
【0033】
ヨウ化物イオンを含む塩としては、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
混合液中におけるヨウ化物イオンの含有率は、0.00003質量%以上0.07質量%以下であるのが好ましく、0.0001質量%以上0.04質量%以下であるのがより好ましく、0.0002質量%以上0.005質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、混合液からヨウ素をより効率よく取得することができる。
【0035】
混合液中における水の含有率は、20質量%以上70質量%以下であるのが好ましく、25質量%以上65質量%以下であるのがより好ましく、30質量%以上60質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
混合液は、水と任意の割合では溶解せず、かつ、水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含むものであるが、混合液は、有機溶媒として、1種の成分のみを含むものであってもよいし、複数種の成分を含むものであってもよい。
【0037】
混合液中に含まれる有機溶媒は、以下のような条件を満たすものであるのが好ましい。
例えば、大気圧下における水と有機溶媒との共沸点は、95.0℃以下であるのが好ましく、55.0℃以上90.0℃以下であるのがより好ましく、60.0℃以上87.0℃以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
このような条件を満たす有機溶媒を含むことにより、蒸留工程をより効率よく進行させることができ、ヨウ素分子の取得効率をより優れたものとすることができる。
【0039】
混合液が有機溶媒として複数種の成分を含む場合、混合液中に含まれる有機溶媒全体に占める上記のような共沸点の条件を満たす成分の割合は、50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0040】
また、混合液は、有機溶媒として、20℃における水への溶解度が9.0g/100mL水以下の成分を含むものであるのが好ましい。
【0041】
これにより、水相中に含まれる有機溶媒の量を少なくすることができる。その結果、水相中におけるヨウ素分子の濃度に対する有機溶媒相におけるヨウ素分子の濃度、すなわち、ヨウ素分子の分配係数をより高いものとすることができ、ヨウ素分子の取得効率をより優れたものとすることができるとともに、有機溶媒の回収、再利用もより容易に行うことができる。
【0042】
特に、前記成分の20℃における水への溶解度は、1.0g/100mL水以下であるのがより好ましく、0.6g/100mL水以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0043】
混合液が有機溶媒として複数種の成分を含む場合、混合液中に含まれる有機溶媒全体に占める上記のような水への溶解度の条件を満たす成分の割合は、50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0044】
有機溶媒としては、例えば、ニトロメタン、酢酸エチル、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、ベンゼン、四塩化炭素、ペンタン、m-キシレン、シクロヘキサン、クメン、ヘキサン等が挙げられ、これらから選択される少なくとも1種を用いることができるが、酢酸エチル、トルエン、m-キシレンおよびシクロヘキサンよりなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましく、トルエンを用いるのがより好ましい。
これにより、ヨウ素分子の取得効率をより優れたものとすることができる。
【0045】
混合液が有機溶媒として複数種の成分を含む場合、混合液中に含まれる有機溶媒全体に占める前記群を構成する成分の割合は、50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0046】
混合液中における有機溶媒の含有率は、30質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、35質量%以上75質量%以下であるのがより好ましく、40質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
これにより、有機溶媒の使用量を抑制しつつ、ヨウ素分子の取得効率をより優れたものとすることができる。
【0048】
混合液は、ヨウ化物イオンを含むイオン性物質、水、および、有機溶媒を含むものであればよく、さらに、これら以外の成分を含んでいてもよい。以下、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0049】
その他の成分としては、例えば、前記有機溶媒以外の有機溶媒(すなわち、水と共沸混合物を形成しない有機溶媒や、水と共沸混合物を形成するものの水と任意の割合で溶解する有機溶媒等)、塩化ナトリウム等の無機塩等が挙げられる。
【0050】
ただし、混合液中におけるその他の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
[1-2]蒸留工程
蒸留工程では、酸素分子の存在下で混合液を加熱することにより、水および有機溶媒を蒸留するとともに混合液中に含まれるヨウ化物イオンの少なくとも一部をヨウ素分子に酸化して、気化後に液化した相として、主として水で構成された水相、および、主として有機溶媒で構成されるとともにヨウ素分子を含み水相と分離した有機溶媒相を得る。
【0052】
蒸留工程は、酸素分子の存在下で混合液を加熱することにより行うものであればよく、例えば、混合液中に酸素分子を溶存させ、雰囲気中には酸素分子を含まない状態で行うものであってもよいが、酸素ガスを含む雰囲気中で行うのが好ましく、空気中で行うのがより好ましい。
これにより、より簡便な方法で、ヨウ素を好適に取得することができる。
【0053】
蒸留工程での加熱温度(混合液の温度)は、特に限定されないが、150℃以下であるのが好ましく、65℃以上140℃以下であるのがより好ましく、70℃以上120℃以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
これにより、エネルギーの消費量を抑制しつつ、ヨウ素の取得効率をより優れたものとすることができる。
【0055】
なお、混合液の温度は、蒸留工程中において、変動してもよい。より具体的には、例えば、混合液の温度は、蒸留工程の初期の段階では共沸点付近の温度で、混合物中の水の含有率が低下するのに伴い、共沸混合物を構成する有機溶媒単独の沸点に向けて上昇してもよい。
【0056】
本工程中において、気化後に液化した相として、水相と有機溶媒相とが得られるが、水相と分離した状態で得られた有機溶媒相を、選択的に、混合液が収容された部位に戻すことにより、有機溶媒を循環利用することが好ましい。
【0057】
これにより、有機溶媒の使用量を抑制しつつ、より効果的にヨウ素分子を取得することができる。また、混合液中におけるヨウ化物イオンの含有率が比較的小さい場合であっても、有機溶媒相に含まれるヨウ素分子をより好適に濃縮することができる。
【0058】
蒸留工程は、いかなる装置構成で行ってもよいが、ディーン・スターク水分離装置を用いて行うことが好ましい。
【0059】
これにより、混合液中に含まれる水を好適に系外に除去することができ、比較的多量の水を含む混合液に対しても蒸留工程を好適に行うことができる。また、水相と分離した状態で得られた有機溶媒相を、より好適に、混合液が収容された部位に戻すことができ、蒸留工程の操作性をより優れたものとしつつ、混合液が収容された部位に戻す際に、水相が混入することをより効果的に防止することができる。また、蒸留工程に用いる装置が比較的小型のものであっても、水相を効率よく系外に除去することができ、前述した効果がより顕著に発揮される。したがって、蒸留工程に用いる装置の小型化を図ることができる。
【0060】
なお、ディーン・スターク水分離装置は、実験室で広く用いられているディーン・スターク管(ディーン・スターク装置)と同様な原理が用いられた水層分離器(還流式抽出装置)であればよい。
【0061】
ディーン・スターク水分離装置の大きさは、特に限定されず、実験室で広く用いられているディーン・スターク管だけでなく、大型の装置であってもよい。
【0062】
また、例えば、蒸留工程中において、混合液が収容された部位に、ヨウ化物イオンを含む物質(より具体的には、ヨウ化物イオンおよび水を含む被処理物)を追加してもよい。
【0063】
これにより、装置の大型化を抑制しつつ、本発明の方法をより長時間にわたって、連続的に処理を行うことができる。より具体的には、例えば、かん水等の被処理物を多量に連続的に処理することができる。その結果、目的とするヨウ素の取得効率、生産性をさらに高めることができる。
【0064】
また、例えば、蒸留工程中において、混合液が収容された部位に、有機溶媒を追加してもよい。
【0065】
蒸留工程を終了するタイミングは、特に限定されず、例えば、予め定めた時間が経過した時点で蒸留工程を終了してもよいし、混合液が収容された部位とは異なる部位に存在する有機溶媒相の着色の程度が所定の程度に達した時点で蒸留工程を終了してもよい。有機溶媒相の着色の程度は、目視による観察で判断してもよいし、光学装置を用いて判断してもよい(例えば、有機溶媒がトルエンの場合、波長500nmの吸光度を確認した後に蒸留工程を終了してもよい)。
【0066】
[1-3]ヨウ素取得工程
ヨウ素取得工程では、有機溶媒相中に含まれる有機溶媒の少なくとも一部と分離して、ヨウ素分子を含む組成物を得る。
【0067】
ヨウ素取得工程では、有機溶媒相中に含まれる有機溶媒の少なくとも一部と分離する方法としては、例えば、ヨウ素分子に優先して有機溶媒を蒸発させる方法や、有機溶媒に優先してヨウ素分子を蒸発させ、その後、蒸発させたヨウ素分子を固化させる方法等が挙げられる。
【0068】
ヨウ素分子よりも有機溶媒の沸点が低い場合、ヨウ素分子に優先して有機溶媒を蒸発させる方法を好適に採用することができる。
【0069】
有機溶媒よりもヨウ素分子の沸点が低い場合、有機溶媒に優先してヨウ素分子を蒸発させ、その後、蒸発させたヨウ素分子を固化させる方法を好適に採用することができる。
これらの方法を採用する場合、有機溶媒相を加熱することにより行うことができる。
【0070】
ヨウ素取得工程で得られる組成物は、ヨウ素分子の含有率が、有機溶媒相中におけるヨウ素分子の含有率よりも高いものであればよいが、ヨウ素分子の含有率は、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、99質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0071】
ヨウ素取得工程で除去された有機溶媒、すなわち、組成物から分離された有機溶媒は、混合液の調製に再利用されるのが好ましい。
【0072】
これにより、全体としての有機溶媒の使用量を抑制することができ、コストのさらなる抑制を図ることができる。また、ヨウ素の工業的な連続生産にも有利である。
【0073】
また、蒸留工程で得られた水層は、そのまま、廃棄してもよいが、例えば、当該水相中に含まれる有機溶媒を除去した後に廃棄してもよい。
【0074】
これにより、有機溶媒を、混合液の調製に再利用することができる。また、廃液量を少なくすることができ、当該水相を下水処理することができる。
【0075】
[1-4]その他の工程
本発明のヨウ素の取得方法は、前述した工程に加えて、さらに、他の工程を有していてもよい。
【0076】
このような工程としては、例えば、被処理物から固形分等の不純物を除去する不純物除去工程や混合液を調製する混合液調製工程等の前処理工程、蒸留工程に先立ち混合液から固形分等の不純物を除去する不純物除去工程等の中間処理工程、ヨウ素取得工程で得られたヨウ素分子を含む組成物を精製する精製工程等の後処理工程等が挙げられる。
【0077】
[2]ヨウ素組成物
本発明のヨウ素の取得方法を用いて得られる組成物(以下、ヨウ素組成物とも言う。)は、ヨウ素分子を含むものである。
【0078】
ヨウ素組成物は、ヨウ素分子以外の成分を含むものであってもよいが、ヨウ素分子の含有率が、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、99質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0079】
ヨウ素組成物中に含まれるヨウ素分子以外の成分としては、例えば、有機溶媒、水、ヨウ化ナトリウム等が挙げられる。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0081】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例中の処理、測定で、温度条件を示していないものについては、室温(20℃)で行った。
【0082】
[3]ヨウ素の取得のための処理
(実施例1)
まず、深度1000mの地中から汲み上げられた地下かん水(塩化ナトリウム含有率:2.4質量%、ヨウ化物イオン含有率:0.004質量%)を原料かん水として、空気を用いて曝気する曝気処理およびアンスラサイトを充填したろ過装置にてろ過処理した。
【0083】
上記のようにしてろ過処理を施した被処理物としての原料かん水:100gと、有機溶媒としてのトルエン(沸点:110.6℃):174gと、スターラーバーとをフラスコに入れて混合した(混合液用意工程)。
【0084】
その後、図1に示すような装置を組み立て、蒸留を行った(蒸留工程)。すなわち、フラスコにディーン・スターク管を取り付け、ディーン・スターク管に冷却管を取り付け、オイルバスで加熱しつつ、マグネティックスターラーを用いて、フラスコ内の混合液を撹拌することにより、蒸留を行った。言い換えると、フラスコ内から蒸発した気体を冷却管で冷却して液化させ、ディーン・スターク管で回収した。このとき、冷却管の上部は、外部に開放しており、フラスコ内の雰囲気が空気を含む状態となるようにした。蒸留工程での加熱温度(混合液の温度)は、蒸留工程の初期の段階では84℃とし、その後、混合物中の水の含有率が低下するのに伴い、共沸混合物を構成する有機溶媒(トルエン)単独の沸点である111℃に向けて上昇するようにした。
【0085】
ディーン・スターク管に貯留した液体は、主として水で構成された水相(下層)と、主として有機溶媒で構成された有機溶媒相(上層)とに分離していた。
【0086】
ディーン・スターク管内の液体の貯留量が増えることにより、有機溶媒相が選択的にフラスコ内に戻り、水相はディーン・スターク管内にとどまるようにした。
【0087】
ディーン・スターク管内の水相が所定量を超えた時点で、ディーン・スターク管のコックを開き、水相のみをディーン・スターク管外に除去して、ビーカーで回収した。
【0088】
オイルバスでの加熱を3時間続け、その後、加熱を停止した。蒸留工程の後期においては、フラスコ内からの水の新たな蒸発、ディーン・スターク管内での新たな水相の量の増加が認められなかった。
【0089】
(実施例2~6)
被処理物の種類、被処理物と有機溶媒との混合比率、有機溶媒の種類、蒸留を行う際の加熱温度、蒸留時間を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様の処理を行った。
【0090】
(比較例1)
蒸留工程に先立ち、混合液をアルゴンガスでバブリングすることにより混合液中に含まれる酸素ガス(酸素分子)を排除し、さらに、系内を真空ポンプで減圧した後に、アルゴンガスで置換し、蒸留工程をアルゴンガス雰囲気下で行った以外は、前記実施例1と同様の処理を行った。
【0091】
(比較例2)
有機溶媒として、トルエンの代わりに、水と共沸混合物を形成しないN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用い、このDMFの使用量を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様の処理を行った。
【0092】
ただし、本比較例において用いたDMFは水との間で共沸混合物を構成しないものであり、蒸留工程での加熱温度(混合液の温度)は、蒸留工程の初期では100℃とし、その後、混合物中の水の含有率が低下するのに伴い、DMF単独の沸点である153℃に向けて上昇するようにした。また、本比較例では、ディーン・スターク管内に貯留した液体(主に水で構成された水相)がフラスコ内に戻らないように、ディーン・スターク管内に貯留した液体は、全量ビーカーで回収した。
【0093】
前記各実施例および各比較例の処理条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、「排かん水」は、上記の地下かん水(塩化ナトリウム含有率:2.4質量%、ヨウ化物イオン含有率:0.004質量%)に対してブローイングアウト法の処理を施してヨウ素を回収した後のかん水(ヨウ化物イオン含有率:0.0005質量%)を指し、「KI水溶液」は、KIを純水に溶解して、ヨウ化物イオン濃度が0.004質量%に調整された水溶液のことを指す。また、前記各実施例では、いずれも、有機溶媒相が濃褐色に着色していた。これに対し、各比較例では、有機溶媒相の着色が薄かった。
【0094】
【表1】
【0095】
[4]各相でのヨウ素回収率
前記各実施例および各比較例について、処理後に得られた水相と、有機溶媒相と、フラスコ内の固相とを分離し、これらについて、それぞれ、以下のようにしてヨウ素の含有率を求め、これらの結果から、蒸留工程に供した混合液中に含まれていたヨウ素の各相への移行率を求めた。なお、比較例2については、主としてDMFで構成された相(蒸発する水相を除去した後に残る液相)を有機溶媒相とした。
【0096】
水相については、還元剤としての亜硫酸ナトリウムを添加後、無機ヨウ素および総ヨウ素濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。前記各実施例および各比較例で、いずれも、水相中でヨウ化物イオンは検出下限未満であった。
【0097】
前記各実施例および比較例1の有機溶媒相については、まず、ディーン・スターク管内の有機溶媒相と、フラスコ中に残存する有機溶媒相とを合わせた。その後に、分液ロートに少量の水を加えた後、所定量の有機溶媒相のサンプルを入れた。ヨウ素呈色がなくなるまで還元剤としての亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加し、分液することで水層側を取得した。取得した水層のサンプルは水を加えて100mLに定容した後に、無機ヨウ素および総ヨウ素濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。
【0098】
また、DMFは水と均一混合してしまうため、比較例2の有機溶媒相(主としてDMFで構成される液相)については、水を投入して水とDMFとを含む液体とした後に、分液ロートに入れ、そこにトルエンを加え、分液した。分液により得られた分液ロート内の有機溶媒相(トルエン相)に、50mLの水を加え、さらに、ヨウ素呈色がなくなるまで還元剤としての亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加し、分液することで水層側を取得した。取得した水層のサンプルは水を加えて100mLに定容した後に、無機ヨウ素および総ヨウ素濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。
【0099】
固相については、フラスコ内の有機相とトルエンにより、デカンテーションして取得した。取得した固相は、真空乾燥後に重量を測定した。このうち1gを50mLの水に溶解させて、還元剤としての亜硫酸ナトリウムを添加後、無機ヨウ素および総ヨウ素濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2から明らかなように、本発明では、いずれも、被処理物中に含まれていたヨウ素が、効率よく有機溶媒相に移行していた。これに対し、各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。なお、比較例2で「不明分」が多くなっているのは、トルエンと分液した含水DMF相にヨウ化物イオンが残っているためであると推定される。なお、このような含水DMF相から、容易な操作で効率よくヨウ素分子を取得することは困難である。
【0102】
また、蒸留工程を行いつつ、混合液が収容されたフラスコ内に、被処理物を補充した以外は、前記各実施例と同様の処理を行ったところ、前記と同様に得られる有機溶媒相中におけるヨウ素含有率を十分に高いものとしつつ、多量の被処理物を処理することができた。
図1