(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042259
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】消化管障害抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20240321BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20240321BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/744
A61P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146850
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】505164690
【氏名又は名称】有限会社バイオ研
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】生天目 由里子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 恵美
(72)【発明者】
【氏名】川上 和義
(72)【発明者】
【氏名】丹野 寛大
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF10
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC56
4C087MA52
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA66
(57)【要約】
【課題】消化管障害に対して有効な処置を施すことができる組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
消化管障害抑制用組成物であって、乳酸菌の酸加熱処理物を含有する、該組成物である。この消化管障害抑制用組成物においては、前記乳酸菌の酸加熱処理物は、そのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして20%以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして30%を超えないものであることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管障害抑制用組成物であって、乳酸菌の酸加熱処理物を含有する、該組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌の酸加熱処理物は、そのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして20%以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして30%を超えないものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
薬剤の投与に起因する消化管障害の処置のためのものである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
制癌剤の投与を受けているヒト又は動物を対象とするものである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)KH4株(RD012131、受託番号:NITE BP-03375)である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
経口用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
食品組成物、医薬品組成物、又は動物食餌製品組成物の形態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
消化管障害抑制用組成物の製造方法であって、乳酸菌に酸性条件下で加熱処理を施す工程を有する、該組成物の製造方法。
【請求項9】
前記乳酸菌の酸加熱処理物として、そのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして20%以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして30%を超えないものを得る、請求項8記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)KH4株(RD012131、受託番号:NITE BP-03375)である、請求項8記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られた組成物を用いる、食品の製造方法。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られた組成物を用いる、医薬品の製造方法。
【請求項13】
請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られた組成物を用いる、動物食餌製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を利用した消化管障害抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品による副作用の一つとして消化管障害が知られている。特に、抗がん剤による化学療法を受ける患者の副作用の中で頻度が高いといわれている。
【0003】
このような問題に関連して、例えば、下記非特許文献1には、マウス実験において、制癌剤である5-フルオロウラシルの投与による消化管障害が、アミノ酸、糖質、脂肪、電解質、微量元素、及びビタミンを成分とする栄養製剤である「エレメンタール」(登録商標、EAファーマ株式会社)の経口投与により、唾液腺や結腸粘膜の形態的障害が抑制されることが報告されている。
【0004】
一方、乳酸菌の死菌体には、マクロファージ、ヘルパーT細胞等の免疫担当細胞によるサイトカインの産生を誘導する能力があることが知られている。例えば、IL-10及びIL-12などに対する産生誘導能である(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rei Kawashima et al.,「Influence of an elemental diet on 5-fluorouracil-induced morphological changes in the mouse salivary gland and colon」Support Care Cancer (2016) 24:1609-1616.
【非特許文献2】大道卓也、江草憲太郎、増田游 他:口腔内潰瘍と活性酸素との関連-実験的潰瘍による検討-口咽科 1983 年 5: 2; p.1-7.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4621218号公報
【特許文献2】特許第6649920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、消化管障害に対する乳酸菌による作用効果は明らかではなかった。
【0008】
本発明の目的は、乳酸菌を利用して、消化管障害に対して有効な処置を施すことができる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、乳酸菌の酸加熱処理物に、消化管障害に対する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、消化管障害抑制用組成物であって、乳酸菌の酸加熱処理物を含有する、該組成物を提供するものである。
【0011】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物においては、前記乳酸菌の酸加熱処理物は、そのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして20%以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして30%を超えないものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、薬剤の投与に起因する消化管障害の処置のためのものであることができる。
【0013】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、制癌剤の投与を受けているヒト又は動物を対象とするものであることができる。
【0014】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物においては、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)KH4株(RD012131、受託番号:NITE BP-03375)であることが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、経口用であることができる。
【0016】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、食品組成物、医薬品組成物、又は動物食餌製品組成物の形態であることができる。
【0017】
本発明は、別の観点では、消化管障害抑制用組成物の製造方法であって、乳酸菌に酸性条件下で加熱処理を施す工程を有する、該組成物の製造方法を提供するものである。
【0018】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物の製造方法においては、前記乳酸菌の酸加熱処理物として、そのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして20%以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない前記乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして30%を超えないものを得ることが好ましい。
【0019】
また、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物の製造方法においては、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)KH4株(RD012131、受託番号:NITE BP-03375)であることが好ましい。
【0020】
本発明は、更に別の観点では、上記の製造方法で得られた消化管障害抑制用組成物を用いる食品、医薬品、又は動物食餌製品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、乳酸菌を利用して、消化管障害に対して有効な処置を施すことができる組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】試験例1,2として行った動物試験においてマウスに投与した各試料の投与スケジュールを示す図表である。
【
図2】試験例1として行った動物試験の結果を示す図表であり、
図2Aはマウスの体重推移を示す図表であり、
図2Bはマウスの餌摂取量の推移を示す図表である。
【
図3】試験例1として行った動物試験の結果を示す図表であり、
図4Aには、試料を投与しないマウス((図中「Naive」で示す。)について、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示し、
図4Bには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ蒸留水(図中「Vehicle」で示す。)を経口投与し、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示し、
図4Cには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ乳酸菌の死菌体(図中「KH4B」で示す。)を経口投与し、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示し、
図4Dには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ乳酸菌の酸加熱処理物(図中「KH4B」で示す。)を経口投与し、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示す。
【
図4】試験例1として行った動物試験の結果を示す図表であり、
図4Aには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ蒸留水(図中「Vehicle」で示す。)を経口投与し、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示し、
図4Bには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ乳酸菌の酸加熱処理物(図中「KH4B」で示す。)を経口投与し、小腸組織切片を調製してHE染色により調べた結果を示し、
図4Cには、顕微観察により得られた視野イメージから見積もられた絨毛長さを平均した結果を示す。
【
図5】試験例2として行った動物試験の結果を示す図表であり、
図5Aには、マウスに5-FUを腹腔内投与したうえ蒸留水(図中「Vehicle」で示す。)、乳酸菌の死菌体(図中「KH4A」で示す。)、又は乳酸菌の酸加熱処理物(図中「KH4B」で示す。)を経口投与し、腸間膜リンパ節から細胞試料を調製してその細胞試料をフローサイトメトリーに供して解析した結果を示し、
図5Bには、制御性T細胞(Treg)の割合をグラフにした結果を示す。
【
図6】試験例3として行った細胞試験の結果を示す図表であり、
図6Aには、乳酸菌の死菌体(図中「KH4A」で示す。)又は酸加熱処理物(図中「KH4B」で示す。)をマウスマクロファージ由来のRAW264.7細胞に作用させたときの培養上清中のIL-12濃度を測定した結果を示し、
図6Bには、同様に乳酸菌の処理物をRAW264.7細胞に作用させたときの培養上清中のIL-6産生量を測定した結果を示し、
図6Cには、同様に乳酸菌の処理物をRAW264.7細胞に作用させたときの培養上清中のIL-10産生量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、乳酸菌の酸加熱処理物を消化管障害抑制用組成物の有効成分として用いるものである。その乳酸菌としては、ヒト又は動物に適用できればよく、特に制限はない。例えば、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・アリメンタリウス(Lactobacillus alimentarius)等のラクトバチルス属に属する乳酸菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する乳酸菌、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する乳酸菌、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等のロイコノストック属に属する乳酸菌、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等のテトラジェノコッカス属に属する乳酸菌、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)等のビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌などが挙げられる。
【0024】
上記乳酸菌の培養、維持、保管等は、当業者に周知の技術によって行うことができる。例えば、乳酸菌の培養に適した培地としては、脱脂粉乳培地が挙げられ、あるいは、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、塩類、ミネラル類等を含む液体培地が挙げられる。市販の培地として「MRSブイヨン MERCK」(商品名、Chemicals社)、「Difco Lactobacilli MRS Broth」(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)などがあり、そのような市販の培地を用いてもよい。
【0025】
(酸加熱処理)
乳酸菌の酸加熱処理物は、例えば、以下のようにして調製することができる。
【0026】
ステップ1:乳酸菌を準備する。乳酸菌としては、すでに培養されたものを調達してもよく、また、適当な培地で培養し、対数増殖期、その後期、ないし定常期に集菌して、これを、集菌後のフレッシュなうちに用いてもよく、あるいは、培養して集菌後、冷凍保管しておいたものを解凍して用いてもよい。
【0027】
ステップ2:乳酸菌に、酸性条件下で、加熱処理を施す。
【0028】
上記ステップ2において、酸性条件下とするには、各pHに調製した溶液、例えば、0.1Mクエン酸と0.2Mリン酸水素ナトリウムとを混合して所定のpHに調製して作製したクエン酸-リン酸緩衝液や、酢酸-酢酸ナトリウムとを混合して所定のpHに調製して作製した酢酸緩衝液を用いることができる。各種pH溶液のpHはpH自動制御装置等(pHスタット)で確認することが好ましい。pH条件としては、酸性条件下であればよいが、例えば、pH7.0~pH6.0であってよく、pH6.0~pH5.0であってよく、pH5.0~pH4.0であってよく、pH4.0~pH3.0であってよく、pH3.0~pH2.0であってよく、pH2.0~pH1.0であってもよい。また、例えば、pH7.0以下であってよく、pH6.0以下であってよく、pH5.0以下であってよく、pH4.0以下であってよく、pH3.0以下であってよく、pH2.0以下であってもよい。更に、例えば、pH7.0~pH1.0であってよく、pH6.0~pH1.0であってよく、pH5.0~pH1.0であってよく、pH4.0~pH2.0であってよく、pH3.0~pH2.0であってもよい。
【0029】
上記ステップ2において、加熱処理は、一圧タンク、レトルト食品製造機、オートクレーブやUHT、チューブラーヒーター等によって行うことができる。温度条件としては、加温条件下であればよいが、例えば、90℃~140℃であってよく、95℃~140℃であってよく、95℃~125℃であってよく、120℃~125℃であってもよい。
【0030】
上記ステップ2において、熱処理の時間条件としては、特に限定されないが、例えば、60分~180分間であってよく、30分~120分間であってよく、20分~60分間であってよく、5分~30分間であってもよい。
【0031】
上記ステップ2におけるpH、温度、時間等の条件は、上記範囲を適宜組み合わせて設定することができる。ただし、本発明の範囲は、上記に具体的に例示した調製条件によって限定されるものではなく、適宜、他の調製条件によっても調製し得る。
【0032】
ここで、後述する実施例の結果にも示されるように、乳酸菌に酸加熱処理を施すことにより、過剰な免疫応答を抑える働きをもつIL-10の産生誘導能は保ったまま、過剰な免疫応答を引き起こす働きをもつIL-12の産生誘導能を低減させることができる。そして、消化管障害に対する作用効果が顕著に認められる。
【0033】
そこで、本発明の限定されない任意の態様においては、乳酸菌が、十分に酸加熱処理が施されたものであるかどうかを、IL-10及びIL-12に対する産生誘導能を指標にして、評価することができる。例えば、乳酸菌の酸加熱処理物を、適当な培養細胞の培養液中に存在せしめて、その培養細胞が産生するIL-10量についてのIL-10産生誘導能が、酸加熱処理しない場合の乳酸菌の死菌体のIL-10産生誘導能を基準にして所定値以上を保ちつつ、そのIL-12産生誘導能が、酸加熱処理しない場合の乳酸菌の死菌体のIL-12産生誘導能を基準にして所定値を超えない、などを指標にして、乳酸菌に酸加熱処理が十分に施されたかどうかを評価することができる。
【0034】
IL-10産生誘導能としては、乳酸菌の酸加熱処理物を乾燥物換算で終濃度1μg/mL~10μg/mLで用いたとき、酸加熱処理しない乳酸菌の死菌体を乾燥物換算で同じ終濃度1μg/mL~10μg/mLで培地に添加したときのIL-10産生誘導能を基準にして、例えば、その基準誘導能の20%以上であることを指標にしてよく、30%以上であることを指標にしてよく、40%以上であることを指標にしてよく、50%以上であることを指標にしてよく、60%以上であることを指標にしてもよい。また、IL-12産生誘導能としては、乳酸菌の酸加熱処理物を乾燥物換算で終濃度1μg/mL~10μg/mLで用いたとき、酸加熱処理しない乳酸菌の死菌体を乾燥物換算で同じ終濃度1μg/mL~10μg/mLで培地に添加したときのIL-12産生誘導能を基準にして、例えば、その基準誘導能の30%以下であることを指標にしてよく、20%以下であることを指標にしてよく、10%以下であることを指標にしてよく、5%以下であることを指標にしてもよい。
【0035】
そのような評価系に用いる、細胞としては、特に限定されないが、例えば、RAW264.7、J774.1、マウス等哺乳類の脾細胞、マウス等の哺乳類の腹腔細胞等を挙げることができる。また、評価の客観性を確保するには、その評価系は、リポポリサッカライド(LPS)又はピシバニール(OK-432)を終濃度0.1μg/mL~1μg/mLで作用させたととき、IL-10を培養上清中に100pg/mL~3000pg/mL程度を産生し、且つ、IL-12を培養上清中に100pg/mL~3000pg/mL程度を産生するように調整されていることが好ましい。
【0036】
上記のようにして調製した乳酸菌の酸加熱処理物は、調製後のものを、そのまま、あるいは希釈等して用いてもよいが、安定性や保存性、あるいは取り扱い性の観点から、中和、遠心洗浄等の手段により酸加熱処理後の酸溶媒を除去したうえ、乾燥粉末化することが好ましい。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥、熱風を用いた噴霧乾燥等の手法が挙げられる。また、乾燥粉末化の際には、適宜、賦形剤を添加してもよい。賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0037】
上記のようにして調製した乳酸菌の酸加熱処理物は、後述する実施例の結果にも示されるように消化管障害の症状を抑える効果に優れている。特には、一般に、制癌剤の投与を受けているヒト又は動物では、その制癌剤の投与に起因して免疫力が低下し、著しい消化管障害の症状となる場合も多いが、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物を、そのような対象に適用することで、有効に、その消化管障害の症状を抑えることができる。制癌剤としては、限定されないが、例えば、細胞障害性抗癌剤としてアルキル化薬のナイトロジェンマスタード類(シクロホスファミドなど)、代謝拮抗薬のフッ化ピリミジン系(フルオロウラシルなど)、シタラビン系(シタラビンなど)、葉酸拮抗薬(メトトレキサートなど)、ヌクレオシド系(トリフルリジン・チピラシルなど)、抗腫瘍性抗生物質のアントラサイクリン系(ドキソルビシンなど)、ブレオマイシン系(ブレオマイシンなど)、マイトマイシン系(マイトマイシンCなど)、その他(アクチノマイシンDなど)、植物アルカロイドのビンカアルカノイド系(ビンクリスチンなど)、タキサン系(パクリタキセルなど)、微小管伸長阻害薬(エリブリンなど)、トポイソメラーゼI阻害薬(イリノテカンなど)、トポイソメラーゼII阻害薬(エトポシドなど)、白金製剤(シスプラチンなど)など、分子標的薬として、シグナル伝達系阻害薬のmTOR阻害薬(エベロリムスなど)、血管新生阻害薬・マルチキナーゼ阻害薬(ソラフェニブなど)、EGFR(HER)阻害薬(アファチニブなど)、抗体薬のEGFRに対する抗体薬(セツキシマブなど)などが挙げられる。
【0038】
なお、本明細書において消化管障害とは、小腸の絨毛や粘膜層の減退、胃の痛み、上腹部通、胃もたれ、胸やけ、呑酸、胸の痛み、胸のつかえ、大腸運動の増加、悪心、嘔吐、吐き気、下痢、便秘、便通異常、腹部膨満感、腹痛などの症状を含む意味である。また、本明細書において消化管障害の処置には、消化管障害の症状のない対象にあらかじめ処置して症状を起こさないようにする予防の目的や、消化管障害の症状がある対象に処置してその症状の緩和や緩解、治療の目的の双方が含まれる。
【0039】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、食品組成物の形態で消化管障害の処置に利用されてもよい。すなわち、上記のようにして調製した乳酸菌の酸加熱処理物(以下、単に「乳酸菌酸加熱処理物」という。)を、そのまま、あるいは他の食品用の原料を組み合わせて、食品組成物の形態となしてもよい。上記乳酸菌酸加熱処理物に組み合わせる食品用の原料としては、例えば、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁、フレーバー等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等が挙げられる。
【0040】
飲食品としては、例えば、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、食品の他の例としては、消化管障害抑制用の健康食品、サプリメント、特定保健用食品、ないし機能性表示食品が挙げられ、例えば、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、ドリンク、ゼリーなどの形態で提供されてもよい。
【0041】
一方、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、そのような消化管障害抑制用の食品に添加されるものとして、食品用の添加用素材の形態で利用されてもよい。
【0042】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、医薬品組成物の形態で消化管障害の処置に利用されてもよい。すなわち、上記乳酸菌酸加熱処理物を、そのまま、あるいは他の医薬品用の原料と組み合わせて、医薬品組成物の形態となしてもよい。上記乳酸菌酸加熱処理物に組み合わせる他の医薬品用の原料に特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口摂取用として利用することができる。また、軟膏剤、クリーム剤、ジェル、ローション等の形態にして、これを口内塗布用として利用することができる。なお、医薬とは、ヒトのみでなく動物用の医薬も含む意味である。
【0043】
一方、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、そのような消化管障害抑制用の医薬品に添加されるものとして、医薬品用の添加用素材の形態で利用されてもよい。
【0044】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、動物食餌製品用組成物の形態で消化管障害の処置に利用されてもよい。すなわち、上記乳酸菌酸加熱処理物を、そのまま、あるいは他の動物食餌製品用の原料と組み合わせて、動物食餌製品用組成物の形態となしてもよい。動物食餌製品としては、例えば、家畜、競走馬、鑑賞用動物等の飼料、ペットフード等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0045】
一方、本発明にかかる消化管障害抑制用組成物は、そのような消化管障害抑制用の動物食餌製品に添加されるものとして、動物食餌製品用の添加用素材の形態で利用されてもよい。
【0046】
本発明にかかる消化管障害抑制用組成物において、上記乳酸菌酸加熱処理物の含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と所望する投与量との関係を勘案して適宜定めればよい。典型的に、上記乳酸菌酸加熱処理物を乾燥物換算にして、0.1質量%~100質量%含有するものであってよく、1質量%~50質量%含有するものであってよく、10質量%~30質量%含有するものであってもよい。
【0047】
また、投与量としては、その対象者の健康状態や年齢、あるいはどの程度の作用効果を必要としているかなどに応じて、適宜設定すればよい。典型的に、上記乳酸菌酸加熱処理物の乾燥物換算での経口摂取量として(カッコ内は菌数換算値:1×1012~4×1012cells/g)、0.001~1000mg(1×106~4×1012cells)/kg体重/日であってよく、0.01mg~100mg(1×107~4×1011cells)/kg体重/日であってよく、後述の実施例から、より好ましくは0.25mg~25mg(2.5×108~1×1011cells)/kg体重/日または体表面積換算で0.02mg~2mg(2×107~8×109cells)/kg体重/日であってもよい。
【実施例0048】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
[1.乳酸菌の培養]
乳酸菌としてラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)KH4株(RD012131、受託番号:NITE BP-03375)を用意し、培地としてDifco Lactobacilli MRS Broth(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を使用して、37℃で通気攪拌することにより培養した。
【0050】
[2.乳酸菌の処理]
乳酸菌の培養液を遠心分離装置にかけて、培養上清を除き、集菌した。菌体濃度がおよそ20v/v%となるようにリン酸緩衝液に懸濁し、これをテフロン(登録商標)ホモジナイザーにかけて、菌体同士が凝集するのを避け、できるだけ分散させるようにした。
【0051】
乳酸菌を処理して、下記のサンプルを調製した。
(乳酸菌サンプル)
・乳酸菌の死菌体:リン酸緩衝液溶液(pH7.4)に菌体濃度がおよそ2v/v%となるよう懸濁し、121℃で15分間、オートクレーブで加熱した。
・乳酸菌の酸加熱処理物:酢酸にてpH調整した溶液(pH3.0)に菌体濃度がおよそ2v/v%となるよう懸濁し、121℃で15分間、オートクレーブで加熱した。
【0052】
<試験例1>
マウスに制癌剤である5-フルオロウラシル(5-FU;5-Fuluorouracil)を投与したときに生じる消化管障害について、上記に調製した乳酸菌サンプル(「乳酸菌の酸加熱処理物」)の経口投与がどのような影響を与えるか調べた。なお、本動物試験は、東北大学の動物実験倫理委員会の承認を得て行った。
【0053】
〔1.動物〕
動物は、日本クレア(東京)より購入した成熟雄C57BL/6WTマウス(7-10週齢)を用いた。購入したマウスは東北大学大学院医学系研究科動物実験施設内の実験室にて飼育し、餌及び水を常時摂取可能とした。
【0054】
〔2.5-FUの投与〕
生理食塩水を用いて溶解、希釈した5-フルオロウラシル(5-FU;5-Fuluorouracil)を、
図1に示す投与スケジュールにより、マウスに50mg/kg体重/日の投与量で腹腔内投与した(投与スケジュール:基準日(Day0)に対し-Day5、-Day3、及び-Day1に投与)。
【0055】
〔3.乳酸菌サンプルの投与〕
生理食塩水にて希釈した乳酸菌サンプルを、
図1に示す投与スケジュールにより、マウスに経口ゾンデを用いて100μLの投与量(乳酸菌乾燥重量で0.22mg/kg体重/日になるよう調整)で経口投与した。一方、対照マウスには、蒸留水を生理食塩水にて500倍希釈して、乳酸菌サンプルと同スケジュールで経口投与した(投与スケジュール:基準日(Day0)に対し-Day5、-Day4、-Day3、Day1、及びDay2に投与)。
【0056】
〔4.体重と餌摂取量の測定〕
5-FU投与開始日からマウスの体重とケージあたりの餌摂取量を連日測定した。
【0057】
〔5.顕微観察〕
小腸組織を摘出して4%パラホルムアルデヒド・PBSにて固定し、パラフィンに包埋した。断面の厚さ3μmの切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し、20倍の対物レンズ(「Olympus UPLFLN40X」、オリンパス株式会社)を用いて写真を撮影した。
【0058】
〔6.結果〕
(1)マウス体重及び餌摂取量の推移
図2(A)には、5-FU投与開始日(-Day5)から投与スケジュール基準日(Day0)にわたるマウスの体重推移を示す。また、
図2(B)には、5-FU投与開始後の1日日(-Day4)から投与スケジュール基準日(Day0)にわたるマウスの餌摂取量の推移を示す。
【0059】
図2(A)に示されるように、対照マウス(5-FU投与通常飼料)に比べて、乳酸菌の酸加熱処理物を経口投与したマウスでは、体重の減少割合が少なくなった。また、
図2(B)に示されるように、対照マウス(5-FU投与通常飼料)に比べて、乳酸菌の酸加熱処理物を経口投与したマウスでは、5-FUを3回投与後も餌摂取量が維持されていた。
【0060】
(2)小腸組織の顕微観察
図3には、試料を投与しないマウス、又は各試料を投与したマウス(Day3)から小腸組織切片を作成し、HE染色して顕微観察した一例の写真を示す。
【0061】
図3に示されるように、5―FU投与通常飼料マウス(Vehicle)では、5-FU非投与通常飼料マウス(Naive)に比べ、絨毛の短縮が認められた。これに対して、乳酸菌の酸加熱処理物を経口投与したマウス(KH4B)では、腸管の長さが保たれており損傷が軽微であった。一方、乳酸菌の加熱死菌体を経口投与したマウス(KH4A)では、そのような障害の抑制効果は顕著には認められなかった。
【0062】
なお、
図4には、顕著な差がみられた5―FU投与通常飼料マウス(Vehicle)と乳酸菌の酸加熱処理物を経口投与したマウス(KH4B)について、より詳細に顕微観察した結果を示し(
図4(A)、(B))、
図4(C)には、顕微観察により得られた視野イメージから見積もられた絨毛長さを平均した結果を、Welch’st検定による有意差とともに示す。
【0063】
<試験例2>
試験例1の結果によれば、乳酸菌の酸加熱処理物の経口投与により、制癌剤である5-FUを投与したときのマウスの消化管障害が抑制されることが明らかとなった。
【0064】
本試験例では、試験例1と同様にして各試料をマウスに投与した後の腸間膜リンパ節から細胞試料を調製し、その細胞試料に含まれる制御性T細胞(Treg:RegulatoryT cell)(炎症抑制に働くことが知られている)の割合について、フローサイトメトリー解析を行った。
【0065】
〔1.フローサイトメトリー〕
各試料を投与したマウス(Day1)から腸間膜リンパ節を摘出し、セルストレイナー上ですりつぶし、細胞組織片を除去した後に遠心して、細胞試料を調製した。この細胞試料に対して、特異抗体等による染色の処理を施してフローサイトリーに供した。具体的には、細胞表面マーカー特異抗体として、抗CD4抗体(「Pacific Blue-anti-CD4 mAb (clone GK1.5)」、BioLegend社製)、抗CD3抗体(「FITC-anti-CD3ε mAb (clone 145-2C11)」 BioLegend社製)、抗Foxp3「Foxp3 / Transcription Factor Staining Buffer Setを使用し、抗Foxp3抗体(「PE-anti-Foxp3 mAb (clone FJK-16s)」、Thermo Fisher Scientific社製)を使用し、更に、Fcγ受容体のブロッキング、死細胞除去のための7-Amino-ActinomycinD(7-AAD)染色を行ったうえ、染色を施した細胞はフローサイトメーター(「BD FACS CantoTM II」、BD Bioscience, NJ, USA)を用いて解析を行った。なお、アイソタイプが一致したIgGを使用してコントロール染色を行った。
【0066】
〔2.結果〕
図5には、フローサイトメトリー解析の結果を示す。
【0067】
図5に示されるように、乳酸菌の酸加熱処理物(図中「KH4B」で示す。)を経口投与したマウスでは、腸間膜リンパ節中の制御性T細胞(Treg)の割合が、蒸留水(図中「Vehicle」で示す。)や乳酸菌の死菌体(図中「KH4A」で示す。)を経口投与したマウスと比較して有意に高くなっていることが明らかとなった。
【0068】
<試験例3>
試験例1の結果によれば、乳酸菌の酸加熱処理物の経口投与により、制癌剤である5-FUを投与したときのマウスの消化管障害が抑制されることが明らかとなった。
【0069】
試験例2の結果によれば、乳酸菌の酸加熱処理物による作用効果は、腸間膜リンパ節中のT細胞のうち炎症抑制に働くことが知られている制御性T細胞(Treg)の割合の増加によることが示唆され、また、そのような作用効果は、単なる乳酸菌の加熱死菌体では起こらない作用効果であることが示唆された。
【0070】
本試験例では、上記に調製した乳酸菌サンプル(「乳酸菌の死菌体」と「乳酸菌の酸加熱処理物」)について、マウスマクロファージ由来のRAW264.7細胞に作用させたときのIL-12、IL-6、及びIL-10の産生誘導能を比較した。
【0071】
具体的には、RAW264.7細胞を、10%FBS、2-メルカプトエタノール(50μM)、ペニシリン(100U/mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むRPMI1640培地で、常法に従い浮遊培養し、これを細胞濃度1×107cells/mLで96ウェルプレートに播種して、24時間37℃、5%CO2の条件で培養した。10%FBS、2-メルカプトエタノール(50μM)、ペニシリン(100U/mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むRPMI1640培地にて希釈した乳酸菌サンプルを終濃度10μg/mL(菌固形分換算濃度)となるように培地に添加後、同条件で更に24時間培養した。その後、培養上清を回収し、IL-12及びIL-10の濃度を、IL-12検出キット(「Mouse IL-12 p40 ELISA Kit」、abcam社製)、IL-6検出キット(「Mouse IL-6 ELISA Kit」、abcam社製)、又はIL-10検出キット(「Mouse IL-10 ELISA Kit」、abcam社製)にて、製品プロトコールに従い、測定した。
【0072】
図6(A)には、培養上清中のIL-12濃度を測定した結果を示し、
図6(B)には、IL-6濃度を測定した結果を示し、
図6(C)には、IL-10濃度を測定した結果を示す。
【0073】
図6(A)に示されるように、乳酸菌の死菌体を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-12産生量は、培養上清中の濃度として565pg/mL(平均値、標準偏差:565±95)であったのに対して(図中「KH4A」で示す。)、乳酸菌の酸化熱処理物を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-12産生量は、培養上清中の濃度として0.1pg/mL(平均値、標準偏差:0.1±5)であり、前者の濃度を基準にして、99.9%と減少していた(図中「KH4B」で示す。)。
【0074】
図6(B)に示されるように、乳酸菌の死菌体を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-6産生量は、培養上清中の濃度として144pg/mL(平均値、標準偏差:144±23)であったのに対して(図中「KH4A」で示す。)、乳酸菌の酸化熱処理物を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-6産生量は、培養上清中の濃度として47pg/mL(平均値、標準偏差:47±18)であり、前者の濃度を基準にして、68%と減少していた(図中「KH4B」で示す。)。
【0075】
図6(C)に示されるように、乳酸菌の死菌体を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-10産生量は、培養上清中の濃度として837pg/mL(平均値、標準偏差:837±46)であったのに対して(図中「KH4A」で示す。)、乳酸菌の酸化熱処理物を10μg/mLでRAW264.7細胞に作用させたときのIL-10産生量は、培養上清中の濃度として2034pg/mL(平均値、標準偏差:2034±131)であり、前者の濃度を基準にして、243%と増加していた(図中「KH4B」で示す。)。
【0076】
以上から、乳酸菌を酸性条件下に加熱処理すると、炎症性のサイトカインであるIL-12やIL-6についての産生誘導能が低下する一方、炎症抑制性のサイトカインであるIL-10についての産生誘導能が高められることが明らかとなった。
【0077】
<試験例4>
試験例3の結果によれば、乳酸菌を酸性条件下に加熱処理すると、マウスマクロファージ由来細胞に作用させたときのIL-10の産生誘導能については維持されつつ、IL-12産生誘導能が低下することが明らかとなった。
【0078】
本試験例では、加熱処理条件により、IL-12及びIL-10の産生誘導能がどのように変化するかについて調べた。具体的には、上記した乳酸菌サンプルの調製において、乳酸菌KH4株を表1に示す温度と時間の条件で加熱処理して乳酸菌の酸加熱処理物を調製し、次いで、試験例1と同様にして、調製した乳酸菌の酸加熱処理物について、マウス脾臓細胞に作用させたときのIL-12及びIL-10の培養上清濃度を測定した。
【0079】
表1には、得られた結果を、試験例1と同様にして、調製した乳酸菌の加熱死菌体を同様に作用させたときの、IL-12及びIL-10のそれぞれの培養上清濃度を100としたときの相対値で示す。
【0080】
【0081】
その結果、表1に示されるように、IL-12及びIL-10誘導能の低下は、乳酸菌に対する加熱処理時間に依存して、それらの低下量が増加することが明らかとなった。ただし、その低下の程度は、IL-12においてより顕著であることが明らかとなった。
【0082】
<試験例5>
試験例3,4の結果によれば、乳酸菌を酸性条件下に加熱処理すると、マウスマクロファージ由来細胞に作用させたときのIL-10の産生誘導能については維持されつつ、IL-12産生誘導能が低下することが明らかとなった。
【0083】
本試験例では、他の代表的な乳酸菌の菌株を用いた場合にも、同様にそのような酸加熱処理によるIL-12及びIL-10にかかる誘導能の変化が惹起されるかについて調べた。具体的には、試験例1と同様にして、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)BK03株(社内で保有する典型株)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)BK01株(社内で保有する典型株)、及びラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)BK11株(社内で保有する典型株)について、マウス脾臓細胞に作用させたときのIL-12及びIL-10の培養上清濃度を測定した。
【0084】
表2には、得られた結果を、試験例1と同様にして、調製した乳酸菌の加熱死菌体を同様に作用させたときの、IL-12及びIL-10のそれぞれの培養上清濃度を100としたときの相対値で示す。
【0085】
【0086】
酸加熱処理によってIL-12を30%以下に低下させIL-10を20%以上保持した菌株を表2に示した。他の乳酸菌株を用いた場合にも、酸加熱処理により、IL-12誘導能が処理の影響を受けやすく、その一方で、IL-10誘導能については、影響が限定的であり誘導能が維持されやすい傾向がみられた。