(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042274
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20240321BHJP
C09D 101/08 20060101ALI20240321BHJP
C09D 125/08 20060101ALI20240321BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20240321BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20240321BHJP
B65D 65/42 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D101/08
C09D125/08
C09D133/02
C09D133/04
B65D65/42 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146872
(22)【出願日】2022-09-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】太田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】堀 智博
(72)【発明者】
【氏名】田淵 太基
(72)【発明者】
【氏名】北瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 郁哉
【テーマコード(参考)】
3E086
4J038
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD16
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BB41
3E086BB55
3E086BB62
3E086BB63
3E086BB67
3E086BB74
3E086CA01
3E086CA12
3E086CA13
3E086CA28
3E086CA35
4J038BA022
4J038CC021
4J038CG031
4J038CG141
4J038MA06
4J038NA04
4J038NA10
4J038NA11
4J038PB04
(57)【要約】
【課題】基材フィルムを具備するシュリンクラベルのオーバーコート層を形成するためのニス組成物であって、オーバーコート層に接着性、耐摩擦性、耐熱水性及び滑り性を付与し、且つ基材フィルムからの脱離性をも付与することができるニス組成物を提供すること。
【解決手段】アクリル系樹脂と、酸価100~300mgKOH/gのスチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂と、低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体と、有機溶剤と、を含有するシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物であって:前記スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂を、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物中に0.8~11質量%含有する、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂と、酸価100~300mgKOH/gのスチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂と、低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体と、有機溶剤と、を含有し、
前記スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂を、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物中に0.8~11質量%含有する、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂の酸価が、30mgKOH/g以下である、請求項1に記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
【請求項3】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂と、前記低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体との合計量との含有質量比が、90~30:10~70の範囲である、請求項1又は2に記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物に関し、より具体的には、シュリンクラベルから脱離可能で、耐熱水性や耐摩擦性を有しうるオーバーコート層を形成するためのニス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シュリンクラベルは、熱収縮性を有するプラスチックフィルムであり、通常は、熱収縮性を有するポリエステル系フィルム、ポリスチレン系フィルム又はポリオレフィン系フィルムなどを基材フィルムとする積層フィルムである。シュリンクラベルは、様々な商品(例えば、PETボトル飲料、酒類、日用品、医薬品、食品飲料など)の容器に装着され、その商品の情報や意匠などを表示するラベルとして、広く使用されている。
【0003】
シュリンクラベルを商品の容器に装着するには、熱収縮性を有するフィルムを容器に巻き付けてから、それを加熱することによって当該フィルムをシュリンク(熱収縮)させて、フィルムを容器に密着させることでシュリンクラベルを容器に装着することができる。加熱する方法は、蒸気式と熱風式とが知られており、蒸気式で行う場合にはシュリンクラベルには耐熱水性(蒸気などの熱水に曝されてもブロッキングが生じないこと)が求められる。
【0004】
一般的に、シュリンクラベルが装着された容器の商品は、箱詰めされるなどして配送され、店頭などに陳列される。配送中には、箱詰めされた商品の容器同士が、又は容器と箱の内面とが擦れたり、ぶつかったりして、シュリンクラベルの基材フィルムが傷つく恐れがある。そのため、シュリンクラベルの外表面(容器に接する表面に対して反対側の表面)にオーバーコート層を設けて基材フィルムを保護することが知られている(特許文献1を参照)。オーバーコート層は、通常、メジュームやニスなどの透明な印刷用組成物などを、基材フィルムに印刷(又は塗布)して形成される。
【0005】
近年、プラスチックフィルムを原料とする製品や、プラスチックボトルその他のプラスチック製品は、海洋にゴミとして廃棄・投棄され、環境汚染問題となっている。つまり、これらのプラスチック製品は海水中で分解されてサブミクロンサイズの破片(マイクロプラスチック)となり、海水中に浮遊する。海水中に浮遊するプラスチックを魚類等の海洋生物が摂取すると、生物体内中で濃縮される。そうすれば、当該海洋生物を食料として摂取する海鳥や人間の健康にも影響することが懸念される。
【0006】
このような問題を改善する、つまりマイクロプラスチックを減らす取り組みの一つとして、プラスチックフィルムである基材フィルムを含む積層フィルムから、基材フィルムを回収して再利用する(例えばペレット化するなどして再利用する)、リサイクル方法が提案されている。積層フィルムから基材フィルムを回収するには、基材フィルムに積層した各種層を脱離させる必要があるが、そのための方法がいくつか提案されている。
【0007】
第一に、基材フィルムと脱離層と絵柄層などをこの順に積層した積層体において、脱離層を特定のポリウレタン樹脂を含有する有機溶剤系印刷インキを用いて塗布形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。当該積層体によれば、基材フィルムから、脱離層と共に絵柄層などを容易に脱離させることができるとされている。
【0008】
その他にも、基材フィルム表面を処理して、その処理面に印刷層を形成する方法が提案されており:ポリエステル基材にポリウレタン樹脂を含む脱離用プライマー層を形成して、脱離用プライマー層上に印刷層を形成する方法(特許文献3を参照);プラスチック基材に、アルミニウム、酸化アルミニウム及びシリカなどの蒸着層を脱離層として形成して、蒸着層上に印刷層を形成する方法(特許文献4を参照);樹脂フィルムと印刷層との間に、ポリビニルアルコールを含有する樹脂層を脱離層として設ける方法(特許文献5を参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-335409号公報
【特許文献2】特開2020-196855号公報
【特許文献3】特開2017-114930号公報
【特許文献4】特開2020-175620号公報
【特許文献5】国際公開第2021/090690号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のシュリンクラベルのオーバーコート層は、耐熱水性や耐摩擦性を有していたとしても、基材フィルムからの脱離性を有していなかった。また、特許文献2~5において脱離層(又は脱離用プライマー層)として提案されている層を、シュリンクラベルのオーバーコート層として用いると、耐熱水性を有さないことが明らかになった。このように、耐熱水性や耐摩擦性を有しつつ、基材フィルムからの十分な脱離性をも具備する、シュリンクラベルのオーバーコート層はなかった。
【0011】
つまり、シュリンクラベルのオーバーコート層を形成するためのニス組成物であって、得られるオーバーコート層に耐熱水性や耐摩擦性と共に十分な脱離性を与えることができるシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物はなかった。そこで本発明は、接着性、耐摩擦性、耐熱水性及び滑り性を有し、且つ基材フィルムからの脱離性を有するシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は以下に示すシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物に関する。
[1]アクリル系樹脂と、酸価100~300mgKOH/gのスチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂と、低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体と、有機溶剤と、を含有するシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物であって、
前記スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂を、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物中に0.8~11質量%含有する、シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
[2]前記アクリル系樹脂の酸価が、30mgKOH/g以下である、前記[1]に記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
[3]さらに界面活性剤を含有する、前記[1]又は[2]に記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
[4]前記アクリル系樹脂と、前記低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体との合計量との含有質量比が、90~30:10~70の範囲である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物を、基材フィルム表面に塗布・乾燥して製膜することで、耐熱水性及び耐摩擦性と共に、接着性、滑り性をも有するオーバーコート層を形成することができる。更に、そのようにして得られる積層フィルムは、シュリンクフィルムとして用いることができ、製品容器に装着することでシュリンクラベルとして機能する。また、製品容器から剥がされたシュリンクラベルのオーバーコート層は、脱離液により基材フィルムから脱離しやすい(脱離性に優れる)という効果を発揮する。そのため、シュリンクラベルから基材フィルムを回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1. シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物]
本発明のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物(以下、オーバーコートニス組成物ともいう)は、シュリンクラベルにオーバーコート層を形成するためのニス組成物であり、かつオーバーコート層に脱離性を付与することができるニス組成物である。オーバーコートニス組成物は、通常は透明(クリア)組成物である。
【0016】
本発明のオーバーコートニス組成物は、1) アクリル系樹脂と、2) スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂と、3) 低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体と、4) 有機溶剤とを含有し、5) その他の任意成分を含有してもよい。
【0017】
オーバーコートニス組成物に対する、1) アクリル系樹脂と、2) スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂と、3) 低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体と、(存在する場合にはその他の樹脂と)の合計質量含有率は、オーバーコートニス組成物に求められる粘度などに応じて適宜設定されるが、目安として、10~40質量%である。
【0018】
[1-1. アクリル系樹脂]
本発明のオーバーコートニス組成物に含まれるアクリル系樹脂は、モノマー成分として(メタ)アクリル系モノマーを含む。(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、及びその炭素数が1~l8のアルキルエステル、炭素数がl~18のアルキルアミド、炭素数が2~4のヒドロキシアルキルエステル等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0019】
アクリル系樹脂は、モノマー成分として(メタ)アクリル系モノマーとともに、必要に応じて、スチレン系モノマー、マレイン酸系モノマーなどを含んでいてもよく、これらのモノマーを共重合して得られる共重合体樹脂であってもよい。スチレン系モノマーとしては、スチレン及びその誘導体、マレイン酸系モノマーとしては、無水マレイン酸やマレイン酸等を挙げることができる。
【0020】
アクリル系樹脂は、その酸価が30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましく、10mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、0mgKOH/gであってもよい。酸価が30mgKOH/g以下であると、オーバーコート層の耐熱水性を高めることができる。
【0021】
酸価は、たとえば共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(「理論酸価」ともいう)とみなすことにより算出し得る。なお、本願明細書に記載された、市場から入手可能なアクリル系樹脂についての酸価の数値は、その樹脂のサプライヤーが公表している酸価であり、理論酸価であるとは限らず参考値であるが、理論酸価とみなしてもよい。
【0022】
アクリル系樹脂は、そのガラス転移温度が0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく;また、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。
【0023】
ガラス転移温度とは、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度であることが好ましい。
Woodの式:
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+ ・・・・・・+ Wn/Tgn
(式中、Tgは樹脂の理論ガラス転移温度;Tg1~Tgnは樹脂の共重合体を構成する単量体1、2、3・・・nのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度;W1~Wnは樹脂の単量体1、2、3・・・nのそれぞれの重合分率を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。)なお、本願明細書に記載された、市場から入手可能なアクリル系樹脂についてのガラス転移温度の数値は、その樹脂のサプライヤーが公表している温度であり、理論ガラス転移温度であるとは限らず参考値であるが、理論ガラス転移温度とみなしてもよい。
【0024】
アクリル系樹脂は、その重量平均分子量が1×104以上であることが好ましく、2×104以上であることがより好ましく;一方、2×105以下であることが好ましく、5×104以下であることがより好ましい。当該重量平均分子量が1×104以上であると耐熱水性が高まりやすく、2×105以下であると組成物の印刷適性が高まりやすい。
【0025】
質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置として Water 2690(ウォーターズ社)、カラムとして PLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の質量平均分子量として求めることができる。
【0026】
アクリル系樹脂は、市場から入手することも可能であり、例えば、ダイヤナール(商標登録)として知られるアクリル系樹脂であって、ダイヤナールBR-50 (0mgKOH/g) , BR-73 (3.3mgKOH/g), BR-83 (0mgKOH/g), BR-101 (0mgKOH/g), BR-105 (0mgKOH/g), BR-106 (3.3mgKOH/g), BR-113 (3.3mgKOH/g), BR-115 (0mgKOH/g), BR-116 (7.8mgKOH/g), BR-117 (0mgKOH/g), BR-119 (3.9mgKOH/g), MB-2660 (3.3mgKOH/g), MB-2952 (0mgKOH/g), MB-7922 (33mgKOH/g), LR-935 (0~0.5mgKOH/g)などを用いることができる。ここで、()内の数値は、これらの樹脂のサプライヤー(三菱ケミカル)が公表している酸価であり、上述の理論酸価であるとは限らず、参考値であるが、理論酸価とみなしてもよい。
【0027】
本発明のオーバーコートニス組成物における、樹脂成分(アクリル系樹脂、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂、並びに低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体を含む)の合計含有量に対するアクリル系樹脂の含有量の質量比率(アクリル系樹脂/樹脂成分の合計)は、目安として、0.20以上であり、また0.80以下である。当該比率が0.20以上であるとオーバーコート層の十分な接着性が得られやすい。
【0028】
また、オーバーコートニス組成物における、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の含有量に対するアクリル系樹脂の含有量の質量比率(アクリル系樹脂/スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂)は、目安として、10.0以下であり、3.0以下であることが好ましく;また、0.8以上であり、1.2以上であることが好ましい。当該比率が10以下であるとオーバーコート層の脱離性が得られやすく、0.8以上であるとオーバーコート層の耐熱水性が得られやすい。
【0029】
[1-2. スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂]
本発明のオーバーコートニス組成物に含まれるスチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂は、スチレン系単量体及び無水マレイン酸の共重合体と、アルコールと、のエステル化反応物であるか、又は、スチレン系単量体と、無水マレイン酸とアルコールとのエステル化反応物と、の共重合体であり得る。スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂において、樹脂に含まれる酸無水物基からなる環の一部又は全部が開環しており、酸無水物基が開環して生成する2つのカルボキシル基の一方のみがエステル化(ハーフエステル化)されている(下式参照)。
【化1】
【0030】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂を構成するスチレン系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びそれらの誘導体スチレンなどであり得る。
【0031】
マレイン酸の酸無水物基をエステル化するためのアルコールは、一価アルコールであることが好ましく:炭素数1~8の脂肪族アルコール、炭素数1~8の環状(例えば脂環式)アルコール、炭素数6~10の芳香族アルコール等が含まれ;好ましくは炭素数1~8の環状アルコール又は脂肪族アルコールである。上記アルコールのなかでも、2-ブトキシエタノール、シクロヘキサノール、n-プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。これらアルコールは、一種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂を構成するモノマー成分は、スチレン系単量体及びマレイン酸ハーフエステルとともに、他のモノマー成分を有していてもよい。他のモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸もしくはそのエステル体が好ましく;(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0033】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂は、その酸価が100mgKOH/g以上であり、150mgKOH/g以上であることが好ましく;また、300mgKOH/g以下であり、280mgKOH/g以下であることが好ましく、200mgKOH/g以下であることがより好ましい。スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の酸価が100mgKOH/g以上であると、オーバーコート層に十分な脱離性を付与することができ、300mgKOH/g以下であると、オーバーコート層に十分な耐熱水性を付与することができる。
【0034】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の酸価は、前述のスチレン系樹脂の酸価と同様、たとえば共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(「理論酸価」ともいう)とみなすことにより算出し得る。なお、本願明細書に記載された、市場から入手可能なスチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂についての酸価の数値は、その樹脂のサプライヤーが公表している酸価であり、理論酸価であるとは限らず参考値であるが、理論酸価とみなしてもよい。
【0035】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂は、その重量平均分子量は特に限定されないが、例えば4×103以上であることが好ましく、6×103以上であることがより好ましく;また、2×105以下であることが好ましい。
【0036】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂は、市場から入手することも可能であり、例えば、アラスター(商標登録)700(荒川化学)、ハイロス(商標登録)XX-723(星光化学)、SMA(商標登録)I7352(Sartomer INC.)などが挙げられる。
【0037】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の含有量は、オーバーコートニス組成物に対して、0.8質量%以上であり、2.5質量%以上であることが好ましく;また、11質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましい。含有量が0.8質量%以上であると、オーバーコート層の十分な脱離性が得られ、一方、11質量%以下であればオーバーコート層の十分な耐熱水性が得られる。
【0038】
本発明のオーバーコートニス組成物における、樹脂成分(アクリル系樹脂、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂、並びに低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体を含む)の合計含有量に対する、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の含有量の質量比率(スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂/樹脂成分の合計)は、目安として、0.03以上0.40以下であることが好ましい。当該比率が0.03以上であると、オーバーコート層の脱離性が改善されやすく、0.40以下であると、耐熱水性が改善されやすい。
【0039】
また、オーバーコートニス組成物における、低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体の合計含有量に対する、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂の含有量の質量比率(スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂/低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体との合計)は、目安として、0.1以上であり、0.3以上であることが好ましく;また、3以下であり、2以下であることが好ましい。
【0040】
[1-3. 低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体]
本発明のオーバーコートニス組成物に含まれる低級アシル基置換体セルロース誘導体又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体は、セルロースのヒドロキシル基の一部を低級アシル基又は低級アルキル基で置換した、セルロース誘導体をいう。セルロース誘導体における低級アシル基又は低級アルキル基による水酸基の置換度は、30~85%程度であることが好ましい。低級アシル基置換体セルロース誘導体の例には、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが含まれる。低級アルキル基置換体セルロース誘導体の例には、メチルセルロース、エチルセルロース等が含まれる。
【0041】
本発明のオーバーコートニス組成物は、とりわけ、セルロースアセテートプロピオネート及び/又はセルロースアセテートブチレートを含むことが好ましい。セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートとして、従来からグラビア印刷インキ組成物に使用されている樹脂を使用することができる。セルロースアセテートプロピオネートは、セルロースを酢酸及びプロピオン酸でエステル化した後に加水分解して得られる。一般的にはアセチル化が0.6~2.5重量%、プロピオニル化が42~46重量%、水酸基が1.8~5重量%である樹脂が市販されている。セルロースアセテートブチレート樹脂は、セルロースを酢酸及び酪酸でエステル化した後、加水分解して得られる。一般的にはアセチル化が2~30質量%、ブチリル化が17~53質量%、水酸基が1~5質量%の樹脂が市販されている。
【0042】
本発明のオーバーコートニス組成物における、樹脂成分(アクリル系樹脂、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂、並びに低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体を含む)の合計含有量に対する、低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体の合計含有量の質量比率(低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体との合計/樹脂成分の合計)は、目安として、0.05~0.60の範囲である。
【0043】
また、オーバーコートニス組成物における、低級アシル基置換体セルロース誘導体と低級アルキル基置換体セルロース誘導体の合計含有量に対する、アクリル系樹脂の含有量の重量比率(アクリル系樹脂/セルロース誘導体の合計)は、90~30/10~70の範囲、つまり9/1~3/7の範囲にあることが好ましい。当該比率が9/1以下であると、オーバーコート層の耐熱水性を確保しやすく、当該比率が3/7以上であると、オーバーコート層の基材フィルムへの接着性が確保しやすい。
【0044】
[1-4. 有機溶剤]
本発明のオーバーコートニス組成物に含まれる有機溶剤の例には、主に、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤;及び、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤;等が含まれる。
【0045】
本発明のオーバーコートニス組成物に含まれる有機溶剤は、環境に配慮して芳香族炭化水素系有機溶剤を含有しないことが好ましく;さらに環境上の面を考慮して、可能な限りケトン系有機溶剤を含有しないことが好ましい。
【0046】
更に、本発明のオーバーコートニス組成物に含まれる有機溶剤は、組成物の濡れ性を向上させるために、有機溶剤100質量%中、グリコールエーテル系有機溶剤を0.1~20質量%含有させることが好ましい。グリコールエーテル系有機溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール-モノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-モノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が例示できる。
【0047】
オーバーコートニス組成物における有機溶剤の含有量は、オーバーコートニス組成物の全量から、各固形分(アクリル系樹脂、スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂、低級アシル基置換体セルロース誘導体及び/又は低級アルキル基置換体セルロース誘導体、を含む)と、必要により使用するその他の任意成分(添加剤など)との合計量を差し引いた量であるが;例えば、オーバーコートニス組成物に対して55~90質量%である。
【0048】
[1-5. その他の任意成分]
本発明のオーバーコートニス組成物は、界面活性剤、ワックス、その他の樹脂、抗菌剤などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0049】
本発明のオーバーコートニス組成物は、印刷適性やレベリング性などを向上させる点から界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤の例には、アセチレン系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が含まれる。界面活性剤の含有量は、オーバーコートニス組成物に対して、0~1.0質量%であることが好ましい。
【0050】
本発明のオーバーコートニス組成物は、ワックスを含有してもよい。ワックスとして、炭化水素系ワックスが使用でき;炭化水素系ワックスの好ましい例には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックスなどが含まれ、これを単独又は2種以上併用してもよい。ワックスとして、ポリエチレンワックス及び/又はフィッシャートロプシュワックスがより好ましく、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。ポリエチレンワックスとして、平均粒子径が1.0~10.0μmの範囲のもの(なお、平均粒子径は、Honeywell社Microtrac UPAにて測定した粒径を意味する)を使用することが好ましい。ワックスの含有量は、オーバーコートニス組成物に対して、0.1~1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0051】
[1-6. オーバーコートニス組成物の製造方法]
本発明のオーバーコートニス組成物は、上記した各材料を、例えば、撹拌羽根と撹拌機などを用いて撹拌混合することにより得られる。
【0052】
[2. シュリンクフィルム]
本発明のシュリンクフィルムは、少なくとも、基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に積層したオーバーコート層とを具備する積層フィルムである。シュリンクフィルムは、加熱されることによって収縮する性質(熱収縮性)を有している。
【0053】
[2-1. シュリンクフィルムを構成する層]
例として
図1に示すように、シュリンクフィルム10は、基材フィルム1と、オーバーコート層2とを有しており、さらに脱離層3と、インキ層4と、を有していてもよい。
【0054】
シュリンクフィルム10を構成する基材フィルム1は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等からなるポリエステルフィルム;スチレン-ブタジエンブロック共重合体等からなるスチレン系フィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂からなるオレフィン系フィルム;塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル系フィルムなどが挙げられる。これらは発泡フィルムであってもよい。基材フィルムの厚みは特に限定されないが、10~100μmの範囲であり得る。
【0055】
シュリンクフィルム10を構成するオーバーコート層2は、前述の「シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物」を基材フィルムに塗布乾燥して形成される層である。オーバーコートニス組成物を塗布する方法は特に限定されず:グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版輪転印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等の従来公知の汎用印刷法や、バーコーター、コンマコーター、スプレーコーター等の従来公知の汎用コーターを用いた塗工法などで塗布すればよい。オーバーコート層の厚みは、0.5~10μmの範囲であることが好ましい。
【0056】
シュリンクフィルム10は、オーバーコート層2を積層した基材フィルムの表面とは反対側の基材フィルムの表面に、インキ層4が積層されていてもよい。インキ層4は、例えば、シュリンクフィルムをシュリンクさせて製品の容器に装着した際に、当該製品の情報を示したり、意匠を表示する機能を有していてもよい。インキ層4は、白色インキ層4aと彩色インキ層4bとから構成されていてもよい。
【0057】
シュリンクフィルム10は、基材フィルム1とインキ層4との間に、脱離層3を有していてもよい。脱離層3は、インキ層4が基材フィルム1から脱離できるように構成されており、シュリンクフィルム10から基材フィルム1を回収することを可能にする。当該脱離層3は、例えば、前述の特許文献2~5に記載されたものとすることができる。
【0058】
[2-2. シュリンクフィルムの用途]
シュリンクフィルムは、製品の容器に装着されることによって、シュリンクラベルとして用いることができる。シュリンクフィルムを製品の容器に装着するには、シュリンクフィルムを、オーバーコート層が積層された面とは反対側の面と製品の容器の外面とが対向するように、製品の容器に巻き付けて;加熱することでシュリンクフィルムを熱収縮(シュリンク)させて、製品の容器に密着させればよい。
【0059】
本発明のシュリンクフィルムは、オーバーコート層の耐熱水性などが高いため、シュリンクフィルムを熱収縮させる際に、蒸気熱を用いて加熱する(蒸気法)ことができ、トンネル式シュリンク包装機などを用いて加熱することができる。
【0060】
[2-3. シュリンクラベルから基材フィルムの回収]
本発明のシュリンクラベルは、製品の容器から剥がされたのち、少なくともオーバーコート層を脱離することで、基材フィルムを回収することができる。オーバーコート層の脱離は、脱離液を用いて行うことができる。脱離液は、通常は塩基性水溶液(アルカリ水溶液)であり、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが溶解されている。脱離液における水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの含有量は、オーバーコート層が脱離できるように設定すればよいが、通常は1~5質量%の範囲である。
【0061】
オーバーコート層の脱離は、シュリンクフィルムを脱離液に浸漬することで行うことができる。浸漬時間及び浸漬時の脱離液の温度などの条件は特に限定されないが、例として、浸漬時間は1分~6時間、温度は常温~90℃である。
【0062】
オーバーコート層の脱離後、基材フィルムを水洗・乾燥するなどして回収することができる。回収された基材フィルムは、ペレット状にするなどして再利用することができる。
【実施例0063】
以下において、本発明を、実施例を参照して説明するが、本発明はこれら実施例によって限定して解釈されない。特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0064】
A.シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物の調製:
シュリンクラベル用オーバーコートニス組成物の調製に用いた材料を示す。各材料を、表1及び表2に示す配合となるように混合、攪拌し、実施例及び比較例のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物を得た。
【0065】
<アクリル系樹脂>
1. ダイヤナールBR-116 (三菱ケミカル) 酸価7.8mgKOH/g, Tg=48℃, 質量平均分子量Mw=40000
2. ダイヤナールLR-935 (三菱ケミカル) 酸価0~0.5mgKOH/g, Tg=50℃, 質量平均分子量Mw=45000
【0066】
<スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂>
1. アラスター700 (荒川化学) 酸価175~200mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=8900
2. 合成樹脂a (下記参照) 酸価150mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=19000
3. ハイロスXX-723 (星光化学) 酸価170mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=180000
4. SMAI7352 (Sartomer Inc.) 酸価255~278mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=70000
5. 合成樹脂b(下記参照) 酸価101mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=19000
6. 合成樹脂c(下記参照) 酸価78mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=19000
7. 合成樹脂d(下記参照) 酸価299mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=19000
8. 合成樹脂e(下記参照) 酸価319mgKOH/g, 質量平均分子量Mw=19000
【0067】
スチレンマレイン酸ハーフエステル樹脂である合成樹脂a~eは、特開2021-54877号の開示を参考に、以下の要領で合成した。
合成樹脂a:スチレン23質量部、α-メチルスチレン7質量部、メタクリル酸6質量部、メチルメタクリレート30質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル34質量部を常法の重合方法により合成した。
合成樹脂b:スチレン29質量部、α-メチルスチレン8質量部、メタクリル酸6質量部、メチルメタクリレート38質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル19質量部を常法の重合方法により合成した。
合成樹脂c:スチレン33質量部、α-メチルスチレン10質量部、メタクリル酸6質量部、メチルメタクリレート43質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル12質量部を常法の重合方法により合成した。
合成樹脂d:スチレン14質量部、α-メチルスチレン4質量部、メタクリル酸29質量部、メチルメタクリレート19質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル34質量部を常法の重合方法により合成した。
合成樹脂e:スチレン14質量部、α-メチルスチレン4質量部、メタクリル酸31質量部、メチルメタクリレート17質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル34質量部を常法の重合方法により合成した。
【0068】
<低級アシル基置換体セルロース誘導体>
1. CAP-482-0.5 (イーストマンコダック) セルロースアセテートプロピオネート
2. CAB-381-0.5 (イーストマンコダック) セルロースアセテートブチレート
【0069】
<界面活性剤>
Tego glide 410(Evonik社製、ポリエーテル変性ポリシロキサンコポリマー)
【0070】
<ワックス>
ポリコンPA-60 (ポリコン社) ポリエチレンワックス
【0071】
<その他の樹脂>
1. 合成ウレタン樹脂 (下記参照)
2. Joncyrl 678 (BASFジャパン) 酸価215mgKOH/g, アクリル系樹脂
3. ダイマレックスレジン (イーストマンケミカル)、酸価145mgKOH/g , 重合ロジン
【0072】
その他の樹脂である上記の合成ウレタン樹脂は、以下の手順で合成した。攪拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジベートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100~105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル517質量部、イソプロピルアルコール91質量部を加えた後、イソホロンジアミン16.3質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミン0.5質量部を加えて反応を停止し、数平均分子量66000、固形分30%の高分子量ポリウレタン樹脂ワニス1を得た。なお、得られた高分子量ポリウレタン樹脂の酸価は0である。
【0073】
B. オーバーコートニス組成物の基材への塗布
収縮性PETフィルム(東洋紡社 SP809#40μm)に、オーバーコートニス組成物をバーコーター(線径0.10mm)にて塗布及び乾燥して、厚みが1.0μmのオーバーコート層を形成し、印刷物サンプルを作製した。
【0074】
C. 印刷物サンプルの評価
作成した印刷物サンプルを、以下の項目(C-1~C-6)について評価して、評価基準を表1及び表2に示した。
【0075】
C-1. 印刷物サンプルの評価:脱離性
98.5質量部の水に水酸化ナトリウム1.5質量部を添加し、撹拌・溶解して脱離液を得た。容量250ccのHDPE(高密度ポリエチレン)製容器に上記脱離液を100g入れ、湯浴を用いて加熱し、液温85℃とした。液温が85℃に達した後、上記印刷物サンプルを脱離液中に投入し、羽の直径が25mmのステンレススチール製撹拌羽を用いて10分間、20分間、又は30分間撹拌した。撹拌後、HDPE製容器を湯浴より取り出し、室温下で5分間静置した。脱離液とPETフィルム片を目開き約2mmのステンレススチール製網を用いて分離した。
(評価基準)
〇:撹拌時間10分以内に脱離した
△:撹拌時間10分を超えて20分以内に脱離した
×:撹拌時間20分を超えても脱離しなかった
【0076】
C-2. 印刷物サンプルの評価:耐熱水性
オーバーコート層(ニス面)が外面になるように印刷物サンプルを市販PETボトル(500ml角ボトル)に巻き付け、90℃の熱水に曝して印刷物サンプルを収縮させることでボトルに装着した。印刷物サンプルを装着したPETボトルの内部に90℃の熱水を充填し、水で濡れているPETボトル同士を密着させた状態で積み上げた。その状態で30分間自然冷却した後、内容物の水を除去し、40℃オーブン中にて乾燥させた。乾燥後、印刷物のブロッキングの有無で、耐熱水性を評価した。
(評価基準)
〇:ブロッキングが全く確認されなかった
△:ブロッキングが一部確認された
×:かなりのブロッキングが認められた
【0077】
C-3. 印刷物サンプルの評価:接着性
印刷物サンプルのオーバーコート層(ニス面)にセロハンテープを貼り付け、これを急速に剥がしたときのオーバーコート層の剥離する度合いから、以下の評価基準に沿って接着性を評価した。
(評価基準)
〇:オーバーコート層の基材フィルムからの剥離割合が、面積比率で5%未満
△:オーバーコート層の基材フィルムからの剥離割合が、面積比率で5%以上30%未満
×:オーバーコート層の基材フィルムからの剥離割合が、面積比率で30%以上
【0078】
C-4. 印刷物サンプルの評価:耐スクラッチ性
印刷物サンプルのオーバーコート層(ニス面)を爪の背で強く擦り、ニス被膜の脱落を見て評価した。
(評価基準)
〇:全く傷が入らなかった
△:一部が剥離した
×:大部分が剥離したか、完全に剥離した
【0079】
C-5. 印刷物サンプルの評価:耐摩擦性
印刷物サンプルのオーバーコート層(ニス面)を、摩擦子にKライナーを用い、学振試験機(大栄科学精機製作所)にて荷重500gで1000回往復し、オーバーコート層の脱落した度合いから耐水耐摩擦性を評価した。
(評価基準)
〇:オーバーコート層の脱落がない
△:オーバーコート層の脱落が、面積比率で30%未満である
×:オーバーコート層の脱落が、面積比率で30%以上である
【0080】
C-6. 印刷物サンプルの評価:滑り性
印刷物サンプルの摩擦係数(静摩擦係数及び動摩擦係数)を、JIS K 7125に準拠して測定した。2つの印刷物サンプルのオーバーコート層同士を重ね合わせて10秒間静置したのち、滑り速度500mm/分の条件で滑らせて静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。なお、乾燥状態の印刷物サンプルを測定対象とした。静摩擦係数及び動摩擦係数の両方の測定値が0.1~0.5の範囲にある場合を、滑り性「〇」と評価した。
【0081】
【0082】
【0083】
表2に示すように、スチレンマレイン酸ハーフエステルの配合量が0.5質量%である比較例1の組成物は、脱離性の評価が悪いことがわかる。また、表2に示すように、スチレンマレイン酸ハーフエステルの配合量が12質量%である比較例2の組成物は、耐熱水性の評価が悪いことがわかる。これに対して、表1に示すように、スチレンマレイン酸ハーフエステルの配合量が1~10質量%の範囲にある実施例1~5の組成物は、脱離性及び耐熱水性を含めて全ての項目で十分な評価となっている。このように、スチレンマレイン酸ハーフエステルの配合量が一定以上であるとオーバーコート層の脱離性が改善し、一定以下であるとオーバーコート層の耐熱水性が改善することがわかる。
【0084】
表2に示すように、スチレンマレイン酸ハーフエステルを配合せず、酸価がないウレタン樹脂を配合した比較例3の組成物は、脱離性の評価が悪いことがわかる。このように、一定の酸価を有するスチレンマレイン酸ハーフエステルを配合することで、オーバーコート層の脱離性が改善することがわかる。
【0085】
表2に示すように、スチレンマレイン酸ハーフエステルを配合せず、アクリル系樹脂又は重合ロジンを配合した比較例4又は5の組成物は、耐熱水性の評価が悪いことがわかる。このように、一定の酸価を有するアクリル系樹脂又は重合ロジンを配合することでオーバーコート層の脱離性は得られる場合があるものの、スチレンマレイン酸ハーフエステルを配合すればオーバーコート層の脱離性と共に耐熱水性も確保することができることがわかる。
【0086】
表2に示すように、アクリル系樹脂を配合しない比較例6の組成物は、接着性の評価が悪化していることがわかる。一方で、表1に示すように、アクリル系樹脂を配合した組成物(とりわけ、実施例1及び11を参照)は、接着性を含めて全ての項目で十分な評価となっている。このように、アクリル系樹脂を配合することで、オーバーコート層の基材への接着性が高まることがわかる。
【0087】
表2に示すように、配合したスチレンマレイン酸ハーフエステルの酸価が78mgKOH/gである比較例7の組成物は、脱離性の評価が悪いことがわかる。また、表2に示すように、配合したスチレンマレイン酸ハーフエステルの酸価が319mgKOH/gである比較例8の組成物は、耐熱水性の評価が悪いことがわかる。これに対して、表1に示すように、配合したスチレンマレイン酸ハーフエステルの酸価が101mgKOH/gから299mgKOH/gの範囲にある実施例1と実施例6~10の組成物は、脱離性及び耐熱水性を含めて全ての項目で十分な評価となっている。このように、スチレンマレイン酸ハーフエステルの酸価が一定以上であるとオーバーコート層の脱離性が改善し、一定以下であると耐熱水性が改善することがわかる。
【0088】
表1に示すように、実施例1~16の組成物はいずれも、脱離性及び耐熱水性を含めて全ての項目で十分によい評価とされている。そのなかでも、実施例1~5のうち、実施例2の組成物は脱離性がやや劣るという評価であり、実施例5の組成物は耐熱水性の評価がやや劣るという評価になった。このことからも、スチレンマレイン酸ハーフエステルの配合量が一定以上であるとオーバーコート層の脱離性が改善し、一定以下であると耐熱水性が改善することがわかる。
【0089】
また、実施例1及び実施例6~10のうち、実施例8及び実施例10の組成物は耐熱水性の評価がやや劣り、実施例9の組成物は脱離性の評価がやや劣るという評価であった。このことから、スチレンマレイン酸ハーフエステルの酸価が一定以上であると、より脱離性が改善しやすいことがわかる。
【0090】
さらに、実施例1及び実施例12~16のうち、実施例12の組成物は耐熱水性の評価がやや劣り、実施例15の組成物は接着性がやや劣るという評価になった。このことから、アクリル系樹脂の配合量を一定以下とすることで、セルロース誘導体との含有比を上げると、オーバーコート層の耐熱水性が改善しやすいことがわかる。また、アクリル系樹脂の配合量を一定以上とすることで、セルロース誘導体との含有比を下げると、オーバーコート層の接着性が改善しやすいことがわかる。
本発明のシュリンクラベル用オーバーコートニス組成物は、シュリンクフィルムにオーバーコート層を形成するために用いられ;当該オーバーコート層は、耐熱水性及び耐摩擦性と共に、接着性や滑り性を有しうる。このシュリンクフィルムは、容器に装着させることでシュリンクラベルとして用いることができ;かつシュリンクラベルから基材フィルムを回収して再利用することができる。