(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042277
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 43/00 20060101AFI20240321BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240321BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20240321BHJP
F02M 26/52 20160101ALI20240321BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
F02D43/00 301N
F02D43/00 301B
F02D45/00 360Z
F02D45/00 368A
F02P5/15 G
F02M26/52
F02D21/08 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146875
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広直
(72)【発明者】
【氏名】山本 宇紘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清史
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】池澤 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】福田 英士
【テーマコード(参考)】
3G022
3G062
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA10
3G022GA05
3G022GA06
3G022GA07
3G022GA08
3G022GA14
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3G022GA20
3G062BA08
3G062DA01
3G062GA01
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3G092AB02
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3G092BA03
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3G384EB08
3G384FA01
3G384FA06
3G384FA08
3G384FA48
3G384FA56
3G384FA68
3G384FA71
3G384FA79
(57)【要約】
【課題】エンジン熱効率の低下を抑制しつつピストン打音を解消する。
【解決手段】エンジン制御装置は、エンジン振動を検出する振動センサと、EGRデバイスおよび点火デバイスを制御する制御システムと、を有する。前記EGRデバイスの制御に用いられるEGR制御マップとして、第1EGRマップよりも高いEGR率が設定される第2EGRマップがある。前記点火デバイスの制御に用いられる点火制御マップとして、第1点火マップよりも進角側の点火時期が設定される第2点火マップがある。前記制御システムは、前記振動センサから出力される振動信号に、バンドパスフィルタ処理を施すことで、ピストン打音に関する周波数帯域の信号成分を抽出する。前記制御システムは、前記信号成分の大きさが閾値を上回る場合に、前記EGR制御マップを前記第2EGRマップに切り替え、前記点火制御マップを前記第2点火マップに切り替える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系から吸気系に排気ガスを供給するEGRデバイスと、燃焼室内の混合気に点火する点火デバイスと、を制御するエンジン制御装置であって、
エンジン本体に取り付けられ、エンジン振動を検出する振動センサと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記EGRデバイスおよび前記点火デバイスを制御する制御システムと、
を有し、
前記EGRデバイスの制御に用いられるEGR制御マップとして、エンジン運転点毎にEGR率が設定される第1EGRマップと、前記第1EGRマップよりも高いEGR率が設定される第2EGRマップと、があり、
前記点火デバイスの制御に用いられる点火制御マップとして、エンジン運転点毎に点火時期が設定される第1点火マップと、前記第1点火マップよりも進角側の点火時期が設定される第2点火マップと、があり、
前記制御システムは、
前記振動センサから出力される振動信号に、バンドパスフィルタ処理を施すことで、ピストン打音に関する周波数帯域の信号成分を抽出し、
前記信号成分の大きさが閾値を上回る場合に、前記EGR制御マップを前記第1EGRマップから前記第2EGRマップに切り替え、かつ前記点火制御マップを前記第1点火マップから前記第2点火マップに切り替える、
エンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記EGR制御マップを前記第1EGRマップから前記第2EGRマップに切り替え、かつ前記点火制御マップを前記第1点火マップから前記第2点火マップに切り替えることにより、混合気の燃焼位相を特定範囲に維持しつつ混合気の燃焼速度を低下させる、
エンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン制御装置において、
前記特定範囲には、燃焼室に対する供給燃料の50%が燃焼するときの燃焼位相が含まれている、
エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRデバイスおよび点火デバイスを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内でピストンを往復させるエンジンにおいては、所謂ピストンの首振り運動によるピストン打音が発生してしまう虞がある。このピストンスラップによるピストン打音を抑制するため、クランク室を減圧したり暖機促進制御を禁止したりする制御装置が提案されている(特許文献1および2参照)。また、エンジンのノッキングを抑制するため、点火時期を遅角させる制御装置も提案されている(特許文献3および4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-174659号公報
【特許文献2】特開2011-236783号公報
【特許文献3】特開平2-104971号公報
【特許文献4】特開2012-193628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ピストン打音の発生要因の1つとして、膨張行程における燃焼速度の過度な上昇が考えられる。このため、点火時期を遅角させて燃焼速度を低下させることにより、首振り運動を抑えてピストン打音を低減させることも考えられるが、点火時期を遅角させることはエンジン熱効率を低下させる要因であった。このため、エンジン熱効率の低下を抑制しつつピストン打音を解消することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、エンジン熱効率の低下を抑制しつつピストン打音を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態のエンジン制御装置は、排気系から吸気系に排気ガスを供給するEGRデバイスと、燃焼室内の混合気に点火する点火デバイスと、を制御するエンジン制御装置であって、エンジン本体に取り付けられ、エンジン振動を検出する振動センサと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記EGRデバイスおよび前記点火デバイスを制御する制御システムと、を有し、前記EGRデバイスの制御に用いられるEGR制御マップとして、エンジン運転点毎にEGR率が設定される第1EGRマップと、前記第1EGRマップよりも高いEGR率が設定される第2EGRマップと、があり、前記点火デバイスの制御に用いられる点火制御マップとして、エンジン運転点毎に点火時期が設定される第1点火マップと、前記第1点火マップよりも進角側の点火時期が設定される第2点火マップと、があり、前記制御システムは、前記振動センサから出力される振動信号に、バンドパスフィルタ処理を施すことで、ピストン打音に関する周波数帯域の信号成分を抽出し、前記信号成分の大きさが閾値を上回る場合に、前記EGR制御マップを前記第1EGRマップから前記第2EGRマップに切り替え、かつ前記点火制御マップを前記第1点火マップから前記第2点火マップに切り替える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、ピストン打音に関する周波数帯域の信号成分を抽出し、信号成分の大きさが閾値を上回る場合に、EGR制御マップを第1EGRマップから第2EGRマップに切り替え、かつ点火制御マップを第1点火マップから第2点火マップに切り替える。これにより、エンジン熱効率の低下を抑制しつつピストン打音を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態であるエンジン制御装置を備えた車両の一例を示した図である。
【
図2】エンジン制御装置によって制御されるエンジンの一例を示した図である。
【
図3】エンジン制御装置の構成例を示した図である。
【
図4】電子制御ユニットの基本構造の一例を示した図である。
【
図5】打音抑制制御の実行手順の一例を示したフローチャートである。
【
図6】振動センサによって検出される振動信号の一例を示した図である。
【
図7】バンドパスフィルタ処理によって抽出された信号成分の一例を示した図である。
【
図8】打音抑制制御における混合気の燃焼速度および燃焼位相の推移例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両]
図1は本発明の一実施形態であるエンジン制御装置10を備えた車両11の一例を示した図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン12および変速機13からなるパワーユニット14が搭載されている。パワーユニット14の出力軸15には、プロペラ軸16およびデファレンシャル機構17を介して後輪18が連結されている。なお、図示するパワーユニット14は、後輪駆動用のパワーユニットであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や全輪駆動用のパワーユニットであっても良い。
【0011】
[エンジン]
図2はエンジン制御装置10によって制御されるエンジン12の一例を示した図である。
図2に示すように、エンジン12は、シリンダブロック20と、これに取り付けられるシリンダヘッド21と、を有している。シリンダブロック20には、クランク軸22が回転可能に支持されるとともに、クランク軸22に連結されるピストン23が往復動可能に収容されている。また、シリンダヘッド21には、吸気ポート24に向けて吸入空気を案内する吸気系25が接続されており、排気ポート26からの排気ガスを案内する排気系27が接続されている。また、シリンダヘッド21には、燃焼室28内に燃料を噴射するインジェクタ29が取り付けられている。さらに、シリンダヘッド21には、燃焼室28内の混合気に点火するため、イグナイタや点火プラグ等からなる点火デバイス30が取り付けられている。
【0012】
シリンダヘッド21に接続される吸気系25は、エアクリーナボックス31、スロットルバルブ32、吸気マニホールド33、およびこれらの部品を連結する吸気管34,35によって構成されている。また、シリンダヘッド21に接続される排気系27は、排気マニホールド36、触媒コンバータ37、消音器38、およびこれらの部品を連結する排気管39,40によって構成されている。エアクリーナボックス31に取り込まれた吸入空気は、スロットルバルブ32を経て吸気マニホールド33に供給され、吸気マニホールド33から吸気ポート24を経て燃焼室28に供給される。そして、燃焼室28から排出される排気ガスは、排気マニホールド36から触媒コンバータ37および消音器38を経て外部に放出される。
【0013】
また、エンジン12には、排気系27から吸気系25に排気ガスの一部を供給するEGRデバイス50が設けられている。以下の説明では、排気系27から吸気系25に供給される排気ガスを、EGRガスとして記載する。なお、EGRとは、「Exhaust Gas Recirculation」である。
【0014】
EGRデバイス50は、排気系27の排気管39に接続されるEGR上流配管51と、吸気系25の吸気マニホールド33に接続されるEGR下流配管52と、EGR上流配管51とEGR下流配管52との間に設けられるEGRバルブ53と、を有している。また、EGR上流配管51には、EGRガスを冷却するEGRクーラ54が設けられており、EGRガスの圧力を検出するEGR圧力センサ55が設けられている。排気系27から吸気系25に対するEGRガスの供給は、図示しないソレノイドを備えたEGRバルブ53によって制御される。つまり、ソレノイドを制御してEGRバルブ53が開かれると、矢印Geで示すように、排気系27からEGR上流配管51およびEGR下流配管52を介して吸気系25にEGRガスが供給される。一方、ソレノイドを制御してEGRバルブ53が閉じられると、EGR上流配管51とEGR下流配管52との間が遮断されるため、排気系27から吸気系25に対するEGRガスの供給が停止される。
【0015】
[制御システム]
図3はエンジン制御装置10の構成例を示した図である。
図3に示すように、エンジン制御装置10には、EGRデバイス50や点火デバイス30等を制御するため、電子制御ユニット60からなる制御システム61が設けられている。電子制御ユニット60は、スロットルバルブ32の開度を制御するスロットル制御部62、インジェクタ29の燃料噴射量を制御するインジェクタ制御部63、点火デバイス30による混合気への点火時期を制御する点火制御部64、およびEGRデバイス50を構成するEGRバルブ53の開度を制御するEGR制御部65を有している。
【0016】
電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ66、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ67、およびブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ68がある。また、電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、クランク軸22の回転速度であるエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ69、吸気系25を流れる吸入空気の流量つまり吸入空気量を検出するエアフローセンサ70、吸気マニホールド33内の圧力を検出する吸気圧力センサ71、およびEGR上流配管51内の圧力を検出するEGR圧力センサ55等がある。さらに、電子制御ユニット60には、シリンダブロック(エンジン本体)20に取り付けられた振動センサ72が接続されるとともに、制御システム61を起動する際に運転者によって操作されるスタートスイッチ73が接続されている。
【0017】
電子制御ユニット60の各制御部62~65は、各センサからの出力信号に基づいて、スロットルバルブ32、インジェクタ29、点火デバイス30およびEGRデバイス50の制御目標を設定する。そして、電子制御ユニット60の各制御部62~65は、各制御目標に応じて設定された制御信号を、スロットルバルブ32、インジェクタ29、点火デバイス30およびEGRデバイス50に向けて出力する。例えば、電子制御ユニット60は、エンジン12の運転点に応じて目標となる点火時期を設定し、この目標点火時期に基づいて点火デバイス30を制御する。また、電子制御ユニット60は、エンジン12の運転点に応じて目標となるEGR率(吸入空気に対するEGRガスの混合率)を設定し、このEGR率に基づきEGRバルブ53の開度を制御する。
【0018】
図4は電子制御ユニット60の基本構造の一例を示した図である。
図4に示すように、電子制御ユニット60は、プロセッサ80およびメインメモリ(メモリ)81等が組み込まれたマイクロコントローラ82を有している。メインメモリ81には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ80によってプログラムが実行される。プロセッサ80とメインメモリ81とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ82に複数のプロセッサ80を組み込んでも良く、マイクロコントローラ82に複数のメインメモリ81を組み込んでも良い。
【0019】
また、電子制御ユニット60には、入力回路83、駆動回路84、通信回路85、外部メモリ86および電源回路87等が設けられている。入力回路83は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。駆動回路84は、マイクロコントローラ82から出力される信号に基づき、前述した点火デバイス30やEGRデバイス50等に対する駆動信号を生成する。通信回路85は、マイクロコントローラ82から出力される信号を、他の電子制御ユニット等に向けた通信信号に変換する。また、通信回路85は、他の電子制御ユニット等から受信した通信信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路87は、マイクロコントローラ82、入力回路83、駆動回路84、通信回路85および外部メモリ86等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ86には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0020】
[打音抑制制御]
ところで、混合気を燃焼させる膨張行程の序盤においては、シリンダブロック20内のピストン23に所謂首振り運動が発生し、ピストン23がシリンダ内壁20aに衝突してしまう虞がある。つまり、膨張行程の序盤においては、ピストン23がシリンダ内壁20aに衝突する虞があることから、所謂ピストンスラップによる衝突音つまりピストン打音を発生させてしまう虞がある。このピストン打音の発生を抑制するため、後述するように、制御システム61は打音抑制制御を実行している。
【0021】
続いて、制御システム61による打音抑制制御の実行状況について説明する。
図5は打音抑制制御の実行手順の一例を示したフローチャートである。また、
図5に示される打音抑制制御の各ステップには、制御システム61を構成するプロセッサ80によって実行される処理が示されている。さらに、
図5に示される打音抑制制御は、制御システム61が起動された後に、制御システム61によって所定周期毎に実行される制御である。
【0022】
図5に示すように、ステップS10では、振動センサ72から出力される振動信号が制御システム61に読み込まれ、ステップS11では、制御システム61によって振動信号にバンドパスフィルタ処理が施され、振動信号からピストン打音に関する周波数帯域の信号成分が抽出される。なお、特定の周波数帯域の信号成分を通過させるバンドパスフィルタ処理を実行する際には、電子制御ユニット60等に組み込まれるアナログ回路によってバンドパスフィルタ処理を実行しても良く、電子制御ユニット60が実行するプログラムによって、例えば高速フーリエ変換等を用いた、バンドパスフィルタ処理を実行しても良い。
【0023】
図6は振動センサ72によって検出される振動信号の一例を示した図であり、
図7はバンドパスフィルタ処理によって抽出された信号成分の一例を示した図である。
図6に示すように、エンジン振動を検出する振動センサ72は、シリンダブロック20の振動によって得られる振動信号として電圧信号を出力する。制御システム61は、振動センサ72から出力される振動信号に対してバンドパスフィルタ処理を施すことにより、
図7に示すように、振動信号からピストン打音に関する周波数帯域の信号成分を抽出する。例えば、前述したピストン打音に起因するエンジン振動の周波数帯域として、下限周波数(例えば800Hz)と上限周波数(例えば1800Hz)との間の周波数帯域Fxが挙げられる。そして、振動信号に対して前述のバンドパスフィルタ処理を施すことにより、周波数帯域Fx以外の信号成分は減衰され、周波数帯域Fxの信号成分が抽出される。また、周波数帯域Fxの信号成分である振動信号の振幅幅、つまりバンドパスフィルタ処理が施された振動センサ72の振動信号の振幅幅を、打音レベルLPとする。この打音レベルLPの大きさが所定の閾値L1を上回る場合には、ピストンスラップによるピストン打音が発生していると考えられる。
【0024】
図5に示すように、ステップS12では、打音レベルLPのピーク値LPpが検出され、続くステップS13では、打音レベルLPのピーク値LPpが所定の閾値L1を上回るか否かが判定される。なお、ピストン打音発生の誤判定を防止するため、打音レベルLPのピーク値LPpは、複数回に亘って検出されたピーク値LPpの平均値であることが望ましい。続くステップS13において、ピーク値LPpが閾値L1以下であると判定された場合には、ピストン打音が十分に抑えられたエンジン運転状況であるため、ステップS14に進み、通常EGRマップ(第1EGRマップ)に基づいて、EGRデバイス50の制御目標である目標EGR率が決定される。また、ステップS15では、通常点火マップ(第1点火マップ)に基づいて、点火デバイス30の制御目標である目標点火時期が決定される。一方、ステップS13において、ピーク値LPpが閾値L1を上回ると判定された場合には、ピストン打音が発生しているエンジン運転状況であるため、ステップS16に進み、補正EGRマップ(第2EGRマップ)に基づいて、EGRデバイス50の制御目標である目標EGR率が決定される。また、ステップS17では、補正点火マップ(第2点火マップ)に基づいて、点火デバイス30の制御目標である目標点火時期が決定される。
【0025】
ここで、通常EGRマップおよび補正EGRマップは、EGRデバイス50の制御に用いられるEGR制御マップである。換言すれば、通常EGRマップおよび補正EGRマップは、エンジン回転数および吸入空気量によって定まるエンジン運転点毎に、目標となるEGR率が設定されたEGR制御マップである。また、同一のエンジン運転点において、補正EGRマップに設定されるEGR率は、通常EGRマップに設定されるEGR率よりも高くなっている。つまり、補正EGRマップを用いてEGRデバイス50を制御した場合には、通常EGRマップを用いてEGRデバイス50を制御した場合よりも、高いEGR率に向けてEGRガスを増加させるようにEGRデバイス50が制御されることになる。なお、補正EGRマップには、全てのエンジン運転点において、通常EGRマップよりも高いEGR率が設定されていても良く、少なくとも一部のエンジン運転点において、通常EGRマップよりも高いEGR率が設定されていても良い。
【0026】
また、通常点火マップおよび補正点火マップは、点火デバイス30の制御に用いられる点火制御マップである。換言すれば、通常点火マップおよび補正点火マップは、エンジン回転数および吸入空気量によって定まるエンジン運転点毎に、目標となる点火時期が設定された点火制御マップである。また、同一のエンジン運転点において、補正点火マップに設定される点火時期は、通常点火マップに設定される点火時期よりも進角側である。つまり、補正点火マップを用いて点火デバイス30を制御した場合には、通常点火マップを用いて点火デバイス30を制御した場合よりも、点火時期を進角させるように点火デバイス30が制御されることになる。なお、補正点火マップには、全てのエンジン運転点において、通常点火マップよりも進角側の点火時期が設定されていても良く、少なくとも一部のエンジン運転点において、通常点火マップよりも進角側の点火時期が設定されていても良い。
【0027】
図5に示すように、ステップS13において、打音レベルLPのピーク値LPpが閾値L1を上回ると判定された場合には、ピストン打音が発生するエンジン12の運転状況であると判定される。このように、ピストン打音が発生していると判定されると、ステップS16に進み、補正EGRマップに基づきEGRデバイス50が制御され、ステップS17に進み、補正点火マップに基づき点火デバイス30が制御される。すなわち、打音レベルLPが閾値L1を上回ると判定された場合には、EGR制御マップが通常EGRマップから補正EGRマップに切り替えられ、かつ点火制御マップが通常点火マップから補正点火マップに切り替えられる。これにより、EGR率が高められるとともに点火時期が進角側に制御されるため、エンジン12の燃焼位相を特定範囲に維持しつつ混合気の燃焼速度を低下させることができ、エンジン熱効率の低下を抑制しながらピストン打音を抑制することができる。
【0028】
ここで、
図8は打音抑制制御における混合気の燃焼速度および燃焼位相の推移例を示した図である。なお、
図8に示した混合気の燃焼位相Xaとは、燃焼室28に対する供給燃料の50%が燃焼するときのクランク回転角(CA50)を意味している。なお、供給燃料の50%が燃焼する状況とは、供給燃料における質量の50%が燃焼する状況を意味している。
【0029】
図8に示すように、運転点P1でエンジン12が運転された状況のもとで、振動信号からピストン打音が発生していると判定された場合には、補正EGRマップを用いることでEGRガスを増加させるようにEGR率が高められる。このように、EGRガスを増加させることにより、矢印α1で示すように、混合気の燃焼速度を低下させるとともに、混合気の燃焼位相を遅角側に制御することができる。さらに、運転点P1でエンジン12が運転された状況のもとで、振動信号からピストン打音が発生していると判定された場合には、補正点火マップを用いることで点火時期が進角側に制御される。このように、点火時期を進角側に制御することにより、矢印α2で示すように、混合気の燃焼位相が当初の特定範囲X1を維持するように、燃焼位相を進角側に制御することができる。
【0030】
すなわち、運転点P1から運転点P2に移行させるように、燃焼位相を特定範囲X1に維持したまま燃焼速度を低下させることができるため、エンジン熱効率の低下を抑制しながらピストン打音を抑制することができる。つまり、燃焼速度を低下させることでピストン打音を抑制するとともに、燃焼位相を特定範囲X1に維持することでエンジン熱効率の低下を抑制することができる。また、燃焼位相が維持される特定範囲X1には、燃焼室28に対する供給燃料の50%が燃焼するときの燃焼位相Xaが含まれている。このような特定範囲X1に燃焼位相を維持することにより、燃焼速度を低下させてもエンジン熱効率の低下を抑制することが可能である。なお、エンジン熱効率を高める観点からは、運転点P1から運転点P2に移行させる際に、燃焼位相Xaを維持することが望ましい。
【0031】
ここで、燃焼速度を低下させてピストン打音を抑制するためには、点火時期を遅角側に制御することも考えられる。しかしながら、ピストン打音を抑制するために点火時期を遅角側に制御した場合には、
図8に矢印β1で示すように、点火時期とともに燃焼位相も遅角側に制御されることから、エンジン熱効率を大幅に低下させてしまう虞がある。これに対し、本実施形態においては、矢印α1,α2で示すように、EGR率を高めるとともに点火時期を進角させることにより、燃焼位相を特定範囲X1に維持したまま燃焼速度を低下させることができ、エンジン熱効率の低下を抑制しながらピストン打音を抑制することができる。
【0032】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、1つの電子制御ユニット60によって制御システム61を構成しているが、これに限られることはなく、ネットワークを介して互いに接続される複数の電子制御ユニットによって制御システム61を構成しても良い。また、エンジン振動を検出する振動センサ72として、圧電素子が組み込まれたノッキングセンサを用いることが可能であるが、加速度を検出可能な振動センサであれば如何なるセンサを用いても良い。また、前述の説明では、振動センサ72をシリンダブロック20に取り付けているが、これに限られることはなく、例えば振動センサ72をシリンダヘッド21に取り付けても良い。
【符号の説明】
【0033】
10 エンジン制御装置
20 シリンダブロック(エンジン本体)
25 吸気系
27 排気系
28 燃焼室
30 点火デバイス
50 EGRデバイス
61 制御システム
72 振動センサ
80 プロセッサ
81 メインメモリ(メモリ)
LP 打音レベル(信号成分)
L1 閾値
X1 特定範囲
Xa 燃焼位相