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特開2024-42278航行支援装置、航行支援システム、航行支援方法、航行支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042278
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】航行支援装置、航行支援システム、航行支援方法、航行支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20240321BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20240321BHJP
   G08G 3/00 20060101ALI20240321BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20240321BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
B63B79/40
G08G3/00 A
G05D1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146877
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 和也
【テーマコード(参考)】
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H301AA04
5H301BB20
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG08
5H301LL01
5H301QQ06
(57)【要約】
【課題】岸壁や桟橋のような船舶の航行に関する特定物標を高精度に推定する。
【解決手段】
航行支援装置10は、候補生成部30、選択部40、および、形状推定部50を備える。候補生成部30は、船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成する。選択部40は、船舶と複数の候補線分との位置関係に基づいて、推定対象物標を構成する複数の推定素材線分を複数の候補線分から選択する。形状推定部50は、選択した複数の推定素材線分に基づいて、推定対象物標の形状を推定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成する候補生成部と、
前記船舶と前記複数の候補線分との位置関係に基づいて、前記推定対象物標を構成する推定素材線分を前記複数の候補線分から選択する選択部と、
前記選択した推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する形状推定部と、
を備える、航行支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の航行支援装置であって、
前記選択部は、
前記船舶の船首方位を取得し、
前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向とに基づいて、前記推定素材線分を選択する、
航行支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の航行支援装置であって、
前記選択部は、前記船首方位または前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との偏角に基づいて、前記推定素材線分を選択する、
航行支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の航行支援装置であって、
前記選択部は、自船位置と前記複数の候補線分との距離に基づいて、前記推定素材線分を選択する、
航行支援装置。
【請求項5】
請求項3に記載の航行支援装置であって、
前記選択部は、
前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、自船位置を基準とする異なる複数の領域に前記複数の候補線分を分類する分類部を備え、
前記複数の領域毎に前記推定素材線分を選択する、
航行支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の航行支援装置であって、
前記分類部は、前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて前記分類を行う、
航行支援装置。
【請求項7】
請求項5に記載の航行支援装置であって、
前記分類部は、
前記複数の領域を、少なくとも船舶の左舷側の領域および右舷側の領域に設定する、
航行支援装置。
【請求項8】
請求項5に記載の航行支援装置であって、
前記分類部は、
前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、前記自船位置を基準とする異なる複数の領域に前記複数の候補線分を分類する、
航行支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の航行支援装置であって、
前記分類部は、
前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて前記分類を行う、
航行支援装置。
【請求項10】
請求項8に記載の航行支援装置であって、
前記分類部は、
前記複数の領域を、少なくとも船首側の領域を含むように設定する、
航行支援装置。
【請求項11】
請求項1に記載の航行支援装置であって、
前記形状推定部は、
前記選択部で複数選択した前記推定素材線分の結合状態に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、
航行支援装置。
【請求項12】
請求項11に記載の航行支援装置であって、
前記形状推定部は、
前記結合状態として、互いに略直交する3本の前記推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、
航行支援装置。
【請求項13】
請求項12に記載の航行支援装置であって、
前記形状推定部は、
前記推定対象物標として、自船位置を基準とする三方向に桟橋を有する形状を推定する、
航行支援装置。
【請求項14】
請求項1に記載の航行支援装置であって、
前記候補生成部は、
二次元の点群データから直線成分を抽出して、前記複数の候補線分を生成する、
航行支援装置。
【請求項15】
請求項14に記載の航行支援装置であって、
前記船舶の周囲を三次元測距して、三次元の前記点群データを生成する測距部と、
前記三次元の点群データを水平面に投影して前記二次元の点群データを生成し、前記二次元の点群データを前記候補生成部に出力する二次元データ生成部と、
を備える、航行支援装置。
【請求項16】
請求項1に記載の航行支援装置と、
前記推定対象物標の形状に基づいて、前記船舶を前記推定対象物標の特定位置に到達させる自動操船制御を行う制御部と、
を備える、航行支援システム。
【請求項17】
船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成し、
前記船舶と前記複数の候補線分との位置関係に基づいて、前記推定対象物標を構成する推定素材線分を前記複数の候補線分から選択し、
前記選択した推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、
航行支援方法。
【請求項18】
船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成し、
前記船舶と前記複数の候補線分との位置関係に基づいて、前記推定対象物標を構成する推定素材線分を前記複数の候補線分から選択し、
前記選択した推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、
処理を、演算処理装置に実行させる航行支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶が着桟する桟橋等の船舶の航行に関わる特定物標を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、着岸支援装置が記載されている。特許文献1に記載の着岸支援装置は、船舶から岸壁までの距離を算出し、その結果から岸壁が着岸に適しているか推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5000244号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1を含む従来技術では、岸壁や桟橋の形状を精度良く推定できない。
【0005】
したがって、本発明の目的は、岸壁や桟橋のような船舶の航行に関する特定物標を高精度に推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の航行支援装置は、候補生成部、選択部、および、形状推定部を備える。候補生成部は、船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成する。選択部は、船舶と複数の候補線分との位置関係に基づいて、推定対象物標を構成する推定素材線分を複数の候補線分から選択する。形状推定部は、選択した推定素材線分に基づいて、推定対象物標の形状を推定する。
【0007】
この構成では、推定対象物標を含む船舶の周囲の物標に対する複数の候補線分を算出し、複数の線分候補と船舶の位置関係から推定素材線分が選択されるので、推定素材線分は、推定対象物標に基づく可能性が高くなる。したがって、航行支援装置は、推定対象物標(例えば、船舶が着桟する桟橋等)を高精度に推定できる。
【0008】
また、この発明の航行支援装置では、選択部は、船舶の船首方位を取得し、船首方位と複数の候補線分の延びる方向とに基づいて、推定素材線分を選択する。
【0009】
この構成では、船舶の向きと複数の候補線分の向きに基づくことで、推定素材線分の選択精度が向上する。
【0010】
この発明の航行支援装置では、選択部は、船首方位または船首方位に直交する方向と複数の候補線分の延びる方向との偏角に基づいて、推定素材線分を選択する。
【0011】
この構成では、偏角に基づくことで、推定素材線分の選択精度が向上する。
【0012】
この発明の航行支援装置では、選択部は、自船位置と複数の候補線分との距離に基づいて、推定素材線分を選択する。
【0013】
この構成では、距離に基づくことで、推定素材線分の選択精度が向上する。
【0014】
この発明の航行支援装置では、選択部は、分類部を備える。分類部は、船首方位と複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、自船位置を基準とする異なる複数の領域に複数の候補線分を分類する。選択部は、複数の領域毎に推定素材線分を選択する。
【0015】
この構成では、複数の候補線分を自船に対する位置に応じて分類した上で、推定素材線分を選択することで、推定素材線分の選択精度が向上する。
【0016】
この発明の航行支援装置では、分類部は、船首方位と複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて分類を行う。
【0017】
この構成では、分類を簡素な処理で実現できる。
【0018】
この発明の航行支援装置では、分類部は、複数の領域を、少なくとも船舶の左舷および右舷側の領域に設定する。
【0019】
この構成では、少なくとも船舶の側方の物標を構成する推定素材線分を高精度に選択できる。
【0020】
この発明の航行支援装置では、分類部は、船首方位に直交する方向と複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、自船位置を基準とする異なる複数の領域に複数の候補線分を分類する。
【0021】
この構成では、複数の候補線分を自船に対する位置に応じて分類した上で、推定素材線分を選択することで、推定素材線分の選択精度が向上する。
【0022】
この発明の航行支援装置では、分類部は、船首方位に直交する方向と複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて分類を行う。
【0023】
この構成では、分類を簡素な処理で実現できる。
【0024】
この発明の航行支援装置では、分類部は、複数の領域を、少なくとも船首側の領域を含むように設定する。
【0025】
この構成では、少なくとも船舶の船首側の物標を構成する推定素材線分を高精度に選択できる。そして、船舶の側方の物標を構成する推定素材線分と船首側の物標を構成する推定素材線分とを合わせることで、船舶の三方を囲む形状の物標を構成する推定素材線分を高精度に選択できる。
【0026】
この発明の航行支援装置では、形状推定部は、複数の推定素材線分の結合状態に基づいて、推定対象物標の形状を推定する。
【0027】
この構成では、結合状態に基づくことで、推定対象物標の形状を高精度に推定できる。
【0028】
この発明の航行支援装置では、形状推定部は、結合状態として、互いに略直交する3本の推定素材線分に基づいて、推定対象物標の形状を推定する。
【0029】
この構成では、船舶の三方を囲む形状の物標の形状を高精度に推定できる。
【0030】
この発明の航行支援装置では、形状推定部は、推定対象物標として、自船位置を基準とする三方向に桟橋を有する形状を推定する。
【0031】
この構成では、三方向に桟橋を有する形状を高精度に推定できる。
【0032】
この発明の航行支援装置では、候補生成部は、二次元の点群データから直線成分を抽出して、複数の候補線分を生成する。
【0033】
この構成では、点群データから複数の候補線分を高精度に生成できる。
【0034】
この発明の航行支援装置では、測距部、および、二次元データ生成部を備える。測距部は、船舶の周囲を三次元測距して、三次元の点群データを生成する。二次元データ生成部は、三次元の点群データを水平面に投影して二次元の点群データを生成し、二次元の点群データを候補生成部に出力する。
【0035】
この構成では、推定対象物標を表す推定素材線分を含む複数の候補線分を生成するための点群データを、高精度に生成できる。
【0036】
この発明の航行支援システムは、上述の航行支援装置、および、制御部を備える。制御部は、推定対象物標の形状に基づいて、船舶を推定対象物標の特定位置に到達させる自動操船制御を行う。
【0037】
この構成では、推定対象物標が高精度に推定されているので、船舶を特定位置に高精度で到達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、本発明の実施形態に係る航行支援装置の機能ブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る点群生成部の機能ブロック図である。
図3図3は、推定対象岸壁を表す平面図である。
図4図4は、点群データを表す図である。
図5図5は、候補線分の生成状態を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る選択部の一例を示す機能ブロック図である。
図7図7(A)、図7(B)、図7(C)は、複数の候補線分の分類概念を説明する図である。
図8図8は、推定素材線分を示す図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る形状推定部の一例を示す機能ブロック図である。
図10図10は、形状推定概念を説明する図である。
図11図11は、本発明の実施形態に係る航行支援方法の一例を示すフローチャートである。
図12図12は、本発明の実施形態に係る航行支援システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施形態に係る航行支援技術について、図を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る航行支援装置の機能ブロック図である。
【0040】
(航行支援装置10の概略構成)
図1に示すように、航行支援装置10は、点群生成部20、候補生成部30、選択部40、および、形状推定部50を備える。
【0041】
概略的に、点群生成部20は、船舶の周囲の推定対象物標を含む範囲を三次元測距して、二次元の点群データを生成する。なお、点群生成部20は、二次元測距を行い、二次元の点群データを生成してもよい。点群データは、測距した複数の点の集まりであり、各点の座標情報を有する。例えば、点群生成部20は、推定対象物標である桟橋を含む範囲を測距して、桟橋の検出点を含む点群データを生成する。点群生成部20は、点群データを候補生成部30に出力する。
【0042】
候補生成部30は、点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成する。例えば、候補生成部30は、桟橋の検出点を含む複数の点から複数の線分(有限距離の直線要素)を候補線分として生成する。候補生成部30は、生成した複数の候補線分を選択部40に出力する。
【0043】
選択部40は、船舶と複数の候補線分との位置関係に基づいて、推定対象物標を構成する複数の推定素材線分を、複数の候補線分から選択する。例えば、選択部40は、複数の候補線分から、桟橋の形状を表す複数の候補線分を選択し、複数の推定素材線分とする。選択部40は、複数の推定素材線分を、形状推定部50に出力する。
【0044】
形状推定部50は、複数の推定素材線分に基づいて、推定対象物標の形状を推定する。例えば、形状推定部50は、桟橋の形状を表す複数の推定素材線分を組み合わせて、桟橋の形状を推定する。
【0045】
このように、航行支援装置10は、推定対象物標の形状を推定する。この際、推定対象物標を含む船舶の周囲の物標から、推定対象物標の形状を形作る複数の候補線分を算出される。そして、複数の線分候補と船舶の位置関係から、推定対象物標の形状を形作る最も確からしい複数の推定素材線分が選択される。これにより、複数の推定素材線分は、推定対象物標に基づく可能性が高くなる。したがって、航行支援装置は、推定対象物標(例えば、船舶が着桟する桟橋等)を高精度に推定できる。
【0046】
(航行支援装置10の具体的な構成例)
次に、航行支援装置10の具体的な構成例について説明する。以下では、推定対象物標が、コの字形状の桟橋、言い換えれば、互いに略平行な二本の桟橋と、これら二本の桟橋に略直交し、これらの二本の桟橋の端部に連接する一本の桟橋との組み合わせによって形成される桟橋の場合を説明する。なお、推定対象物標は、このような形状の桟橋に限るものではなく、他の形状の桟橋や、着桟等を含む船舶の航行に関連する他の物標であってもよい。
【0047】
(点群生成部20)
図2は、本発明の実施形態に係る点群生成部の機能ブロック図である。図3は、推定対象岸壁を表す平面図である。図4は、点群データを表す図である。
【0048】
図2に示すように、点群生成部20は、測距部21、測位部22、ノイズフィルタ23、および、二次元データ生成部24を備える。ノイズフィルタ23および二次元データ生成部24は、例えば演算装置によって実現される。
【0049】
測距部21は、例えばLiDARを備える。測距部21は、船舶周囲へ送信した測距信号(光)の反射光に基づいて、複数の特徴点を検出する。測距部21は、船舶位置を基準とする複数の特徴点の距離と三次元方位を検出する。なお、測距部21は、ステレオカメラによる撮像データを用いた画像処理やミリ波レーダ等を用いることも可能である。
【0050】
測位部22は、船舶の位置を測位する。具体的には、測位部22は、桟橋に停泊中の船舶の位置Ps(図3参照)を測位する。例えば、測位部22は、GNSS信号を受信し、受信したGNSS信号を用いて三次元測位を行う。
【0051】
ノイズフィルタ23は、複数の特徴点に対するフィルタ処理する。具体的に、ノイズフィルタ23は、複数の特徴点のダウンサンプリングを行う。ノイズフィルタ23は、測距結果と測位結果とに基づいて複数の特徴点の三次元座標を算出する。ノイズフィルタ23は、船舶の位置に基づいて設定した抽出範囲を指定し、指定外の特徴点を除去する。例えば、高さの座標に基づいて海面を設定し、海面を抽出範囲外に指定する。また、船舶の位置に基づいて、桟橋を含む所定範囲を抽出範囲に指定する。
【0052】
さらには、ノイズフィルタ23は、半径の外れ値や統計的外れ値に該当する特徴点を除去する。
【0053】
これらの処理を行うことで、航行支援装置10は、桟橋の形状の推定に対する有効性の低い特徴点を候補線分の生成前に除去でき、推定精度の低下を抑制しながら処理負荷を軽減できる。
【0054】
二次元データ生成部24は、三次元座標の複数の特徴点(空間に表される点)を水平面に投影する(鳥瞰図上の点に変換する)ことで、二次元座標の複数の特徴点とし、点群データを生成する。
【0055】
このような処理によって、図3に示すような桟橋に対して、図4に示すような、桟橋の形状を形成する特徴点を含む点群データが生成される。
【0056】
(候補生成部30)
図5は、候補線分の生成状態を示す図である。
【0057】
候補生成部30は、例えば、演算処理装置によって実現される。候補生成部30は、点群データを構成する複数の特徴点に対して、例えばHough変換を採用することで、有限距離の直線要素である複数の候補線分SEGcを生成する(図5参照)。
【0058】
このような処理によって、図5に示すように、桟橋の形状を形作る線分を含む複数の候補線分SEGcが生成される。
【0059】
(選択部40)
図6は、本発明の実施形態に係る選択部の一例を示す機能ブロック図である。図7(A)、図7(B)、図7(C)は、複数の候補線分の分類概念を説明する図である。図8は、推定素材線分を示す図である。
【0060】
図6に示すように、選択部40は、分類部41、偏角算出部42、距離算出部43、および、推定素材選択部44を備える。選択部40は、例えば演算装置によって実現される。
【0061】
分類部41は、船首方位(図7のベクトルLhtの延びる方向)または船首方位に直交する方向(図7のベクトルLlrの延びる方向)と、複数の候補線分SEGcの延びる方向との関係に基づいて、自船に対する異なる複数の領域に複数の候補線分SEGcを分類する。
【0062】
具体的には、分類部41は、船首方位に平行な方向と複数の候補線分SEGcの延びる方向との外積を用いて、自船の左舷側の領域と自船の右舷側の領域に含まれる複数の候補線分SEGcを分類する。ここで、船首方位に平行な方向と複数の候補線分SEGcの延びる方向との外積は、候補線分SEGcの延びる方向の一方端の点と船首方位に平行なベクトルLhtとの外積である。
【0063】
例えば、分類部41は、分類対象の候補線分SEGc上の二点を設定する。二点は、候補線分SEGc上でできる限り離れていることが好ましく、例えば、両端の点である。分類部41は、候補線分SEGc上の二点と船首方位に平行なベクトルLhtとの外積をそれぞれに算出する。
【0064】
分類部41は、二点の外積算出結果がともに正値ならば、この候補線分SEGcが自船の左舷側の領域の候補線分であると分類する。分類部41は、二点の外積算出結果がともに負値ならば、この候補線分SEGcが自船の右舷側の領域の候補線分であると分類する。
【0065】
分類部41は、二点の外積算出結果の符号が異なれば、この候補線分SEGcを、右舷側左舷側の分類から除外する。なお、分類部41は、この除外された候補線分SEGcを、船首側の領域または船尾側の領域の候補線分として分類してもよい。
【0066】
分類部41は、船首方位に直交する方向と複数の候補線分SEGcの延びる方向の外積を用いて、自船の船首側または船尾側の領域に含まれる複数の候補線分SEGcを分類する。この際、自船の船首が桟橋の奥側(陸地側)であれば、船首側の領域に含まれる複数の候補線分SEGcを分類する。一方、自船の船尾が桟橋の奥側(陸地側)であれば、船尾側の領域に含まれる複数の候補線分SEGcを分類する。ここで、船首方位に直交する方向と複数の候補線分SEGcの延びる方向との外積は、候補線分SEGcの延びる方向の一方端の点と船首方位に直交するベクトルLlrとの外積である。
【0067】
このような処理を行うことで、分類部41は、図7(A)に示すような船首側の領域に含まれる複数の候補線分SEGcと、図7(B)に示すような左舷側(船首が陸地側の場合)の領域に含まれる複数の候補線分SEGcと、図7(C)に示すような右舷側(船首が陸地側の場合)の領域に含まれる複数の候補線分SEGcとに分類する。
【0068】
偏角算出部42は、左舷側の領域および右舷側の領域においては、領域に含まれる複数の候補線分SEGと船首方位に平行なベクトルLhtとの偏角を算出する。偏角算出部42は、船首側の領域(または船尾側の領域)においては、領域に含まれる複数の候補線分SEGcと船首方位に直交するベクトルLlrとの偏角を算出する。
【0069】
距離算出部43は、各領域に含まれる複数の候補線分SEGcにおいて偏角が閾値以下の複数の候補線分SEGcを抽出する。これにより、左舷側および右舷側については、船首方位に略平行な候補線分SEGcが抽出され、船首側(または船尾側)については、船首方位に略直交する候補線分SEGcが抽出される。
【0070】
距離算出部43は、偏角を基準に抽出された複数の候補線分SEGcと自船位置との距離を算出する。
【0071】
推定素材選択部44は、領域毎に最短距離の候補線分SEGcを選択し、推定素材線分に設定する。より具体的には、推定素材選択部44は、船首側の領域(または船尾側の領域)について、偏角が閾値以下で自船位置に最も近い候補線分SEGcを、船首側の推定素材線分SEGe1に設定する。推定素材選択部44は、左舷側の領域について、偏角が閾値以下で自船位置に最も近い候補線分SEGcを、左舷側の推定素材線分SEGe2に設定する。推定素材選択部44は、右舷側の領域について、偏角が閾値以下で自船位置に最も近い候補線分SEGcを、右舷側の推定素材線分SEGe3に設定する。
【0072】
(形状推定部50)
図9は、本発明の実施形態に係る形状推定部の一例を示す機能ブロック図である。図10は、形状推定概念を説明する図である。
【0073】
図9に示すように、形状推定部50は、例えば、演算装置によって実現される。形状推定部50は、交点検出部51および形状決定部52を備える。
【0074】
交点検出部51は、船首側の推定素材線分SEGe1と左舷側の推定素材線分SEGe2の交点Pb2(位置座標)を検出する。交点検出部51は、船首側の推定素材線分SEGe1と右舷側の推定素材線分SEGe3の交点Pb3(位置座標)を検出する。
【0075】
なお、推定素材線分同士が交点を持たない場合、これらの推定素材線分を延長して交点を求めればよい。
【0076】
形状決定部52は、左舷側の推定素材線分SEGe2の先端Pe2(位置座標)、および、右舷側の推定素材線分SEGe3の先端Pe3(位置座標)を検出する。形状決定部52は、これら交点Pb2、交点Pb3、先端Pe2、先端Pe3の位置座標によって、コの字形状(平行する二辺とこの二辺に略直交しこの二辺を連接する辺からなる形状)を決定する。
【0077】
以上のように、航行支援装置10は、岸壁や桟橋のような船舶の航行に関する特定物標(推定対象物標)の形状を推定できる。
【0078】
この際、航行支援装置10は、推定対象物標の形状を形作るための候補線分を、LiDAR等の高精度な測距結果と、直線検出技術で生成するので、推定対象物標の形状を高精度に推定できる。
【0079】
また、航行支援装置10は、複数の線分候補を、船舶の位置に応じた複数の領域に分けて、推定対象物標の形状を形作る推定素材線分を検出することで、誤検出を抑制でき、推定対象物標の形状を高精度に推定できる。この際、航行支援装置10は、外積を用いることで、分類分けを容易にでき、分類精度を向上できる。
【0080】
また、航行支援装置10は、偏角や距離を用いることで、高精度に推定素材線分を検出できる。さらに、航行支援装置10は、比較的簡素な算術演算で推定素材線分を検出できる。
【0081】
(航行支援方法)
図11は、本発明の実施形態に係る航行支援方法の一例を示すフローチャートである。なお、図11に示すフローチャートの各処理の具体的な内容は、上述の構成の説明で行っているので、必要箇所を除き、以下では説明を省略する。
【0082】
航行支援装置10は、桟橋を含む測距結果に基づいて点群データを生成する(S11)。航行支援装置10は、点群データに基づいて、複数の候補線分SEGcを生成する(S12)。
【0083】
航行支援装置10は、複数の候補線分SEGcに基づいて、複数の推定素材線分SEGe1、SEGe2、SEGe3を選択する(S13)。航行支援装置10は、複数の推定素材線分SEGe1、SEGe2、SEGe3に基づいて、桟橋の形状を推定する(S14)。
【0084】
(航行支援システム80の構成)
図12は、本発明の実施形態に係る航行支援システムの機能ブロック図である。図12に示すように、航行支援システム80は、制御部81、操作部82、観測値取得部83、および、表示部84を備える。航行支援システム80は、例えば、オートパイロット制御(自動航行制御)を行う船舶の船体に装備される。
【0085】
制御部81は、舵機91および推進力発生装置92に接続する。舵機91および推進力発生装置92は、船体に装着されている。制御部81と舵機91および推進力発生装置92とは、例えば、アナログ電圧またはデータ通信を介して接続する。
【0086】
制御部81、操作部82、観測値取得部83、および、表示部84、は、例えば、船舶用のデータ通信ネットワーク800によって互いに接続する。
【0087】
操作部82は、例えば、タッチパネル、物理的なボタンやスイッチ等によって実現される。操作部82は、オートパイロット制御に関連する設定の操作を受け付ける。
【0088】
観測値取得部83は、各種センサによって実現され、自船位置、船首方位、船速、回答角速度、舵角等の船舶の状態を示す状態データを取得する。
【0089】
表示部84は、例えば、液晶パネル等によって実現される。表示部84は、例えば、制御部81から、オートパイロット制御に関連する情報等が入力されると、これらを表示する。なお、表示部84は、省略することも可能であるが、あることが好ましく、表示部84があることによって、ユーザは、オートパイロット制御状態等を容易に把握できる。
【0090】
制御部81は、上述のようにして得られた桟橋の形状情報を生成し、記憶している。すなわち、制御部81は、上述の航行支援装置10の構成を含む。
【0091】
制御部81は、操作部82からの操作入力内容、観測値取得部83からの状態データに基づいて、既知の方法でオートパイロット制御を行う。制御部81は、このオートパイロット制御によって、舵機91の舵角、推進力発生装置92の推進力を制御する。
【0092】
制御部81は、操作部82から着岸操作の指示を受けると、記憶している桟橋の形状情報を取得する。制御部81は、桟橋の形状情報と自船位置とに基づいて、船舶を桟橋に着桟させるように、オートパイロット制御を行う。
【0093】
より具体的には、例えば、制御部81は、自船位置と、桟橋の形状情報(交点Pb2、交点Pb3、先端Pe2、先端Pe3の位置)との距離を算出する。制御部81は、自船位置から交点Pb2、交点Pb3、先端Pe2、先端Pe3への方向を算出する。制御部81は、これら距離および方位と、現在の船速、船首方位、船舶の運動特性と、着桟位置、着桟姿勢に基づいて、舵角制御および推進力制御を行う。
【0094】
なお、この際、制御部81は、予測航跡を表示部84に表示してもよく、完全自動でなく、着桟のサポート情報を表示して、操舵者の操舵支援を行ってもよい。
【0095】
これにより、航行支援システム80は、船舶が着桟対象の桟橋に着桟することを支援でき、または、自動着桟を実現ができる。この際、上述のように、桟橋が高精度に推定されているので、航行支援システム80は、高精度に着桟を支援でき、または、自動着桟を高精度に実現できる。
【0096】
<1> 船舶の周囲を検知して得られた複数の点群からなる点群データに基づいて、推定対象物標を構成するための複数の候補線分を生成する候補生成部と、
前記船舶と前記複数の候補線分との位置関係に基づいて、前記推定対象物標を構成する推定素材線分を前記複数の候補線分から選択する選択部と、
前記選択した推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する形状推定部と、を備える、航行支援装置。
【0097】
<2> <1>の航行支援装置であって、
前記選択部は、
前記船舶の船首方位を取得し、
前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向とに基づいて、前記推定素材線分を選択する、航行支援装置。
【0098】
<3> <2>の航行支援装置であって、
前記選択部は、前記船首方位または前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との偏角に基づいて、前記推定素材線分を選択する、航行支援装置。
【0099】
<4> <2>または<3>の航行支援装置であって、
前記選択部は、自船位置と前記複数の候補線分との距離に基づいて、前記推定素材線分を選択する、航行支援装置。
【0100】
<5> <3>の航行支援装置であって、
前記選択部は、
前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、前記自船位置を基準とする異なる複数の領域に前記複数の候補線分を分類する分類部を備え、
前記複数の領域毎に前記推定素材線分を選択する、航行支援装置。
【0101】
<6> <5>の航行支援装置であって、
前記分類部は、前記船首方位と前記複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて前記分類を行う、航行支援装置。
【0102】
<7> <5>または<6>の航行支援装置であって、
前記分類部は、前記複数の領域を、少なくとも船舶の左舷側の領域および右舷側の領域に設定する、航行支援装置。
【0103】
<8> <5>乃至<7>のいずれかの航行支援装置であって、
前記分類部は、前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との関係に基づいて、前記自船位置を基準とする異なる複数の領域に前記複数の候補線分を分類する、航行支援装置。
【0104】
<9> <8>の航行支援装置であって、
前記分類部は、前記船首方位に直交する方向と前記複数の候補線分の延びる方向との外積に基づいて前記分類を行う、航行支援装置。
【0105】
<10> <8>または<9>の航行支援装置であって、
前記分類部は、前記複数の領域を、少なくとも船首側の領域を含むように設定する、航行支援装置。
【0106】
<11> <1>乃至<10>のいずれかの航行支援装置であって、
前記形状推定部は、前記選択部で複数選択した前記推定素材線分の結合状態に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、航行支援装置。
【0107】
<12> <11>の航行支援装置であって、
前記形状推定部は、前記結合状態として、互いに略直交する3本の前記推定素材線分に基づいて、前記推定対象物標の形状を推定する、航行支援装置。
【0108】
<13> <11>または<12>の航行支援装置であって、
前記形状推定部は、前記推定対象物標として、前記自船位置を基準とする三方向に桟橋を有する形状を推定する、航行支援装置。
【0109】
<14> <1>乃至<13>のいずれかの航行支援装置であって、
前記候補生成部は、二次元の点群データから直線成分を抽出して、前記複数の候補線分を生成する、航行支援装置。
【0110】
<15> <1>乃至<14>のいずれかの航行支援装置であって、
前記船舶の周囲を三次元測距して、三次元の前記点群データを生成する測距部と、
前記三次元の点群データを水平面に投影して前記二次元の点群データを生成し、前記二次元の点群データを前記候補生成部に出力する二次元データ生成部と、
を備える、航行支援装置。
【0111】
<16> <1>乃至<15>のいずれかの航行支援装置と、
前記推定対象物標の形状に基づいて、前記船舶を前記推定対象物標の特定位置に到達させる自動操船制御を行う制御部と、を備える、航行支援システム。
【符号の説明】
【0112】
10:航行支援装置
20:点群生成部
21:測距部
22:測位部
23:ノイズフィルタ
24:二次元データ生成部
30:候補生成部
40:選択部
41:分類部
42:偏角算出部
43:距離算出部
44:推定素材選択部
50:形状推定部
51:交点検出部
52:形状決定部
80:航行支援システム
81:制御部
82:操作部
83:観測値取得部
84:表示部
91:舵機
92:推進力発生装置
800:データ通信ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12