(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042279
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】摺動部材のコーティング方法、及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20240321BHJP
B05D 1/40 20060101ALI20240321BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240321BHJP
B05D 5/08 20060101ALI20240321BHJP
B62D 1/185 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D1/40 Z
B05D7/14 K
B05D5/08 Z
B62D1/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146879
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】522366440
【氏名又は名称】シーエルシー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594143433
【氏名又は名称】アクロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 幸治
(72)【発明者】
【氏名】早川 美智
(72)【発明者】
【氏名】宮本 圭資
【テーマコード(参考)】
3D030
4D075
【Fターム(参考)】
3D030DD61
4D075AC23
4D075AC65
4D075AC78
4D075AC84
4D075BB64Z
4D075BB65X
4D075CA06
4D075CB38
4D075DA15
4D075DB01
4D075DB04
4D075DC13
4D075DC16
4D075EA19
4D075EA21
4D075EA37
4D075EB18
(57)【要約】
【課題】ステアリング装置等で使用される摺動部材を、低コストで製造可能とする。
【解決手段】摺動部材を洗浄する工程と、洗浄工程実施後、コーティング版のコーティング剤配設面に、該摺動部材の外側面に塗布するためのコーティング剤が配設された領域と、該コーティング剤が配設されていない領域と、が交互に並ぶ所定のパターンを形成するコーティングパターン形成工程と、所定のパターンが形成された該コーティング版のコーティング剤配設面と該摺動部材の外側面とを接触させた状態で、該摺動部材を回転させつつ、該コーティング版と該摺動部材とを該コーティング剤配設面と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、外側面に該コーティング剤を所定のパターンで印刷する工程と、印刷工程を実施後に、該コーティング剤を硬化させる工程と、を備える摺動部材のコーティング方法である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材を洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程を実施した後、コーティング版のコーティング剤配設面に、該摺動部材の外側面に塗布するためのコーティング剤が配設された領域と、該コーティング剤が配設されていない領域と、が交互に並ぶ所定のパターンを形成するコーティングパターン形成工程と、
該所定のパターンが形成された前記コーティング版のコーティング剤配設面と前記摺動部材の外側面とを接触させた状態で、前記摺動部材を回転させつつ、該コーティング版と該摺動部材とを該コーティング剤配設面と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、該外側面に前記コーティング剤を前記所定のパターンで印刷して塗布する印刷工程と、
該印刷工程を実施後に、該コーティング剤を硬化させる硬化工程と、を備える摺動部材のコーティング方法。
【請求項2】
前記摺動部材は、筒状に形成されたテレスコ摺動チューブであり、該摺動部材の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、
前記印刷工程では、前記摺動部材の外側面に、前記コーティング剤が配設された複数の領域に対して該コーティング剤が配設されていない前記摺動方向と平行なスリット状の複数の領域が交互に並ぶパターンを印刷する請求項1に記載の摺動部材のコーティング方法。
【請求項3】
前記印刷工程後、又は前記硬化工程後に、前記コーティング版と交換用コーティング版とを交換する交換工程と、
該交換用コーティング版の別種コーティング剤配設面に、前記コーティング剤とは機能の異なる別種コーティング剤が配設された領域と、該別種コーティング剤が配設されていない領域と、が交互に並ぶ別種パターンを形成する交換用コーティングパターン形成工程と、
該別種パターンが形成された前記交換用コーティング版の別種コーティング剤配設面と前記摺動部材の外側面とを接触させた状態で、前記摺動部材を回転させつつ、該交換用コーティング版と該摺動部材とを該別種コーティング剤配設面と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、該摺動部材の外側面に該別種コーティング剤を前記コーティング剤と分けて印刷して塗布する別種印刷工程と、
該別種印刷工程を実施後に、該別種コーティング剤を硬化させる別種硬化工程と、を備える、請求項1又は2に記載の摺動部材のコーティング方法。
【請求項4】
ステアリング装置に配設され、
外側面に、コーティング剤が配設された領域と該コーティング剤が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンが、コーティング版を用いた該コーティング剤の印刷により形成された摺動部材。
【請求項5】
前記摺動部材は、筒状に形成されたテレスコ摺動チューブであり、該摺動部材の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、
前記コーティング剤が配設された領域と該コーティング剤が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンは、該コーティング剤が配設された複数の領域に対して該コーティング剤が配設されていない前記摺動方向と平行なスリット状の複数の領域が交互に並ぶパターンである請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記外側面は、前記コーティング剤とは機能の異なる別種コーティング剤が配設された領域が、前記コーティング剤が配設された領域と分けて、交換用コーティング版を用いた該別種コーティング剤の印刷により形成された請求項4又は5に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記外側面に、前記摺動方向において、前記所定のパターンと分けて前記コーティング剤が配設されていない筒状領域が形成された請求項5に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、摺動部材のコーティング方法、及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングシャフトを内包するステアリングコラムのチューブ状の摺動部材(例えば、アウターチューブ)は、ステアリングシャフトの軸心に沿う軸方向に移動可能となるように、その外側面にコーティングが行われている。そして外側面のコーティングは、スプレーで塗料を吹き付ける工法で行われている。また、例えば特許文献1に開示されているように、摺動チューブと摺動チューブを支持するハウジングとの間にボールを介在させ、ボールの転がりで摺動チューブを摺動させる複雑なボールベアリング構造がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摺動チューブの摺動における摩擦抵抗を減らすために、グリスを保持する溝が外側面にコーティングで形成される場合がある。そして、従来のコーティングのように、スプレーで摺動チューブの外側面にコーティング剤を吹き付けて該溝を形成するためには、吹き付け前に外側面にマスキング処理を施す必要がある。
【0005】
このように、従来のコーティングでグリスを保持する溝形成において、摺動チューブにマスキング処理が必要となるためコストが増える。また、摺動チューブを摺動させるため複雑なボールベアリング構造を採用した場合においても、ボールやボール保持器等の部品が増えてコストが増える。
【0006】
よって、車両のステアリング装置等で使用される例えばチューブ状の摺動部材を低コストで製造できるようにするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態である摺動部材のコーティング方法は、一例として、摺動部材を洗浄する洗浄工程と、該洗浄工程を実施した後、コーティング版のコーティング剤配設面に、該摺動部材の外側面に塗布するためのコーティング剤が配設された領域と、該コーティング剤が配設されていない領域と、が交互に並ぶ所定のパターンを形成するコーティングパターン形成工程と、該所定のパターンが形成された前記コーティング版のコーティング剤配設面と前記摺動部材の外側面とを接触させた状態で、前記摺動部材を回転させつつ、該コーティング版と該摺動部材とを該コーティング剤配設面と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、該外側面に前記コーティング剤を前記所定のパターンで印刷して塗布する印刷工程と、該印刷工程を実施後に、該コーティング剤を硬化させる硬化工程と、を備える。よって、一例としては、該コーティング剤の該摺動部材の外側面に対するスプレー噴射を伴うコーティングを実施する場合に比べて、該コーティング剤の消費量を抑えることが可能となる。また、該摺動部材の外側面に対する該コーティング剤の塗布パターンを設定する際も、該コーティング版に形成したパターンを該外側面に印刷(転写)させるため、該外側面に対するマスキング処理を施す必要がなく、コスト及び工程時間の削減を行うことが可能となる。そして、コーティングが施された該摺動部材は、該外側面に前記コーティング剤が配設された領域と該コーティング剤が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンを備えていることで、該外側面に対してハウジング等との間の摺動時における摩擦抵抗を減らすためグリスを供給した場合に、前記コーティング剤が配設されていない領域がグリスを必要十分に保持するため、該摺動部材とハウジング等との間の摩擦抵抗を減らすことができ、該摺動部材の長期的な使用における耐久性が向上する。
【0008】
上記摺動部材のコーティング方法では、一例として、前記摺動部材は、筒状に形成されたテレスコ摺動チューブであり、該摺動部材の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、前記印刷工程では、前記摺動部材の前記外側面に、前記コーティング剤が配設された複数の領域に対して該コーティング剤が配設されていない前記摺動方向と平行なスリット状(直線溝状)の複数の領域が交互に並ぶパターンを印刷する。よって、一例としては、前記摺動部材のコーティング剤が配設されていないスリット状の複数の領域が、上記グリスをさらに適切に保持することが可能となり、摺動部材とハウジング等との間の摩擦抵抗を減らして摺動部材を適切に摺動可能とし、長期的な使用における耐久性をさらに向上させる。
【0009】
上記摺動部材のコーティング方法では、一例として、前記印刷工程後、又は前記硬化工程後に、前記コーティング版と交換用コーティング版とを交換する交換工程と、該交換用コーティング版の別種コーティング剤配設面に、前記コーティング剤とは機能の異なる別種コーティング剤が配設された領域と、該別種コーティング剤が配設されていない領域と、が交互に並ぶ別種パターンを形成する交換用コーティングパターン形成工程と、別種パターンが形成された前記交換用コーティング版の別種コーティング剤配設面と前記摺動部材の外側面とを接触させた状態で、前記摺動部材を回転させつつ、該交換用コーティング版と該摺動部材とを該別種コーティング剤配設面と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、該摺動部材の外側面に該別種コーティング剤を前記コーティング剤と分けて印刷して塗布する別種印刷工程と、該別種印刷工程を実施後に、該別種コーティング剤を硬化させる別種硬化工程と、を備える。よって、一例としては、摺動部材の外側面に別種コーティング剤の機能を低コストで付与することが可能となる。
【0010】
本発明の実施形態に係る摺動部材は、一例として、ステアリング装置に配設され、外側面に、コーティング剤が配設された領域と該コーティング剤が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンが、コーティング版を用いた該コーティング剤の印刷により形成される。よって、一例としては、従来よりもコストを抑えることが可能である。
【0011】
上記摺動部材は、一例として、筒状に形成されたテレスコ摺動チューブであり、該摺動部材の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、前記コーティング剤が配設された領域と該コーティング剤が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンは、該コーティング剤が配設された複数の領域に対して該コーティング剤が配設されていない前記摺動方向と平行なスリット状の複数の領域が交互に並ぶパターンである。よって、一例としては、該摺動部材の前記外側面に対して摩擦抵抗を減らすためのグリスが供給した場合に、該コーティング剤が配設されていないスリット状(直線溝状)の領域がグリスを必要十分に保持するため、該摺動部材とハウジング等との間の摩擦抵抗が減らされて、摺動部材の長期的な使用における耐久性が向上する。
【0012】
上記摺動部材は、一例として、前記外側面は、前記コーティング剤とは機能の異なる別種コーティング剤が配設された領域が、前記コーティング剤が配設された領域と分けて、交換用コーティング版を用いた該別種コーティング剤の印刷により形成されている。よって、一例としては、外側面に別種コーティング剤の機能を低コストで備えることが可能となっている。
【0013】
上記摺動部材は、一例として、前記外側面に、前記摺動方向において、前記所定のパターンと分けて前記コーティング剤が配設されていない筒状領域が形成されている。よって、一例としては、該筒状領域によって前記コーティング剤が配設されていないスリット状(直線溝状)の領域に対して、摺動方向からグリスの再充填を促しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ステアリング装置を概略的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、ステアリングシャフト、ハウジング、摺動部材(アウタチューブ)、及びインナチューブを概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の摺動部材の斜視図である。
【
図5】
図5は、コーティングパターン形成工程を説明する斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態1の摺動部材の第一変形例を示す側面図である。
【
図9】
図9は、実施形態1の摺動部材の第二変形例を示す側面図である。
【
図10】
図10は、交換工程及び交換用コーティングパターン形成工程を説明する斜視図である。
【
図14】
図14は、実施形態2の摺動部材の変形例についての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、摺動部材30(以下、実施形態1の摺動部材30とする)を備えるステアリング装置10を概略的に示す側面図である。ステアリング装置10は、自動車のような車両1に搭載される。なお、ステアリング装置10は、この例に限られない。
【0016】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ステアリングシャフト11と、ステアリングホイール12と、ハウジング14と、摺動部材30と、テレスコピック機構15と、チルト機構16と、インナチューブ13と、を有する。なお、ステアリング装置10は、この例に限られない。また、実施形態1の摺動部材30は、例えば円筒状のテレスコ摺動チューブであり、インナチューブ13を収容するアウタチューブである。
【0017】
ステアリングシャフト11は、略円柱状に形成される。本明細書において、便宜上、ステアリングシャフト11の軸心Axに沿う方向が軸方向、軸心Axと直交する方向が径方向、軸心Axまわりの方向が周方向と定義される。また、ステアリングシャフト11の軸心Axに沿う方向と平行な方向を、テレスコ摺動チューブである摺動部材30の長手方向(摺動方向)と定義する。
【0018】
軸方向は、第1の軸方向Dx1と、第2の軸方向Dx2とを含む。第1の軸方向Dx1は、軸心Axに沿う一方向である。第2の軸方向Dx2は、第1の軸方向Dx1の反対方向である。第1の軸方向Dx1は、おおよそ車両1の前方向である。第2の軸方向Dx2は、おおよそ車両1の後方向である。
【0019】
ステアリングホイール12は、第2の軸方向Dx2におけるステアリングシャフト11の後端部に取り付けられる。ステアリングシャフト11とステアリングホイール12とは、軸心Axまわりに一体的に回転可能である。
【0020】
摺動部材30は、軸心Axに沿って延びる略円筒状に形成される。
図2に示すように、ステアリングシャフト11は、摺動部材30の内側に、軸心Axまわりにインナチューブ13を介して回転可能に取り付けられる。
図2は、ステアリングシャフト11、ハウジング14、摺動部材30、及びインナチューブ13を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、軸方向におけるステアリングシャフト11の両端部は、軸方向における摺動部材30の両端部から突出している。なお、摺動部材30の長手方向、及び摺動方向は、ステアリングシャフト11の軸方向と同一となっている。
【0021】
ハウジング14は、摺動部材30の一部を収容する。摺動部材30の他の一部は、第2の軸方向Dx2におけるハウジング14の端部から突出している。ハウジング14は、摺動部材30を軸方向に摺動可能に保持する。
【0022】
図1に示すテレスコピック機構15は、摺動部材30をハウジング14に対して軸方向に移動させる。これにより、摺動部材30とともにインナチューブ13、ステアリングシャフト11の一部及びステアリングホイール12も軸方向に移動する。テレスコピック機構15は、例えばモータにより駆動されて摺動部材30を移動させてもよいし、運転者が手動で摺動部材30を移動させる構造であってもよい。
【0023】
図1に示すチルト機構16は、ハウジング14を揺動可能に車両1の車体に取り付ける。チルト機構16がハウジング14を揺動させることで、ハウジング14と共にステアリングシャフト11、ステアリングホイール12、インナチューブ13、及び摺動部材30の傾斜角度が変更される。
【0024】
図1、
図2に示すように、ステアリングシャフト11は、例えば、第1のシャフト111と、この第1のシャフト111の後端部とスプライン結合されるともに周方向に回転する筒状の第2のシャフト112を備えている。第1のシャフト111及び第2のシャフト112は、例えば、金属のような材料により作られる。なお、第1のシャフト111及び第2のシャフト112の材料は、この例に限られない。
【0025】
第1のシャフト111及び第2のシャフト112は、例えば軸方向に延びる略円筒状に形成される。ステアリングシャフト11の軸心Axは、第1のシャフト111の軸心及び第2のシャフト112の軸心と略一致する。
図2に示すように、第1のシャフト111は、端部111bを有する。端部111bは、第2の軸方向Dx2における第1のシャフト111の端部である。第1のシャフト111の端部111bと反対側の端部は、第1の軸方向Dx1における端部である。該端部は、例えば、ユニバーサルジョイントを介してインターミディエートシャフトに接続される。
【0026】
図2に示すように、第2のシャフト112は、二つの端部112a、112bを有する。端部112aは、第1の軸方向Dx1における第2のシャフト112の端部である。端部112bは、第2の軸方向Dx2における第2のシャフト112の端部である。端部112bに、
図1に示すステアリングホイール12が取り付けられる。
【0027】
第2のシャフト112が略円筒状であるため、第2のシャフト112に、挿通孔113が設けられる。挿通孔113は、軸方向に第2のシャフト112を貫通する。そして、挿通孔113に、第1のシャフト111の少なくとも一部が収容される。このため、第1のシャフト111の一部が、第2のシャフト112の端部112aから第1の軸方向Dx1に突出する。
【0028】
図2に示すハウジング14内には、ステアリングシャフト11を収容し軸心Axを中心に回転可能に支持する筒状の支持部材として、金属製のインナチューブ13が設けられている。即ち、インナチューブ13内に収容された第2のシャフト112が、インナチューブ13の第2の軸方向Dx2の端部に配設された軸受133を介して回転可能に支持されている。ただし、第2のシャフト112とインナチューブ13との間の軸方向相対移動は規制されており、第2のシャフト112とインナチューブ13とは一体となって軸方向移動し得るように構成されている。
【0029】
さらに、ハウジング14内には、インナチューブ13を収容し常時はインナチューブ13を所定位置に保持する筒状部材として、アウタチューブである金属製の摺動部材30が設けられている。即ち、摺動部材30は常時にはインナチューブ13と一体となる状態にインナチューブ13に外嵌している。そして、ステアリングシャフト11に対し所定値以上の荷重が加えられた場合には、摺動部材30に対するインナチューブ13の軸方向相対移動(ひいては第2のシャフト112の軸方向移動)を許容するように構成されている。具体的には、例えば、車両1の衝突により、運転者からステアリングホイール12に第1の軸方向Dx1の大きい荷重(衝突荷重)が作用することがある。この場合、インナチューブ13と摺動部材30との間に設けられた図示しない弾性ブッシュ等の滑り部において一定の摩擦力等を発生させつつ、インナチューブ13及び第2のシャフト112が第1の軸方向Dx1に移動し、運転者がステアリングホイール12に衝突する際の衝撃を吸収する。なお、ハウジング14と摺動部材30との間は、上記のようなエネルギー吸収手段として機能するものではない。
【0030】
図2に示すように、摺動部材30は、ハウジング14の内部に摺動可能に設けられている。ハウジング14と摺動部材30とに亘っては伸縮機構が設けられており、運転者の体格等に応じてステアリングホイール12の位置を調節することができる。摺動部材30は、例えば、軸受14a、14bを介してハウジング14に支持されており、皿ばね等を用いたフリクション機構14c、14dによって摺動部材30がハウジング14の内面に押圧されて保持されている。フリクション機構14c、14dは、例えば、軸方向に所定間隔を空けて配設されており、
図1に示すステアリングホイール12にガタが生ずることがないように摺動性を確保することができる。
【0031】
図1、
図3に示すように、摺動部材30の外側面301は、ステアリングシャフト11の軸心Axに沿う第1の軸方向Dx1又は第2の軸方向Dx2に円滑に摺動可能となるように、コーティング剤31が配設された領域311(以下、コーティング領域311とする)と、該コーティング剤31が配設されていない領域32(以下、非コーティング領域32とする)と、が交互に並ぶ所定のパターンが形成されている。そして、実施形態1の摺動部材30の外側面301において、コーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンとは、摺動部材30の長手方向(摺動方向)と平行に延びる直線状のコーティング剤31に対して、非コーティング領域32がスリット状(直線溝状)に延びるパターンである。そして、コーティング領域311と非コーティング領域32と、が交互に並ぶ該パターンは、摺動部材30の外側面301を周方向に一周している。なお、各図において、コーティング剤31は他の部分との識別のためにハッチングが付される。
【0032】
実施形態1の摺動部材30におけるコーティング領域311は、例えば、長手方向が摺動部材30の長手方向と同一である平面視矩形状となっており、コーティング剤31が外側面301において所定の厚さ(例えば、数mm)で盛り上がっている。したがって、摺動部材30の周方向においてコーティング領域311と交互に並ぶ非コーティング領域32は、それぞれ、平面視矩形状のスリット状(直線溝状)となっている。また、コーティング剤31は、例えば、摺動部材30の定期検査等を容易にするための着色がされていてもよい。
【0033】
図1に示す摺動部材30の外側面301には、摺動部材30の軸方向における摺動の際のハウジング14との間の摩擦抵抗を減らすためグリスが供給される。そして、ハウジング14に摺動部材30が収容された状態において、スリット状(直線溝状)の非コーティング領域32によって、該グリスが必要十分に保持される。
【0034】
なお、
図1、
図3に示す実施形態1の摺動部材30において、コーティング剤31が配設された複数の領域311の長手方向における両端部は、例えば、円筒状の摺動部材30の両端の円周縁よりも内側に位置している。したがって、摺動部材30の両円周縁から長手方向の内側に向かって所定の幅のコーティング剤31が配設されていない円筒状領域324が、摺動部材30を周方向に一周するように円筒状に形成されている。なお、摺動部材30は、外側面301においてコーティング領域311が摺動部材30の一端から他端まで延びていることで、円筒状領域324を備えていない構成となっていてもよい。
【0035】
例えば、実施形態1の摺動部材30の外側面301の上記コーティング剤31によるコーティングは、以下に説明する本実施形態のコーティング方法が実施されてなされたものである。以下に、本実施形態の摺動部材のコーティング方法を実施する場合の、各工程について説明する。
【0036】
(1)洗浄工程
まず、
図1に示す摺動部材30の母材となる
図4に示す筒体300を準備する。筒体300は、例えば所定の金属部材(SUS等)を、ダイキャスト、熱間圧延、又は熱間押し出し等によって円筒状に形成したものである。筒体300の外側面301は、滑らかな円筒面となっている。
【0037】
筒体300は、例えば、
図4に示す洗浄装置70に搬送される。洗浄装置70は、筒体300全体を水没させることができる水槽701を備えており、洗浄水704(例えば、純水)を溜めている。洗浄装置70は、例えば、高周波電源702に接続された超音波振動子703を水槽701内に備えており、筒体300を超音波洗浄できる。なお、筒体300の洗浄は、スプレー/シャワー洗浄、又はブラシ洗浄等であってもよい。そして、洗浄装置70において筒体300の外側面301が所定時間洗浄された後、筒体300が洗浄装置70から搬出され、ブロー乾燥、又はスピン乾燥等される。
【0038】
(2)コーティングパターン形成工程
洗浄が施された筒体300は、
図5に示すコーティング装置8に搬送される。コーティング装置8は、例えば、上下動可能な押圧板81と、押圧板81の下方に配設されたコーティング版82と、コーティング版82をX方向に直動させる移動機構83と、筒体300を回転可能に支持する回転機構84と、コーティング版82に液状のコーティング剤31を供給するコーティング剤供給機構85と、を備えている。
【0039】
なお、コーティングパターン形成工程及びそれ以降に行う各工程の説明において、便宜上XYZ直交座標系を用いる。X方向は、+X方向と-X方向とを含む。Y方向は、+Y方向と-Y方向とを含む。Z方向は、+Z方向(上方向)と-Z方向(下方向)とを含む。例えば、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向である。
【0040】
金属板又は樹脂板等である押圧板81は、例えば筒体300の長さと同じ、又はそれ以上の長さでY方向に延在している。なお、
図5においては、筒体300の長手方向がY方向と平行になっている。また、押圧板81は、図示しないシリンダ機構等によって上下動可能となっており、所定の押圧力でコーティング版82を下方に向かって押すことができる。押圧板81は、例えば、スキージとも称される。例えば、押圧板81の下端側は、接触するコーティング版82を傷つけないようにR状に丸まっている。
【0041】
簡略化して示す移動機構83は、例えば、モータ及びボールねじ等で構成される電動スライダ機構等であって、コーティング版82の移動速度を制御しつつコーティング版82をX方向に直動させる。
【0042】
簡略化して示す回転機構84は、例えば、軸方向がY方向である回転軸、及び回転軸に連結され回転軸を回転駆動するモータを備えている。コーティング装置8に搬送されてきた筒体300を該回転軸が回転可能に支持し、モータの制御により所定の回転速度で回転する回転軸とともに筒体300も回転する。例えば、回転機構84によって回転可能に支持された筒体300の外側面301のZ方向における直上に、押圧板81が所定の隙間を空けて位置している。該所定の隙間をコーティング版82がX方向に往復移動可能となっている。
【0043】
コーティング版82は、例えば、ある程度の弾性を備える樹脂材等で形成されており、例えば、X方向に筒体300の外周以上の長さで延在している。また、コーティング版82のY方向における長さ(横幅)は、例えば、筒体300の長さと同じ、又はそれ以上の長さに設定されている。例えば、コーティング版82のX方向の両端部は、図示しない支持部材によって支持されており、コーティング版82は押圧板81から下方(-Z方向)に向かって押圧されることで、下方に向かってたわむことが可能となっている。
【0044】
図5において、コーティング版82の+Z方向側を向いた上面は、押圧板81の下端側が当接する略平坦な被押圧面820となっている。コーティング版82の-Z方向側を向いた下面は、コーティング剤31が配設されるコーティング剤配設面821となる。コーティング剤配設面821は、XY平面と平行となっている。
【0045】
図5、
図6に示すようにコーティング剤配設面821は、例えば、Y方向に延在する直線状で平面視矩形状の直線溝822が、X方向に均等間隔を空けて形成されている。なお、
図5においては、コーティング剤31が直線溝822に充填された状態を示している。直線溝822のY方向における両端部は、例えば、コーティング版82のY方向における両辺よりも内側に位置している。即ち、直線溝822のY方向における両端部は、コーティング版82のY方向の両辺において開口しておらず、該両端部から液状のコーティング剤31が抜けてしまうことがないようになっている。また、回転機構84によって回転可能に支持された筒体300の長手方向と各直線溝822の延在方向とは、Y方向とそれぞれ平行となっている。
【0046】
例えば、直線溝822のZ方向における溝天面には、図示しない供給孔がコーティング版82をZ方向に貫通して形成されている。図示しない該供給孔は、例えば、直線溝822の溝天面においてY方向に等間隔を空けて複数形成されている。なお、直線溝822の溝天面部分を、コーティング剤31が通過可能なメッシュ素材で形成してもよい。
【0047】
コーティング剤供給機構85は、例えば、コーティング版82の上方に押圧板81に並べて配設され図示しないシリンダ機構等により上下動可能な供給ノズル850と、供給ノズル850に連通し液状のコーティング剤31を送出するディスペンサ等で構成されるコーティング剤供給源851と、を備えている。
【0048】
コーティング版82に供給される液状のコーティング剤31は、例えば、バインダが紫外線硬化樹脂であり、ある程度の高い粘度を備えている。また、コーティング剤31は、固体潤滑剤として例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を含有する。なお、コーティング剤31のバインダは、可視光線、赤外線、又は他の不可視光線により硬化可能な樹脂であってもよい。
【0049】
コーティングパターン形成工程においては、例えば、
図5に示すコーティング版82が移動機構83によってY方向に移動しつつ、コーティング剤供給機構85の供給ノズル850からコーティング版82の上面である被押圧面820に対して、コーティング剤31が供給される。また、該コーティング剤31のコーティング版82の被押圧面820に対する供給と並行して、被押圧面820に向かって降下し接触した押圧板81が、コーティング版82のコーティング剤31が供給された状態の被押圧面820に向かって力を加える。そのため、Y方向に移動するコーティング版82のそれぞれの直線溝822内に、溝天面に形成された図示しない供給孔、又はメッシュ部分からコーティング剤31が流入する。そして、コーティング版82の+X方向の一端から-X向の他端までが押圧板81の下方を通過することで、各直線溝822内にコーティング剤31が直線状に充填された状態となる。即ち、コーティング版82のコーティング剤配設面821に、コーティング剤31が配設された領域となる直線溝822と、直線溝822にX方向において隣り合いコーティング剤31が配設されていない領域823と、が交互に並ぶパターンが形成された状態となる。
【0050】
(3)印刷工程
図5に示すように、移動機構83が、コーティング版82の+X方向側の端部分が筒体300と押圧板81との間に位置するように、コーティング版82を印刷開始位置に位置付ける。また、回転機構84が筒体300を例えば-Y方向側から見て反時計回り方向に所定の回転速度で回転させる。さらに、押圧板81が降下してコーティング版82の被押圧面820に接触して、ある程度の弾性を備えるコーティング版82の押圧されている箇所が-Z方向に向かって少しだけたわむように湾曲する。そして、コーティング剤配設面821の一部が、筒体300の外側面301のY方向における端から端まで接触する。
【0051】
さらに、移動機構83がコーティング版82を所定の送り速度で+X方向に向かって送り出していくことで、回転する筒体300の外側面301に対して、コーティング版82の直線溝822内に充填されたコーティング剤31が押し付けられて塗布される。連続して、コーティング版82の直線溝822に隣り合いコーティング剤31が配設されていない領域823と外側面301とが接触する。これが繰り返されることで、
図6に示す筒体300の外側面301に、コーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンが形成されていく。本実施形態における該パターンとは、摺動部材30の長手方向(摺動方向)と平行に延びる直線状のコーティング剤31に対して、非コーティング領域32がスリット状(直線溝状)に延びるパターンである。
【0052】
コーティング版82の+X方向への移動と共に、回転機構84のモータ制御により筒体300が例えば360度回転することで、コーティング領域311と非コーティング領域32と、が交互に並ぶ該パターンは、摺動部材30の外側面301を周方向に一周するように形成される。その後、押圧板81が上昇してコーティング版82から離間し、これに伴って、たわんでいたコーティング版82が筒体300から離間する。そして、回転が停止した筒体300が、回転機構84から取り外される。
【0053】
なお、コーティングパターン形成工程と印刷工程とは並行して実施されてもよい。また、コーティング版82等を筒体300の下方に位置付け、筒体300の外側面301の下方からコーティング剤31の印刷が行われてもよい。
【0054】
例えば、本実施形態のコーティング方法における印刷工程では、
図6に示すように、筒体300のY方向における両円周縁から長手方向の内側に向かって、所定の幅のコーティング剤31が配設されていない円筒状領域324が、外側面301を周方向に一周するように形成される。
【0055】
(4)硬化工程
印刷工程が完了した後に、外側面301にコーティング剤31が所定の厚さで印刷塗布された筒体300は、例えば
図7に示す紫外線照射装置73に搬送される。紫外線照射装置73は、例えば、所定波長の紫外線734を下方に向かって照射する水銀ランプやLEDランプ等である。また、筒体300は、紫外線照射装置73において、筒体300の長手方向を軸方向とする図示しない回転軸によって支持されて回転可能となっている。そして、筒体300が回転しつつ、紫外線734が外側面301に所定時間照射されることで、
図7に示すコーティング剤31が硬化する。硬化工程が完了することで、
図1、
図3、及び
図7に示す実施形態1の摺動部材30が完成する。
【0056】
紫外線照射により硬化したコーティング剤31は、筒体300に対する密着性、耐グリス性、耐衝撃性、及び耐摩耗性に優れている。なお、硬化工程は、
図5、
図6に示すコーティング装置8に紫外線照射機構を配設して、コーティング装置8内で実施してもよい。
【0057】
硬化工程は、上記のような紫外線照射による形態に限定されない。例えば、印刷工程で使用したコーティング剤31が、バインダとして熱硬化性樹脂を用い、固体潤滑剤としてPTFE、MoS2(二硫化モリブデン)、又はグラファイト等を用いている場合には、電気炉内で筒体300の外側面301に印刷されたコーティング剤31を焼き固めてもよい。焼き固められたコーティング剤31は、筒体300に対する密着性、耐グリス性、耐衝撃性、及び耐摩耗性において、紫外線照射によって硬化したコーティング剤31と同等の性能となる。
【0058】
なお、紫外線照射による硬化工程は、上記電気炉を用いた焼き固めによる硬化工程と比較して、短時間で完了させることができる。例えば、紫外線照射による硬化工程は、上記電気炉を用いた焼き固めによる硬化工程の約240分の1の時間で完了する。また、紫外線照射による硬化工程は、電気炉を用いた焼き固めによる硬化工程に比べて、省スペースで実施でき、消費電力を低く抑えることが可能である。
【0059】
図1に示すステアリング装置10に配設される本発明の実施形態1の摺動部材30は、外側面301を有し、外側面301に、コーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンが、上記のようにコーティング版82を用いたコーティング剤31の印刷により形成されている。即ち、例えばスプレー噴射により外側面301に対するコーティングを行った摺動部材と比較して、製造コストを抑えることができる。なぜならば、スプレー噴射を行う場合に必要となる摺動部材の外側面に対するマスキング処理を行わずに済み、マスキング材を用いていない分コストが抑えられる。また、スプレー噴射によるコーティングは、コーティング剤の摺動部材の外側面に対する塗布効率が約30%であり、コーティング剤のロスが多くなる。実施形態1の摺動部材30は、コーティング版82を用いたコーティング剤31の印刷により外側面301に所定のパターンのコーティングを行っているため、コーティング剤31の塗布効率を約90%とすることができており、コーティング剤31のロスを抑えている。また、摺動部材30は、外側面301にコーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンを備えている。そのため、
図2における摺動部材30の軸方向における摺動時のハウジング14との間の摩擦抵抗を減らすグリスを外側面301に供給した場合に、非コーティング領域32がグリスを必要十分に保持することができる。よって、摺動部材30とハウジング14との間の摩擦抵抗が減らされて、摺動部材30の長期的な使用における耐久性が向上する。
【0060】
また、実施形態1の摺動部材30は、一例として円筒状に形成されたテレスコ摺動チューブ(アウターチューブ)であり、摺動部材30の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、コーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンは、複数のコーティング領域311と摺動方向と平行なスリット状(直線溝状)の複数の非コーティング領域32が交互に並ぶパターンである。そのため、
図2に示すハウジング14内に収容された摺動部材30の摺動方向と平行なスリット状のコーティング剤31が配設されていない複数の領域32が、上記グリスをより適切に保持することが可能となり、摺動部材30とハウジング14との長期的な使用における耐久性をさらに向上させる。また、ハウジング14と摺動部材30の外側面301との間に仮に複雑なボールベアリング構造を採用する場合等に比べても、摺動部材30によってステアリング装置10の低コスト化を図ることができる。
【0061】
実施形態1の摺動部材30の第一変形例について以下に
図8を用いて説明する。例えば、コーティング領域311は、摺動部材30の外側面301の中で、特に
図2に示すハウジング14の内側面との間の摩擦抵抗が大きくなる箇所に対応していてもよい。即ち、
図2に示すように、皿ばね等を用いたフリクション機構14c、14dによって摺動部材30はハウジング14の内面に押圧されて保持されているため、摺動部材30の外側面301の中で、摺動部材30の摺動方向(軸方向)に所定間隔を空けて配設された該フリクション機構14c、14dと当接する箇所は、特に摩擦抵抗が大きくなる。
【0062】
例えば、
図8に示す第一変形例の摺動部材30Aにおいては、摺動部材30Aの周方向においてコーティング領域311とスリット状の非コーティング領域32とが交互に並ぶ第1の領域が、
図2に示すフリクション機構14cに対応するように外側面301に形成されている。そして、第1の領域から摺動部材30Aの摺動方向(長手方向)に所定間隔を離間して、コーティング領域311とスリット状の非コーティング領域32とが交互に並ぶ第2の領域が、
図2に示すフリクション機構14dに対応するように外側面301に形成されている。摺動部材30Aの外側面301の摺動方向における第1の領域と第2の領域との間は、コーティング剤31が配設されていない円筒状領域326となる。
【0063】
図8に示す第一変形例の摺動部材30Aに対するコーティングは、先に説明したコーティング方法における工程と略同様の工程を実施することでなされる。先に説明した該各工程において相違する点は、例えば、コーティングパターン形成工程と印刷工程とにおいて使用するコーティング版を、
図5に示すコーティング版82のコーティング剤配設面821のY方向における中央部分に、複数の直線溝822が形成されていない帯状の領域を備えたものを使用する。これによって、印刷工程において、摺動部材30Aの外側面301にコーティング剤31が配設されていない円筒状領域326を形成できる。
【0064】
例えば、
図1、
図3に示す実施形態1の摺動部材30の外側面301における円筒状領域324や、
図8に示す第一変形例の摺動部材30Aの外側面301の円筒状領域324及び円筒状領域326は、非コーティング領域32に対して、摺動方向からグリスの再充填を促しやすいグリス補充面として機能できる。
【0065】
例えば、摺動部材30の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、コーティング剤31が配設された領域とコーティング剤31が配設されていない領域とが交互に並ぶ所定のパターンは、コーティング剤31が配設された複数の領域に対してコーティング剤31が配設されていない複数の領域が、外側面301に該長手方向に延びる螺旋状のスリット、又は波線状のスリットとして交互に並ぶパターンであってもよい。
【0066】
図9に示す摺動部材30Bは、実施形態1の摺動部材30の第二変形例である。例えば、摺動部材30Bの長手方向に沿う方向を摺動方向とし、コーティング剤31が配設された領域313とコーティング剤31が配設されていない領域328とが交互に並ぶ所定のパターンは、コーティング剤31が配設された複数の領域313に対してコーティング剤31が配設されていない複数の領域328が、外側面301において格子状のスリットとなるパターンとなっている。該格子状のパターンも、先に説明したコーティング方法によって外側面301に形成される。
【0067】
図1に示すステアリング装置10において、例えば、図示しないウォームギアの軸受の外周部を本発明の摺動部材とすることで、ウォームギアの軸受を支持するブッシュを簡略化してもよい。また、例えば、
図1に示すチルト機構16の回転軸を支持する摺動部材を、本発明の摺動部材としてもよい。
【0068】
本実施形態のコーティング方法においては、実施形態1の摺動部材30に対して、一例として硬化工程後に、以下に説明する交換工程、交換用コーティングパターン形成工程、及び別種印刷工程を順次実施してもよい。
【0069】
(5)交換工程
例えば、
図6に示すコーティング装置8において、移動機構83とコーティング版82との接続等が解除されて、コーティング版82が
図10に示す新たな交換用コーティング版86と交換される。また、
図7に示す実施形態1の摺動部材30が、紫外線照射装置73から
図10に示すコーティング装置8に搬送される。
【0070】
図10に示す交換用コーティング版86は、例えば、ある程度の弾性を備える樹脂材等で形成されており、X方向に筒体300の外周以上の長さで延在している。また、交換用コーティング版86のY方向における横幅は、例えば筒体300の長さと同一かそれ以上に設定されている。例えば、X方向の両端部が図示しない支持部材によって支持された交換用コーティング版86は、押圧板81から下方に押圧されることで、下方にたわむことが可能である。
【0071】
交換用コーティング版86の上面は、押圧板81の下端側が当接する略平坦な被押圧面860である。交換用コーティング版86の下面は、別種コーティング剤35が配設される別種コーティング剤配設面861となる。別種コーティング剤配設面861は、XY平面と平行となっている。
【0072】
別種コーティング剤配設面861は、例えば、Y方向に延在する直線状で平面視矩形状の直線溝862が、X方向に均等間隔を空けて形成されている。直線溝862のY方向における両端部は、交換用コーティング版86のX方向の両辺において開口しておらず、該両端部から液状の別種コーティング剤35が抜けてしまうことがない。また、
図10に示す回転機構84によって回転可能に支持された筒体300の長手方向と各直線溝862の延在方向とは、Y方向に平行となっている。
【0073】
例えば、直線溝862のX方向における溝幅は、
図10に示す筒体300の外側面301に形成された非コーティング領域32の幅よりも小さく設定されている。また、例えば、直線溝862の溝天面は、その断面形状が上側に向かって徐々に丸まっていく曲面となっている。直線溝862の溝天面は、図示しない供給孔がX方向に等間隔を空けて複数形成されている、又は別種コーティング剤35を通過可能なメッシュ素材で形成されている。
【0074】
コーティング版82(
図5参照)が交換用コーティング版86に交換されることに伴って、
図10に示すコーティング剤供給機構85が交換用コーティング版86に供給するコーティング剤も、コーティング剤31から別種コーティング剤35に変更される。コーティング剤31と別種コーティング剤35とは機能が異なる。即ち、交換用コーティング版86に供給される液状の別種コーティング剤35は、例えば、バインダに導電性高分子をフィラーとして混入させたUV硬化型の導電性コーティング剤である。なお、別種コーティング剤35は、UV硬化型に限定されず、熱硬化型のものを用いてもよいし、導電性以外の機能を備えていてもよい。なお、各図において、別種コーティング剤35は他の部分との識別のためにハッチングが付される。
【0075】
(6)交換用コーティングパターン形成工程
交換用コーティングパターン形成工程は、先に説明したコーティングパターン形成工程と略同様に行われるため、説明を省略する。交換用コーティングパターン形成工程実施後、
図10に示す各直線溝862内に別種コーティング剤35が直線状に充填された状態となる。即ち、交換用コーティング版86の別種コーティング剤配設面861に、別種コーティング剤35が配設された領域である直線溝862と、直線溝862に隣り合い別種コーティング剤35が配設されていない領域863と、がX方向において交互に並ぶ別種パターンが形成された状態となる。
【0076】
(7)別種印刷工程
図10に示すように、移動機構83が、例えば、交換用コーティング版86の+X方向側の端部分が筒体300と押圧板81との間に位置するように、交換用コーティング版86を位置付ける。なお、該位置付けが行われた後、さらに、直線溝862内の別種コーティング剤35が、塗布対象である筒体300の外側面301のコーティング領域311に重なることがないように、移動機構83が補正距離だけ交換用コーティング版86をX方向にオフセットした位置まで移動する。
【0077】
そして、
図10に示すように、筒体300が例えば-Y方向側から見て反時計回り方向に所定の回転速度で回転されるとともに、押圧板81が降下して交換用コーティング版86の被押圧面860に接触する。ある程度の弾性を備える交換用コーティング版86の押圧されている箇所が、下方に向かってたわむように湾曲して、別種コーティング剤配設面861の一部が筒体300の外側面301のY方向における端から端まで接触する。
【0078】
さらに、移動機構83が交換用コーティング版86を所定の送り速度で+X方向に移動させ、回転する筒体300の外側面301の非コーティング領域32に、交換用コーティング版86の直線溝862内に充填された別種コーティング剤35が塗布される。連続して、交換用コーティング版86の別種コーティング剤35が配設されていない領域863と、筒体300のコーティング領域311とが接触する。これが繰り返されることで、
図11に示すように、コーティング剤31とは機能の異なる別種コーティング剤35が配設された領域353(以下、別種コーティング領域353とする)が、コーティング領域311と分けて、筒体300の外側面301に形成される。
【0079】
交換用コーティング版86が+X方向に移動するのに伴って、回転機構84のモータ制御により筒体300が例えば360度回転することで、別種コーティング領域353が、コーティング領域311と分けて、摺動部材30の外側面301を一周するように形成される。その後、押圧板81が上昇して交換用コーティング版86から離間し、これに伴って、押圧されてたわんでいた交換用コーティング版86が筒体300から離間する。さらに、回転が停止した筒体300が回転機構84から取り外される。
【0080】
なお、交換用コーティングパターン形成工程と別種印刷工程とは並行して実施されてもよい。また、交換用コーティング版86等を筒体300の下方に位置付け、筒体300の外側面301の下方から別種コーティング剤35の印刷が行われてもよい。
【0081】
(8)別種硬化工程
次いで、別種コーティング剤35が外側面301に印刷された筒体300は、
図12に示す紫外線照射装置73に搬送される。そして、紫外線照射装置73において、紫外線734が外側面301に所定時間照射されることで、別種コーティング剤35が硬化し、
図12、
図13に示す実施形態2の摺動部材30Cが完成する。なお、
図13は、摺動部材30Cの断面図である。
【0082】
例えば、
図13に示すように、非コーティング領域32上に摺動部材30Cの長手方向(摺動方向)に沿う直線状に形成された別種コーティング剤35の断面における最も厚い部分の厚さは、外側面301に印刷されたコーティング剤31の厚さと同様となっている。そして、別種コーティング剤35の断面形状は交換用コーティング版86の直線溝862の断面形状が転写された略半楕円状となっている。即ち、摺動部材30Cの長手方向(摺動方向)に沿う直線状に印刷された別種コーティング剤35は、断面における最も厚い部分から周方向における左右両側に向かって徐々に厚さが薄くなっていく。なお、別種コーティング剤35の断面形状は、上記例に限定されず、略半円状等となっていてもよい。
【0083】
実施形態2の摺動部材30Cが、
図1、
図2に示すハウジング14内に収容された場合に、別種コーティング領域353のコーティング領域311に対して周方向における左右両側の隙間が摺動方向と平行なスリット状(直線溝状)となり、別種コーティング領域353がグリスを適切に保持することが可能となる。したがって、ハウジング14との間に働く摩擦抵抗を減らして、摺動部材30Cの長期的な使用における耐久性をさらに向上させる。さらに、実施形態2の摺動部材30Cは、例えば導電性を備える別種コーティング領域353を、静電気等のアース経路として用いることが可能となる。即ち、摺動部材30Cに印刷塗布された別種コーティング剤35は、
図13における断面の最も厚い部分が、
図1、
図2に示すハウジング14に当接することができ、ハウジング14を介して上記アース経路を形成できる。なお、導電性を備える別種コーティング領域353は、ハウジング14を介していないアース経路を形成してもよい。また、例えば、
図13に示す摺動部材30cに印刷塗布された別種コーティング剤35の周方向における左右両側において、非コーティング領域32が所定幅で露出した状態となっていてもよい。
【0084】
摺動部材の外側面における別種コーティング剤35が配設された領域353の例は、実施形態2の摺動部材30Cに限定されるものではない。例えば、実施形態2の摺動部材30Cの
図14に示す別例の摺動部材30Dのように、非コーティング領域32の約半数が、上記別種コーティング剤35が配設された領域353となってもよい。即ち、
図14に示す摺動部材30Dは、コーティング領域311、別種コーティング剤35が印刷されていない非コーティング領域32、コーティング領域311、及び非コーティング領域32上に印刷された別種コーティング領域353の順番で、周方向に該順番が繰り返すように形成されている。なお、
図14に示す別例の摺動部材30Dにおいては、別種コーティング剤35の厚さがコーティング剤31の厚さと略同一となっている。そして、摺動部材30Dが、
図1、
図2に示すハウジング14内に収容された場合に、コーティング領域311に対して摺動方向と平行なスリット状(直線溝状)となる非コーティング領域32が、グリスを適切に保持することが可能となる。したがって、ハウジング14との間に働く摩擦抵抗を減らして、摺動部材30Cの長期的な使用における耐久性をさらに向上させる。さらに、摺動部材30Dは、例えば導電性を備える別種コーティング領域353を、
図1、
図2に示すハウジング14に当接させて静電気等のアース経路として用いることが可能となる。なお、
図13に示す実施形態2の摺動部材30Cについて、1本の非コーティング領域32の例えば半分の面積を、別種コーティング剤35が配設された領域353としてもよい。
【0085】
以上説明した通り、本発明の実施形態である摺動部材のコーティング方法では、一例として、摺動部材30を洗浄する洗浄工程と、洗浄工程実施後、コーティング版82のコーティング剤配設面821に、摺動部材30の外側面301に塗布するためのコーティング剤31が配設された領域(直線溝822)と、コーティング剤31が配設されていない領域823と、が交互に並ぶ所定のパターンを形成するコーティングパターン形成工程と、所定のパターンが形成されたコーティング版82のコーティング剤配設面821と摺動部材30の外側面301とを接触させた状態で、摺動部材30を回転させつつ、コーティング版82と摺動部材30とをコーティング剤配設面821と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、外側面301にコーティング剤31を所定のパターンで印刷して塗布する印刷工程と、印刷工程実施後に、コーティング剤31を硬化させる硬化工程と、を備える。よって、一例としては、コーティング剤の摺動部材30の外側面301に対するスプレー噴射を伴うコーティングを実施する場合に比べて、コーティング剤31の消費量を抑えることができる。また、摺動部材30の外側面301に対するコーティング剤31の塗布パターンを設定する際も、コーティング版82に形成したパターンを外側面301に印刷(転写)させるため、外側面301に対するマスキング処理を施す必要がなく、コスト及び工程時間の削減を行うことが可能となる。そして、コーティングが施された実施形態1の摺動部材30は、外側面301にコーティング領域311と非コーティング領域32とが交互に並ぶ所定のパターンを備えていることで、外側面301に対してハウジング14との間の摺動時における摩擦抵抗を減らすためグリスを供給した場合に、非コーティング領域32がグリスを必要十分に保持するため、摺動部材30とハウジング14との間の摩擦抵抗を減らすことができ、摺動部材30の長期的な使用における耐久性が向上する。
【0086】
摺動部材のコーティング方法では、一例として、摺動部材30は、筒状に形成されたテレスコ摺動チューブ(アウターチューブ)であり、摺動部材30の長手方向に沿う方向を摺動方向とし、印刷工程では、摺動部材30の外側面301に、コーティング剤31が配設された複数の領域311(コーティング領域311)に対してコーティング剤31が配設されていない摺動方向と平行なスリット状(直線溝状)の複数の領域32(非コーティング領域32)が交互に並ぶパターンを印刷する。そのため、摺動部材30の非コーティング領域32が、上記グリスをさらに適切に保持することが可能となり、摺動部材30とハウジング14との間の摩擦抵抗を減らして摺動部材30を適切に摺動可能とし、長期的な使用における耐久性をさらに向上させる。
【0087】
実施形態の摺動部材のコーティング方法において、一例として、印刷工程後、又は硬化工程後に、コーティング版82と交換用コーティング版86とを交換する交換工程と、交換用コーティング版86の別種コーティング剤配設面861に、コーティング剤31とは機能の異なる別種コーティング剤35が配設された領域(直線溝862)と、別種コーティング剤35が配設されていない領域863と、が交互に並ぶ別種パターンを形成する交換用コーティングパターン形成工程と、該別種パターンが形成された交換用コーティング版86の別種コーティング剤配設面861と摺動部材30の外側面301とを接触させた状態で、摺動部材30を回転させつつ、交換用コーティング版86と摺動部材30とを別種コーティング剤配設面861と平行な面方向に沿って相対的に移動させて、摺動部材30の外側面301に別種コーティング剤35をコーティング剤31と分けて印刷して塗布する別種印刷工程と、別種印刷工程を実施後に、別種コーティング剤35を硬化させる別種硬化工程と、を備える。よって、一例としては、摺動部材30の外側面301に別種コーティング剤35の機能を低コストで付与することが可能となる。
【0088】
上述の本発明の実施形態は、発明の範囲を限定するものではなく、発明の範囲に含まれる一例に過ぎない。本発明のある実施形態は、上述の実施形態に対して、例えば、具体的な用途、構造、形状、作用、及び効果の少なくとも一部について、発明の要旨を逸脱しない範囲において変更、省略、及び追加がされたものであっても良い。
【符号の説明】
【0089】
1:車両
10:ステアリング装置 11:ステアリングシャフト 12:ステアリングホイール
13:インナチューブ 14:ハウジング 14c、14d:フリクション機構
15:テレスコピック機構 16:チルト機構
30:実施形態1の摺動部材 300:筒体 301:外側面
31:コーティング剤 311:コーティング剤が配設された領域
32:コーティング剤が配設されていない領域 324:円筒状領域
35:別種コーティング剤
30A:第一変形例の摺動部材 30B:第二変形例の摺動部材
30C:実施形態2の摺動部材 30D:実施形態2の摺動部材の変形例
70:洗浄装置 73:紫外線照射装置
8:コーティング装置
81:押圧板
82:コーティング版 821:コーティング剤配設面 822:直線溝
83:移動機構 84:回転機構 85:コーティング剤供給機構
86:交換用コーティング版 861:別種コーティング剤配設面