(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042282
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】視野性評価装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20240321BHJP
【FI】
G06F30/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146883
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 翔平
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146EC08
(57)【要約】
【課題】建物の室内の特定の視点から、建物の開口部を介して人が見える、建物外部の視野性を評価するに好適な視野性評価装置を提供する。
【解決手段】視野性評価装置1は、中心視野領域RAと、周辺視野領域RBとを、開口部7の画像に設定する領域設定部12と、中心視野領域RAの面積SAと、周辺視野領域RBの面積SBに1未満の第1補正係数を乗じた面積SBとの和を全視野面積STとして算出する全視野面積算出部13と、障害物5が存在する状態の中心視野領域RAに写り込む外部視野の面積Saと、障害物5が存在する状態の周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wの面積Sbに第1補正係数を乗じた面積との和を外部視野面積Stとして算出する外部視野面積算出部14と、全視野面積STに対する外部視野面積Stの割合に基づいて、視野性の評価指数を算出する評価指数算出部15と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の室内の特定の視点から、前記建物の開口部を介して人が見える、建物外部の視野性を評価する視野性評価装置であって、
前記視野性評価装置は、前記視点から前記開口部を見た際に、前記建物外部の外部視野を阻害する障害物が存在する状態の前記視野性を評価するものであり、
前記視野性評価装置は、前記評価を行う処理装置を備えており、
前記処理装置は、
前記視点から前記障害物とともに前記開口部を見た透視図の画像、または、前記視点から前記障害物とともに前記開口部を撮像した画像が登録された画像登録部と、
前記視点から前記開口部を前記人が見た際に、前記人の中心視となる中心視野領域と、前記中心視野領域の周りに存在し、前記人の周辺視となる周辺視野領域とを、前記開口部の画像に設定する領域設定部と、
前記中心視野領域の面積と、前記周辺視野領域の面積に1未満の第1補正係数を乗じた面積との和を全視野面積として算出する全視野面積算出部と、
前記障害物が存在する状態の前記中心視野領域に写り込む前記外部視野の面積と、前記障害物が存在する状態の前記周辺視野領域に写り込む前記外部視野の面積に前記第1補正係数を乗じた面積との和を外部視野面積として算出する外部視野面積算出部と、
前記全視野面積に対する前記外部視野面積の割合に基づいて、前記視野性の評価指数を算出する評価指数算出部と、
を備えることを特徴とする視野性評価装置。
【請求項2】
前記第1補正係数は、0.1~0.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の視野性評価装置。
【請求項3】
前記開口部は、自然光を透過する透光板で覆われており、
前記評価指数算出部は、前記全視野面積に対する前記外部視野面積の割合に、前記透光板の前記自然光の透過率に基づいた第2補正係数を乗じて、前記視野性の評価指数を算出することを特徴とする請求項1に記載の視野性評価装置。
【請求項4】
前記第2補正係数をbとし、前記透過率をR、定数をnとしたときに、前記評価指数算出部は、前記第2補正係数を、b=Rnの式(ただし、nは、0.30~0.40の範囲)を用いて算出することを特徴とする請求項3に記載の視野性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物外部の視野性を評価する視野性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、たとえば、特許文献1には、仮想空間を用いて、支点から見た評価対象物の可視率を算出する可視率算出装置が提案されている。この装置では、3次元形状モデルを作成した上で、視界内に障害物があった際に、評価対象物と障害物とを仮想スクリーンに投影し、これらの投影した面積率から可視率を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に装置を用いたとしても、建物の開口部を人が見て感じた視野性を評価することは難しい。具体的には、視野性の評価指数は、屋外の景色の要因を含めたり、視対象を特定したりして評価するものが大半であり、屋外の状況を含めずに簡易に評価できる画一的な指標ではない。さらには、特許文献1では、人間の眼の「中心視と周辺視」の特性が考慮されていないため、実際に人が見える建物外部の視野性を評価するには十分ではないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建物の室内の特定の視点から、建物の開口部を介して人が見える、建物外部の視野性を評価するに好適な視野性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑みて、本発明に係る視野性評価装置は、建物の室内の特定の視点から、前記建物の開口部を介して人が見える、建物外部の視野性を評価する視野性評価装置であって、前記視野性評価装置は、前記視点から前記開口部を見た際に、前記建物外部の外部視野を阻害する障害物が存在する状態の前記視野性を評価するものであり、前記視野性評価装置は、前記評価を行う処理装置を備えており、前記処理装置は、前記視点から前記障害物とともに前記開口部を見た透視図の画像、または、前記視点から前記障害物とともに前記開口部を撮像した画像が登録された画像登録部と、前記視点から前記開口部を前記人が見た際に、前記人の中心視となる中心視野領域と、前記中心視野領域の周りに存在し、前記人の周辺視となる周辺視野領域とを、前記開口部の画像に設定する領域設定部と、前記中心視野領域の面積と、前記周辺視野領域の面積に1未満の第1補正係数を乗じた面積との和を全視野面積として算出する全視野面積算出部と、前記障害物が存在する状態の前記中心視野領域に写り込む前記外部視野の面積と、前記障害物が存在する状態の前記周辺視野領域に写り込む前記外部視野の面積に前記第1補正係数を乗じた面積との和を外部視野面積として算出する外部視野面積算出部と、前記全視野面積に対する前記外部視野面積の割合に基づいて、前記視野性の評価指数を算出する評価指数算出部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、領域設定部で、人の中心視となる中心視野領域と、中心視野領域の周りに存在し、人の周辺視となる周辺視野領域とを、開口部の画像に設定する。全視野面積算出部では、周辺視野領域の面積に1未満の第1補正係数を乗じた面積との和を全視野面積として算出する。このようにして、算出された全視野面積は、人間の眼の中心視と周辺視の特性が考慮された面積となる。
【0008】
次に、外部視野面積算出部で、障害物が存在する状態の中心視野領域に写り込む建物の外部視野の面積と、障害物が存在する状態の周辺視野領域に写り込む外部視野の面積に第1補正係数を乗じた面積との和を外部視野面積として算出する。ここで、算出された外部視野面積は、障害物が存在する状態において、周辺視野領域に写り込む外部視野の面積に1未満の第1補正係数を乗じた補正を行って得られた面積である。このようにして、算出された外部視野面積は、人間の眼の中心視と周辺視の特性が考慮された面積となる。
【0009】
評価指数算出部では、全視野面積算出部で算出された全視野面積に対する、外部視野面積算出部で算出された外部視野面積の割合に基づいて、視野性の評価指数を算出する。したがって、算出された視野性の評価指数は、障害物がある状態で、人間の眼の中心視と周辺視の特性を考慮した、建物の開口部から建物外部の外部視野の視野性を数値で表した指標となる。このように、視野性の評価指数を用いて、視野性を数値化して評価することができる。
【0010】
ここで、第1補正係数は、0より大きく、1未満であれば特に限定されるものではなく、より好ましい態様としては、前記第1補正係数は、0.1~0.5の範囲である。第1補正係数をこの範囲とすることにより、中心視野領域と周辺視野領域との視野特性の違いを、数値として差別化することができる。ここで、第1補正係数が0.1未満である場合には、中心視野領域と周辺視野領域との視野特性の違いを過大評価してしまう。なお、第1補正係数の下限値を0.1としたのは、周辺視野領域では、人の視力は、最低視力として1/10になることによる。一方、第1補正係数が0.5を超えた場合には、中心視野領域と周辺視野領域との視野特性の違いを過少評価してしまう。なお、この第1補正係数は、人の年齢に応じて、設定してもよい。たとえば、特定の年齢以上になると、周辺視野領域が低下することから、当該特定の年齢以上において、その年齢の増加に伴って、第1補正係数が小さくなるように、設定されてもよい。
【0011】
より好ましい態様としては、前記開口部は、自然光を透過する透光板で覆われており、前記評価指数算出部は、前記全視野面積に対する前記外部視野面積の割合に、前記透光板の前記自然光の透過率に基づいた第2補正係数を乗じて、前記視野性の評価指数を算出する。
【0012】
この態様によれば、建物の開口部には、ガラス板または樹脂板などの透光板で覆われているため、視野性が変化する。したがって、この態様では、評価指数算出部は、前記全視野面積に対する前記外部視野面積の割合に、前記透光板の前記自然光の透過率に基づいた第2補正係数を乗じて、前記視野性の評価指数を算出する。これにより、透光板による視野性を加味して、視野性の評価指数をより精度良く算出することができる。
【0013】
ここで、第2補正係数は、透光板が無い状態を1として、透光板がある場合には、透光板の前記自然光の透過率そのものを、第2補正係数としてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記第2補正係数をbとし、前記透過率をR、定数をnとしたときに、前記評価指数算出部は、前記第2補正係数を、b=Rnの式(ただし、nは、0.30~0.40の範囲)を用いて算出する。
【0014】
この態様によれば、第2補正係数を、スティーブンスの法則に基づく式を利用して算出するので、ガラス板などの透光板の透過率に基づいた実際の見え方を考慮した補正を行うことができる。すなわち、透過率Rは、その人の眼に入ってくる光の刺激の強さを表しており、その人の眼の感覚の大きさは、透過率Rを用いて、Rn(ただし、nは、0.30~0.40の範囲)で、表すことができることがわかっている。したがって、この式を用いて、第2補正係数を、透光板の透過率から人の眼の感覚の大きさに変換し、透光板を介して実際に人が見た外部視野の状態に合わせた視野性の評価指数を算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、建物の室内の特定の視点から、建物の開口部を介して人が見える、視野性の評価指数をより精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の本実施形態に係る視野性評価装置で評価対象となる建物の開口部の外部視野を説明するための模式的斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る視野性評価装置を含むシステムの模式図である。
【
図3】
図1に示す視野性評価装置の処理装置のブロック図である。
【
図4】
図1に示す視点から建物の開口部を鉛直ルーバとともに見た透視図である。
【
図5】
図4の建物の開口部に対する領域設定部を説明するための透視図である。
【
図6】(a)は、全視野面積算出部による中心視野領域の面積を説明するための図であり、(b)は、全視野面積算出部による周辺視野領域の面積を説明するための図である。
【
図7】(a)は、外部視野面積算出部による中心視野領域に写り込む外部視野の面積を説明するための図であり、(b)は、障害物が存在する状態の周辺視野領域に写り込む外部視野の面積を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係る視野性評価装置の作業フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に
図1~
図8を参照しながら、本実施形態に係る視野性評価装置1を説明する。
【0018】
1.建物100の開口部7と鉛直ルーバ(障害物)5について
図1は、本発明の本実施形態に係る視野性評価装置1で評価対象となる建物100の開口部7の外部視野Wを説明するための模式的斜視図である。本実施形態では、視野性評価装置1は、
図1に示すように、建物100の室内21の特定の視点Fから、建物100の開口部7を介して人Pが見える、建物外部の視野性を評価する装置である。
【0019】
本実施形態では、視野性評価装置1は、建物100の壁部4に形成された窓などの開口部7を、室内21にいる人Pが見た特定の視点Fから、建物100の外部の外部視野Wがどの程度見えるかを評価する。より具体的には、視野性評価装置1は、
図1に示すように、建物100の開口部7に、窓付帯として鉛直ルーバ5(障害物)が存在する状態における外部視野Wの視野性を評価する。
【0020】
鉛直ルーバ5は、鉛直方向に沿って延在する、複数の長尺状の羽板部材51、51、…が水平方向に間隔を空けて、建物100の外壁に取り付けられている。本実施形態では、その1つとして、建物100の一部を構成する鉛直ルーバ5を例示したが、たとえば、建物外部の外部視野Wを阻害する障害物であれば、これに限定されず、たとえば、腰壁、横型ルーバ、またはブラインド等であってもよい。
【0021】
2.視野性評価装置1のハードウエア構成について
視野性評価装置1は、ハードウエアとして、ROM、RAM等で構成された記憶部10Aと、CPU等で構成された演算部10Bとを備えた処理装置10を有している。記憶部10Aは、特定の視点Fから障害物とともに開口部7を見た透視図の画像、および視野性の評価プログラム等を記録しており、演算部10Bは、評価プログラム等を実行する。
【0022】
視野性評価装置1は、入力装置31と出力装置32とを備えてもよい。この場合、処理装置10には、入力装置31と出力装置32とが接続されている。本実施形態では、入力装置31と出力装置32とが一体となったタッチパネルディスプレイであってもよい。
【0023】
入力装置31を用いて、上述した透視図の画像、評価プログラム等のデータが入力される。本実施形態では、入力装置31は、たとえば、特定の視点Fから撮像した撮像装置(図示せず)で撮像した画像データが、処理装置10に入力されてもよい。入力装置31で入力されたデータは、記憶部10Aに記憶される。出力装置32は、撮像装置20で撮像された画像データ、上述した透視図の画像、演算部10Bで演算された演算結果等を、表示する。
【0024】
3.処理装置10のソフトウエア構成について
本実施形態では、
図3に示すように、処理装置10は、画像登録部11と、領域設定部12と、全視野面積算出部13と、外部視野面積算出部14と、評価指数算出部15と、を少なくとも備えている。
【0025】
3-1.画像登録部11について
画像登録部11には、
図1に示す室内21の特定の視点Fから障害物である鉛直ルーバ5とともに開口部7を見た透視図の画像が登録されている。具体的には、
図4に示すように、特定の視点Fから見た窓枠内に相当する開口部7の画像と、その開口部7に存在する、複数の羽板部材51、51、…を備えた鉛直ルーバ5の画像とが、登録されている。
【0026】
図4では、開口部7の画像は、外部視野Wの画像を含んでいるが、後述する視野性の評価方法からも明らかなように、評価する画像には、外部視野Wに相当する画像が含まれなくてもよい。障害物に相当する鉛直ルーバ5の画像は、特定の視点Fから見た透視図であり、室内21の人Pの視線の中心に対して作成された一点透視図であり、開口部7に存在する鉛直ルーバ5の画像であり、製図により画像が生成されてもよい。したがって、画像登録部11に登録される画像は、その視点Fからの開口部7の形状および大きさと、その開口部7に存在する障害物を特定することができるのであれば、製図により生成された画像であってもよい。
【0027】
この他にも、たとえば、建物100内の室内21において、特定の位置(視点F)から撮像装置で撮像した画像を用いてもよい。この場合、窓枠に相当する開口部7の画像と、その内部に存在する障害物(鉛直ルーバ)の画像とが、撮像装置で撮像した画像から予め区分され、画像登録部11に登録されている。この他にも、たとえば、撮像装置で撮像した画像を処理装置10に入力し、この撮像した画像に対して、画像処理、機械学習等を用いて、窓枠に相当する開口部7の画像と、その内部に存在する障害物(鉛直ルーバ)の画像とを、処理装置10内において、自動的に区分し、これらの画像を登録してもよい。
【0028】
3-2.領域設定部12について
図1および
図5を参照しながら、領域設定部12を説明する。
図1および
図5に示すように、領域設定部12は、室内21の所定の視点Fから開口部7を人Pが見た際に、開口部7の画像において、人Pの中心視となる中心視野領域RAと、中心視野領域RAの周りに存在し、人Pの周辺視となる周辺視野領域RBと、を設定する。
【0029】
具体的には、本実施形態では、まず、
図1および
図5に示すように、開口部7の中心(窓の中心)よりもやや上に、人Pの視線CLが向いている状態で、所定の視点Fから、人Pの中心視となる全体中心視野領域R1は、ほぼ楕円形状であり、全体中心視野領域R1の周りに存在する人Pの周辺視となる全体周辺視野領域R2を設定する。ここで、所定の視点Fから、人Pの全体中心視野領域R1のうち、開口部7の画像(領域)に含まれる中心視野領域RAと、人Pの全体周辺視野領域R2のうち、開口部7の画像(領域)に含まれる周辺視野領域RBとを、設定する。
【0030】
すなわち、中心視野領域RAは、全体中心視野領域R1と開口部7の領域とが重複する領域であり、本実施形態では、全体中心視野領域R1の上の一部が欠けた領域である。周辺視野領域RBは、全体周辺視野領域R2と開口部7とが重複する領域であり、本実施形態では、全体周辺視野領域R2に周辺視野領域RBが全て含まれるので、開口部7の領域から、中心視野領域RAを除いた領域である。これらの各領域の境界は、画像の画素により特定すればよい。
【0031】
ここで、一般的に、中心視において見える全体中心視野領域R1は、医学的に、眼球運動だけで瞬時に情報受容できる範囲(有効視野)であることが好ましい。たとえば、有効視野を、人Pの視線CLを中心線として、水平方向に視野角度30°(中心線に対して左右それぞれに15°)、鉛直方向に20°(中心線に対して上に8°、下に12°)の範囲に設定してもよい。したがって、この視野角度の範囲内を満たすように、開口部7の画像に投影した領域(略楕円の領域)を、中心視野領域RAとしてもよい。
【0032】
さらに、周辺視において見える全体周辺視野領域R2は、医学的に、情報識別能力は低いが、主観的な空間座標系に影響を及ぼす範囲(誘導視野)であることが好ましい。たとえば、誘導視野を、人Pの視線CLを中心線として、水平方向に視野角度100°(中心線に対して左右それぞれに50°)、鉛直方向に85°(中心線に対して上に35°、下に50°)の範囲に設定してもよい。したがって、この視野角度の範囲内を満たすように、開口部7の画像に投影した領域(略楕円の領域)に、上述した中心視野領域RAを除く領域を、周辺視野領域RBとしてもよい。
【0033】
なお、上述した設定方法は一般的であり、複数の視野に対して、同じ方法で中心視野領域RAおよび周辺視野領域RBを設定して、視野性を評価するのであれば、これらの視野性を相対的に評価できるため、領域の設定方法は、限定されるもののではない。
【0034】
3-3.全視野面積算出部13について
図6(a)、(b)を参照しながら、全視野面積算出部13を説明する。全視野面積算出部13は、
図6(a)に示す中心視野領域RAの面積SAと、
図6(b)に示す周辺視野領域RBの面積SBに1未満の第1補正係数aを乗じた面積との和を全視野面積STとして算出する。具体的には、全視野面積STは、以下の式(1)で表すことができる。
ST=SA+SB×a…(1)
【0035】
なお、中心視野領域RAの面積SAと周辺視野領域RBの面積SBの和は、開口部7の領域の面積である。これらの面積は、ピクセル数から算出してもよく、後述する視野性の評価指数Vは、割合であることから、ピクセル数そのものであってもよい。
【0036】
式(1)で示すように、周辺視野領域RBの面積SBに1未満の第1補正係数aを乗じることにより、中心視野領域RAに比べて周辺視野領域RBが見え難いという人の眼の特性を、中心視野領域RAの面積SAと周辺視野領域RBの面積SBを用いて定量的に表すことができる。
【0037】
ここで、第1補正係数aは、0より大きく、1未満であれば特に限定されるものではないが、第1補正係数aは、0.1~0.5の範囲であることが好ましい。第1補正係数aをこの範囲とすることにより、中心視野領域RAと周辺視野領域RBとの視野特性の違いを、数値として差別化することができる。
【0038】
ここで、第1補正係数aが0.1未満である場合には、中心視野領域RAと周辺視野領域RBとの視野特性の違いを過大評価してしまう。なお、第1補正係数aの値の下限値を0.1としたのは、周辺視野領域RBでは、その人の視力は、最低視力として1/10になることによる。一方、第1補正係数aが0.5を超えた場合には、中心視野領域RAと周辺視野領域RBとの視野特性の違いを過少評価してしまう。
【0039】
なお、この第1補正係数は、人の年齢に応じて、設定してもよい。たとえば、特定の年齢以上になると、周辺視野領域RBが低下する。そこで、入力装置31で、人Pの年齢を入力し、全視野面積算出部13は、当該特定の年齢以上において、その年齢の増加に伴って、第1補正係数aが小さくなるように、第1補正係数aを設定してもよい。
【0040】
3-4.外部視野面積算出部14について
図7(a)、(b)を参照しながら、外部視野面積算出部14を説明する。外部視野面積算出部14は、
図7(a)に示す鉛直ルーバ(障害物)5が存在する状態の中心視野領域RAに写り込む外部視野Waの面積Saと、
図7(b)に示す鉛直ルーバ(障害物)5が存在する状態の周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wbの面積Sbに第2補正係数bを乗じた面積との和を外部視野面積Stとして算出する。具体的には、外部視野面積Stは、以下の式(2)で表すことができる。
St=Sa+Sb×b…(2)
【0041】
ここで、中心視野領域RAに写り込む外部視野Waの面積Saは、
図7(a)でハッチングした部分の面積である。具体的には、外部視野Waの面積Saは、中心視野領域RAの面積SAから、中心視野領域RAに存在する鉛直ルーバ5の面積La(
図7(a)では、透視図で描かれた5枚の羽板部材51の部分を合わせた面積)を減じることにより、算出することができる。
【0042】
同様に、周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wbの面積Sbは、
図7(b)でハッチングした部分の面積である。具体的には、周辺視野領域RBの面積SBから、周辺視野領域RBに存在する鉛直ルーバ5の面積Lb(
図7(b)では、透視図で描かれた羽板部材51の部分を合わせた面積)を減じることにより、算出することができる。
【0043】
なお、全視野面積STの単位がピクセル数である場合には、外部視野面積Stは、ピクセル数から算出してもよく、後述する視野性の評価指数Vは、割合であることから、ピクセル数そのものであってもよい。
【0044】
式(2)で示すように、周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wbの面積Sbに、式(1)と同じ値である1未満の第1補正係数aを乗じることにより、中心視野領域RAに比べて周辺視野領域RBが見え難いという人の眼の特性を、式(1)と同様に、定量的に表すことができる。
【0045】
3-5.評価指数算出部15について
評価指数算出部15は、全視野面積算出部13で算出した全視野面積STに対する外部視野面積算出部14で算出した外部視野面積Stの割合に基づいて、視野性の評価指数Vを算出する。
【0046】
ここで、本実施形態では、
図1に示すように、開口部7は、自然光を透過するガラス板(透光板)71で覆われており、評価指数算出部15は、このガラス板71により、外部視野Wの見え方の影響も、考慮する。具体的には、評価指数算出部15は、全視野面積STに対する外部視野面積Stの割合に、ガラス板71の自然光の透過率に基づいた第2補正係数bを乗じて、視野性の評価指数Vを算出する。
【0047】
具体的には、視野性の評価指数Vは、以下の式(3)で表すことができる。なお、視野性の評価指数Vは、〔%〕で表すことができる無次元量である。
V=St/ST×b×100…(3)
【0048】
ここで、第2補正係数bは、たとえば、ガラス板(透光板)71の自然光の透過率そのものであってもよい。しかしながら、ガラス板などの透光板を介して見た視界は、透光板の透過率が低い範囲では、透過率の増加に伴って見え易くなるが、透過率が高い範囲では、透過率が増加しても見え易さに変化はないという視覚特性を人が有することがわかっている。
【0049】
このような視覚特性に基づいて、前記第2補正係数をbとし、ガラス板(透光板)71の透過率をR、定数をnとしたときに、評価指数算出部15は、第2補正係数bを、以下の式(4)を用いて算出する。ただし、nは0.30~0.40の範囲である。
b=Rn…(4)
【0050】
第2補正係数bは、式(4)であるスティーブンスの法則に基づく式を利用しているので、ガラス板71などの透光板の透過率Rに基づいた実際の見え方を考慮した補正を行うことができる。すなわち、透過率Rは、その人の眼に入ってくる光の刺激の強さを表しており、その人の眼の感覚の大きさは、透過率Rを用いて、Rn(ただし、nは、0.30~0.40の範囲)で表すことができることがわかっている。したがって、この式を用いて、第2補正係数bを、透光板の透過率Rから人の眼の感覚の大きさに変換し、透光板を介して実際に人が見た外部視野Eの状態に合わせた視野性の評価指数Vを算出することができる。
【0051】
以下に、
図8を参照しながら、本実施形態に係る視野性評価装置1の作業フローを説明する。まず、ステップS1では、画像登録部11で、建物100の開口部7と鉛直ルーバ5(障害物)の画像を登録する。ここで、登録する画像は、特定の視点Fから開口部7を見た時の開口部7の画像と、開口部7の鉛直ルーバ5の透視図(一点透視図)の画像が登録されていてもよく、たとえば撮像装置で撮像した画像であってもよい。
【0052】
次に、ステップS2では、領域設定部12により、室内21の所定の視点Fから開口部7を人Pが見た際に、人Pの中心視となる中心視野領域RAと、中心視野領域RAの周りに存在し、人Pの周辺視となる周辺視野領域RBとを、開口部7の画像に設定する。
【0053】
次に、ステップS3では、全視野面積算出部13により、第1補正係数aを設定した後、式(1)を用いて、中心視野領域RAの面積SAと、周辺視野領域RBの面積SBに1未満の第1補正係数aを乗じた面積との和を全視野面積STとして算出する。
【0054】
次に、ステップS4では、外部視野面積算出部14により、鉛直ルーバ(障害物)5が存在する状態の中心視野領域RAに写り込む外部視野Waの面積Saを算出する。ステップS5では、鉛直ルーバ(障害物)5が存在する状態の周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wbの面積Sbを算出する。
【0055】
次に、ステップS6では、外部視野面積算出部14により、上述した式(2)を用いて、ステップS5で算出した中心視野領域RAに写り込む外部視野Waの面積Saと、ステップS6で算出した周辺視野領域RBに写り込む外部視野Wbの面積Sbに第2補正係数bを乗じた面積との和を外部視野面積Stとして算出する。具体的には、外部視野面積Stは、上述した式(2)で表すことができる。
【0056】
次に、ステップS7では、外部視野面積算出部14により、上述した式(4)を用いて、第2補正係数bを算出する。この際、式(4)の透過率Rとして、透光板(ガラス板71)の自然光の透過率(具体的には、単位面積あたりの透光板有りの光量に透光板無しの光量を除した値、カタログ値に記載された透過率など)を用いる。nにはたとえば、0.33等の値を用いる。
【0057】
最後に、ステップS8では、評価指数算出部15により、上述した式(3)を用いて、ステップS3で算出した全視野面積STに対する、ステップS6で算出した外部視野面積Stの割合に、ステップS7で算出した第2補正係数bを乗じて、視野性の評価指数Vを算出する。
【0058】
本実施形態によれば、算出された視野性の評価指数Vは、鉛直ルーバ(障害物)5がある状態で、人間の眼の中心視と周辺視の特性を考慮した外部視野Wの視野性を数値で表した指標となる。このように、視野性の評価指数を用いて、視野性を数値化して評価することができる。特に、本実施形態では、建物100の開口部7における鉛直ルーバ(障害物)5の透視図またはこれに相当する画像を登録するだけで、視野性の評価指数を簡単に算出することができる。
【実施例0059】
以下に、実施例および参考例1~4に基づいて、建物の開口部を介した外部視野の視野性の評価指数の計算を行った。
【0060】
〔実施例1〕
実施例1では、第1実施形態で図示したモデルを用いて、視野性の評価指数Vを算出した。ここでは、表1に示すように、視野特性を加味した補正を行うべく、第1補正係数aを0.1とし、全視野面積STと外部視野面積Stを算出し、全視野面積STに対する外部視野面積Stの割合(鉛直ルーバ5による面積比St/ST)を算出した。この結果、St/STは、75.8%となった。
【0061】
次に、視覚特性として、第2補正係数bを算出した。ここでは、式(4)において、ガラス板71の透過率Rに0.600を用い、nに0.33を用いた。これにより、第2補正係数は、0.844となった。St/STに、bを乗じることにより、視野性の評価指数Vは、63.8%となった。
【0062】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして、視野性の評価指数Vを測定した。実施例1と相違する点は、第1補正係数aによる補正のみを行い、第2補正係数bによる補正を行わずに(具体的には第1補正係数aを0.1とし、第2補正係数bを1.000として)、式(3)を用いて、視野性の評価指数Vを算出した。この結果を表1に示す。なお、実施例2で算出した評価指数Vは、後述する比較例1の評価指数Vに対して、人の眼の視野特性を加味した値となる。
【0063】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、視野性の評価指数Vを測定した。実施例1と相違する点は、第1補正係数aによる補正を行わず、かつ、第2補正係数bによる補正を行わずに(具体的には第1補正係数aを1.0とし、第2補正係数bを1.000として)、式(3)を用いて、視野性の評価指数Vを算出した点である。すなわち、比較例1の視野性の評価指数Vは、開口部の全体面積に対して、鉛直ルーバから見える外部視野の面積の割合に相当する。この結果を表1に示す。
【0064】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、視野性の評価指数Vを測定した。実施例1と相違する点は、第1補正係数aによる補正を行わず、第2補正係数bのみを行い(具体的には第1補正係数aを1.0とし、第2補正係数bをガラス板71の透過率0.600として)、式(3)を用いて、視野性の評価指数Vを算出した。すなわち、比較例2で算出した評価指数Vは、比較例1の評価指数Vに対して、透光板の透過率を加味した値となる。この結果を表1に示す。
【0065】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして、視野性の評価指数Vを測定した。実施例1と相違する点は、第1補正係数aによる補正を行わず、第2補正係数bのみを行い(具体的には第1補正係数aを1.0とし、第2補正係数bを実施例1と同様に0.843として)、式(3)を用いて、視野性の評価指数Vを算出した。すなわち、比較例3で算出した評価指数Vは、比較例1の評価指数Vに対して、ガラス板による視覚特性(スティーブンスの法則)を加味した値となる。この結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
実施例2と比較例1を対比すると、実施例2の視野性の評価指数Vの方が、比較例1のものよりも大きかった。これは、実施例2では、眼の視野特性を加味しているからであり、この結果は、実際の外部視野の見え方からも妥当であると言える。
【0068】
比較例1と比較例2とを対比すると、比較例1の視野性の評価指数Vの方が、比較例2のものよりも小さくなった。これは、ガラス板による透過率、視覚特性を加味した結果であり、このような大小関係となることは妥当であると言える。
【0069】
さらに、比較例2と比較例3とを対比すると、比較例3の視野性の評価指数Vの方が、比較例2のものよりも大きくなった。実際、
図2に示すモデルにおいて、比較例2のごとく第2補正係数bに、ガラス板の透過率0.600をそのまま用いると、比較例2の視野性の評価指数Vは、37.8%と極めて低い値になり、実際の外部視野の見え方とは大きく相違する。したがって、比較例3の如く、比較例1の評価指数Vに対して、ガラス板による視覚特性(スティーブンスの法則)を加味した値すると、実際の外部視野の見え方により近づけることができる。
【0070】
以上の結果から、実施例1および実施例2に示すように、評価指数Vを算出する際には、第1補正係数aを用いて、人の眼の視野特性を加味することが必要である。さらに、評価指数Vの精度を高めるには、第2補正係数bを用いた方が好ましく、特に、実施例1の如く、第2補正係数bを用いて、ガラス板による視覚特性(スティーブンスの法則)を加味することがさらに好ましい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
1:視野性評価装置、5:鉛直ルーバ(障害物)、7:開口部、10:処理装置、11:画像登録部、12:領域設定部、13:全視野面積算出部、14:外部視野面積算出部、15:評価指数算出部、21:室内、100:建物、21:室内、F:視点、RA:中心視野領域、RB:周辺視野領域、SA:中心視野領域の面積、Sa:中心視野領域に写り込む外部視野の面積、SB:周辺視野領域の面積、Sb:障害物が存在する状態の周辺視野領域に写り込む外部視野Wの面積、ST:全視野面積、St:外部視野面積、V:評価指数、W:外部視野