(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004229
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20240109BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20240109BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B22D11/128 350A
B22D11/20 C
B22D11/10 D
B22D11/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103792
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】外石 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC05
4E004MC07
4E004NB01
(57)【要約】
【課題】鋳込み終了後の期間に鋳造される鋳片の品質を向上させることができる、鋼の連続鋳造方法を提供すること。
【解決手段】鋳片3に圧下を付与しながら連続鋳造をする鋼の連続鋳造方法であって、連続鋳造される鋳片3に圧下を付与し、鋳込み終了後に、圧下を付与するセグメント14の圧下勾配を変更することで、圧下速度が所定の範囲内となるように制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片に圧下を付与しながら連続鋳造をする鋼の連続鋳造方法であって、
連続鋳造される鋳片に前記鋳片に圧下を付与し、
鋳込み終了後に、前記圧下を付与するセグメントの圧下勾配を変更することで、圧下速度が所定の範囲内となるように制御する、鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳込み終了後に、
前記鋳片の鋳造速度を、鋳込み終了前の鋳造速度である第1鋳造速度から、前記鋳片の頭固めに必要な鋳造速度である第2鋳造速度まで減速させる減速工程と、
前記減速工程の後、前記頭固めに必要な時間、前記鋳片の鋳造速度を前記第2鋳造速度で保持する頭固め工程と、
前記頭固め工程の後、前記鋳片の鋳造速度を、前記第2鋳造速度から、前記鋳片の再引き抜きを行う鋳造速度である第3鋳造速度まで増速させる増速工程と、
を備える、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記減速工程では、(4)式を満たすように前記圧下勾配を制御し、
前記頭固め工程では、(5)式を満たすように前記圧下勾配を制御し、
前記増速工程では、(6)式を満たすように前記圧下勾配を制御する、請求項2に記載の鋼の連続鋳造方法。
0.5<V×Z<3.0 ・・・(4)
0.5<V×Z<1.5 ・・・(5)
0.5<V×Z<3.0 ・・・(6)
ここで、V:鋳造速度(m/min)、Z:圧下勾配(mm/m)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、凝固の最終過程で、凝固収縮に伴って鋳片の引き抜き方向への未凝固溶鋼(「未凝固層」という)の吸引流動が生じる。この未凝固層には、炭素(C)、燐(P)、硫黄(S)、マンガン(Mn)などの溶質元素が濃化しており、この濃化溶鋼が鋳片中心部に流動して凝固すると、いわゆる中心偏析が発生する。凝固末期の濃化溶鋼が流動する要因としては、上記の凝固収縮の他に、溶鋼静圧によるロール間での鋳片バルジングや、鋳片支持ロールのロールアラインメントの不整合も挙げられる。
【0003】
この中心偏析は、鋼製品、特に厚鋼板の品質を劣化させる。例えば、石油輸送用や天然ガス輸送用のラインパイプ材においては、サワーガスの作用により中心偏析を起点として水素誘起割れが発生する。また、海洋構造物や貯槽、石油タンクなどにおいても同様の問題が発生する。しかも近年、鋼材の使用環境はより低温下、或いは、より強い腐食環境下といった厳しい環境での使用を求められることが多く、鋳片の中心偏析を低減することの重要性は益々高くなっている。
【0004】
従って、連続鋳造工程から圧延工程に至るまで、鋳片の中心偏析を低減する或いは無害化する対策が多数提案されている。そのなかで、内部に未凝固層を有する連続鋳造鋳片を連続鋳造機内で圧下する凝固末期軽圧下方法が、中心偏析を改善する上で特に効果的であることが知られている。ここで、「凝固末期軽圧下方法」とは、鋳片の凝固完了位置付近に圧下ロールを配し、この圧下ロールにより、連続鋳造中の鋳片を凝固収縮量に相当する程度の圧下速度で徐々に圧下し、鋳片中心部での空隙の発生や濃化溶鋼の流動を抑止し、これによって鋳片の中心偏析を抑制するという方法である。
【0005】
この凝固末期軽圧下方法によって鋳片の中心偏析の発生を効果的に防止するためには、鋳片の最終凝固期間のうちで軽圧下が付与される期間の初めと終わりの時期、及び、付与される軽圧下の圧下量を適切に設定することが肝要であり、さまざまな設定方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、連続鋳造鋳片の末期凝固部で鋳片に軽圧下を加える連続鋳造方法において、軽圧下を付与する区間内での鋳片の単位時間あたりの圧下量を、圧下開始時の鋳片表面温度と、圧下位置での鋳片の未凝固層厚みと、で規定する連続鋳造方法が提案されている。特許文献1は、軽圧下を効果的に実施するための指標として、鋳片の未凝固層厚みに着目している。これは、特許文献1によれば、鋳造下流側における圧下、即ち、鋳片の未凝固層厚みが小さい状態での圧下ほど、圧下ロールで設定した圧下量が鋳片の固液界面に伝わる割合(以下、「圧下効率」と呼ぶ)が小さくなるという知見に基づいている。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3には、ブルーム鋳片の厚み中心部の固相率が0.1ないし0.3に相当する温度となる時点から流動限界固相率に相当する温度となる時点までの領域を複数のロール対で圧下しつつ連続鋳造する連続鋳造において、鋳片の厚み中心部の固相率が大きくなる鋳造方向下流側ほど鋳片の圧下速度を大きくする連続鋳造方法が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、引き抜き中の鋳片に対して圧下力を加えつつ連続鋳造する鋼の連続鋳造において、鋳片の長手方向に垂直な断面形状の情報と、該断面における未凝固部形状の情報に基づいて、圧下条件を設定または調整する連続鋳造方法が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、連続鋳造機の鋳込み終了に際して、鋳造速度の減速・停止および鋳片の最後端部であるボトム部の処理作業を行うことなく、通常の鋳造速度を保持したまま、鋳込みを終了することが提案されている。また、特許文献5では、鋳片最後端におけるクレータエンドが所定区間に位置するように制御し、この区間に配設した小径ロール群によりクレータエンド付近を軽圧下することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-132203号公報
【特許文献2】特開平3-90263号公報
【特許文献3】特開平3-90259号公報
【特許文献4】特開2003-71552号公報
【特許文献5】特開平7-112255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、連続鋳造において、鋳型への溶鋼の供給が終了した鋳込み終了後から鋳片が連続鋳造機の機内から引き抜かれるまでの期間(鋳込み終了後の期間)では、鋳型に溶鋼が連続して供給され、安定した鋳造速度で連続鋳造が行われる期間(定常期間)とは鋳片の引き抜き速度の挙動が異なる。このため、凝固末期軽圧下方法を適用する場合、鋳込み終了後の期間の圧下条件を定常期間と同様にすると中心偏析や内部割れが原因で鋳片の品質が悪化する可能性があった。
【0012】
しかしながら、特許文献1~4には鋳込み終了後に機内に残る鋳片の軽圧下条件については記載がないため、特許文献1~4に開示された鋳造方法では、鋳込み終了後の期間において適切な圧下条件とすることが困難であった。また、特許文献5に開示された鋳造方法によれば、ボトム部の品質は改善するものの、鋳込み終了後の期間においては軽圧下を定常期間と同等の条件で付与するものではない。このため、鋳込み終了後の期間に鋳造される鋳片の品質が、定常期間に鋳造される鋳片に対して悪化することが懸念される。
【0013】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、鋳込み終了後の期間に鋳造される鋳片の品質を向上させることができる、鋼の連続鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、鋳片に圧下を付与しながら連続鋳造をする鋼の連続鋳造方法であって、連続鋳造される鋳片に前記鋳片に圧下を付与し、鋳込み終了後に、前記圧下を付与するセグメントの圧下勾配を変更することで、圧下速度が所定の範囲内となるように制御する、鋼の連続鋳造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、鋳込み終了後の期間に鋳造される鋳片の品質を向上させることができる、鋼の連続鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る連続鋳造機を示す側面概略図である。
【
図2】軽圧下帯を構成するセグメントの一例を示す側面概略図である。
【
図3】
図2に示すセグメントを鋳造方向から視た正面図である。
【
図4】鋳込み終了後の鋳造速度の一例を示すグラフである。
【
図5】鋳込み終了後の圧下勾配及び圧下速度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1には、本発明の一実施形態に係る連続鋳造方法を適用する連続鋳造機1を示す概略図である。連続鋳造機1は、スラブ連続鋳造機であり、一例として垂直曲げ型であるものとする。また、連続鋳造機1は、湾曲曲げ型のスラブ連続鋳造機であってもよい。なお、本実施形態において、鋳片3の長手方向であり、連続鋳造機1内における鋳片3の移動方向を鋳造方向といい、鋳片3の横断面(長手方向に直交する断面)における矩形の短手方向(
図1の鋳片3の断面内において鋳造方向に直交する方向)を厚み方向といい、鋳片3の横断面における矩形の長手方向(
図1における前後方向)を幅方向という。また、鋳片3の厚み方向における長さを厚みといい、幅方向における長さを幅という。
【0019】
図1に示されるように、連続鋳造機1は、溶鋼取鍋から溶鋼2が注入されるタンディッシュ10と、タンディッシュ10から浸漬ノズル11を介して注がれた溶鋼2を一次冷却するする銅製の鋳型12と、鋳型12から引き抜かれた半凝固状態の鋳片3を搬送する複数対の鋳片支持ロール13とを備える。
【0020】
鋳片支持ロール13は、鋳型12の下方に順に設けられる、サポートロール、ガイドロール及び駆動ロールを総称したものである。鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール13の間隙には、水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズル(図示せず)が配置され、鋳型直下から機端の鋳片支持ロール13までの範囲に、二次冷却帯が構成されている。鋳片3は、引き抜かれながら、二次冷却帯のスプレーノズルから噴霧される二次冷却水によって冷却されるようになっている。
【0021】
また、連続鋳造機1は、複数対の鋳片支持ロール13が設けられた複数のセグメントを有する。この複数のセグメントのうち、軽圧下帯15に設けられるセグメントを軽圧下セグメント14という。軽圧下帯15は、連続鋳造機1の鋳造方向において凝固末期の鋳片3への圧下が行われる領域(鋳片支持ロール13群)であり、鋳片3の厚み中心の固相率である中心固相率が少なくとも0.2以上1.0未満となる範囲の領域である。なお、本実施形態における鋳片3の厚み中心とは、鋳片3の横断面において厚み中心部の固相率が最も低い幅方向位置における厚み方向の中心を意味する。
図2及び
図3には、軽圧下セグメント14の概略図を示す。なお、軽圧下帯15に設けられるセグメントである軽圧下セグメント14の数は、一つであってもよく、複数であってもよい。本実施形態では、一例として、軽圧下セグメント14の数が一つである場合について説明する。また、
図1には、セグメントとして軽圧下セグメント14のみを示しているが、軽圧下帯15以外にもセグメントが設けられる。
【0022】
図2及び
図3に示すように、軽圧下セグメント14は、鋳造方向に並んだ6対の鋳片支持ロール13を有する。なお、6対の鋳片支持ロール13のうち、鋳片3に押圧力を厚み方向に印加しながら回転駆動することで鋳片3を引き抜く1対のロールを駆動ロール140といい、静鉄圧を受けて回転するその他のロールをガイドロール141という。駆動ロール140は、軽圧下セグメント14の鋳造方向のどの位置に設けられてもよく、軽圧下セグメント14に複数対設けられても良い。
【0023】
軽圧下セグメント14は、上フレーム142と、下フレーム143と、上流側支柱144と、下流側支柱145とを有する。上フレーム142と下フレーム143とは、鋳造される鋳片3を挟んで厚み方向に対向して設けられ、上流側支柱144と下流側支柱145とによって接続される。上フレーム142及び下フレーム143には、複数の鋳片支持ロール13が軸受146を介して回転可能に固定される。
【0024】
上流側支柱144及び下流側支柱145は、油圧等により伸縮可能に構成され、伸縮することで上フレーム142と下フレーム143との離間距離を調整する。これにより、厚み方向に対向して対となる鋳片支持ロール13の厚み方向の離間距離であるロール間隔が調整される。
【0025】
次に、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法について説明する。本実施形態では、連続鋳造機1を用いて鋼の連続鋳造を行う。この際、鋳型12への溶鋼2の供給が継続された状態で鋳造が行われる期間を定常期間といい、鋳込み終了後の期間を鋳込み終了期間という。鋳込み終了後とは、鋳型12への溶鋼2の供給が終了した時点であり、具体的には、取鍋の溶鋼2をタンディッシュ10に注ぎ終わり、更にタンディッシュ10に残った溶鋼2を鋳型12内に注ぎ終わった時点、つまり最終的には浸漬ノズル11に接続されるスライディングノズル16の開度が閉となった時点である。
【0026】
定常期間においては、軽圧下帯15にて鋳片3の軽圧下が行われることが好ましい。また、軽圧下帯15よりも上流側に領域にて、ロール開度を広げて、溶鋼静圧によって鋳片3の長辺面を意図的にバルジングさせてもよい。なお、この意図的なバルジングは、鋳片3の中心部の固相率が0の段階で開始し、鋳片3の長辺面のバルジング総量が3mm以上10mm以下となったら終了することが好ましい。また、軽圧下帯15における軽圧下では、中心固相率が少なくとも0.2以上1.0未満の範囲においては、0.3mm/min以上2.0mm/min以下の圧下速度Uで鋳片3を圧下することが好ましい。中心固相率が上記範囲内における軽圧下の圧下速度Uが0.3mm/min未満の場合、V偏析が発生する可能性が高くなる。一方、中心固相率が上記範囲内における軽圧下の圧下速度Uが2.0mm/min超の場合、逆V偏析が発生する可能性が高くなる。
【0027】
鋳込み終了期間においては、
図4に示すように、鋳込み終了後に鋳造速度Vを減速し、低い鋳造速度を一定時間保持することで、鋳片3のトップ部(鋳片3の最後端の部分)を冷却して凝固させる頭固めが行われる。頭固めとは、鋳造が終了した後に、鋳型12から引き抜かれた鋳片3のトップ部分が未凝固である時は溶鋼2がトップ部分から漏れ出すことから、鋳型12に残る溶鋼2に向かって冷材を投入し、鋳片3のトップ部分を固める作業のことである。頭固め時はトップ部分を強固に固めるために、鋳造速度を減速して行う事が一般的である。頭固めの後、鋳造速度V(m/min)を増速して機内の鋳片3を引き抜く。つまり、鋳込み終了時点からの経過時間をtとした場合、経過時間tが0以上t
1未満の間(時間T
a)で鋳造速度Vが減速する。この際、鋳込み終了前(鋳込み終了直前)の鋳片3の鋳造速度(引き抜き速度)Vを第1鋳造速度V
a(m/min)とし、鋳片3の鋳造速度Vが頭固め時の鋳造速度(引き抜き速度)である第2鋳造速度V
0(m/min)となるまで変化する。第2鋳造速度V
0は、頭固めに必要な鋳造速度であり、連続鋳造機1の仕様に応じて適宜設定される。次いで、経過時間tがt
1以上t
2未満の間(時間T
0)では、鋳造速度Vは第2鋳造速度V
0で一定となり、頭固めが行われる。その後、経過時間tがt
2以上t
3以下の間(時間T
b)で鋳造速度Vが増速する。この際、鋳片3の鋳造速度Vは、第2鋳造速度V
0から鋳込み終了後の再引き抜き時の鋳造速度である第3鋳造速度V
b(m/min)となるまで変化する。なお、再引き抜きとは、頭固め終了後に引き抜き速度を上げて鋳片3の引き抜きを行うことである。そして、経過時間tがt
3超となると、引き抜き完了までの間、鋳片3は第3鋳造速度V
bで引き抜かれる。なお、鋳込み終了後の期間について、時間T
aの期間を減速工程、時間T
0の期間を頭固め工程、時間T
bの期間を増速工程、時間Tbよりも後の期間(t>t
3)を再引き抜き工程ともいう。
【0028】
また、鋳込み終了期間においては、
図5に示すように、圧下勾配Z(mm/m)及び圧下速度U(mm/min)が時間変化する。圧下速度Uは、引き抜き速度(鋳造速度)Vに圧下勾配Zを乗じた値(U=V×Z)である。本実施形態では、圧下速度Uが所定の範囲内となるように制御を行う。具体的には、鋳込み終了期間において、引き抜き速度Vの変化に応じて、圧下勾配Zつまり軽圧下セグメント14のロール開度を動的に変化させることで、圧下速度Uを所定の範囲とする制御が行われる。さらに、時間T
a,T
0,T
bの減速工程、頭固め工程及び増速工程において、圧下速度Uは下記(1)式~(3)式を満たすことが好ましい。なお、鋳込み終了前のt<0の定常期間の圧下速度Uを第1圧下速度U
a、t
1≦t<t
2の頭固め時の圧下速度Uを第2圧下速度U
0、t<t
3の再引き抜き時の圧下速度Uを第3圧下速度U
bともいう。また、この場合、圧下勾配Zは(4)式~(6)式を満たす。なお、t<0,t
1≦t<t
2,t<t
3のときの圧下勾配Zをそれぞれ第1圧下勾配Z
a、第2圧下勾配Z
0及び第3圧下勾配Z
bともいう。
【0029】
0≦t<t1(時間Ta)のとき、 0.5<U<3.0 ・・・(1)
t1≦t<t2(時間T0)のとき、 0.5<U<1.5 ・・・(2)
t2≦t≦t3(時間Tb)のとき、 0.5<U<3.0 ・・・(3)
0≦t<t1(時間Ta)のとき、 0.5<V×Z<3.0 ・・・(4)
t1≦t<t2(時間T0)のとき、 0.5<V×Z<1.5 ・・・(5)
t2≦t≦t3(時間Tb)のとき、 0.5<V×Z<3.0 ・・・(6)
【0030】
図5には、時間T
a,T
0,T
bにおいて、圧下勾配Zが(4)式~(6)式を満たす一例を示す。
図5では、時間T
aにおいては、圧下速度Uは第1圧下速度U
aから減速し、経過時間tがt
1となる時点で第2圧下速度U
0となる。次いで、時間T
0においては、第2圧下速度U
0が維持される。さらに、時間T
bにおいては、圧下速度Uは第2圧下速度U
0から増速し、経過時間tがt
3となる時点で第3圧下速度U
bとなる。圧下勾配Zをこのように動的に変化させることにより、圧下速度Uを動的に変化させることができ、所定の範囲とすることができる。
【0031】
なお、
図4及び
図5における横軸の時間tの数値は、一例を示すものであり、経過時間t
1,t
2,t
3及び時間T
a,T
0,T
bの数値は、連続鋳造機1の仕様や鋳造条件等に応じて適宜設定される。また、上述した連続鋳造機1における圧下勾配や鋳造速度の制御は、コンピュータ等で構成される不図示の制御部によって行われる。
【0032】
本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法によれば、頭固めのために鋳造速度Vが変化する鋳込み終了期間において、圧下勾配Zを制御することで、圧下速度Uを所定の範囲内とする。これにより、圧下量不足による鋳片中心偏析の発生や、過剰な圧下量による鋳片内部割れの発生を防止でき、多様な仕様の鋼製品製造の要求に迅速に対処することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【0033】
また、本実施形態では、減速工程、頭固め工程及び増速工程において、(1)式~(3)式に示すように圧下速度Uを制御、又は(4)式~(6)式に示すように圧下勾配Zを制御する。特に、減速工程(時間Ta)における圧下速度Uが(1)式を満たすことで、鋳造速度Vが減速する際に圧下勾配Zが増加する。このため、鋳片3の内部での凝固収縮流を止めることができ、濃化溶鋼の吸い込みを防止することができるため、鋳片中心偏析の発生を低減することができる。また、頭固め工程(時間T0)における第2圧下速度U0を0.5mm/min超1.5mm/min未満とすることで、圧下勾配が過剰に大きくなることを防ぐことができ、鋳片3の内部割れを防止することが可能となる。さらに、増速工程(時間Tb)における圧下速度Uが(3)式を満たすことで、鋳片3の内部割れを防止しながらも効率よく増速することができ、生産効率を高めることができる。
【0034】
さらに、鋳込み終了時は鋳造速度が低下するため、圧下速度Uが下がる。圧下速度Uが下がり、凝固収縮により生じる溶鋼2の流動速度が圧下速度Uを上回ると、濃化溶鋼が吸引され、鋳片3の偏析が悪化する。しかし本実施形態では、鋳込み終了時に圧下速度Uを所定の範囲にすることで、濃化溶鋼の吸引を防止し、鋳片偏析及びザク・ポロシティーを低減することができる。
【0035】
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。試験に用いた連続鋳造機は、
図1に示す連続鋳造機1と同様である。この連続鋳造機1を用いて、低炭素アルミキルド鋼の鋳造を行った。表1に、本実施例における連続鋳造方法での鋳造条件、並びに鋳造された鋳片3における中心偏析度、ポロシティの有無及び内部割れの有無の調査結果を示す(条件1,2)。なお、実施例では、圧下速度Uを(1)式~(3)式の範囲内とした鋳造条件で試験を行った。さらに、表1には、比較例として、それぞれの鋳片厚みにおいて、圧下速度Uを(1)式~(3)式の範囲外とした条件で行った試験での鋳造条件及び調査結果も併せて示す(条件3,4)。全ての試験において、鋳片3の厚みは250mm、幅は2000mmである。また、期間に示すT
a、T
0及びT
bは、それぞれ上記実施形態における減速工程、頭固め工程及び増速工程である。
【0037】
【0038】
試験の評価に用いた鋳片3の中心偏析度は、以下の方法によって測定した。即ち、鋳片の引き抜き方向に直交した断面において、鋳片3の厚み方向に沿って等間隔で炭素濃度を分析し、その厚み方向での最大値をCmaxとし、鋳造中にタンディッシュ10内から採取した溶鋼2で分析した炭素濃度を、C0として、Cmax/C0を中心偏析度とした。従って、中心偏析度が1.0に近いほど中心偏析の少ない良好な鋳片3であることを示す。本実施例では、中心偏析度が1.10以上の鋳片3は中心偏析の程度が悪いという判定を行った。
【0039】
鋳片3のポロシティ及び内部割れは、鋳片3の引き抜き方向に直交した断面において、鋳片厚みの中央部付近の顕微鏡観察を行い、これらの有無を判定した。
本実施例では、圧下速度Uが(1)式~(3)式で示される範囲内及び範囲外のなる条件で、それぞれ鋳片3の偏析度を評価した。表1に示す中心偏析度から明らかなように、圧下速度Uが(1)式~(3)式の範囲内である条件では、中心偏析度は何れも1.10未満であり良好であった。また、鋳片3にポロシティ及び内部割れは観察されなかった。
【0040】
一方、比較例として行った条件で圧下勾配Zが上記実施形態の範囲を下回った条件では中心偏析度は1.10を超え、鋳片3の内部にポロシティも観察された。圧下勾配Zが上記実施形態の範囲を上回った条件では圧下速度が過剰であったため、中心偏析度は1.10を超え、鋳片3の内部割れも観察された。