(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042295
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】振動波形生成方法及び振動波形生成装置
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146902
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 純輝
(72)【発明者】
【氏名】友澤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】有坂 壮平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康仁
(72)【発明者】
【氏名】坂 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】波多野 僚
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】ばらつきを持った複数の模擬振動波形を生成する。
【解決手段】振動波形生成方法は、実振動の時刻歴波形を振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいて回帰分析して実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するステップと、実振動の時刻歴波形とその振動発生条件とを機械学習させることで構築された学習済みモデルによって所定の振動発生条件における模擬振動波形を複数生成するステップと、複数の模擬振動波形のうちの所定数の模擬振動波形とターゲットスペクトルとを所定の周波数帯において比較して互いの適合度を求め、出力する所定数の模擬振動波形の組み合わせを適合度に基づいて複数の模擬振動波形から選定するステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の振動発生条件で生じる外力により対象物に作用しうる模擬振動波形を生成する振動波形生成方法であって、
実振動の時刻歴波形を振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいて回帰分析して前記実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するステップと、
前記実振動の前記時刻歴波形とその前記振動発生条件とを機械学習させることで構築された学習済みモデルによって所定の前記振動発生条件における前記模擬振動波形を複数生成するステップと、
複数の前記模擬振動波形のうちの所定数の前記模擬振動波形と前記ターゲットスペクトルとを所定の周波数帯において比較して互いの適合度を求め、出力する前記所定数の前記模擬振動波形の組み合わせを前記適合度に基づいて複数の前記模擬振動波形から選定するステップと、を含む、
振動波形生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動波形生成方法であって、
前記適合度は、前記所定数の前記模擬振動波形の振幅の平均値と前記ターゲットスペクトルとの残差に基づいて設定される、
振動波形生成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の振動波形生成方法であって、
前記適合度は、前記所定数の前記模擬振動波形の振幅の平均値と前記ターゲットスペクトルとの残差と、前記所定数の前記模擬振動波形の振幅スペクトルのばらつきを表すばらつき指標値と前記ターゲットスペクトルの前記ばらつき指標値との残差と、に基づいて設定される、
振動波形生成方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の振動波形生成方法であって、
機械学習される前記実振動の前記時刻歴波形は、振幅を所定の範囲内で基準化した波形であり、
前記模擬振動波形を複数生成するステップでは、前記学習済みモデルによって振幅が基準化された基準模擬波形を出力し、
前記模擬振動波形を選定するステップでは、補正係数を所定の数値範囲内において所定の数値間隔で変更しながら前記基準模擬波形の振幅に対して乗算して補正波形を求め、前記模擬振動波形の前記補正波形と前記ターゲットスペクトルとの前記適合度が最も小さくなるように前記模擬振動波形それぞれの前記補正係数を算出し、当該補正係数による前記補正波形を前記模擬振動波形として選定する、
振動波形生成方法。
【請求項5】
所定の振動発生条件で生じる外力により対象物に作用しうる模擬振動波形を生成する振動波形生成装置であって、
実振動の時刻歴波形とその前記振動発生条件とが機械学習された学習済みモデルによって所定の前記振動発生条件における前記模擬振動波形を複数生成する波形生成部と、
振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいて前記実振動を回帰分析して前記実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するターゲットスペクトル取得部と、
複数の前記模擬振動波形のうちの所定数の前記模擬振動波形と前記ターゲットスペクトルとを所定の周波数帯において比較して互いの適合度を求め、出力する前記所定数の前記模擬振動波形の組み合わせを前記適合度に基づいて選定する波形選定部と、を備える、
振動波形生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波形生成方法及び振動波形生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象物に生じる振動を予測・評価する技術として、種々のものが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1には、地震動諸特性パラメータと当該地震動諸特性パラメータに基づいて地震動指標を算出する地震動シミュレーションを実行したときの地震動指標算出結果とが関連付けられた地震動データを複数記憶するデータベースから、地震動諸特性パラメータを特徴量とし、地震動指標算出結果を目的変数として、当該特徴量及び当該目的変数で構成される学習用データを複数取得する取得工程と、複数の学習用データに基づいて、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習により学習することにより、機械学習の学習済みモデルとして地震動評価モデルを生成する生成工程と、を含む地震動評価モデル生成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の地震動評価モデルは、地震動の振幅特性、周期特性、及び、経時特性の少なくとも一つが含まれる地震動指標算出結果を出力する。つまり、この地震動評価モデルは、地震動の特性を表す指標値を出力するものである。
【0005】
一方、ある特定の条件の外力により対象物に作用する振動を波形として予測し、評価したいという要望がある。実際に対象物に生じる振動では、対象物に作用する外力の特定のパラメータが同じ条件であっても、波形にばらつきが生じる。このため、対象物に作用する振動を波形として予測する場合にあっても、ばらつきを考慮した波形の予測が求められる。
【0006】
本発明は、ばらつきを考慮した模擬振動波形を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の振動発生条件で生じる外力により対象物に作用しうる模擬振動波形を生成する振動波形生成方法であって、実振動の時刻歴波形を振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいて回帰分析して実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するステップと、実振動の時刻歴波形とその振動発生条件とを機械学習させることで構築された学習済みモデルによって所定の振動発生条件における模擬振動波形を複数生成するステップと、複数の模擬振動波形のうちの所定数の模擬振動波形とターゲットスペクトルとを所定の周波数帯において比較して互いの適合度を求め、出力する所定数の模擬振動波形の組み合わせを適合度に基づいて複数の模擬振動波形から選定するステップと、を含む。
【0008】
また、本発明は、所定の振動発生条件で生じる外力により対象物に作用しうる模擬振動波形を生成する振動波形生成装置であって、実振動の時刻歴波形とその振動発生条件とが機械学習された学習済みモデルによって所定の振動発生条件における模擬振動波形を複数生成する波形生成部と、振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいて実振動を回帰分析して実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するターゲットスペクトル取得部と、複数の模擬振動波形のうちの所定数の模擬振動波形とターゲットスペクトルとを所定の周波数帯において比較して互いの適合度を求め、出力する所定数の模擬振動波形の組み合わせを適合度に基づいて選定する波形選定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ばらつきを持った複数の模擬振動波形が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る振動波形生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態における実波形データの一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る波形生成方法を説明するためのフローチャート図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る振動波形生成方法において出力波形群を選定する方法を示すフローチャート図である。
【
図5】本発明の実施形態におけるターゲットスペクトルと模擬振動波形群の平均値とを表すグラフ図であり、縦軸が振幅、横軸が周波数を表す。
【
図6】本発明の実施形態におけるターゲットスペクトルの標準偏差と模擬振動波形群の標準偏差とを表すグラフ図であり、縦軸が標準偏差、横軸が周波数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る振動波形生成方法及び振動波形生成装置100について説明する。
【0012】
本実施形態は、所定の振動発生条件で生じる外力により対象物に作用しうる振動を予測・推定し、ばらつきを持った所定数の模擬振動波形を生成するものである。以下では、外力として地震動の力(地震力)によって地盤上の構造物といった対象物に作用する振動を模擬振動波形として生成する場合を例に説明する。
【0013】
まず、
図1を参照して、振動波形生成装置100について説明する。
【0014】
振動波形生成装置100は、制御プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、通信装置と、等を備えたコンピュータによって構成される。振動波形生成装置100は、ROMに記憶される制御プログラムがRAMに読み込まれ、RAM上でCPUによって実行されることにより、本明細書に記載の振動波形生成装置100の各種機能を実行する。振動波形生成装置100は、一つのコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータによって構成され各制御を当該複数のコンピュータで分散処理するように構成されていてもよい。
【0015】
振動波形生成装置100は、
図1に示すように、制御プログラム及び種々のデータを記憶する記憶部10と、記憶部10に記憶された制御プログラムを実行し、模擬振動波形を生成する処理部20と、を有する。
【0016】
記憶部10は、観測地点において実際に発生した地震動(実振動)の時刻歴波形のデータ(以下、単に「実波形データ」と称する。)とその振動発生条件とを対応付けて記憶する。記憶されるデータは、後述する機械学習のためのデータセットとして利用される。なお、実波形データは、観測地点における時刻歴波形の観測データそのものでもよいし、観測データをスペクトログラムに変換した画像でもよい。
【0017】
複数の実波形データは、地震発生時をサンプリングの開始としたサンプリング終了までのサンプリングの長さとサンプリング間隔とが統一されて記憶されている。
【0018】
また、地震動では、振動発生条件が同一であっても、その振幅の最大値等が異なることがある。このため、実波形データは、
図2に示すように、それぞれの波形の振幅を振幅の最大値で除して、振幅を-1から+1の範囲で基準化された波形として記憶部10に記憶される。なお、振幅は、変位によって表現されるものでもよいし、速度又は加速度によって表現されるものでもよい。
【0019】
本実施形態では、振動発生条件の項目として、地震のマグニチュードと、観測地点と震源地との距離と、が少なくとも設定される。マグニチュード及び距離は、それぞれ複数の条件値が設定されており、これにより振動発生条件としてのマグニチュードと距離の組み合わせが複数設定される。記憶部10には、振動発生条件毎に複数の実波形データが対応して記憶されている。
【0020】
また、記憶される実波形データが、異なる観測点で観測されたデータである場合には、振動発生条件には、観測点の地盤のサイト特性を含めることが望ましい。地盤の特性を振動発生条件に含めることで、生成する模擬振動波形を実振動の波形に対してより精度よく適合させることができる。
【0021】
処理部20は、
図1に示すように、入力された振動発生条件における模擬振動波形を学習済みモデルを用いて複数生成する波形生成部21と、実際に生じた実振動を回帰分析して実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得するターゲットスペクトル取得部22と、ターゲットスペクトルに適合する所定数の模擬振動波形の組み合わせを複数の模擬振動波形から選定する波形選定部23と、を備える。なお、
図1に示す処理部20の各構成は、処理部20の各機能を仮想的なユニットとして示したものであり、必ずしも物理的に存在することを意味するものではない。
【0022】
波形生成部21は、所定の振動発生条件によって生じうる模擬振動波形を複数生成する。波形生成部21は、記憶部10に記憶された実波形データとその振動発生条件とが機械学習された学習済みモデルによって構成される。
【0023】
学習済みモデルは、ジェネレータとディスクリミネータとの2つのネットワークから構成される条件付き敵対的生成ネットワーク(CGAN:Conditional Generative Adversarial Network)である。ジェネレータは、対応する振動発生条件をラベルとして実波形データを学習データとして学習し、振動発生条件及び乱数を含む入力データを受け取ると、振動発生条件に対応する実波形データと同じ構造を有する波形データを生成する。ディスクリミネータは、学習データである実波形データと、ジェネレータが生成した波形データとを受け取り、実波形データと生成された波形データとを区別できるように学習する。一方、ジェネレータは、ディスクリミネータが実波形データと区別できないような波形データを生成するように学習する。このようにして学習を行うことで、所定の振動発生条件において、実波形データのような模擬振動波形の波形データが学習モデルにより生成される。
【0024】
ターゲットスペクトル取得部22は、同一の振動発生条件により発生した複数の実波形データを、振動の振幅特性を表す解析モデルに基づいてそれぞれ回帰分析して振幅スペクトルを取得する。取得された振幅スペクトルは、当該振動発生条件におけるターゲットスペクトル(
図6参照)として設定される。
【0025】
波形選定部23は、波形生成部21が生成した複数の模擬振動波形から、出力する所定数の模擬振動波形を選定する。具体的には、波形選定部23は、ターゲットスペクトルに対する適合度が所定の許容値以下となるような代表振幅スペクトルを有する所定数の模擬振動波形の組み合わせを複数の模擬振動波形から選定する。代表振幅スペクトルとは、複数の模擬振動波形から抽出した所定数の模擬振動波形に基づいて取得される一つの振幅スペクトルである。本実施形態では、代表振幅スペクトルとは、所定数の模擬振動波形の平均値から取得される振幅スペクトルである。
【0026】
次に、本実施形態の模擬振動波形生成方法について、詳細に説明する。
【0027】
振動波形生成装置100は、入力として所定の振動発生条件(以下、「入力条件」と称する。)が与えられると、
図3に示す処理を実行して、入力条件での外力により生じうる所定数の模擬振動波形を出力する。
【0028】
まず、ステップS10では、入力条件における模擬振動波形を波形生成部21の学習済みモデルによって複数生成する。学習済みモデルは、振幅が基準化された実波形データに基づいて学習されている。このため、学習済みモデルは、ステップS20において、振幅が-1から+1の間で基準化された波形(基準模擬波形)を複数生成する。以下では、N波の基準模擬波形が生成されるものとする。Nは、3以上の自然数である。
【0029】
次に、ステップS11において、入力条件における複数の実波形データから実振動の振幅スペクトルをターゲットスペクトルとして取得する。具体的には、ターゲットスペクトルは、振幅特性を表す回帰モデルに基づいて実振動の波形を回帰分析することで求められる。
【0030】
本実施形態では、回帰モデルとして以下の式で表されるスペクトルインバージョン解析を実振動の波形に対して行って、振幅スペクトルを取得する。各パラメータは、入力条件及び経験則により設定される。
【数1】
【0031】
なお、スペクトルインバージョン解析によって振幅スペクトルを取得する方法は、例えば、「地震動の伝播経路特性の領域分割に着目した不均質減衰構造・震源特性・サイト増幅特性の推定」(日本建築学会構造系論文集 第84巻、第756号、2019年2月)に記載されるように公知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0032】
各実波形データに対してスペクトルインバージョン解析によって振幅スペクトルを取得すると、各振幅スペクトルの平均と標準偏差(ばらつき指標値)とをそれぞれの周波数において算出する。算出された振幅スペクトルの平均がターゲットスペクトルとして設定される。ターゲットスペクトルの標準偏差は、複数の実波形データの各周波数における振幅の標準偏差(回帰誤差)である。
【0033】
次に、ステップS12では、ステップS10で生成した複数の模擬振動波形から、ステップS11で取得したターゲットスペクトルに適合する代表振幅スペクトルを有する所定数の模擬振動波形(以下、「模擬振動波形群」と称する。)を出力波形群として選定する。ステップS12では、
図4に示す処理が実行される。以下、ステップS12で実行される出力波形群選定の処理について、
図4を参照して説明する。
【0034】
まず、ステップS20では、ステップS10で生成した複数の模擬振動波形(基準模擬波形)から、任意の組み合わせにより所定数の模擬振動波形を抽出する。以下では、所定数としてn波の模擬振動波形が抽出されるものとする。nは、Nより小さい2以上の自然数である(N>n≧2)。
【0035】
次のステップS21では、基準化された振幅を実際の振動の振幅のスケールとするために、ステップS20で抽出された模擬振動波形のそれぞれについて、当該模擬振動波形の振幅に対して乗算する補正係数を算出する。具体的には、基準模擬波形である模擬振動波形に補正係数を乗じた波形を補正波形とすると、模擬振動波形群の補正波形とターゲットスペクトルとを比較して両者の適合度が最も小さくなるような補正係数を、抽出した模擬振動波形のそれぞれについて個別に算出する。
【0036】
適合度とは、模擬振動波形群(補正波形)とターゲットスペクトルとの周波数ごとの残差の合計値であり、本実施形態では、模擬振動波形群のスペクトルの平均値とターゲットスペクトルとの残差の合計値と、模擬振動波形群の標準偏差とターゲットスペクトルの標準偏差との残差の合計値と、の和で表される。つまり、本実施形態では、適合度が小さいほど、模擬振動波形群とターゲットスペクトルとがより適合していることを意味する。また、模擬振動波形群のスペクトルの平均値は、模擬振動波形群の各波形をスペクトル変換し、周波数ごとに波形のスペクトルを平均(幾何平均)したものである。
【0037】
より詳しく説明すると、模擬振動波形のそれぞれに対する補正係数を初期値から上限値の間の所定の数値範囲内において所定の数値間隔により更新しながら、ターゲットスペクトルに対する模擬振動波形群の適合度を求める。補正係数は、模擬振動波形のそれぞれにおいて独立して更新され、る。そして、模擬振動波形のそれぞれにおいて補正係数を独立して更新する中で、模擬振動波形群としての適合度が最小になる、つまり、模擬振動波形の補正波形の平均がターゲットスペクトルと最も適合するような組み合わせとなる模擬振動波形のそれぞれの補正係数が、その基準模擬波形において採用される補正係数である。このように、基準模擬波形である模擬振動波形に乗算する補正係数を所定の範囲内で独立して更新しながら適合度を求め、模擬振動波形群としての適合度が最小となるようなそれぞれの模擬振動波形の補正係数(言い換えると、適合度が最小となるような模擬振動波形の補正係数の組み合わせ)を取得する。なお、補正係数の初期値及び上限値は、経験則等に基づいて予め設定される。
【0038】
模擬振動波形群とターゲットスペクトルとの比較は、予め定められる所定の周波数の範囲(フィッティング範囲)で行われる。フィッティング範囲は、実波形データにおけるノイズ等を考慮して設定される。例えば、
図5に示すように、比較的周波数が低い領域でノイズによる誤差が生じる場合には、周波数が高い領域にフィッティング範囲が設定される。なお、フィッティング範囲は、一部の周波数帯に限定されず、データが記録される周波数帯の全体に設定されてもよい。
【0039】
次に、
図4に示すように、ステップS22において、ステップS21で算出された最小の適合度(採用された補正係数に基づいて算出される適合度)が所定の許容値以下であるかを判定する。適合度が許容値以下ではない場合には、ステップS23に進み、複数の模擬振動波形から抽出する所定数の模擬振動波形の組み合わせを更新し(任意の模擬振動波形群を再抽出し)、再びステップS21が実行される。このように、ステップS22において、適合度が許容値以下となるまで抽出する模擬振動波形を更新しながらステップS21を実行して、適合度が許容値以下となる模擬振動波形群を抽出する。ステップS22において、適合度が許容値以下であると、ステップS24においてその模擬振動波形群を出力波形群として選定する。なお、適合度の許容値は、出力させたい模擬波形振動群のばらつきの程度などに応じて、設定される。
【0040】
このようにして、ステップS12(
図3)の出力波形群選定の処理(
図4に示す処理)が行われると、ステップS13(
図3)において、ステップS12で選定した出力波形群が外部に出力される。
【0041】
以上より、実波形データから求めたターゲットスペクトルに適合する模擬振動波形が、ある程度のばらつきを持った所定数の模擬振動波形(模擬振動波形群)として生成される。
【0042】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0043】
本実施形態では、所定数の模擬振動波形の平均振幅スペクトルが、既存の解析モデルによって実振動を回帰分析して得られるターゲットスペクトルと適合するように、学習済みモデルによって生成された複数の模擬振動波形のうちから所定数の模擬振動波形を選定する。このため、ターゲットスペクトルに対して適合する模擬振動波形をある程度のばらつきをもって複数生成することができる。
【0044】
また、本実施形態では、ターゲットスペクトルに対する模擬振動波形の適合度は、ターゲットスペクトルと模擬振動波形の平均との残差と、ターゲットスペクトルと模擬振動波形の標準偏差との残差と、の和である。このように、適合度がスペクトルの残差に加えて標準偏差に基づいて設定されることで、ターゲットスペクトルに対してより適合する模擬震度波形を選定することができる。
【0045】
また、本実施形態では、基準化された波形によって学習済みモデルの機械学習を行い、学習済みモデルが生成した基準波形を補正することで、模擬振動波形を生成する。具体的には、補正係数を所定の数値範囲内において所定の数値間隔で変更しながら基準模擬波形の振幅に対して乗算して補正波形を求め、模擬振動波形の補正波形とターゲットスペクトルとの適合度が最も小さくなるように模擬振動波形それぞれの補正係数を算出し、当該補正係数による補正波形を模擬振動波形として選定する。このように、基準化された波形を用いることで、同一の振動発生条件で振幅の大きさに差が生じるような場合であっても、振幅の大きさの影響を除いて機械学習の精度を向上させることができる。
【0046】
以上、本実施形態について説明したが、次のような変形例も本発明の範囲内である。また、変形例に示す構成と上記の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0047】
上記実施形態では、式(1)によって示されるスペクトルインバージョン解析によって実波形データからターゲットスペクトルが取得される。これに対し、実波形データからターゲットスペクトルを取得する分析手法(解析モデル)は、上記実施形態のものに限定されない。少なくとも、実波形データを回帰分析することで、振幅スペクトルを取得することができる。例えば、同じインバージョン解析として、ブロックインバ―ジョン解析が用いられてもよい。
【0048】
上記実施形態では、適合度は、ターゲットスペクトルと模擬振動波形の平均との残差と、ターゲットスペクトルと模擬振動波形の標準偏差との残差と、の和である。言い換えると、上記実施形態では、スペクトルの残差と標準偏差の残差との重みは同じである。これに対し、スペクトルの残差と標準偏差の残差とに重み付けして適合度を求めてもよい。また、適合度はスペクトルの残差と標準偏差の残差とに基づくものに限定されない。例えば、適合度は、標準偏差を利用せず、ターゲットスペクトルと模擬振動波形の平均との残差そのものの合計値や残差平方和であるなど、スペクトルの残差のみに基づくものであってもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、ばらつき指標値として標準偏差を用いたが、ターゲットスペクトルや模擬振動波形のばらつきの程度を表す指標値であれば、例えば分散など、その他の指標値が用いられてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、振幅が-1から+1の範囲で基準化された実振動の波形データを用いて機械学習を行った。これに対し、機械学習で用いられるデータセットは、-1から+1の範囲で基準化されたものに限定されず、正規化や標準化されたものでもよいし、基準化等が行われていないデータが用いられてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、複数の模擬振動波形から抽出する所定数の模擬振動波形を更新しながら、適合度が許容値以下となる所定数の模擬振動波形が抽出されると、当該所定数の模擬振動波形を出力波形群として選定する。これによれば、N波からn波を抽出するすべての組み合わせについて適合度を求める必要がないため、処理負荷を抑制しつつ模擬振動波形群を出力することができる。これに対し、複数(N波)の模擬振動波形から所定数(n波)の模擬振動波形を選定するにあたり、n波の抽出のすべての組み合わせについて適合度を求め、最も適合度が小さい組み合わせとなる模擬振動波形群を出力波形群として選定してもよい。また、すべての組み合わせについて適合度を求めるものでなくとも、例えば、公知技術(Baker, J. W., AND Lee, C. (2018). An Improved Algorithm for Selecting Ground Motions to Match a Conditional Spectrum. Journal OF Earthquake Engineering, 22(4), 708-723.)に開示されるように、統計学的手法によって効率化された計算アルゴリズムにより、複数の模擬振動波形からターゲットスペクトルに適合する所定数の模擬振動波形を選定してもよい。
【0052】
なお、N波からn波を抽出するすべての組み合わせについて適合度を求めても、許容値以下の適合度となるn波の模擬振動波形の組み合わせが見つからなかった場合には、例えば、振動波形生成装置100は、エラー情報を出力し、適合度の再設定等を促すように構成することも可能である。
【0053】
また、上記実施形態は、ばらつきを持った複数の模擬振動波形(模擬振動波形群)を生成し出力するものである。これに対し、振動波形生成装置100及びこれによる模擬振動波形生成方法は、単一の模擬振動波形の生成・出力に利用されてもよい。つまり、出力される波の数が一つ(n=1)に設定されてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、学習済みモデルとしてCGANが用いられる。学習済みモデルは、CGANに限定されるものではなく、出力として画像又は波形を出力する生成モデルであれば、その他のものも利用することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、外力として地震力によって対象物に作用する振動の模擬振動波形を生成する場合を説明した。これに対し、本発明は、例えば、外力として、風力や波力によって対象物に作用する振動の模擬振動波形を生成するものにも適用することができる。また、外力としては、地震動、風力、波力などの運動エネルギーによるものに限定されず、例えば、温度又は湿度の振動(変化)によって対象物に作用する振動の模擬振動波形の生成に適用することもできる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0057】
100 振動波形生成装置
21 波形生成部
22 ターゲットスペクトル取得部
23 波形選定部