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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042300
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】イジェクタ飛散防止構造及びバンパ
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/52 20060101AFI20240321BHJP
   B64G 1/44 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B64G1/52
B64G1/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146910
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】河本 聡美
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆佑
(72)【発明者】
【氏名】木本 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】上土井 大助
(72)【発明者】
【氏名】矢野 創
(57)【要約】
【課題】デブリやメテオロイドなどの高速飛翔体が宇宙機に衝突した際に生じるイジェクタの飛散を防止できるイジェクタ飛散防止構造及びバンパの提供をその目的とする。
【解決手段】このイジェクタ飛散防止構造15は、宇宙太陽光発電装置1の発送電一体型パネル10に設けられ、受光面11の少なくとも一部を覆うフィルム11aと、マイクロ波送信アンテナ面12の少なくとも一部を覆う緩衝材11b及びフィルム11cを備える。また、バンパにおいては、宇宙機の機体の周囲に配置されたバンパ本体と、前記バンパ本体の第1面の少なくとも一部を覆う、第1被膜材及び第1緩衝材の少なくとも一方と、前記バンパ本体の前記第1面の裏面である第2面の少なくとも一部を覆う、第2被膜材及び第2緩衝材の少なくとも一方と、を備える構成を採用した。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙機の機体表面に設けられるイジェクタ飛散防止構造であって、
前記機体表面の少なくとも一部を覆う、被膜材及び緩衝材の少なくとも一方を備える
ことを特徴とするイジェクタ飛散防止構造。
【請求項2】
前記被膜材及び前記緩衝材の両方を備え、
前記緩衝材が前記機体表面の少なくとも一部を覆い、
前記被膜材が前記緩衝材の外表面の少なくとも一部を覆う
ことを特徴とする請求項1に記載のイジェクタ飛散防止構造。
【請求項3】
前記宇宙機が、裏面のスポールも起こりうる厚みの構造を有し、
前記構造の表面の少なくとも一部を、前記被膜材及び前記緩衝材の少なくとも一方が覆い、
前記構造の裏面の少なくとも一部を、前記被膜材及び前記緩衝材の少なくとも一方が覆う
ことを特徴とする請求項1に記載のイジェクタ飛散防止構造。
【請求項4】
前記宇宙機が、太陽電池パネルを前記構造の一つとして備える宇宙太陽光発電装置であり、
前記太陽電池パネルの受光面の少なくとも一部を、透光性を有する前記被膜材が覆い、
前記太陽電池パネルにおける前記受光面の裏面の少なくとも一部を、前記緩衝材が覆い、
前記緩衝材の少なくとも一部を他の前記被膜材が覆う
ことを特徴とする請求項3に記載のイジェクタ飛散防止構造。
【請求項5】
前記緩衝材の素材密度が、前記機体表面に近付くにつれて高くなる
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造。
【請求項6】
前記被膜材及び前記緩衝材の何れか一方もしくは両方が、複層構造を有する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造。
【請求項7】
宇宙機の機体の周囲に配置されたバンパ本体と、
前記バンパ本体の第1面の少なくとも一部を覆う、第1被膜材及び第1緩衝材の少なくとも一方と、
前記バンパ本体の前記第1面の裏面である第2面の少なくとも一部を覆う、第2被膜材及び第2緩衝材の少なくとも一方と、
を備えることを特徴とするバンパ。
【請求項8】
前記バンパ本体、前記第1被膜材、前記第1緩衝材、前記第2被膜材、前記第2緩衝材、の全てを備え、
前記第1緩衝材が前記第1面の少なくとも一部を覆い、
前記第1被膜材が前記第1緩衝材の少なくとも一部を覆い、
前記第2緩衝材が前記第2面の少なくとも一部を覆い、
前記第2被膜材が前記第2緩衝材の少なくとも一部を覆う
ことを特徴とする請求項7に記載のバンパ。
【請求項9】
前記第1緩衝材の素材密度が前記第1面に近付くにつれて高くなる、
または、前記第2緩衝材の素材密度が前記第2面に近付くにつれて高くなる、
あるいは、前記第1緩衝材の素材密度が前記第1面に近付くにつれて高くなってかつ前記第2緩衝材の素材密度が前記第2面に近付くにつれて高くなる、
を満たす
ことを特徴とする請求項7または8に記載のバンパ。
【請求項10】
前記第1被膜材、前記第1緩衝材、前記第2被膜材、前記第2緩衝材のうちの少なくとも一つが、複層構造を有する
ことを特徴とする請求項7または8に記載のバンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機に適用されるイジェクタ飛散防止構造及びバンパに関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星等の宇宙機に対し、高速で飛来するデブリやメテオロイドが衝突した場合、宇宙機の表面が破損して微小なイジェクタ(二次デブリ)が発生し、宇宙空間に飛散する場合がある。宇宙機の機体の中でも、例えば太陽電池のガラス面などのように脆い材料からなる部位にデブリが衝突した場合は、衝突したデブリの数十倍あるいは百倍以上の質量を持つイジェクタが発生することが知られている。このようなイジェクタが飛散して宇宙空間に蓄積してしまうと、他の宇宙機器に衝突して新たなイジェクタを発生させるおそれがある。
一方、地球を周回する低軌道においては、イジェクタが発生しても大気抵抗で比較的早く落下する。また、静止軌道等の高軌道では、現時点ではまだデブリの衝突頻度が低かった。そのため、今までは、イジェクタの発生はあまり問題視されてこなかった。しかし、近年は宇宙開発がさらに加速する傾向にあるため、太陽光発電衛星等の大型構造物や大型静止衛星などの宇宙機が多数打ち上げられ、高軌道に蓄積していくことが予想される。この場合、宇宙機の増加に伴ってそれらの表面積の合計も増え続けていくので、イジェクタの発生頻度が高まることになる。そのため、大気抵抗によるデブリの減少が期待できない高軌道においては、特に早急な対策が求められている。この種のデブリ対策として、例えば下記特許文献1にスペースデブリ用軽量シールドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-121476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このスペースデブリ用軽量シールドによれば、デブリやメテオロイドなどの高速飛翔体から宇宙構造部を防御することが可能とされている。このように高速飛翔体から宇宙機を保護する技術に関しては数多くの研究が報告されている。しかし、その一方で、高速飛翔体の衝突に伴うイジェクタの発生をいかに抑制するかについての研究は、実のところあまり進んでいない。イジェクタに対する宇宙機の防御力を高めることも勿論重要ではあるが、上述したように、二次デブリとなるイジェクタの質量が、元々のデブリよりも大きくなることを考えると、むしろ、高速飛翔体の衝突により発生するイジェクタの飛散を防止する方が、より根本的な対策であると考えられる。しかし、今までは、このような観点でのデブリ対策があまり検討されてこなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、デブリやメテオロイドなどの高速飛翔体が宇宙機に衝突した際に生じるイジェクタの飛散を抑制できるイジェクタ飛散防止構造及びバンパの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は、以下の手段を採用している。
(1)本発明の一態様は、
宇宙機の機体表面に設けられるイジェクタ飛散防止構造であって、
前記機体表面の少なくとも一部を覆う、被膜材及び緩衝材の少なくとも一方を備える。
上記(1)に記載のイジェクタ飛散防止構造によれば、まず、機体表面を覆う被膜材を設けた場合、機体表面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、まず被膜材を貫き、そして機体表面に衝突する。この衝突によって機体表面の破損部分がイジェクタとなって機体表面から飛散しようとしても、被膜材がその飛散を封じ込めて外部に離散することを抑制する。
また、機体表面を覆う緩衝材を設けた場合、機体表面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、まず緩衝材の表面に当たり、そして深くめり込みながら進む際に、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。そのため、高速飛翔体が機体表面に至る前に運動エネルギーを低めることができ、機体表面の損傷を抑制出来る。あるいは、運動エネルギーの全てを緩衝材により吸収しきれなかったとしても、高速飛翔体の運動エネルギーを削いだ上で機体表面に当てることになるため、機体表面から比較的大きなイジェクタとなって生じるスポール(spall)の発生を抑制できる。しかも、被膜材を設ける場合と同様に、緩衝材が機体表面を覆っているため、緩衝材がイジェクタを封じ込めて機体表面から外部に飛散することを抑制する。
あるいは、機体表面を緩衝材で覆い、さらにその上を被膜材で覆った場合も、イジェクタの飛散を抑制できる。すなわち、機体表面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、被膜材を貫いた後、緩衝材内を、機体表面に向かって深くめり込みながら進む。この過程において、高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。したがって、緩衝材を変形・破壊させることによる運動エネルギーの吸収と、被膜材によるイジェクタの封じ込みとの二段構えにより、イジェクタの飛散をより効果的に抑制できる。さらに、緩衝材自体が破損してイジェクタとして放出された場合でも、すでに飛翔体の運動エネルギーは著しく減じられているためにイジェクタが担う放出速度は低くなると共に、緩衝材のバルク密度および強度は一般的な宇宙機の機体表面材料よりも著しく低い。したがって、仮に他の宇宙機へ二次デブリとして衝突する場合でも、その衝突被害規模は従来のデブリよりも軽減される。
【0007】
(2)上記(1)に記載のイジェクタ飛散防止構造において、以下の構成を採用してもよい:
前記被膜材及び前記緩衝材の両方を備え、
前記緩衝材が前記機体表面の少なくとも一部を覆い、
前記被膜材が前記緩衝材の外表面の少なくとも一部を覆う。
上記(2)の場合、機体表面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、被膜材を貫いた後、緩衝材内を、機体表面に向かって深くめり込みながら進む。この過程において、高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。したがって、緩衝材を変形・破壊させることによる運動エネルギーの吸収と、被膜材によるイジェクタの封じ込みとの二段構えにより、イジェクタの飛散を抑制できる。
【0008】
(3)上記(1)に記載のイジェクタ飛散防止構造において、以下の構成を採用してもよい:
前記宇宙機が、裏面のスポールも起こりうる厚みの構造を有し、
前記構造の表面の少なくとも一部を、前記被膜材及び前記緩衝材の少なくとも一方が覆い、
前記構造の裏面の少なくとも一部を、前記被膜材及び前記緩衝材の少なくとも一方が覆う。
上記(3)の場合、宇宙機構造に向かって飛来してきた高速飛翔体は、まず被膜材または緩衝材あるいはその両方を貫き、そして宇宙機の前記構造(以下、宇宙機構造)に衝突する。この衝突によって破損部分がイジェクタとなって外部に飛散しようとしても、被膜材あるいは緩衝材が封じ込めて宇宙機構造の表面から外部に飛散することを抑制する。
一方、高速飛翔体が宇宙機構造をその表面から裏面に向けて貫いた場合も、裏面側では同様にイジェクタの飛散を被膜材で封じ込める。さらに、宇宙機構造を貫いて緩衝材にめり込んだ高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。加えて、この緩衝材の外表面が他の被膜材により覆われている場合は、高速飛翔体及びイジェクタを、外部に飛散させずに封じ込める。
【0009】
(4)上記(3)に記載のイジェクタ飛散防止構造において、以下の構成を採用してもよい:
前記宇宙機が、太陽電池パネルを前記構造の一つとして備える宇宙太陽光発電装置であり、
前記太陽電池パネルの受光面の少なくとも一部を、透光性を有する前記被膜材が覆い、
前記太陽電池パネルにおける前記受光面の裏面の少なくとも一部を、前記緩衝材が覆い、
前記緩衝材の少なくとも一部を他の前記被膜材が覆う。
上記(4)の場合、高速飛翔体が太陽電池パネルの受光面、裏面、あるいは両面に衝突したとしても、被膜材または緩衝材あるいは他の被膜材がイジェクタを封じ込めて外部に飛散することを抑制できる。
【0010】
(5)上記(1)~(4)の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造において、前記緩衝材の素材密度が、前記機体表面に近付くにつれて高くなってもよい。
上記(5)の場合、より効果的に高速飛翔体の運動エネルギーを吸収することができる。
【0011】
(6)上記(1)~(4)の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造において、前記被膜材及び前記緩衝材の何れか一方もしくは両方が、複層構造を有してもよい。
上記(6)の場合、より効果的にイジェクタを封じ込めることができる。
【0012】
(7)本発明の他の態様は、
宇宙機の機体の周囲に配置されたバンパ本体と、
前記バンパ本体の第1面の少なくとも一部を覆う、第1被膜材及び第1緩衝材の少なくとも一方と、
前記バンパ本体の前記第1面の裏面である第2面の少なくとも一部を覆う、第2被膜材及び第2緩衝材の少なくとも一方と、
を備えるバンパである。
上記(7)に記載のバンパによれば、機体表面に向かう高速飛翔体を自らに当てて遮ることができる。
その際、バンパ本体の第1面を覆う被膜材を設けた場合は、第1面に向かって飛来してきた高速飛翔体が、まず被膜材を貫き、そしてバンパ本体に衝突する。この衝突によってバンパ本体の破損部分がイジェクタとなってバンパ本体から飛散しようとしても、被膜材が封じ込めてバンパ本体から外部に飛散することを抑制する。
また、バンパ本体の第1面を覆う緩衝材を設けた場合は、第1面に向かって飛来してきた高速飛翔体が、まず緩衝材の表面に当たり、そして深くめり込みながら進む際に、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。そのため、高速飛翔体が第1面に至る前に運動エネルギーを低めることができ、バンパ本体の損傷を抑制出来る。あるいは、運動エネルギーの全てを緩衝材により吸収しきれなかったとしても、高速飛翔体の運動エネルギーを削いだ上で第1面に当てることになるため、バンパ本体から比較的大きなイジェクタとなって生じるスポールの発生を抑制できる。しかも、被膜材を設ける場合と同様に、緩衝材が第1面を覆うため、緩衝材がイジェクタを封じ込めて第1面から外部に飛散することを抑制する。
あるいは、第1面を緩衝材で覆い、さらにその上を被膜材で覆った場合も、バンパ本体からのイジェクタの飛散を抑制できる。すなわち、第1面に向かって飛来した高速飛翔体は、被膜材を貫いた後、緩衝材内を、機体表面に向かって深くめり込みながら進む。この過程において、高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。したがって、緩衝材を変形・破壊させることによる運動エネルギーの吸収と、被膜材によるイジェクタの封じ込みとの二段構えにより、イジェクタの飛散を抑制できる。
以上の説明は、バンパ本体の第1面に向かって高速飛翔体が飛来してきた場合についてであるが、バンパ本体の第2面に向かって高速飛翔体が飛来してきた場合も同様の作用効果を得ることが出来る。
【0013】
(8)上記(7)に記載のバンパにおいて、以下の構成を採用してもよい:
前記バンパ本体、前記第1被膜材、前記第1緩衝材、前記第2被膜材、前記第2緩衝材、の全てを備え、
前記第1緩衝材が前記第1面の少なくとも一部を覆い、
前記第1被膜材が前記第1緩衝材の少なくとも一部を覆い、
前記第2緩衝材が前記第2面の少なくとも一部を覆い、
前記第2被膜材が前記第2緩衝材の少なくとも一部を覆う。
上記(8)の場合、第1面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、第1被膜材を貫いた後、第1緩衝材内を、第1面に向かって深くめり込みながら進む。この過程において、高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく第1緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。同様に、第2面に向かって飛来してきた高速飛翔体は、第2被膜材を貫いた後、第2緩衝材内を、第2面に向かって深くめり込みながら進む。この過程において、高速飛翔体は、自らが持つ運動エネルギーを、イジェクタの発生を伴うことなく第2緩衝材の変形・破壊に費やすことができる。
したがって、第1緩衝材または第2緩衝材を変形・破壊させることによる運動エネルギーの吸収と、第1被膜材または第2被膜材によるイジェクタの封じ込みとの二段構えにより、イジェクタの飛散をより効果的に抑制できる。
【0014】
(9)上記(7)または(8)に記載のバンパにおいて、以下の構成を採用してもよい:
前記第1緩衝材の素材密度が前記第1面に近付くにつれて高くなる、
または、前記第2緩衝材の素材密度が前記第2面に近付くにつれて高くなる、
あるいは、前記第1緩衝材の素材密度が前記第1面に近付くにつれて高くなってかつ前記第2緩衝材の素材密度が前記第2面に近付くにつれて高くなる、
を満たす。
上記(9)の場合、より効果的に高速飛翔体の運動エネルギーを吸収することができる。
【0015】
(10)上記(7)または(8)に記載のバンパにおいて、前記第1被膜材、前記第1緩衝材、前記第2被膜材、前記第2緩衝材のうちの少なくとも一つが、複層構造を有してもよい。
上記(10)の場合、より効果的にイジェクタを封じ込めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記各態様に係るイジェクタ飛散防止構造及びバンパによれば、デブリやメテオロイドなどの高速飛翔体が宇宙機に衝突した際に生じるイジェクタの飛散を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るイジェクタ飛散防止構造及びバンパを宇宙太陽光発電装置に適用した一例を示す図であって、宇宙太陽光発電装置の全体構成を示す斜視図である。
図2】同宇宙太陽光発電装置をその中心軸線を含む断面で見た縦断面図である。
図3】同宇宙太陽光発電装置の太陽電池パネルに適用されたイジェクタ飛散防止構造を示す図であって、図2のA部の拡大断面図である。
図4】同宇宙太陽光発電装置のバンパを示す図であって、図2のB部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係るイジェクタ飛散防止構造及びバンパを、図1図4を参照しながら以下に説明する。なお、本実施形態では、イジェクタ飛散防止構造及びバンパを宇宙太陽光発電装置の太陽電池パネルに適用した場合を例示して説明するが、その他の宇宙機に適用してもよい。
【0019】
まず、図1及び図2を用いて、宇宙太陽光発電装置1の全体構成を説明する。図1は、宇宙太陽光発電装置1の全体構成を示す斜視図であり、図2は、同宇宙太陽光発電装置1をその中心軸線CLを含む断面で見た縦断面図である。
宇宙太陽光発電装置1は、宇宙太陽光発電システム(SSPS:Space Solar Power System)の一部であり、静止軌道等の高軌道に配置される。図1及び図2に示すように、宇宙太陽光発電装置1は、発送電一体型パネル10と、イジェクタ飛散防止構造15と、バス部20と、バンパ30と、複数本のテザー40とを備える。
【0020】
発送電一体型パネル10は、正方形で平坦な受光面11と正方形で平坦なマイクロ波送信アンテナ面12とを有する板状の発電装置である。発送電一体型パネル10は、後述する高速飛翔体Dが衝突した際に、衝突面の裏面においてスポール(spall)が起こりえる厚みを有する。発送電一体型パネル10は、多数枚の発電セルと、不図示のスラスターとを備える。前記各発電セルは、太陽光Sを電力に変換するものであり、受光面11の全面に敷き詰められている。前記各発電セルの外表面は、太陽光Sを透過させる透明な樹脂あるいは強化ガラスで構成されている。前記各発電セルが発電した電力は、マイクロ波に変換され、そしてマイクロ波送信アンテナ面12に供給される。マイクロ波送信アンテナ面12は、供給されたマイクロ波を地上に向けて送ることで送電する。一方、地上には、図示されない受電設備が配置されており、マイクロ波送信アンテナ面12から発せられたマイクロ波を受信してこれを電力に変換する。前記スラスターは、太陽光Sを受光する際の受光効率を考慮して、宇宙空間における発送電一体型パネル10の位置制御及び姿勢制御を行う。
この宇宙太陽光発電システムでは、宇宙空間において発送電一体型パネル10の前記各発電セルが受光した太陽光Sをまず電力に変換し、続いてこの電力をマイクロ波に変換し、そして、このマイクロ波を、マイクロ波送信アンテナ面12経由で地上に向けて伝送する。地上においては、受電設備がマイクロ波を電力に変換し、さらに変圧等を行うことにより、一般家庭等の需要に供する。
【0021】
イジェクタ飛散防止構造15について、図3を用いて説明する。この図3は、図2のA部の拡大断面図である。イジェクタ飛散防止構造15は、宇宙空間を漂うデブリやメテオロイドなどの高速飛翔体Dが前記各発電セルなどに衝突した際に、破損した前記各発電セルなどが外部に飛散するイジェクタとなるのを防ぐものである。イジェクタ飛散防止構造15は、受光面11(機体表面)側に設けられたフィルム(被膜材)11aと、マイクロ波送信アンテナ面(機体表面)12側に設けられた緩衝材11b及びフィルム(被膜材)11cとを有する。なお、高速飛翔体Dのサイズとしては、数百μmから数mmが想定される。
【0022】
フィルム11aは、透光性を有する薄膜であり、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。また、耐環境性や熱光学特性等、宇宙機の機能に問題のない材料であれば、布材など、フィルム以外の素材をフィルム11aとして採用してもよい。
また、フィルム11aの膜厚としては、数μm~数十μmを例示できる。図3では、説明のためにフィルム11aを発送電一体型パネル10の受光面11から浮かせた状態に図示しているが、この通り受光面11に対して隙間を空けてフィルム11aを配置してもよいし、あるいは受光面11に対して隙間が生じないように密着させて貼り付けてもよい。すなわち、前記各発電セルの最外層をなす樹脂あるいは強化ガラスの表面を、その上からフィルム11aにより覆うことが出来ればよい。また、イジェクタ発生防止の観点からは、受光面11の全面をフィルム11aで覆うことが好ましい。しかし、各機器の配置によって影になる部分など、受光面11のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が低い部分については、フィルム11aによる被覆を省略してもよい。逆に言うと、受光面11のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が高い範囲のみを、フィルム11aで覆うようにしてもよい。また、受光面11に対し、フィルム11aを密着させる範囲と、フィルム11aを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、フィルム11aの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0023】
緩衝材11bは、低密度材であり、耐環境性や熱光学特性等、宇宙機の機能に問題のない材料であれば採用してもよい。また、緩衝材11bの厚みとしては、数mm~数十mmを例示できる。図3では、緩衝材11bをマイクロ波送信アンテナ面12に密着させているが、図示されないスペーサ等を間に介在させることにより、マイクロ波送信アンテナ面12に対して隙間を空けるように配置してもよい。すなわち、マイクロ波送信アンテナ面12を、その上から緩衝材11bにより覆うことが出来ればよい。また、イジェクタ発生防止の観点からは、マイクロ波送信アンテナ面12の全面を緩衝材11bで覆うことが好ましい。しかし、各機器の配置によって影になる部分など、マイクロ波送信アンテナ面12上のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が低い部分については、緩衝材11bによる被覆を省略してもよい。逆に言うと、マイクロ波送信アンテナ面12のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が高い範囲のみを、緩衝材11bで覆うようにしてもよい。また、マイクロ波送信アンテナ面12に対し、緩衝材11bを密着させる範囲と、緩衝材11bを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、緩衝材11bの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0024】
フィルム11cは、フィルム11aと同じく薄膜であるが、マイクロ波送信アンテナ面12に設けられるため、フィルム11aとは異なり透光性は不要である。フィルム11cの具体的な材質としては、ポリイミドフィルム等を例示できるが、耐環境性や熱光学特性等、宇宙機の機能に問題のない材料であれば、布材など、それ以外の素材を採用してもよい。また、フィルム11cの膜厚としては、数μm~数十μmを例示できる。図3では、説明のためにフィルム11cを緩衝材11bの外表面から浮かせた状態に図示しているが、この通り緩衝材11bに対して隙間を空けてフィルム11aを配置してもよいし、あるいは緩衝材11bに対して隙間を生じないように密着させて貼り付けてもよい。すなわち、緩衝材11bの外表面を、その上からフィルム11cにより覆うことが出来ればよい。また、イジェクタ発生防止の観点からは、緩衝材11bの全面をフィルム11cで覆うことが好ましい。しかし、各機器の配置によって影になる部分など、緩衝材11b上のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が低い部分については、フィルム11cによる被覆を省略してもよい。逆に言うと、緩衝材11bの外表面のうち、高速飛翔体Dの衝突可能性が高い範囲のみを、フィルム11cで覆うように構成してもよい。また、緩衝材11bの外表面に対し、フィルム11cを密着させる範囲と、フィルム11cを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、フィルム11cの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
なお、本実施形態の発送電一体型パネル10では、受光面11の裏面をマイクロ波送信アンテナ面12としているが、この構成のみに限らず、裏面も受光面11としてもよい。この場合には、発送電一体型パネル10の表面及び裏面の両方とも受光面11となるため、これら2つの受光面11のそれぞれを、フィルム11a単体、透明な緩衝材、あるいはこれらの組み合わせによって覆う構造(不図示)としてもよい。
【0025】
図3に示すように、上記構成のイジェクタ飛散防止構造15によれば、発送電一体型パネル10の受光面11及びマイクロ波送信アンテナ面12のどちらに対して高速飛翔体Dが衝突してきても、イジェクタの飛散を防止できる。
すなわち、受光面11に対して高速飛翔体Dが衝突する場合を説明すると、受光面11に向かって飛来してきた高速飛翔体Dは、まずフィルム11aを貫通して発送電一体型パネル10の受光面11にめり込む。これにより、発送電一体型パネル10の受光面11側に配置された前記発電セルが高速飛翔体Dの衝突を受けて破損し、イジェクタとなって発送電一体型パネル10から離れようとする。しかし、発送電一体型パネル10の受光面11はフィルム11aにより覆われているため、フィルム11aによって封じ込められたままとなる。したがって、この場合の高速飛翔体D及びイジェクタE1は、フィルム11aにより押さえ込まれるため、それらの飛散が抑制される。
【0026】
一方、高速飛翔体Dの運動エネルギーが高くて発送電一体型パネル10を貫通した場合、高速飛翔体D及びイジェクタE2は、緩衝材11bの裏面にめり込む。緩衝材11bは、自らがイジェクタの発生を伴うことなく変形・破壊しながら高速飛翔体D及びイジェクタE2の運動エネルギーを吸収していく。そして、運動エネルギーを吸収し切れた場合には、高速飛翔体Dは、緩衝材11bの内部、あるいは、緩衝材11bの外表面とフィルム11cの裏面との間に留まる。
【0027】
以上説明のように、受光面11に対して高速飛翔体Dが衝突しても、イジェクタE1,E2の飛散を抑制することができる。同様に、マイクロ波送信アンテナ面12に向かって高速飛翔体Dが衝突しても、イジェクタE3の飛散を抑制できる。
すなわち、マイクロ波送信アンテナ面12に向かって飛来してきた高速飛翔体Dは、まずフィルム11cを貫通して緩衝材11bの表面にめり込む。緩衝材11bは、自らがイジェクタの発生を伴うことなく変形・破壊しながら高速飛翔体Dの運動エネルギーを吸収していく。そして、運動エネルギーを吸収し切れた場合には、高速飛翔体Dは、緩衝材11bの内部、あるいは、緩衝材11bと発送電一体型パネル10の裏面(マイクロ波送信アンテナ面12)との間に留まる。
【0028】
一方、高速飛翔体Dの運動エネルギーが高くて緩衝材11bを貫通し、そして発送電一体型パネル10内に至った場合は、発送電一体型パネル10の破損により生じたイジェクタE3及び高速飛翔体Dが、発送電一体型パネル10の受光面11側から外部に飛散しようとする。しかし、発送電一体型パネル10の受光面11はフィルム11aにより覆われているため、フィルム11aによって封じ込められたままとなる。したがって、この場合の高速飛翔体D及びイジェクタE3は、フィルム11aにより押さえ込まれるため、それらの飛散が抑制される。
【0029】
図1及び図2に示す宇宙太陽光発電装置1の全体構成の説明に戻る。
前記バス部20は、重力傾斜姿勢安定の役割と源振統一の電気的機能を持つ。
【0030】
前記バンパ30は、2つの四角錐台形状の枠材を上下が互いに逆さまになるように接続した全体形状を有する。すなわち、バンパ30は、発送電一体型パネル10の受光面11側に設けられた受光側バンパ31と、発送電一体型パネル10のマイクロ波送信アンテナ面12側に設けられたアンテナ側バンパ32とを有する。
受光側バンパ31は、受光面11を正面視した場合に、発送電一体型パネル10の四辺周囲を囲む枠状体であり、台形を有する4枚の板状部材の組み合わせによって構成されている。これら4枚の板状部材は互いに同一構成及び同一寸法形状を有するため、そのうちの1枚を図4に示して説明する。なお、図4は、図2のB部の拡大断面図であり、紙面上方が枠状体の外方を示し、紙面下方が枠状体の内方を示す。
【0031】
図4に示すように、受光側バンパ31の板状部材は、バンパ本体31aと、緩衝材(第1緩衝材)31bと、フィルム(第1被膜材)31cと、緩衝材(第2緩衝材)31dと、フィルム(第2被膜材)31eと、を有する。
バンパ本体31aは、受光側バンパ31の骨格をなすものであり、互いに隙間を空けて平行配置された一対の金属板である。以下の説明では、一対の金属板のうち、枠状体の外方を向く面を外面(第1面)、枠状体の内方を向く面を内面(第2面)と呼ぶ場合がある。また、ここではバンパ本体31aの材質として金属を例示したが、緩衝材31b,31dを保持したまま形状を維持できる強度を有すればよく、樹脂材等、その他の材質を採用してもよい。また、バンパ本体31aとして一対の金属板を例示したが、その積層枚数を3枚以上としてもよい。あるいは、バンパ本体31aを1枚の板材で構成してもよいし、板材なしでもよい。
【0032】
緩衝材31bは、低密度材であり、耐環境性や熱光学特性等宇宙機の機能に問題のない材料であればよい。また、緩衝材31bの厚みとしては、数mm~数十mmを例示できる。図4では、緩衝材31bをバンパ本体31aに密着させているが、図示されないスペーサ等を間に介在させることにより、バンパ本体31aに対して隙間を空けるように配置してもよい。すなわち、バンパ本体31aの外面の全面を、その上から緩衝材31bにより覆うことが出来ればよい。また、バンパ本体31aの外面に対し、緩衝材31bを密着させる範囲と、緩衝材31bを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、緩衝材31bの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0033】
フィルム31cは、薄膜であり、具体的な材質としては、ポリイミドフィルム等を例示できる。ただし。高真空及び高放射線に耐えられる材料であれば、布材など、上記以外の素材をフィルム31cとして採用してもよい。
また、フィルム31cの膜厚としては、数μm~数十μmを例示できる。図4では、説明のためにフィルム31cを緩衝材31bの外面から浮かせた状態に図示しているが、この通り外面に対して隙間を空けてフィルム31cを配置してもよいし、あるいは緩衝材31bに対して隙間が生じないように密着させて貼り付けてもよい。すなわち、バンパ本体31aの外面側を、その上からフィルム31cにより覆うことが出来ればよい。また、外面に対し、フィルム31cを密着させる範囲と、フィルム31cを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、フィルム31cの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0034】
緩衝材31dも、緩衝材31bと同じく、低密度材であり、耐環境性や熱光学特性等、宇宙機の機能に問題のない材料であればよい。また、緩衝材31dの厚みとしては、数mm~数十mmを例示できる。
図4では、緩衝材31dをバンパ本体31aに密着せているが、図示されないスペーサ等を間に介在させることにより、バンパ本体31aに対して隙間を空けるように配置してもよい。すなわち、バンパ本体31aの内面の全面を、その上から緩衝材31dにより覆うことが出来ればよい。また、バンパ本体31aの内面に対し、緩衝材31dを密着させる範囲と、緩衝材31dを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、緩衝材31dの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0035】
フィルム31eは、フィルム31cと同じく、薄膜であり、具体的な材質としては、ポリイミドフィルム等を例示できる。ただし。高真空及び高放射線に耐えられる材料であれば、目の粗い布材など、上記以外の素材をフィルム31eとして採用してもよい。
また、フィルム31eの膜厚としては、数μm~数十μmを例示できる。図4では、説明のためにフィルム31eを緩衝材31dの内面から浮かせた状態に図示しているが、この通り内面に対して隙間を空けてフィルム31eを配置してもよいし、あるいは緩衝材31dの内面に対して隙間が生じないように密着させて貼り付けてもよい。すなわち、緩衝材31dの内面を、その上からフィルム31eにより覆うことが出来ればよい。また、内面に対し、フィルム31eを密着させる範囲と、フィルム31eを、隙間を空けて設ける範囲とを、混在させてもよい。さらには、フィルム31eの厚みを、その覆う部位により、部分的に厚くしたり、あるいは部分的に薄くしたりしてもよい。
【0036】
上記構成を有する4枚の板状部材の台形の上底を、受光面11の四辺それぞれに接続し、なおかつ互いに隣り合う側辺同士を接続することで、四角錐台形の受光側バンパ31が構成される。そして、受光側バンパ31は、受光面11から離れるに従って広がるように開口する形状を採用している。この形状によれば、受光面11に向かう太陽光Sを受光側バンパ31が遮ってしまうことを抑制できる。
なお、アンテナ側バンパ32も、受光側バンパ31と同じ構成を有する。すなわち、上記構成を有する4枚の板状部材の台形の上底を、マイクロ波送信アンテナ面12の四辺それぞれに接続し、なおかつ互いに隣り合う側辺同士を接続することで、アンテナ側バンパ32が構成される。このように、アンテナ側バンパ32は、マイクロ波送信アンテナ面12から離れるに従って広がるように開口する形状を採用している。この形状によれば、マイクロ波送信アンテナ面12から発せられるマイクロ波を、アンテナ側バンパ32が遮ってしまうことを抑制できる。
【0037】
図4に示すように、上記構成のバンパ30によれば、その外方から発送電一体型パネル10の受光面11に向かって高速飛翔体Dが飛来しても、遮って衝突を回避することができる。しかも、バンパ30への衝突により発生するイジェクタの飛散も防止できる。
すなわち、図4に示すように、受光面11に向かって飛来する高速飛翔体Dをバンパ30の外面に当てることで、受光面11への衝突を回避する場合を説明すると、高速飛翔体Dは、まずフィルム31cを貫通して緩衝材31bの表面にめり込む。緩衝材31bは、自らがイジェクタの発生を伴うことなく第1緩衝材の変形・破壊しながら高速飛翔体Dの運動エネルギーを吸収していく。そして、運動エネルギーを吸収し切れた場合には、高速飛翔体Dは、緩衝材31bの内部、あるいは、緩衝材31bとバンパ本体31aの表面との間に留まる。
【0038】
一方、高速飛翔体Dの運動エネルギーが高くて緩衝材31bを貫通し、そしてバンパ本体31aに至った場合は、バンパ本体31aの破損により生じたイジェクタE5及び高速飛翔体Dが、バンパ本体31aの内面側から外部に飛散しようとする。しかし、バンパ本体31aの内面は緩衝材31dにより覆われているため、イジェクタE5及び高速飛翔体Dの運動エネルギーが緩衝材31dの変形・破壊によって吸収されていく。そして、運動エネルギーを吸収し切れた場合には、イジェクタE5及び高速飛翔体Dは、緩衝材31dの内部、あるいは、緩衝材31dの外表面とフィルム31eの裏面との間に留まる。したがって、この場合の高速飛翔体D及びイジェクタE5は、少なくともフィルム31eにより押さえ込まれるため、それらの飛散が抑制される。
【0039】
以上に、本発明の具体例としてイジェクタ飛散防止構造15及びバンパ30を説明したが、本発明は、これら構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記イジェクタ飛散防止構造15においては、保護対象である平坦な受光面11に合わせて、平坦なフィルム11aと平坦な緩衝材11bと平坦なフィルム11cとを採用した。しかし、平坦形状のみに限らず、フィルム11a、緩衝材11b、フィルム11cのそれぞれを、保護対象の形状に合わせて凹曲面あるいは凸曲面を有する形状としてもよい。バンパ30についても同様である。すなわち、上記実施形態では、バンパ本体31a、緩衝材31b、フィルム31c、緩衝材31d、フィルム31eのそれぞれを平坦としたが、保護対象の形状に合わせて凹曲面あるいは凸曲面を有する形状としてもよい。
【0040】
また、上記イジェクタ飛散防止構造15においては、受光面11をフィルム11aのみで覆う構成としたが、これのみに限らず、受光面11とフィルム11aとの間に透明な緩衝材(不図示)を介在させてもよいし、あるいはフィルム11aを設けずに透明な緩衝材(不図示)のみで受光面11を覆ってもよい。また、マイクロ波送信アンテナ面12を緩衝材11bとフィルム11cとの一組により覆う構成としたが、これのみに限らず、緩衝材11bとフィルム11cの組み合わせを1層とした場合に、その2層以上をマイクロ波送信アンテナ面12上に積層してもよい。これは、バンパ30についても同様である。すなわち、緩衝材31b及びフィルム31cの組み合わせを1層とした場合に、その2層以上をバンパ本体31aに積層してもよい。同じく、緩衝材31d及びフィルム31eの組み合わせを1層とした場合に、その2層以上をバンパ本体31aに積層してもよい。
また、フィルム11a、フィルム31e、緩衝材31dのうちの少なくとも一つを、複層構造としてもよい。
また、緩衝材11b,31b,31dのそれぞれを多層構造とする場合は、その積層方向に沿って見たときに、マイクロ波送信アンテナ面12などの保護対象面に近付くにつれて素材密度が高くなるよう、深さ方向の素材密度にグラデーションを設けてもよい。
【0041】
また、本発明の適用対象として上記実施形態では宇宙太陽光発電装置1を例示したが、これのみに限らず、その他の宇宙機に本発明を適用してもよい。例えば、人工衛星の本体や発電パネルなどに適用してもよい。本発明のイジェクタ飛散防止構造及びバンパは、上記実施形態で例示して説明したように、イジェクタの飛散防止を主目的とするものであるが、高速飛翔体Dの捕獲も行うことができる。よって、高速飛翔体Dを除去して宇宙空間を清浄にするスイーパとしても機能することが可能である。例えば、本来目的で打ち上げる宇宙機の機体に本発明を適用することで、同軌道上にある多数の高速飛翔体Dを捕獲し、新たなイジェクタの発生を防ぎ、その結果として、同軌道上の汚染環境を改善することが可能になる。
【0042】
以上に説明した通り、上記実施形態で説明したイジェクタ飛散防止構造15及びバンパ30の骨子は、以下の通りである。
(1)宇宙太陽光発電装置1の発送電一体型パネル10の表面に設けられるイジェクタ飛散防止構造15であって、発送電一体型パネル10の受光面11を覆うフィルム11aと、マイクロ波送信アンテナ面12を覆う緩衝材11b及びフィルム11cとの両方を備える。
(2)上記(1)に記載のイジェクタ飛散防止構造15において、マイクロ波送信アンテナ面12では、緩衝材11b及びフィルム11cの両方を備え、緩衝材11bがマイクロ波送信アンテナ面12の少なくとも一部を覆い、そしてフィルム11cが緩衝材11bの外表面の少なくとも一部を覆っている。
(3)上記(1)に記載のイジェクタ飛散防止構造15において、以下の構成を採用してもよい。すなわち、宇宙太陽光発電装置1が、裏面のスポールも起こりうる厚みの発送電一体型パネル(構造)10を有し、前記構造の表面の少なくとも一部を、フィルム11aあるは不図示の緩衝材が覆い、前記構造の裏面の少なくとも一部を、緩衝材11b及びフィルム11cの少なくとも一方が覆う。
(4)上記(3)に記載のイジェクタ飛散防止構造15において、これを宇宙太陽光発電装置1の発送電一体型パネル10に適用し、この発送電一体型パネル10の受光面11の少なくとも一部を、透光性を有するフィルム11aが覆い、そして、発送電一体型パネル10の受光面11の裏面であるマイクロ波送信アンテナ面12の少なくとも一部を緩衝材11bが覆い、そして、緩衝材11bの少なくとも一部をフィルム11cが覆っている。
(5)上記(1)~(4)の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造15において、緩衝材11bの素材密度が、マイクロ波送信アンテナ面12に近付くにつれて高くなってもよい。
(6)上記(1)~(4)の何れか1項に記載のイジェクタ飛散防止構造15において、
フィルム11a、緩衝材11b、フィルム11cのうちの少なくとも一つが複層構造を有してもよい。
(7)バンパ30は、宇宙太陽光発電装置1の発送電一体型パネル10の周囲に配置されたバンパ本体31aと、バンパ本体31aの外面の少なくとも一部を覆う、緩衝材31b及びフィルム31c及びの少なくとも一方と、バンパ本体31aの内面の少なくとも一部を覆う、緩衝材31d及びフィルム31eの少なくとも一方と、を備える。
(8)上記(4)に記載のバンパ30において、バンパ本体31a、フィルム31c、緩衝材31b、緩衝材31d、フィルム31e、の全てを備え、緩衝材31bがバンパ本体31aの外面の少なくとも一部を覆い、フィルム31cが緩衝材31bの少なくとも一部を覆い、緩衝材31dがバンパ本体31aの内面の少なくとも一部を覆い、フィルム31eが緩衝材31dの少なくとも一部を覆っている。
(9)上記(7)または(8)に記載のバンパ30において、以下の構成を採用してもよい。すなわち、緩衝材31bの素材密度がバンパ本体31aの外面に近付くにつれて高くなる、または、緩衝材31dの素材密度がバンパ本体31aの内面に近付くにつれて高くなる、あるいは、緩衝材31bの素材密度がバンパ本体31aの外面に近付くにつれて高くなってかつ、緩衝材31dの素材密度がバンパ本体31aの内面に近付くにつれて高くなる、を満たす。
(10)上記(7)または(8)に記載のバンパにおいて、緩衝材31b、フィルム31c、緩衝材31d、フィルム31eのうちの少なくとも一つが、複層構造を有してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 宇宙太陽光発電装置(宇宙機)
10 発送電一体型パネル(太陽電池パネル、構造)
11 受光面(機体表面、受光面)
11a,11c フィルム(被膜材)
11b 緩衝材
12 マイクロ波送信アンテナ面(機体表面)
15 イジェクタ飛散防止構造
30 バンパ
31a バンパ本体
31b 緩衝材(第1緩衝材、緩衝材)
31c フィルム(第1被膜材、被膜材)
31d 緩衝材(第2緩衝材、緩衝材)
31e フィルム(第2被膜材、被膜材)
図1
図2
図3
図4