(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042319
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】コンクリート表面含浸材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/64 20060101AFI20240321BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C04B41/64
C09K3/18 102
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146954
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 道昭
(72)【発明者】
【氏名】池山 正一
(72)【発明者】
【氏名】大山 潤哉
【テーマコード(参考)】
4G028
4H020
【Fターム(参考)】
4G028CA00
4G028CB08
4G028CD00
4G028CD02
4H020AA03
4H020BA11
4H020BA31
4H020BA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吸水抑制性、水蒸気通過抵抗性及び耐候性に優れるコンクリート表面含浸材を提供すること。
【解決手段】(a)R
1
aSi(OR
2)
4-a・・・(I)(式(I)中、R
1は炭素数1~20のアルキル基、R
2は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b)フィブリル化フッ素樹脂、及び
(c)[CF
3(CF
2)
m(CH
2)
n]
bSiR
3
cX
4-b-c・・・(II)(式(II)中、R
3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、
(d)有機溶媒、
を含有する、コンクリート表面含浸材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 式(I);
R1
aSi(OR2)4-a ・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素数1~20のアルキル基、R2は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フィブリル化フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、
(d) 有機溶媒、
を含有する、コンクリート表面含浸材。
【請求項2】
式(I)で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物が、アルキルトリアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物である、請求項1に記載のコンクリート表面含浸材。
【請求項3】
請求項1又は2のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成されたコンクリート製品。
【請求項4】
請求項1又は2のコンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布・含浸する、コンクリート表面の保護方法。
【請求項5】
(a) 式(I);
RaSi(OR’)4-a ・・・(I)
(式(I)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、R’は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、及び
(d) 有機溶媒、
を混合する工程、
せん断力を作用させて、前記(a)~(d)を撹拌してフッ素樹脂をフィブリル化する工程、
を含む、コンクリート表面含浸材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面含浸材に関する。さらに、コンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成されたコンクリート製品、コンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布・含浸する、コンクリート表面の保護方法、及びコンクリート表面含浸材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、耐久性が高いことから、各種構造物に使用されている。しかしながら、一般的なコンクリートは時間経過とともに劣化し、クラックや欠損等が生じてしまう。
コンクリートの劣化防止や、劣化したコンクリートの補修を行うために、コンクリート表面含浸材を塗布・含浸し、コンクリート外部から内部への水や劣化因子(ハロゲンイオン、ハロゲン化物イオン、硫化物イオン、硫酸イオン等)の侵入防止を行うことが効果的である。
【0003】
コンクリート表面処理剤としては、例えば以下のものが知られている。
特許文献1には、特定の構造の含フッ素シラン化合物を含有する、セメント系目地材、ALC板、スレート板、セメント系成形体、セメントモルタル、コンクリート下地等の建築材料に撥水撥油性を付与するための塗料が記載されている。
特許文献2には、コンクリート建材等の多孔性無機材料の表面に撥水性を付与するための撥水剤組成物であって、デシルトリメトキシシラン、イソパラフィン及びシリカ粒子を含有する撥水剤組成物が記載されている。
特許文献3には、平均一次粒子径が100nm以下で表面がフッ素系撥水撥油剤で処理された疎水性微粒子を、疎水性溶媒を全有機溶媒中65質量%以上含有する有機溶媒に分散させて成る、コンクリート等に適用できるコーティング液が記載されている。
特許文献4には、(1)平均粒径が100nm以下の微粒子及び(2)アルキル基含有アルコキシシランを含有する、コンクリート製のブロックやタイル、木材、布等の、非平滑面に対し、十分な撥水性能を付与しうる、非平滑面用撥水処理組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-107583号公報
【特許文献2】特開2016-50271号公報
【特許文献3】特開2010-155727号公報
【特許文献4】特開2010-121021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4に記載されているコンクリート表面含浸材は、塗布・含浸面の吸水抑制性(吸水率)、水蒸気通過抵抗性(透湿度)及び耐候性(水接触角、吸水後表面含水率、吸水率、塩分浸透抵抗性)について、満足のいくものではなかった。
【0006】
本発明の解決しようとする課題の1つは、吸水抑制性(吸水率)、水蒸気通過抵抗性(透湿度)及び耐候性(水接触角、吸水後表面含水率、吸水率、塩分浸透抵抗性)に優れるコンクリート表面含浸材の塗布・含浸面を形成することができる、コンクリート表面含浸材を提供することである。
本発明の解決しようとする課題の1つは、前記コンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成された、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面を有するコンクリート製品を提供することである。
本発明の解決しようとする課題の1つは、前記コンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布・含浸する、コンクリート表面の保護方法を提供することである。
本発明の解決しようとする課題の1つは、前記コンクリート表面含浸材の製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の組成のコンクリート表面含浸材により上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のコンクリート表面含浸材、コンクリート製品、コンクリート表面の保護方法及びコンクリート表面含浸材の製造方法を提供するものである。
[項1]
(a) 式(I);
R1
aSi(OR2)4-a ・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素数1~20のアルキル基、R2は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フィブリル化フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、
(d) 有機溶媒、
を含有する、コンクリート表面含浸材。
[項2]
式(I)で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物が、アルキルトリアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物である、項1に記載のコンクリート表面含浸材。
[項3]
項1又は2のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成されたコンクリート製品。
[項4]
項1又は2のコンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布・含浸する、コンクリート表面の保護方法。
[項5]
(a) 式(I);
RaSi(OR’)4-a ・・・(I)
(式(I)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、R’は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、及び
(d) 有機溶媒、
を混合する工程、
せん断力を作用させて、前記(a)~(d)を撹拌してフッ素樹脂をフィブリル化する工程、
を含む、コンクリート表面含浸材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、吸水抑制性(吸水率)、水蒸気通過抵抗性(透湿度)及び耐候性(水接触角、吸水後表面含水率、吸水率、塩分浸透抵抗性)に優れるコンクリート表面含浸材の塗布・含浸面を形成することができる、コンクリート表面含浸材が提供される。
本発明により、前記コンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成された、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面を有するコンクリート製品が提供される。
本発明により、前記コンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布・含浸する、コンクリート表面の保護方法が提供される。
本発明により、前記コンクリート表面含浸材を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】塩分浸透深さ試験に際して、実施例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試供体SF及び比較例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試供体NFから切り出した試験片SF及び試験片NFにおけるそれぞれの分析面写真と、各試験片(試験片SF、試験片NF及び塗布なし試験片(試験片BL))における分析面の塩分浸透状況を示す写真。
【
図2】各試験片(試験片SF、試験片NF及び試験片BL)に対して促進試験を13サイクル実施した後の、塩化物イオン浸透濃度のプロファイルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のコンクリート表面含浸材、コンクリート製品、コンクリート表面の保護方法及びコンクリート表面含浸材の製造方法について説明する。
【0011】
[コンクリート表面含浸材]
本発明のコンクリート表面含浸材は、
(a) 式(I);
R1
aSi(OR2)4-a ・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素数1~20のアルキル基、R2は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フィブリル化フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、
(d) 有機溶媒、
を含有する、コンクリート表面含浸材である。以下詳細に説明する。
【0012】
<(a) 式(I)で表わされるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物>
「(a) アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物」(以下、「(a)成分」という場合がある。)は、式(I);
R1
aSi(OR2)4-a ・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素数1~20のアルキル基、R2は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表わされるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の1種以上である。
本発明において、部分加水分解縮合物は、式(I)で表されるアルキルアルコキシシランが2~10分子程度加水分解したものである。
【0013】
式(I)中のR1は、炭素数1~20のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基(例えば、n-ヘキシル基等)、ヘプチル基(例えば、n-ヘプチル基等)、オクチル基(例えば、n-オクチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基等)、ノニル基(例えば、n-ノニル基等)、デシル基(例えば、nーデシル基等)及びドデシル基(例えば、n-ドデシル基等)等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基及びメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。R1が分子中に複数ある場合、分子中のR1は互いに独立して同一又は異なっていてもよい。本発明において、好ましいR1は炭素数4~12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4~10のアルキル基である。
【0014】
式(I)中のR2は、炭素数1~6のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基(例えば、n-ヘキシル基等)等が挙げられる。R2が分子中に複数ある場合、分子中のR2は互いに独立して同一又は異なっていてもよい。本発明において、好ましいR2は炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0015】
式(I)中のaは、1又は2である。式(I)において、aが1の場合にはアルキルトリアルコキシシランとなり、aが2の場合にはジアルキルジアルコキシシランとなる。
R及びR’が有していてもよい置換基は、例えば、ハロゲン基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、アミノアルキルアミノ基、イソシアネート基等からなる群より選ばれる種以上が挙げられる。
【0016】
このようなアルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明においては、コンクリート表面含浸材の硬化性等の観点から、式(I)においてaが1であるアルキルトリアルコキシシランが好ましい。より好ましいアルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0017】
コンクリート表面含浸材における(a)成分の含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
(a)成分の含有量が20質量%未満であると、コンクリート表面含浸材の粘度が低くなりすぎてタレ止め性が悪くなるおそれがあり、撥水性が悪くなるおそれがある。
(a)成分の含有量が80質量%を超えると、コンクリート表面含浸材の粘度が高くなりすぎ、塗布作業性、外観評価、含浸性が悪くなるおそれがある。
【0018】
<(b) フィブリル化フッ素樹脂>
「(b) フィブリル化フッ素樹脂」(以下、「(b)成分」という場合がある。)は、フッ素樹脂粒子に適度な大きさのせん断力を印加することで、フッ素樹脂粒子の少なくとも一部の形状を繊維状にしたものである。本発明における(b)フィブリル化フッ素樹脂は、フッ素樹脂繊維を切断することで得られるものとは異なる。本発明のコンクリート表面含浸材において、「(b) フィブリル化フッ素樹脂」は、増粘剤としての機能を発揮する。
【0019】
本発明におけるフッ素樹脂は、含フッ素単量体からの繰返し単位を含む重合体である。
フッ素樹脂としては、フィブリル化できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロピルビレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、及びポリビニルフルオライド(PVF)等の結晶性フッ素樹脂の1種以上が挙げられる。好ましくは、PTFE又はPFAであり、特に、フィブリル化しやすいPTFEが好ましい。好ましいフッ素樹脂の市販品としては、例えば、喜多村社製「KTL-8F」、「KTL8FH」、「KTL-500F」等、ダイキン工業社製「ポリフロン T-104」、「ポリフロン F-201」等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
フィブリル化フッ素樹脂は、コンクリート表面含浸材中での再凝集性が抑制されており、分散性に優れており、また、塗布したコンクリート表面に撥水性を付与できる。
【0020】
フッ素樹脂粒子の体積平均粒子径(50%粒子径)は、特に限定されない。例えば1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上であり、例えば20.0μm以下、好ましくは15.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下である。
フッ素樹脂粒子の体積平均粒子径が1.0μm以上20.0μm以下であれば、フッ素樹脂粒子及びフィブリル化フッ素樹脂を溶媒中に良好に分散させることができ、フッ素樹脂粒子を効率的にフィブリル化することができる。
フッ素樹脂粒子のアスペクト比(長径/短径)は、特に限定されない。例えば1以上3未満である。
【0021】
フッ素樹脂粒子の結晶化度は、例えば、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。フッ素樹脂粒子の結晶化度は、例えば、X線回折法により測定することができる。フッ素樹脂粒子の結晶化度がかかる範囲内であれば、せん断力の印加によりフッ素樹脂粒子をフィブリル化させ易い。
【0022】
フィブリル化フッ素樹脂は、フッ素樹脂粒子にフィブリル化を起こすせん断力を印加することで作製できる。
例えば、コンクリート表面含浸材を構成する材料を混合した後に、一般的な分散手法により、フッ素樹脂粒子にフィブリル化を起こすせん断力を印加する方法が挙げられる。また、例えば、フッ素樹脂粒子と溶媒とを混合した後に、一般的な分散手法により、フッ素樹脂粒子にフィブリル化を起こすせん断力を印加する方法が挙げられる。
フッ素樹脂粒子にフィブリル化を起こすせん断力を印加する分散手法としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル、アトライター、3本ロール、ミキサー、ホモミキサ―、超音波、ウルトラディゾルバー、高圧ホモジナイザー等からなる群より選ばれる1種以上を用いた分散手法が挙げられる。なお、これらの手段を用いても、十分なせん断力を印加できなければ、フッ素樹脂粒子をフィブリル化することはできない。本発明においては、ビーズやボール等のメディア(媒体)を用い、溶媒中で撹拌してせん断力を印加する湿式媒体撹拌粉砕機を用いた分散手法が好ましい。湿式媒体撹拌粉砕機を用いると、装置内壁とメディアの間、メディア同士の間にあるフッ素樹脂粒子に対して衝突およびせん断の力が作用し、フッ素樹脂粒子がフィブリル化される。
【0023】
フッ素樹脂粒子に加えるフィブリル化を起こすせん断力としては、フッ素樹脂粒子の量、形状、フッ素樹脂の種類等に応じて、適宜調整することができる。メディア式ミルを用いる場合には、例えば500rpm以上、好ましくは700rpm以上、より好ましくは800rpm以上、例えば1500rpm以下、好ましくは1300rpm以下、より好ましくは1200rpm以下で、10分~120分の撹拌によるせん断力の付与が挙げられる。
本発明において、フィブリル化フッ素樹脂の確認は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察(加速電圧100kV、1000倍)により行うことができる。
【0024】
コンクリート表面含浸材における(b)成分の含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、例えば5.00質量%以下、好ましくは3.50質量%以下、より好ましくは2.00質量%以下である。
(b)成分の含有量が0.01質量%未満であると、コンクリート表面含浸材の粘度が低くなりすぎてタレ止め性が悪くなるおそれがあり、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性が悪くなるおそれがあり、塗布作業性、外観評価が悪くなるおそれがある。
(b)成分の含有量が5.00質量%を超えると、コンクリート表面含浸材の粘度が高くなりすぎて塗布作業性が悪くなるおそれがあり、外観、含浸深さが悪くなるおそれがある。
【0025】
<(c) 式(II)で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物>
「(c) 式(II)で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物」(以下、「(c)成分」という場合がある。)は、式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物の1種以上である。
本発明において、部分加水分解縮合物は、式(II)で表される含フッ素シラン化合物が2~10分子程度加水分解したものである。
【0026】
式(II)中のR3は、炭素数1~20のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基(例えば、n-ヘキシル基等)、ヘプチル基(例えば、n-ヘプチル基等)、オクチル基(例えば、n-オクチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基等)、ノニル基(例えば、n-ノニル基等)、デシル基(例えば、nーデシル基等)及びドデシル基(例えば、n-ドデシル基等)等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基及びメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
式(II)中においてR3が複数ある場合、R3は互いに独立して同一又は異なっていてもよい。本発明において、好ましいR3は炭素数1~12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。
式(II)中R3の数を表すcは、0~2の整数であり、コンクリート表面含浸材の反応性及びコンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の耐候性の点から、好ましくは0である。
【0027】
式(II)中の[CF3(CF2)m(CH2)n]は、含フッ素アルキル基である。
式(II)中のmは、フルオロカーボンユニットの数(CF3とCF2の総数)を表す。mが増加すると、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性を向上させることが可能である。本発明においては、mは0~19の整数であり、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。mの数が大きなフルオロアルキルシラン系化合物は、入手が困難であり、mの数が小さいフルオロアルキルシラン系化合物は、フルオロ原子の量が少なくなるため、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性が不十分となるおそれがある。
式(II)中のnは、0以上10以下の整数であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。nの数が大きいと、フルオロ原子の量が相対的に少なくなるため、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性が不十分となるおそれがある。
式(II)中において[CF3(CF2)m(CH2)n]が複数ある場合、[CF3(CF2)m(CH2)n]は互いに独立して同一又は異なっていてもよい。
式(II)中の[CF3(CF2)m(CH2)n]の数を表すbは、1~3の整数であり、コンクリート表面含浸材の反応性及びコンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の耐候性の点から、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0028】
式(II)中のXとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基及びヒドロキシル基からなる群より選ばれる基を用いることができる。Xが複数ある場合、Xは互いに独立して同一又は異なっていてもよい。
Xの反応性が高すぎると、コンクリート表面含浸材調合時の取扱性が低下し、コンクリート表面含浸材の貯蔵安定性が低下するおそれがある。一方、Xの反応性が低すぎると、反応が十分進行しなくなり、生成するシラノール基の量が十分でなくなるため、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性が不十分となるおそれがある。コンクリート表面含浸材の取扱性、保存安定性、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性の点から、Xは炭素数4以下のアルコキシ基の1種以上が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基の1種以上が特に好ましい。
式(II)中のXの数は、1以上3以下であり、コンクリート表面含浸材の反応性、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性の点から、2以上であり、より好ましくは3である。
【0029】
式(II)で表される含フッ素シラン化合物としては、例えば、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)5CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)5CH2CH2Si(CH3)2OCH3、CF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)3CH2CH2Si(CH3)2OCH3、CF3(CF2)5CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)5CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF2)5CH2CH2Si(CH3)2Cl、CF3(CF2)3CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF2)3CH2CH2Si(CH3)2Cl等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。入手容易性、コンクリート表面含浸材の保存安定性、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性の点から、式(II)中、[CF3(CF2)m(CH2)n]は、mが3以上7以下の整数、nが1以上3以下の整数である基の1種以上、R3が炭素数1~10のアルキル基、Xが炭素数4以下のアルコキシ基の1種以上、bが1以上2以下の整数、cが1又は0であるフルオロアルキルシラン系化合物が好ましい。
【0030】
コンクリート表面含浸材における(c)成分の含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、例えば5.00質量%以下、好ましくは3.50質量%以下、より好ましくは2.00質量%以下である。
(c)成分の含有量が0.01質量%未満であると、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の撥水性及び耐候性が低下するおそれがある。
(c)成分の含有量が5.00質量%を超えると、コンクリート表面含浸材の取扱性、保存安定性が低下するおそれがあり、コンクリート表面含浸材のコストが高くなる。
【0031】
<(d) 有機溶媒>
「(d) 有機溶媒」(以下、「(d)成分」という場合がある。)としては、(a)成分を溶解し、(b)成分を分散し、(c)成分を溶解又は分散し得るものであれば、特に限定されない。
例えば、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン、ナフテン系溶媒、イソパラフィン系溶媒等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0032】
コンクリート表面含浸材における(d)成分の含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、例えば75質量%以下、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
(d)成分の含有量が20質量%未満であると、コンクリート表面含浸材の各成分の分散性が悪くなるおそれがあり、粘度が高くなりすぎ、塗布作業性、外観評価、含浸性が悪くなるおそれがある。
(d)成分の含有量が75質量%を超えると、コンクリート表面含浸材の粘度が低くなりすぎてタレ止め性が悪くなるおそれがあり、撥水性が悪くなるおそれがある。
【0033】
<増粘剤>
本発明のコンクリート表面含浸材は、(a)~(d)成分に加え、増粘剤を含有していてもよい。増粘剤としては、例えば、アマイド系、ポリオレフィン系、酸化ポリエチレン系、水添ひまし油系、硫酸エステル系、ダイマー酸エステル系、ポリカルボン酸系、植物油重合油系等からなる群より選ばれる1種以上の有機系増粘剤;ベントナイト、スメクタイト、カオリナイト、セピオライト、タルク、シリカフューム、モンモリノナイト、ヘクトライト、ラポナイト、サポナイト、シリカゲル、極微細炭酸カルシウム等から選ばれる無機系増粘剤からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。特に、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物との相溶性がよく、膨潤しやすく、剥がれや白化の改善等の観点から、アマイド系の増粘剤が好ましい。
【0034】
前記有機系増粘剤としては、例えば、共栄社化学社製「ターレン」シリーズ(7200ー20、5400-25、5500-25等);共栄社化学社製「フローノン」シリーズ(SPー1000、SA-300等);楠本化成社製「ディスパロン」シリーズ(6900ー20X、FSー6010、4300、6820-20M、4200-20等)製;伊藤製油社製「A-S-A」シリーズ(T-20、T-1700、D-10A等)等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0035】
コンクリート表面含浸材において、増粘剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上とすることができ、例えば15.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下とすることができる。増粘剤の含有量が0.5質量%未満であると、増粘剤を添加した効果を得ることができず、15.0質量%を超えると、コンクリート表面含浸材の各成分の分散性が悪くなるおそれがあり、粘度が高くなりすぎ、塗布作業性、外観評価、含浸性が悪くなるおそれがある。
有機系増粘剤は、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物と比較して、分子量が大きく、コンクリート表面含浸材を塗布した際には、塗膜表面に偏在することとなる。このため、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の揮発が抑制され、塗布・含浸面に含浸する量が増えることとなり、含浸深さを向上させることが可能となる。さらに、含浸したアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の揮発が起きにくく、撥水性等を長時間維持することができる。
【0036】
<その他の成分>
本発明のコンクリート表面含浸材は、(a)~(d)成分、増粘剤に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、表面調整剤、消泡剤、光安定剤、分散剤、硬化触媒、硬化促進剤、加水分解防止剤、酸化防止剤、成膜助剤、紫外線吸収剤、可塑剤、脱水剤、レベリング剤、付着付与剤、アルコキシシリケート等の耐汚染性付与剤、シリカ粉末等の無機系やアクリルビーズ等の有機系の艶消し剤、着色剤、防かび剤、防藻剤、防蟻剤、充填剤(フィラー)等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
コンクリート表面含浸材において、前記その他の成分を用いる場合、その含有量は、特に限定されない。コンクリート表面含浸材全量を100質量%として、例えば0.1質量%以上とすることができ、例えば3.0質量%以下とすることができる。
【0037】
<コンクリート表面含浸材の物性等>
(含浸深さ)
本発明のコンクリート表面含浸材の含浸深さは、コンクリート内部への劣化因子(例えば、塩化物イオン等)の侵入を防ぐのに十分な深さであれば特に限定されない。例えば、2.0mm以上、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは4.0mm以上であれば、劣化因子がコンクリート内部の鉄筋に達する時間が長くなり、コンクリートの劣化抑制効果が高くなる。
含浸深さについては、例えば、「2013年制定 コンクリート標準示方書 規準編 土木学会規準および関連規準」における「17.表面含浸材の試験方法(JSCE-K 571-2013)」中の「6.2 含浸深さ試験」に基づいて測定することができる。
なお、塩化物イオンの浸漬深さについては、土木学会規準「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法 (案) (JSCE-G 572-2018)」に基づいて供試体の作製・浸漬をし,土木学会基準「EPMA法によるコンクリート中の元素の面分析方法(JSCE-G 574-2018)」に基づいて含浸面における塩分浸透の濃度分布を作成することができる。
【0038】
(粘度)
本発明のコンクリート表面含浸材の粘度は、タレ止め性に優れ垂直面や上面にも容易に塗布することができる粘度であれば特に限定されない。例えば500mPa・s以上、好ましくは550mPa・s以上、より好ましくは600mPa・s以上であり、例えば1200mPa・s以下、好ましくは1100mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以下である。本発明においては、例えば、湿式媒体撹拌粉砕機等の手段による分散でフッ素樹脂をフィブリル化することや、増粘剤を適量用いることで、粘度を調整することができる。粘度範囲をこのような範囲とすることで、タレ止め性や塗布性等に優れたコンクリート表面含浸材を形成することができ、さらに、塗布・含浸後のコンクリート表面の外観に問題がなく、十分な含浸深さ(含浸性能)を有し、水接触角が大きく撥水性に優れ、塗布・含浸後のコンクリートの耐久性が優れる、コンクリート表面含浸材とすることができる。
粘度については、例えば、B型粘度計を用い、25℃で、ローターNo.2を用い30rpmの条件で測定することができる。
【0039】
(水接触角)
本発明のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸して形成した、コンクリート試験体の塗布・含浸面における水接触角は、十分な撥水性を示す範囲にあれば特に限定されない。例えば135°超、好ましくは137°以上であり、例えば160°以下、好ましくは150°以下である。
水接触角については、例えば、実施例における[評価]で記載した方法により測定することができる。
【0040】
<コンクリート表面含浸材の用途等>
本発明のコンクリート表面含浸材は、コンクリート表面に塗布・含浸させて、コンクリート表面の保護と美観性の維持、劣化因子(ハロゲンイオン、ハロゲン化物イオン、硫化物イオン、硫酸イオン等)の侵入防止のために用いられる。
コンクリート表面含浸材を塗布・含浸する方法は特に限定されない。例えば、ローラー、刷毛、噴霧、浸漬等の方法を用いることができる。塗布・含浸時の温度は特に限定されず、0℃~50℃の範囲とすることができる。塗布・含浸後、室温化での放置、天日乾燥、加熱乾燥等の方法により乾燥養生させることができる。
本発明のコンクリート表面含浸材の塗布・含浸量は特に限定されない。コンクリートの状態に合わせて適宜調整することができ、例えば50g/m2以上、好ましくは100g/m2以上とすることができ、例えば500g/m2以下、好ましくは300g/m2以下とすることができる。
本発明のコンクリート表面含浸材は、1回の塗布・含浸で十分な効果を得ることができるが、必要に応じて2回以上塗布・含浸してもよい。また、新設のコンクリート表面に塗布・含浸するだけでなく、数年後に塗布・含浸面に再度塗布・含浸することも可能である。
【0041】
本発明のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸するコンクリートとしては、既設のコンクリート、新設のコンクリートのいずれでもよい。また、現場打設のものだけでなく、工場やヤードで製作したプレキャストコンクリートの製品・部材なども含まれる。
コンクリートの種類も特に制限されず、普通コンクリート、高強度コンクリート、マスコンクリート、膨張コンクリート、低発熱コンクリート、水中不分離コンクリート、水中コンクリート、工場製品コンクリート、海洋コンクリート、吹付けコンクリート、プレパックドコンクリート、高流動コンクリート、ポリマーコンクリート、軽量(骨材)コンクリート、寒中コンクリート、暑中コンクリート、鋼コンクリート合成構造、プレストレストコンクリート、再生骨材コンクリート、打放しコンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、繊維補強コンクリート(鋼繊維補強コンクリート、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板等)、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、3Dプリンティングコンクリート等が挙げられる。また、コンクリートにフライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム等の混和材が混合されていてもよい。
【0042】
本発明のコンクリート表面含浸材をコンクリート表面に塗布・含浸すると、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の大部分が適度な含浸深さまで含浸し、塗布・含浸面の表面には、含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物とフッ素樹脂を主成分とする緻密な表面被覆が形成される。これにより、コンクリート表面含浸材の塗布・含浸面の耐候性を大きく向上させることができ、激しい風雨による雨水の漏水、酸性雨による材料の劣化、汚れのしみ込み、海水及び凍結防止剤による塩害、寒冷地における凍害、材料中の塩の溶出による白華等の水に起因する種々の問題等の発生を長期にわたって防ぐことができる。さらに、本発明のコンクリート表面含浸材は、コンクリート表面の塗布・含浸面に防汚性を付与することができ、これにより、コンクリート表面に汚れが付着しにくくなる。これより、例えば、駐車場、物流施設、各種工場、荷捌き場等、交通量が激しいコンクリート構造物等に用いることも可能である。さらに、撥水性が高いことから、橋脚、ダム、各種水路等にも用いることも可能である。
【0043】
[コンクリート製品]
本発明のコンクリート製品は、前記[コンクリート表面含浸材]に記載したコンクリート表面含浸材を塗布・含浸し乾燥して形成されたコンクリート製品である。
コンクリート表面含浸材の塗布・含浸方法、乾燥方法及びコンクリートは、前記[コンクリート表面含浸材]の<コンクリート表面含浸材の用途等>に記載したものと同様である。
【0044】
[コンクリート表面の保護方法]
本発明のコンクリート表面の保護方法は、前記[コンクリート表面含浸材]に記載したコンクリート表面含浸材を、コンクリート表面に塗布し含浸させるものである。
コンクリート表面含浸材を塗布し含浸させる方法、乾燥方法及びコンクリートは、前記[コンクリート表面含浸材]の<コンクリート表面含浸材の用途等>に記載したものと同様である。
【0045】
[コンクリート表面含浸材の製造方法]
本発明のコンクリート表面含浸材の製造方法は、
(a) 式(I);
RaSi(OR’)4-a ・・・(I)
(式(I)中、Rは炭素数1~20のアルキル基、R’は水素又は炭素数1~6のアルキル基、aは1又は2である。)
で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物、
(b) フッ素樹脂、及び
(c) 式(II);
[CF3(CF2)m(CH2)n]bSiR3
cX4-b-c ・・・(II)
(式(II)中、R3は炭素数1~20のアルキル基、Xは炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン、mは0~19の整数、nは0~10の整数、bは1~3の整数、cは0~2の整数、b+cは1~3の整数である。)
で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物、及び
(d) 有機溶媒、
を混合する工程、
せん断力を作用させて、前記(a)~(d)を撹拌してフッ素樹脂をフィブリル化する工程、
を含む、コンクリート表面含浸材の製造方法である。
【0046】
本発明のコンクリート表面含浸材の製造方法において、「(a) 式(I)で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物」、「(b) フィブリル化フッ素樹脂」、「(c) 式(II)で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物」及び「(d) 有機溶媒」は、それぞれ、前記[コンクリート表面含浸材]の<(a) 式(I)で表されるアルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物>、<(b) フィブリル化フッ素樹脂>、<(c) 式(II)で表される含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物>及び<(d) 有機溶媒>に記載したものと同様である。
せん断力を作用させて撹拌する方法は、フッ素樹脂をフィブリル化し得る方法であれば特に限定されず、例えば、前記[コンクリート表面含浸材]の<(b)フィブリル化フッ素樹脂>に記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【実施例0047】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。特段の規定がない場合、「部」は「質量部」を意味する。
【0048】
[コンクリート表面含浸材の調製]
<実施例1>
デシルトリメトキシシラン50.0部、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン0.5部、未焼成ポリテトラフルオロエチレン(未焼成PTFE)0.2部、ミネラルスピリット44.3部及びアマイドワックス系増粘剤5.0部を混合し、直径2.0mmガラスビーズを充填したビーズミルを用い、回転数1000rmpで60分撹拌して分散することで未焼成PTFEをフィブリル化し、実施例1に係るコンクリート表面含浸材を得た。
【0049】
<比較例1>
デシルトリメトキシシラン50.0部、ミネラルスピリット45.0部及びアマイドワックス系増粘剤5.0部を混合し、直径2.0mmガラスビーズを充填したビーズミルを用い、回転数1000rmpで60分撹拌して分散することで、比較例1に係るコンクリート表面含浸材を得た。
【0050】
[評価]
得られたコンクリート表面含浸材の評価を以下のとおり行った。
<試験用基板の作製>
「2013年制定 コンクリート標準示方書 規準編 土木学会規準および関連規準」における「17.表面含浸材の試験方法(JSCE-K 571-2013)」中の「5.1.1 モルタル基板の作製」に基づいて、試験用基板を作製した。
JSCE- F 505に準拠し、JIS R 5201の10.2(標準砂)に規定する標準砂を用いて、水セメント比50%、砂セメント比3のモルタルを練り混ぜ、金属製型枠を用いて、寸法100×100×400(mm)に成形した。温度20±2℃、相対湿度80%以上の状態に24時間静置した後、脱型し、その後6日間、20±2℃の水中で養生した。
成形したモルタルを、評価試験の種類に応じた寸法に切断して、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%で28日間養生し、試験用基板とした。
なお、寸法100×100×400(mm)に成形したモルタルの切断は、前記「5.1.1 モルタル基板の作製」に基づいて行った。
【0051】
<吸水率試験>
「2013年制定 コンクリート標準示方書 規準編 土木学会規準および関連規準」における「17.表面含浸材の試験方法 (JSCE-K 571-2013)」中の「5.2 試験体の作製」に基づいて、試験体を作製した。
試験体の寸法は100×100×100(mm)、試験体の含浸面は切断面の2面(100×100(mm))、試験体の個数は3個、原状試験体の個数は3個、試験の環境状況は、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%である。
コンクリート表面含浸材は、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%に24時間静置したものを用いた。
コンクリート表面含浸材を、刷毛を用いて含浸面に塗布することで含浸し、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%で14日間養生して試験体とした。
なお、含浸面以外のシール面は、研磨後にコンクリート塗装用エポキシ樹脂塗料中塗材を塗布することでシールした。
【0052】
前記「17.表面含浸材の試験方法 (JSCE-K 571-2013)」中の「6.4 吸水率試験」に基づいて、実施例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(SF)、比較例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(NF)、市販のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(A)の3種について、7日後及び28日後に吸水率試験を行った。
表面含浸材を含浸しないで、試験体の作製が終了するまで、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%の条件下に14日間静置した試験用基板を原状試験体(BL)とし、7日後及び28日後に吸水率試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
<透湿度試験>
「2013年制定 コンクリート標準示方書 規準編 土木学会規準および関連規準」における「17.表面含浸材の試験方法 (JSCE-K 571-2013)」中の「5.2 試験体の作製」に基づいて、試験体を作製した。
試験体の寸法は100×100×20(mm)、試験体の含浸面は型枠に接していた1側面(100×20(mm))、試験体の個数は3個、原状試験体の個数は3個、試験の環境状況は、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%である。
コンクリート表面含浸材は、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%に24時間静置したものを用いた。
コンクリート表面含浸材を、刷毛を用いて含浸面に塗布することで含浸し、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%で14日間養生して試験体とした。
なお、含浸面以外のシール面は、研磨後にコンクリート塗装用エポキシ樹脂塗料中塗材を塗布することでシールした。
【0055】
前記「17.表面含浸材の試験方法 (JSCE-K 571-2013)」中の「6.5 透湿度試験」に基づいて、実施例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(SF)、比較例1のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(NF)、市販のコンクリート表面含浸材を含浸させた試験体(A)の3種について、7日後及び28日後に透湿度試験を行った。
表面含浸材を含浸しないで、試験体の作製が終了するまで、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%の条件下に14日間静置した試験用基板を原状試験体(BL)とし、7日後及び28日後に透湿度試験を行った。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
<促進耐候性(水接触角)>
(促進試験)
耐候性試験機(XER-W75、水冷式、7.5kWキセノンアークランプの光源部)を用いて、促進試験(促進劣化試験)を行った。促進試験条件は、照射照度(300~400nm・60W/m2)、ブラックスタンダード温度(BST)65℃、温度38±3℃(JIS K5600-7-7参考)、相対湿度60%(JIS A 1415参考)とした。また、濡れ時間18分、乾燥時間102分の120分(2時間)を1サイクルとした。
【0058】
(促進試験と屋外曝露の相関関係)
キセノンアークランプでの吸光度比(カルボニルインデックス値、以下、「CI値」という。)1は90時間の照射に相当する。また、東京とほぼ緯度が等しい銚子の1年間の積算CI値は9.3であるので、キセノンアークランプ照射時間に換算すると90時間×9.3=837時間となる。また、837時間/24時間≒35(日)であるため、耐候性試験機で35日間照射することが、銚子又は東京で1年間曝露することに相当する。耐候性試験機で500時間の照射は、およそ0.6年間曝露することに相当する(計算根拠:古谷英彦等,シラン系表面含浸材の紫外線劣化の吸水試験による評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,2009)。
【0059】
(水接触角の測定)
水接触角は、JIS R 3257:1999「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」を参考にして測定を行った。
水接触角の測定は、自動接触角計(協和界面科学社製、「DMo-701」)を用い、静的接触角を測定することで行った。
計測用ソフトに試験体表面に滴下する水滴の体積を入力し、15回連続測定を指定し、水滴の作成から接触角の計測まで全て自動で行った。
【0060】
試験用基板から、寸法150×70×10(mm)の試験体を切り出し、150×70mmの片面を照射面とし、残りの5面を全てエポキシ樹脂でコーティングしてシールした。コンクリート表面含浸材を、刷毛を用いて含浸面に塗布することで含浸し、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%で14日間養生して試験体とした。
実施例1のコンクリート表面含浸材を照射面に塗布・含浸して得られた試験体(SF)及び比較例1のコンクリート表面含浸材を照射面に塗布・含浸して得られた試験体(NF)について、促進試験を行った。促進時間500時間ごとに試験体を取り出して、含浸面の水接触角を測定した。
水接触角の測定は、試験体の塗布・含浸面に水滴を落下し1秒経過後に行った。計測位置は、一方向に6mmピンチで15回自動計測を行うことができる位置とし、15回計測した水接触角の平均値を1試験体の水接触角とした。水接触角は、3個の試験体の平均値で示した。結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
<促進耐候性(24時間吸水後表面含水率及び24時間吸水率)>
前記<促進耐候性(水接触角)>と同様にして、実施例1のコンクリート表面含浸材を照射面に塗布・含浸して得られた試験体(SF)及び比較例1のコンクリート表面含浸材を照射面に塗布・含浸して得られた試験体(NF)を作製し、促進試験を行った。促進時間500時間ごとに試験体を取り出し、24時間蒸留水を吸水させ、その直後に24時間吸水後表面含水率と試験体の質量を測定した。表面含水率の測定は、ケット社製の高周波水分計を用いて行った。さらに、24時間吸水前後の質量測定から、24時間吸水率を算出した。24時間吸水後表面含水率の測定結果を表4に、24時間吸水率を表5に、それぞれ示す。
【0063】
【0064】
【0065】
<塩分浸透深さ試験>
「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法 (案) (JSCE-G 572-2018)」に従って試験体を作製した。
本試験においては、ブリディングや型枠面の影響を避けるため、Φ100×200mmの円柱試験体の上下をそれぞれ25mmカットしてΦ100×150mmとし、一方の切断断面を含浸面として残して、他の面はすべてエポキシ樹脂でコーティングして試供体を作製した。
コンクリート表面含浸材は、温度23±2℃、相対湿度(50±5)%に24時間静置したものを用いた。
作製した試供体の含浸面に、実施例1のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸して得られた試供体(試供体SF)、比較例1のコンクリート表面含浸材を塗布・含浸して得られた試供体(試供体NF)、及び、表面含浸材を塗布・含浸しないで温度23±2℃、相対湿度(50±5)%の条件下に14日間静置した原状試供体(試供体BL)の3種を作製した。
【0066】
試供体SF、試供体NF及び試供体BLを、濃度10%の塩水溶液中に浸漬した。
浸漬後の試供体SF、試供体NF及び試供体BLから、浸漬面40×10mm、深さ50mmとなるようにそれぞれ試験片を切り出し、試験片における50×40mmの面を分析面として、「EPMA法によるコンクリート中の元素の面分析方法(JSCE-G 574-2013)」に準じて分析面をEPMA分析して塩分濃度分布を求め、塩分浸透深さについて考察した。
EPMA分析は、日本電子社製JXA-iSP100を用いて行った。各分析面に照射する電子線の直径(Probe径)を100μmとし、分析面上を100μm(0.1mm)間隔で動かすことにより、500×400箇所(ピクセル)の分析(面分析,ステージスキャン法)を行った。各ピクセルの目的元素の量は、特性X線の強度をカウント数で表し、カウント数から濃度への一般的な変化は、目的元素の濃度が既知の標準試料で予め作成した検量線を用いて行った。本試験では、各試験片の分析面で分析を行い、各ピクセルの塩化物イオン濃度値を同一塩化物イオン浸透深さで平均することで濃度プロファイルを作成した。
試供体SF及び試供体NFから切り出した試験片SF及び試験片NFにおけるそれぞれの分析面写真と、各試験片(試験片SF、試験片NF及び試験片BL)における分析面の塩分浸透状況を
図1に示す。
SF試験片及びNF試験片における各分析面は、分析前に切断面に水を噴射してから写真撮影した。実施例1のコンクリート表面含浸材及び比較例1のコンクリート表面含浸材がそれぞれ含浸している様子が確認できる。
図1中の塩分浸透状況より、試供体SF及び試供体NFは、塩分が浸透していないのに対して、試供体BLは、塩分が深く浸透していることがわかる。
【0067】
さらに過酷な塩分環境を想定して、乾湿サイクル塩分浸透試験を行い、その塩分浸透抵抗性を検討した。
乾湿サイクル塩分浸透試験は,試供体SF、試供体NF及び試供体BLに対して、20℃の塩水に4日間浸漬してから40℃30%RHの恒温恒湿機で3日間乾燥させることを1サイクルとし、13サイクルの促進を実施した。
促進試験後の試供体SF、試供体NF及び試供体BLから、浸漬面40×10mm、深さ50mmとなるようにそれぞれ試験片を切り出し、試験片における50×40mmの面を分析面として、「EPMA法によるコンクリート中の元素の面分析方法(JSCE-G 574-2013)」に準じて分析面をEPMA分析した。
図2は、促進試験を13サイクル実施した後の、塩化物イオン浸透濃度のプロファイルを示すものである。
図2より、試験片SF及び試験片NFにおいては、深さ方向及び含浸面表面に塩化物イオンの存在が認められないことがわかる。
図2より、試験片BLは、表面の塩化物イオン濃度が1.0%程度であり、浸透深さが30mm程度であることがわかる。
図2より、本発明のコンクリート表面含浸材は、その撥水性により、浸漬面に塩分がつけにくく、含浸により形成された吸水抑制層により、水及び塩分の浸透が防がれていることが分かる。
これより、本発明の含フッ素シラン化合物又はその部分加水分解縮合物を含むコンクリート表面含浸材は,優れた塩分浸透抵抗性を有することがわかる。
【0068】
本発明のコンクリート表面含浸材を塗布した試験体は、吸水率試験、透湿度試験、促進耐候性(水接触角)、促進耐候性(24時間吸水後の表面含水率及び24時間吸水率)及び塩分浸透深さ試験のいずれにおいても優れた結果を示している。これより、本発明のコンクリート表面含浸材は、コンクリートの表面保護、コンクリート表面の美観性の維持、長期間にわたるコンクリート表面からの劣化因子侵入防止、コンクリート表面の耐候性向上に有用であることがわかる。