(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042326
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】多剤式毛髪処理剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20240321BHJP
A61K 8/65 20060101ALI20240321BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240321BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/65
A61K8/64
A61Q5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146972
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】595082283
【氏名又は名称】株式会社アリミノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富樫 孝幸
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB051
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC312
4C083AC581
4C083AC582
4C083AD411
4C083AD412
4C083AD431
4C083AD432
4C083AD441
4C083AD442
4C083BB53
4C083CC31
4C083DD06
4C083DD08
4C083DD27
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE21
4C083EE28
(57)【要約】
【課題】毛髪内部のα-ケラチンが形成する結晶構造、およびその周囲に存在するγ-ケラチンが形成する非晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善する、多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法を提供する。
【解決手段】A剤およびB剤を有する、多剤式毛髪処理剤であって、前記A剤が、A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%と、水(c)とを含むとともに、前記トリメチルグリシン(a)と前記水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6であり、前記B剤が、B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%と、水(c)とを含む、多剤式毛髪処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A剤およびB剤を有する、多剤式毛髪処理剤であって、
前記A剤が、A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%と、水(c)とを含むとともに、前記トリメチルグリシン(a)と前記水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6であり、
前記B剤が、B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%と、水(c)とを含む、多剤式毛髪処理剤。
【請求項2】
前記タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)が、ケラチン、加水分解ケラチン、加水分解コラーゲン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の多剤式毛髪処理剤。
【請求項3】
ローション状またはミスト状で毛髪に塗布する、請求項1または2に記載の多剤式毛髪処理剤。
【請求項4】
請求項1に記載のA剤およびB剤のいずれか一方の剤を毛髪に塗布する工程(I)、
前記工程(I)の後、前記A剤および前記B剤のうち、前記工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程(II)を有する、多剤式毛髪処理方法。
【請求項5】
前記工程(II)が、前記工程(I)の後、前記A剤および前記B剤のうち、前記工程(I)で使用した剤が塗布されたままの毛髪に、さらに前記工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程である、請求項4に記載の多剤式毛髪処理方法。
【請求項6】
前記工程(I)が、前記A剤を毛髪に塗布する工程であり、
前記工程(II)が、前記B剤を毛髪に塗布する工程である、請求項4または5に記載の多剤式毛髪処理方法。
【請求項7】
前記工程(I)が、前記B剤を毛髪に塗布する工程であり、
前記工程(II)が、前記A剤を毛髪に塗布する工程である、請求項4または5に記載の多剤式毛髪処理方法。
【請求項8】
前記工程(II)の後、毛髪をすすぐ工程(III)を有する、請求項4または5に記載の多剤式毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、毛髪にツヤ感、滑らかさ、保湿性等を付与する目的で、シャンプー、コンディショナー、整髪料、ヘアカラー剤やパーマネントウェーブ用剤等の毛髪処理剤にタンパク質加水分解物が配合されてきた(特許文献1)。
【0003】
特許文献1による技術では、分子量の大きいタンパク質加水分解物(分子量1000以上)を毛髪内部に浸透させることはできなかったため、タンパク質加水分解物を毛髪の表面に付着させる方法に留まっていた。毛髪の表面に付着したタンパク質加水分解物は、洗髪を繰り返すことによって洗い流されてしまうことから、その効果を充分に持続させることができないという問題があった。
【0004】
通常、タンパク質加水分解物が毛髪内部に浸透するのは、分子量が500程度までと考えられ、分子量が1000以上になると、浸透しにくくなることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
その後、分子量の大きいタンパク質加水分解物を毛髪内部に浸透させ、その効果を長時間持続させる技術が開発された。具体的には、チオグリコール酸などの還元剤により毛髪のジスルフィド結合を切断した後、少量の還元剤とタンパク質加水分解物を用いることで、タンパク質加水分解物を毛髪内部に浸透させ、次いで酸化剤によって、ジスルフィド結合を再形成させることにより、毛髪内部にタンパク質加水分解物を保持させる技術である(特許文献2)。
【0006】
さらに、本発明者は、タンパク質に含まれるアミノ酸の一種であるグリシン、およびトリメチルグリシンから選択される少なくとも1種の成分と、水とを所定量含む毛髪化粧料を用いることによって、化学的処理によるダメージを受けた毛髪のα-ケラチンが形成する結晶構造を修復し、毛髪の弾力感および指通りを改善する毛髪化粧料を開発した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol. 21, No. 2 1987
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60-243010号公報
【特許文献2】特開2012-171946号公報
【特許文献3】特願2021-168902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の技術では、毛髪を還元剤および酸化剤で処理するため、毛髪へのダメージがあった。また、特許文献2の技術は、タンパク質加水分解物を毛髪内部に浸透させることで、毛髪の柔らかさといった質感の改善は出来るものの、毛髪の構造を元の状態に近づけ修復するという点で十分ではなく、毛髪の滑らかさや弾力感は満足できる品質ではなかった。
【0010】
特許文献3の技術では、ダメージを受けた毛髪内部の結晶構造を形成するα-ケラチンが有するα-ヘリックス構造を修復するという点で優れており、弾力感および滑らかさを付与することができたが、本発明者は、さらに毛髪を修復する技術について検討を重ねた。
【0011】
本発明者は、特許文献3の技術を基に検討を重ねる中で、トリメチルグリシンは、水溶液中のタンパク質加水分解物、特に分子量の大きいタンパク質加水分解物(分子量1000以上)に作用して、毛髪内部および表面の構造も安定化させると考えた。
【0012】
さらに、本発明者は、トリメチルグリシンは、タンパク質およびタンパク質加水分解物(特に、ケラチンおよびケラチン誘導体)中の、α-ケラチンが形成するα-ヘリックス構造を増加させるだけでなく、γ-ケラチンが形成するランダムコイル構造も増加させることを見出した。つまり、本発明者は、トリメチルグリシンが、タンパク質およびタンパク質加水分解物中のα-ヘリックス構造およびランダムコイル構造といった、二次構造を増加させることに寄与することを見出した。
【0013】
そして、本発明者は、トリメチルグリシンとタンパク質およびタンパク質加水分解物、特に、トリメチルグリシンとケラチンおよび加水分解ケラチンとを組み合わせて毛髪に塗布する処理剤および処理方法の検討をきっかけに、予めトリメチルグリシンとタンパク質加水分解物とを混合した水溶液の毛髪処理剤では、毛髪の質感を改善する効果がなく、毛髪内部の結晶構造および非晶構造が増加しないことに気づいた。具体的には、予めトリメチルグリシンとタンパク質加水分解物とを混合した水溶液の毛髪処理剤を毛髪に適用しても、毛髪の滑らかさ、および弾力感の改善が見られず、後述する引張り試験によって得た初期弾性率の数値が増加しなかったことから、毛髪が修復されていないことがわかった。
【0014】
そこで、本発明者は、トリメチルグリシンとタンパク質およびタンパク質加水分解物とを混合した毛髪処理剤にせず、それぞれの成分を別々の剤に配合して、トリメチルグリシンとタンパク質およびタンパク質加水分解物とを、順次に毛髪に適用することで、毛髪内部の結晶構造および非晶構造が増加し、高い毛髪修復効果が得られることを見出した。
【0015】
このようなことから、本発明は、毛髪内部のα-ケラチンが形成する結晶構造、およびその周囲に存在するγ-ケラチンが形成する非晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善する、多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有する多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法は上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は、例えば以下の[1]~[8]である。
[1]A剤およびB剤を有する、多剤式毛髪処理剤であって、前記A剤が、A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%と、水(c)とを含むとともに、前記トリメチルグリシン(a)と前記水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6であり、前記B剤が、B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%と、水(c)とを含む、多剤式毛髪処理剤。
[2]前記タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)が、ケラチン、加水分解ケラチン、加水分解コラーゲン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の多剤式毛髪処理剤。
[3]ローション状またはミスト状で毛髪に塗布する、[1]または[2]に記載の多剤式毛髪処理剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のA剤およびB剤のいずれか一方の剤を毛髪に塗布する工程(I)、前記工程(I)の後、前記A剤および前記B剤のうち、前記工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程(II)を有する、多剤式毛髪処理方法。
[5]前記工程(II)が、前記工程(I)の後、前記A剤および前記B剤のうち、前記工程(I)で使用した剤が塗布されたままの毛髪に、さらに前記工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程である、[4]に記載の多剤式毛髪処理方法。
[6]前記工程(I)が、前記A剤を毛髪に塗布する工程であり、前記工程(II)が、前記B剤を毛髪に塗布する工程である、[4]または[5]に記載の多剤式毛髪処理方法。
[7]前記工程(I)が、前記B剤を毛髪に塗布する工程であり、前記工程(II)が、前記A剤を毛髪に塗布する工程である、[4]~[6]のいずれかに記載の多剤式毛髪処理方法。
[8]前記工程(II)の後、毛髪をすすぐ工程(III)を有する、[4]~[7]のいずれかに記載の多剤式毛髪処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、毛髪内部のα-ケラチンが形成する結晶構造、およびその周囲に存在するγ-ケラチンが形成する非晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善する、多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の多剤式毛髪処理剤および多剤式毛髪処理方法について具体的に説明する。
<多剤式毛髪処理剤>
本発明の多剤式毛髪処理剤は、A剤およびB剤を有し、前記A剤が、A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%と、水(c)とを含むとともに、前記トリメチルグリシン(a)と前記水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6であり、前記B剤が、B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%と、水(c)とを含む。
【0020】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、パーマ、ストレート、ブリーチ、またはカラーリング処理された後の毛髪に用いることが好ましい。
本発明の多剤式毛髪処理剤は、パーマ、ストレート、ブリーチ、またはカラーリング処理された後の毛髪に用いることによって、化学的処理によりダメージを受けた毛髪のα-ケラチンが形成するα-ヘリックス構造、α-ヘリックス構造の集合体であるミクロフィブリル(結晶構造)、ミクロフィブリルの周囲に存在するγ-ケラチンが形成するランダムコイル構造、およびランダムコイル構造の集合体であるマトリックス(非晶構造)を修復し、毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を回復させる傾向がある。
【0021】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、A剤およびB剤を有していればよく、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント等の別の剤を有していてもよい。
【0022】
なお、本発明において、毛髪内部とは、メデュラおよびコルテックスを指す。また、毛髪表面とは、キューティクルを指す。
本発明において、α-ヘリックス構造およびランダムコイル構造をまとめて、二次構造とも称す。
【0023】
本発明において、毛髪のα-ケラチンが形成するα-ヘリックス構造が規則正しく並んだ集合体であるミクロフィブリルを、単に結晶構造とも称す。また、γ-ケラチンが形成するランダムコイル構造の集合体であるマトリックスを、単に非晶構造とも称す。
【0024】
<A剤>
本発明の多剤式毛髪処理剤は、A剤を有する。
A剤は、前記A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%と、水(c)とを含むとともに、前記トリメチルグリシン(a)と前記水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6である。
【0025】
A剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、後述するその他成分を含んでいてもよい。
その他成分としては、例えば、保湿剤としてプロピレングリコール、安定化剤および溶剤としてエタノール、pH調整剤としてクエン酸、防腐剤として安息香酸ナトリウム、溶剤として、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリン等のポリオールが挙げられる。
A剤は、25℃におけるpHが好ましくは4~8.5である。pHが前記範囲内にあると、剤が安定であることから好ましい。
【0026】
〔トリメチルグリシン(a)〕
本発明の多剤式毛髪処理剤はA剤を有し、前記A剤が、A剤100質量%中に、トリメチルグリシン(a)を20~60質量%、好ましくは40~60質量%、より好ましくは50~60質量%含む。
【0027】
A剤が、トリメチルグリシン(a)を含むことにより、ダメージを受けた毛髪の滑らかさおよび弾力感を良好にする傾向があるため好ましい。また、後述するB剤と併せて用いることにより、毛髪内部の結晶構造や非晶構造の相乗的な修復効果が得られるため、好ましい。
【0028】
トリメチルグリシン(a)が前記下限量より少ないと、毛髪の弾力感が乏しく、滑らかではない場合がある。また、トリメチルグリシン(a)が前記上限量より多いと、溶解しない、または析出が生じやすくなり、剤型を安定に保ちにくい場合がある。
【0029】
トリメチルグリシン(a)は、トリメチルアンモニオアセテート、1-カルボキシ-N,N,N-トリメチルメタンアミニウム、またはグリシンベタインとも呼ばれ、分子内塩の一種である。トリメチルグリシン(a)は、自然界においては植物や甲殻類をはじめ、海産物中に広く存在している。
【0030】
トリメチルグリシン(a)は、純度が高い場合では、白色の結晶性化合物であり、水、およびメタノール、エタノール等の低級アルコールに容易に溶解する性質がある。
本発明において、トリメチルグリシン(a)は、例えば、無水物、一水和物、または塩として使用されてもよく、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明において、トリメチルグリシン(a)は、水に溶けやすく安定なことが好ましいため、水溶液として用いることが好ましい。
トリメチルグリシン(a)としては、例えば、旭化成ファインケム株式会社「アミノコート」を使用することができる。
【0032】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、A剤において、トリメチルグリシン(a)と後述する水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6、好ましくは1:1.5~1:0.6、より好ましくは1:1~1:0.6である。
【0033】
トリメチルグリシン(a)と水(c)との質量比(a:c)が上記の範囲内であると、毛髪内部の結晶構造を修復する効果が得られる。また、後述するB剤と併せて用いることにより、毛髪内部の結晶構造および非晶構造の相乗的な修復効果が得られるため、好ましい。上記の範囲外であると、トリメチルグリシン(a)が析出する場合がある。
【0034】
〔水(c)〕
本発明の多剤式毛髪処理剤は、A剤を有し、前記A剤が、A剤100質量%中に、水(c)を含むとともに、上述したトリメチルグリシン(a)と水(c)との質量比(a:c)が1:4~1:0.6である。
A剤は、水(c)を含むことにより、毛髪へのなじみの良さや浸透性が高まることから好ましい。
【0035】
A剤において、水(c)の量は、トリメチルグリシン(a)の量により変動するが、好ましくは35~80質量%、より好ましくは35~60質量%、さらに好ましくは35~50質量%である。
A剤、および後述するB剤において、水(c)としては、例えば、イオン交換水を使用することができる。
【0036】
<B剤>
本発明の多剤式毛髪処理剤は、B剤を有する。
B剤は、前記B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%と、水(c)とを含む。
B剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、後述するその他成分を含んでいてもよい。
その他成分としては、例えば、香料、防腐剤としてフェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
〔タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)〕
本発明の多剤式毛髪処理剤は、B剤を有し、前記B剤が、B剤100質量%中に、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を0.05~5質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~5質量%含む。
【0038】
本発明において、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)は、成分(b)とも称す。
本発明において、成分(b)は、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ならびにそれらの誘導体であれば特に限定されない。
【0039】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、B剤において、成分(b)を含むことにより、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善する。さらに、毛髪の初期弾性率、変性エンタルピーおよび変性温度を向上させる傾向があるため好ましい。
【0040】
成分(b)が前記下限量より少ないと、毛髪の弾力感およびしっとり感が乏しく、滑らかではない場合がある。また、成分(b)が前記上限量より多いと、ごわつき、べたつきが生じる場合がある。
【0041】
成分(b)としては、ケラチン;γ―ケラチン由来の加水分解ケラチン(平均分子量30,000)、アルキルカチオン化したα―ケラチン由来の加水分解ケラチン(平均分子量35,000)等の加水分解ケラチン;コラーゲン;加水分解コラーゲン;シルク、フェザー、カゼイン、ダイズ、ゴマ、エンドウおよびコメ等を由来とするタンパク質;が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、成分(b)が、ケラチン、加水分解ケラチン、加水分解コラーゲン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ケラチン、加水分解ケラチン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることが、毛髪の結晶構造および非晶構造を修復する効果を示すことからより好ましく、ケラチンおよび加水分解ケラチンがさらに好ましい。
【0043】
成分(b)が、ケラチン、加水分解ケラチン、およびそれらの誘導体である場合は、タンパク質二次構造であるα-ヘリックス構造、およびランダムコイル構造を有することが、毛髪の結晶構造および非晶構造を修復する効果の観点からより好ましい。具体的には、ケラチン(平均分子量50000)、および加水分解ケラチン(平均分子量30000)が好ましい。
【0044】
本発明において、ケラチンとは、繊維状タンパク質を指す。ケラチンは、原料となる羽毛、羊毛、毛等を有機溶媒、熱水、および酵素処理等して、原料に共存する他のタンパク質を分解除去したケラチンを使用することが好ましい。また、本発明において、ケラチンには、加水分解ケラチンは含まれない。
【0045】
本発明において、加水分解ケラチンとは、羊毛等由来のケラチンを酸、アルカリ、酵素のそれぞれ単独あるいは組み合わせにより加水分解し、水溶性にしたものを指す。
本発明において、加水分解コラーゲンとは、牛または豚の骨、皮を、酸、アルカリ、酵素のそれぞれ単独あるいは組み合わせにより加水分解して得られる、コラーゲンタンパク質加水分解物の水溶液を指す。
【0046】
本発明において、タンパク質およびタンパク質加水分解物の誘導体とは、カチオン化、シリル化、カルボキシメチル化等により、タンパク質およびタンパク質加水分解物を化学修飾したものを指す。
【0047】
前記誘導体としては、例えば、カチオン化された加水分解ケラチンである、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチン;カルボキシル化された変性ペプチド(なお、前記変性ペプチドの詳細は、特開2012-121831号公報に記載されている);α-ケラチンをメルカプトカルボン酸塩により還元し、更に酸化して得られたカルボキシル基導入可溶性ケラチン(なお、前記カルボキシル基導入可溶性ケラチンの詳細は、特開2010-132595号公報に記載されている);が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、弾力感やしっとり感に優れることから、タンパク質およびタンパク質加水分解物の誘導体が、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチンであることが好ましい。
【0049】
成分(b)の平均分子量は特に限定されないが、例えば、成分(b)の平均分子量が、好ましくは500~50000、より好ましくは1000~50000、さらに好ましくは10000~50000、最も好ましくは30000~50000である。
【0050】
本発明において、成分(b)の平均分子量が10000~50000であると、毛髪表面の損傷の修復だけでなく、修復効果の持続性も期待できるため好ましい。さらに、A剤をとの多剤式処理により、毛髪内部の損傷修復効果も期待できることから、好ましい。
【0051】
成分(b)として、ケラチンを用いる場合には、平均分子量が好ましくは30000~50000である。
成分(b)として、加水分解ケラチンを用いる場合には、平均分子量が好ましくは1000~40000、より好ましくは10000~35000、さらに好ましくは25000~35000である。
成分(b)として、ケラチンおよび加水分解ケラチンを併用することが好ましい。
【0052】
成分(b)の市販品としては、例えば、KERATEC IFP-HMW(クローダジャパン社製)、プロティキュートHガンマ(一丸ファルコス社製)、プロモイスKR-30(成和化成社製)、プロティキュートCガンマ(一丸ファルコス社製)が挙げられる。
成分(b)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明者は、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)と上述したトリメチルグリシン(a)との何らかの相互作用によって、ダメージを受けた毛髪に成分(b)が浸透しやすくなり、定着しやすくなると考えている。また、毛髪表面および内部において、毛髪の構造を元の状態に近づける作用が高まるため、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感が改善すると考えている。
【0054】
より詳細には、タンパク質およびタンパク質加水分解物(b)は、B剤中で親水的な構造をとって周囲の水と結合して水に溶解しているが、A剤およびB剤を毛髪に塗布した際、毛髪表面および内部で、A剤中のトリメチルグリシンが何らかの作用をすることにより、成分(b)に構造変化が生じ、コンパクトな構造になると、本発明者は推察している。そして、本発明者は、コンパクトな構造に変化した成分(b)が、分子量が大きくても毛髪表面および内部にまで浸透でき、毛髪を構成するタンパク質自体の構造変化も促進することで、質感や初期弾性率等を大幅に改善すると推察している。このように、本発明者は、毛髪表面および内部で成分(b)の構造変化が生じてコンパクトになることが、ダメージを受けた毛髪の修復に重要であると推察している。
【0055】
<α-ケラチン>
α-ケラチンは、α-ヘリックス構造を含む繊維状の構造を有し、繊維状ケラチンとも呼ばれ、毛髪繊維軸方向に規則正しく並んで集合体を形成することによりミクロフィブリル(結晶構造)を形成している。
α-ケラチンは、パーマ、ストレート、ブリーチ、またはカラーリング処理等の化学的処理によって化学反応を受け、その結晶構造が変形してしまう。
【0056】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、α-ケラチンが形成する結晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善することができる。
本発明者は、具体的には、A剤中のトリメチルグリシン(a)が主に関与して結晶構造を修復し、B剤中のタンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を用いることで、相乗的な修復効果が得られると考察している。
【0057】
α-ケラチンの結晶構造の変形については、後述の空中引張り試験および高圧示差走査熱量測定の変性エンタルピー等で評価することができる。
【0058】
<γ-ケラチン>
γ-ケラチンは、ランダムコイル構造の集合体であるマトリックス(非晶構造)を構成している。
【0059】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、γ-ケラチンが形成する非晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の弾力感および指通りを改善することができる。
本発明者は、具体的には、A剤中のトリメチルグリシン(a)が主に関与して非晶構造を修復し、B剤中のタンパク質およびタンパク質加水分解物(b)を用いることで、相乗的な修復効果が得られると考察している。
【0060】
γ-ケラチンの非晶構造の変形については、後述の空中引張り試験および高圧示差走査熱量測定の変性温度等で評価することができる。
【0061】
《その他成分》
本発明の多剤式毛髪処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分以外に任意の成分を含有することができる。任意の成分としては、例えば、保湿剤、生薬類、キレート剤、防腐剤、酸化防止剤、清涼剤、帯電防止剤、ビタミン類、香料、抗菌剤、増粘剤、乳化剤、乳化安定剤、界面活性剤、高級アルコール、シリコーン類、油剤、溶剤、および色素が挙げられる。
【0062】
《製法等》
本発明の多剤式毛髪処理剤は、上述した各成分を上述の量で使用する以外は、例えば公知の方法で、撹拌、混合、加熱、溶解、分散等することによって製造することができ、製造方法は特に限定されない。製造方法としては各成分を均一に混合するために、加熱条件下で行ってもよい。加熱条件下で製造する場合の温度としては、例えば40~60℃が挙げられる。
【0063】
《剤型》
本発明の多剤式毛髪処理剤において、A剤およびB剤の状態としては、例えば、ローション状(液状)、クリーム状、ミルク状、ジェル状、ミスト状、スプレー状、フォーム状が挙げられる。これらの中でも、毛髪へのなじみやすさやおよび剤としての安定性の観点から、A剤およびB剤の状態としては、ローション状、ミスト状が好ましい。
【0064】
本発明の多剤式毛髪処理剤の外観は、例えば、透明または不透明な外観が挙げられる。本発明の多剤式毛髪処理剤の各種配合成分を均一に混合する観点から、透明な外観であることが好ましい。
【0065】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、透明なローション状であることがより好ましい。
本発明の多剤式毛髪処理剤は、製剤としての安定性の観点から、剤型が非乳化型であることが好ましい。
【0066】
<多剤式毛髪処理方法>
本発明の多剤式毛髪処理方法は、上述のA剤およびB剤のいずれか一方の剤を毛髪に塗布する工程(I)、前記工程(I)の後、前記A剤および前記B剤のうち、前記工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程(II)を有する。
【0067】
本発明の多剤式毛髪処理方法は、工程(II)が、工程(I)の後、上述のA剤およびB剤のうち、工程(I)で使用した剤が塗布されたままの毛髪に、さらに工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程であることが好ましい。
【0068】
本発明の多剤式毛髪処理方法は、具体的には、工程(I)が、A剤を毛髪に塗布する工程であり、前記工程(II)が、B剤を毛髪に塗布する工程であることが好ましい。また、工程(I)が、B剤を毛髪に塗布する工程であり、前記工程(II)が、A剤を毛髪に塗布する工程であってもよい。
【0069】
工程(I)は、毛髪の状態は特に制限されないが、濡れた毛髪に塗布することが好ましい。
工程(II)は、工程(I)の後、上述のA剤およびB剤のうち、工程(I)で使用した剤が塗布されたままの毛髪を好ましくは5~40分、より好ましくは10~30分放置した後、さらに工程(I)で使用しなかった他方の剤を毛髪に塗布する工程であることが、毛髪内部の結晶構造および非晶構造を修復する観点からさらに好ましい。
【0070】
本発明の多剤式毛髪処理方法は、工程(I)でA剤を毛髪に塗布した場合、工程(II)が、工程(I)の後、A剤が塗布されたままの毛髪に、さらにB剤を毛髪に塗布する工程であることが好ましい。また、工程(I)でB剤を毛髪に塗布した場合、工程(II)が、工程(I)の後、B剤が塗布されたままの毛髪に、さらにA剤を毛髪に塗布する工程であってもよい。
本発明の多剤式毛髪処理方法は、工程(II)の後、毛髪をすすぐ工程(III)を有することが好ましい。
【0071】
本発明の多剤式毛髪処理方法において、本発明者は、毛髪内部の結晶構造および非晶構造の修復に主に関与するA剤中のトリメチルグリシン(a)が毛髪内部に充分に浸透した後、B剤中のタンパク質およびタンパク質加水分解物(b)が浸透することで、毛髪内部の二次構造がより効率的に修復されると考える。そのため、A剤を毛髪に塗布する工程(I)、前記工程(I)の後、A剤が塗布されたままの毛髪に、さらにB剤を毛髪に塗布する工程(II)、工程(II)の後、毛髪をすすぐ工程(III)を有することが、特に好ましい。
【0072】
《使用方法》
本発明の多剤式毛髪処理剤において、A剤およびB剤は、例えば、ローション状、ミスト状、スプレー、フォーム状またはクリーム状で毛髪に塗布して使用することができ、毛髪へのなじみやすさやおよび剤としての安定性の観点から、ローション状またはミスト状で毛髪に塗布することが好ましい
本発明の多剤式毛髪処理剤は、用途について特に制限なく用いることができる。
【0073】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、例えば、パーマ、ストレート、ブリーチ、またはカラーリング処理された後の毛髪に用いることができ、シャンプー、トリートメント等の毛髪洗浄剤とともに用いることもできる。
本発明の多剤式毛髪処理剤は、洗い流さない場合、仕上がりの毛髪にべたつきやごわつきを感じる可能性があることから、洗い流すトリートメントに用いられることが好ましい。
【0074】
本発明の多剤式毛髪処理剤は、毛髪が乾燥している状態でも、濡れている状態でも特に制限なく使用することができるが、本発明における多剤式毛髪処理剤は、毛髪が乾燥している状態で塗布した場合、塗布ムラが生じる可能性があることから、毛髪が濡れている状態で塗布して使用することが好ましい。
【0075】
〔引張り試験〕
引張り試験は、毛髪を一定の荷重で引張った際の初期弾性率や応力を測定する試験であり、空中で行う場合(空中引張り試験)と、水中で行う場合(水中引張り試験)がある。
【0076】
空中引張り試験では、α-ケラチンが形成する結晶構造からの初期弾性率や応力への寄与、および結晶構造の周囲に存在するγーケラチンが形成する非晶構造からの寄与が確認できることが知られている。
【0077】
水中引張り試験では、水の影響によりγーケラチンが形成する非晶構造からの初期弾性率や応力の寄与が大幅に小さくなる。そのため、フック領域と呼ばれる伸長率約0~2%の範囲で得られる初期弾性率として、α-ケラチンが形成する結晶構造の変形への寄与が確認できることが知られている。
【0078】
本発明では、後述の実施例において、空中引張り試験を行っている。ダメージを受けた毛髪を用いて、本発明の多剤式毛髪処理剤で処理する前と後の初期弾性率を測定することにより、結晶構造の変形を修復する効果と、結晶構造を周囲から支える非晶構造を修復する効果との両方の効果を確認することができる。
なお、当該試験については、M. Feughelman et al / Textile Research Journal,41, p. 469-474 (1971) に詳細が記載されている。
【0079】
〔高圧示差走査熱量測定〕
高圧示差走査熱量測定では、毛髪の熱変性がもたらすα-ケラチンが形成する結晶構造の融解のエンタルピー変化を、変性エンタルピーとして測定することができる。また、毛髪の変性温度を測定することもできる。
【0080】
本発明では、後述の実施例において、高圧示差走査熱量測定を行っている。ダメージを受けた毛髪を用いて、本発明の多剤式毛髪処理剤で処理する前と後の変性エンタルピーを測定することにより、α-ケラチンが形成する結晶構造を修復する効果を評価できる。
【0081】
結晶構造の変性温度は、γ-ケラチン間およびγ-ケラチン内に密に形成される架橋結合(S-S結合)の密度および構造完全性と関係することから、本発明の多剤式毛髪処理剤で処理する前と後の変性温度を測定することにより、非晶構造を修復する効果について評価できる。
なお、当該試験については、F.J. Wortmann et al / Journal of Cosmetic Science, 53, p. 219-228 (2002) に詳細が記載されている。
【0082】
空中引張り試験および高圧示差走査熱量測定では、毛髪内部の結晶構造および非晶構造を修復する効果が確認できることから、α-ケラチンが形成するα-ヘリックス構造、およびγーケラチンが形成するランダムコイル構造についても修復する効果があると推察できる。
【実施例0083】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0084】
<実施例1~176、比較例1~34>
実施例および比較例では、表1に記載の市販品を使用した。
【0085】
【0086】
表3および表4に示す処方で各成分を混合することにより、多剤式毛髪処理剤のA剤およびB剤を製造した。A剤の25℃におけるpHは4~8.5であった。
なお、表3の処方の数値は、A剤を100質量%とした場合の、各成分の質量%を表しており、純分換算した値を示す。また、表4の処方の数値は、B剤を100質量%とした場合の、各成分の質量%を表しており、純分換算した値を示す。
【0087】
製造したA剤およびB剤を、後述のダメージ処理した毛束に表5~表18に示す順序で塗布し、(1)~(3)の官能評価、(4)~(5)の物性評価を行った。
表5~表18において、表中の「○」は毛束に塗布する処方例を示し、「○」の中の数値は、毛束に塗布する順番を示す。また、表中の「-」は毛束に塗布していないことを示す。
例えば、表5の実施例1は、A剤の処方例1を毛束に塗布した後、続けて、B剤の処方例1を毛束に塗布したことを示す。
【0088】
表11の実施例89は、B剤の処方例1を毛束に塗布した後、続けて、A剤の処方例1を毛束に塗布したことを示す。
【0089】
表17の比較例1は、A剤の処方例4を毛束に塗布した後、B剤は毛束に塗布しなかったことを示し、比較例2は、B剤の処方例15を毛束に塗布した後、A剤は毛束に塗布しなかったことを示す。
【0090】
なお、表10の実施例88は、A剤の処方例8を毛束に塗布した後、30℃程度のお湯で1分間毛束をすすぎ、タオルドライ後、B剤の処方例15を塗布したことを示す。
(1)~(5)の結果は、表5~表18に示す。
【0091】
〔毛束の作製〕
同一人物由来の人毛黒髪(製品名BS-PG、ビューラックス社製、約60cm、100g)から毛束(0.4g)を複数作製した。作製した毛束の全てをラウレス硫酸ナトリウム10%水溶液で洗浄し、自然乾燥させた。
【0092】
〔ダメージ処理〕
あらかじめ一般人の毛髪のダメージを再現するために、上記の毛束のダメージ処理を行った。
毛束を、パーマネントウェーブ処理剤第1剤である、デザインディレクト フォーウエーブ 200(株式会社アリミノ製)40gに、30℃で15分間浸漬し、その後、流水ですすいだ。すすいだ毛束を、パーマネントウェーブ処理剤第2剤である、デザインディレクト フォーウエーブ チオ/シスチオOX 2剤(株式会社アリミノ製)40gに、30℃で7分間浸漬し、その後、流水ですすいだ。
【0093】
すすいだ毛束を、シェルパ デザインサプリ D-1シャンプー(株式会社アリミノ製)1.5gを用いてシャンプーした。シャンプー後の毛束を、流水ですすぎ、ドライヤーで乾燥させた。
この一連のダメージ処理を二回繰り返して行い、ダメージ毛束を作製した。
ここで、ダメージ毛束を一つ採取して対照とした。
【0094】
〔官能評価〕
表5~表18に示す順序で、製造したA剤およびB剤を毛束に塗布し、以下の方法で評価した。
ダメージ毛束を30℃程度のお湯で濡らした後、濡らした毛束を、先に毛髪に塗布する剤(A剤およびB剤のいずれか一方の剤)20gに、35℃で20分間浸漬した。その後、続けて、後に毛髪に塗布する剤(A剤およびB剤のうち、使用しなかった他方の剤)20gに、35℃で20分間浸漬した。その後、30℃程度のお湯で1分間すすぎ、タオルドライ後、ドライヤーで乾燥させ、仕上げた。
【0095】
仕上げたそれぞれの毛束について、(1)~(3)の評価項目に従って官能評価を行った。
本発明においては、(1)~(3)の評価項目の評価結果が〇または◎であったものを実施例とした。
【0096】
官能評価は、専門パネラー(美容師)10人が1人ずつ評価を行った。評価は評価項目ごとに記載した下記の評価基準による10人の平均点を算出し、平均点に基づいて以下のとおり評価した。
【0097】
◎:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が3.5点以上である。
○:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が2.5点以上3.5点未満である。
△:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点以上2.5点未満である。
×:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点未満である。
【0098】
(1)滑らかさ
毛束に指を通した時の指通りについて、触感で評価した。
4点:毛髪が全くひっかからず、非常に滑らかである
3点:毛髪があまりひっかからず、滑らかである
2点:毛髪がひっかかり、滑らかではない
1点:毛髪が非常にひっかかり、滑らかではない
【0099】
(2)しっとり感
毛束を手で触ったときの潤った感じをしっとり感とし、しっとり感を評価した。
4点:毛髪がとても潤っており、非常にしっとり感がある
3点:毛髪がやや潤っており、しっとり感がある
2点:毛髪が少しパサつき、あまりしっとり感がない
1点:毛髪がパサつき、しっとり感がない
【0100】
(3)弾力感
毛束を曲げたときにかかる指への応力を弾力感とし、弾力感を評価した。
4点:指へかかる応力が非常に強く、弾力感に富む
3点:指にかかる応力が強く、弾力感がある
2点:指にかかる応力が弱く、弾力感に乏しい
1点:指にかかる応力が無く、弾力感が無い
【0101】
〔物性評価〕
(4)引張り試験(空中引張り試験)
ダメージ毛束(対照)、表5~表18に示す順序で処理した処理毛、それぞれについて、各毛束から無作為に30本の毛髪を採取した。採取した毛髪を1本ごとに毛髪直径測定器(製品名SK2000、カトーテック株式会社製)を用いて、20℃、60%RH条件下で、精密に毛髪の短径と長径を測定し、楕円と近似して毛髪断面積を求めた。
【0102】
次いで、引張り破断試験機(製品名KES-G1-SH、カトーテック株式会社製)を用いて、毛髪の初期弾性率を測定した。
ダメージ毛束(対照)、表5~表18に示す順序で処理した処理毛、それぞれについて、各毛束から無作為に30本の毛髪を採取した。採取した30本の毛髪のうちの1本を、引張り治具に初期長20mmとして設置した。その後、空中20℃、60%RHの条件下で、2mm/minの速度で、破壊が生じるまで引っ張った。治具はコンピュータ制御下で操作され、それぞれの毛髪に関して、伸長に対して加えられた負荷を記録した。
【0103】
伸長に対して加えられた負荷を、毛髪の断面積で割ることで、単位面積当たりの応力(×10-7N/m2)に変換した。さらに、伸長初期の傾き、いわゆるフック領域の傾きを算出し、この値を初期弾性率(×10-9N/m2)とし、30本の平均値を求めた。
【0104】
初期弾性率の数値が大きい程、毛髪の結晶構造および非晶構造が毛髪本来の構造に近い状態であることを意味する。
なお、上述の試験は、M. Feughelman et al / Textile Research Journal, 41, p. 469-474 (1971) に記載されている試験と同様に行った。
【0105】
(5)高圧示差走査熱量測定
ダメージ毛束(対照)、表5~表18に示す順序で処理した処理毛、それぞれについて、各毛束から無作為に5mgの毛髪を採取して細断した。細断した毛髪5mgおよび蒸留水10μLをステンレス製密封試料容器に入れ、密封し、サンプルとした。また、蒸留水10μLのみをステンレス製密封試料容器に入れ、密封し、参照用とした。これらを高圧示差走査熱量計(HPDSC)(日立ハイテクサイエンス社製:DSC7020)に供した。
【0106】
乾燥空気パージ下、30℃で平衡化した後、10℃/minの速度で、190℃まで昇温させ、変性エンタルピーを測定した。各サンプルについて3回分析を行った。
得られた分析結果については、日立ハイテクサイエンス社熱分析ソフトウェア(Software for NEXTA)を用いて解析を行い、変性エンタルピー(J/g)の値および変性温度(℃)を得た。
【0107】
変性エンタルピーの値が大きいほど、α-ケラチンが形成する結晶構造の量が多い、または結晶性が高いことを意味し、変性エンタルピーが9J/g以上であると、α-ケラチンが形成する結晶構造が修復されたことを意味する。
【0108】
一方、変性温度が高いほど、α―ケラチンを周囲から支持するγ-ケラチンが形成する非晶構造中の架橋構造の密度が高い、または構造完全性が高いことを意味し、変性温度が140℃以上であると、非晶構造が修復されたことを意味する。
なお、上述の測定は、F. -J. Wortmann et al / Journal of Cosmetic Science, 53, p. 219-228 (2002) に記載されている試験と同様に行った。
【0109】
〔物性評価の基準〕
引張り試験により得られた初期弾性率(×10-9N/m2)、高圧示差走査熱量測定により得られた変性エンタルピー(J/g)、および変性温度(℃)から、毛髪の結晶構造および非晶構造を修復する効果について、下記の通り評価した。
【0110】
【0111】
なお、対照としたダメージ毛束では、初期弾性率は0.79×10-9N/m2、変性エンタルピーの値は8.9J/g、変性温度は、138℃であった。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
実施例1~176で製造した多剤式毛髪処理剤は、官能評価および物性評価において良好な結果となった。
本発明の多剤式毛髪処理剤、および多剤式毛髪処理方法によれば、毛髪内部のα-ケラチンが形成する結晶構造、およびその周囲に存在するγ-ケラチンが形成する非晶構造を修復し、ダメージを受けた毛髪の滑らかさ、しっとり感、および弾力感を改善したことがわかる。
【0129】
比較例1で製造した多剤式毛髪処理剤は、A剤のみであったため、しっとり感が充分ではなかった。
比較例2で製造した多剤式毛髪処理剤は、B剤のみであったため、しっとり感および弾力感が充分ではなかった。
【0130】
比較例3で製造した多剤式毛髪処理剤は、A剤の規定を満たしておらず、かつ、A剤のみであったため、毛髪がパサつき、しっとり感がなく、滑らかさおよび弾力感も充分ではなかった。
比較例4で製造した多剤式毛髪処理剤は、B剤の規定を満たしておらず、かつ、B剤のみであったため、滑らかさおよびしっとり感が充分ではなかった。
【0131】
比較例5、6、9、10で製造した多剤式毛髪処理剤は、B剤の規定は満たしているが、A剤の規定は満たしていなかったため、しっとり感および弾力感が充分ではなかった。
比較例7、8、11、12で製造した多剤式毛髪処理剤は、B剤の規定は満たしているが、A剤の規定は満たしていなかったため、A剤が溶解しない、または析出してしまい、実施できなかった。
【0132】
比較例13~18で製造した多剤式毛髪処理剤は、A剤の規定は満たしているが、B剤の規定は満たしていなかったため、しっとり感が充分ではなかった。
比較例19、20、23、24、27、28、31、32で製造した多剤式毛髪処理剤は、A剤およびB剤の規定を満たしていなかったため、滑らかさおよびしっとり感が充分ではなかった。
【0133】
比較例21、22、25、26、29、30、33、34で製造した多剤式毛髪処理剤は、A剤およびB剤の規定を満たしていなかったため、A剤が溶解しない、または析出してしまい、実施できなかった。