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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042358
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/06 20060101AFI20240321BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240321BHJP
   C23C 4/02 20060101ALI20240321BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20240321BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20240321BHJP
【FI】
B05D3/06 Z
B05D7/14 N
B05D7/14 S
C23C4/02
B23K26/352
B23K26/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147020
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】512047483
【氏名又は名称】株式会社新免鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】新免 謙一
(72)【発明者】
【氏名】平永 宏二
【テーマコード(参考)】
4D075
4E168
4K031
【Fターム(参考)】
4D075BB20X
4D075BB23X
4D075BB48X
4D075BB53X
4D075BB65
4D075BB92X
4D075BB94X
4D075CA47
4D075DA27
4D075DB02
4D075DC05
4E168AB01
4E168CB08
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA17
4E168EA24
4E168FC04
4E168JA02
4K031AA05
4K031BA01
4K031BA04
4K031BA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋼構造物の表面に付着する表面付着層を効率よく除去し、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与する表面処理方法を提供する。
【解決手段】鋼構造物の表面処理方法であって、鋼構造物の表面に付着する表面付着層の一部を除去する補助除去工程、前記表面付着層の一部が除去された前記鋼構造物の表面にレーザー光を照射して残存する表面付着層を除去する第1レーザー照射工程を有する付着層除去工程、前記工程における受熱により鋼構造物の表面に形成される酸化被膜層を除去する第2レーザー照射工程、前記付着層除去工程は、補助除去工程後における表面付着層の膜厚を計測する膜厚計測工程を備えており、前記第1レーザー照射工程は、表面付着層の膜厚が100μm以下である際に実施され、表面付着層を除去して鋼構造物の素地を露出させるともに、素地表面に所定の表面粗さを付与する工程であることを特徴とする表面処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の表面処理を行う表面処理方法であって、
前記鋼構造物の表面に付着する表面付着層の一部を除去する補助除去工程、及び、前記表面付着層の一部が除去された前記鋼構造物の表面にレーザー光を照射して残存する表面付着層を除去する第1レーザー照射工程を有する付着層除去工程と、
前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー出力よりも低いレーザー出力にて前記鋼構造物の表面を照射することにより、前記第1レーザー照射工程における受熱によって前記鋼構造物の表面に形成される酸化被膜層を除去する第2レーザー照射工程とを備え、
前記付着層除去工程は、前記補助除去工程後における前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層の膜厚を計測する膜厚計測工程を備えており、
前記第1レーザー照射工程は、前記膜厚計測工程によって計測される前記表面付着層の膜厚が100μm以下である際に実施され、前記表面付着層を除去して前記鋼構造物の素地を露出させるともに、前記鋼構造物の素地表面に所定の表面粗さを付与する工程であることを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記第1レーザー照射工程において、前記鋼構造物の素地表面の表面粗さRaを5μm以上、かつ、表面粗さRzを30μm以上の範囲に調整する請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー照射条件は、レーザー出力が、1500W以上2500W以下、レーザー光送り速度が、800mm/秒以上1500mm/秒以下、レーザー光スポット径が、1.0mm以下、レーザー光の焦点距離が200mm以上700mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記膜厚計測工程により計測された前記表面付着層の膜厚寸法、および、前記表面付着層に含まれる付着物質の種類に応じて、第1レーザー照射工程におけるレーザー照射条件を選定する照射条件選定工程を備えることを特徴とする請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記第2レーザー照射工程において照射されるレーザー光のレーザー出力は、 前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー光のレーザー出力の0.1倍以下であることを特徴とする請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー光は、CWレーザーであり、前記第2レーザー照射工程に照射されるレーザー光は、1回の照射時間が10マイクロ秒以下のパルスレーザーであることを特徴とする請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記補助除去工程は、前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層を剥離剤を用いて、或いは、前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層を加熱して溶融させることにより、又は、レーザー光を照射することにより該表面付着層の少なくとも一部を除去する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理方法に関する。特に、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与する表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋梁や鉄塔、プラント、タンク、機械部品等の鋼を用いて構成される様々な鋼構造物が知られている。これら鋼構造物には、防触等の目的や補強の目的等から鋼構造物の表面に塗装や溶射等が行われる。このような鋼構造物の補修を行う場合、鋼構造物の表面に付着する塗装層や溶射層を除去したのち、補修を行い、再度新たな塗装や溶射が行なわれることになるが、新たに形成される塗装層や溶射層と、鋼構造物の素地表面との密着性を高める必要性から鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与することが求められる。所望の表面粗さを付与するため、従来は、ブラスト処理が施されるのが一般的であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このブラスト処理を行うには、環境への配慮のため、鋼構造物に養生を施こして、ブラストに使用される研磨材が飛び散らないようにする必要があり、また、機材が大がかりになってしまい、小規模の補修で適用することが難しいという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題を解決すべくなされたものであり、より簡便に、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を効率よく除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与することができる表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の前記目的は、鋼構造物の表面処理を行う表面処理方法であって、前記鋼構造物の表面に付着する表面付着層の一部を除去する補助除去工程、及び、前記表面付着層の一部が除去された前記鋼構造物の表面にレーザー光を照射して残存する表面付着層を除去する第1レーザー照射工程を有する付着層除去工程と、前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー出力よりも低いレーザー出力にて前記鋼構造物の表面を照射することにより、前記第1レーザー照射工程における受熱によって前記鋼構造物の表面に形成される酸化被膜層を除去する第2レーザー照射工程とを備え、前記付着層除去工程は、前記補助除去工程後における前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層の膜厚を計測する膜厚計測工程を備えており、前記第1レーザー照射工程は、前記膜厚計測工程によって計測される前記表面付着層の膜厚が100μm以下である際に実施され、前記表面付着層を除去して前記鋼構造物の素地を露出させるともに、前記鋼構造物の素地表面に所定の表面粗さを付与する工程であることを特徴とする表面処理方法により達成される。
【0006】
また、上記表面処理方法に関し、前記第1レーザー照射工程において、前記鋼構造物の素地表面の表面粗さRaを5μm以上、かつ、表面粗さRzを30μm以上の範囲に調整されることが好ましい。
【0007】
また、前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー照射条件は、レーザー出力が、1500W以上2500W以下、レーザー光送り速度が、800mm/秒以上1500mm/秒以下、レーザー光スポット径が、1.0mm以下、レーザー光の焦点距離が200mm以上700mm以下の範囲であることが好ましい。
【0008】
また、前記膜厚計測工程により計測された前記表面付着層の膜厚寸法、および、前記表面付着層に含まれる付着物質の種類に応じて、第1レーザー照射工程におけるレーザー照射条件を選定する照射条件選定工程を備えることが好ましい。
【0009】
また、前記第2レーザー照射工程において照射されるレーザー光のレーザー出力は、前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー光のレーザー出力の0.1倍以下であることが好ましい。
【0010】
また、前記第1レーザー照射工程において照射されるレーザー光は、CWレーザーであり、前記第2レーザー照射工程に照射されるレーザー光は、1回の照射時間が10マイクロ秒以下のパルスレーザーであることが好ましい。
【0011】
また、前記補助除去工程は、前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層を剥離剤を用いて、或いは、前記鋼構造物の表面に付着する前記表面付着層を加熱して溶融させることにより、又は、レーザー光を照射することにより該表面付着層の少なくとも一部を除去する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より簡便に、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を効率よく除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与することができる表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る表面処理方法を説明するためのブロック図である。
図2】本発明に係る表面処理方法が備える補助除去工程を説明するための説明図である。
図3】本発明に係る表面処理方法において好適に使用できるレーザー加工装置を説明するための模式図である。
図4図3に示すレーザー加工装置が備えるレーザー照射ヘッドを説明するための模式図である。
図5】第1レーザー照射工程S13が完了した段階での鋼板の外観、及び、第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の外観を示す画像である。
図6】第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の表面拡大画像である。
図7図6に示す表面拡大画像から取得した表面の3D処理画像及び任意の断面における表面凹凸形状(表面粗さ形状)を示すグラフに関する画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る表面処理方法について添付図面を参照して説明する。本発明に係る表面処理方法は、鋼構造物の表面処理を行う方法であって、図1のブロック図に示すように、第1レーザー照射工程S13を有する付着層除去工程S1と、第2レーザー照射工程S2とを備えている。ここで、鋼構造物としては特に限定されず、例えば、橋梁や鉄塔、プラント、タンク、機械部品等の鋼を用いて構成される構造物を挙げることができる。
【0015】
付着層除去工程S1は、補助除去工程S11と、当該補助除去工程S11の後に実施される膜厚計測工程S12と、該膜厚計測工程S12の後に実施される第1レーザー照射工程S13とを備えている。補助除去工程S11は、図2に示すように、鋼構造物1の表面に付着する表面付着層2の一部を除去する工程である。ここで、鋼構造物1の表面に付着する表面付着層2とは、例えば、鋼構造物1の表面に塗装された塗膜層や、溶射層、黒皮、酸化により形成された錆層、塩分付着により形成される塩分層、油膜層等の鋼材料以外の層を意味する。
【0016】
補助除去工程S11においては、例えば、剥離剤を用いて、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を除去することができる。剥離剤は、表面付着層の種類に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されないが、例えば、表面付着層が塗膜層である場合には、高級アルコールを主成分とするものや、有機溶剤を主成分とするもの等を挙げることができる。このような剥離剤を用いて補助除去工程S11を実施する場合、例えば、表面付着層の表面に剥離剤を塗布して行う。剥離剤が塗布されることにより、塗膜層が溶解したり、塗膜内部に浸透して既存塗膜を膨潤および軟化させたりし、塗膜層と鋼構造物との結合力(接着力)を弱め、塗膜層を剥離させやすくすることができる。なお、剥離剤を塗布する手法としては特に限定されないが、塗布面積が大きい場合にはエアレススプレー塗装機などにより塗布し、塗布面積が小さい場合や表面形状が複雑な場合には刷毛やローラ等を用いて塗布することが好ましい。また、塗膜剥離剤の塗布後、ウェット膜厚計などにより、予め設定した塗布量の剥離剤を塗布することができているかを確認することが好ましい。
【0017】
また、表面付着層が錆層の場合には、リン酸や塩酸等の無機酸や、リンゴ酸やシュウ酸等の有機酸を主成分とする酸性の錆除去剤や、チオグリコール酸塩等を主成分とする中性の錆除去剤等を剥離剤として用いることができる。このように錆除去剤を剥離剤として用いる場合でも、上述の塗膜層を剥離する場合と同様に、表面付着層の表面に剥離剤(錆除去剤)を塗布して行うことができる。また、グラインダーやチッパー等の電動工具や、スクレーパー等の手動工具によって、錆層を除去することもできる。
【0018】
また、補助除去工程S11においては、剥離剤を用いる代わりに、例えば、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を加熱して溶融させることにより該表面付着層の少なくとも一部を除去してもよい。このように表面付着層を加熱溶融させる場合、高周波加熱を行うことが好ましい。高周波加熱を行うことにより、鋼構造物の素地表面を誘導加熱により集中的に急速加熱(例えば、180℃~240℃)することができ、これにより、塗膜層が軟化して接着力が弱められ、塗膜層を除去することができる。なお、高周波加熱を行う場合、誘電加熱装置が用いられる。
【0019】
また、補助除去工程S11においては、剥離剤や高周波加熱を用いる代わりに、レーザー光を照射することにより表面付着層の少なくとも一部を除去してもよい。このようにレーザー光を照射して表面付着層の一部を除去する場合、レーザー加工装置10を用いる。このレーザー加工装置10は、図3の模式図に示すように、レーザー照射ヘッド11、ヘッド支持体12、レーザー発信器13、動作制御装置14、パージガス供給装置15等を備えて構成されている。
【0020】
レーザー照射ヘッド11は、光ファイバーケーブルなどからなるレーザー送信ケーブルを介してレーザー発信器13と繋がっており、レーザー発信器13から出射されたレーザー光が、レーザー照射ヘッド11に送られ、レーザー照射ヘッド11の先端から被照射体である表面付着層を有する鋼構造物に向けて照射されるように構成されている。なお、照射対象物である鋼構造物にレーザ光が照射される箇所であるビームスポットは、焦点と実質的に一致するように配置してもよく、また、焦点から所定の距離だけ離間して(デフォーカスして)配置されるようにしてもよい。また、図4の模式図に示すように、レーザー照射ヘッド11は、光ファイバーケーブルから順に配置されるコリメートレンズ16、集光レンズ17、保護ガラス18、ノズル19を有して構成されている。なお、レーザー発信器13として、例えば出力が1500W 以上2500W以下の高出力のレーザー出力を発振するCWレーザー発信器を用いることが好ましい。
【0021】
コリメートレンズ16は、レーザー送信ケーブルを介して出射されるレーザ光をコリメートして、平行光とする光学素子である。集光レンズ17は、コリメートレンズ16から平行光として入射するレーザ光を、所定の焦点に集まるよう集光する光学素子(集光光学系)である。これらコリメートレンズ16、集光レンズ17は、レーザー照射ヘッド11の筐体内に固定されている。
【0022】
保護ガラス18は、鋼構造物側から飛散するダスト等の異物が集光レンズ17等に付着することを防止する部材であり、当該保護ガラス18は、例えば、実質的に平板状に形成されていることが好ましい。また、保護ガラス18は、集光レンズ17等が収容される空間部を、ノズル19の内径側の領域とは実質的に気密された状態で区画する機能を有する。保護ガラス18は、汚染時や焼損時等に容易に交換可能できるように、レーザー照射ヘッド11の本体部から着脱可能に構成されていることが好ましい。
【0023】
ノズル19は、レーザー照射ヘッド11の鋼構造物側の端部に設けられた筒状の部材であり、保護ガラス18側から鋼構造物側に突出し、レーザ光はノズル19の内径側を通って出射される。なお、図4においては、ノズル19は、先端部側が縮径されたテーパ筒状に形成されている。
【0024】
パージガス供給装置15は、レーザー照射時にダスト等の異物がノズル19の内部に侵入することを防止するパージガスを、配管を介してノズル19内に導入するものであり、パージガスとして、例えば、異物をフィルタ等によって除去した清浄な空気や不活性ガス等の各種気体を用いることができる。
【0025】
ヘッド支持体12は、レーザー照射ヘッド11を先端部に取り付けて該レーザー照射ヘッド11を保持するアーム部121と、アーム部121の基端部が取り付けられる基台部122とを備えている。アーム部121の先端部とレーザー照射ヘッド11との接続構造は、特に限定されないが、レーザー照射ヘッド11の向く方向を適宜変更できるように構成されることが好ましい。
【0026】
アーム部121が設置される基台部122は、レーザー照射ヘッド11の高さ位置を変更するための昇降装置を備えることが好ましく、また、レーザーが照射される鋼構造物を正面に見た場合に、左右方向にレーザー照射ヘッド11を移動させたり、レーザー照射ヘッド11と、レーザーが照射される鋼構造物の表面までとの距離を調節する水平移動装置を備えることが好ましい。なお、基台部122が昇降装置や水平移動装置を備えるように構成する場合、これら装置の作動を動作制御装置14により制御するように構成することができる。
【0027】
また、アーム部121を、多関節ロボットアームとして構成してもよい。多関節ロボットアームとしては、レーザー照射ヘッド11を保持し、所定の加工パスに応じて該レーザー照射ヘッド11を鋼構造物に対して上下左右に相対移動させることができる構造を備えるように構成することが好ましい。なお、アーム部121を多関節ロボットアームとして構成する場合、その作動を動作制御装置14により制御するように構成することができる。
【0028】
このようなレーザー加工装置10を用いて鋼構造物の表面に付着する表面付着層の一部を除去する場合、除去対象である表面付着層に向けて、レーザー光を照射する。これにより表面付着層上のビームスポットにおける中央部分の高エネルギ密度領域が溶融、蒸散、熱破壊し、表面付着層を除去することができる。
【0029】
膜厚計測工程S12は、上述の補助除去工程S11後における鋼構造物の表面に残存して付着する表面付着層の膜厚を計測する工程である。この膜厚計測工程S12においては、膜厚計を用いて鋼構造物の表面に残存して付着する表面付着層の膜厚を計測する。使用される膜厚計は、特に限定されないが、例えば、磁束密度の変化に基づいて電磁石を流れる電流量の変化を測定して膜厚を計測する電磁膜厚計が好適に使用することができる。なお、測定対象に赤外線を照射して、透過光又は反射光を分光することによって得られるスペクトルをもとに膜厚を計測する赤外線膜厚計を利用することもできる。
【0030】
第1レーザー照射工程S13は、補助除去工程S11によって表面付着層の一部が除去された鋼構造物の表面に高出力のレーザー光を照射して残存する表面付着層を除去する工程であり、上述の膜厚計測工程S12によって計測される表面付着層の膜厚が100μm以下である際に実施される。なお、表面付着層の残存膜厚が100μmを超えている場合には、再度補助除去工程S11が行われる。この第1レーザー照射工程S13は、残存する表面付着層を除去して鋼構造物の素地を露出させるともに、鋼構造物の素地表面に所定の表面粗さを付与する工程でもある。
【0031】
この第1レーザー照射工程S13は、上述の補助除去工程S11において使用可能なレーザー加工装置10を用いて実施することができる。また、第1レーザー照射工程S13において照射されるレーザー照射条件は、レーザー出力が、1500W以上2500W以下、レーザー光送り速度が、800mm/秒以上1500mm/秒以下、レーザー光スポット径が、1.0mm以下、レーザー光の焦点距離が200mm以上700以下の範囲であることが好ましい。このような照射条件とすることにより、鋼構造物の素地表面に再度塗装や溶射を行い新たな塗装層や溶射層を形成する場合に、当該新たな塗装層や溶射層との密着強度を向上させることができる表面粗さRa(算術平均粗さ)が5μm以上で、かつ、表面粗さRz(最大高さ)が30μm以上の範囲の素地表面を形成することが可能となる。ここで、表面粗さRa、Rzは、JIS規格B0601(2013)に基づいて、例えば、非接触のレーザー式表面粗さ計及び計算ソフトを用いて、表面粗さプロファイルから算出することができる。
【0032】
また、鋼構造物の素地表面の表面粗さRaとしては、8μm以上の範囲であることがより好ましく、また、表面粗さRzとしては、50μm以上の範囲であることがより好ましい。
【0033】
第2レーザー照射工程S2は、第1レーザー照射工程S13において照射されるレーザー出力よりも低い低出力のレーザー出力にて素地が露出した鋼構造物の表面を照射することにより、第1レーザー照射工程S13における受熱によって鋼構造物の表面に形成される酸化被膜層を除去する工程である。この第2レーザー照射工程S2においては、上述のレーザー加工装置10と同等構成のレーザー加工装置を用いて実施することができるが、1回の照射時間が10マイクロ秒以下のパルスレーザーを照射可能なレーザー加工装置を用いることが好ましい。パルスレーザーは、レーザー照射表面の温度が上昇しにくいため新たな酸化被膜が形成されることを効果的に抑制することができる。また、照射ポイント1点当たりのエネルギ量が大きいため除去能力が高く、効率よく酸化被膜層を除去することができる。
【0034】
また、上述の第2レーザー照射工程S2において照射されるレーザー光のレーザー出力は、第1レーザー照射工程S13において照射されるレーザー光のレーザー出力の0.1倍以下であることが好ましい。このような出力条件を採用することにより、効果的に酸化被膜層を除去することが可能となり、また、新たな酸化被膜が生成されてしまうことを効果的に抑制することができる。
【0035】
上述の本発明に係る表面処理方法によれば、塗膜層や、溶射層、黒皮等の表面付着層を効率よく除去して鋼構造物の素地表面を露出させるとともに、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与することが可能となり、鋼構造物の素地表面に再度形成される塗装層や溶射層との密着強度を良好な状態とすることができる。また、鋼構造物の素地表面を過度に減肉させることなく所定の表面粗さを形成することができるため、鋼構造物に要求される強度が低下することを効果的に抑制することも可能となる。
【0036】
特に、本発明においては、表面付着層の残存膜厚が100μm以下となるように制御した上で、第1レーザー照射工程S13を実施し、残存する表面付着層を除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所定の表面粗さを付与するように構成しているため、過度のレーザーエネルギーを素地表面に与えることなく、効率よく、残存する表面付着層を除去しつつ所定の表面粗さを素地表面に付与することが可能となる。また、鋼構造物の素地表面に形成される微小な凹凸の分布を均一なものとすることができ、素地表面において局所的に大きすぎる表面粗さが生じてしまうようなことを効果的に抑制することができる。更に、鋼構造物の素地表面を過度に減肉させてしまうリスクやレーザー照射により形成される酸化被膜層の厚みが大きくなることを極めて効果的に抑制することが可能となる。
【0037】
また、本発明に係る表面処理方法は、従来のブラスト処理によって表面粗さを付与する場合のように、鋼構造物に養生を施こして、ブラストに使用される研磨材が飛び散らないようにする必要がなく、また、装置構成も小型にできるため、より一層簡便に、鋼構造物の表面に付着する表面付着層を効率よく除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態に係る表面処理方法について説明したが、その具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態において、第1レーザー照射工程S13にて照射されるCWレーザーを擬似パルスレーザーとして鋼構造物に照射するように構成してもよい。CWレーザーを擬似パルスレーザー化する方法としては、例えば、中心部から放射状に等角度間隔で形成されるスリットを有する回転盤を集光レンズ17と保護ガラス18との間に配置し、当該回転盤を回転させながらCWレーザーを照射することにより、スリットを通過するレーザー光と、スリット同士の間部分で遮断されるレーザー光とを形成するように構成する方法を挙げることができる。これにより、CWレーザーを擬似的にパルス状のレーザー光に変換して、鋼構造物に照射できる。このようにCWレーザーを擬似パルスレーザーとして構成し、該擬似パルスレーザーを鋼構造物の表面上を走査させることにより、鋼構造物の素地表面において、より一層均一な表面凹凸(表面粗さ)を形成することが可能となる。
【0039】
また、上記実施形態においては、レーザー加工装置1の構成として、レーザー照射ヘッド11をヘッド支持体12に取り付ける据え置きタイプのレーザー過去装置について例示しているが、このような構成に限定されず、ハンディタイプの小型のレーザー加工装置を採用し、手で保持して第1レーザー照射工程や、第2レーザー照射工程等を実施するようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施形態において、膜厚計測工程S12により計測された前記表面付着層の膜厚寸法、および、表面付着層に含まれる付着物質の種類に応じて、第1レーザー照射工程S13におけるレーザー照射条件を選定する照射条件選定工程を備えるように構成してもよい。この照射条件選定工程により設定された照射条件にてレーザー照射を行うことにより、鋼構造物の表面に残存する表面付着層を除去して素地を露出させつつ、素地表面の表面粗さを所望の粗さにコントロールすることが可能になる。
【0041】
この照射条件選定工程においては、鋼構造物の表面における表面付着層の残存厚み及び付着物質の種類とを様々に変更した場合の、レーザー照射条件と、レーザー照射により得られる素地表面における表面粗さRa、Rzとの関係についてのチャートを予め準備しておき、このチャートに基づいて、第1レーザー照射工程S13において照射されるレーザー照射条件を設定することができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、第1レーザー照射工程S13は、CWレーザーを用いて構成されているが、パルスレーザーを用いることも可能であり、また、第2レーザー照射工程S2は、パルスレーザーを用いて構成されるが、CWレーザーを用いることも可能である。
【0043】
次に、本発明の発明者らは、実際に本発明に係る表面処理方法を用いて、鋼構造物の表面付着層を除去しつつ、鋼構造物の素地表面に所望の表面粗さを付与する試験を行ったので、以下、説明する。
【0044】
試験においては、縦:120mm、横:120mm、厚み:3.2mmの平面視矩形状の鋼板(鋼構造物)を準備し、当該鋼板に対して、第1レーザー照射工程S13、第2レーザー照射工程S2を施した。なお、鋼板の表面には黒皮(表面付着層)が付着しており、試験に際して、予め補助除去工程を行い、黒皮(表面付着層)の厚みが100μmとなるように調整している。また、第1レーザー照射工程S13においては、フルサト工業株式会社製、型番レーザーケレンLZK-2000のハンディタイプのレーザー加工装置を用い、第2レーザー照射工程S2においては、P-laser社製、型番QF-100のハンディタイプのレーザー加工装置を用いた。また、第1レーザー照射工程S13、第2レーザー照射工程S2共に、使用するレーザー加工装置を左右方向及び上下方向に移動可能なアーム部に取り付け試験を行った。
【0045】
第1レーザー照射工程S13の条件は、レーザー光としてCWレーザーを用い、そのレーザー出力が2000W、鋼板に対する左右方向のレーザー光送り速度が1100mm/秒、鋼板に対する上下方向のレーザー光送り速度が1mm/秒、レーザー光スポット径が0.8mm、レーザー光の焦点距離が210mmとした。また、第2レーザー照射工程S2の条件は、レーザー光としてパルスレーザーを用い、そのレーザー出力が100W、鋼板に対する左右方向のレーザー光送り速度が100KHz、鋼板に対する上下方向のレーザー光送り速度が2mm/秒、レーザー光スポット径が0.5mm、レーザー光の焦点距離が250mmとした。
【0046】
第1レーザー照射工程S13が完了した段階での鋼板の表面粗さの計測結果、及び、第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の表面粗さの計測結果を表1に示す。なお、表面粗さは、株式会社ミツトヨ製、型番:SJ-210を使用し、任意の位置における10か所での表面粗さRa、Rzを測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
また、図5に第1レーザー照射工程S13が完了した段階での鋼板の外観、及び、第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の外観の画像を示す。なお、図5の上半分が第1レーザー照射工程S13が完了した段階での鋼板の外観であり、下半分が、第1レーザー照射工程S13に引き続いて実施される第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の外観である。図5より、第2レーザー照射工程S2の実施により、第1レーザー照射工程S13における受熱によって鋼板(鋼構造物)の表面に形成される酸化被膜層がきれいに除去されていることがわかる。
【0049】
また、図6に第2レーザー照射工程S2が完了した段階での鋼板の表面拡大画像を示す。また、図7図6の表面拡大画像から取得した鋼板の表面の3D処理画像及び任意の断面における表面凹凸形状(表面粗さ形状)を示すグラフに関する画像を示す。これら図6図7や上記表1より、鋼板(鋼構造物)の素地表面に、鋼構造物の素地表面に再度塗装や溶射を行い新たな塗装層や溶射層を形成する場合に、当該新たな塗装層や溶射層との密着強度を向上させることができる良好な表面粗さを有する素地表面を形成できていることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
S1 付着層除去工程
S11 補助除去工程
S12 膜厚計測工程
S13 第1レーザー照射工程
S2 第2レーザー照射工程
10 レーザー加工装置
11 レーザー照射ヘッド
12 ヘッド支持体
13 レーザー発信器
14 動作制御装置
15 パージガス供給装置
16 コリメートレンズ
17 集光レンズ
18 保護ガラス
19 ノズル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7