(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004236
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】フロア用制振材及び振動の制御方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240109BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G10K11/16 120
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103807
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】笹澤 和也
(72)【発明者】
【氏名】杉本 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】丹下 勝博
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BB12
3D023BC01
3D023BD04
3D023BE06
3D023BE09
5D061AA06
5D061AA22
5D061AA26
5D061BB21
(57)【要約】
【課題】従来のフロア材に対して、制振機能が求められている。
【解決手段】本開示のフロア用制振材は、ポリウレタンフォーム層を有するフロア用制振材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォーム層を有するフロア用制振材。
【請求項2】
前記ポリウレタンフォーム層の圧縮歪み0~3%の範囲における平均弾性率が、170kPa以上400kPa以下である請求項1に記載のフロア用制振材。
【請求項3】
前記ポリウレタンフォーム層の上に積層されている繊維層を有する請求項1又は2に記載のフロア用制振材。
【請求項4】
電気自動車に用いられる請求項1又は2に記載のフロア用制振材。
【請求項5】
100~400Hzの振動制御用の請求項1又は2に記載のフロア用制振材。
【請求項6】
前記ポリウレタンフォーム層の25%圧縮硬さが、10kPa以上30kPa以下である請求項1又は2に記載のフロア用制振材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のフロア用制振材を、車体の床面に載置したことを特徴とする100~400Hzの振動の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フロア用制振材及び振動の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々なフロア材が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-95169(段落[0006]、
図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のフロア材に対して、制振機能が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の第1態様は、ポリウレタンフォーム層を有するフロア用制振材である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】(A)車両に備えられたフロア用制振材の側面図、(B)フロアパネル上に載置されたフロア用制振材の側断面図
【
図2】(A)フロア用制振材の原料が注入される金型の断面図、(B)型閉じされた金型の断面図、(C)金型内で繊維層と一体に発泡成形されたポリウレタンフォーム層の断面図
【
図4】(A)実施例及び比較例の特性を示す表、(B)実施例2,4,6及び比較例1の応力-歪み曲線、
【
図5】実施例及び比較例の圧縮歪み3%までの応力-歪み曲線
【
図6】(A)実施例及び比較例の共振周波数と振動伝達率を示すグラフ、(B)ポリウレタンフォーム層を有するフロア用制振材を用いた実施例の共振周波数と振動伝達率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第1実施形態]
図1(A)及び
図1(B)に示すように、本開示の第1実施形態に係るフロア用制振材10は、自動車90に用いられ、車体の床面90M(即ち、フロアパネル91の上面)に載置される。例えば、フロア用制振材10は、遮音や吸音の機能を有する防音材や、嵩上げ材として用いられ、ポリウレタンフォーム層11を有する。例えば、ポリウレタンフォーム層11の上には、フロアカーペットなどの繊維層20が敷設される。なお、例えば、フロア用制振材10は、フロアパネル91の上面が凹凸形状を有する場合、それに対応した凹凸形状を有するように形成される。
【0008】
図1(B)に示すように、本実施形態のフロア用制振材10は、シート状をなし、ポリウレタンフォーム層11と、その上に積層された繊維層20と、を備えた2層構造になっている。
【0009】
ポリウレタンフォーム層11は、モールド成形(金型内での発泡成形)で得られるモールドウレタンで構成されてもよいし、スラブ成形(開放された連続ライン上での発泡成形)で得られるスラブウレタンで構成されてもよい。フロア用制振材10は、乗員に踏まれたときに沈み込み過ぎないように、ある程度の剛性や硬さが必要とされるので、ポリウレタンフォーム層11は、モールドウレタンであることが好ましい。モールドウレタンは、金型内で発泡成形させるため、見掛け密度を高めることが可能であると共に、金型の成形面と接触する表面部に、スキン層が形成されるため、硬さや耐久性に優れたポリウレタンフォームを製造可能となる。スキン層は、それよりポリウレタンフォーム層11の内側の部分に対して見掛け密度が高くなった表面層である。
【0010】
本実施形態の例では、ポリウレタンフォーム層11は、モールドウレタンからなり、スキン層を有している。スキン層は、ポリウレタンフォーム層11の表裏のうち、繊維層20とは反対側の第1面11Fの表面層として形成されていると共に、該表裏の面を連絡する外周面11E(
図2(C)参照)の表面層としても形成されている。特に外周面11Eのスキン層により、ポリウレタンフォーム層11の厚さ方向の剛性向上を図ることが可能となる。ポリウレタンフォーム層11と繊維層20を別々に形成する場合は、ポリウレタン層11の繊維層20側にスキン層が設けられていてもよい。
【0011】
ポリウレタンフォーム層11は、通気性を有するもの(例えば連続気泡構造のもの)であってもよいし、非通気性のもの(例えば独立気泡構造のもの)であってもよい。ポリウレタンフォーム層11が通気性を有する場合、フロア用制振材10全体に通気性を持たせることが可能となり、吸音性の向上を図ることが可能となる。なお、本実施形態の例では、ポリウレタンフォーム層11は通気性を有し、スキン層も通気性を有していて、これにより、ポリウレタンフォーム層11の剛性と吸音性の両方を良好にすることが可能となる。
【0012】
なお、発泡体の発泡セル間のセル膜(いわゆるミラー)は、例えば燃焼ガスの爆風やアルカリによる加水分解等で除去することができるが、除去せずに残しておくことが望ましい。セル膜があることで、セル膜がない場合よりも、発泡体の制振性を良好にすることが可能となる。
【0013】
ポリウレタンフォーム層11の見掛け密度は、例えば、上述した剛性や硬さ等の観点から、40kg/m3以上であることが好ましく、45kg/m3以上であることがより好ましい。また、ポリウレタンフォーム層11の見掛け密度は、例えば、軽量化の観点から、80kg/m3以下であることが好ましく、75kg/m3以下であることがより好ましい。このように、ポリウレタンフォーム層11の軽量化を図ることにより、例えば、フロア用制振材10が車両90等の乗り物に搭載される場合には、乗り物の燃費や電費の向上を図ることが可能となる。
【0014】
上述の繊維層20は、ポリウレタンフォーム層11の上面(第2面11S)に一体化している。繊維層20は、例えば、不織布等の繊維シートで構成される。本実施形態の例では、フロア用制振材10は、ポリウレタンフォーム層11が繊維層20と一体に発泡成形された一体成形品である。例えば、繊維層20のうち少なくともポリウレタンフォーム層11と対向する部分には、ポリウレタンフォーム層11の原料が含浸硬化してなる含浸層が形成されていてもよい。本実施形態の例では、含浸層を含む繊維層20全体が通気性を有している。
【0015】
なお、繊維層20を構成する繊維としては、合繊繊維であってもよいし、天然繊維であってもよい。このような繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維(スパンデックス)、ガラス繊維、炭素繊維、ザイロン(登録商標)等が挙げられる。天然繊維としては、例えば、羊毛、コットン、セルロースナノファイバー等が挙げられる。また、繊維層20の形態としては、不織布に限られず、織物、編み物等であってもい。不織布としては、例えば、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0016】
ところで、乗り物や建物等のフロアに用いられるフロア材に対して、静粛性の向上の観点等から、制振性が求められており、フロアパネル91等に載置されるフロア材等の従来のフロア材に対しても、制振性が求められている。これに対し、本実施形態のフロア用制振材10では、ポリウレタンフォーム層11を有することで、繊維層のみを有するフロア材に比べて、制振性の向上を図ることが可能となる。ここで、さらなる制振性の向上のために、本願発明者は、制振性と発泡体の特性との関係を精査した。そして、鋭意検討の結果、発泡体の弾性率に着目することで、制振性のさらなる向上を図ることが可能な構成についての知見を得て、本開示のフロア用制振材10を発明するに至った。
【0017】
具体的には、フロア用制振材10では、ポリウレタンフォーム層11の圧縮歪み0~3%の範囲(圧縮歪みが0以上、0.03以下である範囲)における平均弾性率が、400kPa以下になっていることが好ましい。これにより、後述するように、制振性の顕著な向上を図ることが可能となる。ここで、圧縮歪み0~3%の範囲における平均弾性率とは、ポリウレタンフォーム層11を圧縮変形したときの応力-歪み曲線に対しての、歪みが0%以上で3%以下となる範囲における近似直線の傾きとして求められるものである。近似直線及びその傾きは、最小二乗法により算出され、例えば、表計算ソフト「マイクロソフト エクセル」(マイクロソフト社製)で求めることができる。
【0018】
なお、ポリウレタンフォーム層11では、応力-歪み曲線において、比例限度(歪みの増加に対して応力が直線的に増加する限界)に対応する圧縮歪みは、3%(0.03)以上になっている(即ち、歪みの少なくとも3%までの増加に対して応力が直線的に増加する。例えば
図4(B)参照)。
【0019】
ここで、ポリウレタンフォーム層11の平均弾性率が低くなると、上述した剛性や硬さが低下することが考えらえれる。そのため、ポリウレタンフォーム層11の平均弾性率は、170kPa以上であることが好ましい。
【0020】
後述のように、フロア用制振材10は、例えば100~400Hzの振動を顕著に抑制することができる。従って、フロア用制振材10を、車体の床面90Mに載置した振動の制御方法によれば、フロアパネル91の100~400Hzの振動を特に抑制可能となる。このような100~400Hzの振動制御用のフロア用制振材10や、フロア用制振材10を用いた100~400Hzの振動の制御方法は、今までに無いものであり、従来の技術水準からは予測できない顕著な効果を奏することができる。
【0021】
また、フロア用制振材10は、ガソリン自動車に用いてもよいし、電気自動車に用いてもよい。後者の場合、エンジンの騒音が無いので、フロアパネル91の振動による音が目立ち易くなる可能性があるが、フロア用制振材10が用いられることで、フロアパネル91の振動を効果的に抑制することが可能となり、静粛性を特に向上させることが可能となる。
【0022】
本実施形態のフロア用制振材10は、例えば以下のようにして製造される。まず、ポリウレタンフォーム層11の原料11G(
図2(A)参照)と、繊維層20としての繊維シートが用意される。詳細には、原料11Gとしては、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、及び触媒等を含んだものが用意される。
【0023】
図2(A)には、ポリウレタンフォーム層11を発泡成形するための金型50が示されている。金型50は、下型51と上型52を備えている。そして、下型51と上型52が離された型開き状態で、上型52の成形面52Mに繊維層20としての繊維シートがセットされる。下型51の成形面には、ポリウレタンフォーム層11を発泡成形するためのキャビティを形成する成形凹部51Uが設けられている。そして、その成形凹部51U内に、原料11Gが注入され、下型51と上型52が合わされて金型50が型閉じされる(
図2(B)参照)。
【0024】
そして、
図2(C)に示すように、型閉じされた金型50のキャビティ内で、原料11Gが発泡硬化することで、繊維層20と一体になったポリウレタンフォーム層11が発泡成形される。例えば、このとき、原料11Gが繊維層20に含浸、硬化して、含浸層が形成される。
【0025】
このようにモールド成形されることで、ポリウレタンフォーム層11のうち繊維層20と一体化する第2面11Sを除く表面部に、スキン層が形成される。スキン層が、通気性を有していると、成形時のガスを外部に抜き易くすることが可能となる。
【0026】
通気性を有するスキン層は、金型50の離型剤として直鎖状炭化水素ワックスを用いることで容易に形成することが可能となる。離型剤は、原料11Gの注入前に金型50の成形面に塗布される。
【0027】
上述の直鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等が挙げられ、例えば、有機溶剤に分散させた溶剤系離型剤、乳化剤を用いて水に分散させた水系離型剤等を使用することができる。また、スキン層を形成するために、離型剤として分岐鎖状炭化水素ワックスを用いることもできる。分岐鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、変性ポリエチレンワックス等が挙げられ、例えば、溶剤系離型剤や水系離型剤等を使用することができる。
【0028】
図2(C)に示す金型50から、一体となったポリウレタンフォーム層11と繊維層20を取り外すと、フロア用制振材10が得られる。なお、ポリウレタンフォーム層11をスラブ成形により得る場合には、例えば、そのポリウレタンフォーム層11に繊維層20を接着してフロア用制振材10を得ることができる。
【0029】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態は、ポリウレタンフォーム層11と繊維層20を一体に成形したが、ポリウレタンフォーム層11のみを成形して、その上にカーペット等の繊維層を載置してもよい。
【0030】
(2)フロア用制振材10は、上記実施形態では、自動車90に用いられていたが、例えば、鉄道車両や船等の乗り物に用いられて、その乗り物の床面に載置されるものであってもよい。また、フロア用制振材10は、建物に用いられてもよく、例えば、建物の床面に載置されてもよい。
【0031】
(3)フロア用制振材10は、上記実施形態では、床面に載置されていたが、床材に下方から宛がわれてもよい。
【0032】
(4)ポリウレタンフォーム層11のスキン層は、上記実施形態では、ポリウレタンフォーム層11の表裏のうち第1面11F側に設けられていたが、第1面11Fとは反対側の第2面11S側に設けられていてもよい。この場合、例えば、金型50内で、表裏の両側にスキン層を有するポリウレタンフォーム層11を発泡成形してから、そのポリウレタンフォーム層11に繊維層20を接着材等で接着するか又は載置することで、フロア用制振材10を得ることができる。なお、モールド成形で得られたポリウレタンフォーム層11のスキン層を、適宜、スライスして切除することもできる。ポリウレタンフォーム層11を、スキン層が第1面11F、第2面11S又は外周面11Eの少なくとも一部に設けられていない構成とすることもできる。
【0033】
(5)フロア用制振材10は、上記実施形態では2層構造になっているが、3層以上の積層構造になっていてもよい。例えば、繊維層20が、積層構造をなしていてもよく、例えば、複数枚重ねられた繊維シートで構成されていてもよい。また、ポリウレタンフォーム層11と繊維層20の間に他の層が積層されていてもよいし、ポリウレタンフォーム層11の下、又は、繊維層20の上に、他の層が設けられていてもよい。なお、フロア用制振材10を、ポリウレタンフォーム層11の単層構造とすることも可能である。
【0034】
(6)上記実施形態において、フロア用制振材10のポリウレタンフォーム層11の代わりに、例えば、ポリエチレンフォームやポリプロピレンフォーム等のポリオレフィン樹脂のフォーム層や、フェノール樹脂のフォーム層を設けることも可能である。
【0035】
(7)上記実施形態において、繊維層20の代わりに、繊維を含まない表皮層を設けることも可能である。このような表皮層として、例えば、通気性又は非通気性の樹脂シートで構成されるものが挙げられる。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示のフロア用制振材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.実施例及び比較例の構成
図4(A)に示す実施例1~8及び比較例1,2について評価した。各フロア用制振材は、互いに材料が異なっている。なお、実施例1~8において、
図4(A)における見掛け密度、硬さ、平均弾性率は、ポリウレタンフォーム層11のみの状態で測定したものである。
【0038】
<実施例1~5>
実施例1~5のフロア用制振材10は、モールド成形により得られたポリウレタンフォーム層11単体であり、第1面11Fとその反対側の第2面11Sおよび外周面11Eにスキン層が形成され、通気性を有している。
【0039】
<実施例6~8>
実施例6~8のフロア用制振材は、スラブ成形により得られたポリウレタンフォーム層11であり、このポリウレタンフォーム層11には、スキン層が形成されていない。
【0040】
<比較例1>
比較例1は、雑フェルト(リサイクル繊維品)である。
【0041】
<比較例2>
比較例2は、フロア用制振材なしのブランクである。
【0042】
2.評価
実施例及び比較例について制振性等の特性を評価した(
図4(A)参照)。実施例及び比較例の各特性の評価方法は、以下の通りである。
【0043】
<評価方法>
(1)見掛け密度
フロア用制振材の密度は、JIS K7222に準拠して測定されたものである。
【0044】
(2)平均弾性率
実施例1~8、比較例1の測定サンプルを、オートグラフAG-X/R(株式会社島津製作所製)を用いて、23℃において圧縮し、圧縮歪み0~3%の範囲における平均弾性率を求めた。実施例1~8では、ポリウレタンフォーム層11のみを測定サンプルとした。各測定サンプルのサイズは、100mm×100mm×20mm(厚さ)である。そして、測定サンプルの平面形状の中心部に、加圧子(押圧面が直径50mmの円形のもの)を宛がって、50mm/minの速度で、測定サンプルの圧縮歪みが70%になるまで(厚さがもとの30%になるまで)圧縮し、応力-歪み曲線を得た。さらに、その応力-歪み曲線に対しての、圧縮歪みが0%以上で3%以下となる範囲における近似直線を、表計算ソフト「マイクロソフト エクセル」(マイクロソフト社製)を用いて求め、その近似直線の傾きを算出した(y軸切片は固定しない)。なお、上記応力-歪み曲線の応力データは、加圧開始から歪みが3%に達するまで0.01秒毎にプロットされたものである。
【0045】
(3)硬さ
フロア用制振材の硬さは、上記平均弾性率を算出するための圧縮試験おいて、測定サンプルの圧縮歪みが25%、50%になったときに加圧子が受ける応力を、それぞれ25%圧縮硬さ、50%圧縮硬さとした。
【0046】
ここで、フロア用制振材に乗る人の体重を65kg、両足の面積を0.05m2とすると、人に乗られることで、フロア用制振材には、12.740kPa(1300kg/m2)の応力がかかることになる。そして、このような応力を受けたときに、ポリウレタンフォーム層11が25%以上圧縮されて沈み込むことになると、フロア用制振材としては好適でないと考えられる。そのため、ポリウレタンフォーム層11の25%圧縮硬さは、13kPa以上であることが特に好ましい。また、フロア用制振材が硬すぎると、クッション性等が好適でなくなるため、ポリウレタンフォーム層11の25%圧縮硬さは、30kPa以下であることが好ましい。このような観点から、硬さの評価では、ポリウレタンフォーム層11の25%圧縮硬さが、13kPa以上30kPa以下の場合を◎、10kPa以上で13kPa未満の場合を〇、10kPa未満か30kPa以上である場合を×、と評価した。
【0047】
(4)制振性
各実施例及び各比較例について、制振性を比較した。制振性を評価する試験器具は、
図3に示されている。この試験器具は、評価サンプル11A(実施例1~8ではポリウレタンフォーム層11、比較例1では雑フェルト)をフロアパネル91としての鋼板91A上に固定して、鋼板91Aに振動を与え、評価サンプル11Aによる制振性を評価するものである。具体的には、この試験器具は、鋼板91Aの外縁部を固定するフレーム部60を備えている。フレーム部60は、鋼板91Aの外縁部を上下に挟んだ状態でねじ止めされる上フレーム61と下フレーム62を備えると共に、下フレーム62を下側から支持するベース部63を備える。ベース部63は、板状の底部64の外縁部から側壁部65が上側に立設されてなり、側壁部65の上端に下フレーム62が固定されている(例えば、下フレーム62と一体に形成されている)。また、フレーム部60は、図示しない支持部に吊るされたバネによって四つ角を支持されている。鋼板91Aの下面のうち中央部には、加速度センサ67が取り付けられている。なお、上記バネの振動の周波数は、後述の共振ピークの周波数よりもずっと低くなっている。
【0048】
鋼板91Aの上には、各実施例及び各比較例の評価サンプル11Aが載置され、さらにその上から繊維層20が積層される。評価サンプル11Aの平面サイズは500mm×400mmで厚みは20mmである。鋼板91Aは、600mm×500mm×0.8mm(厚さ)のサイズであり、繊維層20は、500mm×400mm×1.0mm(厚さ)のサイズで、目付量が1600g/m2の不織布である。鋼板91A、フロア用制振材、繊維層20は、長手方向が同じになるように配置される。
【0049】
そして、上述のように、鋼板91Aをフレーム部60に固定した状態で、ベース部63の底部64の中央部を、インパルスハンマー68で下方から叩き、フレーム部60を通じて鋼板91Aに振動を与える。なお、インパルスハンマー68で底部64を叩いた場合のフレーム部60の振動は、鋼板91Aの振動に比べて無視できる程度になっている。
【0050】
インパルスハンマー68と加速度センサ67は、FFTアナライザに接続される。そして、インパルスハンマー68の加振力と加速度センサ67の検出結果とから、周波数毎の振動伝達率[dB]を得て(
図6(A)及び
図6(B)参照)、得られた共振ピークのうち、ロードノイズに特に寄与が大きいとされる125~400Hz付近にみられる4つの共振ピーク(約160Hz、約220Hz、約240Hz、約370Hz。
図6(B)において矢印で示されるピーク)について、振動伝達率(共振ピークの高さ)を評価した。
【0051】
制振性は、上記4つのピークにおける振動伝達率の平均値が、13dB以下の場合には◎、13dBを超えて16dB以下の場合には〇、16dBを超える場合には×、と評価した。なお、振動伝達率が低い程、制振性は良好である。
【0052】
(5)総合評価
制振性の評価と硬さの評価の両方が〇以上の場合、総合評価を◎とした。制振性の評価が〇以上であるが、硬さの評価が×である場合、総合評価を〇とした。制振性の評価が×であれば、総合評価を×とした。
【0053】
<評価結果>
図4(A)に示すように、ポリウレタンフォーム層11を有する実施例1~3,5,6のフロア用制振材では、不織布からなる比較例1、及び、フロア用制振材が無いブランクの比較例2に比べて、制振性が大幅に向上することが確認できた(制振性評価が〇以上)。また、圧縮歪み0~3%の範囲における平均弾性率(近似直線の傾き。
図5参照)が、400kPa以下である実施例1~3,6のフロア用制振材では、該平均弾性率が400kPaを超える実施例5のフロア用制振材に比べて、特に優れた制振性を発揮できることが確認できた。なお、実施例1~8では、応力-歪み曲線において、比例限度に対応する圧縮歪みは、3%(0.03)以上になっている(即ち、歪みの少なくとも3%までの増加に対して応力が直線的に増加する。例えば
図4(B)参照)
【0054】
また、実施例6では、制振性評価が良好であるものの、ポリウレタンフォーム層11の25%圧縮硬さが、10kPa以下となった(硬さ評価×)。これに対し、実施例1~3,8の結果から、上記平均弾性率が170kPa以上であると、25%圧縮硬さも13kPa以上となり、フロア用制振材の制振性に加えて、硬さも良好であることがわかる。また、実験例1~3では、50%圧縮硬さが20kPa以上50kPa以下となり、好ましい。
【0055】
以上により、上記平均弾性率が170kPa以上400kPa未満である実施例1~3のフロア用制振材では、100~400Hzの振動に対する制振性と、硬さの両方で、優れた効果が奏されることが確認された。
【0056】
<付記>
以下、上記実施形態及び実施例から抽出される特徴群について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。
【0057】
例えば、以下の特徴群は、フロア用制振材及び振動の制御方法に関し、「従来から様々なフロア材が開発されている(例えば、特開平9-95169(段落[0006]、
図1等)参照)」という背景技術について、「従来のフロア材に対して、制振機能が求められている。」という課題をもって想到されたものと考えることができる。また、従来から、新規なフロア用フロア用制振材や振動の制御方法が求められている。
【0058】
[特徴1]
ポリウレタンフォーム層を有するフロア用制振材。
【0059】
本特徴によれば、フロア用制振材による制振機能の発揮が可能となる。
【0060】
[特徴2]
前記ポリウレタンフォーム層の圧縮歪み0~3%の範囲における平均弾性率が、170kPa以上400kPa以下である特徴1に記載のフロア用制振材。
【0061】
本特徴によれば、フロア用制振材の制振性をより高めることが可能となる。また、本特徴のように、平均弾性率を170kPa以上(例えば180kPa以上)とすることで、脚で踏み付けられたとき等、上から押圧されたときに、フロア用制振材が圧縮されて沈み込み過ぎることを抑制可能となる。
【0062】
[特徴3]
前記ポリウレタンフォーム層の上に積層されている繊維層を有する特徴1又は2に記載のフロア用制振材。
【0063】
[特徴4]
電気自動車に用いられる特徴1から3の何れか1の特徴に記載のフロア用制振材。
【0064】
[特徴5]
100~400Hzの振動制御用の特徴1から4の何れか1の特徴に記載のフロア用制振材。
【0065】
[特徴6]
前記ポリウレタンフォーム層の25%圧縮硬さが、10kPa以上30kPa以下である特徴1から5の何れか1の特徴に記載のフロア用制振材。
【0066】
本特徴によれば、脚で踏み付けられたとき等、上から押圧されたときに、フロア用制振材が圧縮されて沈み込み過ぎることを抑制可能となり、フロア用制振材に適度な硬さを持たせることが可能となる。
【0067】
[特徴7]
特徴1から6の何れか1の特徴に記載のフロア用制振材を、車体の床面に載置したことを特徴とする100~400Hzの振動の制御方法。
【0068】
[特徴8]
特徴1から6の何れか1の特徴に記載のフロア用制振材が、車体の床面に載置されたフロア構造。
【0069】
本特徴によれば、車体のフロアの振動を低減することが可能となる。
【0070】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。