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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042372
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】インシュレータ、ステータ及びモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147044
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 友久
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604PB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成で、コイルの占積率の低下や、巻き乱れを抑制し得る、インシュレータ、これを用いたステータ及びモータを提供する。
【解決手段】本発明のインシュレータ45は、磁性体を内側に収容する内周面と、コイルに囲まれる外周面と、を有する筒状部45aと、筒状部45aの軸方向cdにおいて、筒状部45aの両端部とつながり、筒状部45aの軸方向cdと交差する方向に延びて広がった一対の壁部45b,45cと、を備え、一方の壁部45bには環状の凹部43が形成されており、環状の凹部43は他方の壁部45cに対向している。また、本発明のステータは、インシュレータ45と、筒状部45aの内周面の内側に収容された磁性体と、筒状部45aの外周面に巻かれたコイルと、を備え、環状の凹部43には、コイルの一部が収容されている。さらに、本発明のモータは、本発明のステータとロータとを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を内側に収容する内周面と、コイルに囲まれる外周面と、を有する筒状部と、
前記筒状部の軸方向において、前記筒状部の両端部とつながり、前記筒状部の軸方向と交差する方向に延びて広がった、一対の壁部と、を備え、
前記一対の壁部のうち一方の壁部には環状の凹部が形成されており、前記環状の凹部は他方の壁部に対向する、インシュレータ。
【請求項2】
前記一方の壁部における前記環状の凹部が形成された面には、線状の凹部が形成されており、
前記線状の凹部は、前記環状の凹部から前記筒状部の軸方向と交差する方向に分岐している、請求項1に記載のインシュレータ。
【請求項3】
前記筒状部の軸方向において連結する2つの部材で形成されている、請求項1に記載のインシュレータ。
【請求項4】
請求項1に記載のインシュレータと、前記筒状部の内周面の内側に収容された磁性体と、前記筒状部の外周面に巻かれたコイルと、を備え、
前記環状の凹部には、前記コイルの一部が収容されている、ステータ。
【請求項5】
請求項2に記載のインシュレータと、前記筒状部の内周面の内側に収容された磁性体と、前記筒状部の外周面に巻かれたコイルと、を備え、
前記環状の凹部には、前記コイルの一部が収容され、
前記線状の凹部には、前記コイルから引き出された引出線が収容されている、ステータ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のステータと、ロータと、を備える、モータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インシュレータ、ステータ及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータとコイルとの間の絶縁を確保するため、インシュレータを用いたモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。インシュレータは、内周面の内側にステータが収容され、かつ、外周面にコイルが巻かれた筒状部を備えたものである。また、インシュレータは、筒状部の両端部とそれぞれつながり、筒状部の軸方向(筒状部の両端開口の中心を結んだ線分の方向)と直交する方向に延びて広がった一対の壁部を備えたものが多い。この一対の壁部によって、筒状部に巻かれたコイルが筒状部の両端部から脱落することが阻止されている。
【0003】
インシュレータにコイルを巻き付ける際に、一対の壁部のうちの一方側から巻き始めるが、巻き始めて1回転したふた巻き目のところで、巻き始め部分のコイルが邪魔になることがある。特に、線径が太いコイルや角線のコイルの場合、巻き始め部分のコイルがより邪魔になりやすい。巻き始め部分のコイルを避けてふた巻き目以降のコイルを巻き付けようとすると、最初のひと巻き目を避けるように斜めにずらしつつ巻き回すことになる。その後の巻き回しの際も、1つ前に巻き回しのコイルを避けるように斜めにずらしつつ巻き回すことになる。このことは、効率的な巻き回しやスムーズな巻き回し動作の障害になる。そのため、コイルの占積率の低下に繋がったり、巻き乱れの要因になったりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-208021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡易な構成で、コイルの占積率の低下や、巻き乱れを抑制し得る、インシュレータ、これを用いたステータ、及び、これらを用いたモータを提供することを課題の一例とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、例えば、以下の本発明の一態様により解決される。即ち、本発明の一態様は、磁性体を内側に収容する内周面と、コイルに囲まれる外周面と、を有する筒状部と、
前記筒状部の軸方向において、前記筒状部の両端部とつながり、前記筒状部の軸方向と交差する方向に延びて広がった、一対の壁部と、を備え、
前記一対の壁部のうち一方の壁部には環状の凹部が形成されており、前記環状の凹部は他方の壁部に対向する、インシュレータである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一例である実施形態にかかるモータの斜視図である。
図2】本発明の一例である実施形態にかかるモータの縦断面図であり、図4におけるA-A断面図に相当する。
図3】本発明の一例である実施形態にかかるモータの断面斜視図であり、図2におけるB-B断面図に相当する。
図4】本発明の一例である実施形態にかかるモータの横断面図であり、図2におけるB-B断面図に相当する。
図5】本発明の一例である実施形態にかかるモータにおけるステータの一部を拡大した部分拡大斜視図である。
図6】本発明の一例である実施形態にかかるモータから、本発明の一例である実施形態にかかるインシュレータのみを抜き出した拡大斜視図である。
図7】本発明の一例である実施形態にかかるモータから、インシュレータとコイルとを抜き出した拡大斜視図である。
図8】本発明の一例である実施形態にかかるインシュレータの縦断面図であり、図6におけるC-C断面図に相当する。
図9】本発明の一例である実施形態にかかるインシュレータにコイルの導線を巻き付け始めた初期の状態を示す、上側aからの平面図である。
図10】環状の凹部が形成されていない比較用のインシュレータにコイルの導線を巻き付け始めた初期の状態を図9と同方向から示す平面図である。
図11】本発明の一例である実施形態にかかるインシュレータを構成する一方の部材の斜視図である。
図12】本発明の一例である実施形態にかかるインシュレータを構成する他方の部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態にかかるインシュレータ、ステータ及びモータについて、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本発明の一例である実施形態にかかるモータ1の斜視図であり、図2は、モータ1の縦断面図であり、図3は、モータ1の断面斜視図であり、図4は、図3と同じ断面における横断面図である。図2は、図4におけるA-A断面図に相当し、図3及び図4は、図2におけるB-B断面図に相当する。
【0010】
本実施形態の説明において、モータ1の回転軸である軸線x方向において、矢印a方向の側を上側aとし、矢印b方向の側を下側bとする。なお、本実施形態の説明において、上側乃至下側と云う時は、図面における上下関係を意味し、重力方向における上下関係とは、必ずしも一致しない。
【0011】
また、本実施形態の説明において、軸線xに垂直な径方向において、軸線xから遠ざかる方向(矢印c方向)の側を外側cとし、軸線xに向かう方向(矢印d方向)の側を内側dとする。さらに、軸線xを中心とする円周方向(以下、「周方向ef」ともいう。)において、時計周りの方向を時計回り方向eとし、反時計周りの方向を反時計回り方向fとする。
【0012】
図1図4に示されるように、本実施形態にかかるモータ1は、回転軸となるシャフト2と、シャフト2に固定されて共に回転するロータ3と、ロータ3を取り囲むように配置されたステータ4と、モータ1の構成部品の一部又は全部を内部に収容するハウジング5と、を備えてなる。
【0013】
ロータ3は、磁性体で形成されたロータコア33内にマグネット31が配置されてなる。ステータ4は、磁性体で形成されたステータコア41にコイル42が巻回されてなり、ハウジング5に固定されている。本実施形態におけるモータ1は、インナーロータタイプのブラシレスモータの一種であり、IPMモータと称されるモータである。IPMモータとは、ロータ3にマグネット31を埋め込んだものであり、埋込マグネット型モータとも呼ばれている。
【0014】
ハウジング5は、ロータ3やステータ4等のモータ1の構成部品の一部又は全部を内部に収容し、ステータ4が固定されるハウジング本体51と、ハウジング本体51の上部の開口を覆うカバー52とを有する。ハウジング本体51は、環状の底部51aと、底部51aの内周に連なって筒状に下側bに突出する突出部51bと、底部51aの外周に連なる外周部51cと、を備える。
【0015】
カバー52は、環状の平板部52aと、平板部52aの内周に連なって筒状に下側bに突出する突出部52bと、平板部52aの外周に連なる外周部52cと、を備える。カバー52の突出部52bは、シャフト2の長手方向(軸線x方向)において、ロータ3に向かう方向(下側b方向)に突出している。
【0016】
ハウジング本体51の外周部51cとカバー52の外周部52cとが嵌合され、かつ、固定(締結)されて、モータ1の全部または一部がハウジング5の内部に収容されることで、モータ1として完成する。
【0017】
図1に示されるように、カバー52の平板部52aには、その中心に円形の開口部52eと、円弧状で開口部52eを取り囲む一対の開口部52dが設けられている。不図示ではあるが、ハウジング本体51の底部51aにも開口部が設けられている。この底部51aの開口部によって、開口部52dとともにモータ1の内外が連通され、空気の流れが生じるため、モータ1の内部が冷却されるようになっている。
【0018】
モータ1には、シャフト2をハウジング5に対して回転可能に支持する2つの軸受61,62が設けられている。
ハウジング本体51の突出部51bは、軸線x方向において、下側bに向かって円筒状に突出しており、その内部に、複数の軸受61,62のうち一方の軸受61が取り付けられている。軸受61は、圧入などにより、突出部51bの内部に固定されている。
【0019】
カバー52の突出部52bは、軸線x方向において、下側bに向かって円筒状に突出しており、その内部に、複数の軸受61,62のうち他方の軸受62が取り付けられている。軸受62は、圧入などにより、突出部52bの内部に固定されている。
【0020】
径方向(cd方向)において、一方の軸受61の外径及び内径と他方の軸受62の外径及び内径は、それぞれ略同じとなっている。なお、一方の軸受61の外径及び内径と他方の軸受62の外径及び内径とは略同じであるが、一方の軸受61の外径または内径あるいはその両方より、他方の軸受62の外径または内径あるいはその両方を大きくしても、小さくしても構わない。
【0021】
シャフト2は、2つの端部2a,2bを備えており、ハウジング本体51側にある一方の端部2bが一方の軸受61によりハウジング本体51に対して回転可能に支持され、カバー52側にある他方の端部2a寄りの位置で他方の軸受62に回転可能に支持されている。
【0022】
よって、シャフト2は、軸受61を介してハウジング本体51、及び、軸受62を介してカバー52に、それぞれ周方向efに回転自在に固定されており、カバー52の開口部52eからシャフト2の一方の端部2aが突き出している。
【0023】
シャフト2はロータ3に固定されており、ステータ4とロータ3との電磁気的作用によってロータ3が周方向efに回転すると、ロータ3とともにシャフト2が周方向efに回転するようになっている。そして、モータ1においては、シャフト2の一方の端部2a近傍から回転力を外部に取り出すことができるようになっている。
【0024】
ロータ3は、ロータコア33及びマグネット31を有する。ロータコア33は、軸線x方向に積層する複数の磁性体の積層体となっている。かかるロータコア33は、孔部34と、環状の内周部33aと、内周部33aの外周面からステータ4に向けて放射状に形成された複数(本実施形態では20本)のスポーク33bと、複数のスポーク33bの外周端と連結する環状の外周部33cと、を有する。ロータコア33の孔部34は、環状の内周部33aの中央部に設けられている。ロータコア33の孔部34には、シャフト2が挿入されている。
【0025】
外周部33cには、径方向の外側cに複数(本実施形態では20個)のマグネット31が埋め込まれている。複数のマグネット31は、磁極を径方向の両側cdに向けて、周方向efに等間隔で配置されている。マグネット31の磁極の向きは、外側cを向く磁極が、N極とS極とが交互になるように周方向efに並べられている。
【0026】
外周部33cは、複数のマグネット31のそれぞれを取り囲むように設けられた凸部33dを有する。凸部33dは薄肉に形成され、凸部33dの内部には矩形の空間33d1が形成されている。また、外周部33cにおける、凸部33dの空間33d1それぞれに対応する位置に、径方向の内側dに向けて凹んだ凹部33eが形成されている。
【0027】
この凹部33eに基づく空間33e1と、凸部33dの空間33d1とが合わさった略矩形の空間33d1,33e1に、マグネット31が埋め込まれている。実際には、軸線x方向に長尺状の断面略矩形の空間33d1,33e1に対して、長尺状で立方体形状のマグネット31を挿し込んで固定することで、マグネット31がロータコア33に埋め込まれる。
【0028】
なお、空間33d1の開口部(径方向の外側c端部)の周方向における長さは、空間33e1の開口部(径方向の内側d端部)の周方向における長さに比べて、僅かに大きくなっている。そのため、空間33d1,33e1における軸線x方向と垂直方向の断面形状は、厳密には矩形ではない。
【0029】
ステータ4は、インシュレータ45と、ステータコア(磁性体)41と、コイル42を有する。ステータコア41は、珪素鋼板等の磁性体の積層体となっている。かかるステータコア41は、シャフト2と同軸上に配された環状部(以下、「円環部」と称する。)41aと、円環部41aからシャフト2側(矢印d方向側)へ向かって延びるように形成された複数(本実施形態では24本)の磁極部(以下、「ティース」と呼称する。)41bと、を備える。
【0030】
複数のティース41bは、円環部41aから分割可能である。即ち、ステータコア41は、円環部41aと、複数のティース41bとで構成された分割コアである。円環部41aと複数のティース41bとは境界線Rで分割されている。
【0031】
また、ティース41bは、円環部41aからシャフト2側に向かって延在するスポーク(磁極部)41dと、スポーク41dの端部で周方向の両側に張り出した突出部(磁極部)41cと、を備える。スポーク41dは、円環部41aと突出部41cとを連結する連結部となっており、また磁路を形成している。径方向cdにおいては、ステータコア41の突出部41cと、ロータコア33の凸部33dとは、磁気ギャップGを介して対向している。
【0032】
コイル42は、複数のティース41b(詳しくはスポーク41d)の各々の周囲に巻き回されている。ステータコア41とコイル42との間には、絶縁体で形成されたインシュレータ45が介在しており、インシュレータ45によってステータコア41とコイル42とが絶縁されている。
【0033】
図5に、モータ1におけるステータ4の一部を拡大した部分拡大斜視図を示す。図5は、軸線xの上側aから見た斜視図である。ステータコア41の個々のティース41bの一部分(図5においては、インシュレータ45の内部に隠れているスポーク41dの一部分。)は、インシュレータ45に囲まれて、そのインシュレータ45にコイル42が巻き回されている。
【0034】
図6は、ステータコア41の1つのティース41bに取り付けられているインシュレータ45のみを抜き出した拡大斜視図である。また、図7は、ステータコア41の1つのティース41bに取り付けられているインシュレータ45と、当該インシュレータ45に巻き回されたコイル42と、を抜き出した拡大斜視図であり、図6のインシュレータ45にコイル42が巻き回された状態を示すものである。
【0035】
図6に示されるように、インシュレータ45は、筒状部45aと、一対の壁部45b,45cと、を備える。図5に示されるように、筒状部45aには、その内周面の内側にステータコア41のティース(磁性体)41bが収容され、かつ、その外周面にコイル42が巻かれている。
【0036】
筒状部45aの軸方向(筒状部45aの両端開口の中心を結んだ線分の方向。筒状部45aの内側を通る径方向cdと同じ。以下、「軸方向cd」と表記する場合がある。)において、一対の壁部45b,45cは、筒状部45aの両端部とそれぞれつながっている。この一対の壁部45b,45cは、筒状部45aの軸方向cdと交差する方向(本実施形態では、特に直交する方向)に延びて広がった形状をしている。
【0037】
図8に、モータ1におけるインシュレータ45の縦断面図を示す。図8は、図6(及び、後に説明する図9)におけるC-C断面図に相当する。図8には、一対の壁部45b,45cのうち一方の壁部45bのみが描かれている。図8に示されるように、壁部45bにおける、他方の壁部45c(図6参照)に対向する面(以下、「第1対向面」と称する。)45b1には、環状の凹部(以下、「環状凹部」と称する。)43が形成されている。環状凹部43は、第1対向面45b1における筒状部45aとの連結部を取り囲むように環状に形成されている。
【0038】
環状凹部43は、コイル42の導線の外形が嵌まり込む形状であることが好ましく、本実施形態では、導線(後に説明する図9の「導線42a」参照)の半分以上が嵌まり込む略円筒形状の凹部となっている。また、環状凹部43は、インシュレータ45にコイル42の導線42aを巻き付け始めた際の最初のひと巻き目の導線42aに対応する位置に設けられている。
【0039】
インシュレータ45にコイル42の導線42aを巻き付ける際には、径方向cdにおける外側cから巻き始めて、内側dに向けて巻き進める。具体的には、一方の壁部45bの第1対向面45b1から、第1対向面45b1に対向する他方の壁部45cの面(以下、「第2対向面」と称する。)45c1に向けて、コイル42の導線42aが巻き進められる。その後、逆方向、即ち内側dから外側cに向けて巻き付けたり、同方向、即ち外側cから内側dに向けて巻き付けたり、これらを繰り返したり組み合わせたりしながら、導線42aを重ねつつコイル42が巻き上げられる。
【0040】
図9は、インシュレータ45にコイル42の導線42aを巻き付け始めた初期の状態を示す、上側aからの平面図である。また、図10には、図9における環状凹部43に相当する凹部が形成されていない比較用のインシュレータ45′にコイル42の導線42aを巻き付け始めた初期の状態を図9と同方向からの平面図を示す。
【0041】
図10に示されように、比較用のインシュレータ45′は、第1対向面45b1′に環状の凹部が形成されておらず、単なる平面状になっている。なお、図10において、インシュレータ45′における第1対向面45b1′以外の部材や部位は、本実施形態と同一の構成なので、本実施形態における図9の符号と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
図10に示されように、比較用のインシュレータ45′において、最初のひと巻き目では、一方の壁部45b′の第1対向面45b1′に導線42aが接した状態で筒状部45aに巻き始められる(始端点c1)。導線42aを巻き始めて1回転したふた巻き目のところで、巻き始め部分の導線42aの始端点c1が邪魔になる。特に、径の太い導線42aの場合に、最初のひと巻き目の始端点c1がふた巻き目の道筋でより邪魔になる。
【0043】
そのため、ふた巻き目になる直前のコイル42の道筋(導線42aのひと巻き目の後半の道筋)c2を、図10に示されるように、最初のひと巻き目の始端点c1を避けるように斜めにずらしつつ導線42aを巻き回すことになる。そして、軸方向cdにおいて、ふた巻き目の巻き始めとなる開始点c3が始端点c1と並んだ状態になるように、導線42aがインシュレータ45′に巻き回される。
【0044】
次の三巻き目の巻き回しの際も、その直前のコイル42の道筋が、ふた巻き目の導線42aの開始点c3を避けるように、導線42aを斜めにずらしつつ巻き回され、三巻き目の巻き始めとなる開始点が1つ前の開始点c3と並んだ状態になる。
【0045】
その後の導線42aの巻き回しの際も、その直前のコイル42の道筋を、1つ前の巻き回しの導線42aの開始点を避けるように、導線42aを斜めにずらしつつ巻き回され、それぞれの巻き目の巻き始めとなる開始点が直前の巻き目の開始点と並んだ状態になる。
【0046】
即ち、インシュレータ45′の筒状部45aに導線42aが1周巻き回される毎に斜めにずらされ、コイル42全体として大きく斜めに歪められるため、効率的な巻き回しやスムーズな巻き回し動作の障害になる。そのため、占積率を下げる要因や巻き乱れの要因になっていた。
【0047】
しかし、本実施形態では、図9に示されるように、壁部45bにおける第1対向面45b1に環状凹部43が形成されているため、当該環状凹部43に、最初のひと巻き目の導線42aの一部が嵌まり込んだ状態で収容される。そのため、本実施形態にかかるインシュレータ45において、巻き始め部分の導線42aの始端点c1が、図10に示される比較用のインシュレータ45′よりも、外側cにずれた状態になっている。
【0048】
図9に示されるように、本実施形態にかかるインシュレータ45において、巻き始め部分の導線42aの始端点c1が外側cに退避した状態になっている。そのため、導線42aを巻き始めてふた巻き目になる直前のコイル42の道筋(導線42aのひと巻き目の後半の道筋)c2への影響が、比較用のインシュレータ45′に比して軽減されている。
【0049】
即ち、図9に示されるように、本実施形態にかかるインシュレータ45において、始端点c1を避けるようにずらす導線42aの斜めの程度が軽減される。そして、三巻き目以降の巻き回しの際においても、導線42aが斜めに歪められる程度が抑制されるため、効率的な巻き回しやスムーズな巻き回し動作への障害が軽減される。
【0050】
したがって、本実施形態にかかるインシュレータ45によれば、簡易な構成でありながら、コイル42の占積率の低下や、巻き乱れを抑制することができる。
また、本実施形態にかかるインシュレータ45によれば、スムーズな巻き回し動作が期待できるため、導線42aを巻き回しする際の作業性の向上を実現することができる。
【0051】
さらに、本実施形態にかかるインシュレータ45によれば、一方の壁部45bと他方の壁部45cと間の距離よりも環状凹部43の深さの分だけ広い、コイル42(導線42a)の巻き回し領域が確保されるので、インシュレータ45のコンパクト化を図ることができる。あるいは、インシュレータ45のコンパクト化に代えて、あるいは加えて、磁気特性の向上を実現可能とすることができる。
【0052】
本実施形態にかかるインシュレータ45において、図8に示されように、一方の壁部45bにおける第1対向面45b1には、環状凹部43から軸方向cdと交差する方向(本実施形態では、特に直交する方向)に分岐した線状の凹部(以下、「線状凹部」と称する。)46が形成されている。線状凹部46は、矩形の環状凹部43の四隅から、それぞれ上側aまたは下側bに向かうように線状に形成されている。
【0053】
線状凹部46は、例えば、環状凹部43と同じ凹形状であり、コイル42の導線42aの外形が嵌まり込む形状であればよい。本実施形態では、環状凹部43と同じ凹形状であり、導線42aの半分以上が嵌まり込む略半円筒形状の凹部となっている。
【0054】
インシュレータ45にコイル42の導線42aを巻き付ける前に、線状凹部46の内の1つに導線42aを嵌まり込ませて収容させた上で導線42aをひと巻き目から巻き回す。このようにして導線42aを巻き付けてコイル42になった状態が、図7に示されている。線状凹部46に収容された導線42aは、引出線47になる。
【0055】
以上のように、本実施形態にかかるインシュレータ45は、第1対向面45b1に環状凹部43から分岐した線状凹部46が形成されているため、コイル42から引き出された引出線47が線状凹部46に収容される(図7及び図9参照)。線状凹部46に収容された引出線47は、線状凹部46と環状凹部43との分岐点でコイル42に繋がり、線状凹部46における引出線47と同様に、ひと巻き目のコイル42の一部が環状凹部43に収容された状態になっている(図9参照)。即ち、線状凹部46と環状凹部43の凹部の深さがほぼ同じであることから、軸方向cdにおいて、引出線47とコイル42のひと巻き目の始端点c1との位置がほぼ一致するので、コイル42の導線42aをスムーズに巻き付けることができる。
【0056】
本実施形態にかかるインシュレータ45は、成形性の観点から、筒状部45aの軸方向(軸方向cd)において連結する2つの部材45-1,45-2で形成されている。図6及び図9において、一方の部材45-1と他方の部材45-2とは境界線Dで連結されている。境界線Dは、軸方向cdにおいて、筒状部45aのおよそ中心に位置している。一方の部材45-1と他方の部材45-2とは、接着剤、圧入、嵌めあい、係止、ねじ止め等何れの固定方法によって連結されていても構わない。
【0057】
図11に、インシュレータ45を構成する一方の部材45-1の斜視図を示す。また、図12に、インシュレータ45を構成する他方の部材45-2の斜視図を示す。図11及び図12に示される部材45-1及び部材45-2をそれぞれ別個に成形した上で、部材45-1の連結部D1と部材45-2の連結部D2とを例えば接着剤で接着することにより、図6に示されるインシュレータ45を得ることができる。
【0058】
部材45-1及び部材45-2を成形する成型方法としては、例えば、射出成形、圧縮成形、トランスファ成形、プレス成形等が挙げられるが、特に制限はない。何れの成型方法においても、図6に示されるインシュレータ45の形状を一度に成形することは困難であるが、図11及び図12に示される部材45-1及び部材45-2の別個の部材とし、これらをそれぞれ成形することで、比較的容易に成形することができる。
【0059】
以上説明した本実施形態にかかるインシュレータ45と、インシュレータ45の筒状部45aの内周面の内側に収容されたティース(磁性体)41b(ステータコア41)と、筒状部45aの外周面に巻かれたコイル42と、を備えたものが、本実施形態にかかるステータ4に相当する。
【0060】
また、以上説明した本実施形態にかかるステータ4と、ロータ3と、を備えたものが、本実施形態にかかるモータ1に相当する。
【0061】
本実施形態にかかるステータ4や本実施形態にかかるモータ1は、本実施形態にかかるインシュレータ45を備えていることから、本実施形態にかかるインシュレータ45に基づく作用及び効果を奏し得るものである。特に、インシュレータ45のコンパクト化や磁気特性の向上の実現は、ステータ4としての、さらにはモータ1としての、コンパクト化や磁気特性、延いては性能の向上の実現に繋がる。
【0062】
以上、本発明のインシュレータ、ステータ及びモータについて、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のインシュレータ、ステータ及びモータは、上記の実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態においては、環状凹部43や線状凹部46として、導線42aの半分以上が嵌まり込む略円筒形状の凹部が形成されている例を挙げているが、本発明においてはこれに限定されない。
【0063】
環状凹部43や線状凹部46として、導線42aの半分程度が嵌まり込む略円筒形状の凹部が形成されていればよい。さらに、導線42aの一部が少しでも収容される程度の深さの凹部であればよい。
【0064】
また、上記の実施形態においては、一方の壁部45bにおける第1対向面45b1に形成された4つの線状凹部46のうち1の線状凹部46に1の引出線47の一部が収容された構成を例に挙げているが、本発明においてはこれに限定されない。
【0065】
一般に1のコイルには引出線が一対あるので、上記の実施形態においても、もう一方の引出線47の一部が、残りの何れかの線状凹部46に収容された構成であってもよい。さらに、引出線が3~4本ある場合には、それぞれの引出線の一部を別々の線状凹部46に収容させた構成であっても構わない。
【0066】
逆に、上記の実施形態において、引出線47の一部が収容されている線状凹部46以外の線状凹部46については、形成されていなくても構わない。さらに、線状凹部が全く形成されていないインシュレータであっても、環状凹部43が形成されてさえいれば、環状凹部43にコイル42の一部を収容させることができる。
【0067】
また、上記の実施形態においては、一対の壁部45b,45cのうち、外側cにある壁部45bの第1対向面45b1にのみ、環状凹部43及び線状凹部46が形成された例を挙げているが、本発明においてはこれに限定されない。本発明においては、内側dにある壁部45cの第2対向面45c1にのみ、あるいは、第2対向面45c1と、外側cにある壁部45bの第1対向面45b1と、の両方に、環状凹部43(あるいはさらに線状凹部46)が形成されていても構わない。
【0068】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のインシュレータ、ステータ及びモータを適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
1…モータ、2…シャフト、3…ロータ、4…ステータ、5…ハウジング、31…マグネット、33…ロータコア、33a…内周部、33b…スポーク、33c…外周部、33d…凸部33d、33d1,33e1…空間、33e…凹部、41…ステータコア(磁性体)、41a…円環部、41b…ティース(磁性体)、41c…突出部、41d…スポーク、42…コイル、42a…導線、43…環状凹部(凹部)、45…インシュレータ、45a…筒状部、45b…壁部(一方の壁部)、45b1…第1対向面、45c…壁部(他方の壁部)、45c1…第2対向面、46…線状凹部(凹部)、47…引出線、51…ハウジング本体、51a…底部、51b…突出部、51c…外周部、52…カバー、52a…平板部52a、52b…突出部、52c…外周部

図1
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図11
図12