(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042427
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ホウ化水素シート及び担体を含む組成物及びそれを用いる水素放出方法
(51)【国際特許分類】
C01B 6/11 20060101AFI20240321BHJP
C01B 6/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C01B6/11
C01B6/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147127
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】マイヘムティジアング ダウティ
(72)【発明者】
【氏名】水越 和志
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、効率的に水素を放出できる組成物及び水素放出方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のホウ化水素シート及び担体を含む組成物であって、紫外光の透過度が0%を超えて100%より小さくなるよう、ホウ化水素シート及び担体を、1:0.1~100の容積比で含む組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ化水素シート及び担体を含む組成物であって、紫外線の透過度が0%を超えて100%より小さい組成物。
【請求項2】
気孔率が0%を超えて、99.99%以下であり、ホウ化水素シート及び担体を、1:0.1~100の容積比で含む。請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物に、紫外線を照射する工程、を含む、水素放出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ化水素シート及び担体を含む組成物及びそれを用いる水素放出方法に関する。本発明によれば、効率的に水素を放出することができる。
【背景技術】
【0002】
水素は、利用時に二酸化炭素を排出せず、そして貯蔵及び輸送が可能な二次エネルギーである。一方で、水素は天然ガスと比べ、体積当たりのエネルギー密度が低い。従って、高圧タンクに圧縮した水素ガスとして貯蔵される。しかし、高圧にする場合、コストがかる。更に、水素ステーションの建設及び維持のコストは、ガソリンスタンドの建設及び維持のコストよりも高い。従って、水素をエネルギーとして用いる水素自動車は、ガソリン車よりも普及が進んでいない。
水素を貯蔵する方法として、水素吸蔵合金が挙げられるが、重量当たりの水素貯蔵量が少ない。また、常圧で多量の水素を貯蔵する方法として、ホウ化水素シートを用いる方法が開発されている(特許文献1~3、及び非特許文献1~2)。ホウ化水素シートは、加熱により、水素を放出する(特許文献1)。しかし、加熱による水素の放出は、その制御が難しい。一方、ホウ化水素シートに紫外光を照射することにより、水素を放出する技術が開発されている(特許文献2、及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2018/074518号
【特許文献2】特開2019-218251号公報
【特許文献3】特開2016-185899号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ネイチャー・コミュニケーションズ(nature communications)」(英国)2019年、第10巻、p4880-
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ-(Journal of the American Chemical Society)」(米国)2017年、第139巻、p13761-13769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紫外線照射による水素の放出は、上部が開放されている直径0.48cmのセラミックカップに、粉状のホウ化水素シート20mgを敷く。紫外光を透過する板が取り付けられ、そして不活性ガス(窒素、アルゴン)雰囲気にすることが可能な容器内に、前記カップを静置し、上方から紫外光を照射し水素を放出する。この方法においては、ホウ化水素シートに光が侵入する深さが制限される(例えば、UV光の場合は13μmである)。従って、紫外光が照射されるホウ化水素シートの体積が限られるため、20mgの全てのホウ化水素シートから水素を放出することができない(非特許文献1)。
従って、本発明の目的は、効率的に水素を放出できる組成物及び水素放出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、効率的に水素を放出できる組成物及び水素放出方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、ホウ化水素シートに担体を添加することによって、効率的に水素を放出できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]ホウ化水素シート及び担体を含む組成物であって、紫外線の透過度が0%を超えて100%より小さい組成物、
[2]気孔率が0%を超えて、99.99%以下であり、ホウ化水素シート及び担体を、1:0.1~100の容積比で含む、[1]に記載の組成物、及び
[3][1]又は[2]に記載の組成物に、紫外線を照射する工程、を含む、水素放出方法、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物及び水素放出方法によれば、効率的に水素を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ホウ素及び水素からなるホウ化水素シート構造を3次元で示した図(A)、及びホウ素、水素、及び酸素を含むホウ化水素シートの構造を模式的に示した図(B)である。
【
図2】実施例1の組成物における、水素の放出を模式的に示した図である。
【
図3】比較例1の組成物における、水素の放出を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]組成物
本発明の組成物は、ホウ化水素シート及び担体を含む。紫外光の透過度が0%を超えて100%より小さくなるよう、前記ホウ化水素シート及び担体は、1:0.1~100の容積比で含まれる。
【0010】
《紫外線透過度》
本発明の組成物は、効率的に水素を放出するために、紫外光の透過度が0%を超えて100%より小さいことが好ましい。なぜならば、透過度が0%では、光が届かないホウ化水素シートがあり、効率的に水素を放出できない。また、透過度が波長全体で100%に近い場合、ホウ化水素シートが紫外光を吸収できない。紫外光の透過度の下限は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ある様態では、1×10-59%以上であり、ある様態では、1×10-11%以上であり、ある様態では0.001%以上であり、ある様態では0.01%以上であり、ある様態では0.1%以上である。紫外光の透過度の上限も、本発明の効果が得られる限りにおいては特に限定されるものではないが、ある様態では90%以下であり、ある様態では80%以下であり、ある様態では、50%以下である。前記紫外線透過度であることによって、本発明の組成物は、ホウ化水素シートから効率的に水素を放出することができる。
透過度の測定は、日本工業規格JISK7361-1:1997に定義された全光線透過率の測定方法を援用する。試験片は、次の通り一部変更する。5.1において、厚さを保持して切り出す。厚さ測定方法は、次の通り一部変更する。7.4において、試験片は3か所の厚さを0.01mmの精度で測定する。
【0011】
《気孔率》
本発明の組成物の気孔率は、上記好ましい透過率にするため、0%を超えて、99.99%以下であることが好ましい。気孔率の下限は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ある様態では15%以上であり、ある様態では40%以上であり、ある様態では91%以上である。気孔率の上限も、本発明の効果が得られる限りにおいては特に限定されるものではないが、ある様態では99%以下であり、ある様態では98%以下であり、ある様態では、95%以下である。前記気孔率であることによって、本発明の組成物は、ホウ化水素シートから効率的に水素を放出することができる。
気孔率の測定は、日本工業規格JISR1634:1998に定義された開気孔率の測定方法を援用して測定する。測定に用いる装置・器具は、次の通り一部変更する。4. b)において、質量計は0.00001gの桁まで測定できる質量計とする。測定方法は、次の通り一部変更する。6.6.1において、放冷は大気中で行うことができる。6.6.4において、水中から取り出した飽水試料の表面をぬぐうことをせず、水滴が垂れていないことを確認後、測定を行うことができる。
【0012】
《容積比》
前記ホウ化水素シートと担体との容積比は、上記好ましい透過率にするため、1:0.1~100であることが好ましい。容積比の下限は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ある態様では1:0.2以上であり、ある様態では1:0.3以上であり、ある様態では1:0.5以上である。上限も、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではないが、ある態様では1:80以下であり、ある様態では1:50以下であり、ある様態では1:10以下である。前記下限と上限とは、適宜組み合わせることができる。前記容積比であることによって、本発明の組成物は、ホウ化水素シートから効率的に水素を放出することができる。
【0013】
本発明の組成物の厚さは、例えば0.01~100mmである。組成物の厚さの下限は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ある態様では0.02mm以上であり、ある態様では0.03mm以上であり、ある態様では0.05mm以上であり、ある態様では0.1mm以上である。組成物の厚さの上限も、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではないが、ある態様では、95mm以下であり、ある態様では90mm以下であり、ある態様では85mm以下であり、ある態様では80mm以下である。前記下限と上限とは、適宜組み合わせることができる。
【0014】
《ホウ化水素シート》
本発明に用いられるホウ化水素シートは、ホウ素及び水素を含む限りにおいて特に限定されるものではないが、本分野において用いられるホウ化水素シートを限定することなく用いることができる。
例えば、ホウ素及び水素のみからなる理想的なホウ化水素シートは、
図1(A)に示す3次元の構造を有する。また、ホウ化水素シートは、酸素を含むものもある。すなわち、ホウ素、水素、及び酸素を含み、
図1(B)に示すB-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有し、BH及びBOHの組み合わされた(BH)n(BOH)mの構造を有するホウ化水素シートを用いることができる。すなわち、
図1(A)における水素(H)の一部が水酸基(OH)に置換された構造となっており、BHn(OH)m(n+m=1)の構造を有する。
【0015】
前記ホウ化水素シートの厚さは、特に限定されるものではないが、0.23nm~0.50nmである。ホウ化水素シートにおいて、少なくとも一方向の長さ(例えば、
図1AにおいてX方向又はY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。本発明の構造体において、少なくとも一方向の長さが100nm以上であれば、ホウ化水素シートは、水素の貯蔵材料として有効に利用することができる。
ホウ化水素シートの大きさ(面積)は、特に限定されない。ホウ化水素シートの大きさは、ホウ化水素シートの製造方法によって、任意の大きさに形成することができる。
【0016】
ホウ化水素シートは、結晶構造を有する物質である。また、ホウ化水素シートでは、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、及び、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。そのため、本発明の構造体は、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0017】
《担体》
本発明の組成物は、担体を含む。前記担体は本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものでない。前記担体の気孔率は、例えば0%を超えて99.99%以下である。気孔率の下限は、ある様態では15%以上であり、ある様態では40%以上であり、ある様態では91%以上である。上限は、ある様態では99%以下であり、ある様態では98%以下であり、ある様態では、95%以下である。また、前記担体の紫外光の透過度は、例えば0%を超えて100%より小さい。紫外光の透過度の下限は、ある様態では1%以上であり、ある様態では、20%以上である。紫外光の透過度の上限は、ある様態では80%以下であり、ある様態では50%以下である。
形態としては、紫外線照射によって発生した水素が流れる空間を確保するために、例えばウール状、スポンジ状、又は多孔体状の形態が挙げられる。また、紫外線をホウ化水素シートに効率的に照射するために、透過度の高い担体が好ましい。
具体的な担体の材料としては、石英(石英ウール、石英ガラス多孔体)、ポリスチレン、炭素繊維、セロハン、塩化ビニル樹脂、発泡アルミナが挙げられる。
【0018】
前記ホウ化水素シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法で製造することができる。
ホウ化水素シートの製造方法は、MB2(但し、Mは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、Ti及びVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属と、前記二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程(以下、混合工程と称することがある)を含む。
【0019】
MB2型構造の二ホウ化金属は、六角形の環状の構造を有するものが用いられる。例えば、二ホウ化アルミニウム(AlB2)、二ホウ化マグネシウム(MgB2)、二ホウ化タンタル(TaB2)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、二ホウ化レニウム(ReB2)、二ホウ化クロム(CrB2)、二ホウ化チタン(TiB2)、又は二ホウ化バナジウム(VB2)が用いられる。極性有機溶媒中にて、容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができることから、二ホウ化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0020】
前記MB2型構造の二ホウ化金属の結晶子サイズは、本発明の効果が得られるホウ化水素シートを製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは平均結晶子サイズが2~5μmであり、1つの態様として2~3μmであり、別の態様として3~5μmである。前記範囲であることによって、より多くの水素を貯蔵することができる。
結晶子サイズの測定方法は、特に限定されるものではないが、好ましくはX線回折法(XRD)によって測定することができる。
MB2の粉末を粉末回折のΘ-2Θ法により、2Θ軸の回折強度を測定すればよい。具体的には、MB2粉末を粉末測定用のサンプルホルダーに固定する。MB2粉末が固定されたサンプルホルダーをXRD装置のサンプルホルダー工程治具に設置する。Θ-2Θ法で粉末を測定する。X線源としては、Cuターゲット(波長1.54Å)、又はMoターゲット(波長0.7Å)などの汎用される波長を用いることができる。得られた回折パターンより、回折ピークの半値幅β(radians)、X線波長λ(m)、回折角度Θ(radians)、及び結晶形状の因子K(単位無し、結晶形状を近似的に考え、0.9が用いられることが多い)から、以下のシェラーの式により結晶子サイズL(m)を計算する。
L=(K×λ)/(β×cosΘ)
MB2のいずれの結晶面で回折が生じたかによって、回折角度は変わるため、各回折角度について、結晶子サイズを計算する。得られる結晶子サイズは平均の値である。更に、各回折から計算される結晶子サイズの範囲より、結晶子サイズの平均の範囲を測定する。
【0021】
二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂は、特に限定されない。このようなイオン交換樹脂としては、例えば、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0022】
極性有機溶媒は、特に限定されず、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
【0023】
前記混合工程では、極性有機溶媒に二ホウ化金属とイオン交換樹脂を投入し、極性有機溶媒、二ホウ化金属及びイオン交換樹脂を含む混合溶液を撹拌し、二ホウ化金属とイオン交換樹脂を充分に接触させる。これにより、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換して、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成されるホウ化水素シートが生成される。
【0024】
例えば、二ホウ化金属として二ホウ化マグネシウムを用い、イオン交換樹脂としてスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いれば、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg2+)と、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H+)とが置換して、上述のようなホウ素原子(B)と水素原子(H)からなるホウ化水素シートが生成される。
【0025】
前記混合工程では、混合液に超音波等を加えることなく、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換する反応を、穏やかに進めることが好ましい。
【0026】
混合溶液を撹拌する際、混合溶液の温度は、15℃~35℃であることが好ましい。
混合溶液を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、700分~7000分とする。
【0027】
また、混合工程は、窒素(N2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0028】
本発明の構造体の製造方法においては、好ましくは撹拌が終了した混合溶液を濾過する(以下、濾過工程と称することがある)。混合溶液の濾過方法は、特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。また、濾材としては、例えば、セルロースを基材とする濾紙、メンブレンフィルター、セルロースやグラスファイバー等を圧縮成型した濾過板等が用いられる。
例えば、メンブレンフィルターを用いる場合、フィルターサイズは、本発明の効果が得られるホウ化水素シートを製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μm以下であり、好ましくは4μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは2μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。フィルターサイズの下限は、限定されないが、濾過時間を短くする観点から0.1μm以上が好ましい。
【0029】
濾過により沈殿物と分離されて回収された生成物を含む溶液を、自然乾燥するか、又は、加熱により乾燥することにより、最終的に生成物のみを得る。この生成物は、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する水素原子によって形成されるホウ化水素シートである。
【0030】
[2]水素放出方法
本発明の水素放出方法は、前記組成物に紫外線を照射する工程を含む。用いる紫外線の波長は、前記組成物から水素分子(H2)が放出される限りにおいて、特に限定されるものではないが、200nm~400nmの紫外線を用いることができる。
紫外線の光源としては、特に限定されるものではないが、例えば水銀キセノンランプ、高圧水銀UVランプ、低圧水銀UVランプ、紫外線LED、紫外線LD、又はメタルハライドUVランプが挙げられる。
【0031】
《作用》
本発明の組成物が、効率的に水素を放出できる機構は、詳細に解析されたわけではないが、以下のように推定することができる。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
本発明の組成物は、気孔率が0~99.99%であり、紫外線の透過度が0%を超えて100%より小さい。このような特性を有する担体と、ホウ化水素シートとを組み合わせることにより、紫外線がホウ化水素シートに到達し、そして放出された水素が、気孔を介して組成物の外に放出されると推定される。
【実施例0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
《実施例1》
本実施例では、担体として石英ウールを用い、ホウ化水素シートを含む組成物を作製した。
30mLのイオン交換樹脂(アンバーライトIR120B H型 オルガノ製)をビュレットへ入れ、120mLのアセトニトリル溶媒を加え湿潤させた。その後、ビュレットのコックを開き、溶液を流した。ビュレットに残ったイオン交換樹脂を300mLフラスコへ移し、200mLのアセトニトリル溶媒を加え、溶液中に窒素ガスを流した。更に窒素雰囲気下のグローブボックス内でMgB2を500mg秤量し、前記フラスコに撹拌子と共に入れ、攪拌しながら3日間置いた。攪拌時にはフラスコ内に窒素を流し、サンプルの大気暴露を軽減させた。得られた溶液を0.2μmのろ過フィルターと、ロータリーポンプで吸引ろ過した。ろ過は窒素雰囲気下で行った。得られた溶液内に含まれるホウ酸を析出するために、溶液を冷却し、その溶液を0.2μmのろ過フィルターと、ロータリーポンプで吸引ろ過した。更に得られた溶液の溶媒を除去するために、減圧溶媒乾燥し、168mgの黄色の粉末を得て、窒素雰囲気下のグローブボックス内に保管した。
窒素雰囲気下のグローブボックス内で2mgをスクリュー管へ採取し、1mLのアセトニトリル溶媒を加え、ホウ化水素シート溶液を調製した。石英ウール(Aグレード2~6μm)を石英管に入れ、前記ホウ化水素シート溶液を石英ウールに対し滴下した。滴下時には石英管内に窒素を流し、サンプルの大気暴露を軽減させた。また、ホウ化水素シート溶液が付着した石英ウールに対し窒素を流し、アセトニトリル溶媒を蒸発させ、ホウ化水素シートを石英ウールに担持させた。滴下による担持後、石英管の両端をセプタムにより封をし、密閉した。
【0034】
《比較例1》
本比較例では、担体を使用せずに、ホウ化水素シートのみを石英管に充填した。石英ウールを使用することを除いては、実施例1の操作を繰り返した。すなわち、窒素雰囲気下のグローブボックス内でホウ化水素シートの37mgを石英管に入れ、石英管の両端をセプタムにより封をした。
【0035】
《水素放出実験》
実施例1及び比較例1で得られたサンプルに対し、紫外線を照射して、水素分子(H
2)の放出量を測定した。実施例1を
図2に示し、比較例1を
図3に示す。
水銀キセノンランプを用いて、1mmの距離でサンプルへ紫外線を照射した。実施例1と比較例1のサンプルに対する照射は、照射面積が同じになるようにした。発生した水素ガス濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、水素濃度の変化を120分間測定した。測定時間中に得られた水素濃度の積算値を表1に示す。
照射後、実施例1のサンプルは白色に変化していた。石英管の側面を見ると、白色に変化したのは、紫外線が照射した側であり、紫外線が照射しなかった側は色の変化が少なかった。一方で、比較例1のサンプルは実施例1のサンプルと比べて少ない箇所が茶色く変化していた。石英管の側面を見ると、茶色く変化したのは、紫外線が照射した側であり、紫外線が照射しなかった側に色の変化は見られなかった。
実施例1及び比較例1で用いたHBシート重量、石英管の容積と水素濃度積算値とから、水素発生量と、実施例1及び比較例1で用いたHBシートが持つ、全水素量に占める水素発生量の割合を計算した。但し、標準状態の気体体積を22.4L/mol、HBシートの分子量を11.8g/molとし、計算に用いた。計算の結果を表に示す。
【0036】
【0037】
以下の参考例及び実施例では、本発明の請求項の範囲の具体例を説明する。実施例2は請求項1に記載の透過度および、請求項2に記載の容積比が請求項に記載の範囲内にある例である。参考例1は請求項2に記載の気孔率および容積比が請求項に記載の範囲内にある例である。
【0038】
《実施例2》
本実施例2では、担体として薄いシート状の石英ウール(厚さ0.1mm)を用い、ホウ化水素シートを含む組成物を作製した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で10.52mgのホウ化水素シートをスクリュー管へ採取し、1mLのアセトニトリル溶媒を加え、ホウ化水素シート溶液を調製した。8.58mgの石英ウール(Aグレード2~6μm)に対し、前記ホウ化水素シート溶液を滴下し、空気雰囲気下で乾燥させた。
【0039】
《参考例1》
本参考例1では、担体として丸まった形状の石英ウールを用い、ホウ化水素シートを含む組成物を作製した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で3mgのホウ化水素シートをスクリュー管へ採取し、1mLのアセトニトリル溶媒を加え、ホウ化水素シート溶液を調製した。6.44mgの石英ウール(Aグレード2~6μm)に対し、前記ホウ化水素シート溶液を滴下し、空気雰囲気下で乾燥させた。
【0040】
《容積比の計算》
参考例1および実施例2で得られたサンプルに対し、ホウ化水素シート、石英ウール密度からそれぞれの容積を計算し、容積比を計算した。但し、ホウ化水素シートの密度は2360mg/cm2、石英ウールの密度は2200mg/cm2で近似した。計算結果を表に示す。
【0041】
《気孔率の測定》
参考例1で得られたサンプルに対し、日本工業規格JISR1634:1998に定義された開気孔率の測定方法に準じた測定方法に基づいて、気孔率を測定した。測定結果を表に示す。
【0042】
《紫外線の透過度の計算》
実施例1および実施例2で得られたサンプルに対し、紫外線の透過度を計算した。アセトニトリル溶媒にホウ化水素シートを溶かして、290nm~400nm間でモル吸光係数を測定した。この測定値および、ホウ化水素シートを含む組成物の濃度、厚さを用いて、Lambert-Beerの法則より、290,320,360,400nmにおける、ホウ化水素シートを含む組成物の透過度を計算した。計算結果を表に示す。
【0043】