(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042451
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバの設計方法及びベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
F28D15/02 101Z
F28D15/02 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147185
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】水田 敬
(72)【発明者】
【氏名】三好 仁志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱的性能が抵抗力の影響を受けずに持続的な熱拡散を行うことができるベーパーチャンバの設計方法及びベーパーチャンバを提供する。
【解決手段】ベーパーチャンバは均一な格子ピッチで形成された第1微小流路31を備え、液化した冷媒の流体塊が流れる方向に毛細管力を発生させる直管部31Aと、格子点で直管部31A同士を連結する連結部31Bと、を備える。直管部31Aで流体塊に生じる加速度が正であることを第1条件、連結部31B流体塊に生じる加速度が正であることを第2条件、直管部31Aで流体塊に加えられる仕事と連結部31Bで流体塊に加えられる仕事との和が正であることを第3条件、毛細管流路4から受熱部に戻る流体塊の単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、熱源体から受熱部への単位時間当たりの入熱量を上回ることを第4条件として、第1条件、第2条件及び第4条件、または、第1条件、第3条件及び第4条件をすべて満たす。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置によって実行されるベーパーチャンバの設計方法であって、
前記ベーパーチャンバは、
被冷却体から受熱する受熱部と、
前記受熱部で気化した冷媒が移動する蒸気流路と、
放熱により液化した冷媒を毛細管力により前記受熱部に送る毛細管流路と、が内部空間に形成された平板状であり、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの面方向に沿って均一な格子ピッチで形成された2次元格子状の流路である第1微小流路を備え、
前記第1微小流路は、
前記冷媒の流体塊を一方向に送る直管部と、
前記第1微小流路の格子点で前記直管部同士を連結する連結部と、を備え、
前記直管部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第1条件とし、
前記連結部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第2条件とし、
前記直管部において前記流体塊に加えられる力がした仕事と前記連結部において前記流体塊を加えられる力がした仕事との和が正であることを第3条件とし、
前記毛細管流路から前記受熱部に戻る前記流体塊の単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、前記被冷却体から前記受熱部への単位時間当たりの入熱量を上回ることを第4条件として、
前記第1条件、前記第2条件及び前記第4条件をすべて満たすか、前記第1条件、前記第3条件及び前記第4条件をすべて満たすように、前記冷媒、前記ベーパーチャンバの材質を選定するとともに、前記毛細管流路の流路構造に係る設計パラメータの値を決定する、
ベーパーチャンバの設計方法。
【請求項2】
前記直管部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa[m/s
2]とし、
前記流体塊の密度をρ[kg/m
3]とし、
前記流体塊の体積をV[m
3]とし、
前記直管部での毛細管力をf
c[N]とし、
前記毛細管力による前記流体塊の移動を妨げる抵抗力をF
R[N]としたときに、
【数1】
を前記第1条件を表す条件式とし、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの厚み方向に延び、前記ペーパーチャンバの面方向に均一な配列ピッチで2次元配列された第2微小流路を備え、
前記連結部は、
前記第2微小流路と連結していない第1連結部と、
前記第2微小流路と連結している第2連結部と、を含み、
前記第1連結部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa
gap[m/s
2]とし、
前記第2連結部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa
gap.btm[m/s
2]とし、
前記第1連結部で生じる毛細管力をf
c.gap[N]とし、
前記第2連結部で生じる毛細管力をf
c.gap.btm[N]としたときに、
【数2】
を前記第2条件を表す条件式とし、
前記流体塊が流れる方向の前記直管部の長さをL
DT[m]とし、
前記流体塊が流れる方向の前記連結部の長さを2W[m]とし、
前記流体塊が存在する前記連結部の本数に対する、前記第1連結部の本数の割合をεとしたときに、
【数3】
を前記第3条件を表す条件式とし、
前記受熱部における前記被冷却体からの単位時間当たりの入熱量をQ
in[W]とし、
前記流体塊の単位質量当たりの蒸発潜熱をQ
LH[J/kg]とし、
前記受熱部の外縁に接する前記第1微小流路の数をN
1.Cとし、
前記受熱部に接する前記第2微小流路の数をN
2.Pとし、
前記受熱部に外縁に接するi(i=1~N
1.Cの自然数)番目の前記第1微小流路の前記流体塊が流れる方向に直交する断面の断面積をS
A1.i[m
2]とし、
前記受熱部に接するj(j=1~N
2.Pの自然数)番目の前記第2微小流路の前記流体塊が流れる方向に直交する断面の断面積をS
A2.j[m
2]とし、
前記受熱部の外縁に接するi番目の前記第1微小流路において前記流体塊が流れる速度をv
1.i[m/s]とし、
前記受熱部に接するj番目の前記第2微小流路において前記流体塊が流れる速度をv
2.j[m/s]としたときに、
【数4】
を前記第4条件を表す条件式とする、
請求項1に記載のベーパーチャンバの設計方法。
【請求項3】
前記直管部は、前記流体塊が流れる方向に直交する断面が矩形状であり、
前記直管部において前記厚み方向に対向する内壁面間の距離を2H[m]とし、
前記直管部において前記面方向に対向する内壁面間の距離を2W[m]とし、
前記流体塊と前記内壁面との間の表面張力をσ[N/m]とし、
前記流体塊と前記内壁面の界面との接触角をθ[rad]としたときに、
前記直管部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c[N]は、
【数5】
で規定され、
前記第1連結部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c.gap[N]は、
【数6】
で規定され、
前記第2連結部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c.gap.btm[N]は、
【数7】
で規定される、
請求項2に記載のベーパーチャンバの設計方法。
【請求項4】
前記流体塊が流れる方向の前記流体塊の長さをh[m]とし、
前記流体塊が流れる方向の前記直管部の配列ピッチをL
DP[m]とし、
前記第1微小流路における前記厚み方向に沿った内壁面に生じるせん断応力をτ
w.sp[Pa]とし、
前記第1微小流路における前記面方向に沿った内壁面に生じるせん断応力をτ
w.dp[Pa]としたときに、
前記抵抗力F
Rに含まれる、前記第1微小流路を流れる前記流体塊に生じる粘性力f
R1[N]は、
【数8】
で規定される、
請求項3に記載のベーパーチャンバの設計方法。
【請求項5】
前記毛細管力による前記流体塊の移動を妨げる抵抗力は、重力、慣性力及び電磁力の少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のベーパーチャンバの設計方法。
【請求項6】
被冷却体から受熱する受熱部と、
前記受熱部で気化した冷媒が移動する蒸気流路と、
放熱により液化した冷媒を毛細管力により前記受熱部に送る毛細管流路と、が内部空間に形成された平板状のベーパーチャンバであって、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの面方向に沿って均一な格子ピッチで形成された2次元格子状の流路である第1微小流路を備え、
前記第1微小流路は、
前記冷媒の流体塊を一方向に送る直管部と、
前記第1微小流路の格子点で前記直管部同士を連結する連結部と、を備え、
前記直管部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第1条件とし、
前記連結部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第2条件とし、
前記直管部において前記流体塊に加えられる力がした仕事と前記連結部において前記流体塊を加えられる力がした仕事との和が正であることを第3条件とし、
前記毛細管流路から前記受熱部に戻る前記流体塊の単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、前記被冷却体から前記受熱部への単位時間当たりの入熱量を上回ることを第4条件として、
前記第1条件、前記第2条件及び前記第4条件をすべて満たすか、前記第1条件、前記第3条件及び前記第4条件をすべて満たす、前記冷媒、前記ベーパーチャンバの材質、前記毛細管流路の流路構造を有する、
ベーパーチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーパーチャンバの設計方法及びベーパーチャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
被冷却体から受け取った熱を面方向に拡散させる熱拡散板の一種であるベーパーチャンバ又はフラットヒートパイプ(以下、単にベーパーチャンバとする)は、内部空間に封入された冷媒が熱を受けて相変化し、面方向及び厚み方向に循環して熱輸送を実現する。被冷却体近傍の受熱部で熱を受けた液化冷媒は、蒸発して気化し、内部空間における圧力差で面方向及び厚み方向に凝縮部まで移動する。凝縮部に達した気化冷媒は、熱を放出し凝縮して液化する。液化冷媒は、内部の微小流路に発生する毛細管力の作用によって移動し受熱部へと帰還する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液化冷媒は、毛細管力及び粘性力の他、重力の影響を受ける。毛細管力が重力よりも十分に大きくない場合、熱拡散板の設置姿勢によっては重力が毛細管力の抵抗力となってベーパーチャンバの熱的性能が低下する。ベーパーチャンバには、設置姿勢が変わっても熱的性能が低下しないことが望まれている。
【0005】
ベーパーチャンバが組み込まれる機器が設置される環境は様々であり、設置される環境によって液化冷媒に作用する抵抗力も様々である。例えば、加速度運動する移動体にベーパーチャンバが設置される場合、加速度運動による慣性力も毛細管力の抵抗力となり得る。液化冷媒の流体塊に作用する毛細管力の大きさがこれらの抵抗力に対して十分でないとき、ベーパーチャンバの熱的性能が低下する。
【0006】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、熱的性能が抵抗力の影響を受けずに、被冷却体が発生する熱量と同等以上の熱量の持続的な熱拡散を行うことができるベーパーチャンバの設計方法及びベーパーチャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るベーパーチャンバの設計方法は、
情報処理装置によって実行されるベーパーチャンバの設計方法であって、
前記ベーパーチャンバは、
被冷却体から受熱する受熱部と、
前記受熱部で気化した冷媒が移動する蒸気流路と、
放熱により液化した冷媒を毛細管力により前記受熱部に送る毛細管流路と、が内部空間に形成された平板状であり、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの面方向に沿って均一な格子ピッチで形成された2次元格子状の流路である第1微小流路を備え、
前記第1微小流路は、
前記冷媒の流体塊を一方向に送る直管部と、
前記第1微小流路の格子点で前記直管部同士を連結する連結部と、を備え、
前記直管部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第1条件とし、
前記連結部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第2条件とし、
前記直管部において前記流体塊に加えられる力がした仕事と前記連結部において前記流体塊を加えられる力がした仕事との和が正であることを第3条件とし、
前記毛細管流路から前記受熱部に戻る前記流体塊の単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、前記被冷却体から前記受熱部への単位時間当たりの入熱量を上回ることを第4条件として、
前記第1条件、前記第2条件及び前記第4条件をすべて満たすか、前記第1条件、前記第3条件及び前記第4条件をすべて満たすように、前記冷媒、前記ベーパーチャンバの材質を選定するとともに、前記毛細管流路の流路構造に係る設計パラメータの値を決定する。
【0008】
この場合、前記直管部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa[m/s
2]とし、
前記流体塊の密度をρ[kg/m
3]とし、
前記流体塊の体積をV[m
3]とし、
前記直管部での毛細管力をf
c[N]とし、
前記毛細管力による前記流体塊の移動を妨げる抵抗力をF
R[N]としたときに、
【数1】
を前記第1条件を表す条件式とし、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの厚み方向に延び、前記ペーパーチャンバの面方向に均一な配列ピッチで2次元配列された第2微小流路を備え、
前記連結部は、
前記第2微小流路と連結していない第1連結部と、
前記第2微小流路と連結している第2連結部と、を含み、
前記第1連結部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa
gap[m/s
2]とし、
前記第2連結部での毛細管力により前記流体塊に生じる加速度をa
gap.btm[m/s
2]とし、
前記第1連結部で生じる毛細管力をf
c.gap[N]とし、
前記第2連結部で生じる毛細管力をf
c.gapbtm[N]としたときに、
【数2】
を前記第2条件を表す条件式とし、
前記流体塊が流れる方向の前記直管部の長さをL
DT[m]とし、
前記流体塊が流れる方向の前記連結部の長さを2W[m]とし、
前記流体塊が存在する前記連結部の本数に対する、前記第1連結部の本数の割合をεとしたときに、
【数3】
を前記第3条件を表す条件式とし、
単位時間当たりの前記受熱部における前記被冷却体からの単位時間当たりの入熱量をQ
in[W]とし、
前記流体塊の単位質量当たりの蒸発潜熱をQ
LH[J/kg]とし、
前記受熱部の外縁に接する前記第1微小流路の数をN
1.Cとし、
前記受熱部に接する前記第2微小流路の数をN
2.Pとし、
前記受熱部に外縁に接するi(i=1~N
1.Cの自然数)番目の前記第1微小流路の前記流体塊が流れる方向に直交する断面の断面積をS
A1.i[m
2]とし、
前記受熱部に接するj(j=1~N
2.Pの自然数)番目の前記第2微小流路の前記流体塊が流れる方向に直交する断面の断面積をS
A2.j[m
2]とし、
前記受熱部の外縁に接するi番目の前記第1微小流路において前記流体塊が流れる速度をv
1.i[m/s]とし、
前記受熱部に接するj番目の前記第2微小流路において前記流体塊が流れる速度をv
2.j[m/s]としたときに、
【数4】
を前記第4条件を表す条件式とする、
こととしてもよい。
【0009】
前記直管部は、前記流体塊が流れる方向に直交する断面が矩形状であり、
前記直管部において前記厚み方向に対向する前記内壁面の距離を2H[m]とし、
前記直管部において前記面方向に対向する前記内壁面の距離を2W[m]とし、
前記流体塊と前記内壁面との間の表面張力をσ[N/m]とし、
前記流体塊と前記内壁面の界面との接触角をθ[rad]としたときに、
前記直管部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c[N]は、
【数5】
で規定され、
前記第1連結部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c.gap[N]は、
【数6】
で規定され、
前記第2連結部で前記流体塊に生じる毛細管力f
c.gap.btm[N]は、
【数7】
で規定される、
こととしてもよい。
【0010】
前記流体塊が流れる方向の前記流体塊の長さをh[m]とし、
前記流体塊が流れる方向の前記直管部の長さをL
DP[m]とし、
前記第1微小流路における前記厚み方向に沿った内壁面に生じるせん断応力をτ
w.sp[Pa]とし、
前記第1微小流路における前記面方向に沿った内壁面に生じるせん断応力をτ
w.dp[Pa]としたときに、
前記抵抗力F
Rに含まれる、前記第1微小流路を流れる前記流体塊に生じる粘性力f
R1[N]は、
【数8】
で規定される、
こととしてもよい。
【0011】
前記毛細管力による前記流体塊の移動を妨げる抵抗力は、重力、慣性力及び電磁力の少なくとも1つを含む、
こととしてもよい。
【0012】
被冷却体から受熱する受熱部と、
前記受熱部で気化した冷媒が移動する蒸気流路と、
放熱により液化した冷媒を毛細管力により前記受熱部に送る毛細管流路と、が内部空間に形成された平板状のベーパーチャンバであって、
前記毛細管流路は、
前記ベーパーチャンバの面方向に沿って均一な格子ピッチで形成された2次元格子状の流路である第1微小流路を備え、
前記第1微小流路は、
前記冷媒の流体塊を一方向に送る直管部と、
前記第1微小流路の格子点で前記直管部同士を連結する連結部と、を備え、
前記直管部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第1条件とし、
前記連結部で前記流体塊に加えられる毛細管力により前記流体塊に生じる加速度が正であることを第2条件とし、
前記直管部において前記流体塊に加えられる力がした仕事と前記連結部において前記流体塊を加えられる力がした仕事との和が正であることを第3条件とし、
前記毛細管流路から前記受熱部に戻る前記流体塊の単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、前記被冷却体から前記受熱部への単位時間当たりの入熱量を上回ることを第4条件として、
前記第1条件、前記第2条件及び前記第4条件をすべて満たすか、前記第1条件、前記第3条件及び前記第4条件をすべて満たす、前記冷媒、前記ベーパーチャンバの材質、前記毛細管流路の流路構造を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、均一な格子ピッチで形成された2次元格子状の毛細管力を発生させる流路において、冷媒の流体塊に加えられる毛細管力が流体塊の移動を妨げる抵抗力を上回り、流体塊に加えられる力がした仕事が全体として正となり、受熱部においてドライアウトが発生しないように、冷媒及びベーパーチャンバの材質を選定するとともに、毛細管流路の流路構造に係る設計パラメータの値を決定することができるので、熱的性能が抵抗力の影響を受けずに持続的な熱拡散を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A)は、本発明の実施の形態に係るベーパーチャンバの側面図である。(B)は、(A)のベーパーチャンバの斜視図である。
【
図2】
図1のヒートパイプを構成する部材の斜視図である。
【
図3】(A)は、下部材の上面図である。(B)は、下部材の内部領域の一部の拡大図である。
【
図4】(A)は、中間部材の上面図である。(B)は、中間部材の毛細管流路形成領域の一部の拡大図である。
【
図5】厚み方向及び面方向に見たベーパーチャンバの内部空間を示す模式図である。
【
図6】(A)は、下部材に形成された毛細管流路(第1微小流路)の配置例を示す図である。(B)は、毛細管流路(第1微小流路)の配置例を示す図である。(C)は、毛細管流路を側面から見た図である。
【
図7】(A)及び(B)は、第1微小流路の構造を示す模式図である。
【
図8】(A)及び(B)は、第1条件、第2条件を示す模式図である。
【
図10】受熱部における熱の流入と冷媒の移動とを示す模式図である。
【
図11】(A)は、設計処理を行う情報処理装置のハードウエア構成を示すブロック図である。(B)は、設計処理のフローチャートである。
【
図12】(A)、(B)及び(C)は、ベーパーチャンバの向きを変えて設置した状態を示す側面図である。
【
図13】ベーパーチャンバの向きを変えた場合の熱抵抗の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0016】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1(A)及び
図1(B)に示すように、本実施の形態に係る熱拡散板としてのベーパーチャンバ1は、z軸方向を厚み方向とする全体として矩形平板状の筐体50を有する冷却装置である。筐体50は、矩形には限定されない。筐体50には、気密構造を形成可能な材質のものが用いられる。このような材質には、例えば銅がある。ベーパーチャンバ1の-z方向を向いた底面中央部には、冷却対象となる被冷却体としての円板状の熱源体2が取り付けられている。なお、熱源体2の形状は円板状には限られず、例えば矩形状であってもよい。
【0017】
熱源体2としては、IC(半導体集積装置)、LSI(大規模集積回路装置)及びCPU(中央処理装置)、LED(発光ダイオード)等が想定される。ベーパーチャンバ1において、熱源体2が取り付けられた底面中央部を、熱源体2から受熱する受熱部3という。受熱部3で熱源体2から受けた熱は、ベーパーチャンバ1全体に伝えられ、放熱される。
【0018】
図1(A)に示すように、ベーパーチャンバ1の筐体50内には、減圧された密閉空間(内部空間)20が設けられている。内部空間20には、冷媒COが封入されている。受熱部3で受けた熱により、液化している冷媒COが気化し、内部空間20全体に拡散する。拡散した冷媒COは、ベーパーチャンバ1の外面に熱を伝達した後に凝縮し、液化した冷媒COとなって毛細管力により受熱部3に戻る。ベーパーチャンバ1の外面に伝達された熱は、外部に放熱される。このように、内部空間20内における冷媒COの循環により、ベーパーチャンバ1は、全体に熱を拡散する。
【0019】
図2に示すように、ベーパーチャンバ1は、下部材10と、上部材11と、中間部材12と、を備える。下部材10は、矩形平板状の部材である。下部材10の下面(-z面)がベーパーチャンバ1の筐体50の下面を構成する。この下部材10の下面に受熱部3が設けられる。
【0020】
図3(A)に示すように、下部材10の上面(+z面)側には、その外縁に沿って設けられた枠状の外縁部10aと、外縁部10aの内側の内部領域10bとが設けられている。外縁部10aには、内部領域10bよりも上側(+z側)に突出した接合用突起が設けられている。下部材10は、この外縁部10aで、中間部材12の下面の外縁と拡散接合される。
【0021】
下部材10の内部領域10bは、内部空間20の底面を構成する。
図3(B)に示すように、内部領域10bには、z軸方向に見て4辺がx軸方向及びy軸方向に沿って配置された矩形状の突起であるディンプル10cが多数形成されている。ディンプル10cは、x軸方向及びy軸方向に所定ピッチで2次元配列されている。ディンプル10c同士の間に、x軸方向及びy軸方向に延びる溝部10dが形成されている。この溝部10dが、液化した冷媒COが通る毛細管流路4(
図5参照)となる。
【0022】
上部材11は、矩形平板状の部材であり、形状及び大きさが
図2に示す下部材10と同じ部材である。この上部材11の下面(-z側の面)がベーパーチャンバ1の内部空間20の天井を構成する。上部材11の下面(-z面)にも、外縁部10aと、内部領域10bとが設けられており、内部領域10bにディンプル10cのx軸方向及びy軸方向に所定ピッチで配列された2次元配列と、x軸方向及びy軸方向に延びる2次元格子状の溝部10dとが形成されている。
【0023】
図4(A)に示すように、中間部材12には、その外縁に沿って設けられた矩形枠状の外縁部12aと、外縁部10aの内側の内部領域12bとが設けられている。外縁部12aは、その下面側で下部材10の外縁部10aと拡散接合され、その上面側で上部材11の外縁部10aと拡散接合される。
【0024】
図4(A)に示すように、内部領域12bは、毛細管流路形成領域15と、蒸気流路形成領域16と、に分割される。毛細管流路形成領域15は、内部領域12bの中央に配置されるとともに、その中央から内部領域12bの周縁、すなわち外縁部12aに向かって複数本、放射状に延びている。蒸気流路形成領域16は、放射状に延びる毛細管流路形成領域15の間に配置されている。毛細管流路形成領域15と、蒸気流路形成領域16とは、内部領域12bの中央を中心とする円の円周方向に沿って交互に配列されている。毛細管流路形成領域15と蒸気流路形成領域16との間および毛細管流路形成領域15の内部には下部材10及び上部材11と接合する接合用突起17が形成される。この接合用突起17により、被冷却体からの受熱や、環境温度の上昇に伴う内部温度上昇に起因する内圧の上昇に抗する強度を発生することができる。さらに、この接合用突起17により、毛細管流路形成領域15と蒸気流路形成領域16とを分けることができる。
【0025】
図4(B)に示すように、毛細管流路形成領域15には、毛細管流路を構成する矩形状の複数の貫通穴12cがx軸方向及びy軸方向に所定ピッチで2次元配列されている。
図4(A)に示すように、蒸気流路形成領域16では、板がくりぬかれ、毛細管流路形成領域15よりも大きな空隙が形成されている。
【0026】
図2に戻り、z軸方向に沿って下部材10、中間部材12及び上部材11がこの順に接合されて、
図5に示すように、ベーパーチャンバ1の筐体50が形成される。筐体50では、内部空間20が形成され、熱源体2と接合する部分に受熱部3が設けられる。この内部空間20に、毛細管流路4と、蒸気流路5と、が形成され、冷媒COが封入される。熱を受けていない状態では、冷媒COは、ベーパーチャンバ1が設置されている温度における冷媒COの飽和蒸気圧に応じて、その一部は受熱部3を含む毛細管流路4内に液として、また残りは蒸気流路5内に気体として、平衡状態を保ち共存している。
【0027】
受熱部3において熱源体2から熱を受けると、冷媒COが気化する。蒸気流路5は、受熱部3で気化した冷媒COをz軸方向に見たときの外縁方向に移動させる。送られた気化した冷媒COは、筐体50に放熱し、次第に凝縮して液化し毛細管流路4に進入する。毛細管流路4は、放熱により液化した冷媒COを毛細管力により受熱部3に送る。
【0028】
図6(A)に示すように、下部材10の内部領域10b上におけるディンプル10cのx軸方向及びy軸方向の幅をL
DT[m]とする。また、溝部10dの幅を2W[m]とする。溝部10dは、x軸方向及びy軸方向に格子ピッチP1[m]で配列されているものとする。この溝部10dにより形成される微小流路が、第1微小流路31である。第1微小流路31は、ベーパーチャンバ1の面方向に沿って均一な格子ピッチP1で形成された2次元格子状の流路である。
【0029】
図6(B)に示すように、中間部材12の貫通穴12cのx軸方向及びy軸方向の幅は2Wであり、x軸方向及びy軸方向に配列ピッチP2[m]で配列されている。貫通穴12cは、下部材10及び上部材11の溝部10dのx軸方向及びy軸方向のラインが交差する格子点に配置される。
図6(B)では、貫通穴12cのx軸方向及びy軸方向の配列ピッチP2は、溝部10dの格子点の格子ピッチP1の2倍となっているが、これには限られない。本実施の形態では、格子ピッチP1、配列ピッチP2は、本実施の形態に係る設計方法で調整することができる。
【0030】
図6(C)に示すように、ディンプル10cの高さは2Hである。また、貫通穴12cの穴の深さはL
DTである。貫通穴12cの穴の深さについては、中間部材12の厚さと同じであり、任意の値に変更することができる。下部材10及び上部材11の溝部10dと、中間部材12の貫通穴12cとが連通して、ベーパーチャンバ1の厚み方向に延び、ベーパーチャンバ1の面方向、すなわちx軸方向及びy軸方向に沿って配列ピッチP2で2次元配列された微小流路が形成される。この微小流路が第2微小流路32である。すなわち毛細管流路4は、第2微小流路32を備える。
【0031】
図7(A)に示すように、第1微小流路31は、直管部31Aと、連結部31Bと、を備える。直管部31Aは、x軸方向又はy軸方向に延び冷媒COの流体塊(以下では、単に流体塊WPとする)を一方向に送る管状の部分である。直管部31Aは、液化した冷媒COの流体塊(以下では、単に流体塊WPとする)が流れる方向に直交する矩形状の断面を形成する4つの内壁面を有しており、その内壁面により、毛細管力を発生させる。連結部31Bは、第1微小流路31の格子点に配置され、格子点で直管部31A同士を連結する。第1微小流路31は、x軸方向及びy軸方向に沿って直管部31Aと連結部31Bとが交互に配置されることにより構成される。
【0032】
図7(B)に示すように、第2微小流路32は、配列ピッチP2で配列され、第1微小流路31の連結部31Bと連結する。
図7(B)に示すように、連結部31Bは、第2微小流路32と連結していない第1連結部31B-1と、第2微小流路32と連結している第2連結部31B-2と、を含む。本実施の形態では、第2微小流路32の配列ピッチP2が、連結部31Bの格子ピッチP1の2倍であるため、連続する2つにつき1つが第2連結部31B-2となる。
【0033】
本実施の形態に係る設計方法では、上述のような構成を有するベーパーチャンバ1の毛細管流路4を設計する。この設計方法では、毛細管流路4が満たすべき条件として、第1条件と、第2条件と、第3条件と、第4条件を規定する。第1条件は、直管部31Aで流体塊CAに加えられる毛細管力f
c[N]により流体塊CAに生じる加速度aが正であることである(
図8(A)及び
図8(B)参照)。第2条件は、連結部31Bで流体塊CAに加えられる毛細管力f
c[N]により流体塊CAに生じる加速度a
gap、a
gap.btmが正であることである。第3条件は、第1微小流路31において、直管部31Aにおいて流体塊CAに加えられる力がした仕事と連結部31Bにおいて流体塊CAに加えられる力がした仕事との和が正であることである(
図9参照)。第4条件は、毛細管流路4から受熱部3に戻る流体塊WPの単位時間当たりの蒸発潜熱の総量が、熱源体2から受熱部3への単位時間当たりの入熱量を上回ることである(
図10参照)。以下、第1条件~第4条件について詳細に説明する。
【0034】
[第1条件]
第1条件は、直管部31Aで流体塊CAに加えられる毛細管力f
c[N]により流体塊CAに生じる加速度aが正であることである。
図8(A)及び
図8(B)に示すように、毛細管流路4では、直管部31Aで発生する毛細管力をf
c[N]とし、毛細管力f
c[N]による流体塊CAの移動を妨げる抵抗力をF
R[N]とすると、以下の式を満たすことが要求される。
【数9】
例えば、第1微小流路31において、例えば
図8(A)及び
図8(B)に示す連続して移動する流体塊WPの密度をρ[kg/m
3]とし、流体塊WPの体積をV[m
3]とする。また、直管部31Aで毛細管力f
c[N]により流体塊WPに生じる加速度をa[m/s
2]としたとき、当該流体塊WP全体として第1条件を満たす運動方程式は、以下の式で与えられる。
【数10】
上記式(1)、式(2)から、以下の式が得られる。
【数11】
ベーパーチャンバ1の面方向に延びる第1微小流路31は、内部を移動する流体塊WPが式(3)を満たすことを特徴としている。この式(3)が、第1条件を表す条件式となる。この条件式を満たすことにより、流体塊WPが直管部31Aを移動することが可能となる。
【0035】
なお、抵抗力F
R[N]は、冷媒COに作用する種々の抵抗力f
Ri[N]の和であり、以下の式で与えられる。
【数12】
nは正の整数であり、想定される抵抗力F
R[N]の種類の数を表す。抵抗力F
R[N]としては、流路の内壁面により発生する粘性力f
R1[N]が含まれる。また、地球上において冷媒COが鉛直上方に移動する際には重力f
R2[N]も抵抗力F
R[N]に含まれる。また、ベーパーチャンバ1が加速度運動している場合、その加速度運動により生じる慣性力f
R3[N]も抵抗力F
R[N]に含まれる。冷媒COが電磁流体であり、ベーパーチャンバ1が磁界に置かれる場合、電磁流体に発生する電磁力(ローレンツ力)も抵抗力F
R[N]に含まれる。すなわち、毛細管力による流体塊CAの移動を妨げる抵抗力F
R[N]は、粘性力f
R1、重力f
R2[N]、慣性力f
R3[N]及び電磁力の少なくとも1つを含む。
【0036】
[毛細管力f
c]
図8(A)及び
図8(B)に示すように、直管部31Aが、流体塊WPが流れる方向に直交する断面が矩形状である場合、直管部31Aにおいて厚み方向に対向する内壁面間の距離を2H[m]とし、直管部31Aにおいてベーパーチャンバ1の面方向に対向する内壁面の距離を2W[m]とし、流体塊WPと内壁面との間の表面張力をσ[N/m]とし、流体塊WPと内壁面の界面との接触角をθ[rad]としたときに、毛細管力f
c[N]は、以下の式で規定される。
【数13】
【0037】
[粘性力f
R1]
一方、f
R1[N]を、流体塊CAの移動により、内壁面から受けるせん断応力に伴い発生する粘性力であるとする。この場合、第1微小流路31が延びる方向の流体塊WPの長さをh[m]とし、流体塊CAgが流れる方向の直管部31Aの長さをL
DTとし、流体塊CAが流れる方向の直管部31Aの配列ピッチをL
DPとする。ベーパーチャンバ1の厚み方向に沿った内壁面(
図8(A)参照)に生じるせん断応力をτ
w.sp[Pa]とし、ベーパーチャンバ1の面方向に沿った内壁面(
図8(B)参照)に生じるせん断応力をτ
w.dp[Pa]とする。また、流体塊WPが存在する連結部31Bの本数に対する、第2微小流路32と連結していない第1連結部31B-1の本数の割合をεとする。εは、全ての連結部31Bが第2微小流路と連結されている場合0となり、全ての連結部31Bが、第2微小流路と連結されていない場合に1となる。
【0038】
当該流体塊WP全体に生じる粘性力をf
R1[N]とすると、f
R1[N]は、以下の式で表される。
【数14】
なお、hは、任意の値を設定することができるが、最悪の条件は、受熱部3から内部空間20の外辺までの最大の長さとすることができる。
【0039】
仮に、流体塊WPが受ける抵抗力F
R[N]が粘性力f
R1[N]のみであるとすると、第1微小流路31が満たすべき第1条件である式(3)は、以下の様に変換される。
【数15】
【0040】
[重力f
R2]
また、地球上において流体塊CAの移動方向が水平でない場合、流体塊CAの移動方向の仰角に応じて流体塊CAの運動に対して重力f
R2[N]が影響を及ぼすこととなる。中でも、重力f
R2[N]が流体塊CAの運動に抗する方向となり、かつその影響が最大となるのは、流体塊CAが鉛直上向きに移動している場合である。この場合、流体塊CAが鉛直上方に移動し、冷媒COの循環を実現するために第1微小流路31が満たすべき条件は、次式で表される。
【数16】
【0041】
仮に、ベーパーチャンバ1が設置された機器が加速度a
vc[m/s
2]で運動している場合、流体塊CAにかかる抵抗力F
R[N]に慣性力f
R3[N]を含める必要がある。慣性力f
R3[N]が最大となるのは、流体塊CAの移動方向がベーパーチャンバ1全体として加速度運動をしている場合である。したがって、重力f
R2[N]と、慣性力f
R3[N]が生じる場合、冷媒COの循環を実現するために第1微小流路31が満たすべき第1条件の条件式は、以下の式になる。
【数17】
同様に、上記式に、抵抗力F
R[N]として電磁力f
R4[N]を加えることも可能である。
【0042】
[第2条件]
第2条件は、連結部31Bにおいて流体塊CAに加えられる毛細管力f
c.gap[N]が、流体塊CAの移動を妨げる粘性力f
R1[N]、重力f
R2[N]、慣性力f
R3[N]及び電磁力f
R4[N]の少なくとも1つを含む抵抗力F
Rを上回ることである。
図8(A)及び
図8(B)に示す流体塊CAには、直管部31Aだけでなく、連結部31Bにおいても、毛細管力が発生する。前述のように、連結部31Bの中には、第2微小流路32と連結していない第1連結部31B-1と、第2微小流路32と連結している第2連結部31B-2と、が存在する。連結部31Bでは面方向の両側に内壁面は存在しないが、第2微小流路32と連結していない第1連結部31B-1では、厚み方向に内壁面が存在する。この場合の毛細管力をf
c.gap[N]としたとき、f
c.gap[N]は、以下のようになる。
【数18】
仮に、流体塊CAが水平方向に移動しているとする。第1連結部31B-1での毛細管力f
c.gap[N]により流体塊CAに生じる加速度をa
gap[m/s
2]とすると、第2微小流路32と連結されていない第1連結部31B-1において満たすべき第2条件は、以下の式で表される。
【数19】
重力f
R2[N]まで考慮すると、第1連結部31B-1において満たすべき条件は、以下の式に変換される。
【数20】
慣性力f
R3[N]まで考慮すると、式(3)は以下の式に変換される。
【数21】
同様に、上記式に、抵抗力として電磁力f
R4[N]を加えることも可能である。
【0043】
また、第2微小流路32と連結している第2連結部31B-2に発生する毛細管力をf
c.gap.btm[N]としたとき、f
c.gap.btm[N]は、以下のようになる。
【数22】
【0044】
仮に、流体塊CAが水平方向に移動しているとする。第2連結部31B-2での毛細管力により流体塊CAに生じる加速度をa
gap.btm[m/s
2]とすると、第2連結部31B-2において満たすべき第2条件である条件式は、以下の式となる。
【数23】
【0045】
重力f
R2[N]まで考慮すると、第2連結部31B-2において満たすべき第2の条件としての条件式は、以下の様になる。
【数24】
慣性力f
R3[N]まで考慮すると、第2条件の条件式は以下のようになる。
【数25】
同様に、上記式に、抵抗力として電磁力f
R4を加えることも可能である。
【0046】
[第3条件]
第3条件は、直管部31Aにおいて流体塊CAに加えられる仕事と連結部31Bにより流体塊CAに加えられる仕事との和が正であることである。ベーパーチャンバ1が機能するためには、連結部31Bにおいて流体塊CAが静止することなく通過することが必要である。式(11)~式(13)、式(14)~式(17)、すなわち第2条件を満足すれば、流体塊CAは連結部31Bでも流れの向きに正の加速度運動を行うため、流体塊CAが連結部31Bを通過することができる。
【0047】
しかし、第2条件を満足しない場合であっても、連結部31Bを通過しきって再度部分的に連続する直管部31Aの内壁面にさしかかったとき、もとの冷媒COの進行方向と概ね同じ方向に0以上の大きさの速度を持つ場合には連結部31Bを通過することができる。この速度を持つための条件としては、直管部31Aにおいて流体塊CAが受ける仕事と連結部31Bにおいて流体塊CAが受ける仕事の総和が正、すなわち冷媒COの進行方向に対して正の仕事となる場合、冷媒COが連結部31Bを通過できることである。これが第3条件であり、第3条件は、以下の式で与えられる。
【数26】
上記式は、
図9に示すP1からP2まで、すなわち直管部31Aを、流体塊CAに加えられる力がした仕事を示し、左辺の第2項は、
図9に示すP2からP3まで(流体塊CAが流れる方向の連結部31Bの長さ2W)、すなわち連結部31Bを、流体塊CAに加えられる力がした仕事を示す。式(18)は、これら仕事の和が正であることを示している。
【0048】
[第4条件]
第4条件は、毛細管流路4から受熱部3に戻る流体塊CAの単位時間当たりの蒸発潜熱QLH[J/kg]の総量が、熱源体2から受熱部3への単位時間当たりの入熱量Qin[W]を上回ることである。ベーパーチャンバ1では、冷媒COの一連のサイクルのうち、単位時間あたりに再度熱源体2まで帰還する冷媒COの量に対応する冷媒COの蒸発潜熱QLHの総量が、熱源体2から発生する入熱量Qin[W]を上回ることによって、持続的な蒸発を維持するために必要な量の冷媒COを熱源体2に接する面の内部にある受熱部3へ継続的に供給することが可能となる。逆に、持続的な冷媒COの蒸発を維持するために必要な量の冷媒COを受熱部3に供給することができなくなると、いわゆるドライアウトという現象が生じる。ドライアウトが生じると、継続的な冷媒COによる潜熱輸送ができなくなり、ベーパーチャンバ1の熱的性能が低下し、結果的に、ベーパーチャンバ1の熱抵抗の増加を招くこととなる。
【0049】
ここで、受熱部3における熱源体2からの単位時間当たりの入熱量をQ
in[W]とし、冷媒COの流体塊CAの単位質量当たりの蒸発潜熱をQ
LH[J/kg]とする。また、
図10に示すように、受熱部3の外縁を構成する曲線を円Cとする。円Cに向かう第1微小流路31をN
1.C個とし、i(i=1~N
1.C)番目の第1微小流路31の流体塊CAが流れる方向に直交する断面の断面積をS
A1.i[m
2]とし、i番目の第1微小流路31の流体塊CAが流れる進行速度をv
1.i[m/s]とする。また、受熱部3に接する第2微小流路32の数をN
2.Pとし、j(j=1~N
2.P)番目の第2微小流路32の冷媒COが流れる方向に直交する断面の断面積をS
A2.j[m
2]とし、j番目の第2微小流路32において流体塊CAが流れ受熱部3に戻る進行速度をv
2.j[m/s]とする。ベーパーチャンバ1がドライアウトせず、所望の性能を発揮し続けるためには、以下の関係式が満たされることが必要となる。
【数27】
【0050】
本実施の形態のベーパーチャンバ1の設計方法では、第1条件、第2条件及び第4条件をすべて満たすか、第1条件、第3条件及び第4条件すべてを満たすように冷媒COの種類及びベーパーチャンバ1の材質を選定するとともに、毛細管流路4の流路構造に係る設計パラメータの値を決定する。このような設計パラメータには、毛細管流路4の長さ、冷媒COが流れる方向に直交する断面を規定するパラメータが含まれる。これにより、粘性力fR1[N]、重力fR2[N]などの抵抗力FRが冷媒CO流動の抵抗力として働く場合でも、冷媒COの循環を実現することができる。さらに、冷媒分布の不均一性を緩和するため、内壁面のうち少なくとも一面が断続するような構造をもつ第1微小流路31内において、内壁面が連続しない部位である連結部31Bで冷媒COが静止することなく通過することが可能となる。さらに、受熱部3において、ドライアウトを発生させることなく受熱部3から凝縮部へ継続的に輸送可能である様な、微小流路構造をもつことが可能となる。
【0051】
上記構成を有するベーパーチャンバ1の動作について説明する。
図4に示すように、熱源体2から発せられた熱は受熱部3に伝わり、この熱により、受熱部3に存在する冷媒COが気化する。気化した冷媒COは、蒸気流路5を通って、内部空間20全体に拡散する。そして、気化した冷媒COの大部分は、内部空間20の外縁に到達し、筐体50に熱を伝達するとともに、凝縮する。
【0052】
上部材11の内部領域10bで凝縮した冷媒COは、内部領域10bの溝部10dで毛細管現象により、毛細管流路4まで送られる。毛細管流路4では、毛細管現象により、凝縮した冷媒COが、再び受熱部3まで戻る。以上、この内部空間20内において、上述の冷媒COの循環サイクルが形成され、これにより、熱源体2の冷却が実現される。
【0053】
[ベーパーチャンバの設計の流れ]
図11(A)に示すように、まず、ベーパーチャンバ1の設計は、CPU60、メモリ61、外部記憶装置62、操作部63、表示部64及び内部バス65を有するコンピュータHWにおいて、操作部63を介した操作に従って、CPU60が外部記憶装置62からメモリ61に読み込まれたソフトウエアプログラムを実行することにより行われる。実行結果は、例えば表示部64に表示される。このプログラムをコンピュータが実行することによりその機能が実現される情報処理装置100は、第1条件~第4条件を満たすか否かを判定する処理、すなわち
図11(B)に示すベーパーチャンバ1の設計処理(設計方法)を行う。
【0054】
図11(B)に示すように、まず、情報処理装置100は、初期設定を行う(ステップS1)。初期設定において、熱源体2の大きさ、形状、発熱量が設定され、冷媒COの種類、量が設定され、ベーパーチャンバ1の全体サイズ、受熱部3の位置及び大きさ、ベーパーチャンバ1の毛細管流路4以外の部分の形状、サイズ等が設定される。冷媒COとしては、純水、有機溶媒又はこれらの混合物が選択され、ベーパーチャンバ1の材質として気密構造を形成できる部材として銅等が用いられる。これにより、単位時間当たりの入熱量をQ
in[W]、流体塊の単位質量当たりの蒸発潜熱Q
LH[J/kg]、冷媒COの密度ρ[kg/m
3]、流体塊CAと内壁面との間の表面張力σ[N/m]、冷媒COと内壁面の界面との接触角θ[rad]が決まる。また、流体塊CAの長さh[m]、体積V[m
3]は、受熱部3から内部空間20の外縁までの長さを代用して決定されるが、任意の値を設定することができる。
【0055】
続いて、情報処理装置は、設定された受熱部3の大きさに基づいて、上記式(19)を満たす、N1.C、N2.P、SA1.i[m2]、SA2,j[m2]、v1.i[m/s]、v2.j[m/s]を求める(ステップS2)。ここで、SA1.i[m2]の値をそれぞれ同一とし、SA2,j[m2]の値をそれぞれ同一とし、v1.i[m/s]の値、v2.j[m/s]の値を同一とすれば、算出しやすい。これにより、第1微小流路31及び第2微小流路32の断面積と、流体塊CAの速度と、が決定される。
【0056】
続いて、情報処理装置は、毛細管流路4のサイズを設定する(ステップS3)。ここでは、第1微小流路31に関してH[m]、W[m]、LDT[m]、LDP[m]、ε、P1、P2等の流路構造に係る設計パラメータの値が設定される。これらの設計パラメータの値は、ステップS2で求められたN1.C、N2.P、SA1.i[m2]、SA2,j[m2]、v1.i[m/s]、v2.j[m/s]によって拘束される。
【0057】
続いて、情報処理装置は、式(5)、式(10)、式(14)を用いて、毛細管力fc[N]、fc.gap[N]、fc.gap.btm[N]を算出する(ステップS4)。ここでは、これまでに決定され、設定された値が用いられる。
【0058】
続いて、情報処理装置は、抵抗力FR[N]を算出する(ステップS5)。まず、式(6)を用いて、粘性力fR1[N]が求められる。式(6)におけるτw.sp[Pa]、τw.dp[Pa]は、冷媒COをニュートン流体とし、ステップS2で求められたv1.i[m/s]の値、v2.j[m/s]の値に基づく壁面上における速度勾配に冷媒COの粘性係数を乗じることにより求められる。重力fR2[N]、慣性力fR3[N]、電磁力fR4[N]は、ベーパーチャンバ1が使用される状況に応じて追加で算出される。
【0059】
続いて、情報処理装置は、式(3)、式(11)~式(13)、式(15)~式(17)を用いて、加速度a、agap、agap.btmを算出し(ステップS6)、式(18)を用いて、仕事の合計を算出する(ステップS7)。
【0060】
続いて、情報処理装置は、これまでの計算結果が、第1条件、第2条件、第4条件をすべて満たすか、第1条件、第3条件、第4条件を満たすか否かを判定する(ステップS8)。満たさない場合(ステップS8;No)、情報処理装置は、ステップS1に戻り、ステップS8でYesとなるまで、ステップS1~S8の処理が繰り返される。この繰り返しの間、第1条件~第4条件が満たされるまで、流路構造を係る設計パラメータの値を変更していく。
【0061】
計算結果が、第1条件、第2条件、第4条件をすべて満たすか、第1条件、第3条件、第4条件を満たす場合(ステップS8;Yes)、情報処理装置は、毛細管流路4の流路構造に係る設計パラメータの値が得られたものとして設計処理を終了する。
【0062】
この設計方法に基づいて製造されるベーパーチャンバ1は、第1条件、第2条件及び第4条件をすべて満たすか、第1条件、第3条件及び第4条件をすべて満たす、冷媒W、ベーパーチャンバ1の材質及び毛細管流路4の流路構造を有する。第1条件~第4条件を満たしているのであれば、その流路構造は、
図6~
図9に示すものに限られない。例えば、
図7では、連結部31Bは、第1連結部31B-1と第2連結部31B-2とが交互に配列されているが、この割合は、εの値を変更すれば、変更可能となる。
【0063】
[評価結果]
実際に、この設計方法で製造されたベーパーチャンバ1で評価を行った。熱源体2は、セラミックヒータとし、ベーパーチャンバ1に取り付けられたアルミ製ヒートシンク6で冷却を行った。
図12(A)、
図12(B)及び
図12(A)に示すように、このベーパーチャンバ1の設置角度を、0度、90度、180度として、それぞれの熱抵抗を確認した。評価系の健全性確認のため、ベーパーチャンバ1と同一形状の銅板(C1020)を比較対象として、それぞれ熱抵抗を以下の式より算出し、結果を比較した。評価結果を
図13に示す。
【数28】
ここで、R
th.all[K・W
-1]は、ベーパーチャンバ1及び銅板の総熱抵抗である。また、T
h[K]はセラミックヒータの裏面温度、T
a[K]は室温を示し、Q
h[W]は、セラミックヒータへの投入電力をそれぞれ示す。
【0064】
図13に示すように、銅板は、設置姿勢による熱抵抗の差異は0.5%程度であり、これは評価系の特性に起因する値となり、ベーパーチャンバ1の熱抵抗を評価する上での基準値となる。評価実験の結果、ベーパーチャンバ1の設置姿勢による熱抵抗の差異は0.5%程度となり、銅板と同等となった。評価系に起因するデータの差異以上の差異は認められなかったことから、本実施の形態に係る設計方法で設計されたベーパーチャンバ1の熱抵抗は、設置姿勢の影響によらず一定となることが確認された。
【0065】
また、セラミックヒータへの投入電力Qh[W]が高くなっても銅板の総熱抵抗Rth.all[K・W-1]はほぼ変わらないが、セラミックヒータへの投入電力Qh[W]が高くなればなるほど、ベーパーチャンバ1の総熱抵抗Rth.all[K・W-1]が下がっていくのが確認された。これは、銅板よりもベーパーチャンバ1の方が、熱拡散効果が優れていることを示している。
【0066】
このように、冷媒COの流体塊CAに作用する抵抗力FRを考慮し、式(3)を満たすような微小流路構造を規定する設計パラメータを決定することにより、冷媒COに対する種々の抵抗力FR[N]に抗して冷媒COが移動することが可能となり、冷媒COの循環が実現される。また、流路の形状に応じて流体塊CAの体積Vなどの幾何形状に起因するパラメータの値を適宜定義することにより、任意の形状をもつ毛細管流路4に対して、毛細管流路4の形状が満たすべき条件式を得ることができる。
【0067】
以上詳細に説明したように、上記実施の形態によれば、均一な格子ピッチP1で形成された2次元格子状の毛細管力を発生させる毛細管流路4の第1微小流路31において、冷媒COの流体塊CAに加えられる毛細管力fc[N]が流体塊CAの移動を妨げる抵抗力FR[N]を上回り、流体塊CAを進ませる力がした仕事が全体として正となり、受熱部3においてドライアウトが発生しないように、冷媒CO及びベーパーチャンバ1の材質を選定するとともに、毛細管流路4の流路構造を示す設計パラメータの値を決定することができるので、熱的性能が抵抗力の影響を受けずに持続的な熱拡散を行うことができる。
【0068】
本実施の形態では、流体塊WAが流れる方向に直交する流路の断面が矩形の場合について説明したが、これには限られない。例えば、断面が他の多角形の流路にも適用することが可能である。
【0069】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、熱源体を冷却又は加熱するベーパーチャンバに適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ベーパーチャンバ、2 熱源体(被冷却体)、3 受熱部、4 毛細管流路、5 蒸気流路、6 ヒートシンク、10 下部材、10a 外縁部、10b 内部領域、10c ディンプル、10d 溝部、11 上部材、12 中間部材、12a 外縁部、12b 内部領域、12c 貫通穴、15 毛細管流路形成領域、16 蒸気流路形成領域、17 接合用突起、20 内部空間(密閉空間)、31 第1微小流路、31A 直管部、31B 連結部、31B-1 第1連結部、31B-2 第2連結部、32 第2微小流路、50 筐体、60 CPU、61 メモリ、62 外部記憶装置、63 操作部、64 表示部、65 内部バス、100 情報処理装置、CO 冷媒、CA 流体塊