(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042492
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】活性汚泥の馴致方法、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/00 20230101AFI20240321BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240321BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240321BHJP
【FI】
C02F3/00 G
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F1/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147244
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】豊島 光康
(72)【発明者】
【氏名】二見 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高木 哲史
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 裕一
(72)【発明者】
【氏名】古市 竜哉
【テーマコード(参考)】
4D015
4D040
【Fターム(参考)】
4D015BA23
4D015BB05
4D015CA01
4D015DA12
4D015DA13
4D015DB01
4D015EA15
4D015EA16
4D015EA32
4D015EA37
4D015EA39
4D015FA02
4D015FA26
4D040BB05
4D040BB12
4D040BB57
4D040BB91
(57)【要約】
【課題】有機性排水の生物処理を安定的かつ効率良く、省エネルギーで行うことが可能な活性汚泥の馴致方法、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置を提供する。
【解決手段】活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる工程を有することを特徴とする活性汚泥の馴致方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、前記処理槽内の前記有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して前記活性汚泥を馴致させる工程を有することを特徴とする活性汚泥の馴致方法。
【請求項2】
前記処理槽内の前記有機性排水のBOD:リン酸態リンの重量比が100:0.3~2.0となるように、リン酸態リンを更に添加することを特徴とする請求項1に記載の活性汚泥の馴致方法。
【請求項3】
前記有機性排水に含有されている窒素形態のうち有機態窒素を80重量%以上含有する有機性排水を前記処理槽内に導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の活性汚泥の馴致方法。
【請求項4】
活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、前記処理槽内の前記有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して前記活性汚泥を馴致させる馴致工程と、
前記馴致工程後に前記アンモニア態窒素の添加を停止し、前記処理槽内に前記有機性排水を導入し、好気性条件において前記活性汚泥の存在下で前記有機性排水を生物処理する生物処理工程と
を有することを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項5】
前記有機性排水を前記生物処理工程に導入する前に、前記有機性排水を、鉄試薬を用いてアルカリ性条件下で凝集処理し、重金属類を不要化物として固液分離するアルカリ凝集沈殿処理工程を有することを特徴とする請求項4に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項6】
前記馴致工程及び前記生物処理工程が、
前記有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒工程と、
前記脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化工程と、
前記硝化液を前記脱窒工程へ循環させる循環工程と
を含み、
前記馴致工程が、前記脱窒工程で前記有機性排水に前記アンモニア態窒素を添加し、前記脱窒工程で前記活性汚泥を馴致させることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項7】
有機態窒素を含む有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒槽と、
前記脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化槽と、
前記硝化液を前記脱窒槽へ循環させる循環ラインと、
前記脱窒槽内の前記有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加するアンモニア態窒素添加手段と、
前記脱窒槽内に収容した活性汚泥の馴致処理時に前記アンモニア態窒素が前記脱窒槽内に添加されるように、前記アンモニア態窒素添加手段の駆動を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする有機性排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥の馴致方法、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期が始まった1950年代以降に、4大公害病(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)が発生し、水質・土壌・大気への環境問題が顕在化した。これらの問題を受け、1970年代の公害国会において様々な種類の公害法案が制定され、日本の環境問題は、ある程度の改善がみられている。しかしながら、近年でも閉鎖性水域(内湾、湖沼、内海)の富栄養化問題は依然として残っており、閉鎖性水域に流入する窒素、リン、有機物の負荷量を少なくするための水質基準の強化が実施されている。また、機械製造業、表面処理業等では、技術の発展に伴い様々な種類の汚染物質を含む有機性排水が排出されており、これらを効率的かつ確実に処理する技術が求められている。
【0003】
例えば特開2022-42385号公報(特許文献1)には、有機性排水中のBOD除去速度の大幅な低下の抑制及び生物処理に伴う余剰汚泥の発生量を抑えることを目的として、反応槽内の窒素濃度及びリン濃度を維持する方法が記載されている。具体的には、特許文献1には、担体を備える反応槽により、好気条件で有機性排水を生物処理する有機性排水の処理方法であって、反応槽に流入する有機性排水に窒素源を添加し、且つ、反応槽内の溶解性リン濃度を0.1mg/L以上に維持して、生物処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、反応槽内の微生物の増殖及び有機物の分解を促進するために、有機性排水にリン源や窒素源を補助的に添加することは、従来から知られている。一方、有機性排水に窒素源を添加しすぎると、余剰汚泥の発生量増加等に繋がり好ましくないため、特許文献1では、反応槽内での溶解性窒素濃度が5mg/L以下に維持されるように、また溶解性リン濃度が0.1mg/L以上に維持されるように、反応槽内の溶解性窒素濃度及び溶解性リン濃度を制御することを提案している。
【0006】
しかしながら、一般に、有機性排水といってもその性状は様々であり、溶解性窒素濃度が高い場合もあれば低い場合もある。更には、有機性排水中に生物の阻害性を有する重金属類や難溶解性有機態窒素等の有機物等が含まれている場合もある。そのため、反応槽へ流入する有機性排水の性状によっては、特許文献1に記載された手法によっても生物処理が効率的に進まない場合もあり、まだ検討の余地がある。
【0007】
有機性排水中の窒素を除去する別の方法として特許文献1に記載されるような活性汚泥法の他に、イオン交換樹脂法、逆浸透膜によるろ過法、アンモニアストリッピング法、電解脱窒法、電気透析法、蒸発処理法などの物理化学的処理法などもある。しかしながら、これらの方法はエネルギーの消費等によるランニングコスト増大の問題や副生物の生成等の問題もある。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、有機性排水の生物処理を安定的かつ効率良く、省エネルギーで行うことが可能な活性汚泥の馴致方法、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、所定の期間、特に活性汚泥の馴致時において、有機態窒素中のBODとアンモニア態窒素の重量比が所定の範囲内となるように有機性排水にアンモニア態窒素を添加して活性汚泥の馴致を行った後に、定常運転を行うことが有効であるとの知見を得た。
【0010】
以上の知見に基づき、本発明は一側面において、活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる工程を有する活性汚泥の馴致方法が提供される。
【0011】
本発明に係る活性汚泥の馴致方法は一実施態様において、処理槽内の有機性排水のBOD:リン酸態リンの重量比が100:0.3~2.0となるように、リン酸態リンを更に添加する。
【0012】
本発明に係る活性汚泥の馴致方法は別の一実施態様において、有機性排水に含有されている窒素形態のうち有機態窒素を80重量%以上含有する有機性排水を処理槽内に導入する。
【0013】
本発明は別の一側面において、活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる馴致工程と、馴致工程後にアンモニア態窒素の添加を停止し、処理槽内に有機性排水を導入し、好気性条件において活性汚泥の存在下で有機性排水を生物処理する生物処理工程とを有する有機性排水の処理方法が提供される。
【0014】
本発明に係る有機性排水の処理方法は一実施態様において、有機性排水を生物処理工程に導入する前に、有機性排水を、鉄試薬を用いてアルカリ性条件下で凝集処理し、重金属類を不要化物として固液分離するアルカリ凝集沈殿処理工程を更に有する。
【0015】
本発明に係る有機性排水の処理方法は別の一実施態様において、馴致工程及び生物処理工程が、有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒工程と、脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化工程と、硝化液を脱窒工程へ循環させる循環工程とを含み、馴致工程が、脱窒工程で有機性排水にアンモニア態窒素を添加し、脱窒工程で活性汚泥を馴致させることを含む。脱窒槽へアンモニア態窒素を添加することで好気性条件の硝化槽にアンモニア態窒素が流入するため、脱窒槽及び硝化槽、両槽の活性汚泥を馴致させることができる。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、有機態窒素を含む有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒槽と、
脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化槽と、硝化液を脱窒槽へ循環させる循環ラインと、脱窒槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加するアンモニア態窒素添加手段と、脱窒槽内に収容した活性汚泥の馴致処理時にアンモニア態窒素が脱窒槽内に添加されるように、アンモニア態窒素添加手段の駆動を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする有機性排水の処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機性排水の生物処理を安定的かつ効率良くかつ省エネルギーで行うことが可能な活性汚泥の馴致方法、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る活性汚泥の馴致方法の一例を表すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0020】
(有機性排水)
本発明の実施の形態に利用可能な有機性排水としては特に限定されず、生物処理が必要な種々の排水が利用可能である。例えば、各種産業排水処理、下水処理、し尿処理などにおいて発生する有機性排水の他、清涼飲料水製造工場、食品加工工場、食品製造工場、肥料製造工場、機械工場、自動車工場、屠畜場、食肉処理施設、食肉加工工場など各種工場で発生する有機性排水が好適に利用できる。その他に、生下水、生し尿、排水汚泥脱水後の脱水分離液も本実施形態に係る有機性排水として利用できる。これら有機性排水は窒素の形態が主に有機態窒素である。有機性排水には重金属類や分子量が数百以上の難溶解性有機物を含まれることもある。
【0021】
特に本実施形態では、有機性排水に含有されている窒素形態のうち、有機態窒素濃度が低い有機性排水だけでなく、有機態窒素を80重量%以上、一実施形態では90重量%以上、別の実施形態では95重量%以上含有する有機性排水に対しても、生物処理を安定的かつ効率良くかつ省エネルギーで行うことが可能である。具体的には、以下に限定されるものではないが、有機態窒素濃度が5~100mg/L、或いは100~200mg/Lといった高濃度の有機態窒素を含有する有機性排水に対しても安定的な生物処理が可能である。
【0022】
有機性排水中の窒素の含有割合は、典型的には、全窒素中の有機態窒素が80~99.8重量%、無機態窒素が0.2~20重量%、アンモニア態窒素が0~3重量%である。一実施態様においては、有機性排水中の窒素の内訳として、有機態窒素が98.5重量%、無機態窒素が1.5重量%、アンモニア態窒素が定量下限以下(0.1mg/L未満)であって、含有している窒素形態がほぼ有機態窒素で占められている有機性排水が利用でき、このような有機性排水であっても、生物処理を安定的かつ効率良くかつ省エネルギーで行うことが可能であることが本発明者らの検討により確認されている。
【0023】
有機性排水中には、有機態窒素以外の他の成分として、生物の阻害性を有する重金属類や金属スマットの他、油脂、機械油等を含むことがある。有機態窒素以外の他の成分は処理対象とする有機性排水の性状により異なるが、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、鉛(Pb)等の金属物質の他、遊離油、固形油脂等が該当する。これらは有機性排水に含まれる無機態窒素濃度として測定できる。有機性排水中に含まれる有機態窒素以外の他の成分は、典型的には20重量%以下、一実施形態では10重量%以下、別の実施形態では5重量%以下、含有されることがある。
【0024】
このような有機態窒素濃度が高い有機性排水に対して物理化学的処理であるフェントン処理による処理方法を検討したが、その効果は限定的であった。また、有機性排水中の重金属類を除去した後に蒸発処理を施したところ、得られた処理水は、有機物及び窒素の残留が少なく、処理は良好であったが、濃縮器へのスケール発生、ランニングコストの増加、処理できる水量が少ないといった種々の問題がある。
【0025】
一方、本実施形態では、有機態窒素を含有する有機性排水に対して生物学的処理を行うことを特徴の一つとする。これにより、物理化学的処理と比べて副生物の生成も、少なく省エネルギーな有機性排水の処理を行うことができる。
【0026】
(活性汚泥の馴致方法)
本発明の実施の形態に係る活性汚泥の馴致方法は、活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる馴致工程を含む。
【0027】
図1に馴致工程の処理フローの一例を示す。なお、
図1は例示であり、処理の状況に応じて各工程を省略又は順番を入れ替えてもよい。この馴致工程では、ステップS1において、例えば、活性汚泥が収容された脱窒槽及び硝化槽等の処理槽内に有機性排水を導入し、脱窒槽及び硝化槽内の活性汚泥の馴致を開始する。活性汚泥の馴致条件としては、例えば、硝化槽内BOD-SS負荷を0.1~1.9kg/(kg・d)、より好ましくは0.1~1.2kg/(kg・d)とし、さらに好ましくは0.1~0.8kg/(kg・d)とする。硝化槽内の溶存酸素濃度は2.0~8.0mg/L、より好ましくは5.0~8.0mg/Lとなるように必要に応じて曝気を行いながら馴致を行う。硝化槽内のpHが6.0~8.0、より好ましくは7.5~8.0になるように調整する。硝化槽内では、活性汚泥の馴致中も硝化反応が進み、pHが低下するため、炭酸水素ナトリウム等の薬剤を用いてアルカリ度を100~400mg/Lに維持するのが好ましい。
【0028】
ステップS2において、活性汚泥が収容された処理槽内へ薬剤の供給を開始する。薬剤としては、アンモニア態窒素及び活性汚泥の生物活性を高めるための生物活性剤が添加できる。アンモニア態窒素の供給は、例えば、脱窒槽及び硝化槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0よりも小さいと、活性汚泥の馴致が円滑に行えず、馴致工程に長時間を要する場合がある。BOD:アンモニア態窒素の重量比が100:20を超えても、有機態窒素、有機物の処理に大きな弊害はないが、硝化反応によるpHの低下が著しくなり、制御が難しくなる。よって、活性汚泥の馴致状況を考慮してアンモニア態窒素の添加を調整するのが好ましい。
【0029】
本実施形態では、BOD:アンモニア態窒素の重量比を100:5.0~20とすることがより好ましく、100:10~20とすることが更に好ましく、100:15~20とすることが更に好ましい。有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比を上述の範囲に調整することにより、早期に馴致工程を完了できるとともに、処理槽内を処理対象とする有機性排水の処理に好適な状態にできる。
【0030】
処理槽内に添加されるアンモニア態窒素としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素等が利用できる。例えばアンモニア態窒素として0.004~0.01重量%となるように適切に調製し、溶液の形態で添加することで、混合を早めてより生物処理を安定的に進めることができる。
【0031】
処理槽内に添加する生物活性剤としては、リン酸態リンを更に添加することが好ましい。処理槽内の有機性排水中にリン酸態リンを供給することにより、処理槽内の活性汚泥の活性を高め、馴致工程をより速やかに完了できる。リン酸態リンは、処理槽内の有機性排水のBOD:リン酸態リンの重量比が100:0.3~2.0となるように供給することが好ましく、100:1.0~2.0となるように供給することがより好ましい。リン酸態リンとしては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム等が好適に用いられる。
【0032】
処理槽内に添加する薬剤として、微量金属元素を添加することが、微生物を用いた生物処理に必要な微量金属元素を補充できる点で好ましい。特に、有機性排水を生物処理する前の前処理としてアルカリ凝集沈殿処理等を行う場合には、アルカリ凝集沈殿処理において微生物に必要な微量金属元素が除去される場合がある。このような場合、有機性排水中に菌体構成の一因子である微量金属元素が欠如していると、有機態窒素を分解する好気性微生物・菌体や硝化反応に関係する硝化菌・亜硝酸酸化細菌に種々の影響がおよぶ場合がある。
【0033】
添加される微量金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、銅(Cu)等が挙げられる。その導入濃度は、有機性排水中のBODに対して重量比でそれぞれBOD:鉄:マグネシウム:モリブデン:カルシウム=100:0.3~1.0:0.3~1.0:0.01~0.03:1.0~4.0で常時導入することが望ましく、より好ましくはBOD:鉄:マグネシウム:モリブデン:カルシウム=100:0.6~1.0:0.6~1.0:0.02~0.03:2.0~4.0の比率で常時導入することがより望ましい。
【0034】
微量金属元素は活性汚泥の怒限濃度を超過しない濃度で処理槽内へ導入されることが好ましい。添加される微量金属元素としてコバルトを導入する場合、その導入濃度は、活性汚泥の怒限濃度を超過しない0.5mg/L以下が好ましく、より好ましくは0.1~0.4mg/L以下、さらに好ましくは0.02~0.10mg/Lでの導入が望ましい。ニッケルの導入濃度は、活性汚泥の怒限濃度を超過しない0.5mg/L以下が好ましく、より好ましくは0.01~0.4mg/L以下、さらに好ましくは0.02~0.04mg/Lでの導入が望ましい。亜鉛の導入濃度は、活性汚泥の怒限濃度を超過しない、1.0mg/L以下が好ましく、より好ましくは0.2~0.9mg/L、さらに好ましくは0.2~0.4mg/Lでの導入が望ましい。以下に限定されるものではないが、典型的には、BOD:鉄:マグネシウム:カルシウム:亜鉛:コバルト:マンガン:銅:モリブデン:ニッケル=100:0.6:0.6:4.0:0.04:0.02:0.11:0.02:0.02:0.01の比で処理槽へ導入することができる。微量金属元素は所定の金属を含む溶液を用意し処理槽内に導入することができる。なお、これら微量金属元素は濃度が1.0mg/Lを超えると逆に微生物への阻害性をもたらす場合がある。
【0035】
馴致工程における処理槽内のpHは7.0~8.0とすることが好ましく、7.5~8.0に厳密に保つのがより好ましい。水温は20℃以上が好ましく、20℃~30℃に保つのがより好ましい。
【0036】
ステップS3において、処理槽内の活性汚泥の馴致が完了したか否かが判定される。活性汚泥の馴致の完了は、有機性排水由来の有機態窒素の除去率で判断することができる。具体的には有機態窒素の除去率が80%以上になったら馴致が完了したと判断できる。馴致完了の判断は、BODの除去率でも判断ができる。具体的には、有機性排水由来のBODの除去率が85%以上となったら、馴致が完了したと判断してもよい。馴致が完了していない場合はステップS2に戻る。馴致が完了した場合はステップS4へ進み、アンモニア態窒素の供給を停止する。その後、ステップS5において定常運転を開始する。
【0037】
本発明の実施の形態に係る活性汚泥の馴致方法によれば、活性汚泥の馴致工程において、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素が添加され、活性汚泥の馴致後は、アンモニア態窒素の添加を停止し、定常運転が行われる。活性汚泥の馴致工程において活性汚泥の馴致を予め十分行うことで定常運転時にアンモニア態窒素の添加は不要となる。これにより、溶解性窒素濃度を監視して常時既定値以下に制御する特許文献1に記載されるような従来の手法と比べて薬液使用量を低減でき、より効率の良い生物処理を行うことが可能となる。
【0038】
馴致工程におけるアンモニア態窒素の添加による生物処理の結果、処理槽内には難分解性の有機態窒素を分解する好気性微生物及び菌体が生成する。これらが有機態窒素を分解し、分解に伴いアンモニア態窒素が生じる。結果的に、難分解性の有機態窒素の種類に応じた生物処理がなされ、定常運転に適した十分なアンモニア態窒素が生成される。そのため、本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理方法によれば、定常運転時には人為的なアンモニア態窒素の添加が不要となる。
【0039】
有機態窒素濃度が低い有機性排水に比べて有機態窒素濃度が高い有機性排水は、生物処理に必要な栄養塩としての窒素源を十分に含有するため、通常は窒素源の導入は不要であると考えられてきた。しかしながら、難分解性の有機態窒素を含む場合、生物処理に必要な栄養塩が不足し、処理不良になることがあることが分かった。特に、有機態窒素が80重量%以上の有機性排水は、活性汚泥の馴致に時間を要し、定常運転においても十分な処理性能が得られない場合がある。
【0040】
本発明の実施の形態に係る活性汚泥の馴致方法によれば、好ましくは有機態窒素を80重量%以上含有する有機性排水に対して有機性排水中に含有されている窒素以外の窒素源としてアンモニア態窒素を更に添加することで、処理槽内での活性汚泥の馴致がより確実なものとなり、難分解性の有機態窒素や金属元素等を含有している有機性排水に対しても生物処理の適用が可能となる。馴致工程で活性汚泥の馴致を確実に行っておくことで、定常運転時のアンモニア態窒素の添加制御も不要となり処理効率を向上できる。
【0041】
(有機性排水の処理装置)
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置の一例を
図2に示す。本発明の実施の形態に係る処理装置は、有機態窒素を含む有機性排水を生物処理する生物処理部10と、有機性排水に対して前処理を行う前処理部20を備えることができる。
【0042】
生物処理部10は、有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒槽11と、脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化槽12と、硝化液を脱窒槽11へ循環させる循環ライン14と、脱窒槽11内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加するアンモニア態窒素添加手段15と、脱窒槽内に収容した活性汚泥の馴致処理時にアンモニア態窒素が脱窒槽内に添加されるように、アンモニア態窒素添加手段15の駆動を制御する制御手段18とを備える。
【0043】
前処理部20は、有機性排水を、鉄試薬を用いてアルカリ性条件下で凝集処理するアルカリ凝集槽21と、アルカリ凝集処理された被処理水を固液分離し、重金属類を不要化物として分離する固液分離槽22と、アルカリ凝集槽21へ鉄試薬を添加する鉄試薬添加手段23と、アルカリ凝集槽21へpH調整剤を添加可能なpH調整剤添加手段24と凝集剤添加手段25とを備える。
【0044】
アルカリ凝集槽21では、生物処理の阻害物質を除去するため、有機性排水に対してアルカリ凝集沈殿処理が行われることが好ましい。この阻害物質には、活性汚泥の怒限濃度を超過している重金属類(Cu、Ni、Cd、Zn、Co、Cr、Pb)、遊離油、固形油脂などの難溶解性有機物が該当する。アルカリ凝集槽21には、鉄試薬添加手段23とpH調整剤添加手段24が接続されている。鉄試薬添加手段23が添加する鉄試薬としては、第二鉄イオンを含有するものであればよく、ポリ硫酸第二鉄、塩化コッパラス、塩化第二鉄などが挙げられる。鉄試薬は有機性排水中のBODに対して重量比でそれぞれBOD:鉄=100:1.0~10、好ましくはBOD:鉄=100:1.0~7.0となるようにアルカリ凝集槽21へ導入することが好ましく、BOD:鉄=100:5.0となるようにアルカリ凝集槽21へ導入することがより好ましい。
【0045】
pH調整剤の種類は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸、塩酸、硝酸等が利用できる。また、凝集pHは、処理槽内において重金属類が不溶化する8.5以上に調製することが好ましく、9.0以上に調整することがより好ましく、10.0に調整することが更に好ましい。水温は20℃以上とし、25℃~30℃とするのがより好ましい。
【0046】
固液分離槽22は、アルカリ凝集槽21においてアルカリ凝集処理が行われたアルカリ凝集処理水を固液分離する装置である。固液分離槽22としては、膜ろ過装置、遠心分離装置、沈殿池等の種々の固液分離装置が利用できる。固液分離槽22内には、凝集剤添加手段25を介して無機凝集剤や高分子凝集剤等の凝集剤や凝集助剤、より典型的にはその中でも高分子凝集剤が供給される。
【0047】
脱窒槽11は、固液分離槽22で固液分離されたアルカリ凝集沈殿処理水を導入し、通性嫌気性細菌による脱窒反応により、有機性排水中の有機態窒素を硝酸態窒素まで酸化した硝化処理水を嫌気性条件下で窒素ガスとして還元する装置である。脱窒槽11には、硝化槽12、13で生成した消化処理水を循環させるための循環ライン14が接続されている。脱窒槽11に流入するアルカリ凝集沈殿処理水のpHは、脱窒反応が安定的に進行する7.0~8.0に保つのが好ましい。
【0048】
脱窒処理では、1mgの硝酸態窒素が脱窒されると2.86mgの水酸化ナトリウムに相当する水酸化物イオンが生じる。硝化処理水の循環により硝化工程で生じた水素イオンを脱窒槽11に供給することで、中和剤の低減効果が期待されるが、中和剤設備として脱窒槽11に中和剤を添加する中和手段17を更に設けておくことがより更に脱窒槽11のpHが安定する点で好ましい。中和剤は特に制限はないが、アルカリについては水酸化ナトリウム水溶液、酸については硫酸、塩酸、硝酸が用いられる。
【0049】
脱窒槽11内の水温は、脱窒反応が進みやすい20℃以上が好ましく、25℃~30℃に保つのがより好ましい。脱窒反応に必要なBOD源は、有機性排水中に含有するBODが利用できる。利用できない場合、外部からメタノールを電子供与体として添加することが好ましい。
【0050】
上述の通り、有機性排水のBOD量に対して生物処理に必要な栄養塩としての窒素源(有機態窒素)を十分に含有している場合、通常は窒素源の導入が不要と判断される。しかしながら、有機態窒素が難分解性である場合、生物処理に必要な栄養塩が不足し、処理不良となる。そこで、難分解性の有機態窒素の酸化分解に寄与する好気性微生物の出現・生成を促す目的として、有機性排水中に含有している別の形態の窒素(アンモニア態窒素)を活性汚泥馴致時のみ脱窒槽11へBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:7.0~20、より好ましくは100:10~20、更に好ましくは100:15~20となるように導入する。これにより、有機性排水の生物処理を安定的かつ効率良く、省エネルギーで行うことが可能となる。
【0051】
脱窒槽11へのリン酸態リンの導入量は有機性排水の含有BOD量に対して、重量比でBOD:リン酸態リン=100:0.3以上の比率で導入することが好ましく、より好ましくは100:0.3~2.0、さらに好ましくは100:1.0~2.0の導入が好ましい。また、有機性排水の中でも機械製造業、表面処理業者等から排出される排水は生物阻害性がある重金属類、有機物を含有している。これらの排水に幅広く対応するため、生物処理の前処理として鉄試薬を用いたアルカリ凝集処理を行うことで、有機性排水中のリン酸態リンが除去され、脱窒槽11における生物処理の栄養剤として機能するアンモニア態窒素やリン酸態リンが不足することがある。
【0052】
本実施形態によれば、アンモニア態窒素添加手段15及び生物活性剤添加手段16が脱窒槽11へ接続され、アンモニア態窒素及びリン酸態リンの添加位置を脱窒槽11又はその前段の配管や貯留槽(不図示)とすることで、嫌気性条件下及び好気性条件下の汚泥馴致を円滑に進行させることができる。また、アルカリ凝集処理は、脱窒反応に関係する脱窒菌といった従属栄養細菌、硝化菌、亜硝酸酸化細菌といった独立栄養細菌にとっても必要な微量金属類も除去するため、微量金属元素の添加位置も脱窒槽11にすることが望ましい。これにより脱窒槽11内の活性汚泥の馴致が確実になり、後段の硝化槽12、13での処理もより適切に行える。
【0053】
硝化槽12、13は、脱窒槽11より導入されるアンモニア態窒素を用いて活性汚泥を馴致し、その活性汚泥を利用して有機態窒素及び有機物を好気的に酸化分解する装置である。硝化槽12、13は一槽でも良いが、汚泥の馴致及び有機物、有機態窒素の酸化分解をより促すため、
図2に示すように二槽以上とするのが好ましい。硝化槽12、13のpHは7.0~8.0を保つのが好ましく、硝化反応が促進しやすい7.5~8.0に保つのがより好ましい。
【0054】
硝化処理時に発生する水素イオンを中和する必要なアルカリ量は1mgのアンモニア態窒素に対して水酸化ナトリウムとして5.71mgである。硝化槽12、13内の水素イオン中和の際に用いるアルカリ剤は、水酸化ナトリウムまたは硝化反応で必要な炭素源である炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウムを用いることが望ましい。また、硝化槽12、13内のアルカリ度としては100mg/L以上であることが好ましく、200mg/L以上とするのがより好ましいが、スケール付着防止の観点からアルカリ度の上限は500mg/L以下にするのが望ましい。
【0055】
水温は硝化反応が進みやすい20℃以上が好ましく、25℃~30℃に保つのがより好ましい。硝化槽12、13の溶存酸素濃度(DO)は有機態窒素の酸化分解反応、硝化反応が進みやすい4mg/L以上が好ましく、より好ましくは6mg/L以上を保つのが望ましい。硝化脱窒工程を経た処理水はその後固液分離される。固液分離は特に制限はなくMBRの他に、沈殿池による自然沈降が挙げられる。
【0056】
制御手段18は、アンモニア態窒素添加手段15、生物活性剤添加手段16、中和手段17に主に接続され、アンモニア態窒素添加手段15、生物活性剤添加手段16、中和手段17の運転又は停止を制御する。制御手段18は、
図2に示す有機性排水の処理装置が備える有機性排水の処理水の性状を測定する測定機器(不図示)等に接続され、測定機器から出力される有機性排水の測定結果に基づいて、アンモニア態窒素添加手段15、生物活性剤添加手段16、中和手段17による各薬液の供給流量等を制御してもよい。制御手段18は電磁弁等の機械式弁で構成され、脱窒槽11内の活性汚泥の馴致工程においてのみ選択的に弁を開き、アンモニア態窒素を脱窒槽11内へ供給できる。
【0057】
(有機性排水の処理方法)
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理方法は、例えば、
図2に示す有機性排水の処理装置を用いて行うことができる。即ち、本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理方法は、活性汚泥を収容する処理槽内に有機態窒素を含む有機性排水を導入し、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる馴致工程と、馴致工程後にアンモニア態窒素の添加を停止し、処理槽内に有機性排水を導入し、好気性条件において活性汚泥の存在下で有機性排水を生物処理する生物処理工程とを有する。
【0058】
一実施態様においては、前処理部20において、有機性排水を生物処理工程に導入する前に、有機性排水を、鉄試薬を用いてアルカリ性条件下で凝集処理し、重金属類を不要化物として固液分離するアルカリ凝集沈殿処理工程を有することが好ましい。
【0059】
別の一実施態様においては、生物処理部10が備える脱窒槽11において有機性排水を脱窒処理して脱窒液を得る脱窒工程と、硝化槽12、13において、脱窒液を硝化処理して硝化液を得る硝化工程と、循環ライン14を返して硝化液を脱窒工程へ循環させる循環工程とを含み、馴致工程が、脱窒工程で有機性排水へアンモニア態窒素を添加し、脱窒工程で活性汚泥を馴致させることが好ましい。
【0060】
本発明の実施の形態にかかる有機性排水の処理装置及び処理方法によれば、処理槽内の有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比が100:5.0~20となるようにアンモニア態窒素を添加して活性汚泥を馴致させる馴致工程を備えることにより、活性汚泥の馴致が確実なものとなり、難分解性の有機態窒素を含有している有機性排水に対しても安定的な生物処理が行える。その結果、有機性排水の生物処理を安定的かつ効率良く、省エネルギーで行うことが可能となる。
【実施例0061】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0062】
重金属類、有機態窒素を含有する有機性排水にアルカリ凝集処理を施し、その処理水(以下、生物処理原水)を用いて回分式の標準活性汚泥処理試験を実施した。なお、この生物処理原水の窒素の内訳として有機態窒素の含有割合は98.5%、無機態窒素は1.5%、アンモニア態窒素の検出は無く、ほぼ有機態窒素が占めていた。下記に試験条件を示す。
【0063】
(実施例1)
表1に示す各生物処理原水に対し、実施例1では、活性汚泥の馴致工程において、93.6mg/Lのアンモニア態窒素及び4.7mg/Lのリン酸態リンを、BOD:N:P=100:20:1.0となるように添加して馴致を行った。
【0064】
(実施例2)
表1に示す各生物処理原水に対し、実施例2では、活性汚泥の馴致工程において、20.2mg/Lのアンモニア態窒素及び4.0mg/Lのリン酸態リンを、BOD:N:P=100:5.0:1.0となるように添加して馴致を行った。実施例2では更に微量金属元素として、BOD:鉄:マグネシウム:カルシウム:亜鉛:コバルト:マンガン:銅:モリブデン:ニッケル=100:0.6:0.6:4.0:0.04:0.02:0.11:0.02:0.02:0.01になるように添加した。
【0065】
(比較例)
表1に示す各生物処理原水に対し、比較例では、活性汚泥の馴致工程において、4.0mg/Lのリン酸態リンをBOD:P=100:1.0となるように添加し、アンモニア態窒素の添加は行わずに馴致を行った。
【0066】
(馴致条件)
・反応容積(L):2~3L
・反応容積中のMLSS(mg/L):1,300~2,500mg/L
・反応時間(h):6~24h
・BOD-SS負荷[kg/(kg・d)]:0.21~0.77
・BOD-容積負荷[kg/(m3・d)]:0.42~1.62
・水温(℃):約20.1~23.4℃
【0067】
(評価方法)
粒子保持能1μmのガラス繊維ろ紙を用いて生物処理原水及び生物処理水をろ過し、水質分析に供した。CODMnの分析方法は、過マンガン酸カリウムによる酸素消費量を用いて測定した。BODの分析方法は、隔膜電極法を用いて測定した。NOx-N及びアンモニア態窒素の分析方法は、自動化学分析装置(BLTEC社製 全窒素・全リン自動分析装置)を用いて測定した。有機態窒素については、ケルダール法の測定値に対してアンモニア態窒素の値を差し引いた値を採用した。
【0068】
<測定結果>
(比較例)
BOD-SS負荷:0.33[kg/(kg・d)]時の生物処理水の有機態窒素は47.6mg/Lと、生物処理により酸化分解した有機態窒素は僅かであった(除去率:8.1%)。有機態窒素が酸化分解しない場合、生物学的硝化脱窒法による窒素除去効果が得られないため、富栄養化の原因となる窒素の除去が見込まれない。また、この時の生物処理水CODMnは172mg/L、BODは209mg/Lと残留が顕著であり、生物処理による有機物除去が僅かに得られた(CODMn除去率:29.2%、BOD除去率:47.1%)。
【0069】
(実施例1)
BOD-SS負荷:0.23[kg/(kg・d)]時の生物処理水の有機態窒素は9.0mg/L(除去率:82.7%)に低減しており、比較例に対して除去率が74.6pt改善した。しかし、この時の有機態窒素の分解速度は1.8mg-Org-N/L/h、硝化反応により生じたNOx-Nは6.4mg/Lと後述する実施例2に比べて僅かであった。これは、生物処理前のアルカリ凝集処理により生物阻害性がある有機物が除去されるとともに、硝化菌、亜硝酸酸化細菌といった独立栄養細菌にとって必要な微量金属類も除去されたためと推測される。なお、有機態窒素の除去に伴い、BOD、CODMnに低減傾向がみられ、生物処理水のBODは10.4mg/L、CODMnは38.6mg/Lとなり有機物の処理は良好であった(BOD除去率:97.9%、CODMn除去率:83.4%)。
【0070】
(実施例2)
BOD-SS負荷:0.77[kg/(kg・d)]時で生物処理水の有機態窒素は9.2mg/Lに低減しており、比較例、実施例1より高い負荷でも有機態窒素の除去が確認できた。有機態窒素の分解速度は6.2mg-Org-N/L/hと高く実施例1の約3.4倍となった。また、BOD-SS負荷:0.21[kg/(kg・d)]時の生物処理水のNOx-Nは16.2mg/Lであり、実施例1と比べて硝化反応で生じたNOx-Nは約2.5倍高かった。これは、アルカリ凝集処理後に活性汚泥の怒限濃度以下の微量金属元素を導入することで、硝化反応に関与する硝化菌、亜硝酸酸化細菌が活性化した影響と推測された。
【0071】
以上より、本発明の実施例1、2による処理フローによって、種々の有機性排水に対応できることが示された。なお、実施例2のBOD-SS負荷:0.21[kg/(kg・d)]時の生物処理水のBODは13.1mg/L、CODMnは33.1mg/L、有機態窒素は6.9mg/Lであり、有機態窒素・有機物の処理も良好であることを確認した(BOD除去率:96.8%、CODMn除去率:85.6%、有機態窒素除去率:85.0%)。
【0072】