(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042499
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/32 20060101AFI20240321BHJP
G01S 13/522 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G01S7/32 230
G01S13/522
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147258
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AC02
5J070AC06
5J070AH12
5J070AH19
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH50
5J070AK22
5J070AK40
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】 長時間積分時にも、少ない処理規模で実装可能とし、レンジウォークやドップラウォークによる位相ゆらぎの積分ロスを低減する。
【解決手段】 実施形態に係るレーダシステムは、fast-time軸に、変調した長パルスを送受信したNf(Nf≧1)セルの信号を用いて、fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf(Mf≧2、Mf×Lf=Nf)分割して、各々の分割単位で、fast-time軸で、Ns通りの速度を用いた参照信号により復調処理をして、Mf通りのNs×Lfセルのアンビギュイティ関数を得て、次に、Mf通りのアンビギュイティ関数のNs×Lfセルの各々について、第1FFT処理した結果を、アンビギュイティ関数のfast-time軸のセル(nf=1~Nf)毎に第2FFT処理して配列し、その配列した結果を用いて目標検出するようにし、2段FFTによる少ないポイント数(データ長)のFFT処理により、長時間積分を実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
fast-time軸に、変調した長パルスを送受信する送受信手段と、
前記送受信されたNf(Nf≧1)セルの信号を用いて、fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf(Mf≧2、Mf×Lf=Nf)分割する分割手段と、
各々の分割単位で、fast-time軸で、Ns通りの速度を用いた参照信号を生成する参照信号生成手段と、
前記fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf分割されたMfセルの信号を前記参照信号により復調処理して、Mf通りのNs×Lfセルのアンビギュイティ関数を取得する復調手段と、
前記Mf通りのアンビギュイティ関数のNs×Lfセルの各々について、第1FFT(Fast Fourier Transform)処理を行う第1FFT処理手段と、
前記第1FFT処理が行われた結果を、前記アンビギュイティ関数のfast-time軸のセル(nf=1~Nf)毎に第2FFT処理して配列する第2FFT処理手段と、
前記第2FFT処理によって配列されたセルを用いて目標を検出する検出手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項2】
前記検出手段は、前記第2FFT処理によって得られた配列結果を用いて目標を仮検出し、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を生成してFFT処理し、その処理結果の共役複素値を補正係数として、fast-time軸の信号を補正するPGA(Phase gradient autofocus)処理を含む請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
fast-time軸に、変調した長パルスを送受信し、
前記送受信されたNf(Nf≧1)セルの信号を用いて、fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf(Mf≧2、Mf×Lf=Nf)分割し、
各々の分割単位で、fast-time軸で、Ns通りの速度を用いた参照信号を生成し、
前記fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf分割されたMfセルの信号を前記参照信号により復調処理して、Mf通りのNs×Lfセルのアンビギュイティ関数を取得し、
前記Mf通りのアンビギュイティ関数のNs×Lfセルの各々について、第1FFT(Fast Fourier Transform)処理を行い、
前記第1FFT処理が行われた結果を、前記アンビギュイティ関数のfast-time軸のセル(nf=1~Nf)毎に第2FFT処理して配列し、
前記第2FFT処理によって配列されたセルを用いて目標を検出する
レーダ信号処理方法。
【請求項4】
前記第2FFT処理によって得られた配列結果を用いて目標を仮検出し、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を生成してFFT処理し、その処理結果の共役複素値を補正係数として、fast-time軸の信号を補正するPGA(Phase gradient autofocus)処理を行い、前記PGA処理結果について目標検出を行う請求項3記載のレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続波を用いて遠距離の小目標を検出するレーダシステムでは、長時間積分を行った場合に、1回のFFTポイント数が増えすぎてしまい、処理規模が増大して実装できなくなる。また、長時間観測の場合には、レンジウォークやドップラウォークによる位相ゆらぎのために、多大な積分ロスが生じてしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】レンジ圧縮:大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献3】PGA(Phase gradient autofocus)方式:Charles V.Jakowatz, ‘Spotlight-Mode Synthetic Aperture Radar: A Signal Processing Approach’, Springer, pp.251-256(1996)
【非特許文献4】アンギュイティ関数:Fred E.Nathanson,‘Radar Design Pronciples’, Scitech PUBLISHING, INC., pp.360-369(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダシステムは、長時間積分を行った場合に1回のFFTポイント数が増えすぎて処理規模が増大して実装できなくなる問題と、長時間観測の場合に、レンジウォークやドップラウォークによる位相ゆらぎのために、多大な積分ロスが生じてしまう問題を抱えている。
【0005】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で実装可能とし、レンジウォークやドップラウォークによる位相ゆらぎの積分ロスを低減することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、実施形態によれば、以下のように構成される。
(1) fast-time軸に、変調した長パルスを送受信したNf(Nf≧1)セルの信号を用いて、fast-time軸をLf(Lf≧1)セル毎にMf(Mf≧2、Mf×Lf=Nf)分割して、各々の分割単位で、fast-time軸で、Ns通りの速度を用いた参照信号により復調処理をして、Mf通りのNs×Lfセルのアンビギュイティ関数を得て、次に、Mf通りのアンビギュイティ関数のNs×Lfセルの各々について、第1FFT処理した結果を、アンビギュイティ関数のfast-time軸のセル(nf=1~Nf)毎に第2FFT処理して配列し、その配列した結果を用いて目標検出する。
【0007】
すなわち、(1) の構成によるレーダシステムでは、2段FFTによる少ないポイント数(データ長)のFFT処理により、長時間積分を実現する。
【0008】
(2) (1) の構成によるレーダシステムにおいて、前記第2FFT処理によって得られた配列結果を用いて目標を仮検出し、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を生成して逆FFT処理し、その処理結果の共役複素値を補正係数として、fast-time軸の信号を補正する(PGA(Phase gradient autofocus)処理)。
【0009】
すなわち、(2) の構成によるレーダシステムでは、(1)の構成における作用に加えて、CFAR等により仮検出し、仮検出信号に対して、PGA処理することで、積分ロスを低減して、目標を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係るレーダシステムとの比較において、通常処理での連続波送信波形と相関処理によるアンビギュイティ関数算出の様子を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係るレーダシステムに適用される分割単位での2段FFT処理を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す分割単位での2段FFT処理における連続波送信波形と相関処理によるアンビギュイティ関数算出の様子を示す図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す分割間の2段FFT処理を統合して目標情報を出力する様子を示す図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、位相ゆらぎの積分ロス分を補正するPGA処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、
図10に示すPGA処理により位相ゆらぎの積分ロスを低減する様子を示す波形図である。
【
図12】
図12は、
図6に示す分割間の2段FFT処理を統合し、
図11に示すPGA処理により得られる検出目標を出力する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
以下、
図1乃至
図6を参照して、第1の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0013】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図である。
図1において、送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調して長パルスによるレーダ信号を生成し、送信アンテナ15から空間に送出する。
【0014】
一方、受信系統は、受信アンテナ16でレーダ反射信号を受信し、周波数変換器17で受信信号をベースバンドに周波数変換し、AD変換器18でディジタル信号に変換する。次に、第1FFT処理器19において、fast-time軸を分割し、分割単位でFFT処理した後、レンジ周波数分割器20で所定のレンジ周波数で分割し、参照信号生成器21でレンジ周波数毎の参照信号を生成する。続いて、アンビギュイティ関数算出器22で、分割したレンジ周波数毎にアンビギュイティ関数を算出し、第2FFT処理器23でfast-time軸のFFT処理を行い、目標検出器23でCFAR(非特許文献2参照)等により目標を検出し、検出された目標の情報を出力する。
【0015】
図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムにおける連続波長時間積分処理の流れを示すフローチャートである。まず、長パルスによる連続波レーダ信号を送信し、その反射信号を受信入力すると(ステップS11)、fast-time軸を分割し、分割単位でFFT処理し(ステップS12)、所定のレンジ周波数で分割して(ステップS13)、レンジ周波数毎の参照信号を生成する(ステップS14)。ここで、参照信号に基づくレンジ圧縮を行い(ステップS15)、圧縮結果を保存する(ステップS16)。この処理について速度を順次変更し(ステップS17,S18)、レンジ周波数の分割単位で実行する(ステップS19,S20)。
【0016】
続いて、分割したレンジ周波数毎にアンビギュイティ関数を算出してfast-time軸のFFT処理を行い(ステップS21)、FFT処理結果を順次置き換え(ステップS22)、ドップラセルを順次変更して(ステップS23,S24)、CFARにより目標を検出し、検出された目標の情報を出力する(ステップS25)。
【0017】
上記の連続波長時間積分処理について、
図3乃至
図7を参照して説明する。
【0018】
図3は、第1の実施形態に係るレーダシステムとの比較において、通常処理での連続波送信波形と相関処理によるアンビギュイティ関数算出の様子を示す図、
図4は、第1の実施形態に係るレーダシステムに適用される分割単位での2段FFT処理を説明するための図、
図5は、
図4に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図、
図6は、
図4に示す分割単位での2段FFT処理における連続波送信波形と相関処理によるアンビギュイティ関数算出の様子を示す図、
図7は、
図6に示す分割間の2段FFT処理を統合して目標情報を出力する様子を示す図である。
【0019】
まず、
図3(a)は長パルスによる送信パルス波形、
図3(b)は長パルスによる受信パルス波形、
図3(c)は探索用ドップラ1~Nsに対応する参照信号を示し、
図3(d)はアンビギュイティ関数により目標検出して、距離・速度を算出する様子を示す図である。
【0020】
図3に示すように、送信変調信号と目標速度範囲の探索用ドップラにより参照信号を生成して相関処理を施し、fast-time軸と探索用ドップラ軸において、速度を順に変化させたレンジ軸の参照信号よりアンビギュイティ関数(非特許文献4参照)を算出し、CFAR(非特許文献2参照)等により目標を検出すれば、距離と速度を出力できる。
【0021】
ただし、相関処理する際には、長パルス信号と参照信号のFFT処理により、fast-time周波数軸に変換する必要があるが、長パルスの場合はFFTポイント数が膨大になり、処理規模が増え、実装できなくなる場合がある。この対策のために、
図4及び
図5に示す2段FFT方式を適用する。これは、
図4(a)に示すようにfast-time軸をLfセル毎にMf分割し、
図4(b)に示すように分割単位毎に少ないポイント数(Lf)でFFT処理し、
図4(c)に示すように分割単位間で並べ替え、その並べ替えた結果を
図4(d)に示すように第2FFT処理して、全体のNfポイントのFFT処理結果を得るものである。これは、FFTバタフライ演算を2段に分割して実施していることに相当する。例えば、
図5(a)に示すセル♯l(l=1~Lf)について2段FFT処理(第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列)することでセル#lをMf分割し(全セル数Nf=Lf×Mf)する。この手法により、NfポイントのFFT演算を最大Lf(Lf=Nf/Mf)ポイントのFFT演算で実施することができる。
【0022】
ここで、
図4を参照して、2段FFTについて定式化する。まず、入力信号sig(tf,tm)は以下のように表現される。
【0023】
【0024】
【0025】
次に、
図5に示すように、fast-time軸で分割単位の第2FFT処理を実施する。
【0026】
【0027】
このFFT処理結果を
図4のように第1FFTのバンク毎に配列すると、fast-time軸全体のFFTと同一の結果が得られる。この様子を
図5に示す。
【0028】
次に、全ポイントのFFTと2段FFTの演算規模を定量化する。
【0029】
【0030】
【0031】
以上により、演算量は同じであることがわかる。ただし、2段FFT方式では、FFTのポイント数を分割数分削減できるため、FFTポイント数に制約がある場合には、有利な方式と言える。
【0032】
ここで、参照信号は、送信変調信号と目標が存在するドップラ速度範囲の速度(Nsポイント)より算出するため、参照信号を2段FFT処理する際には、Ns回の演算が必要である。
【0033】
まず、送信変調信号を用いて相関処理をするための基準参照信号を生成する。基準参照信号としては、ドップラパルス列で出力したドップラを用いる。
【0034】
【0035】
設定した基準参照信号パルス列長はNfpであり、受信距離セル長をNfにするために、ゼロ埋めしたものを参照信号とする。
【0036】
【数7】
この参照信号と入力信号との相関を算出するために、参照信号をfast-time軸で2段FFT処理を実行し、さらにMf分割する。
【0037】
【0038】
一方、レンジング期間の受信信号は次式で表すことができる。
【0039】
【数9】
受信信号を2段FFT処理して、fast-time軸で分割すると、次式となる。
【0040】
【数10】
レンジ圧縮(非特許文献1参照)のための相関処理は、分割単位毎に、周波数軸の乗算を逆FFT処理するため、次式に示すようになる。
【0041】
【0042】
【数12】
以上の処理により、分割単位毎(mf=1~Mf)に、fast-time軸-ドップラ軸のアンビギュイティ関数を算出することができる。次に、分割単位間の処理を行うために、Mf通りのアンビギュイティ関数のドップラセル毎に、
図4及び
図5と同様の手法で、第2FFT処理を行い、fast-time軸の各レンジセルに配列する。
【0043】
【数13】
この結果、fast-time軸で高分解能なアンビギュイティ関数srng信号を得ることができる。
【0044】
この全体処理の様子を
図6及び
図7に示す。
図6(a)は送信パルス(長パルス)、
図6(b)は受信パルス(長パルス)、
図6(c)は2段FFT処理された受信パルス(長パルス)、
図6(d)は送信パルス(長パルス)の2段FFT処理によるドップラ1~Mfの参照信号である。また、
図7(a)はアンビギュイティ関数算出による相関処理で、分割単位毎に分割間の第2FFT処理(Mfポイント)を実行する様子を示し、
図7(b)は分割間の第2FFT処理の処理結果を合成して目標を検出する様子を示している。
【0045】
すなわち、
図6及び
図7から明らかなように、目標距離は、アンビギュイティ関数srngをCFAR等によりスレショルド検出して、時間軸を距離軸に変換すれば算出することができる。速度については、検出した参照信号のドップラセルより抽出することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
以下、
図8乃至
図12を参照して、第2の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0047】
第1の実施形態では、長パルスの場合の処理について、2段FFTを用いて、レンジ(fast-time)-ドップラ軸のアンビギュイティ関数を作成する手法について述べた。長パルス処理の場合は、fast-time軸内で位相ゆらぎが発生し、処理ロスが発生する場合がある。本実施形態では、この補正手法として、合成開口処理のオートフォーカス手法であるPGA(Phase gradient autofocus, 非特許文献3参照)と類似の手法を適用する例について説明する。
図8は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図、
図9は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャート、
図10は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、位相ゆらぎの積分ロス分を補正するPGA処理の流れを示すフローチャート、
図11は、
図10に示すPGA処理により位相ゆらぎの積分ロスを低減する様子を示す波形図、
図12は、
図6に示した分割間の2段FFT処理を統合し、
図11に示すPGA処理により得られる検出目標を出力する様子を示す図である。
【0048】
図8及び
図9において、
図1、
図2に示す第1の実施形態の構成と異なる点は、第2FFT処理器23でfast-time軸のFFT処理を行った後、目標仮検出器25でCFAR等により目標を仮検出し(ステップS26)、PGA処理器26で仮目標のドップラセル毎にfast-time軸のPGA処理を行って位相ゆらぎの積分ロス分を補正した後(ステップS27~S29)、目標検出器24で目標を検出し、検出した目標情報を出力する(ステップS30)。
【0049】
ここで、上記PGA処理器26の位相補正処理は、
図10に示すように、まずfast-time軸信号を入力し(ステップS41)、ピーク値を抽出して(ステップS42)、レンジ軸の並べ替えを行い(ピーク値をゼロシフト)(ステップS43)、窓関数乗算(±Rセル)及びゼロ埋め処理を行う(ステップS44)。続いて、第2FFT処理を行って(ステップS45)、補正係数から位相補正値を算出し(ステップS46)、その位相補正値で位相勾配を補正した後、逆FFT処理して(ステップS47)、メインローブが改善されたPGA処理結果として出力する。
【0050】
図11は、
図10に示す位相補正について具体的に説明するための図である。
図11に示すように、アンビギュティ関数のレンジ-ドップラ軸の結果(レンジ-ドップラデータ)の中で、仮検出されたPt通りの中の1ドップラセルについて説明する。その他の仮検出されたドップラセルについても同様の処理を行えばよい。
【0051】
仮検出したレンジ軸(Nf=Mf×Lfセル)の信号の中で、所定の振幅スレショルドを超えた極大値(ピーク値)を抽出する(
図11(a1),(b1))。次に、極大値のドップラ軸に対する位相勾配を除き、位相ゆらぎのみを抽出するため、極大値をレンジ軸の中心(FFT周波数の0に相当)にシフトするように、レンジ軸の信号を並べ替える(
図11(a2),(b2))。次に、位相ずれの振動成分を取り除き、安定した補正成分を得るために、極大値(0レンジ)を中心に±R(R≧1)セルに窓関数を乗算し、窓関数の外側をゼロ埋めした信号s0を生成し、この信号をFFT処理する(
図11(c))。
【0052】
【0053】
この信号s0(tf)の逆特性となる補正量Wc(tf)をfast-time軸の信号の補正値として、入力信号を補正し、逆FFT処理により、レンジ軸の信号を得る(
図11(d))。
【0054】
【数15】
このFs0(tf)を用いれば、位相ゆらぎを補正して、高いSNで目標を検出することができる。
【0055】
図12(a)に示す仮検出されたアンビギュイティ関数算出結果について、PGA処理した結果を
図12(b)示す。すなわち、
図12から明らかなように、PGA処理出力の目標距離は、アンビギュイティ関数srngをCFAR等によりスレショルド検出して、時間軸を距離軸に変換すれば算出することができる。速度については、検出した参照信号のドップラセルより抽出することができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、16…受信アンテナ、17…周波数変換器、18…AD変換器、19…第1FFT処理器、20…レンジ周波数分割器、21…参照信号生成器、22…アンビギュイティ関数算出器、23…第2FFT処理器、24…目標検出器、25…目標仮検出器、26…PGA処理器。