(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042571
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品、金型、樹脂成形品の製造方法及び金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20240321BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20240321BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C33/38
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147365
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】516035471
【氏名又は名称】株式会社IBUKI
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】大多和 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雄一
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AF01
4F202AF07
4F202AG05
4F202CA11
4F202CB01
4F202CD23
4F202CD28
4F202CD30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】通常の生産設備を用いた射出成形加工によりシボ加工面(立体加飾表面)上に耐久性を備えた低反射樹脂成形品を安価に製造する。
【解決手段】樹脂成形品のシボ加工面(立体加飾表面)上に、略円錐台状をなす無数の微細凸部(以下、円錐台状微細凸部と称す)が所定のピッチPで配列されて成ると共に、前記円錐台状微細凸部の円錐台上底面に相当する先端部分はその表面に面粗さが算術平均高さ(Sa)で0.1~2.0μmとなるさらに微細な凹凸を有する略半球状であり、前記円錐台状微細凸部は並列型又は千鳥型の配置を持ち、微細凸部間のピッチPは80~120μm、略円錐台の下底面径D1は30~90μm、略円錐台の上底面径D2は10~60μm、略円錐台の高さZ2は15~100μmである。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品のシボ加工面(立体加飾表面)上に、略円錐台状をなす無数の微細凸部(以下、円錐台状微細凸部と称す)が所定のピッチPで配列されて成ると共に、前記円錐台状微細凸部の円錐台上底面に相当する先端部分はその表面に面粗さが算術平均高さ(Sa)で0.1~2.0μmとなるさらに微細な凹凸を有する略半球状であり、前記円錐台状微細凸部は並列型又は千鳥型の配置を持ち、微細凸部間のピッチPは80~150μm、略円錐台の下底面径D1は50~90μm、略円錐台の上底面径D2は10~60μm、略円錐台の高さZ2は25~100μmであることを特徴とする立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品。
【請求項2】
前記立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の製造に用いる金型の製造方法であって、前記円錐台状微細凸部に対応した無数の微細凹部を前記の並列型又は千鳥型の配置に従いナノ秒レーザーもしくはピコ秒レーザーもしくはフェムト秒レーザーのいずれかを用いることにより前記略円錐台の下底面径と同サイズの口元径D1、先端頂点までの深さZ1の略円錐状凹部パターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品を生産するための金型の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金型の製造方法によって製造された前記立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品に対応する前記略円錐状凹部パターンを少なくとも一部に備えたことを特徴とする金型。
【請求項4】
前記略円錐状凹部パターンを備えた金型を用いた成形工程において、前記略円錐状凹部パターンへの樹脂充填量を射出成形条件により調整し略円錐状凹部パターンの樹脂流動先端をさらに微細な凹凸を有する略半球状となるよう形成することを特徴とする請求項1に記載された立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品の中で特に立体感のある加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品、金型、樹脂成形品の製造方法及び金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の内装部品であるインストルメントパネルやドアトリム等に使用される樹脂成形品の表面に、皮革模様、木目模様、幾何模様又は梨地模様等の立体的な質感を付与するシボ加工面(加飾面)を形成した加飾樹脂成形品が知られている。このシボ加工面は、先ず、金型の成形面にエッチングにより各模様に対応する凹凸を形成しておき、この成形面の凹凸に加熱し流動化した樹脂を流し込むことで形成される。エッチングの他にも凹凸の形成方法としては加飾面の表面性状をデジタルデータ化し切削やレーザーにより金型に直接彫り込む加工方法も普及し、より再現性の高い金型加工が可能になってきている。
【0003】
車両の内装部品における加飾面が与える表面質感は、車室内空間においてドライバや乗客の快適性や満足感といった感性的価値を高める重要な一要因となる。具体的な加飾面に対する要望としては、表面の性状を皮革模様、木目模様、幾何模様などの立体的な表面性状にすることによりデザイン性を高めるとともに、高級感を醸し出すため光の反射を抑えた漆黒の色目にしたいという要望がある。黒色感を出すためには成形材料にカーボンブラックなどを添加し材料自体を黒くするとともに、表面性状の凹凸により光の反射をコントロールすることが知られている。一般的には、鏡面は正反射により一定の方向で強く反射がおこる。また、微細な凹凸で粗面化することで乱反射となり方向性を緩和することができる。しかし、正反射を抑え乱反射としただけでは反射光の総量は変わらないため漆黒化することはできない。また凹凸を微細化することにつれ模様の凹凸も低くなり立体感が失われるという課題もある。
【0004】
反射防止の技術としてはモスアイ構造といわれる可視光の波長以下のナノレベルの超微細突起により光を反射させずに吸収する技術がある。この技術はカメラのレンズ鏡筒などの光学部品の反射防止に実用されている。しかし、製造方法が複雑かつ設備的にも小サイズに限定されてしまうこと、またモスアイ構造自体に耐久性が無いことから車両の内装部品では適用が進んでいない。
【0005】
射出成形品の表面性状が光沢度と色に及ぼす影響については、非特許文献1に黒色のPP系樹脂を用い、算術平均値Ra,二乗平均平方根傾斜 RΔq、スキューネスRskなどの性状パラメータと光沢度や表面色の相関関係が報告されている。この論文は加飾面の質感をデジタルで評価する手法について研究されたもので、表面性状により光沢度や表面色に見栄えをコントロールできることを示唆している。
【0006】
このような背景をもとに、低反射を目的に立体的なシボ模様を施した加飾金型表面上に加飾柄よりさらに微細な凹凸を加工し射出成形で転写することで立体的なシボのデザイン性と低反射を備えた成形品に関わる各種技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5784893号公報
【特許文献2】特許6298224号公報
【特許文献3】特許7023178号公報
【特許文献4】特許5512269号公報
【特許文献5】特開2020-24381号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】自動車内装部品におけるシボ加工面の表面性状が光沢度と色に及ぼす影響 米原 牧子 他 近畿大学次世代基盤技術研究報告 Vol.3(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、キャビティ面に施されたシボ加工面上に上層側ほど凹凸が小さくなる2段以上の凹凸からなり、最上層の凹凸が鋭利形状の無数の凹凸である低光沢性を有する熱可塑性樹脂成形品が公開されている。しかし、本発明では最上層の凹凸の高さ、幅ともに1μm~10μmのサイズであり、射出成形で鋭利形状を保ち転写するために射出工程と固化工程で金型温度の精密なコントールが必要である。このため温度調節などの設備が必要となるとともに、金型温度の切り替えに伴い成形サイクルが伸びることから生産性が悪化するという課題がある。また、本文献では、最上層の凹凸微細構造の耐久性についての記述がない。1μm~10μmサイズの鋭利形状は物との接触がある部位には適用が難しい。
【0010】
特許文献2では、反射防止構造をベース表面より凹形状とすることで外面に何らかの接触が生じても凹部に影響を与えなくて済む構造を提案している。これにより不用なパーティクルの発生防止と共に、凹部の形状変化を防止できる。しかし本文献の反射防止構造は平面や円筒面や曲面などのベース面に対して加工はできるが、立体的な微細なシボ形状の上に施すことは記載されていない。
【0011】
特許文献3では、シボ模様を形成するための凹凸形状を構成する凸部もしくは凹部のうち一方の面に対して選択的に微細凹凸を付与し粗面化する技術が公開されている。これにより成形品表面の光沢度を低減するとともに、凸部と凹部のコントラストを高くすることで意匠性を高めることができる。しかし、この製法に用いる金型の製法はメッキによるもので、粗面化しない方の凹部もしくは凸部をマスキングするなどの処理が必要となるなど複雑な工程が必要となる。また粗面化しない方の凹部、凸部は光沢度が高いままであることから成形品としての低光沢化は限定的なものである。
【0012】
特許文献4及び特許文献5では、微細形状の上にナノ構造の微細凹凸を施したものあるが、前述したモスアイ構造のため製造方法が複雑かつ設備的にも対象の成形品が小サイズに限定されてしまう。
【0013】
そこで本発明の目的は、加飾樹脂成形品の中で特に立体感のある加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品を低コストかつ簡単に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の立体感のある加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品は、樹脂成形品のシボ加工面(立体加飾表面)上に、略円錐台状をなす無数の微細凸部(以下、円錐台状微細凸部と称す)が所定のピッチPで配列されて成ると共に、前記円錐台状微細凸部の円錐台上底面に相当する先端部分はその表面に面粗さが算術平均高さ(Sa)で0.1~2.0μmとなるさらに微細な凹凸を有する略半球状であり、前記円錐台状微細凸部は並列型又は千鳥型の配置を持ち、微細凸部間のピッチPは80~150μm、略円錐台の下底面径D1は60~90μm、略円錐台の上底面径D2は10~60μm、略円錐台の高さZ2は25~100μmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の前記立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の製造に用いる金型の製造方法は、前記円錐台状微細凸部に対応した無数の微細凹部を前記の並列型又は千鳥型の配置に従いナノ秒レーザーもしくはピコ秒レーザーもしくはフェムト秒レーザーのいずれかを用いることにより前記略円錐台の下底面径と同サイズの口元径D1、先端頂点までの深さZ1の略円錐状凹部パターンを形成することを特徴とする。
【0016】
本発明の金型は、前記記載の型製造方法によって製造された前記立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品に対応する前記略円錐状凹部パターンを少なくとも一部に備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の前記立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の製造方法は、前記略円錐状凹部パターンを備えた金型を用いた成形工程において、前記略円錐状凹部パターンへの樹脂充填量を射出成形条件により調整し略円錐状凹部パターンの樹脂流動先端をさらに微細な凹凸を有する略半球状となるよう形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通常の生産設備を用いた射出成形加工によりシボ加工面(立体加飾表面)上に耐久性を備えた低反射樹脂成形品を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】本発明の立体加飾表面に付与する低反射構造を示す斜視図である。
【
図1b】本発明の立体加飾表面に付与する低反射構造を示す正面図である。
【
図2】本発明の低反射構造の配置パターンを示す(a)正面図と(b)正面図である。
【
図3a】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部に対応する金型部位を示す配置パターンであって、60°千鳥型の平面図である。
【
図3b】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部に対応する金型部位を示す配置パターンであって、45°千鳥型の平面図である。
【
図3c】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部に対応する金型部位を示す配置パターンであって、90°並列型の平面図である。
【
図4】本発明の立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の成形加工に用いる金型の拡大断面図である。
【
図5a】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部の成形プロセスを示し、樹脂が微細凸部前まで流動した際の断面図である。
【
図5b】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部の成形プロセスを示し、樹脂が微細凸部を含めて流動した際の断面図である。
【
図5c】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部の成形プロセスを示し、樹脂が膨張を開始した際の断面図である。
【
図5d】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部の成形プロセスを示し、樹脂が膨張して微細凸部まで充填された際の断面図である。
【
図6】本発明の低反射構造の円錐台状微細凸部の成形によるイメージ図である。
【
図7】本発明の評価に用いるサンプル成形品の説明図である。
【
図8a】評価用サンプルの形状評価の例を示す図である。
【
図8b】評価用サンプルの形状評価の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細を説明する。なお、以下で説明する全ての図面において、同一の構成要素には同一の符号を付加し、適宜説明を省略する。
【0021】
図1は本発明の射出成形品の低反射構造を説明する図である。
図1(a)は低反射構造を構成する無数の微細凸部(円錐台状微細凸部)の1つを三次元的に表現した図である。1は成形品のシボ加工面(立体加飾面)、2は円錐台状微細凸部である。
図1(b)は一つの円錐台状微細凸部と隣接する円錐台状微細凸部間の位置関係を説明する正面図である。3はシボ加工面(立体加飾面)の上に配置される円錐台状微細凸部の円錐台形状部分、4は円錐台形状部3の先端部(円錐台の上底面に相当)に形成される略半球形状部である。5は略半球形状部の拡大図で、略半球状部の表面にはより微細な凹凸6を有している。隣接する円錐台状微細凸部はピッチPで配置される。なお、ここで用いる略半球形状とは凡その形状が半球に近似できるものであればよく、半径や曲率変化などの数値的な定義は必要としない。
【0022】
図2は円錐台状微細凸部をシボ加工面(立体加飾面)に配置したパターンの一例である。
図2a)の 正面図を用いて円錐台状微細凸部の寸法を定義する諸元を説明する。円錐台の根本径(下底面径)をφD1、先端径(上底面径)をφD2、基盤面1から頂点を延長した仮想の円錐頂点までの高さをZ1、シボ加工面1から先端部までの高さをZ2とする。先端面は略Rの半径を持つ略半球形状である。
図2b)の平面図を用い円錐台状微細凸部の低反射領域への配置方法を説明する。
図2は千鳥パターンに配置した事例であり、X方向のピッチPx、Y方向のピッチPyは反射のもとになる光源の方向を考慮して独立して設定できる。
図3は円錐台状微細凸部を配置するバリエーションの例である。Px=Pyとした60°千鳥型(
図3a)、45°千鳥型(
図3b)、並列型(
図3c)などの配置をとることもできる。
【0023】
図4は本発明の立体加飾表面に低反射構造を持つ樹脂成形品の成形加工に用いる金型の一部で、低反射構造の円錐台状微細凸部に対応する部位を示す図である。11はシボ加工面(立体加飾表面)(
図1a)に相当する金型における基底面、12は円錐台状微細凸部に対応し円錐台形状を賦形する金型における凹部(以下ピットと呼ぶ)である。円錐台状微細凸部の先端形状となる略半球形状、さらに略半球形状の表面に形成される微小の凹凸は後から説明する成形工程で生成するため、金型では円錐形状となるようピットを彫り込むだけでよい。また、本発明の円錐台状微細凸形状の根本径φD1は50~90μm、先端部までの高さZ1は30μm以上であり、基底面11のピット口元部に数μmオーダーの溶解物の残滓による突起13ができても成形品の反射性能には影響がでない十分なサイズである。このためナノ秒レーザーやピコ秒レーザーなどの加工速度の速いレーザー加工が利用できるため大面積への低反射構造の加工が可能になる。なお、φD1、Pは成形品、金型とも同じ寸法となるため、同じ記号を用い説明する。
【0024】
図5は本発明の円錐台状微細凸部の成形プロセスを示す図である。
図5a)~
図5d)の順で樹脂が充填される。
図6は一つの円錐台状微細凸部30を拡大したイメージ図である。
図5、
図6とも説明のために円錐台状微細凸部をデフォルメしている。実際にはキャビティ厚みに対する割合が1/20~1/50程度のサイズの微細突起が1平方ミリあたり80~400個程度配置されている。溶融樹脂は図の左側から右側に向かって金型キャビティ内28を流動するよう樹脂流路が設定されているものとする。ここで23は金型内の低反射領域であり、24は円錐台状微細凸形状を賦形する金型のピットの一つである。射出成形では溶融樹脂の流れ周辺部は金型21,金型22やキャビティ内の空気に熱を奪われ固化しスキン層27を形成することが知られている。ゲートからキャビティに供給される溶融樹脂はキャビティ中心部のコア層26を流れ次々に温度低下したフローフロントの突き破り充填を進める。この際に低反射構造を形成するピットの入り口は固化しはじめたスキン層27によって蓋がされるため円錐状のピット24は未充填のままキャビティ最終充填部まで充填が進む。充填完了後に保圧工程により樹脂の成形収縮により体積が減少した分を材料追加することでキャビティ内の樹脂圧29が高まり未充填部への充填が進められる。
【0025】
しかし、ピット入口においては固化したスキン層とピットに押し込められた残留空気の圧縮反力32が抵抗となり円錐形状の先端まで樹脂を充填することができない。微細部への充填を促進するためには、例えば充填時の金型温度を高温化してスキン層の発生を抑制し転写性を向上させるヒート&クール成形や樹脂を超臨界流体化し流動性をます技術などがあるが、高コストになる。また転写性をあげた場合では、本発明のように微細形状の先端部に微細凹凸をつける場合は型のピット深部に微細凹凸を施す必要があり極めて困難な加工となる。
【0026】
本発明の製造方法は、射出成形による金型から成形品への賦形時に金型の円錐ピット最深部を未充填のままとして、保圧による樹脂圧29とスキン層やエアの圧縮反力32との相互作用により円錐台状微細凸形状の円錐台先端部に略半球状形状とその表面に微細凹凸の形状を形成するものである。
図6のイメージ図で31が略半球形状に相当する。射出成形プロセスを用いた円錐台先端部の形状形成方法は低反射構造、金型加工法、射出成形プロセスを鋭意研究することによって実現できた。
【実施例0027】
実験金型を製作し低反射評価用成形品サンプル(以下、評価用サンプルと省略する)を射出成形にて作成した。
図7を用い評価用サンプルの形状を説明する。評価用サンプルは、80mm*50mm厚さ(t)2mmの平板とし、図中7a乃至7dの4つの領域を設定した。領域7a、7bへはシボ加工を切削によって形成した。領域7aはシボ加工のままのリファレンスとなる領域であり、領域7bはシボ加工後に本発明の低遮光構造のピットをレーザーで加工した領域である。両者を比較することで本発明の効果が確認できる。領域7c、7dへはシボ加工をレーザー加工によって形成した。領域7cはシボ加工のままのリファレンススとなる領域であり、領域7dはシボ加工後に本発明の低遮光構造のピットをレーザーで加工領域である。こちらも両者を比較することで本発明の効果が確認できる。
【0028】
領域7b、7dに形状を付与する低反射構造の微細突起の配置パターンは、45°千鳥型とし、根本径φ60μm、ピッチ100μm、仮想の円錐頂点までの高さ(金型のピット円錐深さ)80μmである。金型への低反射構造のピット加工はナノ秒レーザーを用いたが、大面積の金型加工には出力が大きく加工範囲も広いピコ秒レーザー、またはより微細な加工ができるフェムト秒レーザーの使用も可能である。
【0029】
自動車内装部品、家電、パソコン、事務機器などの樹脂部品の材料として用いられる熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂、アクリルニトリル・スチレン共重合合成樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)のなかで、特に代表的な材料であるポリプロピレン(以下PP材と省略する)、を実施事例として説明する。
【0030】
なお、成形機は型締め110tの射出成形機を用い、樹脂温度、金型温度、射出速度、射出圧力、保圧、冷却時間などの成形条件は樹脂メーカー推奨の範囲内で調整することで狙いの円錐台状微細凸形状を得ることができた。成形条件は材料グレードや成形品サイズや形状によって適宜調整することになるが、特殊な成形機や特殊な成形方法や成形条件を用いる必要はない。今回は射出圧力(20Mpa)、射出速度(100mm/s)、金型温度(70℃)の射出条件により成形したサンプルを用い測定した光学特性を測定した。
【0031】
評価用サンプルの形状評価は、キーエンス製レーザー顕微鏡VX-X1000 を用いた。
図8は領域7dの測定データである。
図8aは低反射構造の平面画像、
図8bは円錐台状微細凸形状の断面図である。成形品での微細突起形状は、円錐台の下底面径に相当する根本径φ63.29μm(狙い値φ60μm)、ピッチ106.71μm(狙い値100μm)となり、円錐台の高さは43.09μm(金型のピット円錐深さ:狙い値80μm)、上底面径は略半球上のドーム形状の起点となる径を上底面径と定義すると30~40μm程度となる。射出成形による微細突起部への樹脂の充填率はピットの深さで約53.8%、体積では約90.3%となる。また、円錐台状微細凸部の円錐台上底面に相当する先端部分の面粗さは算術平均高さ(Sa)で0.12μm、最大高さ(Sz)は4.62μmである。領域7bの測定データは表3に記載する。
【0032】
<実験1>
反射率の比較評価を堀場製作所:グロスチェッカーIG-320(反射角60°)を用いおこなった。結果を表1にまとめる。
【表1】
【0033】
低反射構造の付与無の状態では、シボ加工面(立体加飾面)の加工法が切削の場合とレーザーの場合を比較するとグロス値へ切削の倍が大きい。これは切削工具による加工目がシャープに金型に残るため反射率が高くなるためである。低反射構造を付与した場合は切削のグロス値が2.2、レーザーのグロス値が2.1とともに付与が無い状態から大きくグロス値が低下し、もとのシボ加工面の加工法による違いも小さくなることが確認された。
【0034】
<実験2>
色味の比較評価をコニカミノルタ:分光測色計CM-2600d(反射角0°)を用いL*a*b*色空間を評価した。L*は明度指数であり、100が白、黒が0となる。グループ属性(測定方式)としては、SCI(正反射含む)とSCE(正反射除去)の両方式で評価した。ΔLが低反射構造の付与前と付与後の明度の変化量となる。結果を表2にまとめる。
【表2】
【0035】
シボ加工面(立体加飾面)の加工法が切削の場合とレーザーの加工の場合であっても低反射構造付与無のSCEでのL値がやや低めではあるが23.85~26.11の範囲に収まっている。低反射構造付与により明度の変化量ΔLは―7.93~―9.95となり、どのパターンにおいても大幅に黒色側に変化していることが確認できた。
【0036】
<実験3>
成形品での微細突起形状のサイズによる反射率に対する影響を確認するため、ピッチ、根本径、高さを3パターン(#1~#3)変更したピットを平板に加工した金型を用い、成形品のグロス値を測定した。結果を表3にまとめる。なお、ピッチ、根本径、高さは成形品のサイズである。比較のため実験1の7b、7dの結果も表3に記載する。
【表3】
【0037】
#1~#3のグロス値は2.1~2.2の範囲におさまり実験1の7b、7dの結果とも差異が小さいことが分かった。
【0038】
金型へ微細突起形状のサイズをバラツキなく加工するためには、レーザーで加工する際に、レーザーの焦点距離をシボ加工面(立体加飾面)の凹凸量に忠実に追従する必要がある。また、成形品が大きなサイズの場合にはゲートからの距離による樹脂圧や樹脂速度の変化や金型温度の金型部位によるバラツキの影響により充填状況が微妙に変化するおそれがある。しかし、実験3の結果より一定量の微細突起形状差はグロス値にほとんど影響がないことより、金型へのレーザー加工や射出成形が容易にできることがわかった。