(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042587
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】超電導回転電機用コイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240321BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 120
H01F6/06 150
H02K15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147399
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
(72)【発明者】
【氏名】下之園 勉
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP12
5H615QQ03
5H615RR02
5H615SS03
5H615TT35
(57)【要約】
【課題】回転電機の界磁子コイルとして使用するような場合に円弧部の磁場で負荷率が制限されてしまうという課題があった。
【解決手段】超電導回転電機に用いられる超電導回転電機用コイル1であって、前記超電導コイルの巻線部が超電導線材2を巻枠に巻回して形成され、前記巻線部は円弧部12とこの円弧部につながる直線部11とからなる長円形状に巻回されており、前記巻線部は前記直線部11と前記円弧部12のいずれも前記超電導線材2と電気絶縁材3とを含む同一の要素で構成されており、前記直線部11における前記超電導線材2の占積率が前記円弧部12における前記超電導線材2の占積率よりも大きいことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導回転電機に用いられる超電導コイルであって、前記超電導コイルの巻線部が超電導線材を巻枠に巻回して形成され、前記巻線部は円弧部とこの円弧部につながる直線部とからなる長円形状に巻回されており、前記巻線部は前記直線部と前記円弧部のいずれも前記超電導線材と電気絶縁材とを含む同一の要素で構成されており、
前記直線部における前記超電導線材の占積率が前記円弧部における前記超電導線材の占積率よりも大きいことを特徴とする超電導回転電機用コイル。
【請求項2】
巻回された前記超電導線材のターン間にターン間電気絶縁物が介在されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導回転電機用コイル。
【請求項3】
前記円弧部における前記超電導線材どうしのターン間距離が、前記直線部における前記超電導線材どうしのターン間距離の1.01~1.9倍であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導回転電機用コイル。
【請求項4】
前記直線部に電流導入端子を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導回転電機用コイル。
【請求項5】
超電導コイルの巻線部が超電導線材を巻枠に巻回して形成され、前記巻線部は円弧部とこの円弧部につながる直線部とからなる長円形状に巻回されており、前記巻線部は前記直線部と前記円弧部のいずれも前記超電導線材と電気絶縁材とを含む同一の要素で構成され、超電導回転電機に用いられる超電導コイルの製造方法であって、
前記巻線部が、前記超電導線材のターン間に電気絶縁物が配置されて巻回され、前記直線部を加圧成形することにより前記直線部における超電導線材どうしのターン間距離を縮めるように構成するとともに、前記円弧部における超電導線材のターン間距離を広げるように構成することを特徴とする超電導回転電機用コイルの製造方法。
【請求項6】
前記直線部の加圧成形は、直線部成形治具によって対向する前記直線部を二つの直線部成形治具によって相対する前記直線部方向に加圧成形することを特徴とする請求項5記載の超電導回転電機用コイルの製造方法。
【請求項7】
前記直線部の加圧成形の後に、ターン間絶縁物硬化するまで前記巻線部を加圧成形時の形状に前記直線部成形治具によって維持することを特徴とする請求項6記載の超電導回転電機用コイルの製造方法。
【請求項8】
前記直線部成形治具は、機械強度を持たせた構造物として前記巻線部に取り付けたまま前記超電導回転電機に組み込まれることを特徴とする請求項6または請求項7記載の超電導回転電機用コイルの製造方法。
【請求項9】
前記直線部成形治具は、前記巻線部と対向する面に前記巻線部に電気的に接して電流導入端子が設けられ、機械強度を持たせた構造物として前記巻線部に取り付けたまま前記超電導回転電機に組み込まれることを特徴とする請求項6または請求項7記載の超電導回転電機用コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材を長円形に巻回した超電導コイルおよびその製造方法に関し、特に超電導回転電機用として製造される超電導コイルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の界磁巻線部分などにおいて、円弧部とこの円弧部につながる直線部とからなる長円形状に巻回されたコイルが利用されていた。テープ状の超電導線で長円形のパンケーキコイルを巻回した場合、円弧部において経験磁場が最も高くなり、回転電機用コイルとしては主に直線部の磁場が利用されるにもかかわらず円弧部における負荷率で設計が制限されてしまっていた。
【0003】
その解決のため、エンドスペーサを入れる方法が従来とられていたが、精密な寸法が要求され手間とコストがかかっていた。また、長円形コイルは巻線時においては直線部を巻線部内側方向に押える力が働かず、直線部を設計通りに整形しにくかった。整形のためテンションを上げると内側のターンで線材が座屈し超電導特性が劣化するリスクがあり、直線部を意図して膨らませる設計手法もあったが、設計が煩雑になりコストがかかっていた。
【0004】
また、一般的に巻き始めた超電導線材を保持するために巻線内周側には巻枠を設けるためコイル内側の電極はこの巻枠に固定することで強固に支持できたが、巻線外周側の電極は巻枠に相当する支持部品が無いため外力に対して弱いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3122376号
【特許文献2】特開2011-91290号
【特許文献3】特許第6109532号
【特許文献4】特開2016-21552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、長円形の超電導コイルは円弧部における経験磁場が高いために、回転電機の界磁子コイルとして使用するような場合に円弧部の磁場で負荷率が制限されてしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、長円形コイルの円弧部にスペーサのような部品を設けず直線部と同じ材料で巻線部を構成しつつ直線部と円弧部とで電流密度が異なる構成とすることで、巻線の煩雑さや高コスト化を回避しつつ超電導コイルの負荷率低減,能力向上を図り、信頼性の高い機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実施形態に係る超電導回転電機に用いられる超電導回転電機用コイルは、前記超電導コイルの巻線部が超電導線材を巻枠に巻回して形成され、前記巻線部は円弧部とこの円弧部につながる直線部とからなる長円形状に巻回されており、前記巻線部は前記直線部と前記円弧部のいずれも前記超電導線材と電気絶縁材とを含む同一の要素で構成されており、前記直線部における前記超電導線材の占積率が前記円弧部における前記超電導線材の占積率よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記実施形態に係る超電導回転電機用コイルの製造方法は、超電導コイルの巻線部が超電導線材を巻枠に巻回して形成され、前記巻線部は円弧部とこの円弧部につながる直線部とからなる長円形状に巻回されており、前記巻線部は前記直線部と前記円弧部のいずれも前記超電導線材と電気絶縁材とを含む同一の要素で構成され、超電導回転電機に用いられる超電導コイルの製造方法であって、前記巻線部が、前記超電導線材のターン間に電気絶縁物が配置されて巻回され、前記直線部を加圧成形することにより前記直線部における超電導線材どうしのターン間距離を縮めるように構成するとともに、前記円弧部における超電導線材のターン間距離を広げるように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、長円形形状の超電導コイルの直線部における超電導線材の占積率が円弧部における超電導線材の占積率よりも大きい構成としたので、円弧部の空間電流密度が下がり、コイルとしての最大経験磁場を低減させて温度マージンを増やす、あるいは負荷率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る超電導回転電機用コイルの外観を示す概略平面図。
【
図2】本発明の実施の形態に係る超電導回転電機用コイルに用いられる高温超電導線材の一例を示す斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの製造プロセスの一部を示す概略平面図。
【
図4】本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの製造プロセスの一部を示す概略平面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの概略平面図。
【
図6】本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
【0013】
(実施例1)
図1および
図2を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る超電導回転電機用コイルの外観を示す概略図であり、
図2は本発明の実施の形態に係る超電導回転電機用コイルに用いられる高温超電導線材の一例を示す構成図である。
【0014】
超電導コイル1の巻線部は超電導線材2が巻き回されたものであり、そのターン間にはターン間電気絶縁材である樹脂(電気絶縁材)3が介在するよう構成されている。
この超電導線材2は少なくとも、テープ基板22と、中間層23と、超電導層24とを有し、その両面が安定化層25で被覆されている。また、必要に応じて、テープ基板22と中間層23との間に配向層26を、超電導層24と安定化層25との間に保護層27を設けることもできる。
【0015】
テープ基板22は、例えば、ハステロイ(登録商標)やNiWといったNi基合金の高強度金属等の材質で形成される。
【0016】
中間層23は拡散防止層であり、例えば、酸化セリウム、YSZ、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニアなどの材質からなり、テープ基板1上に形成される。
【0017】
超電導層24は、例えば、RE123系の組成(RE1B2C3O7等)を有する超電導体薄膜からなる。なお、「RE1B2C3O7」の「RE」は希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)等)及びイットリウム元素の少なくともいずれかを、「B」はバリウム(Ba)を、「C」は銅(Cu)を、「O」は酸素(O)を意味している。
【0018】
安定化層25は、超電導層24に過剰に電気が流れた場合に超電導層4が燃焼するのを防止する目的で設けられ、導電性の銀等から形成される。
【0019】
配向層26は、テープ基板22上に中間層23を配向させて形成する目的で設けられ、酸化マグネシウム(MgO)等から形成される。なお、配向した基板を用いる場合には省略することができる。
【0020】
保護層27は、超電導層24が空気中の水分に触れて劣化するのを防止する等の目的で設けられ、銀等から形成される。なお、保護層27も超電導層24に過剰に電気が流れた場合に超電導層24が燃焼するのを防止する役割も果たしている。
【0021】
このような多層からなる超電導テープ線2のテープ幅wは例えば4~12mm、テープ厚さtは0.1~0.2mmとされる。また、超電導テープ線2は、長手方向Bの機械強度に優れている一方、線材テープ面の垂直方向(テープ厚さt方向)の引張応力(剥離応力)には脆弱であるという特徴を持っている。
【0022】
さらに、超電導テープ線2の周囲をポリイミドやポリイミドアミドのような絶縁材で被覆した絶縁被覆超電導テープ線としても良い。
【0023】
コイル1は直線部11とこの直線部11につながる円弧部12とからなる長円形状に巻回されており、直線部11を加圧して超電導線材2どうしのターン間距離を縮める、あるいはそれに加えて巻線張力を調整するなどしてターン間電気絶縁物3を調整して、直線部11における超電導線材1の占積率(当該部分における超電導線材が占める割合)が円弧部12における超電導線材11の占積率よりも大きくなるよう構成されている。
図1の破線は、従来の巻線方法によって直線部11と円弧部12との超電導線材の占積率とが同じになるように長円形の超電導コイル1を巻回した場合のコイルの外形を示している。
【0024】
図1に示す第1の実施形態においては、円弧部12の平均電流密度(コイル一断面当たりの電流密度)が直線部11に対して低くなる。超電導コイル1の巻線部は、通電によりコイル自身が発生する磁場を経験することになり、一般的に長円形のコイルにおいては円弧部12の最内層部分で経験磁場(通電時に超電導コイルに印加される磁場)が最大になる。第1の実施形態では、従来の構成と比較して円弧部12の空間電流密度が低いために、コイルの最大経験磁場を軽減するように作用する。
【0025】
上記の作用により、長円形コイルの定格運転電流が最大経験磁場による超電導特性で律速されている場合においてその負荷率(超電導コイルとして許容される電流に対する実際に通電される電流の割合)を低減させることが可能になる。これにより、同じ形状の巻枠に従来方式で巻回した超電導コイルに同じ電流を流した場合よりも温度マージン(常電導転移までの温度的余裕)が増える効果が得られる。これによって運転中のコイルに加わる何らかのじょう乱に対する耐性が増してクエンチし難くなり、機器の信頼性向上が可能になる。あるいは従来方式で巻回したコイルと同じ負荷率に達するまで従来よりも運転電流値を上げることができ、機器の能力を向上させることができる。
【0026】
(実施例2)
図3から
図5を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
図3および
図4は本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの製造工程の一部を示す概略図、
図5は本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの概略図である。なお、
図3から
図5において
図1と同一部分には同一符号を付し、その部分の構成の説明は省略する。
【0027】
図3においては超電導コイル1の巻線部が、超電導線材2のターン間にターン間電気絶縁物3が介在するように巻回されて構成されている。このターン間絶縁物3としては例えば硬化前で流動性のある状態のエポキシ等の硬化性樹脂を使用し、超電導線材2にターン間絶縁物3を塗布しながら巻き回すことで、
図3に示すように超電導線材2のターン間にターン間電気絶縁物3が介在する構成とすることが可能である。
【0028】
一般的に、超電導線材2をコイル形状へと巻き回す際にはコイル形状を維持するため超電導線材2に対して張力が与えられる。しかし、超電導線材2を巻回す過程において、直線部11の超電導線材2をコイル内周側へと押し付ける力を何らかの方法で加えない限り、
図4に示すように長円形に形成される超電導コイル1の直線部11はコイル外周側に膨らんだ形状となってしまう。これは長円形コイルとしての設計から形状がずれてしまうことになり、設計通りの磁場分布が得られなくなってしまう。
【0029】
この直線部11の膨らみを抑えるために張力を上げると内側のターンで線材の長手方向に圧縮応力が加わり座屈して超電導特性が劣化する可能性があり、また、コイルの設計段階において直線部11が膨らんだ長円形コイルとしておいて、製造プロセスにおいて直線部を意図的に膨らませて巻線する手法も従来はあったが、複雑な形状の設計や磁場,応力等の設計計算が煩雑になりコストがかかっていた。
【0030】
本発明の実施形態に係る超電導回転電機用コイルの製造方法おいては、
図3あるいは
図4のようにターン間電気絶縁物3を介在させて超電導線材2を巻回した後、
図5に示すように対向する直線部11をコイル外周側から内周側に向けて移動可能な直線部11を覆う広さの平面を有する二つの直線部成形治具5によって相対する直線部11方向に加圧成形することにより直線部11における超電導線材2どうしのターン間距離を縮めるように構成するとともに、円弧部12における超電導線材2のターン間距離を広げるように構成している。
【0031】
そして、ターン間絶縁物3が硬化するまで巻線部をこの形状に維持することで、円弧部12における超電導線材2の占積率が直線部11における超電導線材の占積率よりも低い構成が保持される。超電導コイルを組み込む機器のコンパクト化を図るために、ターン間電気絶縁物3が硬化した後に直線部成形治具5を巻線部から取り外してコイルを機器に組み込んでも良いし、この直線部成形治具5を、機械強度を持たせた構造物として巻線部に取り付けたまま機器に組み込んでも良い。
【0032】
そして、実施例1の実施形態と同様に、円弧部12の空間電流密度が直線部11に対して低くなり、コイルの最大経験磁場を軽減するように作用し、また、従来方式では膨らみやすい直線部を略直線状に整形できる。
【0033】
上記のように構成された超電導回転電機用コイルにより、長円形コイルの最大経験磁場を従来方式で巻回した超電導コイルよりも低くすることで負荷率を軽減させて、マージンを増やすことが可能になる。
【0034】
また従来、長円形コイルに似た形状である鞍型コイルのエンド部、即ち長円形コイルの円弧部に相当する部分における最大経験磁場を減らすために、当該エンド部にスペーサを設けて複数のブロックに分割する方法があったが、本発明の実施形態においては直線部と円弧部とが超電導線材と電気絶縁材とを含む同一の要素で構成されるため、精密な寸法が要求され手間とコストが必要となるスペーサを使用せずに、また、ブロック状に分割することによる巻線部の不連続な応力分布を生じることなく、円弧部の空間電流密度を直線部よりも低くすることが可能になる。また、長円形コイルが回転電機として機器に組み込まれたときに設計通りの磁場分布を形成することができ、機器の能力向上を図ることができる。
【0035】
(実施例3)
【0036】
図3および表1を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。この表1は本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルの設計例における主要諸元を示す。
【表1】
【0037】
図3の概略図に示すような長円形の超電導コイル1において、巻枠4の曲率半径、即ち円弧部12の最内層における超電導線材2の曲率半径を100mm、超電導線材2の厚さを0.20mmとして、超電導線材2のターン間に介在させるターン間電気絶縁物3が厚さ0.10mmとなるよう巻回すことでコイル巻厚30mm、即ち円弧部12の最外層の曲率半径が130mmとなるように超電導線材2を巻き終えた後、
図5に示すように直線部成形治具5によって直線部11を加圧し、直線部11の巻厚を圧縮率0.9即ち巻厚が90%(27mm)になるまで成形させた場合を想定する。
【0038】
圧縮後の円弧部12の最外層が周長を維持しながら楕円状に変形されるとすると、その楕円の短半径は直線部11とつながる部分において約127mm、長半径は円弧部12の先端部分においては約133mmになると計算される。このとき、円弧部12の先端部分における超電導線材2どうしのターン間距離は0.13mmになると計算され、0.09mmに圧縮された直線部11のターン間距離に対して約1.4倍となるように構成される。
【0039】
そして、超電導線材2の占積率を計算すると、直線部11において69.0%、円弧部12において60.6%となる。
【0040】
なお、円弧部における前記超電導線材どうしのターン間距離が、前記直線部における前記超電導線材どうしのターン間距離は実施例において約1.4倍と設定したが、電気絶縁材3がターン間から漏れ出て喪失する恐れがないように1.9倍以下に設定され、1.01~1.9倍において設定は可能である。
【0041】
表1に示す実施形態においては、実施例1および実施例2の実施形態と同様に円弧部12における占積率と直線部11における占積率との比に依存して円弧部12の空間電流密度が低くなってコイルの最大経験磁場を軽減するように作用するとともに、円弧部12における超電導線材2どうしのターン間距離が直線部11におけるターン間距離の倍以上には広げられていないため巻線工程において円弧部12における未硬化のターン間絶縁物3が大きな気泡を生じることなく、超電導線材2どうしの間で樹脂を保持するよう作用する。
【0042】
上記の作用により、実施例1あるいは2と同じ効果が得られるとともに、超電導線材11の占積率の低い円弧部12においても絶縁材のボイド発生を回避することができ、機器の信頼性の向上を図ることができる。
【0043】
(実施例4)
【0044】
図6を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
図6は本発明の実施形態に係る長円形の超電導コイルを示す概略図である。なお、
図6において
図5と同一部分には同一符号を付し、その部分の構成の説明は省略する。
【0045】
図6において実施例4では実施例2と同様に、超電導線材2のターン間にターン間電気絶縁物3が介在するように超電導コイル1の巻線部を巻回した後、直線部成形治具5に電流導入端子6を設けたもので直線部11を加圧成形するよう構成されている。
【0046】
電流導入端子6は直線部11の最外層の線材に対して、ターン間絶縁物3の硬化前に、はんだ付けするなどして電気的に接続し、その後に直線部11を加圧成形してターン間絶縁物3を硬化させた後、直線部成形治具5を取り外して直線部11の最外層の線材に対して電気的に接続させて超電導コイル1製造する。
【0047】
また、直線部成形治具7の直線部11(巻線部)に対向する面にこの直線部11(巻線部)に電気的に接して電流導入端子6を設け、直線部11を加圧成形してターン間絶縁物3を硬化させた後、コイルを組み込む機器のコンパクト化を図るために直線部成形治具7を機械強度を持たせた構造物として巻線部に取り付けたまま機器に組み込んでも良い。
【0048】
図6に示す実施形態においては、長円形コイルの巻線部再外層における電流導入端子6を精密に位置決めするとともに、コイル最内周における電流導入端子6が巻枠4のような支持体があるのに対して従来は機械強度が乏しかったコイル最外周における電流導入端子6を、機械強度を高めて外力による離脱や変形から守り、強固に保持するよう作用する。
【0049】
上記の作用により、機器としてコイルを製造するプロセスにおける何らかの外力や、回転電機として運転中の遠心力などに対する外側電極の機械強度を向上させることができ、機器の信頼性を向上させることができる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0051】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0052】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1:超電導コイル,2:超電導線材,3:ターン間電気絶縁物(電気絶縁材),4:巻枠,5:直線部成形治具,6:電流導入端子,7:直線部成形治具,11:直線部,12:円弧部,22:テープ基板,23:中間層,24:超電導層,25:安定化層,26:配向層,27:保護層。