(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042590
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】扉、冷蔵庫および扉の製造方法
(51)【国際特許分類】
F25D 23/02 20060101AFI20240321BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240321BHJP
【FI】
F25D23/02 304A
B32B7/022
F25D23/02 304E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147403
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平子 貴之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知彦
【テーマコード(参考)】
3L102
4F100
【Fターム(参考)】
3L102JA01
3L102KA01
3L102KE04
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100DJ01D
4F100GB48
4F100HB00B
4F100JB14C
4F100JJ02D
4F100JK12C
4F100JK14C
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】傷が目立ちにくい扉、冷蔵庫および扉の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る扉11は、基材12と、前記基材12に形成された意匠部13と、を備え、前記意匠部13が鉄未満の硬度のフィルム14を有し、前記フィルム14は複数の層からなり、その最外層の表面に細かい凹凸が施されているとともに、前記最外層の厚みが10μmより大きい。本発明に係る冷蔵庫1は、前記扉11を備える。本発明に係る扉11の製造方法は、基材フィルム上に紫外線硬化樹脂52を積層する積層工程S1と、前記所定のフィルム14を備えた意匠部13を製造する意匠部製造工程S2と、意匠部13が形成された基材12に、前記フィルム14をラミネートするラミネート材製造工程S3と、成形工程S4と、組立品を製造する組立工程S5と、前記組立品に発泡断熱材を付与して扉を製造する発泡断熱材付与工程S6と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に形成された意匠部と、を備え、
前記意匠部が鉄未満の硬度のフィルムを有し、
前記フィルムは複数の層からなり、その最外層の表面に細かい凹凸が施されているとともに、前記最外層の厚みが10μmより大きいことを特徴とする扉。
【請求項2】
請求項1において、
前記最外層の十点平均粗さRzjisが10μmより大きいことを特徴とする扉。
【請求項3】
請求項1において、
前記フィルムは、2H以上7H未満の鉛筆硬度であることを特徴とする扉。
【請求項4】
請求項1において、
前記最外層が紫外線硬化樹脂で形成されていることを特徴とする扉。
【請求項5】
請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の扉を備えることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項6】
基材フィルムの一方の面に紫外線硬化樹脂を積層する積層工程と、
表面に細かい凹凸が形成された金属ローラを用いて前記紫外線硬化樹脂に前記凹凸を施しつつ紫外線を照射し、前記紫外線硬化樹脂を硬化させて最外層の表面に細かい凹凸を施し、かつ前記最外層の厚みを10μmより大きくするとともに、鉄未満の硬度にしたフィルムを備えた意匠部を製造する意匠部製造工程と、
基材と前記基材フィルムのもう一方の面とが向き合うように密着させるラミネート加工を行ってラミネート材を製造するラミネート材製造工程と、
前記ラミネート材の成形を行う成形工程と、
前記成形したラミネート材と他の部品とを用いて組立品を製造する組立工程と、
前記組立品に発泡断熱材を付与して扉を製造する発泡断熱材付与工程と、
を有することを特徴とする扉の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記成形工程が、プレス機を使用したプレス加工により行われることを特徴とする扉の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記発泡断熱材付与工程が、
前記組立品を発泡雇にセットするセット工程と、
前記発泡雇にセットした前記組立品に発泡断熱材用樹脂を注入する注入工程と、
注入した前記発泡断熱材用樹脂を発泡させて発泡断熱材としつつ、前記組立品に他の部材を組み付けて前記発泡断熱材を封止し、前記扉を製造する発泡・封止工程と、
を有することを特徴とする扉の製造方法。
【請求項9】
請求項6または請求項7において、
前記発泡断熱材付与工程が、
前記組立品の内部に収まるように予め成形された発泡断熱材を前記組立品の内部に収容する収容工程と、
前記発泡断熱材を収容した前記組立品に他の部材を組み付けて前記発泡断熱材を封止し、前記扉を製造する封止工程と、
を有することを特徴とする扉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉、冷蔵庫および扉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫の扉はユーザがよく触れる部材であるため、傷が目立たない柄、例えば表面に細かい凹凸を施すことが考えられる。そのような扉が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている冷蔵室扉は、ガラス板の庫外側の面に凹凸が形成されたものである(段落0041、
図2)。この凹凸については、冷蔵室扉にアンティーク感や奥行き感を生じさせ、視覚効果を高める目的で設けられている旨が記載されている。また、この凹凸については、凹凸があることによって、これが形成されていない場合と比較して、ガラス板の汚れや傷が目立ちにくいという効果がある旨も記載されている。なお、特許文献1における凹凸は、ある凸部からその隣の凸部までの平均的な距離が、ユーザの指の太さよりも小さい距離である旨記載されている(段落0042)。その具体的な距離として、ユーザの指の太さは、細い場合で例えば10mmであると記載されている(段落0020)。また、前記したガラス板が型板ガラスの場合、凸部とその凸部から連続する凹部との高低差は、平均で例えば0.1mm以上1.0mm以下である旨記載されている(段落0021)。つまり、特許文献1に開示されている冷蔵室扉の凹凸は、ガラス板の凸部と凹部とを前記形状とすることによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-200163号公報(段落0041、段落0042、段落0020、段落0021、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、冷蔵庫の扉への細かい凹凸の付与は、例えば、扉の最外層に凹凸加工が施されたフィルムをラミネートすることによっても行うことができる。
扉の基材にフィルムをラミネートする際や、その後に行い得る基材の曲げ加工の際のそれぞれにおいて、プレス機を使用することがあり得る。また、扉が断熱扉である場合、発泡ウレタンの充填工程において発泡雇が使用され得る。発泡雇とは、発泡ウレタンの充填工程において樹脂の発泡によって扉が変形するのを防ぐ治具をいう。プレス機や発泡雇を使用する環境では、これらの作動に起因して周囲に鉄粉が存在する虞がある。凹凸加工が施された硬い扉表面に対するプレス作業や発泡作業の際に鉄粉が存在すると、プレス機や発泡雇の使用により扉の表面を傷つける虞がある。また、鉄粉が存在すると、プレス機の表面や発泡雇の表面を傷つける虞がある。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、プレス機や発泡雇を使用する環境について考慮されていない。当然、特許文献1に記載の技術は、プレス機や発泡雇の使用環境に鉄粉が存在することについても考慮されていない。そのため、例えば、特許文献1に開示されている冷蔵室扉の製造時にプレス機や発泡雇を用いた場合、鉄粉により冷蔵室扉の表面が傷つき、不良品となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記状況に鑑みてなされたものである。
本発明に係る扉は、基材と、前記基材に形成された意匠部と、を備え、前記意匠部が鉄未満の硬度のフィルムを有し、前記フィルムは複数の層からなり、その最外層の表面に細かい凹凸が施されているとともに、前記最外層の厚みが10μmより大きいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る扉11が適用される冷蔵庫1の構成を説明する正面図である。
【
図2】扉11の一例として第二切替室6の扉11fを示すものであり、当該扉11fを斜め前から見た分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る扉11の表面の構成を説明する概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る扉11の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【
図5】積層工程S1および意匠部製造工程S2を説明する模式図である。
【
図6】ラミネート材製造工程S3を説明する模式図である。
【
図7A】ロール状に巻かれた状態から巻き出したラミネート材61を示す概略断面図である。
【
図7B】成形後のラミネート材61を示す概略断面図である。
【
図8】発泡断熱材付与工程S6の一例を説明するフローチャートである。
【
図9A】注入工程S62aの様子を説明する概略断面図である。
【
図9B】発泡・封止工程S63aの様子を説明する概略断面図である。
【
図9C】発泡・封止工程S63aの様子を説明する概略断面図である。
【
図10】発泡断熱材付与工程S6の他の一例を説明するフローチャートである。
【
図11A】収容工程S61bの様子を説明する概略断面図である。
【
図11B】封止工程S62bの様子を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態に係る扉、冷蔵庫および扉の製造方法について詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係る扉について説明する前に、本実施形態に係る扉が適用される冷蔵庫の全体的な構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る扉11が適用される冷蔵庫1の構成を説明する正面図である。
【0009】
(冷蔵庫)
図1に示すように、冷蔵庫1は、上方から順に冷蔵室2、製氷室3および冷凍室4(第一冷凍室)、第一切替室5ならびに第二切替室6を有している。第一切替室5は、冷凍室(第二冷凍室)としてもよい。冷凍室4の内容積は、第一切替室5の内容積より小さくしてもよい。
【0010】
冷蔵室2は、冷蔵温度帯(例えば、6℃)に設定されている。
製氷室3および冷凍室4は、冷凍温度帯に設定されている。
第一切替室5は、冷蔵温度帯(例えば、1℃~6℃)から長期冷凍保存温度帯(例えば、約-20℃~-15℃。好ましくは-18℃以下。)まで温度帯を切り替えられる。
第二切替室6も同様に、冷蔵温度帯から長期冷凍保存温度帯まで温度帯を切り替えられる。
本実施形態では、長期冷凍保存温度帯よりも高い温度帯として、冷凍保存温度帯(例えば、-10℃~-14℃、好ましくは約-12℃。)とすることもできる。食品が凍結しきらない虞があるため、本実施形態では、冷凍保存温度帯の上限温度は-6℃とするとよい。
【0011】
なお、本実施形態では、冷蔵温度帯から長期冷凍保存温度帯まで温度帯を切り替えられる第一切替室5および第二切替室6で説明しているがこの構成に限定されるものではない。例えば、上下に並んだ第一切替室5および第二切替室6の両方もしくは一方が温度帯を切り替えられない貯蔵室(冷凍温度帯室または冷蔵温度帯室(冷蔵室、野菜室等))であってもよい。
【0012】
前記構成の冷蔵庫1は、
図1に示すように、扉11を6つ備えている。本実施形態では、扉11はいずれも内壁と外壁(
図2参照)を有し、これらの間に図示しない発泡断熱材が設けられている。なお、
図2は、扉11の一例として第二切替室6の扉11fを示すものであり、当該扉11fを斜め前から見た分解斜視図である。
図2に示すように、内壁としてはドアライナ10が相当し、外壁としては前面の扉外板7と上部の上枠部品8と下部の下枠部品9とが相当する。発泡断熱材は、例えば、発泡ウレタンが挙げられるが、庫内と外部空間とを断熱できる発泡性の樹脂であればこれに限定されず任意のものを用いることができる。発泡断熱材は、扉11の内部に発泡断熱材用樹脂を注入して発泡させたものでもよいし、予め成形された発泡断熱材を内部に収容したものでもよい。このような構成により、扉11は、庫内と外部空間とを断熱できる。つまり、扉11は断熱扉である。また、扉11は、冷蔵庫1の断熱箱体1Hの前面の開口10aを開閉する役割を担っている。なお、
図2は、扉11fを例示しているが、扉11a~11eも同様の構成を有する。
【0013】
断熱箱体1Hは、冷蔵庫1の前面以外、すなわち、冷蔵庫1の上部、底部、両側壁部および背面部を構成する。断熱箱体1Hも内壁と外壁(いずれも図示せず)を有し、これらの間に図示しない発泡断熱材が設けられている。発泡断熱材は、前記と同様のものを用いることができる。このような構成により、断熱箱体1Hは、庫内と外部空間とを断熱できる。
【0014】
図1に示すように、冷蔵室2は、2つの扉11a、11bを有している。左側の扉11aは、冷蔵庫1の左側に設けられた上下一対の扉ヒンジ(図示せず)によって回動自在に軸着されている。右側の扉11bは、冷蔵庫1の右側に設けられた上下一対の扉ヒンジ(図示せず)によって回動自在に軸着されている。つまり、左側の扉11aおよび右側の扉11bは、冷蔵庫1の手前側に観音開きとなるように設けられている。なお、冷蔵庫1の上部の左右それぞれに設けられた扉ヒンジは、扉ヒンジカバー19で覆われている。
【0015】
製氷室3は1つの扉11cを有している。冷凍室4は1つの扉11dを有している。第一切替室5は1つの扉11eを有している。第二切替室6は1つの扉11fを有している。扉11c~11fはそれぞれ冷蔵庫1の手前側に引き出すことができるように設けられている。
【0016】
なお、冷蔵庫1の扉11の数は6つに限定されず、1つ、2つ、3つ、4つ、5つでもよいし、7つ以上であってもよい。扉11の数は、冷蔵庫1の大きさや冷蔵室2などの個数に応じて任意に設定できる。本実施形態に係る扉11は、前記したいずれの態様の冷蔵庫1にも好適に用いることができる。
【0017】
また、本実施形態では、操作部26を冷蔵室2の扉11aに設けているがこの構成に限定されるものではない。例えば、操作部26は、冷蔵室2内の左右側壁のいずれか一方に設けてもよい。
【0018】
(扉)
次に、本発明の一実施形態に係る扉11について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る扉11の表面の構成を説明する概略断面図である。なお、扉11は、前記したように、冷蔵庫1に好適に用いられる。
図3に示すように、扉11は、基材12と意匠部13とを備えている。そして、この意匠部13は鉄未満の硬度のフィルム14を有する。このフィルム14は複数の層からなり、その最外層の表面に細かい凹凸が施されているとともに、当該最外層の厚みT1が10μmより大きいこととしている。
【0019】
基材12は、例えば、鋼板、ガラス板、プラスチック板などで形成されている。基材12は、意匠部13が形成される土台であるとともに、扉11の剛性を保つ役割を担っている。
【0020】
意匠部13は、前記したフィルム14の他に印刷部15を有する。
印刷部15は、扉11の意匠性を高める任意の色彩が印刷されたものである。印刷部15は公知の印刷技術で形成できる。印刷部15と基材12との間には、プライマ層16が設けられており、これにより印刷部15と基材12とを強固に接着するとともに、印刷部15の発色等を高めている。
【0021】
前記したように、フィルム14は複数の層からなる。フィルム14は、例えば、透明樹脂層17と紫外線硬化樹脂層18とからなる。本実施形態では、紫外線硬化樹脂層18がフィルム14の最外層となる。本実施形態では、紫外線硬化樹脂層18(最外層)の厚みT1を10μmより大きくしている。本発明者がプレス機や発泡雇を使用する環境に存在する鉄粉について研究した結果、当該鉄粉の最大径は10μmほどであった。そのため、紫外線硬化樹脂層18の厚みT1を10μmより大きくすることで、プレス機や発泡雇の使用環境に鉄粉が存在していたとしても、当該鉄粉が紫外線硬化樹脂層18を貫通しにくくすることができる。また、紫外線硬化樹脂層18に当該鉄粉を食い込ませる(埋め込ませる)ことができる。このとき、本実施形態では、紫外線硬化樹脂層18の厚みを10μmより大きくしているので、フィルム14に埋め込まれている鉄粉の略全部が、最外層である紫外線硬化樹脂層18の厚みを超えないものとなる。なお、略全部とは、例えば、光学顕微鏡などを用いて行う任意の観測範囲において、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または99.9%以上であることをいう。このような観点から、紫外線硬化樹脂層18(最外層)の厚みT1は、11μm以上、15μm以上または20μm以上とすることが好ましい。一方、紫外線硬化樹脂層18(最外層)の厚みT1が厚すぎても前記効果に変わりはないにも関わらず、紫外線硬化樹脂層18の形成量が増えるため経済性が劣ってしまう。このような観点から、紫外線硬化樹脂層18(最外層)の厚みT1は、29.5μm以下または25μm以下とすることが好ましい。
また、紫外線硬化樹脂層18の凹凸の最も低い部分と透明樹脂層17とで形成される厚みT2は、例えば、11~17μmとすることができるが、これに限定されない。
【0022】
なお、プレス機や発泡雇を使用する場面としては、フィルム14をラミネートする際にプレス機を使用することや、フィルム14がラミネートされた状態でプレス機を使用して曲げ加工が行われることや、フィルム14がラミネートされた状態で発泡雇を使用して発泡断熱材が発泡充填されることなどが挙げられる。
【0023】
また、
図3に示すように、フィルム14の厚みT3、すなわち、透明樹脂層17および紫外線硬化樹脂層18を合計した厚みT3は、最大で100μmなどとするとよいが、これに限定されない。
紫外線硬化樹脂層18の厚みT1、紫外線硬化樹脂層18の凹凸の最も低い部分と透明樹脂層17とで形成される厚みT2、鉄粉の最大径、およびフィルム14の厚みT3は、いずれも光学顕微鏡などで確認することができる。
【0024】
また、前記したように、最外層である紫外線硬化樹脂層18は細かい凹凸を有している。当該細かい凹凸によってなされる、最外層である紫外線硬化樹脂層18の十点平均粗さRzjisは、例えば、10μmより大きいことが好ましい。下限値についてはこのようにすると、前記したように、鉄粉の最大径は10μmほどであるので、プレス機や発泡雇を使用した際に、鉄粉により紫外線硬化樹脂層18に傷が生じたとしても、そのような傷を目立ちにくくすることができる。そのため、鉄粉により紫外線硬化樹脂層18に傷が生じた冷蔵庫1であっても良品として扱うことが可能となる。したがって、冷蔵庫1の良品率を向上させることができる。このような観点から、最外層である紫外線硬化樹脂層18の十点平均粗さRzjisは、例えば、10.2μm以上であることが好ましい。一方、外観や手触りなどをより良好にする観点から、最外層である紫外線硬化樹脂層18の十点平均粗さRzjisは、例えば、12.5μm以下であることが好ましいが、これに限定されない。
表面粗さRzは、例えば、JIS B 0601:2001、JIS B 0031:2001に準拠して得ることができる。
【0025】
また、前記したように、フィルム14は鉄未満の硬度を有する。フィルム14の硬度が鉄未満であると、フィルム14はプレス機や発泡雇よりも硬度が低いので、プレス機や発泡雇を使用した際に、フィルム14の最外層の表面の細かい凹凸によるプレス機の表面や発泡雇の表面を傷つきにくくすることができる。
さらに、フィルム14の硬度を鉄未満とすることによって、扉11に対してプレス機や発泡雇を使用する際に、使用環境に(すなわち、プレス機や発泡雇とフィルム14との間に)鉄粉が存在していたとしても、当該鉄粉をフィルム14に埋め込ませることができる。そのため、鉄粉によるプレス機の表面や発泡雇の表面への傷つきを行いにくくすることができる。
フィルム14の鉄未満の硬度は、透明樹脂層17および紫外線硬化樹脂層18の協働でなされてもよいし、紫外線硬化樹脂層18単独でなされてもよい。
フィルム14の硬度の調節は、透明樹脂層17および/または紫外線硬化樹脂層18の各層に用いる後記の樹脂の配合成分や配合比を変更することにより行うことができる。この調節は、これらの樹脂を扱う技術分野における公知技術に基づいて適宜行うことができる。
【0026】
フィルム14の硬度は、2H以上7H未満の鉛筆硬度であることが好ましい。爪の硬さは鉛筆硬度で2H程度とされている。鉄の硬さは鉛筆硬度で7H程度とされている。従って、フィルム14の鉛筆硬度を2H以上7H未満とすると、ユーザの爪が当たっても傷がつきにくく、また、前記したように、フィルム14の最外層の表面の細かい凹凸によるプレス機や発泡雇の表面への傷つきを行いにくくすることができる。さらに、扉11に対してプレス機や発泡雇を使用する際に、使用環境に鉄粉が存在していたとしても、鉄粉によるプレス機や発泡雇の表面への傷つきを行いにくくすることができる。
フィルム14の鉛筆硬度は、例えば、JIS K 5600-5-4「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠して求めることができる。
【0027】
透明樹脂層17は、印刷部15を保護するために設けられている。透明樹脂層17は、印刷部15の色彩が見えるように透明または半透明の樹脂で形成されている。透明樹脂層17は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの公知の樹脂で形成できる。
【0028】
紫外線硬化樹脂層18も印刷部15を保護するために設けられている。また、紫外線硬化樹脂層18も透明な樹脂で形成されている。
そして、本実施形態においては、前記したように、最外層である紫外線硬化樹脂層18は、その表面に細かい凹凸が施されている。紫外線硬化樹脂層18は、表面に施された細かい凹凸によってバイブレーション柄が施されることが好ましい。バイブレーション柄とは、放射状の細かい模様、渦模様またはランダムに傷をつけたような模様を有する柄をいう。バイブレーション柄は、その特徴的な傷をつけたような模様により、扉11に対してプレス機や発泡雇を使用して生じた傷を目立ちにくくすることができる。そのため、鉄粉により紫外線硬化樹脂層18に傷が生じた冷蔵庫1であっても良品として扱うことが可能となる。
なお、鉄粉の粒径分布は使用するプレス機や発泡雇など、作動に伴い鉄粉が発生し得る機器によって異なる可能性があるため、プレス機や発泡雇周囲の鉄粉の粒径について、予め測定をすることが好ましい。
【0029】
紫外線硬化樹脂は、紫外線照射装置から照射される紫外線エネルギーにより短時間で重合硬化する。そのため、前記細かい凹凸に対応する凹凸が形成された金属ローラを用いて、紫外線硬化樹脂の表面に細かい凹凸を形成しつつ、紫外線照射装置で紫外線を照射して重合硬化させることにより、表面に細かい凹凸が形成された紫外線硬化樹脂層18を好適に得ることができる。なお、紫外線硬化樹脂層18の表面の細かい凹凸は、平滑な表面を有する紫外線硬化樹脂層18を形成した後に当該平滑な表面に対してバイブレーション研磨を行うことによって得ることもできる。
紫外線硬化樹脂は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などであって、紫外線で硬化するものであれば、公知のものを使用できる。
【0030】
(扉の製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係る扉11の製造方法(以下、本製造方法ということがある)について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る扉11の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図4に示すように、本製造方法は、積層工程S1と、意匠部製造工程S2と、ラミネート材製造工程S3と、成形工程S4と、組立工程S5と、発泡断熱材付与工程S6とを有する。
【0031】
積層工程S1では、基材フィルムの一方の面に紫外線硬化樹脂を積層する。基材フィルムは、前記した透明樹脂層17に相当する。すなわち、基材フィルムは、PET樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの公知の樹脂で形成された膜状の部材である。紫外線硬化樹脂は、積層時は所定の粘性を有する液体状を呈する。積層工程S1は、液体状の紫外線硬化樹脂を基材フィルムの一方の面に塗布することにより積層を行う。
【0032】
積層工程S1は、例えば、
図5に示すように、ロールtoロール方式で搬送される基材フィルム51の一方の面51aに液体状の紫外線硬化樹脂52を塗布することにより行うことができる。なお、
図5は、積層工程S1および意匠部製造工程S2を説明する模式図である。紫外線硬化樹脂52の積層は、樹脂の流下、バーコーター、ロッドコーター、スプレーなどの適宜の手法により行うことができる。紫外線硬化樹脂52の積層は、後記する意匠部製造工程S2を行ったあとにおける厚みが10μmより大きくなるように調節して行う。
【0033】
意匠部製造工程S2では、表面に細かい凹凸が形成された金属ローラ53を用いて紫外線硬化樹脂52にその凹凸を施しつつ紫外線54を照射し、紫外線硬化樹脂52を硬化させて最外層の表面に細かい凹凸を施し、かつその最外層(紫外線硬化樹脂層18)の厚みT1を10μmより大きくするとともに、鉄未満の硬度にしたフィルム14を備えた意匠部13を製造する。金属ローラ53の表面に形成された凹凸が紫外線硬化樹脂52に転写され、紫外線硬化樹脂52に当該凹凸に対応した凹凸が形成される。この状態で紫外線54が照射されることにより、紫外線硬化樹脂52は速やかに硬化して鉄未満の硬度となり、前述した凹凸が施されたフィルム14が製造される。紫外線54は、公知の紫外線照射装置55で照射することができる。
また、意匠部製造工程S2では、紫外線54の照射後に、基材フィルム51のもう一方の面51bに任意の色彩を印刷し、印刷部15を形成する(
図5において図示せず)。前述したように、印刷部15は公知の印刷技術で形成できる。なお、印刷部15は、紫外線54の照射に支障がないのであれば、紫外線54の照射前に、予め基材フィルム51のもう一方の面51bに形成しておいてもよい。
【0034】
ラミネート材製造工程S3では、基材12と基材フィルム51のもう一方の面51bとが向き合うように密着させるラミネート加工を行ってラミネート材61を製造する。
図6は、ラミネート材製造工程S3を説明する模式図である。
図6に示すように、ラミネート材製造工程S3も、例えば、ロールtoロール方式で製造することができる。具体的には、
図6に示すように、ロールtoロール方式で搬送される基材12に対して、同じくロールtoロール方式で搬送されるフィルム14をラミネートする。フィルム14は、基材フィルム51のもう一方の面51bに印刷部15が形成されているので、ラミネートは、基材フィルム51のもう一方の面51b(すなわち、当該印刷部15)と基材12とが向き合うように密着させて行う。これらのラミネート(接着)は、圧着ロール62により行うことができる。これにより、好適にラミネート材61を製造することができる。なお、ラミネート材製造工程S3は、プレス機で行うこともできる。
【0035】
成形工程S4では、ラミネート材61の成形を行う。ラミネート材61の成形は、ロール状に巻かれた状態から巻き出し(
図7A参照)、必要な寸法や形状への切断、打ち抜き、プレス機を使用したプレス加工などの任意の機械加工で行うことができる(
図7B参照)。なお、
図7Aは、ロール状に巻かれた状態から巻き出したラミネート材61を示す概略断面図である。
図7Bは、成形後のラミネート材61を示す概略断面図である。
【0036】
ここで、本実施形態では、前述したように、ラミネート材61の紫外線硬化樹脂52には、その表面に細かい凹凸が施されている(
図3参照)。そのため、プレス機を使用して、鉄粉により表面に傷が生じたとしても、当該傷を目立ちにくくすることができる。当該効果は、前記細かい凹凸によってバイブレーション柄が施された場合、より顕著に発揮される。そのため、鉄粉により紫外線硬化樹脂層18に傷が生じた冷蔵庫1であっても良品として扱うことが可能となる。また、フィルム14は鉄未満の硬度であるので、フィルム14の最外層の表面の細かい凹凸によってプレス機や発泡雇の表面が傷つくこともない。
【0037】
組立工程S5では、成形したラミネート材61と他の部品とを用いて組立品を製造する(
図2参照)。なお、
図2における扉外板7が、成形したラミネート材61に相当する。
図2における上枠部品8、下枠部品9およびドアライナ10が、本工程における他の部品に相当する。
この組立工程S5では、例えば、上枠部品8、下枠部品9およびドアライナ10のうちのいずれか2つと、扉外板7(成形したラミネート材61)とを組み立てて、組立品とする。上枠部品8、下枠部品9およびドアライナ10のうち、この工程で組立品に使用しなかった部材は、後記する発泡断熱材付与工程S6で組立品に発泡断熱材を付与する際または付与した後に、他の部材95(
図9B参照)や他の部材113(
図11B参照)として、発泡断熱材を封止するときに使用する。
【0038】
発泡断熱材付与工程S6では、組立品に発泡断熱材を付与し、前記したように封止して扉11を製造する。
発泡断熱材付与工程S6における組立品への発泡断熱材の付与には二通りの方法がある。(1)一つは、組立品に発泡断熱材用樹脂を注入する方法であり、(2)他の一つは、予め成形された発泡断熱材を前記組立品の内部に収容する方法である。これらのいずれの方法によっても、扉11を製造することができる。
【0039】
図8は、発泡断熱材付与工程S6の一例を説明するフローチャートである。
図8に示すように、(1)の方法は、セット工程S61aと、注入工程S62aと、発泡・封止工程S63aとを有する。
ここで、
図9Aは、注入工程S62aの様子を説明する概略断面図である。
図9Bおよび
図9Cは、発泡・封止工程S63aの様子を説明する概略断面図である。
【0040】
セット工程S61aでは、組立品91を発泡雇92(いずれも
図9A参照)にセットする。
注入工程S62aでは、
図9Aに示すように、発泡雇92にセットした組立品91に発泡断熱材用樹脂93を注入する。
発泡・封止工程S63aでは、
図9Bに示すように、注入した発泡断熱材用樹脂93を発泡させて発泡断熱材94としつつ、組立品91に他の部材95を組み付けて封止し、
図9Cに示すように、扉11を製造する。組立品91と他の部材95とは、接着、融着、螺子留めなどの任意の手段で固定することができる。
【0041】
図10は、発泡断熱材付与工程S6の他の一例を説明するフローチャートである。
図10に示すように、(2)の方法は、例えば、収容工程S61bと、封止工程S62bとを有する。
ここで、
図11Aは、収容工程S61bの様子を説明する概略断面図である。
図11Bは、封止工程S62bの様子を説明する概略断面図である。
【0042】
収容工程S61bでは、
図11Aに示すように、組立品111の内部に収まるように予め成形された発泡断熱材112を組立品111の内部に収容する。なお、次の封止工程S62bで発泡断熱材112を封止できるのであれば、収容工程S61bにおいて発泡断熱材112の一部が組立品111の外部に出ていてもよい。
封止工程S62bでは、
図11Bに示すように、発泡断熱材112を収容した組立品111に他の部材113を組み付けて発泡断熱材112を封止し、扉11を製造する。組立品111と他の部材113とは、接着、融着、螺子留めなどの任意の手段で固定することができる。
【0043】
以上、本発明に係る扉11、冷蔵庫1および扉11の製造方法について実施形態により詳細に説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、それぞれの実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 冷蔵庫
1H 断熱箱体
2 冷蔵室
3 製氷室
4 冷凍室
5 第一切替室
6 第二切替室
7 扉外板
8 上枠部品
9 下枠部品
10 ドアライナ
10a 開口
11、11a~11f 扉
12 基材
13 意匠部
14 フィルム
15 印刷部
16 プライマ層
17 透明樹脂層
18 紫外線硬化樹脂層
19 扉ヒンジカバー
26 操作部
51 基材フィルム
51a 基材フィルムの一方の面
51b 基材フィルムのもう一方の面
52 紫外線硬化樹脂
53 金属ローラ
54 紫外線
55 紫外線照射装置
61 ラミネート材
62 圧着ロール
91 組立品
92 発泡雇
93 発泡断熱材用樹脂
94 発泡断熱材
95 他の部材
111 組立品
112 発泡断熱材
113 他の部材
S1 積層工程
S2 意匠部製造工程
S3 ラミネート材製造工程
S4 成形工程
S5 組立工程
S6 発泡断熱材付与工程
S61a セット工程
S62a 注入工程
S63a 発泡・封止工程
S61b 収容工程
S62b 封止工程
T1~T3 厚み