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特開2024-42596UV-C吸収剤とその主剤の製造方法及び黄変防止塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042596
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】UV-C吸収剤とその主剤の製造方法及び黄変防止塗料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240321BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20240321BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240321BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C09K3/00 104Z
C09D5/32
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147414
(22)【出願日】2022-09-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
(72)【発明者】
【氏名】中尾 桃子
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA002
4J038CG001
4J038HA221
4J038MA08
4J038NA19
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】近紫外線(UV)のうちUV-Cを吸収しつつ、壁材の黄変を防止することが可能で、しかもフォトクロミズムによる青変も生じないUV-C吸収剤とその主剤の製造方法及び黄変防止塗料を提供する。
【解決手段】UV-C吸収剤の主剤の製造方法は、タングステン酸ナトリウムを水に溶かし、酸を加えてpHが3.5~7のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製し、調製された前記ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成し、これをUV-C吸収剤の主剤とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸ナトリウムを水に溶かし、酸を加えてpHが3.5~7のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製し、この調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成し、これをUV-C吸収剤の主剤とすることを特徴とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法。
【請求項2】
前記調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析して透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液とした後に乾燥させて固体の透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成することを特徴とする請求項1記載のUV-C吸収剤の主剤の製造方法。
【請求項3】
ポリタングステン酸ナトリウムを水に溶かし、塩基を加えてpHが3.5~8.5のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製し、この調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成し、これをUV-C吸収剤の主剤とすることを特徴とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法。
【請求項4】
前記調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析して透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液とした後に乾燥させて固体の透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成することを特徴とする請求項3記載のUV-C吸収剤の主剤の製造方法。
【請求項5】
ポリタングステン酸ナトリウム、請求項1又は請求項3記載の調製ポリタングステン酸ナトリウム、あるいは請求項2又は請求項4記載の透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤とすることを特徴とするUV-C吸収剤。
【請求項6】
塗料に、以下の(1)-(5)のいずれかを主剤とするUV-C吸収剤を含有させてなることを特徴とする黄変防止塗料。
(1)ポリタングステン酸ナトリウム
(2)請求項1記載の調製ポリタングステン酸ナトリウム又は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(3)請求項2記載の透析調製ポリタングステン酸ナトリウム又は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(4)請求項3記載の調製ポリタングステン酸ナトリウム又は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(5)請求項4記載の透析調製ポリタングステン酸ナトリウム又は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近紫外線(UV)のうちC波(波長200-280nm)を吸収するUV-C吸収剤と、その主剤の製造方法と、UV-C吸収剤を含有する黄変防止塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近紫外線(UV)はその波長によってA波(波長315-400nm)、B波(波長280-315nm)及びC波(200-280nm)に分類されており、このうちA波(以下、UV-Aという。)やB波(以下、UV-Bという。)は人間の皮膚の老化や日焼け等の影響を与えるものの、C波(以下、UV-Cという。)は地球を覆うオゾン層で吸収されるため地表には届かず人間への影響はない。
しかしながら、UV-Cは強い殺菌力があることが知られており、近年、このUV-Cを空気中のウイルス・細菌を死滅させるために利用するようになってきた。具体的には、殺菌装置として、一般家庭、病院その他の施設の壁面上側に設置し、対向する壁面に向かってUV-C(具体例としては254nm)を照射することで、室内の自然対流で舞い上がる空気中のウイルス・細菌を死滅させるようにしている。
【0003】
ところが、壁面を直接長時間照射すると、各種壁材を黄変させてしまうという課題があった。そこで、このUV-Cを遮蔽吸収し、あらゆる基材に対して黄変がないような吸収剤が望まれるが、そもそもこのUV-Cはオゾン層で吸収され地表へは届かないことから、これを遮蔽する必要性に乏しく、例えば、特許文献1には、「紫外線遮蔽剤」という名称で、化粧料等を用途とするUV-BからUV-Aの領域のほぼ全域で遮蔽に有効な紫外線遮蔽剤に関する発明が開示されているが、UV-Cの遮蔽は含まれていない。この発明では、バンドギャップが2.5~3.2eVの範囲にあり、かつ平均粒径が1~500nmの範囲にある微粒子からなる紫外線吸収剤が開示されており、微粒子としては、酸化セリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化ガドリニウム、酸化ルテチウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化スズ、酸化鉄等が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1に開示される酸化物の一部で、紫外線照射によって発色する「フォトクロミック複合体」に関する発明が開示されている。具体的には、酸化タングステン及び酸化チタンは紫外線を吸収することで青色に変化する性質、すなわち、フォトクロミズムを備えており、これらは夏の太陽光照射下では自ら濃青色に変化し、太陽光のない翌日には透明に戻るという作用から、窓ガラスや調光フィルム等に利用されること等が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には「紫外線応答性樹脂組成物の製造方法及び紫外線応答性樹脂組成物」という名称で、非水溶性熱可塑性樹脂をベースとして安価でかつ遮熱性が良好なフォトクロミック材料(紫外線応答性樹脂組成物)に関する発明が開示されている。この特許文献3では、遷移金属塩(タングステン酸ナトリウム)水溶液を用いて遷移金属酸化物水溶液を得て、これを基に紫外線応答性樹脂組成物を製造する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-80823号公報
【特許文献2】特開2019-137796号公報
【特許文献3】特開2020-158671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1-3に開示される発明では、いずれもUV-Cの遮蔽に関する発明ではなく、しかも、壁材の黄変を抑制することができるUV-C吸収剤やそれを主剤とする黄変防止塗料に関する発明でもなく、ウイルスや細菌の除菌、殺菌に供するUV-Cの照射に伴う壁材の黄変を防止することができないという課題があった。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、近紫外線(UV)のうちUV-Cを吸収しつつ、壁材の黄変を防止することが可能なUV-C吸収剤とその主剤の製造方法及び黄変防止塗料を提供することを目的とする。
また、フォトクロミズムが生じて青変することもないUV-C吸収剤とその主剤の製造方法及び黄変防止塗料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明であるUV-C吸収剤の主剤の製造方法は、タングステン酸ナトリウムを水に溶かし、酸を加えてpHが3.5~7のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製し、この調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成し、これをUV-C吸収剤の主剤とすることを特徴とするものである。
上記構成のUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、タングステン酸ナトリウムからUV-Cを遮蔽吸収する調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液及び調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成するように作用する。
なお、本願ではタングステン酸ナトリウム水溶液に酸を加えてpHを3.5~7に調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液といい、それを乾燥させて生成されたポリタングステン酸ナトリウムを調製ポリタングステン酸ナトリウムという。
【0010】
第2の発明であるUV-C吸収剤の主剤の製造方法は、第1の発明において、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析して透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液とした後に乾燥させて固体の透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成することを特徴とするものである。
上記構成のUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、透析が、酸を添加してpHを調整しながら調製されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液に含まれて塗料に添加した際に塗料の成分と反応して凝集を生じさせないように余分なイオン成分を除去したり、半永久的にコロイド状態となるように作用する。
なお、本願では酸を添加してpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析したものを透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液といい、それを乾燥させて生成されたポリタングステン酸ナトリウムを透析調製ポリタングステン酸ナトリウムという。
【0011】
また、第3の発明であるUV-C吸収剤の主剤の製造方法は、ポリタングステン酸ナトリウムを水に溶かし、塩基を加えてpHが3.5~8.5のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製し、この調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成し、これをUV-C吸収剤の主剤とすることを特徴とするものである。
上記構成のUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、UV-Cを遮蔽吸収する調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液及び調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成するように作用する。
なお、本願ではポリタングステン酸ナトリウム水溶液に塩基を加えてpHを3.5~8.5に調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液も調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液といい、それを乾燥させて生成されたポリタングステン酸ナトリウムも調製ポリタングステン酸ナトリウムという。
【0012】
第4の発明であるUV-C吸収剤の主剤の製造方法は、第3の発明において、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析して透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液とした後に乾燥させて固体の透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成することを特徴とするものである。
上記構成のUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、塩基を添加してpHを調整しながら調製されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液に含まれて塗料に添加した際に塗料の成分と反応して凝集を生じさせないように、透析が余分なイオン成分を除去するように作用したり半永久的にコロイド状態とするように作用する。なお、本願では塩基を添加してpHを調整して得た調製タングステン酸ナトリウム水溶液を透析したものも透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液といい、それを乾燥させて生成されたポリタングステン酸ナトリウムも透析調製ポリタングステン酸ナトリウムという。
【0013】
さらに、第5の発明であるUV-C吸収剤は、ポリタングステン酸ナトリウム、第1の発明又は第3の発明における調製ポリタングステン酸ナトリウム、あるいは第2の発明又は第4の発明における透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤とすることを特徴とするものである。
上記構成のUV-C吸収剤では、ポリタングステン酸ナトリウム、調製ポリタングステン酸ナトリウムあるいは透析調製ポリタングステン酸ナトリウムがUV-Cを遮蔽吸収するように作用する。
【0014】
第6の発明である黄変防止塗料は、塗料に、以下の(1)-(5)のいずれかを主剤とするUV-C吸収剤を含有させてなることを特徴とするものである。
(1)ポリタングステン酸ナトリウム
(2)第1の発明における調製ポリタングステン酸ナトリウム又は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(3)第2の発明における透析調製ポリタングステン酸ナトリウム又は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(4)第3の発明における調製ポリタングステン酸ナトリウム又は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
(5)第4の発明における透析調製ポリタングステン酸ナトリウム又は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液
上記構成の黄変防止塗料では、(1)-(5)に記載されるポリタングステン酸ナトリウム、調製ポリタングステン酸ナトリウム又は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液、透析調製ポリタングステン酸ナトリウム又は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を主剤とするUV-C吸収剤がUV-Cを遮蔽吸収するように作用する。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明乃至第4の発明に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、UV-Cを遮蔽吸収可能で、壁材のUV-C照射による黄変及びフォトクロミズムによる青変を防止可能なUV-C吸収剤の主剤を製造することが可能である。
【0016】
第5の発明に係るUV-C吸収剤は、UV-Cを遮蔽吸収可能で、壁材のUV-C照射による黄変及びフォトクロミズムによる青変を防止可能である。
【0017】
第6の発明に係る黄変防止塗料は、壁材に塗布することでUV-Cを遮蔽吸収し、壁材のUV-C照射による黄変及びフォトクロミズムによる青変を防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法のフロー図である。
図2】第1の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例を示すフロー図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法のフロー図である。
図4】タングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてpHを調整し、各pHにおける水溶液を乾燥させ固化した物質をX線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。
図5】市販のポリタングステン酸ナトリウム(3NaWO・9WO・HO)をX線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。
図6】調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHをパラメータとしてUV-C吸光度を測定した結果を示すグラフである。
図7】透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHをパラメータとして、ろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後の基材表面の画像を示すものであり、(a)はpH=0.6の画像であり、(b)はpH=2.3の画像、(c)はpH=3.1の画像、(d)はpH=4.0の画像、(e)はpH=5.1の画像、(f)はpH=6.1の画像、(g)はpH=6.8の画像、(h)はpH=8.0、(i)はpH=8.8の画像である。
図8】調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度をパラメータとしてUV-C吸光度を測定した結果を示すグラフである。
図9】本発明の第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法のフロー図である。
図10】本発明の第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例を示すフロー図である。
図11】本発明の第4の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法のフロー図である。
図12】ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、各pHにおける水溶液を乾燥させ固化した物質をX線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。
図13】調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=6.9,8.0,8.5)とポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=3.7)のpH毎のUV-C吸光度を示すグラフである。
図14】ポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解したポリタングステン酸ナトリウム水溶液と、そのポリタングステン酸ナトリウム水溶液からpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてUV-C(254nm)を24時間照射した後の基材表面の画像を示すものであり、(a)はpH=3.7の画像であり、(b)はpH=6.7の画像、(c)はpH=8.0の画像、(d)はpH=8.5の画像である。
図15】調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の加える酸を硫酸、クエン酸としてpH調整した場合のpH毎のUV-C吸光度を塩酸を加えた場合と比較しながら示すグラフである。
図16】タングステン酸ナトリウムを出発物質として硫酸によってpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後のろ紙表面の画像を示すものであり、(a)はpH=2.0の画像であり、(b)はpH=4.0の画像、(c)はpH=6.0の画像である。
図17】タングステン酸ナトリウムを出発物質としてクエン酸によってpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後のろ紙表面の画像を示すものであり、(a)はpH=2.3の画像であり、(b)はpH=4.0の画像、(c)はpH=6.0の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法]
以下に、本発明の第1の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
図1は第1の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法のフロー図である。ステップS1は、タングステン酸ナトリウム(NaWO)を水に溶解させる工程である。その際の水温は20~25℃であればよく、タングステン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.5mol/Lである。ステップS1で作製されたタングステン酸ナトリウム水溶液のpHは8.5-8.8程度である。
次に、ステップS2ではステップS1で作製したタングステン酸ナトリウム水溶液に酸を加えてpHが3.5から7の間になるように中和させる。酸としては塩酸、硫酸、硝酸等の強酸でもよいし、酢酸等の弱酸でもよい。また、クエン酸等の有機酸でもよい。
pHを3.5から7の間に中和させることでポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製する。
さらに、ステップS3では、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化する。この固化された物質が調製ポリタングステン酸ナトリウムであり、UV-C吸収剤の主剤となり、これを塗料に添加することで黄変防止塗料を製造することができる。なお、固化には粉末化も含まれる。他の実施の形態においても同様である。
発明者はタングステン酸ナトリウム水溶液のpHを3.5から7の間に調整することで調製されるポリタングステン酸ナトリウム水溶液がUV-Cを遮蔽吸収する特性を見出して、これを主剤とするUV-C吸収剤を発明するに至った。
なお、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液あるいはこれを乾燥固化させた調製ポリタングステン酸ナトリウムのいずれもUV-C吸収剤の主剤となり、これらの主剤に例えばpH調整剤やpH安定剤等の添加剤を付加してUV-C吸収剤とする。もちろん、添加剤を含有させなくともよい。以下、他の実施の形態においても同様である。
【0020】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例]
タングステン酸ナトリウムに対して酸を用いてpH調整し、得られた固体の調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤とするUV-C吸収剤を塗料に混合させると凝集する可能性があることや半永久的にコロイド状態とするために、酸の種類によっては乾燥させて固化する前に透析しておくことが望ましい。その工程を経て調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成するUV-C吸収剤の主剤の製造方法を図2に示す。
図2は第1の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例を示すフロー図である。図2に示すUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、ステップS2の工程後にステップS2aとして調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析する工程を有している。その後に図1と同様にステップS3として乾燥させて固化し、透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを得る。透析を必要とする酸としては、例えば塩酸(HCl)がある。ステップS1,2は図1で説明したステップと同一であることから説明を省略する。
また、調製ポリタングステン酸ナトリウムをUV-C吸収剤の主剤として塗料に添加して黄変防止塗料を製造する場合に塗料において凝集するような現象が生じた場合は、図2のUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例で製造される透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤として塗料に添加して黄変防止塗料を製造することが望ましい。
【0021】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤を用いた黄変防止塗料の製造方法]
さらに、図3は本発明の第2の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法のフロー図であるが、この図3に示すとおり、ステップS2で調製及びステップS2aで透析されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化することなく、ステップS3として透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をそのまま塗料に添加して黄変防止塗料を製造している。
このような場合でもポリタングステン酸ナトリウム水溶液の調製時に生じた不要なイオン成分によって塗料の成分を凝集させないためにステップS2aを実行することで、凝集を生じない黄変防止塗料を製造することが可能である。ステップS1,2は図1で、ステップS2aは図2で説明したステップと同一であることから説明を省略する。
なお、図3では透析を必要とする場合の黄変防止塗料の製造方法を示しているが、酸の種類によって塗料において凝集を生じないような場合あるいは透析しなくとも半永久的にコロイド状態となるような場合はステップS2aは不要であるので、ステップS2の実行後ステップS3を実行してもよい。また、ステップS2aとステップS3の間に図1図2のステップS3で示される調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液や透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化する工程を挿入して、塗料に固化された調製ポリタングステン酸ナトリウムや透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを添加してもよい。
次に、発明者が図1図3で示したタングステン酸ナトリウムに酸を加えてポリタングステン酸ナトリウムが生成されること及びその際に調整すべきpHの範囲が3.5~7であることに至った根拠についていくつかの観点から説明する。
【0022】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の組成]
図4はタングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸(4重量%)を加えてpHを調整し、各pHにおける水溶液を100℃において乾燥させ固化した物質をめのう乳鉢にて十分に粉末化した後、X線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。
この図4ではpHをパラメータとして乾燥固化した物質を解析したので、図1~3のステップS2のpH範囲よりも広範囲となっている。
また、図5は市販のポリタングステン酸ナトリウム(3NaWO・9WO・HO)をX線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。
X線回折はリガク社製のSmartLab(登録商標)で9kWのX線線源を用いて実施した。なお、本願におけるX線回折では、対陰極を銅(Cu)としてCuKαを用い、管電圧を45kV、管電流を200mAとし、スキャン速度を10°/分、スキャン幅を0.02°としている。
図4において、横軸はX線回折における回折角度(2θ角度)を示しており、縦軸は回折X線の強度を示している。但し、縦軸は各pHの強度を1つのグラフ上で表現するため10万cpsずつずらして表示している。また、調整されたpHとしては、8.0,6.8,6.1,5.1,4.0,3.1,2.3,0.6の8段階が示されている。さらに、図中のX線の回折パターン上に示される〇印はタングステン酸ナトリウムに特徴的なピークであること、×印はpHが3から7の場合に共通するピークであること、△印はpHが3から5程度の場合に共通するピークであること、□印はpHが6から7程度の場合に共通するピークであることを示している。
図4からpHが3よりも小さくなる領域、pHが3程度から5程度の領域、pHが5程度から7程度の領域、pHが7程度よりも大きくなる領域に分類できることが理解される。
そして、このグラフからpHが8以上ではタングステン酸ナトリウムが支配的であり、pHが3よりも小さくなるとアモルファスとなっていることがわかった。これはポリタングステン酸ナトリウム若しくは酸化タングステンのアモルファスと思われる。また、X線回折データベースから、pH=5.1ではNaWO・3WO、pH=6.8ではpH=5.1と同じNaWO・3WO又はNa(H1242)・26HOに近似することがわかった。これらはHをNaに置き換えると、いずれもxNaWO・yWO・zHO(但し、x,y,zは0又は自然数)で表現され、ポリタングステン酸ナトリウム系列の物質と考えられる。また、その多形は相当数存在しているものと考えられる。
したがって、タングステン酸ナトリウムを水に溶かし、塩酸を加えてpHを3から7までに調整することでポリタングステン酸ナトリウム水溶液が調製されることがわかった。
【0023】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤のUV-C吸光度]
次に、タングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてpHを調整して得られた調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のUV-Cに対する吸収特性について図6を参照しながら説明する。図6は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpH毎のUV-C吸光度を示すグラフである。調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5mol/Lとし、これを水30mLに1μL滴下し0.003重量%濃度としてUV-C吸光度を測定した。
図6もpHをパラメータとして特性を測定したので、図1~3のステップS2のpH範囲よりも広範囲となっている。
図6において、各pHのうち、pH=8以下は図4のpH時のデータに対応するが、pH=8.8はタングステン酸ナトリウムの水溶液そのものに塩酸をpHが変わらない程度の量を滴下したデータであり、図中凡例のNaWOは、タングステン酸ナトリウム水溶液そのもののUV-C吸収特性を示す。図6の横軸は紫外線波長(nm)、縦軸のAbs.は吸光度(Absorbance)である。吸光度の単位は慣習的につけない任意単位である。
また、図6において、室内で殺菌用途で使用されるUV-C波長(270nm以下)の吸収特性では、pHが低いほど吸収力が高く、pHが7を超えると吸収力が失われていることが理解できる。また、タングステン酸ナトリウム水溶液や固体のタングステン酸ナトリウムについても254nm近傍でのUV-C吸収がないことがわかった。さらに、pHが7以下であればUV-C波長が254nmの±20nm程度であっても十分吸収されることが理解された。
したがって、UV-C(254nm程度)を吸収遮蔽して壁材のUV-C照射による黄変を防止するためには、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHが7以下であることが望ましいことが理解される。
【0024】
[タングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の黄変性と青変性]
次に、タングステン酸ナトリウムを水に溶かして0.5mol/Lとし、塩酸を加えてpHを調整した調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析して得られた透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射し、青変(以下、青変する性質を青変性ということもある。)の有無を試験した結果を表1と図7に示す。また、0.5mol/L透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を5cm角の基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射し、黄変度(以下、黄変する性質を黄変性ということもある。)を測定した結果も表1に示す。
図7においてもpHをパラメータとして特性を測定したので、図1~3のステップS2のpH範囲よりも広範囲となっている。
透析はアストム社製マイクロアシライザー(登録商標)S3を使用した。塗料はアクリル樹脂(星光PMC社製アクリルエマルションM-141)を用いて、0.5mol/Lの調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を25重量%の濃度となるように塗料に添加して黄変防止塗料を作製した。
透析前後のナトリウムイオン量と塩素イオン量は蛍光エックス線(リガク社製 波長分散型蛍光エックス線分析装置 ZSX PrimusIV)を用いて定量し、24時間照射後の黄変度(Δb値:照射前後の黄変差)は日本分光社製NF-333を用いて測定した。
なお、黄変度(Δb値)は、測光が可能な日本分光社製NF-333を用いてLab表色系で色を数値化して照射前後の差を取ったものである。LabのLは輝度、a値が高ければ赤、低ければ緑、b値は高ければ黄、低ければ青となり、とりわけb値が黄色を表すことから照射前後のb値を測定しその差を黄変度としている。この後の黄変度も同様にして得ている。
表1にpHをパラメータにして調製したポリタングステン酸ナトリウム水溶液の透析前後のCl濃度(ppm)及びNa濃度(ppm)と紫外線照射による変色が示される図番、さらに黄変度(Δb値)を一覧にまとめて示す。
なお、アクリル樹脂(星光PMC社製アクリルエマルションM-141)の塗料のみを塗布した場合と黄変防止塗料を塗布した場合の比較として表2を示す。
表2に示されるのはアクリル樹脂塗料のみを5cm角の基材(セラミックボード)に塗布した場合と上述のように作製された黄変防止塗料(但し、0.5mol/Lに調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度は25重量%とした。)を同様の基材に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射して黄変度を測定した結果である。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
図7は透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHをパラメータとして、ろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後の基材表面の画像を示すものであり、(a)はpH=0.6の画像であり、(b)はpH=2.3の画像、(c)はpH=3.1の画像、(d)はpH=4.0の画像、(e)はpH=5.1の画像、(f)はpH=6.1の画像、(g)はpH=6.8の画像、(h)はpH=8.0、(i)はpH=8.8の画像である。
表1からpHが低いと黄変度は低くUV-C(254nm)が吸収遮蔽されていることがわかり、pHが高いと黄変度は高くなり、特にpHが8以上では特に高く調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液がアルカリ性となるとUV-Cの吸収性が消失していることが理解できる。
また、表2を参照すれば、明らかに塗料のみの場合よりも黄変防止塗料を塗布した方が黄変度が低く、黄変防止塗料による黄変防止効果が明確に出ていることが理解できる。
一方、図7を参照すれば、pH=0.6の(a)、pH=2.3の(b)及びpH=3.1の(c)では明らかに青変(図7では灰色)を生じており、黄変がなくとも塗料として使用することができないことがわかった。
したがって、黄変及び青変を生じることのないUV-C吸収剤の主剤となるポリタングステン酸ナトリウムは、タングステン酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてpHを3.5~7に調整して得られる調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液であることが理解された。
【0028】
[ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度変化によるUV-C吸光度変化]
ここで、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度変化に対するUV-Cの吸収特性について、図8を参照しながら説明する。
図8は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度をパラメータとしてUV-C吸光度を測定した結果を示すグラフである。図8の横軸は紫外線波長(nm)、縦軸のAbs.は図6を用いて既に説明したとおりである。
調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHを4に固定し、その濃度を0.2~0.5mol/Lとし、これらそれぞれを水30mLに1μL滴下し0.003重量%濃度としてUV-C吸光度を測定した。
図8は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.3~0.5mol/Lまでの濃度であれば270nm以下のUV-Cに対して同等の十分な吸光度があることを示している。また、0.2mol/Lの場合は0.3~0.5mol/Lの場合と比較すると吸光度が低下するが、有意な値としての吸光度が観測されるため、UV-C吸収剤の主剤としての機能は発揮するものと考えられる。すなわち、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度の下限は特に限定するものではなく、270nm以下のUV-Cに対して有意な吸光度があればUV-C吸収剤の主剤としては成立するものである。
なお、タングステン酸ナトリウムの溶解度は約2.2mol/Lであり、濃度が高いほどUV-C吸収剤としての機能も高いと考えられる。
以上説明したとおり、第1の実施の形態及びその変形例に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法によれば、壁材に塗布した場合にUV-C照射による黄変性がなく、また、フォトクロミズムによる青変性もない黄変防止塗料を製造するためのUV-C吸収剤の主剤を製造することが可能である。
また、第2の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法によって製造された黄変防止塗料は、UV-C照射による黄変性やフォトクロミズムによる青変性のない塗料であり、その製造方法によれば、黄変性や青変性のない黄変防止塗料を製造することが可能である。
【0029】
[ポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法]
次に、本発明の第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法について、図9を参照しながら説明する。
図9は第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法のフロー図である。
図9において、ステップS1は、ポリタングステン酸ナトリウム(3NaWO・9WO・HO)を水に溶解させる工程である。その際の水温は20~25℃であればよく、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.5mol/Lである。
なお、ポリタングステン酸ナトリウムの溶解度は不明であるが、濃度が高いほどUV-C吸収剤としての機能も高いと考えられる。
ステップS1で作製されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHは3.7程度である。タングステン酸ナトリウムのpHが8.5~8.8とアルカリ性であったのに対し、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の場合は酸性となるので、次のステップS2では酸ではなく塩基を加えることになる。
ステップS2ではステップS1で作製したポリタングステン酸ナトリウム水溶液に塩基を加えてpHが3.5から8.5の間になるように中和させることでポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製する。
したがって、市販のポリタングステン酸ナトリウムを用いてステップS1で作製されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHが3.7となった場合、ステップS2で塩基を添加することなくそのままのpHでステップS2を実行することなくステップS3を実行してもよい。その場合はそもそもステップS1を実行する必要もなく、そのpHを調整していないポリタングステン酸ナトリウムそのものがUV-C吸収剤の主剤となり得るものである。さらにその場合は、pHを未調整のポリタングステン酸ナトリウムを主剤とするUV-C吸収剤を塗料に添加することで黄変防止塗料として成立することになる。ポリタングステン酸ナトリウムの形態が前述のとおり多形で複数存在しているため、その水溶液のpHが常に一定とはならないことによるものである。
なお、ステップS2では塩基であれば強塩基でも弱塩基でもよいが、一般的には強塩基である水酸化ナトリウム(NaOH)が適している。
【0030】
また、本願では、ステップS2で塩基を加えてpHを調整した場合のポリタングステン酸ナトリウム水溶液も調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液とし、市販のポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解させてpHの調整なく3.5~8.5の間に収まった場合のポリタングステン酸ナトリウム水溶液を単にポリタングステン酸ナトリウム水溶液とする。したがって、たとえ市販のポリタングステン酸ナトリウムを使用してもステップS2において、塩基を加えてpHを高くした場合には、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液となる。
さらに、ステップS3では、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化する。この固化された物質が調製ポリタングステン酸ナトリウムであり、UV-C吸収剤の主剤となり、これを塗料に添加することで黄変防止塗料とすることができる。
発明者はポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解させてその水溶液のpHを3.5から8.5の間に調整することで調製されるポリタングステン酸ナトリウム水溶液がUV-Cを遮蔽吸収する特性を見出して、これを主剤とするUV-C吸収剤を発明するに至った。第1の実施の形態やその変形例、また第2の実施の形態でタングステン酸ナトリウムを水に溶解させた場合では、酸を加えてpHを3.5から7に調整したが、第3の実施の形態やこの後に説明する第4の実施の形態でポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解させた場合は、塩基を加えてpHを3.5から8.5まで調整しても黄変を生じない結果を得たので、pHの範囲がアルカリ側に広くなっている。
なお、ポリタングステン酸ナトリウムに対して塩基を用いてpH調整する場合も、調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤するUV-C吸収剤を塗料に混合させて凝集しない場合、例えば水酸化ナトリウムの場合では、図9に示されるフロー図によってUV-C吸収剤の主剤の製造が可能である。
次に、透析が必要な場合について第3の実施の形態の変形例として説明する。
【0031】
[ポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例]
図9に示した製造法で得られた調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤とするUV-C吸収剤を塗料に混合させても凝集する可能性があり、それを防止したり、あるいは半永久的にコロイド状態とするために、塩基の種類によっては乾燥させて固化する前に透析しておくことが望ましい。その工程を経て調製ポリタングステン酸ナトリウムを生成するUV-C吸収剤の主剤の製造方法を図10に示す。
図10は第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法の変形例を示すフロー図である。図10に示すUV-C吸収剤の主剤の製造方法では、ステップS2の工程後にステップS2aとして調整されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を透析する工程を有している。その後に図9と同様にステップS3として乾燥させて固化し、透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを得る。ステップS1,2は図9で説明したステップと同一であることから説明を省略する。
酸の場合と同様に、黄変防止塗料を製造する場合に塗料において凝集するような現象が生じた場合は、この変形例で製造される透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを主剤として塗料に添加して黄変防止塗料を製造すればよい。
【0032】
[ポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤を用いた黄変防止塗料の製造方法]
図11は本発明の第4の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法のフロー図である。この図11では、ステップS2で調製及びステップS2aで透析されたポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化することなく、ステップS3として透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をそのまま塗料に添加して黄変防止塗料を製造している。
このような場合でもポリタングステン酸ナトリウム水溶液の調製時に生じた不要なイオン成分によって塗料の成分を凝集させないためにステップS2aを実行することで、凝集を生じない黄変防止塗料を製造することが可能である。ステップS1,2は図9で、ステップS2aは図10で説明したステップと同一であることから説明を省略する。
なお、図11では透析を必要とする場合の黄変防止塗料の製造方法を示しているが、塩基の種類によって水溶液自体の沈殿及び塗料において凝集を生じないような場合あるいは半永久的にコロイド状態とできるような場合はステップS2aは不要であるので、ステップS2の実行後ステップS3を実行してもよい。また、ステップS2aとステップS3の間に図9図10のステップS3で示される調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液や透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を乾燥させて固化する工程を挿入して、塗料に調製ポリタングステン酸ナトリウムや透析調製ポリタングステン酸ナトリウムを添加してもよい。
【0033】
次に、発明者が図9~11で示したポリタングステン酸ナトリウムに塩基を加えて調製ポリタングステン酸ナトリウムを得る際に調整すべきpHの範囲が3.5~8.5であることに至った根拠について説明する。
図12はポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=3.7)に水酸化ナトリウム(1mol/L)を加えてpHを調整し、各pHにおける水溶液を乾燥させ固化した物質をX線回折法を用いて解析した結果を示すグラフである。図中SPTはポリタングステン酸ナトリウムの英語名の略語である。また、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.5mol/Lである。
この図12ではpHをパラメータとして乾燥固化した物質を解析した結果を示すが、ポリタングステン酸ナトリウムそのもののX線回折法を用いて解析した結果(pH=3.7)は既に図5に示したとおりである。横軸はX線回折における回折角度(2θ角度)を示しており、縦軸は回折X線の強度を示している。但し、縦軸は各pHの強度を1つのグラフ上で表現するためpH=6.9とpH=8.0は6万cpsずつずらし、pH=8.5は2万cpsずらして表示している。なお、X線回折はリガク社製のSmartLab(登録商標)で9kWのX線線源を用いて実施した。
図12からpH=5.0,6.9では図5のX線回折結果とよく類似しているものの、pH=8.0,8.5では2θ=15~20程度である程度の類似が見られるため、一部はポリタングステン酸ナトリウムと考えられるが、2θ>20°ではX線回折強度が緩やかとなっているので大部分はアモルファス化している可能性があると考えられる。
また、タングステン酸ナトリウムから酸を加えてポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製した場合と、ポリタングステン酸ナトリウムからポリタングステン酸ナトリウム水溶液を調製した場合やポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解して得られるポリタングステン酸ナトリウム水溶液とではX線回折による解析結果からすると全く異なる組成が異なるものであることがわかった。
【0034】
[ポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤のUV-C吸光度]
次に、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを調整して得られた調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=6.9,8.0)とポリタングステン酸ナトリウムをそのまま水に溶解させたポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=3.7)のUV-Cに対する吸収特性について図13を参照しながら説明する。
図13は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=6.9,8.0,8.5)とポリタングステン酸ナトリウム水溶液(pH=3.7)のpH毎のUV-C吸光度を示すグラフである。調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5mol/Lとし、これを水30mLに1μL滴下し0.003重量%濃度としてUV-C吸光度を測定した。
図13において、各pHのうち、pH=6.9,8.0,8.5は図12のpH時のデータに対応するが、pH=3.7はpH調整していないポリタングステン酸ナトリウム水溶液そのもののデータの場合である。図13の横軸は紫外線波長(nm)、縦軸のAbs.は既に図6を参照しながら既に説明したとおりである。
図13において、室内で殺菌用途で使用されるUV-C波長(270nm以下)の吸収特性では、pH=3.7,6.9,8.0,8.5のいずれも吸収力が高く、タングステン酸ナトリウムから塩酸でpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の場合と比較して、pHが7を超えても吸収力が失われないことがわかった。また、市販のポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解しただけのタングステン酸ナトリウム水溶液についても254nm近傍でのUV-C吸収があることがわかった。
したがって、UV-C(270nm以下)を吸収遮蔽して壁材の黄変を防止するためには、pHを調整することなくポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解したポリタングステン酸ナトリウム水溶液から調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHが8.5以下の場合であることが望ましいことが理解される。
【0035】
[ポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とするUV-C吸収剤の主剤の黄変性と青変性]
次に、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、0.5mol/Lとした調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射し、青変の有無を試験した結果を表3と図14に示す。塗料に添加して製造された黄変防止塗料を5cm角の基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射し、黄変性と青変性の有無を試験した結果を表3と図14に示す。
また、0.5mol/Lの調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を5cm角の基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射し、黄変度を測定した結果も表3に示す。
透析は行っておらず、塗料はアクリル樹脂(星光PMC社製アクリルエマルションM-141)を用いて、0.5mol/Lの調整ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を25重量%の濃度となるように塗料に添加して黄変防止塗料を作製した。
24時間照射後の黄変度(Δb値:照射前後の黄変差)は日本分光社製NF-333を用いて測定した。
表3にpHをパラメータにして紫外線照射による変色が示される図番、さらに黄変度(Δb値)を一覧にまとめて示す。
【0036】
【表3】
【0037】
図14はポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解したポリタングステン酸ナトリウム水溶液と、そのポリタングステン酸ナトリウム水溶液からpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてUV-C(254nm)を24時間照射した後の基材表面の画像を示すものであり、(a)はpH=3.7の画像であり、(b)はpH=6.7の画像、(c)はpH=8.0の画像、(d)はpH=8.5の画像である。
表3からpHが低いと黄変度は少し高く、pHが高くなると黄変度が減り、酸性からアルカリ性へ移行すると再び高くなるような結果が得られたが、タングステン酸ナトリウムを出発物質とする場合に比べて全体的に少し高めの黄変度を示すことがわかった。しかし、中性点を超えてアルカリ性へ移行した後の黄変度はポリタングステン酸ナトリウムを出発物質とした場合の方が明らかに低くなり、UV-C(254nm)が吸収遮蔽されていることが理解された。
一方、図14を参照すれば、pH=3.7の(a)からpH=8.5の(d)までの全体で青変(図14では灰色)を若干生じており、塗料として使用できないレベルではないものの、タングステン酸ナトリウムを出発物質とした方が青変が少ないpH領域が広く存在していることがわかった。
したがって、黄変及び青変を生じることのないUV-C吸収剤の主剤となる調製ポリタングステン酸ナトリウムは、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを3.5~8.5に調整して得られる調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液であり、また、pHを調整しないポリタングステン酸ナトリウムもUV-C吸収剤の主剤となり得ることが理解された。
以上説明したとおり、第3の実施の形態に係るUV-C吸収剤の主剤の製造方法によれば、壁材に塗布した場合にUV-C照射による黄変性がなく、また、フォトクロミズムによる青変性もない黄変防止塗料を製造するためのUV-C吸収剤の主剤を製造することが可能である。
また、第4の実施の形態に係る黄変防止塗料の製造方法によって製造された黄変防止塗料は、UV-C照射による黄変性やフォトクロミズムによる青変性のない塗料であり、その製造方法によれば、黄変性や青変性のない黄変防止塗料を製造することが可能である。
さらに、水に溶解させた場合にpHが3.5~8.5の範囲内にあるポリタングステン酸ナトリウムであれば、塩基を加えて調製ポリタングステン酸ナトリウムとする必要がなく、そのまま塗料に添加することでUV-C照射による黄変性やフォトクロミズムによる青変性のない黄変防止塗料を製造することが可能である。
【0038】
[硫酸、クエン酸を用いて酸調整を行った場合のUV-C吸光度]
さらに、発明者はタングステン酸ナトリウムを出発物質とした際に、pHの調整に用いる酸として、硫酸と有機酸としてクエン酸を用いた場合について検討を行った。
タングステン酸ナトリウム水溶液に対し、酸として硫酸、クエン酸を加えてpHを調整して得られた調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のUV-Cに対する吸収特性について、塩酸を加えてpH調整した場合と比較しながら図15を参照しながら説明する。
図15は調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の加える酸を硫酸、クエン酸としてpH調整した場合のpH毎のUV-C吸光度を塩酸を加えた場合と比較しながら示すグラフである。調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5mol/Lとし、これを水30mLに1μL滴下し0.003重量%濃度としてUV-C吸光度を測定した。
図15において、クエン酸についてはpH=2.3,4.2,6.1について測定し、硫酸についてはpH=2.0,4.0,6.0について測定した。また、塩酸についてはpH=4.0,6.1について測定した場合を比較として示す。図15の横軸は紫外線波長(nm)、縦軸のAbs.は図6を参照して既に説明したとおりである。
図15から、pHが4程度から6程度の範囲では、室内で殺菌用途で使用されるUV-C波長(254nm程度)の吸収特性では、硫酸の吸光度が塩酸よりもかなり高いことがわかった。
また、クエン酸の吸光度は塩酸に劣って低いことがわかった。
したがって、UV-C(254nm程度)を吸収遮蔽して壁材の黄変を防止するためのUV-C吸収剤の主剤としては、硫酸によってpH調整された調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液やポリタングステン酸ナトリウムを水に溶解して得られたポリタングステン酸ナトリウム水溶液であっても図15に示されるpHの範囲であればUV-C照射による黄変の無さの観点から望ましいことが理解される。
【0039】
[硫酸を用いて酸調整を行った場合の黄変性と青変性]
タングステン酸ナトリウムを水に溶かして0.5mol/Lとし、硫酸を加えてpHを調整した調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射し、青変の有無を試験した結果を表4と図16に示す。また、0.5mol/Lの調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を5cm角の基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射し、黄変度を測定した結果も表4に示す。但し、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に対して透析は実施していない。
24時間照射後の黄変度(Δb値:照射前後の黄変差)は日本分光社製NF-333を用いて測定した。
表4にpHをパラメータにして紫外線照射による変色が示される図番、さらに黄変度(Δb値)を一覧にまとめて示す。なお、硫酸については、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液のpHが2.0のときには塗料との混合でゲル状となって基材に塗布できなかったので黄変度は測定できなかった。
【0040】
【表4】
【0041】
図16はタングステン酸ナトリウムを出発物質として硫酸によってpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後のろ紙表面の画像を示すものであり、(a)はpH=2.0の画像であり、(b)はpH=4.0の画像、(c)はpH=6.0の画像である。
表4からpHが2.0の場合は、機器の都合上透析ができず余分な硫酸イオンが残留してしまい、塗料と凝集してしまったものと推測でき、黄変度の測定ができなかった。pHが4.0と6.0の場合は黄変度は高くないとも考えられるものの、図16(b)及び(c)に示されるとおり、pHが6.0でも青変が確認された。
【0042】
[クエン酸を用いて酸調整を行った場合の黄変性と青変性]
次に、タングステン酸ナトリウム水溶液に有機酸としてクエン酸を加えてpHを調整し、0.5mol/Lとした調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射し、青変の有無を試験した結果を表5と図17に示す。また、0.5mol/Lの調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を塗料に添加して製造された黄変防止塗料を5cm角の基材(セラミックボード)に塗布し、乾燥させてからUV-C(254nm)を24時間照射し、黄変度を測定した結果も表5に示す。但し、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液に対して透析は実施していない。
表5にpHをパラメータにして紫外線照射による変色が示される図番を一覧にまとめて示す。なお、クエン酸についても透析ができず、クエン酸イオンが残留してしまい、調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液がいずれのpHにおいても塗料との混合でゲル状となって基材に塗布できなかったので黄変度は測定できなかった。
【0043】
【表5】
【0044】
図17はタングステン酸ナトリウムを出発物質としてクエン酸によってpHを調整して得た調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液をろ紙に一定量(100μL)浸透させ、UV-A(365nm)を10秒間照射した後のろ紙表面の画像を示すものであり、(a)はpH=2.3の画像であり、(b)はpH=4.0の画像、(c)はpH=6.0の画像である。
図17(a)~(c)を参照するとpHが2.3から6.0までの青変性は塩酸や硫酸に比較して少ないことがわかった。但し、黄変性の無さは塩酸の方が良好となることが確認された。
【0045】
[UV-C吸収剤を塗料に添加した場合のpH変化]
次に、本発明に係るUV-C吸収剤を塗料に添加して製造した黄変防止塗料において、pHに変化を生じて調製ポリタングステン酸ナトリウムがUV-C吸収剤としての機能を損うことがないか、製造した黄変防止塗料のpHを測定して確認した結果を表6と表7に示す。
表6の塗料はpH=9のアクリルエマルション(星光PMC社製アクリルエマルションM-141)である。この塗料に対し、第1の実施の形態の変形例によって製造されたUV-C吸収剤、すなわち、図2に示されるステップS1~S2aを経て得られる透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を25重量%添加して黄変防止塗料とし、その後のpH変化と青変の有無を表に示している。表6の上欄の矢印上側数値はUV-C吸収剤のpHであり、矢印下側数値は黄変防止塗料のpHである。
表6から黄変防止塗料のpHとしてはUV-C吸収剤のpHがいずれの数値であってもpH=7近傍となり、特に黄変防止塗料としての不具合なく使用可能であることが確認された。
また、表6の下欄は青変の有無について示すものであり、いずれのUV-C吸収剤であっても青変を生じることなく使用可能であることが確認された。
【0046】
【表6】
【0047】
表7の塗料はpH=9のウレタン塗料(Covestro Coating Resins社製 NeoRez R4000)である。この塗料に対し、第1の実施の形態の変形例によって製造されたUV-C吸収剤、すなわち、図2に示されるステップS1~S2aを経て得られる透析調製ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を25重量%添加して黄変防止塗料とし、その後のpH変化を表に示している。表7の矢印上側数値はUV-C吸収剤のpHであり、矢印下側数値は黄変防止塗料のpHである。
表7から黄変防止塗料のpHとしてはUV-C吸収剤のpHがいずれの数値であってもpH=7近傍となり、アクリル塗料以外のウレタン塗料であっても特に黄変防止塗料としての不具合なく使用可能であることが確認された。
また、表7の下欄は青変の有無について示すものであり、いずれのUV-C吸収剤であっても青変を生じることなく使用可能であることが確認された。
【0048】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本願の発明は、殺菌作用を有するUV-Cを遮蔽吸収するUV-C吸収剤として利用が可能であり、さらに、それを塗料に添加することで壁材の黄変を防止する黄変防止塗料としても広く利用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17