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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042611
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】電力変換回路および制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240321BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147447
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 慎平
(72)【発明者】
【氏名】樋口 安史
(72)【発明者】
【氏名】松木 英夫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 弘紀
(72)【発明者】
【氏名】金村 高司
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770GA14
5H770GA17
5H770HA03Y
5H770HA07Z
5H770JA10X
5H770LA02X
5H770LA05X
5H770LB09
5H770QA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酸化ガリウム系半導体の特性劣化を抑制しつつ動作させる電力変換回路を提供する。
【解決手段】スイッチング素子509と、スイッチング素子509の短絡状態を検出し、検出結果に基づいてスイッチング素子509のオフ動作を行う制御部506を少なくとも有する昇圧コンバータ502及び降圧コンバータ504を含む制御システムであって、制御部506は、短絡発生からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるようにスイッチング素子506のオフ動作を制御する。スイッチング素子509は、酸化ガリウム系半導体を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の短絡状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、前記短絡発生からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
【請求項2】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、酸化ガリウム系半導体が相転移しないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
【請求項3】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、酸化ガリウム系半導体の温度が600℃を超えないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
【請求項4】
前記酸化ガリウム系半導体が、コランダム構造酸化ガリウム系半導体である請求項1~3のいずれかに記載の電力変換回路。
【請求項5】
前記コランダム構造酸化ガリウム系半導体が、α-Gaまたはその混晶を含む請求項4記載の電力変換回路。
【請求項6】
前記コランダム構造酸化ガリウム系半導体が、α-Gaである請求項4記載の電力変換回路。
【請求項7】
前記制御部は、短絡発生から前記オフ動作までの時間が0.4μsec以下となるように前記オフ動作を制御する請求項1記載の電力変換回路。
【請求項8】
前記制御部が、短絡検出回路を含む請求項1~3のいずれかに記載の電力変換回路。
【請求項9】
前記スイッチング素子が、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である請求項1~3のいずれかに記載の電力変換回路。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の電力変換回路を備える制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換回路および制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体装置が注目されており、インバータやコンバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInAlGa(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
また、特許文献1には、交流―直流変換装置のスイッチング部におけるダイオードまたはスイッチング素子の一部または全部に、ワイドバンドギャップ半導体素子(炭化珪素、窒化ガリウム、酸化ガリウムまたはダイアモンドをのうち何れか一種類もしくは組み合わせ)を用いることが記載されている。しかしながら、それぞれの半導体材料ごとの課題については検討されていなかった。また、非特許文献2には、α-Gaは600℃を超える温度でアニールすると最安定相であるβ-Gaに相転移することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-27779号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【非特許文献2】LEE, Sam‐Dong; AKAIWA, Kazuaki; FUJITA, Shizuo. Thermal stability of single crystalline alpha gallium oxide films on sapphire substrates. physica status solidi (c), 2013, 10.11: 1592-1595.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸化ガリウム系半導体の特性を生かしつつ動作させることができる電力変換回路を提供することを課題とする。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、スイッチング素子と、前記スイッチング素子の短絡状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、短絡発生からオフ動作を行うまでの時間が1.4μsec未満となるように前記スイッチング素子のオフ動作を制御する電力変換回路が、スイッチング素子に含まれる酸化ガリウム系半導体の特性劣化を抑制しつつ電力変換回路を動作させることができることを知見し、上記した従来の問題を解決できるものであることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] スイッチング素子と、前記スイッチング素子の短絡状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、前記短絡発生からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
[2] スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、酸化ガリウム系半導体が相転移しないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
[3] スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、酸化ガリウム系半導体の温度が600℃を超えないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特徴とする電力変換回路。
[4] 前記酸化ガリウム系半導体が、コランダム構造酸化ガリウム系半導体である前記[1]~[3]のいずれかに記載の電力変換回路。
[5] 前記コランダム構造酸化ガリウム系半導体が、α-Gaまたはその混晶を含む前記[4]記載の電力変換回路。
[6] 前記コランダム構造酸化ガリウム系半導体が、α-Gaである前記[4]記載の電力変換回路。
[7] 前記制御部は、短絡発生から前記オフ動作までの時間が0.4μsec以下となるように前記オフ動作を制御する前記[1]記載の電力変換回路。
[8] 前記制御部が、短絡検出回路を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の電力変換回路。
[9] 前記スイッチング素子が、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である前記[1]~[3]のいずれかに記載の電力変換回路。
[10] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の電力変換回路を備える制御システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電力変換回路によれば、酸化ガリウム系半導体の特性を生かしつつ回路を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施態様にかかる制御システムの一例を示すブロック構成図である。
図2】本発明の実施態様にかかる制御システムの一例を示す回路図である。
図3】本発明の実施態様にかかるインバータ駆動装置の一例を示す図である。
図4】本発明の実施態様において用いられるMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の一例を示す模式的断面図である。
図5】本発明の実施態様におけるシミュレーション回路を示す図である。
図6】シミュレーションにおけるゲート電圧制御のゲート電圧の時間変化を示す図である。
図7】試験例において行ったシミュレーション結果を示す図である。
図8】本発明の実施態様にかかるインバータ駆動装置の短絡動作時のシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施態様における電力変換回路は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子の短絡状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、短絡発生からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特長とする。また、本発明の他の実施態様における電力変換回路は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、前記スイッチング素子に含まれる酸化ガリウム系半導体が相転移しないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特長とする。さらに、本発明の他の実施態様における電力変換回路は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子のオフ動作を行う制御部を少なくとも有する電力変換回路であって、前記スイッチング素子が、酸化ガリウム系半導体を含み、前記制御部が、酸化ガリウム系半導体の温度が600℃を超えないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御することを特長とする。
【0012】
前記酸化ガリウム系半導体(以下、単に「半導体」ともいう。)は、酸化ガリウムを含む半導体であれば、特に限定されない。前記半導体の結晶構造も、本発明の目的を阻害しないか限り、特に限定されない。前記半導体の結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β-ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造等)、直方晶構造(例えばκ型構造等)、立方晶構造、または正方晶構造等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記半導体の結晶構造が、コランダム構造またはβ-ガリア構造であるのが好ましく、コランダム構造であるのがより好ましい。本発明の1つの実施態様においては、前記半導体が準安定相である場合(例えば、コランダム構造を有する場合)であっても、前記半導体が温度上昇によって相転移を起こすことなく回路を動作させることができる。本明細書において、「相転移温度」とは、前記半導体の結晶構造が変化する温度をいう。例えば、前記半導体が酸化ガリウム系半導体であって、結晶構造が準安定の結晶構造(コランダム構造、ε型、κ型等)である場合、該温度において前記半導体の結晶構造が最安定の結晶構造(β型)に相転移する。前記相転移温度は、前記半導体がα-Gaである場合は、例えば600℃であってよい。前記半導体がα-(Al,Ga)である場合は、例えば700℃~1000℃であってよい。なお、前記相転移温度は、実験によって求められた温度であってよい。前記半導体がコランダム構造を有する場合、前記半導体はコランダム構造を有する酸化ガリウムの結晶または混晶を含む半導体であれば、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記半導体が混晶である場合、少なくともコランダム構造の酸化ガリウムを主成分として含むのが好ましい。前記半導体が混晶である場合の好適な例としては、α-(Al,Ga)、α-(Ir,Ga)、α-(In,Ga)等が挙げられる。ここで、「コランダム構造の酸化ガリウムを主成分として含む」とは、例えば前記半導体がα-(Al,Ga)(α-Gaとα-Alとの混晶)である場合には、前記半導体中に含まれる全ての金属元素中におけるガリウムの原子比が0.5以上の割合でα-Gaが前記半導体中に含まれていればそれでよい。本発明の実施態様においては、前記半導体中に含まれる全ての金属元素中におけるガリウムの原子比が0.7以上であるのが好ましく、0.9以上であるのがより好ましい。本発明の実施態様においては、前記半導体が、α-Gaであるのが好ましい。
【0013】
前記スイッチング素子は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、MOSFETであってもよいし、IGBTであってもよい。また、本発明の実施態様においては、前記スイッチング素子が、還流ダイオードを備えるのが好ましい。前記還流ダイオードは、スイッチング素子に内蔵されていてもよいし、外付けされていてもよい。
【0014】
図4に、前記スイッチング素子の好適な一例を示す。図4の半導体装置は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)であり、n+型半導体層(ドレイン層)1、n-型半導体層(ドリフト層)2、p+型半導体層(ディープp層)6、p-型半導体層(チャネル層)7、電流分散層8、n+型半導体層(n+ソース層)11、ゲート絶縁膜13、ゲート電極3、p+型半導体層16、ソース電極24およびドレイン電極26を備えている。なお、p+型半導体層(ディープp層)6は、少なくともその一部が、ゲート電極3の埋設下端部3aよりも深い位置にまで前記n-型半導体層2内に埋設されている。また、電流分散層8は、ゲート電極3の直下に位置している。図4の半導体装置のオン状態では、前記ソース電極24と前記ドレイン電極26との間に電圧を印加し、前記ゲート電極3に前記ソース電極24に対して正の電圧を与えると、前記p-型半導体層7とゲート絶縁膜13との界面にチャネルが形成され、ターンオンする。オフ状態は、前記ゲート電極3の電圧を0Vにすることにより、チャネルができなくなり、ターンオフする。
【0015】
本発明の1つの実施形態においては、前記制御部は、前記スイッチング素子の短絡状態を検出し、検出結果に基づいて、短絡発生からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるように前記スイッチング素子のオフ動作を制御する。前記オフ動作の制御は、本発明の実施態様においては、前記短絡発生から前記オフ動作までの時間(以下、単に「オフ動作時間」ともいう。)が1.4μsec未満となるものであれば、特に限定されない。なお、本発明の実施態様においては、前記制御部が前記スイッチング素子の短絡を検出する場合、前記短絡発生時からオフ動作までの時間が1.4μsec未満となるように制御するのが好ましい。また、本発明の他の実施態様においては、前記制御部は、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて、前記半導体の温度が600℃を超えないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御する。異常状態とは、前記スイッチング素子の電気的または熱的な状態が予め定められている正常状態から逸脱した状態をいう。異常状態の検出は、公知の方法を用いて行う。前記オフ動作の制御は、前記半導体の温度が600℃を超えないようにオフ動作制御できるような制御である。前記制御回路の構成等については、公知の構成を用いることができる。600℃を超えないようなオフ動作制御の方法としては、より具体的には、例えば、後述するように短絡時の温度上昇に関するシミュレーションを行って短絡時の温度上昇と時間との関係を算出したうえで、600℃を超えないようなオフ動作時間となるようにオフ動作制御を行う方法等が挙げられる。また、本発明の他の実施形態において、前記制御部は、前記スイッチング素子の異常状態を検出し、検出結果に基づいて、前記半導体が相転移しないように前記スイッチング素子のオフ動作を制御する。この場合、前記オフ動作の制御は、前記半導体の相転移温度を超えないようにオフ動作を制御することにより、前記半導体の相転移を抑制する。前記異常状態とは、短絡状態であってもよいし、前記スイッチング素子の温度が特定の温度(例えば相転移温度よりも30℃程度低い温度)以上である状態であってもよい。なお、前記オフ動作時間は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記酸化ガリウム系半導体は、後述するように短絡時の温度上昇時間が短い傾向にあるため、短絡状態を検出してオフ動作を行う場合、前記オフ動作時間は、通常、好ましくは、1.0μsec以下である。前記オフ動作時間は、より好ましくは0.5μsec以下であり、さらにより好ましくは0.4μsec以下であり、最も好ましくは、0.3μsec以下である。このような好ましいオフ動作時間とすることにより、前記スイッチング素子の特性の劣化を抑制しつつ回路の動作の自由度をより向上させることができる。
【0016】
図4に示すMOSFETに準じた構造について、半導体材料としてSiCを用いた場合とGaを用いた場合とで短絡時の温度上昇を比較するためのシミュレーションを行った。シミュレーションにおいて用いたSiCおよびGaの物性の数値は表1に示すとおりである。シミュレーション回路を図5に、ゲート電圧制御におけるゲート電圧の時間変化を図6にそれぞれ示す。シミュレーションの結果、Gaを用いた場合には、SiCを用いた場合よりも短絡からのオフ動作をより迅速に(少なくとも1.4μsec未満で)行う必要があることがわかった。酸化ガリウム系半導体において動作時(特に短絡時)にこのような高温状態となり得ること、特に、短絡時にこのような短時間で温度上昇が発生することは、本シミュレーションにて得られた新知見である。
【0017】
【表1】
【0018】
ドリフト層厚3.0μm、電流分散層深さ1.0μm、ディープp層深さ1.3μmとした場合のシミュレーション結果を図7に示す。図7は、電流分散層を適用した場合の短絡発生後(温度上昇開始時から)の経過時間と温度の関係を示している。図7から分かるように、Gaの場合には、短絡後から0.4μsec経過後に温度が600℃に到達することがわかる。スイッチング素子の温度が、例えば600℃を超える高温となると、前記半導体と電極との界面やMOS界面(スイッチング素子がMOSFETである場合)において不可逆的な劣化が生じる。より具体的には、前記半導体と電極との界面の劣化としては、例えば、電極金属のマイグレーションや酸化が挙げられる。そのため、特に、酸化ガリウム系半導体をスイッチング素子における電流分散層に用いた場合には、前記制御部が、短絡発生からオフ動作までの時間が0.4μsec以下となるようにオフ動作を制御するのが好ましい。なお、設定する具体的なオフ動作時間は、適用する回路やデバイス構造に応じてシミュレーションを行って算出してもよいし、実際の動作測定の結果等から算出してもよい。
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施態様にかかる電力変換回路についてより詳細に説明すする。なお、電力変換回路における短絡検出回路の態様については、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。上記したように、オフ動作時間を上記した時間内とすることができるものまたは酸化ガリウム系半導体の温度が600℃を超えないような範囲でオフ動作を行うことができるものであれば、以下に示す短絡検出回路以外の回路構成を用いてもよい。
【0020】
図1は、バッテリー(電源)501、昇圧コンバータ502、降圧コンバータ503、インバータ504、モータ(駆動対象)505、制御部506を有する制御システム500のブロック構成図である。これらは、例えば電気自動車に搭載される。バッテリー501は例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの蓄電池からなり、給電ステーションでの充電あるいは減速時の回生エネルギーなどにより電力を貯蔵するとともに、電気自動車の走行系や電装系の動作に必要となる直流電圧を出力することができる。昇圧コンバータ502は例えばチョッパ回路を搭載した電圧変換装置であり、バッテリー501から供給される例えば200Vの直流電圧を、チョッパ回路のスイッチング動作により例えば650Vに昇圧して、モータなどの走行系に出力することができる。降圧コンバータ503も同様にチョッパ回路を搭載した電圧変換装置であるが、バッテリー501から供給される例えば200Vの直流電圧を、例えば12V程度に降圧することで、パワーウインドーやパワーステアリング、あるいは車載の電気機器などを含む電装系に出力することができる。
【0021】
インバータ504は、昇圧コンバータ502から供給される直流電圧をスイッチング動作により三相の交流電圧に変換してモータ505に出力する。モータ505は電気自動車の走行系を構成する三相交流モータであり、インバータ504から出力される三相の交流電圧によって回転駆動され、その回転駆動力を図示しないトランスミッション等を介して電気自動車の車輪に伝達する。
【0022】
一方、図示しない各種センサを用いて、走行中の電気自動車から車輪の回転数やトルク、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル量)などの実測値が計測され、これらの計測信号が制御部506に入力される。また同時に、インバータ504の出力電圧値も制御部506に入力される。制御部506はCPU(Central Processing Unit)などの演算部やメモリなどのデータ保存部を備えたコントローラの機能を有するもので、入力された計測信号を用いて制御信号を生成してインバータ504にフィードバック信号として出力することで、スイッチング素子によるスイッチング動作を制御する。これによって、インバータ504がモータ505に与える交流電圧が瞬時に補正されることで、電気自動車の運転制御を正確に実行させることができ、電気自動車の安全・快適な動作が実現する。なお、制御部506からのフィードバック信号を昇圧コンバータ502に与えることで、インバータ504への出力電圧を制御することも可能である。本発明の実施態様においては、前記制御部506が、短絡検出回路を有し、より迅速にオフ動作を行うことができるので、好ましい。
【0023】
図2は、図1における降圧コンバータ503を除いた回路構成、すなわちモータ505を駆動するための構成のみを示した回路構成である。本発明の実施態様にかかるコランダム構造酸化ガリウム系半導体は、例えば図2のスイッチング素子509に用いられる。図2のスイッチング素子509はIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)であるが、本発明の実施態様においては、前記スイッチング素子はMOSFETであってもよい。なお、図2の回路では、バッテリー501の出力にインダクタ(コイルなど)を介在させることで電流の安定化を図り、またバッテリー501、昇圧コンバータ502、インバータ504のそれぞれの間にキャパシタ(電解コンデンサなど)を介在させることで電圧の安定化を図っている。
【0024】
また、図2中に点線で示すように、駆動制御部506内には制御回路507と短絡検出回路508とが含まれている。制御回路内には、図示しないが、演算部と不揮発性メモリからなる記憶部が設けられている。制御回路に入力された信号は演算部に与えられ、必要な演算を行うことでフィードバック信号を生成する。また、記憶部は、演算部による演算結果を一時的に保持したり、駆動制御に必要な物理定数や関数などをテーブルの形で蓄積して演算部に適宜出力する。演算部や記憶部は公知の構成を採用することができ、その処理能力等も任意に選定できる。
【0025】
図3は、図2におけるインバータ駆動装置としてのインバータ部分とその制御部とを、模式的に説明するための図である。図3のインバータ駆動装置は、スイッチング素子102、フリーホイールダイオード103および制御部104が設けられており、さらに、シャント抵抗Rshunt、ノイズフィルタ105、過電流検出回路106、ダイオードD1が設けられている。制御部104は、駆動回路107、コンパレータ108、フィルタ回路109およびSRラッチ回路110を有する。図3においては、スイッチング素子102、フリーホイールダイオード103、制御部104とが半導体モジュール101の内部に設けられた例を示しているが、本発明の実施態様はこのような構成に限定されるものではない。
【0026】
駆動回路107は、外部から端子111を介して入力された入力電圧Vinに応じてスイッチング素子102を駆動する。スイッチング素子102としてMOSFETを用いている。フリーホイールダイオード103はスイッチング素子102のオフ時に電流を還流する。
【0027】
スイッチング素子102のソースSとGNDとの間にシャント抵抗Rshuntが接続されている。シャント抵抗Rshuntは、スイッチング素子102に流れる電流に応じた電圧信号Veを発生させる電流検出部である。なお、電流検出部として、シャント抵抗Rshuntの代わりに、ホール素子又はカレントトランスなどの他の電流検出手段を用いてもよい。また、電流センス素子を備えたスイッチング素子102の場合は、センス電流を電流検出用抵抗に流して電流を検出してもよい。
【0028】
ノイズフィルタ105は、抵抗R1とコンデンサC1を有するRCフィルタである。ノイズフィルタ105は、電圧信号Veに重畳されたノイズを除去する。
【0029】
過電流検出回路106は、コンパレータ112とダイオードD2を有する。コンパレータ112の+端子にノイズフィルタ105の出力電圧Vocが入力される。コンパレータ112の-端子に第1のしきい値Vref1が入力される。コンパレータ112からダイオードD2を介して出力される電圧が過電流検出信号である。すなわち、過電流検出回路106は、ノイズフィルタ105から入力した電圧信号Vocが第1のしきい値Vref1を超えると、過電流が発生したと判定して過電流検出信号を出力する。
【0030】
短絡検出回路113は、コンパレータ108、フィルタ回路109及びSRラッチ回路110を有する。電圧信号VeがダイオードD1及び端子114を介してコンパレータ108の+端子に入力される。過電流検出信号も端子114を介してコンパレータ108の+端子に入力される。コンパレータ108の-端子に第2のしきい値Vref2が入力される。第2のしきい値Vref2は、第1のしきい値Vref1よりも高い値に設定されている。また、過電流が検出された場合には過電流検出回路106から出力される過電流検出信号の電圧値は第2のしきい値Vref2よりも大きい。コンパレータ108の出力電圧Aはフィルタ回路109に入力される。フィルタ回路109の出力電圧BはSRラッチ回路110のS端子に入力され、Q端子からエラー信号をFoが出力される。従って、短絡検出回路113は、過電流検出回路106から過電流検出信号を入力するか、又は、ノイズフィルタ105を介さずに入力した電圧信号Veが第2のしきい値Vref2を超えるとエラー信号Foを出力する。なお、過電流検出信号をコンパレータ108を介さずにフィルタ回路109又はSRラッチ回路110に直接的に入力することもできる。その場合、過電流検出信号を半導体モジュール101の外部から内部に入力するための端子を追加する必要がある。
【0031】
エラー信号Foは、SRラッチ回路のR端子及び駆動回路107に入力され、端子115を介して半導体モジュール101の外部に出力される。従って、インバータ駆動装置は、過電流又は短絡を判定するとエラー信号Foを半導体モジュール101の外部に出力する。また、駆動回路107は、エラー信号Foを入力すると、スイッチング素子102のゲート信号Vgを遮断し、スイッチング素子102の駆動を停止する。
【0032】
図8は、本発明の実施形態にかかるインバータ駆動装置の短絡動作時のシーケンスを示す図である。インバータ駆動装置の異常動作などによりスイッチング素子102に大電流が流れた場合でも、通常動作時と同様に電流が流れた直後に電圧信号Veにノイズが発生する。その後、電流波形に追従するように電圧信号Veが増加する。ノイズフィルタ105の応答性が低いため、電圧信号Vocが第1のしきい値Vref1に到達する時間が遅れる。一方、短絡検出回路113はノイズフィルタ105を介さずに入力した電気信号Veに基づいて短絡を検出するため、過電流検出回路106に比べ応答性が優れており、迅速に短絡を検出することができる。なお、図中の短絡遮断時間は、短絡が発生してから短絡を検出してスイッチング素子102のゲート信号Vgを遮断するまでの時間である。
【0033】
なお、上述した実施形態では、スイッチング素子としてMOSFETを用いた例を用いたが、MOSFETの代わりにIGBTを用いてもよい。また、特定のオフ動作時間(例えば0.4μsec)実現するための検出回路等の構成も、上述した実施形態に限定されない。本発明の実施態様においては、例えば、特開2021-57976に記載された駆動回路を用いるのも好ましい。また、上述した実施形態では、短絡状態を検出し、検出結果に基づいてスイッチング素子を高速でオフ動作制御する例を示したが、本発明はこのような例に限定されない。例えば、前記スイッチング素子の温度が特定の温度以上である状態を異常状態として検出し、検出結果に基づいて前記スイッチング素子をオフ動作するものであってもよい。この場合の前記スイッチング素子の温度の検出は、公知の構成を用いて行われてよい。例えば、公知の温度検出部(温度センサ等)を用いて前記スイッチング素子の温度を検出し、検出結果に基づき、公知の制御部を用いてオフ動作が制御される。
【0034】
また、前記電力変換回路の種類も、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、交流-交流変換回路であってもよいし、直流-交流変換回路であってもよいし、直流-直流変換回路であってもよい。
【0035】
なお、本発明に係る複数の実施形態を組み合わせたり、一部の構成要素を他の実施形態に適用したりすることももちろん可能であり、また、一部の構成要素の数を増減させたり、さらに別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の目的を阻害しない限り、一部を省略する等、変更して構成することも可能であり、そのようなものも本発明の実施形態に属する。
【0036】
本発明の実施態様にかかる電力変換回路および制御システムは、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、照明機器、電源装置、車載用電装機器、産業用パワコン、産業用モータ、インフラ機器(例えばビルや工場等の電力設備、通信設備、交通管制機器、上下水処理設備、システム機器、省力機器、電車など)、家電機器(例えば、冷蔵庫、洗濯機、パソコン、LED照明機器、映像機器、音響機器など)などあらゆる分野に用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 n+型半導体層
2 n-型半導体層(ドリフト層)
3 ゲート電極
3a 埋設下端部
6 p+型半導体層(ディープp層)
7 p-型半導体層(チャネル層)
8 電流分散層
11 n+型半導体層
13 ゲート絶縁膜
16 p+型半導体層
24 ソース電極
26 ドレイン電極
101 半導体モジュール
102 スイッチング素子
103 フリーホイールダイオード
104 制御部
105 ノイズフィルタ
106 過電流検出回路
107 駆動回路
108 コンパレータ
109 フィルタ回路
110 SRラッチ回路
111 端子
112 コンパレータ
113 短絡検出回路
114 端子
115 端子
500 制御システム
501 バッテリー(電源)
502 昇圧コンバータ
503 降圧コンバータ
504 インバータ
505 モータ(駆動対象)
506 制御部
507 駆動回路
508 短絡検出回路
509 スイッチング素子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8