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特開2024-42617水分解光触媒に用いられる半導体粒子とそれを用いた光触媒並びにそれらの合成方法
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  • 特開-水分解光触媒に用いられる半導体粒子とそれを用いた光触媒並びにそれらの合成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042617
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】水分解光触媒に用いられる半導体粒子とそれを用いた光触媒並びにそれらの合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20240321BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240321BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240321BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20240321BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J35/02 J
C01B3/04 A
C01B13/02 B
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147464
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
(72)【発明者】
【氏名】池田 茂
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
【Fターム(参考)】
4G042BA08
4G042BB04
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB08C
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC16B
4G169BC39A
4G169BC39B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BD12C
4G169CC33
4G169FB04
4G169FB30
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC29
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】 光による水分解反応に於いて、できるだけ安定的に高い量子効率を達成する光触媒であって、大量合成と実用化に適した光触媒を提供できるようにする。
【解決手段】 チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子に助触媒が付加されて成り、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒に於いて、半導体粒子にバリウム又は更にスカンジウムがドープされる。その光触媒のための半導体の合成方法は、塩化ストロンチウム内にてチタン酸バリウム又は更に酸化スカンジウムを混合した物又は塩化ストロンチウムと塩化バリウム内にてチタン酸ストロンチウム又は更に酸化スカンジウムを混合した物を焼成することによりバリウムがドープされたチタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子を合成する工程を含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
助触媒が付加されて、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒として用いられるチタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子であって、チタン酸ストロンチウムにバリウムがドープされている半導体粒子。
【請求項2】
請求項1の半導体粒子であって、チタン酸ストロンチウムに更にスカンジウムがドープされている半導体粒子。
【請求項3】
請求項2の半導体粒子であって、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、バリウムが0.04~5重量部であり、スカンジウムが0.1~1重両部である半導体粒子。
【請求項4】
請求項3の半導体粒子であって、バリウムが0.1~2重量部である半導体粒子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの半導体粒子であって、アルミニウムを実質的に含有しない半導体粒子。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかの半導体粒子であって、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、アルミニウムの含有量が1重量部以下である半導体粒子。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかの半導体粒子に助触媒が付加されて成る光触媒であって、前記助触媒が酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)である光触媒。
【請求項8】
請求項7の光触媒であって、前記助触媒が水中に分散された前記半導体粒子の表面に光電着により付加された光触媒。
【請求項9】
請求項5の半導体粒子に助触媒が付加されて成る光触媒であって、前記助触媒が酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)である光触媒。
【請求項10】
請求項6の半導体粒子に助触媒が付加されて成る光触媒であって、前記助触媒が酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)である光触媒。
【請求項11】
チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子に助触媒が付加されて成り、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒の前記半導体粒子の合成方法であって、
塩化ストロンチウム(SrCl)内にてチタン酸バリウム(BaTiO)を混合して焼成することによりバリウムがドープされたチタン酸ストロンチウムを含む前記半導体粒子を合成する工程
を含む方法。
【請求項12】
請求項11の方法であって、前記半導体粒子を合成する工程に於いて、前記塩化ストロンチウム内に更に酸化スカンジウム(Sc)を混合して焼成することにより前記半導体粒子にバリウムとスカンジウムとがドープされる方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、前記半導体粒子を合成する工程に於いて、100モル部のチタン酸バリウムに対して、500~2000モル部の塩化ストロンチウムと0.1~5モル部の酸化スカンジウムとが混合されて焼成されて前記半導体粒子を合成する方法。
【請求項14】
チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子に助触媒が付加されて成り、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒の前記半導体粒子の合成方法であって、
塩化ストロンチウム(SrCl)と塩化バリウム(BaCl)との混合物内にてチタン酸ストロンチウム(SrTiO)と酸化スカンジウム(Sc)とを混合して焼成することによりバリウムとスカンジウムとがドープされたチタン酸ストロンチウムを含む前記半導体粒子を合成する工程
を含む方法。
【請求項15】
請求項14の方法であって、前記半導体粒子を合成する工程に於いて、塩化ストロンチウムと塩化バリウムとの前記混合物内にて更に酸化アルミニウム(Al)を混合して焼成することにより前記半導体粒子にアルミニウムが更にドープされる方法。
【請求項16】
請求項14の方法であって、前記半導体粒子を合成する工程に於いて、100モル部のチタン酸ストロンチウムに対して、1000モル部の塩化ストロンチウムと塩化バリウムとの混合物にして、塩化ストロンチウムと塩化バリウムとのモル比が1:9~9:1である混合物と、0.1~5モル部の酸化スカンジウム(Sc)と、0~5モル部の酸化アルミニウムとが混合されて焼成されて前記半導体粒子を合成する方法。
【請求項17】
請求項11乃至16のいずれかの方法であって、前記半導体粒子の合成工程に於いて、焼成温度が1000℃~1200℃であり、焼成時間が10~30時間である方法。
【請求項18】
請求項11乃至16の方法により合成された半導体粒子を用いて、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒を合成する方法であって、
水中に分散された前記半導体粒子の表面に前記助触媒を付加する工程
を含む方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、前記助触媒が酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)である方法。
【請求項20】
請求項19の方法であって、前記助触媒の付加工程に於いて、前記助触媒が水中にて分散された前記半導体粒子の表面に光電着により付加される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を水素と酸素に分解する水分解反応を惹起する光触媒に用いられる半導体粒子、それを用いて調製された光触媒及びそれらの合成方法に係る。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、燃焼しても二酸化炭素を生じないクリーンな次世代の燃料としての利用が期待されている。水素ガスは、光触媒を用いた光エネルギーによる水の分解反応により生成できるので、光による水の分解反応を効率的に惹起することのできる光触媒の開発が進められている。そのような高効率の光触媒の例として、非特許文献1に於いて、水の分解反応の量子効率が略1となる光触媒とその合成方法が報告された。その非特許文献1によれば、端的に述べれば、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)にアルミニウム(Al)をドープして成る半導体(SrTiO:Al)の粒子の結晶面にRh(ロジウム)、Cr(クロム)、Co(コバルト)の酸化物等が付着されて構成された光触媒が、350~360nmの波長の光の照射による水分解に於いて、96%の(外部)量子効率を呈することが示された((外部)量子効率は、還元水素原子数(=発生した水素分子数×2)を照射光子数で除した値で与えられる。以下、本明細書に於いて、「量子効率」という場合は、(外部)量子効率である。)。かかる高い量子効率が得られた理由としては、上記の光触媒の構造に於いて、Rh/CrとCoOOHがそれぞれSrTiO:Al粒子の異なる結晶面に付着され、これにより、光により生じた電荷の粒子表面に向かう移送が、それと逆向きの電荷の移送を生ずることなく達成させることによると考察されている。また、特許文献1に於いては、チタン酸ストロンチウムなどを光触媒として用いて水素を製造する水素製造装置が開示されている。なお、特許文献2に於いて、光触媒ではなく、硫黄を含有する燃料と水蒸気とを反応させて水素を製造する触媒として、Fe及び/又はBaを担持したチタン酸ストロンチウム粒子が用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-63186
【特許文献2】特開2013-212477
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Takata,他8名 ネイチャー(Nature),volume 581,411-414頁 2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の非特許文献1に於いては、96%の量子効率を達成するSrTiO:Alの半導体粒子は、SrTiO、Al及びSrClの粉末を、メノウ乳鉢内で粉砕混合し、かかる混合物(原料混合物)をアルミナるつぼ内で、1150℃で10時間に亙ってSrClが溶解した状態にて焼成することによって調製されたと報告されている。しかしながら、本発明の発明者等による再現実験によれば、実際に、非特許文献1に記載されている通りに上記の原料混合物を1150℃で10時間に亙って焼成して得た粒子から調製した光触媒を用いた水分解反応では、量子効率は、8~28%(試行回数37回に於いて、平均値16%、標準偏差3.56%)にしか到達しなかった。また、上記の原料混合物からSrTiO:Al粒子を焼成する際の焼成温度と焼成時間を種々変化させて得られた光触媒の(外部)量子効率を調査したところ、下記の表1の如く、焼成温度と焼成時間に対する(外部)量子効率の平均値の変動が大きく、且つ、高い効率を与える焼成温度・時間の条件の範囲の幅が狭いことが確認された。例えば、表1を参照して、焼成時の設定温度が20数℃ほど異なるだけで、得られた半導体粒子を用いた光触媒の量子効率が大幅に変化する場合があることが確認される(焼成時間が10hのとき、焼成温度1150℃→1175℃で、量子効率に30%ほどの差が生じた。)。このことは、半導体粒子を上記の非特許文献1の組成にて調製する場合に、高い量子効率の光触媒が得られるか否かが、焼成時に原料混合物が曝される温度の影響を受け易いことを示唆している。実際、上記の混合物からSrTiO:Al粒子を焼成する際、焼成炉内は、温度分布が均一になるように循環ファンにて空気が循環されるが、るつぼ内では殆ど対流が起きずに、温度にムラができてしまっている可能性があり、これにより、光触媒の量子効率の低下とばらつきが生じることなどが考えられる。いずれにせよ、このような、半導体粒子の焼成時の焼成温度や焼成時間に対する光触媒の量子効率の低下若しくは変動は、光触媒の大量合成と実用化に於いて好ましくない。
【表1】
【0006】
そこで、本発明の発明者等が大量合成と実用化に適した光触媒の開発研究を行ったところ、チタン酸ストロンチウムを主成分とし、バリウムを更に含む半導体粒子を用いると、光による水分解反応に於いて安定的に高い量子効率を達成する光触媒を調製できることが見出された。具体的には、チタン酸ストロンチウムを主成分としバリウムを更に含む半導体粒子を用いた場合、条件を調整することで、量子効率が安定的に70%以上、好適には、80~90%に達する光触媒が得ることが可能であることが示された。また、チタン酸ストロンチウムにスカンジウムがドープされる場合には、アルミニウムをドープしなくても、高い量子効率を与える光触媒得られることも示された。本発明に於いては、この知見が利用される。
【0007】
かくして、本発明の主な課題は、光による水分解反応に於いて、できるだけ安定的に高い量子効率を達成する光触媒であって、大量合成と実用化に適した光触媒を提供できるようにすることである。
【0008】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如き光触媒を与える半導体粒子及びそれを用いた光触媒とそれらを合成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様によれば、上記の課題は、助触媒が付加されて、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒として用いられるチタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子であって、チタン酸ストロンチウムにバリウムがドープされている半導体粒子によって達成される。
【0010】
上記の構成に於いて、「光触媒」は、上記の如く、光を照射されると、水の分解反応を惹起して、水を還元して酸素分子(酸素ガス)と水素分子(水素ガス)を発生することのできる物質である。かかる「光触媒」は、基本的には、上記の非特許文献1に記載されている光触媒と同様に、チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子に助触媒が付加されて成る物質であるところ、本発明に於いては、チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子が、バリウムがドープされたものとされる。半導体粒子を水分解反応のための光触媒として利用する際に半導体粒子に付加される助触媒とその付加方法については、非特許文献1又はその他の従来の技術の場合と同様であってよい。なお、上記の半導体粒子に於いては、更に、チタン酸ストロンチウムに更にスカンジウムがドープされていることが好ましい。上記の通りに、チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子が、バリウム又は更にスカンジウムがドープされたものである場合、後述の実施形態の欄に於いて説明されるように、光触媒にバリウムもスカンジウムもドープされていない半導体粒子を用いた場合に比して、光触媒の量子効率を、より安定的に高いものとすることが可能となる。
【0011】
上記の本発明に於ける光触媒の半導体粒子の成分に関して、より詳細には、半導体粒子に於いて、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、バリウムが0.04~5重量部であり、スカンジウムが0.1~1重両部であってよく、この場合に、量子効率が約70%を上回る光触媒が得られることが見出されている。また、より好ましくは、上記の半導体粒子に於いて、バリウムが0.1~2重量部であってよく、この場合には、量子効率が80~90%に達する光触媒が安定的に得られることが見出されている。なお、半導体粒子の成分の割合は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)により検出した。
【0012】
上記の本発明による半導体粒子に於いて、アルミニウムは、積極的に含有されなくてよく、含有されていてもよい。半導体粒子に於けるアルミニウムの含有量は、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、1重量部以下であってよい。
【0013】
本発明に於ける光触媒の半導体粒子の合成は、以下の二通りの方法により達成されてよい。
【0014】
半導体粒子の第一の合成方法に於いては、本発明による半導体粒子は、塩化ストロンチウム(SrCl)内にてチタン酸バリウム(BaTiO)を混合して焼成することにより、バリウムがドープされたチタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子を合成する工程を含む方法により合成されてよい。この場合、より好ましくは、塩化ストロンチウム内に更に酸化スカンジウム(Sc)を混合して焼成することにより半導体粒子にバリウムとスカンジウムとがドープされてよく、これにより、光触媒の量子効率を、より安定的に高いものとすることが可能となる。更に酸化アルミニウム(Al)を混合して焼成することにより半導体粒子にアルミニウムが更にドープされてもよい。ただし、アルミニウムは、必須ではない。実施の態様に於いて、半導体粒子を合成する工程に於いて、100モル部のチタン酸バリウムに対して、500~2000モル部の塩化ストロンチウムと0.1~5モル部の酸化スカンジウムと、0~5モル部の酸化アルミニウムとが混合され、焼成され、半導体粒子が合成されてよい。
【0015】
半導体粒子の第二の合成方法に於いては、本発明による半導体粒子は、塩化ストロンチウム(SrCl)と塩化バリウム(BaCl)との混合物内にてチタン酸ストロンチウム(SrTiO)と酸化スカンジウム(Sc)とを混合して焼成することによりバリウムとスカンジウムとがドープされたチタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子を合成する工程を含む方法により合成されてよい。この場合、塩化ストロンチウムと塩化バリウムとの混合物内にて更に酸化アルミニウム(Al)を混合して焼成することにより半導体粒子にアルミニウムが更にドープされてもよい。なお、アルミニウムは、必須ではない。実施の態様に於いて、半導体粒子を合成する工程に於いて、100モル部のチタン酸ストロンチウムに対して、1000モル部の塩化ストロンチウムと塩化バリウムとの混合物にして、塩化ストロンチウムと塩化バリウムとのモル比が1:9~9:1である混合物と、0.1~5モル部の酸化スカンジウム(Sc)と、0~5モル部の酸化アルミニウムとが混合されて焼成されて、半導体粒子が合成されてよい。
【0016】
上記の本発明の光触媒のための半導体粒子の合成工程に於ける焼成に於いては、第一の方法の場合には、塩化ストロンチウムが融解して液体となり、その液体内にて、チタン酸ストロンチウムの内部へバリウム原子又は更にスカンジウム原子若しくは更にアルミニウム原子が進入し、ドープされた状態となり、Ba-SrTiO、Ba-Sc-SrTiO又はAl-Ba-Sc-SrTiOの粒子が形成される。また、第二の方法の場合には、塩化ストロンチウムと塩化バリウムとの混合物が融解して液体となり、その液体内にて、チタン酸ストロンチウムの内部へバリウム原子、スカンジウム原子又は更にアルミニウム原子が進入し、ドープされた状態となり、Ba-Sc-SrTiO又はAl-Ba-Sc-SrTiOの粒子が形成される。従って、焼成工程に於いては、上記の如き半導体粒子が形成されるように、適宜、焼成温度と時間の条件が設定されてよい。具体的には、かかる合成に於ける焼成時の条件としては、実験によれば、焼成温度が1000℃~1200℃であり、焼成時間が10~30時間であってよいが、これに限定されない。
【0017】
上記の本発明の教示に従って得られた半導体粒子に光触媒能を付与する際には、既に述べた如く、従前と同様に、適宜選択された助触媒が付加されてよい。かかる助触媒の付加は、任意の手法にて、水中に分散された前記半導体粒子の表面に助触媒を付加する工程を実行することにより達成可能である。半導体粒子に付加される助触媒としては、具体的には、非特許文献1の場合と同様に、酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)であってよく、それらの助触媒は、水中にて分散された半導体粒子の表面に光電着(photodepositing:光析出とも訳される。)により好適に付加することが可能である。光電着による場合、例えば、Rh、Cr、Coは、半導体粒子の量に対して、それぞれ、0.1wt%、0.05wt%、0.05wt%程度であってよいが、これに限定されない。
【発明の効果】
【0018】
かくして、上記の本発明によれば、チタン酸ストロンチウムを含む半導体粒子に助触媒が付加されて成り、光照射により水分子が酸素分子と水素分子とに分解する水分解反応を惹起する光触媒に於ける半導体粒子として、チタン酸ストロンチウムに対してバリウム又は更にスカンジウムをドープしたものを用いることにより、従前よりも、水分解反応の量子効率の値がより高く、ばらつきが小さい光触媒が再現性よく合成できることとなる。本発明の方法及び半導体粒子によれば、光触媒の量子効率に関わる特性がより安定なものとなるので、本発明の方法及び半導体粒子は、水素ガスの製造のための光触媒の大量合成と実用化に、より適した方法及び半導体粒子であるということができる。
【0019】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明による半導体粒子及びそれを用いた光触媒の合成方法の工程を説明する模式図である。
図2図2(A)は、本発明の方法に従って合成された半導体粒子を用いた光触媒により得られた量子効率であって、チタン酸ストロンチウムに対するバリウムの含有量が変更された場合の値を示している。図2(B)は、本発明の方法に従って合成された半導体粒子を用いた光触媒により得られた量子効率であって、バリウムとアルミニウムの存在下で、チタン酸ストロンチウムに対するスカンジウムの含有量を変更した場合の値を示している。
図3図3(A)は、本発明の方法に従って合成された半導体粒子を用いた光触媒により得られた量子効率であって、半導体粒子の合成に於ける焼成時の温度を変更した場合の値を示している。図3(B)は、本発明の方法に従って合成された半導体粒子を用いた光触媒により得られた量子効率であって、半導体粒子の合成に於ける焼成時の時間を変更した場合の値を示している。棒グラフ内に付されている数字は、その条件に於ける実験回数を示している。
【符号の説明】
【0021】
M…メノウ乳鉢
C…アルミナ製るつぼ
H…焼成炉
V…ガラス容器
W…水溶液
L…照射光
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
水分解反応光触媒のための半導体粒子と光触媒の合成方法
本実施形態による水分解反応光触媒のための半導体粒子は、塩化ストロンチウム(SrCl)中にチタン酸バリウム(BaTiO)又は更に酸化スカンジウム(Sc)、酸化アルミニウム(Al)を混合した原料混合物(第一の合成方法に於ける原料混合物)、或いは、塩化ストロンチウム(SrCl)と塩化バリウム(BaCl)との混合物中にチタン酸ストロンチウム(SrTiO)又は更に酸化スカンジウム(Sc)、酸化アルミニウム(Al)を混合した原料混合物(第二の合成方法に於ける原料混合物)を、SrClとBaClが融解して液体化する温度(ただし、BaTiO、SrTiO、Sc、Alは融解しない温度)に加熱して、SrTiOにバリウム原子(Ba)、又は更にスカンジウム原子(Sc)若しくは更にアルミニウム原子(Al)がドープされてSrTiOが半導体化された状態のものとして合成される(フラックス法)。そして、光触媒は、フラックス法にて得られた半導体粒子に対して、例えば、光電着法(photodepositing:光析出法とも称される。)により、助触媒となる物質を付加することにより合成される。
【0023】
より詳細には、図1を参照して、本実施形態に於いては、半導体粒子は、開始材料が異なる二通りの合成方法により調製される。第一の合成方法に於いては、多量のSrCl粉末にBaTiO粉末と、又は更にSc粉末、Al粉末とが混合される。各粉末の好ましい割合は、以下の如くである。
100モル部のBaTiOに対して、
SrCl:500~2000モル部
Sc:0.1~5モル部
Al:0~5モル部(Alは、含まれていなくてもよい。)
また、第二の合成方法に於いては、多量のSrCl粉末とBaCl粉末との混合物にSrTiO粉末と、又は更にSc粉末、Al粉末とが混合される。各粉末の好ましい割合は、以下の如くである。
100モル部のSrTiOに対して、
SrCl+BaCl:1000モル部
(SrClとBaClのモル比は、1:9~9:1)
Sc:0.1~5モル部
Al:0~5モル部(Alは、含まれていなくてもよい。)
上記の粉末の混合は、例えば、メノウ乳鉢(M)内にて粉砕(grinding)することにより為されてよい(30分程度)。
【0024】
しかる後、上記の粉末の原料混合物は、焼成用のるつぼ、例えば、アルミナ製のるつぼ(C)に移され、焼成炉(H)にて焼成される(図1(B))。この工程に於いて、焼成温度は、上記の如く、SrClが融解して液体化する温度(874℃以上)又はSrClとBaClが融解して液体化する温度(962℃以上)であって、BaTiO、SrTiO、Sc、Alは融解しない温度(1625℃以下)であってよく、後述の如く、本発明の発明者等による実験によれば、焼成温度は、例えば、1000~1200℃程度であってよく、好適には、1100~1200℃であってよい。また、原料混合物を上記温度に曝す焼成時間は、SrTiOにBa又は更にSc若しくは更にAlがドープされ、SrTiOが半導体化された状態となるのに十分な時間であり、本発明の発明者等による実験によれば、後述の如く、焼成時間は、10~30時間であってよく、好適には、30時間程度であってよい。
【0025】
上記の焼成工程の後、焼成物が常温まで冷却すると、るつぼ(C)に水(蒸留水でよい。)が加えられ、超音波攪拌機などにより超音波をかけて攪拌しつつ、るつぼ内の焼成物を粒子として水中に分散し、更に、吸引ろ過などにより、焼成物が回収されてよい。かかる粒子状の焼成物が本実施形態による光触媒のための半導体粒子P(Ba-SrTiO、Ba-Sc-SrTiO又はAl-Ba-Sc-SrTiO、Al-Ba-SrTiO、)である。そして、回収された半導体粒子Pは、水にて洗浄されてよい。かかる洗浄は、洗浄水のpHが7となり、洗浄水に塩素が含まれなくなるまで実行されてよい。かくして、半導体粒子は、洗浄後、乾燥されてよい。
【0026】
上記の半導体粒子を光触媒として機能させるためには、半導体粒子の結晶面に於いて助触媒が付加される。かかる助触媒は、光による水分解反応に於いて、半導体粒子にて光の照射により生じた電荷(電子と正孔)の半導体粒子の表面まで移動してきた後に、それらの電荷が再び半導体粒子内部へ逆行することを防止するものと考えられている。本実施形態に於いて、助触媒は、任意の手法に半導体粒子に付加されてよく、典型的には、既に触れた如く、非特許文献1の場合と同様に、光電着法によって、水中に分散された半導体粒子の結晶面に助触媒を析出させることにより、助触媒が半導体粒子に付加されてよい。具体的には、まず、半導体粒子がガラス容器などの透明な容器内にて水中に分散される(図1(C))。なお、半導体粒子が一様に分散されるように、半導体粒子の分散された水(半導体粒子分散液)に対して超音波が印加されてよい。しかる後、助触媒の原料となる塩類が添加され、光Lが照射されて、半導体粒子Pの表面に助触媒となる金属酸化物を析出させる処理が実行される(図1(D))。
【0027】
より詳細には、半導体粒子Pの表面に付加する助触媒として、非特許文献1の場合と同様に、酸化ロジウム-クロム(Rh/Cr)と水酸化酸化コバルト(CoOOH)を用いる場合、以下の如く、工程が実行されてよい。即ち、まず、塩化ロジウム(RhCl)水溶液が、半導体粒子分散液へ、半導体粒子の量に対して、ロジウム(Rh)が0.1wt%となるように加えられ、半導体粒子分散液にキセノンランプ(300W,20mA)の光が大気圧下で10分間照射される。次に、クロム酸カリウム(KCrO)水溶液が、半導体粒子分散液へ、半導体粒子の量に対して、クロム(Cr)が0.05wt%となるように加えられ、キセノンランプ(300W,20mA)の光が大気圧下で5分間照射される。そして、硝酸コバルト(Co(NO)水溶液が、半導体粒子分散液へ、半導体粒子の量に対して、コバルト(Co)が0.05wt%となるように加えられ、キセノンランプ(300W,20mA)の光が大気圧下で5分間照射される。そうすると、図1(D)に模式的に描かれている如く、半導体粒子Pの表面に、Rh-Cr酸化物とCo水酸化酸化物とが付着され、かくして、調製された合成物が、光による水分解反応を惹起する光触媒として機能することとなる。なお、光電着法による半導体粒子の表面への助触媒の付加工程に於いて、半導体粒子分散液に加えられる助触媒のための塩類の濃度は、適宜調節されてよい。本発明者による実験によれば、例えば、助触媒のための塩類の濃度を上記の4倍にすると、量子効率が大幅に低下することが見出されているので、かかる塩類濃度は、過剰にならないように調節されることが好ましい。また、半導体粒子の表面への助触媒の付加は、光電着法の他、含浸法(分散液に塩類を添加して熱を加える。)によっても為されてもよい。
【0028】
上記の本実施形態による合成方法により調製された半導体粒子の性能は、助触媒が付加されて光触媒能が付与された状態で、光による水分解反応に於ける量子効率[水素分子×2/照射光子数]を測定して評価される。かかる半導体粒子の性能に関して、後述の実験例から理解される如く、半導体粒子の組成(ICP-MSにより検出)に於いて、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、バリウムの含有量が0.1~2重量部である場合に約70%又はそれ以上となる量子効率が安定的に与えられる(0.1重量部のスカンジウムの含有時)。また、半導体粒子の組成に於いて、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、0.7~0.8重量部のバリウムの存在時には、スカンジウムの含有量が0.1~1重量部であるときには、70%を超える量子効率が得られる(スカンジウムがない場合には、量子効率は、30%程度である。)。なお、アルミニウムの有無は、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対してアルミニウムが1重量部を下回る条件に於いて、量子効率に有意な差は認められなかった。また、開始材料が第一の合成方法である場合と、第二の合成方法である場合との間で、量子効率に有意な差は認められなかった。従って、本実施形態によれば、チタン酸ストロンチウムに対してバリウム、又は更に、スカンジウムがドープされた状態の半導体粒子を合成し、それを用いて光触媒を調製することにより、安定的に且つより高い量子効率を与える半導体粒子及び光触媒が提供できることとなる。
【0029】
実験例
上記の本実施形態の教示に従って、チタン酸ストロンチウムにバリウム又は更にスカンジウム、アルミニウムをドープした半導体粒子とそれを用いた光触媒を合成し、光触媒の量子効率を測定し、本実施形態の有効性を検証した。なお、以下の実験例は、本実施形態の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【0030】
半導体粒子の合成は、上記の工程に従って行った。具体的には、まず、上記の第一の合成方法に於いては、SrCl粉末、BaTiO粉末、Sc粉末及びAl粉末を種々の割合にて、第二の合成方法に於いては、SrCl粉末、BaCl粉末、SrTiO粉末、Sc粉末及びAl粉末を種々の割合にて、メノウ乳鉢にて、30分間に亙り粉砕混合した。粉末の混合物は、アルミナ製のるつぼに移した後、焼成炉にて、焼成温度と焼成時間とを種々設定して焼成した。なお、焼成工程に於いて、室温から焼成温度までの昇温は2時間にて行い、焼成時間の経過後、6時間をかけて室温まで放冷した。放冷後、焼成物の入ったるつぼ内へ蒸留水を加え、超音波攪拌機で超音波を印加して攪拌し、るつぼ内の焼成物(るつぼ内壁に付着したものも分散された。)を粒子状にして水中に分散し、吸引ろ過により、回収した。その後、回収した粒子状の焼成物を蒸留水により洗浄した。洗浄に於いては、洗浄後の水のpHをpH試験紙を用いて確認するとともに、洗浄後の水中の塩素の有無を、洗浄後の水に0.1M硝酸銀を加えて塩化銀が発生するか否かで確認し、洗浄後の水のpHが7となり、塩素が検出されなくなるまで、洗浄を行った。そして、洗浄後の粒子状の焼成物、即ち、半導体粒子は、70℃にて乾燥した。半導体粒子の組成は、ICP-MSにより検出した。
【0031】
上記の半導体粒子を用いた光触媒の調製に於いては、耐熱ガラス容器(400ml)に於いて、100mgの半導体粒子粉末を蒸留水100ml中に分散した。そして、まず、塩化ロジウム(RhCl)水溶液を、半導体粒子分散液に、半導体粒子の量に対して、ロジウム(Rh)が0.1wt%となるように加え、半導体粒子分散液をキセノンランプ(300W,20mA)の光にて大気圧下で10分間照射し、次に、クロム酸カリウム(KCrO)水溶液を、半導体粒子分散液に、半導体粒子の量に対して、クロム(Cr)が0.05wt%となるように加え、上記と同様に半導体粒子分散液をキセノンランプ(300W,20mA)の光にて大気圧下で5分間照射し、最後に、硝酸コバルト(Co(NO)水溶液を、半導体粒子分散液に、半導体粒子の量に対して、コバルト(Co)が0.05wt%となるように加え、上記と同様に半導体粒子分散液をキセノンランプ(300W,20mA)の光にて大気圧下で5分間照射した。なお、キセノンランプによる光の照射は、ガラス容器に石英盤の蓋をして行った。かくして、処理後の半導体粒子分散液を、そのまま、光触媒の分散された溶液(光触媒分散液)として、量子効率の測定に用いた。
【0032】
光触媒の量子効率の測定に於いては、先ず、光触媒分散液の入ったガラス容器を真空ポンプで脱気した後、アルゴンガスを充填することにより、ガラス容器内の空気をアルゴンガスに置換した。しかる後、ガラス容器にガラス配管を介してガスクロマトグラフに接続し、キセノンランプ(300W、20mA)の光を365nmのバンドパスフィルターを介して、ガラス容器内の光触媒分散液に照射し、水分解反応を惹起させて水素ガスを発生させた。水素ガスの発生量の検出に於いては、光照射を2時間実行する間にガラス配管に発生した水素ガスを溜めて、溜められたガスをガスクロマトグラフへ導入して、水素ガス量を検出した(測定は、20分おきに行った)。クロマトグラフに於ける水素ガス量の検出に於いては、事前に水素ガスのモル数が既知の標準ガスを用いて、水素モル数と水素ガスに相当する検出データ部分の面積との間の検量線を作成しておき、その検量線を用いて、ガラス配管からガスクロマトグラフへ導入された水素ガスの検出データ部分の面積から発生モル数を決定した。一方、ガラス容器内の光触媒分散液に照射された光子数については、測定に使用されるガラス容器内の光触媒分散液に照射される全光のワット数P(単位時間当たりのエネルギー量)をフォトダイオードセンサーで計測しておき、光触媒分散液に単位時間当たりに入射される光子数Iを下記の式により算出した。
I(/s)=P(W)×λ(m)/[h(J・s)×c(m/s)]
ここで、λは、照射光の波長、hは、プランク定数、cは、光速である。そして、量子効率は、下記の式により算出した。
量子効率(%)=n(/s)×NA×2/I×100
ここで、nは、単位時間当たりに発生した水素ガスのモル数、NAは、アボガドロ数である。
【0033】
結果に於いて、まず、バリウムの含有量を種々変更して合成された半導体粒子を用いて調製した光触媒にて測定された量子効率は、図2(A)の如くとなった。なお、同図に於いて、半導体粒子に於けるバリウムの含有量は、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対する重量部にて表わされている。また、組成に於いて、スカンジウムが0.1重量部にて含有させた(アルミニウムは含まない。)。焼成時の焼成時間は、30時間とし、焼成温度は、1150℃とした。同図を参照して理解される如く、バリウムの含有量が0.04~5重量部であったときに、量子効率は、約70%又はそれ以上となり、バリウムの含有量が0.1~2重量部の場合には、量子効率は、80~90%に達する高い値が安定的に得られた。このことから、半導体粒子に於ける100重量部のチタン酸ストロンチウムに対するバリウムの含有量が0.04~5重量部の場合、より好適には、0.1~2重量部の場合に、高い量子効率を与える光触媒が得られることが示された。
【0034】
バリウムとアルミニウムの存在下で、スカンジウムの含有量を変更して合成された半導体粒子を用いて調製した光触媒にて測定された量子効率は、図2(B)の如くとなった。ここに於いて、100重量部のチタン酸ストロンチウムに対して、バリウムの含有量は、0.7~0.8重量部であり、アルミニウムの含有量は、0.2重量部であった。焼成時の焼成時間は、30時間とし、焼成温度は、1150℃とした。同図の結果から、スカンジウムが無くても、量子効率は、30%ほど得られるところ、スカンジウムの含有量が0.1~1重量部である場合には、70%又は80%を超える高い量子効率の光触媒が得られることが示された。また、図2(A)の結果と合わせて参照して、半導体粒子に於いて、0.1~2重量部程度のバリウムの存在時に於いて、0.1重量部のオーダーのアルミニウムの有無は、光触媒の量子効率に有意な差を与えないことが理解される。
【0035】
更に、第一の合成方法により合成された半導体粒子(100重量部のチタン酸ストロンチウムに対し、バリウムが0.75重量部、スカンジウムが0.58重量部、アルミニウムが0.18重量部)を用いた光触媒の量子効率は、82%であり、第二の合成方法により合成された半導体粒子(100重量部のチタン酸ストロンチウムに対し、バリウムが0.75重量部、スカンジウムが0.62重量部、アルミニウムが0.14重量部)を用いた光触媒の量子効率は、84%であった。このことから、第一の合成方法により合成された半導体粒子を用いた光触媒と、第二の合成方法により合成された半導体粒子を用いた光触媒とで、有意な差がないことが理解される。
【0036】
次に、粉末混合物の焼成の際の焼成温度と焼成時間を種々変化させて合成した半導体粒子を用いて調製した光触媒にて測定された量子効率は、図3(A)、(B)の如くとなった。なお、半導体粒子は、組成が100重量部のチタン酸ストロンチウムに対し、バリウムが0.3重量部、スカンジウムが0.1重量部となるよう調製した。まず、図3(A)を参照して、焼成時間を一定にした場合(30時間)、焼成温度が1000~1200℃の場合に於いて、量子効率が略70%を上回り、焼成温度が1100~1200℃の場合には、量子効率が略80%を上回り、焼成温度が1150℃の場合に、量子効率が最大となった。一方、図3(B)を参照して、焼成温度を一定にした場合(1150℃)、焼成時間が10~30時間の範囲で、量子効率は80%を超え、かかる時間範囲で有意な差は、認められなかった。このことから、焼成時間が10~30時間の範囲で、焼成温度は、1000~1200℃、より好ましくは、1100~1200℃とすると、安定的に高い量子効率を与える半導体粒子を合成できることが示された。
【0037】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3