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特開2024-42626無線機器位置推定方法及び無線機器位置推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042626
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】無線機器位置推定方法及び無線機器位置推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/14 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G01S5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147477
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】中城 那津子
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC18
5J062EE01
(57)【要約】
【課題】無線機器の位置を正確に推定できる位置推定方法を提供する。
【解決手段】対象アクセスポイント30の位置を推定するために、先ず、エリア2内における複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれにおいて測定された、対象アクセスポイント30からの電波強度が取得される。複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれにおいて取得された電波強度、及び、エリア2の空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの測定地点P1,P3,P5に対して対象アクセスポイント30が存在し得る複数の位置を示す位置候補分布群が、それぞれの測定地点P1,P3,P5に対応して導出される。複数の測定地点P1,P3,P5に対応する複数の位置候補分布群に基づいて、エリア2内における対象アクセスポイント30の位置が推定される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置推定装置が、所定のエリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された、位置推定対象の無線機器からの電波強度を取得する電波強度取得工程と、
位置推定装置が、複数の前記測定地点のそれぞれについて取得された前記無線機器からの電波強度、及び、前記エリアの空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの前記測定地点に対して前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する位置候補導出工程と、
位置推定装置が、前記位置候補導出工程で導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する位置推定工程と、
を含むことを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線機器位置推定方法であって、
位置推定装置が、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された電波発信源からの電波強度に基づいて、前記空間伝搬係数マップを作成して記憶する空間伝搬係数マップ記憶工程を更に含むことを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の無線機器位置推定方法であって、
前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められ、
前記電波強度の計算においては、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の空間伝搬係数が、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点に対応して定められている前記空間伝搬係数で一定であるとみなして行われることを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の無線機器位置推定方法であって、
前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められ、
前記電波強度の計算においては、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点から前記測定地点までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数に基づき、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求めることを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の無線機器位置推定方法であって、
前記位置候補導出工程では、前記エリアが複数に分割された単位エリア毎に、当該単位エリアに前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を、前記空間伝搬係数マップに基づいて計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する前記単位エリアが、前記位置候補として導出されることを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の無線機器位置推定方法であって、
前記位置推定工程では、前記位置候補導出工程で導出された、複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群の間で、前記位置候補が相互に重なる位置を、前記エリア内における前記無線機器の位置として推定することを特徴とする無線機器位置推定方法。
【請求項7】
位置推定対象の無線機器からの電波強度に基づいて、前記無線機器の位置を推定する無線機器位置推定装置であって、
所定のエリア内の空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを記憶する記憶部と、
前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された、位置推定対象の無線機器からの電波強度を取得する電波強度取得部と、
複数の前記測定地点のそれぞれについて取得された前記無線機器からの電波強度、及び、前記空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの前記測定地点に対して前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する位置候補導出部と、
導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する位置推定部と、
を備えることを特徴とする無線機器位置推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の無線機器位置推定装置であって、
前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された電波発信源からの電波強度に基づいて、前記空間伝搬係数マップを作成するマップ作成部を備えることを特徴とする無線機器位置推定装置。
【請求項9】
請求項7に記載の無線機器位置推定装置であって、
前記位置候補導出部は、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する地点を、前記位置候補として導出し、
前記電波強度の計算においては、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の空間伝搬係数が、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点に対応して定められている前記空間伝搬係数で一定であるとみなして行われることを特徴とする無線機器位置推定装置。
【請求項10】
請求項7に記載の無線機器位置推定装置であって、
前記位置候補導出部は、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する地点を、前記位置候補として導出し、
前記電波強度の計算においては、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点から前記測定地点までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数に基づき、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求めることを特徴とする無線機器位置推定装置。
【請求項11】
請求項7に記載の無線機器位置推定装置であって、
前記位置候補導出部は、前記エリアが複数に分割された単位エリア毎に、当該単位エリアに前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を、前記空間伝搬係数マップに基づいて計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する前記単位エリアを、前記位置候補として導出することを特徴とする無線機器位置推定装置。
【請求項12】
請求項7に記載の無線機器位置推定装置であって、
前記位置推定部は、前記位置候補導出部により導出された、複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群の間で、前記位置候補が相互に重なる位置を、前記エリア内における前記無線機器の位置として推定することを特徴とする無線機器位置推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機器の位置推定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線通信を行う無線機器からの信号を複数のアクセスポイントでそれぞれ受信し、各アクセスポイントでの受信強度に基づいて無線機器位置を推定することが行われている。特許文献1は、この種の位置推定方法を開示する。
【0003】
特許文献1の位置推定方法では、無線アクセスポイントでの信号の受信強度に基づいて、無線アクセスポイントと無線通信器との距離(推定距離)が計算される。3点以上の無線アクセスポイントのそれぞれでの推定距離に基づいて、無線通信器の位置が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-001833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無線通信において、信号(電波)の空間伝搬損失(ひいては、空間伝搬係数)は、周囲の環境によって異なる。この点、上記特許文献1の方法では、無線アクセスポイントと無線通信器との距離を推定する場合に、無線アクセスポイントの近傍の空間伝搬係数のみが使用される。従って、無線通信器の位置の推定誤差が大きかった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、無線機器の位置を正確に推定できる位置推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の無線機器位置推定方法が提供される。即ち、この無線機器位置推定方法は、電波強度取得工程と、位置候補導出工程と、位置推定工程と、を含む。前記電波強度取得工程では、位置推定装置が、所定のエリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された、位置推定対象の無線機器からの電波強度を取得する。前記位置候補導出工程では、位置推定装置が、複数の前記測定地点のそれぞれについて取得された前記無線機器からの電波強度、及び、前記エリアの空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの前記測定地点に対して前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する。前記位置推定工程では、位置推定装置が、前記位置候補導出工程で導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する。
【0009】
これにより、複数の観測地点のそれぞれにおいて測定された電波強度に基づいて、無線機器の位置を推定することができる。また、エリア内の空間伝搬係数の分布が考慮されるので、通信環境が場所毎に異なることによる誤差を回避でき、位置推定精度が良好である。
【0010】
前記の無線機器位置推定方法においては、空間伝搬係数マップ記憶工程を更に含むことが好ましい。前記空間伝搬係数マップ記憶工程では、位置推定装置が、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された電波発信源からの電波強度に基づいて、前記空間伝搬係数マップを作成して記憶する。
【0011】
これにより、場所に応じた通信環境の違いを反映した空間伝搬係数マップを、無線機器の位置推定に用いることができる。従って、無線機器の位置をより正確に推定することができる。
【0012】
前記の無線機器位置推定方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が当該測定地点において前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められる。前記電波強度の計算は、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の空間伝搬係数が、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点に対応して定められている前記空間伝搬係数で一定であるとみなして行われる。
【0013】
これにより、無線機器の位置候補を、少ない計算量で導出することができる。
【0014】
前記の無線機器位置推定方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められる。前記電波強度の計算においては、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点から前記測定地点までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数に基づき、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求める。
【0015】
これにより、無線機器の位置候補をより正確に導出することができる。
【0016】
前記の無線機器位置推定方法において、前記位置候補導出工程では、前記エリアが複数に分割された単位エリア毎に、当該単位エリアに前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を、前記空間伝搬係数マップに基づいて計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する前記単位エリアが、前記位置候補として導出されることが好ましい。
【0017】
これにより、無線機器の位置候補を正確に導出することができる。
【0018】
前記の無線機器位置推定方法において、前記位置推定工程では、前記位置候補導出工程で導出された、複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群の間で、前記位置候補が相互に重なる位置を、前記エリア内における前記無線機器の位置として推定することが好ましい。
【0019】
このように、複数の観測地点に応じた位置候補分布群を用いて、無線機器の位置を総合的に推定することができる。
【0020】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の無線機器位置推定装置が提供される。即ち、この無線機器位置推定装置は、位置推定対象の無線機器からの電波強度に基づいて、前記無線機器の位置を推定する。前記無線機器位置推定装置は、記憶部と、電波強度取得部と、位置候補導出部と、位置推定部と、を備える。前記記憶部は、所定のエリア内の空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを記憶する。前記電波強度取得部は、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおける位置推定対象の無線機器からの電波強度のそれぞれを、各測定地点から取得する。前記位置候補導出部は、記憶された前記空間伝搬係数マップ及び取得された電波強度に基づいて、それぞれの前記測定地点に対する前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する。前記位置推定部は、導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する。
【0021】
これにより、複数の観測地点のそれぞれにおいて測定された電波強度に基づいて、無線機器の位置を推定することができる。また、エリア内の空間伝搬係数の分布が考慮されるので、通信環境が場所毎に異なることによる誤差を回避でき、位置推定精度が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るAP位置推定システムの構成を示すブロック図。
図2】空間伝搬係数マップを説明する図。
図3】AP位置推定装置の制御部が行う処理を説明するフローチャート。
図4】エリアにおいて定義されるグリッドを説明する図。
図5】位置候補群に基づく位置の推定を説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1に示すAP位置推定システム(無線機器位置推定システム)1は、後述のAP位置推定方法(無線機器位置推定方法)を用いて対象アクセスポイント(無線機器)30の位置を推定することができる。対象アクセスポイント30の位置の推定にあたって、空間伝搬係数マップが用いられる。APは、Access Pointの略称である。
【0025】
空間伝搬係数マップは、アクセスポイント(電波発信源)3が設置されるエリア2を対象として、事前に作成される。この空間伝搬係数nは、無次元数である。n=2.0の場合、障害物等がない理想空間となる通信環境が想定される。n<2.0の場合、電波が反射しながら伝達していく通信環境が想定され、n>2.0の場合、電波が障害物に吸収されて減衰しながら伝搬していく通信環境が想定される。
【0026】
空間伝搬係数マップは、エリア2における、アクセスポイント3が送信する電波の反射及び減衰による伝搬損失に関する空間伝搬係数の分布を表す。
【0027】
エリア2としては、例えば、アクセスポイント3等の無線機器が使用される工場の内部空間が想定される。エリア2には、図2に破線で模式的に示すように、壁又はパーティション等の様々な構造物20が配置されている。従って、アクセスポイント3が送信する電波に関し、エリア2内での電波の伝搬損失は場所に応じて複雑に変化する。エリア2の用途、形状、アクセスポイント3の位置等は特に限定されない。
【0028】
アクセスポイント3は、例えば、IEEE802.11に規定するインフラストラクチャモードでのアクセスポイントとして機能する。アクセスポイント3は、図1に示すように、AP通信部31を備える。
【0029】
アクセスポイント3には、公知のコンピュータが内蔵されている。このコンピュータは、CPU、ROM、RAM等を備える。ROM及びRAMには、無線通信を実現するためのプログラム等が記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、当該コンピュータを、AP通信部31等として動作させることができる。
【0030】
AP通信部31は、各種の通信機器(例えば、測定装置4)と無線により通信することができる。この無線通信は、公知の規格に準拠して行われる。
【0031】
AP位置推定システム1は、測定装置4と、位置推定装置(無線機器位置推定装置)5と、を備える。
【0032】
測定装置4は、無線通信部41と、測定部42と、有線通信部43と、を備える。
【0033】
測定装置4は、公知のコンピュータとして構成されている。このコンピュータは、CPU、ROM、RAM、HDD等を備える。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、当該コンピュータを、無線通信部41、測定部42及び有線通信部43として動作させることができる。
【0034】
無線通信部41は、アクセスポイント3が備えるAP通信部31との間で、無線通信を行う。無線通信部41は、電波強度を測定するために、アクセスポイント3から送信される電波を取得する(この工程では、アクセスポイント3との間で実質的なデータの送受信を行わない)。無線通信部41は、例えば、所謂モニタモードとされた状態において、アクセスポイント3から送信される無線LAN上のパケットを監視する。測定装置4は、かかる監視により取得されたパケットを解析することにより、電波強度を測定する。
【0035】
測定部42は、例えば、公知の電界強度測定装置として構成される。測定部42は、測定装置4とアクセスポイント3とが無線通信を行った場合に、アクセスポイント3から受信する電波について、実際の電波強度を測定する。
【0036】
位置の推定対象である対象アクセスポイント30の構成は、アクセスポイント3と同様である。従って、測定部42は、アクセスポイント3と同様に、対象アクセスポイント30から受信する電波の電波強度も測定することができる。
【0037】
有線通信部43は、位置推定装置5と、適宜の通信方式による有線通信を行う。この有線通信により、測定装置4は、測定部42が測定した電波強度を、位置推定装置5に送信する。なお、測定部42が測定した電波強度等の情報を測定装置4に記憶しておき、事後的に、当該情報を位置情報等とともに位置推定装置5に(例えば作業者のマニュアル操作により)入力することもできる。
【0038】
位置推定装置5は、対象アクセスポイント30の位置を推定するために用いられるコンピュータである。位置推定装置5は、例えば、測定装置4とともに、可搬型のキャリッジに取り付けられている。しかし、これに限定されない。
【0039】
図1に示すように、位置推定装置5は、有線通信部51と、記憶部52と、制御部53と、表示部54と、入力部55と、を備える。
【0040】
位置推定装置5は、図示しないCPU、ROM、RAM、HDD等を有する公知のコンピュータとして構成される。HDD等には、本発明のAP位置推定方法を実現するための各種のプログラムが記憶されている。このハードウェアとソフトウェアの協働により、コンピュータを有線通信部51、記憶部52、制御部53、表示部54及び入力部55として動作させることができる。
【0041】
有線通信部51は、測定装置4が備える有線通信部43と接続される。この有線通信部51により、位置推定装置5は測定装置4と有線通信を行う。位置推定装置5は、この有線通信により、測定装置4が測定した電波強度を取得する。
【0042】
記憶部52は、ROM、RAM及びHDD等から構成されている。記憶部52は、上述のプログラム、及び、空間伝搬係数マップを作成するための各種パラメータ等を記憶する。加えて、記憶部52は、作成された空間伝搬係数マップを記憶する。
【0043】
制御部53は、マップ作成部56と、電波強度取得部57と、位置候補導出部58と、位置推定部59と、を有する。
【0044】
マップ作成部56は、エリア2に関する空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを作成する。
【0045】
エリア2内の位置は、適宜の位置を原点として定められた平面直交座標系で表現することができる。空間伝搬係数マップにおいては、エリア2をマトリクス状に分割することによりグリッドが定義される。グリッド毎に、空間伝搬係数がグリッドの座標と関連付けて記憶される。本実施形態においては、各グリッドが単位エリアに相当する。ただし、空間伝搬係数マップの表現形式は任意である。
【0046】
電波強度取得部57は、対象アクセスポイント30からの電波強度を3つ以上の測定地点のそれぞれで測定した測定結果を、測定装置4から取得する。
【0047】
位置候補導出部58は、電波強度が測定された測定地点毎に、対象アクセスポイント30が位置している可能性が高い位置候補を導出する。位置候補の導出は、測定地点と対象アクセスポイント30との距離が増大するに従って電波強度が減少すること、及び、この減少の度合いが空間伝搬係数に応じて変化することを利用して行われる。
【0048】
位置推定部59は、導出された位置候補に基づいて、対象アクセスポイント30の位置を推定する。
【0049】
マップ作成部56、電波強度取得部57、位置候補導出部58及び位置推定部59が行う処理の詳細については後述する。
【0050】
表示部54は、公知のドットマトリクス型のディスプレイとして構成される。制御部53は、作成された空間伝搬係数マップ及び推定された対象アクセスポイント30の位置を、入力部55の適宜の操作に応じて表示部54に表示させる。なお、対象アクセスポイント30の位置が推定された場合、当該位置が、表示されたエリア2のマップ又は空間伝搬係数マップに重ねた状態で自動的に表示されても良い。
【0051】
入力部55は、位置推定装置5に対して作業者が何らかの指示を行うために操作される。入力部55は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される。
【0052】
以上の構成のAP位置推定システム1において、エリア2内に設置された対象アクセスポイント30の位置が、本実施形態のAP位置推定方法によって自動的に推定される。
【0053】
AP位置推定方法は、第1工程(電波強度取得工程)、第2工程(位置候補導出工程)及び第3工程(位置推定工程)を含む。図3のフローチャートにおいて、ステップS103が第1工程に対応し、ステップS105及びステップS106が第2工程に対応し、ステップS107が第3工程に対応する。更に、AP位置推定方法は、事前準備の工程として、第4工程(マップ用電波強度取得工程)及び第5工程(空間伝搬係数マップ記憶工程)を含む。図3のフローチャートにおいて、ステップS101が第4工程に対応し、ステップS102が第5工程に対応する。以下では、図3から図5までを参照しつつ、これらの工程について詳細に説明する。
【0054】
本実施形態のAP位置推定方法においては、先ず、所定のアクセスポイント3から発信される電波に関して、エリア2内で適宜に定められた複数の測定地点P1~P5のそれぞれにおける実際の電波強度が、測定装置4によって測定される(図3のステップS101:第4工程)。対象アクセスポイント30とは異なり、アクセスポイント3の位置は既知である。アクセスポイント3の位置、及び、測定地点P1~P5の位置が、図4に例示されている。なお、測定地点の数及び位置は任意に選択可能である。
【0055】
具体的に説明すると、測定装置4及び位置推定装置5が、作業者によって、最初の測定地点P1に運ばれる。測定地点P1で測定装置4が電波強度を測定すると、位置推定装置5が上述の有線通信を介してその測定結果を取得し、記憶部52に記憶する。このとき、測定結果である電波強度は、測定地点P1の位置を示す情報と関連付けられて、記憶部52に記憶される。測定地点P1の位置(座標)は、適宜の方法で予め測定され、位置推定装置5に入力される。
【0056】
次に、測定装置4及び位置推定装置5が、作業者によって次の測定地点P2に運ばれ、上述の作業が同様に行われる。残りの測定地点P3~P5についても、電波強度が順次測定される。
【0057】
次に、前述の第4工程において測定された複数の測定地点P1~P5のそれぞれにおける実際の電波強度(所定のアクセスポイント3から発信した電波に対する電波強度)に基づいて、空間伝搬係数マップがマップ作成部56により作成される(図3のステップS102:第5工程)。
【0058】
この工程では、記憶部52に記憶された各測定地点P1~P5における電波強度に基づいて、空間伝搬係数nが計算により求められる。この計算においては、公知のフリスの伝達公式が用いられる。
【0059】
以下、詳細に説明する。フリスの伝達公式によれば、下記の数式(1)が成り立つ。
【数1】
【0060】
ここで、PTは、アクセスポイント3における送信電力である。GTは、アクセスポイント3における送信利得である。GRは、測定装置4における受信利得である。λは波長である。Dは距離である。PRは、受信電力であり、電波強度に相当する。
【0061】
数式(1)において、(λ/4πD)2は、自由空間伝搬損失の逆数である。自由空間伝搬損失とは、障害物がない理想的な空間を仮定した場合に、当該空間を電波が伝搬するときに発生する損失をいう。自由空間伝搬損失をLBで表すと、数式(2)を導くことができる。
【数2】
【0062】
また、対数関数を用いてLB=1/(λ/4πD)2の式を表現すると、数式(3)が得られる。数式(3)以降において、LBの単位はデシベルである。
【数3】
【0063】
以上に示した数式は、電波が障害物のない真空中を球状に拡散しながら広がっていく理想的な状況を前提としている。しかし、現実の通信環境では、障害物及び/又は反射物等が存在する。この状況に対応するため、簡易な近似式として、上述の空間伝搬係数nを導入した数式(4)が数式(3)の代わりに用いられる。
【数4】
【0064】
数式(4)を変形することにより、数式(5)が得られる。
【数5】
【0065】
数式(2)において、アクセスポイント3の送信電力PT及び送信利得GTは既知であり、測定装置4の受信利得GRも既知である。従って、数式(2)をLB=・・・となるように変形して、送信電力PT、送信利得GT、及び受信利得GRを代入し、電波強度PRとして前述の測定値を代入することで、伝搬損失LBの値を求めることができる。
【0066】
数式(5)において、波長λは既知である。また、距離Dは、電波強度の測定地点及びアクセスポイント3の位置から求めることができる。従って、数式(5)に対し、波長λ及び距離Dを代入し、上述の伝搬損失LBの値を代入することで、空間伝搬係数nを求めることができる。
【0067】
マップ作成部56は、測定地点P1~P5のそれぞれの空間伝搬係数nを算出する。これにより、エリア2において離散的に定められた複数の地点P1~P5における空間伝搬係数nを得ることができる。
【0068】
そして、マップ作成部56は、エリア2の代表地点における空間伝搬係数に基づいて、適宜の方法を用いて、エリア2全体の空間伝搬係数マップ10を作成する。
【0069】
図2は、作成された空間伝搬係数マップ10の一例を示している。図2に示す空間伝搬係数マップ10においては、エリア2が、5つの区域エリアZ1,Z2,Z3,Z4,Z5に分割されている。区域エリアZ1~Z5は、その境界が、エリア2を区画する構造物20と概ね一致するように、ユーザによって予め定義される。本実施形態では、計算を簡単にするために、それぞれの区域エリアZ1~Z5内において、空間伝搬係数が一定であるとみなされる。それぞれの区域エリアZ1,Z2,Z3,Z4,Z5の空間伝搬係数は、順に、n1,n2,n3,n4,n5となっている。図2では、空間伝搬係数マップ10における空間伝搬係数nの値の大小が、ハッチングの広狭で表現されている。
【0070】
エリア2全体の空間伝搬係数マップ10は、例えば、以下のようにして作成することができる。最初に、マップ作成部56は、図3に示すアクセスポイント3と同一の区域エリアZ1に存在する測定地点P1について、測定地点P1で測定された電波強度に基づいて空間伝搬係数n1を計算する。得られた空間伝搬係数n1は、区域エリアZ1の全体に割り当てられる。
【0071】
次に、マップ作成部56は、区域エリアZ2に存在する測定地点P2について、測定地点P2で測定された電波強度に基づいて空間伝搬係数n2を計算する。この計算においては、アクセスポイント3から測定地点P2までの電波経路のうち一部が、空間伝搬係数がn1である区域エリアZ1を通過することが考慮される。得られた空間伝搬係数n2は、区域エリアZ2の全体に割り当てられる。
【0072】
同様に、マップ作成部56は、測定地点P3~P5で測定された電波強度に基づいて空間伝搬係数n3~n5を求める。得られた空間伝搬係数n3~n5は、それぞれの区域エリアZ3~Z5に割り当てられる。
【0073】
以上のようにして、空間伝搬係数マップ10を作成することができる。マップ作成部56により作成された空間伝搬係数マップ10は、記憶部52に記憶される。この空間伝搬係数マップ10を参照することで、エリア2の任意の地点における空間伝搬係数nの値を得ることができる。
【0074】
次に、エリア2内において、新たなアクセスポイント(対象アクセスポイント30)が設置された場合を考える。対象アクセスポイント30の位置P0は未知であり、この位置P0が位置推定部59によって推定される。
【0075】
ユーザは、新たに対象アクセスポイント30を設置した後、3点以上の任意の地点において、対象アクセスポイント30の電波強度を測定装置4により測定する。測定された電波強度は、位置推定装置5が備える電波強度取得部57によって取得される(ステップS103:第1工程)。今回の説明では、対象アクセスポイント30の位置推定のための3つの測定地点P1,P3,P5は、空間伝搬係数マップ10を作成したときの測定地点P1~P5から3つ選択されたものである。ただし、位置推定のための測定地点は任意であり、空間伝搬係数マップ10を作成したときの測定地点P1~P5と異なる場所であっても良い。
【0076】
制御部53は、ステップS104において、それぞれの測定地点P1,P3,P5で測定された電波を解析することで、対象アクセスポイント30を検出する(ステップS104)。位置が既に登録されているアクセスポイント3に関しては、当該アクセスポイント3の識別情報が、その位置と対応付けられた形で記憶部52に記憶されている。そのように関連付けて位置推定装置5に記憶されていない識別情報が受信電波から検出された場合、対象アクセスポイント30が存在することを意味する。識別情報は、例えばMACアドレスとすることができる。MACとは、Media Access Controlの略称である。ただし、対象アクセスポイント30の検出方法は上記に限定されない。
【0077】
対象アクセスポイント30の存在を検出した後、位置候補導出部58は、複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれに対して、対象アクセスポイント30が存在する可能性が高い位置候補を求める(ステップS105及びステップS106:第2工程)。位置候補は、ステップS102において作成された空間伝搬係数マップ10、及び、ステップS103において得られた各測定地点P1,P3,P5での電波強度(対象アクセスポイント30が発信した電波に対する電波強度)に基づいて計算される。位置候補導出部58が位置候補を計算するにあたって、公知のフリスの伝達公式、具体的には、上述の数式(2)及び数式(4)が用いられる。
【0078】
以下、詳細に説明する。図4に示すように、前述の平面直交座標系の2つの座標軸を基準にエリア2がマトリクス状に分割されることにより、複数のグリッド(単位エリア)が定義される。ステップS105において、位置候補導出部58は、複数の測定地点P1,P3,P5のうち1つの測定地点P1を選択し、それぞれのグリッドに対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の測定地点P1における電波強度を、グリッド毎に求める。電波強度の計算にあたっては、記憶部52に記憶された空間伝搬係数マップ10(ひいては、空間伝搬係数)、及び、フリスの伝達公式が用いられる。
【0079】
図4に符号G1で示すグリッドを例として、簡単に説明する。位置候補導出部58は、注目するグリッドG1に対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の、測定地点P1における電波強度を、上記数式(4)及び数式(2)に基づいて理論的に求める。グリッドG1と測定地点P1との間の距離Dは、グリッドの座標及び測定地点P1の位置情報に基づいて求めることができる。図4に示すように、測定地点P1からグリッドG1までの電波経路の全体が区域エリアZ1の範囲内に位置するので、測定地点P1からグリッドG1までの空間伝搬係数nは、区域エリアZ1の空間伝搬係数n1である。空間伝搬係数n1及び距離Dを数式(4)に代入することで、測定地点P1とグリッドG1の間での自由空間伝搬損失LBを得ることができる。
【0080】
そして、位置候補導出部58は、得られた自由空間伝搬損失LB、対象アクセスポイント30における送信利得GT、測定地点P1で測定装置4が電波を受信したときの受信利得GR、及び対象アクセスポイント30における送信電力PTを上記数式(2)に代入する。これにより、グリッドG1に関する測定地点P1での電波強度PRを求めることができる。
【0081】
次に、図4に符号G2で示すグリッドを例にして説明する。位置候補導出部58は、注目するグリッドG2に対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の、測定地点P1における電波強度を、上記数式(4)及び数式(2)に基づいて理論的に求める。
【0082】
グリッドG2から測定地点P1までの電波経路のうち一部は、空間伝搬係数がn3である区域エリアZ3に位置し、残りが、空間伝搬係数がn1である区域エリアZ1に位置している。本実施形態においては、グリッドG2から測定地点P1までの電波経路全体における空間伝搬係数nが、グリッドG2が属する区域エリアZ3の空間伝搬係数n3で一定であるとみなして、測定地点P1における電波強度が簡略的に計算される。これにより、計算量を削減することができる。
【0083】
ただし、電波強度の計算は、上記の簡易的なものに限定されず、例えば以下のように行うこともできる。即ち、グリッドG2から測定地点P1までの電波経路を、区域エリアZ3に属する部分と区域エリアZ1に属する部分とに分割する。グリッドG2から測定地点P1までの電波経路全体の損失が、それぞれの区域エリアZ3,Z1に対応する空間伝搬係数n3,n1を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点P1における電波強度を求める。この計算方法によれば、位置推定の精度をより向上させることができる。
【0084】
ステップS105において位置候補導出部58は、全てのグリッドについて、当該グリッドに対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の、測定地点P1における電波強度を順次計算する。位置候補導出部58は、各グリッドについて得られた電波強度を、ステップS103において測定地点P1で測定された電波強度と比較する。位置候補導出部58は、測定地点P1で実際に測定された電波強度と一致する電波強度に対応するグリッドの座標(位置)を、当該測定地点P1に対する対象アクセスポイント30の位置候補として取得する。ここで、「一致」とは、電波強度が等しい場合に加えて、電波強度の偏差が所定範囲内である場合も含む。
【0085】
これにより、図5に示すように、対象アクセスポイント30の位置候補群PG11,PG13が推定結果として得られる。位置候補群PG11,PG13は、測定地点P1を取り囲むように配置される。上述のとおり、位置候補群PG11,PG13はマトリクス状に並べられたグリッドから選択された集合であるが、図5においては滑らかな図形によって概念的に表現されている。
【0086】
位置候補群PG11,PG13は、区域エリアZ1,Z3のそれぞれにおいて、測定地点P1を中心とする概ね円弧状の線から構成されている。円弧の径は区域エリアZ1,Z3の境界において不連続的に変化しているが、これは、空間伝搬係数n1,n3が区域エリアZ1,Z3の間で不連続的に異なっており、かつ、電波強度の計算を上記のように簡略的に行っているためである。一方、各グリッドから測定地点までの電波経路全体の損失が、それぞれの区域エリアZ1,Z3に対応する空間伝搬係数n1,n3を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求めた場合、区域エリアZ1,Z3の境界において、位置候補群を表す曲線は連続となる(不図示)。空間伝搬係数が大きい場合、円弧の径が小さくなり、空間伝搬係数が小さい場合、円弧の径が大きくなる。
【0087】
上記の位置候補群PG11,PG13を表す線は、対象アクセスポイント30を測定地点P1に配置したと仮定したときに、電波強度がステップS103で測定された電波強度と一致する観測位置を繋いだ線(等電波強度線)と考えることもできる。
【0088】
位置候補導出部58は、全ての測定地点P1,P3,P5に対する位置候補の取得が完了するまで、上記の計算を反復する(ステップS105、ステップS106)。これにより、例えば、図5に示すように、測定地点P3に対する対象アクセスポイント30の位置候補群PG31,PG32,PG33,PG34,PG35、及び、測定地点P5に対する対象アクセスポイント30の位置候補群PG53,PG55が得られる。
【0089】
次に、位置推定部59は、測定地点P1,P3,P5に対応する位置候補群のうち、位置候補が重なっている地点(位置)を検出する(ステップS107:第3工程)。この重複地点が、対象アクセスポイント30の位置の推定結果に相当する。図5に示す例においては、測定地点P1に対応する位置候補群PG13と、測定地点P3に対応する位置候補群PG33と、測定地点P5に対応する位置候補群PG53と、の交点P0が対象アクセスポイント30の位置として推定される。
【0090】
このように、複数の測定地点で測定された電波強度に基づいて、対象アクセスポイント30の位置を推定することができる。また、エリア2の各地点における空間伝搬係数を考慮に含めることにより、位置の推定精度がより良好になる。
【0091】
以上に説明したように、本実施形態のAP位置推定方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を含む。第1工程では、位置推定装置5が、エリア2内における複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれにおいて測定された、対象アクセスポイント30からの電波強度を取得する。第2工程では、位置推定装置5が、複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれについて取得された対象アクセスポイント30からの電波強度、及び、エリア2の空間伝搬係数nの分布を示す空間伝搬係数マップ10に基づいて、それぞれの測定地点P1,P3,P5に対して対象アクセスポイント30が存在し得る複数の位置を示す位置候補分布群を、それぞれの測定地点P1,P3,P5に対応して導出する。第3工程では、位置推定装置5が、第2工程で導出された複数の測定地点P1,P3,P5に対応する複数の位置候補分布群に基づいて、エリア2内における対象アクセスポイント30の位置を推定する。
【0092】
これにより、複数の測定地点P1,P3,P5のそれぞれにおいて測定された電波強度に基づいて、対象アクセスポイント30の位置を推定することができる。また、エリア2内の空間伝搬係数nの分布が考慮されるので、通信環境が場所毎に異なることによる誤差を回避でき、位置推定精度が良好である。
【0093】
また、本実施形態のAP位置推定方法は、第5工程を更に含む。この第5工程では、位置推定装置5が、エリア2内における複数の測定地点P1~P5のそれぞれにおいて測定されたアクセスポイント3からの電波強度に基づいて、空間伝搬係数マップ10を作成して記憶する。
【0094】
これにより、場所に応じた通信環境の違いを反映した空間伝搬係数マップ10を、対象アクセスポイント30の位置推定に用いることができる。従って、対象アクセスポイント30の位置をより正確に推定することができる。
【0095】
また、本実施形態のAP位置推定方法において、第2工程では、ある地点(例えば、グリッドG2)に対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の測定地点P1における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が第1工程で取得された電波強度と一致する地点が、位置候補として求められる。電波強度の計算においては、前記地点(グリッドG2)から測定地点P1までの電波経路全体の空間伝搬係数nが、空間伝搬係数マップ10において当該地点に対応して定められている空間伝搬係数n3で一定であるとみなして行われる。
【0096】
これにより、対象アクセスポイント30の位置候補を、少ない計算量で導出することができる。
【0097】
また、本実施形態のAP位置推定方法において、ある地点(例えば、グリッドG2)に対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の測定地点P1,P3,P5における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が第1工程で取得された電波強度と一致する地点が、位置候補として求められる。電波強度の計算においては、空間伝搬係数マップ10において前記地点からそれぞれの測定地点P1,P3,P5までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数nに基づき、前記地点からそれぞれの測定地点P1,P3,P5までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数nを用いて計算した損失の和であることを用いて、それぞれの測定地点P1,P3,P5における電波強度を求める。
【0098】
これにより、対象アクセスポイント30の位置候補をより正確に導出することができる。
【0099】
また、本実施形態のAP位置推定方法において、第2工程では、エリア2が複数に分割されたグリッド毎に、当該グリッドに対象アクセスポイント30が配置されたと仮定した場合の測定地点P1,P3,P5における電波強度を、空間伝搬係数マップ10に基づいて計算する。第2工程では、計算で得られた電波強度が、第1工程で取得された電波強度と一致するグリッドが、位置候補として導出される。
【0100】
これにより、対象アクセスポイント30の位置候補を正確に導出することができる。
【0101】
また、本実施形態のAP位置推定方法において、第3工程では、第2工程で導出された、複数の測定地点P1,P3,P5に対応する複数の位置候補分布群の間で、位置候補が相互に重なる地点P0を、エリア2内における対象アクセスポイント30の位置として推定する。
【0102】
このように、複数の測定地点P1,P3,P5による位置候補分布群を用いて、対象アクセスポイント30の位置を総合的に推定することができる。
【0103】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0104】
ステップS104において、対象アクセスポイント30の電波強度を4つ以上の測定地点において測定することもできる。
【0105】
空間伝搬係数マップ10を作成する場合に、空間伝搬係数の値をマップのどの領域に割り当てるかは、上述の例に限定されない。例えば、ステップS101において多数の地点で電波強度を測定できる場合は、各測定地点を中心とする所定の範囲内の領域(例えば、半径数メートル程度の円の領域)に対して、電波強度から計算で得られた空間伝搬係数を割り当てることができる。
【0106】
空間伝搬係数マップ10は、2次元マップに限定されない。空間伝搬係数マップは、高さ方向での分布を含む3次元マップとして構成されても良い。この場合、4点以上の測定地点の3次元位置と、それぞれの測定地点で測定された電波強度から、対象アクセスポイント30の3次元位置を、空間伝搬係数マップを用いて推定することができる。
【0107】
空間伝搬係数マップ10は、位置推定装置5と異なるハードウェアにおいて作成されても良い。
【0108】
位置推定装置5は、測定装置4と同一のハードウェアから構成されても良い。
【0109】
上述のように、最初に注目する測定地点P1に対して、対象アクセスポイント30の位置候補が区域エリアZ1,Z3にしか存在しない場合がある。この場合、後に注目する測定地点P3,P5について位置候補を計算する際に、上述の区域エリアZ1,Z3におけるグリッドだけを計算対象とすることができる。これにより、計算量を削減でき、処理速度を向上することができる。
【0110】
本願の第1の発明は、位置推定装置が、所定のエリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された、位置推定対象の無線機器からの電波強度を取得する電波強度取得工程と、位置推定装置が、複数の前記測定地点のそれぞれについて取得された前記無線機器からの電波強度、及び、前記エリアの空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの前記測定地点に対して前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する位置候補導出工程と、位置推定装置が、前記位置候補導出工程で導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する位置推定工程と、を含むことを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0111】
本願の第2の発明は、前記第1の発明において、位置推定装置が、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された電波発信源からの電波強度に基づいて、前記空間伝搬係数マップを作成して記憶する空間伝搬係数マップ記憶工程を更に含むことを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0112】
本願の第3の発明は、前記第1の発明又は前記第2の発明において、前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められ、前記電波強度の計算においては、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の空間伝搬係数が、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点に対応して定められている前記空間伝搬係数で一定であるとみなして行われることを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0113】
本願の第4の発明は、前記第1の発明又は前記第2の発明において、前記位置候補導出工程では、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する地点が、前記位置候補として求められ、前記電波強度の計算においては、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点から前記測定地点までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数に基づき、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求めることを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0114】
本願の第5の発明は、前記第1の発明から前記第4の発明のうち何れか1において、前記位置候補導出工程では、前記エリアが複数に分割された単位エリア毎に、当該単位エリアに前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を、前記空間伝搬係数マップに基づいて計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得工程で取得された電波強度と一致する前記単位エリアが、前記位置候補として導出されることを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0115】
本願の第6の発明は、前記第1の発明から前記第5の発明のうち何れか1において、前記位置推定工程では、前記位置候補導出工程で導出された、複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群の間で、前記位置候補が相互に重なる位置を、前記エリア内における前記無線機器の位置として推定することを特徴とする無線機器位置推定方法である。
【0116】
本願の第7の発明は、位置推定対象の無線機器からの電波強度に基づいて、前記無線機器の位置を推定する無線機器位置推定装置であって、所定のエリア内の空間伝搬係数の分布を示す空間伝搬係数マップを記憶する記憶部と、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された、位置推定対象の無線機器からの電波強度を取得する電波強度取得部と、複数の前記測定地点のそれぞれについて取得された前記無線機器からの電波強度、及び、前記空間伝搬係数マップに基づいて、それぞれの前記測定地点に対して前記無線機器が存在し得る複数の位置候補を示す位置候補分布群を、それぞれの前記測定地点に対応して導出する位置候補導出部と、導出された複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群に基づいて、前記エリア内における前記無線機器の位置を推定する位置推定部と、を備えることを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【0117】
本願の第8の発明は、前記第7の発明において、前記エリア内における複数の測定地点のそれぞれにおいて測定された電波発信源からの電波強度に基づいて、前記空間伝搬係数マップを作成するマップ作成部を備えることを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【0118】
本願の第9の発明は、前記第7の発明又は前記第8の発明において、前記位置候補導出部は、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する地点を、前記位置候補として導出し、前記電波強度の計算においては、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の空間伝搬係数が、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点に対応して定められている前記空間伝搬係数で一定であるとみなして行われることを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【0119】
本願の第10の発明は、前記第7の発明又は前記第8の発明において、前記位置候補導出部は、ある地点に前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する地点を、前記位置候補として導出し、前記電波強度の計算においては、前記空間伝搬係数マップにおいて前記地点から前記測定地点までの間に分布する1又は複数の空間伝搬係数に基づき、前記地点から前記測定地点までの電波経路全体の損失が、前記1又は複数の空間伝搬係数を用いて計算した損失の和であることを用いて、測定地点における電波強度を求めることを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【0120】
本願の第11の発明は、前記第7の発明から前記第10の発明のうち何れか1において、前記位置候補導出部は、前記エリアが複数に分割された単位エリア毎に、当該単位エリアに前記無線機器が配置されたと仮定した場合の前記測定地点における電波強度を、前記空間伝搬係数マップに基づいて計算し、計算で得られた電波強度が前記電波強度取得部で取得された電波強度と一致する前記単位エリアを、前記位置候補として導出することを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【0121】
本願の第12の発明は、前記第7の発明から前記第11の発明のうち何れか1において、前記位置推定部は、前記位置候補導出部により導出された、複数の前記測定地点に対応する複数の前記位置候補分布群の間で、前記位置候補が相互に重なる位置を、前記エリア内における前記無線機器の位置として推定することを特徴とする無線機器位置推定装置である。
【符号の説明】
【0122】
2 エリア
5 位置推定装置(無線機器位置推定装置)
10 空間伝搬係数マップ
30 対象アクセスポイント(無線機器)
n,n1,n2,n3,n4,n5 空間伝搬係数
P1,P2,P3 測定地点
PG11,PG13,PG31,PG32,PG33,PG34,PG35,PG53,PG55 位置候補群(位置候補分布群)
図1
図2
図3
図4
図5