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特開2024-42656インサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042656
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】インサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/14 20060101AFI20240321BHJP
   B23P 19/06 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B25B27/14 C
B23P19/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138148
(22)【出願日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2022147371
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519028597
【氏名又は名称】株式会社三友精機
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】五島 環
(72)【発明者】
【氏名】若井 誠
【テーマコード(参考)】
3C031
【Fターム(参考)】
3C031EE37
(57)【要約】
【課題】インサートを被加工物に挿入する際における被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止し、かつ、種類の異なる多数のインサートを挿入する場合でも均質的に効率よくインサートを被加工物に挿入することができるインサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法を提供する。
【解決手段】インサートを装着するマンドレル23と、インサートを被加工物に挿入する際にマンドレル23の回転開始の信号を入力するための入力装置11と、マンドレル23の回転を制御する制御装置16と、を備え、制御装置16は、インサートを被加工物へ挿入する際に、マンドレル23を含む挿入部20の一部が被加工物Wに接触せずにインサートを被加工物Wに挿入するよう制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサートを装着するマンドレルと、
前記インサートを被加工物に挿入する際に前記マンドレルの回転開始の信号を入力するための入力装置と、
前記マンドレルの回転を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記インサートを前記被加工物へ挿入する際に、前記マンドレルを含む挿入部の一部が前記被加工物に接触せずに前記インサートを前記被加工物に挿入するよう制御することを特徴とするインサート挿入工具。
【請求項2】
前記制御装置は、前記インサートを前記被加工物に挿入する際に、前記入力装置からの前記マンドレルの回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とした場合に、前記被加工物に挿入される前記インサートの種類に応じて予め設定された前記挿入開始時からの挿入時間が経過した時に、前記インサートの前記被加工物への挿入動作を終了することを特徴とする請求項1に記載のインサート挿入工具。
【請求項3】
前記インサート挿入工具は、さらに計時装置を備え、前記制御装置は、前記計時装置が前記挿入開始時から計測を開始した前記挿入時間の経過を知らせる報知信号を基に前記マンドレルの回転を反転させるよう制御することを特徴とする請求項2に記載のインサート挿入工具。
【請求項4】
前記挿入時間は、前記インサート挿入工具の回転速度と前記被加工物に挿入される前記インサートの前記被加工物への挿入距離によって算出され、前記インサートの種類ごとに予め記憶装置に記憶されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のインサート挿入工具。
【請求項5】
前記制御装置は、前記インサートを前記被加工物に挿入する際に、前記インサートの一端部の前記被加工物への接触位置を基準位置とした場合に、前記基準位置から前記インサートが前記被加工物に挿入される距離を検出する検出センサからの検出信号を取得し、予め設定される挿入距離に到達したと判定した場合に、前記インサートの前記被加工物への挿入動作を終了することを特徴とする請求項1に記載のインサート挿入工具。
【請求項6】
前記制御装置は、前記検出センサからの前記検出信号を基に、前記被加工物に対して前記基準位置から予め設定される前記挿入距離まで前記インサートを前記被加工物に挿入したと判定した場合、前記マンドレルの回転を反転させるように制御することを特徴とする請求項5に記載のインサート挿入工具。
【請求項7】
インサートをインサート挿入工具に装着するステップと、
装着された前記インサートを被加工物へ挿入するステップと、を有し、
前記インサートを前記被加工物へ挿入する際に、前記マンドレルを含む挿入部の一部が前記被加工物に接触せずに前記インサートを前記被加工物に挿入するよう制御することを特徴とするインサート挿入工具の制御方法。
【請求項8】
前記インサートを前記被加工物に挿入する際に、前記入力装置からの前記マンドレルの回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とした場合に、前記被加工物に挿入される前記インサートの種類に応じて予め設定された前記挿入開始時からの挿入時間が経過した時に、前記インサートの前記被加工物への挿入を終了させることを特徴とする請求項7に記載のインサート挿入工具の制御方法。
【請求項9】
前記挿入時間の経過を確認した場合に、前記インサート挿入工具のマンドレルを反転させて前記被加工物への挿入を終了させ、前記インサート挿入工具を前記被加工物から引き上げることを特徴とする請求項8に記載のインサート挿入工具の制御方法。
【請求項10】
前記インサートを前記被加工物に挿入する際に、前記インサートの一端部の前記被加工物への接触位置を基準位置とした場合に、前記基準位置から前記インサートが前記被加工物に挿入される距離を検出する検出センサからの検出信号を取得し、予め設定される挿入距離に到達したと判定した場合に、前記インサートの前記被加工物への挿入動作を終了することを特徴とする請求項7に記載のインサート挿入工具の制御方法。
【請求項11】
前記検出センサからの前記検出信号を基に、前記被加工物に対して前記基準位置から予め設定される前記挿入距離まで前記インサートを前記被加工物に挿入したと判定された場合、前記マンドレルの回転を反転させて前記被加工物への挿入を終了させ、予め設定される前記挿入距離だけ前記インサート挿入工具を前記被加工物から引き上げることを特徴とする請求項10に記載のインサート挿入工具の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、インサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、雌ネジの耐久性が要求される場合や強い締め付けが必要となる場合など、強硬な雌ネジが求められる場合には、例えばコイルインサートやネジインサートなどと呼ばれるインサートが用いられる。インサートは、ステンレスなどの線材がコイル状に巻かれて形成されており、インサート挿入工具により樹脂やアルミ合金などの被加工物のタップ穴(ネジ穴)にねじ込まれて挿入される(埋め込まれる)。
【0003】
これまでは、当該インサート挿入工具をユーザが手動で回転させてインサートをタップ穴に挿入していた。しかしながら被加工物に形成されるタップ穴が多数である場合、当然当該タップ穴にねじ込まれるインサートの数も多数となる。
【0004】
そして被加工物によってはねじ込まれるインサートの数が百を超えるような場合もあり、これらを全て作業者の手作業によってねじ込むのは非常な労力である。このような不都合を回避すべく、近年タップ穴にインサートをねじ込む取り付け工具を電動化し、作業者の労力を軽減することが行われている。
【0005】
以下に示す特許文献1には、このようにユーザによる手動ではなく、自動でネジインサートをワークの雌ネジに確実に挿入でき、しかもコンパクトなネジインサート自動挿入装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-028679号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されているように、被加工物にインサートを挿入するためのインサート挿入工具を自動化した場合であっても、インサートをタップ穴に挿入した後は、タップ穴にインサートを残した状態でインサート挿入工具をタップ穴から引き上げる必要がある。
【0008】
インサート挿入工具を引き上げるタイミングについては、マンドレルの周囲に配置される、例えばカラーといわれる部材が被加工物に接触した際の駆動力のトルクの変化を検知してマンドレルの回転を反転させてインサート挿入工具を引き上げる制御が行われる。
【0009】
しかしながら、この方法はインサート挿入工具と被加工物が接触し、少なからず被加工物に傷を付けることになりかねない。当該傷はひっかき傷のようなあまり目立つような傷ではないとも考えられるが、業界によっては被加工物に一切の傷が付くことを禁止している場合もある。
【0010】
インサートを被加工物に挿入する現場では、上述したような指示を遵守するべく、例えば、作業者が目視によってインサートの被加工物への挿入具合を確認しインサート挿入工具を引き上げている。
【0011】
しかし、この方法の場合、作業者は細かくインサート挿入工具のON、OFFを行い、インサート挿入工具が被加工物の表面に接触しないように気を配る必要がある。また、細心の注意を図って作業をしても傷が付くことがあったり、作業者によって挿入具合がまちまちにならざるを得ない。そのため均質的にインサートを挿入するためには、多くの経験を必要とする。また、特に上述したように多数のインサートを被加工物に挿入しなければならない場合には、決して効率的とは言えない。
【0012】
本発明は、インサートを被加工物に挿入する際における被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止し、かつ、種類の異なる多数のインサートを挿入する場合でも均質的に効率よくインサートを被加工物に挿入することができるインサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具は、インサートを装着するマンドレルと、インサートを被加工物に挿入する際にマンドレルの回転開始の信号を入力するための入力装置と、マンドレルの回転を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、インサートを被加工物へ挿入する際に、マンドレルを含む挿入部の一部が被加工物に接触せずにインサートを被加工物に挿入するよう制御する。
【0014】
制御装置は、インサートを被加工物に挿入する際に、入力装置からのマンドレルの回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とした場合に、被加工物に挿入されるインサートの種類に応じて予め設定された挿入開始時からの挿入時間が経過した時に、インサートの被加工物への挿入動作を終了する。
【0015】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具は、さらに計時装置を備え、制御装置は、計時装置が挿入開始時から計測を開始した挿入時間の経過を知らせる報知信号を基にマンドレルの回転を反転させるよう制御する。
【0016】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具において、挿入時間は、インサート挿入工具の回転速度と被加工物に挿入されるインサートの被加工物への挿入距離によって算出され、インサートの種類ごとに予め記憶装置に記憶されている。
【0017】
制御装置は、インサートを被加工物に挿入する際に、インサートの一端部の被加工物への接触位置を基準位置とした場合に、基準位置からインサートが被加工物に挿入される距離を検出する検出センサからの検出信号を取得し、予め設定される挿入距離に到達したと判定した場合に、インサートの被加工物への挿入動作を終了する。
【0018】
制御装置は、検出センサからの検出信号を基に、被加工物に対して基準位置から予め設定される挿入距離までインサートを被加工物に挿入したと判定した場合、マンドレルの回転を反転させるように制御する。
【0019】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具の制御方法は、インサートをインサート挿入工具に装着するステップと、装着されたインサートを被加工物へ挿入するステップと、を有し、インサートを被加工物へ挿入する際に、マンドレルを含む挿入部の一部が被加工物に接触せずにインサートを被加工物に挿入するよう制御する。
【0020】
インサートを被加工物に挿入する際に、入力装置からのマンドレルの回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とした場合に、被加工物に挿入されるインサートの種類に応じて予め設定された挿入開始時からの挿入時間が経過した時に、インサートの被加工物への挿入を終了させる。
【0021】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具の制御方法は、挿入時間の経過を確認した場合に、インサート挿入工具のマンドレルを反転させて被加工物への挿入を終了させ、インサート挿入工具を被加工物から引き上げる。
【0022】
インサートを被加工物に挿入する際に、インサートの一端部の被加工物への接触位置を基準位置とした場合に、基準位置からインサートが被加工物に挿入される距離を検出する検出センサからの検出信号を取得し、予め設定される挿入距離に到達したと判定した場合に、インサートの被加工物への挿入動作を終了する。
【0023】
検出センサからの検出信号を基に、被加工物に対して基準位置から予め設定される挿入距離までインサートを被加工物に挿入したと判定された場合、マンドレルの回転を反転させて被加工物への挿入を終了させ、予め設定される挿入距離だけインサート挿入工具を被加工物から引き上げる。
【発明の効果】
【0024】
このような本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法であれば、インサートを被加工物に挿入する際における被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止し、かつ、種類の異なる多数のインサートを挿入する場合でも均質的に効率よくインサートを被加工物に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具の全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具を用いたインサートの被加工物への挿入の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具を含むインサート挿入装置の全体構成を示す模式図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具の構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具のマンドレルを含む挿入部と被加工物の一部を拡大して示す説明図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具を用いたインサートの被加工物への挿入の流れを示すフローチャートである。
図8】本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具が設定距離の分だけインサートを被加工物(タップ穴)に挿入した状態を示す説明図である。
図9】本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具が被加工物から離れてマンドレルの回転を停止した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具1の全体構成を示す模式図である。インサート挿入工具1は、被加工物にインサート(図1においていずれも図示せず)を挿入するために用いられる工具である。
【0028】
なお、本発明の実施の形態において使用されるインサート挿入工具1は、動力を基に駆動されるものであって、作業者が手動で被加工物にインサートを挿入するものではない。なお、動力を基に駆動されるものであれば、電動式やエンジン式等、動力源として何が用いられるかについては問わない。
【0029】
また、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1においては、図1における上下方向に長い形状とされており、ユーザが手に握って使用することを前提にしている。但し、ユーザが自ら用いる場合の他、例えば、ユーザが装置に触れることなく全自動で被加工物にインサートを挿入する際に用いられるインサート挿入装置のような場合であっても良い。
【0030】
さらにインサート挿入工具1が被加工物に挿入するインサートは、上述したように、断面が菱形形状の線材(例えば、ステンレスが用いられる)がコイル状に巻かれて形成されている。インサートの外周面が外側ネジとして機能し、インサートの内周面が内側ネジとして機能する。
【0031】
また、インサートの種類としては、タング付きインサートやタングレスインサートがある。前者の一端部には、例えば、コイルの直径方向に折り曲げられたタングが形成されている。このタング付きインサートをタップ穴に挿入する場合には、ユーザがインサート挿入工具を用い、インサート挿入工具の先端部でタングを挟み、あるいは、インサート挿入工具の先端部をタングに引っかけ、タングを介してインサートを回転させてタップ穴にねじ込む。
【0032】
一方、タングレスインサートにはタングは設けられておらず、その代わりにインサートの両端部にノッチ(切欠部)が形成されている。そのため、挿入に当たっては、当該ノッチにマンドレルに設けられる爪を引っ掛かけてマンドレルにインサートを固定し、マンドレルの回転に併せてインサートを回転させることによって被加工物へ挿入させる。
【0033】
このようにインサートには大きく2つの形状を備えるインサートがあるが、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1を用いて被加工物に挿入されるインサートの種類は、タング付きインサートであってもタングレスインサートであってもよい。
【0034】
そしてインサートが挿入される対象が被加工物である。被加工物には、事前にインサートが挿入されるタップ穴が形成されている。当該タップ穴は挿入されるインサートの大きさに対応して、インサートの径よりも若干小さな径となるように形成される。そしてインサート挿入工具1を用いてインサートがタップ穴にねじ込まれる。
【0035】
インサート挿入工具1は、本体部10と挿入部20とから構成されている。本体部10は、インサート挿入時においては、ユーザがその表面を把持するとともに、その内部に各装置や機構を収納している。一方挿入部20は、装着されたインサートを被加工物のタップ穴に挿入するために用いられる。
【0036】
本体部10は概ね円筒形状に形成されており、ユーザがインサートを被加工物に挿入する際にインサート挿入工具1を把持する部分である。本体部10がこのような形状に形成されていることによって、被加工物にインサートを挿入する際にしっかりとインサート挿入工具1を握ることができ、インサートがタップ穴に挿入される際にぐらつくことを防止することができる。
【0037】
本体部10には、入力装置11が設けられており、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1の場合、第1の入力装置11aと第2の入力装置11bとに分かれている。第1の入力装置11aは、レバー状に形成されており、本体部10の概ね中央部に本体部10から外側に突出するように設けられている。
【0038】
第1の入力装置11aは、ユーザがインサート挿入工具1を用いて被加工物にインサートを挿入する際に、後述するマンドレルの回転を開始させるスイッチの役割を果たす。すなわち、ユーザがインサート挿入工具1の本体部10を握り、第1の入力装置11aに指を掛けて本体部10側へ移動させることによってスイッチが入り、マンドレルの回転が開始する。
【0039】
なお、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1では、第1の入力装置11aは、上述したようにマンドレルの回転を開始させるスイッチである。従って、一度ユーザによって操作されれば、その後はユーザが操作し続けなくても、すなわち、第1の入力装置11aを握り続けなくてもマンドレルは回転し続ける。
【0040】
さらにインサート挿入工具1は、第2の入力装置11bも備える。第2の入力装置11bは、図1に示すように本体部10の表面にボタン状に配置されており、ユーザが当該ボタン(第2の入力装置11b)を押すことによって、各ボタンに割り当てられた機能を選択することができる。
【0041】
なお、第1の入力装置11aは、ユーザの操作のしやすさを考慮して図1に示すような形状に形成されているが、同様の機能を果たすのであれば、他の形状のレバー、或いは、レバーではなく、例えばスイッチ形状であっても良く、その形状は問わない。
【0042】
また、ここでは第2の入力装置11bの形状については上述したようなボタン状であるが、その形状についてはどのような形状であっても構わない。また、ボタンの数や配置位置についても求められる機能に合わせて自由に設定することができる。
【0043】
本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1では、第2の入力装置11bの上部に報知装置12が設けられている。報知装置12は、例えば、第2の入力装置11bによって選択された機能に関する表示や、被加工物に挿入されたインサートの数等を表示させることができる。
【0044】
また、報知装置12には、挿入するインサートに関する情報を入力する際の情報を表示させることもできる。さらに、これらの情報だけではなく、ユーザに報知する内容等、様々な情報を表示させることができる。
【0045】
なお、報知装置12としては、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどを用いることが可能である。さらに、図1に示すような画面表示ではなく、例えば、ランプのような態様を採用しても良い。
【0046】
また、報知装置12は、図1に示すようなユーザの視覚に訴えるような報知を行う装置である場合の他、音声や振動等、ユーザの五感に訴える報知を行うことができるのであれば、どのような機構を採用することも可能である。
【0047】
インサート挿入工具1の上部には、接続部10aが設けられており、例えば、インサート挿入工具1を駆動制御するための電源が供給されるコードが接続される。
【0048】
挿入部20は、本体部10の下部に配置され、被加工物のタップ穴にタング付きインサートまたはタングレスインサートを挿入する機能を果たす。挿入部20は、例えば、駆動装置21と、ハウジング22と、マンドレル23と、固定部材24とを備えている。そして挿入部20は、当該インサート挿入工具1の長手方向がインサートの挿入方向となるため、本体部10の長手方向に連続するように設けられている。
【0049】
駆動装置21は、挿入部20の中心軸を回転中心とし、後述するマンドレルを回転させるものである。駆動装置21は、例えば、モータや連結機構(いずれも図示せず)等を有している。また、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1の場合、駆動装置21は本体部10にその一部が収容されるように設けられている。
【0050】
ハウジング22は、円筒形状(管形状)に形成されており、このハウジング22内にマンドレル23が挿入されている。ハウジング22の下端には緩衝部材22aが設けられており、例えば、樹脂を用いて環状に形成されている。
【0051】
当該緩衝部材22aは、インサートが被加工物のタップ穴に埋め込まれる際に、万が一挿入部20が被加工物の表面に接触したとしても、可能な限り被加工物の表面にこすれ傷等の傷を付けないようにするために設けられている。ハウジング22の内周面には、ハウジング22の中央付近から上端にかけて雌ネジ(図示せず)が形成されている。
【0052】
マンドレル23の上端側は駆動装置21に連結されることから、マンドレル23は、駆動装置21からの駆動力を受けて回転する。一方その下端側には、後述するようにインサートが装着され、マンドレル23が回転しながら被加工物のタップ穴にマンドレル23の下端(先端)が挿入することによって、インサートがタップ穴にねじ込まれる。
【0053】
マンドレル23は、インサートの挿入方向に延伸するように円柱形状に形成されている。このマンドレル23の外周面には、雄ネジ23aがマンドレル23の中央付近からからマンドレル23の上端付近まで形成されている。この雄ネジ23aが、ハウジング22の内周面に形成された上述の雌ネジに組み合わされ、マンドレル23がハウジング22内に一体に保持される。
【0054】
また、マンドレル23の下端側(先端側)の外周面には、雄ネジ23bが形成されている。この雄ネジ23bに図示しないインサートが組み合わされ、インサートはマンドレル23に装着される。一方マンドレル23の上端部は、六角ビット(図示せず)形状に形成されており、この六角ビットの部分が本体部10の下端部(本体部10の先端部)に装着される。
【0055】
なお、マンドレルの下端は、装着されるインサートがタング付きインサートか、或いは、タングレスインサートであるかによってその形状が異なる。例えば挿入部20がタングレスインサート用の挿入工具である場合には、フック部(爪)を有するパウル(図示せず)などの各種部材がマンドレル23に設けられている。
【0056】
固定部材24は、マンドレル23の外周面の雄ネジ23aに装着可能に形成されている。つまり、固定部材24の内周面には、雌ネジ(図示せず)が固定部材24の下端から上端まで形成されている。この固定部材24は、マンドレル23の外周面の雄ネジ23aに組み合わされてハウジング22の上端に当接することにより、マンドレル23に対してハウジング22の位置を固定するものである。固定部材24としては、例えば、ロックナット等が用いられる。
【0057】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具1の構成を示すブロック図である。本体部10には、入力装置11と、報知装置12と、駆動制御装置13と、記憶装置14と、計時装置15と、制御装置16と、が設けられている。
【0058】
入力装置11は、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1の場合、第1の入力装置11aと、第2の入力装置11bとを備えており、ユーザが各種操作を入力する。入力装置11を介して入力された入力信号は、バスBを介して後述する制御装置16に送信される。
【0059】
報知装置12は、上述した、例えば、インサートを被加工物に挿入する際の制御に関する情報や挿入されたインサートの数(員数)等の各種情報を制御装置16の制御に従って表示する。
【0060】
駆動制御装置13は、制御装置16からの指示に基づき、マンドレル23に駆動力を付与し、マンドレル23を回転させることによって、被加工物のタップ穴にインサートをねじ込む。
【0061】
記憶装置14は、例えば、半導体や磁気ディスク等で構成されており、後述するインサート挿入工具1の制御方法に関する駆動プログラムやインサートに関する情報等が記憶されている。また、インサートの種類と種類ごとの挿入時間とが互いに紐付けられて記憶されている。
【0062】
計時装置15は、ユーザがインサート挿入工具1を用いてインサートを被加工物に挿入する際に、マンドレル23を回転させるのに必要な時間を計測する。
【0063】
制御装置16は、インサート挿入工具1の各部を統合的に制御する。例えば、制御装置16は、被加工物に挿入されるインサートの種類に応じて駆動制御装置13を介したマンドレル23の駆動制御を行う。
【0064】
なお、制御装置16の内部には、図示しない、例えば、CPU、ROM、及び、RAMが設けられている。簡単にこれらの機能を説明すると、CPUは、RAMや記憶装置14等に記憶されたプログラム及びデータを読み出してRAMにロードするとともに、RAMから読み出されたプログラムのコマンドに基づいて、例えば、次に説明するインサート挿入工具1の駆動制御を実現する処理装置である。
【0065】
すなわち、上述したようにインサートを被加工物に挿入するに当たって、インサート挿入工具1が被加工物の表面に接触して当該表面にこすれ傷等の傷を付けることは好ましくない。本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1においては、緩衝部材22aが設けられているものの、この緩衝部材22aが被加工物の表面に接触することすら禁忌である場合がある。
【0066】
そこで、ユーザが本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1を使用する場合には、制御装置16は、インサートを被加工物へ挿入するに当たって、緩衝部材22aが被加工物の表面に接触しないようにマンドレル23の回転を制御する。但し、挿入されるインサートの大きさや巻き数はまちまちであり、インサートの種類によって、或いは、マンドレル23の回転速度によって挿入に掛かる時間も異なる。
【0067】
そこで、これらインサートの種類ごとに挿入時間を予め設定して記憶装置14に記憶させておき、選択されたインサートの種類によって最適な挿入時間を用いてインサートを被加工物に挿入する。このような制御を行うことによって、インサートは確実に被加工物に挿入される一方で、緩衝部材22aは被加工物の表面に接触しないので、その表面をこすれ傷等の傷をつけることがない。
【0068】
具体的には、上述したように事前に記憶装置14にインサートの種類ごとの挿入時間が記憶される。インサートについては、様々な種類があるが、それぞれ被加工物のタップ穴に挿入する際に必要とされる時間(以下、適宜「挿入時間」と表す)は異なる。そのためインサートの種類ごとに挿入時間を算出し、算出された挿入時間の情報を記憶装置14に記憶させる。
【0069】
ここで、挿入時間については、制御装置16が入力装置11からのマンドレル23の回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とするが、インサートがタップ穴の所望の深さまで挿入されるまでの時間である。すなわち、挿入時間に従って挿入すれば、被加工物に対してインサートが挿入不良となることがない。ここで「挿入不良」とはインサートがタップ穴に完全に埋め込まれない場合の他、必要以上に深くタップ穴に挿入されてしまうような場合も含む。
【0070】
そして挿入時間は、インサート挿入工具1の回転速度と被加工物に挿入されるインサートの被加工物への挿入距離によって算出される。或いは、実際に挿入した際の時間を計測して挿入時間を算出しても良い。
【0071】
なお、このようにインサートの種類ごとに挿入時間が算出され挿入時間に関する情報が記憶装置14に記憶されるが、インサート挿入工具1には、例えば、インサート挿入工具1を製造する際に予め挿入時間に関する情報が記憶された記憶装置が取り付けられる。
【0072】
或いは、第2の入力装置11bを用いてユーザが記憶装置14にインサートの種類ごとの挿入時間を入力することによって記憶装置14にインサートの種類ごとの挿入時間に関する情報を記憶させても良い。
【0073】
次に、インサートをタップ穴に挿入するに当たって、まずインサートがユーザによってインサート挿入工具1のマンドレル23に装着される。例えば、ユーザは本体部10を把持し、本体部10に連結された挿入部20のマンドレル23の雄ネジ32bにインサートを回し入れ、インサート挿入工具1の先端部にインサートを装着する。
【0074】
そしてユーザは第2の入力装置11bを用いて、インサート挿入工具1に装着されたインサートの種類に応じた挿入時間を選択する。ここでは、挿入の対象となる、インサート挿入工具1に装着されたインサートの種類を選択することによって選択されたインサートの種類に関する情報が入力装置11から制御装置16へと送られ、当該情報を基に制御装置16が記憶装置14にアクセスして該当するインサートの挿入時間に関する情報を取得する。
【0075】
その上で、インサート挿入工具1の本体部10を把持するユーザは、マンドレル23の先端部に装着したインサートが被加工物のタップ穴の縁に接触するような位置にインサート挿入工具1を位置付ける。この状態で、ユーザが第1の入力装置11aを握ると、入力信号が制御装置16に送信され、制御装置16から駆動制御装置13へとマンドレル23の回転開始の信号が送られる。
【0076】
挿入部20は、駆動装置21により自動で回転し、併せてマンドレル23の先端部に装着されているインサートも回転する。そしてインサートは、回転しながら徐々にタップ穴の中にねじ込まれて挿入される(埋め込まれる)。
【0077】
制御装置16は、インサートを被加工物に接触させながら第1の入力装置11aがユーザによって握られることによってマンドレル23が回転を開始した時を挿入開始時とする。そして当該挿入開始時をトリガとして、制御装置16は計時装置15に対して事前に記憶装置14から取得したインサートの挿入時間を計測する指示を出す。
【0078】
次いで、計時装置15は被加工物に挿入されるインサートの種類に応じて予め設定された挿入開始時からの挿入時間を測定し、当該測定時間が経過するとその旨の報知信号を制御装置16に送信する。制御装置16では、計時装置15からの挿入時間経過の情報を受信すると、駆動制御装置13に対してマンドレル23の回転を停止させる信号を送信し、インサートの被加工物への挿入動作を終了する。
【0079】
[動作]
次に、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1を用いたインサートの挿入時における制御の流れについて、図3を用いて説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係るインサート挿入工具1を用いたインサートの被加工物への挿入の流れを示すフローチャートである。
【0080】
まず被加工物のタップ穴に挿入されるインサートである、インサート挿入工具1に装着されるインサートの種類が選択される(ST1)。ユーザは、例えば、報知装置12を見ながら第2の入力装置11bを操作して該当するインサートを選択する。選択されたインサートに関する情報は、入力装置11から制御装置16へとバスBを介して送信される。
【0081】
制御装置16では、受信したインサートの種類に関する情報を基に記憶装置14にアクセスして該当するインサートに関する挿入時間を取得する(ST2)。ユーザはインサート挿入工具1にインサートを装着する(ST3)。
【0082】
なお、当該ステップST3の処理は、インサート挿入工具1の処理ではなく、ユーザが行う処理であることから、図3に示すフローチャートでは破線で囲んで示している。また、このようなユーザが行う処理もインサート挿入工具1の処理を併せて示したのは、被加工物へのインサートの挿入の流れ、すなわち、インサート挿入工具1の制御の流れが分かりやすいからである。従って、ユーザの動作とインサート挿入工具1における制御の流れとを区別することなく一連の流れとして処理の順番を示すステップの番号を連番で示している。
【0083】
また、ここではインサートの種類の選択及び挿入時間の設定と、インサート挿入工具1へのインサートの装着の順序を上述した順番で説明したが、インサートの装着が完了してからインサートの種類の選択等の処理が実行されても良い。
【0084】
制御装置16では、挿入開始の信号を受信したか否かを判定する(ST4)。当該判定は、ユーザによって第1の入力装置11aが握られて、マンドレル23の回転を開始させる信号が制御装置16において受信されたか否かで行われる。
【0085】
マンドレル23が回転を開始しない場合は被加工物へのインサートの挿入が開始されていないことを示しており、制御装置16では引き続き待機状態となる(ST4のNO)。一方、ユーザが被加工物にインサートを接触させてマンドレル23の回転を開始したと制御装置16が判定した場合には(ST4のYES)、制御装置16から計時装置15へ挿入時間の計測の指示が出され、計時装置15は制御装置16が取得したインサートの挿入時間の計測を開始する(ST5)。
【0086】
ユーザは、インサートを回転させながら被加工物のタップ穴に挿入する(ST6)。インサートはタップ穴の被加工物の表面側から奥側に向けて徐々にねじ込まれる。
【0087】
制御装置16では、挿入時間が経過したか否かを判定する(ST7)。具体的には、計時装置15から挿入時間が経過した旨の報知信号を受信したか否かを確認する。そして、計時装置15からの信号を受信しない間は継続してマンドレル23に対して駆動制御装置13を介して駆動力を付加しマンドレル23を回転させ、インサートをタップ穴に挿入させる(ST7のNO)。
【0088】
一方、計時装置15から挿入時間が経過した旨の報知信号を受信した場合には(ST7のYES)、制御装置16は駆動制御装置13から駆動装置21に回転を反転させる信号を送り、マンドレル23を反転させる(ST8)。
【0089】
すなわち、挿入時間が経過することによって、インサートはタップ穴に所望の深さだけ挿入されたことになり、これ以上の挿入は不要である。そこで、挿入時間が経過したことをもってマンドレル23の回転を反転させる。
【0090】
これによりマンドレル23はタップ穴の内部にインサートを残したまま、インサート挿入工具とともに被加工物から離れるように上方へと移動することになり、インサート挿入工具1による被加工物へのインサートの挿入処理は終了する。
【0091】
以上説明したようなインサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法であれば、インサートを被加工物に挿入する際における被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止し、かつ、種類の異なる多数のインサートを挿入する場合でも均質的に効率よくインサートを被加工物に挿入することができる。
【0092】
特にインサートのタップ穴への挿入について、インサートの種類に応じた挿入時間が設定され、当該挿入時間に基づいてマンドレルの回転が制御されることによって、インサートが被加工物の表面に接触してこすれ傷等の傷を付けることを防止することができる。
【0093】
なお、以上の本発明の第1の実施の形態における説明において、マンドレル23に対する回転開始の信号のトリガは、ユーザが手で第1の入力装置11aを握ることによって発出されていることを前提にしたが、例えば、フットスイッチ等の他の入力装置を用いることによっても良い。
【0094】
同様に、本発明の実施の形態におけるインサート挿入工具1では、制御装置16をその内部に配置することを前提としたが、制御装置をインサート挿入工具とは別の装置とすることも可能である。この場合には、例えば、制御装置の中にインサートの種類に応じた挿入時間に関する情報が記憶されており、ユーザが制御装置においてインサートの種類を選択することで、制御装置からインサート挿入工具に対して接続部を介して制御信号が送信され、制御される。
【0095】
また、インサートをユーザが手でインサート挿入工具に装着するのではなく、インサート整列装置等を用いてインサートをインサート挿入工具に装着させることも可能である。この場合、インサートの被加工物のタップ穴への挿入開始時間は、インサート挿入工具の動きに応じて設定されても良い。
【0096】
すなわち、例えば、インサート整列装置において整列されたインサートを装着し、一旦上昇して被加工物まで移動した後、タップ穴近傍まで降下し、降下時間として設定された時間が終了した時間をインサートのタップ穴への挿入開始時間とすることができる。
【0097】
(第2の実施の形態)
次に本発明における第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態において、上述の第1の実施の形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一の構成要素の説明は重複するので省略する。
【0098】
上述した第1の実施の形態においては、インサート挿入工具1を用いて被加工物にインサートを挿入する際に、その挿入時間を管理することで、被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止した。これに対して、第2の実施の形態におけるインサート挿入工具の制御方法では、インサートを被加工物へ挿入する際に、マンドレル23を含む挿入部20の一部が被加工物に接触せずにインサートを被加工物に挿入する方法として、インサートの被加工物への挿入距離を管理する方法を採用する。
【0099】
ここで、図4は、本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具1Aを含むインサート挿入装置30の全体構成を示す模式図である。インサート挿入装置30は、インサート挿入工具1Aを用いて被加工物Wにインサートを自動で挿入することが可能な装置として構成されている。
【0100】
なお図4では、インサート挿入装置30、被加工物Wが載置されている平面をX方向、Y方向で示されるX-Y平面であるとする。そして、当該X-Y平面と直交する方向である高さ方向をZ方向とする。
【0101】
図4に示すインサート挿入装置30は、例えば、机や作業台等の上に載置されている。ここでは、インサート挿入装置30が載置されている平面は、X-Y平面であり、同じ平面上に被加工物Wも載置されている。但し、インサート挿入装置30の載置面と被加工物Wの載置面とは、必ずしも同一平面上に載置されていなくても良い。
【0102】
インサート挿入装置30は、インサート挿入工具1Aと当該インサート挿入工具1AをX、Y、Zの3方向に移動させるための移動機構Mとを備えている。さらに、インサート挿入工具1AのZ方向の移動距離を検出する検出センサSも設けられている。
【0103】
インサート挿入工具1Aは、固定装置Hを介して移動機構Mに取り付けられている。移動機構Mは、当該固定装置Hと連結される、Z方向移動部M1と、Z方向移動部M1と連結され、Y方向にインサート挿入工具1Aを移動させるY方向移動部M2と、当該Y方向移動部M2と連結され、X方向にインサート挿入工具1Aを移動させるX方向移動部M3とを備えている。
【0104】
そしてインサート挿入装置30における移動機構Mでは、Z方向上から下に向けて、Z方向移動部M1と、Y方向移動部M2と、X方向移動部M3とが配置され、X方向移動部M3は、インサート挿入装置30が載置されるX-Y平面に接している。
【0105】
従って、移動機構Mの各部を移動させることで、固定装置Hを介して当該移動機構Mに固定されるインサート挿入工具1AをX、Y、Zの3方向のいずれの方向にも移動させることが可能である。
【0106】
そして、当該インサート挿入工具1Aの移動に当たっては、上述したX、Y、Zの3方向の移動位置が座標として予め設定されている。そのため、例えばインサートを被加工物Wに挿入する際のタップ穴の位置が座標で設定されている。また、インサート整列装置が用いられる場合は、インサート挿入工具1Aにインサートを装着するためにインサートが整列されている各整列穴の位置が座標で設定されていても良い。
【0107】
なお、移動機構Mにおけるインサート挿入工具1Aを各方向に移動させる方法(構造)については、例えば、ラックアンドピニオン等、どのようなものであっても良い。また、Z方向移動部M1等の各部は上述した位置に配置されるが、必ずしもこのようは配置位置に限定されない。
【0108】
例えば、Y方向移動部M2とX方向移動部M3の配置位置については、X方向移動部M3の方がY方向移動部M2よりもZ方向上部に配置されていても良い。また、移動機構Mの全体構造についても、各部の配置位置に適した構造とされていれば足りる。
【0109】
インサート挿入工具1Aの構造は、上述した第1の実施の形態におけるインサート挿入工具1と概ね同じである。但し、上述した移動機構Mや検出センサSを備えるインサート挿入装置30の全体を制御することから、本体部10Aの構成が上述した第1の実施の形態における本体部10とは異なる。
【0110】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具1Aの構成のうち、特に本体部10Aの内部を示すブロック図である。本体部10Aに、入力装置11と、報知装置12と、駆動制御装置13と、記憶装置14と、計時装置15と、制御装置16と、が設けられている。これらは第1の実施の形態におけるインサート挿入工具1の本体部10と同じ内部構成であり、各部の機能についてはこれまで説明した通りである。
【0111】
本体部10Aでは、さらに、取得装置17と、移動機構制御装置18とが設けられている。取得装置17は、検出センサSが検出した距離に関する情報を取得する。なお、ここで「距離に関する情報」とは、インサートが被加工物Wに挿入される際のZ方向下向きに向けての移動距離のことである。
【0112】
上述したように、インサートを被加工物に挿入する際には、インサート挿入工具1Aの先端にインサートを装着し、当該インサートの一端部を被加工物Wに形成されているタップ穴にねじ込む。従って、挿入に当たっては、まずインサートの一端部がタップ穴が形成されている被加工物Wの表面W1に接触する。
【0113】
ここで図6は、本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具1Aのマンドレル23を含む挿入部20と被加工物Wの一部を拡大して示す説明図である。図6では、マンドレル23に装着されたインサートIの一端部I1が、被加工物Wの表面W1に開口して形成されているタップ穴W2に接している状態が示されている。
【0114】
このように、インサートIの一端部I1が被加工物W(タップ穴W2)に接触する位置が、インサートIが被加工物Wに挿入される際に管理される距離の起点となる位置に該当する。そこでこの位置を、以下適宜「基準位置P」と表す。
【0115】
なお上述したように、インサート挿入工具1Aの移動に当たって、インサートIが挿入される被加工物W(タップ穴W2)の位置は、事前にX、Y、Zの各座標として設定されている。従って、この「基準位置P」については、インサートIが装着されたインサート挿入工具1Aが移動する位置が予め座標として設定されたものといえる。
【0116】
インサートIがこの状態からZ方向下向きにタップ穴W2にねじ込まれることによって、インサートIが被加工物Wに挿入されることになる。但し、挿入に当たっては、インサートIがタップ穴W2の内部において適切な位置にねじ込まれる(配置される)ことが求められる。
【0117】
すなわち、インサートIが被加工物Wに挿入された際に、タップ穴W2に必要以上に深くねじ込まれる状態が発生すると、インサート挿入工具1Aの、例えば、緩衝部材22aが被加工物Wの表面W1に接触する可能性が生ずる。一方で、インサートIのタップ穴W2への挿入距離が設定よりも短いと、インサートIの他端部I2が被加工物Wの表面W1よりもZ方向上側に突出することになる。このような状態となると、そもそもインサートIとしての機能が果たされない等、種々の不都合が生じうる。従って、これらのような状況が発生することを回避する必要がある。
【0118】
そこで本発明の第2の実施の形態においては、マンドレル23を含む挿入部20の一部が被加工物Wに接触せずにインサートIを被加工物Wに挿入する方法の1つとして、インサートIが被加工物Wのタップ穴W2に挿入される際の距離を基に、挿入を管理する方法を採用する。
【0119】
そのためには、インサートIがどのくらいの距離タップ穴W2に挿入されたかを把握する必要がある。そのための基準となる位置として、インサートIの一端部I1が被加工物Wへ接触する位置、すなわち、インサート挿入工具1Aの移動先の座標として設定されている位置を、上述したように基準位置Pと設定している。この基準位置Pの位置を「ゼロ」として、インサートIをタップ穴W2に挿入する距離として予め設定される設定距離D分インサートIを挿入するように制御すれば、被加工物Wの所望の位置までインサートIを挿入することができる。
【0120】
但し、インサートIは被加工物Wに埋設されて用いられるものであることから、埋め込まれるインサートIの挿入距離を直接検出することは難しい。そこで、本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具1Aの制御方法においては、インサートIが被加工物Wに挿入される距離を検出するのではなく、インサートIを被加工物Wに挿入する際のインサート挿入工具1Aの移動距離をインサートIの挿入距離と取り扱う。
【0121】
なお、以下においては、インサートIを被加工物Wに埋め込むために予め設定される距離を「設定距離D」と表す。一方で、上述したインサートIを被加工物Wに挿入する際のインサート挿入工具1Aの移動距離、すなわち、インサートIがタップ穴W2に挿入される距離を「挿入距離d」と表す。そのため、挿入距離dは最終的に設定距離Dと等しい値となる。また挿入距離dは、インサートIがタップ穴W2にねじ込まれる際にZ方向下向きに移動する距離に該当することからインサート挿入工具1Aの移動に伴って変化する値である。
【0122】
またここで、最終的にインサートIが挿入される距離として設定される設定距離Dは、タップ穴W2が形成された際の、被加工物Wの表面W1からの深さと必ずしも一致しない。これは例えば、タング付きインサートを用いた場合に、当該タングを折り取る際のスペースを確保する必要があるからである。
【0123】
そしてこの挿入距離dを検出するために、検出センサSが設けられている。検出センサSは、図4に示すように、被加工物Wに対するインサートIの挿入距離dに代替するインサート挿入工具1AのZ方向下向きの移動距離を検出する検出装置S1と当該検出装置S1を動作させる作用装置S2とを備えている。
【0124】
検出センサSは、X、Y方向のいずれの位置においてもインサート挿入工具1AのZ方向下向きの移動距離を検出することができるように、インサート挿入工具1Aの移動に追随可能に設けられている。そのため、本発明の第2の実施の形態では、検出装置S1がZ方向移動部M1と並立する位置に配置されている。
【0125】
また、作用装置S2は、インサート挿入工具1Aと移動機構Mとを連結する固定装置Hに固定されている。検出センサSは、インサート挿入工具1AのZ方向の移動に合わせて適宜作用装置S2が検出装置S1の先端に接触する。この作用装置S2が検出装置S1の先端に接触した位置が基準位置Pに該当する。
【0126】
換言すれば、上述したようにインサートIの挿入が開始される位置は、インサート挿入工具1Aが移動する先の位置として予めその座標が設定されている。そしてこの座標が基準位置Pに該当することから、インサート挿入工具1Aが基準位置Pに到達した際に、作用装置S2が検出装置S1の先端に接触するように検出センサSの配置位置が設定される。
【0127】
そしてインサートIの一端部I1がタップ穴W2に接触後、インサート挿入工具1AがさらにZ方向下向きに移動すると、インサートIはタップ穴W2にねじ込まれるとともに、作用装置S2によって検出装置S1の先端もZ方向下向きに押し込まれる。上述したように、当該「基準位置P」が距離ゼロと設定されていることから、この位置を基準にインサートが被加工物Wに挿入される距離(挿入距離d)が検出される。
【0128】
なお、タップ穴W2はインサートIが挿入される穴であるが、当該タップ穴W2は、予め被加工物Wに形成されている。但し、例えば複数のタップ穴W2が形成されている場合に、特に被加工物Wの表面W1近傍において切られるネジ穴の向きは様々である。一方、インサートIについてもマンドレル23に装着される際に装着開始の位置が定められているわけではなく、マンドレル23に装着されたインサートIの一端部I1の向きも統一されていない。
【0129】
そのため、タップ穴W2にインサートIをねじ込むに当たってインサートIの一端部I1がタップ穴W2に接触した際における、タップ穴W2に切られるネジ穴の向きは、挿入されるインサートIの一端部I1の向きと必ずしも一致しない。そのため、インサートIの一端部I1がタップ穴W2に接触してから実際にタップ穴W2にねじ込まれるまでの時間については、個々のインサートIごとに異なることが考えられる。
【0130】
但し、上述したように、作用装置S2が検出装置S1をZ方向下向きに押し込んでインサートIが被加工物Wに挿入される際の挿入距離dを検出するのは、実際にインサートIがタップ穴W2に挿入を開始してからである。すなわち、検出センサSがインサートIの挿入距離dを検出するのは、タップ穴W2のネジ穴の向きとインサートIの一端部I1の向きとが一致して当該一端部I1がタップ穴W2に進入を開始してからである。
【0131】
そのため、実際にインサートIの一端部I1がタップ穴W2に進入するまでは挿入距離dはゼロのままである。従って、インサートIの挿入距離dは、どのようなタップ穴W2とインサートIとの組み合わせであっても検出センサSによって正確に検出される。
【0132】
検出装置S1の先端が押し込まれた距離がインサート挿入工具1AのZ方向下向きの移動距離であり、インサートIが被加工物Wに挿入された挿入距離dに該当する。そして検出センサSで検出されたインサートIの被加工物Wに対する挿入距離d(インサート挿入工具1Aの移動距離)に関する情報は、取得装置17において取得される。
【0133】
具体的には、取得装置17は、基準位置Pの位置からインサートIが被加工物Wに挿入される挿入距離dを検出した検出センサSからの検出信号を挿入距離dに関する情報として取得する。そして当該インサートIの被加工物Wへの挿入距離dが設定距離Dの分だけ挿入されたか否かを当該挿入距離dと設定距離Dとを比較することで判定する。
【0134】
なお、取得装置17は、検出センサSからの挿入距離dの情報を、予め設定された間隔で取得する。従って、例えば、検出センサSの検出装置S1の移動をリアルタイムで取得することも可能であり、或いは、所定の間隔ごとに取得するように設定することも可能である。
【0135】
取得装置17が、インサートIの挿入距離dが設定距離Dに到達したと判定した場合には、インサートIの被加工物Wへの挿入動作を終了するよう、駆動制御装置13や移動機構制御装置18に指示する。これにより、設定距離D以上にインサートIが被加工物Wに挿入されることはない。同様に、設定距離Dだけ確実にインサートを被加工物Wに挿入することができる。
【0136】
移動機構制御装置18は、制御装置16の指示に基づき、挿入対象となるタップ穴W2にインサートIが設定距離Dの分だけ挿入されるよう、移動機構Mを制御してインサート挿入工具1Aを移動させる。
【0137】
[動作]
次に、本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具1を用いたインサートIの挿入時における制御の流れについて、図7等を用いて説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態に係るインサート挿入工具1Aを用いたインサートの被加工物Wへの挿入の流れを示すフローチャートである。
【0138】
まず被加工物Wのタップ穴W2にインサートIを挿入するに当たって、インサートIの設定距離Dを設定する(ST31)。これは、インサートの種類とは関係なく、任意に設定することができる数値である。ユーザは、例えば、報知装置12を見ながら第2の入力装置11bを操作して該当する設定距離Dを入力、或いは、選択する。入力等された設定距離Dに関する情報は、入力装置11から制御装置16へとバスBを介して送信される。
【0139】
ユーザはインサート挿入工具1にインサートIを装着する(ST32)。なお、当該ステップST32の処理は、インサート挿入工具1Aの処理ではなく、ユーザが行う処理であることから、図7に示すフローチャートでは破線で囲んで示している。但し、インサート整列装置を用いてインサート挿入工具1Aに自動でインサートIを装着することも可能であることは、上述した通りである。
【0140】
また、このようなユーザが行う処理もインサート挿入工具1の処理を併せて示したのは、被加工物WへのインサートIの挿入の流れ、すなわち、インサート挿入工具1Aの制御の流れが分かりやすいからである。従って、ユーザの動作とインサート挿入工具1Aにおける制御の流れとを区別することなく一連の流れとして処理の順番を示すステップの番号を連番で示している。
【0141】
ユーザがマンドレル23にインサートIを装着した後、インサート挿入工具1Aは挿入の対象となるタップ穴W2の上部まで移動する(ST33)。インサート挿入工具1Aの移動は、制御装置16の指示に基づいて、予め設定されている座標の位置(基準位置P)まで移動機構制御装置18が移動機構Mを駆動制御することによって実行される。
【0142】
制御装置16は、挿入するインサートIを所望のタップ穴W2の上部に配置させた後、インサート挿入工具1Aを被加工物Wに向けて降下させる(ST34)。インサート挿入工具1AがZ方向下向きに移動することによって、作用装置S2も同じく降下する。
【0143】
なお、基準位置Pの座標は予め設定されていることから、このようにまずインサートIをタップ穴W2の上部に配置させた後、インサート挿入工具1Aを降下させるといった流れでインサート挿入工具1Aを移動させずとも良い。すなわち、X方向、Y方向、及び、Z方向へのインサート挿入工具1Aの移動が同時に行われても良い。但しここでは説明の都合上、インサート挿入工具1Aは、上述したステップST33、及び、ステップST34に示す移動を行うこととする。
【0144】
例えば、インサート挿入工具1Aの降下開始直後は、マンドレル23に装着されたインサートIも被加工物Wの表面W1の位置まで到達していない。そのため、降下する作用装置S2は未だ検出装置S1の先端に接触していない。従って、検出装置S1ではインサートIの挿入距離dを検出することはない。
【0145】
なおここでは、このようにインサートIが被加工物Wに挿入されず挿入距離dが検出されない状態を、挿入距離d=基準位置Pの状態であると把握する。すなわち、インサートIは予め設定されている座標位置まで移動していないことから、インサートIの挿入距離d(インサート挿入工具1Aの移動距離)はゼロのままである。
【0146】
取得装置17では、検出装置S1からの挿入距離dに関する情報を受信する。但し、上述したように、インサート挿入工具1Aが基準位置Pまで移動していない状態、すなわち、作用装置S2が検出装置S1に接触するまでは、挿入距離dはゼロのままであり、挿入距離dに変化はない。従って、取得装置17は検出センサSから取得する挿入距離dについて変化があるか否かを判定する(ST35)。
【0147】
そして、インサート挿入工具1Aが基準位置Pに到達し、作用装置S2が検出装置S1に接触して検出装置S1が押し込まれて挿入距離dに変化が生じるまでは(ST35のNO)、ステップST34に戻って、引き続きインサート挿入工具1AをZ方向下向きに移動させる。
【0148】
インサート挿入工具1Aが引き続きZ方向下向きに降下すると、図6の矢印に示すように、ある位置で作用装置S2が検出装置S1の先端に接触する。この「ある位置」とは、マンドレル23に装着されたインサートの一端部が被加工物Wの表面W1に接触した位置であり、上述した「基準位置P」である。
【0149】
この状態から、さらにインサート挿入工具1AがZ方向下向きに移動すると、作用装置S2によって検出装置S1が押し込まれる。すなわち、インサート挿入工具1AがZ方向下向きに移動することで、インサートIの一端部I1とタップ穴W2との位置関係、すなわち、基準位置Pからの挿入距離dに変化が生ずる(ST35のYES)。そしてこの動きに連動して検出装置S1が作用装置S2によってZ方向下向きに押し込まれる。
【0150】
この状態は、タップ穴W2へインサートIの挿入が開始されたことを示し(ST36)、検出センサSはインサート挿入工具1Aの移動距離を検出する(ST37)。取得装置17では、検出センサSから挿入距離dの情報を取得し、検出センサSによって検出されたインサート挿入工具1Aの移動距離(挿入距離d)と予め設定されている設定距離Dとの比較を行う(ST38)。
【0151】
その結果、インサート挿入工具1Aの移動距離(挿入距離d)が設定距離Dに満たない場合には(ST38のNO)、引き続きインサート挿入工具1Aを降下させてタップ穴W2にインサートIを挿入する。
【0152】
一方、検出センサSから取得したインサート挿入工具1Aの移動距離(挿入距離d)が設定距離Dと等しいと判定された場合には(ST38のYES)、取得装置17は判定結果を制御装置16に送信する。
【0153】
この状態を示したのが図8である。図8は、本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具1Aが設定距離Dの分だけインサートIを被加工物W(タップ穴W2)に挿入した状態を示す説明図である。
【0154】
インサート挿入工具1Aが図8に示す矢印の方向に移動し、インサートIがタップ穴W2へ設定距離Dの分だけ挿入されると、設定距離Dと挿入距離dとは等しい値となる。そして、このように挿入距離を基にインサート挿入工具1Aの挿入の制御を行うことによって、図8に示すように、緩衝部材22aは被加工物Wの表面W1には接触せず、表面W1にこすれ傷等の傷を付けることを防止することができる。
【0155】
取得装置17からの指示を受けた制御装置16では、駆動制御装置13に対して駆動装置21に回転を反転させる信号を送るよう指示を出す。駆動装置21は、駆動制御装置13からの指示に基づき、モータを停止させ、さらに逆転させる。これによって、マンドレル23の回転を逆転させる(ST39)。
【0156】
駆動装置21によってモータが逆転すると、徐々にインサートIを被加工物W(タップ穴W2)の中に残したままインサート挿入工具1AがZ方向上向きに移動する。インサート挿入工具1AがZ方向上向きに移動するに伴って、作用装置S2が検出装置S1から離れる。従って、当該検出センサSが検出するインサート挿入工具1Aの移動距離(挿入距離d)の値も変化する。
【0157】
取得装置17では、検出センサSから取得するインサート挿入工具1Aの移動距離(挿入距離d)と設定距離Dとを比較する(ST40)。具体的には、設定距離Dから移動距離(挿入距離d)を減算する。
【0158】
もし移動距離(挿入距離d)が設定距離Dよりも短い場合には(ST40のNO)、未だインサート挿入工具1AはインサートIをねじ込んだタップ穴W2から外に出ていないことになる。この場合には、引き続きインサート挿入工具1AをZ方向上向きに移動させる。また、検出センサSも引き続きインサート挿入工具1Aの移動距離を検出する。
【0159】
これに対して、取得装置17がインサート挿入工具1Aの移動距離と挿入距離の差がゼロであると判定した場合には(ST40のYES)、取得装置17は計時装置15に対して計時を開始するよう指示する(ST41)。ここで計時装置15が計時を開始するのは、インサート挿入工具1Aをタップ穴W2から引き上げた後、所定の時間経過後にマンドレル23の回転を停止させるためである。
【0160】
当該所定の時間は、予め設定されており、例えば、記憶装置14に記憶されている。計時装置15は、取得装置17から移動距離と挿入距離との差がゼロとなったとの指示を受けたことをトリガとして、所定の時間を計時する。そして当該所定の時間経過すると、駆動制御装置13に対してマンドレル23の回転を停止させるよう指示する(ST42)。以上によりインサート挿入工具1Aによる被加工物Wへのインサートの挿入処理は終了する。
【0161】
図9は、本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具1Aが被加工物Wから離れてマンドレル23の回転を停止した状態を示す説明図である。図9では、被加工物Wのタップ穴W2にインサートIが挿入された状態が示されている。また、インサート挿入工具1Aは、上向きの矢印に示される向きに移動した結果、被加工物Wの上方に位置しており、マンドレル23は被加工物Wの表面W1から十分に離れた位置にある。
【0162】
被加工物WへインサートIが挿入された後は、別のタップ穴W2へのインサートIの挿入処理が続く。そこで、被加工物WへのインサートIの挿入後、当該インサートIからマンドレル23が十分離れた時にその回転を停止する。これにより、マンドレル23に新たなインサートIを装着することができる。
【0163】
なお、計時装置15による計時の時間については、例えば、0.5秒ないし1秒といった任意の時間を所定の時間として設定することができる。
【0164】
以上説明したようなインサート挿入工具及びインサート挿入工具の制御方法であれば、インサートを被加工物に挿入する際における被加工物へこすれ傷等の傷が付くことを防止し、かつ、種類の異なる多数のインサートを挿入する場合でも均質的に効率よくインサートを被加工物に挿入することができる。
【0165】
特にインサートのタップ穴への挿入について、インサートの挿入距離が予め設定されており(設定距離)、当該設定距離に基づいてインサートのタップ穴への挿入距離を検出しながら挿入処理が実行、制御されることによって、インサートが被加工物の表面に接触してこすれ傷等の傷を付けることを防止することができる。
【0166】
なお、この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、本発明の一例を示したものである。実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また、上記実施の形態には種々の変更又は改良を加えることが可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【0167】
例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよく、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0168】
本発明の第2の実施の形態におけるインサート挿入工具1Aでは、制御装置16や取得装置17、移動機構制御装置18をその内部に配置することを前提としたが、インサート挿入工具とは別に制御装置を設けて、当該制御装置においてこれらの機能を担わせることも可能である。
【0169】
また、本発明の第2の実施の形態におけるインサートの挿入距離によるインサート挿入工具の制御において、これまではインサートの種類とは関係なく挿入距離を設定することができることを前提にしていた。但し、インサートの種類と挿入距離とを紐付けて、例えば、インサートの種類を選択することで、インサートの挿入距離を選択し、当該選択された挿入距離をもって被加工物Wにインサートを挿入する制御を行っても良い。
【0170】
なお、検出センサSとしては、上述したように、作用装置S2が検出装置S1に接触して検出装置S1が移動する距離を検出する形式のセンサを採用している。しかしこのような形式の検出センサSに限られず、他の方法でインサートの挿入距離を検出することができるセンサも採用することができる。
【0171】
例えば、インサートの被加工物への挿入距離の検出に当たって、非接触の検出センサを用いて基準位置となる被加工物に対するインサートの一端部の接触位置を検出することもできる。その上で、さらに当該非接触の検出センサを用いてインサート挿入工具の移動距離を検出する。
【0172】
なお、作業者が、例えば、図1に示すようなインサート挿入工具を用いて手動で被加工物に対してインサートを挿入する場合には、作業者が第1の入力装置を握り、当該第1の入力装置からのマンドレルの回転開始の信号を受信した時を挿入開始時とする。或いは、被加工物へのインサートの挿入を挿入距離を用いて制御する場合も同様に、作業者が第1の入力装置を握り、当該第1の入力装置からのマンドレルの回転開始の信号を受信した場所が基準位置であるとして挿入距離の検出を行う。
【0173】
また、これまでインサート挿入工具に装着したインサートを被加工物に挿入する際の制御に関して、挿入時間、或いは、挿入距離を管理することによって、インサート挿入工具が被加工物の表面に接触して当該表面に傷を付けることを回避している。但し、当該制御はインサート挿入工具にインサートが装着された後、被加工物にスムーズに挿入されることが前提である。
【0174】
インサートを被加工物に挿入する際には、上述したように被加工物に設けられるタップ穴は挿入されるインサートの外径よりも若干小さな径をもって形成される。従って、インサートが当該タップ穴に挿入される際には、インサートがタップ穴の内側を切削しながら挿入されることになる。
【0175】
従って、例えば、挿入時の切削くず等がタングレスインサートのノッチの部分に嵌まるマンドレルの爪の可動部分に入り込むと、タップ穴への当該タングレスインサートの挿入時に爪がノッチから外れてしまうことも考えられる。また、被加工物へのインサートの挿入に当たってインサートがスムーズに挿入されないと、特に挿入時間を基に挿入の制御を行う場合、同じインサートでも挿入にバラツキが出かねない。
【0176】
そこで、インサート挿入工具にインサートを装着した後、当該インサートの外側からインサートの外周に向けて、液体を噴霧する。このことにより、インサートを被加工物に挿入する際の滑りをよくして挿入の抵抗を低減するとともに、切削くず等がマンドレルの爪に侵入しにくく、侵入したとしても取れやすくなる。
【0177】
このようにインサートの外周に向けて液体を噴霧することによって、より被加工物への挿入をスムーズに運ぶことができるようになるため、より確実な挿入時間、或いは、挿入距離の管理に基づくインサートを被加工物に挿入する際の制御を実行することができる。
【0178】
なお、ここでインサートに噴霧する液体としては、例えば、アルコールを挙げることができる。また、挿入後に蒸発して被加工物に残らないものであれば、アルコール以外の液体であっても良く、例えば、粘度等についても自由に設定することができる。
【符号の説明】
【0179】
1・・・インサート挿入工具
10・・・本体部
10a・・・接続部
11・・・入力装置
11a・・・第1の入力装置
11b・・・第2の入力装置
12・・・報知装置
13・・・駆動制御装置
14・・・記憶装置
15・・・計時装置
16・・・制御装置
17・・・取得装置
18・・・移動機構制御装置
20・・・挿入部
21・・・駆動装置
22・・・ハウジング
22a・・・緩衝部材
23・・・マンドレル
24・・・固定部材
H・・・固定装置
M・・・移動機構
M1・・・Z方向移動部
M2・・・X方向移動部
M3・・・Y方向移動部
S・・・検出センサ
S1・・・検出装置
S2・・・作用装置


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9