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特開2024-42662カチオン性荷電官能基を有するイミダゾリウムを含有する構造化有機フィルム及びその方法
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  • 特開-カチオン性荷電官能基を有するイミダゾリウムを含有する構造化有機フィルム及びその方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042662
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】カチオン性荷電官能基を有するイミダゾリウムを含有する構造化有機フィルム及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20240321BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240321BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240321BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20240321BHJP
   B01D 71/58 20060101ALI20240321BHJP
   B01J 41/13 20170101ALI20240321BHJP
   C08G 65/34 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C08J5/22 104
C08J5/22 CEZ
C08J5/22 CFD
B01D69/00
B01D69/00 500
B01D69/02
B01D71/06
B01D71/58
B01J41/13
C08G65/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023142684
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】17/946,007
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ロバート クラリッジ
(72)【発明者】
【氏名】バレリー エム.ファルジア
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ロートン
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4J005
【Fターム(参考)】
4D006GA12
4D006GA17
4D006MA08
4D006MA14
4D006MA18
4D006MA28
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB09
4D006MB10
4D006MB19
4D006MB20
4D006MC01
4D006MC07
4D006MC09
4D006PA01
4D006PB28
4F071AA43
4F071AA51
4F071AA58
4F071AG02
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB12
4F071BC01
4F071FA10
4F071FB02
4F071FC01
4J005AA21
4J005BA00
4J005BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】燃料セル、レドックスフロー電池、電解槽、逆電気透析セル、及び微生物燃料セルなどの様用途で使用できるイミダゾリウムを含む強固で高度に秩序化されたパターン化網状組織系から合成されたイオン交換膜用の自立型構造化有機フィルムを提供する。
【解決手段】構造化有機フィルム(SOF)は、複数のセグメントと、複数のリンカーと、複数のイオン性キャッピングセグメントであって、少なくとも1つ以上のイオン性キャッピングセグメントが、イミダゾリウムを含んでもよい、複数のイオン性キャッピングセグメントと、を含む。SOFは、SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度がSOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである場合を含む。SOFの厚さは、約100nm~約500μmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化有機フィルム(SOF)であって、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、
複数のキャッピングセグメントであって、少なくとも1つ以上のキャッピングセグメントが、イミダゾリウムを含む、複数のキャッピングセグメントと、を含む、構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項2】
前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つが、以下を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【化1】
【請求項3】
前記SOF中のキャッピングセグメントの濃度が、前記SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のキャッピングセグメントである、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項4】
前記SOFの厚さが、約100nm~約500μmである、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項5】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、N-ヒドロキシエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NETMImBr)を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項6】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NPTMImBr)を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項7】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、1つ以上のヒドロキシド官能基を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項8】
前記構造化有機フィルム(SOF)が、約0.25mEq/g~約5.00mEq/gのイオン交換容量(IEC)を有する、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項9】
請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)を含む、イオン交換膜。
【請求項10】
前記構造化有機フィルム(SOF)が、自立型である、請求項9に記載のイオン交換膜。
【請求項11】
構造化有機フィルム(SOF)であって、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、を含み、
少なくとも1つ以上のキャッピングセグメントが、N-ヒドロキシルエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NETMImBr)を含む少なくとも1つのカチオン種を含む、構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項12】
前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つが、以下を含む、請求項11に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【化2】
【請求項13】
前記SOF中のキャッピングセグメントの濃度が、前記SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のキャッピングセグメントである、請求項11に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項14】
前記SOFの厚さが、約100nm~約500μmである、請求項11に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項15】
前記構造化有機フィルム(SOF)が、約0.25mEq/g~約5.00mEq/gのイオン交換容量(IEC)を有する、請求項11に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項16】
構造化有機フィルム(SOF)であって、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、を含み、
少なくとも1つ以上のキャッピングセグメントが、N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NPTMImBr)を含む少なくとも1つのカチオン種を含む、構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項17】
前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つが、以下を含む、請求項16に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【化3】
【請求項18】
前記SOF中のキャッピングセグメントの濃度が、前記SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のキャッピングセグメントである、請求項16に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項19】
前記SOFの厚さが、約100nm~約500μmである、請求項16に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項20】
前記構造化有機フィルム(SOF)が、約0.25mEq/g~約5.00mEq/gのイオン交換容量(IEC)を有する、請求項16に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、概して、自立型構造化有機フィルムに関し、より具体的には、自立型構造化有機フィルムから形成されるイミダゾリウム化合物を含有するアニオン性交換膜のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜(ion-exchange membrane、IEM)は、燃料セル、レドックスフロー電池、電解槽、逆電気透析セル、及び微生物燃料セルなどの生物電気化学システム(bioelectrochemical system、BES)などの多くの電気化学デバイスにおいて使用することができる。IEMは、固定化されたイオン官能基及びモバイル対イオンを有する疎水性基材から構成され得る。輸送されるイオン基のタイプに応じて、IEMは、アニオン交換膜(anion exchange membrane、AEM)又はカチオン交換膜(cation exchange membrane、CEM)であり得る。CEMは、透過性膜を横切ってカチオン(正に荷電したイオン)を選択的に輸送する。CEMは、Naカチオンを含有するものなどの非酸性、又はHカチオンを特異的に輸送するプロトン交換膜(proton-exchange membrane、PEM)の場合には酸性であることができる。AEMは、アニオンを選択的に輸送し、非アルカリ性アニオン形態(例えば、Clアニオンを含有する)及びAAEMと称されるアルカリ性アニオン(例えば、OH、CO 2-、及びHCO )で利用可能である。
【0003】
イミダゾリウム化合物は、有利なイオン交換能力を有するイオン性液体として使用することができる。イミダゾリウムイオン性液体で官能化されたポリマーは、アニオン交換膜において使用されてきた。これらの材料は、イミダゾリウム環に固有の共鳴により、高いイオン伝導性及び好適なアルカリ安定性を呈することができる。これにより、これらの材料はヒドロキシドによる攻撃を受けにくくなる。この安定性は、電気化学セルの一部分として材料が絶えずアルカリ性条件に供される場合に、それが燃料セルであるかCO還元であるかにかかわらず、必須である。市販のIEM材料の例としては、ペンダントイミダゾリウムクロリド官能基を有するポリスチレン骨格で作製された材料が挙げられる。200~600mA/cmの電流密度及び99%までのCOからCOへの効率を有するCO変換セルが見られた。加えて、電気化学セルにおけるAEMとしての多くの他の用途とともに、ホルメート、エタノールに対する高い電流密度及び記録された水加水分解効率が報告されている。
【0004】
イオン交換膜において使用されるこのような材料は、典型的には、ポリマー及び架橋ポリマーであるが、ほとんどの既知のポリマー化学合成プロセスは、ほとんどがランダムにパターン化されているので、形成された材料の分子レベル構造に対する正確な制御を提供しない。ほとんどのポリマーは、効率的に充填されて結晶特性を有する高密度をもたらすことができるいくつかのクラスの線状ポリマーを覗いて、非晶質又は部分的に非晶質である。
【0005】
したがって、燃料セル、レドックスフロー電池、電解槽、逆電気透析セル、及び微生物燃料セルなどの様々な用途で使用することができるイミダゾリウムを含む強固で高度に秩序化されたパターン化網状組織系から合成されたイオン交換膜を製造することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
以下は、本教示の1つ以上の実施形態のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、簡略化された概要を提示する。この概要は、広範な概略ではなく、本教示の主要又は重要な要素を特定することも、本開示の範囲を明示することも意図していない。むしろ、その主な目的は、単に、後に提示される詳細な説明の前置きとして、1つ以上の概念を簡略化された形式で提示することにすぎない。
【0007】
構造化有機フィルム(structured organic film、SOF)が開示される。構造化有機フィルムはまた、複数のセグメントと、複数のリンカーと、複数のイオン性キャッピングセグメントであって、少なくとも1つ以上のイオン性キャッピングセグメントが、イミダゾリウムを含む、複数のイオン性キャッピングセグメントと、を含む。構造化有機フィルム(SOF)の実装形態は、本SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度が本SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである場合を含む。SOFの厚さは、約100nm~約500μmである。複数のイオン性キャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、n-ヒドロキシエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(n-hydroxyethyl-1,2,4,5-tetramethylimidazolium、NETMImBr)を含んでもよい。複数のイオン性キャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、n-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(n-hydroxypropyl-1,2,4,5-tetramethylimidazolium、NPTMImBr)を含んでもよい。複数のイオン性キャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、1つ以上のヒドロキシド官能基を含んでもよい。構造化有機フィルム(SOF)は、約0.25meq/g~約5.00meq/gのイオン交換容量(ion exchange capacity、IEC)を有する。イオン交換膜は、構造化有機フィルム(SOF)を含んでもよい。構造化有機フィルム(SOF)は、自立型である。
【0008】
別の構造化有機フィルム(SOF)が開示される。構造化有機フィルムはまた、複数のセグメントと、複数のリンカーと、を含み、少なくとも1つ以上のイオン性キャッピングセグメントは、n-ヒドロキシルエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NETMImBr)を含み得る少なくとも1つのカチオン種を含み得る。構造化有機フィルム(SOF)の実装形態は、本SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度が本SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである場合を含む。SOFの厚さは、約100nm~約500μmである。構造化有機フィルム(SOF)は、約0.25meq/g~約5.00meq/gのイオン交換容量(IEC)を有する。
【0009】
別の構造化有機フィルム(SOF)が開示される。構造化有機フィルムはまた、複数のセグメントと、複数のリンカーと、を含み、フィルムはまた、n-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(NPTMImBr)を含み得る少なくとも1つのカチオン種を含み得る少なくとも1つ以上のイオン性キャッピングセグメントを含む。構造化有機フィルム(SOF)の実装形態は、本SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度が本SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである場合を含む。SOFの厚さは、約100nm~約500μmである。構造化有機フィルム(SOF)は、約0.25meq/g~約5.00meq/gのイオン交換容量(IEC)を有する。
【0010】
説明された特徴、機能、及び利点は、様々な実装形態において独立して達成され得るか、又は更に他の実装形態において組み合わされ得、その更なる詳細は、以下の説明を参照して理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書の一部に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、本教示の実施形態を示し、本明細書とともに本開示の原理を説明する役割を果たす。図は以下のとおりである。
図1】本開示による、標準の構造化有機フィルムと、キャッピングセグメントを有する構造化有機フィルム、イオン性官能基を含む分子ビルディングブロックを有する構造化有機フィルム、及びイオン性官能基を含むキャッピングセグメントを有する構造化有機フィルムとの間の差異を示す。
【0012】
図のいくつかの詳細は簡略化されており、厳密な構造精度、詳細、及び縮尺は維持されるものではなく、本教示の理解を容易にするように描かれていることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、本教示の例示の実施形態を詳細に参照し、この実施例を添付図面に示す。可能な限り、同じ参照番号が、同じ、類似、又は同様の部分を指すように図面全体にわたって使用される。
【0014】
「構造化有機フィルム」(SOF)とは、巨視的レベルでフィルムであるCOFを指す。本開示のSOFは、SOF配合物に付加されたキャッピングセグメント又は基を有し、これは(フィルム形成後に)、キャッピングセグメント上に位置する少なくとも1つの官能基を介して最終的にSOFに結合する。ある特定の実施例における本開示のSOFは、カチオン性又はアニオン性を含む、非イオン特性又はイオン特性を有することができる。このイオン特性は、SOF構造中の荷電分子ビルディングブロック又はキャッピング基のいずれかによって付与され得る。
【0015】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲において、「a」、「an」、及び「the」などの単数形は、その内容が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形を含む。
【0016】
「SOF」という用語は、概して、巨視的レベルでフィルムである共有結合性有機構造体(covalent organic framework、COF)を指す。「巨視的レベル」という語句は、例えば、本SOFの肉眼で見えるレベルを指す。COFが「微視的レベル」又は「分子レベル」(強力な拡大装置の使用を必要とするか、又は散乱法を使用して評価される)で網状組織であるが、本フィルムの被覆率が例えば微視的レベルのCOF網状組織よりも数桁大きいため、本SOFは「巨視的レベル」で根本的に異なる。本明細書に記載のSOFは、以前に合成された典型的なCOFとは大きく異なる巨視的形態を有する。自立型フィルム実施例において現在開示されているフィルム、又は表面上にコーティングされたフィルムは、上面及び底面を含むが、これらに限定されず、ここで、「上」及び「底」はフィルムの一時的な向き又は位置に依存し得る。更に、表面は、基材又は他の材料に接着又は結合されている場合であっても、依然として表面とみなされる。自立型フィルム実施例において現在開示されているフィルム、又は表面上にコーティングされたフィルムは、1つ以上の縁部も含み、これは、フィルムが存在する場所とフィルムが存在しない場所との間の1つ以上の境界とすることができるが、これに限定されない。
【0017】
加えて、キャッピングセグメントがSOFに導入されると、SOF骨格は、キャッピングセグメントが存在する場所で局所的に「中断」される。これらのSOF組成物は、キャッピングセグメントが存在した際に外来分子がSOF骨格に結合されるため、「共有結合的にドープ」されている。キャッピングされたSOF組成物は、構成要素であるビルディングブロックセグメントを変化させることなくSOFの特性を変更し得る。例えば、SOF骨格が中断されているキャッピングされたSOFの機械的特性及び物理的特性は、キャッピングされていないSOF又はキャッピングセグメントを有しないSOFの機械的特性及び物理的特性と異なり得る。
【0018】
本開示のSOFは、巨視的レベルでは、実質的にピンホールのないSOFであるか、又は、例えばミリメートルよりもはるかに大きい長さからメートルなどの長さ、理論的には数百メートルもの長さなどのより大きい長さ規模にわたって延在することができる連続した共有結合性有機構造体を有するピンホールのないSOFである。SOFが大きいアスペクト比を有する(典型的にはSOFの2つの寸法が第3の寸法よりもはるかに大きい)傾向があることも理解されるであろう。SOFは、COF粒子の集合体よりも著しく少ない巨視的縁部及び切断された外面を有する。
【0019】
複数の実施例では、「実質的にピンホールのないSOF」又は「ピンホールのないSOF」は、基礎となる基材の表面上に堆積した反応混合物から形成され得る。「実質的にピンホールのないSOF」という用語は、例えば、SOFが形成された基礎となる基材から除去されても除去されなくてもよく、かつ不規則なピンホール、ブリスター、破裂、若しくは間隙、例えば、1平方cm当たりの2つの隣接するセグメントのコア間の距離よりも大きいフィルム形成中に気泡が破裂したときに形成され得るコーティング欠陥とみなされるものを実質的に含まないSOF、例えば、1cm当たり直径約250ナノメートル超のピンホール、細孔、若しくは間隙が10個未満、又は1cm当たり直径約100ナノメートル超のピンホール、細孔、若しくは間隙が5個未満のSOFを指す。「ピンホールのないSOF」という用語は、例えば、SOFが形成された基礎となる基材から除去されても除去されなくてもよく、かつ1ミクロン当たり2つの隣接するセグメントのコア間の距離よりも大きい意図しないピンホール若しくは隙間を含まないSOF、例えば1ミクロン当たり直径約500オングストローム超のピンホール若しくは隙間を含まないSOFを指す。膜を介した輸送のための調整可能な特徴としてSOFに意図的かつ均一に導入された細孔は、本開示の目的のためにピンホールとは区別される。
【0020】
イオン交換膜、又はより具体的には、燃料セル、レドックスフロー電池、電解槽、逆電気透析セル、及び微生物燃料セルなどの様々な用途で使用することができるイミダゾリウム化合物を含む高度に秩序化されたパターン化網状組織系から合成されたアニオン性機能交換膜の必要性は、共有結合性有機構造体(COF)を使用することによって対処することができる。共有結合性有機構造体(COF)は、ポリマーを合成するために使用されるモノマーとは異なるビルディングブロック又はビルディングブロックセグメントと呼ばれる分子成分を有する高度にパターン化された材料である。COFは反応して、強力な共有結合を介して互いに連結されたこれらのビルディングブロックセグメントから作製された二次元又は三次元網状組織を形成する。COFは、典型的には粉末形態であり、非常に低い密度を有する高多孔質材料である。本開示の例は、COFを配置するために使用されるのと同じセグメント、イミダゾリウム化合物及びリンカーを含むキャッピングセグメントにも依存しているが、巨視的レベルではフィルムとして組み立てられる、構造化有機フィルム(SOF)を設計するためのCOFの分子ビルディングブロックアプローチを利用している。
【0021】
本開示の例は、アニオン交換膜(AEM)として使用するための、イミダゾリウム系カチオンを含有する有機組成物を提供する。例示的なイミダゾリウム含有化合物の合成方法も、本明細書に記載されている。これらのアニオン交換膜は、これらに限定されないが、H、NH生成又はCO変換のための電解槽、燃料セル、電池セパレータなどの電気化学デバイスにおいて使用することができる。SOF組成物を形成するための荷電ビルディングブロック及び/又はイオン性キャッピングセグメント若しくは基の使用は、イミダゾリウム官能化種がフィルム網状組織内及び全体に組み込まれることを可能にする。SOFは、自立型フィルムとして使用されてもよいか、又は多孔質支持体の上にコーティングされて、膨潤及び化学分解又は熱分解に対して安定である膜を提供してもよい。カチオン種は、構造化有機フィルム(SOF)内に固定され、分子レベルで秩序化されるか、又は周期的である。秩序化カチオン性SOF組成物の利点は、それらの機能的特徴、例えば、最小限の膨潤、調整可能なイオン交換容量(IEC)、及び高い耐久性にある。
【0022】
実施形態では、SOFは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。更なる実施形態では、SOFは、ボロキシン、ボラジン、ボロシリケート、及びボロン酸エステルを含まないSOFである。
【0023】
分子ビルディングブロック
本開示のSOFは、セグメント(segment、S)及び官能基(functional group、Fg)を有するビルディングブロックセグメントとも称される分子ビルディングブロックを含む。分子ビルディングブロックは、少なくとも2つの官能基(x≧2)を必要とし、単一タイプ又は2つ以上のタイプの官能基を含んでもよい。官能基は、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する分子ビルディングブロックの反応性化学部分である。セグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない原子を含む分子ビルディングブロックの部分である。更に、分子ビルディングブロックセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。
【0024】
官能基
官能基は、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結する化学反応に関与し得る分子ビルディングブロックの反応性化学部分である。官能基は、単一の原子から構成されてもよく、又は官能基は、2つ以上の原子から構成されてもよい。官能基の原子組成は、化合物中の反応性部分と通常会合している組成である。官能基の非限定的な例としては、ハロゲン、アルコール、エーテル、ケトン、カルボン酸、エステル、カーボネート、アミン、アミド、イミン、尿素、アルデヒド、イソシアネート、トシレート、アルケン、アルキンなどが挙げられる。他の例としては、ハロホルミル、酸素含有基(例えば、ヒドロキシル、無水物、カルボニル、カルボキシル、カーボネート、カルボキシレート、アルデヒド、エステル、ヒドロペルオキシ、ペルオキシ、エーテル、及びオルトエステル)、窒素含有基(例えば、カルボキサミド、アミン、イミン、イミド、アジド、アゾ、シアネート、イソシアネート、ニトレート、ニトリル、イソニトリル、ニトロソ、ニトロ、ニトロソオキシ)、硫黄含有基(スルフヒドリル、スルフィド、ジスルフィド、スルフィニル、スルホ、チオシアネート、イソチオシアネート、及びカルボノチオイル)、リン含有基(例えば、ホスフィノ、ホスホノ、及びホスフェート)、ケイ素含有基(Si(OH)、Si(SH)、シラン、シリル、及びシロキサン)、ホウ素含有基(例えば、ボロン酸、ボロン酸エステル、及びボロン酸エーテル)、金属又は半金属含有基(例えば、Ge(OH)、Ge(SH)、AsOH、AsOH、As(SH)、Sn(OH)、Sn(CH、及びSn(Bu))、又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、それらに限定されない。
【0025】
分子ビルディングブロックは、複数の化学部分を含むが、これらの化学部分のサブセットのみがSOF形成プロセス中に官能基であることが意図される。化学部分が官能基とみなされるか否かは、SOF形成プロセスのために選択される反応条件に依存する。官能基(Fg)は、反応性部分である化学部分、すなわち、SOF形成プロセス中の官能基を意味する。
【0026】
SOF形成プロセスにおいて、官能基の組成は、原子の損失、原子の獲得、若しくは原子の損失及び獲得の両方によって変化するか、又は官能基全体が失われ得る。SOF中で、官能基と先に会合した原子は、セグメントを一緒に結合する化学部分であるリンカー基と化合するようになる。官能基は特徴的な化学的性質を有し、当業者であれば、一般に、本発明の分子ビルディングブロックにおいて官能基を構成する原子を認識することができる。分子ビルディングブロック官能基の一部として特定された原子又は原子団がSOFのリンカー基に保存されてもよいことに留意すべきである。リンカー基は、以下に記載されている。
【0027】
キャッピングセグメント、イオン性キャッピングセグメント、及びイオン性ビルディングブロック
本開示のキャッピングセグメントは、SOF中に通常存在する共有結合したビルディングブロックの規則的な網状組織を「中断」し、更にはイオン荷電官能基をSOF網状組織に組み込み得る分子である。1つ以上のキャッピングセグメントを含むSOFは、キャッピングされたSOFとも称され得る。SOFと、キャッピングセグメント、イオン性官能基を有するキャッピングセグメント、又はイオン性官能基を有する分子ビルディングブロックを有するSOFとの間の差異が図1に示される。図1は、標準の構造化有機フィルムと、キャッピングセグメントを有する構造化有機フィルム、イオン性官能基を含む分子ビルディングブロックを有する構造化有機フィルム、及びイオン性官能基を含むキャッピングセグメントを有する構造化有機フィルムとの間の差異を示す。SOFの様々な網状組織が示されており、いくつかのリンカー104によって接続されたいくつかのセグメント102を有する典型的なSOF網状組織100Aが図1Aに示されている。別のSOF網状組織100Bは、いくつかのリンカー104によって接続されたいくつかのセグメント102を有するキャッピングされたSOF網状組織100Bを表しており、キャッピングセグメント106がセグメント102の分岐を閉鎖又は終結している。SOF網状組織100Cでは、イオン性ビルディングブロック102Aとも称されるイオン性官能基を有する複数のセグメントがリンカー104によって接続されていることが示されている。SOF網状組織100Dでは、いくつかのリンカー104によって接続された複数のセグメント102が示されており、イオン性基106Aを有するキャッピングセグメントがセグメント102の分岐を閉鎖又は終結している。キャッピングセグメントは、キャッピングセグメント106において見られるようにイオン性基を有しない可能性があるか、又はキャッピングセグメント106Aにおいて見られるようにイオン性基を有する可能性があるが、反応してSOFのセグメント102の分岐を終結又は閉鎖する連結官能基(Fg)を1つのみ有する。キャッピングセグメント上のイオン性基は、最初に、又はSOF形成後の後処理工程における化学反応若しくは処理により、イオン特性を有することができる。分子ビルディングブロックは、セグメント102において見られるようにイオン性基を有しない可能性があるか、又はイオンビルディングブロック102Aにおいて見られるようにイオン性基を有する可能性がある。分子ビルディングブロック102、102Aは、SOFと反応してSOF網状組織を形成する2つ以上の連結Fgも有する。分子ビルディングブロック上のイオン性基は、最初に、又はSOF形成後の後処理工程における化学反応若しくは処理により、イオン特性を有することができる。例示的なSOF網状組織100A、100B、100C、100Dが、本開示のSOF網状組織への様々な成分の包含を示しているが、これらは非限定的であり、本開示のSOF網状組織のある特定の実施例は、様々なセグメント、リンカー、キャッピングセグメント、イオン性キャッピングセグメント、分子ビルディングブロック、イオン性分子ビルディングブロック、又はそれらの組み合わせのうちのいくつか又は全てを有することができる。
【0028】
キャッピングされたSOF組成物、又はセグメント若しくは分子ビルディングブロック、又はキャッピングセグメントのいずれかにイオン性基を有するSOF組成物は、導入されるイオン性基のタイプ及び量によって特性を変化させることができる調整可能な材料を提供することができる。IEC又は荷電膜用途に使用される従来の膜は、典型的には、ポリマー又は網状組織骨格を提供し、その後、荷電官能基を導入することによって作製される。本開示の実施例は、合成中にイオン性若しくは荷電キャッピングセグメント、あるいはイオン性若しくは荷電分子ビルディングブロックが構造化有機網状組織に組み込まれる、構造化有機網状組織を提供する。先に述べたように、ある特定の実施例では、電荷は、網状組織形成時に存在し得るか、又は化学反応若しくは後処理工程(例えば、網状組織形成後に本明細書に記載の工程が挙げられるが、これらに限定されない)によって誘導され得るかのいずれかである。本開示の目的のために、処理前に又は処理後若しくは形成後にイオン性基を有するキャッピングセグメントは、イオン性キャッピングセグメントと称され得る。更に、処理前に又は処理後若しくは形成後にイオン性基を有する分子ビルディングブロックは、イオン性分子ビルディングブロック又はイオン性ビルディングブロック又はイオン性セグメントと称され得る。
【0029】
実施形態では、キャッピング分子は、SOF網状組織に結合するための1つの反応性官能基を有する。言い換えれば、キャッピングセグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない原子を含むキャッピング基又はキャッピング単位の部分である。更に、キャッピングセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。
【0030】
キャッピングセグメント分子は、SOF形成プロセス中に別のセグメントに連結するための化学反応に関与するのに好適な又は相補的な官能基(上記のもの)を有する1つの官能基を有する。SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではなく、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない第2の化学部分。しかしながら、SOFが形成された後、かかる官能基は、追加の成分との更なる反応に利用可能であり得、それ故に、形成されたSOFの様々な特性の更なる改良及び調整を可能にする。
【0031】
本開示のアニオン性交換膜に有用なSOFフィルムにおいて使用するためのカチオン性分子ビルディングセグメント及びキャッピング基などのカチオン種としては、改善されたアルカリ安定性を有するイミダゾリウム含有SOFフィルムを挙げることができる。アニオン交換膜のためのSOFフィルムにIEC及びアルカリ安定性を提供するのに有用なイミダゾリウム化合物の例示的な例としては、N-ヒドロキシルエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミド(NETMImBr)、N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミド(NPTMImBr)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。例示的な例としては、四級化反応を受けるアルコール官能基及び一級ハロゲンを有するアルキル/アリール前駆体を挙げることができる。例としては、4-ブロモブタン-1-オール、5-ブロモペンタン-1-オール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオールなど、若しくは4-(2-ブロモエチル)フェノール、又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、それらに限定されない。
【0032】
キャッピングセグメント又はキャッピングセグメント前駆体を有するSOFは、イオン電荷官能基を直接提供するキャッピングセグメントを更に含んでいてもよく、あるいは、膜形成プロセス中又はその後にイオン電荷を有するように誘導することができるキャッピングセグメントであってもよい。例えば、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド(methyl triethanol ammonium hydroxide、MTEAH)は、THM-TBD(4当量のMTEAH~3当量のTHM-TBD)と反応させることができる。次いで、四級化された膜又はフィルムを脱イオン(deionized、DI)水で洗浄し、1MのNaOHに更に24時間浸漬して、対イオンがヒドロキシドであることを確実にすることができる。追加的に、ヒドロキシキノンスルホン酸をTHM-TBD(2当量のHQSA~1当量のTHM-TBD)と反応させることができる。次いで、得られたカチオン交換膜又はフィルムを脱イオン(DI)水で洗浄し、飽和濃度のKClを含有する溶液に浸漬して、HイオンをKイオンで完全に置換することを確実にすることができる。フィルムから放出されたプロトンは、フェノールフタレインが指示薬として使用される炭酸ナトリウム(0.005M)で中和される。別の例としては、スルホン酸キャッピング基が挙げられ、これは、例えば、フィルム形成後に水酸化ナトリウムで処理して、アニオン性SOF網状組織を提供することができる。ある特定の例では、分子ビルディングブロックセグメントはまた、イオン電荷、並びにキャッピング基を付与し得る。
【0033】
実施形態では、SOFは、キャッピングセグメントの構造が変化するキャッピングセグメントの混合物、例えば、第1のキャッピングセグメント、第2のキャッピングセグメント、第3のキャッピングセグメント、第4のキャッピングセグメントなどの任意の組み合わせを含んでもよい。実施形態では、キャッピングセグメント又は複数のキャッピングセグメントの組み合わせの構造は、SOFの化学的及び物理的特性を向上させるか又は減衰させるかのいずれかを行うように選択されてもよく、あるいは、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではない化学部分又は官能基のアイデンティティを変化させて、キャッピングセグメントの混合物を形成することができる。したがって、SOF骨格に導入されるキャッピングセグメントのタイプは、SOFの所望の特性を導入する又は調整するように選択されてもよい。
【0034】
実施形態では、SOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている、SOFの縁部に位置しないセグメントを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロックセグメント、歪んだ三角形のビルディングブロックセグメント、理想的な四面体のビルディングブロックセグメント、歪んだ四面体のビルディングブロックセグメント、理想的な正方形のビルディングブロックセグメント、及び歪んだ正方形のビルディングブロックセグメントからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックセグメントを含む。実施形態では、タイプ2及びタイプ3のSOFは、SOFの縁部に位置しない少なくとも2つのセグメントタイプを含み、少なくとも1つのセグメントタイプは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロックセグメント、歪んだ三角形のビルディングブロックセグメント、理想的な四面体のビルディングブロックセグメント、歪んだ四面体のビルディングブロックセグメント、理想的な正方形のビルディングブロックセグメント、及び歪んだ正方形のビルディングブロックセグメントからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックセグメントを含む。
【0035】
実施形態では、SOFは、全てのセグメントが同一の構造を有する複数のセグメントと、同一の構造を有していても有していなくてもよい複数のリンカーとを含み、SOFの縁部にないセグメントは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。実施形態では、SOFは、構造が異なる少なくとも第1のセグメント及び第2のセグメントを含む複数のセグメントを含み、第1のセグメントは、SOPの縁部にない場合、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。
【0036】
実施形態では、SOFは、構造が異なる少なくとも第1のリンカー及び第2のリンカーを含む複数のリンカーを含み、複数のセグメントは、構造が異なる少なくとも第1のセグメント及び第2のセグメントを含み、第1のセグメントは、SOFの縁部にない場合、少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されており、接続のうちの少なくとも1つが第1のリンカーを介しており、接続のうちの少なくとも1つが第2のリンカーを介しているか、又は全て同一の構造を有するセグメントを含み、SOFの縁部にないセグメントは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されており、接続のうちの少なくとも1つが第1のリンカーを介しており、接続のうちの少なくとも1つが第2のリンカーを介している、のいずれかである。
【0037】
実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF配合物に添加される分子ビルディングブロック(米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されているSOFの分子ビルディングブロックなど)のうちの1つの構造に実質的に対応する構造を有するが、ビルディングブロック上に存在する官能基のうちの1つ以上は、欠損しているか、又はSOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための(最初に存在するビルディングブロックの官能基との)化学反応に関与しない異なる化学部分若しくは官能基で置換されているかのいずれかである。
【0038】
SOF中の分子ビルディングブロック又はセグメントに関連しない構造を有するキャッピングセグメントは、例えば、水素原子のうちの1つが-OH基によって置換されているアルキル部分(例えば、アルカンに由来し、かつ一般式C2n+1を有し、式中、nが1以上の数である、分岐又は非分岐飽和炭化水素基)であってもよい。かかる配合物において、キャッピングセグメントと分子ビルディングブロック又はセグメントとの間の反応、例えば、アルコール(-OH)基間の反応は、(連結)エーテル基の形成によりキャッピングセグメントと分子ビルディングブロックを一緒に連結するであろう。本明細書に記載される他の官能基反応も同様に適用可能である。
【0039】
実施形態では、キャッピングセグメント分子は単官能化されている。例えば、実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する好適な又は相補的な官能基(上記のもの)を1つのみ含み、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない(追加のSOFがキャッピングされたSOFベース層の上部に形成され、多層SOFが形成される場合など、好適な又は相補的な官能基を有するビルディングブロックが添加されるまで)。
【0040】
かかるキャッピングセグメントがSOFコーティング配合物に導入されると、硬化時に、SOF骨格における中断が導入される。したがって、SOF骨格における中断は、キャッピングセグメントの単一の好適な又は相補的な官能基が分子ビルディングブロックと反応し、SOF骨格の伸長を局所的に終結させ(又はキャッピングし)、SOF中に通常存在する共有結合したビルディングブロックの規則的な網状組織を中断する部位である。SOF骨格に導入されるキャッピングセグメントのタイプ(又はキャッピングセグメントの構造)を使用して、SOFの特性を調整することができる。
【0041】
実施形態では、キャッピングセグメント分子は、2つ以上の化学部分又は官能基を含んでもよい。例えば、(フィルム形成後に)最終的にSOF中で結合されるようになるSOFコーティング配合物は、少なくとも2つ以上の化学部分又は官能基、例えば2、3、4、5、6つ、又はそれ以上の化学部分又は官能基を有するキャッピングセグメントを含んでもよく、官能基のうちの1つのみが、SOF形成プロセス中にセグメントを連結するための化学反応に関与する好適な又は相補的な官能基(上述のもの)である。分子ビルディングブロック上に存在する様々な他の化学部分又は官能基は、SOF形成プロセス中に最初に存在するセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではなく、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない化学部分又は官能基である。しかしながら、SOFが形成された後、かかる化学部分及び/又は官能基は、追加の成分との更なる反応に利用可能であり得(以下で論じられるダングリング官能基と同様)、それ故に、形成されたSOFの様々な特性の更なる改良及び調整、又は多層SOFの形成における様々な他のSOF層の化学的結合を可能にする。
【0042】
実施形態では、分子ビルディングブロックは、x個の官能基(ここで、xは2以上である)、少なくとも3つの官能基を有する少なくとも1つの分子ビルディングブロックタイプを有する)を有してもよく、キャッピングセグメント分子は、好適な又は相補的な官能基(上記のもの)であり、かつSOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する1つの官能基を有するキャッピングセグメント分子を含んでもよい。例えば、トリス-(4-ヒドロキシメチル)トリフェニルアミン(上記)においては、xは3であり、以下に示すビルディングブロック、N,N,N’,N’-テトラキス-[(4-ヒドロキシメチル)フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン(THM-TBD)又はテトラ-(メチル4-ヒドロ-メチルフェニルエーテル)ビフェニル-4,4’-ジアミン(TME-TBD)においては、xは4である。N,N,N’,N’-テトラキス-[(4-ヒドロキシメチル)フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン(THM-TBD):
【0043】
【化1】

テトラ-(メチル4-ヒドロ-メチルフェニルエーテル)ビフェニル-4,4’-ジアミン(TME-TBD):
【0044】
【化2】
【0045】
セグメント
セグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない全ての原子を含む分子ビルディングブロックの部分である。更に、分子ビルディングブロックセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。実施形態では、SOFは、第2のセグメントと同じ又は異なる構造を有する第1のセグメントを含んでもよい。他の実施形態では、第1のセグメントの構造及び/又は第2のセグメントの構造は、第3のセグメントと同じであっても異なっていてもよく、第4のセグメントと同じであっても異なっていてもよく、第5のセグメントと同じであっても異なっていてもよいといった具合である。セグメントは、傾斜特性を提供することができる分子ビルディングブロックの部分でもある。傾斜特性については後述の実施形態で説明される。
【0046】
特定の実施形態では、SOFのセグメントは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。
【0047】
様々な例示的な分子ビルディングブロック、リンカー、SOFタイプ、例示的な化学構造を有する特定のSOFタイプを合成するための戦略、対称要素が概説されているビルディングブロック、並びに分子ビルディングブロック又はSOFの他の成分として機能し得る例示的な分子実体のクラス及び各クラスのメンバーの例の説明は、米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されており、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0048】
リンカー
リンカーは、分子ビルディングブロック及び/又はキャッピングセグメント上に存在する官能基間の化学反応時にSOF中に出現する化学部分である。
【0049】
リンカーは、共有結合、単一の原子、又は共有結合した原子団を含んでもよい。前者は、共有結合リンカーとして定義され、例えば、単共有結合であっても二重共有結合であってもよく、全てのパートナーになったビルディングブロック上の官能基が完全に失われた場合に出現する。後者のリンカータイプは、化学部分リンカーとして定義され、単共有結合、二重共有結合、又はそれらの2つの組み合わせによって一緒に結合された1つ以上の原子を含んでもよい。連結基に含まれる原子は、SOF形成プロセス前に分子ビルディングブロック上の官能基に存在する原子に由来する。化学部分リンカーは、周知の化学基、例えば、エステル、ケトン、アミド、イミン、エーテル、ウレタン、カーボネートなど、又はそれらの誘導体などであってもよい。
【0050】
例えば、2つのヒドロキシル(-OH)官能基が酸素原子を介してSOF中のセグメントを接続するために使用される場合、リンカーは酸素原子であり、エーテルリンカーと説明されてもよい。実施形態では、SOFは、第2のリンカーと同じ又は異なる構造を有する第1のリンカーを含んでもよい。他の実施形態では、第1のリンカーの構造及び/又は第2のリンカーの構造は、第3のリンカーと同じであっても異なっていてもよいといった具合である。
【0051】
キャッピングセグメントは、全般的なSOF骨格が十分に維持されている限り、任意の所望の量でSOF中に結合されていてもよい。例えば、実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF中に存在する全てのリンカーの少なくとも0.1%であるが、全てのリンカーの約40%以下、例えば、約0.5%~約30%、又は約2%~約20%に結合していてもよい。実施形態では、実質的に全てのセグメントが少なくとも1つのキャッピングセグメントに結合していてもよく、ここで、「実質的に全て」という用語は、例えば、SOFのセグメントの約95%超、例えば、約99%超を指す。キャッピングセグメントが、(リンカーが出現する)分子ビルディングブロック上の利用可能な官能基の50%超に結合する場合、キャッピングセグメントで完全にキャッピングされたオリゴマー、線状ポリマー、及び分子ビルディングブロックが、SOFの代わりに主に形成され得る。SOFのある特定の実施例では、キャッピングセグメントは、モル%濃度に関して、又はセグメント組成若しくは全SOF組成のいずれかと比較した比率として定量的に表されてもよい。
【0052】
特定の実施形態では、リンカーは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。
【0053】
SOFの計量パラメータ
SOFは、任意の好適なアスペクト比を有する。実施形態では、SOFは、例えば、約30:1超又は約50:1超又は約70:1超又は約100:1超、例えば、約1000:1のアスペクト比を有する。SOFのアスペクト比は、その平均幅又は直径(すなわち、その厚さに対して次に大きい寸法)の、その平均厚さ(すなわち、その最短寸法)に対する比率として定義される。本明細書で使用される「アスペクト比」という用語は、理論によって拘束されない。SOFの最長寸法はその長さであり、SOFアスペクト比の計算では考慮されない。
【0054】
一般に、SOFは、約500マイクロメートル超、例えば、約10mm又は30mmの幅及び長さ、又は直径を有する。SOFは、以下の例証的な厚さ:単一セグメント厚層の場合、約10オングストローム~約250オングストローム、例えば、約20オングストローム~約200オングストローム、複数セグメント厚層の場合、約20nm~約5mm、約50nm~約10mmを有する。
【0055】
SOFの寸法は、様々なツール及び方法を使用して測定することができる。約1マイクロメートル以下の寸法の場合、走査型電子顕微鏡法が好ましい方法である。約1マイクロメートル以上の寸法の場合、マイクロメーター(又は定規)が好ましい方法である。
【0056】
多層SOF
SOFは、単層又は複数の層(すなわち、2つ、3つ、又はそれ以上の層)を含んでもよい。複数の層から構成されるSOFは、物理的に接合されても(例えば、双極子結合及び水素結合)、化学的に接合されてもよい。物理的に付着された層は、より弱い層間相互作用又は接着を特徴とし、それ故に、物理的に付着された層は、互いに層間剥離しやすい場合がある。化学的に付着された層は、化学結合(例えば、共有結合又はイオン結合)を有するか、又は隣接する層を強く連結する多数の物理的若しくは分子間(超分子)絡み合いを有することが予想される。
【0057】
したがって、化学的に付着された層の剥離は、はるかに困難である。層間の化学的付着は、集光、赤外、又はラマン分光法などの分光法を使用して、又は界面で化学種を正確に検出することができる空間分解能を有する他の方法を用いて検出することができる。層間の化学的付着が層自体内の化学種とは異なる化学種である場合、固体核磁気共鳴分光法などの高感度バルク分析を用いて、又は他のバルク分析方法を使用することによって、これらの付着を検出することが可能である。
【0058】
実施形態では、SOFは、単一層(単一セグメント厚又は複数セグメント厚)であっても、複数層(各層が単一セグメント厚又は複数セグメント厚である)であってもよい。「厚さ」とは、例えば、フィルムの最小寸法を指す。上述したように、SOF中で、セグメントは、リンカーを介して共有結合されてフィルムの分子骨格を生成する分子単位である。フィルムの厚さは、フィルムの断面を見たときにフィルムの軸に沿って計数されるセグメントの数に関しても定義され得る。「単層」SOFは、最も単純な事例であり、例えば、フィルムが1セグメント厚である場合を指す。この軸に沿って2つ以上のセグメントが存在するSOFは、「複数セグメント11厚SOFと称される。
【0059】
物理的に付着された多層SOFを調製するための例示的な方法は、(1)第1の硬化サイクルによって硬化され得るベースSOF層を形成する工程と、(2)ベース層上に第2の反応性湿潤層を形成し、その後、第2の硬化サイクルを行う工程とを含み、所望の場合、第2の工程を繰り返して第3の層形成し、第4の層を形成するといった具合である。物理的に積層された多層SOFは、約20オングストローム超の厚さ、例えば、以下の例証的な厚さ:約20オングストローム~約10mm、例えば、約1nm~約10mm、又は約0.1mmオングストローム~約5mmなどを有してもよい。原則として、このプロセスでは、物理的に積層され得る層の数に制限はない。本開示によるSOFの代替例としては、自立型フィルムが挙げられる。自立型フィルムの厚さは、約1μm~約500μm、又は約10μm~約250μm、又は約100μm~約150μmとすることができる。
【0060】
実施形態では、多層SOFは、(1)第1の反応性湿潤層から、表面上に存在する官能基(又はダングリング官能基)を有するベースSOF層を形成し、かつ(2)ベースSOF層の表面上のダングリング官能基と反応することができる官能基を有する分子ビルディングブロックを含む第2の反応性湿潤層から、ベース層上に第2のSOF層を形成することによって、化学的に付着された多層SOFを調製するための方法によって形成される。更なる実施形態では、キャッピングされたSOFは、ベース層として機能してもよく、ここで、ベース層SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではなかった又は相補的ではなかった存在する官能基が、第2の層の分子ビルディングブロックと反応して化学的に結合された多層SOFを形成するために利用可能であり得る。所望の場合、第2のSOF層を形成するために使用される配合物は、ベース層由来の官能基と反応することができる官能基、並びに第3の層が第2の層に化学的に付着されることを可能にする追加の官能基を有する分子ビルディングブロックを含むべきである。化学的に積層された多層SOFは、約20オングストローム超の厚さ、例えば、以下の例証的な厚さ:約20オングストローム~約10mm、例えば、約1nm~約10mm、又は約0.1mmオングストローム~約5mmなどを有してもよい。原則として、このプロセスでは、化学的に積層され得る層の数に制限はない。
【0061】
実施形態では、化学的に付着された多層SOFを調製するための方法は、SOF(ベース層)を形成するために使用されるプロセス中に、わずかな過剰量の1つの分子ビルディングブロック(2つ以上の分子ビルディングブロックが存在する場合)を使用することによって既存のSOF(ベース層)上への第2のSOFの化学的付着を促進することを含み、それにより、この分子ビルディングブロック上に存在する官能基がベース層表面上に存在するようになる。ベース層の表面は、官能基の反応性を増強するために、又は官能基の数を増加させるために、薬剤で処理されてもよい。
【0062】
一実施形態では、SOF又はキャッピングされたSOFの表面上に存在するダングリング官能基又は化学部分は、SOFなどの特定のクラスの分子又は個々の分子の、ベース層又は任意の追加の基板若しくはSOF層への共有結合の傾向を増加させる(あるいは、共有結合を嫌う)ように変更されてもよい。例えば、反応性ダングリング官能基を含み得るSOF層などのベース層の表面は、キャッピング化学基での表面処理により制圧され得る。例えば、ダングリングヒドロキシルアルコール基を有するSOF層は、トリメチルシリルクロリドで処理し、それにより、ヒドロキシル基を安定したトリメチルシリルエーテルとしてキャッピングすることによって制圧され得。あるいは、ベース層の表面をワックスなどの非化学結合剤で処理して、後続層由来のダングリング官能基との反応を阻止することができる。
【0063】
分子ビルディングブロックの対称性
分子ビルディングブロックの対称性は、分子ビルディングブロックセグメントの周囲の官能基(Fg)の位置決めに関連している。化学的理論又は数学的理論に拘束されるものではないが、対称的な分子ビルディングブロックは、Fgの位置決めが、ロッドの末端、規則的な幾何学的形状の頂点、又は歪んだロッド若しくは歪んだ幾何学的形状の頂点に関連し得るものである。例えば、4つのFgを含む分子ビルディングブロックの最も対称的な選択肢は、Fgが正方形のカマー(comer)又は四面体の頂点と重なるものである。
【0064】
対称的なビルディングブロックの使用は、(1)規則的な形状の連結が網状化学においてより十分に理解されたプロセスであるため、分子ビルディングブロックのパターン化がより良好に予想され得る、及び(2)あまり対称的ではないビルディングブロックの場合、SOF内で多数の連結欠陥を開始する可能性のある誤った立体配座/配向が採用され得るため、分子ビルディングブロック間の完全な反応が促進される、という2つの理由のため、本開示の実施形態で実践されている。
【0065】
実施形態では、タイプ1のSOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメントに接続されている、SOFの縁部に位置しないセグメントを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。実施形態では、タイプ2及び3のSOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメントに接続されている、SOFの縁部に位置しない少なくとも1つのセグメントタイプを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。
【0066】
連結化学の実践
実施形態では、官能基間の反応が、フィルム形成プロセス中又はフィルム形成プロセス後にSOFから大部分が蒸発又は除去され得る揮発性副生成物を生成するか、又は副生成物が形成されない連結化学が生じ得る。連結化学は、連結化学副生成物の存在が望ましくない用途のためのSOFを達成するように選択されてもよい。連結化学反応としては、例えば、縮合、付加/脱離、及び付加反応、例えば、エステル、イミン、エーテル、カーボネート、ウレタン、アミド、アセタール、及びシリルエーテルを生成する反応が挙げられ得る。
【0067】
実施形態では、官能基間の反応による連結化学は、フィルム形成プロセス後にSOF内に大部分が組み込まれたままである不揮発性副生成物を生成する。実施形態における連結化学は、連結化学副生成物の存在が特性に影響を及ぼさない用途のため、又は連結化学副生成物の存在がSOFの特性(例えば、SOFの電気活性、疎水性、又は親水性など)を変化させ得る用途のためのSOFを達成するように選択されてもよい。連結化学反応としては、例えば、置換、メタセシス、及び金属触媒カップリング反応、例えば、炭素-炭素結合をもたらすものが挙げられ得る。
【0068】
全ての連結化学について、ビルディングブロック官能基間の化学によりビルディングブロック間の反応の速度及び程度を制御する能力は、本開示の重要な態様である。反応の速度及び程度を制御する理由としては、先の実施形態で定義されたように、異なるコーティング方法に対してフィルム形成プロセスを適応させること、及び周期的なSOFを達成するためにビルディングブロックの微視的配置を調整することが挙げられ得る。
【0069】
COFの固有特性
COFは、高い熱安定性(典型的には、大気条件下で400℃超)、有機溶媒中での乏しい溶解性(化学的安定性)、及び気孔率(可逆的ゲスト取り込みが可能である)などの固有特性を有する。実施形態では、SOFもこれらの固有特性を有し得る。
【0070】
SOFの追加の機能性
追加の機能性は、従来のCOF又はSOFに固有ではなく、分子ビルディングブロックの選択によって生じ得る特性を意味し、分子組成が結果として得られたSOFに追加の機能性を提供する。追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有する分子ビルディングブロック及び/又はキャッピングセグメントの集合時に生じ得る。追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有しない分子ビルディングブロックの集合時に生じ得るが、結果として得られたSOFは、SOFへの連結セグメント(S)及びリンカーの結果として追加の機能性を有する。実施形態では、追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有しない分子ビルディングブロック及びキャッピングセグメントの付加及び集合時にも生じ得るが、結果として得られたSOFは、SOFへの連結セグメント、リンカー、及びキャッピングセグメントの結果として追加の機能性を有する。更に、追加の機能性の出現は、セグメント及びリンカーを一緒に連結してSOFにする際に傾斜特性が修正又は増強される追加の機能性に対して「傾斜特性」を有する分子ビルディングブロックを使用することの複合効果から生じ得る。
【0071】
分子ビルディングブロックの傾斜特性
分子ビルディングブロックの「傾斜特性」という用語は、例えば、ある特定の分子組成のために存在することが知られている特性、又はセグメントの分子組成を調べる際に当業者によって合理的に特定可能な特性を指す。本明細書で使用される場合、「傾斜特性」及び「追加の機能性」という用語は、同じ一般的特性(例えば、疎水性、電気活性など)を指すが、「傾斜特性」は分子ビルディングブロックとの関連で使用され、「追加の機能性」はSOFとの関連で使用される。
【0072】
SOFの疎水性(超疎水性)、親水性、疎油性(超疎油性)、脂溶性、フォトクロミック、及び/又は電気活性(導体、半導体、電荷輸送材料)性質は、SOPの「追加の機能性」を表し得る特性のいくつかの例である。これら及び他の追加の機能性は、分子ビルディングブロックの傾斜特性から生じ得るか、又はSOF中で観察されるそれぞれの追加の機能性を有しないビルディングブロックから生じ得る。
【0073】
疎水性(超疎水性)という用語は、例えば、水、又はメタノールなどの他の極性種をはじく特性を指し、水を吸収することができないこと及び/又は結果として膨潤することができないことを意味する。更に、疎水性とは、水又は他の水素結合種に対して強い水素結合を形成することができないことを意味する。疎水性材料は、典型的には、90°超の水接触角を有することを特徴とし、超疎水性材料は、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、150°超の水接触角を有する。
【0074】
親水性という用語は、例えば、水若しくは他の極性種、又はかかる種によって容易に湿潤される表面を引き付ける、吸着する、又は吸収する特性を指す。親水性材料は、典型的には、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、20°未満の水接触角を有することを特徴とする。親水性は、水若しくは他の極性種による材料の膨潤、又は水若しくは他の極性種を自らを通して拡散若しくは輸送することができる材料の膨潤も特徴とし得る。親水性は、水又は他の水素結合種に対して強い又は多数の水素結合を形成することができることも更に特徴とする。
【0075】
疎油性(撥油性)という用語は、例えば、油、又はアルカン、脂肪、及びワックスなどの他の非極性種をはじく特性を指す。疎油性材料は、典型的には、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、90°超の油接触角を有することを特徴とする。
【0076】
脂溶性(親油性)という用語は、例えば、油、若しくはアルカン、脂肪、及びワックスなどの他の非極性種、又はかかる種によって容易に湿潤される表面を引き付ける特性を指す。脂溶性材料は、典型的には、例えば、接触角ゴニオメーターを使用して測定される、低い油接触角からゼロの油接触角を有することを特徴とする。脂溶性は、ヘキサン又は他の非極性液体による材料の膨潤も特徴とすることができる。
【0077】
フォトクロミックという用語は、例えば、電磁放射線に曝露されたときに可逆的な色の変化を示す能力を指す。フォトクロミック分子を含むSOF組成物を調製することができ、電磁放射線に曝露されたときに可逆的な色の変化を示す。これらのSOFは、フォトクロミズムの追加の機能性を有してもよい。フォトクロミックSOFの堅牢性は、消去可能な紙用のフォトクロミックSOF、並びに窓の色付け/遮光及びアイウェア用の光応答性フィルムなどの多くの用途におけるそれらの使用を可能にし得る。SOF組成物は、SOF分子ビルディングブロックとしての二官能性フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合している)、SOFキャッピングセグメントとしての一官能性フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合している)、又はSOF複合材料中の非官能化フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合していない)などの任意の好適なフォトクロミック分子を含んでもよい。フォトクロミックSOFは、選択された光の波長に曝露されたときに色を変化させることができ、色の変化は可逆的であってもよい。
【0078】
SOF構造に化学的に結合したフォトクロミック分子を含むSOF組成物は、例外的に化学的及び機械的に堅牢なフォトクロミック材料である。かかるフォトクロミックSOF材料は、利用可能なポリマー代替物に対して多数の可逆的色変化プロセスなどの多くの優れた特性を示す。
【0079】
サブミクロンからミクロン規模の粗い、テクスチャ加工された、又は多孔質の表面を有するSOFは、疎水性であり得る。粗い、テクスチャ加工された、又は多孔質のSOF表面は、フィルム表面上に存在するダングリング官能基又はSOFの構造に起因し得る。パターンのタイプ及びパターン化の程度は、分子ビルディングブロックの形状及び連結化学効率に依存する。表面粗さ又はテクスチャをもたらす特徴サイズは、約100nm~約10μm、例えば、約500nm~約5μmである。
【0080】
イオン性構造化有機フィルム(SOF)を調製するためのプロセス
イオン性SOF(以下で「SOF」と称され得る)を作製するためのプロセスは、典型的には、非イオン性SOFを作製するために使用される同様の数の活動又は工程(以下に記載)を含む。イオン性セグメントは、結果として得られたSOF中のイオン性セグメントの所望の分布に応じて、工程a、b、又はcのいずれかの間に付加されてもよい。例えば、イオン性セグメント分布が、得られたSOF上で実質的に均一であることが望ましい場合、イオン性セグメントは、工程aの間に添加され得る。あるいは、例えば、イオン性セグメントのより不均一な分布が望ましい場合、イオン性セグメントの付加(例えば、工程bの間又は工程cの促進工程の間に形成されたフィルム上にそれを噴霧することによる)は、工程b及びcの間に行われ得る。あるいは、イオン性セグメントは、本質的にイオン性であり得るか、又は追加の後処理工程(例えば、工程c)の後)に供されて、キャッピングセグメント又は分子ビルディングブロックを付加又は反応させて、イオン性基を提供し得る。
【0081】
SOFを作製するためのプロセスは、典型的には、任意の適切な順序で実施されてもよいいくつかの活動又は工程(以下に記載)を含み、2つ以上の活動が同時に又は時間的に近接して実施される。
構造化有機フィルムの調製プロセスであって、
(a)各々がセグメント及びいくつかの官能基を含む複数の分子ビルディングブロックを含む、液体含有反応混合物を調製することと、
(b)反応混合物を湿潤フィルムとして堆積させることと、
(c)分子ビルディングブロックを含む湿潤フィルムの、共有結合性有機構造体として配置された複数のセグメント及び複数のリンカーを含むSOFを含む乾燥フィルムへの変化を促進することであって、巨視的レベルで、共有結合性有機構造体がフィルムである、促進することと、
(d)任意選択的に、コーティング基材からSOFを除去して、自立型SOFを得ることと、
(e)任意選択的に、自立型SOFをロールに加工することと、
(f)任意選択的に、SOFを切断してベルトに継ぎ合わせることと、
(g)任意選択的に、後続のSOF形成プロセスのための基材としてのSOF(上記のSOF形成プロセスによって調製された)に対して、上記のSOF形成プロセスを実施することと、を含む、構造化有機フィルムの調製プロセス。
【0082】
上記の活動又は工程は、大気圧、過圧、又は減圧で行うことができる。本明細書で使用される「大気圧」という用語は、約760トルの圧力を指す。超大気圧という用語は、大気圧より大きいが、20atm未満の圧力を指す。「減圧」という用語は、大気圧未満の圧力を指す。一実施形態では、活動又は工程は、大気圧又はその付近で行われ得る。一般に、約0.1atm~約2atm、例えば、約0.5atm~約1.5atm、又は0.8atm~約1.2atmの圧力を都合よく用いることができる。SOFを調製又は製造するための前述のプロセス工程又はプロセスに関する更なる考慮事項は、米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されており、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0083】
図2は、本開示によるイオン荷電官能基を有するSOFから作製されたアニオン性交換膜を含む例示的な電気化学システムの簡略化された側面図を表す。本開示によるSOFから形成することができるアニオン性交換膜200(AEM)が図示されている。陽イオン206及び陰イオン208は、電気化学システムのアニオン性交換膜200並びにそれに対応するアノード202及びカソード204の存在下で示されている。アニオン性交換膜200は、アニオン性交換膜200がアニオン性交換膜200を通して陰イオン208を輸送することを可能にする一方で、陽イオン206がアニオン性交換膜200を通過することを防止するように、アニオン性交換膜200の構造内に正に荷電した部分を含有する。
【0084】
本開示の例としては、これらの材料のイオン交換容量(IEC)を評価するために作製された様々なCEM及びAEM型SOFが挙げられる。IECは、乾燥膜1グラム当たりの当量(しばしばミリ当量)の数に基づいて、AEMのカチオン性基の数又はCEMのアニオン性基の数を提供するパラメータである。IECは、イオン交換容量であり、ポリマーの質量当たりの電荷とも呼ばれ、ポリマー1グラム当たりの電荷のミリ当量、meq/gのいずれかで表される。ある特定の実施例では、ポリマー内の二価イオンは、一価イオンと比較して2倍の電荷当量を有する。
【0085】
本明細書中に記載されるように、様々なイオン性分子又はイオン性分子前駆体は、分子ビルディングブロック又はキャッピング基として使用され得る。本実施例では、表1からのカチオン種又はアニオン種は、先に記載されたような2つの芳香族ビルディングブロック分子(THM-TBD又はTME-TBD)のうちの1つを有する。実施例で用いられる反応機構は、エーテル結合の形成(エーテル交換)に基づくが、反応結合は、他の実施例では、B-O(ボロキシン、ボロン酸エステル、スピロボレート、及びボロシリケート)、C=N(イミン、ヒドラゾン、及びスクアライン)、C-N(β-ケトエナミン、イミド、及びアミド)に拡張することができる。本開示の例としては、モル当量に基づいてSOFに付加されるイオン性キャッピングセグメントが挙げられる。モル当量は、N-ヒドロキシエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミドなどのキャッピングセグメントのモル数の、THM-TBDなどの分子ビルディングブロックのモル数に対する率である。キャッピングセグメントのセグメントに対するこの比率又は濃度は、SOFにおけるセグメントの総濃度に基づいて、約0.5~約10.0、又は約1.0~約5.0、又は約1.0~約2.5とすることができる。キャッピングセグメントのセグメントに対するこの比率又は濃度は、約0.5~約10.0、又は約1.0~約5.0、又は約1.0~約2.5とすることができる。非イオン性セグメントに対するイオン性キャッピングセグメントのモル当量は、約0.5~約10.0、又は約1.0~約5.0、又は約1.0~約2.5とすることもできる。イオン性キャッピング基セグメントの上限は、所与の分子ビルディングブロックセグメント上の反応性官能基部位の数に依存する。これはn-2を超えることができず、ここで、nは分子ビルディングブロックセグメント上の反応性官能基の数であり、さもなければ線状ポリマー又は小分子が形成される可能性がある。
【実施例0086】
比較例1は、Dowanol PM(1-メトキシ-2プロパノール)溶媒中でスチレンと塩化ビニルベンジルとのフリーラジカル重合をベースとし、次いで、1,2,4,5-テトラメチルイミダゾールで官能化される市販のAEMであるSustainion(登録商標)を記載している。ジビニルベンゼンも、膜の強度を改善するのを助けるために架橋剤として添加される。Dioxide Materials(商標)からのこの膜クラスは、選択されたグレードに応じて0.6~1.2mEq/gの範囲の典型的なIECを有すると報告されている。代表的な反応スキームを以下に示す。
【0087】
【化3】
【0088】
対照例-THM-TBDビルディングブロックから合成され、荷電種を含まないSOF:Dowanol PM(1-メトキシ-2-プロパノール、9.0190g)、Nacure 5225(0.0127、0.25重量%)、Silclean 3700(0.0501、1.0重量%)、及びTHM-TBD(0.9878g、98.75重量%)を、記載の順序で4ドラムバイアルに添加した。バイアルをブロックヒーターに入れ、65℃で90分間加熱した。次いで、3グラムの溶液を、アルミニウムパン内で120℃で40分間硬化させた。このフィルムのIEC値は、荷電基が存在しないことから予想されるように、0mEq/g(手動滴定によって測定される)であった。
【0089】
イミダゾリウムイオン性キャッピングセグメントの合成
N-ヒドロキシルエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミド(NETMImBr)の合成:
【0090】
【化4】

200mLのボンベフラスコをアルゴンでパージした。フラスコに、1,2,4,5-テトラメチルイミダゾール(3.73g、30mmol)、60mLの乾燥トルエン、及び2-ブロモエタノール(4.87g、39mmol)を添加した。フラスコを密封し、75℃に加熱し、72時間撹拌した。反応時間後、フラスコの底に油相(生成物)が存在した。反応混合物に20mLの脱イオン(DI)水を添加した。水相を回収し、2×20mLの酢酸エチルで洗浄して、淡黄色の油を得た。油を20mLの酢酸エチルで粉砕して、白色粉末(6.88g、収率92%)を得た。
【0091】
N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミド(NPTMImBr)の合成:
【0092】
【化5】

NPTMImBrの合成は、2-ブロムエタノールの代わりに3-ブロム-1-プロパノールを使用する以外は、NETMImBrの合成と同じ条件下で同じ試薬を利用して行った。
【0093】
実施例1-N-ヒドロキシエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミドTHM-TBDフィルム:6gのDMSOに溶解したTHM-TBD(1.37g、2.3mmol)。20分間超音波処理して、溶解を確実にした。N-ヒドロキシエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(0.5634g、2.3mmol)ブロミドを別個のバイアル中で2gのDMSOに溶解した。THM-TBD溶液の超音波処理後、イミダゾリウムブロミド溶液を添加し、混合物を再度6分間超音波処理して、溶解を確実にした。最後に、pTSA触媒(0.06g、0.35mmol)をバイアルに添加した。以下の表1に報告される重量は、配合物の総重量の化学量論を考慮した固体の重量%である。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例2-N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミドTHM-TBDフィルム:6gのDMSOに溶解したTHM-TBD(1.37g、2.3mmol)。20分間超音波処理して、溶解を確実にした。N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウム(0.5856g、2.3mmol)ブロミドを別個のバイアル中で2gのDMSOに溶解した。THM-TBD溶液の超音波処理後、イミダゾリウムブロミド溶液を添加し、混合物を再度6分間超音波処理して、溶解を確実にした。最後に、pTSA触媒(0.06g、0.35mmol)をバイアルに添加した。以下の表2に報告される重量は、配合物の総重量の化学量論を考慮した固体の重量%である。
【0096】
【表2】
【0097】
以下に示す例示的な反応スキームは、SOF配合物の硬化プロセス中に起こる反応を表す。酸触媒の添加及び熱への曝露の際に、ビルディングブロック及びキャッピングセグメントは、縮合反応を受けて、エーテル結合カチオン性網状組織を生成する。
【0098】
【化6】
【0099】
スロットダイコーティング
実施例1及び2のイミダゾリウム含有SOF配合物を、2つのポリエーテルエーテルケトン(polyether ether ketone、PEEK)ポリマー繊維スクリーン上にコーティングした。2つのスクリーンは、35um(細かい)及び220um(粗い)として分類され、引用された寸法は、隣接する繊維間の距離を指す。35μmのスクリーンは、22%の開口面積を有するが、220μmのスクリーンは、56%の開口面積を有する。実施例1の配合物(EXP-21-AC1543)を35μmのPEEKスクリーン上に10μL/秒及び15μL/秒の流量でコーティングし、続いてオートクレーブ中180℃で30分間硬化させた。N-ヒドロキシルエチル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミドキャッピングセグメントを有する配合物(実施例1)は、10μL/秒及び15μL/秒の両方の流量で適切なフィルムを提供することが観察された。しかしながら、10μl/秒の流量ではいくつかの欠陥が生じたのに対して、15μl/秒で作製されたコーティングは目に見える穴を有しないことが観察された。
【0100】
実施例2(EXP-21-AC1551)を、35μmのPEEKスクリーン上に15μL/秒の流量でコーティングし、開放空気によって硬化させ、180℃で30分間オートクレーブ処理した。N-ヒドロキシプロピル-1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリウムブロミドキャッピングセグメントを使用して作製されたコーティングは、欠陥がないことが観察された。しかしながら、表3に更に記載されるように、開放空気硬化を通して形成されたフィルムは完全に硬化されることが観察されたが、オートクレーブ中で硬化されたフィルムは完全には硬化されなかった。
【0101】
実施例2(EXP-21-AC1551)はまた、20μL/秒の流量を使用して、より粗いPEEKスクリーン(220um)上にコーティングされ、35umのスクリーンの22%に対して、56%のはるかに大きい開口面積を有した。この材料は明らかな欠陥なしに全ての孔を充填し、THFに24時間曝露した後に完全に硬化したことが分かった。比較すると、THM-TBD及び代替のカチオン性キャッピングセグメント(トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシドなど)を含有する他の配合物は、このより粗いスクリーンを十分にコーティングすることができず、フィルムが繊維から引き離されることが観察された。
【0102】
【表3】
【0103】
例示のコーティングされたフィルムを24時間のTHF浸漬に供して、フィルムが完全に硬化したかどうかを判定した。表3の硬化試験データから、閉じ込められた溶媒を有する環境(すなわち、オートクレーブ、又は非常に厚いフィルムの場合)で材料を硬化させようと試みると、完全に硬化していないフィルムが得られることに留意されたい。更に、これらのフィルムは、開放空気中で硬化されたフィルムの黄色がかった色と比較して緑色がかった色である。環境に開放して加熱したフィルムは、完全に硬化していることが分かった。
【0104】
コーティングされた例示の配合物の視覚的検査は、N-ヒドロキシエチルテトラメチル-イミダゾリウムブロミド配合物(実施例1)について、細かい(35um)及び粗い(220um)PEEKスクリーンの両方において開口領域の完全なコーティングを呈した。コーティングは、両方のスクリーン中の全ての孔を完全に充填することが観察され、硬化中にPEEK繊維から引き離されなかった。亀裂又は穴は観察されなかった。
【0105】
コーティングされた例示の配合物の追加の視覚的検査は、N-ヒドロキシプロピルテトラメチル-イミダゾリウムブロミド配合物(実施例2)について、細かい(35um)及び粗い(220um)PEEKスクリーンの両方において開口領域の完全なコーティングを呈した。コーティングは、両方のスクリーン中の全ての孔を完全に充填することが観察され、硬化中にPEEK繊維から引き離されなかった。最小量の亀裂が認められたが、これは、フィルム形成を改善するための添加剤の使用によって対処可能であると考えられる。追加の試料を表4及び表5に列挙する。
【0106】
イオン交換容量:
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
ヒドロキシエチル(実施例1)及びヒドロキシプロピルイミダゾリウム(実施例2)キャッピングセグメントをTHM-TBD SOF系に組み込むことによって作製されたフィルムは、非常に良好なイオン交換容量を呈した。実施例1の配合物は、自立型フィルム及び220umのコーティングされたPPEKスクリーンについて、それぞれ0.8205meq/g及び0.613meq/gのIEC結果を提供した。実施例2の配合物は、220umのスクリーン上にコーティングされたフィルムについて0.712meq/gのIEC値を与えた。比較すると、カチオン基(MTEAH)で官能化されたTHM-TBDフィルムは、他の実験において0.357もの高いIEC値を呈した。これは、比較により、実施例1及び2におけるイミダゾリウム基のより高いイオン交換能力を示す。市販のAEM、塩化テトラメチルイミダゾリウム官能化Sustainion(商標)は、1.17のIEC値を有する。本開示のイオン性SOF材料は、実施例1及び2で実証されたフィルムの架橋網状組織により、市販のAEMと比較して向上した機械的特性及び抵抗特性を提供しながら、比較的低いイミダゾリウム含有量で同様のイオン伝導性を呈する。
【0110】
本開示の例は、少なくとも1つのビルディングブロック又はセグメントが、連結のための4個の官能基を有する非荷電であるビルディングブロックと、荷電(又はイオン性)又はイオン性前駆体種及び連結のための少なくとも1個の官能基を含有する第2のビルディングブロック又はキャッピングセグメントと、から構成されている構造化有機フィルム(SOF)を提供する。荷電種は、1~4個の官能基を有することができ、ある特定の例では、Fgは-OHであり、荷電エンドキャップ種を有する網状組織を形成するか、又はfg>1の場合、内部SOF網状組織の一部分であることができる。本開示によるイオン交換容量(IEC)を有するイミダゾリウム系カチオン種を含むアニオン性交換膜として使用するための構造化有機フィルムが実証されている。自立型SOFフィルムは、IECによって測定されるような対イオンの優先的な輸送を容易にすることができ、いくつかの例では、市販の既知の材料よりも有利であり、高アルカリ性溶液及び有機溶媒(THFなど)中で化学的に安定である。本開示のSOFの用途としては、燃料セル、レドックスフロー電池、電気透析、逆電気透析、水電解、及び電気合成などの電気化学エネルギー変換及び分離デバイスのためのシステムが挙げられる。
【0111】
本教示は、1つ以上の実装形態に関して示されているが、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、示された例に対して変更及び/又は修正が行われ得る。例えば、プロセスが一連の行為又は事象として説明されているが、本教示は、かかる行為又は事象の順序によって限定されないことが理解され得る。一部の行為は、異なる順序で、及び/又は本明細書に記載されているものとは別の他の行為若しくは事象と同時に発生する可能性がある。また、全てのプロセス段階が、本教示の1つ以上の態様又は実施形態に従う方法論を実装するために必要とされ得るわけではない。構造的物体及び/若しくは処理段階が追加され得るか、又は既存の構造的物体及び/若しくは処理段階が除去若しくは修正され得ることが理解され得る。更に、本明細書に示される行為のうちの1つ以上は、1つ以上の別個の行為及び/又は段階で実行され得る。更に、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語、又はそれらの変形が、発明を実施するための形態及び特許請求の範囲のいずれかで使用される限りにおいて、かかる用語は、「含む(comprising)」という用語と同様の方法で包括的であることが意図されている。「少なくとも1つの」という用語は、列挙された項目のうちの1つ以上が選択され得ることを意味するように使用される。更に、本明細書における考察及び特許請求の範囲において、2つの材料に対して使用される「上(on)」という用語、他方「上」の一方は、材料間の少なくとも一部の接触を意味し、一方、「の上(over)」は、材料が、場合によっては、接触が可能であるが必要とされないように、1つ以上の追加の介在材料に近接していることを意味する。「上(on)」又は「の上(over)」のいずれも、本明細書で使用される場合にいかなる指向性も暗示しない。「共形」という用語は、下にある材料の角度が共形材料によって保持されるコーティング材料を記述する。「約」という用語は、変更が、示された実施形態に対してプロセス又は構造の不適合とならない限り、列挙される値が少し変更され得ることを示す。「結合する」、「結合される」、「接続する」、「接続」、「接続される」、「と接続して」、及び「接続している」という用語は、「と直接接続する」又は「1つ以上の中間要素又は部材を介して接続する」ことを指す。最後に、「例示の」又は「例証的な」という用語は、説明が理想的であることを意味するのではなく一例として使用されることを示す。本教示の他の実施形態は、本明細書の検討及び本明細書での本開示の実施を考慮して当業者に明らかであり得る。本明細書及び実施例は、単なる例示としてみなされることが意図され、本教示の真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
図1
【外国語明細書】