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特開2024-42666自立型構造化有機フィルムから形成された勾配膜及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042666
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】自立型構造化有機フィルムから形成された勾配膜及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240321BHJP
   C08G 65/34 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
C08G65/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023146236
(22)【出願日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】17/946,001
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー エム.ファルジア
(72)【発明者】
【氏名】シヴァンティ イースワリ スリスカンダ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー エイ.ホイフト
【テーマコード(参考)】
4F071
4J005
【Fターム(参考)】
4F071AA51
4F071AG28
4F071AH02
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC12
4J005AA21
4J005BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガス吸収、エネルギー貯蔵、及び触媒作用などの様々な用途に使用される規則化網状組織系から合成された傾斜機能材料又は勾配フィルムを提供する。
【解決手段】構造化有機フィルム(SOF)であって、複数のセグメントと、複数のリンカーと、複数のキャッピングセグメントと、前記SOFの第1の表面と、前記SOFの厚さによって前記第1の表面に接続された前記SOFの平行な第2の表面と、を含み、セグメントのキャッピングセグメントに対する比率が、前記平行な第2の表面と比較して、前記第1の表面においてより大きい、構造化有機フィルム(SOF)である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化有機フィルム(SOF)であって、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、
複数のキャッピングセグメントと、
前記SOFの第1の表面と、
前記SOFの厚さによって前記第1の表面に接続された前記SOFの平行な第2の表面と、を含み、
セグメントのキャッピングセグメントに対する比率が、前記平行な第2の表面と比較して、前記第1の表面においてより大きい、構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項2】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、リンカーを介して前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つに接続されている、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項3】
前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つが、以下を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【化1】
【請求項4】
前記SOF中のキャッピングセグメントの濃度が、前記SOF中のセグメントの濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のキャッピングセグメントである、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項5】
前記複数のセグメント又は前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、イオン性官能基を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項6】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、酸性官能基を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項7】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、スルホン酸を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項8】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4HBenSA)を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項9】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、4-ヒドロキシ安息香酸を含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項10】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、ヒドロキシベンゼンを含む、請求項1に記載の構造化有機フィルム(SOF)。
【請求項11】
膜であって、
第1の表面及び第2の表面を含む自立型フィルムを含み、前記自立型フィルムが、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、
複数のキャッピングセグメントと、を含む、膜。
【請求項12】
セグメントのキャッピングセグメントに対する比率が、前記第2の表面と比較して、前記第1の表面においてより大きい、請求項11に記載の膜。
【請求項13】
セグメントのキャッピングセグメントに対する比率が、前記第2の表面と比較して、前記第1の表面においてより小さい、請求項11に記載の膜。
【請求項14】
前記複数のセグメントのうちの少なくとも1つが、以下を含む、請求項11に記載の膜。
【化2】
【請求項15】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、スルホン酸を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項16】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4HBenSA)を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項17】
前記膜中のイオン性キャッピングセグメントの濃度が、前記膜中の非イオン性セグメントの総濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである、請求項11に記載の膜。
【請求項18】
自立型フィルムの厚さが、約100nm~約500μmである、請求項11に記載の膜。
【請求項19】
構造化有機フィルム(SOF)膜であって、
複数のセグメントと、
複数のリンカーと、
複数のキャッピングセグメントと、
前記SOFの第1の表面と、
前記SOFの第2の表面と、を含み、
セグメントのキャッピングセグメントに対する比率が、前記第2の表面と比較して、前記第1の表面においてより大きく、
前記SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度が、前記SOF中の非イオン性セグメントの総濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである、構造化有機フィルム(SOF)膜。
【請求項20】
前記複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つが、スルホン酸を含む、請求項19に記載の構造化有機フィルム(SOF)膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、概して、自立型構造化有機フィルムに関し、より具体的には、自立型構造化有機フィルムから形成された勾配膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた分離性能をもたらす規則化細孔チャネル及び低い物質移動抵抗を有することが示されている共有結合性有機構造体(covalent organic framework、COF)及び構造化有機構造体(structured organic framework、SOF)から製造された自立型膜が研究されている。他のアプローチは、COFがポリマーマトリックス中に均質に分散しているハイブリッドアプローチを使用するが、結果的にポリマー成分による空隙及びCOF細孔閉塞がもたらされる。勾配フィルムを調製するために使用されているいくつかの他の方法としては、溶解及び拡散法、押出し、マイクロ流体技法、電気化学技法、並びに遠心分離が挙げられる。
【0003】
伝統的な膜は、ポリマー鎖の絡み合い及び可撓性質によって形成された細孔を含むポリマー材料をベースとすることができる。これらの膜は、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride、PVDF)などの疎水性ポリマーから分子レベルで設計されている。これらのナノファイバー膜はエレクトロスピニングによって製造され、この製造を容易に操作して勾配フィルム又は膜の厚さにわたって気孔率勾配を呈するフィルムを製造することはできない。
【0004】
多孔質勾配フィルムの製造のための追加の方法としては、塩浸出、細孔材料が凍結乾燥によって作製されるクリオゲル技術、氷結晶の除去を含む低温処理、及び足場様細孔をもたらす凍結工程中の温度勾配が挙げられる。別の例では、勾配フィルムは、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)成分を勾配ゼラチンメッシュテンプレートに組み込むことによって調製することができ、PDMSの分布はフィルムの厚さに沿って徐々に変化する。次いで、好適なサイズのモノエポキシ末端ポリジメチルシロキサン(mono-epoxy terminated polydimethylsiloxane、PDMS-E)グラフト化ゼラチン(PDMS-E grafted gelatin、PGG)のコロイド粒子を使用して、勾配メッシュテンプレートを充填し、結果として35~89%の平均気孔率及び50~160ミクロンの範囲の孔径の減少がもたらされる。
【0005】
現在知られている傾斜機能材料を製造する方法に関する問題としては、様々な要因、例えば、溶媒、試薬の濃度、pH、温度、並びに反応物間の共有結合相互作用及び非共有結合相互作用の両方に干渉し得るレベリング剤又は界面活性剤などの添加剤に対する感受性が挙げられる。他の問題としては、極性系又は非極性系における試薬の適合性又は溶解の欠如が挙げられる。
【0006】
したがって、ガス吸収、エネルギー貯蔵、及び触媒作用などの様々な用途に使用される規則化網状組織系から合成された傾斜機能材料又は勾配フィルムを製造することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
以下は、本教示の1つ以上の実施形態のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、簡略化された概要を提示する。この概要は、広範な概略ではなく、本教示の主要又は重要な要素を特定することも、本開示の範囲を明示することも意図していない。むしろ、その主な目的は、単に、後に提示される詳細な説明の前置きとして、1つ以上の概念を簡略化された形式で提示することにすぎない。
【0008】
構造化有機フィルム(structured organic film、SOF)が開示される。本構造化有機フィルムは、複数のセグメント、複数のリンカー、及び複数のキャッピングセグメントを含む。本構造化有機フィルムは、SOFの第1の表面も含む。本フィルムは、SOFの厚さによって第1の表面に接続されたSOFの平行な第2の表面を含み、セグメントのキャッピングセグメントに対する比率は、平行な第2の表面と比較して、第1の表面においてより大きい。
【0009】
本構造化有機フィルムの実施態様は、複数のリンカーの全てが複数のセグメントに結合している場合を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、リンカーを介して複数のセグメントのうちの少なくとも1つに接続されている。SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度は、SOF中の非イオン性セグメントの濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである。SOFの厚さは、約100nm~約500μmである。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、酸性官能基を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、スルホン酸を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-hydroxybenzene sulfonic acid、4HBenSA)を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、4-ヒドロキシ安息香酸を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、ヒドロキシベンゼンを含んでもよい。
【0010】
自立型フィルムを含む膜は、第1の表面及び第2の表面を含んでもよく、複数のセグメント、複数のリンカー、及び複数のキャッピングセグメントを含んでもよい。本膜の実装形態は、セグメントのキャッピングセグメントに対する比率は、第2の表面と比較して、第1の表面においてより大きい場合を含んでもよい。セグメントのキャッピングセグメントに対する比率は、第2の表面と比較して、第1の表面においてより小さい可能性がある。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、スルホン酸を含んでもよい。複数のキャッピングセグメントのうちの少なくとも1つは、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4HBensA)を含んでもよい。本膜中のイオン性キャッピングセグメントの濃度は、本膜中の非イオン性セグメントの総濃度に対して、約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである。自立型フィルムの厚さは、約100nm~約500μmとすることができる。
【0011】
構造化有機フィルム(SOF)膜。本構造化有機フィルムは、複数のセグメント及び複数のリンカーも含む。本構造化有機フィルムは、複数のキャッピングセグメントも含む。本構造化有機フィルムは、SOFの第1の表面も含む。本構造化有機フィルムは、SOFの第2の表面も含み、本フィルムは、第2の表面と比較して第1の表面においてより大きいセグメントのキャッピングセグメントに対する比率を含む。本フィルムは、本SOF中の非イオン性セグメントの総濃度に対して約0.1~約5.0モル当量のイオン性キャッピングセグメントである本SOF中のイオン性キャッピングセグメントの濃度を含む。
【0012】
説明された特徴、機能、及び利点は、様々な実装形態において独立して達成され得るか、又は更に他の実装形態において組み合わされ得、その更なる詳細は、以下の説明を参照して理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本明細書の一部に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、本教示の実施形態を示し、本明細書とともに本開示の原理を説明する役割を果たす。図は以下のとおりである。
【0014】
図1】本開示による、標準の構造化有機フィルムと、キャッピングセグメントを有する構造化有機フィルム、イオン性官能基を含む分子ビルディングブロックセグメントを有する構造化有機フィルム、及びイオン性官能基を含むキャッピングセグメントを有する構造化有機フィルムとの間の差異を示す。
図2】本開示のSOFを組み込んだ例示的な膜の簡略化された側面図を表す。
図3】本開示による比較例の断面をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。
図4】本開示のSOFの断面における気孔率勾配を示す一連の写真を表す。
図5】本開示のSOFの断面における気孔率勾配をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。
図6】本開示のSOFの断面における気孔率勾配をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。
【0015】
図のいくつかの詳細は簡略化されており、厳密な構造精度、詳細、及び縮尺は維持されるものではなく、本教示の理解を容易にするように描かれていることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本教示の例示の実施形態を詳細に参照し、この実施例を添付図面に示す。可能な限り、同じ参照番号が、同じ、類似、又は同様の部分を指すように図面全体にわたって使用される。
【0017】
「構造化有機フィルム」(SOF)とは、巨視的レベルでフィルムであるCOFを指す。本開示のSOFは、SOF配合物に付加されたキャッピングセグメント又はキャッピング基を有し、これは(フィルム形成後に)、最終的にキャッピングセグメント上に位置する少なくとも1つの官能基を介してSOFに結合する。ある特定の実施例における本開示のSOFは、カチオン性又はアニオン性を含む、非イオン特性又はイオン特性を有することができる。このイオン特性は、SOF構造中の荷電分子ビルディングブロック又はキャッピング基のいずれかによって付与され得る。
【0018】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲において、「a」、「an」、及び「the」などの単数形は、その内容が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形を含む。
【0019】
「SOF」という用語は、概して、巨視的レベルでフィルムである共有結合性有機構造体(COF)を指す。「巨視的レベル」という語句は、例えば、本SOFの肉眼で見えるレベルを指す。COFが「微視的レベル」又は「分子レベル」(強力な拡大装置の使用を必要とするか、又は散乱法を使用して評価される)で網状組織であるが、本フィルムの被覆率が例えば微視的レベルのCOF網状組織よりも数桁大きいため、本SOFは「巨視的レベル」で根本的に異なる。本明細書に記載のSOFは、以前に合成された典型的なCOFとは大きく異なる巨視的形態を有する。自立型フィルム実施例において現在開示されているフィルム、又は表面上にコーティングされたフィルムは、上面及び底面を含むが、これらに限定されず、ここで、「上」及び「底」はフィルムの一時的な向き又は位置に依存し得る。更に、表面は、基材又は他の材料に接着又は結合されている場合であっても、依然として表面とみなされる。自立型フィルム実施例において現在開示されているフィルム、又は表面上にコーティングされたフィルムは、1つ以上の縁部も含み、これは、フィルムが存在する場所とフィルムが存在しない場所との間の1つ以上の境界とすることができるが、これに限定されない。
【0020】
加えて、キャッピングセグメントがSOFに導入されると、SOF骨格は、キャッピングセグメントが存在する場所で局所的に「中断」される。これらのSOF組成物は、キャッピングセグメントが存在した際に外来分子がSOF骨格に結合されるため、「共有結合的にドープ」されている。キャッピングされたSOF組成物は、構成要素であるビルディングブロックセグメントを変化させることなくSOFの特性を変更し得る。例えば、SOF骨格が中断されているキャッピングされたSOFの機械的特性及び物理的特性は、キャッピングされていないSOF又はキャッピングセグメントを有しないSOFの機械的特性及び物理的特性と異なり得る。
【0021】
本開示のSOFは、巨視的レベルでは、実質的にピンホールのないSOFであるか、又は、例えばミリメートルよりもはるかに大きい長さからメートルなどの長さ、理論的には数百メートルもの長さなどのより大きい長さ規模にわたって延在することができる連続した共有結合性有機構造体を有するピンホールのないSOFである。SOFが大きいアスペクト比を有する(典型的にはSOFの2つの寸法が第3の寸法よりもはるかに大きい)傾向があることも理解されるであろう。SOFは、COF粒子の集合体よりも著しく少ない巨視的縁部及び切断された外面を有する。
【0022】
複数の実施例では、「実質的にピンホールのないSOF」又は「ピンホールのないSOF」は、基礎となる基材の表面上に堆積した反応混合物から形成され得る。「実質的にピンホールのないSOF」という用語は、例えば、SOFが形成された基礎となる基材から除去されても除去されなくてもよく、かつ不規則なピンホール、ブリスター、破裂、若しくは間隙、例えば、1平方cm当たりの2つの隣接するセグメントのコア間の距離よりも大きいフィルム形成中に気泡が破裂したときに形成され得るコーティング欠陥とみなされるものを実質的に含まないSOF、例えば、1cm当たり直径約250ナノメートル超のピンホール、細孔、若しくは間隙が10個未満、又は1cm当たり直径約100ナノメートル超のピンホール、細孔、若しくは間隙が5個未満のSOFを指す。「ピンホールのないSOF」という用語は、例えば、SOFが形成された基礎となる基材から除去されても除去されなくてもよく、かつ1ミクロン当たり2つの隣接するセグメントのコア間の距離よりも大きい意図しないピンホール若しくは隙間を含まないSOF、例えば1ミクロン当たり直径約500オングストローム超のピンホール若しくは隙間を含まないSOFを指す。膜を介した輸送のための調整可能な特徴としてSOFに意図的かつ均一に導入された細孔は、本開示の目的のためにピンホールとは区別される。
【0023】
本開示に従って合成された構造化有機構造体又はSOFは、傾斜機能材料を含む。フィルム又はコーティングの形態で有機組成物の網状合成によって製造されたSOFは、多孔質空隙から高密度表面フィルムへと徐々に変動する制御されたメソ気孔率を呈する調整可能な厚さを有する高品質の自立型フィルムを特徴とする。これらのSOF材料は、ある特定の実施例においてスルホン酸官能基を含む配合物に基づいて空間的に変動した組成を呈する。スルホン酸官能基を有する例としては、本明細書に記載のSOF網状組織の結合化学に関与し得る官能基を有する官能化スルホン酸又はスルホン酸誘導体を挙げることができる。スルホン酸、官能化スルホン酸、又はスルホン酸誘導体中の追加の官能基としては、ヒドロキシ官能基を挙げることができるが、これらに限定されない。SOF網状組織内のビルディングブロックの濃度勾配は、イオン帯電ビルディングブロックから非イオン帯電ビルディングブロック又は非イオン性ビルディングブロックセグメントへと移行することができる。電荷密度は、図2に関して示され、かつ後述されるように、フィルムの深さに沿って変動する。本開示の実施例は、この濃度勾配を利用し、それ故に、SOFフィルムの特性を調整して、湿潤性、電荷輸送、機械的特性、光学的特性、及び熱的特性、並びに重要な官能基の密度などの特性を向上させることができる。貝殻、骨、及び歯などの天然由来の生体材料と同様に、本開示のSOF材料は、それらの化学組成により、自己組織化して勾配をもたらすことができる。
【0024】
固体材料の気孔率を決定するための伝統的な方法としては、ピクノメトリー及びガス吸着が挙げられる。開放気孔率を測定する際に、液体又は気体にアクセス可能な細孔の体積が定量化される。薄フィルムは、質量堆積が非常に少ないため、正確に評価することが困難であり得る。多孔質薄フィルムの気孔率を決定するための主要な分析技法としては、ガス収着、電子顕微鏡法、及び偏光解析法を挙げることができる。当該技術分野で既知の他の技法としては、ラザフォード後方散乱分光法、X線法、例えば、X線反射率測定法、X線吸収及びX線蛍光、並びに中性子反射率測定法が挙げられる。多孔質固体のいくつかの共通の特性は、比表面積(specific surface area、SSA)、平均孔径、及び孔径分布である。ガス収着測定を使用する測定可能な孔径範囲は、プローブとして用いられるガス分子のサイズ及び高い相対圧力を達成する装置の能力に依存する。窒素の場合、検出可能な最小孔径は約0.4nmであり、最大孔径は約300nmである。本開示について、定量化可能な範囲は、SEM断面画像によって視覚的に定量化される、SOFフィルムの下の凝集COFの場合、約0.1nm~約2500nmとすることができる。顕微鏡法は、固体材料の薄い断面を直接観察することにより細孔形状及びメソ細孔範囲又はそれ以上のサイズを分析するための信頼できる方法を提供する。必要とされる特定の孔径分解能に応じて、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を使用することができる。非湿潤性液体による液体侵入は、本明細書に記載の組成物及び方法によって得られる細孔が、約4nm~約60ミクロン、又は約4nm~約2.5ミクロンのメソ細孔及びマクロ細孔規模の範囲であるため、本開示のフィルムの気孔率を測定するための許容される方法として使用することができる。
【0025】
実施形態では、SOFは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。更なる実施形態では、SOFは、ボロキシン、ボラジン、ボロシリケート、及びボロン酸エステルを含まないSOFである。
【0026】
分子ビルディングブロック
【0027】
本開示のSOFは、セグメント(segment、S)及び官能基(functional group、Fg)を有するビルディングブロックセグメントとも称される分子ビルディングブロックを含む。分子ビルディングブロックは、少なくとも2つの官能基(x≧2)を必要とし、単一タイプ又は2つ以上のタイプの官能基を含んでもよい。官能基は、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する分子ビルディングブロックの反応性化学部分である。セグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない原子を含む分子ビルディングブロックの部分である。更に、分子ビルディングブロックセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。
【0028】
官能基
【0029】
官能基は、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結する化学反応に関与し得る分子ビルディングブロックの反応性化学部分である。官能基は、単一の原子から構成されてもよく、又は官能基は、2つ以上の原子から構成されてもよい。官能基の原子組成は、化合物中の反応性部分と通常会合している組成である。官能基の非限定的な例としては、ハロゲン、アルコール、エーテル、ケトン、カルボン酸、エステル、カーボネート、アミン、アミド、イミン、尿素、アルデヒド、イソシアネート、トシレート、アルケン、アルキンなどが挙げられる。例証的な例としては、ハロホルミル、酸素含有基(例えば、ヒドロキシル、無水物、カルボニル、カルボキシル、カーボネート、カルボキシレート、アルデヒド、エステル、ヒドロペルオキシ、ペルオキシ、エーテル、及びオルトエステル)、窒素含有基(例えば、カルボキサミド、アミン、イミン、イミド、アジド、アゾ、シアネート、イソシアネート、ニトレート、ニトリル、イソニトリル、ニトロソ、ニトロ、ニトロソオキシ)、硫黄含有基(スルフヒドリル、スルフィド、ジスルフィド、スルフィニル、スルホ、チオシアネート、イソチオシアネート、及びカルボノチオイル)、リン含有基(例えば、ホスフィノ、ホスホノ、及びホスフェート)、ケイ素含有基(Si(OH)3、Si(SH)4、シラン、シリル、及びシロキサン)、ホウ素含有基(例えば、ボロン酸、ボロン酸エステル、及びボロン酸エーテル)、金属又は半金属含有基(例えば、Ge(OH)、Ge(SH)、AsOH、AsOH、As(SH)、Sn(OH)、Sn(CH、及びSn(Bu))も挙げることができるが、これらに限定されない。
【0030】
分子ビルディングブロックは、複数の化学部分を含むが、これらの化学部分のサブセットのみがSOF形成プロセス中に官能基であることが意図される。化学部分が官能基とみなされるか否かは、SOF形成プロセスのために選択される反応条件に依存する。官能基(Fg)は、反応性部分である化学部分、すなわち、SOF形成プロセス中の官能基を意味する。
【0031】
SOF形成プロセスにおいて、官能基の組成は、原子の損失、原子の獲得、若しくは原子の損失及び獲得の両方によって変化するか、又は官能基全体が失われ得る。SOF中で、官能基と先に会合した原子は、セグメントを一緒に結合する化学部分であるリンカー基と化合するようになる。官能基は特徴的な化学的性質を有し、当業者であれば、一般に、本発明の分子ビルディングブロックにおいて官能基を構成する原子を認識することができる。分子ビルディングブロック官能基の一部として特定された原子又は原子団がSOFのリンカー基に保存されてもよいことに留意すべきである。リンカー基は、以下に記載されている。
【0032】
キャッピングセグメント、イオン性キャッピングセグメント、及びイオン性ビルディングブロック
【0033】
本開示のキャッピングセグメントは、SOF中に通常存在する共有結合したセグメントの規則的な網状組織を「中断」し、更にはイオン荷電官能基をSOF網状組織に組み込み得る化学部分である。1つ以上のキャッピングセグメントを含むSOFは、キャッピングされたSOFとも称され得る。SOFと、キャッピングセグメント、イオン性官能基を有するキャッピングセグメント、又はイオン性官能基を有する分子ビルディングブロックを有するSOFとの間の差異が図1に示される。図1は、標準の構造化有機フィルムと、キャッピングセグメントを有する構造化有機フィルム、イオン性官能基を含む分子ビルディングブロックセグメントを有する構造化有機フィルム、及びイオン性官能基を含むキャッピングセグメントを有する構造化有機フィルムとの間の差異を示す。SOFの様々な網状組織が示されており、いくつかのリンカー104によって接続されたいくつかのセグメント102を有する典型的なSOF網状組織100Aが図1Aに示されている。別のSOF網状組織100Bは、いくつかのリンカー104によって接続されたいくつかのセグメント102を有するキャッピングされたSOF網状組織100Bを表しており、キャッピングセグメント106がセグメント102の分岐を閉鎖又は終結している。SOF網状組織100Cでは、イオン性ビルディングブロック102Aとも称されるイオン性官能基を有する複数のセグメントがリンカー104によって接続されていることが示されている。SOF網状組織100Dでは、いくつかのリンカー104によって接続された複数のセグメント102が示されており、イオン性基106Aを有するキャッピングセグメントがセグメント102の分岐を閉鎖又は終結している。キャッピングセグメントは、キャッピングセグメント106において見られるようにイオン性基を有しない可能性があるか、又はキャッピングセグメント106Aにおいて見られるようにイオン性基を有する可能性があるが、反応してSOFのセグメント102の分岐を終結又は閉鎖する連結官能基(Fg)を1つのみ有する。キャッピングセグメント上のイオン性基は、最初に、又はSOF形成後の後処理工程における化学反応若しくは処理により、イオン特性を有することができる。分子ビルディングブロックセグメントは、セグメント102において見られるようにイオン性基を有しない可能性があるか、又はイオンビルディングブロックセグメント102Aにおいて見られるようにイオン性基を有する可能性がある。分子ビルディングブロックセグメント102、102Aは、SOFと反応してSOF網状組織を形成する2つ以上の連結Fgも有する。分子ビルディングブロック上のイオン性基は、最初に、又はSOF形成後の後処理工程における化学反応若しくは処理により、イオン特性を有することができる。例示的なSOF網状組織100A、100B、100C、100Dが、本開示のSOF網状組織への様々な成分の包含を示しているが、これらは非限定的であり、本開示のSOF網状組織のある特定の実施例は、様々なセグメント、リンカー、キャッピングセグメント、イオン性キャッピングセグメント若しくはイオン性官能基を有するキャッピングセグメント、分子ビルディングブロックセグメント、イオン性分子ビルディングブロックセグメント、又はそれらの組み合わせのうちのいくつか又は全てを有することができる。
【0034】
キャッピングされたSOF組成物、又はセグメント若しくは分子ビルディングブロック、又はキャッピングセグメントのいずれかにイオン性基を有するSOF組成物は、導入されるイオン性基のタイプ及び量によって特性を変化させることができる調整可能な材料を提供することができる。IEC又は荷電膜用途に使用される従来の膜は、典型的には、ポリマー又は網状組織骨格を提供し、その後、荷電官能基を導入することによって作製される。本開示の実施例は、合成中にイオン性若しくは荷電キャッピングセグメント、あるいはイオン性若しくは荷電分子ビルディングブロックが構造化有機網状組織に組み込まれる、構造化有機網状組織を提供する。先に述べたように、ある特定の実施例では、電荷は、網状組織形成時に存在し得るか、又は化学反応若しくは後処理工程(例えば、網状組織形成後に本明細書に記載の工程が挙げられるが、これらに限定されない)によって誘導され得るかのいずれかである。本開示の目的のために、処理前に又は処理後若しくは形成後にイオン性基を有するキャッピングセグメントは、イオン性キャッピングセグメントと称され得る。更に、処理前に又は処理後若しくは形成後にイオン性基を有する分子ビルディングブロックは、イオン性分子ビルディングブロック又はイオン性ビルディングブロック又はイオン性セグメントと称され得る。
【0035】
実施形態では、キャッピングセグメントは、(フィルム形成後に)最終的にSOFになる、SOF配合物に添加される分子ビルディングブロックのいずれの構造にも関連しない構造を有してもよい。言い換えれば、キャッピングセグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない原子を含むキャッピング基又はキャッピング単位の部分である。更に、キャッピングセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。実施形態では、キャッピングセグメントは、分子ビルディングブロックと同じであり得るが、単一の反応性部位のみを有する。
【0036】
キャッピングセグメント分子は、SOF形成プロセス中に別のセグメントに連結するための化学反応に関与するのに好適な又は相補的な官能基(上記のもの)を有する1つの官能基を有する。SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではなく、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない第2の化学部分が存在してもよい。しかしながら、SOFが形成された後、かかる官能基は、追加の成分との更なる反応に利用可能であり得、それ故に、形成されたSOFの様々な特性の更なる改良及び調整を可能にする。
【0037】
実施形態では、SOFは、キャッピングセグメントの構造が変化するキャッピングセグメントの混合物、例えば、第1のキャッピングセグメント、第2のキャッピングセグメント、第3のキャッピングセグメント、第4のキャッピングセグメントなどの任意の組み合わせを含んでもよい。実施形態では、キャッピングセグメント又は複数のキャッピングセグメントの組み合わせの構造は、SOFの化学的及び物理的特性を向上させるか又は減衰させるかのいずれかを行うように選択されてもよく、あるいは、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではない化学部分又は官能基のアイデンティティを変化させて、キャッピングセグメントの混合物を形成することができる。したがって、SOF骨格に導入されるキャッピングセグメントのタイプは、SOFの所望の特性を導入する又は調整するように選択されてもよい。
【0038】
実施形態では、SOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている、SOFの縁部に位置しないセグメントを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。実施形態では、タイプ2及びタイプ3のSOFは、SOFの縁部に位置しない少なくとも2つのセグメントタイプを含み、少なくとも1つのセグメントタイプは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。
【0039】
実施形態では、SOFは、全てのセグメントが同一の構造を有する複数のセグメントと、同一の構造を有していても有していなくてもよい複数のリンカーとを含み、SOFの縁部にないセグメントは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。実施形態では、SOFは、構造が異なる少なくとも第1のセグメント及び第2のセグメントを含む複数のセグメントを含み、第1のセグメントは、SOFの縁部にない場合、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されている。
【0040】
実施形態では、SOFは、構造が異なる少なくとも第1のリンカー及び第2のリンカーを含む複数のリンカーを含み、複数のセグメントは、構造が異なる少なくとも第1のセグメント及び第2のセグメントを含み、第1のセグメントは、SOFの縁部にない場合、少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されており、接続のうちの少なくとも1つが第1のリンカーを介しており、接続のうちの少なくとも1つが第2のリンカーを介しているか、又は全て同一の構造を有するセグメントを含み、SOFの縁部にないセグメントは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメント及び/又はキャッピング基に接続されており、接続のうちの少なくとも1つが第1のリンカーを介しており、接続のうちの少なくとも1つが第2のリンカーを介している、のいずれかである。
【0041】
実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF配合物に添加される分子ビルディングブロック(米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されているSOFの分子ビルディングブロックなど)のうちの1つの構造に実質的に対応する構造を有するが、ビルディングブロック上に存在する官能基のうちの1つ以上は、欠損しているか、又はSOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための(最初に存在するビルディングブロックの官能基との)化学反応に関与しない異なる化学部分若しくは官能基で置換されているかのいずれかである。
【0042】
例えば、以下のトリス-(4-ヒドロキシメチル)トリフェニルアミンなどの分子ビルディングブロックの場合、
【化1】

使用され得る多くの可能なキャッピングセグメントのうち、好適なキャッピングセグメントとしては、例えば、
【化2】

【化3】

が挙げられ得る。
【0043】
分子ビルディングブロックに関連しない構造を有するキャッピング基は、例えば、水素原子のうちの1つが-OH基によって置換されているアルキル部分(例えば、アルカンに由来し、かつ一般式C2n+1を有し、式中、nが1以上の数である、分岐又は非分岐飽和炭化水素基)であってもよい。かかる配合物において、キャッピング基と分子ビルディングブロックとの間の反応、例えば、アルコール(-OH)基間の酸触媒反応は、(連結)エーテル基の形成によりキャッピングセグメントと分子ビルディングブロックセグメントを一緒に連結するであろう。ある特定の実施例では、キャッピングセグメントは、スルホン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェノール、4-ヒドロキシベンゼンスルホネート、ナフトールスルホン酸、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸、又はそれらの組み合わせを含むことができる。実施例では、代替のキャッピングセグメントは、-OHと-COOHの縮合、イミン結合をもたらすアルデヒド(R-CH=O)とアミンの縮合、非置換オレフィン(-CH=CH-)を形成するためのトリアジンとアルデヒドとの間のアルドール縮合、又はこれらの組み合わせによって反応する官能基を有することができる。
【0044】
実施形態では、キャッピング分子は、SOF網状組織に結合するための1つの反応性官能基を有する。例えば、実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する好適な又は相補的な官能基(上記のもの)を1つのみ含み、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない(追加のSOFがキャッピングされたSOFベース層の上部に形成され、多層SOFが形成される場合など、好適な又は相補的な官能基を有するビルディングブロックが添加されるまで)。
【0045】
かかるキャッピング分子がSOFコーティング配合物に導入されると、硬化時に、SOF骨格における中断が導入される。したがって、SOF骨格における中断は、キャッピング分子の単一の好適な又は相補的な官能基が分子ビルディングブロックと反応し、SOF骨格の伸長を局所的に終結させ(又はキャッピングし)、SOF中に通常存在する共有結合したビルディングブロックの規則的な網状組織を中断する部位である。SOF骨格に導入されるキャッピングセグメントのタイプ(又はキャッピングセグメントの構造)を使用して、SOFの特性を調整することができる。
【0046】
実施形態では、キャッピングセグメント分子は、2つ以上の化学部分又は官能基を含んでもよい。例えば、(フィルム形成後に)最終的にSOF中で結合されるようになるSOFコーティング配合物は、少なくとも2つ以上の化学部分又は官能基、例えば2、3、4、5、6つ、又はそれ以上の化学部分又は官能基を有するキャッピングセグメントを含んでもよく、官能基のうちの1つのみが、SOF形成プロセス中にセグメントを連結するための化学反応に関与する好適な又は相補的な官能基(上述のもの)である。分子ビルディングブロック上に存在する様々な他の化学部分又は官能基は、SOF形成プロセス中に最初に存在するセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではない又は相補的ではなく、それ故に、いずれの更なる隣接する分子ビルディングブロックも架橋することができない化学部分又は官能基である。しかしながら、SOFが形成された後、かかる化学部分及び/又は官能基は、追加の成分との更なる反応に利用可能であり得(以下で論じられるダングリング官能基と同様)、それ故に、形成されたSOFの様々な特性の更なる改良及び調整、又は多層SOFの形成における様々な他のSOF層の化学的結合を可能にする。
【0047】
実施形態では、分子ビルディングブロックは、x個の官能基(ここで、xは3以上である)を有してもよく、キャッピングセグメント分子は、好適な又は相補的な官能基(上記のもの)であり、かつSOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための化学反応に関与する1つの官能基を有するキャッピング基分子を含んでもよい。ある特定の実施例では、タイプ1のSOF(単一分子ビルディングブロックタイプ)の場合、3つ以上の官能基が必要である。タイプ2のSOFの場合、少なくとも1つの分子ビルディングブロックタイプが3つ以上の官能基を有することができ、残りの分子ビルディングブロックが2つ以上の官能基を有することができる。例えば、xは、トリス-(4-ヒドロキシメチル)トリフェニルアミン(上記)の場合、3であり、xは、以下に示されるビルディングブロックの場合、4であり、N,N,N’,N’-tetrakは、[(4-ヒドロキシメチル)フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミンである。
【化4】
【0048】
セグメント
【0049】
セグメントは、官能基を支持し、かつ官能基と会合していない全ての原子を含む分子ビルディングブロックの部分である。更に、分子ビルディングブロックセグメントの組成は、SOF形成後も変化しないままである。実施形態では、SOFは、第2のセグメントと同じ又は異なる構造を有する第1のセグメントを含んでもよい。他の実施形態では、第1のセグメントの構造及び/又は第2のセグメントの構造は、第3のセグメントと同じであっても異なっていてもよく、第4のセグメントと同じであっても異なっていてもよく、第5のセグメントと同じであっても異なっていてもよいといった具合である。セグメントは、傾斜特性を提供することができる分子ビルディングブロックの部分でもある。傾斜特性については後述の実施形態で説明される。
【0050】
特定の実施形態では、SOFのセグメントは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。
【0051】
様々な例示的な分子ビルディングブロック、リンカー、SOFタイプ、例示的な化学構造を有する特定のSOFタイプを合成するための戦略、対称要素が概説されているビルディングブロック、並びに分子ビルディングブロック又はSOFの他の成分として機能し得る例示的な分子実体のクラス及び各クラスのメンバーの例の説明は、米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されており、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0052】
リンカー
【0053】
リンカーは、分子ビルディングブロック及び/又はキャッピング基上に存在する官能基間の化学反応時にSOF中に出現する化学部分である。
【0054】
リンカーは、共有結合、単一の原子、又は共有結合した原子団を含んでもよい。前者は、共有結合リンカーとして定義され、例えば、単共有結合であっても二重共有結合であってもよく、全てのパートナーになったビルディングブロック上の官能基が完全に失われた場合に出現する。後者のリンカータイプは、化学部分リンカーとして定義され、単共有結合、二重共有結合、又はそれらの2つの組み合わせによって一緒に結合された1つ以上の原子を含んでもよい。連結基に含まれる原子は、SOF形成プロセス前に分子ビルディングブロック上の官能基に存在する原子に由来する。化学部分リンカーは、周知の化学基、例えば、エステル、ケトン、アミド、イミン、エーテル、ウレタン、カーボネートなど、又はそれらの誘導体などであってもよい。
【0055】
例えば、2つのヒドロキシル(-OH)官能基が酸素原子を介してSOF中のセグメントを接続するために使用される場合、リンカーは酸素原子であり、エーテルリンカーと説明されてもよい。実施形態では、SOFは、第2のリンカーと同じ又は異なる構造を有する第1のリンカーを含んでもよい。他の実施形態では、第1のリンカーの構造及び/又は第2のリンカーの構造は、第3のリンカーと同じであっても異なっていてもよいといった具合である。
【0056】
キャッピングセグメントは、全般的なSOF骨格が十分に維持されている限り、任意の所望の量でSOF中に結合されていてもよい。例えば、実施形態では、キャッピングセグメントは、SOF中に存在する全てのリンカーの少なくとも0.1%であるが、全てのリンカーの約40%以下、例えば、約0.5%~約30%、又は約2%~約20%に結合していてもよい。実施形態では、実質的に全てのセグメントが少なくとも1つのキャッピングセグメントに結合していてもよく、ここで、「実質的に全て」という用語は、例えば、SOFのセグメントの約95%超、例えば、約99%超を指す。キャッピングセグメントが、(リンカーが出現する)分子ビルディングブロック上の利用可能な官能基の50%超に結合する場合、キャッピングセグメントで完全にキャッピングされたオリゴマー、直鎖状ポリマー、及び分子ビルディングブロックが、SOFの代わりに主に形成され得る。SOFのある特定の実施例では、キャッピングセグメントは、モル%濃度に関して、又はセグメント組成若しくは全SOF組成のいずれかと比較した比率として定量的に表されてもよい。
【0057】
特定の実施形態では、リンカーは、炭素ではない元素の少なくとも1つの原子、例えば、水素、酸素、窒素、ケイ素、リン、セレン、フッ素、ホウ素、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む。
【0058】
SOFの計量パラメータ
【0059】
SOFは、任意の好適なアスペクト比を有する。実施形態では、SOFは、例えば、約30:1超又は約50:1超又は約70:1超又は約100:1超、例えば、約1000:1のアスペクト比を有する。SOFのアスペクト比は、その平均幅又は直径(すなわち、その厚さに対して次に大きい寸法)の、その平均厚さ(すなわち、その最短寸法)に対する比率として定義される。本明細書で使用される「アスペクト比」という用語は、理論によって拘束されない。SOFの最長寸法はその長さであり、SOFアスペクト比の計算では考慮されない。
【0060】
一般に、SOFは、約500マイクロメートル超、例えば、約10mm又は30mmの幅及び長さ、又は直径を有する。SOFは、以下の例証的な厚さ:単一セグメント厚層の場合、約10オングストローム~約250オングストローム、例えば、約20オングストローム~約200オングストローム、複数セグメント厚層の場合、約20nm~約5mm、約50nm~約10mmを有する。
【0061】
SOFの寸法は、様々なツール及び方法を使用して測定することができる。約1マイクロメートル以下の寸法の場合、走査型電子顕微鏡法が好ましい方法である。約1マイクロメートル以上の寸法の場合、マイクロメーター(又は定規)が好ましい方法である。
【0062】
多層SOF
【0063】
SOFは、単層又は複数の層(すなわち、2つ、3つ、又はそれ以上の層)を含んでもよい。複数の層から構成されるSOFは、物理的に接合されても(例えば、双極子結合及び水素結合)、化学的に接合されてもよい。物理的に付着された層は、より弱い層間相互作用又は接着を特徴とし、それ故に、物理的に付着された層は、互いに層間剥離しやすい場合がある。化学的に付着された層は、化学結合(例えば、共有結合又はイオン結合)を有するか、又は隣接する層を強く連結する多数の物理的若しくは分子間(超分子)絡み合いを有することが予想される。
【0064】
したがって、化学的に付着された層の剥離は、はるかに困難である。層間の化学的付着は、集光、赤外、又はラマン分光法などの分光法を使用して、又は界面で化学種を正確に検出することができる空間分解能を有する他の方法を用いて検出することができる。層間の化学的付着が層自体内の化学種とは異なる化学種である場合、固体核磁気共鳴分光法などの高感度バルク分析を用いて、又は他のバルク分析方法を使用することによって、これらの付着を検出することが可能である。
【0065】
実施形態では、SOFは、単一層(単一セグメント厚又は複数セグメント厚)であっても、複数層(各層が単一セグメント厚又は複数セグメント厚である)であってもよい。「厚さ」とは、例えば、フィルムの最小寸法を指す。上述したように、SOF中で、セグメントは、リンカーを介して共有結合されてフィルムの分子骨格を生成する分子単位である。フィルムの厚さは、フィルムの断面を見たときにフィルムの軸に沿って計数されるセグメントの数に関しても定義され得る。「単層」SOFは、最も単純な事例であり、例えば、フィルムが1セグメント厚である場合を指す。この軸に沿って2つ以上のセグメントが存在するSOFは、「複数セグメント」厚SOFと称される。
【0066】
物理的に付着された多層SOFを調製するための例示的な方法は、(1)第1の硬化サイクルによって硬化され得るベースSOF層を形成する工程と、(2)ベース層上に第2の反応性湿潤層を形成し、その後、第2の硬化サイクルを行う工程とを含み、所望の場合、第2の工程を繰り返して第3の層形成し、第4の層を形成するといった具合である。物理的に積層された多層SOFは、約20オングストローム超の厚さ、例えば、以下の例証的な厚さ:約20オングストローム~約10mm、例えば、約1nm~約10mm、又は約0.1mmオングストローム~約5mmなどを有してもよい。原則として、このプロセスでは、物理的に積層され得る層の数に制限はない。本開示によるSOFの代替例としては、自立型フィルムが挙げられる。自立型フィルムの厚さは、約1μm~約500μm、又は約10μm~約250μm、又は約100μm~約150μmとすることができる。
【0067】
実施形態では、多層SOFは、(1)第1の反応性湿潤層から、表面上に存在する官能基(又はダングリング官能基)を有するベースSOF層を形成し、かつ(2)ベースSOF層の表面上のダングリング官能基と反応することができる官能基を有する分子ビルディングブロックを含む第2の反応性湿潤層から、ベース層上に第2のSOF層を形成することによって、化学的に付着された多層SOFを調製するための方法によって形成される。更なる実施形態では、キャッピングされたSOFは、ベース層として機能してもよく、ここで、ベース層SOF形成プロセス中にセグメントを一緒に連結するための特定の化学反応に関与するのに好適ではなかった又は相補的ではなかった存在する官能基が、第2の層の分子ビルディングブロックと反応して化学的に結合された多層SOFを形成するために利用可能であり得る。所望の場合、第2のSOF層を形成するために使用される配合物は、ベース層由来の官能基と反応することができる官能基、並びに第3の層が第2の層に化学的に付着されることを可能にする追加の官能基を有する分子ビルディングブロックを含むべきである。化学的に積層された多層SOFは、約20オングストローム超の厚さ、例えば、以下の例証的な厚さ:約20オングストローム~約10mm、例えば、約1nm~約10mm、又は約0.1mmオングストローム~約5mmなどを有してもよい。原則として、このプロセスでは、化学的に積層され得る層の数に制限はない。
【0068】
実施形態では、化学的に付着された多層SOFを調製するための方法は、SOF(ベース層)を形成するために使用されるプロセス中に、わずかな過剰量の1つの分子ビルディングブロック(2つ以上の分子ビルディングブロックが存在する場合)を使用することによって既存のSOF(ベース層)上への第2のSOFの化学的付着を促進することを含み、それにより、この分子ビルディングブロック上に存在する官能基がベース層表面上に存在するようになる。ベース層の表面は、官能基の反応性を増強するために、又は官能基の数を増加させるために、薬剤で処理されてもよい。
【0069】
一実施形態では、SOF又はキャッピングされたSOFの表面上に存在するダングリング官能基又は化学部分は、SOFなどの特定のクラスの分子又は個々の分子の、ベース層又は任意の追加の基板若しくはSOF層への共有結合の傾向を増加させる(あるいは、共有結合を嫌う)ように変更されてもよい。例えば、反応性ダングリング官能基を含み得るSOF層などのベース層の表面は、キャッピング化学基での表面処理により制圧され得る。例えば、ダングリングヒドロキシルアルコール基を有するSOF層は、トリメチルシリルクロリドで処理し、それにより、ヒドロキシル基を安定したトリメチルシリルエーテルとしてキャッピングすることによって制圧され得。あるいは、ベース層の表面をワックスなどの非化学結合剤で処理して、後続層由来のダングリング官能基との反応を阻止することができる。
【0070】
分子ビルディングブロックの対称性
【0071】
分子ビルディングブロックの対称性は、分子ビルディングブロックセグメントの周囲の官能基(Fg)の位置決めに関連している。化学的理論又は数学的理論に拘束されるものではないが、対称的な分子ビルディングブロックは、Fgの位置決めが、ロッドの末端、規則的な幾何学的形状の頂点、又は歪んだロッド若しくは歪んだ幾何学的形状の頂点に関連し得るものである。例えば、4つのFgを含む分子ビルディングブロックの最も対称的な選択肢は、Fgが正方形の角又は四面体の頂点と重なるものである。
【0072】
対称的なビルディングブロックの使用は、(1)規則的な形状の連結が網状化学においてより十分に理解されたプロセスであるため、分子ビルディングブロックのパターン化がより良好に予想され得る、及び(2)あまり対称的ではないビルディングブロックの場合、SOF内で多数の連結欠陥を開始する可能性のある誤った立体配座/配向が採用され得るため、分子ビルディングブロック間の完全な反応が促進される、という2つの理由のため、本開示の実施形態で実践されている。
【0073】
実施形態では、タイプ1のSOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメントに接続されている、SOFの縁部に位置しないセグメントを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。実施形態では、タイプ2及び3のSOFは、リンカーによって少なくとも3つの他のセグメントに接続されている、SOFの縁部に位置しない少なくとも1つのセグメントタイプを含む。例えば、実施形態では、SOFは、理想的な三角形のビルディングブロック、歪んだ三角形のビルディングブロック、理想的な四面体のビルディングブロック、歪んだ四面体のビルディングブロック、理想的な正方形のビルディングブロック、及び歪んだ正方形のビルディングブロックからなる群から選択される少なくとも1つの対称的なビルディングブロックを含む。
【0074】
連結化学の実践
【0075】
実施形態では、官能基間の反応が、フィルム形成プロセス中又はフィルム形成プロセス後にSOFから大部分が蒸発又は除去され得る揮発性副生成物を生成するか、又は副生成物が形成されない連結化学が生じ得る。連結化学は、連結化学副生成物の存在が望ましくない用途のためのSOFを達成するように選択されてもよい。連結化学反応としては、例えば、縮合、付加/脱離、及び付加反応、例えば、エステル、イミン、エーテル、カーボネート、ウレタン、アミド、アセタール、及びシリルエーテルを生成する反応が挙げられ得る。
【0076】
実施形態では、官能基間の反応による連結化学は、フィルム形成プロセス後にSOF内に大部分が組み込まれたままである不揮発性副生成物を生成する。実施形態における連結化学は、連結化学副生成物の存在が特性に影響を及ぼさない用途のため、又は連結化学副生成物の存在がSOFの特性(例えば、SOFの電気活性、疎水性、又は親水性など)を変化させ得る用途のためのSOFを達成するように選択されてもよい。連結化学反応としては、例えば、置換、メタセシス、及び金属触媒カップリング反応、例えば、炭素-炭素結合をもたらすものが挙げられ得る。
【0077】
全ての連結化学について、ビルディングブロック官能基間の化学によりビルディングブロック間の反応の速度及び程度を制御する能力は、本開示の重要な態様である。反応の速度及び程度を制御する理由としては、先の実施形態で定義されたように、異なるコーティング方法に対してフィルム形成プロセスを適応させること、及び周期的なSOFを達成するためにビルディングブロックの微視的配置を調整することが挙げられ得る。
【0078】
COFの固有特性
【0079】
COFは、高い熱安定性(典型的には、大気条件下で400℃以上)、有機溶媒中での乏しい溶解性(化学的安定性)、及び気孔率(可逆的ゲスト取り込みが可能である)などの固有特性を有する。実施形態では、SOFもこれらの固有特性を有し得る。
【0080】
SOFの追加の機能性
【0081】
追加の機能性は、従来のSOFに固有ではなく、分子ビルディングブロックの選択によって生じ得る特性を意味し、分子組成が結果として得られたSOFに追加の機能性を提供する。追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有する分子ビルディングブロック及び/又はキャッピング基の集合時に生じ得る。追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有しない分子ビルディングブロックの集合時に生じ得るが、結果として得られたSOFは、SOF中のセグメント(S)及びリンカーの結果として追加の機能性を有する。実施形態では、追加の機能性は、その追加の機能性に対して「傾斜特性」を有しない分子ビルディングブロック及びキャッピング基の付加及び集合時にも生じ得るが、結果として得られたSOFは、SOFへのセグメント及びリンカーの結果として追加の機能性を有する。更に、追加の機能性の出現は、セグメント及びリンカーを一緒に連結してSOFにする際に傾斜特性が修正又は増強される追加の機能性に対して「傾斜特性」を有する分子ビルディングブロックを使用することの複合効果から生じ得る。
【0082】
分子ビルディングブロックセグメントの傾斜特性
【0083】
分子ビルディングブロックの「傾斜特性」という用語は、例えば、ある特定の分子組成のために存在することが知られている特性、又はセグメントの分子組成を調べる際に当業者によって合理的に特定可能な特性を指す。本明細書で使用される場合、「傾斜特性」及び「追加の機能性」という用語は、同じ一般的特性(例えば、疎水性、電気活性など)を指すが、「傾斜特性」は分子ビルディングブロックとの関連で使用され、「追加の機能性」はSOFとの関連で使用される。
【0084】
SOFの疎水性(超疎水性)、親水性、疎油性(超疎油性)、脂溶性、フォトクロミック、及び/又は電気活性(導体、半導体、電荷輸送材料)性質は、SOFの「追加の機能性」を表し得る特性のいくつかの例である。これら及び他の追加の機能性は、分子ビルディングブロックの傾斜特性から生じ得るか、又はSOF中で観察されるそれぞれの追加の機能性を有しないビルディングブロックから生じ得る。
【0085】
疎水性(超疎水性)という用語は、例えば、水、又はメタノールなどの他の極性種をはじく特性を指し、水を吸収することができないこと及び/又は結果として膨潤することができないことを意味する。更に、疎水性とは、水又は他の水素結合種に対して強い水素結合を形成することができないことを意味する。疎水性材料は、典型的には、90°超の水接触角を有することを特徴とし、超疎水性材料は、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、150°超の水接触角を有する。
【0086】
親水性という用語は、例えば、水若しくは他の極性種、又はかかる種によって容易に湿潤される表面を引き付ける、吸着する、又は吸収する特性を指す。親水性材料は、典型的には、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、20°未満の水接触角を有することを特徴とする。親水性は、水若しくは他の極性種による材料の膨潤、又は水若しくは他の極性種を自らを通して拡散若しくは輸送することができる材料の膨潤も特徴とし得る。親水性は、水又は他の水素結合種に対して強い又は多数の水素結合を形成することができることも更に特徴とする。
【0087】
疎油性(撥油性)という用語は、例えば、油、又はアルカン、脂肪、及びワックスなどの他の非極性種をはじく特性を指す。疎油性材料は、典型的には、接触角ゴニオメーター又は関連デバイスを使用して測定される、90°超の油接触角を有することを特徴とする。
【0088】
脂溶性(親油性)という用語は、例えば、油、若しくはアルカン、脂肪、及びワックスなどの他の非極性種、又はかかる種によって容易に湿潤される表面を引き付ける特性を指す。脂溶性材料は、典型的には、例えば、接触角ゴニオメーターを使用して測定される、低い油接触角からゼロの油接触角を有することを特徴とする。脂溶性は、ヘキサン又は他の非極性液体による材料の膨潤も特徴とすることができる。
【0089】
フォトクロミックという用語は、例えば、電磁放射線に曝露されたときに可逆的な色の変化を示す能力を指す。フォトクロミック分子を含むSOF組成物を調製することができ、電磁放射線に曝露されたときに可逆的な色の変化を示す。これらのSOFは、フォトクロミズムの追加の機能性を有してもよい。フォトクロミックSOFの堅牢性は、消去可能な紙用のフォトクロミックSOF、並びに窓の色付け/遮光及びアイウェア用の光応答性フィルムなどの多くの用途におけるそれらの使用を可能にし得る。SOF組成物は、SOF分子ビルディングブロックとしての二官能性フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合している)、SOFキャッピングセグメントとしての一官能性フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合している)、又はSOF複合材料中の非官能化フォトクロミック分子(SOF構造に化学的に結合していない)などの任意の好適なフォトクロミック分子を含んでもよい。フォトクロミックSOFは、選択された光の波長に曝露されたときに色を変化させることができ、色の変化は可逆的であってもよい。
【0090】
SOF構造に化学的に結合したフォトクロミック分子を含むSOF組成物は、例外的に化学的及び機械的に堅牢なフォトクロミック材料である。かかるフォトクロミックSOF材料は、利用可能なポリマー代替物に対して多数の可逆的色変化プロセスなどの多くの優れた特性を示す。
【0091】
サブミクロンからミクロン規模の粗い、テクスチャ加工された、又は多孔質の表面を有するSOFは、疎水性であり得る。粗い、テクスチャ加工された、又は多孔質のSOF表面は、フィルム表面上に存在するダングリング官能基又はSOFの構造に起因し得る。パターンのタイプ及びパターン化の程度は、分子ビルディングブロックの形状及び連結化学効率に依存する。表面粗さ又はテクスチャをもたらす特徴サイズは、約100nm~約10μm、例えば、約500nm~約5μmである。SOF気孔率をもたらす特徴サイズは、SEM断面画像によって測定される、約5nm~約2500nm、例えば、約50nm~約1000nmである。ある特定の実施例では、気孔率は、SEM断面画像によって視覚的に定量化される、SOFフィルムの下の凝集COFの場合、0.1nm~2500nmの範囲とすることもできる。顕微鏡検査は、固体材料の薄い断面を直接観察することにより細孔形状及びメソ細孔範囲又はそれ以上のサイズを分析するための方法を提供することができる。必要とされる特定の孔径分解能に応じて、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を使用することができる。
【0092】
勾配構造化有機フィルム(SOF)を調製するためのプロセス
【0093】
勾配SOF(以下で「SOF」と称され得る)を作製するためのプロセスは、典型的には、非勾配SOFを作製するために使用される同様の数の活動又は工程(以下に記載)を含む。キャッピング基は、結果として得られたSOF中のキャッピングセグメントの所望の分布に応じて、工程a、b、又はcのいずれかの間に付加されてもよい。例えば、キャッピングセグメント分布が、結果として得られたSOFにわたって実質的に均一であることが望ましい場合、キャッピングセグメントは工程a)の間に付加されてもよい。あるいは、例えば、勾配SOFの場合のように、キャッピングセグメントのより不均一な分布が望ましい場合、キャッピング基官能基の反応性は、分子ビルディングブロックの官能基の反応性よりも低い。あるいは、例えば、キャッピングセグメントのより不均一な分布が望ましい場合、キャッピングセグメントの付加(例えば、工程bの間又は工程cの促進工程の間に形成されたフィルム上にそれを噴霧することによる)は、工程b及びcの間に行われ得る。あるいは、イオン性セグメントは、本質的にイオン性であり得るか、又は追加の後処理工程(例えば、工程c)の後)に供されて、キャッピングセグメント又は分子ビルディングブロックを付加又は反応させて、イオン性基を提供し得る。
【0094】
SOFを作製するためのプロセスは、典型的には、任意の適切な順序で実施されてもよいいくつかの活動又は工程(以下に記載)を含み、2つ以上の活動が同時に又は時間的に近接して実施される。
構造化有機フィルムの調製プロセスであって、
(a)それぞれがセグメント及びいくつかの官能基を含む複数の分子ビルディングブロックを含む液体含有反応混合物を調製することと、
(b)反応混合物を湿潤フィルムとして堆積させることと、
(c)分子ビルディングブロックを含む湿潤フィルムの、共有結合性有機構造体として配置された複数のセグメント及び複数のリンカーを含むSOFを含む乾燥フィルムへの変化を促進することであって、巨視的レベルで、共有結合性有機構造体がフィルムである、ことと、
(d)任意選択的に、コーティング基材からSOFを除去して、自立型SOFを得ることと、
(e)任意選択的に、自立型SOFをロールに加工することと、
(f)任意選択的に、SOFを切断してベルトに継ぎ合わせることと、
(g)任意選択的に、後続のSOF形成プロセスのための基材としてのSOF(上記のSOF形成プロセスによって調製された)に対して、上記のSOF形成プロセスを実施することと、を含む、構造化有機フィルムの調製プロセス。
【0095】
上記の活動又は工程は、大気圧、過圧、又は減圧で行うことができる。本明細書で使用される「大気圧」という用語は、約760トルの圧力を指す。超大気圧という用語は、大気圧より大きいが、20atm未満の圧力を指す。「減圧」という用語は、大気圧未満の圧力を指す。一実施形態では、活動又は工程は、大気圧又はその付近で行われ得る。一般に、約0.1atm~約2atm、例えば、約0.5atm~約1.5atm、又は0.8atm~約1.2atmの圧力を都合よく用いることができる。SOFを調製又は製造するための前述のプロセス工程又はプロセスに関する更なる考慮事項は、米国特許第8,093,347号、同第8,436,130号、同第8,357,432号、同第8,394,495号、同第8,389,060号、同第8,318,892号、及び同第9,097,995号に詳述されており、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0096】
図2は、本開示のSOFを組み込んだ例示的な膜の簡略化された側面図を表す。制御されたメソ気孔率を呈する調整可能な厚さを有する高品質の自立型フィルムの概略図が表されており、メソ気孔率は多孔質空隙から高密度表面フィルムへと徐々に変動する。フィルムは、酸官能基、例えば、スルホン酸官能基を有するキャッピングセグメントの総濃度を含むが、SOF網状組織内のビルディングブロックの濃度勾配は、イオン帯電ビルディングブロック又はセグメントから非イオン帯電ビルディングブロック又はセグメントに移行する。電荷密度は、同様に図2に見られるようにフィルムの深さに沿って変動する。この濃度勾配を利用することによって、SOFフィルムの特性を調整して、湿潤性、電荷輸送、機械的特性、光学的特性、及び熱的特性、並びに重要な官能基の密度などの特性を向上させることができる。複数のセグメント、複数のリンカー、及び複数のキャッピングセグメントを含む構造化有機フィルム(SOF)が示されている。キャッピングセグメントは、スルホン酸種を含み、スルホン酸種は、SOFが製造される際にSOFに組み込まれる。第1の縁部又は表面は、SOFの第2の縁部又は表面におけるセグメントのキャッピングセグメントに対する比率と比較して、SOFの第1の縁部又は表面におけるより高いセグメントのキャッピングセグメントに対する比率を有する。代替例では、SOFの第1の端部又は表面におけるセグメントのキャッピングセグメントに対する比率と比較して、SOFの第2の端部又は表面におけるセグメントのキャッピングセグメントに対する比率がより高くてもよい。更に、実施例は、スルホン酸官能基、他の官能基、例えばアミノ(-NH)のような窒素官能基、カルボン酸基、ホスホン酸基を有するキャッピングセグメントを表す。キャッピングセグメントの例示的な例としては、キャッピングセグメントは、スルホン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェノール、4-ヒドロキシベンゼンスルホネート、ナフトールスルホン酸、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。SOF気孔率をもたらす特徴サイズは、SEM断面画像によって測定される、約5nm~約2500nm、例えば、約50nm~約1000nmである。
【0097】
本開示の例としては、これらの材料のイオン交換容量(ion exchange capacity、IEC)を評価するために作製された様々なCEM及びAEM型SOFが挙げられる。IECは、乾燥膜1グラム当たりの当量(しばしばミリ当量)の数に基づいて、AEMのカチオン性基の数又はCEMのアニオン性基の数を提供するパラメータである。IECは、イオン交換容量であり、ポリマーの質量当たりの電荷とも呼ばれ、ポリマー1グラム当たりの電荷のミリ当量、meq/gのいずれかで表される。ある特定の実施例では、ポリマー内の二価イオンは、一価イオンと比較して2倍の電荷当量を有する。
【0098】
本明細書中に記載されるように、様々なイオン性分子又はイオン性分子前駆体は、分子ビルディングブロック又はキャッピング基として使用され得る。本実施例では、表1からのカチオン種又はアニオン種は、先に記載されたような2つの芳香族ビルディングブロック分子(THM-TBD又はTME-TBD)のうちの1つを有する。実施例で用いられる反応機構は、エーテル結合の形成(エーテル交換)に基づくが、反応結合は、他の実施例では、B-O(ボロキシン、ボロン酸エステル、スピロボレート、及びボロシリケート)、C=N(イミン、ヒドラゾン、及びスクアライン)、C-N(β-ケトエナミン、イミド、及びアミド)に拡張することができる。
【0099】
【実施例0100】
比較例1は、以下の一般化反応スキームに示すように、いずれのイオン性基も有しないTHM-TBD(N,N,N′,N′-テトラキス-[(4-ヒドロキシメチル)フェニル]-ビフェニル-4,4′-ジアミン)ベースのSOFの合成を説明する。
【化5】
【0101】
以下の成分:Cymel 303(0.0103g、1重量%)、Dowanol PM(9.0122g)、Nacure 5225(0.0099g、0.25重量%)、Silclean3700(0.0444g、1重量%)、及びTHM-TBD(0.9784g、97.75重量%)を10mLのバイアルに添加して、予め反応させたTHM-TBDの10%固体溶液を形成することにより、液体反応混合物を調製した。全ての成分を添加した後、バイアルを振盪することによって激しく混合した。その後、バイアルを65℃のバイアルブロックヒーター内に90分間入れた。
【0102】
図3は、本開示による比較例の断面をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)写真断面は、かなり均質な構造を示し、下部領域は上部領域よりも特徴がないように見える。フィルムは、恐らくDowanol PM溶媒のチャネリング及び蒸発に起因して、フィルムの上部セクションに向かって多孔質領域を示し始める。
【0103】
本開示による多孔質傾斜機能SOFに関するいくつかの実施例を、以下の一般化部分反応スキームに示すように、THM-TBD反応4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4HBenSA)を用いて合成した。
【化6】
【0104】
表1に示すように、0.5、1.0、及び1.5モル当量の濃度の4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸を含む、120℃で40分間硬化させた3つのフィルムを合成して、イオン性種をTHM-TBD網状組織に添加した際の勾配効果を実証した。モル当量は、本明細書に記載の実施例では4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸であるキャッピングセグメントのモル数の、この実施例ではTHM-TBDなどの分子ビルディングブロックのモル数に対する率である。代替の実施例では、酸性官能基又は他のイオン性基を有する他のキャッピングセグメントを使用することができる。キャッピングセグメントのセグメントに対するこの比率又は濃度は、約0.5~約10.0、又は約1.0~約5.0、又は約1.0~約2.5とすることができる。非イオン性セグメントに対するイオン性キャッピングセグメントのモル当量は、約0.5~約10.0、又は約1.0~約5.0、又は約1.0~約2.5とすることもできる。イオン性キャッピング基セグメントの上限は、所与の分子ビルディングブロックセグメント上の反応性官能基部位の数に依存する。これはn-2を超えることができず、ここで、nは分子ビルディングブロックセグメント上の反応性官能基の数であり、さもなければ線状ポリマー又は小分子が形成される可能性がある。
【表1】
【0105】
図4は、本開示のSOFの断面における気孔率勾配を示す一連の写真を表す。実施例1を製造するために、図4に示すように、以下の成分:Dowanol PM(9.0115g)、Silclean3700(0.0455g、1重量%)、及びTHM-TBD(0.7728g、76.98重量%)を10mLのバイアルに添加して、1.0当量の4HBenSAを含む予め反応させたTHM-TBD及び4HBenSAの10%固体溶液を形成することにより、液体反応混合物を調製した。全ての成分を添加した後、バイアルを、バイアルブロックヒーター内65℃で90分間加熱しながら定期的に混合した。溶液が完全に溶解した時点で、これを室温まで放冷した。あるいは、溶液を一晩放置した後に4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(0.2273g、22.02重量%)を添加するか、又は周囲温度に達した後に他のものを添加し、アルミニウムパン又は他の好適な基材に直ちにコーティングすることができる。図4は、フィルム中の多孔質領域の均質な非多孔質領域への移行を明確に示す。多孔質領域のSEM-EDS分析は、炭素、酸素、及び硫黄の存在を確認し、4HBenSA由来の硫黄含有量はおよそ4.7%であった。本配合物中の4HBenSAの量が増加するにつれて、多孔質微粒子の証拠及び大きさは非常に明らかである。
【0106】
図5は、本開示のSOFの断面における気孔率勾配をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。実施例2を製造するために、図5に示すように、以下の成分:Dowanol PM溶媒(9.0027g)、Silclean3700(0.0493g、1重量%)、及びTHM-TBD(0.8704g、86.61重量%)を10mLのバイアルに添加して、0.5当量の4HBenSAを含む予め反応させたTHM-TBD及び4HBenSAの10%固体溶液を形成することにより、液体反応混合物を調製した。全ての成分を添加した後、バイアルを、バイアルブロックヒーター内65℃で90分間加熱しながら定期的に混合した。溶液が完全に溶解した時点で、これを室温まで放冷した。溶液を一晩放置した後に4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(0.1282g、12.39重量%)を添加するか、あるいは周囲温度に達した後に添加し、アルミニウムパン又は他の基材に直ちにコーティングすることができる。0.5当量のアニオン性種を含む実施例2のSEM断面画像(ブレードで切断)は、THM-TBD均質勾配部分の厚さが、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸が豊富な多孔質領域に移行する前におよそ57ミクロンであることを示す。
【0107】
図6は、本開示のSOFの断面における気孔率勾配をいくつかの倍率で示す一連の写真を表す。実施例3を製造するために、図6に示すように、以下の成分:Dowanol PM(9.0247g)、Silclean3700(0.0412g、1重量%)、及びTHM-TBD(0.6966g、69.27重量%)を10mLのバイアルに添加して、1.5当量の4HBenSAを含む予め反応させたTHM-TBD及び4HBenSAの10%固体溶液を形成することにより、液体反応混合物を調製した。全ての成分を添加した後、バイアルを、バイアルブロックヒーター内65℃で90分間加熱しながら定期的に混合した。溶液が完全に溶解した時点で、これを室温まで放冷した。あるいは、溶液を一晩放置した後に4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(0.3193g、29.73重量%)を添加するか、又は周囲温度に達した後に他のものを添加し、アルミニウムパン又は代替の好適な基材に直ちにコーティングすることができる。THM-TBDが豊富な領域である1.5当量のアニオン性種を含む実施例3のSEM断面画像(ブレードで切断)が断面の非多孔質部分である一方で、高度に微粒子状の多孔質領域は4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸が豊富である。
【0108】
本開示の実施例は、SOFのTHM-TBDセグメントに対して約0.1~約1.5当量、又はTHM-TBDに対して約0.3当量~約8当量の4HBenSA、又はTHM-TBDに対して約0.5当量~約5当量の4HBenSAの官能性キャッピングセグメントとしてイオン性種を含む自立型又は独立型SOF膜を提供する。SOF内のイオン性種は、4つのアルコール(-OH)基を含むTHM-TBDなどの非イオン性成分分子ビルディングブロックと反応することができるアルコール(-OH)基などの1つの反応性置換基を含むアニオン性及びカチオン性官能性ビルディングブロックを含むことができ、これらを酸触媒/非触媒エーテル交換反応によって連結することができる。更なる例としては、スルホン酸キャッピングセグメントを4-ヒドロキシ安息香酸と交互にすることが挙げられ、又は非イオン性組成物の場合、フェノール及びアルキル置換フェノールなどのキャッピング基を使用することができる。本開示のSOFは、イオン濃度が増加するにつれて多孔質構造に移行する均質なTHM-TBDが豊富な最上層を呈するフィルムを提供する。イオン性種が増加するにつれて密度も減少する。機能勾配を有する生体材料と同様に、これらの材料は、SOFにおける物質輸送及びエネルギー変換特性などの機械的機能及び非機械的機能の向上を示すことができる。本開示のSOFの用途としては、ガス選択性及び透過性、ガスの貯蔵、液体分子分離、触媒作用、薬物送達、センサー、エネルギー貯蔵、モレキュラーシーブ、電気化学膜、燃料電池、エネルギー変換、並びに電池に使用するための材料が挙げられる。
【0109】
本教示は、1つ以上の実装形態に関して示されているが、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、示された例に対して変更及び/又は修正が行われ得る。例えば、プロセスが一連の行為又は事象として説明されているが、本教示は、かかる行為又は事象の順序によって限定されないことが理解され得る。一部の行為は、異なる順序で、及び/又は本明細書に記載されているものとは別の他の行為若しくは事象と同時に発生する可能性がある。また、全てのプロセス段階が、本教示の1つ以上の態様又は実施形態に従う方法論を実装するために必要とされ得るわけではない。構造的物体及び/若しくは処理段階が追加され得るか、又は既存の構造的物体及び/若しくは処理段階が除去若しくは修正され得ることが理解され得る。更に、本明細書に示される行為のうちの1つ以上は、1つ以上の別個の行為及び/又は段階で実行され得る。更に、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語、又はそれらの変形が、発明を実施するための形態及び特許請求の範囲のいずれかで使用される限りにおいて、かかる用語は、「含む(comprising)」という用語と同様の方法で包括的であることが意図されている。「少なくとも1つの」という用語は、列挙された項目のうちの1つ以上が選択され得ることを意味するように使用される。更に、本明細書における考察及び特許請求の範囲において、2つの材料に対して使用される「上(on)」という用語、他方「上」の一方は、材料間の少なくとも一部の接触を意味し、一方、「の上(over)」は、材料が、場合によっては、接触が可能であるが必要とされないように、1つ以上の追加の介在材料に近接していることを意味する。「上(on)」又は「の上(over)」のいずれも、本明細書で使用される場合にいかなる指向性も暗示しない。「共形」という用語は、下にある材料の角度が共形材料によって保持されるコーティング材料を記述する。「約」という用語は、変更が、示された実施形態に対してプロセス又は構造の不適合とならない限り、列挙される値が少し変更され得ることを示す。「結合する」、「結合される」、「接続する」、「接続」、「接続される」、「と接続して」、及び「接続している」という用語は、「と直接接続する」又は「1つ以上の中間要素又は部材を介して接続する」ことを指す。最後に、「例示の」又は「例証的な」という用語は、説明が理想的であることを意味するのではなく一例として使用されることを示す。本教示の他の実施形態は、本明細書の検討及び本明細書での本開示の実施を考慮して当業者に明らかであり得る。本明細書及び実施例は、単なる例示としてみなされることが意図され、本教示の真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】