(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042668
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合用回転ツール及び摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146321
(22)【出願日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022147417
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】谷口 公一
(72)【発明者】
【氏名】松下 宗生
(72)【発明者】
【氏名】冨田 海
(72)【発明者】
【氏名】岩田 匠平
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA05
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG08
4E167BG13
4E167BG14
4E167BG15
4E167BG22
4E167BG25
(57)【要約】
【課題】鋼板などの高剛性の被接合材を摩擦撹拌接合する場合にも、回転ツールの破損が発生しづらい耐久性の高い摩擦撹拌接合用回転ツールを提供する。
【解決手段】2枚の被接合材を摩擦撹拌接合するのに用いる回転ツール1であって、凸状の曲面11を有する先端部10を備え、曲面11は、中央部に配置された円形の第1の平滑面12と、第1の平滑面12の外周に配置された円環状の起伏形状面13と、起伏形状面13の外周に配置された円環状の第2の平滑面14とを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の被接合材を摩擦撹拌接合するのに用いる回転ツールであって、
凸状の曲面を有する先端部を備え、
前記曲面は、中央部に配置された円形の第1の平滑面と、前記第1の平滑面の外周に配置された円環状の起伏形状面と、前記起伏形状面の外周に配置された円環状の第2の平滑面とを有することを特徴とする摩擦撹拌接合用回転ツール。
【請求項2】
前記起伏形状面が渦巻き形状を有する、請求項1に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【請求項3】
前記起伏形状面は、前記回転ツールの半径をrとしたときに、前記回転ツールの中心軸から0.20r~0.90rの範囲に配置されている、請求項2に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【請求項4】
前記回転ツールは、前記被接合材よりも硬い材質で構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【請求項5】
2枚の被接合材を突合せ部または重ね合わせ部の一方面側と他方面側にそれぞれ配置した一対の回転ツールを、互いに逆方向に回転させながら前記被接合材の突合せ部または重ね部に押圧して接合方向に移動させ、前記回転ツールと前記被接合材の未接合部との摩擦熱により前記被接合材の未接合部を軟化させつつ、その軟化した部位を前記回転ツールで撹拌することにより塑性流動を生じさせて前記被接合材同士を接合する両面摩擦撹拌接合方法において、
前記回転ツールとして、請求項1~3のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合用回転ツールを用いることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の鋼板を接合する摩擦撹拌接合に用いる摩擦撹拌接合用回転ツール、及び摩擦撹拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合方法は、重ね合わせた又は突き合せた被接合材(例えば鋼板等)の未接合部に回転工具(例えば回転ツール)を挿入し、この回転ツールを回転しながら移動させ、これにより鋼板に摩擦熱を生じさせて軟化させながら、その軟化した部位を回転ツールで撹拌して塑性流動を起こすことによって、鋼板を接合する方法である。
【0003】
摩擦撹拌接合方法は、回転ツールと被接合材との摩擦熱による金属の塑性流動を利用した固相接合であるため、未接合部を溶融させることなく接合できる。被接合材が溶融されないため、接合部の欠陥が少ないこと、また加熱温度が低いため接合後の変形が少ないこと、さらに接合に溶加材を必要としないこと等の多くの利点がある。
【0004】
なお、本明細書では、鋼板等の被接合材を重ね合わせた又は突き合わせただけで未だ接合されていない状態にある、重ね合わせ部分又は突き合わせ部分を「未接合部」と称し、接合されて一体化された部分を「接合部」と称する。
【0005】
自動車や船舶といった輸送機械において、燃費向上の観点から軽量化が強く求められている。その流れの中で、輸送機械に用いられる部材等として、スポット溶接やレーザ溶接が多く用いられている。しかし、それらは溶融接合であるため、超高張力鋼や高炭素材を溶接すると、溶接部はフルマルテンサイト組織となる。その結果、硬化が顕著となり、脆弱な溶接部となってしまう。
【0006】
摩擦撹拌接合する方法として、例えば下記の特許文献1、2の技術がある。
【0007】
特許文献1には、摩擦撹拌接合方法をアルミニウム材のテーラードブランク部材へ適用することが記載されている。特許文献1に記載された技術では、回転ツール(接合工具の回転子)の回転軸線を、低位側の接合部材側に傾斜させ、接合部材の合わせ部に挿入する。すなわち、回転ツールは、接合方向に対して垂直方向に向けた状態で、合わせ部に沿って接合方向に移動することによって、接合部材の表面側から接合している。
【0008】
特許文献2には、摩擦撹拌接合方法を、アルミニウムやマグネシウムなどを材料とする被接合材のテーラードブランク部材へ適用することが記載されている。特許文献2に記載された技術においては、回転ツールとして、曲面形状のショルダを有するボビンツールを用いる。このボビンツールは、上基部、上部ショルダ、下基部、下部ショルダ及びショルダ間のプローブが一体に回転可能に構成される。
【0009】
上述のように、摩擦撹拌接合方法は、回転ツールによって接合界面を撹拌して鋼板等の被接合材を接合する。回転ツールは接合時に大きな負荷を受けるため、これに起因して継手の接合不良が発生する恐れがある。そのため、回転ツールには、接合時における接合不良の発生を抑制することが求められている。
【0010】
接合不良の発生を抑制するものとして、例えば下記の特許文献3、4の技術がある。
【0011】
特許文献3には、摩擦撹拌接合用ツールを被加工物の接合部に回転させながら押圧挿入して移動させる際に生じる、被加工物へのツールの押付け深さの変動に起因する欠陥を抑制するために、ツール深さを一定にする技術が記載されている。特許文献3に記載された技術においては、ショルダ及びピンを有するツールにおいて、被加工物にピンが押圧挿入されたときに該被加工物に接触するショルダの端面の外周側を傾斜面に形成し、この傾斜面によりツール押付け深さを制御する。
【0012】
特許文献4には、ショルダ面に渦状の条溝を有する円錐台状に形成されたツールを用いて、接合を行う技術が記載されている。引用文献4に記載された技術においては、上記のツールによって、摩擦撹拌加工時におけるツールのショルダ部の沈み込みの抑制、及び加工部におけるバリの発生や肉厚の減少が少なく、また加工痕を目立ちにくくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002-35961号公報
【特許文献2】特開2013-761号公報
【特許文献3】特開2003-290937号公報
【特許文献4】特開2007-301579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、接合部材として、アルミニウム又はその合金製を対象としており、例えば鉄鋼材料のような剛性の高い材料については全く考慮されていない。また、特許文献1に記載された技術では、板厚が異なる鋼板の接合時に、回転ツールの回転軸線を低位側の接合部材側(接合方向に対して垂直方向)に傾斜させる。そのため、剛性の高い材料を接合しようとすると、回転ツールを傾斜させることで生じる大きな負荷に耐えられずに回転ツールが破損するため、接合が困難である。また、上述の大きな負荷に耐えるために、回転ツールを設置する装置に十分な剛性が必要である。
【0015】
特許文献2に記載された技術においては、曲面形状の上部ショルダ及び下部ショルダを有するボビンツールを用いて接合する。しかし、ボビンツールを用いているため、上側及び下側のボビンツールの回転方向が同一となり、これにより塑性流動が上側と下側で同様の動きをする。そのため、特に上側及び下側のボビンツール間の距離が短い薄板の接合時や高速での接合時には、接合方向とボビンツールの回転方向が反対方向となるリトリーティングサイド側で、ボビンツールが通過した際に塑性流動によって空孔が生じ、接合部に線状の欠陥が生じやすくなるという問題がある。
【0016】
特許文献3に記載された技術では、装置にツールの押付け深さを制御するための機構が必要である。また、特許文献3に記載された技術では、被加工物としてアルミニウム合金を用いているが、特許文献3にはツールの強度特性に関する言及は特にない。そのため、被加工物として別の金属、特に高融点材や高硬度材を用いる際には、ツールの強度が足りず、接合できない問題がある。
【0017】
特許文献4に記載された技術では、軟化した材料が食い込むことによるバリを発生しないようにするため、加工中に軟化した被加工材料を渦状の条溝に食い込ませて、ショルダ面に適度に保持し留める。そのため、特許文献4には、ツールの外周部から中央に近づくほど溝が深い方が良いと記載されている。しかし、ツールに巻き込む金属量が増加すると、鉄鋼材料のような高剛性の材料を対象とする際には、ツールの破損を生じ、接合が困難である。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、鋼板等の高剛性の被接合材を摩擦撹拌接合する場合にも回転ツールの破損が発生しにくい、耐久性の高い摩擦撹拌接合用回転ツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。ここで、
図3および
図4を用いて、従来の摩擦撹拌接合用回転ツール(以下、単に「回転ツール」とも言う。)について説明する。
図3は、従来の回転ツールの一例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図3に示した回転ツール3は、その先端部30がプローブ31及びショルダ32、33のみで構成された回転ツールである。また、
図4は、従来の回転ツールの別の例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図4に示した回転ツール4は、その先端部40が凸形状の曲面41を有し、曲面41が平滑面のみで形成された回転ツールである。
【0020】
図3に示した従来の回転ツール3を用いて被接合材を摩擦撹拌接合する場合、先端部30がプローブ31を有しているため、接合時にプローブ31に大きな負荷がかかり、回転ツール3の破損が生じやすくなる。また、
図4に示した従来の回転ツール4を用いて摩擦撹拌接合する場合、被接合材の撹拌を十分に行うことができず、接合不良が発生しやすくなる。
【0021】
そこで、本発明者らは、回転ツールの破損の抑制および被接合材の十分な撹拌を実現する手段について鋭意検討を行い、次の結論を得た。
【0022】
(1)摩擦撹拌接合する場合には、回転ツールの先端部の表面を凸状の平滑な面とすることによって、回転ツールにかかる負荷が低減し、破損しにくくなる。
(2)先端部の中央部(最も先端の部分)と比較して応力負荷の小さい周辺部の表面を起伏形状とすることによって、塑性流動性を高めることができる。
【0023】
以上の結論に基づいて、本発明者らは、回転ツールへの負荷が小さく、被接合材を十分に撹拌することができる摩擦撹拌接合用回転ツールを完成させるに至った。
【0024】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]2枚の被接合材を摩擦撹拌接合するのに用いる回転ツールであって、
凸状の曲面を有する先端部を備え、
前記曲面は、中央部に配置された円形の第1の平滑面と、前記第1の平滑面の外周に配置された円環状の起伏形状面と、前記起伏形状面の外周に配置された円環状の第2の平滑面とを有することを特徴とする摩擦撹拌接合用回転ツール。
【0025】
[2]前記起伏形状面が渦巻き形状を有する、前記[1]に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【0026】
[3]前記起伏形状面は、前記回転ツールの半径をrとしたときに、前記回転ツールの中心軸から0.20r~0.90rの範囲に配置されている、前記[2]に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【0027】
[4]前記回転ツールは、前記被接合材よりも硬い材質で構成されている、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合用回転ツール。
【0028】
[5]2枚の被接合材を突合せ部または重ね合わせ部の一方面側と他方面側にそれぞれ配置した一対の回転ツールを、互いに逆方向に回転させながら前記被接合材の突合せ部または重ね部に押圧して接合方向に移動させ、前記回転ツールと前記被接合材の未接合部との摩擦熱により前記被接合材の未接合部を軟化させつつ、その軟化した部位を前記回転ツールで撹拌することにより塑性流動を生じさせて前記被接合材同士を接合する両面摩擦撹拌接合方法において、
前記回転ツールとして、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の摩擦撹拌接合用回転ツールを用いることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、鋼板等の高剛性の被接合材を摩擦撹拌接合する場合にも回転ツールの破損が発生しにくい、耐久性の高い摩擦撹拌接合用回転ツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールの一例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図2】本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールの別の例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図3】従来の回転ツールの一例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図4】従来の回転ツールの別の例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図5】比較例による回転ツールの一例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図6】比較例による回転ツールの別の例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【
図7】本発明による摩擦撹拌接合方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(摩擦撹拌接合用回転ツール)
以下、各図を参照して、本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールの実施形態について説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されない。
図1は、本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールの一例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図1に示した回転ツール1は、2枚の被接合材を摩擦撹拌接合するのに用いる回転ツールであって、凸状の曲面11を有する先端部10を備える。ここで、曲面11は、中央部に配置された円形の平滑面(第1の平滑面)12と、第1の平滑面12の外周に配置された円環状の起伏形状面13と、起伏形状面13の外周に配置された円環状の平滑面(第2の平滑面)14とを有することを特徴とする。
図1(b)に示すように、回転ツール1の先端部10は、平面視した際に円形である。
【0032】
第1の平滑面12は、回転ツール1の先端部10における最も先端な部分(すなわち、回転ツール1の回転軸付近の部分)の表面である。この部分の表面が平滑面であることによって、鋼板などの高剛性の被接合材を接合する際に回転ツール1への負荷を低減することができ、回転ツール1の破損を抑制することができる。なお、本明細書において、「平滑面」とは、回転ツール1をその回転軸を鉛直方向に沿って配置した際に、回転ツール1の回転軸から径方向外側に向かうにつれて、高さ位置が連続的かつ単調に変化する面を意味している。具体的には、第1の平滑面12は溝や段差などのない面である。
【0033】
起伏形状面13は、第1の平滑面12の外周(すなわち、回転ツール1の回転軸から径方向外側)に配置された部分の表面である。回転ツール1の先端部10が起伏形状面13を有することによって、被接合材の塑性流動を十分に起こすことができ、接合不良を抑制することができる。
図1に示した回転ツール1においては、先端部10の凸状の平滑な曲面11に溝Gを設けることによって起伏形状面13が形成されている。なお、本明細書において、「起伏形状面」とは、回転ツール1をその回転軸を鉛直方向に沿って配置した際に、回転ツール1の回転軸から径方向外側に向かうにつれて、高さ位置が不連続に変化する部分を有する面を意味している。具体的には、起伏形状面13は溝や段差などを有する面である。
【0034】
上記溝Gの形状は、特に限定されず、
図1に示すような断面が矩形のものや半円状、半楕円状、V字状、多角形状などの任意の形状とすることができる。中でも、被接合材の塑性流動を最も良好に起こすことができることから、矩形形状が好ましい。
【0035】
また、溝Gの幅Gwは、0.1mm以上5mm以下とすることが好ましい。これにより、被接合材の塑性流動を更に起こすことができ、接合不良をより抑制することができる。また、上記溝Gの深さGdは、0.1mm以上3mm以下とすることが好ましい。これにより、被接合材の塑性流動を更に起こすことができ、接合不良をより抑制することができる。上記溝Gの幅Gwは、溝Gの延在方向のどの位置でも上記範囲を満たすことが好ましい。また、溝Gの深さGdは、溝Gの中央部、外周部、内周部のどの位置においても、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0036】
起伏形状面13は、渦巻き形状(螺旋形状)を有していることが好ましい。これにより、被接合材の塑性流動を更に起こすことができる。そして、摩擦熱によって軟化した金属などの被接合材の材料を回転ツール1の回転軸の中心方向や法線方向へ選択的に流動させることができ、材料の撹拌をより良好に制御することができる。
【0037】
上記渦巻き形状を構成する渦は、回転ツール1の回転方向に対して反対方向に(すなわち、回転方向に沿って中央部(第1の平滑面12)側に向かうように)設けることが好ましい。また、渦の数は、1つ以上設けることが好ましい。渦の数は、先端部10の直径に依存し、先端部10の直径が大きいほど多くし、先端部10の直径が小さいほど少なくすることが好ましい。具体的には、先端部10の直径が6mmより小さい場合には、渦の数を2以下とし、先端部10の直径が6mm以上の場合には、渦の数を3~6とすることが好ましい。なお、
図1に示した回転ツール1においては、渦の数は4である。
【0038】
起伏形状面13は、回転ツール1の半径をrとしたときに、回転ツール1の中心軸から0.20r~0.90rの範囲に配置されていることが好ましい。より好ましくは、起伏形状面13は、回転ツール1の半径をrとしたときに、回転ツール1の中心軸から0.20r~0.90rの範囲内にのみ配置される。さらに好ましくは0.40r~0.70rの範囲内にのみ配置される。これにより、回転ツール1への負荷を低減することができ、また被接合材の十分な組成流動性を担保することができる。
【0039】
第2の平滑面14は、起伏形状面13の外周に配置された面である。回転ツール1の先端部10が第2の平滑面14を有することによって、第1の平滑面12と同様に、鋼板等の高剛性の被接合材を接合する際に回転ツール1への負荷を低減することができ、回転ツール1の破損を抑制することができる。また、起伏形状面13の外周に第2の平滑面14を配置することによって、起伏形状面13による被接合材の塑性流動性を調整することができる。
【0040】
回転ツール1は、被接合材よりも硬い材質で構成されていることが好ましい。これにより、鋼板等の被接合材に摩擦熱をより良好に生じさせて軟化させ、軟化した部位を回転ツールで撹拌してより良好に塑性流動を起こして、より良好に接合することができる。なお、鋼板等の被接合材および回転ツール1の上記した硬さは、例えば高温ビッカース硬さ試験方法(JIS Z 2252)を用いて測定することができる。
【0041】
なお、接合対象の被接合材は、特に限定されないが、超ハイテン(高張力鋼板)等の鋼板を好適に接合することができる。また、被接合材の板厚は、20mm以下であることが好ましい。板厚が異なる2枚の被接合材を接合する場合、板厚比(板厚の大きい鋼板の板厚/板厚の小さい鋼板の板厚)は1.6以下が好ましい。被接合材の板厚および板厚比を上記範囲とすることによって、被接合材をより良好に接合することができる。
【0042】
被接合材として鋼板を用いる場合、対象鋼種としては一般的な構造用鋼や炭素鋼、例えばJIS(日本工業規格)G 3106の溶接構造用圧延鋼材、JIS G 4051の機械構造用炭素鋼などを好適に用いることができる。また、引張強さが800MPa以上の高強度構造用鋼も好適に用いることができる。このような鋼板を用いる場合であっても、接合部において、鋼板(母材)の引張強さの85%以上の強度、さらには90%以上の強度、さらに好ましくは95%以上の強度を得ることができる。
【0043】
上記本発明による回転ツール1は、2枚の被接合材を突合せ接合する両面摩擦撹拌接合方法に好適に用いることができる。
【0044】
このように、本発明による回転ツール1は、その先端部10が凸状の曲面11を有している。これにより、被接合材を接合する際に回転ツール1への負荷が低減し、回転ツール1の破損を抑制することができる。また、先端部10が凸状の曲面11を有していることにより、厚みが同じ2つの被接合材だけでなく厚みが異なる2つの被接合材を良好に接合することもできる。さらに、回転ツール1は、凸状の曲面11が第1の平滑面12の外周に円環状の起伏形状面13を有することにより、被接合材の塑性流動を十分に起こすことができ、接合不良を抑制することができる。
【0045】
図2は、本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールの別の例を説明する図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図2に示した回転ツール2は、凸状の曲面21を有する先端部20を備える。ここで、曲面21は、中央部に配置された円形の平滑面(第1の平滑面)22と、第1の平滑面22の外周に配置された円環状の起伏形状面23と、起伏形状面23の外周に配置された円環状の平滑面(第2の平滑面)24とを有する。
図2(b)に示すように、回転ツール2の先端部20は、平面視した際に円形である。
【0046】
図2に示した回転ツール2においては、起伏形状面23が、段差Sを設けることによって形成されている。
図1に示した回転ツール1と同様に、このような起伏形状面23を有する回転ツール2によっても、被接合材の塑性流動を起こすことができ、接合不良を抑制することができる。また、回転ツール2は、その先端部20が凸状の曲面21を有しているため、接合時の回転ツール2への負荷を低減して回転ツール2の破損を抑制することができ、厚みが異なる2つの被接合材についても良好に接合することができる。
【0047】
上記段差Sの幅Swは、0.1mm以上5mm以下とすることが好ましい。これにより、被接合材の塑性流動を更に起こすことができ、接合不良をより抑制することができる。また、上記段差Sの深さSdは、0.1mm以上3mm以下とすることが好ましい。これにより、被接合材の塑性流動を更に起こすことができ、接合不良をより抑制することができる。上記段差Sの幅Swは、段差Sの延在方向のどの位置でも上記範囲を満たすことが好ましい。また、段差Sの深さSdは、段差Sの中央部、外周部、内周部のどの位置においても、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0048】
(摩擦撹拌接合方法)
本発明による摩擦撹拌接合方法は、2枚の被接合材を突合せ部または重ね合わせ部の一方面側と他方面側にそれぞれ配置した一対の回転ツールを、互いに逆方向に回転させながら被接合材の突合せ部または重ね部に押圧して接合方向に移動させ、回転ツールと被接合材の未接合部との摩擦熱により被接合材の未接合部を軟化させつつ、その軟化した部位を回転ツールで撹拌することにより塑性流動を生じさせて被接合材同士を接合する摩擦撹拌接合方法である。ここで、上記回転ツールとして、上述した本発明による摩擦撹拌接合用回転ツールを用いることを特徴とする。
【0049】
上述のように、本発明による回転ツールは、その先端部が凸状の曲面を有している。そのため、本発明による回転ツールを用いて被接合材を接合することによって、回転ツールへの負荷が低減し、回転ツールの破損を抑制することができる。また、厚みが異なる2つの被接合材を良好に接合することもできる。さらに、本発明による回転ツールは、凸状の曲面が第1の平滑面の外周に円環状の起伏形状面を有している。そのため、本発明による回転ツールを用いて被接合材を接合することによって、被接合材の塑性流動を十分に起こすことができ、接合不良を抑制して欠陥のない継手を作製することができる。
【0050】
本発明による摩擦撹拌接合方法により、2枚の被接合材を重ね合わせた重ね合わせ部分、および2枚の被接合材を突き合わせた突き合わせ部分の双方について接合を行うことができるが、特に、突き合わせ部分について良好に接合を行うことができる。
【0051】
図7は、本発明による摩擦撹拌接合方法の一例を説明する図であり、2枚の鋼板の突合せ部を接合する場合に関する図である。
図7に示すように、2枚の鋼板の端面(突き合わせ面)を互いに突き合わせて配置し、把持装置で把持する。次いで、鋼板の未接合部の一方面側と他方面側に配置した一対の回転ツール(例えば、
図1に示した回転ツール1)を互いに逆方向に回転させ、回転ツールを、接合中央線上に位置する鋼板の未接合部に挿入する。そして、回転ツールを、未接合部において、鋼板を押圧しつつ、回転しながら接合する部分に沿って接合方向に移動させる。これにより、回転ツールと鋼板の摩擦熱によって両鋼板を軟化させつつ、その軟化した部位を回転ツールで撹拌することによって塑性流動を生じさせて、鋼板を接合することができる。突き合わせた部分において接合が完了した部分は接合部である。
【0052】
接合条件については、本発明による回転ツールを両面摩擦撹拌接合方法で用いた場合には、回転ツールの回転数は100~5000r/minが好ましく、300~3000r/minがより好ましい。回転数を当該範囲内とすることによって、表面形状を良好に保ちながら、過度な熱量の投入による機械特性の低下を抑制する効果がある。
【0053】
また、接合速度は、300mm/min以上が好ましく、500mm/min以上がより好ましい。接合速度を当該範囲内とすることで、過度な熱量の投入による機械特性の低下を抑制する効果がある。
【0054】
さらに、回転ツールの傾斜角度(回転ツールの回転軸を、鉛直方向の垂線から接合方向後方に傾斜させたときの、回転軸と鉛直方向とのなす角)は、3度以下が好ましい。
【0055】
このように、本発明による回転ツールを用いて被接合材の摩擦撹拌接合を行うことによって、回転ツールへの負荷を軽減が可能となり、かつ欠陥のない継手を作製することができる。
【実施例0056】
以下、本発明の作用および効果について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0057】
(発明例1~8)
本発明による摩擦撹拌接合方法により、2枚の被接合材を接合した。その際、被接合材としては、板厚が異なる(板厚1.2mm、1.6mm)1180MPa級冷延鋼板2枚を用いた。なお、鋼板母材に対して測定した5打点の平均ビッカース硬さは401である。
【0058】
上記板厚が異なる2枚の鋼板の端面をフライス加工により平坦化し、その端面を
図7に示すように突き合せた。次いで、鋼板の未接合部の一方面側と他方面側のそれぞれに、
図1に示した回転ツール1を配置した。その際、上面側の回転ツール1は、接合方向に対して垂直方向の傾斜をつけずに(すなわち、回転ツール1の回転軸を鋼板の表面に垂直に)、未接合部の一方面側(上面側)および他方面側(下面側)に一対の回転ツールを配置した。
【0059】
回転ツール1の寸法は、回転ツール1の径D1:25mm、第1の平滑面12の径D2:12mm、起伏形状面13の径D3:16mm、曲面11の曲率半径:20mmである。また、溝Gの深さGd:0.5mm、溝Gの幅Gw:0.5mmである。なお、上記溝Gの幅Gwおよび深さGdについては、中央の溝Gかつ中央位置の値であり、回転ツール1の形状上、不可避な差異として、±0.1mmの差異がある。以下の実施例についても、同様である。
【0060】
上述のように配置した上面側の回転ツール1を反時計周りに回転させるとともに、下面側の回転ツール1を時計回りに回転させ、一対の回転ツール1を互いに逆方向に回転させた。この状態で、鋼板の上面側および下面側の両方から回転ツール1を鋼板に押圧し、一対の回転ツール1を接合方向に移動させて、接合長1mの鋼板の接合を50回実施し、接合長50mの接合継手を作製した。接合条件を表1に示す。
【0061】
【0062】
(発明例9~18)
発明例1~8と同様に、本発明による摩擦撹拌接合方法により、2枚の被接合材を接合した。ただし、回転ツールとしては、
図2に示した回転ツール2を用いた。回転ツール2の寸法は、回転ツール2の径D1:25mm、第1の平滑面22の径D2:12mm、起伏形状面23の径D3:16mm、曲面21の曲率半径:20mmである。また、段差Sの深さSd:0.1mm、段差Sの幅Sw:0.5mmである。なお、上記段差Sの深さSdおよび幅Swについては、中央の段差Sかつ中央位置の値であり、回転ツール2の形状上、不可避な差異として、±0.03mmの差異がある。接合条件を表1に示す。
【0063】
(従来例1~18)
発明例1~8と同様に、本発明による摩擦撹拌接合方法により、2枚の被接合材を接合した。ただし、従来例1~9の回転ツールは、
図3に示した回転ツール3を用いた。また、従来例10~18の回転ツールは、
図4に示した回転ツール4を用いた。回転ツール3の寸法は、回転ツール3の径D1:25mm、プローブ31の径D4:5mm、ショルダ32の径D5:10mm、プローブ長さL:0.5mm、凹面深さ(すなわち、
図3(a)におけるプローブ31の最下端部の高さ位置と、ショルダ32とショルダ33との接続部の高さ位置との差):0.3mmである。また、回転ツール4の寸法は、回転ツール4の径D1:25mm、曲面41の曲率半径:20mmである。接合条件を表1に示す。
【0064】
(比較例1~18)
発明例1~8と同様に、本発明による摩擦撹拌接合方法により、2枚の被接合材を接合した。ただし、比較例1~9の回転ツールは、
図5に示した回転ツール5を用いた。また、比較例10~18の回転ツールは、
図6に示した回転ツール6を用いた。回転ツール5の寸法は、回転ツール5の径D1:25mm、第1の平滑面52の径D2:12mm、起伏形状面53の径D3:25mm、曲面51の曲率半径:20mmであり、溝Gの深さGd:0.5mm、溝Gの幅Gw:0.5mmである。また、回転ツール6の寸法は、回転ツール6の径D1:25mm、第1の平滑面62の径D2:6mm、起伏形状面63の径D3:25mm、曲面61の曲率半径:20mmであり、溝Gの深さGd:0.5mm、溝Gの幅Gw:0.5mmである。接合条件を表1に示す。
【0065】
なお、上記回転ツール1~6は、その材質として、ビッカース硬さが1090の炭化タングステン(WC)を用いた。
【0066】
発明例1~18、従来例1~18、比較例1~18に対して得られた接合継手を用いて、以下に示す評価を行った。
【0067】
10本の回転ツールを用いて上記50mの接合をそれぞれ10回行い、回転ツールの破損、接合材ビード外観の観点で以下の基準で評価した。得られた結果を表2に示す。
<基準>
・◎:回転ツールの破損なし、および、接合材にバリや不均一ビード幅が一度も見られない
・○:回転ツールの破損なし、および、接合材にバリや不均一ビード幅が1回以上見られる
・△:回転ツールの破損なし、および、接合材に線状の表面欠陥が1回以上見られる
・×:回転ツールの破損あり
【0068】
【0069】
表2から明らかなように、発明例1~発明例18では、回転ツールが破損することなく接合長50mの接合を実施でき、バリや不均一ビード幅が一度も確認されなかった。これに対し、従来例1~従来例18および比較例1~比較例18では、回転ツールの破損が確認されたか、回転ツールの破損は確認されなかったものの、線状の表面欠陥が1回以上確認された。
本発明によれば、鋼板などの高剛性の被接合材を摩擦撹拌接合する場合にも、回転ツールの破損が発生しにくい耐久性の高い摩擦撹拌接合用回転ツールを提供することができる。