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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042765
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/04 20060101AFI20240322BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20240322BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240322BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240322BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61K8/04
A61K8/39
A61K8/86
A61K8/92
A23D7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147553
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂西 裕一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 智則
【テーマコード(参考)】
4B026
4C083
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DK10
4B026DX04
4C083AA122
4C083AA162
4C083AB442
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC181
4C083AC182
4C083AC342
4C083AC421
4C083AC422
4C083AD072
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD162
4C083AD352
4C083BB11
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD33
4C083EE03
4C083FF05
(57)【要約】
【課題】使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物、工程が簡易化されたその水中油型乳化組成物の製造方法、及びこの水中油型乳化組成物を含有する化粧品、食品を提供する。
【解決手段】(A)油剤、(B)構成ポリグリセリンの平均重合度が6~14、構成脂肪酸の炭素数が12以上、及びHLBが13.5未満であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)HLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLBが12以上のポリグリセリンモノアルキルエーテルを含有し、成分(B)と成分(C)の混合HLBが11.1~15.0である組成物であって、レオメーターにて25℃での角速度依存の粘弾性から求められる、角速度0.1rad/sにおける複素粘性率が100mPa・s以上である逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程を有する製造方法によって水中油型乳化組成物を容易に製造することを可能とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含有し、成分(B)と成分(C)の混合HLBが11.1~15.0である組成物であって、レオメーターにて25℃での角速度依存の粘弾性から求められる、角速度0.1rad/sにおける複素粘性率が100mPa・s以上である逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程を有する水中油型乳化組成物の製造方法。
成分(A):油剤
成分(B):構成ポリグリセリンの平均重合度が6~14、構成脂肪酸の炭素数が12以上、及びHLBが13.5未満であるポリグリセリン脂肪酸エステル
成分(C):HLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLBが12以上のポリグリセリンモノアルキルエーテル
【請求項2】
請求項1記載の成分(B)が、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-10、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-12、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-14、ジステアリン酸ポリグリセリル-10、ジオレイン酸ポリグリセリル-10、トリオレイン酸ポリグリセリル-10、ジオレイン酸ポリグリセリル-6、ジミリスチン酸ポリグリセリル-10、トリラウリン酸ポリグリセリル-10、及びジイソステアリン酸ポリグリセリル-6からなる群より選択される少なくとも1種以上である請求項1記載の水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の成分(C)が、イソステアリン酸ポリグリセリル-10、イソステアリン酸ポリグリセリル-12、イソステアリン酸ポリグリセリル-14、ステアリン酸ポリグリセリル-10、オレイン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、ラウリン酸ポリグリセリル-10、カプリン酸ポリグリセリル-10、カプリル酸ポリグリセリル-6、ラウリン酸ポリグリセリル-5、オレイン酸ポリグリセリル-5、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-20、及びポリグリセリル-4ラウリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種以上である請求項1記載の水中油型乳化組成物の製造方法である。
【請求項4】
請求項1記載の逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程でのせん断速度が100s-1以下である請求項1~3いずれか記載の水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3いずれか記載の水中油型乳化組成物を含有する化粧品及び飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物、及び簡易化されたその水中油型乳化組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧品、医薬品、農薬、水性塗料、ワックス、食品等の様々な分野で、水中油型微細乳化組成物を用いることが知られている。このような水中油型微細乳化組成物を調製する方法としては、以下のようにして得られる一相マイクロエマルションを用いる方法が知られている。
例えば、高HLBの非イオン性界面活性剤の水溶液にシクロヘキサン、シクロヘプタン等の炭化水素油を加え、温度を上げていくと、非イオン性界面活性剤の曇点の手前で、炭化水素油の可溶化量が急激に増大する領域が現れるというものである(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、非イオン性界面活性剤-炭化水素系で得られる、この一相マイクロエマルション領域は、その親水性-親油性が保たれた非常に狭い温度領域(数℃~10℃程度)では熱力学的に安定であるが、この温度領域を少しでも外れてしまうと、やがて二相に分離してしまう。このため、化粧品や医薬品、食品への応用は非常に困難であった。
【0004】
水中油型微細組成物を製造する場合、親水性非イオン性界面活性剤と、親油性非イオン性界面活性剤と、油剤と、前記油分と相溶しない水性溶媒であって、該水性溶媒中における前記親水性非イオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度が水中におけるそれよりも高い水性溶媒と、水とを適切な比率で混合・攪拌し、さらに水相成分を添加する方法や(例えば、特許文献1参照。)、特定の界面活性剤を用い、油剤を含有した組成物を調製した後に、水で希釈する方法(例えば、特許文献2参照。)が知られている。しかし、当該方法では特別な装置を用いることなく容易に製造することができ、乳化粒子径が小さいにも関わらず経時安定性に優れた水中油型微細乳化組成物を得ることはできるが、組成が限定されることに加えて、当該組成物は外観が透明に近いため、白濁した乳化物のように高濃度で油分を配合し、安定化させることは困難であった。
【0005】
また、水と油とを含む流体混合物に強いせん断力を加えて、乳化粒子を微細化した微細乳化組成物を得る方法が、一般的に知られている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。これらは、例えばゴーリンタイプの高圧ホモジナイザー等の装置を用い、試料を高圧で狭い隙間から押し出して、常圧に移行する際のキャビテーションと乱流によって分散粒子を微細化する方法である。さらに、新しいタイプの高圧乳化装置も提案されているが、高圧乳化装置では乳化する圧力を高く設定すると処理時にベース温度が上昇することから、乳化物の経時安定性に影響を及ぼすことがしばしばあった(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。
また、超音波照射等で処理する方法も提案されているが、超音波では大きなスケールでの製造は困難であった。
以上のように、物理的な方法によって微細乳化組成物を調製しようとした場合には大きなエネルギーを必要とするため、高圧乳化装置のような特別な装置が必要とされている。
そのため、特別な装置を用いることなく、容易に製造することができ、微細な乳化粒子径を有しつつ、さっぱりと肌なじみの良い使用性と、良好な経時安定性を有する水中油型乳化組成物の製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-194229号公報
【特許文献2】特開2009-179584号公報
【特許文献3】特開昭63-12654号公報
【特許文献4】特開平1-293131号公報
【特許文献5】特公平2-976526号公報
【特許文献6】特開平11-47580号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】篠田耕三著,「溶液と溶解度」,丸善,1991年,p.209~225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物、工程が簡易化されたその水中油型乳化組成物の製造方法、及びこの水中油型乳化組成物を含有する化粧品、食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(A)油剤、(B)構成ポリグリセリンの平均重合度が6~14、構成脂肪酸の炭素数が12以上、及びHLBが13.5未満であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及び(C)HLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLBが12以上のポリグリセリンモノアルキルエーテルを含有し、成分(B)と成分(C)の混合HLBが11.1~15.0である組成物であって、レオメーターにて25℃での角速度依存の粘弾性から求められる、角速度0.1rad/sにおける複素粘性率が100mPa・s以上である逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程を有する製造方法によって、微細な乳化粒子径を有し、使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物を容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記成分(A)~(C)を含有し、成分(B)と成分(C)の混合HLBが11.1~15.0である組成物であって、レオメーターにて25℃での角速度依存の粘弾性から求められる、角速度0.1rad/sにおける複素粘性率が100mPa・s以上である逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程を有する水中油型乳化組成物の製造方法である。
成分(A):油剤
成分(B):構成ポリグリセリンの平均重合度が6~14、構成脂肪酸の炭素数が12以上、及びHLBが13.5未満であるポリグリセリン脂肪酸エステル
成分(C):HLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLBが12以上のポリグリセリンモノアルキルエーテル
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法により、微細な乳化粒子径を有し、使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における成分(A)の油剤としては、特に限定するものではないが、例えば、炭化水素油、エステル油、トリグリセライド、アシルグリセロール、エーテル油、動植物油、シリコーン油等が挙げられ、好ましくは炭化水素油、エステル油、トリグリセライドである。
【0013】
本発明における炭化水素油としては、特に限定するものではないが、例えば、水添ポリイソブテン、流動パラフィン(ミネラルオイル)、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、ウンデカン、トリデカン、イソドデカン等が挙げられる。
【0014】
本発明におけるエステル油としては、特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸ジエチルヘキシル、アボカド油脂肪酸エチル、安息香酸アルキル(C12-15)、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸コレステリル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、エチルヘキサン酸セチル、エルカ酸オクチルドデシル、エルカ酸オクチルドデシル、エチルヘキサン酸イソステアリル、オリーブ油脂肪酸デシル、オリーブ油脂肪酸オクチルドデシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、カプリル酸プロピルヘプチル、(カプリル酸/カプリン酸)カプリリル、(カプリル酸/カプリン酸)ヤシアルキル、コハク酸ジエチルヘキシル、ジイソステアリン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、炭酸ジカプリリル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、デカイソステアリン酸デカグリセリル、乳酸オクチルドデシル、ネオデカン酸ヘキシルデシル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ラウリン酸イソステアリル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、リンゴ酸ジイソステアリル等が挙げられる。
【0015】
本発明におけるトリグリセライドとしては、特に限定するものではないが、例えば、トリエチルヘキサノイン、トリカプリル酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるアシルグリセロールとしては、特に限定するものではないが、例えば、(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズ、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるエーテル油としては、特に限定するものではないが、例えば、ジカプリリルエーテル等が挙げられる。
【0018】
本発明における動植物油としては、特に限定するものではないが、例えば、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米糠油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ヤシ油等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるシリコーン油としては、特に限定するものではないが、例えば、ジメチコン、フェニルトリメチコン、シクロメチコン、シクロペンタシロキサン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン等が挙げられる。
【0020】
本発明における逆紐状ミセル組成物中の成分(A)の油剤の含有量は、水相成分と混合時の経時安定性の観点から、好ましくは50~92質量%、より好ましくは55~88質量%、更に好ましくは60~84質量%である。成分(A)の油剤を2種以上使用する場合の含有量は、その合計量を指す。
【0021】
本発明における成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンと脂肪酸から構成され、これらをエステル化して得られるものであり、水酸基価から計算される構成ポリグリセリンの平均重合度は6~14、好ましくは6~12であり、構成脂肪酸の炭素数は12以上、好ましくは14、さらに好ましくは18以上である。成分(A)の油剤への溶解性の観点から、成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBとしては、13.5未満であり、好ましくは12.5以下、より好ましくは12.0以下である。下限値としては、好ましくは9.5以上等とすることができる。また、構成ポリグリセリンにおける1級水酸基の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上である。
【0022】
本発明における1級水酸基の割合は、炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定する方法を用いて測定される。また、水酸基価は当該分野で公知の方法により測定することができる。なお、炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、以下のようにして測定することができる。ポリグリセリン500mgを重水2.8mlに溶解し、ろ過後ゲートつきデカップリングにより13CNMR(125MHz)スペクトルを得る。ゲートデカップルド測定手法によりピーク強度は炭素数に比例する。1級水酸基と2級水酸基の存在を示す13C化学シフトはそれぞれメチレン炭素(CHOH)が63ppm付近、メチン炭素(CHOH)が71ppm付近であり、2種それぞれのシグナル強度の分析により、1級水酸基と2級水酸基の存在比を算出する。但し、2級水酸基を示すメチン炭素は、1級水酸基を示すメチレン炭素に結合するメチン炭素にさらに隣接するメチレン炭素ピークと重なり、それ自体の積分値を得られないため、メチン炭素と隣り合うメチレン炭素の74ppm付近のシグナル強度により積分値を算出する。
【0023】
本発明における成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定するものではないが、例えば、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-10、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-12、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-14、ジステアリン酸ポリグリセリル-10、ジオレイン酸ポリグリセリル-10、トリオレイン酸ポリグリセリル-10、ジオレイン酸ポリグリセリル-6、ジミリスチン酸ポリグリセリル-10、トリラウリン酸ポリグリセリル-10、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-6等が挙げられる。
【0024】
本発明における逆紐状ミセル組成物中の成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、経時安定性及び使用性の観点から、好ましくは3~40質量%、より好ましくは6~35質量%、更に好ましくは9~30質量%である。成分(B)を2種以上使用する場合の含有量は、その合計量を指す。
【0025】
本発明における成分(C)のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノアルキルエーテルとしては、HLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLBが12以上のポリグリセリンモノアルキルエーテルであり、好ましくはHLBが13.5以上のポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0026】
本発明における成分(C)のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリンモノアルキルエーテルとしては、特に限定するものではないが、例えば、イソステアリン酸ポリグリセリル-10、イソステアリン酸ポリグリセリル-12、イソステアリン酸ポリグリセリル-14、ステアリン酸ポリグリセリル-10、オレイン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、ラウリン酸ポリグリセリル-10、カプリン酸ポリグリセリル-10、カプリル酸ポリグリセリル-6、ラウリン酸ポリグリセリル-5、オレイン酸ポリグリセリル-5、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-20、ポリグリセリル-4ラウリルエーテル等が挙げられる。
【0027】
本発明における逆紐状ミセル組成物中の成分(B)と成分(C)の合計含有量は、洗い流し性の観点から、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは8~35質量%、更に好ましくは10~30質量%である。
【0028】
本発明における成分(B)と成分(C)の混合HLBは、経時安定性及び使用性の観点から11.1~15.0であり、好ましくは11.5~14.5、より好ましくは11.7~13.5である。
【0029】
本発明におけるHLBは、以下のGriffinの算出法もしくは有機概念図法により算出された値を指し、成分(B)と成分(C)の混合HLBは加成性を利用し算出される。即ち、本発明における成分(B)と成分(C)の混合HLBは、成分(B)と成分(C)の加重平均値である。
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは以下の式を用いて算出される。
HLB=20(1-S/A)
S:ポリグリセリン脂肪酸エステルのけん化価
A:原料脂肪酸の中和価
本発明におけるポリグリセリンアルキルエーテルのHLBは有機概念図から算出される。有機概念図とは、藤田穆により提案されたものであり、その詳細は“Pharmaceutical Bulletin”,vol.2,2,pp.163-173(1954)、「化学の領域」vol.11,10,pp.719-725(1957)、「フレグランスジャーナル」,vol.50,pp.79-82(1981)、「有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生著、三共出版、1984)等で説明されている。即ち、すべての有機化合物をメタン(CH)の誘導体とみなして、その炭素数、置換基、変態部、環等にそれぞれ一定の数値を設定し、その数値を加算して有機性値、無機性値を求め、有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。
有機概念図におけるHLBとは、有機概念図における有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比を10倍した数、即ち「無機性値(IV)/有機性値(OV)×10」を意味する。
【0030】
本発明におけるポリグリセリンの平均重合度の算出方法は、以下の式に基づいて、水酸基価より決定される。また、ポリグリセリンのモル数の決定方法は、平均重合度から分子量を求め、モル数を算出する。
OHV=56110(n+2)/(74n+18)
OHV:ポリグリセリンの水酸基価
n:ポリグリセリンの平均重合度
【0031】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリグリセリンと脂肪酸とを常法によりエステル化する方法や、脂肪酸とグリシドールを付加重合する方法等が挙げられる。ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化は、特に限定するものではないが、例えば、ポリグリセリンと脂肪酸を、酸触媒(リン酸、p-トルエンスルホン酸等)又はアルカリ触媒(苛性ソーダ等)存在下、もしくは無触媒で水を除去しながら、好ましくは100~300℃、より好ましくは120~260℃の範囲で加熱することにより行うことができる。また、エステル化反応は不活性ガスの存在下で行ってもよい。このようにして得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは目的に応じて精製してもよい。精製には減圧下での蒸留、分子蒸留、水蒸気蒸留といった蒸留技術の他、有機溶剤による抽出、分画や合成吸着剤、ゲル濾過剤を充填したカラムによるクロマト分離も利用できる。なお、脂肪酸のかわりに、脂肪酸のエステルを用い、ポリグリセリンとエステル交換を行うことにより、目的のポリグリセリン脂肪酸エステルを得てもよい。
【0032】
本発明におけるポリグリセリンモノアルキルエーテルの製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、塩基性触媒の存在下、脂肪族アルコールに該アルコール/グリシドールの存在モル比が特定となるようにグリシドールを添加して反応させる方法、ポリグリセリンにα-オレフィンエポキシドを反応させることによって得られる方法、酸触媒もしくはアルカリ触媒の存在下でアルキルグリシジルエーテルを、ポリグリセリンを用いて開環させる方法等が挙げられる。
【0033】
本発明における水中油型乳化組成物中の逆紐状ミセル組成物の含有量は、好ましくは1%以上50%未満であり、経時安定性の観点で、より好ましく5%以上30%未満である。
【0034】
本発明の逆紐状ミセル組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、通常化粧料に用いられる成分を任意に配合することができ、特に限定するものではないが、例えば、成分(B)及び成分(C)以外の界面活性剤、多価アルコール、増粘剤、水性ゲル化剤、油性ゲル化剤、粉体、抗酸化剤、防腐剤、香料、着色剤、キレート剤、清涼剤、植物抽出液、ビタミン類、中和剤、保湿剤、抗炎症剤、pH調整剤、アミノ酸等が挙げられる。
【0035】
本発明における逆紐状ミセル組成物の粘度としては、レオメーター(ARES G-2、TA Instruments製)にて25℃での角速度依存の粘弾性から求められる、角速度0.1rad/sにおける複素粘性率が100mPa・s以上であり、好ましくは100~50000mPa・s、より好ましくは200~30000mPa・s、更に好ましくは300~10000mPa・sである。
【0036】
本発明における逆紐状ミセル組成物には、水中油型乳化組成物の経時安定性の観点から、逆紐状ミセル構造を含むことが好ましい。逆ミセルは油中で界面活性剤が形成する会合体のひとつで、親水基を内側、親油基を外側に向けた構造となり、その溶液の外観は等方性透明である。この時、界面活性剤のHLBや濃度を調整すると、ミセルの形状は球状から長く伸びた紐(もしくは棒)状構造へ変化する。この逆紐状ミセルは油中で互いに絡み合い、油に粘弾性を与える。一般的に、逆紐状ミセル溶液をレオメーターにて角速度依存で粘弾性を測定すると、単一Maxwellモデル理論曲線と低周波数側の傾きが一致する事が知られている。従って、本発明における逆紐状ミセル構造は、レオメーター(ARES G-2、TA Instruments製)による25℃における角速度依存の粘弾性測定によって貯蔵弾性率(G‘)と損失弾性率(G“)の低角速度領域での傾きが単一Maxwellモデル曲線と一致することにより確認する。
【0037】
本発明における水相成分としては、水又は、アルコール類、水性ゲル化剤、香料、キレート剤、清涼剤、中和剤、保湿剤、pH調整剤、アミノ酸等の水溶液であり、基本的には水によく溶けるものである。特に限定するものではないが、例えば、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール等の水溶液が挙げられる。
【0038】
本発明における水中油型乳化組成物中の水相成分の含有量は、逆紐状ミセル組成物中の成分(A)~(C)の種類や含有量に応じて適宜調整する必要があり、好ましくは70質量%以上である。
【0039】
本発明の水中油型乳化組成物の乳化粒子径は、室温でレーザー回析式粒度分布計にて測定され、好ましくは50~1000nmであり、より好ましくは50~800nm、さらに好ましくは50~500nmである。
【0040】
本発明における水中油型乳化組成物は、その製造方法として逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程を有することで、微細な乳化粒子径を有する安定な水中油型乳化組成物を得ることが可能である。
また、実質的に人体に対する刺激性が比較的小さい非イオン性界面活性剤のみによって乳化されるのであるため、安全性に優れている。
【0041】
本発明における水中油型乳化組成物製造時の逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程での温度は、好ましくは10~70℃であるが、逆紐状ミセル組成物の成分(A)~(C)の含有量を適宜選択することにより、室温付近で製造することができる。また、逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程での撹拌機のせん断速度は、好ましくは100s-1以下であり、エネルギー消費量低減の観点から、より好ましくは50s-1以下である。このため、乳化の際、高圧乳化装置のような特別な装置を用いることなく、室温で混合、攪拌するだけで容易に製造することができる。
本発明における水中油型乳化組成物の製造方法では、また、本発明における水中油型乳化組成物製造時の逆紐状ミセル組成物と水相成分を混合する工程では、水相成分に逆紐状ミセル組成物を添加しても、逆紐状ミセル組成物に水相成分を添加してもどちらでも良い。
【0042】
以上のように、本発明にかかる水中油型乳化組成物の製造方法では、予め製造した逆紐状ミセル組成物に水相成分を配合し、室温で低せん断速度の攪拌条件で攪拌するだけで、経時安定性が良好な水中油型乳化組成物を得ることが可能である。このため、美容液等の水中油型乳化組成物の製造工程において、化粧料成分を含有した逆紐状ミセル組成物に水又は保湿剤等の水相成分を添加し、室温で攪拌するだけで製造可能であり、従来の製造工程を大幅に簡素化可能である。
【0043】
本発明にかかる水中油型乳化組成物は、特に限定するものではないが、例えば、化粧料用途としては、化粧水、乳液、ジェル・美容液、オイル、クリーム、マッサージクリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム、パック、ピールオフパック、ふき取り・洗い流しパック、ゴマージュ、アイケア化粧品、リップケア化粧品、ボディ洗浄料、入浴剤、ボディミルク、ボディローション、ハンドミルク、ハンドローション等の皮膚化粧料、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアスタイリング剤、ヘアカラー、パーマ液、食品用途としては、紅茶飲料、抹茶飲料、ココア飲料、コーヒー飲料、スープ飲料、乳製品、乳化食品、ドレッシング、ソース類、ソフトカプセル等に用いることができる。
【0044】
本発明の化粧料中の水中油型乳化組成物の含有量は、好ましくは10~100質量%であり、より好ましくは20~100質量%であり、さらに好ましくは50~100質量%である
また、本発明にかかる水中油型乳化組成物には、本発明の効果に影響が出ない範囲において、通常、化粧品、食品等に用いられる成分を含有することができる。
【実施例0045】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、表中の成分量はいずれも「質量%」である。また、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0046】
(逆紐状ミセル組成物の調製)
製造例1~41
表1~4に記載した組成で各成分をガラスビーカーに量り入れ、約80℃に加熱混合し、室温付近まで攪拌冷却しにより製造例1~41の逆紐状ミセル組成物を調製した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表1~4で用いた成分の詳細を以下に示す。なお、実施例で用いたポリグリセリン脂肪酸エステルは一般的な合成法により、ポリグリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させることで得たものである。
トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル:EMALEX GWIS-320(日本エマルジョン(株)製)
ミネラルオイル:モレスコホワイトP-70((株)MORESCO製)
パルミチン酸エチルヘキシル:サラコスP-8(日清オイリオグループ(株))
エチルヘキサン酸セチル:エキセパールHO(花王(株)製)
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル:サンオイルMCT-7(太陽化学(株)製)
【0052】
試験例1(逆紐状ミセル組成物の粘度)
製造例1~41の逆紐状ミセル組成物を25℃にてレオメーター(ARES G-2、TA Instruments製)で角速度依存の粘弾性を測定し、角速度0.1rad/sの複素粘性率を算出し、粘度とした。その結果を表1~4に示した。
【0053】
(水中油型乳化組成物の調製)
実施例1~32、比較例1~9
ビーカーに製造例1~32の逆紐状ミセル組成物をそれぞれとり、ホモミキサーで室温にて50 s-1(3000rpm)の攪拌速度にて、水中油型乳化組成物中に水相成分として水を70質量%(油は24質量%)になるように添加して、本発明品1~32の水中油型乳化組成物を得た。また、製造例33~41の逆紐状ミセル組成物を用いた以外は前記と同様にして、比較品1~9の水中油型乳化組成物を得た。
【0054】
試験例2(水中油型乳化組成物の乳化粒子径)
本発明品1~32の水中油型乳化組成物と比較品1~9の水中油型乳化組成物の乳化粒子径はレーザー回析式粒度分布計(LS 13 320/ベックマン・コールター社製)にて室温で測定した。得られた体積基準の分布におけるメジアン径を乳化粒子径とした。その結果を表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
試験例3(水中油型乳化組成物の経時安定性)
水中油型乳化組成物の経時安定性は、得られた水中油型乳化組成物を室温の温度条件下に1ヶ月間保存した後、以下の評価基準により判定した。その結果を表5に示した。
○:安定性良好
×:分離を確認
【0057】
以上のようにして得られた水中油型乳化物は、非常に小さな乳化粒子径であるにもかかわらず、長期間安定であった。また、使用に伴って、塗布後、さっぱり感、浸透感、耐水性、しっとり感等それぞれの高分子に由来する良好な使用性を有していた。
また、以上のようにして得られる水中油型乳化物は、乳化の際、特別な装置を用いることなく、一定温度で混合、攪拌するだけで容易に製造することができた。また、実質的に、人体に対する刺激性が比較的小さい非イオン性界面活性剤のみによって乳化されるものであるため、安全性に優れており、化粧品や食品に好適に使用できるものであった。
【0058】
以下に、本発明の水中油型乳化組成物の処方例を挙げるが、本発明はこの処方例によって何ら限定されるものではない。いすれの処方例の水中油型乳化組成物も使用性及び経時安定性が良好なものであり、室温で低せん断速度の攪拌条件で攪拌するだけで簡易的に製造可能なものであった。
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法よって、特別な設備が無くとも微細な乳化粒子径を有し、使用性及び経時安定性が良好な水中油型乳化組成物を簡易的に製造可能であり、この水中油型乳化組成物は化粧品又は食品に好適に用いることができることから、産業上貢献大である。