IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山田 榮子の特許一覧

<>
  • 特開-製鋼用取鍋精錬炉 図1
  • 特開-製鋼用取鍋精錬炉 図2
  • 特開-製鋼用取鍋精錬炉 図3
  • 特開-製鋼用取鍋精錬炉 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042776
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】製鋼用取鍋精錬炉
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
C21C7/00 P
C21C7/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147579
(22)【出願日】2022-09-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA05
4K013BA08
4K013BA12
4K013BA14
4K013CA01
4K013CD02
(57)【要約】
【課題】 気密性を強化したLF法による取鍋精錬装置を提供する。
【解決手段】 取鍋上面と炉蓋下面との気密性向上のため前者にI型フランジ、後者にL型フランジを設けて密接させる。電極孔の気密性強化に対して、電極ホルダー下面と炉蓋上面間に電極棒を包囲して耐火ジャバラを設ける。耐火ジャバラ上面はガスケットにより気密化、下面は平面接触により気密性を持たせる。炉蓋内の通気が確実に防止され、精錬ガスの漏出のみとなって、高度の非酸化・還元性雰囲気が得られる。脱酸・脱硫・脱非金属介在物が高度になり、H,Nの吸収を防止する。黒鉛製電極棒の酸化消耗が抑制される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部にポーラスプラグを具備する取鍋の上縁に鉄皮を持つ炉蓋を載置して取鍋を被覆し、該炉蓋を貫通する電極棒を該炉蓋の上方で電極棒支持設備により支持し、該電極棒支持設備を覆う集塵フードを上方に離間して配設してなるアーク加熱により溶鋼を還元精錬するための取鍋精錬装置において、断面I型のフランジを取鍋上部外周に設け、該フランジと密接する断面L型のフランジを水冷炉蓋下部外周に設けて水冷炉蓋と取鍋との隙間を密閉し、電極棒を把持する電極ホルダー下方に該電極棒を取り囲む耐熱ジャバラを設け、該耐熱ジャバラの上部フランジを該電極ホルダー下面に気密に接続し、該耐火ジャバラの下部フランジを炉蓋上面に密接するよう設けて電極棒貫通孔を実質的に密閉することを特徴とする取鍋精錬装置。
【請求項2】
下記4条件、
1) 炉蓋に気密性を持つ開閉可能な作業孔を設けること、
2) 炉蓋下方に離間して出入可能な冷却水槽を設け、精錬終了・取鍋退避に対応して、該冷却水槽を搬入し、赤熱状態の黒鉛製電極棒を該冷却水槽に浸漬して冷却すること、
3) 冷却水に耐火モルタルを懸濁させること、
4) I型、L型の両フランジ間にパッキンを介在させて気密性を強化すること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする請求項1に記載した取鍋精錬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電炉製鋼において精錬後半を担う取鍋精錬炉の機能改良とコスト主要因の一つである電極棒の耐久に関している。
【背景技術】
【0002】
電炉製鋼法における現在の主流プロセスは、屑鉄を主原料とし、アーク炉によって該原料を溶解・酸化精錬し、次いで直ちに取鍋に出鋼し、通称LF(Ladle Furnace)によって取鍋内溶鋼をアーク加熱しつつ還元・仕上げ精錬を行う2段処理を経て連続鋳造に供される。今日前段の処理時間は連続鋳造の1ヒートと同等である1時間弱、後段は30分弱である。LFは温度調整・成分調整・時間調整に便利であって、後続の連続鋳造との整合性が良い。
一連の処理を熔解炉内において処理する旧来の方法と比較すると、溶解炉の生産能率は大きく向上し、熔解工程自体のコストは削減されるが、取鍋における再加熱設備・処理が必要となり、取鍋に精錬負担が上乗せされることから、コスト増加がかなり大きく、合計コストは両者にほとんど差が無いのが実態である。
【0003】
非特許文献1には取鍋精錬の1種であるLF法の開発経緯が開発当事者によって詳細に説明されている。開発目的は電炉の生産性向上と仕上精錬水準の向上である。
プロセスの要件は、1)レードル内溶鋼のアークによる再加熱、2)大気侵入を遮断した還元性雰囲気下のスラグ精錬(脱酸・脱硫の高度化)、3)ガスバブリングによる脱ガス(脱H)であって、設備は精錬空間の気密性を不可欠とし、当初は真空機能も保有していた。
【0004】
幾多の試験精錬により判明したことは、
1) 特殊な気密構造により気密が確実であったから、真空にしなくても長時間のガスバブリングにより真空処理と同等の脱ガス(H)効果が得られた。以後、真空処理は除外された。
2) 同理由により外気起因の有害なNの吸収が無かった。
3) 雰囲気が充分な還元性になり脱酸・脱硫が高水準に達し、清浄鋼が得られた。
4) コスト面では、電力・電極棒の消費は想定内であったが、レードル耐火物の損傷がひどく、難問が続いた。
【0005】
その後耐火物問題もほぼ解決され実用可能となる。電炉ミルにおいては、温度調整・成分調整・時間調整に便利であって、後続の連続鋳造と相性が良く、品質をあまり問題としない量産普通鋼を対象に急速に普及した。
他方品質面では装置全体の気密性保持(外気の侵入防止)が困難であって本来の効果が得られず、普通鋼では品質向上を諦め、LF機能を加熱・保持のみに限定することとなる。 他方高級鋼や特殊鋼では真空処理等の付加による3段処理へ向かっている。
【0006】
気密不備はアーク起因のガス膨張によって大量の外気を吸引し、排出するので望ましい雰囲気制御が不能になるだけでなく、吸引冷却による電力増、空気酸化による電極棒損を誘発し、さらに一部のLFではアーク加熱固有の粉塵生成による大気汚染への対策(排ガスの直接吸引)を要することになり、吸引がさらに外気吸引を増幅すると言う悪循環となる。
【0007】
消費原単位は、電力25~50kWh/t,電極棒0.25~0.5kg/tである。 ここで注意すべきは後者電極棒の電力量に対する消費比率は溶解炉におけるそれの2倍であって、消耗の増加原因が問題となる。
電極棒の形状の観察『全体的な先細り』から側面消耗が主となっていることが解る。
理由は、電極棒は約30分の稼働中は約1600℃の雰囲気に曝され、その後約30分は空冷放置される。稼働中の空気酸化と空冷中の空気酸化が重なるからである。
取鍋精錬のコスト低減が本願発明の課題の一つであり、具体的には電極棒の消耗を抑制することである。
【0008】
特許文献1には、LF法の本来の精錬効果を確保するため気密性を改良する策が開示されている。それによると、従来のレードル頂部に鉄皮と耐火物内張とから成る炉蓋を単純に載置する方法では両者間の隙間発生が避けられず、気密困難との問題を、上下の傾斜フランジ接合方式とすることによって当該問題を解決している。
具体的には、レードル上部の外周に形状が円錐台側面である1種のフランジを設け、炉蓋外周にも同形状のフランジを設ける。嵌り込むように接合して気密化がなされる。気密の重要性が強調されている。
【0009】
本方法の問題の一つは、円錐台面は平面と同様わづかな熱変形でも気密性が低下し易いこと、他は、レードルと炉蓋間の密閉ができても3本の電極棒と電極孔との間隙が放置されていて、該環状孔を通して多量の熱排ガスの噴出と外気吸引とが併行し、期待したような雰囲気制御にならないことである。
さらに、作業孔を一つでも設けると一層吸引・噴出が激しくなる。本来の品質を確保するため、電極孔の間隙をどのようにして気密化するかと言うことは本願発明のもう一つの解決すべき課題である。
【0010】
特許文献2には、LFにおけるN吸収を防止する方法が開示されている。大気汚染対策と外気吸引によるN含有量増加の抑制を両立させるため、1)電極孔上部に3本の電極棒を取り囲んで吸引ダクトを設け、電極孔から噴出する粉塵を適切に吸引処理する。2)吸引過剰は外気を吸引してNの増加となるので、その対策として発煙の一部をレードル上部と炉蓋下面との間隙から噴出させ、粉塵量を粉塵センサーで測定して吸引力を必要最小に調節する。
【0011】
本方法の問題を検討する。前記の発明の要件である『レードルと炉蓋間の密閉』を要件とせず、間隙を許容している。上方に位置する電極孔の間隙も問題とせず、ダクトを介して吸引しているので、炉蓋の下の間隙から外気を吸引し、炉蓋の上の電極孔からダクトへ粉塵を噴出する大きな流れが形成される。生成ガス量が過大である場合には上下両間隙から噴出して意図通りとなるが、通常は煙突効果により下は吸引、上は噴出となり、課題解決にはならない。
意図したことを達成するには、少なくともダクトを貫通する3本の電極棒と該ダクト間の隙間を密閉しなければならない。さらに電極孔の隙間も縮小しなければならない。当要件は全く記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
日本鉄鋼協会編、西山記念講座217回、5.ガス撹拌とスラグ精錬を活用する取鍋精錬法(LF法)の開発 矢野忠正、139頁~147頁
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】公開特許公報2005-105378
【特許文献2】公開特許公報2008-266759
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
取鍋精錬炉の1種であるLF法は電炉による量産普通鋼製造の主流プロセスの中に組み込まれていて使い勝手が良いが、構造的に克服できていない問題がある。
LF操業において品質(脱酸・脱硫)・コスト(電力・電極消費)に対して雰囲気制御の重要性は充分認識され、対策としての気密化方法もいくつか提案されているが、いまだに作業性の良い方法が見つかっていない。
【0015】
本願発明は、LF法による取鍋精錬方法において精錬雰囲気を非酸化性且つ還元性に誘導するため炉体をより気密化すること、精錬時間外においても電極棒の酸化消耗を排除することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の発明は、底部にポーラスプラグを具備する取鍋の上縁に鉄皮を持つ炉蓋を載置して取鍋を被覆し、該炉蓋を貫通する電極棒を該炉蓋の上方で電極棒支持設備により支持し、該電極棒支持設備を覆う集塵フードを上方に離間して配設してなるアーク加熱により溶鋼を還元精錬するための取鍋精錬装置において、
断面I型のフランジを取鍋上部外周に設け、該フランジと密接する断面L型のフランジを水冷炉蓋下部外周に設けて水冷炉蓋と取鍋との隙間を密閉し、
電極棒を把持する電極ホルダー下方に該電極棒を取り囲む耐熱ジャバラを設け、
該耐熱ジャバラの上部フランジを該電極ホルダー下面に気密に接続し、
該耐熱ジャバラの下部フランジを炉蓋上面に密接するよう設けて電極棒貫通孔を実質的に密閉することを特徴とする取鍋精錬装置である。
【0017】
第2の発明は、下記4条件、
1) 炉蓋に気密性を持つ開閉可能な作業孔を設けること、
2) 炉蓋下方に離間して出入可能な冷却水槽を設け、精錬終了・取鍋退避に対応して、該冷却水槽を搬入し、赤熱状態の電極棒を該冷却水槽に浸漬して冷却すること、
3) 冷却水に耐火モルタルを懸濁させること、
4) I型、L型の両フランジ間にパッキンを介在させて気密性を強化すること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする第1発明に記載した取鍋精錬装置である。
【発明の効果】
【0018】
取鍋と炉蓋にそれぞれ設けた両フランジの密接により両者間に気密性が具備され、電極棒と電極孔との間隙も電極を包囲して電極ホルダーと炉蓋上面間に設けた耐火ジャバラによって気密性が確保され、炉蓋と取鍋によって構成される精錬空間には外気の侵入が困難になり、他方、ポーラスプラグから吹き込まれる不活性ガスと投入された炭材とスラグの反応によって生成したCOガスの両者が充満し、常時正圧が維持され、雰囲気は容易に非酸化性・還元性に移行する。その結果LF法本来の精錬効果が容易に得られる。
【0019】
外気の侵入が防止され、炉内の通気による冷却が抑制され電力損失が低減し、電極の空気による側面酸化消耗が抑制される。
精錬後直ちに取鍋は搬出され、替わって冷却槽が搬入されて赤熱電極棒を水冷するので、次回精錬までの電極の空気酸化を解消する。
冷却に耐火モルタル懸濁液を使用すると、モルタル薄膜が形成され、炉内の気密性が不備になった場合においても電極の酸化防止に作用する。
【0020】
アークに起因する粉塵と火炎は両フランジ間のわずかな隙間、ジャバラ下面と炉蓋上面間の隙間から常時漏出する。これらは炉蓋上方に設けた集塵フードにより処理され環境維持も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願発明の取鍋精錬装置を従来のLF法の装置と比較して示す概念図であり、左側半分は従来法、右側は本願発明である。
図2】炉蓋に設けられた作業孔と合金等の装入ホッパー・開閉ドアーを示す。
図3】取鍋の搬出に入れ替わって搬入される電極棒冷却槽を示す。
図4】I型、型の両フランジ間にパッキンを介在させる方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に従って本願発明の取鍋精錬装置の構造を従来のものと比較して説明する。
LF法による取鍋精錬装置は、主に底部に不活性ガスを吹き込むポーラスプラグ1を持つ取鍋2と、該取鍋上縁に載置され取鍋2を被覆する鉄皮3と耐火物4とから成る炉蓋5と、該炉蓋5を貫通して尖端がスラグ6を浮遊させる溶鋼7の表面近傍に保持されアークを発する3本の黒鉛製の電極棒8と該電極棒8を把持する水冷の電極ホルダー9と該ホルダー9を昇降する電極昇降装置10と架構11に設けられ炉蓋5を昇降させる炉蓋昇降装置12と電極棒8の上方に離間して配置された集塵フード19とから構成される。
【0023】
本願発明では上記装置に新規の改良が数件付加され、精錬条件が格段に向上する。
第1に、取鍋2の上部外周に断面I型フランジ13が設けられ、炉蓋5の下部外周に断面L型フランジ14が設けられ、炉蓋5を取鍋2に載置する際、両フランジ13,14で接するようになり、多少の隙間はできるが、外気吸引に対する気密性が強化される。
従来の取鍋と炉蓋の接触部15では溶鋼・スラグの付着や耐火物の変形により両側とも凹凸が生じて気密性が得らない。精錬時には火炎・粉塵が噴出したり、外気を強力に吸引し、雰囲気制御は不能である。
【0024】
第2の改良は、電極棒の1部位である電極ホルダー9下面から炉蓋上面までの区間を、耐火ジャバラ16によって包囲する。該耐火ジャバラ16の上部フランジ17は電極ホルダー下面にガスケット(図示せず)を介して気密に接続する。下部フランジ18は 炉蓋5の水平上面に載置され、互いの平面接触によりある程度の気密性が得られる。
火炎・粉塵の噴出は、前記の考案との相互作用により上部フランジ17からは確実に防止され、下部フランジ18からは穏やかな漏出のみに抑制される。漏出ガスは上方に配置されされた集塵フード19によりほぼ100%処理される。
【0025】
上記二つの改良により気密性が強化されるので、炉蓋内の精錬空間はプラグから吹き込まれた不活性ガスと、炭材投入によるCOガス生成によって常時正圧となって外気の吸引が確実に消滅する。その結果、炉内雰囲気は急速に非酸化性を経てCOガス主体の還元性になり、さらにCaC2生成も付加され、脱酸・脱硫が効果的に進行する。
溶解炉による還元精錬やLFによる還元精錬では、外気の通過により、有害なH,Nが溶鋼に吸収され徐々に増加してくるが、本願発明では外気吸入は無いので有害ガスの増加が防止されるだけでなく、Hは減少していく。
【0026】
LF法では、炉蓋に炭材・合金鉄等の補助材料を投入する作業孔が設けられることがある。この場合、気密性の効果は初めから諦めている。取鍋精錬装置は単なる加熱装置として使用されている。本願発明では本来の精錬効果を劣化させないため以下の考案が付加される。
【0027】
図2に従って作業孔の設け方を説明する。21は作業孔であり、該作業孔21に連接してホッパー22を設け、該作業孔21と該ホッパー22との間には、摺動式の耐火物製ドアー23を設ける。該耐火物製ドアー23はシリンダー24により適宜開閉される。
ホッパー22には予め投入すべき補助材料を装填しておく。ホッパーにもカバーを設けておくと、開閉時の気密性の維持によい。
作業孔をもう一つ、例えば測温・サンプリングのためランサー装入孔を設ける場合も同様に行う。
【0028】
円柱状で黒鉛製の電極棒の耐久性について説明する。使用途中の電極棒の形状は、アークによる尖端面の昇華消耗と、側面の空気酸化による径小化が重なり、全体は先細りとなっている。
観察して解ることだが、溶解炉の電極棒形状と比較して細めとなっている。側面の空気酸化消耗が大きい。現行のLFでは大量の通気故に止む終えないことである。
その上、精錬後から次回精錬までの約30分間は電極棒は1600℃から放冷され、約450℃までは空気酸化が進行する。
【0029】
本願発明では、精錬中の雰囲気は非酸化性・還元性であるから電極棒の酸化消耗は抑制される。その上精錬終了後の放冷中においても酸化防止を組み込む。
図3に示すように、31は冷却水を保持する冷却槽であって、該冷却槽31を炉蓋32の直下に出し入れする冷却槽旋回装置33を近傍に設ける。冷却槽31の内部中間には金網34を設ける。該金網34は電極棒35の長さ調整(掴み変え)に役立ち、異物の除去にも役立つ。冷却水には工業用水又は耐火モルタル懸濁水を用いる。温度管理は不要である。
【0030】
精錬終了後、取鍋を炉蓋下方から退避させ、直ちに冷却槽31を電極棒の下方に位置取りし、電極棒35を下降させて冷却槽31に浸漬し冷却する。
黒鉛の熱膨張率は極めて小さいので水焼入しても何らワレは発生しない。約1分で表面の赤色は黒色となって500℃以下となっているのが確認される。黒鉛は450℃以下では酸化しない。以上のように待機中においても電極棒の酸化が防止される。
冷却水に耐火モルタルを懸濁させておくと、引き上げたときには陶磁器の上薬のように泥の被覆がなされる。電極棒の内部熱により容易に乾燥し、次回使用時には昇温により耐火物被膜が形成され、酸化防止に作用する。
【0031】
精錬水準の向上について説明する。炉内の気密性が精錬水準に決定的に影響することはLF開発当初から公知である。引用文献1のLFの開発において構造は不明であるが真空にも対処可能な高度の気密設計がなされている。普及設備では気密性は考慮されてこなかった。本願発明ではそれを容易な方法で復活させている。
図4は取鍋・炉蓋間の気密性を一層強化する策を示す。41は炉蓋鉄皮、42は取鍋鉄皮、43はI型フランジ、44はL型フランジ、45はL型フランジ44の尖端に設けて耐火パッキンである。耐火パッキン45により気密性が強化される。両フランジの熱変形によって隙間が大きくなった場合にも気密性を維持する。
気密性向上の結果、高度の脱酸・高度な脱硫・非金属介在物の低減等の効果の他に、通常還元精錬において増加する有害なH、Nの吸収が回避される。これも公知である。
【0032】
適切なスラグ形成には、塩基性スラグ上面に還元用炭材を適宜投入し、低電圧に設定して電極棒尖端をスラグに浸漬させ、スラグ内反応を強化する。
昇温を効果的に進めるには大電流とし電圧も高めに設定する。スラグ・溶鋼とも均熱化を促進するには吹込みガス量を増加させる。過剰は溶鋼面露出・飛散やアーク脈動を招く。
電流・電圧・ガス量は一定維持ではなく、適宜設定条件を調節するのが好ましい。
【実施例0033】
取鍋に設けられるI型フランジの取り付け位置は上端から50mm以上が望ましい。以下だと取鍋傾転・スラグ排出時に付着が生ずる。
フランジ寸法は、熱変形防止のため厚さは20mm以上、幅は取鍋と炉蓋の芯出し精度の不足に備えて100mm以上が望ましい。
L型フランジは水冷を付加して熱変形を防止することが望ましい。炉蓋鉄皮が水冷構造であるからこれは容易になされる。
【0034】
電極棒を包囲する耐火ジャバラの上部フランジは非磁性材とする。大電流による誘導加熱を避けることができる。下部フランジは耐火物製がよい。変形が生じにくい。
電極棒と電極ホルダー孔の間隙が生ずる場合がある。耐火ウール等で詰める。
【符号の説明】
【0035】
1;ポーラスプラグ 2;取鍋 3;鉄皮 4;耐火物 5;炉蓋 6;スラグ 7;溶鋼 8;電極棒 9;電極ホルダー 10;電極昇降装置 11架構 12;炉蓋昇降装置 13;断面I型フランジ 14;断面L型フランジ 15;接触部 16;耐火ジャバラ 17;上部フランジ 18;下部フランジ 21;作業孔 22;ホッパー 23;耐火物製ドアー 24;シリンダー 25;炉蓋 31;冷却槽 32;炉蓋 33;冷却槽旋回装置 34;金網 35;電極棒 41;炉蓋鉄皮 42;取鍋鉄皮 43;I型フランジ 44;L型フランジ 45;耐火パッキン
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
底部にポーラスプラグを具備する取鍋の上縁に鉄皮を持つ炉蓋を載置して取鍋を被覆し、該炉蓋を貫通する電極棒を該炉蓋の上方で電極棒支持設備により支持し、該電極棒支持設備を覆う集塵フードを上方に離間して配設してなるアーク加熱により溶鋼を還元精錬するための取鍋精錬装置において、断面I型のフランジを取鍋上部外周に設け、該フランジと密接する断面L型のフランジを水冷炉蓋下部外周に設けて水冷炉蓋と取鍋との隙間を密閉し、電極棒を把持する電極ホルダー下方に該電極棒を取り囲む耐火ジャバラを設け、該耐火ジャバラの上部フランジを該電極ホルダー下面に気密に接続し、該耐火ジャバラの下部フランジを炉蓋上面に密接するよう設けて電極棒貫通孔を実質的に密閉することを特徴とする取鍋精錬装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
第1の発明は、底部にポーラスプラグを具備する取鍋の上縁に鉄皮を持つ炉蓋を載置して取鍋を被覆し、該炉蓋を貫通する電極棒を該炉蓋の上方で電極棒支持設備により支持し、該電極棒支持設備を覆う集塵フードを上方に離間して配設してなるアーク加熱により溶鋼を還元精錬するための取鍋精錬装置において、
断面I型のフランジを取鍋上部外周に設け、該フランジと密接する断面L型のフランジを水冷炉蓋下部外周に設けて水冷炉蓋と取鍋との隙間を密閉し、
電極棒を把持する電極ホルダー下方に該電極棒を取り囲む耐火ジャバラを設け、
耐火ジャバラの上部フランジを該電極ホルダー下面に気密に接続し、
該耐火ジャバラの下部フランジを炉蓋上面に密接するよう設けて電極棒貫通孔を実質的に密閉することを特徴とする取鍋精錬装置である。