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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042777
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】新規光分解性ポリロタキサン
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/325 20060101AFI20240322BHJP
   C09J 201/02 20060101ALI20240322BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20240322BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20240322BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C08G65/325
C09J201/02
A61K6/30
A61K6/60
A61L24/04 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147581
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】有坂 慶紀
(72)【発明者】
【氏名】由井 伸彦
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
4J005
4J040
【Fターム(参考)】
4C081AC04
4C081BB04
4C081BB08
4C081CA151
4C089AA10
4C089BD00
4C089BE07
4J005AA04
4J005BD05
4J040EE012
4J040FA131
4J040GA13
4J040JB08
4J040KA13
4J040KA16
4J040LA01
4J040MA15
4J040NA03
4J040PA20
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡便に合成することができ、光分解基を高効率で導入することができ、これの存在下で重合性単量体を重合させて得られる重合体が比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解する、実用性に優れたポリロタキサンを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、環状分子と、前記環状分子を貫通する軸分子と、前記軸分子に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであって、前記封鎖基がクマリン誘導体を含む、ポリロタキサンを提供する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子と、前記環状分子を貫通する軸分子と、前記軸分子に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであって、前記封鎖基がクマリン誘導体を含む、ポリロタキサン。
【請求項2】
請求項1に記載のポリロタキサンと重合性単量体とを含む、接着性組成物。
【請求項3】
生体硬組織用であることを特徴とする、請求項2に記載の接着性組成物。
【請求項4】
歯科用であることを特徴とする、請求項3に記載の接着性組成物。
【請求項5】
歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラントの仮着用であることを特徴とする、請求項4に記載の接着性組成物。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の接着性組成物からなる、接着材。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか1項に記載の接着性組成物の硬化体に対して、紫外光を照射する工程を含む、前記硬化体の機械的強度を低下させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリロタキサンに関し、詳しくは、環状分子と、前記環状分子を貫通する軸分子と、前記軸分子に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有する、新規ポリロタキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般工業界、医療、土木、日常生活等のいたるところで、接着材は汎用される。これら接着材としては、シアノアクリレート系接着材、木工用ボンド、糊等の物理的勘合力により接着性を付与するもの、シールやテープ等の表面や界面の親和性による粘着性を利用するもの、ファンデルワールス力、イオン結合、水素結合、共有結合等の化学的結合により比較的高い接着性を付与する金属用接着材、セラミクス用接着材、歯科用接着材、ネイル用接着材等が汎用されている。接着材はその目的や用途に応じて好適なものが選択され使用される。特に、アニオン重合性の重合性単量体を使用したシアノアクリレート系接着剤やメタアクリレート系重合性単量体と重合開始剤を使用した歯科用接着材等の重合性単量体を含む接着材は、特に高い接着性が得られ好適である。
【0003】
接着材は至る所で多用されているものの、接着力を高くしすぎると外し難くなるという、相反する性質を有する材料である。例えば、接着材を使用して対象物を誤った位置や状態に接着してしまい接着のやり直しをする場合や、予め接着材を使用し接着された対象物のリサイクルを行うために対象物を脱離させたい場合、或いは接着材を使用し対象物を接着した際に対象物を接着した目的物の被着面からはみ出して硬化した接着材を除去したい場合がある。このような場合に、接着力が高すぎると対象物の脱離が困難になったり、対象物を無理に脱離させようと過大な力を加えた場合に対象物自体や対象物を接着させた目的物の破壊を生じてしまう場合がある。特に対象物や目的物が高価または希少な場合や、対象物を接着させた目的物が生体硬組織である場合等に、対象物や目的物に破壊等を生じることなく脱離する方法が望まれている。特に、高い接着性が得られることから一般工業界、医療、土木、日常生活等で汎用されている重合性単量体を含む接着材においては、その接着性が高いがために、接着材の目的物からの除去や、対象物の目的物からの脱離が特に困難であり、容易に脱離させる方法が望まれていた。
【0004】
う蝕治療等の歯科治療では、治療用器具を接着剤により歯質表面に直接固定する治療が広く日常的に行われており、接着は現在の歯科治療の根幹技術だと言える。歯列矯正、仮着、暫間固定など、一時的な接着が必要な歯科治療に用いられることが期待される歯科用接着材は、これらの治療における接着後、任意のタイミングで脱着できることが求められている。このような任意のタイミングで脱着させる技術は、デボンディング・オン・デマンド(Debonding-on-demand)と呼ばれている。しかしながら、矯正用・一般歯科用接着材は、歯質への安定な接着を可能にする4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物(4-META)などの接着性モノマーが1982年に実用化され、40年経った現在も、広く利用されているものの、デボンディング・オン・デマンド機能を有する歯科用接着材は実用化されておらず、任意のタイミングで脱着させる技術は歯科接着の領域では確立されていない。そのため、歯に接着させた矯正用ブラケットなどの歯科材料の脱着は、歯科材料を機械的に剥離することや歯科材料を破壊することによって行われている。これらの機械的剥離や材料破壊においては、歯科材料の除去時における歯質(エナメル質)の損傷を完全に抑制することは困難であるため、非侵襲的な脱着を可能とするデボンディング・オン・デマンド機能を有する歯科用接着材が強く求められている。現在では、脱着性の良い組成の歯科用接着剤が開発され矯正治療では用いられている。しかしながら、強固な接着とデボンディング・オン・デマンド機能を兼ねた接着剤は成分組成の最適化だけでは限界があり、新たな技術を確立することが求められる。
【0005】
ポリロタキサンは、複数の環状分子(回転子:rotator)の開口部に軸分子(軸:axis)が貫通してなる擬ポリロタキサンの両末端(軸分子の両末端)に、環状分子が遊離しないように封鎖基を配置してなる。例えば、環状分子としてα-シクロデキストリン(以降、シクロデキストリンを単に「CD」と略記する場合がある)、軸分子としてポリエチレングリコール(以降、「PEG」と略記する場合がある)を用いたポリロタキサン(特許文献1)は、種々の特性を有することから、その研究が近年、盛んに行われている。
【0006】
少なくとも2つの環状分子の開口部に軸分子が貫通し、前記環状分子が反応性基を有し、且つ、前記軸分子の両末端にブロック基を有してなるポリロタキサンと、前記反応性基と反応し得る官能基を2つ以上有する粘着性高分子を含むことを特徴とする粘着剤組成物が知られている(特許文献2)。この反応性基としては水酸基、カルボキシル基、アミン基が使用され、柔軟性に優れ、かつゲル分率が高く、耐久性のある粘着剤層を有する粘着シート、およびその粘着剤層を構成する粘着剤組成物が提供される。
【0007】
接着層の目的物からの除去や目的物に接着させた対象物の脱離を容易に達成する接着性組成物としては、(A)重合性単量体及び(B)環状分子と、この環状分子を貫通する軸分子と、この軸分子に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、環状分子または軸分子の少なくとも一方に分解性基が導入されており、かつ該分解性基は分解を行うことにより環状分子の開環または軸分子の切断を生じることを特徴とするポリロタキサンを含む接着性組成物が知られている(特許文献3)。特許文献3においては、ニトロベンジル基を軸分子の末端に導入した光分解性ポリロタキサンを歯科用接着剤として使用することが開示されている。光分解性ポリロタキサンを介して架橋された接着剤成分においては、光照射によるポリロタキサンの分解に伴い架橋構造が崩壊するため引張強度が低下し、紫外光照射によって接着強度が有意に低下した。
【0008】
また、複数の環状分子と、末端基を有する1つの線状高分子とを含み、該線状高分子が少なくとも1つの分解性部分を介して連結された少なくとも2つの線状高分子部分を含む、ポリロタキサン化合物が、歯科用接着材として使用されることが知られている(特許文献4)。複数のシクロデキストリン(CD)に重合性官能基を導入した光分解型ポリロタキサンは、架橋剤として働くため、他のモノマーと共重合することによって、簡便に三次元構造体を作製することができること、更にその三次元構造体は紫外線照射によって分解し、機械的強度を減少させることができること、たとえば、歯科材料におけるレジンモノマーとして、このような光分解型ポリロタキサン架橋剤を用いれば、可視光照射によって硬化し、紫外光照射によって分解する歯科用接着材への展開が可能となることが知られている(特許文献4)。特許文献4においては、紫外光で切断されるニトロベンジル基を軸分子の中央に導入した光分解性ポリロタキサンを歯科用接着材として使用することが開示されている。
【0009】
接着層の目的物からの除去や目的物に接着させた対象物の脱離を容易に達成する別の技術としては、加温によって切断される結合を接着剤の架橋成分に導入した材料(非特許文献1)や、電流の印可によって金属間の接着を低下させる技術(非特許文献2)が知られている。なお、デボンディング・オン・デマンド機能を有する接着剤は、歯科分野に限らず現在様々な分野での応用を目的とした研究が勢力的に行われており、主に外部刺激によって物性が変化する材料が利用されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06-025307号公報
【特許文献2】特開2007-224133号公報
【特許文献3】特開2016-89175号公報
【特許文献4】国際公開第2017/191827号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Alexander M. Schenzel, et al. Adv Sci (Weinh). Mar; 3(3): 1500361 (2016)
【非特許文献2】N. Kajimoto et al. Dent. Mater. J. 37, 768 (2018)
【非特許文献3】Chem. Sci. 2021, 12, 15183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1の技術は、80~100℃の加熱が必要であり、非特許文献2の技術は、金属間の接着に限られ、電流印加をしなければならず、成分のイオン液体に毒性があり、いずれも実用性に劣る。熱や電流を印加することは現在の歯科治療では行われていないため、実用に向けては、機器の開発も必要となる。また、特許文献3に記載の軸分子の末端にニトロベンジル基を導入したポリロタキサンや、特許文献4に記載の軸分子の中央にニトロベンジル基を導入したポリロタキサンは、光分解基であるニトロベンジル基が70~90%程度しか導入できず合成が不完全であること、250nmの低波長で分解するものであり光到達深度が浅く光毒性が懸念されることなどの問題があり、また、これらのポリロタキサンの存在下で重合性単量体を重合させて得られた重合体は、分解物が大きいモル吸光係数を示すため紫外光を照射しても完全には分解しないことなどの問題があった。また、特許文献3に記載の軸分子の末端にニトロベンジル基を導入したポリロタキサンは、製造に8工程を要し、特許文献4に記載の軸分子の中央にニトロベンジル基を導入したポリロタキサンは、製造に5工程を要し、いずれも合成に手間がかかるものであった。
【0013】
したがって、本発明は、簡便に合成することができ、光分解基を高効率で導入することができ、これの存在下で重合性単量体を重合させて得られる重合体が比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解する、実用性に優れたポリロタキサンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討したところ、簡便に合成することができる、封鎖基がクマリン誘導体を含むポリロタキサンが、光分解基を高効率で導入することができるものであり、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解するものであり、これの存在下で重合性単量体を重合させて得られる重合体が、360nm程度のなどの比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解するものであり、実用性に優れることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、第1の態様において、環状分子と、前記環状分子を貫通する軸分子と、前記軸分子に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであって、前記封鎖基がクマリン誘導体を含む、ポリロタキサンを提供するものである。
【0016】
また、本発明は、第2の態様において、第1の態様に記載のポリロタキサンと重合性単量体とを含む、接着性組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、第3の態様において、生体硬組織用であることを特徴とする、第2の態様に記載の接着性組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、第4の態様において、歯科用であることを特徴とする、第3の態様に記載の接着性組成物を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、第5の態様において、歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラントの仮着用であることを特徴とする、第4の態様に記載の接着性組成物を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、第6の態様において、第2の態様~第5の態様のいずれか1に記載の接着性組成物からなる、接着材を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、第7の態様において、第2の態様~第5の態様のいずれか1に記載の接着性組成物の硬化体に対して、紫外光を照射する工程を含む、前記硬化体の機械的強度を低下させる方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により提供される新規ポリロタキサンは、簡便に合成することができ、光分解基を高効率で導入することができるものであり、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解するものであり、これの存在下で重合性単量体を重合させて得られる重合体が比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解するものであるため、実用性に優れている。これらが紫外光の照射により分解するのは、本発明により提供されるポリロタキサンに含まれる環状分子の脱離を防止する封鎖基であるクマリン誘導体が紫外光の照射により分解し、軸分子により串刺し状に包接されていた環状分子が軸分子から脱離することが可能となり、本発明により提供されるポリロタキサンの構造が崩壊することによるものと推察される。本発明により提供されるポリロタキサンと重合性単量体とを含む組成物は、本発明により提供されるポリロタキサンの存在下で重合性単量体の重合を生じさせることにより硬化するため、接着性組成物として用いることができる。硬化した前記接着性組成物である前記接着性組成物の硬化体は、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解して、機械的強度が低下して接着強度が低下するため、前記接着性組成物の硬化体を接着させた目的物から任意のタイミングで低侵襲的に脱着させることができる。前記接着性組成物の硬化体は、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解し、生体に対する安全性が高いため、前記接着性組成物は、生体硬組織用であることができ、特に、歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラント仮着用などの歯科用であることができる。光照射は、現在の歯科治療においてはレジンの効果やホワイトニングで日常的に用いられており、既存の歯科用の機器をそのまま使用して行うことができるため、前記接着性組成物は、歯科用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例のポリロタキサンの光吸収特性を示すグラフである。
図2図2は、実施例または比較例のポリロタキサンの光吸収特性を示すグラフである。
図3図3は、可視光または近紫外光を照射した際の実施例または比較例のポリロタキサンの分解効率を示すグラフである。
図4図4は、実施例または参考例のポリロタキサンの存在下で重合性単量体を重合させて得られた硬化体の最大引張応力(破断強度)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、環状分子と、前記環状分子を貫通する軸分子と、前記軸分子に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであって、前記封鎖基がクマリン誘導体を含む、ポリロタキサンを提供する。
【0025】
本発明のポリロタキサンは、比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、1つのポリロタキサン分子に包接状態で存在する環状分子の包接数(繰り返し数)が少なくても自身の分子量が巨大となる。本発明のポリロタキサンにおける「ポリロタキサン」とは、これを踏まえた便宜上の名称であって、2~10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含む。
【0026】
本発明のポリロタキサンにおいて、環状分子は、軸分子により貫通され、貫通された状態のまま当該軸分子を軸として回転、移動可能な状態で、且つ、軸分子に配置された封鎖基により軸分子から脱離しない状態で存在する。なお、本発明のポリロタキサンにおいて、「環状分子」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、環状分子は完全に閉環でなくてもよく、実質的に軸分子から遊離せずに串刺し状を保っていれば、例えば、螺旋構造等であってもよい。
【0027】
環状分子としては、従来公知の環状分子を使用することができる。このような環状分子を例示すると、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン、シクロファン等が挙げられる。
【0028】
環状分子は、本発明のポリロタキサンの1分子中において、1種類だけが包接状態にあってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0029】
環状分子としては、比較的大きな環径を有していて軸分子が串刺し状に貫通し易いことからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、およびクラウンエーテルが好ましく、溶媒中で容易に軸分子により包接されることから、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリン等のシクロデキストリンが特に好ましい。
【0030】
本発明のポリロタキサン1分子における環状分子の個数(包接量:軸分子が貫通している環状分子の個数)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、平均5個~200個が好ましい。また、環状分子の最大包接量を1とすると、本発明のポリロタキサン1分子における環状分子の個数は、0.01~0.95が好ましく、0.02~0.8が更に好ましく、0.05~0.6が特に好ましい。ここで、環状分子の最大包接量は、軸分子の長さと環状分子との厚さにより、決定することができる。なお、軸分子がポリエチレングリコールであり、且つ環状分子がα-シクロデキストリン分子の場合、最大包接量は、実験的に求められている(Macromolecules 1993,26,5698-5703を参照のこと)。環状分子の包接量が少ない場合には、比較的剛直な構造が形成されないために機械的強度の向上効果が不十分となる、または、本発明のポリロタキサン分子同士や本発明のポリロタキサン分子と他の物質との相互作用形成による機械的強度の向上効果や接着性の向上効果が得られ難くなる。また、環状分子の包接量が多い場合には、本発明のポリロタキサンの分子構造が剛直になりすぎ、環状分子が軸分子に包接された状態で軸分子を軸に移動可能である所謂「滑車効果」が発現し難くなり、本発明のポリロタキサン分子同士や本発明のポリロタキサン分子と他の物質との相互作用形成が立体障害により形成され難くなり、機械的強度の向上効果や接着性の向上効果が不十分となる場合がある。
【0031】
本発明のポリロタキサンにおいて、軸分子は、好ましくは、その分子内に、2個以上の環状分子を包接可能な鎖状部分を有する分子である。本発明のポリロタキサンにおける軸分子は、その分子内に、2個以上の環状分子を包接可能な鎖状部分を有しており、該鎖状部分に環状分子が包接されており、またその鎖状部分(環状分子の鎖状部分を軸とした軸方向の移動を許容する部分)の両末端において環状分子が鎖状部分から離脱しないように封鎖基で封鎖されている限りにおいては、軸分子の該鎖状部分以外の部分には、適宜に分岐点を1つ以上有していてもよい。すなわち、本発明のポリロタキサンにおける軸分子は、主鎖に分岐点を持たない軸分子でもよく、2個以上の環状分子を包接可能な鎖状部分を有しているならば、グラフトポリマー、デンドリマーやスターポリマー等の分岐点を1つ以上有するような分岐型分子でもよい。
【0032】
本発明のポリロタキサンにおける軸分子としては、公知のポリロタキサンの構成を適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリメチルビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリペルフルオロオキシプロピレン、オリゴテトラフルオロエチレン、ポリカプロラクタム等が、その構造が単純であり本発明のポリロタキサンの調製が容易であることから好ましい。これらの軸分子は、本発明のポリロタキサン中で2種以上が混在していてもよい。
【0033】
これら軸分子同士を使用して擬ポリロタキサン(鎖状部分の両末端に封鎖基は導入していないが環状分子を軸分子が貫通しているもの)やポリロタキサンを作製した後に、擬ポリロタキサンまたはポリロタキサン分子同士を架橋して得られる架橋ポリロタキサンも、本発明のポリロタキサンとして使用することができる。このような架橋構造は、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子同士を介して架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子と軸分子とを架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの軸分子同士を架橋して形成してもよい。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、本発明のポリロタキサンにおける軸分子として使用することができ、このような鎖状部分を1つ以上有する架橋分子を使用して擬ポリロタキサンを調製し、次いで開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製してもよい。また、複数の環状分子同士を予め共有結合やイオン結合等で連結しておき、それを軸分子で串刺し状に包接して擬ポリロタキサンを調製し、次いで軸分子の開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製してもよい。なお、得られた架橋ポリロタキサンにおいては、環状分子を貫通している軸分子が架橋された構造もまた、本発明のポリロタキサンにおける軸分子と捉えることができる。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、本発明のポリロタキサンにおける軸分子として使用することができる。架橋ポリロタキサンにおいて、架橋結合は、環状分子または軸分子の水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基または光架橋基、およびこれらの任意の組み合わせに係る基による化学結合でも、架橋剤による化学結合であってもよい。
【0034】
本発明のポリロタキサンにおける軸分子の重量平均分子量は、500~1000,000であることが好ましく、特に1000~100,000であることが好ましく、更には2000~50,000であることが好ましい。本発明のポリロタキサンにおける軸分子の重量平均分子量が500未満であると、環状分子の軸分子による包接反応と脱包接反応の速度が拮抗し、包接状態のまま封鎖基を導入することが難しく、合成が困難である。また、本発明のポリロタキサンにおける軸分子の重量平均分子量が1000,000を超えると、ポリロタキサンの溶媒への溶解性が悪く、同じく合成が困難となるおそれがある。また、本発明のポリロタキサンにおける軸分子の重量平均分子量が小さすぎる場合は、機械的強度や接着性の向上効果が得られ難くなる場合があり、本発明のポリロタキサンにおける軸分子の重量平均分子量が大きすぎる場合は、後述する本発明の接着性組成物に含める重合性単量体と本発明のポリロタキサンとのなじみや溶解性、相溶性が低下して高い接着性が得られ難くなる場合がある。なお、ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(以下で「GPC」と略記することがある)を使用して求める。軸分子が水またはアルコール類に溶解性である場合は、ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量として、軸分子が非水溶性である場合は、THF等の溶媒を使用してポリスチレン換算の重量平均分子量として、求めればよい。
【0035】
本発明のポリロタキサンにおける封鎖基は、軸分子の鎖状部分の両末端に配置されて、環状分子が軸分子によって串刺し状に貫通された包接状態を保持できる基であり、鎖状部分の開放末端から環状分子を抜け落とさない基である。本発明のポリロタキサンにおける封鎖基は、クマリン誘導体を含む。クマリン誘導体としては、7-ジエチルアミノクマリンのほか、7-カルボキシメトキシクマリン、7,8-ビスカルボキシメトキシクマリン、7-ジカルボキシメチルミノクマリンが挙げられる(Chemical Society Reviews 2015,44,3358-3377)。7-ジエチルアミノクマリンは、これを用いることで吸収波長が360nm程度まで長波長化し、このような長波長の紫外線により約100%などの高効率で分解することから、好適である。クマリン誘導体は、エステル結合、アミド結合、カルボネート結合、カルバメート結合などのリンカーを介して、本発明のポリロタキサンにおける軸分子の鎖状部分の末端と結合していてもよい。例として、7-ジエチルアミノクマリンにリンカーが結合した化合物の化学式を、以下に示す。化学式中のRが、軸分子の鎖状部分の末端とクマリン誘導体を繋ぐリンカーを示す。クマリン誘導体に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、以下の化学式の構造の7-ジエチルアミノクマリン誘導体が好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
本発明のポリロタキサンは、封鎖基がクマリン誘導体を含めばよく、前記封鎖基の全てがクマリン誘導体でなくてもよいが、好ましくは、封鎖基の実質的な全てがクマリン誘導体である。本発明のポリロタキサンにおいて封鎖基として含まれるクマリン誘導体は、分解性基であり、分解誘起因子である紫外線を作用させれば、分解性基が分解することにより本発明のポリロタキサンの構造が崩壊する。また、本発明のポリロタキサンと後述する重合性単量体を含む接着性組成物を重合させて得られた硬化体も、紫外線を作用させれば、分解性基であるクマリン誘導体が分解することに伴って分解し、該硬化体である接着層の機械的強度の低下や接着界面での接着層の接着性の低下が生じるため、該硬化体である該接着層は容易に脱離することができる。すなわち、封鎖基としてクマリン誘導体を含む本発明のポリロタキサンを用いれば、硬化体である接着層を脱離させたい時に自在に脱離することができる接着性組成物を提供することができる。
【0038】
本発明のポリロタキサンは、重合性単量体との馴染みや相溶性を良くするために、環状分子または軸分子のいずれかまたは両方に、種々の官能基または高分子鎖を含んでもよい。
【0039】
かかる官能基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、アルキル基、トリチル基、トシル基、トリメチルシラン基、フェニル基等が挙げられる。一方、かかる高分子鎖としては、特に限定されるものではないが、例えば、オキシエチレン鎖、アルキル鎖、アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。また、当該高分子鎖は、主鎖または側鎖に水酸基、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、または光架橋基、およびこれらの任意の組み合わせに係る基を有していてもよい。これらの高分子鎖は、ホモポリマーでもコポリマーでもよく、コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマーまたはグラフトコポリマーのいずれであってもよい。本発明のポリロタキサンにおける環状分子がシクロデキストリンである場合等には、シクロデキストリンの水酸基に、種々の官能基または高分子鎖を導入してもよい。
【0040】
本発明のポリロタキサンは、環状分子および軸分子の少なくとも一方に重合性基を含むものであってもよい。このような重合性基を含む本発明のポリロタキサンの存在下で本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を重合させた場合には、前記の本発明のポリロタキサンが、前記の重合性単量体と共重合する。その場合、前記の重合性基を含む本発明のポリロタキサン同士の間での重合も生じる。特に、本発明のポリロタキサンに複数の重合性基が導入されている場合には、本発明の接着性組成物の硬化体中で前記本発明のポリロタキサンが架橋点となり、本発明の接着性組成物の硬化体の機械的強度を更に高める、または本発明の接着性組成物の硬化体の機械的強度の一部または全部を前記ポリロタキサンの架橋構造に担わせることができる場合がある。または、例えば、本発明の接着性組成物が、被着対象物に対して接着性を有する重合性単量体(例えば、酸性基含有メタアクリレート、イオウ原子含有メタアクリレートまたはカップリング性基含有メタアクリレート等)を含み、必要に応じて、その他の重合性単量体を含む場合等では、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて本発明の接着性組成物を硬化させ、接着界面において被着対象物の接着をした後には、接着界面近傍では、被着対象物と、被着対象物に対して接着性を有する重合性単量体と、本発明のポリロタキサンと、必要に応じて含められたその他の重合性単量体とが化学結合により一体化するため、本発明のポリロタキサンも、本発明の接着性組成物の接着性の発現に寄与する。特に、このように本発明の接着性組成物の機械的強度の向上効果または接着性発現効果の一部または全部に本発明のポリロタキサンが直接関与する場合には、本発明のポリロタキサンにおける封鎖基であるクマリン誘導体の分解後には本発明のポリロタキサンの構造が崩壊するため、前記の機械的強度の向上効果または接着性発現効果が大きく直接的に失われることから、接着性の低減効果が大きく得られ、好適である。
【0041】
本発明のポリロタキサンが環状分子および軸分子の少なくとも一方に含んでもよい重合性基としては、従来公知の重合性基が挙げられる。特に、本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合は、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基などの(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基;アリール基;スチリル基や、(メタ)アクリルアミド基などが、その生体為害性が少ないことから、好適に使用することができる。本発明のポリロタキサンは、複数種類の重合性基を含むものであってもよい。
【0042】
本発明のポリロタキサンの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、5000~60000程度であることが好ましい。本発明のポリロタキサンが重合性基を含む場合、重合性基を含む本発明のポリロタキサンの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、5000~120000程度であることが好ましい。
【0043】
本発明のポリロタキサンにおける好ましい環状分子は、シクロデキストリン類であり、特にα-シクロデキストリンが好ましい。
【0044】
本発明のポリロタキサンの製造方法を以下に説明する。本発明のポリロタキサンのポリロタキサンは、公知の方法に従って製造することができる。例えば、公知の製法(特開2011-46917号公報、特開2012-25923号公報)に従って製造することができる。本発明のポリロタキサンの製造方法は、より詳細には、例えば、以下のように行うことができる。まず、軸分子と環状分子を合成して、入手する。次いで、一般的には、軸分子と環状分子を、それらが共通に溶解する溶媒中で、溶解状態で混合する。これにより、分子間力や親水疎水性等の相互作用により、溶液中で環状分子は軸分子により包接され、擬ポリロタキサンが生成する。この際の反応時間や濃度を適宜に設定することにより、擬ポリロタキサンの1分子における環状分子の個数(包接量)を変えることができる。例えば、分子量数千から数万のポリエチレングリコールとα-シクロデキストリンを蒸留水中に溶解して数分~数時間撹拌すると、ポリエチレングリコールがα-シクロデキストリンを包接した擬ポリロタキサンが析出する。擬ポリロタキサンが溶媒に不溶化する場合は、該擬ポリロタキサンをろ過や遠心分離により洗浄、回収する。また、擬ポリロタキサンが溶媒に可溶であれば、透析や限外濾過により洗浄、回収する。得られた擬ポリロタキサンを必要に応じて溶媒に再溶解する等した後、擬ポリロタキサンの軸分子の鎖状部分の開放末端に封鎖性基であるクマリン誘導体を導入し、必要に応じて未反応試薬等を透析や限外濾過により精製、除去して本発明のポリロタキサンを得る。本発明のポリロタキサンが官能基、高分子鎖または重合性基を含む場合には、得られたこの本発明のポリロタキサンに、更に必要に応じて官能基、高分子鎖または重合性基を導入すること、架橋反応させること等をすることにより、官能基、高分子鎖または重合性基を含む本発明のポリロタキサンを得る。
【0045】
本発明は、前記の本発明のポリロタキサンと重合性単量体とを含む接着性組成物を提供する。以下、本発明の接着性組成物について、まず、重合性単量体から説明する。
【0046】
本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体は、本発明のポリロタキサンの存在下で、付加重合、重付加反応、重縮合反応、付加縮合等の重合反応により重合体(通常、本発明の接着性組成物中の他成分を含む重合体)を形成させて、本発明の接着性組成物を硬化させることにより、本発明の接着性組成物の硬化体が得られる。本発明の接着性組成物の硬化体は、例えば、接着層を形成する。前記の重合反応としては、連鎖重合、逐次重合、リビング重合等の従来公知の重合反応が挙げられる(高分子合成、古川淳二著、化学同人、1986年参照)。本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体は、例えば、重合性不飽和基、開環重合性基、重縮合性基等の従来公知の重合性基を分子中に少なくとも一つ有するものであり、従来公知の接着性組成物において使用されている従来公知の重合性単量体は、制限なく、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体として、使用することができる。本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体は、例えば、熱、重合開始剤、ガンマ線、電解、プラズマ等の作用により重合を開始する。
【0047】
本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体に生じる付加重合としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、開環重合等が挙げられる。
【0048】
本発明の接着性組成物に含める付加重合を生じる重合性単量体としては、従来公知のビニルモノマー(CH=CHXまたはCH=C(-R)Xの構造を有し、XはNO、CN、COOR’、-C(=O)R’、-SOR’、F、Cl、Br、OCH、OC(=O)R’、NR’R’’等から選択され、ここでR、R’、R’’は任意の置換基)またはビニリデンモノマー(CH=C(-X)Yの構造を有し、XとYは同じであっても異なっても良く、NO、CN、COOR’、-C(=O)R’、-SOR’、F、Cl、Br、OCH、OC(=O)R’、NR’R’’等から選択され、ここでR、R’、R’’は任意の置換基)、環状エーテル、ビニルエーテル等が挙げられる。具体例としては、イソブチルビニルエーテル、メチルビニルスルフィド、N-ビニルカルバゾール、イソプレン、プロピレン、酢酸ビニル、エチレン、ニトロエチレン、メチレンマロン酸メチル、α-シアノアクリル酸エチル、α-シアノソルビン酸エチル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸メチル、メチルビニルケトン、アクリロニトリル、アクリルアミド、無水マレイン酸、ビニリデンシアニド、スチレン、ジオレフィン、アルキレンオキシド、ラクタム、ビニルエーテル、環状エーテル、2,3-ジクロロブタジエン、イソブチルビニルエーテル、m-ジビニルベンゼン、エチルビニルサルファイド、フェニルビニルサルファイド、N-ビニルカルバゾール、ラクトン、α-メチルスチレン、イソプレン、エチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、1-ビニルナフタレン、t-ブチルビニルサルファイド、ブタジエン、p-メチルスチレン、イソブテン、フッ化ビニル、フマル酸ビニル、p-ビニルフェノール、5-エチル-ビニルピリジン、オキサゾリン、アルデヒド、エチレンオキシド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、トリオキサン、ノルボルネン、シロキサン、ホスファゼン等が挙げられる。
【0049】
本発明の接着性組成物に含める重合性単量体に生じる重合反応としては、重付加反応が挙げられる。本発明の接着性組成物に含める重合性単量体に生じる重付加反応としては、アルコール類(R-OH、Rは任意の置換基)、アミン類(H-N(-R)(R’’)、RおよびR’’は任意の置換基)、メルカプタン(H-S-R、Rは任意の置換基)などの活性水素化合物が二重結合や三重結合に付加する反応、エポキシ、アジリジン、ラクトン、ラクタム等の開環重合性単量体の開環重合する官能基にアルコール、アミン、メルカプタンが開環付加する反応、シクロ付加(共役二重結合へのジエンを利用したシクロ付加を利用する方法等が挙げられる。本発明の接着性組成物に含める重付加反応を生じる重合性単量体としては、例えば、ポリウレタン類の合成に使用されるトリレンジイソシアナートやトリジンジイソシアナート等のジイソシアナート類、アダクトポリイソシアナート類、イソシアナート2量体、イソシアナート3量体基等のイソシアナート多量体類と、グリセリンやトリメチロールプロパンやペンタエリスリトールやショ糖等の多価アルコール類や多価カルボン酸類が挙げられる。また、本発明の接着性組成物に含める重付加反応を生じる重合性単量体としては、ポリ尿素の合成に使用されるジイソシアナート類とジアザビジクロウンンデセンやトリエチレンジアミン等のジアミン類もまた、挙げられる。本発明の接着性組成物に含める重付加反応を生じる重合性単量体としては、ビスケテン、ビスカルボジイミド、ビスマレイミド、ジチオール、メルカプタン類(HS(CH)nSH)、ビスアクリルアミド、ビスアクリルエステル、エピクロロヒドリン、ビスフェノールA等も、挙げられる。
【0050】
本発明の接着性組成物に含める重合性単量体に生じる重合反応としては、重縮合反応が挙げられる。本発明の接着性組成物に含める重縮合反応を生じる重合性単量体としては、例えば、ポリエステルの合成に使用するジメチルテレフタラート等のジカルボン酸類とエチレングリコール等のジオール類、ポリカーボネートの合成に使用されるビスフェノールAとホスゲン、ポリスルホンやポリベンジルの合成原料、フェノール樹脂やアミノ樹脂やキシレン樹脂の合成原料であるフェノール、尿素、メラミン、キシレン、ホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0051】
また、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体としては、各種カップリング剤や無機ポリマーの合成原料である各種シラン化合物も、挙げられる。
【0052】
本発明の接着性組成物に含める重合性単量体は、単独で、または二種類以上を混合して、用いることができる。
【0053】
本発明の接着性組成物が骨用、爪用、歯科用等の生体硬組織用である場合は、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体自体の生体為害性や、該重合性単量体を重合反応させる場合に必要に応じて併用する重合開始剤の生体為害性を考慮し、また、比較的穏やかな条件で重合させて硬化させることができることも考慮すると、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基等を重合性基として有する単量体を使用することが好適である。
【0054】
このような、本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合(特には、口腔内で使用することを考慮して本発明の接着性組成物が歯科用である場合)に、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体として好適な重合性単量体を例示すると、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2-メタクリロキシエチルアセトアセテート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の単官能性のもの、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基を2つ以上有する脂肪族系のもの;2,2-ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を2つ以上有する芳香族系のもの;メチルα-シアノアクリレート、エチルα-シアノアクリレート、プロピルα-シアノアクリレート、ブチルα-シアノアクリレート、シクロヘキシルα-シアノアクリレート等のアルキルおよびシクロアルキルα-シアノアクリレート系のもの;アリルα-シアノアクリレート、メタリルα-シアノアクリレート、シクロヘキセニルα-シアノアクリレート等のアルケニルおよびシクロアルケニルα-シアノアクリレート系のもの;プロパンギルα-シアノアクリレート等のアルキニルα-シアノアクリレート系のもの;フェニルα-シアノアクリレート、トルイルα-シアノアクリレート等のアリールα-シアノアクリレート;メトキシエチルα-シアノアクリレート、エトキシエチルα-シアノアクリレート等のアルコキシα-シアノアクリレート;フルフリルα-シアノアクリレート等の複素環基を有するα-シアノアクリレート;トリメチルシリルメチルα-シアノアクリレート、トリメチルシリルエチルα-シアノアクリレート、トリメチルシリルプロピルα-シアノアクリレート、ジメチルビニルシリルメチルα-シアノアクリレート等のシリル基を有するα-シアノアクリレート系のもの;11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2-メタクリイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基含有(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性基含有(メタ)アクリレート系単量体;ω-メタクリロイルオキシヘキシル2-チオウラシル-5-カルボキシレート等のイオウ原子含有(メタ)アクリレート、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング性基含有(メタ)アクリレート;ジアセトンアクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド基を含有しているもの;スチレン、α-メチルスチレン誘導体類;トリメチレンオキサイド、3-メチル-3-オキセタニルメタノール、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等のオキセタン環を有するもの;ジグリセロールポリジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコール-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等のエポキシ化合物;アジリジン化合物、アゼチジン化合物、エピスルフィド化合物、環状アセタール、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、環状カーボネート、スピロオルトカーボネート、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0055】
本発明の接着性組成物に含める重合性単量体は、生体硬組織用として重合性を更に高める目的から、重合性基を2つ以上有することが好ましい。生体硬組織用である本発明の接着性組成物に含める重合性単量体は、重合性が高く生体為害性が低いことから、特に(メタ)アクリレート系の重合性単量体が、好ましい。また、生体硬組織用である、特に、歯科用である、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体として好適な重合性単量体としては、生体硬組織、中でも特に歯(エナメル質および象牙質)、更には、生体硬組織の治療時に近接または接着して存在するセラミクスや金属(特には非貴金属)への接着性が高いことから、酸性基含有メタアクリレートが挙げられ、また、生体硬組織の治療時に近接または接着して存在する貴金属への接着性が高いことから、イオウ原子含有メタアクリレートが挙げられ、また、生体硬組織の治療時に近接または接着して存在するセラミクスや有機無機複合材料への接着性が高いことから、カップリング性基含有メタアクリレートが挙げられる。
【0056】
本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体は、例えば、熱、重合開始剤、ガンマ線、電解、プラズマ等の作用により重合を開始させることができる。
【0057】
このような重合を開始させる方法は、特に限定されず、従来公知の重合開始方法が採用される。例えば、熱重合、ガンマ線重合、電解重合、プラズマ重合においては、実用上十分な重合度が得られるまで、好適には、初期せん断接着試験力が0.5MPa以上の必要な値になるまで、適宜に設定した条件(温度、照射強度、通電量や電圧、時間)の加熱、ガンマ線照射、通電、プラズマ照射が行われる。
【0058】
このような重合を開始させるためには、重合開始剤を使用することもでき、従来公知のラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、重付加反応、重縮合反応、カップリング反応、無機合成ポリマー合成等に使用される従来公知の重合開始剤を使用することができる(高分子合成、古川淳二著、化学同人、1986年参照)。このような重合開始剤として、ラジカル重合開始剤を例示すると、クメンペルオキシド、第三ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物、Fenton試薬(過酸化水素/Fe2+)、過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン、ヒドロペルオキシド/メルカプタン等のレドックス開始剤、アルキルホウ素、ハロゲン化アルキル/金属(Fe、Co、Ni、Cu)、Mnアセチルアセトナート、ヨードニウム塩やスルホニウム塩等の光重合開始剤が挙げられる。アニオン重合開始剤としては、K、Na、Li等の金属、SrR、CaR、KR、NaR、LiRとのアルキル金属類、ROK、RONa、ROLi等のアルコラート類、強アルカリ、ピリジン等のアミン類、水等が挙げられる。カチオン重合のためには、BF、SnCl、EtAlCl、ZnCl、EtZn等のルイス酸、また、特開2005-187545公報に開示されたカチオン重合開始剤を使用することができる。チーグラー法やチーグラーナッタ法に使用される開始剤(TiClとEtAl等)も使用することができる。
【0059】
本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合は、生体に対する為害性が低い、または重合反応条件が穏やかであることから、アニオン重合開始剤または以下の光重合に用いられるラジカル重合開始剤が好適に使用される。すなわち、生体硬組織用である本発明の接着性組成物に好適に使用される、光重合に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0060】
なお、光重合に用いられるラジカル重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などが挙げられる。
【0061】
また、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体の重合のために使用することができる重合開始剤としては、熱重合開始剤が挙げられ、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0062】
本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体の重合のために使用することができる重合開始剤としては、化学重合開始剤が挙げられ、化学重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤として、有機過酸化物/アミン類、有機過酸化物/アミン類/有機スルフィン酸類、有機過酸化物/アミン類/アリールボレート類、アリールボレート類/酸性化合物、アリールボレート類/酸性化合物/有機過酸化物、アリールボレート類/酸性化合物/遷移金属化合物およびバルビツール酸誘導体/銅化合物/ハロゲン化合物等の各種組み合わせからなるものが挙げられ、アニオン重合開始剤として、ピリジン等のアミン類、水等が挙げられる。
【0063】
これらの重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。光重合開始剤と化学重合開始剤とを組み合わせて、デュアルキュア型とすることもできる。
【0064】
(その他の任意配合成分)
本発明の接着性組成物は、更に、必要に応じてその他の任意配合成分を含むことができる。例えば、本発明の接着性組成物は、接着性組成物の色調を調製するための顔料、蛍光顔料、染料等の色材、アミン等のpH調整剤等の安定化剤、石英、沈降シリカ、沈降ジルコニア、沈降チタニア、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物類等の無機粒子またはポリアルキルメタクリレート等の有機粒子等の強度調節剤、本発明の接着性組成物に溶解するポリマーやフュームドシリカ等の粘度調節剤、各種塩類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等の有機溶剤や水等の溶媒、各種香料、各種抗菌剤、各種薬効成分、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の各種重合禁止剤、各種酸化防止剤等を含んでもよい。本発明の接着性組成物は、特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、好ましくは、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジターシャリーブチルフェノール等の重合禁止剤を少量含む。
【0065】
本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量と重合性単量体の配合量は、特に限定されないが、本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が、0.1質量部~1000質量部であることが好ましく、1質量部~800質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部~500質量部の範囲内であることが最も好ましい。本発明の接着性組成物において、本発明のポリロタキサンの配合量が少なすぎる場合は、封鎖性基であるクマリン誘導体の分解による接着性の低減効果が発現し難くなる。本発明の接着性組成物は、本発明のポリロタキサンの配合量が本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して1000質量部を超えると、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体との馴染みが極端に低下し、接着材として扱い難くなるおそれがある。
【0066】
本発明の接着性組成物に含める重合性単量体を重合させるために本発明の接着性組成物に重合開始剤を配合する場合、その配合量は、有効量であれば特に制限は無いが、本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量は、本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましく、0.1~20質量部であるのがより好ましい。
【0067】
本発明の接着性組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の接着性組成物の製造方法を利用すればよい。すなわち、本発明の接着性組成物は、例えば、本発明の接着性組成物に含める前述の重合性単量体と本発明のポリロタキサンを、必要に応じて、本発明の接着性組成物に含めるその他の成分とともに、混合することにより製造することができる。本発明の接着性組成物が重合開始剤を含み、重合開始剤が光重合開始剤の場合には、一般的には、遮光下にて、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混練することで、本発明の接着性組成物を製造することができる。
【0068】
本発明の接着性組成物は、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を、本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて本発明の接着性組成物を硬化させることにより、硬化前の本発明の接着性組成物より機械的強度の高い、本発明の接着性組成物の硬化体を得ることができ、高い接着性を得ることができる。前記硬化体は、例えば、接着層とすることができる。したがって、本発明の接着性組成物は、対象物を目的物に接着することや、目的物に接着層を形成することのために用いることができる。
【0069】
本発明の接着性組成物を硬化させて本発明の接着性組成物の硬化体を得た際であっても、本発明のポリロタキサンは、封鎖基として含まれるクマリン誘導体が、好ましくは、実質的に未分解の状態で、すなわち、通常70%以上、好ましくは80%以上が未分解の状態で、前記本発明の接着性組成物の硬化体中に存在する。このような本発明の接着性組成物の硬化体中に存在する本発明のポリロタキサン自体もまた、超高分子化合物として本発明の接着性組成物の硬化体の強度維持および向上に寄与する。これは、(1)本発明のポリロタキサンが比較的剛直な分子であるために機械的強度の向上に寄与すること、(2)本発明のポリロタキサンの分子間相互作用や、本発明のポリロタキサンと本発明の接着性組成物に含まれる他の成分との相互作用や、あるいは本発明の接着性組成物の硬化体が接着する目的物や対象物の接着界面と本発明のポリロタキサンとの相互作用等により、接着界面での接着性が向上すること、または(3)本発明の接着性組成物を硬化させた後に得られる接着層(硬化層)などの本発明の接着性組成物の硬化体の機械的強度が向上することによる。なお、前記の各相互作用は、なじみ性、濡れ性、ファンデルワールス力、水素結合、イオン結合、共有結合等の物理的な、または化学的な相互作用や結合を生じることによる。
【0070】
本発明の接着性組成物は、接着させる目的物や対象物の表面に適用された後に、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて、本発明の接着性組成物を硬化させて、本発明の接着性組成物の硬化体を得て、使用する。この使用において、硬化の後には、例えば、目的物や対象物の表面に固体状の接着層(硬化層)が生じ、本発明の接着性組成物の硬化体が、目的物や対象物に対して接着することとなる。本発明の接着性組成物は、1つの目的物の表面に接着層(硬化層)などの本発明の接着性組成物の硬化体を形成させて使用してもよい。または、本発明の接着性組成物は、各々少なくとも1つ以上の目的物と対象物の相互の接着のために、該各々少なくとも1つの目的物と対象物の間に適用して重合を生じさせて硬化させて、該各々少なくとも1つの目的物と対象物を接着するように使用してもよい。この後者の使用の場合、本発明の接着性組成物は、該各々少なくとも1つの目的物と対象物のそれぞれに対して接着性を有することとなる。
【0071】
本発明の接着性組成物が接着性を有する目的物や対象物としては、従来公知の材質からなる従来公知の加工品や天然物が挙げられる。このような材質の例としては、各種金属、金属合金、セラミクス、木材、陶材、ガラス、プラスチック、有機無機複合材料、歯や爪や骨等の生体硬組織、皮等のタンパク質、多糖、岩塩等の無機塩、砂糖等の糖質、貝殻等の各種天然無機物、宝飾品等の金属酸化物等の無機物、シリコーンゴムや天然ゴム等のゴム類等が挙げられる。
【0072】
本発明の接着性組成物は、吸着、粘着、合着(主として物理的勘合による)、化学的接着(主として化学結合により結合する)、またはこれらの組合せによる物理的・化学的相互作用により目的物や対象物に対して接着性を有する。本発明の接着性組成物は、特に、以下に定義される接着性を有することが好適である。すなわち、本発明の接着性組成物は、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて本発明の接着性組成物を硬化させて、本発明の接着性組成物の硬化体を得て、例えば、接着層(硬化層)を形成せしめるものであるから、その目的と効果を考慮すると、容易に除去が可能である粘着性よりも高い接着性(合着性)が好ましい。すなわち、本発明の接着性組成物が有する好適な接着性としては、本発明の接着性組成物を接着させる目的物や対象物と同じ材質の平板(目的物の形状や大きさによっては適宜に切断、研磨、或いは樹脂包埋したもの)を準備し、その目的物や対象物の表面をP600の耐水研磨紙を用いて平面状に研磨し研磨面を調製し、必要に応じてその研磨面を前処理剤で処理し、その上に直径2~5mm、高さ2~5mmの円柱状のモールドを置き、そのモールド内に本発明の接着性組成物を、気泡を含まないように充填し、その後、重合を生じさせて本発明の接着性組成物を硬化させて接着試験片を得る。その後、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を使用してせん断接着試験を行う。その際に、0.5MPa以上、好ましくは2MPa以上、特に好ましくは5MPa以上の初期せん断接着試験力が得られる場合に、本発明の接着性組成物が目的物や対象物に好適な接着性を有すると定義する。なお、粘着性しか有さない組成物の場合は、通常、0.5MPa未満の初期せん断接着試験力を示す(例えば市販の両面テープで直径3mm、高さ3mmのプラスチック製ロッドを粘着した場合のせん断接着試験力は0.5MPa未満である)。なお、耐水研磨紙での研磨ができない材質の目的物や対象物においては、別の研磨手段を使用してP600と同等の表面粗さになるよう研磨する。また、実使用下においてP600よりも大きな表面粗さで使用される目的物や対象物については、実使用下の表面粗さにて初期せん断接着試験を行ってもよい。また、例えば、目的物や対象物が不織布のような繊維状である等のように、研磨が困難な目的物や対象物については、実使用下の状態にて初期せん断接着試験を行ってもよい。
【0073】
後記の実施例に示すとおり、本発明のポリロタキサンは、紫外光の照射により分解する。また、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて本発明の接着性組成物を硬化させて得た本発明の接着性組成物の硬化体は、紫外光の照射により分解し、機械的強度が低下し、接着性が低下する。したがって、前記本発明の接着性組成物の硬化体を用いた接着は、前記硬化体に対して紫外光を照射することにより、接着性を低下させることができる。
【0074】
すなわち、本発明は、本発明の接着性組成物の硬化体に対して、紫外光を照射する工程を含む、前記硬化体の機械的強度を低下させる方法を提供する。例えば、本発明の接着性組成物の硬化体である接着層を目的物から除去する場合や、本発明の接着性組成物の硬化体により目的物に接着させた対象物を目的物から脱離させる場合には、前記硬化体に対して、紫外光を照射することにより、前記硬化体を分解し、前記硬化体の機械的強度を低下させ、前記硬化体の接着性を低下させればよい。前記硬化体が紫外光の照射により分解するのは、本発明のポリロタキサンに含まれる環状分子の脱離を防止する封鎖基であるクマリン誘導体が、紫外光を照射することにより分解し、軸分子により串刺し状に包接されていた環状分子が軸分子から脱離することが可能となり、ポリロタキサンの構造が崩壊することによるものと推察される。前記のように封鎖基であるクマリン誘導体の分解によりポリロタキサン構造が崩壊した場合には、比較して低分子量の環状分子(または環状分子が開環した結果生じる直鎖状の分子や低分子量化合物)が独立して(包接状態ではなく)存在する状態となる。この場合には、前述した本発明のポリロタキサンが比較的剛直な分子であるために得られていた機械的強度の向上効果や、本発明のポリロタキサンの分子間相互作用や本発明のポリロタキサンと本発明の接着性組成物に含まれる他成分との相互作用、或いは本発明の接着性組成物を使用して接着させる目的物や対象物と本発明のポリロタキサンとの相互作用による接着界面での接着性の向上効果や、本発明の接着性組成物を硬化させた後に得られる接着層の機械的強度の向上効果が失われ、或いは本発明のポリロタキサンが溶媒に対し不溶性である場合であって、環状分子(または環状分子が開環した結果生じる直鎖状の分子や低分子量化合物)が溶媒に対する溶解性を示す場合には、接着層中の環状分子が溶解して接着層から流出する等して、接着界面における接着性の低下や前記接着層の機械的強度が低下する。その結果、接着性を低下せしめることが達成され、本発明の接着性組成物に重合を生じさせて硬化させて得られた前記接着層を目的物から容易に除去することができる、または、対象物を目的物から容易に脱離することができる。なお、ここで、容易に除去や脱離できるようになることは、例えば、以下のように調べることができる。すなわち、前述した初期せん断接着試験力の測定と同じ方法で調製した目的とする硬化体である接着試験片に、紫外光を所定時間、所定の方法や条件で照射する。その後に、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を使用してせん断接着試験を行い、紫外光照射後せん断接着試験力を調べる。その際に、紫外光照射後せん断接着試験力を初期せん断接着試験力で除した値(せん断接着試験力低減効果)が0.9以下、好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下になる場合に、前記目的とする硬化体を容易に除去や脱離できると判定する。
【0075】
本発明により提供される前記硬化体の機械的強度を低下させる方法において、本発明の接着性組成物の硬化体に対して照射する紫外光の波長は、特に限定はないが、例えば、320~400nmの近紫外光の照射は、生体に対する安全性の高さと、前記硬化体の接着性の十分な低下を両立することができ、好ましい。
【0076】
本発明により提供される前記硬化体の機械的強度を低下させる方法において、本発明の接着性組成物の硬化体に対して紫外光を照射する時間は、例えば、2~30分である。当該紫外光を照射する時間が、2分未満であると、硬化体の分解が不十分という問題があり、当該紫外光を照射する時間が、30分を超えると、ポリロタキサンが完全に分解するため力学特性のさらなる変化が生じないという問題がある。
【0077】
本発明の接着性組成物は、一般工業界、医療、土木、日常生活等の様々な用途に使用することができる。本発明の接着性組成物は、例えば、液状のもの、ゲル状のもの、ワックス状のもの、固形状で溶解して使用するもの等の種々の性状のものを、1つの組成からなる態様にて、または複数の組成からなる態様にて、使用することができる。
【0078】
本発明の接着性組成物が1つの組成からなる態様である場合は、本発明の接着性組成物を目的物に塗布し、必要に応じて本発明の接着性組成物に含まれる溶媒を乾燥除去し、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させて、本発明の接着性組成物を硬化させて、本発明の接着性組成物の硬化体を得て、例えば、接着層を形成することができる。あるいは、本発明の接着性組成物を、複数の目的物に塗布し、必要に応じて本発明の接着性組成物に含まれる溶媒を乾燥除去し、複数の目的物を圧着し、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を本発明のポリロタキサンの存在下で重合させ、本発明の接着性組成物を硬化化させて、本発明の接着性組成物の硬化体を得て、接着層を形成することで、該複数の目的物同士を接着することができる。
【0079】
本発明の接着性組成物が複数の組成からなる態様である場合としては、以下のような例が挙げられる。例えば、重合性単量体と本発明のポリロタキサンとを含む本発明の接着性組成物が、前処理剤(プライマー)と接着剤とからなり、該前処理剤および接着剤のいずれか少なくとも一方に前記重合性単量体と本発明のポリロタキサンが分包または共存している場合には、まず、前処理剤で目的物の表面を処理する。次に、本発明の接着性組成物が、前処理材に重合性単量体を含む場合は、必要に応じて該重合性単量体を重合させて、次いで、接着剤を適用して、必要に応じて他の目的物を圧着する。本発明の接着性組成物が、該接着剤に前記重合性単量体を含む場合は、該重合性単量体を必要に応じて重合させる。また、例えば、重合性単量体と本発明のポリロタキサンとを含む本発明の接着性組成物が複数の接着剤からなり、該複数の接着剤のいずれか少なくとも一方に前記重合性単量体と本発明のポリロタキサンが分包または共存している場合には、該複数の接着剤を順次目的物に塗布し(この時に順次塗布した複数の接着剤層を別々に順次硬化させてもよい。)、または複数の接着剤を予め混合してから目的物に塗布し、必要に応じて他の目的物を圧着し、必要に応じて前記重合性単量体を重合させて、本発明の接着性組成物を硬化させて、接着層を形成する。本発明の接着性組成物は、1種以上の前処理剤と1種以上の接着剤からなる接着性組成物であってもよい。
【0080】
本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体を重合させて本発明の接着性組成物を硬化させて得られた本発明の接着性組成物の硬化体は、それ自体が目的物に対する接着性を有することから、本発明の接着性組成物は、接着材として使用することができる。すなわち、本発明は、本発明の接着性組成物からなる接着材を提供する。
【0081】
本発明の接着性組成物からなる接着材としては、例えば、複数の目的物同士の接着剤、目的物のコート材、シール材、絶縁層や断熱層等の層形成材、前処理剤等の接着層形成材(例えば、この接着層の上に、更に別の目的物や別の接着層を、本発明の接着性組成物や従来公知の接着剤を用いて、接着または形成する。)、凹部の充填修復材や穴埋め材(例えば、クラック、傷、穴等を本発明の接着性組成物で充填修復、穴埋めする。)、凸部形成材や盛り付け材(例えば、本発明の接着性組成物を目的物の表面に塗布、盛り付けて重合を生じさせて硬化させ、本発明の接着性組成物の硬化体からなる構造物を形成する。)が挙げられる。
【0082】
本発明の接着性組成物からなる接着材の例としては、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体としてのα-シアノアクリレートと、本発明のポリロタキサンを含む、液状またはゲル状である接着材が挙げられ、このような本発明の接着性組成物からなる接着材は、大気中の水分やOH基またはアミノ基等を含有する化合物等の重合開始剤と接触混合することにより、本発明の接着性組成物に含まれる重合性単量体が本発明のポリロタキサンの存在下で重合して、本発明の接着性組成物が硬化するため、比較的短時間に(数秒~数分後に)接着性を発現する。
【0083】
後述する実施例に示すとおり、本発明の接着性組成物の硬化体は、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解するため、本発明の接着性組成物は、生体に対する安全性を確保しつつ使用することができる。また、前述のとおり、本発明の接着性組成物は、重合性単量体を含み、接着性が高いものの、紫外線の照射による本発明の接着性組成物の分解によりその接着性を低減することができることから、目的物からの接着層の除去や、目的物に接着させた対象物の撤去を、目的物へのダメージを低減しつつ、容易に行うことができる。したがって、本発明の接着性組成物は、特に、生体硬組織用であることができ、歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラントの仮着用などの歯科用であることができる。すなわち、本発明の接着性組成物は、骨用、爪用、歯科用等の生体硬組織用である接着性組成物として好適である。特には、二次う蝕等で惰弱化した歯からの接着層の除去や被着対象物の撤去が容易に行えて歯質へのダメージが低減できることから、本発明の接着性組成物は、歯科用の接着性組成物であることが特に好ましい。更には、特に、歯列矯正時には清掃が困難となり歯列矯正用ブラケットの周辺に二次う蝕を生じやすく、歯列矯正用ブラケットの撤去時に歯牙を痛めるリスクを低減できることから、本発明の接着性組成物は、歯列矯正用ブラケットの接着用である接着性組成物として特に好適に使用することができる。歯列矯正用ブラケットの接着においては、矯正治療の経過に応じてデボンド(ブラケットの撤去)とリボンド(ブラケットの再装着)を繰り返す場合もあり、その観点からも、このような使用は特に好適な態様となる。また、本発明の接着性組成物は、インプラント上部構造体の仮着用として使用した場合は、インプラント周辺の清掃目的で該上部構造体を撤去する必要がある場合に、該上部構造体を破壊することなくまた額骨に過剰な力を加えることなく撤去が可能である。そのため、本発明の接着性組成物は、特に、インプラント上部構造体等のインプラントの仮着用である接着性組成物としても、特に好適に使用することができる。
【0084】
以下、主に、生体硬組織用である本発明の接着性組成物について説明する。
【0085】
生体硬組織用である本発明の接着性組成物において、接着の対象となる生体硬組織としては、骨、爪、歯(エナメル質や象牙質)等が挙げられる。これらの組成は、ハイドロキシアパタイト等の無機成分とコラーゲン等のタンパク質を主成分としている。したがって、本発明の生体硬組織用である接着性組成物は、骨、爪、歯等に共通して使用することができるものであってもよい。
【0086】
本発明の接着性組成物は、例えば、生体硬組織と被着対象物である他の物品(金属(金銀パラジウム合金、銀合金、チタン合金等)、プラスチック(ポリアルキルメタクリレート製やポリエステル製やポリアミド製の固形状物)、有機無機複合材料、セラミクス(陶材、アルミナやジルコニア等の金属酸化物系セラミクス)やハイドロキシアパタイト等の無機材料、別の生体硬組織等を材質とする、修復物、治具、矯正用具、器具、詰め物、保定具、ワイヤー、ネジ、固定具等の物品)との接着剤、生体硬組織や前記他の物品のコート材、生体硬組織や前記他の物品のシール材、生体硬組織や前記他の物品の絶縁層や断熱層等の層形成材、生体硬組織や前記他の物品の前処理剤等の接着層形成材(例えば、この接着層の上に、更に別の目的物や別の接着層を、本発明の接着性組成物や従来公知の接着剤を用いて、接着または形成する。)、生体硬組織や前記他の物品の凹部の充填修復材や穴埋め材(例えば、生体硬組織や前記他の物品のクラック、傷、穴等を本発明の接着性組成物で充填修復、穴埋めする。)、生体硬組織や前記他の物品の凸部形成材や盛り付け材(例えば、本発明の接着性組成物を生体硬組織や前記他の物品の表面に塗布、盛り付けて重合を生じさせて硬化させ、本発明の接着性組成物の硬化体からなる構造物を形成する。)などの接着材として使用することができる。
【0087】
骨、爪、歯等の生体硬組織と金属、プラスチック、有機無機複合材料、セラミクスやハイドロキシアパタイト等の無機材料等の材質からなる物品とを接着させる場合には、生体硬組織用である本発明の接着性組成物が、これら材質への接着性を有することが好ましい。この目的において、生体硬組織用である本発明の接着性組成物に含める重合性単量体として、SH基等のイオウ原子含有重合性単量体等を使用すれば、貴金属への接着性が得られ;生体硬組織用である本発明の接着性組成物に含める重合性単量体として、酸性基含有重合性単量体を使用すれば、非貴金属やセラミクスや有機無機複合材料への接着性が得られ;生体硬組織用である本発明の接着性組成物に含める重合性単量体として、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング性基含有重合性単量体を使用すれば、有機無機複合材料やセラミクスへの接着性が得られ;生体硬組織用である本発明の接着性組成物に有機溶媒を含めて表面を膨潤させれば、プラスチックへの接着性が得られる。合性基を本発明のポリロタキサンに導入して接着性を高める方法は、好適である。
【0088】
特には、歯の再生が現在の技術力では困難であることに鑑み、一度ダメージを受けた歯を元の状態に戻すことができないことを考慮すると、安全なデボンドができるという観点から、生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、前述のとおり、歯科用の接着性組成物であることが好適であり、特には、前述のとおり、歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラントの仮着用であることが特に好ましい。
【0089】
-生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)-
生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、骨、爪、歯等の生体硬組織に対する接着性を有しており、重合を生じさせて硬化させて生体硬組織の被着面上に接着層を形成することができ、一般的には、該接着層自体がコート層またはシール層として機能するので、例えば、該接着層を形成させた歯牙を外部刺激から保護する(知覚過敏抑制)目的や、爪の審美性向上や傷をつきにくくするといった目的等に使用することができる。
【0090】
生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部~500質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部~250質量部の範囲内であることがより好ましく、3質量部~200質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が0.5質量部未満であると、本発明のポリロタキサンの構造の分解後の接着層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が500質量部を超えると、粘度が高くなりすぎる等して当該生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)の操作性に影響が出る可能性がある。
【0091】
また、生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、重合開始剤を含むと、比較的穏和な条件下で早く重合が生じて硬化するため好適であり、この場合、当該本発明の接着性組成物に配合する該重合開始剤の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部~20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部~15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部~10質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が0.001質量部以上であることにより、重合する際の重合硬化性を高めることが可能となる。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が20質量部以下であることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
【0092】
生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、前記重合性単量体、本発明のポリロタキサンおよび重合開始剤以外にも、必要に応じてその他の成分を更に配合させることができる。例えば、生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には、歯科用コート材または歯科用シール材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、水(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常1~200質量部)、有機溶剤(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常5~800質量部)、重合禁止剤またはシリカやフュームドシリカ等の無機粒子または有機粒子等の強度調節剤(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常1~50質量部)などを必要に応じて配合させてもよい。
【0093】
-生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)-
生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材(歯科用接着層形成材は、歯科用ボンディング材として使用される場合がある。))として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、骨、爪、歯等の生体硬組織に対する接着性を有しており、重合を生じさせて硬化させて生体硬組織の被着面上に接着層を形成することができる。
【0094】
生体硬組織用である本発明の接着性組成物を、生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)として使用して、生体硬組織の被着面上に接着層を形成させる場合には、一般的には、該接着層上には更に別の硬化性材料が接着される。例えば、該接着層は表面未重合層を有しているため、この表面未重合層を利用して重合して硬化する別の材料(重合硬化性材料)を重合させて硬化させると、該接着層に該重合硬化性材料が一体として硬化し接着する。また、生体硬組織用である本発明の接着性組成物を、生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)として使用して、生体硬組織の被着面上に接着層を形成させる場合には、他の接着性発現機構により、硬化する他の材料(硬化性材料)が適用され、硬化させられる等してもよい。
【0095】
生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部~500質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部~250質量部の範囲内であることがより好ましく、3質量部~200質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が0.5質量部未満であると、本発明のポリロタキサンの構造の分解後の接着層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が500質量部を超えると、粘度が高くなりすぎる等して当該生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)の操作性に影響が出る可能性がある。
【0096】
また、生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)として使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、重合開始剤を配合させると比較的穏和な条件下で早く重合が生じて硬化するため好適であり、該重合開始剤の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部~20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部~15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部~10質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が0.001質量部以上であることにより、重合する際の硬化性を高めることが可能となる。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が20質量部以下であることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
【0097】
生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)として使用する生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、前記重合性単量体、本発明のポリロタキサンおよび重合開始剤以外にも必要に応じてその他の成分を更に配合させることができ、例えば、水(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常1~200質量部)、有機溶剤(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常5~800質量部)、重合禁止剤またはシリカやフュームドシリカ等の無機粒子または有機粒子等の強度調節剤(当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、通常1~50質量部)などを必要に応じて配合させてもよい。
【0098】
-歯科用接着性レジンセメント-
生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、歯科用接着性レジンセメントとして使用してもよい。ここで、歯科用接着性レジンセメントは、自己接着性レジンセメントであっても、歯科用接着性レジンセメントを後述する歯科用接着性プライマーと組み合わせた歯科用接着性レジンセメントキットであってもよい。生体硬組織用である本発明の接着性組成物を、歯科用接着性レジンセメントを歯科用接着性プライマーと組み合わせた歯科用接着性レジンセメントキットとして使用する場合には、歯科用接着性レジンセメントと歯科用接着性プライマーの両方またはいずれか一方が、本発明の接着性組成物に含める重合性単量体を含み、かつ、歯科用接着性レジンセメントと歯科用接着性プライマーの両方またはいずれか一方が、本発明のポリロタキサンを含んでいればよい。
【0099】
歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、1質量部~250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部~150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部~100質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が1質量部未満であると、ポリロタキサン構造分解後の接着層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が100質量部を超えると、当該歯科用接着性レジンセメントの操作性に影響が出る可能性がある。
【0100】
また、歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部~20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部~15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部~10質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が0.001質量部以上であることにより、重合を生じさせて硬化をさせることが容易となる。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する重合開始剤の配合量が20質量部以下であることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。なお、生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、歯科用接着性レジンセメントとして使用する際、デュアルキュア型とするために化学重合開始剤と光重合開始剤を併用するものであってもよい。
【0101】
歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、重合性単量体、本発明のポリロタキサンおよび重合開始剤以外にも、必要に応じてその他の成分を更に配合させることができる。例えば、歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、前述した有機粒子および無機粒子等の充填剤、水、重合禁止剤、紫外線吸収剤または含硫黄化合物などを必要に応じて配合させてもよい。特に、歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、有機粒子および無機粒子等の充填剤を配合させることによって、当該本発明の接着性組成物の硬化物の機械的強度を確保し、更には操作性を高くすることができる。歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する充填材の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、1質量部~250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部~150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部~100質量部の範囲内であることが最も好ましい。また、歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、水を配合させることによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する水の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部~15質量部の範囲内であることが好ましく、0.5質量部~10質量部の範囲内であることがより好ましく、1質量部~7質量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0102】
また、歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、通常、保管時には第一成分と第二成分とから構成され、使用時には第一成分と第二成分とを混合して使用される。ここで、第一成分および第二成分の形態は、液体状あるいはペースト状のいずれであってもよいが、通常は、双方共にペースト状であることが、特に好ましい。
【0103】
歯科用接着性レジンセメントとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物が、前述したように、保管時には第一成分と第二成分とから構成され、使用時には第一成分と第二成分とを混合して使用される場合には、当該本発明の接着性組成物を構成する各構成材料は、全種類の構成材料が、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において含まれていればよい。すなわち、第一成分は、当該本発明の接着性組成物を構成する全種類の構成材料のうち、一部の種類の構成材料を含んでもよく、全種類の構成材料を含んでもよい。この点は、第二成分についても同様である。更に、同じく、当該本発明の接着性組成物が、保管時には第一成分と第二成分とから構成され、使用時には第一成分と第二成分とを混合して使用される場合には、当該本発明の接着性組成物を構成する各構成材料の配合量は、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において満たされていればよい。なお、この場合の各構成材料の配合量は、当該本発明の接着性組成物が歯科用接着性レジンセメントとして使用される場合において、予め定められている第一成分と第二成分との混合比(使用上の混合比)に従って混合した場合の配合量を意味する。ここで、「使用上の混合比」は、当該本発明の接着性組成物が歯科用接着性レジンセメントとして市販されている市販製品である場合において、当該市販製品の使用説明書や製品説明書等に示される混合比(製造元や販売元が推奨する混合比)を意味する。なお、使用上の混合比に関する情報は、製品に添付された使用説明書や製品説明書等に記載されたもの以外にも、郵送されるものや、電子メールで配信されるものや、製造元や販売元のwebページ上で提供されるものなどでもよい。
【0104】
-歯科用接着性プライマー-
生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、歯科用接着性プライマー(セルフエッチングプライマー)として使用することができる。歯科用接着性プライマーとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、重合させて硬化させることにより、プライマー層を形成する。
【0105】
歯科用接着性プライマーとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、1質量部~250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部~150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部~100質量部の範囲内であることが最も好ましい。当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が1質量部未満であると、本発明のポリロタキサンの構造の分解後のプライマー層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、当該本発明の接着性組成物に配合する本発明のポリロタキサンの配合量が100質量部を超えると、プライマーの操作性に影響が出る可能性がある。
【0106】
歯科用接着性プライマーとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、前述した有機粒子および無機粒子等の充填剤、水、重合禁止剤、紫外線吸収剤または含硫黄化合物などを必要に応じて配合させてもよい。特に、歯科用接着性プライマーとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物は、水を配合させることによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。歯科用接着性プライマーとして使用される生体硬組織用である本発明の接着性組成物に配合する水の配合量は、当該本発明の接着性組成物に配合する重合性単量体100質量部に対して、1質量部~200質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部~180質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部~150質量部の範囲内であることが最も好ましい。
【実施例0107】
実施例1:7-ジエチルアミノクマリン封鎖型ポリロタキサンの合成
α-シクロデキストリンを16.9g測り取り、超純水116.1mLに溶解させた。両末端にアミノ基を有するPEG(数平均分子量10000)を3.38g測り取り、超純水13.5mLに溶解させた。PEG水溶液をα-シクロデキストリン水溶液に滴下し、24時間、室温で撹拌した。反応により生じた沈殿物を遠心分離により回収し、2日間凍結乾燥を行うことで擬ポリロタキサンを14.6g得た。擬ポリロタキサンをナス型フラスコに加え、減圧と窒素添加を繰り返し、反応容器内が窒素雰囲気となるように置換した。他のナス型フラスコに炭酸(7-ジエチルアミノクマリン-4-イル)メチル4-ニトロフェニルを1.39g測り取り、窒素雰囲気下で脱水N,N-ジメチルホルムアミドを100mLとN,N-ジイソプロピルエチルアミンを5.85mL加えて溶解した。本溶液を窒素雰囲気下で擬ポリロタキサンに加え、遮光下、室温で24時間撹拌した。反応後、遠心分離により沈殿物を回収した。沈殿物にジメチルスルホキシドを加えて撹拌し、超純水を加えて遠心分離し、沈殿物を再び回収した。本操作を繰り返すことで未反応物や遊離のしているα-シクロデキストリンを除去した。沈殿物を凍結乾燥し、7-ジエチルアミノクマリン封鎖ポリロタキサン(以下、PRX-DEACMと略する。)を8.37g得た。ポリエチレングリコールのモル換算で計算した収率は47.2%であった。
実施例1のポリロタキサンは封鎖基として7-ジエチルアミノクマリン誘導体を導入していることから、7-ジエチルアミノクマリン誘導体で封鎖された生成物のみを回収することができるため、ポリロタキサン中の7-ジエチルアミノクマリン誘導体導入率は理論上100%である。
図1は、Avance III 400MHz(Bruker BioSpin社製)を用いてジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略する。)-d中でPRX-DEACMの核磁気共鳴スペクトル(H NMR)を測定した結果である。図1の結果より、光分解基である7-ジエチルアミノクマリン誘導体の芳香環に由来するピークが6.55、6.70、7.44ppmに見られたことよりポリロタキサンへの導入が確認され、その導入率は約100%であることが確認された。
このように、実施例1のポリロタキサンは、光分解基を高効率で導入することができた。
また、H NMRスペクトルより計算したPRX-DEACMのα-シクロデキストリン貫通数は43.7であり、数平均分子量は53000であった。
【0108】
実施例2:光分解性PRX-DEACM架橋剤の合成
4.0gのPRX-DEACMをナス型フラスコに測り取り、窒素置換を行った。本フラスコに70mLの脱水ジメチルスルホキシドを窒素雰囲気下で加え、PRX-DEACMを溶解させた。他のナス型フラスコに1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを1.48g測り取り、窒素置換を行った。本フラスコに10mLの脱水ジメチルスルホキシドを窒素雰囲気下で加えた。PRX-DEACM溶液に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン溶液、メタクリル酸2-イソシアナトエチルを0.465mL、イソシアン酸ブチルを9.18mL順次加え、遮光下、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量3500の透析膜を用いてジメチルスルホキシドに対して透析を2日間、超純水に対して2日間行った。沈殿物を回収し、凍結乾燥することでメタクリロイル基およびn-ブチル基で修飾されたPRX-DEACM架橋剤(以下、MB-PRX-DEACMと略する。)を6.60g得た。収率は77.9%であった。
H NMRスペクトルより計算したMB-PRX-DEACM中のメタクリロイル基修飾数は38.3、n-ブチル基修飾数は446、数平均分子量は103000であった。
このように実施例2のポリロタキサンは、ポリロタキサンの合成から架橋可能な修飾体の合成までに3工程しか要さず、簡便に合成することができた。
【0109】
参考例1:非分解性アダマンタン封鎖型ポリロタキサンの合成
実施例1に記載の方法と同様に擬ポリロタキサンを調製し、ナス型フラスコに加えた。他のナス型フラスコに1-アダマンタンカルボン酸を1.42g、BOP試薬を3.48g加え、120mLの脱水N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた。本フラスコにN,N-ジイソプロピルエチルアミンを1.35mL加えて撹拌した。本溶液を擬ポリロタキサンに加え、室温で24時間撹拌した。反応後、遠心分離により沈殿物を回収した。沈殿物にジメチルスルホキシドを加えて撹拌し、超純水を加えて遠心分離し、沈殿物を再び回収した。本操作を繰り返すことで未反応物や遊離のしているα-シクロデキストリンを除去した。沈殿物を凍結乾燥し、アダマンタン封鎖ポリロタキサン(以下、PRX-Adと略)を8.36g得た。ポリエチレングリコールのモル換算で計算した収率は38.0%であった。
H NMRスペクトルより計算したPRX-Adのα-シクロデキストリン貫通数は47.2であり、数平均分子量は56200であった。
【0110】
参考例2:非分解性PRX-Ad架橋剤の合成
1.0gのPRX-Adをナス型フラスコに測り取り、窒素置換を行った。本フラスコに18mLの脱水ジメチルスルホキシドを窒素雰囲気下で加え、PRX-Adを溶解させた。他のナス型フラスコに1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを0.38g測り取り、窒素置換を行った。本フラスコに2mLの脱水ジメチルスルホキシドを窒素雰囲気下で加えた。PRX-Ad溶液に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン溶液、メタクリル酸2-イソシアナトエチルを0.118mL、イソシアン酸ブチルを2.34mL順次加え、遮光下、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量3500の透析膜を用いてジメチルスルホキシドに対して透析を2日間、超純水に対して2日間行った。沈殿物を回収し、凍結乾燥することでメタクリロイル基およびn-ブチル基で修飾されたPRX-Ad架橋剤(以下、MB-PRX-Adと略する。)を1.54g得た。収率は87.1%であった。
H NMRスペクトルより計算したMB-PRX-Ad中のメタクリロイル基修飾数は18.4、n-ブチル基修飾数は403、数平均分子量は99000であった。
【0111】
比較例1
既報(ACS Macro Letters 2015,4,1154-1157)に従い、4-(ブロモメチル)-3-ニトロ安息香酸を炭酸ナトリウムと60℃で2時間反応させることで4-ヒドロキシメチル-3-ニトロ安息香酸を合成し、これと両末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(数平均分子量10000)を4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドの存在下、室温で24時間反応させることで、ポリエチレングリコールの両末端に導入した。これとクロロ蟻酸4-ニトロフェニルを一晩反応させ、引き続きエチレンジアミンを24時間、室温で反応させることでニトロベンジル基を両末端に導入したポリエチレングリコールを得た。生成物とα-シクロデキストリンを蒸留水中で室温、24時間反応させ、生成物を凍結乾燥することで擬ポリロタキサンを得た。擬ポリロタキサンとN-ベンジルオキシカルボニル-L-チロシンを4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドの存在下、室温で24時間反応させることで、目的のニトロベンジル基を両末端に有するポリロタキサン(以下、PRX-NBと略する。)を得た。
次に、比較例1のポリロタキサンにおける光分解基であるニトロベンジル基の導入率を、H NMRの方法により調べたところ、約70%であった。
次に、参考例1と同様の手順でメタクリロイル基およびn-ブチル基を化学修飾したPRX-NB(以下、MB-PRX-NBと略する。)を合成した。
このように比較例1のポリロタキサンは、ポリロタキサンの合成から架橋可能な修飾体の合成まで8工程を要した。
【0112】
比較例2
既報(ACS Applied Pokymer Materials 2020,2,5756-5766)に従い、2-ニトロ-p-キシリレングリコールと1,1′-カルボニルジイミダゾールを室温で2時間反応させることで活性化させ、得られた生成物と両末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(数平均分子量10000)をテトラヒドロフラン中で室温、24時間反応させることで多量化させた。その後、透析により単量体を除去し、多量体のみを回収した。ニトロベンジル基を含有したポリエチレングリコール多量体をα-シクロデキストリンを蒸留水中で室温、24時間反応させ、生成物を凍結乾燥することで擬ポリロタキサンを得た。擬ポリロタキサンと1-カルボキシアダマンタンを4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドの存在下、室温で24時間反応させることで、目的のニトロベンジル基を軸高分子中に有するポリロタキサン(以下、iNB-PRXと略する。)を得た。
次に、比較例2のポリロタキサンにおける光分解基であるニトロベンジル基の導入率を、H NMRにより調べたところ、約90%であった。
次に、参考例1と同様の手順でメタクリロイル基およびn-ブチル基を化学修飾したiNB-PRX(以下、MB-iNB-PRXと略する。)を合成した。
このように比較例2のポリロタキサンは、ポリロタキサンの合成から架橋可能な修飾体の合成まで5工程を要した。
【0113】
試験例1
実施例2および比較例1のポリロタキサン架橋剤をアセトニトリルに溶解させ、吸収スペクトルを分光光度計V-550(日本分光社製)で測定した。
結果を図2に示す。図2に示すように、実施例2の光分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-DEACM)は、7-ジエチルアミノクマリンに由来する吸収を376nmに示した。一方、比較例1の光分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-NB)の最大吸収波長は271nmである。このように、実施例2のポリロタキサンは、比較例1のポリロタキサンよりも分解に必要な光の波長が長波長となっている。
【0114】
試験例2
実施例2および比較例1のポリロタキサン架橋剤をジメチルスルホキシドに溶解させ、波長が465nmである可視光(光源:Moritex社製MDBL-CB100、最大波長 465nm、放射照度 44.5mW/cm)または波長が365nmである近紫外光(光源:Moritex社製MBRL-CUV7530-2、最大波長 365nm、放射照度 7.03mW/cm)を照射したときの各ポリロタキサンの量の経時変化をGPCの方法により確認した。ポリロタキサンの分解率は、紫外可視吸収検出器で得たピーク面積より定量した。
結果を図3に示す。図3に示すように、実施例2の光分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-DEACM)は、波長が465nmである可視光の照射によっては、ほとんど分解されないものの、波長が365nmである近紫外光を20分間照射することによって、ほぼ完全に分解された。これは、比較例1の光分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-NB)が、波長が365nmである近紫外光の照射によっては、60分を経過しても40%ほどしか分解されていないこととは対照的である。このように、実施例1のポリロタキサンは、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射であっても、分解するものであった。
【0115】
試験例3
架橋剤としての実施例2の光分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-DEACM)を10重量%、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を88重量%、開始剤としてカンファーキノンとメタクリル酸ジエチルアミノエチルをそれぞれ1重量%ずつ混合し、PTFEモールド(JIS 7型、厚み 0.5mm)に流し込み、可視光(光源:光源:Moritex社製MDBL-CB100)を2分間照射し重合を生じさせ、その後一晩静置することで硬化体を得た。
これと同様の方法により、参考例2の非分解性ポリロタキサン架橋剤(MB-PRX-Ad)を用いて、参考例2についても、硬化体を得た。
引張試験の方法により、実施例2についての硬化体と参考例2についての硬化体のそれぞれにつき、最大引張応力(破断強度)を調べた。引張試験は、EZ-SX(島津製作所社製)を用いて評価し、破断面の面積より最大引張応力を計算した。
結果を図4に示す。図4に示すとおり、参考例2についての硬化体は、5分間の波長365nmの近紫外光の照射によっても、最大引張応力(破断強度)は有意な変化がなかったのに対して、実施例1についての硬化体は、5分間の波長365nmの近紫外光の照射により引張応力が約50%有意に低下した。
このように、従来は254nmとエネルギーがより高い波長の光照射が必要であったが、実施例2のポリロタキサンの存在下で重合性単量体を重合させて得られる硬化体は、比較的高い波長の毒性の低い紫外光照射により分解することが分かった。


図1
図2
図3
図4