(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042789
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】直流電流遮断装置
(51)【国際特許分類】
H01H 33/59 20060101AFI20240322BHJP
H01H 9/54 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H01H33/59 D
H01H9/54 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147623
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】萬年 智介
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】磯部 高範
【テーマコード(参考)】
5G028
5G034
【Fターム(参考)】
5G028AA06
5G028AA22
5G028FB06
5G028FC01
5G034AA01
5G034AA07
5G034AA09
(57)【要約】
【課題】半導体スイッチに流れる電流による損失を低減する。
【解決手段】直流電流遮断装置は、直流電流を遮断する接点を有する機械スイッチと、ドレイン端子とソース端子とゲート端子とを有し、機械スイッチに並列に接続されて、接点に流れるべき直流電流をバイパスさせた第2電流の少なくとも一部の電流である第3電流が、接点が解放された状態においてドレイン端子とソース端子との間に流れる半導体スイッチと、接点が解放されてから半導体スイッチが第3電流を遮断するまでの時間である遮断遅延時間のうち、第1期間においてゲート端子に供給するゲート電圧を減少させながら半導体スイッチを駆動する第1状態と、第1期間よりも後の第2期間において第1状態よりもゲート電圧の減少速度を早くして半導体スイッチを駆動することにより半導体スイッチを遮断する第2状態とによって、半導体スイッチの動作状態を制御するスイッチ制御回路と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流を遮断する接点を有する機械スイッチと、
ドレイン端子とソース端子とゲート端子とを有し、前記機械スイッチに並列に接続されて、前記接点に流れるべき前記直流電流をバイパスさせた第2電流の少なくとも一部の電流である第3電流が、前記接点が解放された状態において前記ドレイン端子と前記ソース端子との間に流れる半導体スイッチと、
前記接点が解放されてから前記半導体スイッチが前記第3電流を遮断するまでの時間である遮断遅延時間のうち、第1期間において前記ゲート端子に供給するゲート電圧を減少させながら前記半導体スイッチを駆動する第1状態と、前記第1期間よりも後の第2期間において前記第1状態よりも前記ゲート電圧の減少速度を早くして前記半導体スイッチを駆動することにより前記半導体スイッチを遮断する第2状態とによって、前記半導体スイッチの動作状態を制御するスイッチ制御回路と、
を備える直流電流遮断装置。
【請求項2】
前記スイッチ制御回路は、
前記遮断遅延時間よりも大きい時定数を有する容量素子と抵抗素子との組によるCR回路と、前記CR回路への電流の流れ込みを制御するノーマリーオン型のスイッチ素子を備え、
前記第1状態において、前記第2電流の一部が前記CR回路に流れ込むことによる充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動し、
前記第2状態において、前記スイッチ素子をオフ状態にして前記CR回路への電流の流れ込みを停止することにより、前記半導体スイッチを遮断させる
請求項1に記載の直流電流遮断装置。
【請求項3】
前記スイッチ素子は、
前記第1状態において、前記充電曲線に基づく電圧が所定のしきい値電圧を超える場合に、オフ状態にされて前記CR回路への電流の流れ込みを停止する
請求項2に記載の直流電流遮断装置。
【請求項4】
前記スイッチ制御回路は、
充電された電圧に応じて第1時定数と前記第1時定数よりも時定数が小さい第2時定数とに時定数が変化する容量素子と抵抗素子との組によるCR回路を備え、
前記第1状態において、前記第1時定数による前記CR回路に前記第3電流が流れることによる第1充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動し、
前記第2状態において、前記第2時定数による前記CR回路に前記第3電流が流れることによる第2充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動する
請求項1に記載の直流電流遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電流遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械接点に流れる電流を半導体スイッチに転流させることにより、機械接点が解放される際のアークの発生を抑制しつつ、直流電流を遮断する直流電流遮断装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術においては、半導体スイッチのゲート端子に十分大きなゲート電圧をかけない場合には、半導体スイッチに流れる電流による損失が比較的大きいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、半導体スイッチに流れる電流による損失を低減しつつ、機械接点におけるアークの発生を抑制することができる直流電流遮断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、直流電流を遮断する接点を有する機械スイッチと、ドレイン端子とソース端子とゲート端子とを有し、前記機械スイッチに並列に接続されて、前記接点に流れるべき前記直流電流をバイパスさせた第2電流の少なくとも一部の電流である第3電流が、前記接点が解放された状態において前記ドレイン端子と前記ソース端子との間に流れる半導体スイッチと、前記接点が解放されてから前記半導体スイッチが前記第3電流を遮断するまでの時間である遮断遅延時間のうち、第1期間において前記ゲート端子に供給するゲート電圧を減少させながら前記半導体スイッチを駆動する第1状態と、前記第1期間よりも後の第2期間において前記第1状態よりも前記ゲート電圧の減少速度を早くして前記半導体スイッチを駆動することにより前記半導体スイッチを遮断する第2状態とによって、前記半導体スイッチの動作状態を制御するスイッチ制御回路と、を備える直流電流遮断装置である。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、上述の直流電流遮断装置において、前記スイッチ制御回路は、前記遮断遅延時間よりも大きい時定数を有する容量素子と抵抗素子との組によるCR回路と、前記CR回路への電流の流れ込みを制御するノーマリーオン型のスイッチ素子を備え、前記第1状態において、前記第2電流の一部が前記CR回路に流れ込むことによる充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動し、前記第2状態において、前記スイッチ素子をオフ状態にして前記CR回路への電流の流れ込みを停止することにより、前記半導体スイッチを遮断させる。
【0008】
また、本発明の一実施形態は、上述の直流電流遮断装置において、前記スイッチ素子は、前記第1状態において、前記充電曲線に基づく電圧が所定のしきい値電圧を超える場合に、オフ状態にされて前記CR回路への電流の流れ込みを停止する。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、上述の直流電流遮断装置において、前記スイッチ制御回路は、充電された電圧に応じて第1時定数と前記第1時定数よりも時定数が小さい第2時定数とに時定数が変化する容量素子と抵抗素子との組によるCR回路を備え、前記第1状態において、前記第1時定数による前記CR回路に前記第3電流が流れることによる第1充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動し、前記第2状態において、前記第2時定数による前記CR回路に前記第3電流が流れることによる第2充電曲線に基づく電圧を前記ゲート端子に印加することにより前記半導体スイッチを駆動する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、半導体スイッチに流れる電流による損失を低減しつつ、機械接点におけるアークの発生を抑制できる直流電流遮断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の直流電源システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】直流電流遮断装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図3】直流電流遮断装置の動作の一例を示す図である。
【
図4】直流電流遮断装置の遮断開始前における等価回路の一例を示す図である。
【
図5】直流電流遮断装置の遮断開始時における等価回路の一例を示す図である。
【
図6】直流電流遮断装置の半導体スイッチの導通期間における等価回路の一例を示す図である。
【
図7】直流電流遮断装置のスイッチ素子の遮断期間における等価回路の一例を示す図である。
【
図8】本実施形態の半導体スイッチのIV特性の一例を示す図である。
【
図9】3種類の半導体スイッチのIV特性の一例を示す図である。
【
図10】従来の直流電流遮断装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[技術の背景]
パワーデバイスや電力変換器の進歩により、直流配電が注目されている。例えば、データセンタやマイクログリッドにおける低電圧直流配電は、従来の交流配電と比較して、高効率化、機器の小型化・低コスト化、信頼性の向上を実現できる。
直流電流は自然な電流零点を持たないため、機械式遮断器では直流電流遮断によるアークを自然消弧することが困難である。そのため、直流遮断器には電流の電流零点を発生させるアーク消弧設備(アーク消弧システム)が必要になる。例えば、低電圧システム用の一般的な気中直流遮断器では、接点間で発生したアークを電磁作用で動かし、消弧板にぶつけることでアーク電圧をシステム電圧より高い電圧にし、電流を遮断する。このような方式であると、直流遮断器は大型化され、使用回路が限定される傾向にある。これらの問題を解決しつつ、直流電流のアークレス遮断を実現するために、遮断器の電流遮断に半導体スイッチを採用する研究が多く行われている。これらの研究には、大きく分けて半導体遮断器(SSCB;Solid-State Circuit Breaker)と、ハイブリッド遮断器(HCB;Hybrid Circuit Breaker)の2つの方式がある。
【0013】
動作電流が常に半導体スイッチに流れるSSCBは、超高速電流遮断が可能である。しかし、一般に半導体スイッチは、機械式スイッチに比べてオン抵抗が大きい。このため、SSCBは、通常の通電時の電流が半導体スイッチに流れるため、電力損失が大きいという問題がある。一方、HCBは、通常の通電には機械式スイッチを用い、電流遮断には半導体スイッチを用いているため、SSCBに比べて電力損失が非常に小さい。HCBの遮断動作は、機械式スイッチから半導体スイッチに電流を転流(バイパス)させ、機械式スイッチの絶縁を確保した後に半導体スイッチをオフにして遮断を完了する。しかし,HCBは機械式スイッチと半導体スイッチとの協調制御などの構成が複雑であり、信頼性低下やコストアップにつながるため、低電圧直流系統への適用は実用上の課題があった。
【0014】
そこで、半導体スイッチの制御を必要としないゲート制御レスHCBが提案されている。ゲート制御レスHCBは、半導体スイッチのゲート端子を受動部品を介して主回路に接続する構造により、ゲート電圧を自動生成して動作させることができる。この方式は、複雑な協調制御を必要とせず、低電圧システム用HCBを実現できる。しかし、このゲート制御レスHCBでは、電流の転流と遮断が同時に生じる。この動作は、半導体損失が大きく、また、遮断時にアーク放電が再起する確率が高くなるため、実用化には至っていない。
【0015】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の直流電源システム1の構成の一例を示す図である。直流電源システム1は、直流電流遮断装置10と、直流電源20と、負荷30とを備える。
直流電源20は、所定の電圧を供給する直流電圧源である。負荷30は、直流電力が供給される任意の負荷デバイスである。
直流電流遮断装置10は、直流電源20から負荷30に供給される直流電流を遮断する。
【0016】
直流電流遮断装置10は、入力端子101と、出力端子102とを備える。
入力端子101は、直流電源20に接続され、直流電源20から供給される直流電流が入力される。以下の説明において、入力端子101を介して直流電流遮断装置10に入力される直流電流のことを、入力電流Iinとも称する。
出力端子102は、負荷30に接続される。出力端子102は、直流電流遮断装置10が非遮断状態(つまり、導通状態)の場合に、負荷30に対して直流電流を出力する。
【0017】
直流電流遮断装置10は、機械スイッチ110と、半導体スイッチ120と、スイッチ制御回路130とを備える。
【0018】
機械スイッチ110は、一端が第1接続点103を介して入力端子101に接続され、他端が第2接続点104を介して出力端子102に接続される。機械スイッチ110は、入力電流Iinを遮断する機械式の接点を有する。機械スイッチ110は、接点の接続・解放によって、非遮断状態と遮断状態とを切り替える。機械スイッチ110は、非遮断状態において、直流電源20から供給された入力電流Iinを、出力端子102から出力させる。
機械スイッチ110の接点は、不図示の外部装置によって接続・解放が制御される。一例として、機械スイッチ110の接点は、人間が操作する機械式レバーによって接続・解放されてもよいし、遠隔制御されたアクチュエータによって接続・解放されてもよい。
【0019】
半導体スイッチ120は、ドレイン端子121と、ソース端子122と、ゲート端子123とを有する。ドレイン端子121は、第3接続点105および第1接続点103を介して入力端子101に接続される。ソース端子122は、第4接続点106および第2接続点104を介して出力端子102に接続される。ゲート端子123は、スイッチ制御回路130の第3端子133に接続される。ゲート端子123は、半導体スイッチ120の導通状態を制御する。
すなわち、半導体スイッチ120は、入力端子101と出力端子102との間に、機械スイッチ110に並列に接続される。
【0020】
半導体スイッチ120は、機械スイッチ110の接点に流れるべき入力電流Iin(直流電流)をバイパスさせた電流が、ドレイン端子121とソース端子122との間に流れる。
以下の説明において、機械スイッチ110の接点が解放された状態(つまり、遮断状態)である場合に、機械スイッチ110に並列接続された半導体スイッチ120に入力電流Iinを流すことを「入力電流Iinをバイパスさせる」ともいう。入力電流Iinをバイパスさせた電流のことを、バイパス電流iBともいう。
より詳細には、バイパス電流iBは、第3接続点105において、半導体スイッチ120に流れる半導体スイッチ電流isemと、スイッチ制御回路130に流れる充電電流icrとに分流される。半導体スイッチ120には、バイパス電流iBのうちの半導体スイッチ電流isemが流れる。つまり、半導体スイッチ電流isemは、バイパス電流iBの少なくとも一部の電流である。
【0021】
すなわち、半導体スイッチ120は、機械スイッチ110の接点に流れるべき入力電流Iinをバイパスさせたバイパス電流iB(第2電流)の少なくとも一部の電流である半導体スイッチ電流isem(第3電流)が、機械スイッチ110の接点が解放された状態においてドレイン端子121とソース端子122との間に流れる。
【0022】
スイッチ制御回路130は、第1端子131と、第2端子132と、第3端子133とを備える。第1端子131は、第3接続点105に接続される。第2端子132は、第4接続点106に接続される。第3端子133は、半導体スイッチ120のゲート端子123に接続される。
【0023】
スイッチ制御回路130は、第3端子133からの出力電圧によって半導体スイッチ120のゲート端子123を制御することにより、半導体スイッチ120のドレイン端子121とソース端子122との間の導通状態を制御する。
機械スイッチ110の接点が解放されると、スイッチ制御回路130は、半導体スイッチ120のドレイン端子121とソース端子122との間を導通状態にする。この結果、ドレイン端子121とソース端子122との間に半導体スイッチ電流isemが流れる。
これと並行して、スイッチ制御回路130は、第3接続点105から供給される充電電流icrに基づいて所定の遮断遅延時間の経過を判定する。ここで、遮断遅延時間とは、機械スイッチ110の接点が解放されてから半導体スイッチ120が半導体スイッチ電流isemの遮断を開始するまでの時間である。遮断遅延時間が経過すると、スイッチ制御回路130は、半導体スイッチ120のドレイン端子121とソース端子122との間を非導通状態にする。この結果、半導体スイッチ電流isemが流れなくなり、直流電流遮断装置10は入力電流Iinの遮断を完了する。
【0024】
より具体的には、スイッチ制御回路130は、第1状態と、第2状態とによって、半導体スイッチ120の遮断を完了させる。第1状態とは、ゲート端子123に供給するゲート電圧を減少させながら半導体スイッチ120を駆動する状態である。第2状態とは、第1状態よりもゲート電圧の減少速度を早くして半導体スイッチ120を駆動することにより半導体スイッチ120を遮断する状態である。遮断遅延時間のうち、第1状態の期間を第1期間TM1ともいい、第2状態の期間を第2期間TM2ともいう。
【0025】
なお、以下の説明において、第1期間TM1のことを、半導体スイッチ120の導通時間TONともいう。また、第2期間TM2のことを、半導体スイッチ120のターンオフ時間TTOともいう。
【0026】
すなわち、スイッチ制御回路130は、機械スイッチ110の接点が解放されてから半導体スイッチ120が半導体スイッチ電流isemを遮断するまでの時間である遮断遅延時間のうち、第1期間TM1においてゲート端子123に供給するゲート電圧を減少させながら半導体スイッチ120を駆動する第1状態と、第1期間TM1よりも後の第2期間TM2において第1状態よりもゲート電圧の減少速度を早くして半導体スイッチ120を駆動することにより半導体スイッチ120を遮断する第2状態とによって、半導体スイッチ120の動作状態を制御する。
このように構成されたスイッチ制御回路130によれば、第1期間TM1と第2期間TM2との切り替えを、例えばコンピュータ装置などによる制御によらず、受動的な回路素子のみで自律的に行うことができる。
【0027】
[回路構成の具体例]
次に、
図2を参照して、本実施形態のスイッチ制御回路130の回路構成の具体例について説明する。なお、この具体例における直流電流遮断装置10-1のことを、単に直流電流遮断装置10とも記載する。
【0028】
図2は、本実施形態の直流電流遮断装置10の回路構成の一例を示す図である。直流電流遮断装置10のスイッチ制御回路130は、スイッチ素子134と、容量素子135と、抵抗素子136とを備える。さらに、スイッチ制御回路130は、ダンピング抵抗素子137と、整流素子138とを備えていてもよい。
【0029】
スイッチ素子134は、例えば、Nチャネル型のJFET(Junction-gate Field-Effect Transistor;接合型電界効果トランジスタ)である。スイッチ素子134は、ドレイン端子と、ソース端子と、ゲート端子とを備える。スイッチ素子134のドレイン端子は、第1端子131を介して第3接続点105に接続される。スイッチ素子134のソース端子は、容量素子135の一端に接続される。スイッチ素子134のゲート端子は、第5接続点TAに接続される。
容量素子135は、一端がスイッチ素子134のソース端子に接続され、他端が第5接続点TAに接続される。すなわち、容量素子135は、スイッチ素子134のソース端子と、ゲート端子との間に接続される。
抵抗素子136は、一端が第5接続点TAに接続され、他端が第7接続点TCおよび第2端子132を介して第4接続点106に接続される。
【0030】
ダンピング抵抗素子137は、一端が第5接続点TAに接続され、他端が第6接続点TBおよび第3端子133を介して、半導体スイッチ120のゲート端子123に接続される。
整流素子138は、カソード端子が第6接続点TBに接続され、アノード端子が第7接続点TCに接続される。
なお、スイッチ制御回路130は、ダンピング抵抗素子137や整流素子138を備えていなくてもよい。ダンピング抵抗素子137を備えない場合には、第5接続点TAと第6接続点TBとは直接接続される。整流素子138を備えない場合には、第6接続点TBと第7接続点TCとは接続されない。
【0031】
容量素子135と、抵抗素子136とは、CR回路を構成する。CR回路は、上述した遮断遅延時間よりも大きい時定数を有する。
スイッチ素子134は、ノーマリーオン型の素子であって、CR回路への電流の流れ込みを制御する。ここで、ノーマリーオン型の素子とは、ゲート端子にバイアス電圧が印加されていない場合に、ドレイン端子とソース端子との間が導通状態になる素子のことをいう。
すなわち、スイッチ制御回路130は、遮断遅延時間よりも大きい時定数を有する容量素子135と抵抗素子136との組によるCR回路と、CR回路への電流の流れ込みを制御するノーマリーオン型のスイッチ素子134を備える。
【0032】
半導体スイッチ120のゲート端子123-ソース端子122間には、スイッチ制御回路130の第3端子133-第2端子132間の電位差が印加される。第3端子133-第2端子132間の電位差は、抵抗素子136の両端電位差に基づいて生じる。なお、本実施形態において、ダンピング抵抗素子137の両端電位差がほぼゼロであるとして説明している。以下の説明において、抵抗素子136の両端電位差を抵抗端子間電圧vgsともいう。
ここで、
図3を参照して、直流電流遮断装置10の各部の動作について説明する。
【0033】
図3は、本実施形態の直流電流遮断装置10の動作の一例を示す図である。
期間TM0は、機械スイッチ110の接点が閉じており、負荷30に電流を供給している期間である。
第1期間TM1は、機械スイッチ110が解放されてから、所定の時刻が経過するまでの期間である。上述したように、第1期間TM1は、導通時間T
ONともいう。
第2期間TM2は、半導体スイッチ120が導通状態から非導通状態に切り替わる期間である。上述したように、第2期間TM2は、ターンオフ時間T
TOともいう。
第3期間TM3は、機械スイッチ110および半導体スイッチ120がいずれも非導通状態であり、負荷30への直流電流の供給が遮断されている期間である。
これら各期間TMにおける動作について、
図2および
図3を参照して説明する。
【0034】
[期間TM0の動作]
機械スイッチ110の接点が閉じている状態である。
入力端子101から流れ込んだ入力電流Iinは、機械スイッチ電流iMCとして機械スイッチ110を流れて負荷30に供給される。機械スイッチ110の接点のオン抵抗は、ほぼゼロであるため、機械スイッチ110の接点間電位差(機械スイッチ電圧vsw)は、ゼロである。スイッチ制御回路130の第1端子131と第2端子132との間に電位差は生じておらず、充電電流icrは流れない。抵抗素子136に充電電流icrは流れず、抵抗素子136の両端電位差(抵抗端子間電圧vgs)はゼロである。抵抗端子間電圧vgsがゼロであるため、半導体スイッチ120のゲート端子123-ソース端子122間には電位差が生じない。したがって、半導体スイッチ120は、非導通状態となり、半導体スイッチ電流isemは流れない。すなわち、バイパス電流iBは流れない。
【0035】
[第1期間TM1の動作]
時刻t1において、機械スイッチ110の接点が解放される。
機械スイッチ110の接点間電位差(機械スイッチ電圧vsw)が上昇する。スイッチ制御回路130の第1端子131と第2端子132との間に電位差が生じる。
時刻t1では、スイッチ素子134のゲート端子にはバイアス電圧が印加されていない。スイッチ素子134はノーマリーオン型のスイッチであるため、ゲート端子にバイアス電圧が印加されていない状態(すなわち時刻t1)において、導通状態となっている。このため、第1端子131と第2端子132との間の電位差によって、充電電流icrが流れる。
充電電流icrは、容量素子135、抵抗素子136を介して第2端子132に向けて流れる。充電電流icrは、容量素子135を充電するとともに、抵抗素子136に初期電圧Viniの抵抗端子間電圧vgsを生じさせる。抵抗端子間電圧vgsは、半導体スイッチ120のゲート端子123-ソース端子122間電圧として、半導体スイッチ120に印加される。初期電圧Viniは、半導体スイッチ120のドレイン端子121とソース端子122との間を導通させる閾値電圧を上回るように設定されている。半導体スイッチ120のゲート端子123に初期電圧Viniが印加されると、半導体スイッチ120が導通状態となり、ドレイン端子121とソース端子122との間に半導体スイッチ電流isemが流れる。
すなわち、機械スイッチ110の接点が解放されると、スイッチ制御回路130は、外部から制御されることなく、半導体スイッチ120を非導通状態から導通状態に切り替える。
【0036】
同図の一例において、半導体スイッチ120の遮断遅延時間は、時刻t1から時刻t3まで、つまり第1期間TM1と第2期間TM2とを合計した時間である。上述したように、容量素子135と抵抗素子136とによるCR回路の時定数は、半導体スイッチ120の遮断遅延時間よりも大きい時定数が設定されている。このため、第1期間TM1において、抵抗素子136には充電電流icrが安定的に流れ続け、半導体スイッチ120の導通状態を維持する。充電電流icrによって、容量素子135が充電され、容量素子135の両端電位差(容量端子間電圧vcadj)は、徐々に上昇する。
容量素子135の充電が進み、容量端子間電圧vcadjが上昇すると、スイッチ素子134のゲート端子-ソース端子間に負バイアスが生じる。スイッチ素子134は、ゲート端子-ソース端子間の負バイアスが所定の閾値電圧Vjthに達すると、ドレイン端子-ソース端子間が非導通状態(オフ)になる。
【0037】
すなわち、直流電流遮断装置10は、第1期間TM1(第1状態)において、バイパス電流iB(第2電流)の一部の電流である充電電流icrが、CR回路に流れ込むことによる充電曲線に基づく電圧をゲート端子123に印加することにより半導体スイッチ120を駆動する。
【0038】
換言すれば、スイッチ素子134は、第1期間TM1(第1状態)において、充電曲線に基づく電圧が所定のしきい値電圧を超える場合に、オフ状態にされてCR回路への充電電流icrの流れ込みを停止する。
【0039】
[第2期間TM2の動作]
時刻t2において、スイッチ素子134のゲート端子-ソース端子間の負バイアスが所定の閾値電圧Vjthに達して、スイッチ素子134のドレイン端子-ソース端子間が非導通状態になる。
スイッチ素子134のドレイン端子-ソース端子間が非導通状態になると、充電電流icrがゼロになる。充電電流icrがゼロになると、抵抗素子136の両端電位差(抵抗端子間電圧vgs)が低下する。抵抗端子間電圧vgsが低下すると、半導体スイッチ120のゲート端子123-ソース端子122間電圧が低下し、半導体スイッチ120のドレイン端子121とソース端子122との間が非導通状態になる。
なお、同図の一例においては、半導体スイッチ120の寄生容量などの影響があることにより、時刻t2においてスイッチ素子134が非導通状態になってから、時刻t3において半導体スイッチ電流isemがゼロになるまで、ある程度の時間がかかっていることを示している。この半導体スイッチ電流isemがゼロになるまでの時間は、半導体スイッチ120の寄生容量からの放電時間によって決まる長さであり、抵抗素子136の抵抗値やダンピング抵抗素子137の抵抗値によって律速される。
【0040】
すなわち、直流電流遮断装置10は、第2期間TM2(第2状態)において、スイッチ素子134をオフ状態にしてCR回路への充電電流icrの流れ込みを停止することにより、半導体スイッチ120を遮断させる。
【0041】
[第3期間TM3の動作]
時刻t3において、半導体スイッチ電流isemがゼロになる。機械スイッチ電流iMCは、時刻t1において既にゼロになっているため、直流電流遮断装置10が出力端子102から負荷30に対して出力する電流は、時刻t3においてゼロになる。すなわち、時刻t3において、負荷30に対する出力電流の遮断が完了する。
【0042】
[直流電流遮断装置10の各部の動作(詳細)]
次に、
図4から
図9を参照して、直流電流遮断装置10の回路の動作の詳細について説明する。
【0043】
図4は、直流電流遮断装置10の遮断開始前における等価回路の一例を示す図である。同図には、半導体スイッチ120の寄生容量(C
M
ds、C
M
gd、C
M
gs)およびスイッチ素子134の寄生容量(C
J
ds、C
J
gd、C
J
gs)を示す。
図3に示した第0期間TM0において、ノーマリーオンデバイスであるスイッチ素子134は、完全な導通状態(オン状態)である。このため、スイッチ素子134の寄生容量は無視できる程度である。また、第0期間TM0において、容量素子135および半導体スイッチ120の寄生容量(C
M
ds、C
M
gd、C
M
gs)の電圧はいずれもゼロであるため、これらの容量は無視できる。
【0044】
図5は、直流電流遮断装置10の遮断開始時における等価回路の一例を示す図である。
図3に示した時刻t1(つまり、第0期間TM0から第1期間TM1に遷移するタイミング)において、機械スイッチ110の接点の解放により、機械スイッチ110から半導体スイッチ120への転流が行われる。
時刻t1において機械スイッチ110の接点が解放され、接点間にアーク電圧が生じる。機械スイッチ110の接点間のアーク電圧が上昇すると、寄生容量C
M
dsと寄生容量C
M
gsが充電される。寄生容量C
M
gsの電圧が閾値電圧に達すると、半導体スイッチ120がオン状態になる。
半導体スイッチ120がオン状態になると、機械スイッチ電流iMCが半導体スイッチ電流isemおよび充電電流icrに転流され、機械スイッチ110の接点間のアークは消弧される。半導体スイッチ電流isem >> 充電電流icrとすると、入力電流Iinの大部分は、半導体スイッチ電流isemとして流れる。また、半導体スイッチ120のドレイン-ソース間電圧vdsは、半導体スイッチ120のゲート-ソース間電圧と等しい。
なお、半導体スイッチ120のゲート-ソース間電圧は、抵抗素子136の両端電位差である抵抗端子間電圧vgsと等しい。このため、半導体スイッチ120のゲート-ソース間電圧のことをゲート-ソース間電圧vgsともいう。
ドレイン-ソース間電圧vds=ゲート-ソース間電圧vgsの条件下で入力電流Iinを流すことができる状態が、半導体スイッチ120の動作点となる。このときのドレイン-ソース間電圧vdsとゲート-ソース間電圧vgsを、初期電圧Viniと定義する。
【0045】
図6は、直流電流遮断装置10の半導体スイッチ120の導通期間(第1期間TM1)における等価回路の一例を示す図である。
容量素子135の容量Cadjの電圧が閾値より低い間は、スイッチ素子134がオンしているため、寄生容量(C
J
ds、C
J
gd)は無視できる。この期間、抵抗素子136には抵抗端子間電圧vgsが生じる。抵抗端子間電圧vgsに対応する充電電流icrが抵抗素子136に流れる。この抵抗端子間電圧vgsは半導体スイッチ120の動作点の移動に伴い変化するが、その変化は無視できるほど小さい。したがって、抵抗端子間電圧vgsを初期電圧Viniの一定値とすると、充電電流icrは、式(1)で表すことができる。
【0046】
【0047】
充電電流icrは、並列接続された寄生容量CM
gd、容量Cadjおよび寄生容量CJ
gsの合成容量C1にも流れ、この合成容量C1が徐々に充電される。このとき、合成容量C1の充電電圧vcは、式(2)で示される。
【0048】
【0049】
ここで、容量Cadj >> 寄生容量CM
gd、寄生容量CJ
gsとすると、合成容量C1は、式(3)で表され、容量Cadjに近似できる。
【0050】
【0051】
したがって、合成容量C1の充電電圧vcは、式(1)~式(3)から、式(4)であらわされる。
【0052】
【0053】
充電電圧vcは、ゲート端子-ソース端子間に負バイアスを与える。半導体スイッチ120は、充電電圧vcによる負バイアスがスイッチ素子134の閾値電圧Vjthに達するまで導通しつづける。従って、半導体スイッチ120の導通時間TONは、式(5)で与えられる。
【0054】
【0055】
導通時間TONにおいて半導体スイッチ120に電流が流れると、半導体スイッチ120に損失が発生する。この損失は、機械スイッチ電圧vswと、半導体スイッチ電流isemの積の時間積分から計算することができる。導通時間TON中の機械スイッチ電圧vswは、初期電圧Viniから増加する。この機械スイッチ電圧vswの時間変化は、式(6)で与えられる。
【0056】
【0057】
説明を簡単にするため、入力電流Iinを半導体スイッチ電流isemとすると、導通時間TON中の半導体スイッチ120の損失QONは、式(7)から求められ、導通時間TONに比例して増加する。
【0058】
【0059】
容量Cadjの充電電圧vcによる負バイアスがスイッチ素子134の閾値電圧Vjthに達すると、スイッチ素子134は、オフ状態になり充電電流icrを遮断する。
【0060】
図7は、直流電流遮断装置10のスイッチ素子134の遮断期間(第2期間TM2)における等価回路の一例を示す図である。寄生容量C
M
gd、寄生容量C
J
ds、寄生容量C
J
gd、容量Cadj、寄生容量C
J
gsは直並列に接続され、それらの合成容量C2は、式(8)で表される。
【0061】
【0062】
また、合成容量C2は、式(9)に示すように近似できる。
【0063】
【0064】
合成容量C2が電源電圧Vinまで充電されると同時に、寄生容量CM
gsが半導体スイッチ120の閾値電圧まで放電すると、半導体スイッチ120はターンオフを完了する。合成容量C2の充放電速度は、抵抗素子136に流れる電流(充電電流icr)に依存し、抵抗素子136の抵抗値によって変化する。半導体スイッチ120をオフにするのに必要なターンオフ時間TTOは、抵抗素子136の抵抗値Rgsによって変化させることができる。半導体スイッチ120の損失QONと同様にして、ターンオフ時間TTO中の半導体スイッチの損失QTOを計算することができる。機械スイッチ電圧vswが(初期電圧Vini-閾値電圧Vjth)から電源電圧Vinへ、半導体スイッチ電流isemが入力電流Iinから0(ゼロ)へ、それぞれ線形に変化するとすれば、損失QTOは、式(10)で表される。この損失QTOは、ターンオフ時間TTOに比例して増加することがわかる。
【0065】
【0066】
図8は、本実施形態の半導体スイッチ120のIV特性の一例を示す図である。同図には、半導体スイッチ120が、定格1200V/55AのSiC-MOSFETを一例にして、ゲート端子123-ソース端子122間電圧vgsが一定であり、ドレイン-ソース間電圧vds=ゲート端子123-ソース端子122間電圧vgsが成立する条件での、Id-Vds特性の測定値を示している。
初期状態ではすべてのバイパス電流iBが半導体スイッチ120に流れるはずである。したがって、初期電圧Viniは、ドレイン-ソース間電圧vds=ゲート端子123-ソース端子122間電圧vgsの場合のId-Vds特性から求めることができる。例えば、同図では、入力電流Iinが5A(アンペア)である場合の電流遮断時の初期電圧Viniは8.3V(ボルト)であると特定される。
【0067】
図9は、3種類の半導体スイッチのIV特性の一例を示す図である。この一例では、SiC-MOSFET、Si-IGBT、カスコードSiC-JFETの3種類の半導体スイッチ120Id-Vds特性を示している。同図は、ドレイン-ソース間電圧vds=ゲート端子123-ソース端子122間電圧vgsが成立する条件で測定しており、全ての半導体スイッチ120の定格電圧は1200Vと等しく、定格電流も近いものを選定した。同図から、互いに同じカットオフ電流での初期電圧Viniは、SiC-MOSFETが最も大きく、カスコード素子で最も小さいことがわかる。カスコード素子は、ゲート端子123-ソース端子122間電圧vgsに対して低いしきい値電圧と高い飽和電流を持ち、他の素子より小さい初期電圧Viniで大きな電流を流すことができる。したがって、初期電圧Viniの観点からもカスコード素子の特性は半導体スイッチとして最も適している。
【0068】
容量素子135の容量Cadjと、抵抗素子136の抵抗値Rgsの設計について説明する。半導体スイッチ120の総損失は、損失QONと損失QTOの和で与えられる。この総損失が非常に大きくなると、半導体スイッチ120の熱耐性を超えてしまい、素子破壊に至る可能性がある。したがって、本実施形態の直流電流遮断装置10では、上述した式(7)および式(10)に基づき、半導体スイッチ120の熱耐性を超えないように導通時間TON、ターンオフ時間TTOを設計する必要がある。
一方、導通時間TONは、機械スイッチ110の接点間の絶縁が十分に確保されるまで継続しなければ、接点間の絶縁を破壊し、アーク再点弧が発生する。
本実施形態の直流電流遮断装置10は、機械スイッチ110の絶縁性能に応じて導通時間TONを設定する必要があり、不用意に導通時間TONを下げることはできない。式(5)などで示したように、導通時間TONとターンオフ時間TTOとは、それぞれ容量Cadjと抵抗値Rgsに基づいて変化する。したがって、機械スイッチ110の絶縁性能と半導体スイッチ120の熱能力とを考慮して、容量Cadjと抵抗値Rgsを適切な導通時間TONとターンオフ時間TTOを設定することが重要である。
【0069】
[変形例1]
なお、上述したように、直流電流遮断装置10は、ダンピング抵抗素子137を備えていてもよい。半導体スイッチ120の内部ゲート抵抗が小さい場合、カットオフ動作時に機械スイッチ電圧vswと半導体スイッチ電流isemとが大きく発振することがある。
本実施形態の直流電流遮断装置10は、半導体スイッチ120のId-Vds特性上の飽和領域を動作点としている。半導体スイッチ120の飽和領域では、ゲート-ソース間電圧がわずかに変化すると、半導体スイッチ120の増幅により、ドレイン-ソース間電圧が大きく変化する。また、半導体スイッチ120のゲート-ソース間の寄生容量CM
gsと回路の寄生インダクタンスとの共振により、抵抗端子間電圧vgsの振動が誘発される。そこで、本実施形態の直流電流遮断装置10は、半導体スイッチ120のゲート端子123にダンピング抵抗素子137を導入し、共振を緩和して、ドレイン-ソース間電圧の大きな振動を防止している。
一方、ダンピング抵抗素子137の抵抗値が大きすぎると、動作開始時に問題が発生する場合がある。例えば、ダンピング抵抗素子137を有する直流電流遮断装置10の場合、機械スイッチ110のアーク電圧は、寄生容量CM
ds、寄生容量CM
gsとともに寄生容量CM
gdを充電する。この場合、寄生容量CM
gsが閾値電圧に達する前に寄生容量CM
gdの電圧分だけ機械スイッチ電圧vswが増加する。したがって、半導体スイッチ120をオンにするにはより大きなアーク電圧が必要となる。また、ダンピング抵抗素子137は、電流が機械スイッチ110から半導体スイッチ120に転流されるまでのアーク時間を長くする。寄生容量CM
gdの電圧はダンピング抵抗素子137の抵抗値によって増加する。したがって、ダンピング抵抗素子137の抵抗値は、十分なダンピングが可能な範囲でできるだけ小さくするとよい。
【0070】
[変形例2]
上述したように、直流電流遮断装置10は、整流素子138を備えていてもよい。機械スイッチ110の電流遮断の際にアークが再点弧すると、機械スイッチ110の接点は導通状態となり、接点間の電位差が低下する。このとき、容量Cadj、寄生容量CJ
gs、寄生容量CJ
gd、寄生容量CM
gdに蓄えられた電荷は抵抗素子136に負電圧を発生させる。一般的な半導体スイッチは、ゲート・ソース端子間の負電圧耐量が低いため、この負電圧によりデバイスが破壊される可能性がある。そこで、ゲート-ソース端子間に整流素子138を接続し、半導体スイッチ120の破壊を防止する。ゲート-ソース端子間の放電ループによりゲート-ソース端子間に負電圧耐量を超えるような負電圧がかからず、アーク再点弧による半導体スイッチ120の破壊を防止することができる。
【0071】
[変形例3]
上述した一例では、スイッチ制御回路130は、容量素子135への充電電流icrを、スイッチ素子134によって制御することで、第1期間TM1と、第2期間TM2とを切り替える構成であった。
ここでスイッチ制御回路130は、スイッチ素子134に代えて、充電された電圧によって容量が変化する可変容量素子を用いることで、第1期間TM1と、第2期間TM2とを切り替えてもよい。
【0072】
すなわち、スイッチ制御回路130は、充電された電圧に応じて第1時定数と第1時定数よりも時定数が小さい第2時定数とに時定数が変化する容量素子135と抵抗素子136との組によるCR回路を備えていてもよい。この場合、スイッチ制御回路130は、第1状態において、第1時定数によるCR回路に充電電流icrが流れることによる第1充電曲線に基づく電圧をゲート端子123に印加することにより半導体スイッチ120を駆動する。またこの場合、スイッチ制御回路130は、第2状態において、第2時定数によるCR回路に充電電流icrが流れることによる第2充電曲線に基づく電圧をゲート端子123に印加することにより半導体スイッチ120を駆動する。
このように構成されたスイッチ制御回路130によっても、第1期間TM1と、第2期間TM2とを自律的に切り替えることができる。
【0073】
[従来技術との比較]
図10は、従来の直流電流遮断装置90の構成の一例を示す図である。従来の直流電源システム9における直流電流遮断装置90は、直流電流遮断装置10が備えるスイッチ素子134を備えていない。直流電流遮断装置90は、スイッチ素子134を備えていないため、
図3に示した第1期間TM1と第2期間TM2との切り替わりがない。このため、充電電圧vcが電源電圧Vinに達するまで、半導体スイッチ120のオン状態が継続する。その結果、半導体スイッチ120に流れる半導体スイッチ電流isemの電圧×電流による積(つまり、損失)が、本実施形態の直流電流遮断装置10に比べて大きくなる。すなわち、従来の直流電流遮断装置90では、半導体スイッチ電流isemによる損失が、直流電流遮断装置10に比べて大きくなる。
一方、本実施形態の直流電流遮断装置10は、半導体スイッチ120を導通させる第1期間TM1と、半導体スイッチ120をターンオフする第2期間TM2とを有する。このため、直流電流遮断装置10によれば、半導体スイッチ電流isemの電圧×電流による面積が、従来の直流電流遮断装置90よりも小さくなり、半導体スイッチ電流isemによる損失を低減することができる。
さらに、本実施形態の直流電流遮断装置10によれば、半導体スイッチ120を導通させる第1期間TM1において、機械スイッチ110の機械スイッチ電圧vswが低く保たれるため、機械スイッチ110の接点間にアークが発生しにくい。
したがって、本実施形態の直流電流遮断装置10によれば、半導体スイッチ120の損失の低減と、機械スイッチ110におけるアーク抑制とを図ることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態に記載の構成を組合せてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…直流電源システム、10…直流電流遮断装置、110…機械スイッチ、120…半導体スイッチ、130…スイッチ制御回路、134…スイッチ素子、135…容量素子、136…抵抗素子、137…ダンピング抵抗素子、138…整流素子、Iin…入力電流、iMC…機械スイッチ電流、iB…バイパス電流、isem…半導体スイッチ電流、icr…充電電流、vsw…機械スイッチ電圧、vcadj…容量端子間電圧、vgs…抵抗端子間電圧