(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042790
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ポリオレフィン組成物、及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240322BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20240322BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240322BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L97/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147633
(22)【出願日】2022-09-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業のうち農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)「木質リグニン由来次世代マテリアルの製造・利用技術等の開発」委託事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】田村 堅志
(72)【発明者】
【氏名】タンクス ジョナサン デビッド
(72)【発明者】
【氏名】内藤 公喜
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】ティティ ネー
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB013
4J002AH00X
4J002BB08W
4J002BB14W
4J002BB21W
4J002CL063
4J002DA016
4J002DA026
4J002DE186
4J002DG026
4J002DH046
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA016
4J002FA043
4J002FA046
4J002FD013
4J002FD016
4J002GA00
4J002GG00
4J002GK00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境負荷を低減できるとともに、機械的特性に優れた成形体を得ることができるポリオレフィン組成物を提供する。
【解決手段】ポリエチレングリコール等のグリコールを溶媒とした木材原料の酸加溶媒分解処理により得られる改質リグニンと、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるオレフィン系重合体とを用いたポリオレフィン組成物。具体的には、(A)グリコールリグニンを10~60質量%、(B)オレフィン系重合体を40~90質量%含むポリオレフィン組成物であって、前記(B)オレフィン系重合体は、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるものである、ポリオレフィン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリコールリグニンを10~60質量%、(B)オレフィン系重合体を40~90質量%含むポリオレフィン組成物であって、
前記(B)オレフィン系重合体は、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるものである、ポリオレフィン組成物。
【請求項2】
前記(A)グリコールリグニンは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコールにより化学修飾された改質リグニンである、請求項1に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項3】
前記グリコールは、重量平均分子量100~2000のポリエチレングリコールである、請求項2に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項4】
前記(B)オレフィン系重合体は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーである、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項5】
前記反応性部位は、カルボキシ基、無水カルボキシ基、グリシジル基、及びアクリル酸エステル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基、及び/又は不飽和カルボン酸又は酸無水物による変性部位である、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項6】
前記(B)オレフィン系重合体は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂である、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項7】
更に(C)強化フィラーを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項8】
前記(C)強化フィラーは、ガラス繊維、グラスフレーク、炭素繊維、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、二硫化モリブデン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、イモゴライト、チタン酸カリウム繊維、層状チタン酸塩、ケイ酸カルシウム、アラミド繊維、セルロース繊維、セルロースナノファイバー及びリン酸ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン組成物、及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を構成する部材として、軽量プラスチックとその複合材の使用が増大しており、自動車におけるその使用率は大きいものとなっている。しかしながら、ポリプロピレンなどの石油由来のプラスチックは、廃棄物などの環境負荷を引き起こすことが問題となっていた。
【0003】
そこで、石油由来のプラスチックに替えて、リグニンなどのバイオマス原料を適用した軽量部材の研究が始まっている(特許文献1から3参照)。リグニンは、木の20~30%を占める成分であり、間伐材や製紙工程などから大量に得られる。
【0004】
特許文献1には、(A)熱可塑性樹脂99~50質量%、及び(B)酢酸リグニン50~1質量%を含む熱可塑性樹脂組成物が記載されている。特許文献1に記載された酢酸リグニンは、アセチル化されたリグニンであり、これを熱可塑性樹脂に含有させた組成物とすることで、環境への負荷が軽減され、かつ難燃性が高く、成形体の外観、耐熱老化性、耐候性に優れた組成物及びその成形体を得ることができるとされている。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性樹脂と、木質材料粉と、前記熱可塑性樹脂と前記木質材料粉中のセルロースとに親和性を有する相溶化剤と、を含む樹脂組成物が記載されており、木質材料粉として、少なくとも精油成分が除去され、リグニンが残存する加工木質粉が適用できることが記載されている。特許文献2によれば、得られる成形品の強度や成形性等の物性を下げることなく、木粉あるいは加工木質粉をできるだけ多量に使用できるため、未利用材(木質系バイオマス)の有効利用を促進できるとともに、難燃性も確保した樹脂組成物が得られるとされている。
【0006】
特許文献3には、リグニンと、熱可塑性樹脂とを含む抗菌性樹脂組成物であって、リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分としてリグニンを0.01~50質量%含む抗菌性樹脂組成物が記載されている。特許文献3によれば、植物由来成分であり人体への安全性が高く、抗菌性に優れるリグニンを用いた抗菌性樹脂組成物が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/104634号
【特許文献2】特開2014-133835号公報
【特許文献3】特開2011-219716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の酢酸リグニン等の工業リグニンは、石油由来の樹脂との親和性が低く、樹脂に均一に分散せず、樹脂中に凝集物となって存在する場合もあった。このため、工業リグニンが配合された組成物から得られる成形体は、機械的特性や外観について未だ十分ではなく、さらなる向上が求められていた。
【0009】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、石油由来のプラスチックに替えてバイオマス由来のリグニンを用いた組成物とすることで、環境への負荷を低減させ、同時に、十分な機械的特性を有するポリオレフィン組成物、及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、ポリエチレングリコール等のグリコールを溶媒とした木材原料の酸加溶媒分解処理により得られる改質リグニンと、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるオレフィン系重合体とを用いたポリオレフィン組成物とすれば、環境負荷を低減しつつ、機械的特性に優れた組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]
(A)グリコールリグニンを10~60質量%、(B)オレフィン系重合体を40~90質量%含むポリオレフィン組成物であって、
前記(B)オレフィン系重合体は、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるものである、ポリオレフィン組成物。
[2]
前記(A)グリコールリグニンは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコールにより化学修飾された改質リグニンである、態様[1]に記載のポリオレフィン組成物。
[3]
前記グリコールは、重量平均分子量100~2000のポリエチレングリコールである、態様[2]に記載のポリオレフィン組成物。
[4]
前記(B)オレフィン系重合体は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーである、態様[1]から[3]のいずれか一態様に記載のポリオレフィン組成物。
[5]
前記反応性部位は、カルボキシ基、無水カルボキシ基、グリシジル基、及びアクリル酸エステル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基、及び/又は不飽和カルボン酸又は酸無水物による変性部位である、態様[1]から[4]のいずれか一態様に記載のポリオレフィン組成物。
[6]
前記(B)オレフィン系重合体は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂である、態様[1]から[5]のいずれか一態様に記載のポリオレフィン組成物。
[7]
更に(C)強化フィラーを含む、態様[1]から[6]のいずれか一態様に記載のポリオレフィン組成物。
[8]
前記(C)強化フィラーは、ガラス繊維、グラスフレーク、炭素繊維、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、二硫化モリブデン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、イモゴライト、チタン酸カリウム繊維、層状チタン酸塩、ケイ酸カルシウム、アラミド繊維、セルロース繊維、セルロースナノファイバー及びリン酸ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様[7]に記載のポリオレフィン組成物。
[9]
態様[1]から[8]のいずれか一態様に記載のポリオレフィン組成物の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本開示のポリオレフィン組成物によれば、環境負荷を低減できるとともに、機械的特性に優れた成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例14のダンベル試験片の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】比較例6のダンベル試験片の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例14のダンベル試験片について得られた応力-ひずみ曲線である。
【
図4】比較例1のダンベル試験片について得られた応力-ひずみ曲線である。
【
図5】比較例6のダンベル試験片について得られた応力-ひずみ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0015】
≪ポリオレフィン組成物≫
本開示のポリオレフィン組成物は、(A)グリコールリグニンを10~60質量%、(B)オレフィン系重合体を40~90質量%含み、(B)オレフィン系重合体は、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるものである。
【0016】
本開示のポリオレフィン組成物は、二軸押出機等を用いる一般的な混合プロセスにより、組成物を構成する原料を混合することによって製造することができる。
【0017】
<(A)グリコールリグニン>
本開示のポリオレフィン組成物の必須成分である(A)グリコールリグニンは、木材原料であるリグノセルロースを、グリコールを溶媒として酸触媒存在下で加溶媒分解(酸加溶媒分解)して得られる改質リグニンである。リグノセルロースとは、木本ないし草本系バイオマスの主体であり、セルロースやヘミセルロースといった多糖性ポリマーと、フェノール性ポリマーであるリグニンとから構成されている。
【0018】
リグノセルロースから(A)グリコールリグニンを製造する方法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、特開2017-197517号に開示される方法などにより製造することできる。
【0019】
例えば、リグノセルロースであるスギ木粉を、グリコールを溶媒として、酸触媒の存在下に加熱することにより酸加溶媒分解処理し、溶液をアルカリ性にした後、主成分がセルロース及びヘミセルロースであるパルプ残渣画分を分離して、可溶性画分を得る。次いで、得られた可溶性画分を酸性に戻して、生じる沈殿を常法により分離・洗浄・乾燥することで、(A)グリコールリグニンを得ることができる。本開示の(A)グリコールリグニンは、酸加溶媒分解処理に溶媒として用いられたグリコールが、リグニンを化学修飾した改質リグニンである。
【0020】
酸加溶媒分解処理に溶媒として用いるグリコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0021】
酸加溶媒分解処理に溶媒として用いるグリコールが、ポリエチレングリコールの場合には、少なくとも1のエチレンオキシ基がプロピレンオキシ基に置き換わっていてもよく、ポリプロピレングリコールの場合には、少なくとも1のプロピレンオキシ基がエチレンオキシ基に置き換わっていてもよい。
【0022】
酸加溶媒分解処理に溶媒として用いるグリコールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の重合体の場合には、得ようとする(A)グリコールリグニンの熱溶融性等に応じて、これら重合体の分子量を適宜選択することができる。例えば、ポリエチレングリコールの場合には、重量平均分子量100~2000であってよく、より好ましくは重量平均分子量200~600であってよい。
【0023】
酸加溶媒分解処理に溶媒として用いるグリコールの使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、リグノセルロース1質量部に対して、好ましくは2~10質量部、より好ましくは3~6質量部である。
【0024】
本開示のポリオレフィン組成物における(A)グリコールリグニンの含有量は、ポリオレフィン組成物全体中の10~60質量%である。10質量%以上であれば、環境負荷を低減する効果を発揮しつつ、機械的特性に優れた組成物を得ることができる。一方で、60質量%以下であれば、汎用の混錬機によって(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体とを含む材料を十分に混錬することができる。
【0025】
本開示のポリオレフィン組成物における(A)グリコールリグニンの含有量は、ポリオレフィン組成物全体中の、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であってよく、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
【0026】
<(B)オレフィン系重合体>
本開示のポリオレフィン組成物の必須成分である(B)オレフィン系重合体は、1種又は2種以上のα-オレフィンの重合体であって、水酸基と反応性を有する反応性部位を備えるものである。(B)オレフィン系重合体のモノマーとなるα-オレフィンの炭素数は、特に限定されるものではないが、好ましくは2~18の範囲である。
【0027】
本開示のポリオレフィン組成物に含まれる(B)オレフィン系重合体は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーであってよい。あるいは、本開示のポリオレフィン組成物は、これらの両者を含んでいてもよい。
【0028】
(B)オレフィン系重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、2-メチルブテン-1、3-メチルブテン-1、ヘキセン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1、3,3-ジメチルブテン-1、ヘプテン-1、メチルヘキセン-1、ジメチルペンテン-1、トリメチルブテン-1、エチルペンテン-1、オクテン-1、メチルペンテン-1、ジメチルヘキセン-1、トリメチルペンテン-1、エチルヘキセン-1、メチルエチルペンテン-1、ジエチルブテン-1、プロピルペンテン-1、デセン-1、メチルノネン-1、ジメチルオクテン-1、トリメチルヘプテン-1、エチルオクテン-1、メチルエチルヘプテン-1、ジエチルヘキセン-1、オクタデセン-1、ドデセン-1、ヘキサドデセン-1等が挙げられ、(B)オレフィン系重合体としては、これらα-オレフィンの単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0029】
好ましい重合体としては、例えば、エチレンを主成分とする重合体、プロピレンを主成分とする重合体、ブテンを主成分とする重合体、4-メチルペンテン-1を主成分とする重合体が挙げられる。
【0030】
更に好ましい重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体、ブテン単独重合体、ブテン・エチレンランダム共重合体、ブテン・プロピレンランダム共重合体、ブテン・エチレン・プロピレンランダム共重合体、4-メチルペンテン-1の単独重合体、4-メチルペンテン-1とプロピレンのランダム共重合体、4-メチルペンテン-1とヘキセン-1のランダム共重合体、4-メチルペンテン-1とデセン-1とのランダム共重合体、4-メチルペンテン-1とテトラデセンとのランダム共重合体、4-メチルペンテン-1とヘキサデセン-1とのランダム共重合体、4-メチルペンテン-1とオクタデセン-1とのランダム共重合体、及び4-メチルペンテン-1とヘキサデセン-1とオクタデセン-1のランダム共重合体が挙げられる。
【0031】
特には、機械的特性に優れることから、プロピレンを主成分とする重合体が好ましく、その中でも、プロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。
【0032】
(B)オレフィン系重合体が有する水酸基と反応性を有する反応性部位は、(A)グリコールリグニンが有する水酸基と反応する部位となる。(A)グリコールリグニンが有する水酸基と、(B)オレフィン系重合体が有する水酸基と反応性を有する反応性部位とが反応することにより、本開示のポリオレフィン組成物は引張強度、引張弾性率等の機械的特性を向上させる。また、本開示のポリオレフィン組成物が、後記する(C)強化フィラーを含有する場合には、この反応により、(C)強化フィラーとの界面が強化される。その結果、本開示のポリオレフィン組成物は、機械的特性を更に向上させることができる。
【0033】
(B)オレフィン系重合体が有する水酸基と反応性を有する反応性部位は、水酸基と反応するものであれば特に限定されるものではない。例えば、カルボキシ基、無水カルボキシ基、グリシジル基、及び(メタ)アクリル酸エステル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基、並びに不飽和カルボン酸又は酸無水物による変性部位等が挙げられる。本開示における(B)オレフィン系重合体が有する水酸基と反応性を有する反応性部位としては、一種のみならず、二種以上が存在していてもよい。
【0034】
(B)オレフィン系重合体における反応性部位の含有量は、(B)オレフィン重合体全体の構造単位に対する反応性部位を形成する構造単位換算で、0.01~5質量%であることが好ましく、0.05~3.5質量%であることがより好ましい。反応性部位の含有量がこの範囲内であると、(A)グリコールリグニンとの反応により、機械的強度が向上したポリオレフィン組成物を得ることができる。
【0035】
(B)オレフィン系重合体に反応性部位を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、カルボキシ基、無水カルボキシ基、グリシジル基、及び(メタ)アクリル酸エステル基等を有する化合物を、(B)オレフィン系重合体を重合する際のコモノマーとして添加し、共重合してもよい。
【0036】
あるいは、(B)オレフィン系重合体における反応性部位が、不飽和カルボン酸又は酸無水物である場合には、これらをオレフィン系重合体にグラフト重合していてもよい。グラフトさせる方法については、特に限定されず、溶液法、溶融混練法等、従来公知のグラフト重合法を採用することができる。例えばポリオレフィンを溶融し、そこへ不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物を添加してグラフト反応させる方法、あるいはポリオレフィンを溶媒に溶解して溶液とし、そこへ不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物を添加してグラフト反応させる方法等がある。
【0037】
なお、反応性部位の含有量を調整するため、反応性部位を有するオレフィンと反応性部位を有しないオレフィンとを、適宜混合してもよい。
【0038】
不飽和カルボン酸又は酸無水物としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、カルボン酸基を有する化合物とアルキルアルコールとのエステル、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物等を挙げることができる。不飽和化合物が有する不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基等を挙げることができる。不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0039】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物が好ましく、更にはマレイン酸、ナジック酸、又はこれらの酸無水物が好ましい。特に、本開示の(B)オレフィン系重合体は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であることが、もっとも好ましい。
【0040】
本開示のポリオレフィン組成物における(B)オレフィン系重合体の含有量は、ポリオレフィン組成物全体中の40~90質量%である。90質量%以下であれば、環境負荷を低減する効果を発揮しつつ、機械的特性に優れた組成物を得ることができる。一方で、40質量%以上であれば、汎用の混錬機によって(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体とを含む材料を十分に混錬することができる。
【0041】
本開示のポリオレフィン組成物における(B)オレフィン系重合体の含有量は、ポリオレフィン組成物全体中の、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、又は70質量%以上であってよく、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0042】
<(C)強化フィラー>
本開示のポリオレフィン組成物は、任意の成分として(C)強化フィラーを含んでいてもよい。本開示のポリオレフィン組成物は、(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体との反応による相乗効果により、これらと(C)強化フィラーとの界面が強化される。その結果、本開示のポリオレフィン組成物は、(C)強化フィラーを含むことにより、引張強度、引張弾性率等の機械的特性を、著しく向上させることができる。
【0043】
(C)強化フィラーは、本開示のポリオレフィン組成物から形成される成形体の引張強度及び引張弾性率を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、グラスフレーク、炭素繊維、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、二硫化モリブデン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、イモゴライト、チタン酸カリウム繊維、層状チタン酸塩、ケイ酸カルシウム、アラミド繊維、セルロース繊維、セルロースナノファイバー及びリン酸ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0044】
(C)強化フィラーのアスペクト比(x/z)は、特に限定されるものではないが、10以上であることが好ましい。アスペクト比が10以上であることで、得られるポリオレフィン組成物の機械的強度をより高めることができる。なお、前記「x」は、強化フィラー(C)を構成する個々のフィラーの最大寸法の平均値であり、前記「z」は、前記最大寸法に直交する方向の最小寸法の平均値である。
【0045】
(C)強化フィラーの含有量は、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン組成物全体中の5~40質量%であることが好ましい。この範囲の(C)強化フィラーが含まれていれば、得られるポリオレフィン組成物の機械的強度を十分に高めることができる。
【0046】
本開示のポリオレフィン組成物における(C)強化フィラーの含有量は、ポリオレフィン組成物全体中の、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0047】
<その他の成分>
本開示のポリオレフィン組成物は、得られる組成物に各種性能を付与する目的で、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が配合されていてもよい。その他の成分としては、(B)オレフィン系重合体以外の樹脂やエラストマー、各種の添加剤等が挙げられる。
【0048】
添加剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、金属粉、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機充填剤(ただし、(C)強化フィラーを除く)、顔料、染料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、結晶核剤、分散剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤等が挙げられる。ポリオレフィン組成物における添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン組成物全体に対して0.01~30質量%である。
【0049】
≪成形体≫
本開示の成形体は、上記の本開示のポリオレフィン組成物を成形して得られる成形体である。
【0050】
成形体を得るための成形方法は、特に限定されるものではなく、ポリオレフィンの成形法として公知の方法を採用することができる。例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形等が挙げられる。
【0051】
成形体は、本開示のポリオレフィン組成物から形成された成形体であってもよく、ポリオレフィン組成物から形成された部分、例えば表層、を有する成形体であってもよい。
【0052】
成形体の用途は、特に限定されるものではない。例えば、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維等、幅広い分野で用いることができる。
【実施例0053】
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<材料>
実施例及び比較例において用いたポリオレフィン組成物の材料は、以下の通りである。
【0055】
(A)グリコールリグニン:スギリグニン由来
GL200:分子量200のポリエチレングリコールで修飾されたグリコールリグニン
GL400:分子量400のポリエチレングリコールで修飾されたグリコールリグニン
GL600:分子量600のポリエチレングリコールで修飾されたグリコールリグニン
(A’)工業リグニン: タケリグニン由来
酢酸リグニン(商品名:Solvent Lignin、Guangzhou Yinnovator Biotech)
【0056】
(B)オレフィン系重合体
(B-1)無水マレイン酸含有量0.04質量%、MFR(メルトフローレート)7g/10分の無水マレイン酸変性プロピレン単独重合体(商品名:アドマー(登録商標)QE800、三井化学)
(B-2)MFR30g/10分のポリプロピレンホモポリマー(商品名:PM900A、サンアロマー)を95質量%と、酸価26の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(商品名:ユーメックス1001、三洋化成工業)5質量%とを、二軸押出機を用いて200℃で均一に溶融混練して得た、無水マレイン酸変性ポリプロピレン
【0057】
(C)強化フィラー
炭素繊維(CF):繊維系7μm、長さ6mm(アスペクト比(x/z)≒850)のチョップドカーボンファイバー(商品名:パイロフィル(登録商標)TR06NL、三菱ケミカル)
ガラス繊維:繊維系13μm、長さ3mm(アスペクト比(x/z)≒230)のチョップドガラスファイバー(商品名:CS3PE944、日東紡)
【0058】
<実施例1から22、比較例1から8>
表1から表3に示す組成の材料を、二軸混練機(型式:S1KRC、栗本鐵工所)にて、シリンダー温度230~250℃で溶融混練し、ペレットを作製した。小型射出成形機(型式:Mini JET II、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて、シリンダー温度220~250℃、金型温度80℃にて、乾燥したペレットから、ダンベル試験片(ISO 527-2)を成形した。
【0059】
実施例1から10は、(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体との組成物の例であり、比較例1及び3は、(B)オレフィン系重合体のみの例であり、比較例2は、(A’)工業リグニンと(B)オレフィン系重合体との組成物の例である。また、実施例11から22及び比較例4から8は、(C)強化フィラーを更に配合した例である。具体的には、実施例11から22は、(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体と(C)強化フィラーとの組成物の例であり、比較例4は、(A’)工業リグニンと(B)オレフィン系重合体と(C)強化フィラーとの組成物の例であり、比較例5から8は、(B)オレフィン系重合体と(C)強化フィラーとの組成物の例である。
【0060】
<測定>
[機械的特性(引張強度・引張弾性率)]
実施例1から22、及び比較例1から8で作製したダンベル試験片について、ASTM D638に従って、電気機械試験機(型式:EZ-LX、島津製作所)を使用して、クロスヘッド速度5mm/minにて引張試験を行い、引張強度、及び引張弾性率を評価した。引張弾性率の決定に必要なひずみついては、ビデオ式非接触伸び幅計(ビデオエクステンソメーター)によって測定した。なお、引張試験はそれぞれのダンベル試験片についてN=3で実施し、引張強度及び引張弾性率はその平均値とした。結果を、表1から表3に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
(A)グリコールリグニンと(B)オレフィン系重合体との組成物である実施例1~10は、(B)オレフィン系重合体のみからなる比較例1及び比較例3よりも高い引張強度と引張弾性率を示した。また、(A)グリコールリグニンを20質量%配合した、実施例2、実施例5、及び実施例8は、(A’)工業リグニンである酢酸リグニンを20質量%配合した比較例2より、高い引張強度と引張弾性率を示した。
【0065】
また、(A)グリコールリグニンを20質量%配合し、更に(C)強化フィラーである炭素繊維を20質量%配合した、実施例14、実施例15、実施例16は、(A’)工業リグニンである酢酸リグニンを20質量%配合し、更に(C)強化フィラーである炭素繊維を20質量%配合した比較例4と比較して、顕著な補強効果が示された。
【0066】
[界面観察]
実施例14及び比較例6で作成したダンベル試験片について、上記の引張試験を実施後のダンベル試験片の破面をスパッタコーティングし、加速電圧7.5kV及び作動距離10mmの高真空下で、走査型電子顕微鏡(型式:Quanta 600 SEM、FEI)を用いて分析した。実施例14のダンベル試験片の走査型電子顕微鏡写真を
図1に、比較例6のダンベル試験片の走査型電子顕微鏡写真を
図2に、それぞれ示す。
【0067】
図1より、(A)グリコールリグニンが有する水酸基と(B)オレフィン系重合体が有する水酸基との反応性部位とが反応した結果、(C)強化フィラーである炭素繊維との界面が強化されていることがわかる。一方で、
図2では、(B)オレフィン系重合体と(C)強化フィラーとの界面は、強化されていないことがわかる、
【0068】
[耐候性試験]
実施例14、比較例1、及び比較例6で作成したダンベル試験片について、メタリングウェザーメーター(型式:MV2000、スガ試験機株式会社)にてメタルハライドランプを使用し、530W/m2(300-400nm)、チャンバー内温度37℃、湿度10%にて、照射エネルギー100MJ/m2、300MJ/m2、1000MJ/m2(それぞれ、52時間、156時間、520時間)の照射を実施した。照射前及び照射後のダンベル試験片について、上記の引張試験を実施した。なお、引張試験はそれぞれのダンベル試験片についてN=3で実施した。
【0069】
実施例14のダンベル試験片について得られた典型的な応力-ひずみ曲線を
図3に、比較例1及び比較例6のダンベル試験片について得られた応力-ひずみ曲線を、それぞれ
図4及び
図5に示す。なお、比較例6(
図5)については、照射前と1000MJ/m
2照射後の結果のみ示す。また、比較例6のダンベル試験片について、照射前及び照射後の引張強度及び引張弾性率の測定結果を、表4に示す。
【0070】
【0071】
図3より、(A)グリコールリグニン、(B)オレフィン系重合体、及び(C)強化フィラーである炭素繊維を含む組成物から形成された実施例14の試験片は、耐候性試験の後も、機械的強度を維持していることがわかる。一方、
図4に示されるように、(A)グリコールリグニンを含まない比較例1のダンベル試験片は、照射エネルギー量の増加に伴って、引張強度及び引張弾性率の低下が進行した。また、
図5及び表4に示されるように、1000MJ/m
2照射後の比較例6のダンベル試験片は、照射前と比較して、引張強度は僅かに増加していたが、引張弾性率は明らかに低下した。
本発明によれば、環境負荷を低減できるとともに、機械的特性に優れ、同時に耐候性に優れた、ポリオレフィン組成物及びその成形体を得ることができる。したがって、本発明のポリオレフィン組成物は、自動車部材をはじめとするポリオレフィンの応用分野に広く利用することが可能である。