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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042809
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】コンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
H02M3/28 V
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147675
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】中原 将吾
(72)【発明者】
【氏名】永井 悟司
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730BB27
5H730DD04
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE59
5H730EE73
5H730FD31
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】TABコンバータにおいて、2つのポート間における干渉を抑制する、より優れた非干渉化技術を提供する。
【解決手段】それぞれフルブリッジ回路を有する3つのポートを備えるTABコンバータであって、制御回路90は、目標電流に対するポート電流の近似電流波形を用いて、制御値を算出する工程を実行する。目標電流の近似電流波形は、フルブリッジ回路から出力されるポート電圧の近似電圧波形から導出される。近似電圧波形は、基本波および高調波を重畳した連続関数である。これにより、従来の基本波のみによって近似された近似モデルを用いる場合と比べて、2つの出力ポート間の干渉をより抑制できる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのポートを有するトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
第1巻線と、第2巻線と、第3巻線と、前記第1巻線、前記第2巻線および前記第3巻線を互いに磁気結合させるコアとを有するトランスと、
前記第1巻線と接続される第1ポートと、
前記第2巻線と接続される第2ポートと、
前記第3巻線と接続される第3ポートと、
前記第1ポート、前記第2ポートおよび前記第3ポートのスイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、
を備え、
前記第1ポート、前記第2ポートおよび前記第3ポートはそれぞれ、
4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ回路と、
前記第1巻線、前記第2巻線または前記第3巻線に直接接続されたインダクタンス成分と、
を含み、
前記制御回路は、
A)目標電流に対するポート電流の近似電流波形を用いて、制御値を算出する工程
を実行し、
前記近似電流波形は、前記フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を連続関数で近似した近似電圧波形から導出され、
前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および高調波を重畳して近似した近似関数である、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項2】
請求項1に記載のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および3次高調波を重畳して近似した近似関数である、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項3】
請求項1に記載のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波、3次高調波および5次高調波を重畳して近似した近似関数である、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
前記工程A)は、
a)前記目標電流に対するポート電流の近似電流波形について、各動作点における近似モデルであるヤコビ行列を算出する工程と、
b)前記ヤコビ行列の逆行列となる逆ヤコビ行列を算出する工程と、
c)前記目標電流と前記逆ヤコビ行列とから制御値を算出する工程と、
を含む、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
前記工程A)において、前記制御回路は、前記目標電流および検出したポート電流と、出力すべき前記制御値との対応関係を含むテーブルを参照して、前記制御値を算出し、
前記テーブルは、
a)前記目標電流に対するポート電流の近似電流波形について、各動作点における近似モデルであるヤコビ行列を算出する工程と、
b)前記ヤコビ行列の逆行列となる逆ヤコビ行列を算出する工程と、
c)前記目標電流と前記逆ヤコビ行列とから制御値を算出する工程と、
を複数の条件で事前に導出した結果により作成される、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、
前記インダクタンス成分は、
実素子、
前記トランスとの漏れインダクタンス、
または、
実素子および前記トランスとの組み合わせ
である、トリプルアクティブブリッジコンバータ。
【請求項7】
3つ以上のn個のポートを有するマルチアクティブブリッジコンバータであって、
n個の巻線と、前記n個の巻線を互いに磁気結合させるコアとを有するトランスと、
n個の前記巻線のそれぞれと接続されるn個のポートと、
それぞれの前記ポートのスイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、
を備え、
前記ポートはそれぞれ、
4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ回路と、
前記巻線に直接接続されたインダクタンス成分と、
を含み、
前記制御回路は、
A)目標電流に対するポート電流の近似電流波形を用いて、制御値を算出する工程
を実行し、
前記近似電流波形は、前記フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を連続関数で近似した近似電圧波形から導出され、
前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および高調波を重畳して近似した近似関数である、
マルチアクティブブリッジコンバータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポートを3つ有するコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力側と出力側の双方にフルブリッジ回路が備えられたデュアルアクティブブリッジ(Dual Active Bridge、DAB)コンバータが知られている。さらに、DABコンバータからポートを1つ増やしたトリプルアクティブブリッジ(Triple Active Bridge、TAB)コンバータが研究されており、TABコンバータを適用することで3つのポート間の電力を双方向で伝送できるようになる。
【0003】
TABコンバータは、3つのアクティブブリッジ回路が3巻き線トランスとインダクタを介して接続されており、各ブリッジ回路の位相シフトを利用して電力を伝送するコンバータである。TABコンバータは各ポートの入出力電力の和がゼロとなる特性を持つため、2つのポートの電流を制御することで残りのポートの入出力電流が決定される。一方で、制御を行う2つのポート間において、干渉が生じるという問題がある。従来の出力ポート間の干渉を抑制する方法は、例えば、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大野貴信、星伸一「Triple Active Bridgeコンバータにおける各ポート間干渉の実験的考察」電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.139 No.7 pp.631-636 2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の干渉抑制方法では、矩形波で駆動するフルブリッジ回路の電圧を基本波で近似することで、TABコンバータの各ポートの電流を数学的に連続な関数としてモデル化し、そのモデルにおけるポート間の干渉を打ち消すような補償器を挿入することで、非干渉化を行っている。この方法では、ある程度の非干渉化を行えるものの、出力電力の使用用途によっては、より優れた非干渉化を行う方法が求められる。
【0006】
ここで、「基本波」とは、ある周波数成分をもつ波形に対してフーリエ級数展開したときに一番低い周波数の正弦波のことである。また、ある周波数成分をもつ波形に対してフーリエ級数展開したときの、基本波のn倍の周波数の正弦波を、「n次高調波」と称する。
【0007】
そこで、本発明は、TABコンバータにおいて、2つのポート間における干渉を抑制する非干渉化技術において、より優れた技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、3つのポートを有するトリプルアクティブブリッジコンバータであって、第1巻線と、第2巻線と、第3巻線と、前記第1巻線、前記第2巻線および前記第3巻線を互いに磁気結合させるコアとを有するトランスと、前記第1巻線と接続される第1ポートと、前記第2巻線と接続される第2ポートと、前記第3巻線と接続される第3ポートと、前記第1ポート、前記第2ポートおよび前記第3ポートのスイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、を備え、前記第1ポート、前記第2ポートおよび前記第3ポートはそれぞれ、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ回路と、前記第1巻線、前記第2巻線または前記第3巻線に直接接続されたインダクタンス成分と、を含み、前記制御回路は、A)目標電流に対するポート電流の近似電流波形を用いて、制御値を算出する工程を実行し、前記近似電流波形は、前記フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を連続関数で近似した近似電圧波形から導出され、前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および高調波を重畳して近似した近似関数である。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および3次高調波を重畳して近似した近似関数である。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および3次高調波を重畳して近似した近似関数である。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれか一発明のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、前記工程A)は、a)前記目標電流に対するポート電流の近似電流波形について、各動作点における近似モデルであるヤコビ行列を算出する工程と、b)前記ヤコビ行列の逆行列となる逆ヤコビ行列を算出する工程と、c)前記目標電流と前記逆ヤコビ行列とから制御値を算出する工程と、を含む。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明ないし第3発明のいずれか一発明のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、前記工程A)において、前記制御回路は、前記目標電流および検出したポート電流と、出力すべき前記制御値との対応関係を含むテーブルを参照して、前記制御値を算出し、前記テーブルは、a)前記目標電流に対するポート電流の近似電流波形について、各動作点における近似モデルであるヤコビ行列を算出する工程と、b)前記ヤコビ行列の逆行列となる逆ヤコビ行列を算出する工程と、c)前記目標電流と前記逆ヤコビ行列とから制御値を算出する工程と、を複数の条件で事前に導出した結果により作成される。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明ないし第5発明のいずれか一発明のトリプルアクティブブリッジコンバータであって、前記インダクタンス成分は、実素子、前記トランスとの漏れインダクタンス、または、実素子および前記トランスとの組み合わせである。
【0014】
本願の第7発明は、3つ以上のn個のポートを有するマルチアクティブブリッジコンバータであって、n個の巻線と、前記n個の巻線を互いに磁気結合させるコアとを有するトランスと、n個の前記巻線のそれぞれと接続されるn個のポートと、それぞれの前記ポートのスイッチング素子をスイッチング制御する制御回路と、を備え、前記ポートはそれぞれ、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ回路と、前記巻線に直接接続されたインダクタンス成分と、を含み、前記制御回路は、A)目標電流に対するポート電流の近似電流波形を用いて、制御値を算出する工程を実行し、前記近似電流波形は、前記フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を連続関数で近似した近似電圧波形から導出され、前記近似電圧波形は、矩形波である前記ポート電圧を、基本波および高調波を重畳して近似した近似関数である。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明~第6発明によれば、フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を、基本波のみによって近似された従来の近似関数を用いる場合と比べて、2つの出力ポート間の干渉をより抑制できる。
【0016】
特に、第2発明および第3発明によれば、過大に演算量を大きくすることなく、効率良く干渉抑制効果を高めることができる。
【0017】
本願の第7発明によれば、フルブリッジ回路から出力されるポート電圧を、基本波のみによって近似された従来の近似関数を用いる場合と比べて、複数の出力ポート間の干渉をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るTABコンバータの回路図である。
図2】制御回路およびモデル化したTABコンバータにおける信号の流れを模式的に示したブロック図である。
図3】矩形波の3種類の近似モデルを示した図である。
図4】実施形態に係るTABコンバータの非干渉化制御方法の流れを示したフローチャートである。
図5】積算器における位相シフト角の変化量の積算による動作特性を概念的に示した図である。
図6】シミュレーション1の結果を示した図である。
図7】シミュレーション2の結果を示した図である。
図8】シミュレーション3の結果を示した図である。
図9】実験1の結果を示した図である。
図10】実験2の結果を示した図である。
図11】実験3の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する
【0020】
<1.TABコンバータの回路構成>
図1は、本実施形態に係るTABコンバータ1の回路図である。TABコンバータ1は、3つのポートそれぞれがフルブリッジ回路を有するトリプルアクティブブリッジ(Triple Active Bridge)コンバータである。
【0021】
TABコンバータ1は、トランスTと、第1ポート10と、第2ポート20と、第3ポート30と、制御回路90とを備える。第1ポート10は、一対の第1入出力端子IO11,IO12を有する。第2ポート20は、一対の第2入出力端子IO21,IO22を有する。第3ポート30は、一対の第3入出力端子IO31,IO32を有する。一対の第1入出力端子IO11,IO12には、第1直流電源E1が接続されている。一対の第2入出力端子IO21,IO22には、第2直流電源E2が接続されている。一対の第3入出力端子IO31,IO32には、第3直流電源E3が接続されている。
【0022】
TABコンバータ1は、第1ポート10の有する第1入出力端子IO11,IO12から入力される第1直流電源E1の電源電圧を変圧し、第2入出力端子IO21,IO22および第3入出力端子IO31,IO32から出力する。この場合、第1ポート10が入力ポートとなり、第2ポート20および第3ポート30が出力ポートとなる。なお、TABコンバータ1は、必ずしも1方向に電力伝送を行うものではなく、第1ポート10、第2ポート20および第3ポート30のいずれか1つまたは2つが入力ポートとなり、残りの2つまたは1つが出力ポートとなり得る。
【0023】
トランスTは、第1巻線n1と、第2巻線n2と、第3巻線n3と、コアTcとを備えている。第1巻線n1、第2巻線n2および第3巻線n3は、コアTcを介して互いに磁気結合する。第1巻線n1は、第1ポート10と接続される。
【0024】
第1ポート10は、第1フルブリッジ回路100と、第1直流電源E1と、キャパシタCo1と、第1インダクタL1とを有する。2つの第1入出力端子IO11,IO12の間には、第1直流電源E1と、第1キャパシタCo1とが並列に接続される。なお、第1直流電源E1に代えて、電圧制御された変換器などの、その他の電圧源が用いられてもよい。
【0025】
第1フルブリッジ回路100は、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12とが直列接続された第1レグと、スイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14とが直列接続された第2レグと、を有している。第1レグおよび第2レグは、2つの第1入出力端子IO11,IO12の間に接続される。
【0026】
スイッチング素子Q11,Q12,Q13,Q14には、ダイオードD11,D12,D13,D14、および、キャパシタC11,C12,C13,C14が並列に接続されている。スイッチング素子Q11~Q14はMOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q11~Q14は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD11~D14は、実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC11~C14は、実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0027】
第1レグの中点と、第2レグの中点との間には、トランスTの第1巻線n1が接続されている。これにより、第1巻線n1は、第1フルブリッジ回路100を介して、入出力端子IO11,IO12に接続されている。トランスTの第1巻線n1と、第1レグの中点との間には、インダクタL1が設けられている。ただし、インダクタL1は、第1巻線n1と第2レグの中点との間に設けられていてもよい。また、インダクタL1は、第1巻線n1と第1レグの中点との間と、第1巻線n1と第2レグの中点との間とに分割して配置されてもよい。インダクタL1は、実素子、トランスTの漏れインダクタンス、または、実素子と漏れインダクタンスとの組み合わせであってもよい。
【0028】
第2ポート20は、第1フルブリッジ回路200と、第2直流電源E2と、キャパシタCo2と、第2インダクタL2とを有する。2つの第1入出力端子IO21,IO22の間には、第2直流電源E2と、第2キャパシタCo2とが並列に接続される。なお、第2直流電源E2に代えて、電圧制御された変換器などの、その他の電圧源が用いられてもよい。
【0029】
第2フルブリッジ回路200は、スイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22とが直列接続された第3レグと、スイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24とが直列接続された第4レグと、を有している。第3レグおよび第4レグは、2つの第2入出力端子IO21,IO22の間に接続される。
【0030】
スイッチング素子Q21,Q22,Q23,Q24には、ダイオードD21,D22,D23,D24、および、キャパシタC21,C22,C23,C24が並列に接続されている。スイッチング素子Q21~Q24はMOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q21~Q24は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD21~D24は、実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC21~C24は、実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0031】
第3レグの中点と、第4レグの中点との間には、トランスTの第2巻線n2が接続されている。これにより、第2巻線n2は、第2フルブリッジ回路200を介して、入出力端子IO21,IO22に接続されている。トランスTの第2巻線n2と、第3レグの中点との間には、第2インダクタL2が設けられている。ただし、第2インダクタL2は、第2巻線n2と第4レグの中点との間に設けられていてもよい。また、インダクタL2は、第2巻線n2と第3レグの中点との間と、第2巻線n2と第4レグの中点との間とに分割して配置されてもよい。第2インダクタL2は、実素子、トランスTの漏れインダクタンス、または、実素子と漏れインダクタンスとの組み合わせであってもよい。
【0032】
第3ポート30は、第3フルブリッジ回路300と、第3直流電源E3と、キャパシタCo3と、第3インダクタL3とを有する。2つの第1入出力端子IO31,IO32の間には、第3直流電源E3と、第3キャパシタCo3とが並列に接続される。なお、第3直流電源E3に代えて、電圧制御された変換器などの、その他の電圧源が用いられてもよい。
【0033】
第3フルブリッジ回路300は、スイッチング素子Q31とスイッチング素子Q32とが直列接続された第5レグと、スイッチング素子Q33とスイッチング素子Q34とが直列接続された第6レグと、を有している。第5レグおよび第6レグは、2つの第3入出力端子IO31,IO32の間に接続される。
【0034】
スイッチング素子Q31,Q32,Q33,Q34には、ダイオードD31,D32,D33,D34、および、キャパシタC31,C32,C33,C34が並列に接続されている。スイッチング素子Q31~Q34はMOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q31~Q34は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD31~D34は、実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC31~C34は、実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0035】
第5レグの中点と、第6レグの中点との間には、トランスTの第3巻線n3が接続されている。これにより、第3巻線n3は、第3フルブリッジ回路300を介して、入出力端子IO31,IO32に接続されている。トランスTの第3巻線n3と、第5レグの中点との間には、第3インダクタL3が設けられている。ただし、第3インダクタL3は、第3巻線n3と第6レグの中点との間に設けられていてもよい。また、インダクタL3は、第3巻線n3と第5レグの中点との間と、第3巻線n3と第6レグの中点との間とに分割して配置されてもよい。第3インダクタL3は、実素子、トランスTの漏れインダクタンス、または、実素子と漏れインダクタンスとの組み合わせであってもよい。
【0036】
スイッチング素子Q11~Q14、スイッチング素子Q21~Q24およびスイッチング素子Q31~Q34のそれぞれのゲート端子は、制御回路90からの出力される信号を受信可能に回路配線されている。制御回路90は、TABコンバータ1の出力電力が設定される目標電力となるように、第1ポート10のスイッチング素子Q11~Q14、第2ポート20のスイッチング素子Q21~Q24、および、第3ポート30のスイッチング素子Q31~Q34のそれぞれをスイッチング制御する。
【0037】
このようなTABコンバータ1において、制御回路90は、第1ポート10の第1フルブリッジ回路100、第2ポート20の第2フルブリッジ回路200、および第3ポート30の第3フルブリッジ回路300のそれぞれに対してスイッチング制御を行う。これにより、各ポート10,20,30のインダクタL1,L2,L3の両端には、矩形波状のポート電圧Vx,Vy,Vzが発生する。TABコンバータ1では、これらのポート電圧Vx,Vy,Vzの位相差を制御することによって、ポート間の電力伝送を行う。
【0038】
<2.TABコンバータにおける干渉と従来の非干渉化について>
ここで、本実施形態における非干渉化を行うTABコンバータの制御方法の説明の前に、TABコンバータにおける第2ポートと第3ポートとの干渉と、従来の非干渉化の手法について説明する。
【0039】
TABコンバータ1は、第1ポート10、第2ポート20および第3ポート30の3つのポートが、トランスTを介して磁気的に接続されている一方で、電気的に絶縁している。また、第1ポート10、第2ポート20および第3ポート30の電力和がゼロとなる範囲で入出力が可変である。第1フルブリッジ回路100、第2フルブリッジ回路200および第3フルブリッジ回路300の位相差によって、ポート間で電力の伝送を行うことができる。
【0040】
第2ポート20における出力電流のみを考慮して第2ポート20の第1ポート10に対する位相差を制御すると、第2ポート20だけでなく、第3ポート30の出力電流も変動してしまう。これにより、第2ポート20と第3ポート30との間で干渉が発生する。そこで、ポート間の「非干渉化」を行う必要がある。「非干渉化」とは、具体的には、干渉が発生するポートに対して、干渉を打ち消すように操作量を調整する制御を行うことを指す。
【0041】
上述の非特許文献1では、本来矩形波である各ポート10,20,30のポート電圧Vx,Vy,Vzを基本波によって近似した近似電圧波形から、各ポート10,20,30を流れるポート電流の近似電流波形を導出する。そして、導出した近似電流波形に対して、各動作点での線形近似モデルを用いて非干渉化を行っている。ポート電圧Vx,Vy,Vzを基本波で近似した場合、第2ポート20を流れる電流Iおよび第3ポート30を流れる電流Iの近似電流波形はそれぞれ、第2ポート20の第1ポート10に対する位相シフト角φ、第3ポート30の第1ポート10に対する位相シフト角φを用いて、次のように表される。
【数1】
【数2】
【数3】
なお、K11,K12,K13,K14は以下の通りである。
【数4】
ここで、V,Vは、第iポートおよび第jポートにおける直流バス電圧、fSWはフルブリッジ回路100~300のスイッチング周波数、Lijは第iポート-第jポート間の等価インダクタンスである。
【0042】
このような関係から、各動作点(φ,φ)における、その微小変化(Δφ,Δφ)に対する出力電流I,Iの変化量は以下のように表せる。
【数5】
ここで、行列Gの成分であるG11,G12,G21,G22は以下の通りである。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0043】
上述の非特許文献1は、この行列Gを対角化する逆行列H=G-1を算出し、前置補償器として挿入することによって非干渉化を行うものである。
【0044】
このような非干渉化の手法において、2つの課題があった。1つは、矩形波であるポート電圧に対して、基本波による近似を行うと、モデル誤差が残存すること。そして、もう1つは、数5の式を用いて算出された(Δφ,Δφ)は変化量であるため、そのままTABコンバータ1の制御に用いると、重負荷時に誤差が生じ、出力電流制御が不安定になる。以下に説明するTABコンバータ1の制御方法を用いることにより、モデル誤差の低減および出力電流の制御の安定化を行うことができる。
【0045】
<3.本実施形態のTABコンバータの制御方法について>
続いて、本実施形態におけるTABコンバータ1の制御方法について、図2を参照しつつ説明する。図2は、制御回路90およびモデル化したTABコンバータ1における信号の流れを模式的に示したブロック図である。図2の左側は、本実施形態の制御回路90における信号の流れを示している。図2の右側は、TABコンバータ1における信号の動きをモデル化したモデルMである。
【0046】
この制御回路90は、モデルMを用いて算出された逆ヤコビ行列を用いて第2ポート20の第1ポート10に対する位相シフト角φと、第3ポート30の第1ポート10に対する位相シフト角φとを算出し、これらの位相シフト角φ,φに基づいた制御信号をTABコンバータ1に入力することで、TABコンバータ1に対して非干渉化制御を行う。
【0047】
制御回路90には、図2の左端に示すように、第2ポート20のポート電流Itab2の出力電流指令値Itab2 と、第3ポート30のポート電流Itab3の出力電流指令値Itab3 とが入力される。制御回路90は、第2ポート20の第1ポート10に対する位相シフト角φと、第3ポート30の第1ポート10に対する位相シフト角φとを算出する。
【0048】
図2の中央に示すように、制御回路90は、算出した位相シフト角φ,φに基づいた制御信号をモデルMに入力している。実際にTABコンバータ1を制御する場合には、制御回路90は、算出した位相シフト角φ,φに基づいた制御信号をTABコンバータ1に入力する。具体的には、制御回路90は、算出した位相シフト角φ,φに基づいて、第1フルブリッジ回路100、第2フルブリッジ回路200および第3フルブリッジ回路300に含まれるスイッチング素子Q11~Q14,Q21~Q24,Q31~Q34のそれぞれに駆動信号を出力してスイッチング制御する。これにより、TABコンバータ1の第2ポート20および第3ポート30にはそれぞれ、ポート電流Itab2,Itab3が流れる。
【0049】
ここで、図2に示すTABコンバータ1のモデルMの設計方法について説明する。モデルMは、位相シフト角φ,φに対応するスイッチング信号がTABコンバータ1に入力された場合にTABコンバータ1の第2ポート20および第3ポート30に流れるポート電流Itab2,Itab3を、近似モデルを用いて算出するものである。モデルMは、後述するヤコビ行列Gを用いて示されたモデルである。このモデルMでは、第2ポート20の第1ポート10に対する位相シフト角φと、第3ポート30の第1ポート10に対する位相シフト角φとを入力とし、第2ポート20および第3ポート30のポート電流Itab2,Itab3を出力する。
【0050】
図2に示すように、モデルMは、微分器81a,81b、ヤコビ行列演算部82、積分器83a,83bを有する。モデルMは、TABコンバータ1に入力されるスイッチング信号の位相シフト角φ,φを入力とする。
【0051】
TABコンバータ1において、入力されるスイッチング信号の位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφと、第2ポート20および第3ポート30に流れるポート電流Itab2,Itab3の変化量ΔItab2,ΔItab3とは次式のような関係がある。
【数10】
【0052】
モデルMは、この関係を用いたものである。モデルMでは、入力された位相シフト角φ,φをそれぞれ微分器81a,81bにおいて微分され、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφが算出される。そして、ヤコビ行列演算部82において、この変化量にヤコビ行列Gを積算して、上式のようにポート電流Itab2,Itab3の変化量ΔItab2,ΔItab3を得る。このとき、ヤコビ行列Gは次式で表される。
【数11】
【0053】
続いて、変化量ΔItab2,ΔItab3を積分器83a,83bにおいて積算して、ポート電流Itab2,Itab3を得ることができる。
【0054】
このモデルMにおいて、ヤコビ行列Gは、ポート電流Itab2,Itab3の目標電流波形の近似モデルである近似電流波形を用いて算出される。このとき、目標電流波形と近似電流波形との誤差が小さいほど、制御回路90における非干渉化を精度良く行うことができる一方で、近似モデルが複雑化するほど、制御回路90における演算量が多くなり、リソースを圧迫するという問題が生じる。このため、誤差の大きさと演算量とのバランスの良い近似モデルを使用することが好ましい。
【0055】
図3は、矩形波の3種類の近似モデルを示した図である。図3には、矩形波と、矩形波を基本波のみで近似したモデルと、矩形波を基本波および3次高調波を重畳して近似したモデルと、矩形波を基本波、3次高調波および5次高調波を重畳して近似したモデルとが示されている。図3に示すように、基本波のみの近似モデルは、矩形波に対して誤差が大きいのに対して、高調波を重畳した近似モデルでは、重畳する高調波の数が多くなるにつれて、誤差が小さくなる。一方で、重畳する高調波の数が多くなるにつれて、制御回路90における制御信号の算出の処理負荷が大きくなる。
【0056】
このため、本実施形態の制御回路90においては、矩形波である各ポート10,20,30のポート電圧Vx,Vy,Vzの近似モデルである近似電圧波形として、基本波および高調波を重畳した連続関数を用いる。そして、連続関数である近似電圧波形から、ポート電流Itab2,Itab3の近似電流波形を導出する。この近似電流波形を用いて、ポート間の干渉を抑制する非干渉化制御を行う。これにより、ポート電圧Vx,Vy,Vzの近似電圧波形として、基本波のみで表された近似関数を用いて非干渉化制御を行う場合と比べて、実際のポート電圧Vx,Vy,Vzとの誤差が小さくなる。したがって、近似電圧波形から導出されるポート電流Itab2,Itab3の近似電流波形の近似による誤差も小さくなる。その結果、ポート間の干渉をより抑制できる。
【0057】
具体的には、矩形波である各ポート電圧Vx,Vy,Vzの近似電圧波形として、基本波および3次高調波を重畳した関数か、基本波、3次高調波および5次高調波を重畳した関数かのいずれか一方を用いる。以下では、各ポート電圧Vx,Vy,Vzの近似電圧波形として基本波および3次高調波を重畳して近似た関数を用いる場合について説明を行う。
【0058】
ここで、ポート電圧Vx,Vy,Vzを、基本波(1次)と、奇数次高調波とを重畳した関数で近似した場合のポート電流Itab2,Itab3の近似電流波形は、次式のように表される。
【数12】
【数13】
ここで、L12,L23,L31は以下の通りである。
【数14】
【数15】
【数16】
【0059】
なお、nは、近似電圧波形において重畳する正弦波の数を表している。つまり、n=1の場合、単一の正弦波、すなわち、基本波のみで近似したモデルとなる。n=2の場合、2つの正弦波、すなわち、基本波および3次高調波を重畳したモデルとなる。また、n=3の場合、3つの正弦波、すなわち、基本波、3次高調波および5次高調波を重畳したモデルとなる。
【0060】
n=2の場合、すなわち、基本波および3次高調波の近似モデルの場合には、数12および数13に示すポート電流Itab2,Itab3の近似電流波形は以下のようになる。
【数17】
【数18】
【0061】
当該近似モデルにおけるポート電流Itab2,Itab3を、φおよびφでそれぞれ偏微分すると、以下のようになる。
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【0062】
式11より、ヤコビ行列Gの各成分を、以下のように定義する。
【数23】
ここで、G11,G12,G21,G22はそれぞれ以下の通りである。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0063】
図2に示すモデルMにおいて、ヤコビ行列演算部82は、行列成分乗算部82a,82b,82c,82d、加算器82e,82fおよび係数乗算部82g,82hを有する。
【0064】
行列成分乗算部82aは、位相シフト角φの変化量Δφにヤコビ行列Gの成分G11を乗算し、Δφ・G11を算出する。行列成分乗算部82bは、位相シフト角φの変化量Δφにヤコビ行列Gの成分G12を乗算し、Δφ・G12を算出する。行列成分乗算部82cは、位相シフト角φの変化量Δφにヤコビ行列Gの成分G21を乗算し、Δφ・G21を算出する。行列成分乗算部82dは、位相シフト角φの変化量Δφにヤコビ行列Gの成分G22を乗算し、Δφ・G22を算出する。
【0065】
行列成分乗算部82a,84bにおいて算出されたΔφ・G11およびΔφ・G12は、加算器82eで加算され、その後、係数乗算部82gにおいて8/πωが乗算される。一方、行列成分乗算部82c,84dにおいて算出されたΔφ・G21およびΔφ・G22は、加算器82fで加算され、その後、係数乗算部82hにおいて8/πωが乗算される。これにより、次式で示すポート電流Itab2,Itab3の変化量ΔItab2,ΔItab3を得る。
【数28】
【0066】
続いて、このようなモデルMを用いた制御回路90における非干渉化制御の方法を説明する。
【0067】
図4は、本実施形態における制御回路90において、非干渉化を考慮したTABコンバータ1の制御方法の流れを示したフローチャートである。図4に示す制御回路90における非干渉化制御を行うにあたり、各ポート電圧Vx,Vy,Vzの近似電圧波形として、基本波と3次高調波とを重畳した近似関数が準備されている。
【0068】
TABコンバータ1を制御する際には、図4に示すように、制御回路90は、サンプリング周期毎に、ステップS1~S4を繰り返し行う。まず、微分による近似モデルであるヤコビ行列Gを算出する(ステップS1)。これにより、近似モデルにおける位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφと、モデルMから出力されるポート電流Itab2,Itab3の変化量ΔItab2,ΔItab3との関係が算出される。
【0069】
ここで、数28に示すように、第2ポート20のポート電流Itab2が第3ポート30の位相シフト角φの変化量に干渉されるとともに、第3ポート30のポート電流Itab3が第2ポート20の位相シフト角φの変化量に干渉される。この干渉を打ち消すべく、次のステップS2において逆ヤコビ行列Hを算出する。
【0070】
ヤコビ行列Gを算出した後、制御回路90は、逆ヤコビ行列Hを算出する(ステップS2)。逆ヤコビ行列Hとは、ヤコビ行列Gの逆行列であり、ヤコビ行列Gと乗算すると単位行列となる行列である。すなわち、逆ヤコビ行列Hは、微分による近似モデルであるヤコビ行列Gの逆モデルである。ヤコビ行列Gと逆ヤコビ行列Hとは、以下のような関係を有する。
【数29】
【0071】
逆ヤコビ行列Hの各成分H11,H12,H21,H22は、次式のように求められる。
【数30】
【0072】
なお、制御回路90における実際の動作としては、ステップS1とステップS2を統合し、ヤコビ行列Gの各成分G11,G12,G21,G22を算出することなく、数23~27および数30の関係を用いて、直接逆ヤコビ行列H11,H12,H21,H22の各成分を算出してもよい。
【0073】
逆ヤコビ行列Hが算出されると、制御回路90は、逆ヤコビ行列を用いて、第2ポート20のポート電流Itab2の出力電流指令値Itab2 および第3ポート30のポート電流Itab3の出力電流指令値Itab3 に基づいて、制御値である位相シフト角φ,φを算出する(ステップS3)。
【0074】
ここで、図2を参照しつつ、制御回路90における制御値の算出手順を説明する。図2には、制御回路90の動作に対応する制御ブロックとして、レギュレータ91a,91bと、逆ヤコビ行列演算部92と、積分器93a,93bとが示されている。
【0075】
ステップS3では、まず、第2ポート20および第3ポート30のポート電流Itab2,Itab3の目標変化量ΔItab2,ΔItab3を算出する(ステップS31)。具体的には、図2に示すように、制御回路90は、第2ポート20のポート電流Itab2の出力電流指令値Itab2 と実電流Itab2の電流検出値とを、レギュレータ91aに入力する。レギュレータ91aは、出力電流指令値Itab2 と実電流Itab2の電流検出値とを用いて、ポート電流Itab2の目標変化量ΔItab2を算出する。
【0076】
また、制御回路90は、第3ポート30のポート電流Itab3の出力電流指令値Itab3 と実電流Itab3の電流検出値とを、レギュレータ91bに入力する。レギュレータ91bは、出力電流指令値Itab3 と実電流Itab3の電流検出値とを用いて、ポート電流Itab3の目標変化量ΔItab3を算出する。
【0077】
続いて、制御回路90は、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを算出する(ステップS32)。ステップS32では、制御回路90は、逆ヤコビ行列演算部92において、算出された目標変化量ΔItab2,ΔItab3に、逆ヤコビ行列Hを乗算する。これにより、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφが算出される。すなわち、ステップS32では、算出された目標変化量ΔItab2,ΔItab3と、ヤコビ行列Gの逆モデルである逆ヤコビ行列Hの演算式とを用いて、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを算出する。位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφは、次式で表される。
【数31】
【0078】
具体的には、図2に示す制御回路90の制御ブロック図において、逆ヤコビ行列演算部92は、行列成分乗算部92a,92b,92c,92dおよび加算器92e,92fを有する。
【0079】
行列成分乗算部92aは、算出された目標変化量ΔItab2に逆ヤコビ行列Hの成分H11を乗算し、ΔItab2・H11を算出する。行列成分乗算部92bは、算出された目標変化量ΔItab3に逆ヤコビ行列Hの成分H12を乗算し、ΔItab3・H12を算出する。行列成分乗算部92cは、算出された目標変化量ΔItab2に逆ヤコビ行列Hの成分H21を乗算し、ΔItab2・H21を算出する。行列成分乗算部92dは、算出された目標変化量ΔItab3に逆ヤコビ行列Hの成分H22を乗算し、ΔItab3・H22を算出する。
【0080】
行列成分乗算部92a,92bにおいて算出されたΔItab2・H11およびΔItab3・H12は、加算器92eで加算される。一方、行列成分乗算部92c,92dにおいて算出されたΔItab2・H21およびΔItab3・H22は、加算器92fで加算さる。これにより、次式のような位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφが算出される。
【数32】
【0081】
そして、制御回路90は、逆ヤコビ行列演算部92から出力された位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφをそれぞれ積分器93a,93bに入力し、制御値である位相シフト角φ,φを算出する(ステップS33)。積分器93a,93bにおいては、以下のように変化量を積算して位相シフト角φ,φを算出する。なお、以下では、当該周期におけるφ2(n) ,φ3(n)は、n回目の演算におけるφ,φのそれぞれの値を示し、Δφ2(n) ,Δφ3(n)は、n回目の演算におけるΔφ,Δφのそれぞれの値を示す。
【数33】
【数34】
【0082】
すなわち、このステップS33では、計算開始から現在までの期間における過去のステップS32で算出した全ての変化量Δφ,Δφと、今回の(新たな)ステップS32で算出した変化量Δφ,Δφとを全て加算して、位相シフト角φ,φを算出する。
【0083】
なお、積分器93a,93bにおいて、前回のステップS33で算出された位相シフト角φ,φと、今回の(新たな)ステップS32で算出された変化量Δφ,Δφとを加算することによって、新たな位相シフト角φ,φを算出してもよい。その場合、n回目の演算におけるφ,φの値を示すφ2(n) ,φ3(n)は、以下のように算出される。
【数35】
【数36】
【0084】
ここで、図5は、積分器93a,93bにおける位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφの積算による動作特性を概念的に示した図である。図5においては、横軸が位相シフト角φ,φを表し、縦軸が出力電流、すなわちポート電流Itab2,Itab3を表している。図5中、TABコンバータ1の動作特性の電流軌跡を実線、上記のような積算を行った場合の電流軌跡を破線で示している。また、図5中、n=4における変化量Δφ(4)を積算しない場合の電流軌跡を二点鎖線の太線、その延長線を二点鎖線の細線で示している。
【0085】
Δφ(n)の演算後、積分器93a,93bによる積算を行わない場合、Δφ(n)と、ΔItabとの関係が原点を通過する線形近似式によって動作点が決まる。このため、n=4の場合、二点鎖線の太線および細線で示す線形近似直線上の点が動作点(図5中の「積算なしの動作点」)となる。
【0086】
これに対し、本実施形態では、Δφ(n)の演算の度に積分器93a,93bにおいて積算を行うことにより、線形近似モデルであるヤコビ行列Gを用いたモデルにおける近似線の切片を、図5中に破線で示すように、原点から、積算した動作点(図5中の「積算ありの動作点」)へ移動することができる。これにより、動作特性との誤差が小さくなるため、目標とする電流軌跡と同等の動作点となり、同等の位相の軌跡を得ることができる。その結果、重負荷時にも安定した電力特性を得ることができる。
【0087】
このようにステップS3で位相シフト角φ,φが算出された後、制御回路90は、位相シフト角φ,φに基づいて、TABコンバータ1の第1フルブリッジ回路100、第2フルブリッジ回路200および第3フルブリッジ回路300に含まれるスイッチング素子Q11~Q14,Q21~Q24,Q31~Q34のそれぞれに駆動信号を出力してスイッチング制御する(ステップS4)。
【0088】
このような非干渉化制御を行うことにより、第2ポート20と第3ポート30との間におけるポート電流Itab2,Itab3の干渉を、従来の手法よりも抑制することができる。
【0089】
なお、上記の実施形態の説明において、制御回路90が「『行列』を算出する」と記載しているが、制御回路90が行列の形式で算出してもよいし、行列の各成分を算出するものであってもよい。同様に、各数式で示す行列計算式についても、行列の形式で行列計算を行ってもよいし、計算前の行列の各成分から、求めるべき行列の各成分を算出してもよい。
【0090】
<4.シミュレーション>
<4-1.シミュレーション1>
上記の実施形態の非干渉化制御の効果を確認するために、制御回路90において逆ヤコビ行列Hの乗算を行っていない場合(以下「干渉あり」と称する)と、逆ヤコビ行列Hの乗算を行った場合(以下「非干渉化」と称する)とについて、次の条件でシミュレーションを行った。
[共通条件]
第2ポート20の目標電流値:0.5A→3.0Aへのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:0.5Aのまま維持
[非干渉化制御]
近似モデル:基本波+3次高調波
位相シフト角の変化量の積算の有無:あり
【0091】
図6は、シミュレーション1の結果を示した図である。このシミュレーション1では、第2ポート20のポート電流Itab2を変更した場合に、第3ポート30のポート電流Itab3に非干渉化制御の有無によってどのような変化が生じるかを観察することができる。図6の上段には第2ポート20のポート電流Itab2について、図6の下段には第3ポート30のポート電流Itab3について、それぞれ、電流指令値と、干渉ありの場合と、非干渉化を行った場合とが示されている。
【0092】
図6に示すように、第2ポート20のポート電流Itab2の電流変動時において、干渉ありの場合には、第3ポート30において、ポート電流Itab3が一時的に約0.45A低下した。これに対し、非干渉化を行った場合には、第3ポート30において、ポート電流Itab3が一時的に約0.08A上昇した後に、約0.03Aの低下に転じた。これより、非干渉化を行った場合には、干渉ありの場合と比べて、第2ポート20における電流変動による干渉によって生じる第3ポート30における電流変動の値が大幅に小さくなることがわかる。
【0093】
<4-2.シミュレーション2>
続いて、近似モデルの違いによる非干渉化の効果を確認するために、3種類の近似モデルについて、以下の条件でシミュレーションを行った。
[条件]
近似モデル:3種類
・基本波のみ
・基本波+3次高調波
・基本波+3次高調波+5次高調波
第2ポート20の目標電流値:0.5A→3.5Aへのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:0.5Aのまま維持
位相シフト角の変化量の積算の有無:あり
【0094】
図7は、シミュレーション2の結果を示した図である。図7において、左列は、近似モデルが基本波のみの場合、中央列は、近似モデルが基本波および3次高調波の重畳である場合、右列は、近似モデルが基本波、3次高調波および5次高調波の重畳である場合の結果である。また、図7の各列において、上段は第2ポート20のポート電流Itab2、下段は第3ポート30のポート電流Itab3を示している。シミュレーション2において、第3ポート30のポート電流Itab3の変動量は、以下の通りである。
[シミュレーション結果]
基本波のみ:0.025A
基本波+3次高調波:0.021A
基本波+3次高調波+5次高調波:0.017A
【0095】
シミュレーション2の結果から、高調波重畳の次数を増やすにつれて、第2ポート20の電流値変化における第3ポート30への干渉の影響が低減していることがわかる。すなわち、制御回路90において、高調波重畳モデルの逆ヤコビ行列Hを用いることにより、TABコンバータ1において、2つの出力ポート間における干渉をより抑制できるといえる。
【0096】
<4-3.シミュレーション3>
また、積分器93a,93bにおける位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφの積算の有無によるポート電流Itab2,Itab3の動作安定性を比較するために、以下の条件でシミュレーションを行った。
[条件]
近似モデル:基本波+3次高調波
第2ポート20の目標電流値:0.5A→5.0A(重負荷相当)へのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:0.5Aのまま維持
位相シフト角の変化量の積算の有無:2種類 なし/あり
【0097】
図8は、シミュレーション3の結果を示した図である。図8において、左列は、位相シフト角の変化量の積算を行っていない場合(図8中「積算なし」)、右列は、位相シフト角の変化量の積算を行っている場合(図8中「積算あり」)の結果である。また、図8の各列において、上段は第2ポート20のポート電流Itab2、下段は第3ポート30のポート電流Itab3を示している。
【0098】
図8に示すように、積算なしの場合には、重負荷領域で制御が発散し、指令値に追従した動作を行うことができなかった。これに対し、積算ありの場合には、安定した動作を行うことができた。すなわち、制御回路90において、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを積算することにより、TABコンバータ1において、より安定した非干渉化制御を行うことができるといえる。
【0099】
<5.実験>
<5-1.実験1>
上記の実施形態の非干渉化制御の効果を確認するために、制御回路90において逆ヤコビ行列Hの積算を行っていない場合(以下「干渉あり」と称する)と、逆ヤコビ行列Hの積算を行った場合(以下「非干渉化」と称する)とについて、TABコンバータ1を用いて次の条件で実験を行った。
[共通条件]
第2ポート20の目標電流値:1.5A→4.5Aへのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:1.5Aのまま維持
[非干渉化制御]
近似モデル:基本波+3次高調波
位相シフト角の変化量の積算の有無:あり
【0100】
図9は、実験1の結果を示した図である。この実験1では、第2ポート20のポート電流Itab2を変更した場合に、第3ポート30のポート電流Itab3に非干渉化制御の有無によってどのような変化が生じるかを観察することができる。図9の上段には干渉ありの条件での第2ポート20のポート電流Itab2および第3ポート30のポート電流Itab3について、図9の下段には非干渉化の条件での第2ポート20のポート電流Itab2および第3ポート30のポート電流Itab3について、サンプリング周期間で平均化した電流波形が示されている。
【0101】
図9に示すように、第2ポート20のポート電流Itab2の電流変動時において、干渉ありの場合には、第3ポート30において、ポート電流Itab3が一時的に約1.32A低下した。これに対し、非干渉化を行った場合には、第3ポート30において、ポート電流Itab3の一時的な変動量は、58.0mAとなった。これより、非干渉化を行った場合には、干渉ありの場合と比べて、第2ポート20における電流変動による干渉によって生じる第3ポート30における電流変動の値が大幅に小さくなることがわかる。
【0102】
<5-2.実験2>
次に、近似モデルの違いによる非干渉化の効果を確認するために、3種類の近似モデルについて、以下の条件で実験を行った。その他の条件は、実験1の非干渉化制御と同様である。
[条件]
近似モデル:3種類
・基本波のみ
・基本波+3次高調波
・基本波+3次高調波+5次高調波
第2ポート20の目標電流値:1.5A→4.5Aへのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:1.5Aのまま維持
位相シフト角の変化量の積算の有無:あり
【0103】
図10は、実験2の結果を示した図である。図10において、上段は、近似モデルが基本波のみの場合、中段は、近似モデルが基本波および3次高調波の重畳である場合、下段は、近似モデルが基本波、3次高調波および5次高調波の重畳である場合の結果である。実験2において、第3ポート30のポート電流Itab3の変動量は、以下の通りである。
[実験結果]
基本波のみ:0.27A
基本波+3次高調波:0.25A
基本波+3次高調波+5次高調波:0.21A
【0104】
実験2の結果から、高調波重畳の次数を増やすにつれて、第2ポート20の電流値変化における第3ポート30への干渉の影響が低減していることがわかる。すなわち、制御回路90において、高調波重畳モデルの逆ヤコビ行列Hを用いることにより、TABコンバータ1において、2つの出力ポート間における干渉をより抑制できるといえる。
【0105】
<5-3.実験3>
続いて、積分器93a,93bにおける位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφの積算の有無によるポート電流Itab2,Itab3の動作安定性を比較するために、以下の条件で実験を行った。その他の条件は、実験1の非干渉化制御と同様である。
[条件]
近似モデル:基本波+3次高調波
第2ポート20の目標電流値:2種類
・0.50A→3.50Aへのステップ変化
・0.50A→5.17Aへのステップ変化
第3ポート30の目標電流値:0.50Aのまま維持
位相シフト角の変化量の積算の有無:2種類 なし/あり
【0106】
図11は、実験3の結果を示した図である。図11において、左列は、位相シフト角の変化量の積算を行っていない場合(図11中「積算なし」)、右列は、位相シフト角の変化量の積算を行っている場合(図11中「積算あり」)の結果である。また、図11の各列において、上段は比較的軽負荷な場合、下段は比較的重負荷な場合の結果である。なお、比較的軽負荷な場合とは、第2ポート20のポート電流Itab2を0.50Aから3.50A(負荷率54%)へステップ変化させる場合である。また、比較的重負荷な場合とは、第2ポート20のポート電流Itab2を0.50Aから5.17A(負荷率80%)へステップ変化させる場合である。
【0107】
図11に示すように、積算なしの場合には、比較的軽負荷な場合であっても、積算ありの場合に比べて第2ポート20および第3ポート30の双方においてポート電流Itab2,Itab3の振動が大きくなっている。また、比較的重負荷な場合には、積算なしでは制御が発散し、指令値に追従した動作を行うことができなかった。これに対し、積算ありの場合には、重負荷であっても安定した動作を行うことができた。これより、制御回路90において、位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを積算することにより、TABコンバータ1において、より安定した非干渉化制御を行うことができるといえる。
【0108】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0109】
上記の実施形態では、ポートを3つ有するトリプルアクティブブリッジコンバータの非干渉化制御について説明したが、本発明はこれに限られない。フルブリッジ回路を有するポートを4つ以上有するマルチアクティブブリッジコンバータでも、本発明の逆ヤコビ行列を用いた非干渉化制御方法を適用しうる。
【0110】
上記の実施形態では、高調波を含む近似モデルを用いてヤコビ行列Gおよび逆ヤコビ行列Hを算出し、目標電流と逆ヤコビ行列から位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを算出し、さらに位相シフト角φ,φの変化量Δφ,Δφを積算する方法で非干渉化制御を行った。しかしながら、本発明はこれに限られない。高調波を含む近似モデルを用いて位相シフト角の変化量の積算を行わない方法で非干渉化制御を行っても良いし、基本波のみの近似モデルを用いて位相シフト角の変化量の積算を行う方法で非干渉化制御を行ってもよい。
【0111】
また、上記の実施形態のステップS1、ステップS2、ステップS31およびステップS32に代えて、目標電流(第2ポート20および第3ポート30のポート電流Itab2,Itab3の出力電流指令値Itab2 ,Itab3 )と、検出したポート電流(実電流Itab2,Itab2)とから、予め準備されたテーブルを参照して、第2ポート20および第3ポート30のポート電流Itab2,Itab2の目標変化量ΔItab2,ΔItab3を算出するようにしてもよい。この場合、テーブルは、上記の実施形態のステップS1、ステップS2、ステップS31およびステップS32に相当する工程を、複数の条件で事前に導出した結果により作成される。
【0112】
また、上記の実施形態では、第1ポート10を入力側とし、第2ポート20および第3ポート30を出力側として説明した。しかしながら、TABコンバータ1は、3つのポートのうちのどのポートを入力ポートとしてもよい。その場合、残りのポートが出力ポートとなる。
【0113】
また、上記の実施形態または変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 TABコンバータ
10 第1ポート
20 第2ポート
30 第3ポート
90 制御回路
91a,91b レギュレータ
92 逆ヤコビ行列演算部
93a,93b 積分器
100 第1フルブリッジ回路
200 第2フルブリッジ回路
300 第3フルブリッジ回路
G ヤコビ行列
H 逆ヤコビ行列
L1 第1インダクタ
L2 第2インダクタ
L3 第3インダクタ
M モデル
T トランス
Tc コア
n1 第1巻線
n2 第2巻線
n3 第3巻線
ΔItab2,ΔItab3 目標電流の変化量
φ2,φ3 位相シフト角
Δφ2,Δφ3 位相シフト角の変化量


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11