(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042819
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】コイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
H02K15/085
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147691
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】大曲 賢一
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615QQ03
5H615QQ12
5H615QQ25
5H615SS10
5H615TT35
(57)【要約】
【課題】予め絶縁部材が収容されたスロット内にコイルを挿入する際に、コイルが絶縁部材を巻き込むことのないコイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法を提供すること。
【解決手段】それぞれ絶縁部材を収容した複数のスロットを備えるステータコアの端面に配置され、前記スロットからはみ出した前記絶縁部材の外面を支持するとともに、前記スロット内の前記絶縁部材の内側へのコイルの挿入を案内するガイド部材を有するコイル挿入ガイド装置であって、ガイド部材は、絶縁部材との間の摩擦係数がコイルと絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように構成されている。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ絶縁部材を収容した複数のスロットを備えるステータコアの端面に配置され、前記スロットからはみ出した前記絶縁部材の外面を支持するとともに、前記スロット内の前記絶縁部材の内側へのコイルの挿入を案内するガイド部材を有するコイル挿入ガイド装置であって、
前記ガイド部材は、前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように構成されている、コイル挿入ガイド装置。
【請求項2】
少なくとも前記絶縁部材に接する前記ガイド部材の表面は、前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように粗面加工されている、請求項1に記載のコイル挿入ガイド装置。
【請求項3】
ステータコアの複数のスロット内にそれぞれ絶縁部材を収容し、前記スロット内の前記絶縁部材の内側にコイルを挿入する際に、前記ステータコアの端面にガイド部材を配置し、前記ガイド部材によって、前記スロットからはみ出した前記絶縁部材の外面を支持するとともに前記コイルの挿入を案内するコイル挿入ガイド方法であって、
前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が、前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定する、コイル挿入ガイド方法。
【請求項4】
少なくとも前記絶縁部材に接する前記ガイド部材の表面を粗面加工することによって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定する、請求項3に記載のコイル挿入ガイド方法。
【請求項5】
少なくとも前記絶縁部材に接する前記コイルの表面に摩擦抵抗を下げる処理を施すことによって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定する、請求項3に記載のコイル挿入ガイド方法。
【請求項6】
前記絶縁部材の内面に摩擦抵抗を下げる処理を施すこと、及び、少なくとも前記ガイド部材に接する前記絶縁部材の前記外面に摩擦抵抗を上げる処理を施すこと、のうちの少なくともいずれかの処理を施すことによって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定する、請求項3に記載のコイル挿入ガイド方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻回状態のコイルをステータコアの径方向の外方へ移動させてスロット内に挿入する際に、巻回状態のコイルの外周側にガイド治具を配置し、そのガイド治具によって挿入時のコイルの移動を案内する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ガイド治具の内径側先端は、スロットの開口部よりも径方向内方に突出し、巻回状態のコイルに差し込まれている。巻回状態のコイルには予め絶縁部材が装着されている。コイルは、拡径開始時からガイド治具に案内されながら絶縁部材と共にスロット内に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、巻回状態のコイルの直線部に対して絶縁部材を装着する煩雑な作業が必要である。しかも、コイルは、拡径開始時からガイド治具によって案内されるため、ガイド治具に負荷がかかり易く、ガイド治具が破損し易い。
【0006】
これに対して、予め絶縁部材をステータコアのスロット内に収容しておく方法が考えられる。巻回状態のコイルの直線部に絶縁部材を装着する方法に比べて、絶縁部材の装着作業は容易である。
【0007】
このようにスロット内に予め絶縁部材を収容しておく場合では、コイルは、絶縁部材の内側に挿入される際に絶縁部材の内面を摺擦し、絶縁部材に対して周方向の圧接力を付与しながら径方向に移動する。そのため、絶縁部材には、コイルとの間にも、コイルと共にスロットの奥に向かおうとする摩擦力が働く。また、絶縁部材には、スロット内のコア壁面との摩擦によって上記の力に抵抗する力も同時に働く。スロット内の絶縁部材は、コイル挿入時にこのような力を受けても移動することなくその場にとどまっている必要がある。
【0008】
しかしながら、絶縁部材がコイルと共に奥へ向かおうとする摩擦力が抵抗力よりも大きくなると、絶縁部材の巻き込みが発生し、コイルの移動に伴って絶縁部材がスロット内で移動してしまう。その結果、絶縁部材が破損するおそれがあり、その対策が求められる。
【0009】
本発明は、予め絶縁部材が収容されたスロット内にコイルを挿入する際に、コイルが絶縁部材を巻き込むことのないコイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明に係るコイル挿入ガイド装置は、それぞれ絶縁部材(例えば、後述の絶縁部材25)を収容した複数のスロット(例えば、後述のスロット23)を備えるステータコア(例えば、後述のステータコア2)の端面(例えば、後述の端面2a)に配置され、前記スロットからはみ出した前記絶縁部材の外面(例えば、後述の外面25b)を支持するとともに、前記スロット内の前記絶縁部材の内側へのコイル(例えば、後述のコイル3)の挿入を案内するガイド部材(例えば、後述のガイド部材12)を有するコイル挿入ガイド装置(例えば、後述のコイル挿入ガイド装置1)であって、前記ガイド部材は、前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように構成されている。
【0011】
(2) 上記(1)に記載のコイル挿入ガイド装置において、少なくとも前記絶縁部材に接する前記ガイド部材の表面は、前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように粗面加工されていてもよい。
【0012】
(3) 本発明に係るコイル挿入ガイド方法は、ステータコア(例えば、後述のステータコア2)の複数のスロット(例えば、後述のスロット23)内にそれぞれ絶縁部材(例えば、後述の絶縁部材25)を収容し、前記スロット内の前記絶縁部材の内側にコイル(例えば、後述のコイル3)を挿入する際に、前記ステータコアの端面(例えば、後述の端面2a)にガイド部材(例えば、後述のガイド部材12)を配置し、前記ガイド部材によって、前記スロットからはみ出した前記絶縁部材の外面(例えば、後述の外面25b)を支持するとともに前記コイルの挿入を案内するコイル挿入ガイド方法であって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が、前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定する。
【0013】
(4) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、少なくとも前記絶縁部材に接する前記ガイド部材の表面を粗面加工することによって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定してもよい。
【0014】
(5) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、少なくとも前記絶縁部材に接する前記コイルの表面に摩擦抵抗を下げる処理を施すことによって、前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定してもよい。
【0015】
(6) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、前記絶縁部材の内面(例えば、後述の内面25a)に摩擦抵抗を下げる処理を施すこと、及び、少なくとも前記ガイド部材に接する前記絶縁部材の前記外面に摩擦抵抗を上げる処理を施すこと、のうちの少なくともいずれかの処理を施すことによって前記ガイド部材と前記絶縁部材との間の摩擦係数が、前記コイルと前記絶縁部材との間の摩擦係数よりも大きくなるように設定してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、予め絶縁部材が収容されたスロット内にコイルを挿入する際に、コイルが絶縁部材を巻き込むことのないコイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】コイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法を用いて製造されたステータの斜視図である。
【
図2】コイル挿入ガイド装置にセットされたステータコアと巻回状態のコイルを示す斜視図である。
【
図3】ステータコアのスロットに収容された絶縁部材を示す斜視図である。
【
図4】コイル挿入ガイド装置のガイド部材の側面図である。
【
図5】
図4に示すガイド部材をA方向から見た図である。
【
図7】コイルをコイル巻取治具に巻き取る様子を示す平面図である。
【
図8】コイル挿入ガイド装置にセットされたステータコアの軸孔に巻回状態のコイルが挿入された状態を示す斜視図である。
【
図9】コイル挿入ガイド装置のガイド部材によって支持されたスロット内の絶縁部材の内側にコイルが挿入される様子を示す平面図である。
【
図10】ステータコアのスロット内のコイルとガイド部材に支持された絶縁部材との関係を示す図である。
【
図11】コイル挿入時に絶縁部材がコイルの移動に巻き込まれる様子を説明する平面図である。
【
図12】ガイド部材に絶縁部材を収容するカフス収容溝を設けた場合のステータコアのスロット内のコイルとガイド部材に支持された絶縁部材との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るコイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法について図面を参照して説明する。
図1は、コイル挿入ガイド装置及びコイル挿入ガイド方法を用いて製造されたステータ100を示す。ステータ100は、ステータコア2と、ステータコア2に装着されたコイル3と、を含んで構成される。
【0019】
ステータコア2は、例えば、薄肉のコアプレートが複数積層された積層体からなる円環部21を有する。円環部21の中心には、軸方向に貫通する軸孔22が設けられる。ステータコア2は、ステータコア2の軸方向に貫通する複数のスロット23と、周方向に隣り合うスロット23,23の間に配置される複数のティース24と、を有する。スロット23は、円環部21の周方向に沿って一定の間隔で放射状に配列される。スロット23は、円環部21の径方向の内方の軸孔22及びステータコア2の軸方向(
図1における上下方向)の両方の端面2aにそれぞれ開放している。
【0020】
各スロット23内には、絶縁部材25(
図3参照)がそれぞれ収容されている。絶縁部材25は、ステータコア2を軸方向から見たときのスロット23の略コ字状の内面形状に倣うように、略コ字状に折り曲げられて形成されている。絶縁部材25は、例えば、ノーメックス(商品名)等のアラミド繊維からなる層でポリエチレンナフタレート(PEN)からなる層を挟んだ3層構造のものを使用することができる。
【0021】
コイル3は、ステータコア2の全周に亘り、ステータコア2の各スロット23の絶縁部材25の内側に挿入されている。スロット23に挿入されたコイル3は、ステータコア2の軸方向(
図1における上下方向)の両方の端面2aからそれぞれ円筒状に突出し、ステータ100のコイルエンド101を形成する。
【0022】
図2は、コイル挿入ガイド装置1にセットされたステータコア2と、ステータコア2に装着される前の巻回状態のコイル3を示している。コイル挿入ガイド装置1は、ステータコア2を位置決めする位置決め治具11と、ステータコア2のスロット23へのコイル3の挿入を案内する複数のガイド部材12と、を含んで構成される。
【0023】
位置決め治具11は、ステータコア2の軸方向の寸法に略等しい軸方向の寸法を有する六角柱形状を有し、ステータコア2を挿入して配置可能な貫通孔からなる挿入孔111を中央に有する。位置決め治具11は、挿入孔111内にステータコア2を所定の位置及び姿勢に固定する。詳しくは、位置決め治具11は、挿入孔111内に対して突出及び後退するように移動可能な6つのコア押さえブロック112を有する。位置決め治具11は、挿入孔111内にステータコア2が挿入された後、コア押さえブロック112を、図示しないシリンダ等のアクチュエータの駆動によって、それぞれ挿入孔111内に向けて突出させる。これによって、コア押さえブロック112は、
図2に示すように、それぞれステータコア2の外周を把持し、ステータコア2を所定の位置及び姿勢に固定する。
【0024】
ガイド部材12は、位置決め治具11の軸方向(
図2における上下方向)の両方の端面11aにそれぞれ複数配置される。ガイド部材12は、位置決め治具11の挿入孔111を取り囲むように、端面11aの周方向に沿って放射状に配列するように取り付けられている。位置決め治具11の各端面11aのガイド部材12の数は、ステータコア2の1つおきのスロット23にそれぞれ対応する。本実施形態では、ステータコア2の72個のスロット23に対して36個のガイド部材12が、位置決め治具11の各端面11aにそれぞれ配置されている。ガイド部材12は、図示しないシリンダ等のアクチュエータの駆動によって、ステータコア2の径方向に沿ってそれぞれ進退移動可能に設けられる。
【0025】
図3に示すように、ステータコア2のスロット23に収容された絶縁部材25は、ステータコア2の軸方向の両方の端面2aからそれぞれ突出したカフス部251を有する。ガイド部材12は、位置決め治具11の挿入孔111に向けて内方に前進することによって、絶縁部材25のカフス部251をステータコア2の周方向の両側から挟む。これによって、ガイド部材12は、スロット23への挿入時のコイル3を案内するとともに絶縁部材25を支持する。
【0026】
ガイド部材12は、位置決め治具11の径方向に沿って長尺な薄板状に形成される。
図4及び
図5に示すように、ガイド部材12の内端12a側は、二つに分岐することによって、一対のガイド腕部121,121と、その間に位置決め治具11の内方に向けて開口するガイド溝122と、を有する。ガイド腕部121は、ステータコア2を軸方向から見たときのティース24の形状に略等しい形状をそれぞれ有する。ガイド腕部121の横幅は、ティース24の横幅に略等しく、隣り合うティース24,24間のスロット23にはみ出していない。ガイド溝122は、ステータコア2の端面2aに開口するスロット23の略コ字状の開口形状に略等しい形状を有する。ガイド溝122は、絶縁部材25のカフス部251を収容してカフス部251を挟むように支持する。
【0027】
図4及び
図5に示すように、位置決め治具11の端面11a及びステータコア2の端面2aに対向するガイド部材12の下面12bは、平坦面である。ガイド部材12の一対のガイド腕部121,121は、
図4に示すように、内端12aに向うに従って板厚が徐々に薄くなるテーパー状に形成される。
【0028】
ステータコア2のスロット23に装着される前のコイル3は、コイル巻取治具4にステータコア2の軸孔22の径よりも小径になるように巻き取られている。コイル3は、
図6に示すように、6本の波巻コイル30を重ね合わせることによって帯状に構成される。波巻コイル30は、ステータコア2のスロット23に挿入される直線部31と、この直線部31の端部を交互に山型状に連結する渡り部32と、をそれぞれ有する。各波巻コイル30の表面には、例えばポリイミド(PI)等の樹脂材からなる図示しない絶縁被膜が形成されている。
【0029】
コイル巻取治具4は、
図2及び
図7に示すように、円筒形状の治具本体41と、治具本体41の外周に放射状に突出する複数の櫛歯部42と、周方向に隣り合う櫛歯部42,42の間に形成される複数の巻取り溝43と、を有する。櫛歯部42及び巻取り溝43は、治具本体41の軸方向の両端部にそれぞれ設けられる。櫛歯部42の先端の位置によって規定されるコイル巻取治具4の外径は、ステータコア2の軸孔22の径よりも小径になるように形成されている。コイル巻取治具4は、
図7に示すように、コイル3を構成する波巻コイル30の各直線部31を巻取り溝43に順次挿入することによって、コイル3を多重に巻き取っている。
【0030】
コイル3が円環状に巻き取られたコイル巻取治具4は、
図8に示すように、コイル挿入ガイド装置1の位置決め治具11に固定されたステータコア2の軸孔22内に挿入される。その後、コイル挿入ガイド装置1は、各ガイド部材12を、図示しないアクチュエータの駆動によって径方向の内方に向けて前進させる。これによって、ガイド部材12は、ガイド溝122にステータコア2の端面2aから突出する絶縁部材25のカフス部251を挟むように支持し、絶縁部材25を位置決めする。
【0031】
最も前進したときのガイド部材12の内端12aの位置は、
図9に示すように、ティース24の内端24aの位置に一致しており、軸孔22側には突出していない。ガイド部材12は、スロット23に挿入される前のコイル3とは接触しないため、コイル挿入時にガイド部材12に余計な負荷が掛かることはない。なお、
図9では、説明の理解を容易にするため、ステータコア2の一つのスロット23のみに絶縁部材25が収容され、この絶縁部材25のカフス部251を支持する一つのガイド部材12のみが示されている。
【0032】
図8に示すように、ガイド部材12が前進してガイド溝122によって絶縁部材25のカフス部251を挟むように支持した際、周方向に隣接するガイド部材12,12のガイド腕部121,121の間にも、ガイド溝122と同様の間隙が形成される。したがって、ガイド部材12に対応していないスロット23内の絶縁部材25のカフス部251も、周方向に隣接するガイド部材12,12のガイド腕部121,121の間に形成される間隙によって、ガイド溝122と同様に挟んで支持し、当該絶縁部材25を位置決めするようになっている。
【0033】
コイル挿入ガイド装置1のガイド部材12が前進して全ての絶縁部材25のカフス部251を支持した後、コイル巻取治具4に巻き取られたコイル3が、図示しない拡張装置の駆動によって、径方向の外方のステータコア2のスロット23に向けて拡張する。これによって、コイル3の各直線部31は、
図9に示すように、対応するスロット23内の絶縁部材25の内側に挿入される。このとき、絶縁部材25のカフス部251は、
図10に示すように、コイル3とガイド部材12のガイド腕部121との間に挟み付けられ、コイル3とガイド腕部121の両方に接触している。
【0034】
ここで、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]と、コイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]とは、[μg-i]>[μw-i]の関係を満たす。すなわち、コイル挿入ガイド装置において、ガイド部材12は、絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように構成される。
【0035】
これによって、ガイド部材12に対する絶縁部材25の摩擦抵抗は、コイル3に対する絶縁部材25の摩擦抵抗よりも大きくなる。そのため、コイル3の拡張に伴ってコイル3が絶縁部材25の内面25aを圧接及び摺擦しながらスロット23内を移動する際に、絶縁部材25はガイド部材12に対して動きにくくなる。スロット23内の絶縁部材25は、コイル3の移動に対してその場にとどまろうとするため、ガイド腕部121,121の間に支持された状態を維持する。したがって、コイル挿入時に絶縁部材25が巻き込まれるおそれはなく、絶縁部材25の破損は抑制される。
【0036】
これに対して、ガイド部材12が、[μ
g-i]>[μ
w-i]の関係を満たさない場合では、コイル3の拡張に伴ってコイル3が絶縁部材25の内面25aを圧接及び摺擦しながらスロット23内を移動する際、絶縁部材25がコイル3と共に奥へ向かおうとする摩擦力が抵抗力よりも大きくなる。その結果、絶縁部材25のカフス部251がガイド腕部121に対して滑り、絶縁部材25は、
図11に示すように、コイル3の移動に巻き込まれてしまう。
【0037】
以上の効果は、ガイド部材12の形状を問わずに発揮されるため、ガイド部材12の形状の設計自由度が高く、コイル挿入ガイド装置1のコンパクト化、装置製造経費の削減が可能である。
【0038】
また、ガイド部材12は、コイル3との間で絶縁部材25のカフス部251を直接挟むため、絶縁部材25のカフス部251の突出高さを変える必要なく、可及的に薄型化できる。ガイド部材12を薄型化することによって、
図10に示すように、コイル挿入時にガイド腕部121の内側の角部に案内される渡り部32の曲がり起点Pとステータコア2の端面2aとの距離H1を短くすることができる。これによって、
図1に示すステータ100のコイルエンド101の突出高さを低くすることができ、モータの小型化が可能である。
【0039】
なお、絶縁部材25の巻き込みを防止するには、例えば、
図12に示すガイド部材200のように、ガイド腕部201の底面側の両側面にカフス収容溝202を形成し、このカフス収容溝202に絶縁部材25のカフス部251を収容することが考えられる。コイル挿入時にコイル3が絶縁部材25を圧接することが抑制されるため、絶縁部材25の巻き込みは抑制される。しかしながら、ステータコア2の端面2aからのガイド腕部201の突出高さが高くなるため、本実施形態のガイド部材12を使用する場合に比べて、コイル挿入時にガイド腕部201の内側の角部に案内される渡り部32の曲がり起点Pとステータコア2の端面2aとの距離H2は長くなる。その結果、ステータ100のコイルエンド101の突出高さは高くなる。
【0040】
摩擦係数[μg-i]と摩擦係数[μw-i]とが上記関係を満たすようにするための具体的な手段としては、例えば、少なくとも絶縁部材25に接するガイド部材12の表面(すなわち、ガイド腕部121の表面)を、[μg-i]>[μw-i]となるように粗面加工することが挙げられる。ガイド部材12は、一般にステンレス鋼によって形成され、例えば、サンドブラスト加工を施すことによって粗面化することができる。
【0041】
また、少なくとも絶縁部材25に接するコイル3の表面に摩擦抵抗を下げる処理を施すことによって、[μg-i]>[μw-i]となるように設定してもよい。コイル3の表面の摩擦抵抗を下げる処理としては、例えば、コイル3の表面に潤滑性の良好なスニソオイル等の液剤を塗布することが挙げられる。
【0042】
さらに、コイル3との滑りを良くするために絶縁部材25の内面25aに摩擦抵抗を下げる処理を施すこと、及び、ガイド部材12との滑りを悪くするために少なくともガイド部材12に接する絶縁部材25の外面25b(すなわち、カフス部251の外面)に摩擦抵抗を上げる処理を施すこと、のうちの少なくともいずれかの処理を施すことによって、[μg-i]>[μw-i]となるように設定してもよい。絶縁部材25の内面25aの摩擦抵抗を下げる処理としては、例えば、内面25aに公知の滑り性を向上させるコーティング層を形成することが挙げられる。絶縁部材25の外面25bの摩擦抵抗を上げる処理としては、外面25bに公知の滑り性を低下させるコーティング層を形成することが挙げられる。
【0043】
[μg-i]>[μw-i]となるようにするための上記の手段は、いずれか2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
摩擦係数[μg-i]と摩擦係数[μw-i]とは、[μg-i]/[μw-i]>1.2の関係を満たすものであってもよい。コイル挿入時の絶縁部材25の巻き込みをより効果的に抑制することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態のコイル挿入ガイド装置1及びガイド挿入ガイド方法によれば以下の効果を奏する。
【0046】
(1) それぞれ絶縁部材25を収容した複数のスロット23を備えるステータコア2の端面2aに配置され、スロット23からはみ出した絶縁部材25の外面25bを支持するとともに、スロット23内の絶縁部材25の内側へのコイル3の挿入を案内するガイド部材12を有するコイル挿入ガイド装置1であって、ガイド部材12は、絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように構成されている。
【0047】
これによれば、予め絶縁部材25が収容されたスロット23内にコイル3を挿入する際に、コイル3の拡張に伴ってコイル3が絶縁部材25の内面25aを圧接及び摺擦しても、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦抵抗が、コイル3と絶縁部材25との間の摩擦抵抗よりも強く働く。絶縁部材25はガイド部材12に対して動きにくくなり、コイル3の移動に対して絶縁部材25はその場にとどまろうとする。そのため、絶縁部材25の巻き込みが発生するおそれはなく、絶縁部材25の破損は抑制される。ガイド部材12の形状は問わないため、ガイド部材12の形状の設計自由度が高く、コイル挿入ガイド装置1のコンパクト化、装置製造経費の削減が可能である。また、ガイド部材12は、ステータコア2の端面2aからはみ出す絶縁部材25の突出高さを変えることなく薄型化できるため、ガイド部材12によって案内されるコイル3の渡り部32の曲がり起点Pとステータコア2の端面2aとの距離H1を短くすることができる。これによって、ステータ100のコイルエンド101の突出高さを低くすることができ、モータの小型化が可能である。
【0048】
(2) 上記(1)のコイル挿入ガイド装置1において、少なくとも絶縁部材25に接するガイド部材12の表面は、絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように粗面加工されてもよい。
【0049】
これによれば、少なくとも絶縁部材25に接するガイド部材12の表面を粗面加工するだけで、[μg-i]>[μw-i]の関係を満たすガイド部材12を容易に構成することができる。
【0050】
(3) ステータコア2の複数のスロット23内にそれぞれ絶縁部材25を収容し、スロット23内の絶縁部材25の内側にコイル3を挿入する際に、ステータコア2の端面2aにガイド部材12を配置し、ガイド部材12によって、スロット23からはみ出した絶縁部材25の外面25bを支持するとともにコイル3の挿入を案内するコイル挿入ガイド方法であって、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]が、コイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように設定する。
【0051】
これによれば、上記(1)に記載のコイル挿入ガイド装置1と同様の効果を奏する。
【0052】
(4) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、少なくとも絶縁部材25に接するガイド部材12の表面を粗面加工することによって、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように設定してもよい。
【0053】
これによれば、上記(2)に記載のコイル挿入ガイド装置1と同様の効果を奏する。
【0054】
(5) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、少なくとも絶縁部材25に接するコイル3の表面に摩擦抵抗を下げる処理を施すことによって、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように設定してもよい。
【0055】
これによれば、少なくとも絶縁部材25に接するコイル3の表面に摩擦抵抗を下げる処理を施すだけで、[μg-i]>[μw-i]の関係を満たすことができる。
【0056】
(6) 上記(3)に記載のコイル挿入ガイド方法において、絶縁部材25の内面25aに摩擦抵抗を下げる処理を施すこと、及び、少なくともガイド部材12に接する絶縁部材25の外面25bに摩擦抵抗を上げる処理を施すこと、のうちの少なくともいずれかの処理を施すことによって、ガイド部材12と絶縁部材25との間の摩擦係数[μg-i]がコイル3と絶縁部材25との間の摩擦係数[μw-i]よりも大きくなるように設定してもよい。
【0057】
これによれば、絶縁部材25の内面25aに摩擦抵抗を下げる処理を施すこと、及び、少なくともガイド部材12に接する絶縁部材25の外面25bに摩擦抵抗を上げる処理を施すこと、のうちの少なくともいずれかの処理を施すだけで、[μg-i]>[μw-i]の関係を満たすことができる。
【符号の説明】
【0058】
1 コイル挿入ガイド装置
12 ガイド部材
2 ステータコア
2a 端面
23 スロット
25 絶縁部材
25a 内面
25b 外面
3 コイル