(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042825
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】触媒、触媒の製造方法、電極用触媒層、膜電極接合体、及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
B01J 27/185 20060101AFI20240322BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240322BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240322BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240322BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240322BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240322BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20240322BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20240322BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20240322BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240322BHJP
【FI】
B01J27/185 M
B01J37/08
B01J37/04 102
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/65
C25B9/60
C25B11/075
C25B11/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147697
(22)【出願日】2022-09-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高性能・高耐久な固体高分子形および固体アルカリ水電解の材料・セルの設計開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】菅原 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】山口 猛央
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 雄登
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BB12C
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB16C
4G169BB20C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD01C
4G169BD06C
4G169BE01C
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169FA01
4G169FA03
4G169FB05
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC07
4G169FC08
4K011AA63
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA05
4K021CA15
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】高活性な触媒、及び当該触媒の簡便な製造方法、当該触媒を備える電極用触媒層及び膜電極接合体、並びに水電解装置を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)又は式(2)の組成からなる結晶粒子を含む、触媒である。
Ni
aP
bO
c (1)
Fe
dP
eO
f (2)
但し、
aは0.1~0.25であり、bは0.15~0.25であり、cは1-a-bであり、dは0.1~0.3であり、eは0.05~0.25であり、fは1-d-eである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は式(2)の組成からなる結晶粒子を含む、触媒。
NiaPbOc (1)
FedPeOf (2)
但し、
aは0.1~0.25であり、bは0.15~0.25であり、cは1-a-bであり、dは0.1~0.3であり、eは0.05~0.25であり、fは1-d-eである。
【請求項2】
前記結晶粒子が、Ni3(PO4)2、Ni2(P2O7)、Ni2(P4O12)、FePO4、Fe3O3(PO4)又はFe4(P2O7)3で表される組成を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
BET比表面積が2m2g-1以上である、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
平均粒径が300nm以下である、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
酸素発生反応に用いる、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒の製造方法であって、
水に、鉄又はニッケルを含むイオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムと、多価カルボン酸化合物とを溶解して溶液を調製し、
前記溶液の水を蒸発させ乾燥物とし、
前記乾燥物を、空気中、大気圧下において、600~900℃で、1~12時間焼成する、
触媒の製造方法。
【請求項7】
前記イオン性化合物が、硝酸鉄、酢酸鉄、炭酸鉄、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、及び炭酸ニッケルから選択される、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記多価カルボン酸化合物が、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、及びグルタミン酸から選択される、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒と、バインダー成分とを含有する、電極用触媒層。
【請求項10】
アノード触媒層とカソード触媒層と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜とを備え、
前記アノード触媒層が請求項9に記載の電極用触媒層である、膜電極接合体。
【請求項11】
アノード触媒層を有する陽極と、
カソード触媒層を有する陰極と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源と、
前記陰極又は前記陽極の少なくとも一方に、水又はアルカリ水溶液を供給する水供給部と、
を備え、
前記アノード触媒層が請求項9に記載の電極用触媒層である、水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、触媒の製造方法、電極用触媒層、膜電極接合体、及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーを貯蔵・運搬する技術が注目されている。一例として、再生可能エネルギーを利用して水を電気分解して水素及び酸素を製造し、当該水素を貯蔵・運搬することが検討されている。
アニオン交換膜を用いる固体アルカリ水電解は出力変動に追随でき、バイポーラプレートにステンレススチールなど貴金属以外(卑金属)の材料が使えるため、高性能化と低コスト化の両立が期待され、次世代技術として注目されている。
【0003】
固体アルカリ水電解に用いる触媒(電気化学触媒)としては、従来、白金等の貴金属が用いられていた。一方、低コスト化等の観点から卑金属を用いた触媒が求められており、一例としてニッケルを用いた触媒が検討されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-34256号公報
【特許文献2】特開2020-179327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水電解装置の特性向上には、電極に用いられる触媒の性能向上が不可欠である。卑金属を使用する触媒においても、より高活性な触媒が求められている。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、高活性な触媒、及び当該触媒の簡便な製造方法、当該触媒を備える電極用触媒層及び膜電極接合体、並びに水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る触媒は、下記式(1)又は式(2)の組成からなる結晶粒子を含む。
NiaPbOc (1)
FedPeOf (2)
但し、
aは0.1~0.25であり、bは0.15~0.25であり、cは1-a-bであり、dは0.1~0.3であり、eは0.05~0.25であり、fは1-d-eである。
【0008】
上記触媒の一実施形態は、前記結晶粒子が、Ni3(PO4)2、Ni2(P2O7)、Ni2(P4O12)、FePO4、Fe3O3(PO4)又はFe4(P2O7)3で表される組成を有する。
【0009】
上記触媒の一実施形態は、BET比表面積が2m2g-1以上である。
【0010】
上記触媒の一実施形態は、平均粒径が300nm以下である。
【0011】
上記触媒の一実施形態は、酸素発生反応に用いる。
【0012】
本発明に係る触媒の製造方法は、
水に、鉄又はニッケルを含むイオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムと、多価カルボン酸化合物とを溶解して溶液を調製し、
前記溶液の水を蒸発させ乾燥物とし、
前記乾燥物を、空気中、大気圧下において、600~900℃で、1~12時間焼成する。
【0013】
上記触媒の製造方法の一実施形態は、前記イオン性化合物が、硝酸鉄、酢酸鉄、炭酸鉄、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、及び炭酸ニッケルから選択される。
【0014】
上記触媒の製造方法の一実施形態は、前記多価カルボン酸化合物が、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、及びグルタミン酸から選択される。
【0015】
本発明に係る電極用触媒層は、前記本発明に係る触媒と、バインダー成分とを含有する。
【0016】
本発明に係る膜電極接合体は、
アノード触媒層とカソード触媒層と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜とを備え、
前記アノード触媒層が前記本発明に係る電極用触媒層である。
【0017】
本発明に係る水電解装置は、
アノード触媒層を有する陽極と、
カソード触媒層を有する陰極と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源と、
前記陰極又は前記陽極の少なくとも一方に、水又はアルカリ水溶液を供給する水供給部と、
を備え、
前記アノード触媒層が前記本発明に係る電極用触媒層である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により高活性な触媒、及び当該触媒の簡便な製造方法、当該触媒を備える電極用触媒層及び膜電極接合体、並びに水電解装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る触媒の結晶構造の一例を示す図である。
【
図2】水電解装置の一例を示す模式的な断面図である。
【
図5】実施例の触媒の表面積あたりの活性を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る触媒、触媒の製造方法、膜電極接合体、及び水電解装置について説明する。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、特に断りがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、簡略化されている。また、本明細書において特に言及していない本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0021】
[触媒]
本開示の触媒は、下記式(1)又は式(2)の組成からなる結晶粒子を含む。
NiaPbOc (1)
FedPeOf (2)
但し、
aは0.1~0.25であり、bは0.15~0.25であり、cは1-a-bであり、dは0.1~0.3であり、eは0.05~0.25であり、fは1-d-eである。
【0022】
上記触媒は、従来の卑金属触媒に対して格段に優れた表面比活性を有し、特に水の電気分解においてアノード側(酸素発生反応側)の触媒として極めて高い触媒性能を有する。更に本触媒は、後述の製造方法により簡便な操作で製造することが可能であり、製造コストを抑えることが可能である。
【0023】
組成式(1)の組成からなる結晶粒子は、NiとPとOとを上記の比率で含む。なお、a、b、cは原子%(at%)を表す。具体例としては、Ni
3(PO
4)
2、Ni
2(P
2O
7)、Ni
2(P
4O
12)などが挙げられる。
図1にNi
3(PO
4)
2、Ni
2(P
2O
7)、Ni
2(P
4O
12)の結晶構造の一例を示す。なお結晶構造は、X線回折で特定できる。
【0024】
組成式(2)の組成からなる結晶粒子は、FeとPとOとを上記の比率で含む。なお、d、e、fは原子%(at%)を表す。具体例としては、FePO
4、Fe
3O
3(PO
4)、Fe
4(P
2O
7)
3などが挙げられる。
図1にFePO
4、Fe
3O
3(PO
4)、Fe
4(P
2O
7)
3の結晶構造の一例を示す。
【0025】
本触媒は1種類の結晶粒子を単独で用いてもよく、例えば、2種類以上の結晶粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
結晶粒子の粒径は特に限定されないが、触媒性能の点から、平均粒径が300nm以下であることが好ましい。なお本実施形態において、結晶粒子の粒径は、各粒子の2軸平均径とし、電子顕微鏡観察により各粒子の短径と長径を決定し、その平均径を粒径とする。
【0027】
また触媒性能の点から、結晶粒子は比表面積が高いことが好ましい。本触媒において結晶粒子のBET表面積は2m2g-1以上が好ましい。
【0028】
結晶粒子のBET表面積は以下の方法により測定できる。
まず、測定対象となる結晶粒子を比表面積測定装置の器具に封入し、加熱しながら真空引きして脱ガスを行う。脱ガス後、室温まで冷却し、さらに液体窒素を入れた容器に器具を含侵し、さらに冷却する。液体窒素温度まで冷却後、圧力を段階的に変えながらガスを器具に封入する。窒素ガス等温吸着曲線を測定し、当該等温吸着曲線からBET式(下式(3))を用いて比表面積を計算する。等温吸着曲線の測定は、例えば、全自動比表面積測定装置を用いることができる。
【0029】
【数1】
ここで、Vmは窒素ガスの単分子層吸着量(第1層に吸着した窒素ガスの容量)、Vは吸着した窒素ガスの容量、Pはサンプル内の圧力、Poは飽和蒸気圧、Cは吸着熱などに関する定数である。
横軸にP/Po、縦軸にP/V(Po-P)を取りプロットすると直線(BETプロット)が得られる。この直線の切片と傾きからVmが求められ、比表面積S
BETは下式(4)にから計算する。
S
BET=Vm×N×Am 式(4)
ここで、S
BETは比表面積、Nはアボガドロ数であり、Amは窒素ガス1分子の占める面積(0.162nm
2)である。
【0030】
[触媒の製造方法]
上記触媒の製造方法は、特に限定されるものではないが、以下の製造方法によれば、簡便な操作で、表面積あたりの活性が格段に優れた触媒を得ることができ、製造コストを抑えることも可能となる。
即ち本開示の触媒の製造方法は、水に、鉄又はニッケルを含むイオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムと、多価カルボン酸化合物とを溶解して溶液を調製し、
前記溶液の水を蒸発させ乾燥物とし、
前記乾燥物を、空気中、大気圧下において、600~900℃で、1~12時間焼成する。
【0031】
上記イオン性化合物は、水中で鉄イオン又はニッケルイオンを生じさせる化合物である。鉄を含むイオン性化合物としては、2価の鉄イオンを含むものであってもよく、3価の鉄イオンを含むものであってもよい。例えば、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、水酸化鉄、酢酸鉄、乳酸鉄、グルコン酸鉄、炭酸鉄、フマル酸鉄、EDTA鉄、アスコルビン酸鉄、鉄(II)クロロフィル、鉄(II)アセチルアセトナートなどが挙げられ、不純物を抑制する観点から、硝酸鉄、酢酸鉄又は炭酸鉄が好ましく、硝酸鉄又は酢酸鉄がより好ましい。
【0032】
ニッケルを含むイオン性化合物としては、2価のニッケルイオンを含むものであってもよく、3価のニッケルイオンを含むものであってもよい。例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、安息香酸ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナートなどが挙げられ、不純物を抑制する観点から、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルが好ましく、硝酸ニッケル又は酢酸ニッケルがより好ましい。
【0033】
多価カルボン酸化合物は、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができる。多価カルボン酸化合物の具体例としては、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、グルタミン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられ、不純物を抑制する観点から、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸、酒石酸、又はグルタミン酸が好ましく、リンゴ酸、アスパラギン酸又はクエン酸がより好ましい。
【0034】
上記各化合物を水に溶解させて溶液を調製するとする。なお、上記各化合物は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
上記イオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムとの配合比率は、前記式(1)又は式(2)の組成を満たすように適宜調整すればよい。
例えば、鉄を含むイオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムとの比率はモル比で、3:1~2:3が好ましい。また、ニッケルを含むイオン性化合物と、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムとの比率はモル比で、1:1~1:2が好ましい。
多価カルボン酸化合物の配合量は、上記イオン性化合物に対し2~5倍(モル基準)が好ましい。
【0035】
得られた溶液は、水を蒸発させて乾燥物とする。乾燥方法は特に限定されないが、常圧で水の沸点以上で加熱すればよい。
得られた乾燥物を焼成することで前記本触媒となる結晶粒子を得ることができる。焼成条件は、空気中、大気圧下において600~900℃で、1~12時間焼成する方法が挙げられる。
【0036】
本発明の触媒は、表面積あたりの活性が格段に優れており、例えば、Niを含む触媒(式(1)組成からなる結晶粒子)は、1.55Vの電圧印加時に、触媒の表面積あたりの活性が5mA/cm2
particle以上、好ましくは、10mA/cm2
particle以上を達成する。また、例えば、Niを含む触媒(式(1)組成からなる結晶粒子)は、1.55Vの電圧印加時に、触媒の表面積あたりの活性が0.1mA/cm2
particle以上、好ましくは、0.5mA/cm2
particle以上を達成する。
本発明の触媒は、特に、水電解装置におけるアノード触媒層(酸素発生反応側)に好適に用いる事ができる。
【0037】
[電極用触媒層]
上記本開示の触媒は、当該触媒のみからなる触媒層を形成して用いてもよいが、バインダー成分と組み合わせて用いることが好ましい。
バインダー成分は、結晶粒子同士や、結晶粒子と他の成分とを結着させるものであり、公知のものの中から適宜選択することができる。バインダー成分の一例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)などの樹脂材料が挙げられる。また、バインダー成分としてイオン伝導性を有するポリマーを用いてもよい。
【0038】
イオン伝導性を有するポリマーとしては、例えば、フルオロカーボン系や炭化水素系のポリマーに酸性官能基や塩基性官能基などのイオン交換基を導入したポリマーなどが挙げられる。酸性官能基としては、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等を挙げることができ、塩基性官能基としては4級アンモニウム塩などが挙げられる。スルホン酸基を有するポリマーとしては、パーフルオロスルホン酸ポリマー(Nafion(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(商品名)等)、SPES:ポリエーテルスルホン、SPEEK:スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、SPEK:スルホン化ポリエーテルケトン等が挙げられる。また、塩基性官能基を有するポリマーとしては、特開2018-135487、特開2020-169287、特開2021-42351等に記載のポリマーなどが挙げられる。
また、電極用触媒層は無機の伝導体を含んでいてもよい。無機伝導体としては、酸性官能基を有するジルコニウム化合物等の無機プロトン伝導体、層状複水酸化物等の無機アニオン伝導体等が挙げられる。ジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、スルホフェニルホスホン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニア等が挙げられる。
【0039】
電極用触媒層中のバインダー成分の割合は、水電解効率に優れる範囲で適宜調整すればよい。例えば、電極用触媒層100質量%に対して、80質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0040】
電極用触媒層の製造方法は、特に限定されないが、例えば前記本開示の触媒と、バインダー成分とを混錬する方法などが挙げられる。
【0041】
[膜電極接合体・水電解装置]
本開示の膜電極接合体は、アノード触媒層とカソード触媒層と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜とを備え、前記アノード触媒層が上記本開示の電極用触媒層である。
また、本開示の水電解装置は、アノード触媒層を有する陽極と、カソード触媒層を有する陰極と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜と、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源と、前記陰極又は前記陽極の少なくとも一方に、水又はアルカリ水溶液を供給する水供給部と、を備え、前記アノード触媒層が上記本開示の電極用触媒層である。
【0042】
図2を参照して膜電極接合体と水電解装置の構成を説明する。
図2は、水電解装置の一例を示す模式的な断面図である。
図2の例に示される水電解装置1は、電解質膜5と、当該電解質膜5の一方の面に配置された陽極10と、他方の面に配置された陰極20と、陽極10と及び陰極20に接続する電源7と、前記陰極20に水又はアルカリ水溶液を供給する水供給部とを備えている。陽極10は少なくともアノード触媒層11を有すればよく、更に第1の拡散層12を有していてもよい。また、陰極20は少なくともカソード触媒層21を有していればよく、更に第2の拡散層22を有していてもよい。膜電極接合体8は、少なくとも電解質膜5の一方の面に配置されたアノード触媒層11と、他方の面に配置されたカソード触媒層21を備える。
図2の例では更に陽極10及び陰極20の外側にそれぞれセパレータ13、23を備えるセル6を構成している。本水電解装置1は単数のセル6であってもよく、複数のセル6をスタックしたものであってもよい。なお、水供給部は陰極又は陽極の少なくとも一方に水を供給すればよい。
アノード触媒層11として前記本発明に係る電極用触媒層を用いることで、高い水電解性能を有し、耐久性に優れた水電解装置を得ることができる。
【0043】
上記水電解装置が固体アルカリ水電解方式の装置の場合、電解質膜5としてアニオン伝導膜を用い、例えば、陰極20側に水又はアルカリ水溶液を供給しながら、両電極に電圧を印加すると、陰極20側では下記の反応が起こり、水素ガスが発生する。
2H2O+2e-→2OH-+H2
水酸化物イオン(OH-)は、電解質膜5を透過して陽極10に移動する。陽極10では下記の反応が起こり、酸素ガスが発生する。
2OH-→H2O+1/2O2+2e-
発生した水素及び酸素は、各々セパレータ13及び23に設けられたガス流路14、24を通じてセル6から排出される。ガス流路は、例えば、図示しない気液分離器を介して貯蔵用タンク等に接続され、水素及び酸素は、各々、気液分離器で水が分離された後、貯蔵用タンク等に収容される。
【0044】
本水電解装置において供給する水は、純水であってもよく、アルカリ水溶液であってもよい。アルカリ水溶液を用いることで、純水と比較して水電解を高効率で行うことができる。アルカリ水溶液中の溶質は特に限定されず、例えば、1Mの水酸化カリウム等とすることができる。
電解質膜の厚みは特に限定されないが、例えば1~100μmの範囲で適宜調整すればよく、2~80μmが好ましい。
【0045】
陽極10は少なくともアノード触媒層11を有し、更に第1の拡散層12を有していてもよい。
アノード触媒層11の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができ、0.01~10μmが好ましい。
【0046】
陽極10は、必要に応じて第1の拡散層12を有していてもよい。第1の拡散層12は前記アノード触媒層11を支持するためなどに用いられる。第1の拡散層12は公知のガス拡散層の中から適宜選択することができ、例えばニッケルフォームなどの発泡金属層や多孔質カーボン層などが挙げられる。
【0047】
陰極20は少なくともカソード触媒層21を有し、更に第2の拡散層22を有していてもよい。
カソード触媒層21の触媒は、公知のもの中から適宜選択でき、例えば、白金、コバルト、ニッケル、パラジウム、鉄、銀、金、銅、イリジウム、モリブデン、ロジウム、クロム、タングステン、マンガン、ルテニウム、これらの金属化合物、金属酸化物、およびこれらの金属の2種以上を含む合金からなる微粒子が挙げられる。カソード触媒層21は水との接触面積や、水やガスの拡散の点から、多孔質であることが好ましい。多孔質の触媒層は、例えば、触媒となる上記金属の粒子とバインダー成分を含むものであってもよく、上記金属粒子を融着した金属粒子連結体などであってもよい。バインダー成分は前記電極用触媒層の欄で挙げられたものと同様のものが挙げられる。
カソード触媒層21の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができ、0.01~10μmが好ましい。
【0048】
陰極20は、必要に応じて第2の拡散層22を有していてもよい。第2の拡散層22は前記カソード触媒層21を支持するためなどに用いられる。第2の拡散層22は前記第1の拡散層12と同様のものを用いることができる。
【0049】
本水電解装置は、陽極10及び陰極20の外側に、それぞれセパレータ13、23を有していてもよい。セパレータの材質は白金コート等する必要はなく、カーボン製、ステンレス製など、適宜選択して用いることができる。セパレータ13、23が導電性を備える場合、セパレータ13を第1の主電極、セパレータ23を第2の主電極として、電源7を当該第1の主電極及び第2の主電極に接続して、陽極と陰極に電圧を印加してもよい。
【0050】
セパレータ13、23は、ガス流路14、24を有していてもよい。陽極10で発生した酸素、及び陰極20で発生した水素は各々ガス流路14、24を通じて排出され、貯蔵用タンクなどに収容される。
【0051】
電源7は、特に限定されず、公知の直流電源の中から適宜選択できる。本水電解装置は、入力電力に対する応答に優れることから、変動が大きい太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーであっても好適に用いることができる。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではなく、本発明は、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0053】
[実施例1:触媒1の製造]
水と、酢酸ニッケルと、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を800℃で5時間加熱して、Ni3(PO4)2を含む触媒1を得た。
【0054】
[実施例2:触媒2の製造]
水と、酢酸ニッケルと、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を700℃で5時間加熱して、Ni2(P2O7)を含む触媒2を得た。
【0055】
[実施例3:触媒3の製造]
水と、酢酸ニッケルと、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を800℃で5時間加熱して、Ni2(P4O12)を含む触媒3を得た。
【0056】
[実施例4:触媒4の製造]
水と、硝酸鉄と、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を650℃で5時間加熱して、FePO4を含む触媒4を得た。
【0057】
[実施例5:触媒5の製造]
水と、硝酸鉄と、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を750℃で5時間加熱して、Fe3O3(PO4)を含む触媒5を得た。
【0058】
[実施例6:触媒6の製造]
水と、硝酸鉄と、リン酸二水素アンモニウムと、リンゴ酸とを混合し、溶液を調製した。当該溶液を加熱し、水を蒸発させて乾燥物を得た。当該乾燥物を850℃で5時間加熱して、Fe4(P2O7)3を含む触媒6を得た。
【0059】
[評価]
<電子顕微鏡像、及び、BET表面積>
得られた触媒1~6を電子顕微鏡で観察した。
図3に電子顕微鏡画像を示す。また、触媒1~6(結晶粒子)のBET表面積S
BET[は前述の方法により求めた。結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
<分極曲線、及び、触媒表面積あたりの活性>
前記触媒1~6と、比較例としてIrO
2粉末を用意し、各々について、以下のように測定を行った。
触媒粉末を(溶媒:バインダーとして0.2wt%のNafionを含む50vol%、エタノール水溶液)を3分間ホモジナイザーで処理後、2-3時間超音波処理で分散させ、グラッシーカーボン基板の電極上に塗布・乾燥させた。電極上の触媒担持量は5μg/cm
2とした。これらの電気化学操作には、ELECTROCHEMICAL MEASUREMENT SYSTEM HZ-7000(北斗電工(株))、およびDYNAMIC ELECTRODE CONTROLLER HR-502(北斗電工(株))を用いた。対極は白金電極とし、参照電極は水銀-酸化水銀水素電極(Hg/HgO)とした。
前処理は、窒素雰囲気下1M水酸化カリウム(KOH)水溶液中で、0.05~1.5V(vs.可逆水素電極RHE)の範囲を掃引速度50mV/s、室温で、CV(Cyclic voltammetry)サイクルを5回行った。
前処理後の電極を作用極に用いて、酸素発生反応に対する触媒活性を評価した。電解液は酸素雰囲気下1M KOH水溶液を、対極に白金ワイヤを、基準電極にHg/HgOを用いた。電極回転速度1600 回転/分において、掃引速度10mV/s、室温で、1.2~1.8V(vs.RHE)の範囲でCVサイクルを行い、酸素発生反応活性を評価した。結果を
図4に示す。
また、上記測定で検出した1.55Vにおける電流値を、BET表面積を用いて規格化することにより、触媒表面積あたりの活性を算出した。結果を
図5に示す。
【0062】
図4、
図5に示されるように、上記式(1)又は式(2)の組成からなる結晶粒子を含む本発明の触媒は、特に、表面積あたりの活性に優れており、高活性な触媒であることが明らかとなった。また、本発明の触媒は、上記の製造方法により簡便な操作で製造することができる。すなわち本発明によれば高活性な触媒を低コストで製造することが可能となる。