(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042833
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】インバータ一体型電動圧縮機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20240322BHJP
H02K 5/22 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F04B39/00 101X
F04B39/00 102Z
F04B39/00 106Z
H02K5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147719
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 敬史
(72)【発明者】
【氏名】藤代 浩司
【テーマコード(参考)】
3H003
5H605
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB05
3H003AC03
3H003AD01
3H003BA02
3H003BB05
3H003CE02
3H003CE03
3H003CF02
5H605AA07
5H605BB07
5H605CC06
5H605EC20
(57)【要約】
【課題】インバータ収容部を閉塞するカバーの重量と生産コストを削減しながら、共振による振動・騒音も抑制することができるインバータ一体型電動圧縮機を提供する。
【解決手段】インバータ収容部13を閉塞するカバー15を備える。カバー15は、シェル形状の上壁部41と、上壁部の外周に連続して形成された縦壁部42と、縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、ハウジング11に取り付けられるシールフランジ部46を有する板金から成る。上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度を調整することにより、カバーの固有振動数を、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力との共振点からずらす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと圧縮機構が内蔵された金属製のハウジングと、前記モータを駆動するためのインバータと、前記ハウジングに構成され、前記インバータが収容されるインバータ収容部と、該インバータ収容部を閉塞する金属製のカバーを備えたインバータ一体型電動圧縮機において、
前記カバーは、シェル形状の上壁部と、該上壁部の外周に連続して形成された縦壁部と、該縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、前記ハウジングに取り付けられるシールフランジ部を有する板金から成り、
前記上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、及び/又は、前記縦壁部が前記シールフランジ部から立ち上がる角度の調整により、前記カバーの固有振動数が、前記圧縮機構及びモータの起振力との共振点からずれていることを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記カバーのアーチの曲率半径は、長手方向と短手方向とで異なる値とされていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記カバーのアーチの長手方向の曲率半径は、短手方向の曲率半径よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
前記カバーのシェル形状は、曲率半径の異なる複数のアーチから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項5】
前記縦壁部が前記シールフランジ部から立ち上がる角度は、30°以上、75°以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項6】
前記カバーの高さ寸法は、8mm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項7】
モータと圧縮機構が内蔵された金属製のハウジングと、前記モータを駆動するためのインバータと、前記ハウジングに構成され、前記インバータが収容されるインバータ収容部と、該インバータ収容部を閉塞する金属製のカバーを備えたインバータ一体型電動圧縮機の製造方法であって、
前記カバーを、シェル形状の上壁部と、該上壁部の外周に連続して形成された縦壁部と、該縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、前記ハウジングに取り付けられるシールフランジ部を有する板金から構成し、
前記上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、及び/又は、前記縦壁部が前記シールフランジ部から立ち上がる角度を調整して、前記カバーの固有振動数を、前記圧縮機構及びモータの起振力との共振点からずらすことを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに形成されたインバータ収容部を閉塞するカバーを備えたインバータ一体型電動圧縮機、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりこの種インバータ一体型の電動圧縮機、特に車両の空調装置を構成する電動圧縮機では、金属製のハウジングに形成されたインバータ収容部(インバータケース)にインバータを収容して固定し、更にこのインバータ収容部はカバーにて閉塞していた。ここで、カバーは耐圧設計である必要がないため、通常はアルミダイカストの薄板にて構成されるが、ハウジング内の圧縮機構やモータの振動がカバーに伝わると振動して騒音が発生する。
【0003】
この場合、圧縮機構やモータの起振力の周波数がカバーの固有振動数に一致し或いは近似すると共振が発生し、振動・騒音が大きくなる問題があった。そこで、カバーに溝を形成してカバーの固有振動数を共振からずらす工夫をした電動圧縮機も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルミダイカストにて特許文献1のような形状を作ることは、軽量化し難くなると共に、厚くすることは高さ寸法が大きくなることになるため、コンパクトな設計が難しくなる。更に、アルミダイカストの場合、アルミインゴットから鋳造(ダイカスト)した後、熱処理にて歪みを取り、切削加工を行う等、多数の工程が必要となり、二酸化炭素排出量が多くなって、カーボンニュートラルに対応し難くなる。更にまた、特許文献1の構成では固有振動数を低い方向にしかずらせない等の問題があった。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、インバータ収容部を閉塞するカバーの重量と生産コストを削減しながら、共振による振動・騒音も抑制することができるインバータ一体型電動圧縮機、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、モータと圧縮機構が内蔵された金属製のハウジングと、モータを駆動するためのインバータと、ハウジングに構成され、インバータが収容されるインバータ収容部と、このインバータ収容部を閉塞する金属製のカバーを備えたものであって、カバーは、シェル形状の上壁部と、この上壁部の外周に連続して形成された縦壁部と、この縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、ハウジングに取り付けられるシールフランジ部を有する板金から成り、上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、及び/又は、縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度の調整により、カバーの固有振動数が、圧縮機構及びモータの起振力との共振点からずれていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記発明においてカバーのアーチの曲率半径は、長手方向と短手方向とで異なる値とされていることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記発明においてカバーのアーチの長手方向の曲率半径は、短手方向の曲率半径よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明のインバータ一体型電動圧縮機は、請求項1の発明においてカバーのシェル形状は、曲率半径の異なる複数のアーチから構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明のインバータ一体型電動圧縮機は、上記各発明において縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度は、30°以上、75°以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明のインバータ一体型電動圧縮機は、請求項1乃至請求項4の発明においてカバーの高さ寸法は、8mm以上、20mm以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項7のインバータ一体型電動圧縮機の製造方法は、モータと圧縮機構が内蔵された金属製のハウジングと、モータを駆動するためのインバータと、ハウジングに構成され、インバータが収容されるインバータ収容部と、このインバータ収容部を閉塞する金属製のカバーを備えたインバータ一体型電動圧縮機を製造するにあたり、カバーを、シェル形状の上壁部と、この上壁部の外周に連続して形成された縦壁部と、この縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、ハウジングに取り付けられるシールフランジ部を有する板金から構成し、上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、及び/又は、縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度を調整して、カバーの固有振動数を、圧縮機構及びモータの起振力との共振点からずらすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1及び請求項7の発明によれば、モータと圧縮機構が内蔵された金属製のハウジングと、モータを駆動するためのインバータと、ハウジングに構成され、インバータが収容されるインバータ収容部と、このインバータ収容部を閉塞する金属製のカバーを備えたインバータ一体型電動圧縮機において、カバーを、シェル形状の上壁部と、この上壁部の外周に連続して形成された縦壁部と、この縦壁部の外周から連続して外方に張り出し、ハウジングに取り付けられるシールフランジ部を有する板金にて構成し、上壁部のシェル形状を構成するアーチの曲率半径、及び/又は、縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度を調整することにより、カバーの固有振動数を、圧縮機構及びモータの起振力との共振点からずらしたので、圧縮機構やモータの振動によりカバーが共振する不都合を抑制することができるようになる。
【0015】
これにより、共振による振動・騒音を大幅に低減することが可能となる。特に、カバーは板金製であるので、アルミダイカストに比較して鋼板のプレス加工にて製造可能となり、工程数が少なくなって省エネとなることから、二酸化炭素排出量を大幅に削減し、環境問題に寄与することができると共に、生産コストも削減することが可能となる。また、アルミダイカストでは肉厚を変えることで固有振動数をずらすことになるが、本発明では板厚略一定の板金を成形して固有振動数をずらすことが可能となるので、軽量化を図り、車両の空調装置に用いられる場合には、当該車両の性能向上を図ることも可能となる。更に、板金製のカバーの上壁部をシェル形状とし、その外周に縦壁部と更にシールフランジ部を形成することで、カバー自体の強度も向上する効果がある。
【0016】
この場合、請求項2の発明の如くカバーのアーチの曲率半径を、長手方向と短手方向とで異なる値とすることで、カバーの固有振動数の調整範囲を拡大することが可能となる。
【0017】
特に、請求項3の発明の如くカバーのアーチの長手方向の曲率半径を、短手方向の曲率半径よりも大きくすることで、カバーの高さ寸法の拡大を抑制し、電動圧縮機全体の寸法拡大も抑制することができるようになる。
【0018】
また、請求項4の発明の如くカバーのシェル形状を、曲率半径の異なる複数のアーチから構成することでもカバーの高さ寸法の拡大を抑制し、電動圧縮機全体の寸法拡大も抑制することができるようになる。
【0019】
更に、請求項5の発明の如く縦壁部がシールフランジ部から立ち上がる角度を、30°以上、75°以下の範囲で調整することで、カバーの固有振動数を効果的に共振点からずらすことが可能となる。
【0020】
また、請求項6の発明の如くカバーの高さ寸法を、8mm以上、20mm以下の範囲とすることで、カバーの断面2次モーメントを調整して固有振動数を効果的に共振点からずらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用した一実施形態のインバータ一体型電動圧縮機の概略断面図である(実施例1)。
【
図2】
図1の電動圧縮機のインバータ収容部を閉塞するカバーの平面図である。
【
図8】電動圧縮機のインバータ収容部を閉塞する他の実施例のカバーの平面図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0023】
図1は本発明を適用した一実施例のインバータ一体型電動圧縮機1の概略断面図である。実施例の電動圧縮機(インバータ一体型電動圧縮機)1は、例えば電動車両用の空調装置を構成する冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、本発明におけるモータとしての三相の電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構としてのスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール式電動圧縮機である。
【0024】
実施例の場合電動圧縮機1は、電動モータ2やセンタープレート6をその内側に収容する円筒状のステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7Aに取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側の開口端面に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0025】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製。後述するカバー15を除く)であり、それらが一体的に接合されて実施例の電動圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0026】
ステータハウジング7内には電動モータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。ステータハウジング7のモータ室12の他端面は開口しており、この開口から電動モータ2がモータ室12内に収容された後、同じく開口からセンタープレート6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、電動モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0027】
センタープレート6は、電動モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4の固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7の開口に固定されることで閉塞される。
【0028】
また、センタープレート6には電動モータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンタープレート6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0029】
電動モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ23に固定されている。
【0030】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート30が形成されており、吸入ポート30から吸入された冷媒は、ステータハウジング7のモータ室12内を通過した後、センタープレート6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート20より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0031】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンタープレート6側としてリアケーシング9に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0032】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧力室34を形成する。
【0033】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、電動モータ2のロータ23と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0034】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧力室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0035】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンタープレート6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンタープレート6と可動スクロール22の間に介設されている。
【0036】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48により、スクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルは分離され、冷媒は吐出ポート20に向かい、吐出配管に吐出される。
【0037】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンタープレート6に渡って形成された背圧通路であり、オリフィス50を有している。背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0038】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧力室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧力室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0039】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する本発明のカバー15から構成されている。そして、インバータ収容部13にインバータ3が収容されると共に、カバー15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0040】
図1において、40はハーメチックピンである。このハーメチックピン40は隔壁7Aを貫通して一端はモータ室12内に収納された電動モータ2のステータ25のコイルに接続され、他端はインバータ収容部13内に収納されたインバータ3に電気的に接続されている。
【0041】
次に、
図2~
図7を参照しながら、この実施例のカバー15の形状について説明する。尚、
図1のカバー15の断面は、
図2のA-A線断面である。本発明で使用するカバー15は、表面処理鋼板から成る所定薄い厚さ寸法の板金をプレス加工(切削レス)して成形されている。カバー15は、
図1を含む各図に示すようなシェル形状の上壁部41と、この上壁部41の外周に連続して形成された縦壁部42と、この縦壁部42の外周から連続して外方に張り出すシールフランジ部46から構成されている。
【0042】
尚、47はこのシールフランジ部46に形成されたボルト孔である。そして、シールフランジ部46を
図1に示す如くケース本体10の開口端面に宛てがい、ボルト孔47に図示しないボルトを挿通してケース本体10に螺合させることで、カバー15はケース本体10に取り付けられる。
【0043】
そして、シェル形状を呈するカバー15の上壁部41は、その長手方向のアーチの曲率半径R1(
図1)と短手方向の曲率半径R2(
図6)とが異なり、R1>R2の関係とされている(長手方向のアーチの曲率半径R1が短手方向の曲率半径R2よりも大きい)。即ち、例えば長手方向の曲率半径R1を430mm、短手方向の曲率半径R2を405mmに設定している。また、それによりカバー15の高さ寸法を8mm以上、20mm以下の範囲、実施例では17mmとしている。
【0044】
更に、縦壁部42がシールフランジ部46から立ち上がる角度X1を、30°以上、75°以下の範囲、実施例では45°に設定している。尚、この立ち上がり角度X1は、本出願では
図7に示すようにシールフランジ部46から内方に延ばした線L1と縦壁部42とが成す角度と定義する。
【0045】
ここで、シェル形状の上壁部41のアーチの曲率半径R1、R2を大きくすれば、カバー15の固有振動数は低くなり、曲率半径R1、R2を小さくすれば、固有振動数は高くなる。また、縦壁部42の立ち上がり角度X1を小さくすれば、上壁部41との繋がりが滑らかになるので、カバー15の固有振動数は高くなり、立ち上がり角度X1を大きくすれば固有振動数は低くなる。
【0046】
そこで、実施例ではカバー15の上壁部41の長手方向のアーチの曲率半径R1と短手方向のアーチの曲率半径R2、及び、縦壁部42の立ち上がり角度X1を調整して、カバー15の固有振動数(主に1次固有振動数)が、電動圧縮機1の振動源となる圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数からずれるように設計する。即ち、カバー15の固有振動数を、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力との共振点からずらす。
【0047】
尚、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数は、運転状態によって変化するので、この実施例では、この起振力の周波数のレンジ(低速から高速までの運転状態で発生する起振力の周波数範囲)よりも、カバー15の固有振動数が高くなるように設定する。例えば、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数レンジが1100Hz~2000Hzであったものとすると、カバー15の固有振動数が2100Hzになるように、曲率半径R1とR2、及び、立ち上がり角度X1を調整する。
【0048】
これにより、圧縮機構4や電動モータ2の振動によりカバー15が共振する不都合を抑制することができるようになり、カバー15の共振による振動・騒音を大幅に低減することが可能となる。特に、カバー15は板金製であるので、アルミダイカストに比較して表面処理鋼板のプレス加工にて製造可能となり、工程数が少なくなって省エネとなることから、生産コストと二酸化炭素排出量の大幅な削減を図ることも可能となる。また、アルミダイカストでは肉厚を変えることで固有振動数をずらすことになるが、本発明では板厚が略一定の板金を成形してカバーレター15の固有振動数をずらすことが可能とり、大幅な軽量化を図ることも可能となる。更に、板金製のカバー15の上壁部41をシェル形状とし、その外周に縦壁部42と更にシールフランジ部46を形成することで、カバー15自体の強度も向上し、衝突による変形も抑制される。
【0049】
また、実施例のようにカバー15のアーチの曲率半径を、長手方向(R1)と短手方向(R2)とで異なる値とすれば、カバー15の固有振動数の調整範囲を拡大することが可能となる。特に、この実施例のようにカバー15のアーチの長手方向の曲率半径R1を、短手方向の曲率半径R2よりも大きくすることで、カバー15の高さ寸法の拡大を抑制し、電動圧縮機1全体の寸法拡大も抑制することができるようになる。
【0050】
更に、縦壁部42がシールフランジ部46から立ち上がる角度X1を、30°以上、75°以下の範囲で調整することで、カバー15の固有振動数を円滑に共振点からずらすことが可能となる。また、実施例の如くカバー15の高さ寸法を、8mm以上、20mm以下の範囲とすることで、カバー15の断面2次モーメントを稼いで固有振動数を効果的に共振点からずらすことが可能となる。
このように、この実施例のカバー15の長手方向においては、線L2より下側と上側とでアーチの曲率半径R1が異なるようにする。これは回転曲面と円放物面の合成形状である。また、それによりカバー15の高さ寸法を8mm以上、20mm以下の範囲、実施例では11mmとしている。
そして、この実施例でもカバー15の上壁部41の長手方向のアーチの曲率半径R1と短手方向のアーチの曲率半径R2、及び、縦壁部42の立ち上がり角度X1を調整して、カバー15の固有振動数(主に1次固有振動数)が、電動圧縮機1の振動源となる圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数からずれるように設計する。即ち、カバー15の固有振動数を、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力との共振点からずらす。
即ち、この実施例でも圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数のレンジよりも、カバー15の固有振動数が高くなるように設定する。例えば、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数レンジが前述した1100Hz~2000Hzであったものとすると、カバー15の固有振動数が2200Hzになるように、曲率半径R1とR2、及び、立ち上がり角度X1を調整することにより、圧縮機構4や電動モータ2の振動によりカバー15が共振する不都合を抑制し、カバー15の共振による振動・騒音を大幅に低減する。
特に、この実施例のようにシェル形状のカバー15の長手方向のアーチの曲率半径R1を、線L2を境にした二つの異なる曲率半径R1(実施例では510mmと1900mm)とすることで、全体を510mmとした場合に比して、カバー15の高さ寸法の拡大を抑制し、電動圧縮機1全体の寸法拡大も抑制することができるようになる。また、長手方向の縦壁部42を残し、その箇所のインバータケース8とのシール性を保つことが可能となる。
尚、上記各実施例ではカバー15の上壁部41のアーチの曲率半径R1、R2と、縦壁部42の立ち上がり角度X1の双方を調整するようにしたが、何れか一方のみを調整することで、圧縮機構4及び電動モータ2の起振力との共振点からカバー15の固有振動数をずらすようにしてもよい。
また、各実施例では圧縮機構4及び電動モータ2の起振力の周波数のレンジよりも、カバー15の固有振動数が高くなるように設定したが、それに限らず、低くなるように設定してもよい。その場合でも、起動/停止時に一時的な共振は生じるものの、全体としては共振の発生を抑制することが可能となる。
更に、前述した実施例2では回転曲面と円放物面の合成形状で説明したが、曲率半径の異なる複数のアーチからカバー15のシェル形状を構成する場合、複数の球形シェルを上壁部41に独立に構築し、それらを双曲放物面や円筒曲面のような曲面で滑らかに接合するようにしてもよい。
更にまた、実施例ではスクロール型電動圧縮機を例にとって説明したが、他の圧縮形式のインバータ一体型電動圧縮機にも適用可能である。更にまた、各実施例で示した形状や数値は、それらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは云うまでもない。