(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042835
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240322BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20240322BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20240322BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240322BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20240322BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M133/16
C10M101/02
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:25
C10N40:08
C10N40:30
C10N40:12
C10N40:00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147726
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】相田 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】飯野 麻里
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慎治
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BE11C
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104LA03
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA07
4H104PA09
4H104PA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】油性剤系摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、低粘度でありながら摩擦低減性能が向上した潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなる潤滑油基油と、(B1)1種以上の脂肪酸(a1)と1種以上のアミン化合物(a2)とのモノアミドであって、アミン化合物(a2)は、一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)のオリゴマーである、1種以上の第1のアミド化合物、並びに/又はその塩とを含有する、潤滑油組成物。
【化1】
(式中、nは1又は2;R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基を表し;nが2のとき、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなる潤滑油基油と、
(B1)炭素数6~30の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の1種以上の一価脂肪酸(a1)と1種以上のアミン化合物(a2)とのモノアミドであって、エステル結合を有さず、前記アミン化合物(a2)は、下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有する重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーである、1種以上の第1のアミド化合物、並びに/又はその塩と、
を含有し、
100℃における動粘度が6.9mm
2/s未満であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【化1】
(一般式(1)中、nは1又は2であり;R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基を表し;nが2のとき、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記(B1)成分の含有量が、塩を形成していない状態の化合物としての含有量換算で、潤滑油組成物全量基準で0.005~10.0質量%である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(B2)下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)の、アミノ基及び1つ以上のヒドロキシ基が、前記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、1種以上の第2のアミド化合物
をさらに含有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
(B3)前記アルカノールアミン(a3)と、前記一価脂肪酸(a1)とのアミドであって、エステル結合を有しない、1種以上の第3のアミド化合物
をさらに含有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(B4)前記アミン化合物(a2)の1つ以上のアミノ基および1つ以上のヒドロキシ基が、前記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、1種以上の第4のアミド化合物、及び/又はその塩
をさらに含有する、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記一価脂肪酸が、1種以上の直鎖脂肪酸を含む、請求項1又は2に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項7】
前記一価脂肪酸が、1種以上の分岐鎖脂肪酸を含む、請求項1又は2に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項8】
前記分岐鎖脂肪酸が、カルボニル炭素のα位、β位、又はγ位に第3級または第4級炭素原子を有する、請求項7に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項9】
金属系清浄剤、無灰分散剤、リン含有摩耗防止剤、硫黄含有極圧剤、酸化防止剤、および粘度指数向上剤から選ばれる1種以上の添加剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記(A)潤滑油基油の40℃における動粘度が40mm2/s以下である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
40℃における動粘度が2.0~50mm2/sである、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
ギヤの潤滑に用いられる、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、より詳しくは、ギヤの潤滑に好適に用いることのできる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関や自動変速機、軸受けなどには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられている。一般に潤滑油には、その潤滑油に要求される性能を持たせるために、種々の添加剤が配合される。
【0003】
潤滑油添加剤の中でも、摩擦抵抗を低減する作用を有する添加剤(摩擦調整剤、以下において「FM」と称することがある。)は摩擦によるエネルギー損失を低減する上で重要な成分である。一般的に用いられるFMは、モリブデンを含有する有機モリブデン系FMと、油性を向上させることによって摩擦を低減させる油性剤系FM(無灰FMともいう。)とに分類することができる。
【0004】
有機モリブデン系FMとしては、MoDTC(モリブデンジチオカーバメート)やMoDTP(ジチオリン酸モリブデン)が広く知られている(例えば特許文献1参照)。これら有機モリブデン系FMは使用初期の摩擦低減効果に優れるものの、その摩擦低減効果を長期間にわたって良好に維持することには限界がある。また有機モリブデン系FMは灰分を含有するため、使用済み潤滑油の再利用を難しくする。そのため、有機モリブデン系FMの添加量を削減することが求められている。
【0005】
一方、油性剤系FMによれば、有機モリブデン系FMの上記問題を克服できる可能性があるため、油性剤系FMの重要性が高まっている(例えば特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-133453号公報
【特許文献2】特開2009-235252号公報
【特許文献3】特開2006-257383号公報
【特許文献4】国際公開2019/129793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の油性剤系FMは、油膜厚さが減少した条件下での摩擦係数の点で、依然として改善の余地があった。機械装置の省エネルギー性を高める手段の一例として、低粘度の基油を用いた低粘度の潤滑油を用いることが挙げられる。低粘度の潤滑油によれば、撹拌抵抗を低減してエネルギー効率を高めることが可能である。しかしながら、低粘度の基油を用いると油膜厚さが減少しやすくなるため、より高粘度の基油を用いた従来の潤滑油に比べてより低い荷重で流体潤滑領域から混合潤滑領域への移行が始まり、摩擦係数が増大し始める。この問題は、伝達する駆動力に比例して潤滑面にかかる荷重が増大するギヤの潤滑において特に深刻である。
【0008】
本発明は、油性剤系摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、低粘度でありながら摩擦低減性能が向上した潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[12]の実施形態を包含する。
【0010】
[1] (A)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなる潤滑油基油と、
(B1)炭素数6~30の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の1種以上の一価脂肪酸(a1)と1種以上のアミン化合物(a2)とのモノアミドであって、エステル結合を有さず、前記アミン化合物(a2)は、下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有する重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーである、1種以上の第1のアミド化合物、並びに/又はその塩と、
を含有し、
100℃における動粘度が6.9mm2/s未満であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【0011】
【化1】
(一般式(1)中、nは1又は2であり;R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基を表し;nが2のとき、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【0012】
[2] 前記(B1)成分の含有量が、塩を形成していない状態の化合物としての含有量換算で、潤滑油組成物全量基準で0.005~10.0質量%である、[1]に記載の潤滑油組成物。
【0013】
[3] (B2)下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)の、アミノ基及び1つ以上のヒドロキシ基が、前記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、1種以上の第2のアミド化合物をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
【0014】
[4] (B3)前記アルカノールアミン(a3)と、前記一価脂肪酸(a1)とのアミドであって、エステル結合を有しない、1種以上の第3のアミド化合物をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0015】
[5] (B4)前記アミン化合物(a2)の1つ以上のアミノ基および1つ以上のヒドロキシ基が、前記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、1種以上の第4のアミド化合物、及び/又はその塩をさらに含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0016】
[6] 前記一価脂肪酸が、1種以上の直鎖脂肪酸を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0017】
[7] 前記一価脂肪酸が、1種以上の分岐鎖脂肪酸を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0018】
[8] 前記分岐鎖脂肪酸が、カルボニル炭素のα位、β位、又はγ位に第3級または第4級炭素原子を有する、[7]に記載の潤滑油組成物。
【0019】
[9] 金属系清浄剤、無灰分散剤、リン含有摩耗防止剤、硫黄含有極圧剤、酸化防止剤、および粘度指数向上剤から選ばれる1種以上の添加剤をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0020】
[10] 前記(A)潤滑油基油の40℃における動粘度が40mm2/s以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0021】
[11] 40℃における動粘度が2.0~50mm2/sである、[1]~[10]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0022】
[12] ギヤの潤滑に用いられる、[1]~[11]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、低粘度でありながら向上した摩擦低減効果を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳述する。なお本明細書においては、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」と等価であるものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。本明細書において、「または」および「もしくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E1およびE2について「E1および/またはE2」という表記は「E1、もしくはE2、またはそれらの組み合わせ」と等価であり、N個の要素E1、…、Ei、…、EN(Nは3以上の整数である。)について「E1、…、および/またはEN」という表記は「E1、…、もしくはEi、…、もしくはEN、またはそれらの組み合わせ」(iは1<i<Nを満たす全ての整数を値にとる変数である。)と等価である。また本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0025】
なお本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、リン、硫黄、ホウ素、バリウム、およびモリブデンの各元素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。また油中の窒素元素の含有量は、JIS K2609に準拠して化学発光法により測定されるものとする。また本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算での重量平均分子量を意味する。GPCの測定条件は次の通りである。
[GPC測定条件]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT900A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT200A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶離液:テトラヒドロフラン
溶液注入量:20.0μL
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)8点(分子量:2698000、597500、290300、133500、70500、30230、9590、2970)
上記条件に基づき測定した重量平均分子量が10000未満である場合、カラムおよび基準物質を以下条件に変更し再測定を行う。
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT125A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT45A(ゲル粒径1.7μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本を直列に接続
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)10点(分子量:30230、9590、2970、890、786、682、578、474、370、266)
【0026】
<(A)潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物(以下において「潤滑油組成物」または「組成物」ということがある。)は、主要量の潤滑粘度の基油(潤滑油基油)と、基油以外の1種以上の添加剤とを含んでなる。本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなる潤滑油基油が用いられる。
【0027】
潤滑油基油(以下において「(A)成分」ということがある。)としては、1種以上の鉱油系基油、もしくは1種以上の合成系基油、またはそれらの混合基油を用いることができる。一の実施形態において、潤滑油基油としては、API基油分類のグループI基油(以下において「APIグループI基油」ということがある。)、グループII基油(以下において「APIグループII基油」ということがある。)、グループIII基油(以下において「APIグループIII基油」ということがある。)、グループIV基油(以下において「APIグループIV基油」ということがある。)、若しくはグループV基油(以下において「APIグループV基油」ということがある。)、又はそれらの混合基油を用いることができる。APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超かつ/又は飽和分が90質量%未満であって、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油は上記グループI~IV以外の基油であって、その好ましい例としてはエステル系基油を挙げることができる。
【0028】
一の実施形態において、(A)成分としては、1種以上のAPIグループII基油、1種以上のAPIグループIII基油、1種以上のAPIグループIV基油、もしくは1種以上のAPIグループV基油、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0029】
鉱油系基油の例としては、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製したパラフィン系基油、およびノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油、ならびにこれらの混合物などを挙げることができる。APIグループII基油およびグループIII基油は通常、水素化分解プロセスを経て製造される。
【0030】
鉱油系基油の%CPは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは60以上、より好ましくは65以上であり、また添加剤の溶解性を高める観点から好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下であり、一の実施形態において60~99、又は60~95、又は65~95、又は65~94であり得る。
【0031】
鉱油系基油の%CAは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。
【0032】
鉱油系基油の%CNは、添加剤の溶解性を高める観点から好ましくは1以上、より好ましくは4以上であり、また組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは40以下、より好ましくは35以下であり、一の実施形態において1~40、又は4~35であり得る。
【0033】
本明細書において%CP、%CNおよび%CAとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%CP、%CNおよび%CAの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%CNは0を超える値を示し得る。
【0034】
鉱油系基油における飽和分の含有量は、組成物の粘度-温度特性を高める観点から、基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0035】
鉱油系基油における芳香族分の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%であり、一の実施形態において0.1質量%以上であり得る。芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、新油状態での低温粘度特性および粘度-温度特性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になるとともに、潤滑油の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減することが可能になる。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目を効果的に発揮させることが可能になる。また、潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量が上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を高めることができる。
【0036】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0037】
APIグループIV基油の例としては、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、およびこれらの水素化生成物等の、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマー及びコオリゴマー並びにそれらの水素化生成物を挙げることができる。
【0038】
APIグループV基油の好ましい例としては、各種のエステル系基油を挙げることができる。エステル系基油の例としては、モノエステル基油(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート、2-エチルヘキシルオレート等);ジエステル基油(例えばジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等);ポリカルボン酸エステル基油(例えばトリメリット酸エステル等);ポリオールエステル基油(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)等を挙げることができる。APIグループV基油の他の例としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、等の芳香族系合成基油を挙げることができる。
【0039】
潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、省エネルギー性および潤滑油組成物の低温粘度特性を高める観点から40mm2/s以下、又は30mm2/s以下、又は20mm2/s以下であり、また耐摩耗性および耐焼き付き性を高める観点から好ましくは2.0mm2/s以上、又は5.0mm2/s以上、又は8.0mm2/s以上であり、一の実施形態において2.0~40mm2/s、又は5.0~30mm2/s、又は8.0~20mm2/sであり得る。なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0040】
潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、省エネルギー性および潤滑油組成物の低温粘度特性をさらに高める観点から好ましくは10.0mm2/s以下、又は7.0mm2/s以下、又は4.0mm2/s以下であり、また耐摩耗性および耐焼き付き性を高める観点から好ましくは0.8mm2/s以上、又は1.2mm2/s以上、又は1.4mm2/s以上、又は1.6mm2/s以上であり、一の実施形態において0.8~10.0mm2/s、1.2~10.0mm2/s、又は1.4~7.0mm2/s、又は1.6~4.0mm2/sであり得る。なお本明細書において「100℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された100℃での動粘度を意味する。
【0041】
潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、組成物の粘度-温度特性を高める観点、ならびに、省燃費性および耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは100以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは115以上、最も好ましくは120以上である。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された粘度指数を意味する。
【0042】
潤滑油基油(全基油)の流動点は、潤滑油組成物全体の低温流動性の観点から好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-17.5℃以下、最も好ましくは-20.0℃以下である。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0043】
基油中の硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない基油を得ることができる。また、基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。潤滑油基油(全基油)中の硫黄分の含有量は、通常0.03質量%以下、酸化安定性の観点から好ましくは0.01質量%以下である。なお、本明細書において基油中の硫黄分の含有量とは、JIS K 2541-2003に準拠して測定される硫黄量を意味する。
【0044】
潤滑油基油は、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。一の好ましい実施形態において、基油全体(全基油)の40℃における動粘度は40mm2/s以下であり得る。
【0045】
一の実施形態において、潤滑油基油は、1種以上のAPIグループII基油、1種以上のAPIグループIII基油、1種以上のAPIグループIV基油、もしくは1種以上のAPIグループV基油、又はそれらの組み合わせを、基油全量基準で80~100質量%、又は90~100質量%、又は90~99質量%、又は95~99質量%含み得る。潤滑油基油はAPIグループV基油を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油基油中の1種以上のAPIグループV基油の含有量は、一の実施形態において酸化安定性を高める観点から基油全量基準で好ましくは0~50質量%、又は0~45質量%、また耐疲労性を高める観点から1~50質量%、又は1~45質量%であり得る。潤滑油基油はAPIグループIV基油を含有してもよく、含有しなくてもよいが、一の実施形態において、潤滑油基油中の1種以上のAPIグループIV基油の含有量は、基油全量基準で0~70質量%、又は0~65質量%、又は1~70質量%、又は1~65質量%であり得る。
【0046】
潤滑油組成物中の潤滑油基油(全基油)の含有量は、潤滑油組成物全量基準で60質量%以上であり、好ましくは60~98.5質量%、より好ましくは70~98.5質量%、一の実施形態において75~97質量%であり得る。
【0047】
<(B1)第1のアミド化合物、及び/又はその塩>
本発明の潤滑油組成物は、(B1)炭素数6~30の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の1種以上の一価脂肪酸(a1)と1種以上のアミン化合物(a2)とのモノアミドであって、エステル結合を有さず、上記アミン化合物(a2)は、下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有する重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーである、1種以上の第1のアミド化合物、並びに/又はその塩(以下において「(B1)成分」又は「成分(B1)」ということがある。)を含有する。
【0048】
【化2】
(一般式(1)中、nは1又は2であり;R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基を表し;nが2のとき、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【0049】
脂肪酸(a1)は1種の脂肪酸であってもよく、2種以上の脂肪酸の組み合わせであってもよい。脂肪酸(a1)は飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。また脂肪酸(a1)は直鎖脂肪酸であってもよく、分岐鎖脂肪酸であってもよい。一の好ましい実施形態において、脂肪酸(a1)は分岐鎖脂肪酸であり得る。直鎖飽和脂肪酸の例としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、及びドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等を挙げることができ、分岐鎖飽和脂肪酸の例としては、これらの分岐鎖異性体を挙げることができる。直鎖不飽和脂肪酸の例としては、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸、ヘンエイコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサコセン酸、オクタコセン酸、トリアコンテン酸等を挙げることができ、分岐鎖不飽和脂肪酸の例としては、これらの分岐鎖異性体を挙げることができる。なお不飽和脂肪酸におけるC=C二重結合の配置は特に制限されない。不飽和脂肪酸のC=C二重結合の数は1個(すなわちモノエン酸)であってもよく、2個(すなわちジエン酸)であってもよく、3個(すなわちトリエン酸)であってもよく、4個(すなわちテトラエン酸)以上であってもよい。また不飽和脂肪酸におけるC=C二重結合はシス型(Z型)であってもよく、トランス型(E型)であってもよく、シス型(Z型)のC=C二重結合とトランス型(E型)のC=C二重結合とが異なる分子の間で又は同一の分子中で共存していてもよい。例えば水素添加された天然油脂由来の脂肪酸は、水素添加により生じた飽和脂肪酸に加えて、水素添加反応の副反応に由来して、シス型のC=C二重結合を有する不飽和脂肪酸、及び、トランス型のC=C二重結合を有する不飽和脂肪酸を含み得る。例えば炭素数18の不飽和脂肪酸の具体例としては、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、パクセン酸(11-オクタデセン酸)、リノール酸(cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,12,15-オクタデカントリエン酸、6,9,12-オクタデカントリエン酸)、エレオステアリン酸(9,11,13-オクタデカントリエン酸)などの、C=C二重結合の数、配置、及び/又は幾何異性の異なる種々の類縁化合物を挙げることができる。他の炭素数を有する不飽和脂肪酸についても同様に、C=C二重結合の数、配置、及び/又は幾何異性の異なる種々の類縁化合物を挙げることができる。
【0050】
脂肪酸(a1)の炭素数は、ギヤ等の潤滑における摩擦低減効果を高める観点から6以上、好ましくは8以上、又は10以上、又は12以上であり、同様の観点から30以下、好ましくは24以下、又は22以下、又は20以下、又は18以下であり、一の実施形態において6~30、又は8~24、又は8~22、又は10~22、又は12~20、又は12~18であり得る。一の実施形態において、脂肪酸(a1)は1種以上の直鎖脂肪酸であり得る。直鎖脂肪酸の好ましい例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキジン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、ベヘン酸、エルカ酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、ニシン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、及びこれらの混合物等を挙げることができる。2種以上の脂肪酸を含有する混合物として、天然油脂または水素添加された天然油脂由来の脂肪酸を用いてもよい。天然油脂由来の脂肪酸の例としては、ココナッツ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、パーム油脂肪酸、キリ油脂肪酸、トール油脂肪酸、コーン油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、ごま油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、あまに油脂肪酸、魚油脂肪酸、牛脂脂肪酸、これらの水素添加物、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これら天然油脂由来の脂肪酸は通常、炭素数6~24の2種以上の脂肪酸を含む混合物である。一の実施形態において、脂肪酸(a1)は1種以上の分岐鎖脂肪酸であり得る。一の実施形態において、分岐鎖脂肪酸は、カルボニル炭素のα位、β位、又はγ位に第3級または第4級炭素原子(すなわち分岐)を有することが好ましく、カルボニル炭素のα位またはβ位に第3級または第4級炭素原子を有することが好ましく、カルボニル炭素のα位に第3級または第4級炭素原子を有することが特に好ましい。そのような分岐鎖脂肪酸の好ましい一例としては、下記一般式(2)で表される分岐鎖脂肪酸を挙げることができる。
【0051】
【化3】
(一般式(2)中、kは0~2の整数、好ましくは0若しくは1、より好ましくは0であり;R
2及びR
3はそれぞれ独立に直鎖または分岐鎖アルキル基であり;R
4は水素原子または直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、好ましくは水素原子であり;(R
2の炭素数)≧(R
3の炭素数)≧(R
4の炭素数)であり;(R
2の炭素数)+(R
3の炭素数)+(R
4の炭素数)+k+2は分岐鎖脂肪酸の総炭素数に等しい。)
一の好ましい実施形態において、一般式(2)中、kは0、R
2は炭素数3~19の直鎖または分岐鎖アルキル基、R
3は炭素数1~10の直鎖または分岐鎖アルキル基、R
4は水素原子であり得る。一般式(4)で表される分岐鎖脂肪酸の好ましい例としては、2-エチルヘキサン酸、2-ブチルオクタン酸、2-デシルテトラデカン酸、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)オクタン酸、等を挙げることができる。このような分岐鎖脂肪酸は、必要であれば例えば、第2級または第3級アルキルハライドから調製されるGrignard試薬やアルキルリチウム等の有機金属化合物と二酸化炭素との反応、又は、ヒドロホルミル化触媒の存在下でのアルケン、一酸化炭素、及び水素の反応でアルデヒドおよび/またはアルコールを合成し、得られたアルデヒドおよび/またはアルコールをさらなる酸化反応に供することより、製造することができる。第2級または第3級アルキルハライドは、必要であれば例えば、対応するアルケンとハロゲン化水素(例えば塩化水素、臭化水素、又はヨウ化水素)との付加反応により、製造することができる。アルケンから誘導される第2級または第3級アルキルハライドは通常、ハロゲン原子が結合した位置が異なる第2級または第3級アルキルハライドの異性体混合物として得られ、そのような第2級または第3級アルキルハライド異性体混合物から誘導される分岐鎖脂肪酸は通常、一般式(2)においてR
2~R
4の炭素数の組み合わせが異なる分岐鎖脂肪酸の異性体混合物として得られる。分岐鎖脂肪酸の他の好ましい例としては、末端にメチル分岐を有する分岐鎖脂肪酸を挙げることができる。そのような分岐鎖脂肪酸の好ましい例としては、下記一般式(3)で表される分岐鎖脂肪酸を挙げることができる。
【0052】
【化4】
(一般式(3)中、j+4は分岐鎖脂肪酸の総炭素数に等しい。)
そのような分岐鎖脂肪酸の好ましい例としては、16-メチルヘプタデカン酸等を挙げることができる。
【0053】
アミン化合物(a2)は、下記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有する、重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーである。
【0054】
【化5】
(一般式(1)中、nは1又は2であり;R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基を表し;nが2のとき、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。)
一般式(1)において、R
1は炭素数1~4の直鎖アルキレン基、又は、炭素数3~10の分岐鎖アルキレン基であって主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基である。直鎖アルキレン基であるR
1の炭素数は好ましくは2~4、又は2~3であり、一の実施形態において2であり得る。一の実施形態において、分岐鎖アルキレン基であるR
1の各側鎖はメチル基又はエチル基であり、R
1の炭素数は3~6、又は3~5、又は3~4であり得る。本明細書において、R
1の主鎖の炭素数は、R
1と結合した窒素原子と酸素原子とを繋ぐ最短の炭素鎖の炭素数を意味し、R
1の命名に用いられる主鎖の選択とは関係なく定まる。例えばR
1がブタン-1,2-ジイル基であるとき、R
1の主鎖の炭素数は2である。R
1が直鎖アルキレン基であるとき、R
1の主鎖の炭素数はR
1の炭素数に等しい。R
1が分岐鎖アルキレン基であるとき、R
1の各側鎖は好ましくはメチル基又はエチル基であり、一の実施形態においてメチル基であり得る。例えば、炭素数2の直鎖アルキレン基R
1を有するアルカノールアミンは、無置換オキシランとアンモニアとの反応により、製造することができる。また例えば、炭素数3の直鎖アルキレン基R
1を有するアルカノールアミンは、無置換オキセタンとアンモニアとの反応により、製造することができる。また例えば、炭素数4の直鎖アルキレン基R
1を有するアルカノールアミンは、無置換テトラヒドロフランとアンモニアとの反応により、製造することができる。また例えば、主鎖の炭素数が2である分岐鎖アルキレン基R
1を有するアルカノールアミンは、置換オキシランとアンモニアとの反応により、製造することができ、置換オキシランの各置換基が分岐鎖アルキレン基R
1の各側鎖となる。アルキレン基R
1の好ましい例としては、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基等の直鎖アルキレン基;プロパン-1,2-ジイル基;ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基、1-メチルプロパン-1,2-ジイル基等の炭素数4の分岐鎖アルキレン基;ペンタン-1,2-ジイル基、ペンタン-2,3-ジイル基、2-メチルブタン-1,2-ジイル基、3-メチルブタン-2,3-ジイル基等の炭素数5の分岐鎖アルキレン基;ヘキサン-1,2-ジイル基、ヘキサン-2,3-ジイル基、ヘキサン-3,4-ジイル基、2-メチルペンタン-2,3-ジイル基、3-メチルペンタン-2,3-ジイル基、2,3-ジメチルブタン-2,3-ジイル基等の炭素数6の分岐鎖アルキレン基;ヘプタン-1,2-ジイル基、ヘプタン-2,3-ジイル基、ヘプタン-3,4-ジイル基、3-エチルペンタン-2,3-ジイル基、3-メチルペンタン-3,4-ジイル基等の炭素数7の分岐鎖アルキレン基;オクタン-1,2-ジイル基、オクタン-2,3-ジイル基、オクタン-3,4-ジイル基、オクタン-4,5-ジイル基、3-エチルヘキサン-3,4-ジイル基、3-エチル-2-メチルペンタン-2,3-ジイル基、3,4-ジメチルヘキサン-3,4-ジイル基等の炭素数8の分岐鎖アルキレン基;ノナン-1,2-ジイル基、ノナン-2,3-ジイル基、ノナン-3,4-ジイル基、ノナン-4,5-ジイル基、2,3-ジエチルペンタン-2,2-ジイル基等の炭素数9の分岐鎖アルキレン基;及び、デカン-1,2-ジイル基、デカン-2,3-ジイル基、デカン-3,4-ジイル基、デカン-4,5-ジイル基、デカン-5,6-ジイル基、3,4-ジエチルヘキサン-3,4-ジイル基等の炭素数10の分岐鎖アルキレン基、を挙げることができる。R
1は単一のアルキレン基であってもよく、2種以上のアルキレン基の組み合わせであってもよい。
【0055】
一の好ましい実施形態において、アルキレン基R1は、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、若しくはブタン-2,3-ジイル基、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0056】
一般式(1)で表されるアルカノールアミンは、n=1のときモノアルカノールアミンであり、n=2のときジアルカノールアミンである。R1が非対称な分岐鎖アルキレン基、すなわち、2つの遊離原子価に結合した側鎖が異なるアルキレン基(例えばプロパン-1,2-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基、ペンタン-2,3-ジイル基等。)である場合には、2つの遊離原子価のどちらが窒素原子に結合していてもよい。例えば、プロピレンオキサイドとアンモニアとの反応においては、プロピレン-1,2-ジイル基の1-位が窒素原子に結合した(すなわち、窒素原子に2-ヒドロキシプロピル基が結合した)プロパノールアミン構造を与える反応経路と、プロピレン-1,2-ジイル基の2-位が窒素原子に結合した(すなわち、窒素原子に1-ヒドロキシプロパン-2-イル基が結合した)プロパノールアミン構造を与える反応経路とが競合して、両者の生成物の混合物を与え得る。一般式(1)においてn=2であるジアルカノールアミンにおいて、2つのR1は同一でも相互に異なっていてもよい。2つのR1が同一の非対称な分岐鎖アルキレン基である場合には、2つのR1の向きは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。例えば、2つのR1がプロパン-1,2-ジイル基であるジプロパノールアミンにおいて、2つのHO-R1-基は両方とも2-ヒドロキシプロピル基であってもよく、両方とも1-ヒドロキシプロパン-2-イル基であってもよく、一方が2-ヒドロキシプロピル基、他方が1-ヒドロキシプロパン-2-イル基であってもよい。プロピレンオキサイドとアンモニアとの反応でジプロパノールアミンを製造する際には、これらの化合物が同時に生成して、混合物を与え得る。一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)は、1種以上のモノアルカノールアミンであってもよく、1種以上のジアルカノールアミンであってもよく、1種以上のモノアルカノールアミンと1種以上のジアルカノールアミンとの組み合わせであってもよいが、1種以上のジアルカノールアミンであることが特に好ましい。
【0057】
成分(i)において一価脂肪酸(a1)とモノアミドを形成しているアミン化合物(a2)は、一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有するアルカノールアミンオリゴマーであって、その重合度は2以上である。例えば下記一般式(4)は、ジアルカノールアミン(a3d)2分子の脱水縮合反応により、重合度2のアルカノールアミンダイマー(a2-dd)が生成する反応を表す。また例えば下記一般式(5)は、モノアルカノールアミン(a3m)2分子の脱水縮合反応により、重合度2のアルカノールアミンダイマー(a2-mm)が生成する反応を表す。また例えば下記一般式(6)は、ジアルカノールアミン(a3d)1分子とモノアルカノールアミン(a3m)1分子との脱水縮合反応により、重合度2のアルカノールアミンダイマー(a2-2dm又はa2-2md)が生成する反応を表す。一般式(6)に示すように、ジアルカノールアミンとモノアルカノールアミンとの脱水縮合反応では、生成物は構造異性体を含み得る。どちらの構造異性体が生成するかは、どちらの分子のヒドロキシ基が脱離するかに依存する。
【0058】
【化6】
一般式(4)~(6)に示すように、アルカノールアミン(a3)の脱水縮合では、一方の分子からヒドロキシ基が脱離するとともに、該脱離したヒドロキシ基が結合していた炭素原子(ヒドロキシ基のα炭素)と、他方の分子の第1級または第2級アミン窒素原子との間に、新たなC-N結合が生成する。また例えば下記一般式(7)は、ジアルカノールアミン3分子の脱水縮合により、重合度3のアルカノールアミン3量体(a2-ddd1又はa2-ddd2)が生成する反応を表す。
【0059】
【化7】
一般式(7)において、2量体(a2-dd)の生成については一般式(4)を参照する。一般式(7)に示すように、ジアルカノールアミン2量体(2a-dd)から脱離するヒドロキシ基に対応して、ジアルカノールアミン3量体は構造異性体(a2-ddd1及びa2-ddd2)を含み得る。同様に、重合度4以上のアルカノールアミンオリゴマーも、複数の構造異性体を含み得る。また例えば下記一般式(8)は、モノアルカノールアミン3分子の脱水縮合により、重合度3のアルカノールアミン3量体(a2-mmm1又はa2-mmm2)が生成する反応を表す。
【0060】
【化8】
一般式(8)において、2量体(a2-mm)の生成については一般式(5)を参照する。一般式(8)に示すように、モノアルカノールアミン2量体(2a-mm)から脱離するヒドロキシ基に対応して、モノアルカノールアミン3量体は構造異性体(a2-mmm1及びa2-mmm2)を含み得る。同様に、重合度4以上のアルカノールアミンオリゴマーも、複数の構造異性体を含み得る。また例えば下記一般式(9a)~(9c)は、ジアルカノールアミン2分子およびモノアルカノールアミン1分子の脱水縮合により、重合度3の混合アルカノールアミン3量体(a2-ddm1、a2-ddm2、a2-dmd、又はa2-mdd)が生成する反応を表す。
【0061】
【化9】
一般式(9a)~(9c)において、2量体(a2-dd、a2-dm、a2-md)の生成については一般式(4)及び(6)を参照する。一般式(9a)~(9c)に示すように、脱離するヒドロキシ基に対応して、混合アルカノールアミン3量体は構造異性体(a2-ddm1、a2-ddm2、a2-dmd、及びa2-mdd)を含み得る。同様に、重合度4以上の混合アルカノールアミンオリゴマーも、複数の構造異性体を含み得る。また例えば下記一般式(10a)~(10c)は、ジアルカノールアミン1分子およびモノアルカノールアミン2分子の脱水縮合により、重合度3の混合アルカノールアミン3量体(a2-mmd、a2-dmm1、又はa2-dmm2)が生成する反応を表す。
【0062】
【化10】
一般式(10a)~(10c)において、2量体(a2-mm、a2-dm、a2-md)の生成については一般式(5)及び(6)を参照する。一般式(10a)~(10c)に示すように、脱離するヒドロキシ基に対応して、混合アルカノールアミン3量体は構造異性体(a2-mmd、a2-dmm1、及びa2-dmm2)を含み得る。同様に、重合度4以上の混合アルカノールアミンオリゴマーも、複数の構造異性体を含み得る。このように、一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有するアルカノールアミンオリゴマーは、その重合度が2又は3であるとき、下記一般式(11)で表すことができる。
【0063】
【化11】
(一般式(11)中、R
5~R
9はそれぞれ独立に水素原子または-R
1-OH基を表し;R
1は上記定義の通りであり;複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよく;mは0又は1であり;mが0のとき、R
5~R
8のうち少なくとも1つは水素原子であり、且つR
5~R
8のうち少なくとも1つは-R
1-OH基であり;mが1のとき、R
5~R
9のうち少なくとも1つは水素原子であり、且つR
5~R
9のうち少なくとも1つは-R
1-OH基である。)
一の実施形態において、一般式(11)中、m=0のとき、R
5~R
8のうち1つが水素原子、他の3つが-R
1-OH基であり得る。またm=1のとき、R
5~R
9のうち1つが水素原子、他の4つが-R
1-OH基であり得る。
また、一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)が脱水縮合した構造を有するアルカノールアミンオリゴマーには、その重合度が4以上であるときには、直鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体と、分岐鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体とが存在する。
例えば、上記アルカノールアミンオリゴマーの重合度が4であるとき、その直鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体は、下記一般式(12a)で表される無置換直鎖ポリアルキレンアミンのN原子に結合した水素原子の一部が-R
1-OH基で置き換えられた化合物であり;その分岐鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体は、下記一般式(12b)で表される無置換分岐鎖ポリアルキレンアミンのN原子に結合した水素原子の一部が-R
1-OH基で置き換えられた化合物であり;R
1は上記定義の通りであり、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。
【0064】
【化12】
本明細書において、m+2個(m≧1)のN原子を有する無置換ポリアルキレンアミンが「直鎖」であることは、当該無置換ポリアルキレンアミンが2個の第1級アミノ基とm個の第2級アミノ基とを有することを意味し、アルキレン基が直鎖であるか分岐鎖であるかには関係なく定まる。これに対して無置換ポリアルキレンアミンが「分岐鎖」であることは、当該無置換ポリアルキレンアミンが少なくとも1つの第3級アミノ基を有することを意味し、アルキレン基が直鎖であるか分岐鎖であるかには関係なく定まる。m+2個(m≧2)のN原子を有する無置換分岐鎖ポリアルキレンアミンがk個(1≦k≦m/2)の第3級アミノ基を有するとき、当該無置換分岐鎖ポリアルキレンアミンは、2+k個の第1級アミノ基と、m-2k個の第2級アミノ基とを有する。一般に、上記アルカノールアミンオリゴマーの重合度m+2が4以上であるとき、その直鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体は、下記一般式(13)で表される無置換直鎖ポリアルキレンアミンのN原子に結合した水素原子の一部(例えばm+3個)が-R
1-OH基で置き換えられた化合物であり;その分岐鎖ポリアルキレンアミン骨格を有する異性体は、一般式(13)で表される無置換直鎖ポリアルキレンアミンの無置換分岐鎖ポリアルキレンアミン異性体のN原子に結合した水素原子の一部(例えばm+3個)が-R
1-OH基で置き換えられた化合物であり;R
1は上記定義の通りであり、複数のR
1は同一でも相互に異なっていてもよい。
【0065】
【化13】
(一般式(13)中、mはアルカノールアミンオリゴマーの重合度m+2に対応してm≧2である。)
【0066】
アミン化合物(a2)すなわちアルカノールアミンオリゴマーの重合度は2以上であり、好ましくは2~15、又は2~10であり、一の実施形態において2~4又は2~3であり得る。アルカノールアミンオリゴマー(a2)は、単一の重合度を有していてもよく、複数の異なる重合度を有するオリゴマーの組み合わせであってもよい。一の実施形態において、アルカノールアミンオリゴマー(a2)は、連続した複数の異なる重合度を有するオリゴマーの組み合わせであり得る。本明細書において、あるオリゴマーが「連続した複数の異なる重合度を有するオリゴマーの組み合わせである」とは、当該オリゴマーの重合度の最小値および最大値をそれぞれdminおよびdMAXとするとき、当該オリゴマーがdmin以上dMAX以下の全ての重合度のオリゴマーを含有することを意味する。
【0067】
第1のアミド化合物は、上記1種以上の一価脂肪酸(a1)と、上記1種以上のアミン化合物(a2)とのモノアミドであって、エステル結合を有しない化合物である。成分(B1)は、該第1のアミド化合物、及び/又はその塩である。第1のアミド化合物は、アシル化されていない1つ以上のアミン窒素原子を有するので、酸と塩を形成し得る。第1のアミド化合物の塩は、第1のアミド化合物と有機酸との塩(有機酸塩)であってもよく、第1のアミド化合物と無機酸との塩(無機酸塩)であってもよく、1種以上の有機酸塩と1種以上の無機酸塩との組み合わせであってもよい。有機酸塩は1種の有機酸塩であってもよく、2種以上の有機酸塩の組み合わせであってもよい。無機酸塩は1種の無機酸塩であってもよく、2種以上の無機酸塩の組み合わせであってもよい。また後述するように、有機酸塩を構成する有機酸は、上記一価脂肪酸(a1)であってもよい。
【0068】
第1のアミド化合物と無機酸塩を構成する無機酸の例としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等のハロゲン化水素;次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸などのオキシハロゲン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸(リン原子の形式酸化数が+Vであるリンのオキソ酸を意味し、オルトリン酸であってもよく、ピロリン酸、ポリリン酸等の縮合リン酸であってもよい。)、亜リン酸、ホウ酸(ホウ素原子の形式酸化数が+IIIであるホウ素のオキソ酸を意味し、オルトホウ酸であってもよく、四ホウ酸、メタホウ酸等の縮合ホウ酸であってもよい。)、炭酸、等の無機オキソ酸;及び、青酸、等の無機ブレンステッド酸を挙げることができる。
【0069】
第1のアミド化合物と有機酸塩を構成する有機酸の例としては、カルボン酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸およびそのモノエステル、有機ボロン酸およびそのモノエステル、硫酸モノエステル、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル、ホウ酸モノエステル、ホウ酸ジエステル、置換または無置換フェノール、等の有機ブレンステッド酸を挙げることができる。
【0070】
第1のアミド化合物と塩を構成するカルボン酸の例としては、脂肪族カルボン酸および芳香族カルボン酸を挙げることができる。
脂肪族カルボン酸の例としては、炭素数1~5の一価脂肪酸、炭素数6~30の一価脂肪酸、炭素数2~10の二価脂肪族カルボン酸およびそのモノエステル、脂肪族ヒドロキシ酸、等を挙げることができる。
炭素数1~5の一価脂肪酸の例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、等を挙げることができ、その炭素数は好ましくは2~5である。
炭素数6~30の一価脂肪酸の例としては、一価脂肪酸(a1)に関連して上記説明した各種一価脂肪酸を挙げることができる。
炭素数2~10の二価脂肪族ジカルボン酸の例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、等を挙げることができる。そのモノエステルの例としては、当該二価脂肪族ジカルボン酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール等のアルコール、例えば炭素数1~12、又は1~10、又は1~8のアルキルアルコールとのモノエステルを挙げることができる。
脂肪族ヒドロキシ酸の例としては、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、キナ酸、シキミ酸、等の炭素数2~18の脂肪族ヒドロキシ酸を挙げることができる。
脂肪族カルボン酸の他の例としては、トリフルオロ酢酸、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸、4,4,4-トリフルオロ酪酸、等のハロゲン化(例えばフッ素化)脂肪族カルボン酸を挙げることができる。
芳香族カルボン酸の例としては、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびそのモノエステル、芳香族ヒドロキシ酸、芳香族ポリカルボン酸、等を挙げることができる。
芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、o-又はm-又はp-トルイル酸、フェニル酢酸、ケイ皮酸、等の、例えば炭素数7~10の化合物を挙げることができる。
芳香族ジカルボン酸の例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、等を挙げることができる。そのモノエステルの例としては、当該芳香族ジカルボン酸と、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールとのモノエステルを挙げることができる。
芳香族ヒドロキシ酸の例としては、サリチル酸、(m-又はp-)ヒドロキシ安息香酸、(o-、m-、又はp-)ヒドロキシメチル安息香酸、バニリン酸、シリング酸、(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、又は3,5-)ジヒドロキシ安息香酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ヒドロキシジフェニル酢酸(ベンジル酸)、アトロラクチン酸、フロレト酸、(o-、m-、又はp-)ヒドロキシケイ皮酸、(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、又は3,5-)ジヒドロキシケイ皮酸、フェルラ酸、シナピン酸、等の、例えば炭素数7~14の化合物を挙げることができる。
芳香族ポリカルボン酸の例としては、トリメリット酸、メリト酸、等の、ベンゼンの3~6個の水素原子がカルボキシ基で置換された構造を有する化合物を挙げることができる。
【0071】
有機スルホン酸の例としては、下記一般式(14)で表される化合物を挙げることができる。
【0072】
【化14】
(一般式(14)中、R
10は炭素数1以上、例えば炭素数1~18の有機基を表す。)
R
10の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、オレイル基、等の炭素数1~18の直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クミル基、ナフチル基、等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、トリクロロフェニル基、等のハロゲン化炭化水素基、カンファー-10-イル基、等を挙げることができる。有機スルホン酸の好ましい例としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、等の、例えば炭素数1~10の化合物を挙げることができる。
【0073】
有機ホスホン酸の例としては、下記一般式(15)で表される化合物を挙げることができる。
【0074】
【化15】
(一般式(15)中、R
11は炭素数1以上、例えば炭素数1~18の有機基を表す。)
R
11の例としては、R
10に関連して上記説明した、炭素数1~18の直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、等を挙げることができる。
有機ホスホン酸のモノエステルの例としては、当該有機ホスホン酸と、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールとのモノエステルを挙げることができる。
【0075】
有機ボロン酸の例としては、下記一般式(16)で表される化合物を挙げることができる。
【0076】
【化16】
(一般式(16)中、R
12は炭素数1以上、例えば炭素数1~18の有機基を表す。)
R
12の例としては、R
10に関連して上記説明した、炭素数1~18の直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、等を挙げることができる。R
12の他の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素数5~6のシクロアルキル基;フェニルエチル基、等のアリールアルキル基;フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、トリクロロフェニル基、ブロモフェニル基、ジブロモフェニル基、ヨードフェニル基、フルオロトリル基、クロロトリル基、等の(例えば炭素数6~7の)ハロゲン化芳香族炭化水素基;ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、メトキシトリル基、エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基、イソプロポキシフェニル基、ブトキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、ホルミルフェニル基、アセチルフェニル基、等の、(例えば炭素数6~10の)ヒドロキシ、アルコキシ、シアノ、ホルミル、もしくはニトロ置換、又はアシル化芳香族炭化水素基;フラン-2-イル基、チオフェン-3-イル基、チオフェン-2-イル基、ベンゾフラン-2-イル基、ベンゾ[b]チオフェン-2-イル基、等の複素環基、等を挙げることができる。
有機ボロン酸のモノエステルの例としては、当該有機ホスホン酸と、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールとのモノエステルを挙げることができる。
【0077】
硫酸モノエステル、リン酸モノエステル、亜リン酸モノエステル、及びホウ酸モノエステルの例としては、それぞれ、硫酸、オルトリン酸、亜リン酸、又はオルトホウ酸と、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールとのモノエステルを挙げることができる。
リン酸ジエステル及びホウ酸ジエステルの例としては、それぞれ、オルトリン酸又はオルトホウ酸と、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールとのモノエステルを挙げることができる。
【0078】
置換フェノールの好ましい例としては、無置換フェノールより小さいpKaを有する置換フェノールを挙げることができる。そのような置換フェノールは通常、芳香環に対して電子吸引性基として作用する1つ以上の置換基を有する。そのような電子吸引性基の例としては、アセチル基等のアシル基、ホルミル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲノ基(例えばフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基。)等を挙げることができる。アルコキシカルボニル基のアルコキシ基に対応するアルコールの例としては、二価脂肪族ジカルボン酸のモノエステルに関連して上記説明した各種アルコールを挙げることができる。そのような置換フェノールの例としては、アセチルフェノール、ホルミルフェノール、カルボキシフェノール、メトキシカルボニルフェノール、エトキシカルボニルフェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等を挙げることができる。置換フェノールの炭素数は好ましくは6~13、又は6~11、又は6~9であり得る。
【0079】
潤滑油組成物中の成分(B1)の含有量は、摩擦低減性能をさらに高める観点、特にギヤの潤滑条件等の、混合潤滑領域における摩擦低減性能をさらに高める観点から、塩を形成していない状態の化合物換算で、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.001質量%以上、又は0.010質量%以上、又は0.050質量%以上であり、同様の観点から好ましくは10.0質量%以下、又は5.0質量%以下、又は1.00質量%以下であり、一の実施形態において0.001~10.0質量%、又は0.010~5.0質量%、又は0.050~1.00質量%であり得る。第1のアミド化合物は、塩を形成可能なアミノ基を少なくとも1つ有している。
本明細書において、成分(B1)の「塩を形成していない状態の化合物換算」での含有量は、第1のアミド化合物が全く塩を形成していない場合にはそのままの含有量を意味し、第1のアミド化合物の全部または一部が酸と塩を形成している場合には、酸で中和されていない状態での質量に換算した含有量を意味する。
【0080】
<(B2)第2のアミド化合物>
一の実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、(B2)一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)の、アミノ基及び1つ以上のヒドロキシ基が、上記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、1種以上の第2のアミド化合物(以下において「(B2)成分」又は「成分(B2)」ということがある。)をさらに含み得る。成分(B2)は、下記一般式(17a)、(17b)、又は(17c)で表される構造を有する。一般式(17a)及び(17b)はジアルカノールアミンに対応する構造を示し、一般式(17c)はモノアルカノールアミンに対応する構造を示している。一の好ましい実施形態において、成分(B2)は、一般式(1)で表される1種以上のジアルカノールアミンの、アミノ基及び1つ以上のヒドロキシ基が、上記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有し、その構造は一般式(17a)又は(17b)で表される。
【0081】
【化17】
(一般式(17a)~(17c)中、R
1は上記定義の通りであり;一般式(17a)及び(17b)において、同一分子中の2つのR
1は同一でも相互に異なっていてもよく、対応するジアルカノールアミンの2つのアルキレン基を表し;一般式(17c)において、R
1は対応するモノアルカノールアミンのアルキレン基を表し;R
13は上記一価脂肪酸(a1)からカルボキシ基を取り除くことにより得られる脂肪族炭化水素基であり;上記一価脂肪酸(a1)が1種の脂肪酸である場合には、同一分子中の複数のR
13は同一の脂肪族炭化水素基であり;上記一価脂肪酸(a1)が2種以上の異なる脂肪酸の組み合わせである場合には、同一分子中の複数のR
13は、当該2種以上の異なる脂肪酸の組み合わせに対応して、同一の脂肪族炭化水素基または2種以上の異なる脂肪族炭化水素基の組み合わせである。)
【0082】
潤滑油組成物は、(B2)成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。一の実施形態において、潤滑油組成物中の成分(B2)の含有量は、貯蔵安定性を高める観点、及び、摩擦低減性能を高める観点、特にギヤの潤滑条件等の、混合潤滑領域における摩擦低減性能を高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0.001質量%以上、又は0.010質量%以上、又は0.050質量%以上であり、また、摩擦低減性能をさらに高める観点、特にギヤの潤滑条件等の、混合潤滑領域における摩擦低減性能をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは5.0質量%以下、又は3.0質量%以下、又は1.00質量%以下であり、一の実施形態において0.001~5.0質量%、又は0.010~3.0質量%、又は0.050~1.00質量%であり得る。
【0083】
一の実施形態において、潤滑油組成物中の成分(B1)及び(B2)の合計の含有量は、貯蔵安定性をさらに高める観点、及び、摩擦低減性能をさらに高める観点、特にギヤの潤滑条件等の、混合潤滑領域における摩擦低減性能をさらに高める観点から、塩を形成していない状態の化合物換算で、組成物全量基準で好ましくは0.001質量%以上、又は0.010質量%以上、又は0.050質量%以上であり、また製造容易性の観点からは、好ましくは10.0質量%以下、又は5.0質量%以下、又は1.00質量%以下であり、一の実施形態において0.001~10.0質量%、又は0.010~5.0質量%、又は0.050~1.00質量%であり得る。
【0084】
<(B3)第3のアミド化合物>
一の実施形態において、潤滑油組成物は、(B3)上記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)と、上記一価脂肪酸(a1)とのアミドであって、エステル結合を有しない、第3のアミド化合物(以下において「(B3)成分」又は「成分(B3)」ということがある。)をさらに含み得る。第3のアミド化合物は、下記一般式(18a)又は(18b)で表される構造を有する。一般式(18a)はジアルカノールアミンに対応する構造を示し、一般式(18b)はモノアルカノールアミンに対応する構造を示している。一の好ましい実施形態において、成分(B3)は、一般式(1)で表される1種以上のジアルカノールアミンの、アミノ基及び1つ以上のヒドロキシ基が、上記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有し、その構造は一般式(18a)で表される。
【0085】
【化18】
(一般式(18a)及び(18b)中、R
1は上記定義の通りであり、R
13は一般式(17a)~(17c)における定義の通りである。)
【0086】
<(B4)第4のアミド化合物、及び/又はその塩>
一の実施形態において、潤滑油組成物は、(B4)上記アミン化合物(a2)の1つ以上のアミノ基および1つ以上のヒドロキシ基が、上記一価脂肪酸(a1)でアシル化された構造を有する、第4のアミド化合物、及び/又はその塩(以下において「(B4)成分」又は「成分(B4)」ということがある。)をさらに含み得る。第4のアミド化合物は、アミド結合だけでなくエステル結合も有する点において、第1のアミド化合物とは異なっている。第4のアミド化合物は、塩を形成可能な1つ以上のアミノ基を有し得る。第4のアミド化合物と塩を形成する酸の例としては、(B1)成分に関連して上記説明した各種の酸を挙げることができる。
【0087】
潤滑油組成物は、(B3)成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。また潤滑油組成物は、(B4)成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。一の実施形態において、潤滑油組成物中における成分(B3)及び(B4)の合計の含有量は、塩を形成していない状態の化合物換算で、組成物全量基準で例えば1.00質量%以下、又は0.50質量%以下であり得る。また、製造容易性の観点からは、組成物全量基準、上記換算で好ましくは0.001質量%以上、又は0.005質量%以上であり、一の実施形態において0.001~1.00質量%、又は0.005~0.50質量%であり得る。
本明細書において、成分(B4)の「塩を形成していない状態の化合物換算」での含有量は、第4のアミド化合物が全く塩を形成していない場合にはそのままの含有量を意味し、第4のアミド化合物の全部または一部が酸と塩を形成している場合には、酸で中和されていない状態での質量に換算した含有量を意味する。
【0088】
一の実施形態において、潤滑油組成物中における成分(B2)及び(B3)の合計の含有量は、製造容易性の観点および貯蔵安定性をさらに高める観点からは、ヒドロキシ基がエーテル化されていてもよいアルカノールアミン構造を含む化合物の前記一価脂肪酸(a1)による全てのアシル化物の、塩を形成していない状態の化合物換算での合計の含有量を基準として、好ましくは20質量%以上、又は50質量%以上、又は85質量%超、又は86質量%以上であり、一の実施形態において99質量%以下、又は96質量%以下であり得て、一の実施形態において20~99質量%、又は50~99質量%、又は85質量%超99質量%以下、又は86~99質量%であり得る。
本明細書において、「ヒドロキシ基がエーテル化されていてもよいアルカノールアミン構造を含む化合物の上記一価脂肪酸(a1)による全てのアシル化物」の「アルカノールアミン構造を含む化合物」は、いかなるアルカノールアミン構造、すなわちHO-R14-NR15R16構造(R14は任意のアルキレン基を表し;R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子または任意の有機基を表し、R15とR16とが相互に結合して環状構造を形成していてもよい。)を含むいかなる化合物も包含する概念である。また、「アルカノールアミン構造」の「ヒドロキシ基がエーテル化されていてもよい」ことは、アルカノールアミン構造(HO-R14-NR15R16構造)のヒドロキシ(-OH)基がエーテル結合に変換されていてもよいことを意味する。「ヒドロキシ基がエーテル化されたアルカノールアミン構造」の例としては、アルカノールアミンのヒドロキシ基が分子間または分子内脱水縮合によりエーテル結合に変換された構造を挙げることができる。アルカノールアミンが分子内脱水縮合によりエーテル結合を形成するには、単一分子中に2つ以上のヒドロキシ基が存在することが必要であり、例えばジアルカノールアミンはこの要件を満たす。アルカノールアミンの分子内脱水縮合反応によるエーテル結合の形成は環化反応であり、アザオキサシクロアルカン骨格(例えばモルホリン骨格等)を与え得る。そのような分子内脱水環化反応については後述する。また、その「上記一価脂肪酸(a1)による全てのアシル化物」は、上記一価脂肪酸(a1)によるいかなるアシル化物も包含する概念であり、例えば脂肪酸(a1)のアミドであってもよく、脂肪酸(a1)のエステルであってもよく、また脂肪酸(a1)によるアシル化を一分子中の複数の個所で受けている化合物であってもよい。また、その「塩を形成していない状態の化合物換算での合計の含有量」は、塩を形成していない化合物についてはその含有量、全部または一部が塩を形成している化合物については塩を形成していない状態の化合物としての含有量(例えばアシル化されていないアミノ基の全部または一部が酸で中和された化合物については、酸で中和されていない状態での質量に換算した含有量)を、それぞれ合計することにより、算出することができる。
【0089】
(製造)
アミン化合物(a2)すなわちアルカノールアミンオリゴマーは、例えば1種以上のアルカノールアミン(a3)の脱水縮合により製造することが可能である。アミン化合物(a2)は、単一の重合度を有するオリゴマーであってもよく、異なる重合度を有する2種以上のオリゴマーの組み合わせ(例えば、連続した異なる複数の重合度を有するオリゴマーの組み合わせ)であってもよい。
一の実施形態において、成分(B1)は、脂肪酸(a1)とアミン化合物(a2)との脱水縮合反応により製造することができる。そのような脱水縮合反応は例えば、脂肪酸(a1)とアミン化合物(a2)とを、水と共沸混合物を形成する有機溶媒(例えばトルエン、キシレン、クメン、シメン等。)中で、酸触媒(例えば硫酸、トリフルオロ酢酸等。)若しくは塩基触媒(例えば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等。)の存在下で又は無触媒で加熱還流しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を共沸によって除去することにより行うことができる。なお無触媒条件下では、脂肪酸(a1)自体が酸触媒として作用し得る。
同様に、一の実施形態において、成分(B2)は、脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)との脱水縮合反応により製造することができる。そのような脱水縮合反応は例えば、脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)とを、水と共沸混合物を形成する有機溶媒の存在下で加熱還流しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を共沸によって除去することにより行うことができる。
他の一の実施形態において、成分(B1)は、脂肪酸(a1)と、アミン化合物(a2)と、縮合剤とを溶媒中で反応させることにより製造することができる。同様に、一の実施形態において、成分(B2)は、脂肪酸(a1)と、アルカノールアミン(a3)と、縮合剤とを溶媒中で反応させることにより製造することができる。縮合剤としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカルボジイミド系縮合剤;N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)(CDT)等のイミダゾール系縮合剤;4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド水和物(DMT-MM)等のトリアジン系縮合剤;2-クロロ-1-メチルピリジニウム p-トルエンスルホネート、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム p-トルエンスルホネート等の2-ハロピリジニウム塩;2,4,6-トリクロロベンゾイルクロライド(TCBC);2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA);アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)と、トリフェニルホスフィンとの組み合わせ;クロロジフェニルホスフィン等のホスフィン類と、2,2’-ジピリジルジスルフィド;2,6-ジメチル-1,4-ベンゾキノン(DMBQ)、テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン等のp-ベンゾキノン類との組み合わせ;ジメシチルアンモニウム ペンタフルオロベンゼンスルホネート等の、エステル化に使用可能な公知の縮合剤を特に制限なく用いることができる。縮合剤は、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)等の触媒とともに用いてもよい。
他の一の実施形態において、成分(B1)は、脂肪酸(a1)から誘導されるアシル化剤と、アミン化合物(a2)とを溶媒中で反応させることにより製造することができる。同様に、一の実施形態において、成分(B2)は、脂肪酸(a1)から誘導されるアシル化剤と、アルカノールアミン(a3)とを溶媒中で反応させることにより製造することができる。脂肪酸(a1)から誘導されるアシル化剤の例としては、脂肪酸(a1)の酸ハライド(例えば酸塩化物、酸臭化物等。)、脂肪酸(a1)の活性エステル(例えば脂肪酸(a1)とN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とのエステル、脂肪酸(a1)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とのエステル、脂肪酸(a1)と1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)とのエステル等。)、脂肪酸(a1)の酸無水物等を挙げることができる。脂肪酸(a1)から誘導されるアシル化剤は、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)等の触媒とともに用いてもよい。溶媒としては、縮合反応を妨害しない有機溶媒(例えば、ヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒、ピリジン等。)を特に制限なく用いることができる。また成分(B1)及び/又は(B2)を製造する縮合反応においては、必要に応じて、反応を促進する目的、または反応の進行に伴って生成する酸(例えば酸ハライドを用いた反応では反応の進行に伴ってハロゲン化水素が発生する。)を捕捉する目的で、反応混合物に適当な塩基(例えばトリエチルアミン、ピリジン、2,6-ルチジン等のアミン類、ブチルリチウム等の有機リチウム試薬、炭酸カリウム等の無機塩基等。)を加えてもよい。
他の一の実施形態において、成分(B1)は、成分(B3)(上記一般式(1)で表される1種以上のアルカノールアミン(a3)と、上記一価脂肪酸(a1)とのアミドであって、エステル結合を有しない、第3のアミド化合物)と、アルカノールアミン(a3)及び/又はアミン化合物(a2)との脱水縮合反応により製造することができる。そのような脱水縮合反応は例えば、成分(B3)とアルカノールアミン(a3)若しくはアミン化合物(a2)又はそれらの混合物とを、水と共沸混合物を形成する有機溶媒中で、酸触媒の存在下で加熱還流しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を共沸によって除去することにより行うことができる。
なお上記の各種脱水縮合反応は、無溶媒条件で行うことも可能である。例えば、脱水縮合反応を無溶媒条件で行いながら、反応の進行に伴って生成する水を留出させて除去することも可能である。
【0090】
一の好ましい実施形態において、脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)との脱水縮合反応により、成分(B1)と成分(B2)とを含有する混合物を製造することができる。一の実施形態において、そのような脱水縮合反応は、脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)とを、水と共沸混合物を形成する有機溶媒の存在下で加熱還流しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を共沸によって除去することにより行うことができる。
他の一の実施形態において、アルカノールアミン(a3)の沸点が水の沸点よりも高い場合には、そのような脱水縮合反応は、脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)とを無溶媒条件下で加熱撹拌しながら、反応により生じる水が継続して留出するように加熱温度を徐々に上げ、それ以上温度を上げても水が留出しなくなるまで加熱撹拌を継続することにより行うことができる。
なお上記の脱水縮合反応は、無溶媒条件で行うことも可能である。例えば、脱水縮合反応を無溶媒条件で行いながら、反応の進行に伴って生成する水を留出させて除去することも可能である。
上記の脱水縮合反応において、成分(B3)及び/又は成分(B4)が副生し得る。この反応において、反応に用いられる脂肪酸(a1)とアルカノールアミン(a3)とのモル比((a3)/(a1))は、例えば0.01~100、好ましくは0.02~50、又は0.5~5、又は1.5~2.0であり得る。
また、上記の脱水縮合反応において、ジアルカノールアミン(a3d)2分子がモノアルカノールアミン(a3m)1分子とトリアルカノールアミン(a3t)1分子とに不均化する反応(下記一般式(19))が、副反応として同時に進行し得る。
【0091】
【化19】
この不均化反応は、系中に共存する脂肪酸(a1)が酸触媒として作用することにより促進されると考えられる。生成したモノアルカノールアミン(a3m)はさらに他のアルカノールアミン分子との脱水縮合反応に参加し得る。したがって、原料として用いたアルカノールアミンが1種以上のジアルカノールアミン(a3d)からなる場合であっても、生成したアミン化合物(a2)のアルカノールアミンオリゴマー構造は、モノアルカノールアミン(a3m)由来の構造単位を含み得る。
また、このような不均化反応は、アルカノールアミンオリゴマー構造が形成された後にも進行し得る。例えば、アルカノールアミン2量体(例えばジアルカノールアミン2量体(a2-dd))とアルカノールアミン(ジアルカノールアミン(a3d)又はモノアルカノールアミン(a3m))との反応により、ヒドロキシアルキル(-R
1-OH)基が1つ減少したアルカノールアミン2量体(例えばa2-dm又はa2-md)と、ヒドロキシアルキル基が1つ増加したアルカノールアミン(トリアルカノールアミン(a3t)又はジアルカノールアミン(a3d))が生じ得る(下記一般式(20))。
【0092】
【化20】
また、上記の脱水縮合反応において、アルカノールアミンオリゴマー構造の環化反応が、副反応としてさらに進行し得る。例えば、同一の窒素原子に結合した2つのヒドロキシアルキル(-R
1-OH)基が存在する場合には、分子内脱水環化反応により、モルホリン骨格等のアザオキサシクロアルカン骨格が形成され得る。例えば、一方のアミノ基がビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基であり、他方のアミノ基が第2級アミノ基であるアルカノールアミン2量体(a2-dd)(一般式(4)参照。)は、分子内脱水反応により環化生成物(cao-a2-dd)を与え得て、環化生成物(cao-a2-dd)は脂肪酸(a1)との脱水縮合生成物(acyl-cao-a2-dd)をさらに与え得る。代わりに、ジアルカノールアミン2量体(a2-dd)と脂肪酸(a1)との脱水縮合反応が進行してアミド化合物(acyl-a2-dd)を与えた後、分子内脱水反応により環化生成物(acyl-cao-a2-dd)を生じ得る(下記一般式(21))。
【0093】
【化21】
同様に、一方のアミノ基がビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基であり、他方のアミノ基が第1級アミノ基であるアルカノールアミン2量体(a2-md)も、分子内脱水反応により、環化生成物を与え得る(下記一般式(22))。
【0094】
【化22】
このようなアザオキサシクロアルカン骨格を形成する分子内脱水環化反応は、アルキレン基R
1の主鎖の炭素数が2である場合に進行しやすく、そのような場合にはモルホリン骨格が形成される。
また例えば、重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーにおいて、アルキレン基R
1の2つの遊離原子価が、ヒドロキシアルキル(-R
1-OH)基が結合した窒素原子と、第1級又は第2級アミノ基とに結合している構造が存在する場合には、ジアザシクロアルカン骨格を形成する分子内脱水環化反応が、副反応として進行し得る。言い換えると、重合度2以上のアルカノールアミンオリゴマーにおいて、アルキレン基R
1に結合した2つの窒素原子の一方に1つ以上の水素原子が結合しており、他方に1つ以上のヒドロキシアルキル(-R
1-OH)基が結合している構造が存在する場合には、ジアザシクロアルカン骨格を形成する分子内脱水環化反応が、副反応として進行し得る。例えば、一方のアミノ基がビス(ヒドロキシアルキル)アミノ基であり、他方のアミノ基が第1級アミノ基であるアルカノールアミン2量体(a2-md)は、分子内脱水反応により、ジアザシクロアルカン骨格を有する環化生成物(caa-a2-md)を与え、該環化生成物(caa-a2-md)の脂肪酸(a1)によるアシル化反応がさらに進行し得る(下記一般式(23))。
【0095】
【化23】
また例えば、2つのアミノ基が両方とも第2級アミノ基であるアルカノールアミン2量体(a2-dm)は、分子内脱水反応によりジアザシクロアルカン骨格を備える環化生成物(caa-a2-md)を与え、該環化生成物(caa-a2-md)の脂肪酸(a1)によるアシル化反応がさらに進行し得る。代わりに、ジアルカノールアミン2量体(a2-dm)と脂肪酸(a1)との脱水縮合反応が進行してアミド化合物(acyl-a2-dm)を与えた後、分子内脱水反応により環化生成物(acyl-caa-a2-md)を生じ得る(下記一般式(24))。
【0096】
【化24】
また例えば、一方のアミノ基が第2級アミノ基であり、他方のアミノ基が第3級アミノ基であるアルカノールアミン2量体(a2-dd)は、分子内脱水反応によりジアザシクロアルカン骨格を備える環化生成物(caa-a2-dd)を与え、該環化生成物(caa-a2-dd)の脂肪酸(a1)によるアシル化反応がさらに進行し得る(下記一般式(25))。
【0097】
【化25】
このようなジアザシクロアルカン骨格を形成する分子内脱水環化反応は、アルキレン基R
1の主鎖の炭素数が2である場合に進行しやすく、そのような場合にはピペラジン骨格が形成される。
【0098】
アルカノールアミン(a3)又はアルカノールアミンオリゴマー構造の分子内脱水環化反応を経て生成する、環状構造を有し且つ上記一価脂肪酸(a1)でアシル化された副生成物(以下において「(B5)成分」又は「成分(B5)」ということがある。)は、生成した場合であっても通常少量であって、潤滑油組成物中のそれらの合計の含有量は、ヒドロキシ基がエーテル化されていてもよいアルカノールアミン構造を含む化合物の前記一価脂肪酸(a1)による全てのアシル化物の、塩を形成していない状態の化合物換算での合計の含有量を基準として、塩を形成していない状態の化合物としての含有量換算で、例えば0~2.0質量%、又は0~5.0質量%であり得る。
【0099】
脂肪酸(a1)とジアルカノールアミン(a3)との縮合反応が完了した後、未反応の原料は水洗、シリカゲルショートパスカラムクロマトグラフィー、セライト濾過等の公知の手法により除去することができる。そのような操作の際には、適宜溶媒を使用することができる。溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などを使用可能である。得られた生成物をさらにカラムクロマトグラフィー等の公知の精製手段で精製することにより、成分(B1)~(B5)の各成分の含有量を調整することも可能である。なおここでいう水洗とは水または水溶液による洗浄を意味し、水洗用の水溶液としては、希塩酸などの酸性水、希水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水、飽和食塩水などの塩水溶液、などを用いることができる。
【0100】
本発明の潤滑油組成物において、上記成分(B1)~(B5)は油性剤系摩擦調整剤として作用する。潤滑油組成物中における上記成分(B1)~(B4)の合計の含有量は、潤滑油組成物の貯蔵安定性の低下を抑制しながら、摩擦低減性能、特にギヤ等の高い荷重を受けやすい金属表面における摩擦低減性能をさらに高める観点から、潤滑油組成物全量基準で、塩を形成していない状態の化合物換算で好ましくは0.005質量%以上、又は0.010質量%以上、又は0.030質量%以上、又は0.050質量%以上であり、貯蔵安定性の観点から好ましくは10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下、又は4.0質量%以下、又は3.0質量%以下であり、一の実施形態において0.005~10.0質量%、又は0.010~5.0質量%、又は0.030~4.0質量%、又は0.050~3.0質量%であり得る。
一の実施形態において、潤滑油組成物中における上記成分(B1)~(B5)の合計の含有量は、潤滑油組成物の貯蔵安定性の低下を抑制しながら、摩擦低減性能、特にギヤ等の高い荷重を受けやすい金属表面における摩擦低減性能をさらに高める観点から、潤滑油組成物全量基準で、塩を形成していない状態の化合物換算で好ましくは0.005質量%以上、又は0.010質量%以上、又は0.030質量%以上、又は0.050質量%以上であり、貯蔵安定性の観点から好ましくは10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下、又は4.0質量%以下、又は3.0質量%以下であり、一の実施形態において0.005~10.0質量%、又は0.010~5.0質量%、又は0.030~4.0質量%、又は0.050~3.0質量%であり得る。
本発明の潤滑油添加剤組成物によれば、成分(B1)を含有することにより、成分(B3)を単独で摩擦調整剤として用いた場合と比較しても、向上した摩擦低減性能、特に、混合潤滑領域における向上した摩擦低減性能を得ることが可能である。
【0101】
((C):金属系清浄剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、1種以上の金属系清浄剤(以下において「(C)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。(C)成分の例としては、サリシレート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤等を挙げることができる。また、(C)成分は1種の金属系清浄剤のみを含んでいてもよく、2種以上の金属系清浄剤を含んでいてもよい。なお一般に潤滑油分野において、金属系清浄剤としては、基油中でミセルを形成することが可能な有機酸金属塩(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルサリシレート、アルカリ又はアルカリ土類金属アルキルベンゼンスルホネート、及びアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルフェネート等。)、又は該有機酸金属塩と塩基性金属塩(例えば該有機酸金属塩を構成するアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩等。)との混合物が用いられる。そのような有機酸は通常、金属塩基(典型的には金属酸化物および/または金属水酸化物。)と塩を形成可能なブレンステッド酸性を有する少なくとも1つの極性基(例えばカルボキシ基、スルホ基、フェノール性ヒドロキシ基等。)と、直鎖または分岐鎖アルキル基(例えば炭素数6以上の直鎖または分岐鎖アルキル基等。)等の少なくとも1つの親油性基とを一分子中に有する。
【0102】
サリシレート系清浄剤の例としては、金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。金属サリシレートの好ましい例としては、下記一般式(26)で表されるアルカリ又はアルカリ土類金属サリシレートを挙げることができる。
【0103】
【0104】
一般式(26)中、R17はそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキルまたはアルケニル基を表し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、aは1又は2を表し、pはMの価数に対応して1又は2を表す。Mがアルカリ金属であるときpは1であり、Mがアルカリ土類金属であるときpは2である。Mは好ましくはアルカリ土類金属である。アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。aとしては1が好ましい。なおa=2であるとき、R17は異なる基の組み合わせであってもよい。
【0105】
サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記一般式(26)においてa=1であるアルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0106】
スルホネート系清浄剤の好ましい例としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩、より好ましくはアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400~1500であり、より好ましくは700~1300である。
アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。アルキル芳香族スルホン酸の例としては、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸を挙げることができる。石油スルホン酸の例としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等を挙げることができる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0107】
フェネート系清浄剤の好ましい例としては、下記一般式(27)で示される構造を有する化合物のアルカリ又はアルカリ土類金属塩の過塩基性塩、より好ましくはアルカリ土類金属塩の過塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム又はカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはカルシウム又はマグネシウムが好ましい。
【0108】
【0109】
一般式(27)中、R18は炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル又はアルケニル基を表し、qは0~9の整数を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH2-)基を表し、xは1~3の整数を表す。なおR18は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよく、xは複数の異なる整数の組み合わせであってもよい。Aがメチレン基であるとき、xは好ましくは1である。各芳香環における-Ax-基の置換位置は典型的にはヒドロキシ基に対して通常o-位またはp-位、典型的にはo-位である。
【0110】
一般式(27)におけるR18の炭素数は、基油に対する溶解性を高める観点から好ましくは9以上であり、また製造容易性の観点から好ましくは18以下、より好ましくは15以下であり、一の実施形態において9~18、又は9~15であり得る。
【0111】
一般式(27)におけるqは、好ましくは0~3である。
【0112】
金属系清浄剤は、炭酸塩(例えば炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、または炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩。)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(例えばホウ酸ナトリウムやホウ酸カリウム等のアルカリ金属ホウ酸塩、またはホウ酸カルシウムやホウ酸マグネシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩。)で過塩基化されていてもよい。
【0113】
一の実施形態において、(C)成分は1種以上の過塩基性カルシウム若しくはマグネシウムスルホネート清浄剤、1種以上の過塩基性カルシウム若しくはマグネシウムサリシレート清浄剤、及び/又は、1種以上の過塩基性カルシウム若しくはマグネシウムフェネート清浄剤を含み、好ましくは1種以上の過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、及び/又は1種以上の過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤を含み得る。カルシウムスルホネート清浄剤、カルシウムサリシレート清浄剤、及びカルシウムフェネート清浄剤はそれぞれ炭酸カルシウムで過塩基化されていることが好ましく、マグネシウムスルホネート清浄剤、マグネシウムサリシレート清浄剤、及びマグネシウムフェネート清浄剤はそれぞれ炭酸マグネシウムで過塩基化されていることが好ましい。
【0114】
金属系清浄剤の塩基価は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、金属系清浄剤の塩基価は、耐摩耗性、耐焼き付き性、及び湿式クラッチの伝達トルク容量を高める観点から好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは250mgKOH/g以上であり、また同様の観点から好ましくは600mgKOH/g以下、より好ましくは550mgKOH/g以下であり、一の実施形態において200~600mgKOH/g、又は250~550mgKOH/gであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、清浄性能および塩基価維持性を高める観点から好ましくは0mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上であり、また組成物中の灰分を抑制する観点および排ガス後処理装置の寿命の観点から好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは450mgKOH/g以下であり、一の実施形態において0~500mgKOH/g、又は20~450mgKOH/gであり得る。なお本明細書において塩基価とは、JIS K2501に準拠して過塩素酸法により測定される塩基価を意味する。
【0115】
潤滑油組成物が(C)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、耐摩耗性、耐焼き付き性、耐疲労性、及び湿式クラッチの伝達トルク容量を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で金属量として好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは250質量ppm以上であり、また省燃費性、及び耐疲労性を高める観点から好ましくは600質量ppm以下、より好ましくは550質量ppm以下であり、一の実施形態において200~600質量ppm、又は250~550質量ppmであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、(C)成分の含有量は、清浄化性能および塩基価維持性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で金属量として好ましくは500質量ppm以上、より好ましくは1000質量ppm以上であり、また組成物中の灰分を抑制する観点および排ガス後処理装置の寿命の観点から好ましくは10000質量ppm以下、より好ましくは5000質量ppm以下であり、一の実施形態において500~10000質量ppm、又は1000~5000質量ppmであり得る。
【0116】
((D)窒素含有分散剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、1種以上の窒素含有分散剤(以下において「(D)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。一般に潤滑油分野において、窒素含有分散剤としては、少なくとも1つの長鎖(例えば炭素数40以上)の直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基と、少なくとも1つのポリアミン鎖(典型的にはポリエチレンアミン鎖)とを一分子中に有し、該ポリアミン鎖の窒素原子の一部がアシル化されていてもよい窒素含有化合物、又はその変性物(誘導体)が用いられる。変性物の例は後述する。
【0117】
(D)成分としては、例えば、以下の(D-1)~(D-3)から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
(D-1)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド又はその変性物(誘導体)(以下において「成分(D-1)」ということがある。)、
(D-2)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン(例えば、アルキル又はアルケニルフェノールと、ホルムアルデヒドと、ポリアミンとの反応により得られるマンニッヒ塩基等。)又はその変性物(誘導体)(以下において「成分(D-2)」ということがある。)、
(D-3)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するN-アルキル又はアルケニル化ポリアミン又はその変性物(誘導体)(以下において「成分(D-3)」ということがある。)。
【0118】
(D)成分としては、成分(D-1)を特に好ましく用いることができる。
成分(D-1)のうち、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの例としては、炭素数40~400のアルキル又はアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物を挙げることができる。そのような縮合反応生成物(縮合生成物)は、例えば下記一般式(28a)又は(28b)で表され得る。
【0119】
【0120】
一般式(28a)中、R19は炭素数40~400のアルキル又はアルケニル基を表し、bは1~10、好ましくは2~6の整数を表す。一の典型的な実施形態において、一般式(28a)で表される化合物は、異なるbを有する化合物の混合物として得られる。R19の炭素数は、基油への溶解性の観点から40以上、好ましくは60以上であり、また組成物の低温流動性の観点から400以下、好ましくは350以下、さらに好ましくは250以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350、又は60~250であり得る。
【0121】
一般式(28b)中、R20及びR21は、それぞれ独立に炭素数40~400のアルキル基又はアルケニル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、cは0~15、好ましくは1~13、より好ましくは1~11の整数を示す。一の典型的な実施形態において、一般式(28b)で表される化合物は、異なるcを有する化合物の混合物として得られる。R20及びR21の炭素数は、基油への溶解性の観点から40以上、好ましくは60以上であり、また組成物の低温流動性の観点から400以下、好ましくは350以下、さらに好ましくは250以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350、又は60~250であり得る。
【0122】
一般式(28a)及び(28b)におけるアルキル又はアルケニル基(R19~R21)は直鎖状でも分枝状でもよい。その好ましい例としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状のアルキル又はアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
一般式(28a)及び(28b)におけるアルキル又はアルケニル基(R19~R21)の好適な数平均分子量は800~3500、好ましくは900~3500である。
【0123】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみがイミド化された、一般式(28a)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端がイミド化された、一般式(28b)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。(D-1)成分中のビスタイプのコハク酸イミド又はその変性物の含有量は、(D-1)成分の全量を基準(100質量%)として好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%である。
【0124】
(D-1)成分の重量平均分子量は好ましくは1000~20000、より好ましくは2000~20000、さらに好ましくは3000~15000であり、一の実施形態において4000~15000であり得る。
【0125】
成分(D-1)~成分(D-3)における変性物(変性化合物、誘導体)の例としては、(i)含酸素有機化合物による変性物、(ii)ホウ酸変性物、(iii)リン酸変性物、(iv)硫黄変性物、及び(v)これらのうち2種以上の変性の組み合わせによる変性物、を挙げることができる。
(i)含酸素有機化合物による変性物は、上述のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、ベンジルアミン又はポリアミン(以下「上述の含窒素化合物」という。)に、脂肪酸等の炭素数1~30のモノカルボン酸、炭素数2~30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2~6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(ii)ホウ酸変性物は、上述の含窒素化合物にホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iii)リン酸変性物は、上述の含窒素化合物にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iv)硫黄変性物は、上述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させることにより得られる変性化合物である。
(v)2種以上の変性の組み合わせによる変性化合物は、上述の含窒素化合物に、含酸素有機化合物による変性、ホウ酸変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得ることができる。
これら(i)~(v)の変性物(誘導体)の中でも、アルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性物を好ましく用いることができる。
【0126】
潤滑油組成物が(D)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(D)成分の含有量は、酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上であり、また省エネルギー性の維持の観点から好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、(D)成分の含有量は、耐コーキング性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、また省燃費性の維持の観点から好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下であり、一の実施形態において0.5質量~10.0質量%、又は1.0質量~5.0質量%であり得る。
【0127】
(D)成分としては、(D-1)成分を好ましく用いることができ、(D)成分における変性物としてはホウ酸変性物を好ましく用いることができる。一の実施形態において、(D)成分は、1種以上の無変性の(D-1)成分(無変性コハク酸イミド分散剤)であってもよく、1種以上の(D-1)成分のホウ酸変性物(ホウ酸変性コハク酸イミド分散剤)であってもよく、1種以上の無変性コハク酸イミド分散剤と1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド分散剤との組み合わせであってもよい。(D)成分はホウ酸変性物を含有してもよく、含有しなくてもよいが、スラッジ分散性の観点から、(D)成分のホウ素分としての含有量Bの、(D)成分の窒素分としての含有量Nに対する比(B/N)は、一の実施形態において好ましくは0~1.0であり得る。
【0128】
((E)リン含有摩耗防止剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、1種以上のリン含有摩耗防止剤(以下において「(E)成分」ということがある。)を含有し得る。(E)成分としては、潤滑油に用いられるリン含有摩耗防止剤を特に制限なく用いることができる。リン含有摩耗防止剤としては例えば、下記一般式(29)で表される化合物、下記一般式(30)で表される化合物、並びにそれらの金属塩およびアンモニウム塩を挙げることができる。
【0129】
【化29】
(一般式(29)中、X
1、X
2、及びX
3は、それぞれ独立に酸素原子または硫黄原子を表し;R
22は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表し;R
23及びR
24はそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1~30の炭化水素基または水素原子を表し;R
22、R
23、及びR
24は同一でも相互に異なっていてもよい。R
23及び/又はR
24が水素原子である場合、一般式(29)の化合物はそのいかなるタウトマーも包含するものとする。)
【0130】
【化30】
(一般式(30)中、X
4、X
5、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に酸素原子または硫黄原子を表し;R
25は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表し;R
26及びR
27はそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1~30の炭化水素基または水素原子を表し;R
25、R
26、及びR
27は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【0131】
一般式(29)及び(30)における炭素数1~30の炭化水素基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基等を挙げることができる。炭化水素基は好ましくは、炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~24のアリール基であり、一の実施形態において炭素数3~18、さらに好ましくは炭素数4~12のアルキル基、アリール基、又はアルキルアリール基である。
【0132】
一般式(29)及び(30)における炭素数1~30の炭化水素基は、硫黄原子を含む炭化水素基であってもよく、硫黄原子を含まない炭化水素基であってもよい。
【0133】
一の実施形態において、硫黄原子を含まない炭化水素基の好ましい例としては、炭素数4~18の直鎖アルキル基を挙げることができる。直鎖アルキル基の例としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基を挙げることができる。
【0134】
硫黄原子を含む炭化水素基の例としては、スルフィド結合で官能基化された炭化水素基を挙げることができる。スルフィド結合で官能基化された炭化水素基の好ましい例としては、下記一般式(31)で表される炭素数4~20の基を挙げることができる。
【0135】
【化31】
一般式(31)において、R
28は炭素数2~17の直鎖炭化水素基であり、好ましくはエチレン基またはプロピレン基であり、一の実施形態においてエチレン基である。R
29は炭素数2~17の直鎖炭化水素基であり、好ましくは炭素数2~16の直鎖炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数6~10の直鎖炭化水素基である。
【0136】
一般式(31)で表される基の好ましい例としては、3-チアペンチル基、3-チアヘキシル基、3-チアヘプチル基、3-チアオクチル基、3-チアノニル基、3-チアデシル基、3-チアウンデシル基、4-チアヘキシル基、等を挙げることができる。
【0137】
一般式(29)又は(30)で表されるリン化合物と金属塩を形成する金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の遷移金属を挙げることができる。これらの中でもカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、もしくは亜鉛、又はそれらの組み合わせが好ましい。
【0138】
一般式(29)又は(30)で表されるリン化合物とアンモニウム塩を形成する含窒素化合物の例としては、アンモニア、モノアミン、ジアミン、ポリアミン、及びアルカノールアミンを挙げることができる。より具体的には、下記一般式(32)で表される含窒素化合物;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;及びこれらの組み合わせ、等を挙げることができる。
【0139】
【化32】
(一般式(32)中、R
30~R
32はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のヒドロカルビル基、又は水酸基を有する炭素数1~8のヒドロカルビル基を表し;R
30~R
32のうち少なくとも1つは炭素数1~8のヒドロカルビル基、又は水酸基を有する炭素数1~8のヒドロカルビル基である。)
【0140】
上記一般式(29)で表される化合物の好ましい例としては、上記一般式(29)においてX1~X3が酸素原子であり、R22~R24がそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数3~18(好ましくは4~12)のアルキル基、アリール基(例えばフェニル基等。)、又はアルキルアリール基(例えばアルキルフェニル基等。)である亜リン酸エステル化合物;上記一般式(29)においてX1~X3が酸素原子であり、R22及びR23がそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数3~18(好ましくは4~12)のアルキル基、アリール基(例えばフェニル基等。)、又はアルキルアリール基(例えばアルキルフェニル基等。)であり、R24が水素であるハイドロジェンホスファイト化合物;上記一般式(29)においてX1~X3のうち2つが酸素原子、残り1つが硫黄原子であり、R22及びR23がそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数3~18(好ましくは4~12)のアルキル基、アリール基(例えばフェニル基等。)、又はアルキルアリール基(例えばアルキルフェニル基等。)であり、R24が水素であるハイドロジェンチオホスファイト化合物;及び上記一般式(29)においてX1~X3のうち1つが酸素原子、残り2つが硫黄原子であり、R22及びR23がそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数3~18(好ましくは4~12)のアルキル基、アリール基(例えばフェニル基等。)、又はアルキルアリール基(例えばアルキルフェニル基等。)であり、R24が水素であるハイドロジェンジチオホスファイト化合物、等を挙げることができる。
上記一般式(30)で表される化合物の好ましい例としては、上記一般式(30)においてX4~X7のうち2つが硫黄原子、残り2つが酸素原子であり、R25~R27がそれぞれ独立に硫黄原子を含んでいてもよい炭素数3~18(好ましくは4~12)のアルキル基、アリール基、又はアルキルアリール基であるジチオホスフェート化合物を挙げることができる。
これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0141】
(E)成分の一つの例として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を挙げることができる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の例としては、下記一般式(33)で表される化合物を挙げることができる。
【0142】
【化33】
一般式(33)中、R
33~R
36は、それぞれ独立に炭素数3~18の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R
33~R
36の炭素数は好ましくは3~12、より好ましくは3~8である。また、R
33~R
36は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0143】
潤滑油組成物中が(E)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(E)成分の含有量は、耐摩耗性、耐焼き付き性、ベアリング疲労寿命、および変速ショック防止性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準でリン分として好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上であり、また同様の観点から好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは700質量ppm以下であり、一の実施形態において50~800質量ppm、又は100~700質量ppmであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、(E)成分の含有量は、耐摩耗性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準でリン分として好ましくは400質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上であり、排ガス後処理装置の触媒被毒を低減する観点から好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以下であり、一の実施形態において400~5000質量ppm、又は500~3000質量ppmであり得る。
【0144】
((F)硫黄含有極圧剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、(E)成分以外の1種以上の硫黄含有極圧剤(以下において「(F)成分」ということがある。)をさらに含み得る。(F)成分の例としては、チアジアゾール化合物、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物等の公知の硫黄含有極圧剤を挙げることができる。
【0145】
チアジアゾール化合物の好ましい例としては、下記一般式(34)で表される1,3,4-チアジアゾール化合物、下記一般式(35)で表される1,2,4-チアジアゾール化合物、及び下記一般式(36)で表される1,2,3-チアジアゾール化合物を挙げることができる。
【0146】
【0147】
【0148】
【化36】
(一般式(34)~(36)中、R
37及びR
38は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し;d及びeは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に0~8の整数を表す。)
【0149】
ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイドは、下記一般式(37)で表される化合物である。ここで、R31及びR32がアルキル基の場合、硫化アルキルと称されることがある。
【0150】
【化37】
(一般式(37)中、R
39及びR
40は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基(直鎖でも分岐鎖でもよく、環状構造を有していてもよい。)、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基、又は炭素数7~20のアリールアルキル基を表し、fは1~8の整数を表す。)
【0151】
潤滑油組成物が(F)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(F)成分の含有量は、極圧性および耐疲労性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で硫黄分として好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは300質量ppm以上であり、また耐摩耗性、耐疲労性、及び酸化安定性を高める観点から好ましくは3000質量ppm以下、より好ましくは2500質量ppm以下であり、一の実施形態において200~3000質量ppm、又は300~2500質量ppmであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、(F)成分の含有量は、極圧性および耐疲労性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で硫黄分として好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは30質量ppm以上であり、また排ガス後処理装置の触媒被毒を低減する観点から好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下であり、一の実施形態において10~200質量ppm、又は30~100質量ppmであり得る。
【0152】
((G)酸化防止剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、酸化防止剤(以下において「(G)成分」ということがある。)として、1種以上のアミン系酸化防止剤、及び/又は1種以上のフェノール系酸化防止剤をさらに含み得る。
【0153】
アミン系酸化防止剤の例としては、芳香族アミン系酸化防止剤、及びヒンダードアミン系酸化防止剤を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤の例としては、アルキル化α-ナフチルアミン等の第1級芳香族アミン化合物;及び、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の第2級芳香族アミン化合物;を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、若しくはアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0154】
ヒンダードアミン系酸化防止剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を有する化合物(2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体)を挙げることができる。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体としては、4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体が好ましい。また、2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合していてもよい。また2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格のN-位は無置換であってもよく、該N-位に炭素数1~4のアルキル基が置換していてもよい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格は好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格である。
【0155】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基(R41COO-)、アルコキシ基(R41O-)、アルキルアミノ基(R41NH-)、アシルアミノ基(R41CONH-)、等を挙げることができる。R41は好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基の例としてはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。
【0156】
2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合する場合の置換基としては、ヒドロカルビレンビス(カルボニルオキシ)基(-OOC-R42-COO-)、ヒドロカルビレンジアミノ基(-HN-R42-NH-)、ヒドロカルビレンビス(カルボニルアミノ)基(-HNCO-R42-CONH-)、等を挙げることができる。R42は好ましくは炭素数1~30のヒドロカルビレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0157】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基が好ましい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位にアシロキシ基を有する化合物の一例としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとカルボン酸とのエステルを挙げることができる。該カルボン酸の例としては、炭素数8~20の直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸を挙げることができる。
【0158】
フェノール系酸化防止剤の例としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール;4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類;3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール脂肪酸エステル類、等のヒンダードフェノール化合物およびビスフェノール化合物を挙げることができる。
【0159】
潤滑油組成物が(G)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(G)成分の含有量は、熱酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、また同様の観点から好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下であり、一の実施形態において0.1~2.0質量%、又は0.2~1.0質量%であり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(G)成分の含有量は、熱酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、また同様の観点から好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下であり、一の実施形態において0.1~5.0質量%、又は0.5~3.0質量%であり得る。
【0160】
((H)粘度指数向上剤)
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、粘度指数向上作用を有する1種以上のポリマー(以下において「粘度指数向上剤」又は「(H)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。(H)成分の例としては、非分散型もしくは分散型ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート-オレフィン共重合体、非分散型もしくは分散型エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。なお本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。(H)成分としては1種のポリマーを単独で用いてもよく、2種以上のポリマーを組み合わせて用いてもよい。
【0161】
一の実施形態において、(H)成分としては、分散型のポリ(メタ)アクリレート、もしくは非分散型のポリ(メタ)アクリレート、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。一の実施形態において、分散型のポリ(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。なお本明細書において、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は窒素原子を含む官能基を有するのに対し、非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は窒素原子を含む官能基を有しない。
【0162】
一の実施形態において、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤としては、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(38)で表される構造単位の割合が10~90mol%であるポリ(メタ)アクリレート(以下において「ポリ(メタ)アクリレート(H1)」又は単に「(H1)成分」ということがある。)を好ましく用いることができる。
【0163】
【化38】
(一般式(38)中、R
43は水素又はメチル基を表し、R
44は炭素数1~36の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0164】
(H)成分の重量平均分子量は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、(H)成分の重量平均分子量は、粘度指数向上効果を高めて低温粘度特性を向上させる観点から好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは30,000以上であり、また基油への溶解性、貯蔵安定性、及びせん断安定性を高める観点から好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらに好ましくは100,000以下であり、一の実施形態において10,000~200,000、又は20,000~150,000、又は30,000~100,000であり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、(H)成分の重量平均分子量は、粘度指数向上効果を高めて低温粘度特性および省燃費性を向上させる観点から好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上であり、また油への溶解性、貯蔵安定性、及びせん断安定性を高める観点から好ましくは1,000,000以下、より好ましくは700,000以下であり、一の実施形態において100,000~1,000,000、又は200,000~700,000であり得る。
【0165】
潤滑油組成物が(H)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全体として所望の動粘度および粘度-温度特性が得られる量として適切に決定することができる。例えば粘度指数は粘度-温度特性を評価する指標である。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(H)成分の含有量は、粘度-温度特性を改善して省エネルギー性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で樹脂分として例えば0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、またせん断安定性を高める観点から例えば22質量%以下、又は12質量%以下、一の実施形態において0.1~22質量%、又は0.5~12質量%であり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物中の(H)成分の含有量は、省燃費性を高める観点から、潤滑油組成物全量基準で樹脂分として例えば0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、またせん断安定性を高める観点から例えば20質量%以下、又は15質量%以下、一の実施形態において0.1~20質量%、又は0.5~15質量%であり得る。なお本明細書において樹脂分とは、分子量1,000以上のポリマー成分を意味する。
【0166】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、(I)上記(B1)~(B5)成分および(F)成分以外の摩擦調整剤、(J)上記(H)成分以外の流動点降下剤、(K)上記(F)成分以外の腐食防止剤、(L)上記(F)成分以外の金属不活性化剤、(M)上記(B1)~(B5)成分以外の防錆剤、(N)抗乳化剤、(O)消泡剤、及び(P)着色剤から選ばれる1種以上の添加剤をさらに含み得る。
【0167】
(I)上記(B1)~(B5)成分および(F)成分以外の摩擦調整剤(以下において「(I)成分」ということがある。)としては、潤滑油において摩擦調整剤として用いられる油溶性有機モリブデン化合物または油性剤系摩擦調整剤であって、上記(B1)~(B5)成分および(F)成分以外の化合物を用いることができる。そのような化合物の例としては、(F)成分の例として上記説明したジチオカルバミン酸モリブデン以外の油溶性有機モリブデン化合物、ならびに、上記(B1)~(B5)成分以外の油性剤系摩擦調整剤を挙げることができる。
潤滑油組成物が(I)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.1~1.0質量%であり得る。
【0168】
(J)上記(H)成分以外の流動点降下剤(以下において「(J)成分」ということがある。)としては、使用する潤滑油基油の性状に応じて、例えばエチレンビニルアセテート等の公知の流動点降下剤を用いることができる。潤滑油組成物が(J)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.01~1.0質量%であり得る。
【0169】
(K)上記(F)成分以外の腐食防止剤(以下において「(K)成分」ということがある。)としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を用いることができる。潤滑油組成物が(K)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.005~5.0質量%であり得る。
【0170】
(L)上記(F)成分以外の金属不活性化剤(以下において「(L)成分」ということがある。)としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を用いることができる。潤滑油組成物が(L)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.005~1.0質量%であり得る。
【0171】
(M)上記(B1)~(B5)成分以外の防錆剤(以下において「(M)成分」ということがある。)としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル(ただし上記(B1)~(B5)成分に該当するものを除く。)等の公知の防錆剤を使用可能である。潤滑油組成物が(M)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.005~5.0質量%であり得る。
【0172】
(N)抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を用いることができる。潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.005~5.0質量%であり得る。
【0173】
(O)消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を用いることができる。潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.0005~1.0質量%であり得る。
【0174】
(P)着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を用いることができる。
【0175】
(潤滑油組成物の性状)
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物の100℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から好ましくは1.0mm2/s以上、より好ましくは2.5m2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点および成分(B1)の摩擦低減効果を顕著にする観点から好ましくは6.9mm2/s未満、より好ましくは5.0mm2/s以下であり、一の実施形態において1.0~6.9mm2/s、又は1.0~5.0mm2/s、又は2.5~6.9mm2/s、又は2.5~5.0mm2/sであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物の100℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは4.0mm2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点および成分(B1)の摩擦低減効果を顕著にする観点から好ましくは6.9mm2/s以下、より好ましくは5.0mm2/s以下であり、一の実施形態において2.0~6.9mm2/s、又は4.0~6,9mm2/s、又は2.0~5.0mm2/s、又は4.0~5.0mm2/sであり得る。
【0176】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、潤滑油組成物の用途に応じて適切に決定することができる。例えば潤滑油組成物が変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機等。)等の歯車装置の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物の40℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは5.0mm2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点から好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは45mm2/s以下であり、一の実施形態において2.0~50mm2/s、又は2.0~45mm2/s、又は5.0~50mm2/s、又は5.0~45mm2/sであり得る。また例えば潤滑油組成物が内燃機関の潤滑に用いられる場合には、潤滑油組成物の40℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から好ましくは4.0mm2/s以上、より好ましくは6.0mm2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点から好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは35mm2/s以下であり、一の実施形態において4.0~50mm2/s、又は6.0~50mm2/s、又は4.0~35mm2/s、又は6.0~35mm2/sであり得る。
【0177】
潤滑油組成物の粘度指数は、省エネルギー性および耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは100以上、より好ましくは110以上、一の実施形態において115以上、又は120以上であり得る。
【0178】
(用途)
本発明の添加剤組成物および潤滑油組成物は、潤滑の分野において幅広く用いることができる。本発明の添加剤組成物は、基油への溶解性を維持しながら、摩擦低減性能、特に混合潤滑領域(例えばギヤの潤滑条件等)における摩擦低減効果が高められている。本発明の潤滑油組成物は、(B1)成分を含有することにより、摩擦低減性能、特に混合潤滑領域(例えばギヤの潤滑条件等)における摩擦低減効果が高められている。本発明の添加剤組成物および潤滑油組成物は、ギヤ等の高い荷重を受けやすい金属表面の潤滑において向上した摩擦低減効果を発揮するので、歯車機構、ピストン、コンロッド軸受等の高い荷重を受けやすい金属表面を備える各種機械装置の潤滑に好適に用いることができ、特に変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機、電動車両の減速機、風力タービンの増速機等)や内燃機関の潤滑に好ましく用いることができるほか、各種工業用途の潤滑(例えば油圧作動油、タービン油、圧縮機油)においても好ましく用いることができる。
【実施例0179】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。なお以下の実施例は本発明の例示を意図するものであって、本発明を限定することを意図するものではない。
【0180】
<製造例1~10>
下記の手順により、表1~表5に記載の組成を有する摩擦調整剤組成物を製造した。
(測定方法)
IR(赤外分光)スペクトルの測定については、日本分光株式会社製FT/IR-4100を用い、室温で固体の試料に関しては加熱溶融しKBr板に少量を塗布して測定を行い、室温で液体の試料に関してはそのまま少量をKBr板に塗布して測定を行った。またLC-MS分析の測定条件は次の通りである。
装置:Waters Corporation製ACQUITY(登録商標) UPLC H-Class液体クロマトグラフィー装置
カラム:Waters Corporation製ACQUITY(登録商標) UPLC BEH C18 1.7μm 50×2.1mm(ODS)
質量分析装置:Waters Corporation製Synapt(登録商標) G2-S(イオン化法:ESI+)
移動相:超純水、メタノール、及びイソプロピルアルコールによるグラジエント溶出法を用いた。各溶媒には濃度10mmol/Lとなるようにギ酸アンモニウムを添加した。水/メタノール混合体積比50/50から開始し、メタノール100%まで連続的に組成を変化させた後、さらにイソプロピルアルコール100%まで連続的に組成を変化させた。
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度約20質量ppmのメタノール溶液
サンプル注入量:1.0μL
【0181】
(製造例1)
蒸留管を装着した5L三つ口フラスコに、ラウリン酸5.0mol及びジエタノールアミン(以下「DEA」ということがある。)7.5molを、磁気撹拌子とともに入れ、フラスコ内部を窒素置換し、フラスコ内の物質をマグネチックスターラーで撹拌して均一混合物とした。フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら、フラスコをオイルバス中で加熱した。オイルバスの加熱温度は、水が継続して留出するように徐々に温度を上昇させた。反応をIRスペクトルで追跡し、反応開始から24時間経過後、IRスペクトルにより反応の終了を確認した。反応終了時のオイルバスの加熱温度は180℃であった。フラスコの内容物を放冷し、減圧下に乾燥することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、摩擦調整剤組成物を製造した。LC-MSで分析したその組成を表1中に示している。
【0182】
【0183】
(製造例2)
製造例1で得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、DEA3量体のラウリン酸アミド(第1のアミド化合物)を油状物質として得た。得られたDEA3量体ラウリン酸アミド1.0当量と、ラウリン酸2.0当量とを無溶媒で混合し、常温で1時間撹拌することにより、DEA3量体ラウリン酸アミドのラウリン酸塩を製造した。
【0184】
(製造例3)
製造例1で得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、ジエタノールアミン単量体のラウリン酸アミド(第3のアミド化合物)を製造した。その組成を表1中に示している。
【0185】
(製造例4)
蒸留管を装着した5L三つ口フラスコに、ラウリン酸2.5mol、ミリスチン酸2.5mol、及びDEA 10.0molを、磁気撹拌子とともに入れ、フラスコ内部を窒素置換し、フラスコ内の物質をマグネチックスターラーで撹拌して均一混合物とした。フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら、フラスコをオイルバス中で150℃に加熱するとともに、ロータリーポンプを用いてフラスコ内を減圧し、系中の圧力を20,000Paに維持した。反応開始から10時間経過後、系中の圧力を2,000Paまでさらに減圧し、その圧力を維持した。反応開始から24時間経過後、IRスペクトルにより反応の終了を確認した。フラスコの内容物を放冷し、減圧下に乾燥することにより、摩擦調整剤組成物を縮合生成物の混合物として得た。LC-MSで分析したその組成を表2に示す。
【0186】
【0187】
(製造例5)
蒸留管を装着した5L三つ口フラスコに、オレイン酸5.0mol及びDEA 7.5molを、磁気撹拌子とともに入れ、フラスコ内部を窒素置換し、フラスコ内の物質をマグネチックスターラーで撹拌して均一混合物とした。フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら、フラスコをオイルバス中で加熱した。オイルバスの加熱温度は、水が継続して留出するように徐々に温度を上昇させた。反応をIRスペクトルで追跡し、反応開始から24時間経過後、IRスペクトルにより反応の終了を確認した。反応終了時のオイルバスの加熱温度は180℃であった。フラスコの内容物を放冷し、減圧下に乾燥することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、摩擦調整剤組成物を製造した。LC-MSで分析したその組成を表3中に示している。
【0188】
【0189】
(製造例6)
製造例5で得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、DEA3量体のオレイン酸アミド(第1のアミド化合物)を油状物質として得た。得られたDEA3量体オレイン酸アミド1.0当量と、オレイン酸2.0当量とを無溶媒で混合し、常温で1時間撹拌することにより、DEA3量体オレイン酸アミドのオレイン酸塩を製造した。
【0190】
(製造例7)
蒸留管を装着した5L三つ口フラスコに、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)オクタン酸(一般式(4)においてk=0、R6=3,5,5-トリメチルヘキシル基、R7=1,3,3-トリメチルブチル基、R8=水素原子である分岐鎖脂肪酸。以下において「多分岐イソステアリン酸」ということがある。)5.0mol及びDEA 7.5molを、磁気撹拌子とともに入れ、フラスコ内部を窒素置換し、フラスコ内の物質をマグネチックスターラーで撹拌して均一混合物とした。フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら、フラスコをオイルバス中で加熱した。オイルバスの加熱温度は、水が継続して留出するように徐々に温度を上昇させた。反応をIRスペクトルで追跡し、反応開始から24時間経過後、IRスペクトルにより反応の終了を確認した。反応終了時のオイルバスの加熱温度は180℃であった。フラスコの内容物を放冷し、減圧下に乾燥することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、摩擦調整剤組成物を製造した。LC-MSで分析したその組成を表4中に示している。
【0191】
【0192】
(製造例8)
製造例7で得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、ジエタノールアミン3量体の多分岐イソステアリン酸アミド(第1のアミド化合物)を得た。得られたDEA3量体多分岐イソステアリン酸アミドをトルエンに溶解し、飽和食塩水で調整した希塩酸(希塩酸-NaCl水溶液;HClとして0.5mol/L)で該トルエン溶液を洗浄した。洗浄後の有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することにより、DEA3量体多分岐イソステアリン酸アミドの塩酸塩を製造した。その組成を表4中に示している。
【0193】
(製造例9)
蒸留管を装着した5L三つ口フラスコに、2-デシルテトラデカン酸(一般式(4)においてk=0、R6=ドデシル基、R7=デシル基、R8=水素原子である分岐鎖脂肪酸。)5.0mol及びDEA 7.5molを、磁気撹拌子とともに入れ、フラスコ内部を窒素置換し、フラスコ内の物質をマグネチックスターラーで撹拌して均一混合物とした。フラスコ内の混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら、フラスコをオイルバス中で加熱した。オイルバスの加熱温度は、水が継続して留出するように徐々に温度を上昇させた。反応をIRスペクトルで追跡し、反応開始から24時間経過後、IRスペクトルにより反応の終了を確認した。反応終了時のオイルバスの加熱温度は180℃であった。フラスコの内容物を放冷し、減圧下に乾燥することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、摩擦調整剤組成物を製造した。LC-MSで分析したその組成を表5中に示している。
【0194】
【0195】
(製造例10)
製造例9で得られた粗生成物を分取HPLCで精製することにより、DEA3量体の2-デシルテトラデカン酸アミド(第1のアミド化合物)を油状物質として得た。得られたDEA3量体2-デシルテトラデカン酸アミド1.0当量と、2-デシルテトラデカン酸2.0当量とを無溶媒で混合し、常温で1時間撹拌することにより、DEA3量体2-デシルテトラデカン酸アミドの2-デシルテトラデカン酸塩を製造した。
【0196】
<実施例1~29、及び比較例1~14>
表6~13に示されるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1~29)、および比較用の潤滑油組成物(比較例1~14)をそれぞれ調製した。表中、「質量%」は潤滑油組成物の全量を基準(100質量%)とする質量%を意味する。また「質量ppm」は潤滑油組成物の全量を基準とする質量ppmを意味し、元素Xについて「質量ppm/X」という表記は元素Xの量としての潤滑油組成物全量基準での質量ppmを意味する。各成分の詳細は次の通りである。
【0197】
((A)潤滑油基油)
O-1:APIグループII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):9.3mm2/s、動粘度(100℃):2.5mm2/s、粘度指数:98、飽和分:99.9質量%、硫黄分:1質量ppm未満
O-2:APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):19.4mm2/s、動粘度(100℃):4.2mm2/s、粘度指数:125、飽和分:99.9質量%、硫黄分:1質量ppm未満
O-3:APIグループII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):2.4mm2/s、動粘度(100℃):1.0mm2/s、粘度指数:(粘度指数の定義範囲外)、飽和分:99.8質量%、硫黄分:1質量ppm未満
O-4:APIグループV基油(ジエステル基油)、動粘度(40℃):10.3mm2/s、動粘度(100℃):2.9mm2/s、粘度指数:138、硫黄分:1質量ppm未満
【0198】
((B)摩擦調整剤)
各摩擦調整剤が製造された製造例の番号(1~10)を表中に示している。また、(B1)成分の第1のアミド化合物(塩を形成していない状態の化合物)換算での含有量を併せて表中に示している。
【0199】
(他の添加剤)
(C)金属系清浄剤:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤、塩基価220mgKOH/g、Ca:8.1質量%
(D)分散剤:ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド分散剤、N:1.6質量%、B:0.35質量%
(E)摩耗防止剤:ビス(3-チアウンデシル)ハイドロジェンホスファイト
(F)極圧剤:チアジアゾール化合物、S:36質量%
(G)酸化防止剤:ジフェニルアミン系酸化防止剤
(H)粘度指数向上剤:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量35,000
消泡剤:ジメチルシリコーン
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
(MTM試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、MTMトラクション計測器(PCS Instruments社製)を用いて、ボールオンディスク摩擦試験を行い、ギヤの潤滑を模擬した条件(混合潤滑領域)下での摩擦係数(μ)を測定した。測定条件は次の通りである。
ボールおよびディスク:標準試験片(AISI52100規格)
油温:90℃
荷重:35N
周速:0.4m/s
すべり率:15%
結果を表6~13に示している。実施例1~9及び比較例2については比較例1に対する摩擦係数の低減率(%)を、実施例10~13については比較例3に対する摩擦係数の低減率(%)を、実施例14~17については比較例4に対する摩擦係数の低減率(%)を、実施例18~21については比較例5に対する摩擦係数の低減率(%)を、実施例22~25については比較例6に対する摩擦係数の低減率(%)を、実施例26~29については比較例7に対する摩擦係数の低減率(%)を、比較例9~14については比較例8に対する摩擦係数の低減率(%)を、それぞれ表中に記載している。
【0210】
(評価結果)
実施例1~9(表6~7)の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例1(表7)の潤滑油組成物に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0211】
油性剤系摩擦調整剤として(B3)成分のみを含有し、(B1)成分を含有しない比較例2の潤滑油組成物(表7)は、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数の低減効果において劣った結果を示した。
【0212】
実施例10~13(表8)の潤滑油組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、(H)粘度指数向上剤の含有量を増やすことにより、潤滑油組成物の100℃における動粘度が3.7mm2/sとなるように改変した組成物である。実施例10~13の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例3の潤滑油組成物(表8)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0213】
実施例14~17(表9)の潤滑油組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、(H)粘度指数向上剤の含有量を増やすことにより、潤滑油組成物の100℃における動粘度が3.9mm2/sとなるように改変した組成物である。実施例14~17の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例4の潤滑油組成物(表9)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0214】
実施例18~21(表10)の潤滑油組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、(H)粘度指数向上剤の含有量を増やすことにより、潤滑油組成物の100℃における動粘度が6.8mm2/sとなるように改変した組成物である。実施例18~21の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例5の潤滑油組成物(表10)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0215】
実施例22~25(表11)の潤滑油組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、潤滑油基油として、基油O-1を基油O-2に置き換えることにより改変した組成物である。実施例22~25の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例6の潤滑油組成物(表11)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0216】
実施例26~29(表12)の組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、潤滑油基油として、基油O-1を基油O-3に置き換えることにより改変した組成物である。実施例26~29の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例7の潤滑油組成物(表12)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0217】
実施例30~33(表13)の組成物は、それぞれ、実施例1、4、6、8の潤滑油組成物において、潤滑油基油として、基油O-1を基油O-4に置き換えることにより改変した組成物である。実施例30~33の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例8の潤滑油組成物(表13)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数を十分に低減できた。
【0218】
比較例10~15(表14)の潤滑油組成物は、それぞれ、実施例1、比較例2、実施例3~4、6、8(表6~7)の潤滑油組成物において、(H)粘度指数向上剤の含有量を増やすことにより、潤滑油組成物の100℃における動粘度が8.3mm2/sとなるように改変した組成物である。比較例10~15の潤滑油組成物は、油性剤系摩擦調整剤を含有しない比較例9の潤滑油組成物(表14)に比較して、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数をほとんど低減しなかった。油性剤系摩擦調整剤として(B1)成分を含有する比較例10、12~15の潤滑油組成物と、油性剤系摩擦調整剤として(B3)成分のみを含有し(B1)成分を含有しない比較例11の潤滑油組成物との間では、ギヤの潤滑を模擬した条件下での摩擦係数の低減率に顕著な差は見られなかった。
【0219】
上記試験結果から、本発明の潤滑油組成物によれば、摩擦低減性能、特に混合潤滑領域(例えばギヤの潤滑等)における摩擦低減性能を高めることができることが示された。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑の分野において幅広く用いることができる。本発明の潤滑油組成物は、摩擦低減性能、特に混合潤滑領域(例えばギヤの潤滑条件等)における摩擦低減効果が高められている。本発明の潤滑油組成物は、ギヤ等の高い荷重を受けやすい金属表面の潤滑において向上した摩擦低減効果を発揮するので、歯車機構、ピストン、コンロッド軸受等の高い荷重を受けやすい金属表面を備える各種機械装置の潤滑に好適に用いることができ、特に変速機(例えば手動変速機、自動変速機、無段変速機、電動車両の減速機、風力タービンの増速機等)や内燃機関の潤滑に好適に用いることができるほか、各種工業用途の潤滑(例えば油圧作動油、タービン油、圧縮機油)においても好ましく用いることができる。