(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042838
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240322BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240322BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240322BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240322BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20240322BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147733
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA03
3J042AA04
3J042AA05
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA02
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC24
3J216CC33
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC43
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】複列の転動体同士の列間距離を確保しつつ、シールリップの摩耗および異音の発生を防止することができる構造を実現する。
【解決手段】ハブ3の外周面に備えられた逃げ溝12の軸方向内側の端部の軸方向位置が、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致している。スリンガ24を構成するスリンガ本体26の接続板部29が、逃げ溝12の径方向外側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に備えられた複列の内輪軌道と、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、前記回転フランジの軸方向内側面の径方向内側の端部に備えられ、かつ、軸方向外側に向けて凹んだ凹部と、軸方向に関して前記回転フランジと前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道との間部分の外周面に備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んだ逃げ溝とを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
スリンガとシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置と、を備え、
前記スリンガは、前記ハブに外嵌固定される嵌合筒部と、中空円形板状の立板部と、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に湾曲し、かつ、前記嵌合筒部の軸方向外側の端部と前記立板部の径方向内側の端部とを接続する接続板部とを含むスリンガ本体を有しており、
前記シールリングは、その先端部を、前記嵌合筒部の外周面または前記立板部の軸方向内側面に摺接させた少なくとも1本のシールリップを含むシール材を有しており、
前記逃げ溝の軸方向内側の端部の軸方向位置が、前記回転フランジの軸方向内側面のうちで前記凹部の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致しており、
前記接続板部の軸方向内側の端部が、前記逃げ溝の径方向外側に位置する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記スリンガ本体が、前記立板部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がった折れ曲がり板部を含み、
前記スリンガが、その先端部を、前記凹部の内面のうちで前記逃げ溝よりも外部空間に近い側部分に接触させたガスケット部を含むスリンガシール材を有する、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記シールリングが、前記外輪に嵌合固定され、かつ、前記シール材が支持固定される芯金を有しており、
前記スリンガシール材が、その先端部を、前記芯金の表面に摺接させたリップ部を有する、
請求項2に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記凹部の外径側周面が、軸方向内側に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜しており、
前記シール材が、前記外輪の軸方向外側の端部より径方向外側に突出する部分に堰部を有しており、
前記堰部が、前記凹部の外径側周面に対向し、かつ、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜したシール側傾斜面部を有しており、
前記ハブの中心軸に対する前記凹部の外径側周面の傾斜角度が、前記シールリングの中心軸に対する前記シール側傾斜面部の傾斜角度よりも小さい、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外側に突出する回転フランジを有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。さらにハブユニット軸受は、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置を備える。
【0003】
なお、軸方向に関して「外」とは、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の外側をいい、反対に、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態で車体の中央側を、軸方向に関して「内」という。
【0004】
ハブユニット軸受には、主に自動車が旋回走行する際に、路面反力に基づくモーメント荷重が加わる。路面反力に基づくモーメント荷重にかかわらず、車輪のキャンバ角を一定に保ち、自動車の操縦安定性を確保するため、ハブユニット軸受には大きなモーメント剛性が要求される。モーメント剛性を十分に確保するためには、複列に配置された転動体同士の列間距離を、できる限り大きくすることが好ましい。
【0005】
独国特許出願公開第102018200603号には、外輪の軸方向外側の端部に支持固定されたシール装置の一部を、回転フランジの軸方向内側面の径方向内側の端部に形成され、かつ、軸方向外側に向けて凹んだ凹部の内側に配置したハブユニット軸受が記載されている。独国特許出願公開第102018200603号に記載のハブユニット軸受によれば、複列の転動体同士の列間距離を大きくしてモーメント剛性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102018200603号
【特許文献2】特開2017-180599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、ハブの外周面には、特開2017-180599号公報に記載されているように、総型の回転砥石を用いた仕上加工が施される。しかしながら、回転フランジの軸方向内側面の径方向内側の端部に形成され、かつ、軸方向外側に向けて凹んだ凹部の底部まで、総型の回転砥石による研削を施すことは難しい。具体的には、総型の回転砥石によっては、凹部の開口から軸方向外側に1mm程度までしか研削することができない。このため、凹部の底面は、研削による仕上加工が施されていない旋削面により構成される。旋削面は、研削面よりも表面粗さが大きく、シールリップの先端部を摺接させると、著しい摩耗および/またはシール鳴きと呼ばれる異音が発生する可能性がある。
【0008】
独国特許出願公開第102018200603号に記載のハブユニット軸受では、凹部の内面にフィルムを接着固定し、該フィルムにシールリップの先端部を摺接させている。これにより、シールリップの摺接面の性状を良好に確保して、著しい摩耗および異音の発生を防止している。
【0009】
しかしながら、自動車の旋回走行中などに、回転フランジに加わるモーメント荷重に基づく応力は、該回転フランジの径方向内側の端部に集中しやすく、自動車の走行中、回転フランジの径方向内側の端部は繰り返し弾性変形させられる。回転フランジの径方向内側の端部が繰り返し弾性変形すると、凹部の内面に対するフィルムの接着力が低下し、該フィルムが凹部の内面から剥がれてしまう可能性がある。凹部の内面からフィルムが剥がれると、シールリップの先端部が、研削面よりも表面粗さが大きい旋削面により構成された凹部の内面に直接摺接し、著しい摩耗および/または異音が発生する可能性がある。
【0010】
本開示は、複列の転動体同士の列間距離を確保しつつ、シールリップの摩耗および異音の発生を長期間にわたって防止することができるハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
【0012】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0013】
前記ハブは、外周面に備えられた複列の内輪軌道と、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に突出する回転フランジと、前記回転フランジの軸方向内側面の径方向内側の端部に備えられ、かつ、軸方向外側に向けて凹んだ凹部と、軸方向に関して前記回転フランジと前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道との間部分の外周面に備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んだ逃げ溝とを有する。
【0014】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0015】
前記シール装置は、スリンガとシールリングとを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞いでいる。
【0016】
前記スリンガは、前記ハブに外嵌固定される嵌合筒部と、中空円形板状の立板部と、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に湾曲し、かつ、前記嵌合筒部の軸方向外側の端部と前記立板部の径方向内側の端部とを接続する接続板部とを含むスリンガ本体を有する。
【0017】
前記シールリングは、その先端部を、前記嵌合筒部の外周面または前記立板部の軸方向内側面に摺接させた少なくとも1本のシールリップを含むシール材を有する。
【0018】
前記逃げ溝の軸方向内側の端部の軸方向位置が、前記回転フランジの軸方向内側面のうちで前記凹部の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致し、かつ、前記接続板部の軸方向内側の端部が、前記逃げ溝の径方向外側に位置する。
【0019】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記スリンガ本体は、前記立板部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がった折れ曲がり板部を含むことができ、かつ、前記スリンガは、その先端部を、前記凹部の内面のうちで前記逃げ溝よりも外部空間に近い側部分に接触させたガスケット部を含むスリンガシール材を有することができる。
【0020】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記シールリングは、前記外輪に嵌合固定され、かつ、前記シール材が支持固定される芯金を有することができ、および、前記スリンガシール材は、その先端部を、前記芯金の表面に摺接させたリップ部を有することができる。
【0021】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記凹部の外径側周面を、軸方向内側に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜させることができ、前記シール材は、前記外輪の軸方向外側の端部より径方向外側に突出する部分に堰部を有することができ、かつ、前記堰部が、前記凹部の外径側周面に対向し、かつ、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜したシール側傾斜面部を有することができる。この場合に、前記ハブの中心軸に対する前記凹部の外径側周面の傾斜角度を、前記シールリングの中心軸に対する前記シール側傾斜面部の傾斜角度よりも小さくすることができる。
【0022】
上述した本開示の一態様のハブユニット軸受のそれぞれは、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の一態様のハブユニット軸受によれば、複列の転動体同士の列間距離を確保しつつ、シールリップの摩耗および異音の発生を長期間にわたって防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施の形態の第2例についての
図2に相当する図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態の第3例についての
図2に相当する図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態の第4例についての
図2に相当する図である。る。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態の第5例についての
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1例]
図1および
図2は、本開示の実施の形態の第1例を示している。本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。なお、本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用の構造を備え、かつ、転動体4a、4bとして玉を使用している。
【0026】
以下の説明において、ハブユニット軸受1に関して、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、外輪2の軸方向、径方向、および円周方向をいう。外輪2の軸方向、径方向、および円周方向は、ハブ3の軸方向、径方向、および円周方向と一致する。また、軸方向外側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向外側をいい、軸方向内側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向内側をいう。
【0027】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。それぞれの外輪軌道6a、6bは、円弧形の母線形状を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0028】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0029】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、複列の内輪軌道9a、9bと、回転フランジ10と、凹部11と、逃げ溝12とを備える。
【0030】
複列の内輪軌道9a、9bは、ハブ3の外周面のうちで複列の外輪軌道6a、6bに対向する部分に備えられている。それぞれの内輪軌道9a、9bは、円弧形の母線形状を有する。
【0031】
回転フランジ10は、ハブ3のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に向けて突出する。回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔13を有する。
【0032】
凹部11は、回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内側の端部に全周にわたって備えられ、かつ、軸方向外側に向けて凹んでいる。
【0033】
本例では、凹部11は、軸方向内側に向かうほど断面高さ寸法が大きくなる略台形の断面形状を有する。
【0034】
凹部11の内面のうちの底面14は、ハブ3の中心軸に直交する平坦面により構成されており、かつ、凹部11の内面のうちの外径側周面15は、軸方向内側に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜した円すい面により構成されている。外径側周面15の軸方向内側の端部の内径は、外輪2の軸方向外側の端部の外径よりも大きい。また、凹部11の内面のうちの内径側周面16は、軸方向内側に向かうほど外径が小さくなる円弧形の母線形状を有する凹曲面により構成されている。すなわち、内径側周面16は、ハブ3のうちで軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する内輪肩部17の外周面と、底面14とを滑らかに接続する。内径側周面16は、旋削面により構成されているのに対して、内輪肩部17の外周面は、研削面により構成されている。
【0035】
逃げ溝12は、ハブ3の外周面に全周にわたり備えられ、かつ、径方向内側に向けて凹んでいる。具体的には、逃げ溝12は、内輪肩部17の外周面および/または内径側周面16に備えられている。
【0036】
逃げ溝12の軸方向内側の端部の軸方向位置は、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致している。これにより、ハブ3の外周面に総型の回転砥石による研削加工を施す際に、回転砥石の先端部外周縁が、逃げ溝12の径方向外側、すなわち周囲に位置するようにしている。具体的には、逃げ溝12の軸方向内側の端部の軸方向位置は、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置よりも軸方向外側に0.2mmずれた位置から、軸方向内側に0.2mmずれた位置までの範囲に位置している。
【0037】
本例では、逃げ溝12は、径方向外側に向かうほど軸方向に関する幅寸法が大きくなる略台形状の断面形状を有する。ただし、逃げ溝の断面形状、軸方向幅および径方向深さについては、ハブの外周面に総型の回転砥石による研削加工を施す際に、該ハブの外周面への回転砥石の先端部外周縁の接触を防止することができる限り、任意の形状および大きさとすることができる。たとえば、逃げ溝の断面形状を、略矩形、略円弧形、または略三角形などとすることができる。また、逃げ溝を、凹部の内面のうちの内径側周面と滑らかに連続させてもよい。
【0038】
ハブ3は、軸方向外側の端部にパイロット部18を備え、かつ、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔19を備える。
【0039】
ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールは、それぞれの中心部を軸方向に貫通する中心孔にパイロット部18を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所を軸方向に貫通する通孔に、圧入孔である取付孔13に圧入されたスタッドを挿通した状態で、スタッドの先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。あるいは、制動用回転体およびホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔にパイロット部18を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔を挿通したハブボルトを、ねじ孔である取付孔13に軸方向外側から螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
【0040】
スプライン孔19には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ10に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0041】
本例のハブ3は、内輪20とハブ輪21とを組み合わせてなる。
【0042】
内輪20は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪20は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0043】
ハブ輪21は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪21は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、凹部11と、逃げ溝12と、パイロット部18と、スプライン孔19とを有する。
【0044】
さらに、ハブ輪21は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪20が外嵌される小径段部22を有する。
【0045】
ハブ輪21は、金属素材に鍛造加工を施して、おおよその外形形状を成形した後、旋削加工により、軸方向外側の内輪軌道9a、凹部11、および逃げ溝12を形成し、焼き入れ、焼き戻しなどの熱処理を施す。その後、シール装置5のスリンガ24が外嵌される内輪肩部17の外周面および軸方向外側の内輪軌道9aを含む外周面に、総型の回転砥石により研削加工を施すことで造られる。
【0046】
本例のハブ3は、ハブ輪21の小径段部22に内輪20を締り嵌めで外嵌して、内輪20とハブ輪21とを結合固定することにより構成されている。ただし、ハブ輪の軸方向内側の端部を径方向外側に向け塑性変形させて形成したかしめ部や、ハブ輪の軸方向内側の端部に螺合されたナットにより、内輪の軸方向内側の端面を抑えつけることで、内輪とハブ輪とを結合固定することもできる。
【0047】
それぞれの転動体4a、4bは、軸受鋼などの硬質金属、または、セラミックスにより構成される。転動体4a、4bは、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0048】
シール装置5は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間23の軸方向外側の開口を塞ぐ。これにより、前記軸方向外側の開口を通じて、外部空間から転動体設置空間23内に泥水などの異物が侵入したり、転動体設置空間23内に封入したグリースが、前記軸方向外側の開口を通じて外部空間に漏洩したりすることを防止する。シール装置5は、スリンガ24と、シールリング25とを備える。
【0049】
スリンガ24は、ステンレス鋼板などの防錆性を有する金属板を曲げ成形することにより、断面略U字形またはJ字形で全体を円環状に構成したスリンガ本体26を備える。スリンガ本体26は、嵌合筒部27と、立板部28と、接続板部29とを有する。
【0050】
嵌合筒部27は、円筒形状を有し、ハブ3に外嵌固定される。具体的には、嵌合筒部27は、軸方向外側の内輪肩部17に外嵌固定される。
【0051】
立板部28は、中空円形板状に構成されている。
【0052】
接続板部29は、軸方向外側の向かうほど径方向外側に向かう方向に湾曲し、かつ、嵌合筒部27の軸方向外側の端部と立板部28の径方向内側の端部とを接続する。本例では、接続板部29は、略四分の一円弧形の断面形状を有する。
【0053】
接続板部29の軸方向内側の端部は、ハブ3の逃げ溝12の径方向外側に位置する。本例では、接続板部29の軸方向内側かつ径方向内側の端部が、逃げ溝12の開口部の軸方向内側の端部よりも軸方向外側に位置し、かつ、接続板部29の軸方向外側かつ径方向外側の端部が、逃げ溝12の開口部の軸方向外側の端部よりも軸方向内側に位置している。これにより、立板部28の軸方向内側面を、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分よりも軸方向外側に位置させている。要するに、凹部11の内側にスリンガ24の軸方向外側部分を配置している。
【0054】
スリンガ本体26は、立板部28の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がった折れ曲がり板部30をさらに有する。本例では、折れ曲がり板部30は、嵌合筒部27の中心軸と同軸の円筒形状を有し、かつ、嵌合筒部27の軸方向寸法よりも短い軸方向寸法を有する。なお、図示の例では、折れ曲がり板部30の軸方向寸法は、嵌合筒部27の軸方向寸法のおよそ1/2程度である。
【0055】
スリンガ24は、その先端部を、凹部11の内面のうちで逃げ溝12よりも外部空間に近い側部分に接触させたガスケット部31を含むスリンガシール材32をさらに備える。
【0056】
スリンガシール材32は、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材により構成され、スリンガ本体26に加硫成形により結合固定(接着)されている。スリンガシール材32は、基部33と、ガスケット部31とを有する。
【0057】
基部33は、スリンガ本体26のうち、折れ曲がり板部30の内周面から接続板部29の軸方向外側面までの範囲を覆うように、スリンガ本体26に結合固定されている。換言すれば、基部33は、折れ曲がり板部30の内周面、軸方向内側の端面、および外周面と、立板部28の軸方向外側面と、接続板部29の軸方向外側面とを覆うように、スリンガ本体26に結合固定されている。
【0058】
スリンガ24の軸方向外側面、すなわち基部33のうちで立板部28の軸方向外側面を覆う部分の軸方向外側面は、凹部11の底面14に対して軸方向内側に離隔して配置されている。すなわち、スリンガ24の軸方向外側面と、凹部11の内面との間部分には、環状空間55が存在している。
【0059】
ガスケット部31は、基部33のうち、立板部28の軸方向外側面の径方向内側の端部および接続板部29の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側に向けて突出している。ガスケット部31は、略矩形の断面形状を有し、先端部、すなわち径方向外側の端部を、内径側周面16に全周にわたって当接させている。
【0060】
シールリング25は、その先端部を、嵌合筒部27の外周面または立板部28の軸方向内側面に摺接させた少なくとも1本のシールリップ34a、34b、34cを有するシール材35を備える。本例では、シール材35は、シールリップ34a、34b、34cを3本有する。
【0061】
本例のシールリング25は、芯金36と、シール材35とを備える。
【0062】
芯金36は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、断面略S字形または略クランク形で全体を円環状に構成されている。芯金36は、芯金嵌合筒部37と、内径側折れ曲がり板部38と、外径側折れ曲がり板部39とを有する。
【0063】
芯金嵌合筒部37は、円筒形状を有し、外輪2の軸方向外側の端部に内嵌固定される。
【0064】
内径側折れ曲がり板部38は、芯金嵌合筒部37の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がっている。本例では、内径側折れ曲がり板部38は、芯金嵌合筒部37の軸方向内側の端部から径方向内側かつ軸方向外側に向けて鋭角に折れ曲がった円すい筒状の内径側傾斜板部40と、該内径側傾斜板部40の径方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった中空円形板状の内径側円輪部41とを有する。
【0065】
外径側折れ曲がり板部39は、芯金嵌合筒部37の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がっている。本例では、外径側折れ曲がり板部39は、芯金嵌合筒部37の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がった中空円形板状の外径側円輪部42と、該外径側円輪部42の径方向外側の端部から軸方向内側かつ径方向外側に向けて鈍角に折れ曲がった外径側傾斜板部43とを有する。
【0066】
芯金36は、外径側円輪部42の軸方向内側面を、外輪2の軸方向外側の端面に突き当て、かつ、芯金嵌合筒部37を、外輪2の軸方向外側の端部内周面に内嵌固定することで、外輪2に対し軸方向に位置決めした状態で支持固定される。
【0067】
シール材35は、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材により構成される。シール材35は、内径側シール材44と、外径側シール材45とを備える。
【0068】
内径側シール材44は、内径側基部46と、3本のシールリップ34a、34b、34cとを備える。
【0069】
内径側基部46は、芯金36の表面のうち、外径側円輪部42の軸方向外側面の径方向内側の端部から内径側円輪部41の軸方向内側面の径方向内側部分までの範囲を覆うように、芯金36に加硫成形により結合固定されている。換言すれば、内径側基部46は、外径側円輪部42の軸方向外側面の径方向内側の端部、芯金嵌合筒部37の内周面、内径側傾斜板部40の軸方向外側面、並びに、内径側円輪部41の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側部分を覆うように、芯金36に結合固定されている。
【0070】
シールリップ34a、34b、34cのそれぞれは、内径側基部46から嵌合筒部27の外周面または立板部28の軸方向内側面に向けて延出し、かつ、先端部を、嵌合筒部27の外周面または立板部28の軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0071】
本例では、3本のシールリップ34a、34b、34cのうち、最も径方向内側のシールリップ34cは、先端部を、嵌合筒部27の外周面に全周にわたり摺接させており、残りの2本のシールリップ34a、34bは、先端部を、立板部28の軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0072】
本例では、内径側シール材44は、内径側基部46のうち、外径側円輪部42の軸方向外側面の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側に向け全周にわたって突出する突出部47を有する。突出部47は、略台形の断面形状を有する。
【0073】
本例では、突出部47の内周面と、内径側基部46のうちで芯金嵌合筒部37の軸方向外側部分の内周面を覆う部分の内周面とは、シールリング25の中心軸を中心とする単一の円筒面48により構成されている。そして、円筒面48の軸方向外側部分と、スリンガシール材32の基部33のうちで折れ曲がり板部30の外周面を覆う部分の外周面とを近接対向させることで、当該部分に、ラビリンスシール49を構成している。これにより、環状空間55内に侵入した異物が、シールリップ34a、34b、34cとスリンガ24との摺接部に侵入することを防止している。
【0074】
外径側シール材45は、芯金36の表面のうち、外径側傾斜板部43の軸方向外側面の径方向外側部分、外周面、および軸方向内側面、並びに、外径側円輪部42の軸方向内側面の径方向外側の端部を覆うように、芯金36に結合固定されている。これにより、外輪2の軸方向外側の端部より径方向外側に突出する部分に堰部50が構成されている。堰部50の内周面は、外輪2の軸方向外側の端部外周面に全周にわたって当接している。堰部50は、外輪2の外周面に付着した泥水などの水分が、外輪2の外周面を伝って該外輪2の径方向内側に侵入することを防止するために備えられている。
【0075】
堰部50は、凹部11の外径側周面15に対向し、かつ、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜したシール側傾斜面部51を有する。本例では、シールリング25の中心軸に対するシール側傾斜面部51の傾斜角度と、ハブ3の中心軸に対する外径側周面15の傾斜角度とを互いに略同じとしている。そして、外径側周面15とシール側傾斜面部51とを近接対向させることで、当該部分に、ラビリンスシール59を構成している。
【0076】
なお、ラビリンスシール59の幅、すなわち外径側周面15とシール側傾斜面部51との間の間隔は、環状空間55の幅、すなわち底面14とスリンガ24の軸方向外側面との間隔よりも小さくなっている。
【0077】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間23の軸方向内側の開口を塞ぐシール装置52をさらに備える。シール装置52は、ハブ3の軸方向内側の端部に外嵌固定されたスリンガ53と、該スリンガ53の表面に全周にわたって摺接する少なくとも1本のシールリップを有するシールリング54とを備える。すなわち、シール装置52は、組み合わせシールリングにより構成されている。
【0078】
本例のハブユニット軸受1によれば、複列の転動体4a、4b同士の列間距離を確保しつつ、シールリップ34a、34b、34cの摩耗および異音の発生を長期間にわたって防止することができる。
【0079】
すなわち、本例では、ハブ3の回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内側の端部に凹部11を形成している。そして、凹部11の内側にスリンガ24の軸方向外側部分を配置し、かつ、該スリンガ24の嵌合筒部27の外周面または立板部28の軸方向内側面に、シールリング25のシールリップ34a、34b、34cのそれぞれの先端部を摺接させている。要するに、シール装置5の一部を、凹部11の内側に配置している。このため、複列の転動体4a、4b同士の列間距離を確保しやすく、ハブユニット軸受1のモーメント剛性を確保しやすい。
【0080】
また、本例のハブユニット軸受1では、シールリップ34a、34b、34cのそれぞれの先端部を、金属板製で表面性状を良好に確保しやすいスリンガ24の嵌合筒部27の外周面または立板部28の軸方向内側面に摺接させている。スリンガ24は、ハブ3の内輪肩部17に外嵌固定されているため、自動車の旋回走行中などに加わるモーメント荷重に基づいて、回転フランジ10の径方向内側の端部が繰り返し弾性変形した場合でも、独国特許出願公開第102018200603号に記載のフィルムに比べて、ハブ3から脱落しにくい。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、シールリップ34a、34b、34cの摩耗および異音の発生を長期間にわたって防止することができる。
【0081】
さらに、本例のハブユニット軸受1では、ハブ3の外周面に備えられた逃げ溝12の軸方向内側の端部の軸方向位置を、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致させている。このため、ハブ3の外周面のうちでスリンガ24の嵌合筒部27を外嵌固定する内輪肩部17の外周面の真円度を良好に確保できて、嵌合筒部27と内輪肩部17との嵌合強度を十分に確保することができる。
【0082】
すなわち、総型の回転砥石では、その使用に伴って、端部外周面に固着された砥粒が、中間部外周面に固着された砥粒よりも多く脱落する。このため、通常、繰り返し使用された砥石により研削を施すと、端部における研削量が中間部における研削量より少なくなって、研削面のうちの端部の外径が中間部の外径よりも大きくなったり、端部の表面粗さが中間部の表面粗さよりも粗くなったりするといった問題を生じる可能性がある。このような研削面の端部に、スリンガを外嵌すると、該スリンガとハブとの嵌合強度を十分に確保できなくなる可能性がある。
【0083】
本例では、逃げ溝12の軸方向内側の端部の軸方向位置を、回転フランジ10の軸方向内側面のうちで凹部11の径方向外側に隣接する部分の軸方向位置と略一致させている。これにより、ハブ3の外周面に総型の砥石による研削加工を施す際に、砥石の先端部外周縁を、逃げ溝12の径方向外側に位置させている。換言すれば、砥石の先端部外周縁が、ハブ3の外周面に接触しないようにしている。したがって、研削面のうちの端部の外径が中間部の外径より大きくなったり、端部の表面粗さが中間部の表面粗さよりも粗くなったりすることを防止できる。このため、内輪肩部17の外周面の真円度を良好に確保できて、嵌合筒部27と内輪肩部17との嵌合強度を十分に確保することができる。
【0084】
また、回転砥石により研削が施された研削面と、研削が施されてない旋削面との境界には、先が尖った角部からなる稜部が円周方向に不均一に形成される可能性がある。このため、ハブに対しスリンガを圧入する際に、該スリンガの内周面に、稜部によって軸方向に伸長する傷が形成されてしまい、該傷を通じて、転動体設置空間内に泥水などの水分が浸入してしまう可能性がある。
【0085】
本例のハブユニット軸受1では、ハブ3の外周面に、径方向内側に向けて凹んだ逃げ溝12を形成し、かつ、ハブ3の外周面に総型の砥石による研削加工を施す際に、砥石の先端部外周縁を、逃げ溝12の径方向外側に位置させているため、ハブ3の外周面に、先が尖った稜部が円周方向に不均一に形成されるのを防止することができる。したがって、スリンガ24の嵌合筒部27の内周面に軸方向に伸長する傷が形成されるのを防止でき、嵌合筒部27の内周面と内輪肩部17の外周面との間部分から転動体設置空間23内への水分の侵入を防止することができる。
【0086】
さらに本例では、スリンガ24に備えられたガスケット部31を、凹部11の内面のうちで逃げ溝12よりも外部空間に近い側部分、具体的には内径側周面16に接触させている。このため、嵌合筒部27の内周面と内輪肩部17の外周面との嵌合部への異物の侵入を有効に防止することができる。
【0087】
本例のハブユニット軸受1では、スリンガ24を、断面略U字形またはJ字形に構成することで、該スリンガ24の径方向に関する剛性を高くしている。このため、ハブ3に対するスリンガ24の嵌合力を高くすることができて、ハブ3に対するスリンガ24の滑り(クリープ)を防止することができる。
【0088】
また、本例のハブユニット軸受1によれば、ハブ3の回転フランジ10と、シール装置5のシールリング25との間に、泥水などの異物が滞留するのを防止することができる。
【0089】
すなわち、独国特許出願公開第102018200603号に記載のハブユニット軸受では、ハブの回転フランジの軸方向内側面と、外輪に支持固定したシールリングとの間に、全長が比較的長いラビリンスシールが構成されている。このため、ラビリンスシール内に、泥水などの異物が滞留してしまい、回転フランジの軸方向内側面が発錆しやすくなる可能性がある。
【0090】
本例のハブユニット軸受1では、外径側周面15とシール側傾斜面部51との間に構成されたラビリンスシール59よりも径方向内側に、ラビリンスシール59よりも幅が大きい環状空間55を備えている。このため、ラビリンスシール59内に、泥水などの異物が滞留しにくく、回転フランジ10の軸方向内側面に錆を生じにくくすることができる。
【0091】
なお、本開示の一態様のハブユニット軸受は、本例のような、ハブ3が、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔19を有する駆動輪用のハブユニット軸受1に限らず、ハブが、中実体である従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。従動輪用のハブユニット軸受の場合には、軸方向内側のシール装置として、組み合わせシールリングに代えて、あるいは、組み合わせシールリングに加えて、外輪の軸方向内側の端部に固定された有底円筒状のカバーを採用することもできる。
【0092】
また、本例では、本開示の一態様のハブユニット軸受を、転動体4a、4bとして玉を使用し、かつ、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型のハブユニット軸受1に適用した場合について説明したが、本開示の一態様のハブユニット軸受は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできるし、転動体として円すいころを使用したハブユニット軸受に適用することもできる。
【0093】
本例では、シールリップ34a、34b、34cを有する内径側シール材44と、堰部50を有する外径側シール材45とを別体に構成しているが、本開示の一態様のハブユニット軸受を実施する場合、シールリップを有する内径側シール材と、堰部を有する外径側シール材とを一体に構成することもできる。換言すれば、全体を一体に構成されたシール材が、シールリップと堰部とを有する構成を採用することもできる。
【0094】
[第2例]
図3は、本開示の実施の形態の第2例を示している。本例では、堰部50aのうち、凹部11の外径側周面15に対向する面に備えられたシール側傾斜面部51aのシールリング25の中心軸に対する傾斜角度φを、ハブ3の中心軸に対する外径側周面15の傾斜角度θよりも大きくしている。具体的には、外径側周面15の傾斜角度θを15度以上45度以下、好ましくは25度以上35度以下とし、かつ、シール側傾斜面部51aの傾斜角度φを60度以上90度以下、好ましくは70度以上80度以下としている。
【0095】
本例では、シール側傾斜面部51aの傾斜角度φを外径側周面15の傾斜角度θよりも小さくしているため、シール側傾斜面部51aと外径側周面15との間の隙間は、外部空間に近づく方向に向かうほど幅が狭くなっている。このため、外部空間から、凹部11の内面とスリンガ24の軸方向外側面との間に存在する環状空間55内に、泥水などの異物が侵入しにくく、かつ、環状空間55内に侵入した異物を外部空間に排出しやすくすることができる。また、路面反力に基づくモーメント荷重に起因する外輪2とハブ輪21との相対傾きにより、外径側周面15と堰部50の先端部(径方向外側の端部)とが接触した場合にも、接触トルクを小さく抑えることができる。このため、外径側周面15と堰部50の先端部との隙間を小さくすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0096】
[第3例]
図4は、本開示の実施の形態の第3例を示している。本例では、シール装置5aは、スリンガ24aと、シールリング25aとを備える。
【0097】
スリンガ24aは、スリンガ本体26aと、スリンガシール材32aとを備える。
【0098】
スリンガ本体26aは、円筒状の嵌合筒部27と、中空円形板状の立板部28aと、該嵌合筒部27の軸方向外側の端部と該立板部28aの径方向内側の端部とを接続する接続板部29と、折れ曲がり板部30aとを有する。
【0099】
本例では、立板部28aの径方向高さを、第1例における立板部28の径方向高さよりも小さくしている。折れ曲がり板部30aは、立板部28の径方向外側の端部から軸方向内側かつ径方向外側に向けて折れ曲がり、かつ、嵌合筒部27の中心軸と同軸の円すい台形状を有する。これにより、本例では、凹部11の内面とスリンガ24の軸方向外側面との間に存在する環状空間55aの容積を、第1例における環状空間55の容積よりも大きくしている。
【0100】
スリンガシール材32aは、基部33aと、ガスケット部31とを有する。
【0101】
基部33aは、折れ曲がり板部30aの軸方向内側面から接続板部29の軸方向外側面までの範囲を覆うように、スリンガ本体26aに結合固定されている。換言すれば、基部33aは、折れ曲がり板部30aの軸方向内側面、外周面、および軸方向外側面と、立板部28の軸方向外側面と、接続板部29の軸方向外側面とを覆うように、スリンガ本体26aに結合固定されている。
【0102】
ガスケット部31は、基部33aのうち、立板部28の軸方向外側面の径方向内側の端部および接続板部29の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側に向けて突出し、かつ、先端部を、内径側周面16に全周にわたって当接させている。
【0103】
本例では、スリンガシール材32aは、その先端部を、シールリング25aの芯金36に摺接させたリップ部56をさらに有する。
【0104】
リップ部56は、基部33aのうち、折れ曲がり板部30aの外周面を覆う部分から、芯金36の芯金嵌合筒部37の内周面に向けて延出し、かつ、先端部を芯金嵌合筒部37の内周面に全周にわたって摺接させている。
【0105】
シールリング25aは、芯金36と、シール材35aとを備える。
【0106】
シール材35aは、内径側シール材44aと、外径側シール材45とを備える。
【0107】
内径側シール材44aは、内径側基部46aと、1本のシールリップ34cとを備える。
【0108】
内径側基部46aは、芯金36の表面のうち、内径側円輪部41の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面を覆うように、芯金36に加硫成形により結合固定されている。すなわち、本例の内径側基部46aは、第1例における内径側基部46のように、芯金36の表面のうちの外径側円輪部42の軸方向外側面の径方向内側の端部から内径側傾斜板部40の軸方向外側面までの範囲を覆っていない。
【0109】
1本のシールリップ34cは、内径側基部46aから嵌合筒部27の外周面に向けて延出し、かつ、先端部を、嵌合筒部27の外周面の軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0110】
本例では、環状空間55aの容積を、第1例における環状空間55の容積よりも大きくしている。このため、本例によれば、ラビリンスシール59内の異物の滞留を、第1例の構造と比較して、より発生しにくくすることができる。
【0111】
また、本例では、スリンガ24aとシールリング25aとの間の摺接部の数を2つとし、第1例における摺接部の数よりも少なく抑えている。このため、本例によれば、第1例の構造と比較して、シールトルクを小さく抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0112】
[第4例]
図5は、本開示の実施の形態の第4例を示している。本例は、本開示の実施の形態の第1例の変形例である。本例のシール装置5bは、スリンガ24bと、シールリング25bとを備える。
【0113】
スリンガ24bは、スリンガ本体26bと、スリンガシール材32bとを備える。
【0114】
スリンガ本体26bは、円筒状の嵌合筒部27と、中空円形板状の立板部28と、該嵌合筒部27の軸方向外側の端部と該立板部28の径方向内側の端部とを接続する接続板部29aと、折れ曲がり板部30bとを有する。
【0115】
本例では、接続板部29aの軸方向長さを、第1例における接続板部29aの軸方向長さよりも大きくしている。このため、本例における立板部28の軸方向位置は、第1例における立板部28の軸方向位置よりも軸方向外側に位置する。なお、本例の接続板部29aは、略四分の一楕円弧形の断面形状を有する。接続板部29aの内周面は、内径側周面16に対して全周にわたり近接対向しているが、接触はしていない。
【0116】
折れ曲がり板部30bは、円筒部57と、該円筒部57の軸方向外側の端部と立板部28の径方向外側の端部とを接続し、略四分の一楕円弧形の断面形状を有する外径側接続板部58とを備える。
【0117】
スリンガシール材32bは、基部33bと、ガスケット部31aとを有する。
【0118】
基部33bは、折れ曲がり板部30bの内周面から立板部28の軸方向外側面の径方向外側の端部までの範囲を覆うように、スリンガ本体26bに結合固定されている。換言すれば、基部33bは、折れ曲がり板部30bの内周面、軸方向内側の端面、および外周面と、立板部28の軸方向外側面の径方向外側の端部とを覆うように、スリンガ本体26bに結合固定されている。
【0119】
ガスケット部31aは、基部33bのうち、立板部28の軸方向外側面の径方向外側の端部を覆う部分から軸方向外側に向けて突出し、かつ、先端部を、凹部11の底面14に全周にわたって当接させている。
【0120】
シールリング25bは、芯金36と、シール材35bとを備える。
【0121】
シール材35bは、内径側シール材44bと、外径側シール材45とを備える。
【0122】
内径側シール材44bは、内径側基部46と、2本のシールリップ34b、34cとを備える。
【0123】
2本のシールリップ34b、34cのうち、径方向内側のシールリップ34cは、先端部を、嵌合筒部27の外周面に全周にわたり摺接させており、径方向外側のシールリップ34bは、先端部を、立板部28の軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0124】
本例では、立板部28を、第1例における立板部28よりも軸方向外側に位置させているため、径方向外側のシールリップ34bの長さが、第1例におけるシールリップ34bの長さよりも長くなっている。このため、自動車の走行中に、回転フランジ10に加わるモーメント荷重などに基づいて、スリンガ24bが軸方向に移動するなどした場合でも、該スリンガ24bの移動に対するシールリップ34bの先端部の追随性を向上でき、かつ、立板部28の軸方向内側面に対するシールリップ34bの先端部の締め代の変化に伴うシールトルクの変動を小さく抑えることができる。
【0125】
また、本例では、スリンガ24bとシールリング25bとの間の摺接部の数を2つとし、第1例における摺接部の数よりも少なく抑えている。このため、本例によれば、第1例の構造と比較して、シールトルクを小さく抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0126】
[第5例]
図6は、本開示の実施の形態の第5例を示している。本例は、本開示の実施の形態の第3例の変形例である。本例のシール装置5cは、スリンガ24cと、シールリング25cとを備える。
【0127】
スリンガ24cは、スリンガ本体26cと、スリンガシール材32cとを備える。
【0128】
スリンガ本体26cは、円筒状の嵌合筒部27と、中空円形板状の立板部28aと、該嵌合筒部27の軸方向外側の端部と該立板部28aの径方向内側の端部とを接続する接続板部29bと、折れ曲がり板部30aとを有する。
【0129】
本例では、接続板部29bの軸方向長さを、第3例における接続板部29の軸方向長さよりも大きくしている。このため、本例における立板部28aの軸方向位置は、第3例における立板部28aの軸方向位置よりも軸方向外側に位置する。なお、本例の接続板部29bは、略四分の一楕円弧形の断面形状を有する。
【0130】
スリンガシール材32cは、基部33cと、ガスケット部31aと、リップ部56aとを有する。
【0131】
基部33cは、折れ曲がり板部30aの軸方向内側面から立板部28の軸方向外側面の径方向外側の端部までの範囲を覆うように、スリンガ本体26cに結合固定されている。換言すれば、基部33cは、折れ曲がり板部30aの軸方向内側面、外周面、および軸方向外側面と、立板部28aの軸方向外側面の径方向外側の端部とを覆うように、スリンガ本体26cに結合固定されている。
【0132】
ガスケット部31aは、基部33cのうち、立板部28aの軸方向外側面の径方向外側の端部を覆う部分から軸方向外側に向けて突出し、かつ、先端部を、凹部11の底面14に全周にわたって当接させている。
【0133】
リップ部56aは、基部33aのうち、折れ曲がり板部30aの外周面を覆う部分から、芯金36の芯金嵌合筒部37の内周面に向けて延出し、かつ、先端部を芯金嵌合筒部37の内周面に全周にわたって摺接させている。
【0134】
なお、本例では、リップ部56aの厚さが、第3例におけるリップ部56の厚さよりも小さく、かつ、リップ部56aの長さが、第3例におけるリップ部56の長さよりも大きくなっている。これにより、スリンガ24cとシールリング25cとの距離が変動することに対するリップ部56aの先端部の追随性を向上でき、かつ、芯金嵌合筒部37の内周面に対するリップ部56aの先端部の変化に伴うシールトルクの変動を小さく抑えることができる。
【0135】
シールリング25cは、芯金36と、シール材35cとを備える。
【0136】
シール材35cは、内径側シール材44cと、外径側シール材45とを備える。
【0137】
内径側シール材44cは、内径側基部46bと、2本のシールリップ34b、34cとを備える。
【0138】
内径側基部46bは、芯金36の表面のうち、内径側円輪部41の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面を覆うように、芯金36に加硫成形により結合固定されている。すなわち、本例の内径側基部46bは、第3例における内径側基部46のように、芯金36の表面のうちの外径側円輪部42の軸方向外側面の径方向内側の端部から内径側傾斜板部40の軸方向外側面までの範囲を覆っていない。
【0139】
2本のシールリップ34b、34cのうち、径方向内側のシールリップ34cは、先端部を、嵌合筒部27の外周面に全周にわたり摺接させており、径方向外側のシールリップ34bは、先端部を、立板部28aの軸方向内側面に全周にわたり摺接させている。
【0140】
本例では、立板部28aを、第3例における立板部28よりも軸方向外側に位置させているため、径方向外側のシールリップ34bの長さが、第3例におけるシールリップ34bの長さよりも長くなっている。このため、自動車の走行中に、回転フランジ10に加わるモーメント荷重などに基づいて、スリンガ24cが軸方向に移動するなどした場合でも、該スリンガ24cの移動に対するシールリップ34bの先端部の追随性を向上でき、かつ、立板部28aの軸方向内側面に対するシールリップ34bの先端部の締め代の変化に伴うシールトルクの変動を小さく抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例、第3例および第4例と同様である。
【0141】
上述した本開示の実施の形態の第1例~第5例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5、5a、5b、5c シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 凹部
12 逃げ溝
13 取付孔
14 底面
15 外径側周面
16 内径側周面
17 内輪肩部
18 パイロット部
19 スプライン孔
20 内輪
21 ハブ輪
22 小径段部
23 転動体設置空間
24、24a、24b、24c スリンガ
25、25a、25b、25c シールリング
26、26a、26b、26c スリンガ本体
27 嵌合筒部
28、28a 立板部
29、29a、29b 接続板部
30、30a 折れ曲がり板部
31、31a ガスケット部
32、32a、32b、32c スリンガシール材
33、33a、33b、33c基部
34a、34b、34c シールリップ
35、35a、35b、35c シール材
36 芯金
37 芯金嵌合筒部
38 内径側折れ曲がり板部
39 外径側折れ曲がり板部
40 内径側傾斜板部
41 内径側円輪部
42 外径側円輪部
43 外径側傾斜板部
44、44a、44b、44c 内径側シール材
45 外径側シール材
46、46a、46b 内径側基部
47 突出部
48 円筒面
49 ラビリンスシール
50、50a 堰部
51、51a シール側傾斜面部
52 シール装置
53 スリンガ
54 シールリング
55、55a 環状空間
56 リップ部
57 円筒部
58 外径側接続板部
59 ラビリンスシール