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特開2024-42848昇降機の部品交換計画システムおよび昇降機の部品交換計画方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042848
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】昇降機の部品交換計画システムおよび昇降機の部品交換計画方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240322BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147757
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅則
(72)【発明者】
【氏名】野中 久典
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖郎
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】
昇降機の部品交換時期を前倒しして同時交換することで部品交換作業を効率化して生涯コストを低減可能な昇降機の部品交換計画を作成できる昇降機の部品交換計画システムを提供する。
【解決手段】
昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成する昇降機の部品交換計画システム100において、第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、第1の部品の交換時期と第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、第2の部品の交換時期を前倒しして第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する部品交換計画作成部22と、第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する部品交換計画評価部23とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成する昇降機の部品交換計画システムにおいて、
第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、前記第1の部品の交換時期と前記第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、前記第2の部品の交換時期を前倒しして前記第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する部品交換計画作成部と、
前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する部品交換計画評価部とを有することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記部品交換計画評価部は、前記第2の部品の交換時期を前倒ししても前記第2の部品の生涯部品交換回数が増加しない場合には、前記生涯コストが低減できると評価することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記部品交換計画評価部は、前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことにより前記第2の部品の生涯部品交換回数が増加する場合には、前記第1の部品と同時に交換することによって前記共通する作業を共通化して低減できる効率化コストと、前記生涯部品交換回数が増加することによる増加コストとを比較し、前記効率化コストの方が大きい場合には前記生涯コストが低減できると評価することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記増加コストは、前記第2の部品の交換作業のコストと、前記第2の部品のコストとを含むことを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項5】
請求項1において、
前記部品交換計画作成部は、前記第1の部品と前記第2の部品とを通常の周期で交換する通常の部品交換計画を作成し、
前記部品交換計画評価部は、前記通常の部品交換計画の前記生涯コストと前記前倒し部品交換計画の前記生涯コストとを比較して、前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって前記生涯コストが低減できるかを評価することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項6】
請求項1において、
データベースを有し、
前記部品交換計画作成部は、前記データベースを参照して、前記第1の部品の交換時期に一致せず、かつ、前記第1の部品の交換作業手順と共通する作業が存在する前記第2の部品を抽出することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項7】
請求項1において、
データベースと、
前記データベースを参照して前記第1の部品の前記第1の交換周期と前記第2の部品の前記第2の交換周期とを算出する交換周期算出部とを有することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項8】
請求項1において、
顧客制約条件に基づいて前記前倒し部品交換計画が実施可能かを判定する顧客制約条件判定部を有することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項9】
請求項1において、
前記生涯コストの低減の効果を示した部品交換提案書を作成する部品交換提案書作成部を有することを特徴とする昇降機の部品交換計画システム。
【請求項10】
昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成する昇降機の部品交換計画方法において、
第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、前記第1の部品の交換時期と前記第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、前記第2の部品の交換時期を前倒しして前記第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する部品交換計画作成工程と、
前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する部品交換計画評価工程とを有することを特徴とする昇降機の部品交換計画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機の部品交換計画システムおよび昇降機の部品交換計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、昇降機の保守契約は、フルメンテナンス契約、点検契約の2種類がある。
【0003】
フルメンテナンス契約では、毎月一定の保守料金を顧客から受領し、定期的にメンテナンスを実施する。点検の際や故障が発生した際などに、保守員が交換や修理が必要と判断した部品については、毎月の保守料金の中から部品交換を実施する。
【0004】
一方、点検契約の場合、保守員が交換や修理が必要と判断した部品については、まず顧客に部品交換を提案する。その後、受注して初めて部品交換が可能となる。提案に対して顧客が納得せず受注できない状況が続くと、その部品が起因となり昇降機が故障に至るリスクが増加する。
【0005】
このような昇降機の部品交換事業においては、予め交換が必要になる部品を対象に、機能が損なわれる時期を予測して、故障を発生させることなく、且つ過剰交換にならない適正な周期で部品交換を実施することが要求される。特に点検契約の顧客に対しては、交換提案する部品または部品群について、その必要性やメリットを分かりやすく説明して理解を得ること重要である。
【0006】
部品の交換時期を予測する部品交換予測装置としては、例えば特許文献1がある。特許文献1の要約には、「部品の交換時期を予測する部品交換予測装置20であって、昇降機3を構成する部品ごとの、新設から故障するまでの期間、または新設から交換されるまでの期間を表す間隔情報に基づき、各部品の交換周期をそれぞれ算出し、昇降機3を構成する部品である第1部品の交換周期が変化する場合の、第1部品と機械的に関連して動作する関連部品の交換周期を、第1部品の間隔情報および関連部品の間隔情報に基づき再算出する処理部25と、関連部品の交換周期が、処理部によって再算出された後の交換周期に変化したことを示す描画データを作成する表示部と、を有する。」ことが記載されている。
【0007】
そして、特許文献1の段落0012には、「交換周期を超えた状態で部品が稼動している場合、このまま使用し続けると、当該部品のみならず、その関連部品の劣化度も増して関連部品の交換周期も短くなる。本実施形態では、このことを説明するための資料を作成し、顧客に提示して、交換の必要性を説明する。」こと、並びに、図14には、関連部品である部品A~Cの作業費、部品費、総費用、故障率、残寿命を一覧にした図が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-6564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、昇降機は制御機能や機器などを一新するリニューアルがなされるまでの20年や30年といった長期間にわたって使用されるものであり、昇降機の部品交換に関して生涯にかかるコストである生涯コストを最小限にして機能を維持することが保守会社に要求される。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ある部品の交換周期が変化した場合に、その部品と機械的に関連して動作する関連部品の交換周期を再算出して交換の提案を行うこと可能にしているが、例えば交換周期を前倒しすることで、結果として生涯の部品交換回数が増えるケースがあるなど、生涯コストに関する考慮が十分でないという問題がある。
【0011】
また、部品交換作業の中で共通する作業が存在する場合には、同時に交換することで作業効率化でき、作業コストを低減できる場合があるが、特許文献1ではこの点についても考慮されていない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、昇降機の部品交換時期を前倒しして同時交換することで部品交換作業を効率化して生涯コストを低減可能な昇降機の部品交換計画を作成できる昇降機の部品交換計画システムおよび昇降機の部品交換計画方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の昇降機の部品交換計画システムは、例えば、昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成する昇降機の部品交換計画システムにおいて、第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、前記第1の部品の交換時期と前記第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、前記第2の部品の交換時期を前倒しして前記第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する部品交換計画作成部と、前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する部品交換計画評価部とを有することを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の昇降機の部品交換計画方法は、例えば、昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成する昇降機の部品交換計画方法において、第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、前記第1の部品の交換時期と前記第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、前記第2の部品の交換時期を前倒しして前記第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する部品交換計画作成工程と、前記第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する部品交換計画評価工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、昇降機の部品交換時期を前倒しして同時交換することで部品交換作業を効率化して生涯コストを低減可能な昇降機の部品交換計画を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例の昇降機の部品交換計画システムの一例を説明する機能ブロック図。
図2】実施例の製造番号別交換周期テーブルの一例を説明する図。
図3】同時交換により生涯コストを低減できる例の概要説明図。
図4】同時交換により生涯コストが増加する例の概要説明図。
図5】実施例の昇降機の部品交換計画システムにおける部品交換計画作成および評価の一例を説明するフローチャート。
図6】実施例の部品交換提案書の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、実施例の昇降機の部品交換計画システムの一例を説明する機能ブロック図である。
【0019】
実施例の昇降機の部品交換計画システム100は、昇降機の部品を交換する部品交換計画を作成するシステムであり、例えば、データベース1と、部品交換計画部2と、部品交換計画出力部3とを有する。なお、本実施例では、昇降機としてエスカレーターを例に説明するが、これに限られず、動く歩道や、エレベーターなどの他の昇降機であってもよい。また、各機能ブロックの機能は、例えばPCなどの計算機システム上で動作するプログラムや、入出力機器や、外部記憶装置などによって実現される。以下では、実施例の昇降機の部品交換計画システム100とともに、実施例の昇降機の部品交換計画方法についても併せて説明する。
【0020】
データベース1は、例えば以下のデータベースで構成される。
【0021】
製品情報データベース11は、顧客毎に、昇降機の製造番号、納入年月日、構成部品仕様、寿命などを蓄積する。
【0022】
故障情報データベース12は、過去に故障が発生した昇降機の製造番号、機種、故障発生日、故障原因であった部品情報などを蓄積する。
【0023】
部品交換履歴データベース13は、過去に部品交換を行った部品交換履歴について、製造番号、部品、部品交換実績日などを蓄積する。
【0024】
部品交換作業データベース14は、機種・部品毎に、部品交換前の準備や部品交換後の復旧のための作業である段取り作業の作業内容とその作業時間、作業コスト、並びに、部品交換作業の作業時間、作業コスト、標準の交換周期、部品コストなどを蓄積する。
【0025】
顧客制約条件データベース15は、部品交換や点検などの昇降機の保全作業を顧客先で実施するにあたって、作業可能時間や作業スペース条件などの顧客別の作業制約条件を蓄積する。
【0026】
部品交換計画データベース16は、昇降機の製造番号毎に、本システムで作成された部品交換計画を蓄積する。
【0027】
部品交換計画部2は、データベース1に蓄積したデータを入力データとして適正な部品交換計画を作成および評価する処理部である。部品交換計画部2は、例えば、交換周期算出部21と、部品交換計画作成部22と、部品交換計画評価部23と、顧客制約条件判定部24とを有する。
【0028】
交換周期算出部21は、交換周期算出工程において、データベース1を参照して部品毎の交換周期を算出する機能を備える。部品毎の交換周期は、部品交換作業データベース14に格納された標準の交換周期を用いてもよいし、データベース1に蓄積した過去データを用いて、一般的な統計手法で算出してもよい。また、算出された交換周期を用いて、部品交換作業データベース14に格納された標準の交換周期を更新してもよい。
【0029】
ここで、交換周期算出部21が過去データを用いて部品の交換周期を算出する一例について説明する。まず、製品情報データベース11と故障情報データベース12と部品交換履歴データベース13のデータを読み出し、製造番号をマージキーとして結合したデータを作成する。次に、各製造番号の部品別に、新設から交換されるまで、または前々回交換から前回交換されるまでの期間を表す間隔情報を算出する。なお、この間隔情報には、部品の機能は正常であるが交換周期に到達したために交換を実施した正常打切り間隔情報の属性、または部品が正常な機能を損なったことを理由に交換した故障間隔情報の属性を付与して算出する。次に、算出した各属性の間隔情報を元に、故障間隔とその故障間隔での累積故障発生確率をワイブル確率紙にプロットしたワイブル型累積ハザード分析で、形状パラメータm、尺度パラメータηを算出し、以下の一般的な信頼度計算式で、例えば故障確率1%の交換周期Htを以下のように算出する。
【0030】
Ht=exp(ln(η)+(ln(ln(1÷(1-0.01))))÷m)
なお、上述した交換周期の算出は一例であって、他の統計手法を使用して算出した部品別の交換周期であっても良い。
【0031】
図2は、実施例の製造番号別交換周期テーブルの一例を説明する図である。
【0032】
部品交換計画作成部22は、部品交換計画作成工程において、データベースを参照し、図2に示すような製造番号別交換周期テーブル4を作成する。製造番号別交換周期テーブル4は、例えば、機器、交換対象部品、作業場所、(a)段取りステップ着脱枚数(枚)、(b)段取りステップ着脱時間(分)、(c)部品交換作業時間(分)、(d)交換周期(年)、(e)部品コスト(k¥)の情報を有している。なお、(a)の段取りステップ着脱枚数は、部品交換前の準備や部品交換後の復旧のための作業である段取り作業として、部品交換前にステップを取り外し、部品交換後にステップを再び取り付ける枚数の情報であり、(b)の段取りステップ着脱時間は、ステップ着脱に要する作業時間である。(c)の部品交換作業時間は、(b)の段取りステップ着脱時間を除いた部品交換作業時間である。(d)の交換周期としては、部品交換作業データベース14に格納された標準の交換周期を用いてもよいし、交換周期算出部21で算出した交換周期を用いてもよい。
【0033】
そして、部品交換計画作成部22は、部品交換計画作成工程において、データベースを参照して作成された製造番号別交換周期テーブル4を参照して、第1の部品の交換時期に一致せず、かつ、第1の部品の交換作業手順と共通する作業が存在する第2の部品を抽出する。
【0034】
例えば、第1の部品であるハンドレール押さえガイドが交換周期に到達した際に、作業場所が昇降口として共通し、かつ、部品交換の段取り作業としてステップ着脱が共通する作業として存在するステップ走行安全装置やスカートガードSWが第2の部品の候補として抽出される。なお、この抽出の際には、機械的に関連して動作するか否かによらず、部品交換の段取り作業などの共通する作業が存在するか否かで判断される。抽出されたこれら第2の部品の候補は交換周期がハンドレール押さえガイドとは異なっているため、交換時期についても一致しない。したがって、これらの部品の交換時期を前倒ししてハンドレール押さえガイドと同時に交換することで、ステップ着脱作業を共通する作業として省略して効率化でき、1回あたりの部品交換コストを低減できる。
【0035】
しかしながら、これらの部品の交換時期を前倒しすることで、結果として生涯の部品交換回数が増え、部品交換についての生涯コストが増加する可能性がある。
【0036】
そこで、部品交換計画作成部22は、部品交換計画作成工程において、第1の交換周期を有する第1の部品の交換作業手順と第2の交換周期を有する第2の部品の交換作業手順の中に共通する作業が存在し、かつ、第1の部品の交換時期と第2の部品の交換時期とが一致しない場合に、第2の部品の交換時期を前倒しして第1の部品と同時に交換する前倒し部品交換計画を作成する。
【0037】
さらに、部品交換計画評価部23は、部品交換計画評価工程において、第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する。
【0038】
このように、生涯コストが低減できるかを評価し、生涯コストが低減できる場合には前倒し部品交換計画を採用することで、生涯コストまで考慮した適正な部品交換計画を作成することができる。
【0039】
図3は、同時交換により生涯コストを低減できる例の概要説明図である。図3の部品交換計画5のグラフの横軸は経過年数を示している。
【0040】
部品交換計画評価部23による評価方法には複数の方法があるが、まずは一例について説明する。
【0041】
図3では、第1の部品P1としてハンドレール押さえガイド、第2の部品P2としてスカートガードSWを抽出した例で説明する。また、エスカレーターの寿命を30年と仮定する。
【0042】
部品交換計画作成部22は、部品交換計画作成工程において、前述した前倒し部品交換計画52の他に、第1の部品と第2の部品とを通常の周期で交換する通常の部品交換計画51を作成する。
【0043】
図3に示すように、第1の部品P1の交換周期は10年なので、10年目と20年目に部品交換し、30年目は交換不要である。したがって、生涯部品交換回数は2回である。一方、第2の部品P2の交換周期は12年なので、通常の部品交換計画51では、12年目と24年目に部品交換する。したがって、生涯部品交換回数は2回である。そして、第2の部品P2の前倒し部品交換計画52では、12年目を前倒しして10年目とし、10年目から12年後の22年目を前倒しして20年目に部品交換する。なお、20年目から12年後の32年目は寿命を過ぎているので前倒し不要である。したがって、生涯部品交換回数は2回であり、前倒ししても交換回数の増加はない。
【0044】
ここで、部品交換計画評価部23は、部品交換計画評価工程において、通常の部品交換計画の生涯コストと前倒し部品交換計画の生涯コストとを比較して、第2の部品の交換時期を前倒ししたことによって生涯コストが低減できるかを評価する。
【0045】
具体的には、図3に示すように、部品交換計画評価部23は、部品交換計画評価工程において、通常の部品交換計画の生涯コスト算出表53と前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表54に基づいて、それぞれの生涯コストを算出し、比較する。図3の場合、前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表54の生涯コスト1,010k¥は、通常の部品交換計画の生涯コスト算出表53の生涯コスト1,310k¥よりも低減できていることを示している。
【0046】
したがって、図3の場合は、通常の部品交換計画51ではなく、前倒し部品交換計画52を提案した方がよいことがわかる。
【0047】
なお、図3の通常の部品交換計画の生涯コスト算出表53と前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表54の(a)から(e)は、図2の(a)から(e)に対応する。図3の(f)は部品交換コスト/回(k¥)で、((b)+(c))×時間単価(5k¥/分)+(e)で算出される、1回あたりの作業コストと部品コストの合計である。(g)は生涯部品交換回数(回)である。(h)は生涯コスト(k¥)で、(f)×(g)で算出する。備考欄は部品交換計画における交換年を示している。
【0048】
ここで、第2の部品P2の前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表54の(a)(b)は共通する作業のため0になっており、この共通する作業の作業コストの分だけ共通化してコスト低減できる。この低減できるコストを効率化コストと呼ぶこととする。
【0049】
図4は、同時交換により生涯コストが増加する例の概要説明図である。図4は、図3に対応する図であるため、図3と重複する部分については説明を省略する。
【0050】
図4では、第1の部品P1としてハンドレール押さえガイド、第2の部品P2としてステップ走行安全装置を抽出した例で説明する。
【0051】
図4に示すように、第2の部品P2は、交換周期が4年であるため、通常の部品交換計画51では生涯部品交換回数は7回であるが、前倒し部品交換計画52では2年前倒しが2回行われるため、生涯部品交換回数は8回であり、前倒しにより交換回数が1回増加している。なお、10年目と20年目で同時交換が可能であるが、20年目はもともと同時交換が可能であったため、同時交換の増加は1回である。
【0052】
その結果、部品交換計画評価部23は、部品交換計画評価工程において、生涯コストを比較すると、前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表54の生涯コスト5,800k¥は、通常の部品交換計画の生涯コスト算出表53の生涯コスト5,300k¥よりも増加しているので、生涯コストが低減できないと評価する。
【0053】
したがって、図4の場合は、前倒し部品交換計画52を提案せず、通常の部品交換計画51を提案した方がよいことがわかる。
【0054】
図5は、実施例の昇降機の部品交換計画システムにおける部品交換計画作成および評価の一例を説明するフローチャートである。
【0055】
図3から図5を用いて、部品交換計画評価部23による評価方法の他の例について説明する。
【0056】
(S1)では、交換周期算出部21が、交換周期算出工程において、交換周期の算出を行う。そして、部品毎に、新設または前回交換からの経過年月を監視し、予め設定した交換周期に到達したことを契機に、以降の処理を行う。
【0057】
(S2)では、部品交換計画作成部22が、部品交換計画作成工程において、図2に示すような製造番号別交換周期テーブル4を作成する。図2の例では、エスカレーターの部品交換の中でもっとも共通作業になるケースが多く、且つ時間を要するステップ脱着枚数を取得する。
【0058】
(S3)では、部品交換計画作成部22が、部品交換計画作成工程において、前倒し交換候補の抽出を行う。具体的には、例えば、交換周期に到達した部品(第1の部品P1)を基準として、5年以内に交換周期に到達する部品を同時交換を実施する対象部品候補として抽出し、抽出した部品(第2の部品P2)について、交換周期に到達した部品と共通作業があるかを判定する。本実施例では、共通作業としてステップ脱着作業があるかを判定する。ここで、5年以内に交換周期に到達する部品がない場合や、共通作業がない場合は、単独で部品を交換するために(S4)に進む。5年以内に交換周期に到達する部品があり、かつ、共通作業がある場合は、前倒し交換候補ありとして(S5)に進む。
【0059】
(S4)では、通常の部品交換計画を提案する。そのために、部品交換計画作成部22が、部品交換計画作成工程において、通常の部品交換計画51を作成する。そして、通常の部品交換計画51は、部品交換計画データベース16に蓄積される。
【0060】
(S5)では、部品交換計画作成部22が、部品交換計画作成工程において、前倒し部品交換計画52を作成する。必要に応じて、部品交換計画作成部22は、部品交換計画作成工程において、通常の部品交換計画51も作成する。
【0061】
(S6)では、前倒し交換で生涯部品交換回数が増加しないかを判定する。具体的には、部品交換計画評価部23が、部品交換計画評価工程において、例えば図3のように、第2の部品P2の交換時期を前倒ししても第2の部品P2の生涯部品交換回数が増加しない場合には、生涯コストが低減できると評価し、(S8)に進む。ここで、例えば図4のように、生涯部品交換回数が増加する場合には、生涯コストが増加する可能性があるとして、(S7)に進む。なお、生涯部品交換回数が増加するか否かの判断方法としては、前倒し部品交換計画52と通常の部品交換計画51とを比較してもよいし、エスカレーターの寿命と第2の部品の交換周期から通常の生涯部品交換回数を計算で求めて、前倒し部品交換計画52の生涯部品交換回数と比較してもよい。
【0062】
(S7)では、効率化コストが増加コストよりも大きいかを判定する。具体的には、部品交換計画評価部23が、部品交換計画評価工程において、第2の部品P2の交換時期を前倒ししたことにより第2の部品の生涯部品交換回数が増加する場合((S6)でNの場合)には、第1の部品P1と同時に交換することによって共通する作業を共通化して低減できる効率化コストと、生涯部品交換回数が増加することによる増加コストとを比較し、効率化コストの方が大きい場合には生涯コストが低減できると評価する。ここで、図4の場合は、効率化コストは、第2の部品P2のステップ着脱のための作業コスト((b)30(分)×時間単価(5k¥/分)=150k¥)であり、増加コストは、第2の部品P2の交換作業のコストと、第2の部品P2のコストの合計((c)90(分)×時間単価(5k¥/分)+(e)50k¥=500k¥)であるため、効率化コストが増加コストよりも大きく、生涯コストが低減できないと判定し、(S4)に進んで単独で部品を交換する。また、第2の部品P2の交換時間が短かかったり、第2の部品P2のコストが安い場合には、効率化コストの方が増加コストよりも大きくなるので、生涯部品交換回数が増加しても生涯コストが低減できると判定し、(S8)に進む。
【0063】
次に示す(S8)と(S9)の処理は、同時交換で生涯コストの低減が可能と判定した部品について、顧客側の制約条件による同時交換の可否を判定するものである。具体的には、顧客制約条件判定部24が、顧客制約条件判定工程において、顧客制約条件に基づいて前倒し部品交換計画52が実施可能かを判定する。顧客制約条件は、顧客制約条件データベース15に格納されており、例えば、駅のような顧客作業先では、終電から始発までの間に部品交換作業を終了させる必要があるなどの作業時間の制約があったり、その他、交換部品とステップを一時保管するための作業スペース確保など、昇降機の設置環境特有の制約条件がある。
【0064】
(S8)では、顧客制約条件判定部24が、顧客制約条件判定工程において、作業可能時間の顧客制約条件を満たすかを判定する。具体的には、同時交換実施時の作業時間の合計を算出し、予め確認している顧客側の作業可能時間とを比較する。同時交換作業が、顧客側の作業可能時間内で実施できる場合は、同時交換の計画を可能とし、(S9)に進む。一方、顧客側の作業可能時間内で実施不可の場合は、単独で部品を交換するために(S4)に進む。
【0065】
(S9)では、顧客制約条件判定部24が、顧客制約条件判定工程において、作業可能スペースの顧客制約条件を満たすかを判定する。具体的には、同時交換を実施する場合の部品の置き場スペースを確認し、顧客側の作業スペースが確保できる場合は、同時交換の計画を可能とし、(S10)に進む。一方、顧客側の作業スペースを確保できない場合は、単独で部品を交換するために(S4)に進む。
【0066】
なお、(S8)と(S9)では、同時交換の可否を判定するフローを示したが、(S6)、(S7)の処理で、同時交換による生涯コスト低減が見込める場合は、顧客側の制約条件の緩和を顧客に提案しても良い。
【0067】
また、(S9)までの条件を満たした前倒し部品交換計画52は、部品交換計画データベース16に蓄積される。
【0068】
(S10)では、部品交換計画出力部3の部品交換提案書作成部31が、部品交換提案書作成工程において、生涯コストの低減の効果を示した部品交換提案書を作成する。そして、部品交換計画出力部3の出力部32が、出力工程において、部品交換提案書を出力する。そして、この部品交換提案書に基づいて、顧客に前倒し部品交換計画を提案する。
【0069】
図6は、実施例の部品交換提案書の一例を説明する図である。
【0070】
ここでは、図3の例に基づいて、スカートガードSWの交換時期を前倒しし、ハンドレール押さえガイドとスカートガードSWを同時交換する提案をしている。通常交換コストは、それぞれ450k¥/回、205k¥/回であるのに対し、同時交換により今回提案交換コストは505k¥となっており、コスト低減されていることがわかる。また、生涯コスト比較グラフ61を示すことで、同時交換による作業効率化コストによって生涯コストの低減の効果が300k¥であることが一目でわかるようにしている。なお、生涯コスト比較グラフ61の縦軸は生涯コストであり、左側は、通常交換コスト(個別交換した場合)の生涯コストを示しており、右側は、前倒しで同時交換した場合の生涯コストを示している。これにより、生涯コストを踏まえた同時交換のメリットを分かりやすく説明して顧客理解を得ることが可能になる。
【0071】
以上説明したとおり、実施例の昇降機の部品交換計画システム100および昇降機の部品交換計画方法によれば、昇降機の部品交換時期を前倒しして同時交換することで部品交換作業を効率化して生涯コストを低減可能な昇降機の部品交換計画を作成できる。
【0072】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、実施例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 データベース
11 製品情報データベース
12 故障情報データベース
13 部品交換履歴データベース
14 部品交換作業データベース
15 顧客制約条件データベース
16 部品交換計画データベース
2 部品交換計画部
21 交換周期算出部
22 部品交換計画作成部
23 部品交換計画評価部
24 顧客制約条件判定部
3 部品交換計画出力部
31 部品交換提案書作成部
32 出力部
4 製造番号別交換周期テーブル
5 部品交換計画
51 通常の部品交換計画
52 前倒し部品交換計画
53 通常の部品交換計画の生涯コスト算出表
54 前倒し部品交換計画の生涯コスト算出表
6 部品交換提案書
61 生涯コスト比較グラフ
100 部品交換計画システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6