(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042849
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】顎位矯正装置及び顎位矯正装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/00 20060101AFI20240322BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20240322BHJP
A61C 7/08 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61C7/00
A61F5/01 Z
A61C7/08
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147758
(22)【出願日】2022-09-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】513263248
【氏名又は名称】株式会社 RAMPA master product
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 寧
【テーマコード(参考)】
4C052
4C098
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052JJ01
4C052JJ10
4C098AA02
4C098BB20
4C098BC08
(57)【要約】
【課題】矯正用ヘルメット,矯正用ヘルメットの製造方法及び顎位矯正装置に関し、簡素な構成で牽引方向のずれを抑制する。
【解決手段】開示の矯正用ヘルメット50は、口内の上顎に矯正具1が取り付けられた人物の頭部に装着される。開示の矯正用ヘルメット50は、頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する第一被覆部51と、第一被覆部51から後方へ延設され、頭部の後頭部を被覆する第二被覆部52と、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される左右一対の延設部54と、延設部54から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍を被覆する左右一対の第三被覆部53と、第一被覆部51に設けられ、牽引器20が固定される第一固定部55と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口内の上顎に矯正具が取り付けられた人物の頭部に装着されるとともに、前記矯正具を前上方へ牽引するための牽引器が固定される矯正用ヘルメットであって、
前記頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する第一被覆部と、
前記第一被覆部から後方へ延設され、前記頭部の後頭部を被覆する第二被覆部と、
前記第一被覆部のうち前記左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される左右一対の延設部と、
前記延設部から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍を被覆する左右一対の第三被覆部と、
前記第一被覆部に設けられ、前記牽引器が固定される第一固定部と、
を備えることを特徴とする、矯正用ヘルメット。
【請求項2】
前記第一固定部が、前記第一被覆部のうち額中央付近又はこめかみ付近に配置される
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項3】
前記第一被覆部及び前記第二被覆部の各々の内側面に設けられ、前記頭部に対して弾性的に接触するスポンジ状のインナーパッドを備える
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項4】
前記第三被覆部に設けられ、前記頬骨体部近傍の皮膚に対して弾性的に接触するチークパッドを備える
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項5】
前記第二被覆部が、前記頭部の左側頭部から後方へ延設される左後頭部被覆部と前記頭部の右側頭部から後方へ延設される右後頭部被覆部とを有し、後面視において前記左後頭部被覆部と前記右後頭部被覆部との間に隙間が形成される
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項6】
前記第一被覆部のうち前記左右側頭部を被覆する部位と前記第二被覆部とを水平方向に離隔させるスリット部を備える
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項7】
前記第一被覆部又は前記延設部に設けられ、前記矯正具に接続されて口外へ延出する被牽引部を支承するための第二固定部を備える
ことを特徴とする、請求項1記載の矯正用ヘルメット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の矯正用ヘルメットを製造するための製造方法であって、
前記頭部の立体形状の情報を三次元スキャナで取得し、
前記三次元スキャナで取得された前記立体形状の情報に基づき、三次元プリンタを用いて前記立体形状に対応する内部形状を有する前記矯正用ヘルメットを形成し、
前記矯正用ヘルメットにおける前記第一被覆部に前記牽引器を固定する
ことを特徴とする、矯正用ヘルメットの製造方法。
【請求項9】
口内の上顎に取り付けられる矯正具と、
前記矯正具を前上方へ牽引する牽引器と、
前記矯正具を使用する人物の頭部に装着されるとともに、前記牽引器が固定される矯正用ヘルメットと、を具備する顎位矯正装置であって、
前記矯正用ヘルメットが、請求項1~7のいずれか一項に記載の矯正用ヘルメットであることを特徴とする、顎位矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、口内の上顎に装着される矯正具を前上方へ牽引するための牽引器が固定される矯正用ヘルメットと、その矯正用ヘルメットの製造方法と、その矯正用ヘルメットを含む顎位矯正装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯列矯正や顎顔面口腔育成治療の分野において、口腔内の矯正具を口腔外から前方へ牽引することで、顎位や歯列の適切な成長を促進する矯正装置が知られている。例えば、口内に矯正具が取り付けられた人物の頭部にヘッドギアを装着し、ヘッドギアと矯正具との間に介装される牽引器を用いて矯正具を前方へと牽引する顎位矯正装置(顎顔面矯正装置)が知られている。ヘッドギアは、金属ワイヤーを溶接して組み立てられたワイヤーフレームに、スポンジ状のパッドや帯状のバンドが固定された構造を持つ(特許文献1~3参照)。このような構造により、軽量で頭部の形状に適合しやすいヘッドギヤが実現されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4058105号公報
【特許文献2】特許第5466797号公報
【特許文献3】特表2021-500179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上記のようなヘッドギアは、外力を受けたときに頭部に対する相対位置がずれることがあり、使い方によっては矯正具の牽引方向が安定しにくいという課題がある。例えば、ヘッドギアを装着したままソファーに寝転んだ場合やベッドに横たわった場合に、ヘッドギアの位置が頭部に対してずれることがある。これにより、矯正具の牽引方向が変化し、顎位や歯列の矯正効果が低下してしまう。特に、ヘッドギアの着用者が小児である場合には、遊戯中に洋服の裾や袖がワイヤーフレームに引っかかったり、ヘッドギアが室内の壁にぶつかったりすることがあり、日常的にヘッドギアの位置ずれが生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みて創案されたものであり、簡素な構成で牽引方向のずれを抑制できるようにした矯正用ヘルメット,矯正用ヘルメットの製造方法及び顎位矯正装置を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の矯正用ヘルメット,矯正用ヘルメットの製造方法及び顎位矯正装置は、以下に開示する態様又は適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の矯正用ヘルメットは、口内の上顎に矯正具が取り付けられた人物の頭部に装着されるとともに、前記矯正具を前上方へ牽引するための牽引器が固定される矯正用ヘルメットである。この矯正用ヘルメットは、前記頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する第一被覆部と、前記第一被覆部から後方へ延設され、前記頭部の後頭部を被覆する第二被覆部と、前記第一被覆部のうち前記左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される左右一対の延設部と、前記延設部から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍を被覆する左右一対の第三被覆部と、前記第一被覆部に設けられ、前記牽引器が固定される第一固定部と、を備える。
【0007】
開示の矯正用ヘルメットの製造方法は、上記の構成を備えた矯正用ヘルメットを製造するための製造方法であって、前記頭部の立体形状の情報を三次元スキャナで取得し、前記三次元スキャナで取得された前記立体形状の情報に基づき、三次元プリンタを用いて前記立体形状に対応する内部形状を有する前記矯正用ヘルメットを形成し、前記矯正用ヘルメットにおける前記第一被覆部に前記牽引器を固定することを特徴とする。
【0008】
開示の顎位矯正装置は、口内の上顎に取り付けられる矯正具と、前記矯正具を前上方へ牽引する牽引器と、前記矯正具を使用する人物の頭部に装着されるとともに、前記牽引器が固定される矯正用ヘルメットと、を具備する顎位矯正装置である。前記矯正用ヘルメットは、前記頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する第一被覆部と、前記第一被覆部から後方へ延設され、前記頭部の後頭部を被覆する第二被覆部と、前記第一被覆部のうち前記左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される左右一対の延設部と、前記延設部から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍を被覆する左右一対の第三被覆部と、前記第一被覆部に設けられ、前記牽引器が固定される第一固定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、装着状態の安定性を改善でき、牽引器による矯正具の牽引方向のずれを抑制できる。したがって、顎位や歯列の適切な成長を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例としての矯正用ヘルメットを斜め前から見たときの斜視図である。
【
図2】(A),(B)は、
図1の矯正用ヘルメットを斜め後ろから見た状態を示す斜視図である。
【
図3】口内の上顎に取り付けられる矯正具の分解斜視図である。
【
図4】牽引器の被牽引部の構造を示す斜視図である。
【
図5】(A),(B)は、牽引器のヘルメット固定部の構造を示す斜視図である。
【
図6】矯正用ヘルメット及び牽引器の装着状態を示す側面図である。
【
図7】矯正用ヘルメットの製造手順を示すフローチャートである。
【
図8】(A),(B)は、変形例としての矯正用ヘルメットを示す斜視図である。
【
図9】(A),(B)は、変形例としての矯正用ヘルメットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示の矯正用ヘルメットは、口内の上顎に矯正具が取り付けられた人物の頭部に装着される。この矯正用ヘルメットには、矯正具を前上方へ牽引するための牽引器が固定される。牽引器は、矯正用ヘルメットに対して矯正具を前上方へ牽引する力を作用させる器具であり、アクティブボウとも呼ばれる。牽引器の具体例としては、例えば、特許第5466797号公報に記載された構造の一部分を適用可能である。なお、矯正具と牽引器と矯正用ヘルメットとを含む全体の名称として「顎位矯正装置」が用いられることがある。
【0012】
開示の矯正用ヘルメットは、例えば特許第4058105号公報や特許第5466797号公報に記載されたような既存のランパ(登録商標,RAMPA)装置におけるヘッドギア(金属製のワイヤーフレームにスポンジ状のパッドや帯状のバンドが固定され、頭部に装着される装置)の代わりに使用されうる。ランパとの名称は、Right Angle Maxillary Protraction Appliance(上顎骨の正しい角度での押し出し矯正器具)に由来している。開示の矯正用ヘルメットを含む顎位矯正装置も、ランパ装置と呼称されうる。
【0013】
矯正具は、上顎歯列を整えつつ前上方への押圧力を作用させるための器具であり、ROA(RAMPA Oral Appliance)とも呼ばれる。ROAの具体例としては、例えば、特許第6732272号公報に記載の押圧板(スーパッド)及び調節機構を備えた矯正具が挙げられる。前上方への押圧力は、矯正具単体でも作用させることが可能である。一方、この矯正具と矯正用ヘルメット及び牽引器とを併用することで、前上方への押圧力が増大し、顎位や歯列の矯正効果が向上する。
【0014】
開示の矯正用ヘルメット及び顎位矯正装置は、顎骨が成長期にある小児(例えば、6~12歳の子供)に対して好適に適用されうる。一方、開示の矯正用ヘルメット及び顎位矯正装置の対象年齢に制限はなく、青少年や成人にも適用可能である。また、実施例中に示される方向(顎位矯正装置を構成する部品や部位についての方向)は、特記しない限り、顎位矯正装置が装着される人物を基準とした方向(その人物から見た方向)を表す。
【実施例0015】
[1.構成]
[1-1.矯正用ヘルメット]
図1は、実施例としての矯正用ヘルメット50を含む顎位矯正装置を装着した人物の頭部を斜め前から見たときの斜視図であり、
図2(A),(B)は、その人物を斜め後ろから見たときの斜視図である。矯正用ヘルメット50は、口内の上顎に矯正具1が取り付けられた人物の頭部に装着される。
【0016】
矯正用ヘルメット50には、矯正具1を前上方へ牽引するための牽引器20が固定される。牽引器20は、矯正具1に接続されて口外へ延出する被牽引部21と、矯正用ヘルメット50に固定されるヘルメット固定部41と、これらを弾性的に接続して被牽引部21を前上方へ牽引する付勢力を与える複数の弾性部材40とを備える。弾性部材40の具体例としては、輪ゴムやコイルばねなどが挙げられる。
【0017】
図1に示すように、矯正用ヘルメット50は、第一被覆部51,第二被覆部52,第三被覆部53,延設部54,第一固定部55,第二固定部56,インナーパッド57を備える。第一被覆部51,第二被覆部52,第三被覆部53,延設部54は、合成樹脂(プラスチック)で一体に形成される。
【0018】
インナーパッド57は、頭部に対して弾性的に接触する柔らかいスポンジ状の部材であり、第一被覆部51及び第二被覆部52の各々の内側面に取り付けられる。また、チークパッド58は、頬骨体部近傍の皮膚に対して弾性的に接触する部材であり、少なくとも第三被覆部53の内側面に取り付けられる。インナーパッド57及びチークパッド58の素材の具体例としては、例えばポリウレタンフォーム,メラミンフォーム,ポリエステルフォーム,布,不織布,起毛素材,スポンジなどが挙げられる。
図1に示すチークパッド58は、スポンジが内蔵された厚手の布(パフ素材)を袋状に縫製してなり、第三被覆部53の周面を被覆するように取り付けられている。
【0019】
第一被覆部51は、頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する部位である。第一被覆部51は、前頭骨や側頭骨の一部分に沿った曲面形状に形成され、インナーパッド57を介して前頭部及び左右側頭部を支承している。第一被覆部51は、例えば
図2(A)に示すように、前頭部及び左右側頭部を覆う形状に形成される。第一被覆部51は、例えば
図2(B)に示すように、左右側頭部から耳介部の後方へと回り込むような形状に形成されてもよい。
【0020】
第一被覆部51は、前頭部及び左右側頭部の全体を被覆する形状でなくてもよい。例えば、第一被覆部51に開口部を形成し、前頭部及び左右側頭部を安定的に支承できる範囲で軽量化を図ってもよい。あるいは、前頭部の一点と左右側頭部の二点とが安定的に支承され、かつ、第一被覆部51の剛性や強度が確保される程度に全体形状を簡素化してもよい。
【0021】
第二被覆部52は、第一被覆部51から後方へ延設され、頭部の後頭部を被覆する部位である。第二被覆部52は、頭頂骨や後頭骨の一部分に沿った曲面形状に形成され、インナーパッド57を介して後頭部を支承している。
図2(A)に示す第二被覆部52は、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から後方へ延設された例であり、
図2(B)に示す第二被覆部52は、第一被覆部51のうち前頭部を被覆する部位から後方へ延設された例である。
【0022】
第一被覆部51と同様に、第二被覆部52も後頭部の全体を被覆する形状でなくてもよい。例えば、第二被覆部52に開口部を形成し、後頭部を安定的に支承できる範囲で軽量化を図ってもよい。あるいは、後頭部における左右二点が安定的に支承され、かつ、第二被覆部52の剛性や強度が確保される程度に全体形状を簡素化してもよい。
【0023】
延設部54は、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される左右一対の部位である。延設部54は、例えば頭部の側面視において耳介部及びその前方の領域を上下に通過するように、縦方向に延設される。
第三被覆部53は、延設部54から頬骨に沿って前方に延設されるとともに、頬骨近傍を被覆する左右一対の部位である。第三被覆部53は、頬骨に沿った曲面形状に形成され、チークパッド58を介して頬骨近傍を支承している。
【0024】
頬骨は、頬骨弓部と頬骨体部とからなる。頬骨弓部は、前後方向に延在する部位であり、弓のように左右側方の外側に突出する湾曲した形状を有する。頬骨弓部の後方側は、側頭骨に接合されている。また、頬骨体部は、頬骨のうち頬骨弓部の前方に位置する部位であり、眼窩の下方から左右側方の外側にかけての部分をなす。頬骨体部の前方側は、上顎骨に接合されている。本実施例の第三被覆部53は、延設部54の下部(下端部近傍)から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍(頬骨体部又は上顎骨)を被覆している。
【0025】
第一固定部55は、第一被覆部51に設けられ、牽引器20が固定される部位である。第一固定部55の位置は、第一被覆部51において少なくとも一箇所に設けられる。牽引器20の安定性を考慮して、複数箇所に第一固定部55を設定してもよい。本実施例では、第一被覆部51のうち左右のこめかみ付近(こめかみに対応する部位の付近)に第一固定部55が配置される。第一固定部55は、例えば後述する前後延在部42の端部が差し込み固定される中空筒状に形成される。
【0026】
第二固定部56は、第一被覆部51又は延設部54に設けられる穴形状の部位である。第二固定部56には、後述する牽引器20の第三支持部47が固定される。第二固定部56の位置は、例えば耳介部近傍に設定される。本実施例では、第一固定部55の近傍であって、第一被覆部51と延設部54との境界付近に左右一対の第二固定部56が設けられている。なお、第二固定部56を複数箇所に設けることで、第三支持部47の配設位置を変更できるようにしてもよい。
【0027】
図2(A)に示す第二被覆部52は、左右一対設けられ、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から耳介部の上方を通ってほぼ水平に頭部の後方へと延設されている。ここで、左右一対の第二被覆部52のうち左側の一方を左後頭部被覆部と呼び、他方を右後頭部被覆部と呼ぶ。左後頭部被覆部は、頭部の左側頭部から後方へ延設され、右後頭部被覆部は、頭部の右側頭部から後方へ延設される。
【0028】
また、矯正用ヘルメット50の後面視において、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との間には、隙間61が設けられる。これにより、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との相対移動や弾性変形が許容されやすくなり、矯正用ヘルメット50の着脱が容易になるとともに、矯正用ヘルメット50の装着感(フィット感,安定感)が向上する。
【0029】
なお、
図8(A)に示すように、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との間をバンド部材63(例えば、ゴムバンド,ベルト,面ファスナーなど)で連結してもよい。例えば、左右の第二被覆部52の各々に開口部を形成し、その内部にベルトを挿通させることで左右の第二被覆部52を連結してもよい。あるいは、面ファスナーのフック面部を左右の第二被覆部52に接着し、それらの間を面ファスナーのループ面部で接続してもよい。
【0030】
図2(B)に示す第二被覆部52の全体形状は、上部が細く、下部に向かって幅が広がるしゃもじ形状となっている。また、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位と第二被覆部52との間には、これらを水平方向に離隔させるスリット部62が設けられる。スリット部62の上端は、頭頂部近傍まで達している。これにより、第一被覆部51と第二被覆部52との相対移動や弾性変形が許容されやすくなり、矯正用ヘルメット50の着脱が容易になるとともに、矯正用ヘルメット50の装着感(フィット感,安定感)が向上する。なお、
図8(B)に示すように、第一被覆部51と第二被覆部52との間をバンド部材63で連結してもよい。
【0031】
[1-2.矯正具]
図3は、矯正具1の構成を説明するための分解斜視図である。
図3中の二点鎖線は、分解前の各部品の位置を示すための仮想線である。矯正具1には、左右一対のスライド部材2,押圧板3,調節機構4,左右一対のガイド穴5,ガイド部材6が設けられる。
スライド部材2は、上顎歯列の右側及び左側の各々に装着される一対の部材である。スライド部材2には、例えば歯冠に係止される部位である係止部13と、係止部13から口蓋に沿って曲面状に展開される曲面部14とが設けられる。
【0032】
係止部13は、例えば矯正具1が装着される人物の歯列形状に適合する三次元形状(歯列の印象形状)に形成され、歯冠に覆い被せるように装着される。あるいは、矯正バンド(歯の外周を囲む環形状に形成された金属部品)やワイヤーなどの固定部材を介して、間接的に歯列に装着される構造にしてもよい。また、曲面部14は、例えば口蓋に沿った曲面形状に形成される。曲面部14のうち、口蓋に接触する部位は、口蓋に適合する三次元形状に形成される。曲面部14には、牽引器20を接続するための中空筒状の取付金具12が埋設される。
【0033】
押圧板3は、口蓋を前上方(前方かつ上方)へ押圧するための部材である。この押圧板3は、上面視で左右の曲面部14に跨がるように配置される曲面状の部材であり、上顎骨の正中口蓋縫合に沿って展開される。押圧板3の上面側は、口蓋(硬口蓋)に接触することから、口蓋に適合する三次元形状に形成される。スライド部材2と押圧板3との間には、滑り板11が介装され、押圧板3がスライド部材2に対して滑動可能とされる。滑り板11は、押圧板3を滑りやすくするための部材であり、粘膜保護用の樹脂シートやフィルムなどで曲面状に形成される。
【0034】
調節機構4は、二つのスライド部材2の距離を調節するための部品であり、一対のスライド部材2の間に設けられる。調節機構4に内蔵されるナット部材を回転させることで、スライド部材2が近接方向又は離隔方向に移動し、スライド部材2同士の距離を調節できるようになっている。
【0035】
ガイド穴5は、スライド部材2の各々にて形成された穴である。このガイド穴5には、ガイド部材6の端部が差し込まれて固定される。ガイド穴5の開口部は、左右に隣接する二つの曲面部14のうち、互いに近接する対向面(あるいはその近傍)に設定される。
ガイド部材6は、スライド部材2の位置を基準として、押圧板3を前上方に移動させるための部品であり、各々のスライド部材2と押圧板3との間に設けられる。ガイド部材6には、ガイドピン7,ピンチューブ8,三角部9,ビーズ部10が設けられる。
【0036】
ガイドピン7は、スライド部材2に形成された二つのガイド穴5に対して摺動可能に挿入される部材である。ガイドピン7の全体形状は、V字型である。また、ピンチューブ8は、ガイド穴5の内側に挿嵌された状態で固定される円筒状の部材である。
三角部9は、ガイドピン7を押圧板3に連結するための部品であり、押圧板3の嵌合部15に固定される。三角部9の形状は、上面視で頂点を前方に向けた二等辺三角形状に形成される。三角部9には、円筒状のビーズ部10が固定される。ガイドピン7は、ビーズ部10に遊挿されて三角部9を貫通するように設けられる。
【0037】
左右のスライド部材2の間隔が広げられると、各々のスライド部材2に内蔵されたピンチューブ8が角度を保ったまま左右に平行移動する。このとき、ピンチューブ8に内挿されているガイドピン7がピンチューブ8から受ける力の反力は、ガイドピン7をピンチューブ8の延在方向に沿って前方へ移動させるように作用する。したがって、ガイドピン7は、前方に向かって移動する。このように、ガイド部材6は、二つのスライド部材2の距離が増加するに連れて、押圧板3を前上方へ移動させるように機能する。
【0038】
[1-3.牽引器]
図4は、牽引器20のうち矯正具1に接続される被牽引部21の構成を示す斜視図であり、
図5(A),(B)は、牽引器20のうち矯正用ヘルメット50に固定されるヘルメット固定部41の構成を示す斜視図である。
図6は、牽引器20及び矯正用ヘルメット50の装着状態を示す側面図である。弾性部材40の一端は被牽引部21に取り付けられ、他端はヘルメット固定部41に取り付けられる。ヘルメット固定部41は、矯正用ヘルメット50に対して弾性部材40を支持し、被牽引部21は、弾性部材40によって前上方へ牽引されるようになっている。
【0039】
図4に示すように、被牽引部21は、取付部22,前延部23,第一係止部24,第二係止部25,湾曲部26,第三係止部27,可動機構30を備える。被牽引部21を構成する要素は、左右に対をなして設けられ、可動機構30を除いてほぼ左右鏡面対称形状となるように形成される。取付部22,前延部23,第一係止部24,第二係止部25,湾曲部26,第三係止部27は、金属製のワイヤーを屈曲させることで、あるいは溶接することで一体に形成される。
【0040】
取付部22は、矯正具1の取付金具12に対して後方から差し込まれて固定される部位であり、左右一対設けられる。取付部22は、取付金具12に対して挿抜可能に設けられる。また、前延部23は、取付部22から前方に向かって口外へと延出する部位であり、直線状に延びた形状に形成される。なお、本実施例の取付部22は、ワイヤー状の前延部23の後端を180度屈曲させることで形成されうる。
【0041】
第一係止部24及び第二係止部25は、各々の前延部23の前端に溶接固定される部位であり、各々が弾性部材40を係止しうる鉤状に形成される。第一係止部24は、前延部23の前端部から前方に向かって延出するように設けられ、弾性部材40によって上方へ付勢される部位となる。また、第二係止部25は前延部23の前端部から上方に向かって延出するように設けられ、弾性部材40によって前方へ付勢される部位となる。
【0042】
湾曲部26は、各々の前延部23の前端に溶接固定されるとともに、耳介部近傍に向かって頭部の後方側へと延出する軸状の部位である。湾曲部26は、上面視において外側に突出する湾曲した形状に形成される。また、湾曲部26の後端には、鉤状に形成された第三係止部27が設けられる。第三係止部27は、弾性部材40によって上方へ付勢される部位となる。第三係止部27の位置は、側面視において取付部22よりも後方に設定される。
【0043】
可動機構30は、スライド部材2の移動に応じて左右の前延部23の幅方向距離を変更可能な状態で、左右の前延部23を連結するための機構である。可動機構30には、少なくとも一方の前延部23に固定される筒状の可動チューブ31と他方の前延部23に固定される軸状の可動ピン32とのペアが一組設けられる。可動ピン32は、可動チューブ31の内部に摺動自在に挿入される。可動チューブ31の筒軸の向きは可動ピン32の中心軸の向きと一致しており、ともに左右方向に設定される。
図4に示す可動機構30は、二組の可動チューブ31及び可動ピン32のペアを有する。
【0044】
図5(A)に示すように、ヘルメット固定部41は、前後延在部42,左右延在部43,延出部44,第一支持部45,第二支持部46,第三支持部47を備える。ヘルメット固定部41を構成する要素は、ほぼ左右鏡面対称形状となるように形成される。前後延在部42,左右延在部43,延出部44,第一支持部45,第二支持部46は、金属製のワイヤーを溶接することで一体に形成される。第三支持部47は、これらとは別体に設けられる。
【0045】
前後延在部42は、前後方向に延在して左右一対設けられる針金状の部位である。前後延在部42の後端部は、中空筒状の第一固定部55に差し込まれて、任意の差し込み位置で止めビス48によって固定されるようになっている。固定位置を調節する必要がない場合には、前後延在部42と第一固定部55とを溶接固定してもよいし、第一固定部55を省略して前後延在部42の後端部を矯正用ヘルメット50に対して直接的に接着固定してもよい。
【0046】
左右延在部43は、左右一対の前後延在部42の前端部同士を左右方向に接続する針金状の部位である。左右延在部43の位置は、例えば矯正用ヘルメット50を装着した人物を正面から見たときに、口よりもやや上方に配置されるように設定される。また、延出部44は、左右延在部43から前方に向かって延出する部位であり、左右一対設けられる。本実施例の延出部44は、左右延在部43から前方かつ斜め下方に向かって延出する形状に形成される。
【0047】
なお、前後延在部42及び左右延在部43の形状は、
図5(A)に示すような形状に限定されない。例えば、
図5(B)に示すように、円弧状に湾曲した一本の屈曲材42′で前後延在部42及び左右延在部43に相当する部位を形成してもよい。これにより、屈曲材42′の幅寸法の変更(使用者の頭部幅に適合させるための調整)が容易となり、ヘルメット固定部41の汎用性が向上する。
【0048】
左右延在部43及び延出部44におけるいずれかの位置には、弾性部材40を係止しうる鉤状に形成された第一支持部45及び第二支持部46が設けられる。第一支持部45は、第一係止部24に係止された弾性部材40と係合し、下方への反力を支承する部位である。また、第二支持部46は、第二係止部25に係止された弾性部材40と係合し、後方への反力を支承する部位である。本実施例の第一支持部45は左右延在部43に設けられ、第二支持部46は延出部44に設けられている。
【0049】
第一係止部24と第一支持部45とを接続する弾性部材40は、ヘルメット固定部41に対して被牽引部21を上方向に牽引するように作用することから、垂直ゴム(上方牽引ゴム)と呼称してもよい。同様に、第二係止部25と第二支持部46とを接続する弾性部材40は、ヘルメット固定部41に対して被牽引部21を前方向に牽引するように作用することから、水平ゴム(前方牽引ゴム)と呼称してもよい。
【0050】
図6に示すように、第一支持部45は、少なくとも被牽引部21の第一係止部24よりも上方に位置するように配置され、好ましくは第一係止部24の直上方付近に位置するように配置される。また、第二支持部46は、少なくとも被牽引部21の第二係止部25よりも前方に位置するように配置され、好ましくは第二係止部25の真正面付近に位置するように配置される。なお、
図5(A),(B)に示す例では、複数箇所に第二支持部46が配置されており、第二係止部25の牽引方向を微調整できるようになっている。これと同様に、第一支持部45を複数箇所に配置して、第一係止部24の牽引方向を微調整できるようにしてもよい。
【0051】
第三支持部47は、被牽引部21の第三係止部27に係止された弾性部材40と係合して、下方への反力を支承する部位であり、左右一対設けられる。第三支持部47は、弾性部材40を係止しうる鉤状に形成されて、矯正用ヘルメット50の第二固定部56に差し込み固定される。第三支持部47に係合する弾性部材40で第三係止部27を上方へ牽引することで、
図6に示す側面視において被牽引部21の取付部22及び取付金具12に反時計回りのモーメントが生じ、矯正具1から上顎に付与される押圧力の方向が適正化される。
【0052】
[2.製造手順]
図7は、矯正用ヘルメット50の製造手順を示すフローチャートである。矯正用ヘルメット50は、例えば三次元CADシステムを備えたワークステーションやサーバなどのコンピュータと、そのコンピュータに接続された三次元スキャナ装置及び三次元プリンタとを用いて製造される。ステップA1では、矯正具1を使用する人物を対象として、頭部の立体形状の情報が三次元スキャナでスキャン(取得)される。ここでスキャンされたデータは、コンピュータに伝達される。
【0053】
続くステップA2では、三次元スキャナで取得された立体形状の情報に基づき、その立体形状に対応する内部形状を有する矯正用ヘルメット50のデータが三次元CADシステム上で作成されるとともに、そのデータに基づいて矯正用ヘルメット50が三次元プリンタで形成される。矯正用ヘルメット50の材料となる合成樹脂の具体例としては、ABS,PLA,PET,TPU,ポリアミド(ナイロン),光硬化性樹脂,PC(ポリカーボネート),PP(ポリプロピレン)などが挙げられる。
【0054】
ここで形成される矯正用ヘルメット50には、少なくとも第一被覆部51,第二被覆部52,第三被覆部53,延設部54を形成しておく。第一固定部55及び第二固定部56は、あらかじめ矯正用ヘルメット50の製造データに含ませておいてもよい。あるいは、第一固定部55及び第二固定部56が形成されていない矯正用ヘルメット50を製造した後に、第一固定部55の取付用の穴や第二固定部56となる穴を形成してもよい。
【0055】
ステップA3では、中空筒状の第一固定部55が矯正用ヘルメット50に取り付けられるとともに、ヘルメット固定部41の前後延在部42が第一固定部55に差し込まれて固定される。続くステップA4では、第三支持部47が穴状の第二固定部56に差し込まれて固定される。これにより、牽引器20による矯正具1の牽引方向がずれにくい矯正用ヘルメット50が完成する。
【0056】
[3.効果]
(1)上記の矯正用ヘルメット50は、
図1に示すように、第一被覆部51,第二被覆部52,左右一対の第三被覆部53,左右一対の延設部54,第一固定部55を備える。第一被覆部51は、頭部の前頭部及び左右側頭部を被覆する。第二被覆部52は、第一被覆部51から後方へ延設され、頭部の後頭部を被覆する。延設部54は、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から下方へ延設される。第三被覆部53は、延設部54から頬骨弓部に沿って前方へ延設され、頬骨体部近傍を被覆する。第一固定部55は、第一被覆部51に設けられ、牽引器20がこれに固定される。
【0057】
このような構成により、頭部に対する矯正用ヘルメット50の装着状態の安定性を高めることができる。また、矯正用ヘルメット50に第一固定部55を設けることで、牽引器20(ヘルメット固定部41)を矯正用ヘルメット50に対して堅固に固定することができる。したがって、牽引器20による矯正具1の牽引方向のずれを抑制でき、顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0058】
また、外力による矯正用ヘルメット50のずれに関して、例えば特許第4058105号公報に記載されたような既存のランパ(登録商標)装置におけるヘッドギアは、外力により前頭部近傍を中心としてピッチ方向(
図6に示す側面視において反時計回り方向)に回転したときに、顎を支持するチンキャップの位置が大きくずれることがあった。これにより、ヘッドギア全体の形状が歪みやすく、牽引器20による矯正具の牽引方向のずれを抑制しにくいという課題があった。
【0059】
これに対し、上記の矯正用ヘルメット50では、ヘルメット固定部41の後端部が第一被覆部51に固定されるため、矯正用ヘルメット50が外力により前頭部近傍を中心としてピッチ方向に回転したとしても、牽引器20の位置ずれが比較的小さく済む。これにより、既存のヘッドギアと比較して牽引器20による矯正具1の牽引方向のずれを抑制することができ、顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0060】
また、上記の矯正用ヘルメット50は、第一被覆部51,第二被覆部52,左右一対の第三被覆部53,左右一対の延設部54が合成樹脂で一体に形成されているため、ワイヤーフレームで構成されたヘッドギアと比較して、上記の矯正用ヘルメット50は全体形状が歪みにくい。したがって、既存のヘッドギアよりも牽引器20による矯正具1の牽引方向のずれを抑制することができ、顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0061】
(2)本実施例の第一固定部55は、
図1に示すように、第一被覆部51のうち左右のこめかみ付近(こめかみに対応する部位の付近)に配置される。このような構成により、矯正用ヘルメット50を装着している人物の視界を妨げることなく、牽引器20を矯正用ヘルメット50に対して堅固に固定することができる。したがって、顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0062】
(3)本実施例では、第一被覆部51及び第二被覆部52の各々の内側面に、頭部に対して弾性的に接触するスポンジ状のインナーパッド57が取り付けられる。このような構成により、頭部に対する第一被覆部51及び第二被覆部52のフィット感を高めることができ、矯正用ヘルメット50の装着状態の安定性を改善できる。
【0063】
(4)本実施例の第三被覆部53には、頬骨体部近傍の皮膚に対して弾性的に接触するチークパッド58が設けられる。このような構成により、頬骨体部近傍の皮膚に対する第三被覆部53のフィット感を高めることができ、矯正用ヘルメット50の装着状態の安定性を改善できる。なお、頬骨体部近傍を支承する構造は、下顎を支承する構造と比較して顎や口の動きを妨げにくいことから、会話時や食事時に煩わしさを感じにくいという利点がある。
【0064】
(5)第二被覆部52は、
図2(A)に示すように、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位から後方へ延設してもよい。この場合、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との間に隙間61を設けることで、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との相対移動や弾性変形が許容されやすくなる。したがって、矯正用ヘルメット50の着脱性や装着感をさらに改善できる。
【0065】
なお、
図8(A)に示すように、左後頭部被覆部と右後頭部被覆部との間をバンド部材63で連結してもよい。この場合、頭部に対する矯正用ヘルメット50の位置ずれを効果的に抑制することができ、矯正用ヘルメット50の装着状態の安定性を改善できる。例えば、矯正用ヘルメット50を装着したままソファーに寝転んだ場合やベッドに横たわった場合であっても、矯正用ヘルメット50の位置を頭部に対してずれにくくすることができる。
【0066】
(6)第二被覆部52は、
図2(B)に示すように、第一被覆部51のうち前頭部を被覆する部位から後方へ延設してもよい。この場合、第一被覆部51のうち左右側頭部を被覆する部位と第二被覆部52との間にスリット部62を設けることで、第一被覆部51と第二被覆部52との相対移動や弾性変形が許容されやすくなる。したがって、矯正用ヘルメット50の着脱性や装着感をさらに改善できる。なお、
図8(B)に示すように、第一被覆部51と第二被覆部52との間をバンド部材63で連結してもよい。これにより、頭部に対する矯正用ヘルメット50の位置ずれを効果的に抑制することができ、矯正用ヘルメット50の装着状態の安定性を改善できる。
【0067】
(7)本実施例では、矯正具1に接続されて口外へ延出する被牽引部21を支承するための第二固定部56が第一被覆部51又は延設部54に設けられる。これにより、
図6に示す側面視において、被牽引部21の取付部22及び取付金具12に反時計回りのモーメントを生成することができ、矯正具1から上顎に付与される押圧力の方向を適正化できる。したがって、顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0068】
[4.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0069】
実施例の矯正用ヘルメット50を構成する各種要素のうち、インナーパッド57,チークパッド58,隙間61,スリット部62などの要素は省略可能である。矯正用ヘルメット50は、少なくとも第一被覆部51,第二被覆部52,第三被覆部53,延設部54,第一固定部55を備えたものであればよい。このような構成により、牽引器20による矯正具1の牽引方向のずれを抑制でき、上述の実施例と同様の作用効果を奏するものとなる。また、矯正用ヘルメット50を装着したときの安定性やフィット感を考慮して、インナーパッド57を一部分のみに適用してもよいし、インナーパッド57,チークパッド58の厚みや柔らかさや形状を適宜調節してもよい。
【0070】
また、上述の実施例では、第一被覆部51のうち左右のこめかみ付近に第一固定部55が配置された構成を例示したが、第一固定部55の箇所数は変更可能である。例えば、
図9(A)に示すように、第一被覆部51の四箇所に第一固定部55を設けてもよい。牽引器20の固定箇所数を増加させることで、牽引器20の形状安定性や剛性を向上させることができ、延いては顎骨及び歯列の矯正効果を高めることができる。
【0071】
あるいは、
図9(B)に示すように、第一被覆部51の一箇所に第一固定部55を設けてもよい。この場合、第一被覆部51のうち額中央付近に第一固定部55を配置してもよい。牽引器20の固定箇所数を減少させることにより、矯正用ヘルメット50の構成が簡素となり製造に係るコストや時間を削減できる。また、第一固定部55の位置を額中央付近に設定することで、矯正用ヘルメット50を装着している人物の視界をある程度確保することができる。なお、視界を確保することを考慮して、例えば部分的に透明な樹脂素材を用いてヘルメット固定部41を形成してもよい。
前記第二被覆部が、前記頭部の左側頭部から後方へ延設される左後頭部被覆部と前記頭部の右側頭部から後方へ延設される右後頭部被覆部とを有し、後面視において前記左後頭部被覆部と前記右後頭部被覆部との間に隙間が形成される
ことを特徴とする、請求項1記載の顎位矯正装置。