(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042852
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】浮体への風車の搭載方法および浮体への風車の搭載システム
(51)【国際特許分類】
F03D 13/25 20160101AFI20240322BHJP
F03D 13/30 20160101ALI20240322BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240322BHJP
【FI】
F03D13/25
F03D13/30
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147761
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山本 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 栄治
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB77
3H178CC02
3H178CC23
3H178DD61X
3H178DD67X
(57)【要約】
【課題】深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で施工できる浮体への風車の搭載方法および浮体への風車の搭載システムを提供する。
【解決手段】筒状の浮体1を寝かした状態で曳航し、浮体1にバラスト12を導入して立て起こす。そして、浮体1を所定深さまで沈めて、浮体1の上端近傍のみを洋上に露出させた状態で、浮体1の上端近傍を船体2のタワー固定機構11で把持して固定する。次に、船体2において、ナセル3の位置をナセル位置調整装置31で調整し、浮体1の上部にナセル3及びハブ4を取り付ける。さらに、船体2において、ブレード5の位置をブレード位置調整装置51で調整し、ハブ4に複数のブレード5を固定する。その後、タワー固定機構11による固定を解除し、タワー固定機構11で浮体1を上下方向への移動を許容しつつ把持して、浮体1を浮上させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上における浮体への風車の搭載方法であって、
筒状の浮体を寝かした状態で曳航し、前記浮体にバラストを導入して立て起こす工程aと、
前記浮体を所定深さまで沈めて、前記浮体の上端近傍のみを洋上に露出させた状態で、前記浮体の上端近傍を船体の固定機構に固定する工程bと、
前記浮体の上部に、前記船体においてナセル及びハブを取り付ける工程cと、
前記ハブに、前記船体において複数のブレードを固定する工程dと、
前記固定機構による固定を解除するとともに、前記浮体を浮上させる工程eと、
を具備することを特徴とする浮体への風車の搭載方法。
【請求項2】
前記工程cにおいて、前記ナセルと前記浮体の上部との位置調整を行うための水平方向の位置決め手段と、高さ方向の位置決め手段とを用いることを特徴とする請求項1記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項3】
前記船体には複数の前記ブレードが並置されており、前記工程dにおいて、前記ハブとの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段と、高さ方向の位置決め手段とを用いることを特徴とする請求項1記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項4】
前記工程dにおいて、前記船体に載置されている前記ブレードを、前記ハブの方向へ移動させて前記ハブに固定した後、略水平方向の回転軸で前記ハブを所定角度回転させて、順次、前記ブレードを前記ハブに固定することを特徴とする請求項1記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項5】
前記ブレードは3枚以上であり、
前記工程dにおいて、最後の前記ブレード以外を前記ハブに固定した後、最後の前記ブレードの固定部と前記ハブの近傍とをワイヤで連結する工程fを有し、
前記工程eで、最後の前記ブレードを前記ワイヤで吊り下げた状態で、前記ブレードの長さ以上の高さまで前記浮体を上昇させた後、前記ブレードを引き上げて前記ハブに固定する工程gを具備することを特徴とする請求項4記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項6】
前記工程cにおいて、前記ナセル及び前記ハブを、ヒンジを介して前記浮体の上部へ取付け、前記ハブの回転軸を、上方に向けて配置し、
前記工程dにおいて、前記船体に載置されている前記ブレードを、前記ハブの方向へ移動させて前記ハブに固定した後、略鉛直方向の回転軸で前記ハブを所定角度回転させて、順次、全ての前記ブレードを前記ハブに固定し、
前記工程eの後に、前記浮体上で、前記ヒンジによって前記ナセル及び前記ハブを回動させ、前記ハブの回転軸を略水平方向に向けて固定する工程hを具備することを特徴とする請求項1記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項7】
前記工程hにおいて、ジャッキによって前記ナセル及び前記ハブを回動させることを特徴とする請求項6記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項8】
前記工程hにおいて、ジャッキを衝撃吸収用のダンパとして用いて、ワイヤによって前記ナセル及び前記ハブを回動させることを特徴とする請求項6記載の浮体への風車の搭載方法。
【請求項9】
洋上における浮体への風車の搭載システムであって、
船体に取り付けられ、浮体を把持する固定機構と、
前記船体において前記浮体の上部にナセル及びハブを取り付ける際に、前記浮体の上部に対して前記ナセルの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段及び高さ方向の位置決め手段と、
前記船体において前記ハブにブレードを固定する際に、前記ハブに対して前記ブレードの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段及び高さ方向の位置決め手段と、
を具備し、
前記固定機構は、前記浮体を所定の高さに固定する状態と、前記浮体を上下方向への移動を許容しつつ把持する状態との切り替えが可能であることを特徴とする浮体への風車の搭載システム。
【請求項10】
前記浮体へのバラストの注排水設備と、
前記注排水設備の制御部と、
をさらに具備し、
前記制御部は、前記バラストの量を制御して前記浮体の姿勢および洋上への露出高さを調整することを特徴とする請求項9記載の浮体への風車の搭載システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体への風車の搭載方法および浮体への風車の搭載システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電設備には、水深50m程度までの海に適した着床式と、それ以上の水深の海に適した浮体式の2つの方式がある。浮体式で用いられる各種浮体のうち、スパー型は単円で細長の単純な形状であることからコスト的に有利であるといわれる。ただし、スパー型はその縦長の構造から、水深100m程度以上の深い海域に適用される。
【0003】
一般的に、スパー型の浮体を用いる場合には、水深の浅い岸壁から浮体を横向きに浮かべて作業海域まで運搬した後、浮体を起立状態とし、クレーンを用いて浮体にタワー、ナセル及びブレードを取り付ける(例えば、特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6270527号公報
【特許文献2】特許第5738644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、波の荒い洋上でクレーンを用いてタワー、ナセル及びブレードを浮体に搭載するのは、困難かつ危険な作業であった。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で施工できる浮体への風車の搭載方法および浮体への風車の搭載システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、洋上における浮体への風車の搭載方法であって、筒状の浮体を寝かした状態で曳航し、前記浮体に海水によるバラストを導入して立て起こす工程aと、前記浮体を所定深さまで沈めて、前記浮体の上端近傍のみを洋上に露出させた状態で、前記浮体の上端近傍を船体の固定機構に固定する工程bと、前記浮体の上部に、前記船体においてナセル及びハブを取り付ける工程cと、前記ハブに、前記船体において複数のブレードを固定する工程dと、前記固定機構による固定を解除するとともに、前記浮体を浮上させる工程eと、を具備することを特徴とする浮体への風車の搭載方法である。
【0008】
第1の発明では、浮体の上端近傍を船体に固定した状態で、船体から浮体の上部にナセル及びハブ、ブレードを固定した後、浮体を浮上させる。そのため、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で浮体に風車を搭載できる。
【0009】
前記工程cにおいて、前記ナセルと前記浮体の上部との位置調整を行うための水平方向の位置決め手段と、高さ方向の位置決め手段とを用いることが望ましい。
これにより、ナセルの水平方向の位置および高さ方向の位置を調整して、浮体にナセルを取り付けることができる。この調整には、傾きの調整も含まれる。
【0010】
前記船体には複数の前記ブレードが並置されており、前記工程dにおいて、前記ハブとの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段と、高さ方向の位置決め手段とを用いることが望ましい。
これにより、ブレードの水平方向の位置および高さ方向の位置を調整して、ハブにブレードを固定することができる。
【0011】
第1の発明では、例えば、前記工程dにおいて、前記船体に載置されている前記ブレードを、前記ハブの方向へ移動させて前記ハブに固定した後、略水平方向の回転軸で前記ハブを所定角度回転させて、順次、前記ブレードを前記ハブに固定する。
これにより、浮体の上端近傍を船体に固定した状態で、ブレードをハブに固定できる。
【0012】
前記ブレードは3枚以上であり、最後の前記ブレード以外を前記ハブに固定した後、最後の前記ブレードの固定部と前記ハブの近傍とをワイヤで連結する工程fを有し、前記工程eで、最後の前記ブレードを前記ワイヤで吊り下げた状態で、前記ブレードの長さ以上の高さまで前記浮体を上昇させた後、前記ブレードを引き上げて前記ハブに固定する工程gを具備することが望ましい。
これにより、全てのブレードをハブに水面上で固定できるので、ブレードが着水してブレードやハブに過度な応力が発生するのを防止できる。
【0013】
第1の発明では、前記工程cにおいて、前記ナセル及び前記ハブを、ヒンジを介して前記浮体の上部へ取付け、前記ハブの回転軸を、上方に向けて配置し、前記工程dにおいて、前記船体に載置されている前記ブレードを、前記ハブの方向へ移動させて前記ハブに固定した後、略鉛直方向の回転軸で前記ハブを所定角度回転させて、順次、全ての前記ブレードを前記ハブに固定し、前記工程eの後に、前記浮体上で、前記ヒンジによって前記ナセル及び前記ハブを回動させ、前記ハブの回転軸を略水平方向に向けて固定する工程hを具備してもよい。
これにより、全てのブレードをハブに水面上で固定できるので、ブレードが着水してブレードやハブに過度な応力が発生するのを防止できる。
【0014】
前記工程hにおいて、ジャッキによって前記ナセル及び前記ハブを回動させてもよい。また、前記工程hにおいて、ジャッキに代わりジャッキ型などのコンパクトな衝撃吸収用のダンパを用いて、ワイヤによって前記ナセル及び前記ハブを回動させてもよい。
ジャッキを用いたりダンパとワイヤを用いたりすることにより、ナセル及びハブを安全に回動させることができる。
【0015】
第2の発明は、洋上における浮体への風車の搭載システムであって、船体に取り付けられ、浮体を把持する固定機構と、前記船体において前記浮体の上部にナセル及びハブを取り付ける際に、前記浮体の上部に対して前記ナセルの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段及び高さ方向の位置決め手段と、前記船体において前記ハブにブレードを固定する際に、前記ハブに対して前記ブレードの位置調整を行うための水平方向の位置決め手段及び高さ方向の位置決め手段と、を具備し、前記固定機構は、前記浮体を所定の高さに固定する状態と、前記浮体を上下方向への移動を許容しつつ把持する状態との切り替えが可能であることを特徴とする浮体への風車の搭載システムである。
【0016】
第2の発明によれば、船体においてナセルやブレードの水平方向及び高さ方向の位置を調整できる。また、固定機構を用いて、浮体を固定したり上下方向の移動を許容しつつ把持したりできる。そのため、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で浮体に風車を搭載できる。
【0017】
前記浮体へのバラストの注排水設備と、前記注排水設備の制御部と、をさらに具備し、前記制御部は、前記バラストの量を制御して前記浮体の姿勢および洋上への露出高さを調整することが望ましい。
これにより、浮体の立て起こしや、適切な深さへの沈降や浮上が可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で施工できる浮体への風車の搭載方法および浮体への風車の搭載システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は浮体1を曳航している状態を示す図、(b)は浮体1を立て起こしている状態を示す図。
【
図2】(a)は船体2を後方から見た図、(b)は船体2の線A-Aによる断面を示す図、(c)は船体2を上方から見た図。
【
図3】(a)(b)はブレード5-1をハブ4に固定した状態を示す図。
【
図4】(a)はブレード5-2をハブ4に固定した状態を示す図、(b)はブレード5-3をハブ4に固定した状態を示す図。
【
図6】(a)はブレード5-3にワイヤ52を取り付けた状態を示す図、(b)はブレード5-3を吊り上げている状態を示す図。
【
図8】(a)は
図6(a)のハブ4付近の拡大図、(b)はブレード5-3の固定部54付近の立面とソケット41の断面を示す図。
【
図9】(a)はヒンジ板7をタワー13に固定した状態を示す図、(b)はナセル3及びハブ4をヒンジ板7に取り付けた状態を示す図。
【
図10】(a)(b)はブレード5をハブ4に固定した状態を示す図。
【
図11】(a)は浮体1の浮上が完了した状態を示す図、(b)はナセル3及びハブ4を回動させた状態を示す図。
【
図12】(a)はブレード5をハブ4に固定した状態を示す図、(b)は浮体1の浮上が完了した状態を示す図。
【
図13】ナセル3及びハブ4を回動させている状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、浮体1の姿勢の制御について示す図、
図2はタワー13を船体2に固定した状態における風車の搭載システム20を示す図である。
図3はブレード5-1をハブ4に固定した状態を示す図、
図4はブレード5-2、5-3をハブ4に固定している状態を示す図、
図5は浮体1の浮上が完了した状態を示す図である。
【0022】
浮体1は、タワー13とスパー型浮体14とを一体化したものであり、筒状である。タワー13とスパー型浮体14の長さは略同等であり、スパー型浮体14は外径に対して高さが5倍以上である。タワー13とスパー型浮体14との間は、タワー13内に水が流入しないように水密性が確保される。
【0023】
第1の実施形態では、
図1、
図2に示すタワー固定機構11、ナセル位置調整装置31、ブレード位置調整装置51、注排水設備15、制御部16等からなる風車の搭載システム20を用いて、浮体1のタワー13に風車を搭載する。
【0024】
図1に示すように、注排水設備15、制御部16は、船10に設置される。注排水設備15は、スパー型浮体14に海水によるバラスト12を注排水する。制御部16は、注排水設備15によるスパー型浮体14へのバラスト12の注排水を制御して、浮体1の姿勢および洋上への露出高さを調整する。なお、制御部16は注排水設備15を制御できればよく、設置場所は船10に限らない。
【0025】
図2に示すように、タワー固定機構11は、船体2の側部に設けられる。タワー固定機構11は、浮体1を所定の高さに固定する状態と、浮体1を上下方向への移動を許容しつつ把持する状態(上下動の移動を許容するが、水平方向への移動を規制する状態)との切り替えが可能である。ナセル位置調整装置31、ブレード位置調整装置51は、船体2上に設置される。ナセル位置調整装置31は、ナセル3の位置調整を行うための水平方向の位置決め手段であり、高さ方向の位置決めと傾き調整の手段でもある。ブレード位置調整装置51は、ブレード5の位置調整を行うための水平方向の位置決め手段であり、高さ方向の位置決めと傾き調整の手段でもある。ナセル位置調整装置31及びブレード位置調整装置51は、水平方向の位置決め手段として、
図2(c)の上下方向と左右方向の2軸における位置調整が可能である。また、高さ方向の位置決め手段として、
図2(c)の紙面直交方向と上下左右の傾き方向の位置調整が可能である。
【0026】
浮体1のタワー13に風車を搭載するには、まず、
図1(a)に示すように浮体1を寝かした状態で曳航船9等によって作業海域まで曳航する。そして、
図1(b)に示すように、注排水設備15を用いてスパー型浮体14にバラスト12を導入し、タワー13を上側として立て起こす。浮体1は、制御部16によるバラスト12の量の調整によって、略垂直に立て起され、タワー13の上端近傍のみが洋上に露出するまで沈められる。スパー型浮体14へのバラスト12の注水のみで浮体1を沈められない場合は、図示しない自らが大きな自重と注排水タンクを有する補助ウエイトを用いてもよい。
【0027】
浮体1をタワー13の上端近傍のみが洋上に露出するまで沈めたら、
図2(a)に示すように浮体1のタワー13の上端近傍を船体2のタワー固定機構11に固定する。船体2上では、予め連結された状態のナセル3及びハブ4がナセル位置調整装置31に載置される。また、3本のブレード5がブレード位置調整装置51に載置される。
【0028】
タワー13をタワー固定機構11に固定したら、
図3に示すように、ハブ4が連結されたナセル3をタワー13の上部に取り付ける。このとき、ナセル位置調整装置31を用いて、タワー13の上部に対するナセル3の水平方向の位置及び高さ方向の位置を調整し、ナセル3をタワー13の方向へ移動させて固定する。次に、ハブ4に1本目のブレード5-1を固定する。このとき、ブレード位置調整装置51を用いて、ハブ4に対するブレード5-1の水平方向の位置及び高さ方向の位置を調整するとともに、ハブ4に対するブレード5-1の傾きを調整し、ブレード5-1をハブ4の方向に移動させる。
【0029】
ハブ4にブレード5-1を固定したら、
図4(a)に示すように、略水平方向の回転軸でハブ4を矢印B1の方向に120度回転させ、ブレード5-2をハブ4に固定する。次に、
図4(b)に示すように、ハブ4を矢印B2の方向に120度回転させ、ブレード5-3をハブ4に固定する。ブレード5-2、5-3をハブ4に固定するときも、ブレード位置調整装置51を用いて、ハブ4に対するブレード5の水平方向の位置及び高さ方向の位置を調整するとともに、ハブ4に対するブレード5の傾きを調整し、ブレード5をハブ4の方向に移動させる。
【0030】
図4(b)に示す状態のとき、ブレード5-1が着水することで浮力や波力によりブレード5-1とハブ4との接合部やブレード5-1本体に過度な応力が発生する可能性がある。そのため、必要に応じて、ハブ4に図示しない着脱可能なカバーを取り付けて接合部を補強したり、ブレード5-1の内部に注水して浮力の発生を防いだりして、ブレード5-1やハブ4への影響を小さくすることが望ましい。
【0031】
3本のブレード5をハブ4に固定したら、タワー固定機構11によるタワー13の固定を解除し、
図5に示すように浮体1を浮上させる。上述したようにタワー固定機構11は、タワー13を固定する状態と、タワー13の浮上を許容した状態で把持する状態との間で切り替えが可能であり、
図5に示す工程では、タワー固定機構11でタワー13を上下方向の移動を許容しつつ把持した状態で、制御部16で注排水設備15を制御してスパー型浮体14から排水することにより、例えば浮体1をスパー型浮体14の上端近傍が水上に露出する程度の所定の高さまで浮上させる。
【0032】
このように、第1の実施形態では、風車の搭載システム20を用い、浮体1の上端近傍を船体2に固定した状態で、浮体1の上部に船体2からナセル3及びハブ4、ブレード5を固定した後、浮体1を浮上させる。風車の搭載システム20では、船体2において、ナセル位置調整装置31やブレード位置調整装置51を用いて、ナセル3やブレード5の水平方向及び高さ方向の位置を調整できる。また、タワー固定機構11を用いて浮体1を固定したり上下方向の移動を許容しつつ把持したりできる。さらに、浮体1へのバラスト12の注排水設備15を制御部16で制御することで、浮体1の立て起こしや、浮体1の適切な深さへの沈降及び浮上が可能になる。そのため、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で浮体1に風車を搭載できる。なお、本機構は、ブレード5が3本のタイプについて説明したが、2本のタイプにも適用可能である。
【0033】
以下、本発明の別の例について、第2~第4の実施形態として説明する。各実施形態はそれまでに説明した実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、第1の実施形態も含め、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0034】
[第2の実施形態]
図6、
図7はブレード5-3を固定する工程を示す図、
図8はハブ4とブレード5-3との接合部の詳細を示す図である。
第2の実施形態は、3本のブレード5-1、5-2、5-3のうち最後のブレード5-3をハブ4に固定する方法が第1の実施形態と主に異なる。
【0035】
第2の実施形態では、
図4(a)に示すように最後のブレード5-3以外をハブ4に固定した後、
図6(a)に示すようにブレード5-1、5-2が着水しない程度で、望ましくはハブ4のブレード5-3接合部が鉛直下向きの位置までハブ4を回転させる。そして、ブレード位置調整装置51でブレード5-3をハブ4の方向に移動させて、ブレード5-3の固定部54とハブ4の近傍とを2本以上のワイヤ52で連結する。また、ブレード5-3の固定部54と反対側の端部付近に介錯ロープ57を取り付ける。
【0036】
図8(a)に示すように、ハブ4にはブレード5を固定するためのソケット41が設けられる。ワイヤ52は、ソケット41およびハブ4の内部に通され、一端がナセル3上に設置されたワイヤ巻取り機53に接続され、他端がブレード5-3の固定部54に接続される。
【0037】
ワイヤ52を設置したら、
図6(b)に示すようにタワー固定機構11によるタワー13の固定を解除して、タワー13の浮上を許容した状態で把持し、ソケット41が鉛直下向きに向いた状態で、浮体1を浮上させる。浮体1を浮上させると、ワイヤ52で吊り下げた固定部54側からブレード5-3が徐々に持ち上がる。介錯ロープ57の長さは、ブレード5-3の姿勢に合わせて適宜調整し、その持ち上がり位置や風によりブレード5-3が揺れて他の構造物に接触することを防止する。浮体1は、
図7に示すように、ハブ4が水面からブレード5-3の長さ以上の高さに達し、ブレード5-3がハブ4の下方に略垂直に吊り下がるまで浮上させる。浮体1の上昇が完了したら、必要に応じて、タワー固定機構11によりタワー13を固定し、ワイヤ巻取り機53でワイヤ52を巻き取ってブレード5-3を引き上げ、ブレード5-3をハブ4に固定する。
【0038】
図8(b)に示すように、ソケット41の内周面には、ハブ4の中心から外側に向けて広がるテーパ部42が形成される。テーパ部42の円周方向の対向する2ヶ所には、凹部43が形成される。また、ブレード5-3の固定部54の外周面には、端部に向けて狭まるテーパ部55が形成される。テーパ部55には、テーパ部42の凹部43に対応する2ヶ所に凸部56が形成される。凹部43の断面は一定であり、凸部56の断面は固定部54の先端に向けて小さくなる。
【0039】
ブレード5-3をハブ4に固定する際には、固定部54をソケット41に挿入する。このとき、テーパ部42およびテーパ部55がガイドとして機能することで、ソケット41の中心軸44に固定部54の中心軸を合わせることができる。また、少なくとも2本のワイヤ52を用いてブレード5-3を中心軸44まわりに回転させて凸部56を凹部43に嵌合させることで、ソケット41とブレード5-3の円周方向の位置を合わせることができる。この接合部の回転方向の円滑な位置合わせのため、凹凸の組み合わせは、円周方向に1箇所ではなく2箇所程度あることが望ましい。
【0040】
このように、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、風車の搭載システム20を用いることで深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で浮体1に風車を搭載できる。第2の実施形態では、ブレード5-3をワイヤ52で吊り下げた状態で浮体1を浮上させた後、ブレード5-3をハブ4に固定するので、先行してハブ4に固定したブレード5-1、5-2が着水しない。そのため、浮力によってブレード5やハブ4に過度な応力が発生するのを防止できる。
【0041】
なお、第2の実施形態ではソケット41の内周面と固定部54の外周面にテーパ部42、55を形成したが、テーパ部は上記した組み合わせに限らない。ソケット41の外周面にハブ4の中心から外側に向けて狭まるテーパ部を形成し、固定部54の内周面に端部に向けて広がるテーパ部を形成することで、ソケット41とブレード5-3の中心軸を合わせてもよい。また、凹部43と凸部56を設けず、ソケット41の内周面と固定部54の外周面を楕円形とすることで、ソケット41とブレード5-3の円周方向の位置を合わせてもよい。
【0042】
第2の実施形態では、ワイヤ巻取り機53でワイヤ52を巻き取ってブレード5-3をハブ4に固定したが、ワイヤ巻取り機53は必須ではない。例えば、タワー13の外周に鉛直方向の2列程度のラック付きレールを固定しておき、
図7に示すように浮体1を浮上させた後、ラックアンドピニオン機構によりアシスト装置をレールに沿って上昇させ、ワイヤ52で吊り下げたブレード5-3をアシスト装置で把持して持ち上げ、位置調整してハブ4に固定してもよい。ワイヤ52は合成繊維ロープ等でもよい。
【0043】
[第3の実施形態]
図9はナセル3及びハブ4を固定する工程を示す図、
図10はブレード5を固定する工程を示す図、
図11は浮体1を浮上させてナセル3及びハブ4を回動させる工程を示す図である。
第3の実施形態は、3本のブレード5をハブ4に固定する方法が第1の実施形態と主に異なる。
【0044】
第3の実施形態では、浮体1を立て起こしてタワー13の上端近傍をタワー固定機構11で固定した後、
図9(a)に示すようにタワー13の上端に油圧ジャッキ6とヒンジ板7とを取り付ける。筒状の浮体を寝かした状態で曳航する際に問題ない機構としておけば、曳航前の陸上において予め取り付けておくことも可能である。ヒンジ板7は、2枚のタワー内とナセル内を人が往来可能で配線等も配置可能な穴あきの板部71、72を回転部73で連結したものであり、板部71がタワー13の上端に固定される。油圧ジャッキ6は、一端がタワー13の上端付近に接続され、他端が板部72に接続される。ヒンジ板7は、油圧ジャッキ6の伸縮によって回転部73を中心に板部72が回転する。
【0045】
第3の実施形態では、船体2にナセル位置調整装置31a、ブレード位置調整装置51aが設置される。ナセル位置調整装置31a、ブレード位置調整装置51aは、
図2等に示すナセル位置調整装置31、ブレード位置調整装置51と形状が異なるが、同様の機能を有する。
【0046】
油圧ジャッキ6とヒンジ板7を取り付けたら、
図9(b)に示すように予めハブ4が連結されたナセル3を略垂直に配置された板部72に取り付けることにより、ナセル3及びハブ4をヒンジを介してタワー13の上部に取り付け、ハブ4の回転軸を上方に向けて配置する。このとき、ナセル位置調整装置31aを用いて、タワー13の上部に対するナセル3の水平方向の位置及び高さ方向の位置を調整し、ナセル3をタワー13の方向へ移動させて固定する。また、予め、油圧ジャッキ6とヒンジ板7をナセル3に取り付けておき、ヒンジ板を開くことでタワー13に取り付けることも可能である。
【0047】
ナセル3及びハブ4を取り付けたら、
図10に示すように、ハブ4に3本のブレード5を固定する。3本のブレード5は船体2に設置されたブレード位置調整装置51aに載置されており、ブレード5-1をハブ4に固定した後、略鉛直方向の回転軸で
図10(b)における反時計回りにハブ4を120度回転させてブレード5-2をハブ4に固定する。その後、同様にしてブレード5-3をハブ4に固定する。このとき、ブレード位置調整装置51aを用いて、ハブ4に対するブレード5の水平方向の位置及び高さ方向の位置を調整し、ブレード5をハブ4の方向に移動させる。
【0048】
全てのブレード5を固定したら、
図11(a)に示すようにタワー固定機構11によるタワー13の固定を解除するとともに、浮体1を浮上させる。浮体1の上昇が完了したら、
図11(b)に示すように、油圧ジャッキ6を縮めてヒンジ板7を閉じることによって、タワー13上でナセル3及びハブ4を回動させ、ハブ4の回転軸を略水平方向に向けて固定する。その後、ナセル3上の図示しないホイストクレーンにより油圧ジャッキ6と油圧ホースを撤去する。
【0049】
[第4の実施形態]
図12はブレード5を固定する工程を示す図、
図13はナセル3及びハブ4を回動させる工程を示す図である。
第4の実施形態は、ナセル3及びハブ4を回動させる方法が第3の実施形態と主に異なる。
【0050】
第4の実施形態では、浮体1を立て起こしてタワー13の上端近傍をタワー固定機構11で固定した後、
図12(a)に示すようにタワー13の上端にジャッキ型のダンパ6aとヒンジ板7とを取り付ける。ダンパ6aは、衝撃吸収用のエアダンパ等であり、一端がタワー13の上端に接続され、他端が板部72に接続される。また、ワイヤ8の一端を船体2上に設置したワイヤ巻取り機81に接続し、他端を板部71を介して板部72に接続する。
【0051】
ダンパ6a、ヒンジ板7、ワイヤ8を取り付けたら、第3の実施形態と同様に、ナセル3及びハブ4をヒンジを介してタワー13の上部に取り付け、ハブ4の回転軸を上方に向けて配置する。そして、ハブ4に3本のブレード5を固定する。なお、ワイヤ8は、ナセル3及びハブの取り付け後や、ブレード5の固定後に設置してもよい。第3に実施形態の油圧ジャッキ6に代わり、第4の実施形態ではコンパクトなダンパ6aを用いることができる。また、油圧ユニットやホースの配置撤去を省略することも可能である。
【0052】
全てのブレード5を固定したら、
図12(b)に示すようにタワー固定機構11によるタワー13の固定を解除するとともに、ワイヤ巻取り機81からワイヤ8を巻き出しつつ浮体1を浮上させる。浮体1の上昇が完了したら、必要に応じて、タワー固定機構11によりタワー13を固定し、
図13に示すように、ワイヤ巻取り機81でワイヤ8を巻き取ってダンパ6aで角速度を調整しつつヒンジ板7を閉じることによって、タワー13上でナセル3及びハブ4を回動させる。そして、
図11(b)と同様にハブ4の回転軸を略水平方向に向けて固定する。その後、ナセル3上の図示しないホイストクレーンによりダンパ6aおよびワイヤ8を撤去する。
【0053】
このように、第3、第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、深い海域で起重機船や大型クレーン船を用いずに簡易な船舶艤装で浮体1に風車を搭載できる。第3、第4の実施形態では、全てのブレード5をハブ4に水面上で固定できるので、浮力によってブレード5やハブ4に過度な応力が発生するのを防止できる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば、第1から第4の実施形態では、タワー13とスパー型浮体14とを接合した浮体1を作業海域まで曳航したが、スパー型浮体14のみを作業海域まで曳航して船体2においてスパー型浮体14にタワー13を接合してもよい。また、ナセル3の水平方向の位置決め手段と高さ方向の位置決め手段と傾き調整手段は、それぞれ独立した装置として設けてもよい。ブレード5の水平方向の位置決め手段と高さ方向の位置決め手段と傾き調整手段も、それぞれ独立した装置としてよい。
【0056】
第1から第4の実施形態では、3枚のブレード5をハブ4に固定したが、第1、第3、第4の実施形態はブレード5が2枚以上の場合に適用できる。第2の実施形態はブレードが3枚以上の場合に適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1………浮体
2………船体
3………ナセル
4………ハブ
5、5-1、5-2、5-3………ブレード
6………油圧ジャッキ
6a………ダンパ
7………ヒンジ板
8、52………ワイヤ
9………曳航船
10………船
12………タワー固定機構
12………バラスト
13………タワー
14………スパー型浮体
15………注排水設備
16………制御部
31、31a………ナセル位置調整装置
41………ソケット
42、55………テーパ部
43………凹部
44………中心軸
51、51a………ブレード位置調整装置
53、81………ワイヤ巻取り機
54………固定部
56………凸部
57………介錯ロープ
71、72………板部
73………回転部