(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042866
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 63/32 20060101AFI20240322BHJP
F16H 63/20 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F16H63/32
F16H63/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147779
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤岡 正人
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA04
3J067AB02
3J067AC05
3J067BA18
3J067DA52
3J067EA04
3J067EA25
3J067EA35
3J067EA61
3J067FA73
3J067FB63
3J067GA01
(57)【要約】
【課題】シフターアームの移動方向がシフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行とされる場合であっても、シフト操作の抵抗の増大を抑制し、円滑なシフト操作を実現する。
【解決手段】シフターアームの移動方向が、シフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行となるように組み付けられた変速機において、複数のシフトレールはそれぞれ収容溝を有し、シフターアームは収容溝に係合可能なアーム係合部を有し、シフターアームのシフトレールの軸方向に交差するセレクト方向への移動により、アーム係合部が係合する収容溝が切り替えられるとともに、シフターアームのシフトレールの軸方向に沿ったシフト方向への移動により、アーム係合部が係合した収容溝を有するシフトレールがシフト方向へ移動可能であり、収容溝とアーム係合部との摺動部分に、球状の転動体を有する転がり軸受を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれシフトフォークに接続された複数のシフトレールと、
シフト操作力を前記複数のシフトレールに伝達するシフターアームと、を備え、
前記シフターアームの移動方向が、前記シフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行となるように組み付けられた変速機において、
前記複数のシフトレールはそれぞれ収容溝を有し、
前記シフターアームは前記収容溝に係合可能なアーム係合部を有し、
前記シフターアームの前記シフトレールの軸方向に交差するセレクト方向への移動により、前記アーム係合部が係合する前記収容溝が切り替えられるとともに、
前記シフターアームの前記シフトレールの軸方向に沿ったシフト方向への移動により、前記アーム係合部が係合した前記収容溝を有する前記シフトレールが前記シフト方向へ移動可能であり、
前記収容溝と前記アーム係合部との摺動部分に、球状の転動体を有する転がり軸受を備えた、変速機。
【請求項2】
前記収容溝及び前記アーム係合部は、それぞれ前記シフト方向に交差し、かつ、前記セレクト方向に交差する所定方向に延びて設けられ、
前記シフターアームの前記セレクト方向への移動時には、前記収容溝の内面と前記アーム係合部の外面とが前記セレクト方向に相対的に摺動し、
前記シフターアームの前記シフト方向への移動時には、前記収容溝の内面と前記アーム係合部の外面とが前記所定方向に相対的に摺動し、
前記転がり軸受の前記転動体は、前記セレクト方向及び前記所定方向を含むいずれの方向にも転動可能である、請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記シフト操作力の荷重伝達経路における前記収容溝と前記アーム係合部との摺動部分よりも前記シフターアーム側に、前記シフターアームのシフト方向の移動範囲を規制するストッパ機構を備える、請求項1に記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の変速歯車列を備える変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば平行軸式の自動変速機や手動変速機は、複数の駆動歯車を備える入力軸と、複数の従動歯車を備える出力軸とを有している。駆動歯車と従動歯車とは噛み合って複数の変速歯車列を構成しており、これらの変速歯車列はシンクロメッシュ機構等によって動力伝達状態に切り替えられる。シンクロメッシュ機構のシンクロスリーブを、駆動歯車や従動歯車のスプラインに向けてスライドさせることにより、所望の変速歯車列を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。所望の変速歯車列を動力伝達状態に切り替えるため、自動変速機にはアクチュエータによって駆動されるシフターアームが設けられており、手動変速機にはシフトレバーに連結されるシフターアームが設けられている。そして、シフターアームの端部にはシフトレールが係合されており、シフトレールにはシンクロスリーブを保持するシフトフォークが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、変速機を構成する多くの部品を組み付ける際のレイアウトの都合により、シフターアームの移動方向が、シフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行となる場合がある。このような場合、シフトレールとシフターアームとの係合部分において、無駄な摺動が発生するおそれがある。シフトレールとシフターアームとの間の摺動が発生すると、例えばケースに支持されたシフトレールが上下動することによりシフトレールの摺動摩擦が増加して、シフト操作の抵抗が大きくなるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、シフターアームの移動方向がシフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行とされる場合であっても、シフト操作の抵抗の増大を抑制し、円滑なシフト操作を実現可能な変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、それぞれシフトフォークに接続された複数のシフトレールと、
シフト操作力を前記複数のシフトレールに伝達するシフターアームと、を備え、
前記シフターアームの移動方向が、前記シフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行となるように組み付けられた変速機において、
前記複数のシフトレールはそれぞれ収容溝を有し、
前記シフターアームは前記収容溝に係合可能なアーム係合部を有し、
前記シフターアームの前記シフトレールの軸方向に交差するセレクト方向への移動により、前記アーム係合部が係合する前記収容溝が切り替えられるとともに、
前記シフターアームの前記シフトレールの軸方向に沿ったシフト方向への移動により、前記アーム係合部が係合した前記収容溝を有する前記シフトレールが前記シフト方向へ移動可能であり、
前記収容溝と前記アーム係合部との摺動部分に、球状の転動体を有する転がり軸受を備えた、変速機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように本開示によれば、シフターアームの移動方向がシフトレールの移動方向に対して傾斜する方向へ非平行とされる場合であっても、シフト操作の抵抗の増大を抑制し、円滑なシフト操作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る変速機の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】同実施形態に係る変速機の操作系を示す概略図である。
【
図3】
図2の矢印A方向から見た操作系の一部を示す概略図である。
【
図7】同実施形態に係る係合部分の構成を示す説明図である。
【
図9】同実施形態に係るアーム部材(アーム係合部)を示す斜視図である。内輪側軌道輪との接触部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
<1.変速機の基本構成>
まず、本開示の実施の形態に係る変速機の基本構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る変速機の構成を示すスケルトン図である。
図1に矢印で示した前方及び後方は、それぞれ車両前方及び車両後方を示す。なお、後述する
図2においても、矢印で示す前方及び後方は、それぞれ車両前方及び車両後方を示す。
【0011】
図示したように、変速機10は、入力軸11とこれに平行となる出力軸12とを備えている。入力軸11には入力クラッチ13を介してエンジン14が連結されている。出力軸12にはデファレンシャル機構15を介して図示しない駆動輪が連結されている。また、入力軸11には、駆動歯車21a,22aが固定されており、駆動歯車23a~26aが回転自在に設けられている。さらに、出力軸12には、従動歯車21b,22bが回転自在に設けられており、従動歯車23b~26bが固定されている。なお、図示する変速機10は、車両に縦置きに搭載される変速機となっている。
【0012】
入力軸の駆動歯車21a~26aと、出力軸12の従動歯車21b~26bとは、互いに噛み合って複数の変速歯車列21~26を形成している。すなわち、駆動歯車21aと従動歯車21bとによって第1速の変速歯車列21が構成されており、駆動歯車22aと従動歯車22bとによって第2速の変速歯車列22が構成されている。また、駆動歯車23aと従動歯車23bとによって第3速の変速歯車列23が構成されており、駆動歯車24aと従動歯車24bとによって第4速の変速歯車列24が構成されている。さらに、駆動歯車25aと従動歯車25bとによって第5速の変速歯車列25が構成されており、駆動歯車26aと従動歯車26bとによって第6速の変速歯車列26が構成されている。
【0013】
出力軸12には1つの切替機構31が設けられており、入力軸には2つの切替機構32,33が設けられている。切替機構31を用いることにより、第1速又は第2速の変速歯車列21,22を動力伝達状態に切り替えることができる。また、切替機構32を用いることにより、第3速又は第4速の変速歯車列23,24を動力伝達状態に切り替えることができる。さらに、切替機構33を用いることにより、第5速又は第6速の変速歯車列25,26を動力伝達状態に切り替えることができる。なお、切替機構31~33は、シンクロメッシュ機構として構成されている。
【0014】
切替機構31は、出力軸12に固定されるシンクロハブ31aと、これに噛み合うシンクロスリーブ31bとを有している。また、従動歯車21bにはスプライン21cが固定されており、従動歯車22bにはスプライン22cが固定されている。そして、シンクロスリーブ31bを従動歯車21b側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ31bとスプライン21cとが噛み合い、第1速の変速歯車列21が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第1速の変速歯車列21を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ31bを従動歯車22b側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ31bとスプライン22cとが噛み合い、第2速の変速歯車列22が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第2速の変速歯車列22を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ31bをいずれのスプライン21c,22cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第1速と第2速との変速歯車列21,22は動力を伝達しない動力切断状態に切り替えられる。
【0015】
切替機構32は、入力軸に固定されるシンクロハブ32aと、これに噛み合うシンクロスリーブ32bとを有している。また、駆動歯車23aにはスプライン23cが固定されており、駆動歯車24aにはスプライン24cが固定されている。そして、シンクロスリーブ32bを駆動歯車23a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ32bとスプライン23cとが噛み合い、第3速の変速歯車列23が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第3速の変速歯車列23を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ32bを駆動歯車24a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ32bとスプライン24cとが噛み合い、第4速の変速歯車列24が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第4速の変速歯車列24を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ32bをいずれのスプライン23c,24cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第3速と第4速との変速歯車列23,24は動力を伝達しない動力切断状態に切り替えられる。
【0016】
切替機構33は、入力軸に固定されるシンクロハブ33aと、これに噛み合うシンクロスリーブ33bとを有している。また、駆動歯車25aにはスプライン25cが固定されており、駆動歯車26aにはスプライン26cが固定されている。そして、シンクロスリーブ33bを駆動歯車25a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ33bとスプライン25cとが噛み合い、第5速の変速歯車列25が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第5速の変速歯車列25を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。一方、シンクロスリーブ33bを駆動歯車26a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ33bとスプライン26cとが噛み合い、第6速の変速歯車列26が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、第6速の変速歯車列26を介して、入力軸11から出力軸12に動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ33bをいずれのスプライン25c,26cにも噛み合わない中立位置に移動させると、第5速と第6速との変速歯車列25,26は動力を伝達しない動力切断状態に切り替えられる。
【0017】
また、変速機10には、入力軸11及び出力軸12に平行となるアイドラ軸40が設けられている。アイドラ軸40には、後退用の伝達歯車27a,27bが回転自在に設けられている。一方の伝達歯車27aは、第1速の駆動歯車21aに噛み合っており、他方の伝達歯車27bは、出力軸12に固定される従動歯車27cに噛み合っている。このように、変速機10には、駆動歯車21a、伝達歯車27a,27b、従動歯車27cからなる後退用の変速歯車列27が設けられている。また、アイドラ軸40には、後退用の変速歯車列27を動力伝達状態に切り替えるための切替機構34が設けられている。切替機構34は、伝達歯車27bに固定されるシンクロハブ34aと、これに噛み合うシンクロスリーブ34bとを有している。また、伝達歯車27aにはスプライン27dが固定されている。そして、シンクロスリーブ34bを伝達歯車27a側の締結位置に移動させると、シンクロスリーブ34bとスプライン27dとが噛み合い、後退用の変速歯車列27が動力伝達状態に切り替えられる。これにより、後退用の変速歯車列27を介して、入力軸11から出力軸12に回転方向を逆転させて動力が伝達される。なお、シンクロスリーブ34bをスプライン27dに噛み合わない中立位置に移動させると、後退用の変速歯車列27は動力を伝達しない動力切断状態に切り替えられる。
【0018】
前述した切替機構31~34を操作するため、各シンクロスリーブ31b~34bにはシフトフォーク41~44が取り付けられている。これらのシフトフォーク41~44には、後述するシフターアーム及びリンク機構等を介してシフトレバーが連結されている。運転手がシフトレバーを操作することにより、切替機構31~34を選択して動作させることができ、所望の変速歯車列21~27を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。以下、シフトレバーの操作力をシンクロスリーブ31b~34bに伝達する操作系について説明する。
【0019】
図2は変速機10の操作系を示す概略図である。また、
図3は
図2の矢印A方向から見た操作系の一部を示す概略図である。
図4は
図2のB-B断面の概略矢視図である。なお、
図3に示した操作系の一部には
図2のC-C断面の矢視図が示されている。
【0020】
図2に示すように、変速機10は、ミッションケース54に支持されるシフターアーム50を有している。シフターアーム50は、ミッションケース54の軸受部54aに摺動自在に支持されるシフトセレクト軸55と、シフトセレクト軸55の端部から径方向に延びるアーム部材56とを有している。このシフターアーム50のアーム部材56は、シフターアーム50の端部(アーム係合部)として機能している。また、変速機10は、運転手により操作されるシフトレバー52と、シフトレバー52にリンク機構51を介して連結されるセレクト部材57と、シフトレバー52にリンク機構51を介して連結されるシフト部材58とを有している。また、シフトセレクト軸55には、シフト部材58の係合ピン58aが係合するシフト溝55aが形成されている。さらに、シフトセレクト軸55には、セレクト部材57の係合ピン57aが係合するセレクト溝59aを備えた係合部材59が固定されている。このように、シフトレバー52とシフトセレクト軸55とはリンク機構51等を介して連結されており、シフトセレクト軸55はシフトレバー52の操作に応じて動作する。なお、リンク機構51は、図示しないロッド、ケーブル、プレート等によって構成されている。
【0021】
変速機10には、4本のシフトレール61~64が車両の前後方向に移動自在に設けられている。シフトレール61~64は、それぞれ軸方向の両端側において、ミッションケース54の軸受部101a~104a,101b~104bに摺動自在に支持されている。
【0022】
また、各シフトレール61~64の中心軸は、シフトセレクト軸55の中心線に対して傾斜している。すなわち、各シフトレール61~64の移動方向は、後述するシフターアーム50のシフト方向に対して傾斜する方向に非平行となるように組み付けられている。第1速及び第2速用のシフトレール(第1シフトレール)61には、シフトフォーク41が固定されるとともに、ゲート部(第1係合部)71を備えるロッドゲート81が固定されている。第3速及び第4速用のシフトレール(第2シフトレール)62には、シフトフォーク42が固定されるとともに、ゲート部(第2係合部)72を備えるロッドゲート82が固定されている。第5速及び第6速用のシフトレール(第3シフトレール)63には、シフトフォーク43が固定されるとともに、ゲート部(第3係合部)73を備えるロッドゲート83が固定されている。また、後退用のシフトレール64には、シフトフォーク44が固定されるとともに、ゲート部74を備えるロッドゲート84が固定されている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、各ロッドゲート81~84のゲート部71~74は、その厚み方向に重ねて配置されている。すなわち、各ゲート部71~74は、後述するシフターアーム50のセレクト方向に並べて配置されている。隣接する4つのゲート部71~74は、ミッションケース54の壁部85によって挟まれている。また、各ゲート部71~74には、アーム部材56の先端部を収容する収容溝71a~74aが形成されている。さらに、各ゲート部71~74には、収容溝71a~74aを介して対向する一対の壁部71b~74b,71c~74cが設けられている。
【0024】
続いて、操作系53の動作について説明する。
図2のシフトパターンに示すように、シフトレバー52が矢印Xa1方向にセレクト操作されると、セレクト部材57は矢印Xa2方向に回動する一方、シフトレバー52が矢印Xb1方向にセレクト操作されると、セレクト部材57は矢印Xb2方向に回動する。そして、
図3に示すように、セレクト部材57が矢印Xa2方向に回動された場合には、シフターアーム50のアーム部材56はセレクト方向である矢印Xa3方向に揺動する一方、セレクト部材57が矢印Xb2方向に回動された場合には、シフターアーム50のアーム部材56はセレクト方向である矢印Xb3方向に揺動する。すなわち、
図4に示すように、シフトレバー52が矢印Xa1方向にセレクト操作された場合には、アーム部材56の先端部が矢印Xa3方向つまりゲート部71に向けて移動する。一方、シフトレバー52が矢印Xb1方向にセレクト操作された場合には、アーム部材56の先端部が矢印Xb3方向つまりゲート部74に向けて移動する。このように、シフトレバー52のセレクト操作とは、アーム部材56が係合するゲート部71~74つまりシフトレール61~64を選択する操作となっている。
【0025】
また、
図2及び
図3に示すように、セレクト部材57には、支持軸90に支持されたリターンスプリング91が組み付けられている。支持軸90及びリターンスプリング91によって、シフターアーム50をセレクト方向の中立位置に保持するニュートラル機構92が構成されている。
図3及び
図4に示すように、シフトレバー52が操作されていない場合、つまりシフターアーム50が操作されていない場合には、リターンスプリング91のバネ力によって、アーム部材56の先端部は、セレクト方向の中立位置であるゲート部72の収容溝72aに保持される。
【0026】
また、
図2のシフトパターンに示すように、シフトレバー52が矢印Ya1方向にシフト操作されると、シフト部材58は矢印Ya2方向に回動する一方、シフトレバー52が矢印Yb1方向にシフト操作されると、シフト部材58は矢印Yb2方向に回動する。そして、シフト部材58が矢印Ya2方向に回動された場合には、シフターアーム50がシフト方向である矢印Ya3方向に押し出される一方、シフト部材58が矢印Yb2方向に回動された場合には、シフターアーム50がシフト方向である矢印Yb3方向に引き込まれる。すなわち、
図4に示すように、シフトレバー52が矢印Ya1方向にシフト操作された場合には、アーム部材56の先端部によってシフトレール61~64の何れかが矢印Ya3方向の締結位置に押し出される。一方、シフトレバー52が矢印Yb1方向にシフト操作された場合には、アーム部材56の先端部によってシフトレール61~64の何れかが矢印Yb3方向の締結位置に引き込まれる。このように、シフトレバー52のシフト操作とは、シフトレール61~64つまりシフトフォーク41~44の何れかを移動させる操作となっている。このシフト操作により、シンクロスリーブ31b~34bの何れかを移動させることができ、変速歯車列21~27の何れかを動力伝達状態に切り替えることが可能となる。
【0027】
すなわち、
図4のシフトパターンに示すように、シフトレバー52がシフト位置P1に操作されると、シフトレール61が矢印S1方向に移動し、第1速の変速歯車列21が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置P2に操作されると、シフトレール61が矢印S2方向に移動し、第2速の変速歯車列22が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置P3に操作されると、シフトレール62が矢印S3方向に移動し、第3速の変速歯車列23が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置P4に操作されると、シフトレール62が矢印S4方向に移動し、第4速の変速歯車列24が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置P5に操作されると、シフトレール63が矢印S5方向に移動し、第5速の変速歯車列25が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置P6に操作されると、シフトレール63が矢印S6方向に移動し、第6速の変速歯車列26が動力伝達状態に切り替えられる。また、シフトレバー52がシフト位置PRに操作されると、シフトレール64が矢印SR方向に移動し、後退段の変速歯車列27が動力伝達状態に切り替えられる。なお、シフトレバー52がセレクト位置α,β,γで解放された場合には、ニュートラル機構92によってシフトレバー52はニュートラル位置PNに戻される。
【0028】
<2.シフトレールとシフターアームの係合部分の構造>
続いて、シフトレールとシフターアームの係合部分の構造について説明する。
【0029】
図5~
図6は、本開示の課題を説明するための参考例の構成を示す図である。
図5は、第3速及び第4速用のシフトレール(第2シフトレール)62のロッドゲート82のゲート部72の収容溝72aにシフターアーム50のアーム部材56が係合した状態で、シフターアーム50がシフト方向に進退動する様子を示す。
【0030】
上述のとおり、シフターアーム50とシフトレール62とは、シフターアーム50がシフト方向に移動する場合のシフターアーム50の移動方向L1は、シフトレール62の移動方向L2に対して傾斜する方向へ非平行となるように組み付けられている。このため、シフターアーム50がシフト方向に沿って移動し、シフトレール62を進退動させる場合、シフターアーム50のアーム部材56は収容溝72a内を上下動することとなる。具体的に、アーム部材56が矢印Ya3の方向へ移動する際にアーム部材56は収容溝72a内へ進入し、アーム部材56が矢印Yb3の方向へ移動する際にアーム部材56は収容溝72aから後退する。
【0031】
このとき、
図6に示すように、アーム部材56が矢印Ya3の方向へ移動する際には、アーム部材56は、ゲート部72のうちのアーム部材56が押し出される方向の壁部72bとの間で摺動状態となるため、ゲート部72を下方へ押す力が発生する。シフトレール62は、ミッションケース54の軸受部102aに摺動自在に支持されており、ゲート部72を下方へ押す力が発生することにより、軸受部102aとシフトレール62との摺動摩擦が増大する。同様に、アーム部材56が矢印Yb3の方向へ移動する際には、アーム部材56は、ゲート部72のうちのアーム部材56が引き込まれる方向の壁部72cとの間で摺動状態となるため、ゲート部72を上方へ引く力が発生する。ゲート部72を上方へ引く力が発生することにより、軸受部102aとシフトレール62との摺動摩擦が増大する。
【0032】
シフトレール62と軸受部102aとの摺動摩擦の増大は、他の3本のシフトレール61,63,64においても生じ得る。シフトレール61~64と軸受部101a~104aとの摺動摩擦の増大は、運転者によるシフト操作力の増大につながり、円滑なシフト操作性が低下するおそれがある。
【0033】
図7~
図9は、本実施形態に係る変速機のシフトレールとシフターアームの係合部分の構造を示す説明図である。
図7は、第3速及び第4速用のシフトレール(第2シフトレール)62のロッドゲート82のゲート部72の収容溝72aにシフターアーム50のアーム部材56が係合した状態を示す。
図8は、
図7のD-D断面の矢視図を示す。
図9は、シフターアーム50のアーム部材56を示す斜視図であって、
図7の下方側からアーム部材56を見た斜視図を示す。
【0034】
本実施形態に係る変速機は、シフトレール62の収容溝72aとシフターアーム50のアーム部材56との摺動部分に、球状の転動体を有する転がり軸受120を備えている。
図7~
図9に示した例では、アーム部材56に転がり軸受120が装着されている。転がり軸受120は、アーム部材56が嵌入される軸受基部121と、軸受基部121のうち少なくともゲート部72の壁部72b,72cに対向する面に設けられた複数の球状の転動体123とを有する。アーム部材56は、軸受基部121に圧入されていてもよく、溶接されていてもよい。それぞれの転動体123は、その一部が軸受基部121の表面から突き出るようにして軸受基部121に保持され、あらゆる方向に転動可能になっている。
【0035】
つまり、収容溝72a及びアーム部材56は、それぞれシフト方向に交差し、かつ、セレクト方向に交差する所定方向に延びて設けられており、シフターアーム50のセレクト方向への移動時には、収容溝72aの内面とアーム部材56の外面とがセレクト方向に相対的に摺動する。また、シフターアーム50のシフト方向への移動時には、収容溝72aの内面とアーム部材56の外面とが所定方向に相対的に摺動する。そして、転がり軸受120の転動体123は、セレクト方向及び所定方向を含むいずれの方向にも転動可能となっている。
【0036】
このため、アーム部材56が収容溝72a内へ進入し、あるいは、アーム部材56が収容溝72aから後退する際の摺動摩擦が低減される。これにより、ゲート部72を上方又は下方に押す力が抑制され、シフトレール62と軸受部102aとの摺動摩擦の増大を低減することができる。また、転がり軸受120が、球状の転動体123を用いた構成を有することにより、アーム部材56がセレクト方向に移動する場合においても、アーム部材56とシフトレール62のゲート部72との間での摺動摩擦を低減することができる。
【0037】
図示しないものの、アーム部材56が上記の構成の転がり軸受120を有することにより、他のシフトレール61,63,64に対してもセレクト方向及び所定方向への摺動摩擦を低減することができる。したがって、シフト操作力の増大が抑制され、円滑なシフト操作を実現することができる。
【0038】
また、
図7~
図9に示した例では、シフト操作力の荷重伝達経路における収容溝72aとアーム部材56との摺動部分よりも上流のシフトレバー52側に、シフターアーム50のシフト方向の移動範囲を規制するストッパ機構110が設けられている。具体的に、シフターアーム50は、アーム部材56が形成されている端部における、アーム部材56が延びる方向とは反対側に突出部111を有している。突出部111は、ミッションケース54の内面に設けられた位置規制部材113の凹部115内に配置される。凹部115は、シフト方向の両側の壁部117a,117bを有し、突出部111は、壁部117a,117bに当接可能になっている。
【0039】
突出部111が、シフト方向の両側で壁部117a,117bに当接する位置は、あらかじめシフト方向の移動可能範囲を規定する位置に合わせて設計されている。このため、シフトレール62のシフト方向の可動範囲を超えてシフターアーム50がシフト方向へ移動することによる転がり軸受120への過大な負荷の発生を抑制することができる。これにより、転がり軸受120の性能の低下が抑制され、円滑なシフト操作を安定的に実現することができる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0041】
例えば上記実施形態では、アーム部材56に転がり軸受120を設けていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。転がり軸受は、それぞれのシフトレール61~64のゲート部71~74の壁部71b~74b,71c~71cの内面側に設けられてもよい。ただし、アーム部材56に転がり軸受120を設けることにより、転がり軸受の数を少なくすることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、ストッパ機構110を構成する位置規制部材113がミッションケース54に設けられていたが、位置規制部材113が固定される対象はミッションケースに限定されるものではない。また、ストッパ機構110を構成する突出部111が設けられる位置は、アーム部材56が形成されている端部における、アーム部材56が延びる方向とは反対側の位置に限定されるものではない。さらに、ストッパ機構110は、突出部111及び位置規制部材113を用いた構成に限定されるものではなく、種々変形することができる。
【符号の説明】
【0043】
10:変速機、11:入力軸、12:出力軸、50:シフターアーム、52:シフトレバー、54:ミッションケース、55:シフトセレクト軸、56:アーム部材(アーム係合部)、61・62・63・64:シフトレール、71・72・73・74:ゲート部、71a・72a・73a・74a:収容溝、71b・72b・73b・74b:壁部、71c・72c・73c・74c:壁部、101a・102a・103a・104a:軸受部、101b・102b・103b・104b:軸受部、110:ストッパ機構、111:突出部、113:位置規制部材、115:凹部、117a・117b:壁部、120:転がり軸受、121:軸受基部、123:転動体